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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061448
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】摺動面用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 133/06 20060101AFI20240425BHJP
   C10N 30/16 20060101ALN20240425BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240425BHJP
【FI】
C10M133/06
C10N30:16
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169407
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健治
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE02C
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104LA08
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入した場合に微生物の繁殖を抑制することができる、摺動面用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】基油(A)と、3級アミン(B)とを含有する、摺動面用潤滑油組成物であって、前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、3級アミン(B)とを含有する、摺動面用潤滑油組成物であって、
前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、
前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、
前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記3級アミン(B)は、下記一般式(1)で表される化合物から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の摺動面用潤滑油組成物。

[前記一般式(1)中、各符号は以下を示す。
、R、Rは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。
n1及びn2は、各々独立に、0又は1である。
n1が0である場合、m1は0~9の整数である。
n1が1である場合、m1は0~11の整数である。
n2が0である場合、m2は0~9の整数である。
n2が1である場合、m2は0~11の整数である。]
【請求項3】
前記一般式(1)中、n1=n2=1である、請求項2に記載の摺動面用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中、m1=m2=0である、請求項2又は3に記載の摺動面用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)中、Rはメチル基である、請求項2~4のいずれか1項に記載の摺動面用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記3級アミン(B)の含有量が、前記摺動面用潤滑油組成物の全量基準で、1.00質量超である、請求項1~5のいずれか1項に記載の摺動面用潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の摺動面用潤滑油組成物を、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制のために使用する、使用方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の摺動面用潤滑油組成物を水溶性切削油に混入させた後、前記摺動面用潤滑油組成物を除去することなく、前記水溶性切削油中に保持する工程を含む、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制方法。
【請求項9】
基油(A)と、3級アミン(B)とを混合する工程を含む、摺動面用潤滑油組成物の製造方法であって、
前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、
前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、
前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動面用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、工具及び被削材等を任意の方向に動かすために摺動面が存在する。そして、摺動運動を円滑にするために摺動面用潤滑油組成物が用いられる。
ところで、摺動面用潤滑油組成物は、工作機械に設置されている切削油タンクに混入し、水溶性切削油の劣化を促進する。詳細には、切削油タンクに混入した摺動面用潤滑油組成物がバクテリアの栄養源となって、切削油タンク内で微生物の繁殖が促進され、水溶性切削油の劣化が促進される。
【0003】
従来は、水溶性切削油と摺動面用潤滑油組成物とを速やかに分離することで、切削油タンク内での微生物の繁殖を抑制し、水溶性切削油の使用期間の延長を図っていた(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-82789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水溶性切削油と摺動面用潤滑油組成物とを速やかに分離するためには、オイルスキマー等の油分離装置が必要になるが、近年、オイルスキマー等の油分離装置が切削油タンクに備えられていないケースが増えている。そこで、切削油タンク内等で水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入した場合に微生物の繁殖を抑制可能な摺動面用潤滑油組成物の創出が望まれている。
【0006】
本発明は、水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入した場合に微生物の繁殖を抑制することができる、摺動面用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、下記[1]~[4]が提供される。
[1] 基油(A)と、3級アミン(B)とを含有する、摺動面用潤滑油組成物であって、
前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、
前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、
前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物。
[2] 上記[1]に記載の摺動面用潤滑油組成物を、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制のために使用する、使用方法。
[3] 上記[1]に記載の摺動面用潤滑油組成物を水溶性切削油に混入させた後、前記摺動面用潤滑油組成物を除去することなく、前記水溶性切削油中に保持する工程を含む、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制方法。
[4] 基油(A)と、3級アミン(B)とを混合する工程を含む、摺動面用潤滑油組成物の製造方法であって、
前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、
前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、
前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入した場合に微生物の繁殖を抑制することができる、摺動面用潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0010】
[摺動面用潤滑油組成物の態様]
本実施形態の摺動面用潤滑油組成物は、基油(A)と、3級アミン(B)とを含有する。
3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有する。
シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6である。
そして、アルキル基の炭素数は、1~3である。
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、特定の3級アミンを含有する摺動面用潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
本発明の摺動面用潤滑油組成物が上記課題を解決し得るメカニズムは明確にはなっていないが、例えば以下のように推察される。すなわち、3級アミン(B)の構造が、微生物の活性の低減に対して効果的に作用し、切削油タンク内等での微生物の繁殖の抑制に資するものと推察される。また、3級アミン(B)は、揮発しにくいため、摺動面用潤滑油組成物中に長期に亘りとどまり続けることができる。そして、3級アミン(B)は、摺動面用潤滑油組成物が水溶性切削油に混入した後も、摺動面用潤滑油組成物中に長期に亘りとどまり続けることができ、その機能をいかんなく発揮することができるためと推察される。
【0012】
また、3級アミン(B)は油溶性が高いため、摺動面用潤滑油組成物が水溶性切削油に混入した後も、摺動面用潤滑油組成物中にとどまりやすい。そのため、微生物が栄養源を求めて、水溶性切削油に混入した摺動面用潤滑油組成物に接触すると、当該微生物が、摺動面用潤滑油組成物中に存在する3級アミン(B)にも接触しやすくなる。その結果、当該微生物の3級アミン(B)への接触確率が向上し、3級アミン(B)が当該微生物の活性を低減させて、当該微生物の繁殖を効果的に抑制できているものと推察される。
【0013】
なお、以降の説明では、「摺動面用潤滑油組成物」を、単に「潤滑油組成物」ともいう。
【0014】
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)及び3級アミン(B)のみから構成されていてもよいが、本発明の効果を大きく損なうことのない範囲で、基油(A)及び3級アミン(B)以外の他の成分を任意に含んでいてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物において、基油(A)及び3級アミン(B)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは100質量%未満、更に好ましくは99.5質量%以下、より更に好ましくは99.0質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは85質量%~100質量%未満、更に好ましくは90質量%~99.5質量%、より更に好ましくは95質量%~99.0質量%である。
【0015】
以下、本実施形態の潤滑油組成物が含有する各成分について、詳細に説明する。
【0016】
<基油(A)>
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)を含有する。
基油(A)としては、例えば、従来、摺動面用潤滑油組成物の基油として用いられている鉱油及び合成油から選択される1種以上を、特に制限なく使用することができる。
【0017】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、又はナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;等が挙げられる。
【0018】
合成油としては、例えば、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、及び1-デセンオリゴマー等並びにこれらの水添物、エチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル及び二塩基酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(ガストゥリキッド(GTL)ワックス)を異性化することで得られるGTL基油等が挙げられる。
【0019】
鉱油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。合成油も、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、1種以上の鉱油と1種以上の合成油とを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本実施形態の潤滑油組成物において、基油(A)は、鉱油を含むことが好ましい。鉱油の含有量は、基油(A)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、より更に好ましくは99質量%~100質量%、更になお好ましくは99.4質量%~100質量%である。
【0021】
なお、基油(A)が鉱油を含む場合、当該鉱油は、米国石油協会(API)のカテゴリーにおいてグループI、II、及びIIIに分類される鉱油から選択される1種以上であってもよく、グループI及びIIに分類される鉱油から選択される1種以上であってもよく、グループIIに分類される鉱油であってもよい。
また、上記の場合、同グループに分類される鉱油を2種以上混合して用いてもよい。
例えば、同グループに分類され、粘度の異なる2種以上の鉱油を混合して用いてもよい。
【0022】
また、摺動部における油膜保持性(張り付き性)を付与しやすくする観点から、基油(A)は、ポリオレフィンを含むことが好ましい。ポリオレフィンの含有量は、基油(A)の全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。
また、ポリオレフィンは、摺動部における油膜保持性(張り付き性)をより付与しやすくする観点から、100℃における動粘度が2,000mm/s~4,000mm/sであることが好ましく、2,000mm/s~3,500mm/sであることがより好ましい。
なお、ポリオレフィンの中でも、摺動部における油膜保持性(張り付き性)をさらに付与しやすくする観点から、ポリブテンが好ましい。
【0023】
また、基油(A)は、40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう)が、好ましくは10mm/s~220mm/sである。
基油(A)の40℃動粘度が220mm/s以下であると、潤滑油組成物の中すべり速度及び高すべり速度での摺動特性を向上させやすい。
また、基油(A)の40℃動粘度が10mm/s以上であると、潤滑油組成物の低すべり速度での摩擦係数をより低減させやすい。
上記観点から、基油(A)の40℃動粘度は、より好ましくは15mm/s以上、更に好ましくは20mm/s以上、より更に好ましくは25mm/s以上、であり、そして、より好ましくは150mm/s以下、更に好ましくは90mm/s以下、より更に好ましくは75mm/s以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、より好ましくは15mm/s~150mm/s、更に好ましくは20mm/s~90mm/s、より更に好ましくは25mm/s~75mm/sである。
本明細書において、基油(A)の40℃動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される値を意味する。
なお、基油(A)が2種以上の基油を含有する混合基油である場合、当該混合基油の40℃動粘度が上記範囲内であることが好ましい。
【0024】
本実施形態において、潤滑油組成物中の基油(A)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは80.0質量%以上、更に好ましくは90.0質量%以上である。また、好ましくは99.0質量%以下、より好ましくは98.5質量%以下、更に好ましくは98.0質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは70.0質量%~99.0質量%、より好ましくは80.0質量%~98.5質量%、更に好ましくは90.0質量%~98.0質量%である。
【0025】
<3級アミン(B)>
本実施形態の潤滑油組成物は、3級アミン(B)を含有する。
3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有する。
シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6である。
アルキル基の炭素数は、1~3である。
3級アミン(B)が、シクロアルキル骨格を有しない場合、窒素原子に結合するシクロアルキル骨格を1つだけ有する場合、及び窒素原子に結合するシクロアルキル骨格を3つ有する場合のいずれの場合も、微生物の繁殖抑制効果が発揮され難くなる。
また、シクロアルキル骨格の環員数が4以下又は7以上であると、3級アミン(B)の構造安定性が劣り、3級アミン(B)の入手も困難である。
また、窒素原子に結合するアルキル基の炭素数が4以上である場合、微生物の繁殖抑制効果が発揮され難くなる。
【0026】
ここで、微生物の繁殖抑制効果の向上の観点から、3級アミン(B)は、下記一般式(1)で表される化合物から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【化1】

[前記一般式(1)中、各符号は以下を示す。
、R、Rは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。
n1及びn2は、各々独立に、0又は1である。
n1が0である場合、m1は0~9の整数である。
n1が1である場合、m1は0~11の整数である。
n2が0である場合、m2は0~9の整数である。
n2が1である場合、m2は0~11の整数である。]
【0027】
上記一般式(1)中、R、R、Rとして選択し得るアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。
ここで、R、R、Rとして選択し得るアルキル基の炭素数は、微生物の繁殖抑制効果の向上の観点から、好ましくは1~2、より好ましくは1である。
【0028】
上記一般式(1)中、n1及びn2は、各々独立に、0又は1である。
すなわち、n1及びn2が0である場合、上記一般式(1)中のシクロアルキル基は、いずれもシクロペンチル基を示す。
また、n1及びn2が1である場合、上記一般式(1)中のシクロアルキル基は、いずれもシクロヘキシル基を示す。
ここで、n1及びn2は、微生物の繁殖抑制効果の向上の観点から、いずれも1であることが好ましい。すなわち、上記一般式(1)中のシクロアルキル基は、いずれもシクロヘキシル基であることが好ましい。
【0029】
上記一般式(1)中、m1及びm2は、微生物の繁殖抑制効果の向上の観点から、各々独立に、好ましくは0~6、より好ましくは0~3、更に好ましくは0~2、より更に好ましくは0~1、更になお好ましくは0(すなわち、上記一般式(1)中のシクロアルキル基は、その水素原子がR及びRで置換されていない、無置換のシクロアルキル基である)である。
【0030】
3級アミン(B)として好ましい化合物を具体的に例示すると、N-メチルジシクロヘキシルアミン、N-メチルジシクロペンチルアミン、N-エチルジシクロヘキシルアミン、N-エチルジシクロペンチルアミン、N-プロピルジシクロヘキシルアミン、N-プロピルジシクロペンチルアミン、N-プロピルジシクロヘキシルアミン、N-プロピルジシクロペンチルアミン等が挙げられ。これらの中でも、N-メチルジシクロヘキシルアミン、N-メチルジシクロペンチルアミンが好ましく、N-メチルジシクロヘキシルアミンがより好ましい。
【0031】
<3級アミン(B)の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物において、3級アミン(B)の含有量は、特に制限されないが、微生物の繁殖抑制効果を十分に発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは1.00質量%超、より好ましくは1.10質量%以上、更に好ましくは1.20質量%以上、より更に好ましくは1.25質量%以上である。また、同様の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは3.00質量%未満、より好ましくは2.50質量%未満、更に好ましくは2.00質量%未満、より更に好ましくは1.75質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは1.00質量%超3.00質量%未満、より好ましくは1.10質量%以上2.50質量%未満、更に好ましくは1.20質量%以上2.00質量%未満、より更に好ましくは1.25質量%以上1.75質量%以下である。
【0032】
<3級アミン(B)由来の窒素原子含有量>
本実施形態の潤滑油組成物において、3級アミン(B)由来の窒素原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.072質量%~0.21質量%、より好ましくは0.079質量%~0.18質量%、更に好ましくは0.086質量%~0.14質量%、より更に好ましくは0.090質量%~0.13質量%である。
【0033】
<3級アミン(B)の物性>
(揮発量)
3級アミン(B)は、後述する実施例に記載の方法で測定した揮発量(60℃×1時間)が、好ましくは10%以下、より好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下である。
【0034】
<基油(A)及び3級アミン(B)以外の他の成分>
本実施形態の潤滑油組成物は、本発明の効果を大きく損なうことのない範囲で、基油(A)及び3級アミン(B)以外の他の成分を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
当該他の成分としては、例えば、油性剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、及び流動点降下剤等が挙げられる。また、これらの成分に対し、希釈及び分散の少なくともいずれかを行うための希釈油、分散剤、及び分散助剤等を他の成分として更に含有していてもよく、含有していなくてもよい。
他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物において、他の成分の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0質量%~15質量%、より好ましくは0.1質量%~10質量%、更に好ましくは0.5質量%~5質量%である。
【0035】
(油性剤)
油性剤としては、例えば、ステアリン酸及びオレイン酸等の脂肪族飽和モノカルボン酸及び脂肪族不飽和モノカルボン酸;ダイマー酸及び水添ダイマー酸等の重合脂肪酸;リシノレイン酸及び12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸;ラウリルアルコール及びオレイルアルコール等の脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール;ステアリルアミン及びオレイルアミン等の脂肪族飽和及び不飽和モノアミン;ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミド等の脂肪族飽和モノカルボン酸アミド及び脂肪族不飽和モノカルボン酸アミド;グリセリン及びソルビトール等の多価アルコールと脂肪族飽和モノカルボン酸又は脂肪族不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
油性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
油性剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0036】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0037】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンズイミダゾール系、ベンゾチアゾール系、チアジアゾール系、及びジメルカプトチアゾール系等を挙げることができる。
金属不活性化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属不活性化剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0038】
(腐食防止剤)
腐食防止剤としては、例えば、アルカノールアミン、アミド、及びカルボン酸等が挙げられる。
腐食防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
腐食防止剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上である。また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0039】
(極圧剤)
極圧剤としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、及び酸性亜リン酸エステル並びにこれらのアミン塩等のリン系極圧剤を挙げることができ、例えば、トリチオフェニルホスフェート等が挙げられる。
また、他の極圧剤としては、カルボン酸の金属塩が挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3以上60以下のカルボン酸、より好ましくは炭素数3以上30以下の脂肪酸の金属塩、更に好ましくは炭素数12以上30以下の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸、トリマー酸及び炭素数3以上30以下のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。カルボン酸の金属塩としては、これらのうち炭素数12以上30以下の脂肪酸及び炭素数3以上30以下のジカルボン酸の金属塩が好ましい。該金属塩を構成する金属としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
更に、前記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、及びジアルキルチオジプロピオネート類等の硫黄系極圧剤を挙げることができる。
極圧剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
極圧剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
なお、本実施形態の潤滑油組成物において、酸性リン酸エステルの含有量は少なくてもよい。具体的には、酸性リン酸エステルの含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、1.0質量%未満であってもよく、0.5質量%未満であってもよく、0.1質量%未満であってもよく、0.05質量%未満であってもよく、0.01質量%未満であってもよく、酸性リン酸エステルが含まれていなくてもよい。
【0040】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン油等のシリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン油等のフッ素化シリコーン系消泡剤、及びポリアクリレート等が挙げられる。
消泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
消泡剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上である。また、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
【0041】
(抗乳化剤)
抗乳化剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール及びその誘導体;アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤等の界面活性剤;等が挙げられる。
抗乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
抗乳化剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、例えば0.001質量%以上0.5質量%以下である。
但し、本実施形態の潤滑油組成物は、水溶性切削油中に潤滑油組成物を保持して微生物の繁殖を抑制することから、水溶性切削油との分離性を向上させずともよい。したがって、抗乳化剤の含有量は少なくてもよく、好ましくは0.001質量%未満、より好ましくは0.0001質量%未満である。
【0042】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート系(PMA系;ポリアルキル(メタ)アクリレート等)、ポリビニルアセテート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
流動点降下剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
流動点降下剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0043】
[潤滑油組成物の物性]
(40℃動粘度、粘度指数)
本実施形態の潤滑油組成物の40℃動粘度は、好ましくは9.00mm/s~242mm/s、より好ましくは19.8mm/s~110mm/s、更に好ましくは28.8mm/s~74.8mm/sである。
また、本実施形態の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは100以上である。
本明細書において、潤滑油組成物の40℃動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出される値を意味する。
【0044】
(窒素原子含有量)
本実施形態の潤滑油組成物において、窒素原子含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.08質量%~0.20質量%、より好ましくは0.08質量%~0.18質量%、更に好ましくは0.09質量%~0.16質量%、より更に好ましくは0.09質量%~0.15質量%である。
窒素原子含有量は、JIS K2609:1998に準拠して、化学発光法により測定される値である。
【0045】
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法は、基油(A)と、3級アミン(B)とを混合する工程を含み、前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、前記アルキル基の炭素数は、1~3である。
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、基油(A)に、3級アミン(B)を配合する工程を有する方法が挙げられる。基油(A)及び3級アミン(B)以外の他の成分を配合する場合、当該他の成分は、3級アミン(B)と同時に配合してもよいし、別々に配合してもよい。また、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
なお、本実施形態の潤滑油組成物の製造方法において、基油(A)及び3級アミン(B)の好ましい態様は、上述した態様と同様である。また、3級アミン(B)の配合量の好ましい範囲は、3級アミン(B)の含有量の好ましい範囲として上述した範囲と同様である。
【0046】
[潤滑油組成物の用途]
本実施形態の潤滑油組成物は、水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入した場合に微生物の繁殖を抑制することができる。
したがって、本発明によれば、下記使用方法が提供される。
・本実施形態の潤滑油組成物を、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制のために使用する、潤滑油組成物の使用方法。
また、本発明によれば、下記方法が提供される。
・本実施形態の潤滑油組成物を、水溶性切削油に混入させた後、前記摺動面用潤滑油組成物を除去することなく、前記水溶性切削油中に保持する工程を含む、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制方法。
【0047】
[工作機械]
本実施形態の潤滑油組成物は、工作機械用の摺動面用潤滑油組成物として好適に用いることができる。
本実施形態の潤滑油組成物を用いる工作機械としては、例えば、NC(Numerical Control Machine)工作機械、マシニングセンター、研削盤、CNC(Computerized Numerical Control)、複合加工機等が挙げられる。
本実施形態の潤滑油組成物は、水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入した場合に微生物の繁殖を抑制することができる。したがって、切削油タンク等のような水溶性切削油に摺動面用潤滑油組成物が混入する空間内において水溶性切削油から本実施形態の潤滑油組成物をオイルスキマー等の装置で分離する必要がない。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物によれば、当該潤滑油組成物を摺動面に給油する機構を有する工作機械が提供される。そして、当該工作機械としては、NC(Numerical Control Machine)工作機械、マシニングセンター、研削盤、CNC(Computerized Nume)、複合加工機等が挙げられる。そして、当該潤滑油組成物を摺動面に給油する機構を有する工作機械を含むシステムには、オイルスキマー等の油分離装置が備えられていなくてもよい。
【0048】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様によれば、下記[1]~[8]が提供される。
[1] 基油(A)と、3級アミン(B)とを含有する、摺動面用潤滑油組成物であって、
前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、
前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、
前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物。
[2] 前記3級アミン(B)は、下記一般式(1)で表される化合物から選択される1種以上を含む、上記[1]に記載の摺動面用潤滑油組成物。
【化2】

[前記一般式(1)中、各符号は以下を示す。
、R、Rは、各々独立に、炭素数1~3のアルキル基を示す。
n1及びn2は、各々独立に、0又は1である。
n1が0である場合、m1は0~9の整数である。
n1が1である場合、m1は0~11の整数である。
n2が0である場合、m2は0~9の整数である。
n2が1である場合、m2は0~11の整数である。]
[3] 前記一般式(1)中、n1=n2=1である、上記[2]に記載の摺動面用潤滑油組成物。
[4] 前記一般式(1)中、m1=m2=0である、上記[2]又は[3]に記載の摺動面用潤滑油組成物。
[5] 前記一般式(1)中、Rはメチル基である、上記[2]~[4]のいずれか1つに記載の摺動面用潤滑油組成物。
[6] 前記3級アミン(B)の含有量が、前記摺動面用潤滑油組成物の全量基準で、1.00質量超である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の摺動面用潤滑油組成物。
[7] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の摺動面用潤滑油組成物を、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制のために使用する、使用方法。
[8] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の摺動面用潤滑油組成物を水溶性切削油に混入させた後、前記摺動面用潤滑油組成物を除去することなく、前記水溶性切削油中に保持する工程を含む、水溶性切削油中の微生物の繁殖抑制方法。
[9] 基油(A)と、3級アミン(B)とを混合する工程を含む、摺動面用潤滑油組成物の製造方法であって、
前記3級アミン(B)は、窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有し、
前記シクロアルキル骨格の環員数は、各々独立に、5又は6であり、
前記アルキル基の炭素数は、1~3である、摺動面用潤滑油組成物の製造方法。
【実施例0049】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1~3及び比較例1]
実施例1~3及び比較例1の摺動面用潤滑油組成物の調製に用いた原料を以下に示す。
【0051】
<基油(A)>
・「鉱油1」:APIカテゴリーでグループIIに分類される鉱油(40℃動粘度:29mm/s)
・「鉱油2」:APIカテゴリーでグループIIに分類される鉱油(40℃動粘度:97mm/s)
・「合成油」:ポリブテン(100℃動粘度:2,850mm/s)
【0052】
<3級アミン(B)>
・「N-メチルジシクロヘキシルアミン」:窒素原子に結合する2つのシクロアルキル骨格と、窒素原子に結合する1つのアルキル基とを有する3級アミンである。当該シクロアルキル骨格はシクロヘキシル基であり、当該アルキル基はメチル基である。具体的には、上記一般式(1)中、Rがメチル基であり、n1及びn2は1であり、m1及びm2は0である化合物である。
【0053】
<3級アミン(B’)>
・「トリオクチルアミン」:窒素原子にオクチル基が3つ結合した3級アミンである。
【0054】
<その他添加剤>
・「摺動面油パッケージ添加剤」:アミン系酸化防止剤、硫黄系極圧剤、チオリン酸塩、脂肪酸塩、防錆剤、分散助剤、希釈油
【0055】
上記原料を、表1に示す配合量(質量%)で十分に混合し、実施例1~3及び比較例1の摺動面用潤滑油組成物をそれぞれ調製した。
【0056】
[各種物性の測定又は評価方法]
(1)40℃動粘度、粘度指数
40℃動粘度、粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定した。
【0057】
(2)窒素原子含有量
JIS K2609:1998に準拠して、化学発光法により測定した。
【0058】
(3)3級アミンの揮発量
3級アミンを120mLの容器に20g入れて重量を測定した(初期重量)。次いで、当該容器に入れた3級アミンを60℃に昇温して1時間保持した後、重量を測定した(試験後重量)。
そして、3級アミンの揮発量(60℃、1時間)を、以下の式(f1)により算出した。
揮発量(単位:%)={(初期重量)-(試験後重量)}×100/(3級アミンの初期重量)・・・(f1)
3級アミンの揮発量が多い程、3級アミンは揮発しやすい。逆に3級アミンの揮発量が少ない程、3級アミンは揮発し難い。
本実施例では、3級アミンの揮発量が10%以下であるものを合格と判断した。
【0059】
(4)腐敗試験
三角フラスコ内に、水溶性金属加工油剤(出光興産株式会社製、ダフニー アルファクールEX-1、エマルジョン型)を水で5容量%に希釈した試料100mLと実施例1~3及び比較例1の摺動面用潤滑油組成物をそれぞれ10mLとを投入した。
下記に示す腐敗液Aを5mL、腐敗液Bを0.5mL添加し、30℃、150rpmで7日間振とう培養を行い、生菌数を測定した。7日目に生菌数を測定後、腐敗液Aを5mL、腐敗液Bを0.5mL添加しさらに7日間振とう培養を行ない、生菌数を測定した。腐敗試験の条件を下記に示す。
<腐敗試験条件>
培養条件:FC200ドライ切粉を3g添加し、30℃で、150rpmで振とうした。
本実施例では、生菌数が10CFU/mLに到達するまでの時間が3週間以上である摺動面用潤滑油組成物を合格とした。
以下に、腐敗液A及びBの詳細及び生菌数の測定方法を示す。
【0060】
(腐敗液A及びBの詳細)
・腐敗液A
腐敗劣化したエマルジョン型切削液に日本製薬製SCD培地「ダイゴ」を加え72時間エアレーションして活性化させたものを用いた。
・腐敗液B
腐敗劣化したエマルジョン型切削液に日本製薬製ポテトデキストロース寒天培地「ダイゴ」を加え72時間エアレーションして活性化させたものを用いた。
【0061】
(生菌数の測定方法)
1mL中の菌数または菌による汚染度合いを三愛石油株式会社製「サンアイバイオチェ
ッカー」により測定し、下記の生菌数の表示基準に基づいて表示した。そして、表示された生菌数について、上記の腐敗試験の評価基準に基づいて、耐腐敗性の評価をした。
1mL中の生菌数を、三愛石油株式会社製「サンアイバイオチェッカー」の細菌数用のTTC培地を用いて測定し、細菌の生菌数に基づいて耐腐敗性の評価をした。
なお、三愛石油株式会社製「サンアイバイオチェッカー」の酵母用のM培地、カビ用のS培地を用いて酵母とカビの測定も実施したが、細菌の生菌数に基づく寿命の範囲内では、酵母とカビの増殖は抑制されていることを確認した。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1~3に示す結果から、3級アミン(B)を特定量含有する摺動面用潤滑油組成物は、微生物の繁殖を抑制する効果に優れることがわかる。また、3級アミン(B)は、揮発し難いことがわかる。
これに対し、比較例1のように、窒素原子に結合する基が全て直鎖アルキル基(オクチル基)である3級アミン(B’)を含有する摺動面用潤滑油組成物は、微生物の繁殖を抑制する効果が不十分であることがわかる。