(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061668
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】おりもの用テストストリップ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240425BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01N33/53 B
G01N33/543 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180650
(22)【出願日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022169526
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第69回日本臨床検査医学会学術集会抄録集 「日本臨床検査医学会誌 Vol.70補冊」 発行所:一般社団法人日本臨床検査医学会 発行日:令和4年10月31日 [刊行物等] 第69回日本臨床検査医学会学術集会 開催日:令和4年11月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522414648
【氏名又は名称】Cranebio株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】野本 貴志
(72)【発明者】
【氏名】橋野 央
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敬太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】竹下 元
(72)【発明者】
【氏名】阿部 美里
(72)【発明者】
【氏名】菅原 育
(72)【発明者】
【氏名】林 里沙子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 陽子
(57)【要約】
【課題】排卵日予測のための新たなツールとして用いることができるテストストリップを提供する。
【解決手段】おりもの中の黄体形成ホルモンを検出するためのイムノクロマト法を用いたテストストリップであって、
0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する、
テストストリップ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
おりもの中の黄体形成ホルモンを検出するためのイムノクロマト法を用いたテストストリップであって、
0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する、
テストストリップ。
【請求項2】
前記テストストリップが、5mm以下の幅を有する、
請求項1に記載のテストストリップ。
【請求項3】
前記テストストリップが、3mm以下の幅を有する、
請求項1に記載のテストストリップ。
【請求項4】
前記テストストリップが、
おりものに接触する第1部材
おりもの中の黄体形成ホルモンを認識する標識抗体を含有する、第2部材、及び
捕捉抗体を含有する表示部を有する、第3部材
を有しており、
前記捕捉抗体は、前記標識抗体と黄体形成ホルモンとの結合により形成される複合体を捕捉することができ、
前記おりもの中の黄体形成ホルモンが、前記第1部材から、前記第2部材を介して、前記第3部材の前記表示部に移動するように構成されており、かつ、
前記捕捉抗体が前記複合体を捕捉することによって、前記第3部材の前記表示部が呈色するように構成されている、
請求項1又は2に記載のテストストリップ。
【請求項5】
前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材が、この順番で、少なくとも部分的に互いに重なり合って積層されており、
前記積層方向における、前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材の厚みの合計が、1.5mm以下である、
請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項6】
膣に直接に接触させて用いるための、請求項5に記載のテストストリップ。
【請求項7】
前記テストストリップの表と裏とを視認によって区別できるように構成されている、請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項8】
前記第1部材が、0.5~5μmの平均繊維径を有する繊維からできており、
前記第2部材が、10~40μmの平均繊維径を有する繊維からできており、
かつ前記第1部材の繊維の平均繊維径が、前記第2部材の繊維の平均繊維径よりも小さい、
請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項9】
前記第1部材を構成する繊維の平均繊維径R1と、前期第2部材を構成する繊維の平均繊維径R2とが、5≦(R2/R1)≦20の関係を満たす、請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項10】
少なくとも下記の1つを満たす、請求項4に記載のテストストリップ:
(a)前記第2部材が、100gsm以上の目付を有する、
(b)前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材の厚みの合計が1.5mm以下であり、前記第2部材の厚みが、この厚みの合計の30%以上を占める、
(b)前記第2部材が、0.05~0.80g/m3の密度を有する。
【請求項11】
前記標識抗体が、10nm~500nmの粒径を有する着色剤を有する、
請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項12】
前記標識抗体が、250nm~500nmの粒径を有する着色剤を有する、
請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項13】
サンプルパッドである前記第1部材に、界面活性剤が塗布されている、
請求項4に記載のテストストリップ。
【請求項14】
サンプルパッドである前記第1部材が、ホウ素化合物及びレクチンを含む、
請求項4に記載のテストストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おりもの用テストストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
排卵日を事前に把握することは妊娠を希望する女性にとって重要である。従来、排卵日予測法として、尿中の黄体形成ホルモン(LH)を検査する方法及びそのキットが広く用いられている。
【0003】
また、液体試料中の分析物の存在を検出するためのラテラルフローアッセイが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、排卵日予測のための新たなツールとして用いることができるテストストリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記の態様を含む本発明によって解決できる:
<態様1>
おりもの中の黄体形成ホルモンを検出するためのイムノクロマト法を用いたテストストリップであって、
0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する、
テストストリップ。
<態様2>
前記テストストリップが、5mm以下の幅を有する、
態様1に記載のテストストリップ。
<態様3>
前記テストストリップが、3mm以下の幅を有する、
態様1に記載のテストストリップ。
<態様4>
前記テストストリップが、
おりものに接触する第1部材
おりもの中の黄体形成ホルモンを認識する標識抗体を含有する、第2部材、及び
捕捉抗体を含有する表示部を有する、第3部材
を有しており、
前記捕捉抗体は、前記標識抗体と黄体形成ホルモンとの結合により形成される複合体を捕捉することができ、
前記おりもの中の黄体形成ホルモンが、前記第1部材から、前記第2部材を介して、前記第3部材の前記表示部に移動するように構成されており、かつ、
前記捕捉抗体が前記複合体を捕捉することによって、前記第3部材の前記表示部が呈色するように構成されている、
態様1~3のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様5>
前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材が、この順番で、少なくとも部分的に互いに重なり合って積層されており、
前記積層方向における、前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材の厚みの合計が、1.5mm以下である、
態様4に記載のテストストリップ。
<態様6>
膣に直接に接触させて用いるための、態様5に記載のテストストリップ。
<態様7>
前記テストストリップの表と裏とを視認によって区別できるように構成されている、態様4~6のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様8>
前記第1部材が、0.5~5μmの平均繊維径を有する繊維からできており、
前記第2部材が、10~40μmの平均繊維径を有する繊維からできており、かつ
前記第1部材の繊維の平均繊維径が、前記第2部材の繊維の平均繊維径よりも小さい、
態様4~7のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様9>
前記第1部材を構成する繊維の平均繊維径R1と、前期第2部材を構成する繊維の平均繊維径R2とが、5≦(R2/R1)≦20の関係を満たす、態様4~8のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様10>
少なくとも下記の1つを満たす、態様4~9のいずれか一項に記載のテストストリップ:
(a)前記第2部材が、100gsm以上の目付を有する、
(b)前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材の前記厚みの合計が1.5mm以下であり、前記第2部材の厚みが、この厚みの合計の30%以上を占める、
(b)前記第2部材が、0.05~0.80g/m3の密度を有する。
<態様11>
前記標識抗体が、10nm~500nmの粒径を有する着色剤を有する、
態様4~10のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様12>
前記標識抗体が、250nm~500nmの粒径を有する着色剤を有する、
態様4~10のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様13>
サンプルパッドである前記第1部材に、界面活性剤が塗布されている、
態様4~12のいずれか一項に記載のテストストリップ。
<態様14>
サンプルパッドである前記第1部材が、ホウ素化合物及びレクチンを含む、
態様4~13のいずれか一項に記載のテストストリップ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排卵日予測のための新たなツールとして用いることができるテストストリップを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明に係るテストストリップの感度試験の結果を示す写真である。
【
図2】
図2は、本発明に係るテストストリップの発光強度試験の結果を示す写真である。
【
図3-1】
図3-1は、本発明に係るテストストリップの具体的な構成に関する概略図である。
【
図3-2】
図3-2は、本発明に係るテストストリップの具体的な構成に関する概念図である。
【
図4】
図4は、尿中LHサージを軸とした日数に対して、尿中LH濃度及び帯下中LH濃度をそれぞれプロットしたグラフである。
【
図5】
図5は、尿中LHサージを軸とした日数に対して、尿中LH濃度及び帯下中LH濃度をそれぞれプロットしたグラフである。
【
図6】
図6は、帯下中LHサージ日付近のLH濃度を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ROC解析の結果を示すグラフである。
【0009】
本テストストリップは、おりもの中のLHを信頼性高く検出することができるので、排卵日予測のための新たなツールとして用いることができる。具体的には例えば、おりものを検体としてLHサージを検出するためのバイオマーカーとして用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下で、本発明の詳細について記載する。
<態様1>
おりもの中の黄体形成ホルモンを検出するためのイムノクロマト法を用いたテストストリップであって、
0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する、
テストストリップ。
【0011】
上述のとおり、従来の排卵日予測法では尿を検出対象とする方法が一般的であった。これに対して、本件発明者は、排卵日予測のための新たなツールの開発のために、膣排出物であるおりものに着目した。
【0012】
おりもの中の黄体形成ホルモンについては、これまでに知見がほとんどなかった。また、おりものは粘性が比較的高く流動性が低い。さらに、おりものは、尿などと比較してサンプル量が少ない。そのため、特にイムノクロマト法を用いた検出において、従来の方法では、おりもの中のLHを検出することが容易でない場合があった。
【0013】
このような背景において本件発明者は、0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する本件ストストリップによれば、おりもの中の黄体形成ホルモンを信頼性高く検出することでき、かつ排卵日を信頼性高く予測できることを見出した。したがって、態様1に係るテストストリップによれば、排卵日予測のための新たなツールとして用いることができるテストストリップを提供することができる。
【0014】
前記テストストリップは、好ましくは0.05mIU/mL~2.0mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する。
【0015】
当業者には容易に理解されることであるが、「0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモン(LH)を陽性として検出する」とは、LH濃度が当該濃度範囲に含まれる場合に陽性を示すことを意味しており、LH濃度が当該濃度範囲に含まれる場合に「のみ」陽性を示すという意味ではない。すなわち、例えば、0.05mIU/mL~10.0mIU/mLの濃度範囲にあるLHに対して陽性を示すテストストリップは、0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの濃度範囲に含まれるLHに対して陽性を示すので、本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明の重要な点は、従来の尿LH検出とは異なり、テストストリップが、0.05mIU/mL~2.5mIU/mLという比較的低濃度の範囲に含まれるLHを陽性として検出するように構成されている点にある。
【0017】
なお、検出の信頼性を向上させる観点からは、本テストストリップが、0.001mIU/mL未満の範囲では陽性を検出しないことが好ましく、特には、0.005mIU/mL未満、0.01mIU/mL未満、0.02mIU/mL未満、0.03mIU/mL未満、0.04mIU/mL未満、又はさらには0.05mIU/mL未満の範囲では陽性を検出しないことが好ましい。
【0018】
上記態様1に係るテストストリップは、例えば、黄体形成ホルモンが上記の濃度範囲に含まれる場合に、呈色することによって、陽性検出を行うことができる。
【0019】
また、上記態様1に係るテストストリップでは、例えば、黄体形成ホルモンが上記の濃度範囲(例えば0.05mIU/mL~2.5mIU/mL)に含まれる場合に、最大の呈色程度よりも低い程度で呈色できる。呈色の程度は、例えば、目視によって確認できる。
【0020】
上記の濃度範囲に含まれるLHを陽性として検出できるテストストリップは、例えば、黄体形成ホルモンに反応する物質(例えば抗体)の感度(例えば着色剤)を調節することによって作製でき、特には、黄体形成ホルモンを認識する抗体に付着した着色剤の大きさなどを調節することによって作製できる。
【0021】
前記テストストリップは、
より好ましくは0.05mIU/mL~1.0mIU/mL、
さらに好ましくは0.05mIU/mL~0.5mIU/mL、
さらにより好ましくは0.05mIU/mL~0.2mIU/mL
の黄体形成ホルモンを陽性として検出する。
【0022】
テストストリップの検出濃度は、LHのカゼインブロッキングバッファー溶液を標準液として用いて測定することができる。
【0023】
LHのカゼインブロッキングバッファー溶液は、例えば、下記の方法で調製できる:
(a)カゼインブロッキング剤(1.0%Casein、100mM Borate、pH8.5)を精製水に溶解させてブロッキングバッファーを作製する。
(b)濃度既知のLH溶液をブロッキングバッファーで希釈して、LHの標準液を作製する。
【0024】
カゼインブロッキング剤は、例えば、下記のようにして調製できる:
(1.0%Casein、100mM Borate、pH8.5)
(a)1000mlのビーカーに800gの蒸留水を添加する。
(b)2.0mlの20%NaOHを添加する。
(c)10分攪拌する。
(d)10.0gのカゼイン粉末をゆっくり添加する。
(e)3時間攪拌する。
(f)6.18gのホウ酸(=100mMを添加する)。
(g)10分攪拌する。
(h)2.5mlの20%NaOHを添加する。
(i)蒸留水で1000mlまで希釈する。
(j)10分攪拌する。
(k)pHを測定する。
(l)フィルターユニット(孔径0.45μm)を用いてろ過する
(m)30℃で24時間にわたって熱処理する。
(n)保存用に15ml又は50mlの容器に分注する。
(o)-80℃で保存する。
【0025】
なお、従来の尿中LH検査法は、本発明に係る0.05mIU/mL~2.5mIU/mLという濃度範囲よりもはるかに高い濃度範囲を陽性として検出することを想定している。また血液中については採取し、検出することは可能であるが、血を取る際に痛みが伴ったり、採取時に身体を傷つけてしまうため、簡便ではない。
【0026】
例えば、従来文献(Bioeng.Transl.Med.,2017,2(3):238-246)によれば、尿中の自然なLHサージ濃度は20~100mIU/mlである。
【0027】
また、従来の尿検体を用いた黄体形成ホルモンキットは、尿中の黄体形成ホルモンの濃度として20mIU/mL~100mIU/mLを、検出感度の範囲としている(厚生労働省 薬生機発0222第1号、平成28年2月22日)。
【0028】
また、下記の文献は、尿及び血中ホルモンに関する文献であり、月経サイクルにおける尿中の生殖ホルモンのレベルの研究に関するものであり、排卵日の前日に、合計LH値のメジアン値が38.3(mIU/ml)であったことを記載している(Table2):
「Monitoring the menstrual cycle: comparison of urinary and serum reproductive hormones referenced true ovulation」、The European Journal of Contraception and Reproductive Health Care,2015;Early Online:1-13。
【0029】
また、下記の文献は、尿及び血中ホルモンに関する文献であり、女性の排卵期におけるLH参考基準範囲として、8~100(mIU/mL)を記載している:
「関西医科大学_内分泌基準値一覧」
【0030】
さらに、下記の文献は、ベースラインLH値として6.69(±5.22)(mIU/mg Cr)を記載しており、LHピーク値として41.2(±20.0)(mIU/mg Cr)を記載している:
Characteristics of the urinary luteinizing hormone surge in young ovulatory women」Fertil.Steril.2007 Sep;88(3);684―90
【0031】
<態様2>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様2)では、テストストリップが、5mm以下の幅を有する。
【0032】
テストストリップの幅は、1mm~10mmであってよいが、好ましくは5mm以下である。テストストリップの幅の上限は、さらには4mm以下であってよい。特に好ましくは、テストストリップの幅が、1mm以上5mm未満、1.5mm~4.5mm、又はさらには2mm~4mmである。テストストリップの幅がこれらの範囲にある場合には、呈色反応などの特に良好な視認性が得られることがある。
【0033】
<態様3>
本開示に係るテストストリップの1つの態様では、テストストリップが、3mm以下の幅を有する。
【0034】
テストストリップの幅は、使用者の視認性や加工性の観点からは、好ましくは2mm以上である。特に好ましくは、テストストリップの幅は、2~3mmである。
【0035】
態様2及び態様3に係るテストストリップでは、テストストリップの幅が5mm以下、又はさらには3mm以下に低減されているので、検出のために保持される必要のある液量が、比較的低減されている。したがって、態様2又はさらには態様3に係るテストストリップによれば、量が少なく粘性が高くかつLH量が少ないおりものを検出対象とした場合であっても、良好にLHの検出を行うことができる。
【0036】
<態様4>
本開示に係るテストストリップの1つの態様では、テストストリップが、
おりものに接触する第1部材
おりもの中の黄体形成ホルモンを認識する標識抗体を含有する、第2部材、及び
捕捉抗体を含有する表示部を有する、第3部材
を有しており、
前記捕捉抗体は、前記標識抗体と黄体形成ホルモンとの結合により形成される複合体を捕捉することができ、
前記おりもの中の黄体形成ホルモンが、前記第1部材から、前記第2部材を介して、前記第3部材の前記表示部に移動するように構成されており、かつ、
前記捕捉抗体が前記複合体を捕捉することによって、前記第3部材の前記表示部が呈色するように構成されている。
【0037】
態様4に記載のテストストリップによれば、呈色反応を介して、簡便かつ迅速に黄体形成ホルモンの検出を行うことができる。
【0038】
テストストリップの測定原理を、具体例を用いて説明する。例示的な態様では、例えば、標識抗体が、着色剤標識抗ヒト黄体形成ホルモンマウスモノクローナル抗体であり、捕捉抗体が、抗ヒト黄体形成ホルモンマウスモノクローナル抗体である。第1部材に接触した検体中にヒト黄体形成ホルモン(hLH)が存在すると、第2部材中で標識抗体がhLHと反応し、抗原-抗体反応に基づく複合体を形成する。この複合体は、第3部材の表示部にまで移動し、そこに固定的に結合している捕捉抗体に捕捉され、その結果、表示部が、着色剤(色素)に基づいて呈色する。
【0039】
なお、抗原の移動方向における表示部の下流側に、第2表示部(コントロール部)を設けることができる。このコントロール部には、上記の捕捉抗体とは別の第2の捕捉抗体(例えばウサギ抗マウス免疫グロブリンポリクローナル抗体)が固定的に結合している。この第2の捕捉抗体は、標識抗体を認識できる。抗原と複合体を作らない標識抗体は、表示部で捕捉されずにこれを通過し、コントロール部で捕捉されるので、その結果、コントロール部が、着色剤に基づいて呈色する。
【0040】
この態様では、陽性の場合に、表示部及びコントロール部が呈色し、陰性の場合には、コントロール部のみが呈色する。
【0041】
テストストリップの構成の詳細については後述する。
【0042】
<態様5>
本開示に係るテストストリップの1つの態様では、前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材が、この順番で、少なくとも部分的に互いに重なり合って積層されており、
前記積層方向における、前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材の厚みの合計が、1.5mm以下である。
【0043】
上述のとおり、おりものは粘性が比較的高く流動性が低い。また、おりものは、尿などと比較して量が少ない。そのため、特にイムノクロマト法を用いた検出において、従来の方法では、おりもの中のLHを検出することが容易でない場合があった。
【0044】
さらに、本件発明者らは、おりもの中LHは尿中LHと比較して量が少ないことを見出した。従来のテストストリップでは、おりもの中のLHを検出することは容易でない。
【0045】
これに対して、態様5に係るテストストリップでは、テストストリップを構成する部材の厚みが低減されているので、検出のために保持される必要のある液量が、比較的低減されている。したがって、態様5に係るテストストリップによれば、量が少なく粘性が高くかつLH量が少ないおりものを検出対象とした場合であっても、良好にLHの検出を行うことができる。
【0046】
各部材の厚み(メンブレン厚)の好適範囲は、90~230μm、より好ましくは100~220μmである。特には、各部材の厚み(メンブレン厚)の好適範囲は、160~230μm、より好ましくは180~220μmである
【0047】
<態様6>
本開示に係るテストストリップの1つの態様は、膣に直接に接触させて用いるための、態様5に記載のテストストリップである。
【0048】
テストストリップを膣に直接に接触させて用いる場合には、使用者が自分で検知結果を確認できる簡便性が得られる。一方で、目視で確認しにくい部位のため、手探りで使用すると粘膜を傷つけるおそれがある。
【0049】
これに対して、態様5に係る発明では、排泄されたおりもののLHを膣から直接採取でき、かつ精度が確保されるとともに、比較的薄い構成を有しているので、粘膜を傷つけるおそれが低減されている。
【0050】
<態様7>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様7)では、テストストリップが、テストストリップの表と裏とを視認によって区別できるように構成されている。これによれば、テストストリップの使用者はおりものが適用されるべきストリップの側を判断できるので、誤使用や誤検出を防ぐことができる。
【0051】
<態様8>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様8)では、
前記第1部材が、0.5~5μmの平均繊維径(又は0.01~0.1dtexの繊度)を有する繊維からできており、
前記第2部材が、10~40μmの平均繊維径(又は2~6dtexの繊度)を有する繊維からできており、
前記第1部材の繊維の平均繊維径が、前記第2部材の繊維の平均繊維径よりも小さい。
【0052】
上述のとおり、おりものは粘性が比較的高く流動性が低い。そのため、特にイムノクロマト法を用いた検出において、おりもの中のLHを検出することが容易でない場合があった。また、本件発明者らは、おりもの中LHは尿中LHと比較して量が少ないことを見出した。
これに対して、態様8に係るテストストリップでは、テストストリップを構成する部材の平均繊維径が最適化されているので、少量かつ粘性の高いおりものであっても、検出部位(表示部)にまで効率的に移動させることができ、良好に検出を行うことができる。
【0053】
第1部材は、好ましくは1~4μmの平均繊維径、より好ましくは1.5~3μmの平均繊維径、を有する繊維からできている。
【0054】
第1部材は、好ましくは0.02~0.08dtexの繊度、より好ましくは0.03~0.06dtexの繊度、を有する繊維からできている。
【0055】
第2部材は、好ましくは15~30μmの平均繊維径、より好ましくは18~25μmの平均繊維径、を有する繊維からできている。
【0056】
第2部材は、好ましくは2.5~5dtexの繊度、より好ましくは3~5dtexの繊度、を有する繊維からできている。
【0057】
好ましくは、第1部材の繊維の平均繊維径が、第2部材の繊維の平均繊維径よりも小さい。この場合には、特に比較的粘性の高いおりものに対して、第1部材における吸収をさらに向上できる。
【0058】
第1部材及び第2部材を構成する繊維の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡によって計測でき、N=30以上の繊維で計測した繊維径の平均値を平均繊維径とすることができる。なお、断面で計測する場合にはカットの際に繊維形状が変化している可能性があるので注意する。また、平面方向で測定する場合には溶着している場合もあるので、溶着部など形状が変化している部分は避けて測定を行う。
【0059】
<態様9>
本開示に係るテストストリップの1つの態様では、前記第1部材を構成する繊維の平均繊維径R1と、前期第2部材を構成する繊維の平均繊維径R2とが、5≦(R2/R1)≦20の関係を満たす。
【0060】
この態様によれば、テストストリップを構成する第1部材と第2部材の平均繊維径の相対的な関係が最適化されているので、その結果として、少量かつ粘性の高いおりものであっても、検出部位(表示部)にまで効率的に移動させることができ、良好に検出を行うことができる。すなわち、特には粘性の高いおりものに対して、第1部材における吸収性が向上する。また、第2部材において、標識抗体の担持率が向上するという効果も得られる。
【0061】
より好ましい態様では、
6≦(R2/R1)≦18
7≦(R2/R1)≦16
8≦(R2/R1)≦14
9≦(R2/R1)≦12
を満たす。
【0062】
<態様9-2>
本開示に係るテストストリップの1つの態様では、前記第1部材を構成する繊維の繊度D1と、前期第2部材を構成する繊維の繊度D2とが、50≦(D2/D1)≦200の関係を満たす。
【0063】
この態様によれば、テストストリップを構成する第1部材と第2部材の繊度の相対的な関係が最適化されているので、その結果として、少量かつ粘性の高いおりものであっても、検出部位(表示部)にまで効率的に移動させることができ、良好に検出を行うことができる。
【0064】
より好ましい態様では、
60≦(D2/D1)≦190
70≦(D2/D1)≦180
80≦(D2/D1)≦170
90≦(D2/D1)≦160
を満たす。
【0065】
<態様10>
本開示は、少なくとも下記の1つを満たす、態様3~9のいずれかのテストストリップを含む:
(a)前記第2部材が、100gsm以上の目付を有する、
(b)前記第1部材、前記第2部材、及び前記第3部材の前記厚みの合計が1.5mm以下であり、前記第2部材の厚みが、この厚みの合計の30%以上を占める、
(b)前記第2部材が、0.05~0.80g/m3の密度を有する。
【0066】
態様10に記載の発明によれば、第2部材(コンジュゲートパッド)の目付、厚み、及び/又は密度が最適化されており、それによって標識抗体の拡散性などが向上している。したがって、粘度が比較的高いおりものであっても、良好に検出ができるようになっている。
【0067】
<態様11>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様11)では、前記標識抗体が、10nm~500nmの粒径を有する着色剤を有する。
【0068】
LHに結合する標識抗体の着色剤が10nm~500nmの粒径を有する場合には、十分な検出性を確保できる。
【0069】
このような着色剤としては、金コロイド、及びセルロースナノ粒子が挙げられる。金コロイドは、一般的に、約40~100nmの粒径を有する。
【0070】
<態様12>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様12)では、前記標識抗体が、250nm~500nm(好ましくは280~450nm、更に好ましくは300nm~400nm)の粒径を有する着色剤を有する。このような着色剤としては、セルロースナノ粒子が挙げられる。
【0071】
上述のとおり、本件発明者らは、おりもの中LHは尿中LHと比較して量が少ないことを見出した。この場合、従来の(特に尿中LHを対象とする)テストストリップでは、おりもの中のLHを検出することは容易でない。
【0072】
これに対して、態様12に係るテストストリップでは、LHに結合する標識抗体が比較的大きい粒径を有する着色剤を有しているので、検出の視認性が向上している。したがって、態様12に係るテストストリップによれば、LH量が少ないおりものを検出対象とした場合であっても、良好にLHの検出を行うことができる。
【0073】
<態様13>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様13)では、サンプルパッドである前記第1部材に、界面活性剤が塗布されている。
【0074】
サンプルパッドである第1部材に界面活性剤が塗布されている場合には、対象物(おりもの)とサンプルパッドとの間の最適な親和性を提供できるという効果が得られる。
【0075】
<態様14>
本開示に係るテストストリップの1つの態様(態様14)では、サンプルパッドである前記第1部材が、ホウ素化合物及びレクチンを含む。
【0076】
態様14によれば、ムチンの抗原抗体反応の阻害抑制が可能になる。
【0077】
<テストストリップの具体例>
本発明のテストストリップについて、図面を参照して具体的に説明する。なお図面は必ずしも縮尺どおりではなく、本発明を限定するものではない。
【0078】
図3-1のテストストリップ(検査部材)60は、排泄物(おりもの)に基づいて呈色しうる表示部(62A及び62B)を有する。テストストリップ60は、おりものを接触させる接触部(第1部材、例えばサンプルパッド)64を有する。テストストリップ60は、おりものに含まれる成分(以下、おりもの成分)が移動する移動部を有してよい。移動部では、おりもの成分が毛細管現象により移動してよい。移動部は、おりもの成分が接触部64から表示部(62A及び62B)まで移動する表示移動部66Aと、おりもの成分が表示部(62A及び62B)から離れる方向へ移動する終端移動部66Bとを有してよい。終端移動部は、表示部(62A及び62B)を通過したおりもの成分等が移動する部分である。
【0079】
おりものが接触する接触部(第1部材)64は、例えばパッド(サンプルパッド又は検体パッドと称されてよい)により構成されてよい。接触部64に接触したおりもの中のおりもの成分は、例えばパッド中を移動して、第2部材(例えばコンジュゲートパッド)に移行する。コンジュゲートパッドは、おりもの中の黄体形成ホルモンを認識する標識抗体を含有する。コンジュゲートパッド(第2部材)は、
図3-1では図示されていないが、例えば、サンプルパッド(第1部材)と厚み方向で重なり合うように配置されてよい。おりもの成分、おりもの成分に含まれる黄体形成ホルモンと抗原抗体反応を起こして形成された複合体、及び、標識抗体が、毛細管現象により、移動部66Aを移動してよい。これらの物質が移動する部分は、例えばメンブレンにより構成されてよい。表示部は、形成された複合体を捕捉(結合)する補足抗体を含有する部位62Aを有する。この部位は、複合体が捕捉抗体により補足されることで呈色する。表示部のこの部位62Aは、テストラインと称されてよい。
【0080】
表示部は、複合体を捕捉する捕捉抗体を含有する部位62Aとは別の捕捉抗体を含む部位62Bを有してよい。部位62Bの捕捉抗体は、部位62Aで捕捉された複合体と別の複合体を捕捉してもよいし、標識抗体を捕捉してよい。部位62Bは、複合体又は標識抗体が捕捉されることで呈色する。標識抗体を捕捉する部位62Bは、コントロールラインと称されてよい。表示部62を通過したおりもの成分(すなわち、捕捉抗体により補足されなかった成分)は、終端移動部66Bを移動する。終端移動部66Bは、メンブレンにより構成されてよい。また、終端移動部66Bは、表示部62を通り過ぎたおりもの成分を吸収する吸着パッドを有してよい。吸着パッドの代わりに、表示部62を通り過ぎたおりもの成分は、吸収コアに吸収されてよい。イムノクロマト法が用いられる場合、表示部62と接触部64とは異なる位置に配置されている。従って、この場合、表示部62と接触部64とは異なる。
【0081】
テストストリップ(検査部材)60は、標識抗体及び捕捉抗体などの物質を保持又は含有できる部材を有していればよく、例えば、紙、不織布、織布などのいずれかの材料により構成されてよい。
【0082】
テストストリップの概念図を、添付の
図3―2に示す。テストストリップのその他の構成については、例えば、WO2021/132724A1の記載を参照できる。
【0083】
<おりものから黄体形成ホルモンを検出する方法>
本開示は、イムノクロマト法を用いたテストストリップを用いておりものから黄体形成ホルモンを検出する方法を含み、この方法は、
テストストリップにおりものを付着させる工程を含み、
テストストリップにおいて、0.05mIU/mL~2.5mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する。
【0084】
この方法におけるテストストリップ等の各構成要素の詳細については、テストストリップに関する上記の記載を参照できる。
【0085】
テストストリップにおりものを付着させる方法については特に限定されず、テストストリップに関する上記の記載を参照できる。例えば、上記態様4のテストストリップにおいて、第1部材(特にはサンプルパッド)におりものを直接付着させることによって、おりものをテストストリップに付着させることができる。好ましくは、テストストリップを膣(外陰部)に直接接触させる。
【0086】
上記方法の1つの実施態様では、0.05mIU/mL~1.0mIU/mL、又は0.05mIU/mL~0.5mIU/mL、又はさらには0.05mIU/mL~0.2mIU/mLの黄体形成ホルモンを陽性として検出する。
【実施例0087】
以下で、実施例を参照して、本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0088】
<実験例>
<<帯下中黄体形成ホルモン(LH)の排卵日予測バイオマーカーとしての可能性>>
排卵日予測バイオマーカーとして帯下黄体形成ホルモン(LH)を用いることに関する試験を行った。
【0089】
排卵日を事前に把握することは妊娠を希望する女性(妊活女性)にとって重要である。利便性などの観点から現在最も広く用いられているのは尿中黄体形成ホルモン(LH)の検査キットである。尿中LHの測定は検査キットに尿をかけて15分程度で完了する比較的簡便なものである。しかし、毎日の測定は利用者に対して負担が大きく、妊活女性の尿中LH検査キット利用率は決して高くはない。そこで、新たな排卵日予測の手段を確立するために、測定検体として帯下に着目した。帯下は非侵襲的に採取可能というだけではなく、意識的に採取する必要のない点で、利用者の負担がきわめて小さい「気づいたら測定が終わっている検査」を実現し得る検体である。一方で、帯下は測定検体としての研究例が少なく、LHをはじめとする排卵予測バイオマーカーの測定は報告されていない。そこで、帯下中LHの特定を行い、バイオマーカーとしての可能性を検証した。
【0090】
試験の方法及び結果並びに検討及び結論を下記に示す。
【0091】
<Methods(試験方法)>
●被験者のリクルーティング
20歳以上、40歳未満の月経関係の疾病を有さない女性であり、未妊、経産は不問とした。
【0092】
●被験者らの検体の回収
被験者に尿の検体採取キット及び無香料のパンティライナーを支給し、月経後10日目から月経後19日目の尿、及びパンティライナーを回収した。パンティライナーからの液体の蒸発を防ぐため、パンティライナーは着脱後すぐに非透湿性フィルムに梱包した上で-18℃以下で保管の上、-15℃以下で輸送し回収した。
【0093】
●パンティライナーからの帯下成分の抽出
回収したパンティライナーの中心部を2cm2に切り取り、500μlのPBSに含浸後、3600rpmの遠心操作によって抽出液を回収、測定検体とした。
●検体の測定
尿中及び帯下中のLHはEnzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA法)により測定を行った。また、検体の濃度の外的要因を除外するため、尿は尿中クレアチニン(ELISA法)、帯下は総タンパク量(BCA assay)により測定し、補正を行った。
【0094】
●帯下サージの定義
帯下中LHサージは以下のように規定した。
□前日と比較し、2倍以上の濃度上昇を認め、かつ帯下中LH/総タンパク質が0.05mlU/mgを超えた場合
□複数のピークが存在した場合、実際の帯下中LH検査を想定し、ピークトップではなく最も手前のピーク。
【0095】
●除外規定
以下の条件のいずれかに合致したものは測定検体として除外した。
□回収期間に尿中LHサージが現れなかった検体
□回収期間に尿中LHサージと考えられる濃度上昇は見られたが、期間内に濃度が下がらなかった検体
□帯下の回収が出来ず、帯下中LHのサージ開始日が判明しない検体
【0096】
●分析に使用した検体数
□16人
□29検体
【0097】
Results(結果)
(1)
図4及び
図5は、尿中LHサージを軸とした日数に対して、尿中LH濃度及び帯下中LH濃度をそれぞれプロットしたグラフである。尿中LHは血中LHと比較して数時間遅れでサージが現れることが知られているが、帯下中LHは尿中LHと定まった関係性をとらず、同じ日にサージが観測されるパターンの他に前後にサージがずれて観測されるパターンが存在した。
【0098】
(2)表1は、尿中LHサージから想定される排卵日と帯下中LHサージの観測検体数の割合を示す。Fertile WindowはDunson(※2)らの報告によって定められた基準を用いた。排卵日を尿中LHサージを基準として定めた場合にFertile Windowに帯下中LHサージが現れる割合は86%であった。
(*2)D.B.Dunson et al.Day-specific probabilityes of clinical pregnancy based on two studies with imperfect measures of ovulation、Human Reproduction、1999;14(7):1835-1839
【0099】
【0100】
図4~
図7で見られるとおり、おりもの中LHサージは、Fertile Windowに86%の割合で現れるので、本発明に係るテストストリップは、排卵日予測のためのバイオマーカーとして十分に機能し得ることがわかる。
【0101】
(3)サージ日とその前日とを比較し、サージの強さを測定した。その結果、帯下中LHは0.15mIU/mgの閾値において感度85%特異度77%であった。また、ROC解析の結果、AUCは0.79であった。
図6は、帯下中LHサージ日付近のLH濃度を示すグラフである。
図7は、ROC解析の結果を示すグラフである。
【0102】
Disucussion&Conclusion(検討及び結論)
帯下中LHサージはFetile Windowに86%の割合で現れることから、バイオマーカーとして十分機能しうる。また、帯下中LHサージは有意に強いものであり、適切な測定系の構築により、感度85%、特異度77%にて鑑別する性能を有していた。
【0103】
本研究は、ウェアラブル型の帯下中LH測定系の可能性のうち、生物学的な面での可能性を示すものであり、検査デバイスの開発により、妊活女性がより負担なく妊娠する可能性が高まると考えられる。
【0104】
<結果のまとめ>
排卵日を事前に把握することは妊娠を希望する女性にとって重要である。現状の排卵日予測は超音波を用いた直接的な観測法から、基礎体温や羊歯状結晶観測など様々な手法が存在するが、利便性などの観点から尿中黄体形成ホルモン(LH)の検査が最も広く使われている。尿中LHの測定は検査キットに尿をかけて15分程度で完了する比較的簡便なものではあるが、それでも毎日の測定は利用者に対して負担が大きく、妊活女性の尿中LH検査キット利用率は決して高くはない。そこで、当研究グループでは検体として帯下に着目した。帯下は非侵襲的に採取可能なだけでなく、意識的に採取する必要のない点で、利用者の負担が極めて小さいというメリットが挙げられる。しかし、帯下中のLHについては十分に研究がされておらず、帯下中にLHがどれくらいの量含まれており、その挙動は排卵日の予測に十分なものなのかは明らかになっていなかった。本試験では、上記のとおり、29人の被験者について、月経開始10日後から19日後まで10日間の尿および帯下を回収し、ELISA法によって被験者の尿中および帯下中LHを測定、比較を行った。結果、帯下中のLHにも尿中と同様のサージが観測され、尿中LH検査キットの尿中LHサージが排卵日の1日前と仮定した場合、妊娠確率の高い「排卵5日前から0日前」に帯下中LHサージが現れた割合は86%であった(上記表1)。また、帯下中LHは尿中LHと比較して量が少なく、検出には市販の尿中LH検査キットより高感度の検出系が必要であることも判明した。本試験の結果により、尿中LHと帯下中LHは濃度やサージ日など様々な点において同じ挙動を示したとは言えないものの、帯下中LHを測定することによる排卵日予測は十分に可能であると考えられる。
【0105】
<<実施例1~2>>
【0106】
実施例1~2では、本発明に係るテストストリップとして、「実施例1」及び「実施例2」を作製し、性能を調べた。
【0107】
(標準液A)
LH標準溶液は、LHのカゼインブロッキングバッファー溶液を用いた。具体的には、陽性検体溶液として「ルミパルスプレストLH LHキャリブレータ(250mIU)」(富士レビオ株式会社:CODE No.291573)を用い、希釈溶液として1%casein、100mM Borate、pH8.5を用い、陽性検体溶液を希釈溶液で任意の濃度に希釈して標準溶液とした。
【0108】
(実施例1)
実施例1のテストストリップは、
おりものに接触する第1部材
おりもの中の黄体形成ホルモンを認識する標識抗体を含有する第2部材、及び
捕捉抗体を含有する表示部を有する第3部材
を有しており、
捕捉抗体は、標識抗体と黄体形成ホルモンとの結合により形成される複合体を捕捉することができ、
おりもの中の黄体形成ホルモンが、第1部材から、第2部材を介して、第3部材の表示部に移動するように構成されており、かつ、
捕捉抗体が複合体を捕捉することによって、第3部材の前記表示部が呈色するように構成されていた。
【0109】
(実施例1(スペック1))
実施例1のテストストリップの長さは12mmであり、幅は3mmであった。第1部材としてのサンプルパッドの厚みは0.1mmであり、第2部材としてのコンジュゲートパッドの厚みは0.55mmであり、及び第3部材としてのメンブレンの厚みは0.1mmであり、第1~第3部材の厚みの合計は0.75mmであった。第1部材を構成する繊維の平均繊維径は約2μmであり、第2部材の平均繊維径は約20μmであった。コンジュゲートパッド中の標識抗体は、着色剤として、赤色の粒径335nmのナノビーズ(製品名:NanoAct、旭化成社製)を有していた。
【0110】
第1部材及び第2部材を構成する繊維の平均繊維径は、所定の大きさにカットしたサンプルを走査型電子顕微鏡(日立ハイテック社製FlexSEM1000)にセットして繊維径を測定し、N=30以上の繊維径の計測値を平均することによって得た。
【0111】
(実施例2(スペック2))
実施例2のテストストリップの寸法及び第1~第3部材の寸法は、上記実施例1と同様であった。実施例2のコンジュゲートパッド中の標識抗体は、着色剤として、青色の粒径320nmのナノビーズ(製品名:NanoAct、旭化成社製)を有していた。
【0112】
さらに、実施例1及び実施例2で用いた標識抗体は、LHの認識様式の点で異なっていた。LHは、αとβの2つのサブユニットで構成される糖タンパクであり、LHサージを超えるとこれらのサブユニットが分離する。実施例1で用いた抗体はαサブユニット及びβサブユニットが結合されたもの(α-β)のみに結合するのに対して、実施例2で用いた抗体は、αサブユニット及びβサブユニットが結合されたもの(α-β)にできるとともに、βサブユニットにも結合できる。
【0113】
また、実施例2は、実施例1と比較して、薄くても見やすい青色を採用しているとともに、標識抗体の量を2倍にしていた。
(感度試験)
上記実施例1及び実施例2のテストストリップのサンプルパッド上に、種々の濃度のLHを含有する標準液を24μL×2回、滴下し、30分後に、表示部の呈色を確認した。実施例1と2の違いとしては検出精度も向上しているが、視認性も向上しているため着用者が自分で判断できる確率が向上している。
【0114】
【0115】
図1からもわかるとおり、実施例1は、LH濃度が0.5又は1.0mIU/mL以上であった場合に、表示部における呈色を確認することができた。
【0116】
実施例1については、少なくとも0.5~1IU/mLの濃度範囲において、LH濃度と呈色強度との間で比例関係を確認することができた。
【0117】
また、
図1からもわかるとおり、実施例2は、LH濃度が0.05又は0.1mIU/mL以上であった場合に、表示部における呈色を確認することができた。
【0118】
実施例2については、少なくとも0.05~1.0mIU/mLの濃度範囲において、LH濃度と呈色強度との間で比例関係を確認することができた。
【0119】
<比較>
実施例1及び実施例2のテストストリップについて、発色強度の比較を行った。
【0120】
結果を
図2に示す。
図2からわかるとおり、本発明に係るテストストリップは、広いLH濃度範囲にわたって良好な発色強度を示した。実施例2のストリップ(実施例2)は、実施例1のストリップ(実施例1)よりも良好な発色強度を示した。
【0121】
<<実施例3~4>>
実施例3~4では、テストストリップの幅と呈色の視認性との関係を調べた。実施例3のテストストリップは5mmの幅を有しており、実施例4のテストストリップは3mmの幅を有していた。なお、テストストリップの幅とは、テストストリップの全体的な平面において、テストストリップの長さ方向(特にはおりものの進行方向)に直交する方向での長さを意味する。
【0122】
3名の被験者からそれぞれ10~12日間にわたって採取したおりものを、上記実施例2と同様の構成を有する実施例3又は4のテストストリップのサンプルパッド上に付着させ、表示部における呈色を観察した。実施した検査の総数は、実施例3についてn=25、実施例4についてn=28であった。
【0123】
表示部における呈色について、コントロールラインがはっきり視認できた場合(〇)、コントロールラインは視認できるものの視認性がやや劣る場合(△)、の割合を算出した。結果を下記の表2に示す。
【0124】
【0125】
表2で見られるとおり、幅が3mmであった実施例4に係るテストストリップは、幅が5mmであった実施例3に係るテストストリップと比較して、より優れた視認性を示した。
【0126】
理論によって限定する意図はないが、テストストリップの幅が比較的狭いことによって、サンプルのフロー性が向上したと考えられる。すなわち、実施例4のテストストリップでは、呈色部位である表示部に到達するおりもの(及びその成分)成分が比較的増加した結果として、視認性が向上したと考えられる。