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特開2024-61601ゼオライトの製造方法およびゼオライト
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  • 特開-ゼオライトの製造方法およびゼオライト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061601
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】ゼオライトの製造方法およびゼオライト
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/46 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
C01B39/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098953
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022168581
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005083
【氏名又は名称】東ソ-・エスジ-エム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】堀越 秀春
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 智宏
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA04
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BB74
4G073BC04
4G073CZ19
4G073FB02
4G073FB11
4G073FB36
4G073FD18
4G073FD19
4G073GA03
4G073GA12
4G073GA19
4G073GB02
4G073UA01
4G073UA06
4G073UA09
(57)【要約】
【課題】シリカ粒子を含有する水溶液をシリカ源として用いて、ゼオライトを得ることを可能にする、ゼオライトの製造方法を提供する。
【解決手段】シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加して、シリカ粒子を凝結させ、上記水溶液を固液分離して、シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施してゼオライトを得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加して、前記シリカ粒子を凝結させ、前記水溶液を固液分離して、前記シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、前記脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施してゼオライトを得る、ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記シリカ粒子のD90粒径は1μm未満である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アルミニウム含有凝結剤はポリ塩化アルミニウムである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム含有凝結剤の添加量は、前記水溶液1000質量部に対して0.001~1.0質量部である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記脱水ケーキ中のアルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)は5~30である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記脱水ケーキの含水率は30~65質量%である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料はアルカリ金属水酸化物を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウムである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属水酸化物の含有量は、水100質量部に対して3~15質量部である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム含有凝結剤を添加する前に前記水溶液を中和することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記水溶液に前記アルミニウム含有凝結剤を添加して前記シリカ粒子を凝結させた後、前記水溶液に高分子凝集剤を添加して前記シリカ粒子の凝結物を凝集させ、その後、前記固液分離を実施することを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記固液分離が濾過である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ゼオライトとしてアナルサイムを得る、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項14】
比表面積が50m2/g以上である前記ゼオライトを得る、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項15】
前記シリカ粒子のD90粒径は1μm未満であり、
前記アルミニウム含有凝結剤はポリ塩化アルミニウムであり、
前記アルミニウム含有凝結剤の添加量は、前記水溶液1000質量部に対して0.001~1.0質量部であり、
前記脱水ケーキ中のアルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)は5~30であり、
前記脱水ケーキの含水率は30~65質量%であり、
前記原料はアルカリ金属水酸化物を含み、
前記アルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウムであり、
前記アルカリ金属水酸化物の含有量は、水100質量部に対して3~15質量部であり、
前記アルミニウム含有凝結剤を添加する前に前記水溶液を中和することを含み、
前記水溶液に前記アルミニウム含有凝結剤を添加して前記シリカ粒子を凝結させた後、前記水溶液に高分子凝集剤を添加して前記シリカ粒子の凝結物を凝集させ、その後、前記固液分離を実施することを含み、
前記固液分離が濾過である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相を含む複合型ゼオライトであって、50m2/g以上の比表面積を有する複合型ゼオライト。
【請求項17】
前記複合型ゼオライト中の酸化アルミニウムに対する酸化ケイ素の重量比(SiO2/Al23)は2~8である、請求項16に記載の複合型ゼオライト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトの製造方法およびゼオライトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、粘土鉱物の一種であり、主としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属などの金属を含む含水アルミノケイ酸塩である。ゼオライトは、多孔質で、機械的強度に優れ、その構造に由来して吸着特性、イオン交換特性および触媒特性などの有用な特性を有する。このような性質からゼオライトは、フィラー、吸着剤、イオン交換剤および工業的触媒などの機能性材料として幅広く利用されている。例えば、ゼオライトの一種であるアナルサイム(NaAlSi26・H2O)は、化粧品、塗料および樹脂成形品用のフィラー、樹脂フィルム用のアンチブロッキング剤、ならびに液体クロマトグラフィー用の担体などとして利用されている(特許文献1~4)。
【0003】
ゼオライトは、シリカ源(例えばシリカ粉末およびケイ酸ナトリウム)、アルミニウム源(例えばアルミニウム水酸化物あるいはアルミン酸塩)およびアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム)を含む原料を水熱反応させることにより製造できる。
【0004】
例えば、特許文献1には、アナルサイムを、ポリメチルメタクリレート(PMMA)用の添加剤として使用することが開示されている(要約、請求項1)。特許文献1のアナルサイムは、例えば、仕込みモル比がSiO2/Al23=3.1、苛性濃度が4Mになるように、水25ml、非晶質シリカ5.0g、水酸化アルミニウム1.0gおよび水酸化ナトリウム4.8gの原料をオートクレーブ装置に装填し、密閉状態、200℃および20時間の処理条件で水熱処理を実施することにより合成されている(実施例1)。
【0005】
ゼオライトの評価基準の1つはゼオライトの比表面積である。通常、比表面積が大きいほど、細孔量および活性表面が増えて、ゼオライトは機能性材料として有用となり得る。したがって、機能性材料としてのゼオライトについては、比表面積は高いことが望まれる場合がある。
【0006】
例えば、特許文献5には、マクロ孔を有する三次元多孔構造体(例えば天然鉱物のゼオライト)を塩基性水溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)中で水熱反応に供して、三次元多孔構造体の表面をゼオライト化するゼオライトの製造方法、およびこれにより機械的強度、耐薬品性および吸脱着特性などの種々の特性に優れたゼオライトが得られることが記載されている。特許文献5には、上記製造方法によって、50m2/g以上の比表面積を有するゼオライトの製造が可能であること、および、これによりゼオライトの吸着性能および触媒性能が十分に発揮されることが記載されている。
【0007】
非特許文献1には、都市ごみの焼却灰に含まれるSiおよびAlを利用したNaP1型ゼオライトの製造方法が記載されている。この製造方法は、都市ごみの焼却灰およびNa2SiO3を水酸化ナトリウム水溶液に溶解して原料を調製し、その原料をマイクロ波アシスト水熱反応に供する工程を含む。非特許文献1には、NaP1型ゼオライトの比表面積は61.42m2/gであったこと、およびそのNaP1型ゼオライトは吸収剤として使用できる可能性があることが記載されている。
【0008】
非特許文献2には、フライアッシュを原料として製造したNaP1型ゼオライトの比表面積が63m2/gであったこと、およびそのゼオライトのSr2+イオンおよびCs+イオンの平衡吸着除去率がそれぞれ92.5%および39.3%であったことが記載されている。
【0009】
非特許文献3には、アナルサイム型ゼオライトの製造方法が開示されている。この製造方法は、水酸化ナトリウムとシリカ粒子を蒸留水に溶解して得た塩基性溶液と、硫酸アルミニウム、蒸留水および硫酸を混合して得た酸溶液とを混合し、その混合物をオートクレーブ中で水熱反応に供する工程を含む。非特許文献3には、アナルサイム型ゼオライトの比表面積は約1m2/gであったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2020-121896号公報
【特許文献2】特開平01-242413号公報
【特許文献3】特開昭60-186413号公報
【特許文献4】特開昭57-077023号公報
【特許文献5】特開2022-122288号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Qi Zhou, et al. Science of the Total Environment, 2023, Vol. 855, 15874
【非特許文献2】M. M. Kumar, et al. Microporous and Mesoporous Materials, 2022, Vol. 333, 111738
【非特許文献3】H. R. Bortolini, et al. Journal of Crystal Growth, 2020, Vol. 532, 125424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
石英ガラスインゴットの製造時、シリカ粒子を含有する水溶液(以下、単に「シリカ含有水溶液」ともいう。)が副生成物として得られるが、従来、このシリカ含有水溶液は廃棄されていた。廃棄物の量を削減し、環境への負荷を軽減する観点から、このシリカ含有水溶液に新たな価値を見出し、シリカ材料として再利用することが望ましい。そこで、本発明者らは、ゼオライトの製造におけるシリカ源として利用できないか検討した。具体的には、次のとおりである。
【0013】
石英ガラスインゴットは、一般的に、ケイ素原料ガス(例えば四塩化ケイ素)、水素、酸素および不燃性ガス(例えば窒素およびアルゴン)を燃焼火炎中で加水分解反応させながらシリカ粒子を基材に堆積させてスート体を製造し、スート体をガラス化温度以上で加熱することにより得られる。
【0014】
シリカ粒子のスート体を製造する工程において、例えば下記の反応式に従って、スート体として堆積しなかったシリカ粒子が、水蒸気を含む排気ガスと一緒に系外へ排出される。
SiCl4+4H2O → Si(OH)4+4HCl
→ SiO2+2H2O+4HCl
【0015】
排気ガスは排ガス洗浄装置(湿式スクラバー)へ導かれ、シリカ粒子およびHClを含む水(シリカ含有水溶液)が排ガス洗浄装置のピットに溜まる。通常、このシリカ含有水溶液は、中和された後、廃棄される。
【0016】
環境へ配慮した技術開発が求められる昨今、廃棄物を再利用して廃棄物の量を削減する技術が望まれている。加えて、そのような技術は、排水に限らず、一般に、シリカ粒子を含む水溶液(懸濁液)に適用できる。従来のゼオライトのシリカ源としては、粉末状やペレット状など固体状態で入手できる材料が使用されており、シリカ粒子を含む水溶液からゼオライトを製造できれば、原料の選択の幅が広がる。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、シリカ粒子を含有する水溶液をシリカ源として用いて、ゼオライトを得ることを可能にする、ゼオライトの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、廃棄物とされているシリカ含有水溶液を資源として使用できないか鋭意検討した。シリカ含有水溶液のシリカ濃度は概ね0.1質量%未満であるから、まず、シリカ材料として扱える程度にシリカ粒子と水分とを分離する必要があると考えた。シリカ粒子と水分とを分離する方法としてフィルタプレス装置などを使用した濾過や遠心分離が有用である。しかしながら、シリカ含有水溶液中のシリカ粒子の粒径は非常に小さく(多くが100nm以下)、汎用的なフィルタ(目開き1μm以上)ではシリカ粒子を充分に回収できず、遠心分離も生じにくいことが分かった。しかしながら、本発明者らは、シリカ含有水溶液に凝結剤を添加し、シリカ粒子を凝結させれば、固液分離により脱水ケーキとして大部分のシリカ粒子を回収できることを見出した。さらに、アルミニウムを含有する凝結剤を使用した場合には、脱水ケーキの主要元素はケイ素、酸素およびアルミニウムであることに着想を得て、上記のようにして得られた脱水ケーキが、ケイ素、酸素およびアルミニウムを含む材料の製造原料として使用できることも見出した。
【0019】
加えて、本発明者らは、上記のようにして得た脱水ケーキの水熱処理条件を特定の範囲に設定した場合、50m2/g以上の高い比表面積を有し、機能性材料として有用なゼオライトが得られることも見出した。
【0020】
上記課題は、シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加して、シリカ粒子を凝結させ、この水溶液を固液分離して、シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、この脱水ケーキをゼオライトの製造における原料として使用することにより解決できた。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>以降の手段により、上記課題は解決された。
<1>
シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加して、シリカ粒子を凝結させ、水溶液を固液分離して、シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施してゼオライトを得る、ゼオライトの製造方法。
<2>
シリカ粒子のD90粒径は1μm未満である、<1>に記載の製造方法。
<3>
アルミニウム含有凝結剤はポリ塩化アルミニウムである、<1>または<2>に記載の製造方法。
<4>
アルミニウム含有凝結剤の添加量は、水溶液1000質量部に対して0.001~1.0質量部である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の製造方法。
<5>
脱水ケーキ中のアルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)は5~30である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の製造方法。
<6>
脱水ケーキの含水率は30~65質量%である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の製造方法。
<7>
上記原料はアルカリ金属水酸化物を含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の製造方法。
<8>
アルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウムである、<7>に記載の製造方法。
<9>
アルカリ金属水酸化物の含有量は、水100質量部に対して3~15質量部である、<7>または<8>に記載の製造方法。
<10>
アルミニウム含有凝結剤を添加する前に水溶液を中和することを含む、<1>~<9>のいずれか1項に記載の製造方法。
<11>
水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させた後、水溶液に高分子凝集剤を添加してシリカ粒子の凝結物を凝集させ、その後、上記固液分離を実施することを含む、<1>~<10>のいずれか1項に記載の製造方法。
<12>
固液分離が濾過である、<1>~<11>のいずれか1項に記載の製造方法。
<13>
ゼオライトとしてアナルサイムを得る、<1>~<12>のいずれか1項に記載の製造方法。
<14>
比表面積が50m2/g以上であるゼオライトを得る、<1>~<12>のいずれか1項に記載の製造方法。
<15>
シリカ粒子のD90粒径は1μm未満であり、
アルミニウム含有凝結剤はポリ塩化アルミニウムであり、
アルミニウム含有凝結剤の添加量は、水溶液1000質量部に対して0.001~1.0質量部であり、
脱水ケーキ中のアルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)は5~30であり、
脱水ケーキの含水率は30~65質量%であり、
上記原料はアルカリ金属水酸化物を含み、
アルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウムであり、
アルカリ金属水酸化物の含有量は、水100質量部に対して3~15質量部であり、
アルミニウム含有凝結剤を添加する前に水溶液を中和することを含み、
水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させた後、水溶液に高分子凝集剤を添加してシリカ粒子の凝結物を凝集させ、その後、上記固液分離を実施することを含み、
固液分離が濾過である、<1>に記載の製造方法。
<16>
NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相を含む複合型ゼオライトであって、50m2/g以上の比表面積を有する複合型ゼオライト。
<17>
複合型ゼオライト中の酸化アルミニウムに対する酸化ケイ素の重量比(SiO2/Al23)は2~8である、<16>に記載の複合型ゼオライト。
【発明の効果】
【0021】
本発明のゼオライトの製造方法により、廃棄物として扱われるシリカ含有水溶液に新たな価値を付与することができ、廃棄物の量を削減することができ、かつゼオライトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例で作製したゼオライトのXRDデータである。
図2図2は、実施例で作製したゼオライトのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<ゼオライトの製造方法>
本発明のゼオライトの製造方法は、シリカ粒子を含有する水溶液(シリカ含有水溶液)にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させ、水溶液を固液分離してシリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施してゼオライトを得ることを含む。
【0024】
本発明の製造方法は、アナルサイム型ゼオライト(以下、単に「アナルサイム」ともいう)の製造、ならびにNaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相を含む複合型ゼオライトの製造に適している。すなわち、本発明の製造方法は、特に、下記(1)および(2)の製造方法を含む。加えて、後述するように、本発明の製造方法において固液分離は特に濾過であることが好ましい。この観点から、本発明の製造方法は、特に、下記(3)および(4)の製造方法を含む。固液分離が濾過である場合、脱水ケーキは「濾過ケーキ」ともいう。
(1)
シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させ、水溶液を固液分離して、シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施してアナルサイムを得る、アナルサイムの製造方法。
(2)
シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させ、水溶液を固液分離して、シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキを得、脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施して、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相を含む複合型ゼオライトを得る、複合型ゼオライトの製造方法。
(3)
シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させ、水溶液を濾過して、シリカ粒子の凝結物を含む濾過ケーキを得、濾過ケーキを含む原料に水熱処理を実施してアナルサイムを得る、アナルサイムの製造方法。
(4)
シリカ粒子を含有する水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させ、水溶液を濾過して、シリカ粒子の凝結物を含む濾過ケーキを得、濾過ケーキを含む原料に水熱処理を実施して、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相を含む複合型ゼオライトを得る、複合型ゼオライトの製造方法。
【0025】
本発明の製造方法は、脱水ケーキの調製の段階と、水熱処理の段階とに大別できる。
【0026】
<<脱水ケーキの調製>>
シリカ含有水溶液は、シリカ粒子および水を含む。シリカ含有水溶液が、廃棄物として扱われる排水であれば、本発明の製造方法により新たな価値が付与され、その廃棄量を削減することができる。シリカ含有水溶液を排出する産業的プロセスとしては、例えば、石英ガラスインゴットの製造、ガラスファイバの製造、およびフュームドシリカの製造が挙げられる。シリカ含有水溶液は、廃棄物として扱われる排水である必要はなく、シリカ粒子を含む水であれば、シリカ泥などのシリカ粒子を含む他の水溶液(懸濁液)でもよい。
【0027】
シリカ含有水溶液のpHは、シリカ含有水溶液の入手ルートに依存し、特段制限されない。シリカ含有水溶液が、廃棄物として扱われる排水である場合、前述の反応式から分かるとおり、そのpHは酸性側の値を示すことが多い。シリカ含有水溶液のpHが酸性またはアルカリ性に寄っている場合には、作業者の安全確保のために、後述する凝結剤を添加する工程の前に、水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加してシリカ含有水溶液を中和してもよい。シリカ含有水溶液を事前に中和する場合、中和後のpHは、例えばpH6.0~8.0が好ましく、pH6.5~7.5であることがより好ましく、pH6.7~7.3であることがさらに好ましい。
【0028】
シリカ含有水溶液中のシリカ粒子は様々な粒径を有し、その粒度分布は1μm未満の微小粒径の範囲にまで及ぶ。特に、シリカ含有水溶液が、廃棄物として扱われる排水である場合、シリカ含有水溶液中のシリカ粒子の大部分は1μm未満の微小粒径である。シリカ粒子の体積基準の累積90%粒径D90は、例えば1μm未満、さらには500nm以下、300nm以下であり、累積50%粒径D50は、例えば10~100nmの範囲になることが多い。このように粒径の小さいシリカ粒子を含有するシリカ含有水溶液をそのまま固液分離しようとしてもシリカ粒子を回収することは、困難であるか、或いは手間およびコストのかかる作業となる。したがって、後述する凝結処理が必要となる。粒子の粒径は、例えばレーザ回折式粒子径分布測定装置によって確認することができる。
【0029】
シリカ含有水溶液中のシリカ粒子の濃度は、シリカ含有水溶液の入手ルートに依存し、特段制限されない。必要に応じて(例えば、使用する材料の量および処理条件を安定させるために)水の量を増減して、シリカ粒子の濃度を調整してもよい。凝結剤添加前の固形分中のシリカ粒子の含有量は、原料として純度を高めるために、例えば85質量%以上であり、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。凝結剤添加前の固形分中のシリカ粒子の含有量は、100質量%であることが最も好ましいが、99質量%以下でもよく、98質量%以下でもよい。
【0030】
本発明の製造方法では、シリカ含有水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させる(凝結処理)。シリカ粒子が凝結することで、固液分離によるシリカ粒子の回収が容易となる。
【0031】
アルミニウム含有凝結剤は、アルミニウム原子を含有する凝結剤である。本発明の製造方法において、アルミニウム含有凝結剤を使用することにより、脱水ケーキの主要元素がケイ素、酸素およびアルミニウムとなり、ケイ素、酸素およびアルミニウムを含む材料の製造原料として脱水ケーキを使用することができる。このような凝結剤として、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩、およびポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム塩ポリマーが挙げられる。アルミニウム含有凝結剤は、環境負荷の軽減およびpH調整の容易さから、アルミニウム塩ポリマーであることが好ましく、PACであることがより好ましい。
【0032】
アルミニウム含有凝結剤の添加量は、シリカ粒子の回収率と凝結処理に掛かるコストとのバランスを考慮して適宜調整できる。例えば、凝結剤の量が少なすぎるとシリカ粒子の凝結が不充分となり、シリカ粒子の回収率が低下する。凝結剤の量が多くなれば、シリカ粒子の回収率は向上するが、凝結剤の量が多すぎると、回収率はピークを越え、凝結剤のコストが無駄になる場合もある。アルミニウム含有凝結剤の添加量は、例えば、シリカ含有水溶液1000質量部に対して0.001~1.0質量部であり、0.005~0.5質量部であることが好ましく、0.01~0.1質量部であることがより好ましい。アルミニウム含有凝結剤のpHは中性pH域から外れることが多く、例えばPACのpHは3.5~5.0である。したがって、アルミニウム含有凝結剤の添加に際し、必要に応じて中和剤の添加を交互にまたは同時に行ってもよい。
【0033】
シリカ含有水溶液について、凝結剤添加後の固形分中のシリカ粒子の含有量は、原料として純度を高めるために、例えば80質量%以上であり、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。凝結剤添加後の固形分中のシリカ粒子の含有量は、96質量%以下でもよく、95質量%以下でもよい。一方、凝結剤添加後の固形分中のアルミニウムの含有量(酸化アルミニウム換算)は、原料として純度を高めるために、例えば4質量%以上であり、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがより好ましい。凝結剤添加後の固形分中のアルミニウムの含有量は、15質量%以下でもよく、10質量%以下でもよい。
【0034】
シリカ粒子が凝結して形成される凝結物の粒径は様々であり、特段制限されない。凝結粒子の粒径は例えば1~10μmである。その後、シリカ含有水溶液を固液分離することにより、シリカ粒子の凝結物を含む脱水ケーキが得られる。この脱水ケーキが、次工程の水熱処理における原料として使用される。
【0035】
本発明の製造方法において、シリカ含有水溶液にアルミニウム含有凝結剤を添加してシリカ粒子を凝結させた後、シリカ含有水溶液に高分子凝集剤を添加してシリカ粒子の凝結物を凝集させ(凝集処理)、その後、固液分離を実施することを含んでもよい。高分子凝集剤を添加することにより、シリカ粒子の凝結物(一次フロック)を凝集してより径大の凝集物(二次フロック)を生成することができ、固液分離によるシリカ粒子の回収がより容易となる。高分子凝集剤のほとんどは有機成分であり、有機成分は水熱処理においてガス化するため、高分子凝集剤を使用してもゼオライト(アナルサイムおよび上記複合型ゼオライトを含む)中の不純物の問題は生じにくい。
【0036】
高分子凝集剤は、特に制限されず、カチオン性、アニオン性および両性ならびにノニオン系のいずれの凝集剤でもよい。高分子凝集剤の種類は、使用するアルミニウム含有凝結剤との相性を考慮して、適宜選択される。高分子凝集剤の添加量は、シリカ粒子の回収率と凝集処理に掛かるコストとのバランスを考慮して適宜調整できる。例えば、凝集剤の量が少なすぎるとシリカ粒子の凝集が不充分となり、シリカ粒子の回収率が低下する。凝集剤の量が多くなれば、シリカ粒子の回収率は向上するが、凝集剤の量が多すぎると、回収率はピークを越え、凝集剤のコストが無駄になる場合もある。高分子凝集剤の添加量は、例えば、シリカ含有水溶液1000質量部に対して0.1~6.0質量部であり、0.5~5.0質量部であることが好ましく、0.8~4.0質量部であることがより好ましい。高分子凝集剤のpHは中性pH域から外れることがあるため、高分子凝集剤の添加に際し、必要に応じて中和剤の添加を交互にまたは同時に行ってもよい。
【0037】
シリカ含有水溶液を固液分離する方法は、特に制限されず、濾過および遠心分離など公知の手法を採用できる。濾過は、重圧濾過、真空濾過および加圧濾過のいずれでもよい。シンプルで取り扱いやすい機構であること、およびコストを抑え大規模な処理が可能になることから、固液分離方法は、濾過、特に加圧濾過であることが好ましく、フィルタプレスであることがより好ましい。フィルタの通気度は、シリカ粒子の凝結物または凝集物の粒径の大きさに応じて適宜選択される。フィルタの通気度(単位面積および単位時間あたりに通過する空気の量)は、例えば0.3~20cm3/[cm2・sec]であり、1~15cm3/[cm2・sec]であることが好ましく、3~10cm3/[cm2・sec]であることがより好ましい。固液分離方法として遠心分離を採用する場合には、工業用の遠心分離機を使用することができる。固液分離後、必要に応じて、乾燥処理を実施してもよい。
【0038】
脱水ケーキの含水率は、作業性と水熱処理時の溶解性の観点から、例えば30~65質量%であり、35~60質量%であることが好ましく、40~58質量%であることがより好ましい。
【0039】
脱水ケーキ中のアルミニウム原子に対するケイ素原子のモル比(Si/Al)は、主としてアルミニウム含有凝結剤の添加量に依存する。上記した添加量の範囲であれば、モル比(Si/Al)は概ね5~30である。モル比(Si/Al)は、10~25でもよく、13~22でもよい。
【0040】
<<水熱処理>>
本発明のゼオライトの製造方法において、上記のようにして得た脱水ケーキを含む原料に水熱処理を実施することにより、ゼオライト(特に、アナルサイムおよび複合型ゼオライト)が得られる。水熱処理は、オートクレーブなどの耐圧性機器を使用して実施される。
【0041】
原料は、脱水ケーキに加えて、アルカリ金属水酸化物を含むことができる。原料がアルカリ金属水酸化物を含む場合、脱水ケーキが水に溶解しやすくなる。アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムであることが好ましい。ナトリウムは、ゼオライトの構成元素の1つであるため、水酸化ナトリウム水溶液の使用は、ゼオライトへの不純物金属の混入を抑制できる。アルカリ金属水酸化物の含有量は、水100質量部に対して3~15質量部であることが好ましく、4~13質量部であることがより好ましく、5~12質量部であることがさらに好ましい。アルカリ金属水酸化物の含有量が3質量部以上である場合、脱水ケーキがより溶解しやすくなる。また、アルカリ金属水酸化物の含有量が15質量部以下である場合、シリカとアルカリ金属水酸化物との過剰な反応が抑制され、ゼオライト結晶の生成および成長がより阻害されにくくなる。
【0042】
脱水ケーキの含有量は、ゼオライトの所望の生成量および収率を考慮して適宜調整できる。脱水ケーキの含有量は、例えば水100質量部に対し5~55質量部であり、10~45質量部であることが好ましく、15~40質量部であることがより好ましい。脱水ケーキの含有量が5質量部以上である場合、ゼオライトの所望の生成量を確保しやすくなる。また、脱水ケーキの含有量が55質量部以下である場合、未溶解の脱水ケーキの量を低減しやすくなる。
【0043】
水熱処理の原料には、アルミナ、アルミニウム水酸化物およびアルミン酸塩などのアルミニウム源を添加することもできる。通常、脱水ケーキ中のモル比(Si/Al)は、一般的なゼオライトの化学量論的組成比(例えばSi/Al=1~10。例えば、アナルサイムの化学量論的組成比はSi/Al=2を満たす)に比べて大きく、水熱処理の原料中のアルミニウム量はケイ素量に対して化学量論的に少ない。原料にアルミニウム源を別途添加することにより、このアルミニウムの不足分を補うことができ、ゼオライトの収率が向上する。アルミニウム源の添加がない場合、脱水ケーキ中のアルミニウム量に見合った量のゼオライトが製造される。ゼオライト中の結晶に取り込まれなかったケイ素は、水溶液中に溶け残る。
【0044】
水熱処理の温度は、ゼオライトの製造が可能な範囲で調整される。例えば、温度が150℃以上である場合、ゼオライトとしてアナルサイムが生成しやすく、温度が150℃未満である場合、ゼオライトとして複合型ゼオライトが生成しやすい。
【0045】
つまり、ゼオライトとしてアナルサイムを製造する場合には、水熱処理の温度は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましい。水熱処理の温度が150℃以上である場合、アナルサイム結晶がより生成しやすくなりかつより成長しやすくなる。水熱処理の温度が高すぎると、耐圧性機器が耐えられない場合があり、加えて、アナルサイム結晶の生成および成長が阻害される場合もあり得る。そこで、ゼオライトとしてアナルサイムを製造する場合には、水熱処理の温度は、350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましい。
【0046】
ゼオライトとして複合型ゼオライトを製造する場合には、水熱処理の温度は、100℃以上150℃未満であることが好ましい。水熱処理の温度が当該範囲にあることにより、生成物中にNaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトが共存する複合型ゼオライトがより生成しやすくなりかつより成長しやすくなる。温度が100℃以上である場合、水熱反応が適切に進行し、原料の溶け残りを抑制できる。温度が150℃未満である場合、水熱反応の過剰な進行が抑制されて、生成物中のアナルサイム型ゼオライトの割合が適切な範囲に調整される。水熱反応が進行しすぎると、生成物中のアナルサイム型ゼオライトの割合が増加し、最終的には生成物のすべてがアナルサイム型ゼオライトになる。ゼオライトとして複合型ゼオライトを製造する場合には、水熱処理の温度は、110℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましい。水熱処理の温度は、145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることがさらに好ましく、135℃以下であることが特に好ましい。
【0047】
水熱処理の処理時間は、所望のゼオライトが得られるように、水熱処理の設定温度に依存し、概ね24~80時間の範囲で適宜調整される。処理時間は、36時間以上または48時間以上でもよく、および75時間以下、72時間以下または60時間以下でもよい。水熱処理の処理時間は、好ましくは24~72時間、より好ましくは36~60時間である。
【0048】
一般的な耐圧性機器を使用する場合、水熱処理の圧力は、概ね10~20気圧であるが、これに限定されない。
【0049】
本発明のゼオライト(特に、アナルサイムおよび複合型ゼオライト)の製造方法により、廃棄物として扱われるシリカ含有水溶液に新たな価値を付与することができ、廃棄物の量を削減することができる。また、シリカ含有水溶液が廃棄物として扱われているものであるか否かにかかわらず、本発明のゼオライトの製造方法は、ゼオライトの製造における原料選択の幅を広げることができる。加えて、本発明のゼオライトの製造方法により、後述するように、比表面積が50m2/g以上と、機能性材料として有用なゼオライトの製造が可能である。
【0050】
<複合型ゼオライト>
本発明は、上述した製造方法により得られる複合型ゼオライトを含む。本発明の複合型ゼオライトは、特に、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの両方の結晶相を含むゼオライトである。一般的に、NaP1型ゼオライトはNa6Al6Si1032・12H2Oの組成を有するゼオライトであり、アナルサイム型ゼオライトはNaAlSi26・H2Oの組成を有するゼオライトである。
【0051】
本発明の複合型ゼオライトは、50m2/g以上の高い比表面積を有する場合がある。比表面積が50m2/g以上である場合、複合型ゼオライトは、吸着特性、イオン交換特性および触媒特性などのゼオライトとして有用な特性を発揮できる。より優れた特性を得るために、比表面積は80m2/g以上、100m2/g以上、120m2/g以上、140m2/g以上、160m2/g以上または180m2/g以上であることが好ましく、200m2/g以上または210m2/g以上でもよい。比表面積の上限は特に制限されないが、例えば400m2/g以下であり、350m2/g以下、300m2/g以下、290m2/g以下、280m2/g以下または270m2/g以下でもよい。比表面積は、窒素ガス吸着法によるBET比表面積を意味する。本発明の複合型ゼオライトの比表面積が高くなる理由は定かではないが、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトが共存することによる結晶相の不規則性が寄与していると推測される。典型的なアナルサイム型ゼオライトの比表面積は小さいため(例えば、1~10m2/g)、アナルサイム型ゼオライトが生成物中に過剰に生成した場合、生成物の比表面積が小さくなる傾向がある。50m2/g以上の比表面積を有する複合型ゼオライトを得るためには、水熱処理の温度を110℃以上150℃未満の範囲、特に120~140℃の範囲に設定することが好ましい。
【0052】
複合型ゼオライト中のNaP1型ゼオライトの割合は、例えば50~95質量%であり、より好ましくは60~90質量%である。複合型ゼオライト中のアナルサイム型ゼオライトの割合は、例えば5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%である。より高い比表面積を得る観点から、複合型ゼオライト中のアナルサイム型ゼオライトの割合は、10~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相の確認は、X線回折法により行うことができる。
【0053】
複合型ゼオライト中の酸化アルミニウムに対する酸化ケイ素の重量比(SiO2/Al23)は例えば2~8であり、3~7であることが好ましい。複合型ゼオライト中の成分分析は、例えば蛍光X線分析により実施できる。
【0054】
特に、比表面積が50m2/g以上である場合、本発明の複合型ゼオライトは、吸着剤、イオン交換剤および工業的触媒などの機能性材料として有用である。
【実施例0055】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0056】
[1.高温側(150℃以上)での水熱処理によるゼオライトの製造]
<処理例1>
・濾過ケーキ(脱水ケーキ)の調製
石英ガラスインゴットの製造時に排出された中和前のシリカ含有水溶液を用意した。このシリカ含有水溶液の固形分中のシリカ粒子の割合は99質量%以上であり、固形分はほぼシリカであった。シリカ粒子のD90粒径(体積基準の累積90%粒径)は100nm以下であった。このシリカ含有水溶液のpHは酸性側の値であったため、凝結剤を添加する前に、濃度20%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を当該水溶液に添加してpH6.5~7.5程度になるまで中和した。中和後、1000gの水溶液に0.3gのPAC凝結剤液(濃度10.0~11.0質量%、多木化学社製PAC250A)を添加してシリカ粒子を凝結させ、その後2gのアニオン系高分子凝集剤(オルガノ社製オルフロックAP-1)を添加し、シリカ粒子を凝集させた。凝集物をフィルタプレス(フィルタ通気度8.0cm3/[cm2・sec])にて濾過および脱水して濾過ケーキを得た。得られた濾過ケーキの含水率は55%であり、濾過ケーキの固形分中のシリカ粒子の含有量は85質量%であり、固形分中のアルミニウムの含有量(酸化アルミニウム換算)は8質量%であり、モル比(Si/Al)は約19(95/5)であった。この濾過ケーキから45g(固形分約20g)を取り、水熱処理の原料とした。
【0057】
・水熱処理
45gの濾過ケーキと、10gの水酸化ナトリウム固体物と、150gの水とをオートクレーブに装填し(NaOH水溶液の濃度:約6質量%)、密閉状態、180℃および48時間の処理条件下で水熱処理を実施した。また、生成物のX線回折(XRD)測定を行い、生成物の組成を確認した。
【0058】
<処理例2>
オートクレーブに装填した濾過ケーキの質量を20gに変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0059】
<処理例3>
オートクレーブに装填した濾過ケーキの質量を90gに変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0060】
<処理例4>
NaOH水溶液の濃度を約2質量%(水酸化ナトリウム固体物3g)に変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0061】
<処理例5>
NaOH水溶液の濃度を約12質量%(水酸化ナトリウム固体物20g)に変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0062】
<処理例6>
水熱処理の温度を150℃に変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0063】
<処理例7>
水熱処理の温度を200℃に変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0064】
<処理例8>
水熱処理の時間を24時間に変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0065】
<処理例9>
水熱処理の時間を72時間に変更した点以外、処理例1と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0066】
処理例1~9の処理条件およびその結果を下記表1に示す。この結果から次のことが分かった。
・濾過ケーキ(脱水ケーキ)量の影響
濾過ケーキ量が多すぎると、濾過ケーキ中のシリカが処理溶媒に溶解しにくく、アナルサイムが生成しにくく、アナルサイム以外のゼオライト化合物またはその混合物が生成しやすいことが分かった。
・アルカリ金属水酸化物濃度の影響
アルカリ金属水酸化物濃度が低すぎると、濾過ケーキ中のシリカが処理溶媒に溶解しにくく、アナルサイムが生成しにくいことが分かった。アルカリ金属水酸化物濃度が高すぎると、アナルサイムの生成量が減少することが分かった。これは、シリカとアルカリ金属水酸化物との反応が過剰に進行したためと考えられる。
・温度と時間の影響
アナルサイムは、前駆体のゼオライトが生成し、その後結晶変化を経て生成するため、アナルサイムは高温かつ長時間の水熱処理によってより安定して生成されることが分かった。
【0067】
このように、本発明の製造方法によれば、通常であれば廃棄されるようなシリカ含有水溶液からでも、ゼオライト、さらにはアナルサイムを得ることができる。
【0068】
【表1】
【0069】
[2.低温側(150℃以下)での水熱処理によるゼオライトの製造]
<処理例11>
・濾過ケーキ(脱水ケーキ)の調製
処理例1と同様にして濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを100℃で一晩乾燥した。
【0070】
・水熱処理
17.9gの乾燥した濾過ケーキ(シリカ粒子 約15.2g)と、8.1gの水酸化ナトリウム固体物と、150gの水とをオートクレーブに装填し(NaOH水溶液の濃度:約5質量%)、密閉状態、120℃および48時間の処理条件下で水熱処理を実施した。原料中のモル比は、およそSi2O:NaOH:H2O=1:0.8:33である。
【0071】
<処理例12>
水熱処理の温度を130℃に変更した点以外、処理例11と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0072】
<処理例13>
水熱処理の温度を140℃に変更した点以外、処理例11と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0073】
<処理例14>
水熱処理の温度を130℃に、処理時間を72時間に変更した点以外、処理例11と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0074】
<処理例15>
水熱処理の温度を140℃に、処理時間を72時間に変更した点以外、処理例11と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0075】
<処理例16>
水熱処理の温度を150℃に変更した点以外、処理例11と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0076】
<処理例17>
水熱処理の温度を180℃に、処理時間を24時間に変更した点以外、処理例11と同様の方法で、水熱処理を実施した。
【0077】
<測定>
処理例11~17の生成物について、X線回折(XRD)測定、比表面積測定、元素分析および電子顕微鏡(SEM)観察を行った。加えて、処理例12で製造したゼオライトを使用して、金属イオン(Sr2+イオンおよびCs+イオン)および染料(クリスタルバイオレット(CV))の吸着試験を行った。各測定および試験において使用した装置、試料および条件は下記のとおりである。
(1)XRD測定
・装置:島津社製 XRD-6100。
・測定条件:30mA、30kV。1°/分かつ0.02°間隔でデータを取得した。
(2)比表面積測定
・装置:マイクロトラック・ベル社製 高精度ガス吸着量測定装置BELSORP MAX G。
・試料の前処理:150℃で12時間加熱して吸着ガスを除去した。
(3)元素分析
・装置:マルバーン・パナリティカル社製 エネルギー分散型蛍光X線分析装置Epsilon1。
・測定条件:4μmプロレンフィルム粉末充填(0.28g)、室温、空気雰囲気。3回の平均値を取得した。
(4)電子顕微鏡観察
・装置:日本電子社製 JSM-6700F。
・測定条件:白金パラジウムコーティング、15kV。
(5)吸着試験
・金属イオン溶液:それぞれ100ppmのSr2+水溶液およびCs+水溶液を使用した。
・染料溶液:20ppmのCV水溶液を使用した。
・測定条件:72時間後の平衡吸着除去率を測定した。
【0078】
<結果>
下記表2および図1~2は、処理例11~17の処理条件およびそれらの測定結果を示す。表3は、金属イオンおよび染料の吸着試験の結果を示す。
【0079】
図1は、(a)処理例11、(b)処理例12、(c)処理例13、(d)処理例14および(e)処理例15のゼオライトのXRDパターンを示す。処理例11~15で製造したゼオライトのXRDパターンに、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相それぞれに由来するピークを確認できた。処理例16~17で製造したゼオライトのXRDパターンにおいても、XRDパターンは示していないが、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相それぞれに由来するピークを確認できた。
【0080】
表2のとおり、本発明の製造方法によれば、通常であれば廃棄されるようなシリカ含有水溶液からでも、ゼオライトを得ることができ、さらには50m2/g以上の比表面積を有するゼオライトを得ることもできた。処理例16および17では、NaP1型ゼオライトおよびアナルサイム型ゼオライトの結晶相を含む複合型ゼオライトが得られたが、比表面積は処理例11~15のゼオライトに比べて小さく、50m2/g未満であった。
【0081】
図2は、(a)処理例12、(b)処理例13、(c)処理例14および(d)処理例15のゼオライトのSEM画像を示す。これらのSEM画像からは、ゼオライト粒子の粒径および形状について合成条件による大きな変化は見られなかった。
【0082】
表3に示す吸着試験の結果は、本発明のゼオライトが機能性材料として十分な特性を有することを示している。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造方法は、石英ガラスインゴットの製造などの産業的プロセスで排出されたシリカ含有水溶液の新規な利用方法を提供する。また、産業的プロセスで排出されたシリカ含有水溶液に限られず、本発明の製造方法は、一般に、シリカ粒子を含有する水溶液に適用することができ、ゼオライト(特に、アナルサイムおよび複合型ゼオライト)の製造における原料選択の幅を広げることができる。
図1
図2