(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061618
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】液体吐出装置、プログラム、及びヘッド駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20240425BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20240425BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
B41J2/01 401
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135962
(22)【出願日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2022169272
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼人
(72)【発明者】
【氏名】永井 幸治
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EC03
2C056EC08
2C056EC42
2C056HA29
2C057AF28
2C057AF43
2C057AG44
2C057AM03
2C057AM15
2C057AM21
2C057AM22
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA14
2C057DB03
(57)【要約】
【課題】液体の吐出に伴うミストの発生を低減しつつ、液滴の曲がりを抑制して高周波駆動を実現すること。
【解決手段】
液体吐出装置は、駆動波形を前記圧力発生部に出力するヘッド駆動制御部を備え、駆動波形は、2以上の前記パルスを含む場合には、複数のパルスのうちの最後に最終パルスを含み、最終パルスは、個別液室を膨張させる第1膨張波形要素と、第1膨張波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を収縮させる第1収縮波形要素と、第1収縮波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を膨張させる第2膨張波形要素と、第2膨張波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を収縮させる第2収縮波形要素と、第2収縮波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を膨張させる第3膨張波形要素と、を含む。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルと、前記ノズルに連通する個別液室と、前記個別液室内の液体を加圧する圧力を発生する圧力発生部と、を有する液体吐出ヘッドと、
滴サイズに応じて選択された1又は2以上のパルスを含む駆動波形を前記圧力発生部に出力するヘッド駆動制御部と、を備え、
前記駆動波形は、2以上の前記パルスを含む場合には、当該複数のパルスのうちの最後に最終パルスを含み、
前記最終パルスは、
前記個別液室を膨張させる第1膨張波形要素と、
前記第1膨張波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を収縮させる第1収縮波形要素と、
前記第1収縮波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を膨張させる第2膨張波形要素と、
前記第2膨張波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を収縮させる第2収縮波形要素と、
前記第2収縮波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を膨張させる第3膨張波形要素と、を含み、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第2膨張波形要素の開始までの時間が0.5Tc未満であり、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第2収縮波形要素の開始までの時間が0.5Tc~0.6Tcの範囲内であることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1膨張波形要素の開始から前記第1収縮波形要素の開始までの時間が0.45Tc~0.65Tcの範囲内であり、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第3膨張波形要素の開始までの時間が0.9Tc~1.0Tcの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記液体吐出ヘッドから吐出された液体によって画像が形成される媒体を搬送する搬送ベルトを備え、
前記搬送ベルトは前記媒体を静電吸着力で吸着して搬送する、請求項1又は2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
液体吐出ヘッドの複数のノズルから液体を吐出させる処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記プログラムは、
滴サイズに応じて選択された1又は2以上のパルスを含む駆動波形を圧力発生部に出力し、
前記駆動波形は、2以上の前記パルスを含む場合には、当該複数のパルスのうちの最後に最終パルスを含み、
前記最終パルスは、
前記液体吐出ヘッドの個別液室を膨張させる第1膨張波形要素と、
前記第1膨張波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を収縮させる第1収縮波形要素と、
前記第1収縮波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を膨張させる第2膨張波形要素と、
前記第2膨張波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を収縮させる第2収縮波形要素と、
前記第2収縮波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を膨張させる第3膨張波形要素と、を含み、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第2膨張波形要素の開始までの時間が0.5Tc未満であり、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第2収縮波形要素の開始までの時間が0.5Tc~0.6Tcの範囲内であることを特徴とするプログラム。
【請求項5】
前記第1膨張波形要素の開始から前記第1収縮波形要素の開始までの時間が0.45Tc~0.65Tcの範囲内であり、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第3膨張波形要素の開始までの時間が0.9Tc~1.0Tcの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
液滴を吐出する複数のノズルと、前記ノズルに連通する個別液室と、前記個別液室内の液体を加圧する圧力を発生する圧力発生部と、を有する液体吐出ヘッドを駆動制御するヘッド駆動制御方法であって、
滴サイズに応じて選択された1又は2以上のパルスを含む駆動波形を前記圧力発生部に出力し、
前記駆動波形は、2以上の前記パルスを含む場合には、当該複数のパルスのうちの最後に最終パルスを含み、
前記最終パルスは、
前記個別液室を膨張させる第1膨張波形要素と、
前記第1膨張波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を収縮させる第1収縮波形要素と、
前記第1収縮波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を膨張させる第2膨張波形要素と、
前記第2膨張波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を収縮させる第2収縮波形要素と、
前記第2収縮波形要素よりも後の波形要素であり、前記個別液室を膨張させる第3膨張波形要素と、を含み、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第2膨張波形要素の開始までの時間が0.5Tc未満であり、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第2収縮波形要素の開始までの時間が0.5Tc~0.6Tcの範囲内であることを特徴とするヘッド駆動制御方法。
【請求項7】
前記第1膨張波形要素の開始から前記第1収縮波形要素の開始までの時間が0.45Tc~0.65Tcの範囲内であり、
前記第1収縮波形要素の開始から前記第3膨張波形要素の開始までの時間が0.9Tc~1.0Tcの範囲内である、ことを特徴とする請求項6に記載のヘッド駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出装置、プログラム、及びヘッド駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置が知られている。このような液体吐出装置において、滴サイズに応じて選択された1又は2以上のパルスを含む駆動波形を圧力発生部に出力するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の装置では、液滴の吐出において、液体吐出ヘッドを高周波駆動させると、液体吐出ヘッドが有する個別液室内の液体に微振動が残留することにより、液滴が曲がって吐出される場合がある。また、液滴の吐出に伴ってミストが発生する場合がある。
【0004】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、液滴の吐出に伴うミストの発生を低減しつつ、液滴の曲がりを抑制して高周波駆動を行うことができる液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る液体吐出装置は、液滴を吐出する複数のノズルと、ノズルに連通する個別液室と、個別液室内の液体を加圧する圧力を発生する圧力発生部と、を有する液体吐出ヘッドと、滴サイズに応じて選択された1又は2以上のパルスを含む駆動波形を圧力発生部に出力するヘッド駆動制御部と、を備え、駆動波形は、2以上の前記パルスを含む場合には、当該複数のパルスのうちの最後に最終パルスを含み、最終パルスは、個別液室を膨張させる第1膨張波形要素と、第1膨張波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を収縮させる第1収縮波形要素と、第1収縮波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を膨張させる第2膨張波形要素と、第2膨張波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を収縮させる第2収縮波形要素と、第2収縮波形要素よりも後の波形要素であり、個別液室を膨張させる第3膨張波形要素と、を含み、第1収縮波形要素の開始から第2膨張波形要素の開始までの時間が0.5Tc未満であり、第1収縮波形要素の開始から第2収縮波形要素の開始までの時間が0.5Tc~0.6Tcの範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、液滴の吐出に伴うミストの発生を低減しつつ、液滴の曲がりを抑制して高周波駆動を行うことができる液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る画像形成装置を示す概略側面図である。
【
図2】一実施形態に係る画像形成装置の平面図である。
【
図5】画像形成装置の制御部を示すブロック図である。
【
図6】印刷制御部及びヘッドドライバを示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態に係る駆動波形を示す波形図である。
【
図8】複数のパルスを含む駆動波形、滴制御信号、及び滴サイズに応じたパルスを示す波形図である。
【
図9】第1実施形態に係る駆動波形における最終のパルスP5を示す波形図である。
【
図10】ノズルから吐出される液滴を示す図である。
【
図11】比較例1に係る駆動波形を示す波形図である。
【
図12】実施例1、実施例2及び比較例1に係る駆動波形を用いて液滴を吐出したときのサテライト長を示すグラフである。
【
図13】副走査速度変動比率変化量を示すグラフである。
【
図14】第1実施形態に係る駆動波形におけるパルスP3を示す波形図である。
【
図15】第2実施形態に係る駆動波形におけるパルスP5を示す波形図である。
【
図16】比較例1に係る駆動波形におけるパルスP13を示す波形図である。
【
図17】比較例1に係る駆動波形におけるパルスP15を示す波形図である。
【
図18】駆動パルスの波形形状を示す波形図であり、単一の波形からなる単パルスを示す波形図である。
【
図19】パルス幅Pwと滴速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る液体吐出装置、プログラム、及びヘッド駆動制御方法ついて図面を参照して説明する。本明細書では、液体により媒体上に画像を形成する画像形成装置を、実施形態に係る液体吐出装置の一例として説明する。
【0009】
<画像形成装置の概要>
図1は、一実施形態に係る画像形成装置を示す概略側面図である。
図2は、一実施形態に係る画像形成装置の平面図である。
図1及び
図2に示される画像形成装置1は、シリアル型インクジェット記録装置である。画像形成装置1は、記録ヘッド34a,34bを搭載するキャリッジ33を備える。キャリッジ33は、主走査方向に延在する一対のガイドロッド31,32に摺動可能に支持され、主走査方向に移動する。キャリッジ33は、主走査方向に走査可能である。一対のガイドロッド31,32は、装置本体の左右の側板21A,21Bに支持されている。主走査モータは、タイミングベルトを介して動力を伝達して、キャリッジ33を移動させる。
【0010】
<記録ヘッド>
記録ヘッド34a,34bは、液体吐出ヘッドの一例である。記録ヘッド34a,34bを区別しないときは、記録ヘッド34と記載する。記録ヘッド34は、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴を吐出する。液滴はインク滴でもよい。記録ヘッド34は、液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル板を有する。ノズル板には、複数のノズル列が形成されている。ノズル列は、副走査方向に並ぶ複数のノズルを有する。副走査方向は、主走査方向に交差する。記録ヘッド34は、例えば下向きに液滴を吐出する。
【0011】
記録ヘッド34は、それぞれ2つのノズル列を有する。記録ヘッド34aは、ブラック(K)の液滴を吐出するノズル列と、シアン(C)の液滴を吐出するノズル列とを有する。記録ヘッド34bは、マゼンタ(M)の液滴を吐出するノズル列と、イエロー(Y)の液滴を吐出するノズル列とを有する。なお、記録ヘッド34は、1つのノズル列を有するものでもよく、3つ以上のノズル列を有するものでもよい。
【0012】
<ヘッドタンク>
キャリッジ33は、ヘッドタンク35a,35bを搭載する。ヘッドタンク35a,35bは、各色に対応するインクを貯留する。ヘッドタンク35a,35bは、記録ヘッド34に各色のインクを供給する。
【0013】
<インクカートリッジ>
画像形成装置1は、各色のインクカートリッジ10y,10m,10c,10kを着脱自在に装着する。インクカートリッジ10y,10m,10c,10kを区別しない場合は、インクカートリッジ10と記載する。インクカートリッジ10は、供給チューブ36を介してヘッドタンク35a,35bに連通する。インクカートリッジ10は、ヘッドタンク35a,35bに各色のインクを供給する。
【0014】
<給紙部>
画像形成装置1は、給紙部を備える。給紙部は、用紙42を記録ヘッド34に供給する。用紙42は、媒体の一例である。給紙部は、複数の用紙42を搭載する給紙トレイ2を有する。給紙トレイ2の用紙積載部41の上に、用紙42が積載される。給紙部は、半月コロ(給紙コロ)43及び分離パッド44を備える。半月コロ43及び分離パッド44は、互いに対向して配置されている。半月コロ43及び分離パッド44は、用紙積載部41から用紙42を1枚ずつ分離して搬送する。
【0015】
給紙部は、ガイド部材45と、カウンタローラ46と、搬送ガイド47と、先端加圧コロ49を有する押さえ部材48とを備える。給紙部は、用紙42を記録ヘッド34の下方に供給する。
【0016】
<搬送部>
画像形成装置1は、搬送部を備える。搬送部は、搬送ベルト51を備える。搬送ベルト51は、用紙42を静電吸着して記録ヘッド34に対向する位置へ搬送する。搬送ベルト51は、用紙42を静電吸着力で吸着して搬送する。搬送ベルト51は、無端状ベルトであり、搬送ローラ52とテンションローラ53との間に掛け渡されている。搬送ベルト51は、用紙42を副走査方向に搬送する。搬送ベルト51は、搬送ローラ52によって駆動される。
【0017】
搬送部は、搬送ベルト51の表面を帯電させる帯電ローラ56を備える。帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置されている。
【0018】
<排紙部>
画像形成装置1は、排紙部を備える。排紙部は、記録ヘッド34から吐出された液滴によって画像が形成された用紙42を排紙する。排紙部は、分離爪61と、排紙ローラ62と、排紙コロである拍車63とを備える。排紙部は、搬送ベルト51から用紙42を分離する。排紙部は、排紙トレイ3を備える。排紙トレイ3は、搬送ベルト51から分離された用紙42を受ける。
【0019】
<両面ユニット>
画像形成装置1は、両面ユニット71を備える。両面ユニット71は、画像形成装置1の装置本体の背面部に対して着脱自在に装着されている。両面ユニット71は、搬送ベルト51の逆回転によって戻される用紙42を取り込んで反転させる。両面ユニット71は、再度、用紙42をカウンタローラ46と搬送ベルト51との間に供給する。両面ユニット71の上面は、手差しトレイ72として利用される。
【0020】
<維持回復機構>
画像形成装置1は維持回復機構81を備える。維持回復機構81は、主走査方向における一方側の非印字領域に配置されている。維持回復機構81は、記録ヘッド34のノズルの状態を維持、または回復させるためのメンテナンス動作を実行する。維持回復機構81は、記録ヘッド34のノズル面をキャッピングするキャップ82a,82bを備える。ノズル面は、ノズル板の底面であり、ノズルが形成されている面である。
【0021】
維持回復機構81は、ワイパ部材83と、空吐出受け88とを備える。ワイパ部材83は、ノズル面をワイピングする。空吐出受け88は、記録ヘッド34から吐出された液滴を受ける。記録ヘッド34は、増粘した液体を吐出する空吐出を実行できる。空吐出を行うことにより吐出された液滴は、画像形成に寄与せず、空吐出受け88に受け取られる。
【0022】
維持回復機構81は、キャリッジ33をロックするキャリッジロック87を備える。画像形成装置1は、維持回復動作によって生じた廃液を収容するための廃液タンク100を備える。廃液タンク100は、維持回復機構81の下方に配置されている。廃液タンク100は、装置本体に対して、着脱可能に装着されている。
【0023】
画像形成装置1は、主走査方向の他方側の非印字領域に配置された空吐出受け88を備える。空吐出受け88は、空吐出の際に、記録ヘッド34から吐出された液滴を受ける。空吐出受け88には、開口部89が形成されている。開口部89は、記録ヘッド34のノズル列が並ぶ方向に沿う。
【0024】
<画像形成装置1の動作>
画像形成装置1では、給紙トレイ2から用紙42が給紙される。用紙42は、ガイド部材45によって案内されて、搬送ベルト51とカウンタローラ46との間に挟まれて搬送される。用紙42の先端は、搬送ガイド47によって案内されて、先端加圧コロ49によって搬送ベルト51に押し付けられる。これにより、用紙42の搬送方向は、略90度変えられる。
【0025】
このとき、搬送ベルト51は、帯電ローラ56によって、交番する帯電電圧パターンで帯電されている。帯電した搬送ベルト51上に用紙42が給送されると、用紙42が搬送ベルト51に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって用紙42が副走査方向に搬送される。
【0026】
画像形成装置1は、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド34を駆動する。記録ヘッド34は、停止している用紙42に液滴を吐出して1行分を記録し、用紙42を所定量搬送後、次の行の記録を行う。画像形成装置1は、記録終了信号又は用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
【0027】
<記録ヘッド>
次に、
図3及び
図4を参照して記録ヘッドについて説明する。
図3及び
図4は、記録ヘッドの断面図である。
図3及び
図4は、個別液室の長手方向に沿う断面図である。個別液室の長手方向は、ノズル列の配列方向と直交する方向である。
【0028】
この記録ヘッド34は、流路板101と、振動板部材102と、ノズル板103とを備える。ノズル板103の上に流路板101が積層されている。流路板101の上に振動板部材102が積層されている。
【0029】
ノズル板103は、液滴を吐出するノズル104を有する。流路板101は、貫通孔105、個別液室106、流体抵抗部107、液体導入部108を有する。貫通孔105は、ノズル104に連通する。貫通孔105、個別液室106、流体抵抗部107、及び液体導入部108は、互いに連通する。
【0030】
記録ヘッド34は、フレーム部材117を備える。フレーム部材117は、共通液室110を有する。振動板部材102は、フィルタ部109を有する。フィルタ部109は、共通液室110と、液体導入部108との間に配置されている。共通液室110は、液体導入部108にインクを供給する。
【0031】
液体導入部108内のインクは、流体抵抗部107内を流れて、個別液室106に供給される。個別液室106内のインクは、貫通孔105内を流れてノズル104から吐出される。なお、「個別液室」は、加圧室、加圧液室、圧力室、個別流路、圧力発生室などと称される場合もある。
【0032】
流路板101は、SUS(ステンレス鋼)などの金属板を積層して形成されている。流路板101には、開口部や溝部が形成されている。これらの開口部や溝部により、貫通孔105、個別液室106、流体抵抗部107、液体導入部108が形成されている。
【0033】
振動板部材102は各個別液室106、流体抵抗部107、液体導入部108の壁面を形成する。また、振動板部材102は、フィルタ部109を形成する。なお、流路板101は、SUSなどの金属板に限らず、シリコン基板を異方性エッチングして形成することもできる。
【0034】
記録ヘッド34は、圧電部材112を備える。圧電部材112は、振動板部材102の個別液室106とは反対側の面に配置されている。圧電部材112は、液滴を吐出させるエネルギーを発生させるアクチュエータ(圧力発生部)である。圧電部材112は、積層され柱状を成す。圧電部材112には駆動波形を伝達するFPC(Flexible Printed Circuits;フレキシブルプリント配線板)115が接続されている。
【0035】
圧電部材112は、積層方向に伸縮させるd33モードで使用されている。圧電部材112は、d33モードで使用されるものに限定されず、積層方向と直交する方向に伸縮させるd31モードで使用されるものでもよい。
【0036】
記録ヘッド34は、圧電部材112に印加する電圧を基準電位Veから下げることによって圧電部材112を収縮させる。圧電部材112が収縮することにより、振動板部材102が変形して個別液室106の容積が膨張する。これにより、流体抵抗部107から個別液室106内にインクが流入する。
【0037】
記録ヘッド34は、圧電部材112を収縮させた後に、圧電部材112を伸長させる。
図4に示されるように、記録ヘッド34は、圧電部材112に印加する電圧を上げて圧電部材112を積層方向に伸長させる。圧電部材112を積層方向に伸長させることにより、振動板部材102を圧電部材112とは反対側へ変形させて個別液室106の容積を収縮さえる。これにより、個別液室106内のインクが加圧され、ノズル104から液滴が吐出される。
【0038】
記録ヘッド34は、圧電部材112に印加する電圧を基準電位Veに戻すことにより、振動板部材102を初期位置に復元させる。このとき、個別液室106が膨張する。これにより、共通液室110から個別液室106内にインクが充填される。ノズル104のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。
【0039】
<固有振動周期Tc>
次に、記録ヘッドの個別液室106の固有振動周期Tcについて説明する。前述の通り、記録ヘッド34は、個別液室106の容積を変動させることで、個別液室106の内部のインクを加圧してノズル104から液滴を吐出する。このとき、個別液室106の内部のインクが加圧されると、個別液室106の固有振動数に応じた圧力振動が生じる。この圧力振動の周期を、個別液室106の固有振動周期Tcと呼ぶ。一般的に、個別液室106の固有振動周期Tcは、インクの物性,個別液室106やノズル104の形状、個別液室106や流路の材質等により決まるインクの圧力の固有振動周期に対応し、ヘルムホルツ周期と呼ばれる。
【0040】
<画像形成装置1>
次に、この画像形成装置1の制御部の概要について
図5を参照して説明する。
図5は同制御部のブロック説明図である。画像形成装置1は、制御部(制御装置)を備える。
【0041】
この制御部500は、この装置全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)501と、CPU501が実行するプログラムを含む各種プログラムなどの固定データを格納するROM(Read Only Memory)502と、画像データ等を一時格納するRAM(Random Access Memory)503とを備えている。制御部は、制御部の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ504と、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC(Application Specific Integrated Circuit)505とを備えている。
【0042】
制御部500は、印刷制御部508を備える。印刷制御部508は、記録ヘッド34を駆動制御するためのデータ転送部及び駆動信号発生部を含む。キャリッジ33は、記録ヘッド34を駆動するためのヘッドドライバ(ドライバIC)509を備える。ヘッドドライバ509は、ヘッド駆動制御部の一例である。ヘッドドライバ509は、ヘッド駆動制御方法を実行することができる。なお、ヘッドドライバ509で実行する処理の一部又は全部は、制御部500で実行してもよい。
【0043】
制御部500は、モータ駆動部510を備えている。画像形成装置1は、主走査モータ554、副走査モータ555、及び維持回復モータ556を備えている。主走査モータ554は、キャリッジ33を移動走査する。副走査モータ55は、搬送ベルト51を周回移動させる。維持回復モータ556は、維持回復機構81のキャップ82の駆動、ワイパ部材83の移動、吸引ポンプによる吸引などに利用される動力を出力する。モータ駆動部510は、主走査モータ554、副走査モータ555、及び維持回復モータ556の駆動制御を実行する。
【0044】
制御部500は、ACバイアス供給部511及び供給系駆動部512を備える。ACバイアス供給部511は、帯電ローラ56にACバイアスを供給する。供給系駆動部512は、送液ポンプ241の駆動制御を行う。画像形成装置1は、送液ポンプ241を備える。送液ポンプ241は、インクカートリッジ10内のインクをヘッドタンク35に供給する。
【0045】
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル514が接続されている。
【0046】
制御部500は、ホストI/F506を備える。ホストI/F506は、ホスト600とのデータ及び信号の送受信を行うためのインタフェースである。ホスト600は、例えば、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、画像読み取り装置、撮像装置である。制御部500は、ケーブルあるはネットワークを介して、ホスト600と接続されている。制御部500は、I/F506を介して、ホスト600からデータ及び信号を受信する、
【0047】
制御部500のCPU501は、I/F506に含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析する。ASIC505は、解析後の印刷データについて、必要な画像処理、データの並び替え処理等を行う。制御部500は、ASIC505で処理された後の画像データを、印刷制御部508からヘッドドライバ509に転送する。ホスト600は、プリンタドライバ601を備える。プリンタドライバ601は、画像を出力するためドットパターンデータの生成を行うことができる。制御部500は、ドットパターンデータの生成を行ってもよい。
【0048】
印刷制御部508は、上述した画像データをシリアルデータで転送することができる。印刷制御部508は、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、制御信号などをヘッドドライバ509に出力する。
【0049】
制御部500は、駆動信号生成部を備える。駆動信号生成部は、D/A変換器、電圧増幅器、及び電流増幅器を含む。駆動信号生成部は、ROMに格納されている駆動波形のパターンデータをD/A変換する。駆動波形は、1または複数の駆動パルスを含む。印刷制御部508は、駆動波形をヘッドドライバ509に出力する。
【0050】
ヘッドドライバ509は、駆動波形に含まれる駆動パルスを選択する。ヘッドドライバ509は、シリアルに入力される記録ヘッド34の1行分に相当する画像データに基づいて、駆動パルスを選択する。ヘッドドライバ509は、選択した駆動パルスを圧電部材112に供給する。ヘッドドライバ509は、駆動パルスを圧電部材112に供給することにより、記録ヘッド34を駆動する。
【0051】
ヘッドドライバ509は、駆動波形を構成する駆動パルスの一部又は全部を選択することにより、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。大きさの異なるドットとしては、例えば、大滴、中滴、小滴などがある。ヘッドドライバ509は、駆動パルスを形成する波形要素の全部又は一部を選択することにより、大滴、中滴、小滴を打ち分けることができる。
【0052】
制御部500は、I/O部513を備える。画像形成装置1は、各種のセンサ群515を備える。I/O部513は、各種のセンサ群515から情報を取得する。I/O部513は、取得した情報からプリンタの制御に必要な情報を抽出する。印刷制御部508、モータ駆動部510、及びACバイアス供給部511は、抽出した情報を各種制御に使用する。
【0053】
画像形成装置1は、センサ群515として、用紙の位置を検出するための光学センサ、機内の温度を監視するためのサーミスタ、帯電ベルトの電圧を監視するセンサ、カバーの開閉を検出するためのインターロックスイッチなどを備える。
【0054】
<印刷制御部及びヘッドドライバ>
次に、印刷制御部508及びヘッドドライバ509の一例について
図6のブロック説明図を参照して説明する。
図6は、印刷制御部及びヘッドドライバを示すブロック図である。
【0055】
印刷制御部508は、駆動波形生成部701と、データ転送部702とを備えている。駆動波形生成部701は、画像形成時に1印刷周期(1駆動周期)内に複数のパルス(駆動信号)で構成される駆動波形(共通駆動波形)を生成して出力する。データ転送部702は、印刷画像に応じた2ビットの画像データ(階調信号0、1)と、クロック信号、ラッチ信号(LAT)、滴制御信号M0~M3を出力する。
【0056】
滴制御信号は、アナログスイッチ715の開閉を滴毎に指示する2ビットの信号である。アナログスイッチ715は、ヘッドドライバ509のスイッチである。滴制御信号は、共通駆動波形の印刷周期に合わせて選択すべきパルス又は波形要素でHレベル(ON)に状態遷移し、非選択時にはLレベル(OFF)に状態遷移する。
【0057】
印刷制御部508は、滴制御信号M3で大滴用のパルスを選択し、滴制御信号M2で中滴用のパルスを選択し、滴制御信号M2で小滴用のパルスを選択肢、滴制御信号M0で微駆動のパルスを選択する。
【0058】
ヘッドドライバ509は、シフトレジスタ711と、ラッチ回路712とを有する。シフトレジスタ711は、データ転送部702からの転送クロック(シフトクロック)及びシリアル画像データ(階調データ:2ビット/1チャンネル(1ノズル)を入力する。ラッチ回路712は、シフトレジスタ711の各レジスト値をラッチ信号によってラッチする。
【0059】
ヘッドドライバ509は、デコーダ713と、レベルシフタ714とを有する。デコーダ713は、階調データと滴制御信号M0~M3をデコードして結果を出力する。レベルシフタ714は、デコーダ713のロジックレベル電圧信号をレベル変換する。レベルシフタ714は、アナログスイッチ715が動作可能なレベルに、デコーダ713のロジックレベル電圧信号を変換する。アナログスイッチ715は、レベルシフタ714を介して与えられるデコーダ713の出力によりオン/オフ(開閉)される。
【0060】
このアナログスイッチ715は、各圧電部材112の選択電極(個別電極)に接続されている。駆動波形生成部701は、共通駆動波形Pvをアナログスイッチ715に入力する。アナログスイッチ715は、シリアル転送された画像データ(階調データ)と、滴制御信号M0~M3をデコーダ713でデコードした結果に応じてオンになる。アナログスイッチ715がオンすることにより、共通駆動波形Pvを構成する所要のパルス(あるいは波形要素)が通過して(選択されて)、通過したパルスが圧電部材112に印加される。
【0061】
次に、第1実施形態における駆動波形について
図7を参照して説明する。
図7は、実施例に係る駆動波形を示す波形図である。
図7では、横軸に時間を示し、縦軸に電位を示す。
【0062】
なお、「パルス」とは、駆動波形を構成する要素としての駆動パルスを示す用語として使用する。「吐出パルス」とは圧力発生部に与えられて液滴を吐出させる駆動パルスを示す用語として使用する。「非吐出パルス」とは圧力発生部に与えられるが、滴を吐出させない(ノズル内のインクを流動させる)程度に圧力発生部を駆動する駆動パルス(微駆動パルス)を示す用語として使用する。また、以下で説明する駆動波形及びその構成要素としてのパルスは一例であって、これに限るものではない。
【0063】
図7に示す駆動波形(共通駆動波形)Pvは、1印刷周期(1駆動周期)内にパルスP1~P5を含む。パルスP1は微駆動パルスである。パルスP2~P5は吐出パルスである。パルスP1~P5は時系列で生成される。
【0064】
図8は、複数のパルスを含む駆動波形、滴制御信号、及び滴サイズに応じたパルスを示す。
図8では、横軸に示す。
図8では、上から順に、駆動波形Pv、滴制御信号M0~M3、大滴用波形、中滴用波形、小滴用波形、及び微駆動用波形が示される。
【0065】
ヘッドドライバ509は、
図8に示す滴制御信号M3~M0に応じてパルスP1~P5を選択するヘッドドライバ509は、選択したパルスP1~P5を圧力発生部に供給する。滴サイズに応じて、1又は2以上のパルスが選択される。その選択の結果として、大滴用吐出駆動波形(大滴用波形)、中滴用吐出駆動波形(中滴用波形)、小滴用吐出駆動波形(小滴用波形)及び微駆動用波形が得られる。
【0066】
大滴用波形は、パルスP1~P5を含む。パルスP1~P5が選択されることにより、大滴用波形が得られる。パルスP2~P5が圧力発生部に供給されることによってそれぞれ液滴が吐出される。パルスP2~P5が選択されることにより吐出された各滴が飛翔中に合体して、大滴が形成される。
【0067】
中滴用波形は、パルスP2,P4を含む。パルスP2,P4が選択されることにより、中滴用波形が得られる。パルスP2,P4が圧力発生部に供給されることによってそれぞれ液滴が吐出される。パルスP2,P4が選択されることにより吐出された各滴が飛翔中に合体して、中滴が形成される。
【0068】
小滴用波形は、パルスP3を含む。パルスP3が選択されることにより、小適用波形が得られる。パルスP3が圧力発生部に供給されることによって液滴(小滴)が吐出される。
【0069】
微駆動用波形は、パルスP1を含む。パルスP1が選択されることにより、微駆動用波形が得られる。パルスP1が圧力発生部に供給されることによって、振動板部材102が微振動する。
【0070】
<パルスP5>
次に、大滴用波形に含まれる複数のパルスうち、最後のパルスである最終パルスP5の詳細について
図9を参照して説明する。
図9は、最終パルスP5を示す波形図である。
図9では、横軸に時間を示し、縦軸に電位を示す。時間t0~時間t11は、この順に経過する。
【0071】
このパルスP5は、第1膨張波形要素(第1引き込み波形要素)a1と、保持波形要素b1と、第1収縮波形要素(第1押し込み波形要素)c1と、保持波形要素b2と、第2膨張波形要素(第2引き込み波形要素)a2と、保持波形要素b3と、第2収縮波形要素(第2押し込み波形要素)c2と、保持波形要素b4と、第3膨張波形要素(第3引き込み波形要素)a3と、を有している。
【0072】
第1膨張波形要素a1は、基準電位Veから電位Vfまで低下して個別液室106を膨張させる。電位Vfは、基準電位Veよりも低い電位である。第1膨張波形要素a1は、時間t1で基準電位Veであり、時間t2で電位Vfに低下する。
【0073】
保持波形要素b1は、電位Vfを所定時間保持する。保持波形要素b1は、時間t2から時間t3まで電位Vfを保持する。
【0074】
第1収縮波形要素c1は、電位Vfから電位Vg(Vg>Ve)まで立ち上がって個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。第1収縮波形要素c1は、時間t3で電位Vfであり、時間t4で電位Vgまで増加する。
【0075】
保持波形要素b2は、第1収縮波形要素c1の立ち上がり電位Vgを所定時間保持する。保持波形要素b2は、時間t4から時間t5まで電位Vgを保持する。
【0076】
第2膨張波形要素a2は、電位Vgから電位Vfまで低下して個別液室106を膨張させ、第1収縮波形要素c1で吐出される液滴の一部を引きちぎってノズル104内に戻す。第2膨張波形要素a2は、時間t5で電位Vgであり、時間t6で電位Vfに低下する。
【0077】
保持波形要素b3は、電位Vfを所定時間保持する。保持波形要素b3は、時間t6から時間t7まで電位Vfを保持する。
【0078】
第2収縮波形要素c2は、電位Vfから電位Vh(Vg<Vh)まで立ち上がって、個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。第2収縮波形要素c2は、時間t7で電位Vfであり、時間t8でVhまで増加する。
【0079】
保持波形要素b4は、第2収縮波形要素c2の立ち上がり電位Vhを所定時間保持する。保持波形要素b4は、時間t8から時間t9まで電位Vhを保持する。
【0080】
第3膨張波形要素a3は、電位Vhから電位Viまで低下して個別液室106を膨張させ、第2収縮波形要素c2で吐出される液滴の一部を引きちぎってノズル104内に戻す。この第3膨張波形要素a3では液滴は吐出されない。
【0081】
第1収縮波形要素c1は、第1膨張波形要素a1によって生じる個別液室106の圧力変動に共振するタイミングで個別液室106を収縮させる波形要素である。
【0082】
第2収縮波形要素c2は、第1膨張波形要素a1、第1収縮波形要素c1及び第2膨張波形要素a2により生じる個別液室106の圧力変動を抑制する制振波形要素である。
【0083】
第3膨張波形要素a3は、第2収縮波形要素c2で抑制できなかった個別液室106の圧力変動を抑制する制振波形要素である。
【0084】
<固有振動周期Tcの測定方法>
次に
図9に示すパルスP5の各波形要素の開始、終了と固有振動周期Tcとの関係について説明するにあたり、固有振動周期Tcの測定方法について説明する。
【0085】
図18は、駆動パルスの波形形状を示す波形図であり、単一の波形からなる単パルスを示す波形図である。駆動パルスは、基準電位Veから電位が立ち下がる波形要素Tfを含む。立ち下がる波形要素Tfは、立下り時間でもよい。基準電位Veから電位が立ち下がる波形要素Tfが圧電部材112に供給されることにより、圧電部材112が収縮し個別液室106の体積が膨張する。
【0086】
駆動パルスは、パルス幅Pwを含む。パルス幅Pwは、波形要素Tfの後の波形要素である。パルス幅Pwは、ホールド状態として圧電部材112の状態を保持するための波形委要素である。パルス幅Pwによる波形要素が圧電部材112に供給されることにより、圧電部材112の状態が保持される。これをホールド状態という。
【0087】
駆動パルスは、パルス幅Pwによるホールド状態となる電位から立ち上がる波形要素Trを含む。立ち上がる波形要素Trは、立ち上がる時間でもよい。立ち上がる波形要素Trが圧電部材112に供給されることにより、圧電部材112が伸長して個別液室106が収縮する。
【0088】
図19は、パルス幅Pwと滴速度との関係を示すグラフである。パルス幅Pwと滴速度との関係をパルス幅Pw特性という。圧電部材112に供給するパルス幅Pwを変化させたとき、ヘルムホルツ固有振動の共振周期でメニスカスが振動する。ヘルムホルツ固有振動の共振周期は、接合された数種類の薄板によるインク流路系、振動系、圧電素子の寸法、材料系、物性値等で決まる。メニスカスがノズルの外に向かうタイミングと、立ち上げ要素である波形要素Trによってメニスカスを押し出すタイミングとが一致した時に、メニスカスを押し出す力が最大となり、滴速度が最速となる。
【0089】
パルス幅Pwを増大させていくと複数のピークが生じる。
図20では、最初に現れるピークを第1ピークPw1とし、次に現れるピークをPw2として図示している。圧力共振の固有振動周期Tcは第1ピークPw1と第2ピークPw2の差から算出される。
【0090】
次に
図9に示すパルスP5の各波形要素の開始、終了と固有振動周期Tcとの関係について説明する。
【0091】
第1膨張波形要素a1の開始から第1収縮波形要素c1の開始までの時間T1は、0.45Tc~0.65である。これにより、滴吐出効率が向上する。時間T1は、時間t1から時間t3までである。
【0092】
第1収縮波形要素c1の開始から第2膨張波形要素a2の開始までの時間T2は、0.5Tc未満である。これにより、サテライト長を短くできる。時間T2は、時間t3から時間t5までである。
【0093】
第1収縮波形要素c1の開始から第2収縮波形要素c2の開始までの時間T3は、0.5Tc~0.6Tcの範囲内である。第1収縮波形要素c1の開始から第3膨張波形要素a3の開始までの時間T4は、0.9Tc~1.0Tcである。これにより、第2収縮波形要素c2及び第3膨張波形要素a3は、第1膨張波形要素a1、第1収縮波形要素c1及び第2膨張波形要素a2により変動した個別液室106の圧力変動を抑制する制振波形要素となる。
【0094】
なお、時間T1~T4は、上記に限定されるものではない。例えば、時間T3は、個別液室106の圧力変動と逆の位相で第2収縮波形要素c2により個別液室106の収縮を行なえる時間であればよい。
【0095】
次に、滴吐出状態について
図10を参照して説明する。
図10は、ノズルから吐出される液滴を示す図である。
【0096】
図10(a)に示す状態から第1膨張波形要素a1を与えることで、
図10(b)に示すように、メニスカス300がノズル104内に引き込まれ、所定時間経過後に第1収縮波形要素c1が与えられることによって、
図10(c)に示すように液滴301となる部分がせり出す。このとき、第2膨張波形要素a2が与えられることによって、
図10(d)に示すように、液滴301の一部が引きちぎられてノズル104内に戻される。
【0097】
これによって、液滴301は小さな滴となり、かつ、サテライトやミストとなる、液滴
301の尾部となる部分が引きちぎられてノズル104内に戻されることで、サテライト
やミストが低減する。
【0098】
<パルスP3>
次に
図14を参照してパルスP3について説明する。
図14は、パルスP3を示す波形図である。
図14では、横軸に時間を示し、縦軸に電位を示す。横軸に示す時間t31~t38は、この順に経過する。パルスP3は、上述したように、大滴用波形および小滴用波形に含まれる。
【0099】
このパルスP3は、第1膨張波形要素a31と、保持波形要素b31と、第1収縮波形要素c31と、保持波形要素b32と、第2膨張波形要素a32と、保持波形要素b33と、第2収縮波形要素c32と、を有する。
【0100】
第1膨張波形要素a31は、基準電位Veから電位Vf3まで低下して個別液室106を膨張させる。電位Vf3は、基準電位Veよりも低い電位である。第1膨張波形要素a31は、時間t31で基準電位Veであり、時間t32で電位Vf3に低下する。
【0101】
保持波形要素b31は、電位Vf3を所定時間保持する。保持波形要素b31は、時間t32から時間t33まで電位Vf3を保持する。
【0102】
第1収縮波形要素c31は、電位Vf3から電位Vg3(Vg3<Ve)まで立ち上がって個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。第1収縮波形要素c31は、時間t33で電位Vf3であり、時間t34で電位Vg3まで増加する。
【0103】
保持波形要素b32は、第1収縮波形要素c31の立ち上がり電位Vg3を所定時間保持する。保持波形要素b32は、時間t34から時間t35まで電位Vg3を保持する。
【0104】
第2膨張波形要素a32は、電位Vg3から電位Vf3まで低下して個別液室106を膨張させ、第1収縮波形要素c31で吐出される液滴の一部を引きちぎってノズル104内に戻す。第2膨張波形要素a32は、時間t35で電位Vg3であり、時間t36で電位Vf3に低下する。
【0105】
保持波形要素b33は、電位Vf3を所定時間保持する。保持波形要素b33は、時間t36から時間t37まで電位Vf3を保持する。
【0106】
第2収縮波形要素c32は、電位Vf3から電位Veまで立ち上がって、個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。第2収縮波形要素c32は、時間t37で電位Vf3であり、時間t38で基準電位Veまで増加する。
【0107】
第1膨張波形要素a31の開始から第1収縮波形要素c31の開始までの時間T31は、0.45Tc~0.65Tcの範囲内である。これにより、液滴の吐出効率が向上する。時間T31は、時間t31から時間t33までである。
【0108】
第1収縮波形要素c31の開始から第2膨張波形要素a32の開始までの時間T32は、0.5Tc未満である。これにより、サテライト長を短くできる。時間T32は、時間t33から時間t35までである。
【0109】
第1収縮波形要素c31の開始から第2収縮波形要素c32の開始までの時間T33は、0.5Tcである。これにより、第1収縮波形要素c31で発生した残留振動を第2収縮波形要素c32で抑制することができる。時間T33は、時間t33から時間t37までである。
【0110】
なお、時間T31~T33は、上記に限定されるものではない。例えば、時間T33は、個別液室106の圧力変動と逆の位相で第2収縮波形要素c32をよる個別液室106の収縮を行なえる時間であればよい。
【0111】
[実施形態に係る画像形成装置1の作用効果]
本実施形態に係る画像形成装置(液体吐出装置)1は、個別液室106を膨張させる第1膨張波形要素a1と、個別液室106を収縮させる第1収縮波形要素c1と、個別液室106を膨張させる第2膨張波形要素a2と、個別液室106を収縮させる第2収縮波形要素c2と、個別液室106を膨張させる第3膨張波形要素a3と、を含む最終パルスP5を生成する。画像形成装置1は、ヘッドドライバ509(ヘッド駆動制御部)により、時系列のパルスP1~P5のうち、最終パルスP5を最後に含む駆動波形を圧電部材112(圧力発生部)に出力する。これにより、画像形成装置1では、高い周波数における吐出において、吐出曲がりを抑制するとともに、ミストの発生を低減して、機内の汚れを低減することができる。
【0112】
例えば、第1収縮波形要素c1は、第1膨張波形要素a1によって生じる個別液室106の圧力変動に共振するタイミングで個別液室106を収縮させ、第2収縮波形要素c2は、個別液室106の圧力変動を抑制する。このような波形要素を含む最終パルスP5を含む駆動波形を用いて、液滴を吐出することにより、個別液室106における残留振動を抑制できる。
【0113】
また、第1収縮波形要素c1の開始から第2膨張波形要素a2の開始までの時間T2が0.5Tc未満であり、第1収縮波形要素c1の開始から第2収縮波形要素c2の開始までの時間T3が0.5Tc~0.6Tcの範囲内である。このような波形要素を含むパルスP5を用いて、液滴を吐出することにより、高い周波数における吐出において、吐出曲がりを抑制するとともに、ミストの発生を低減して、機内の汚れを低減することができる。
【0114】
また、第1膨張波形要素a1の開始から第1収縮波形要素c1の開始までの時間T1は0.45~0.65Tcの範囲内でもよい。また、第1収縮波形要素c1の開始から第3膨張波形要素a3の開始までの時間T4は0.9Tc~1.0Tcの範囲内でもよい。
【0115】
<第2実施形態に係る画像形成装置>
次に第2実施形態に係る画像形成装置1における駆動波形について説明する。第2実施形態における駆動波形は、
図7および
図8に示される第1実施形態における駆動波形と同様に、パルスP1,P2,P3,P4,P5を含む。第2実施形態における駆動波形のパルスP3の時間T31は、第1実施形態における駆動波形のパルスP3の時間T31と異なる長さである。第2実施形態における駆動波形のパルスP5の時間T1,T4は、第1実施形態における駆動波形のパルスP5の時間T1,T4と異なる長さである。なお、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の説明は省略する場合がある。
【0116】
<パルスP3>
上述したように第2実施形態のパルスP3が、第1実施形態のパルスP3と違う点は、時間T31の長さである。
図14を参照して、第2実施形態のパルスP3について説明する。
【0117】
第1膨張波形要素a31の開始から第1収縮波形要素c31の開始までの時間T31は、0.3Tcである。第2実施形態のパルスP3の時間T31は、第1実施形態のパルスP3の時間T31よりも短い。
【0118】
第2実施形態に係るパルスP3は、時間T32が0.5Tc未満であり、時間T33が0.5Tcであることにより、吐出した液滴の尾部となる部分が引きちぎられてノズル104内に戻されることで、サテライトやミストを低減することができる。第2実施形態に係るパルスP3によれば、第1実施形態のパルスP3と同様の効果を得られる。第2実施形態に係るパルスP3では、時間T31を0.3Tcとしても、第1実施形態に係るパルスP3と同様の効果を得られる。
【0119】
<パルスP5>
次に
図15を参照して第2実施形態に係る駆動波形のパルスP5について説明する。
図15は、第2実施形態に係る駆動波形におけるパルスP5を示す波形図である。上述したように第2実施形態のパルスP5が、第1実施形態のパルスP5と違う点は、時間T1,T4の長さである。
【0120】
第1膨張波形要素a1の開始から第1収縮波形要素c1の開始までの時間T1は、0.3Tcである。これにより、滴吐出効率が向上する。この第1膨張波形要素a1の開始から第1収縮波形要素c1の開始までの時間T1は、滴吐出効率を向上する共振タイミングでの範囲であり時間t1から時間t3までである。
【0121】
第1収縮波形要素c1の開始から第3膨張波形要素a3の開始までの時間T4は1.25Tcである。これにより、第2収縮波形要素c2及び第3膨張波形要素a3は、第1膨張波形要素a1、第1収縮波形要素c1及び第2膨張波形要素a2により変動した個別液室106の圧力変動を抑制する制振波形要素となる。この時間T4は、第2収縮波形要素c2及び第3膨張波形要素a3が、第1膨張波形要素a1、第1収縮波形要素c1及び第2膨張波形要素a2により変動した個別液室106の圧力変動を抑制する制振波形要素となる時間である。
【0122】
第2実施形態に係るパルスP5は、時間T2が0.5Tc未満であり、時間T3が0.5Tc(0.5Tc~0.6Tcの範囲内)であることにより、吐出した液滴の尾部となる部分が引きちぎられてノズル104内に戻されることで、サテライトやミストを低減することができる。第2実施形態に係るパルスP5によれば、第1実施形態のパルスP5と同様の効果を得られる。
【0123】
[比較例1]
次に、
図11、
図16、及び
図17を参照して比較例1に係る駆動波形について説明する。
図11は比較例1に係る駆動波形を示す波形図である。
図11では、比較例に係る駆動波形Pv11が示されている。駆動波形Pv11は、パルスP1,P2,P13,P4,P15を含む。駆動波形Pv11が
図8に示される駆動波形Pvと違う点は、パルスP3に代えてパルスP13を含む点と、パルスP5に代えてパルスP15を含む点である。
【0124】
<比較例1に係るパルスP13>
図16は、比較例1に係る駆動波形におけるパルスP13を示す波形図である。パルスP13は、膨張波形要素a11と、保持波形要素b11と、収縮波形要素c11と、保持波形要素b12と、収縮波形要素c12と、保持波形要素b13と、を有する。後述するように、膨張波形要素a11では、電位は低下する。保持波形要素b11、b12,b13では、電位は保持される。収縮波形要素c11,c12では、電位は増加する。
【0125】
膨張波形要素a11は、基準電位Veから電位Vf13まで低下して個別液室106を膨張させる。電位Vf13は、基準電位Veよりも低い電位である。膨張波形要素a11は、時間t131で基準電位Veであり、時間t132で電位Vf13に低下する。
【0126】
保持波形要素b11は、電位Vf13を所定時間保持する。保持波形要素b11は、時間t132から時間t133まで電位Vf13を保持する。
【0127】
収縮波形要素c11は、電位Vf13から電位Vg13(Vg13<Ve)まで立ち上がって個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。収縮波形要素c11は、時間t133で電位Vf13であり、時間t134で電位Vg13まで増加する。
【0128】
保持波形要素b12は、収縮波形要素c11の立ち上がり電位Vg13を所定時間保持する。保持波形要素b12は、時間t134から時間t135まで電位Vg13を保持する。
【0129】
収縮波形要素c12は、電位Vg13から基準電位Veまで立ち上がって、個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。縮波形要素c12は、時間t135で電位Vg13であり、時間t136で基準電位Veまで増加する。
【0130】
パルスP13における膨張波形要素a11の開始から収縮波形要素c11の開始までの時間T131は0.5Tcである。時間T131は、時間t131から時間t133までである。
【0131】
パルスP13における収縮波形要素c11の開始から収縮波形要素c12の開始までの時間T12は0.5Tcである。時間T132は、時間t133から時間t135までである。
【0132】
パルスP13における収縮波形要素c11の終了から収縮波形要素c12の終了までの時間T133は0.5Tcである。時間T133は、時間t134から時間t136までである。
【0133】
このようなパルスP13とすることで、収縮波形要素c11により液滴が吐出された後の残留振動を打ち消す制振タイミングとして、個別液室106の圧電部材112を駆動することができる。このようなパルスP13によれば、比較例1の駆動波形におけるパルスP13では吐出される液滴を小滴にすることができ、収縮波形要素c11による残留振動を収縮波形要素c12により抑制することができる。
【0134】
しかしながら、比較例1に係るパルスP13では吐出された液滴の尾部を引きちぎった後にノズルに戻すことがきいないため、サテライトやミストを十分に低減することができない。
【0135】
<比較例1に係るパルスP15>
図17は、比較例1に係る駆動波形におけるパルスP15を示す波形図である。パルスP15は、膨張波形要素a21と、保持波形要素b21と、収縮波形要素c21と、保持波形要素b22と、収縮波形要素c22と、保持波形要素b23と、膨張波形要素a22と、を有する。後述するように、膨張波形要素a21,a22では、電位は低下する。保持波形要素b21、b22,b23では、電位は保持される。収縮波形要素c21,c22では、電位は増加する。
【0136】
膨張波形要素a21は、基準電位Veから電位Vf15まで低下して個別液室106を膨張させる。電位Vf15は、基準電位Veよりも低い電位である。膨張波形要素a21は、時間t151で基準電位Veであり、時間t152で電位Vf15に低下する。
【0137】
保持波形要素b21は、電位Vf15を所定時間保持する。保持波形要素b21は、時間t152から時間t153まで電位Vf15を保持する。
【0138】
収縮波形要素c21は、電位Vf15から電位Vg15(Vg15>Ve)まで立ち上がって個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。収縮波形要素c21は、時間t153で電位Vf15であり、時間t154で電位Vg15まで増加する。
【0139】
保持波形要素b22は、収縮波形要素c21の立ち上がり電位Vg15を所定時間保持する。保持波形要素b22は、時間t154から時間t155まで電位Vg15を保持する。
【0140】
収縮波形要素c22は、電位Vg15から電位Vh15まで立ち上がって個別液室106を収縮させ、液滴を吐出させる。収縮波形要素c22は、時間t155で電位Vg15であり、時間t156で電位Vh15まで増加する。
【0141】
保持波形要素b23は、電位Vh15を所定時間保持する。保持波形要素b23は、時間t156から時間t157まで電位Vh15を保持する。
【0142】
膨張波形要素a22は、電位Vh15から電位Vi15(Vf15<Vi15<Ve)まで低下して個別液室106を膨張させる。膨張波形要素a22は、時間t157で電位Vh15であり、時間t158で電位Vi15に低下する。
【0143】
パルス15における膨張波形要素a21の開始から収縮波形要素c21の開始までの時間T151は0.5Tcである。時間T151は、時間t151から時間t153までである。
【0144】
収縮波形要素c21の開始から収縮波形要素c22の開始までの時間T152は0.5Tcである。時間T152は、時間t153から時間t155までである。
【0145】
収縮波形要素c21の終了から収縮波形要素c22の終了までの時間T153は、0.5Tcである。
【0146】
収縮波形要素c21の終了から膨張波形要素a22の終了までの時間T154はTcである。
【0147】
このようなパルスP15とすることで、液滴を高速に吐出できるとともに収縮波形要素c21による残留振動を収縮波形要素c22により抑制することができる。
【0148】
しかしながら、比較例1に係るパルスP15では吐出された液滴の尾部を引きちぎった後にノズルに戻すことができないため、サテライトやミストを十分に低減することができない。
【0149】
比較例1に係る大滴用波形は、パルスP1,P2,P13,P4,P15を含む。比較例1に係る小滴用波形は、パルスP13を含む。
【0150】
[実施例1、実施例2、及び比較例1]
次に実施例1、実施例2及び比較例1の駆動波形を用いて液滴を吐出したときのサテライト長を計測した結果について説明する。実施例1の駆動波形Pvは、上記の第1実施形態の駆動波形Pvであり、
図8、
図9、および
図14に示されている。実施例2の駆動波形は、上記の第2実施形態の駆動波形Pvであり、
図8、
図14、および
図15に示されている。比較例1の駆動波形Pv11は、上述したように、
図11、
図16、および
図17に示されている。
図12は、実施例1、実施例2及び比較例1に係る駆動波形を用いて液滴を吐出したときのサテライト長を示すグラフである。
【0151】
<サテライト長>
図12では、左から順に、実施例1の大滴、実施例の大滴、比較例1の大滴、実施例1の小滴、実施例2の小滴、比較例1の小滴におけるサテライト長の長さが棒グラフにより図示されている。実際に撮影することよってサテライト長を計測した。
【0152】
サテライト長は、吐出された液滴の主滴(先頭の大きな滴)が用紙42の位置に到達する時間Tjと、液滴の主滴の尾部または主滴よりも後に用紙42の位置に到達する小さな滴が用紙42の位置に到達する時間Tjsとの差分(Tjs-Tj)として計測している。そのため、サテライト長は、時間(μs)で表されている。
【0153】
比較例1の小滴におけるサテライト長は、約100μsであった。実施例1の小滴におけるサテライト長は、約40μsであった。実施例1の小滴のサテライト長は、比較例1の小滴のサテライト長よりも短かった。実施例2の小滴のサテライト長は約60μsであった。実施例1の小滴のサテライト長は、実施例2の小滴のサテライト長よりも短かった。
【0154】
この結果により、実施例1および実施例2の小滴を吐出するパルスP3を用いることでサテライト長さを短くすることができることが確認された。すなわち、パルスP3の第1収縮波形要素c31の開始から第2膨張波形要素a32の開始までの時間T32を0.5Tc未満として、第1収縮波形要素c31の開始から第2収縮波形要素c32の開始までの時間T33を0.5Tcとすることでサテライト長さを短くできることが確認できた。
【0155】
比較例1の大滴におけるサテライト長は、約350μsであった。実施例1の大滴におけるサテライト長は、約98μsであった。実施例2のサテライト長は140μsであった。実施例1および実施例2の大滴のサテライト長は、比較例1における大滴のサテライト長よりも短かった。
【0156】
この結果により、実施例1および実施例2の大滴を吐出するパルスP5を用いることでサテライト長さを短くすることができることが確認された。すなわち、最終パルスであるパルスP5の第1収縮波形要素c1の開始から第2膨張波形要素a2の開始までの時間T2を0.5Tc未満として、第1収縮波形要素c1の開始から第2収縮波形要素c2の開始までの時間T3を0.5Tc~0.6Tcの範囲とすることで大滴のサテライト長を短くできることが確認できた。
【0157】
また、実施例1の大滴のサテライト長は、実施例2の大滴のサテライト長より短かった。従って、パルスP5の第1膨張波形要素a1の開始から第1収縮波形要素c1の開始までの時間T1を0.45Tc~0.65Tcの範囲とし、第1収縮波形要素c1の開始から第3膨張波形要素a3の開始までの時間T4を0.9Tc~1.0Tcの範囲とすることで、さらにサテライト長を短くできることが確認できた。
【0158】
比較例1の大滴の場合であり、周波数12kHzの場合に、数十μm程度の主滴の曲がりが発生した。複数のノズル間の間隔は、169.3μmであった。この場合主滴の吐出曲がりが画像形成に影響する。比較例1の小滴の場合には、吐出曲がりは検出されなかった。
【0159】
実施例1および実施例2の小滴の場合には、吐出曲がりは検出されなかった。実施例1および実施例2の大滴の場合であり、周波数12kHzの場合に、主滴の曲がりは確認されなかった。また、実施例の大滴の場合に、周波数を最大24kHzに高くした場合においても、主滴の曲がりは確認されなかった。
【0160】
次に、
図13を参照して副走査速度変動比率変化量について説明する。
図13は、副走査速度変動比率変化量を示すグラフである。副走査速度は、媒体の搬送速度である。画像形成装置1の使用時において、媒体の搬送速度を検出するエンコーダに液滴のミストが付着すると、媒体の搬送速度が変動することになる。副走査速度変動比率変化量は、印刷枚数が増加すると、徐々に悪化する。具体的には、実際の搬送速度と、計測される搬送速度の差が大きくなる。
【0161】
図13では実機の印刷に使用した場合の印刷枚数とエンコーダの汚れ具合(副走査速度変動比率変化量)との関係を示す。
図13では、横軸に印刷枚数を示し、縦軸に副走査速度変動比率変化量を示す。エンコーダの汚れが増えると、副走査速度変動比率変化量が増加する(高い値となる)。
【0162】
測定実験では、汚れを増やすために、記録ヘッドのノズル面と媒体との距離を通常時よりも増大させて計測した。印刷に用いるチャートには、一般的に図と文字が入っており、大滴、中滴及び小滴の全てを使用した。
【0163】
実施例1の大滴用波形、中滴用波形、小適用波形、微駆動用波形は、上述したように、
図8、
図9、および
図14に示されている。実施例2の大滴用波形、中滴用波形、小適用波形、微駆動用波形は、上述したように、
図8、
図14、および
図15に示されている。比較例1の大滴用波形、中滴用波形、小適用波形、微駆動用波形は、上述したように、
図11、
図16、および
図17に示されている。なお、比較例1の微駆動用波形は、パルスP1であり、実施例1及び実施例2の微駆動用波形と同じである。比較例1の中滴用波形は、パルスP2,P4を含み、実施例1及び実施例2の中滴用波形と同じである。
【0164】
副走査速度変動比率変化量は、エンコーダの読み取りのばらつきの悪化量であり、機内のミストの汚れにより悪化する。エンコーダにミストが付着すると、汚れが蓄積される。エンコーダの汚れが蓄積されると、エンコーダ上のスケールの読み取りが不正確となり、媒体の搬送が正確にできなくなり、画像形成装置として使用できなくなる。
【0165】
実施例1の場合、印刷枚数が2000枚であっても副走査速度変動比率変化量(%)は、0.5%以下であった。実施例2の場合、印刷枚数が2000枚であっても副走査速度変動比率変化量(%)は、1.5%以下であった。比較例1の場合であり、印刷枚数が500枚の時に、副走査速度変動比率変化量は、約2.0%であった。比較例1の場合であり、印刷枚数が1000枚の時に、副走査速度変動比率変化量は、約3.2%であった。実施例1は、比較例1の場合と比較して、エンコーダの汚れが少なく、装置の寿命を延ばすことができる。実施例1および実施例2は、比較例1よりもエンコーダの汚れが少なく、搬送速度が正確に維持されることにより、印刷品質の低下を抑制することができる。
【0166】
さらに実施例1の副走査速度変動比率変化量(%)は、実施例2の副走査速度変動比率変化量(%)より小さい。従って、パルスP5の第1膨張波形要素a1の開始から第1収縮波形要素c1の開始までの時間T1を0.45Tc~0.65Tcの範囲とし、第1収縮波形要素c1の開始から第3膨張波形要素a3の開始までの時間T4を0.9Tc~1.0Tcの範囲とすることで、さらにミストの発生を低減でき、エンコーダの汚れを低減できることが確認できた。それにより、実施例1は、さらにエンコーダの汚れが少なく、搬送速度が正確に維持されることにより、印刷品質の低下を抑制することができる。
【0167】
なお、本願において、「用紙」とは材質を紙に限定するものではなく、OHP、布、ガラス、基板などを含み、インク滴、その他の液体などが付着可能なものの意味である。本願における媒体は、被記録媒体、記録媒体、記録紙、記録用紙などと称されるものを含む。
【0168】
また、「画像形成装置」は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。また、「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与すること(単に液滴を媒体に着弾させること)をも意味する。
【0169】
また、「インク」とは、特に限定しない限り、インクと称されるものに限らず、記録液、定着処理液、液体などと称されるものなど、画像形成を行うことができるすべての液体の総称として用いる。例えば、DNA試料、レジスト、パターン材料、樹脂なども含まれる。
【0170】
また、「画像」とは平面的なものに限らず、立体的に形成されたものに付与された画像、また立体自体を三次元的に造形して形成された像も含まれる。
【0171】
また、画像形成装置には、特に限定しない限り、シリアル型画像形成装置及びライン型画像形成装置のいずれも含まれる。
【0172】
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0173】
例えば、上記実施の形態では、本発明に係る記録ヘッドを備えた画像形成装置について説明したが、本発明に係る記録ヘッド及びその制御は、画像形成装置を含めた液体を吐出する装置に広く適用することができる。
【0174】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0175】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0176】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0177】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0178】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0179】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0180】
又、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータ等を使用することができる。
【0181】
又、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等は何れも同義語とする。
【0182】
上記で説明した実施形態の制御部500で実行される各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるCPUのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(digital signal processor)、FPGA(field programmable gate array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。
【符号の説明】
【0183】
1 画像形成装置(液体吐出装置)
34(34a,34b) 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
42 用紙(媒体)
104 ノズル
106 個別液室
112 圧電部材(圧力発生部)
500 制御部
508 印刷制御部
509 ヘッドドライバ(ヘッド駆動制御部)
701 駆動波形生成部
Tc 固有振動周期
【先行技術文献】
【特許文献】
【0184】