(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061483
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】複合体積層物
(51)【国際特許分類】
B65D 85/48 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
B65D85/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169458
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 英明
【テーマコード(参考)】
3E096
【Fターム(参考)】
3E096AA05
3E096BA24
3E096BB05
3E096CA11
3E096EA02X
3E096EA02Y
(57)【要約】
【課題】複合体の樹脂膜における凹欠陥の発生を抑制できる複合体積層物を提供すること。
【解決手段】本発明は、ガラス板の主面に樹脂膜が配置された複数の複合体と、前記複合体の相互間に介在された介装材と、を備える複合体積層物であって、前記介装材の、前記樹脂膜側に配置された主面における算術平均高さSaをXとし、クルトシスSkuをYとしたときに、以下の式(1)を満たす、複合体積層物に関する。
Y≦-0.18X+4.3・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板の主面に樹脂膜が配置された複数の複合体と、前記複合体の相互間に介在された介装材と、を備える複合体積層物であって、
前記介装材の、前記樹脂膜側に配置された主面における算術平均高さSaをXとし、クルトシスSkuをYとしたときに、以下の式(1)を満たす、複合体積層物。
Y≦-0.18X+4.3・・・(1)
【請求項2】
前記X及びYが以下の式(2)及び式(3)を満たす、請求項1に記載の複合体積層物。
X≦7.5・・・(2)
Y≦3.84・・・(3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体積層物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、太陽電池パネル(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)、あるいは、電磁波、X線、紫外線、可視光線、赤外線などを感知する受信センサーパネルなどの電子デバイスの薄型化及び軽量化が進んでいる。それに伴い、電子デバイスに用いるポリイミド樹脂基板などの支持基板の薄板化も進んでいる。
【0003】
薄板化により支持基板の強度が低下すると、支持基板のハンドリング性が低下し、支持基板上に電子デバイス用部材を形成する工程(部材形成工程)などにおいて、支持基板の変形や回路の損傷等の問題が生じる場合がある。
【0004】
そこで、近年、支持基板のハンドリング性を良好にするため、例えば、ガラス板の主面にポリイミド樹脂等の樹脂膜を配置した複合体を支持基板として用いる技術が提案されている。例えば特許文献1には、支持基板と熱硬化性樹脂組成物硬化体層との積層体である硬化後積層体が記載され、熱硬化性樹脂組成物硬化体層の支持基板と接触していない面上に、樹脂ワニスを塗布して樹脂ワニス薄液層を形成し、樹脂ワニス薄液層を加熱することにより樹脂ワニス硬化フィルムを形成することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、ガラス板を複数重ねた状態で輸送する際にガラス板とガラス板の間にガラス板用合紙を介在させ、輸送中にガラス板表面に傷などがつくことを防止し得ることが記載されている。特許文献2には、合紙の算術平均高さSaを一定以上としつつ、かつ平滑度を20秒以上とすることで、パーティクルの抑制と傷の抑制を両立できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-193544号公報
【特許文献2】特開2022-83995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されるような複合体を輸送する際、ガラス板の場合と同様に複数重ねた積層体の状態とすることが考えられる。しかしながら、本発明者の検討によれば、かかる複合体を積層する場合に特許文献2に示される合紙のような介装材を介在させたとしても、介装材表面の凸形状によって樹脂膜に凹欠点が発生する場合があることがわかった。樹脂膜に凹欠点が発生していると、樹脂膜上に形成される電子デバイス用部材等の品質を低下させてしまう場合があり、支持基板としての品質も劣るものとなる。
そこで本発明は、複合体の樹脂膜における凹欠陥の発生を抑制できる複合体積層物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、複合体積層物における介装材の、樹脂膜側に配置される主面の表面性状が所定の要件を満たすことにより樹脂膜の凹欠陥を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の1~2に関する。
1.ガラス板の主面に樹脂膜が配置された複数の複合体と、前記複合体の相互間に介在された介装材と、を備える複合体積層物であって、
前記介装材の、前記樹脂膜側に配置された主面における算術平均高さSaをXとし、クルトシスSkuをYとしたときに、以下の式(1)を満たす、複合体積層物。
Y≦-0.18X+4.3・・・(1)
2.前記X及びYが以下の式(2)及び式(3)を満たす、前記1に記載の複合体積層物。
X≦7.5・・・(2)
Y≦3.84・・・(3)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複合体の樹脂膜における凹欠陥の発生を抑制できる複合体積層物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る複合体積層物の一例を示す側面図である。
【
図2A】
図2Aは、複合体の樹脂膜が設けられた主面側の平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る複合体積層物の梱包体を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、縦軸をSku、横軸をSaとしたグラフ上に欠点評価の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0013】
(複合体積層物)
本実施形態に係る複合体積層物は、ガラス板の主面に樹脂膜が配置された複数の複合体と、前記複合体の相互間に介在された介装材と、を備える複合体積層物であって、前記介装材の、前記樹脂膜側に配置された主面における算術平均高さSaをXとし、クルトシスSkuをYとしたときに、以下の式(1)を満たす。
Y≦-0.18X+4.3・・・(1)
【0014】
図1は、本実施形態に係る複合体積層物を模式的に例示する側面図である。複合体積層物2は、ガラス板Gの主面に樹脂膜Rが配置された複合体1を複数備え、複数の複合体の相互間には、介装材5を備える。
【0015】
本発明者は、複合体積層物における介装材の、樹脂膜側に配置される主面の表面性状が上記の式(1)を満たすことにより、複合体を複合体積層物とした際に樹脂膜における凹欠陥の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
このことは次のように説明される。表面性状として、算術平均高さSaが比較的小さいことは、表面に存在する凹凸の高低差が比較的小さいことを意味する。また、クルトシスSkuは、表面凹凸の高さ分布の尖り具合を表し、Sku=3の場合は高さ分布が正規分布であることを示し、Sku>3の場合は高さ分布が尖っていることを示し、Sku<3の場合は表面凹凸の高さ分布がつぶれているような形状であることを示す。すなわち、Sku>3の場合、表面性状としては鋭い山や谷が多い形状となる傾向があり、Sku<3の場合は表面に凹凸がある場合でもその山や谷は比較的丸みを帯びた形状となる傾向がある。
【0017】
Saが小さいほど凹凸の高低差が比較的小さいため、樹脂膜の凹欠陥を抑制できると考えられるが、Skuが大きすぎる場合は鋭い山や谷が多くなることで樹脂膜の凹欠陥が発生しやすくなってしまう。一方で、Skuが小さくなるほど樹脂膜の凹欠陥を抑制しやすい表面凹凸形状になると考えられるが、Saが大きすぎる場合は凹凸の高低差が大きくなることで樹脂膜の凹欠陥が発生しやすくなってしまう。これに対し本発明は、Sa及びSkuが式(1)を満たしていれば、SaとSkuがともに適切な範囲にあり、介装材表面の凸形状による樹脂膜の凹欠陥の発生を抑制できることを見出したものである。以下、本実施形態に係る複合体積層物についてさらに詳細に説明する。
【0018】
(複合体)
図2A及び
図2Bに例示するように、複合体積層物2を構成する複合体1は、ガラス板Gと、このガラス板Gの主面に配置された樹脂膜Rを有する板状体である。複合体1は、例えば、電子デバイス用部材を形成する工程において、支持基板として用いられる。
【0019】
(ガラス板)
ガラス板Gは、樹脂膜Rを形成可能な板状体であれば主面の形状は特に限定されないが、典型的には、主面に対して垂直な方向である主面垂直方向からみたときに矩形状である。
【0020】
ガラス板Gの主面の大きさは特に限定されないが、例えば矩形状の場合、少なくとも一辺の長さが300mm以上であることが好ましく、700mm以上であることがより好ましく、1,500mm以上であることがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、例えば2,000mm以下が好ましい。すなわち、ガラス板Gが矩形状の場合の一辺の長さは例えば300~2,000mmであってもよい。ガラス板Gは、例えば、第6世代サイズ(長辺1,850mm、短辺1,500mm)の大型サイズのガラス板であってもよい。このような大きさのガラス板を用いた複合体を輸送する場合、輸送効率に優れる、複合体の破損を防ぐ等の観点から、複合体を積層した複合体積層を梱包して輸送することが好適な輸送方法の1つとして挙げられる。
【0021】
ガラス板Gの厚みは特に限定されないが、強度の向上、撓み抑制の観点から例えば0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。一方で、厚みは積載荷重軽減の観点から1.0mm以下が好ましく、0.7mm以下がより好ましい。ガラス板Gの厚みは例えば0.3~1.0mmであってもよい。
【0022】
また、ガラス板Gのヤング率は、剛性の観点から60GPa以上が好ましく、65GPa以上がより好ましい。ヤング率は、生産性の観点から95GPa以下が好ましく、90GPa以下がより好ましい。ガラス板Gのヤング率は例えば60~95GPaであってもよい。
【0023】
ガラス板の具体的な種類は特に限定されないが、例えば無アルカリホウケイ酸ガラス、シリカガラス、ソーダライムガラス等が使用でき、アルカリ成分によるデバイスへの影響を防ぐ観点から無アルカリホウケイ酸ガラス、シリカガラスが好ましい。
【0024】
ガラス板の製造方法は特に限定されないが、例えばプレス法、ダウンドロー法、フロート法などの方法により所定の板厚に成形し、徐冷後、研削、研磨などの加工を行い、所定のサイズ、形状のガラス板とすればよい。
【0025】
(樹脂膜)
樹脂膜Rは、ガラス板Gの主面に配置されている。複合体1を電子デバイス形成用の支持基板として用いる場合、典型的には、樹脂膜R上に電子デバイス用部材が形成される。樹脂膜Rは、ガラス板Gの少なくとも一方の主面に配置されていればよいが、両方の主面に配置されていてもよい。樹脂膜Rは、ガラス板Gの主面の全面に配置されていてもよく、一部に配置されていてもよい。例えば、
図2A及び
図2Bに例示するように、樹脂膜Rは垂直方向からみたときに矩形状であり、ガラス板Gにおける外縁部に沿う領域を除く主面に配置されていてもよい。樹脂膜Rは、ガラス板Gの主面の面積の25%以上に配置されることが好ましく、50%以上に配置されることがより好ましい。
【0026】
樹脂膜Rの厚みは、異物に対する緩衝性の観点から1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。一方で、厚みは、樹脂膜Rに発生するクラックを防ぐ観点から50μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。樹脂膜Rの厚みは例えば1~25μmであってもよい。
【0027】
樹脂膜Rのヤング率は、異物等による凹み欠点抑制の観点から0.1GPa以上が好ましく、0.5GPa以上がより好ましく、1.0GPa以上がさらに好ましい。ヤング率は、複合体の反りを抑制する観点から7.0GPa以下が好ましく、5.0GPa以下がより好ましく、3.0GPa以下がさらに好ましい。樹脂膜Rのヤング率は例えば0.1~7.0GPaであってもよい。樹脂膜Rのヤング率は、ナノインデンテーション法により測定できる。
【0028】
樹脂膜Rに用いられる樹脂としては、例えば、ポリイミド、シリコーン、アクリル、ポリオレフィン、フッ素樹脂等が挙げられる。樹脂膜上に電子デバイス用部材が形成される際に加熱を伴う場合があることから、樹脂としては300℃以上の耐熱性を有することがより好ましく、例えばポリイミド、シリコーン等がより好ましい。
【0029】
樹脂膜Rに用いられる樹脂の軟化点は異物等による凹み欠点抑制の観点から30℃以上が好ましく、45℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。
【0030】
樹脂膜Rは、1種類の樹脂層からなる膜であってもよく、複数の樹脂層からなる膜であってもよい。
【0031】
(保護層)
図3に示すように、複合体1は、樹脂膜R上に剥離可能に形成される保護層Pをさらに備えることが好ましい。複合体1を電子デバイス形成用の支持基板として用いる場合、保護層Pは例えば、複合体積層物2や、電子デバイス用部材を形成するまでの複合体1において、電子デバイス用部材が形成される樹脂膜Rを保護するために用いられる。すなわち、複合体1上に電子デバイス用部材を形成する際は、保護層Pを樹脂膜Rから剥離し、その後、樹脂膜R上に、例えば有機EL(OLED)などの電子デバイスを形成する。
【0032】
保護層Pの厚みは、強度の向上、樹脂膜Rの凹み欠点抑制の観点から10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。一方で、厚みは、吸湿による歪み抑制の観点から200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。保護層Pの厚みは、例えば10~200μmであってもよい。
【0033】
保護層Pのヤング率は、樹脂膜Rの凹み欠点抑制の観点から0.1GPa以上が好ましく、2.0GPa以上がより好ましく、4.0GPa以上がさらに好ましい。ヤング率は、複合体の反りを抑制する観点から7.0GPa以下が好ましく、6.0GPa以下がより好ましく、5.0GPa以下がさらに好ましい。保護層Pのヤング率は、例えば0.1~7.0GPaであってもよい。保護層Pのヤング率は、引張試験法により測定できる。
【0034】
保護層Pは、耐擦傷性や衝撃吸収性、生産性の観点から、樹脂で形成されることが好ましい。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等が挙げられ、耐擦傷性、生産性の観点からポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。例えば保護層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであってもよい。
【0035】
保護層Pとしては、上述するように樹脂が好適に用いられる。複合体積層物における複合体がこのような保護層Pを備える場合、樹脂膜Rは介装材に直接接触しないものの、介装材の表面凸部によって保護層Pに凹部が形成される場合がある。そして、これに伴って当該保護層Pに接する樹脂膜Rに凹欠点が発生してしまう場合がある。本発明によれば、複合体が保護層Pを備える場合であっても、樹脂膜における凹部の発生を好適に抑制できる。
【0036】
複合体の製造方法は特に限定されず、例えばガラス板の少なくとも一方の主面に公知の方法で樹脂膜を形成してもよい。また、ガラス板の少なくとも一方の主面に樹脂膜と保護層とを順に積層してもよい。また、予め樹脂膜と保護層とを積層した積層フィルムを例えばロールツーロールにより形成し、積層フィルムの樹脂膜側の面をガラス板の少なくとも一方の主面に貼合することで、ガラス板の少なくとも一方の主面に樹脂膜及び保護層を形成してもよい。
【0037】
ガラス板Gに樹脂膜Rが設けられた複合体1を、電子デバイスを形成する際の支持基板として用いれば、高価なレーザ装置によって支持基板から電子デバイスを分離させる場合と比較し、形成した電子デバイスを支持基板から容易に剥離できる。
【0038】
(介装材)
図1に示すように、介装材5は複合体積層物2において、複合体1の相互間に介在されている。複合体1の相互間に介装材5を介在させることで、複合体1のキズや汚染を抑制できる。また、複合体1の相互間に介装材5を介在させることで、複合体の取り出し時に複合体1の保護層Pや樹脂膜Rが隣り合って積層される別の複合体1のガラス板Gと密着し、意図しない位置(例えば保護層Pと樹脂膜Rの間)で剥離してしまうことも防止できる。
【0039】
介装材は、例えば複合体の主面と同様の形状であってよい。本実施形態の介装材とともに積層される複合体は例えば矩形状なので、本実施形態の介装材も矩形状であることが好ましい。ただし、介装材は、開梱時の取り扱い性を高める等の目的で、矩形状の辺部分等の形状が例えば直線状以外に加工されていてもよい。
【0040】
例えば複合体が矩形状であり、大きさが1,850mm×1,500mmである場合は、介装材は1,890mm×1,540mm程度の矩形状が好ましい。複合体が矩形状である場合、介装材の各辺の長さは、それぞれ対応する複合体(ガラス板)の辺の長さの1.01~1.05倍程度であることが好ましい。
【0041】
介装材の厚みは、強度の向上、緩衝性の観点から20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、80μm以上がさらに好ましい。一方で、厚みは、複合体積層物とした際の積層高さを抑制する観点から1,000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。介装材の厚みは、例えば20~1,000μmであってもよい。
【0042】
介装材の坪量が小さいと、強度が低下して破れやすくなる恐れがある。したがって、介装材の坪量は20g/m2以上が好ましく、30g/m2以上がより好ましく、40g/m2以上がさらに好ましく、45g/m2以上が特に好ましい。
一方、坪量が大きいと、重量の増加を招き、また、複合体積層物とした際の積層高さが大きくなるため、所定の高さの容器に格納できる枚数が少なくなる。したがって、介装材の坪量は100g/m2以下が好ましく、90g/m2以下がより好ましく、80g/m2以下がさらに好ましく、70g/m2以下が特に好ましい。坪量は、例えば20~100g/m2であってもよい。
坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して測定できる。
【0043】
介装材の材料としては、紙、樹脂、布等が挙げられ、複合体からの剥離のし易さ、生産性の観点から紙が好ましい。樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)が挙げられる。なお、介装材が紙である場合、当該介装材を合紙ともいう。
【0044】
本実施形態に係る複合体積層物において、介装材の、樹脂膜側に配置された主面における算術平均高さSaをXとし、クルトシスSkuをYとしたときに、以下の式(1)を満たす。すなわち、複合体積層物に用いる介装材としては、少なくとも一方の主面における算術平均高さSaをXとし、クルトシスSkuをYとしたときに、以下の式(1)を満たす介装材を用いる。
Y≦-0.18X+4.3・・・(1)
【0045】
介装材の、樹脂膜側に配置された主面(以下、樹脂膜側主面ともいう。)とは、複合体積層物において、複合体のガラス板からみて樹脂膜が形成されている側の面に配置されている介装材の主面のことをいう。介装材の樹脂膜側主面と樹脂膜とは直接接していてもよいが、例えば保護層を介することにより、介装材の樹脂膜側主面と樹脂膜とは直接接していなくてもよい。
【0046】
先述の通り、本実施形態に係る複合体積層物において、介装材の樹脂膜側主面の表面性状が上記式(1)を満たすことで、樹脂膜における凹欠点の発生が抑制される。X及びYは、Y≦-0.18X+3.84を満たすことが好ましく、Y≦-0.18X+3.53を満たすことがより好ましい。
【0047】
樹脂膜側主面の算術平均高さSa(X)は、樹脂膜側主面表面の高低差を小さくすることで凹欠点発生を抑制する観点から、7.5μm以下が好ましく、7.0μm以下がより好ましく、5.5μm以下がさらに好ましい。Sa(X)の下限は特に限定されないが、例えば1.96μm以上であってもよい。すなわち、Sa(X)は、例えば1.96~7.5μmであってもよい。
【0048】
樹脂膜側主面のクルトシスSku(Y)は、樹脂膜側主面表面に鋭い山や谷が形成されるのを抑制する観点から、4.3以下が好ましく、3.84以下がより好ましく、3.6以下がさらに好ましい。Sku(Y)の下限は特に限定されないが、例えば2.4以上であってもよい。すなわち、Sku(Y)は、例えば2.4~4.3であってもよい。
【0049】
例えば、本実施形態に係る複合体積層物において、X及びYが以下の式(1)~(3)を満たすことがより好ましい。
Y≦-0.18X+4.3・・・(1)
X≦7.5・・・(2)
Y≦3.84・・・(3)
【0050】
介装材としては、上記の表面性状を満たす介装材を原料から製造して用いてもよいし、市販の紙等のうち上記の表面性状を満たすものを介装材として用いてもよい。介装材が紙である場合、例えば原料パルプを離解・叩解し、抄紙することで介装材を製造できる。市販の紙としては、例えば王子マテリア社製「OKブリザード」、王子マテリア社製「アカシヤ」、大王製紙社製「エリプラペーパー」(坪量380g/m2)、日本製紙社製「しらおい」(坪量209.3g/m2)等が好適に用いられる。
【0051】
複合体積層物における複合体の積層枚数は特に限定されず、2枚以上であればよいが、積載効率の観点から、例えば300枚以上が好ましく、400枚以上がより好ましい。一方で、圧力で発生する樹脂膜Rの凹み欠点を抑制する観点から積層枚数は500枚以下が好ましく、450枚以下がより好ましい。
複合体1および介装材5の積層枚数は、通常、複合体1と介装材5の枚数が同数となるか、介装材5の枚数が複合体1の枚数よりも1枚多いかのいずれかである。
一例として、
図1では5枚の複合体1が積層され、これらの相互間に介装材5が介在されるとともに、複合体積層物2の積層方向(図面の上下方向)における一方の端面にも介装材5が配置されている。このように、複合体積層物2の積層方向の一方又は両方の端面に介装材5が配置されてもよい。
【0052】
複合体積層物は、例えば複合体と、介装材とを交互に積層することで製造される。この時、介装材の、上記式(1)を満たす主面が樹脂膜側主面となるように介装材を配置することで、本実施形態に係る複合体積層物が得られる。
【0053】
本実施形態に係る複合体積層物は、電子デバイス形成用の支持基板として用いる複合体を輸送したり、保管したりする際に好適に用いられる。本実施形態に係る複合体積層物によれば、電子デバイス用部材が形成され得る樹脂層の凹欠点の発生が抑制されているので、複合体の品質を低下させることなく複合体を輸送又は保管できる。
【0054】
(梱包体)
本実施形態の梱包体は、本実施形態に係る複合体積層物が収納容器に収納されることで梱包された梱包体である。複合体積層物が輸送又は保管される場合、梱包体の状態とすることが好ましい。なお、収納容器の形態は以下に例示する態様に限定されず、少なくとも複合体積層物を載置または収納可能なものであればよい。
図4は、本実施形態に係る梱包体の一例を示す斜視図である。収納容器100に収容されて梱包体とされた複合体積層物2は、運搬車両(例えばトレーラーやトラック)や船舶等に積載されて輸送、搬送される。なお、
図4における複合体積層物2に含まれる介装材については、具体的な図示を省略している。
【0055】
図4に示す収納容器100は、台座19の上面に載置されている。収納容器100は、背面支持部10と、底板である底部支持部17と、押し当て部30と、締め付け機構15とを含んで構成される。
【0056】
背面支持部10は、背面支持部材13と、板状の背受け部材11とを有する。背面支持部材13は、複合体積層物2の背面を、ガラス板Gの主面が鉛直方向から傾斜した状態で背受け部材11を介して支持する。背受け部材11の背面支持部材13の反対側は、複合体積層物2の受け面23となる。この受け面23は、不図示の緩衝シートを有していてもよい。
【0057】
背面支持部10は、複合体積層物2と面接触して、複合体積層物2を背受け部材11に立て掛けた縦姿勢の状態で支持する。この背面支持部材13と底部支持部17は、耐荷重性を有する材料(例えば、鉄材、アルミニウム合金材等の金属材料、又は樹脂材料)からなることが好ましい。
【0058】
ここで、複合体1の積層方向に関して、複合体積層物2の押し当て部30側を「前方側」又は「前面側」と称し、背面支持部10側を「背面側」ともいう。
【0059】
底部支持部17は、台座19の上部において背受け部材11の下端における前方側(複合体積層物2の支持側)に設けられる。底部支持部17は、例えば板材からなり、板材の上面は複合体積層物2の載置面27となる。底部支持部17は、載置面27が台座19の上面から傾いた状態で配置される。載置面27は、不図示の緩衝シートを有することが好ましい。
【0060】
背受け部材11の受け面23と底部支持部17の載置面27とがなす角度は、略90°であるのが好ましい。また、背面支持部材13の背受け部材11を支持する側面は、複合体積層物2のガラス板Gの主面と鉛直方向との傾斜角度θが45°以上、80°以下になる角度であるのが好ましい。この傾斜角度にすることで、複合体積層物2を安定して背面支持部10に支持できる。
【0061】
このように、複合体1を積層させた複合体積層物2は、底部支持部17に載置され、背面支持部10に立て掛けられた縦姿勢の状態で、収納容器100に収納される。
【0062】
この複合体積層物2には、その前面側(背面支持部10側の反対側)に、押し当て部30が配置される。押し当て部30は、押さえ枠33と、この押さえ枠33と複合体積層物2との間に配置される緩衝材となる樹脂板31とを有する。押さえ枠33は、軽量で変形しにくい材料(例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金材、樹脂材等)からなることが好ましい。
【0063】
押し当て部30は、締め付け機構15による締め付けによって、複合体積層物2に押し当てられ、複合体積層物2を背面支持部10に向けて押圧する。
【0064】
締め付け機構15は、背面支持部10に支持された複合体積層物2を、押し当て部30と背面支持部10との間で挟み込む締め付け力を発生させる。本実施形態で示す締め付け機構15は、帯状のベルト15aと、ベルト15aに張力を付与する張力付与部15bとを備える。本例では、複合体積層物2の異なる高さ位置となる2箇所(上部領域及び下部領域)に締め付け機構15を配置し、2本のベルト15aを水平方向に複合体積層物2の前方の押さえ枠33に掛け渡すことで、複合体積層物2を背面支持部10に固定しているが、複合体積層物2の高さ方向の中央領域に1本のベルトを水平に掛け渡して固定してもよい。また、複合体積層物2の上部領域及び下部領域並びに中央領域のそれぞれにベルトを掛け渡すことでもよい。
【0065】
ベルト15aは、背面支持部材13に両端が固定され、一方側の端部等のベルトの一部には、ラチェット等の張力付与部15bが設けられる。この張力付与部15bによってベルト15aに張力が付与される。張力が付与されたベルト15aは、複合体積層物2を背面支持部10に押し付ける締め付け力を発生し、複合体積層物2を背面支持部10に固定した状態に保持し、複合体積層物2を収納容器100内に収容させる。
【0066】
押し当て部30は、複合体積層物2に面接触する構造が好ましい。押さえ枠33は、図示した格子状の枠体に限らず、板状、ブロック状でもよい。また、押さえ枠33に代えて、例えば、ベルト15aと交わる複合体積層物2の角部に設けられ、L字状に折り曲げた厚紙や緩衝板等の他の部材、形状のものを用いてもよい。
【0067】
このように、例示した複合体積層物2の梱包体は、複合体積層物2を、縦姿勢で固定したまま輸送、搬送できる。縦姿勢で固定することで、複合体積層物2を配置するスペース効率が高められる。
【0068】
各複合体1は、ガラス板Gの一辺を下方へ向けた状態で、ガラス板Gの一方の主面に配置された樹脂膜Rが、隣り合うガラス板Gの他方の主面(樹脂膜Rの非形成面)に向かい合うように積層されていることが好ましい。各複合体1は、収納容器100において、下向きの端面であるガラス板Gの一辺を底部支持部17に当接させて支持させ、各ガラス板Gの主面が鉛直方向から傾斜した状態で、複合体1の相互間に介在された介装材3(
図4において不図示)とともに互いに積層されて複合体積層物2として載置されている。
【0069】
複合体積層物2は、各複合体1の樹脂膜Rが配置される一方の主面側を背受け部材11に対面させる向きに配置した場合、複合体1を収納容器100から取り出す際、ガラス板Gの他方の主面(樹脂膜Rの非形成面)が前面となる。よって、ガラス板Gの取り出し側には、樹脂膜Rが配置されないため、樹脂膜Rとの干渉(接触)を意識することなくガラス板Gを容易に把持できる。その結果、複合体積層物2からの個々の複合体1の取り出し作業を簡単化できる。
【実施例0070】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。例1~3、7~9、11は実施例であり、例4~6、10、12は比較例である。なお、介装材についての測定は、JIS P8111:1998に準じて標準状態において介装材の調湿処理を行った後に実施した。
【0071】
(介装材の表面性状)
介装材の表面性状として、算術平均高さSa及びクルトシスSkuを、非接触表面性状測定装置(三鷹光器社製、PF-60)を用いて測定した。測定は介装材の両面について行い、Saが比較的小さい面をI面とし、Saが比較的大きい面をII面とした。算術平均高さSa及びクルトシスSkuはそれぞれ、被測定面の略中央部で測定した。
【0072】
(介装材の厚み)
JIS P 8188:2014「紙及び板紙-厚さ,密度及び比容積の試験方法」に準拠して各例の介装材の厚みを測定した。
【0073】
(複合体の作製)
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂フィルム(厚み50μm)の表面上にシリコーン樹脂を塗布し、ホットプレートを用いて140℃で10分間加熱して硬化させることにより、樹脂フィルム上にシリコーン樹脂膜(厚み7μm)を形成した。形成したシリコーン樹脂膜の上に汚染防止用のPETフィルムを貼り合わせた後、50mm×50mmのサイズに切断した。続いて、水系ガラス洗浄剤(株式会社パーカーコーポレーション製「PK-LCG213」)で洗浄後、純水で洗浄したガラス板Gを用意した。シリコーン樹脂膜の上の汚染防止用のPETフィルムを剥離し、ガラス板Gの主面に貼り合わせた。これにより、ガラス板Gの主面に、シリコーン樹脂膜が樹脂膜Rとして、樹脂フィルムが保護層として配置された複合体1を作製した。なお、樹脂膜Rにおいて、樹脂の軟化点は60℃、ヤング率は1GPaであった。
ガラス板Gとしては、サイズ100mm×100mm、厚み0.5mmの無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(AGC株式会社製、商品名「AN Wizus」)を使用した。このガラス板Gは、線膨張係数が39×10-7/℃とされている。
次に、作製した複合体1をオートクレーブ内に配置し、65℃で1MPaの条件にて30分間加熱し、内包する気泡を除去した。
【0074】
(複合体積層物の製造)
表1に示す各例の介装材を110mm×110mmサイズに成形し、I面が複合体の樹脂膜側に配置されるように先述の複合体10枚の間にそれぞれ介在させて、10枚の複合体を積層したI面評価用の複合体積層物を得た。なお、介装材はガラス板Gの各辺の出代が5mmとなるようにした。
また、各介装材のII面を複合体の樹脂膜側に配置した以外は同様にしてII面評価用の複合体積層物を得た。
なお、表1に示す各例の介装材の詳細は以下の通りである。
・A紙:公知の製造方法で製造されたバージンパルプ紙である。
・B紙:公知の製造方法で製造されたバージンパルプ紙である。
・C紙:公知の製造方法で製造されたグラシン紙である。
・SC64NB:桜井社製のクリーン紙である。
・OK未晒クラフト:王子マテリア社製のクラフト紙である。
・ボーガスペーパー[51g/m2]:東京洋紙社製の再生紙である。
・OKブリザード:王子マテリア社製の片艶晒クラフト紙である。
・アカシヤ:王子マテリア社製の両更晒である。
・エリプラペーパー[坪量380g/m2]:大王製紙社製の高密度厚紙である。
・フワットライト[N720165]:北悦東洋ファイバー社製のクッション紙である。
・しらおい[坪量209.3g/m2]:日本製紙社製の上質紙である。
・低密度紙[ベーシックタイプ]:大王製紙社製の低密度厚紙である。
【0075】
(欠点評価)
各例のI面評価用の複合体積層物及びII面評価用の複合体積層物について、以下の条件で保持した後の樹脂膜における欠点を評価した。以下の保持条件は、複合体積層物を輸送する際に想定される条件として、真夏の船便輸送において到達し得る温度等を仮定し設定したものである。
試験環境:クリーンルーム(クラス1000)
評価サイズ:50mm×50mm
荷重:1.97g/cm2(第6世代サイズの複合体を500枚積層した場合の荷重に相当。)
加熱条件:60℃×30min(Air)
【0076】
上記所定時間の保持後に複合体積層物を開梱し、各複合体の保護層を剥離して、露出した樹脂膜の表面を外観検査用点光源装置(セリック社製、MP160)にて、以下の条件で投影による目視検査をn=10で行い、欠点の有無を確認した。欠点が確認されないものについては、以下の評価基準のAと判定した。欠点が確認されたものについては、樹脂膜の表面を非接触表面性状測定装置(三鷹光器社製、PF-60)にて、以下の条件で観察し、評価基準B、もしくはCと判定した。
観察条件:
(点光源装置)光源からスクリーンまでの距離を100cmとり、光源から30cmの位置に試料を差し込み、透過投影法にて外観観察した。光源は160W特殊水銀灯を使用した。
(非接触表面性状測定装置)測定軸X、Yをそれぞれ、10mm×10mmの範囲で測定した。測定ピッチは50μmで、スキャン速度5000μm/sに設定した。
(評価基準)
A:観察範囲に欠点が確認されなかった。
B:観察範囲に確認された欠点が10箇所未満であり、かつ、いずれも深さ1μm未満の凹みであった。
C:観察範囲に確認された欠点が10箇所以上であったか、もしくは、1μm以上の凹みが1つ以上確認された。
【0077】
各評価結果を表1に示す。なお、表中の空欄は未測定であることを意味する。
図5に、縦軸をSku、横軸をSaとしたグラフ上に各例の複合体積層物の欠点評価の結果を示す。
【0078】
【0079】
表1及び
図5の結果から、介装材の樹脂膜側主面の表面性状が式(1)を満たすようにした例1~3、7~9、11のI面評価用複合体積層物及び例1、3、8、9のII面評価用複合体積層物では、樹脂膜に欠点が確認されなかったか、確認された欠点の数が少なかった。これに対し、介装材の樹脂膜側主面の表面性状が式(1)を満たさない複合体積層物では、樹脂膜における欠点が10箇所以上であったか、もしくは、1μm以上の凹みが1つ以上確認される結果となった。