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特開2024-61924バリア層及びバリア層の形成方法並びに配線基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061924
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】バリア層及びバリア層の形成方法並びに配線基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/285 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
H01L21/285 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169555
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】509080118
【氏名又は名称】嶺南大學校 産學協力團
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム スーヒョン
(72)【発明者】
【氏名】森 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】小次 洋平
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104BB04
4M104DD43
4M104DD45
4M104FF17
4M104FF18
(57)【要約】
【課題】銅配線からの金属拡散の抑制効果に優れ、所望の領域に選択的に成膜可能なバリア層の構成とその形成方法を提供する。
【解決手段】本発明は、配線基板における銅配線等の金属配線の下地膜として基板表面に形成されるバリア層に関する。このバリア層は2層構造を有し、基板上に形成される、Al、Zn、Mn、Ti、Coのいずれかの金属の金属酸化物からなる第1の薄膜と、第1の薄膜上に形成されるRuからなる第2の薄膜とで構成される。これらの薄膜は化学蒸着法によりマイルドな成膜条件で成膜可能である。そして、バリア層を構成する薄膜を成膜する前に、成膜を阻害するインヒビターを非成膜領域に吸着させることで、所望の成膜領域に選択的にバリア層を形成することができる。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属配線の下地膜として基板表面に形成されるバリア層において、
前記基板上に形成される、Al、Zn、Mn、Ti、Coのいずれかの金属の金属酸化物からなる第1の薄膜と、
前記第1の薄膜上に形成される、Ruからなる第2の薄膜と、からなるバリア層。
【請求項2】
前記第1の薄膜の膜厚は、0.5nm以上3nm以下である請求項1記載のバリア層。
【請求項3】
基板の少なくとも一部にバリア層と金属配線が形成された配線基板において、
前記バリア層として請求項1又は請求項2に記載のバリア層が形成され、前記バリア層上に前記金属配線が形成されてなる配線基板。
【請求項4】
基板のバリア層が形成される部分の表面が絶縁材料で構成されている請求項3記載の配線基板。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のバリア層の形成方法であって、
Al、Zn、Mn、Ti、Coのいずれかの金属の金属化合物をプリカーサとして化学蒸着法により基板上に第1の薄膜を形成する第1成膜工程と、
Ruの金属化合物をプリカーサとして化学蒸着法により前記第1の薄膜上に第2の薄膜を形成する第2成膜工程と、を含むバリア層の形成方法。
【請求項6】
基板は、バリア層を形成する成膜領域とバリア層を形成しない非成膜領域を有し、
前記基板の前記非成膜領域の表面に、第1の薄膜の形成を阻害するインヒビターを吸着させる工程を含み、
前記インヒビターを吸着させた後、第1成膜工程及び第2成膜工程を行うことで、前記バリア層を前記成膜領域に選択的に形成する請求項5記載のバリア層の形成方法。
【請求項7】
前記第1成膜工程の後に、非成膜領域上のインヒビターを除去する除去工程を含み、前記除去工程後に第2成膜工程を行う請求項6記載のバリア層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等の配線基板における金属配線の下地となるバリア層に関する。また、本発明は、化学蒸着法(化学気相蒸着法(CVD法)、原子層堆積法(ALD法))により前記バリア層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの配線においては、銅配線が主流となっている。かかる銅配線の適用には下地層としてバリア層を設定するのが一般的である。Si、SiO等の絶縁材料からなる基板に銅配線を形成すると、銅が基板に拡散して基板の絶縁性の維持が困難となるからであり、バリア層の適用により銅の基板への拡散を抑制している。一般に、半導体デバイスの配線基板における銅配線は、所定のパターンで基板に形成された開口(トレンチ及びビア)に銅を充填し、その後化学機械研磨(CMP)等で平坦化して形成される。この配線形成プロセスにおいて、開口への銅の充填前に、薄膜状のバリア層が各種の薄膜形成プロセスにて形成される。そして、これまでのバリア層の構成材料としては、TiN(窒化チタン)、TaN(窒化タンタル)等の金属窒化物が用いられることが多い。
【0003】
半導体デバイスの分野においては、微細化・高密度化が絶えず推し進められており、配線構造にも微細化や微小ピッチ化が求められている。こうした配線構造の微細化による寸法(体積)の縮小は、配線長さ当たりの抵抗値である配線抵抗を増大させることとなる。こうした配線抵抗の増大の問題への対応として、バリア層の膜厚の減少が挙げられるが、バリア層を過度に薄くすると銅原子の拡散抑制効果の低減が懸念される。即ち、バリア層の膜厚低減にも限界があることから、別の対応を図ることが求められる。
【0004】
配線寸法の縮小による配線抵抗の増大を抑制する対策の一つとして、低比抵抗なバリア層の構成材料の開発が挙げられる。上記のとおり、配線寸法を縮小するとしても安易にバリア層を薄くすることはできない。つまり、配線寸法の縮小化は、配線抵抗に対するバリア層の比抵抗の影響が占める割合を大きくしている。そこで、バリア層を低比抵抗とすることで、配線全体の抵抗増大を抑制することができる。
【0005】
この対策に対応し得るバリア層の構成材料としてルテニウム(Ru)の適用が挙げられる。ルテニウムは低比抵抗な金属であり、微小ピッチ化に対応でき、銅に代替できる配線用の金属材料としても期待されている。また、ルテニウム薄膜は、その上に銅を電解めっきするときのシード層として機能することができる上、銅との密着性も良好でありライナー層としても機能し得る。そのため、ルテニウム薄膜をバリア層とすることで、シード層及びライナー層が不要となるので、その分配線中の銅の体積を増加させることができ、配線抵抗を低減することが期待される。ルテニウム薄膜のバリア層の適用としては、非特許文献1に所定の有機ルテニウム化合物をプリカーサとした原子層堆積法(ALD)を用いたルテニウム薄膜の成膜方法が開示されている。こうした薄膜形成プロセスによれば、膜厚を精密に制御しつつ、ルテニウム薄膜からなる好適なバリア層が形成できる。
【0006】
また、配線寸法の縮小による配線抵抗の増大を抑制する他の方法としては、バリア層を含む配線全体の構造に対する改良も検討されている。バリア層は、銅配線からの銅が絶縁材料からなる基板に拡散するのを抑制するために設定される。従って、銅配線が絶縁材料と接触しない領域に対してバリア層は不要である。例えば、半導体デバイスでは多層配線を適用することが多い。多層配線では、各層に形成された配線が層間接続されており、配線パターンを形成する開口(トレンチ)には層間接続のための孔(ビア)が設定される。ビアの底面には下層の銅配線が露出されるようになっているので、この部分にはバリア層を形成する必要はない。こうした部分にはバリア層を形成せず、必要な領域にのみ選択的にバリア層を形成することで、バリア層全体としての膜厚を薄くして銅配線の配線抵抗を低減することができる。かかるバリア層の選択的形成を試みた例としては、特許文献1、2では、バリア層を形成した後にビア底面に対してエッチング処理を行って選択的にバリア層が形成されるようにしている。また、特許文献3にビア底面にブロック層を形成しながらALD法によりTiNバリア材料を堆積させてバリア層を形成するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第8252680号公報
【特許文献2】米国特許第9099535号公報
【特許文献3】特開2008-78647号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chan, R.; Arugagiri, T.N.; Zhang, Y.; Chyan, O.; Wallance,R. M.; Kim, M. J.; Hurd, T. Q. Diffusion Studies of Copper on Ruthenium ThinFilm : A Plateable Copper Diffusion Barrier. Electrochemical and Solid-StateLetters 2004, 7 (8), G154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ルテニウムは低抵抗ではあるものの、バリア層としての拡散抑制能はさほど高くはない。特に、500℃を超える高温域では、基板への銅の拡散を抑制することはできない。
【0010】
また、配線構造の改良であるバリア層の選択的な形成に関しては、それ自体は有用であるといえるが、そのような選択的なバリア層を効率的に形成することは困難である。上記した特許文献1、2のようなバリア層形成後のエッチングは、バリア層形成後に微細加工が必要となるので配線基板の製造プロセスを煩雑化する。更に、特許文献3では、ビア底面にブロック層を形成し当該領域でのバリア層形成を抑制しているものの、バリア層形成時に変質したブロック層の除去が必要である、その方法はエッチング等の特許文献1、2と同様に煩雑な追加工程を要する。
【0011】
そもそも、従来からバリア層として適用されるTiN、TaN等の高融点窒化物の薄膜は、選択的な形成への対応は困難である。これらの薄膜の成膜には、高温加熱や高温プラズマによるアシストが必要である。バリア層の選択的な形成には、上記特許文献3のようなブロック層やマスク材の適用が有用であると予測されるが、TiN等の成膜条件ではブロック層の変質や消失が生じるので選択的な成膜は困難である。
【0012】
本発明は、上記のような背景のもとになされたものであり、微細化する金属配線に対応可能なバリア層であって、金属配線からの金属拡散の抑制効果に優れると共に、所定領域に選択的に成膜可能なバリア層の構成を明らかにする。そして、当該バリア層の効率的な形成方法であって選択的な形成も可能とする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決し得るバリア層として、ルテニウム薄膜を主要構成とする薄膜としつつ、拡散抑制効果を補完する金属酸化物薄膜を付与した2層構造のバリア層が好適であると考察し鋭意検討を行った。その結果、前記金属酸化物薄膜としてAl(アルミニウム)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Ti(チタン)、Co(コバルト)のいずれかの金属の酸化物の薄膜が好適であるとして本発明に想到した。
【0014】
即ち、本発明は、金属配線の下地膜として基板表面に形成されるバリア層において、前記基板上に形成される、Al、Zn、Mn、Ti、Coのいずれかの金属の金属酸化物からなる第1の薄膜と、前記第1の薄膜上に形成される、Ruからなる第2の薄膜とからなるバリア層である。
【0015】
上記したようにルテニウムは、電気的特性(比抵抗)の観点からバリア層として好適であるので、今後の金属配線の微細化の傾向を考慮すれば、単体での拡散抑制効果が低いことを差し引いても有用な材料である。そして、本発明者等の検討によれば、Al、Zn、Mn、Ti、Coの金属酸化物薄膜は、1nm程度の極薄の薄膜であってもルテニウム薄膜と協同することで有効な拡散抑制効果を発揮する。これら金属酸化物薄膜の付加による拡散抑制効果は、ルテニウム薄膜による効果が低減する高温下であって有効に作用する。
【0016】
また、ルテニウム薄膜及びAl、Zn等の金属酸化物の薄膜がバリア層の構成材料として有用である理由として、これらの薄膜は、化学蒸着法に基づく成膜プロセスの適用により、比較的マイルドな成膜条件で成膜できる。化学蒸着法によるルテニウム薄膜及びAl、Zn等の金属酸化物薄膜は、比較的低温での加熱により成膜でき、攻撃性の低い反応ガスが使用可能である。そのため、これらの薄膜は、基板上のバリア層を必要とする部位に選択的に成膜可能である。これにより、本発明は、バリア層に関する上述した構造的な改良に対応することができるので、改善された拡散抑制効果と共に金属配線の微細化に対応可能となる。かかる本発明に係るバリア層の構成及びこのバリア層の化学蒸着法に基づく形成方法について、以下に詳細を説明する。
【0017】
A 本発明に係るバリア層の構成
上記のとおり、本発明に係る金属配線用のバリア層は、所定の金属酸化物薄膜からなる第1の薄膜と、ルテニウム薄膜からなる第2の薄膜とで構成される2層構造の薄膜である。以下、第1の薄膜と第2の薄膜について説明する。
【0018】
A-1 第1の薄膜(金属酸化物薄膜)
第1の薄膜である金属酸化物薄膜は、基板上に形成される。第1の薄膜は、銅配線等の金属配線からの金属(銅等)の基板への到達を抑制するバリア層本来の機能を向上させるために形成される。第1の薄膜を構成する金属酸化物としては、Al、Zn、Mn、Ti、Coの金属の酸化物が適用される。これらの金属の酸化物の薄膜は、ルテニウム薄膜の下で極薄の状態で形成されていても、銅等の拡散を効果的に抑制することができる。また、これらの金属の酸化物に関しては、化学蒸着法により薄膜を形成するためのプリカーサがいくつか知られており、適切な反応ガスと反応条件により温和な条件で酸化物薄膜を形成することができる。
【0019】
尚、第1の薄膜を構成する金属酸化物は、その一部又は全部において必ずしも化学量論的組成となっている必要はない。
【0020】
第1の薄膜の膜厚は、0.5nm以上3nm以下とすることが好ましい。0.5nm未満ではバリア層の拡散抑制作用の向上を図ることができない。また、金属酸化物薄膜の膜厚が増大するに従って、拡散抑制作用の効果も高くなるが、3nmを超えると、バリア層の比抵抗値が高くなり過ぎ金属配線への影響が生じる。第1の薄膜の膜厚は、より好ましくは1nm以上2nm以下とする。
【0021】
A-2 第2の薄膜(ルテニウム薄膜)
ルテニウム薄膜は、Zn等の金属酸化物薄膜の表面上に形成され、本発明に係るバリア層の主要な構成である。本発明でルテニウムを適用するのは、比抵抗が低く電気的特性が良好であるので、金属配線の下地層としての適正を有する。また、ルテニウムは、金属配線を構成する銅等との密着性が良好である。そのため、バリア層上にシード層やライナー層を形成せずとも金属配線を形成することができる。そのため、ルテニウム薄膜をバリア層とすることで、銅配線等の厚さ(体積)を確保し、金属配線の配線抵抗の低減を図ることができるという利点もある。
【0022】
ルテニウム薄膜の膜厚については、特に制限されることはない。ルテニウム薄膜の膜厚がバリア層の拡散抑制作用に大きな影響を与えることはないからである。但し、配線抵抗の低減のためには、配線全体の厚さに占めるルテニウム薄膜の割合を低くすることが望ましい。その一方でルテニウム薄膜の膜厚が過度に低いとバリア層の比抵抗が高くなる。これらを考慮すると、ルテニウム薄膜の膜厚は、2nm以上10nm以下とするのが好ましい。上述した第1の薄膜である金属酸化物薄膜については、0.5nm以上3nm以下と極薄とすることができることから、本発明ではバリア層全体の膜厚を薄くすることができるので、金属配線の膜厚確保による配線抵抗の低減の観点からも本発明は有用である。
【0023】
尚、本発明に係るバリア層は、第1の薄膜(金属酸化物薄膜)と第2の薄膜(ルテニウム薄膜)の双方を具備することが要件となる。従って、基板上にルテニウム薄膜のみからなる領域があるとしても、当該領域は本発明におけるバリア層には該当しない。
【0024】
B 本発明に係るバリア層を備える配線基板
以上説明した本発明に係る2層構造のバリア層は、半導体デバイス・電子デバイス等の各種デバイスの配線基板に応用される。この配線基板は、基板の少なくとも一部にバリア層と金属配線が形成された配線基板であり、本発明では、前記バリア層として上記のバリア層が形成され、このバリア層上に金属配線が形成されてなる配線基板である。
【0025】
バリア層及び金属配線を形成する基板について、その材質や寸法及び構造に制限はなく、適用されるデバイスの配線基板の仕様に応じて任意に設定される。但し、金属配線が形成される領域がSi、SiO等の絶縁材料で構成される。また、いわゆるダマシンプロセスで形成される銅配線基板においては、配線パターンに対応した溝(トレンチ)及び孔(コンタクトホール、ビア)が形成された基板が適用される。こうしたトレンチ等の溝や孔が形成された基板であっても良い。
【0026】
本発明に係るバリア層が適用される配線基板では、基板表面に前記バリア層が形成され、更にバリア層上に金属配線が形成される。トレンチ等の溝や孔が形成された基板においては、それらの内壁も基板表面に含まれる。そして、本発明に係るバリア層は、金属配線からの金属が基板の絶縁材料からなる部位に拡散するのを抑制するために形成されるものである。従って、本発明の配線基板は、バリア層が形成される部分の基板表面が絶縁材料で構成されていることが好ましい。
【0027】
本発明の課題を考慮すると、バリア層上に形成される金属配線を構成する金属は、基板の絶縁材料に拡散して影響を及ぼし得る金属である。金属配線の構成材料としては、現在主流となっている銅の他、比抵抗等の電気特性の観点からルテニウムやコバルトの適用も検討されている。これらの金属も高温下での絶縁体基板への拡散が懸念されることから本発明は有効である。
【0028】
C 本発明に係るバリア層の形成方法
本発明に係るバリア層はルテニウム薄膜と所定の金属酸化物薄膜とからなり、それぞれの薄膜を形成する上では広く公知の薄膜形成プロセスが適用できる。例えば、化学蒸着法以外の成膜プロセスであるスパッタリング(反応性スパッタリング)でも、ルテニウム薄膜と金属酸化物薄膜の形成自体は可能である。もっとも、金属配線の微細化による膜厚減少に対応するには、膜厚の小さいバリア層をカバレッジ性良く成膜する必要がある。また、上述したバリア層の選択的な成膜による構造的な低抵抗化も必要である。こうしたことから、本発明に係るバリア層の形成方法は、化学蒸着法に依るのが好ましい。
【0029】
即ち、本発明に係るバリア層の形成方法は、Al、Zn、Mn、Ti、Coのいずれかの金属の金属化合物をプリカーサとして化学蒸着法により基板上に第1の薄膜を形成する第1成膜工程と、Ruの金属化合物をプリカーサとして化学蒸着法により前記第1の薄膜上に第2の薄膜を形成する第2成膜工程と、を含むバリア層の形成方法である。
【0030】
化学蒸着法は、金属化合物からなるプリカーサを気化した原料ガスと反応ガスを基板表面に導入しつつ、基板上で金属化合物を分解し、当該金属又は金属酸化物を析出・堆積させて薄膜を製造する方法である。化学蒸着法は、原料ガス及び反応ガスの供給等の内容により化学気相蒸着法(CVD法)と原子層堆積法(ALD法)が知られている。
【0031】
CVD法は、一般的に原料ガスと反応ガスとを同時に基板上に導入し、所望の膜厚の薄膜となるまで反応させる成膜方法である。これに対しALD法は、原料ガスを基板に導入し原料化合物を基板表面に吸着させる工程(原料吸着工程)、余剰な原料ガスを排気する工程(原料ガスパージ工程)、反応ガスを導入し基板表面に吸着した原料化合物と反応ガスとを表面上で反応させて薄膜を形成する工程(反応工程)、更に、余剰な反応ガスを排気する工程(反応ガスパージ工程)、の一連のステップを1サイクルとし、このサイクルを1回以上繰り返して所望の膜厚とする薄膜形成プロセスである。
【0032】
化学蒸着法は、カバレッジ性が良好な薄膜を得ることができる。そして、本発明に係るバリア層を構成するAl、Zn等の金属及びルテニウムについては、プリカーサ等の適切な選択により比較的低温のマイルドな条件で成膜可能である。これにより、後述する選択的な成膜を可能とする。尚、本発明のバリア層の形成方法には、CVD法及びALD法の双方が適用可能である。但し、バリア層について、特に厳密な膜厚制御を可能とする場合においては、上記の第1の成膜工程と第2の成膜工程の少なくともいずれかについてALD法を適用するのがより好ましい。以下、第1成膜工程及び第2成膜工程よりなる、本発明に係るバリア層の形成方法についての基本的工程を説明する。そして、このバリア層の形成方法に基づき、基板上の所望の領域に選択的にバリア層を形成する方法について説明する。
【0033】
C-1 本発明に係るバリア層の基本的な形成方法
C-1-1 第1成膜工程(金属酸化物薄膜の成膜)
第1成膜工程は、基板上に化学蒸着法により、Al、Zn、Mn、Ti、Coのいずれかの金属の酸化物薄膜を形成する。原料ガスを生成するプリカーサとなる金属化合物としては、Alについては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。また、Znについては、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等が挙げられる。更に、Mnについては、ビス(エチルシクロペンタジエニル)マンガン(II)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)等が、Tiについては、塩化チタン、オルトチタン酸テトライソプロピル、テトラキス(ジメチルアミド)チタン等が、Coについては、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)コバルト(II)等が挙げられる。また、反応ガスは、酸素、水蒸気、水素、アンモニア、アルコール、オゾンと形成する金属酸化物薄膜に応じて選択される。
【0034】
上述したAl、Zn、Mn、Ti、Coの金属化合物は、比較的低温で分解し各金属を析出させて酸化物薄膜を形成することが可能である。第1成膜工程における反応条件としては、温度100℃以上150℃以下とするのが好ましい。
【0035】
第1成膜工程で形成する金属酸化物薄膜の膜厚は、CVD法であれば、反応時間で制御される。また、ALD法においては、上述した「原料吸着工程-原料ガスパージ工程-反応工程-反応ガスパージ工程」で構成されるサイクルの繰返し回数(サイクル数)で制御できる。また、ALD法では原料吸着工程及び反応工程における原料ガス・反応ガス導入のパルス時間でも膜厚制御が可能である。
【0036】
C-1-2 第2成膜工程(ルテニウム薄膜の成膜)
第2成膜工程も化学蒸着法により薄膜(ルテニウム薄膜)を形成する工程であり、基本的な方法は第1成膜工程と同じである。そして、ルテニウム薄膜のプリカーサとなるルテニウム化合物も低温での成膜を可能とする観点から各種の化合物が適用できる。
【0037】
ルテニウム薄膜のプリカーサとしては、下記化1に示すビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)が挙げられる。このプリカーサは、常温で液体であり蒸気圧が比較的高いことから、取扱い性や成膜温度の観点から従来からよく知られているルテニウム化合物(有機ルテニウム化合物)である。
【0038】
(1)有機ルテニウム化合物A
【化1】
【0039】
また、近年においては、更なる成膜温度の低温化や反応ガスの選択範囲の拡大の観点から以下の(2)~(4)で説明する有機ルテニウム化合物(有機ルテニウム化合物B~Eと称する)が開発されている。
【0040】
(2)有機ルテニウム化合物B
【化2】
(式中、配位子Lは、炭素数2以上13以下の直鎖又は分枝鎖の鎖状炭化水素基又は環状炭化水素基である。また、配位子Xは、カルボニル配位子又はイソシアニド配位子、ピリジン配位子、アミン配位子、イミダゾール配位子、ピリダジン配位子、ピリミジン配位子、ピラジン配位子のいずれかである。
【0041】
この有機ルテニウム化合物Bで構成されるプリカーサの具体的な例としては、下記式3の(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムや、式4の(η-2-プロピリデン-1-イル,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムが挙げられる(L1:トリメチレンメタン系配位子、X:カルボニル配位子)。また、式5の[(η4-メチレン-1,3-プロパンジイル)-ルテニウム-ジカルボニル-(2-イソシアノ-2-メチルプロパン)]も挙げられる。
【0042】
【化3】
【0043】
【化4】
【0044】
【化5】
【0045】
(3)有機ルテニウム化合物C
【化6】
(式中、R、Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。)
【0046】
この有機ルテニウム化合物Cで構成されるプリカーサの具体的な例としては、下記式のジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウム(II)が挙げられる。
【0047】
【化7】
【0048】
(4)有機ルテニウム化合物D
【化8】
(式中、配位子Lは、次式に示される(L-1)又は(L-2)のいずれかで示される配位子であり、1つの窒素原子を含む配位子である。)
【0049】
【化9】
(式中、*は、ルテニウムに橋架け配位する原子の位置である。R~R10は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。)
【0050】
この有機ルテニウム化合物Dで構成されるプリカーサの具体的な例としては、下記式のヘキサカルボニル[μ-[(1,2-η)-3-メチル-N-(1-メチルプロピル)-1-ブテン-1-アミナト-κC,κN:κN]]ジルテニウム(Ru-Ru)が挙げられる。
【0051】
【化10】
【0052】
(5)有機ルテニウム化合物E
【化11】
(ルテニウムに配位する配位子L及び配位子Lは、下記式で示される。
【0053】
【化12】
(配位子L、Lの置換基R11~R22は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基のいずれかである。)
【0054】
この有機ルテニウム化合物Eで構成されるプリカーサの具体的な例としては、下記式のベンゼン(メチレン-1,3-プロパンジイル)ルテニウムや(メチレン-1,3-プロパンジイル)[1-メチル-4-(1-メチルエチル)ベンゼン]ルテニウムが挙げられる。
【0055】
【化13】
【0056】
上記の有機ルテニウム化合物はCVD法及びALD法の双方のプリカーサとして利用可能である。化学蒸着法におけるルテニウム薄膜の成膜温度は、150℃以上400℃以下とするのが好ましい。150℃未満では、有機ルテニウム化合物の分解反応が進行し難く成膜の進行が遅くなる。一方、成膜温度が400℃を超えると均一な成膜が困難となると共に、基板へのダメージが懸念される等の問題がある。成膜温度とは、基板の表面温度であり、通常は基板の加熱温度により調節される。
【0057】
また、ルテニウム薄膜成膜のための反応ガスとしては、酸素やオゾン等の酸化性ガス若しくは水素、水蒸気、アンモニア、アミン化合物、ヒドラジン誘導体等の非酸化性ガスのいずれかが適用される。反応ガスは、有機ルテニウム化合物の分解特性に応じて選択される。例えば、上記有機ルテニウム化合物Aは酸素等の酸化性ガスの使用が好ましい。一方、有機ルテニウム化合物B、C、D、Eは、酸化性ガス及び非酸化性ガスの双方が使用でき、いずれによってもルテニウム薄膜の成膜が可能である。
【0058】
C-2 本発明に係るバリア層の選択的形成
上記で例示した、多層配線における層間接続のためのビア底面のように、配線基板には金属配線が絶縁材料と接触しない領域が設定されることがある。こうした領域にはバリア層は必須とはならない。また、基板表面において絶縁材料で構成されていない領域にもバリア層の形成は必須ではない。そこで、これらの領域を非成膜領域としつつ、絶縁材料と金属配線とが接触し得る領域を成膜領域として選択的にバリア層を形成することで、バリア層全体としての膜厚が薄くなり金属配線の配線抵抗を低減することができる。
【0059】
本発明に係るバリア層は、Zn等の金属酸化物薄膜(第1の薄膜)及びルテニウム薄膜(第2の薄膜)の積層構造であり、これらの薄膜は化学蒸着法により比較的低温で成膜可能である。これにより基板の成膜領域に選択的にバリア層を形成することができる。
【0060】
具体的な手法としては、少なくとも第1の薄膜の成膜温度よりも高温な分解温度を有する成膜阻害剤を予め非成膜領域に吸着させ、その後第1薄膜成膜工程及び第2成膜工程を行う。このようにすることで、非成膜領域上においては、少なくとも第1の薄膜は形成されず、本発明の2層構造のバリア層は形成されない。本発明の2層構造のバリア層は、成膜領域に選択的に形成されることとなる。本発明においては、上記の成膜阻害剤をインヒビターと称する。
【0061】
上記のようなインヒビターの適用によるバリア層の選択的な形成は、従来バリア層として知られているTiN、TaN等の窒化物薄膜の形成では極めて困難である。これらの窒化物薄膜も化学蒸着法で成膜することはできるが、成膜条件として高温加熱或いはプラズマ照射等の高エネルギーのアシストが必要となる。かかる高エネルギー付与により分解・変質せずに耐え得る化合物がない。そのため、本発明と同様に非成膜領域にインヒビターとなる化合物を吸着させても、インヒビターがバリア層の形成時に分解するので、成膜領域への選択的成膜は極めて困難である。
【0062】
本発明でインヒビターとして使用される化合物の要件としては、第1に、その分解温度が少なくとも第1の薄膜(金属酸化物薄膜)の成膜温度よりも高温であることである。また、第2に、インヒビターは、基板の非成膜領域へ吸着した後、その表面での金属酸化物等の析出反応を阻害し得る化合物であることが好ましい。これらにより、インヒビターは少なくとも第1の薄膜の成膜を抑制して非成膜領域でのバリア層形成を防ぐこととなる。尚、上記要件において、金属酸化物等の析出反応の阻害とは、原料ガス(金属化合物)の基板表面への吸着を阻害すること等により、金属酸化物等の析出反応を生じさせない作用である。
【0063】
尚、インヒビターとなる化合物の分解温度については、第1の薄膜の成膜温度よりも高温であることは必要であるが、第2の薄膜の成膜温度よりも高温であることは必須ではない。インヒビターの分解温度が少なくとも第1の薄膜の成膜温度よりも高温であれば、第1の薄膜の成膜が阻害され本発明に係る2層構造のバリア層は形成されないからである。但し、インヒビターの分解温度は、第2の薄膜の成膜温度よりも高温であってもよい。
【0064】
更に、インヒビターの特性に関しては、バリア層の保護対象である絶縁材料に吸着し難い一方で、銅等の配線材料には吸着可能な特性を有する化合物がより好ましい。かかる選択的な吸着特性を有するインヒビター化合物であれば、効率的に非成膜領域での成膜を阻害できる。
【0065】
上記の条件に基づき本発明で好ましいインヒビター化合物として、チオール化合物、ホスホン酸化合物、芳香族化合物、アルキン化合物が挙げられる。具体的には、チオール化合物としては、ドデカンチオール(DDT)、エタンチオール、オクタデカンチオール等が挙げられ、ホスホン酸化合物としてオクタデシルホスホン酸等が挙げられる。芳香族化合物としては、アニリン等が挙げられる。アルキン化合物としては、4-オクチンや3-ヘキシン等が挙げられる。
【0066】
化学蒸着法による第1、第2成膜工程を含む、上述した本発明に係るバリア層の基本的な形成方法において、選択的な成膜のためにインヒビターを適用する際のバリア層の形成工程では、まず、第1成膜工程の前に、インヒビターを非成膜領域に吸着させる。インヒビターの吸着は、インヒビターを加熱気化し、インヒビターを含むガスを基板に供給する。このとき、上記で好ましいインヒビターとして挙げた、絶縁材料に吸着し難い一方で配線材料には吸着可能な特性を有する化合物(チオール化合物等)を使用すれば、特段の操作なく非成膜領域に選択的にインヒビターを吸着させることができる。また、そのような吸着特性を有しないインヒビターを非成膜領域に吸着させる方法としては、一旦基板全体に対し不作為にインヒビターを吸着させた後、UVリソグラフィ等で成膜領域のインヒビターを除去すれば良い。
【0067】
インヒビターを吸着させるときには、基板温度を25℃以上150℃以下とすることが好ましい。また、基板へのインヒビターの吸着量については、水滴接触角(WCA値)がインヒビター吸着前の状態に対して30°以上増大した状態にするのが好ましい。インヒビターの吸着特性は、基板中の非成膜領域の材質によっても相違することから、インヒビターの供給量や基板温度等を調整しつつ、WCA値の変化幅が好適になるようにする。尚、インヒビターの供給後は、供給停止から必要に応じて不活性ガス等のパージガスを流通し、反応系から余剰のインヒビターをパージすることが好ましい。
【0068】
上記のようにして基板の非成膜領域にインヒビターを吸着後は、上記基本工程に従って、第1成膜工程及び第2成膜工程で各薄膜を形成する。このとき、インヒビターの分解温度は少なくとも第1成膜工程の成膜温度よりも高温であるので、インヒビターは非成膜領域上で吸着した状態を維持しているので、非成膜領域で第1の薄膜が形成されることはない。そして、第2成膜工程後は、成膜領域に本発明に係るバリア層が形成される。
【0069】
インヒビターの分解温度が、第1成膜工程の成膜温度よりも高温であるが、第2成膜工程の成膜温度よりも低温である場合、インヒビターは第2成膜工程で分解する。そのため、インヒビターの分解除去の工程は、必ずしも必須ではない。但し、インヒビターを除去せずに第2成膜工程を行うと、インヒビター分解に生じる炭素等の成分がルテニウム薄膜(第2の薄膜)を汚染するおそれがある。そのため、本発明では、第1成膜工程の後、非成膜領域上のインヒビターを除去する除去工程を含み、除去工程後に第2成膜工程を行うことがより好ましい。
【0070】
インヒビターは、その分解温度以上の温度で加熱することで除去可能である。インヒビターの分解温度は、少なくとも第1成膜工程の成膜温度よりも高温であるので、第1成膜工程の成膜温度に対して100℃以上の温度で加熱すれば良い。加熱温度の上限としては、300℃以下とするのが好ましい。また、インヒビターの分解除去の際には、プラズマ照射のもとで基板を加熱することで、加熱温度を低温化させて除去を促進することができる。プラズマ処理における雰囲気は、水素、酸素、窒素等とするのが好ましい。
【0071】
第2成膜工程の成膜温度を超える分解温度を有するインヒビターが使用されるとき、上記のインヒビターの除去工程は、第2成膜工程の後に行っても良い。この場合、加熱温度が高温となる傾向があるものの、プラズマ照射の併用により除去可能である。
【発明の効果】
【0072】
以上説明したとおり、本発明に係る金属配線用のバリア層は、Zn等の所定金属の金属酸化物薄膜とルテニウム薄膜とで構成される2層構造を有する。ルテニウム薄膜は、単独での拡散抑制効果はさほど高くないが、金属酸化物薄膜との協同によって極めて有効な拡散抑制作用を有する。本発明は、バリア層の薄化に対応可能であり、その分金属配線の体積を確保することができる。また、本発明のバリア層は、金属配線との密着性も良好であるので、シード層やライナー層も不要となる。これらにより本発明は、微細化による金属配線の配線抵抗上昇の課題を有効に解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】本実施形態のバリア層(Ru薄膜/ZnO薄膜)の形成工程を説明するフロー図。
図2】実施例1(Cu/Ru(4nm)/ZnO(1nm)/Si)の高温熱処理後のXRDプロファイル。
図3】実施例2(Cu/Ru(4nm)/ZnO(2nm)/Si)の高温熱処理後のXRDプロファイル。
図4】比較例(Cu/Ru(5nm)/Si)の高温熱処理後のXRDプロファイル。
図5】実施例1、実施例2、比較例の高温熱処理後の抵抗値の測定結果を示すグラフ。
図6】実施例1(Cu/Ru(4nm)/ZnO(1nm)/Si)と比較例(Cu/Ru(5nm)/Si)の界面接着エネルギーの測定結果を示すグラフ。
図7】第2実施形態で予備的に検討した基板にドデカンチオールを吸着させたときの供給時間とWCA値の変化を示す図。
図8】第2実施形態で予備的に検討した基板にドデカンチオールを吸着させたときの基板温度とWCA値の変化を示す図。
図9】第2実施形態で予備的に検討した基板にドデカンチオールを吸着させたときのALDのサイクル数とZn濃度の変化を示す図。
図10】第2実施形態で予備的に検討したドデカンチオールで処理された基板にZnO薄膜を成膜したときの膜厚変化を示す図。
図11】第2実施形態で選択的にバリア層を形成したときのRu薄膜のサイクル数と膜厚の対応を示す図。
【0074】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の薄膜である金属酸化物薄膜としてZn酸化物の薄膜(ZnO薄膜)を基板に成膜し、ZnO薄膜の上にルテニウム薄膜を成膜してバリア層を形成した。そして、このバリア層の上に銅を成膜し、バリア層による銅の拡散抑制作用について検討した。
【0075】
本実施形態では、ZnO薄膜及びルテニウム薄膜をALD法で成膜してバリア層を形成した。本実施形態のバリア層形成のフローを図1に示す。ALD法に基づく第1成膜工程及び第2成膜工程は、いずれも、(i)原料ガスを基板に導入する吸着工程、(ii)余剰な原料ガスを排気する原料ガスパージ工程、(iii)反応ガスを導入し薄膜を形成する反応工程、(iv)余剰な反応ガスを排気する反応ガスパージ工程で構成される。そして、各成膜工程では、これらのステップを1サイクルとして、目標の膜厚となるまで繰り返す。
【0076】
〔第1成膜工程(ZnO薄膜の成膜)〕
本実施形態では、基板としてSiウエハー(寸法2cm×2cm)を用意し、基板表面に第1の薄膜であるZnO薄膜をALD法で成膜した。ZnO薄膜のプリカーサとなる亜鉛化合物にはジエチル亜鉛(下記式)を用いた。
【0077】
【化14】
【0078】
〔第2成膜工程(ルテニウム薄膜の成膜)〕
次に、ルテニウム薄膜のプリカーサとなるルテニウム化合物として、(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウム(上記化3)を用いてルテニウム薄膜を成膜した。
【0079】
本実施形態における第1成膜工程及び第2成膜工程の成膜条件は以下のようにした。
【0080】
第1成膜工程条件
(i)原料ガス導入工程
・原料加熱温度:10℃
・基板温度:120℃
・導入時間:1秒
(ii)原料ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:10秒
(iii)反応ガス導入工程
・反応ガス:HO(水蒸気)
・導入時間:1秒
(iv)反応ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:30秒
【0081】
第2成膜工程条件
(i)原料ガス導入工程
・原料加熱温度:10℃
・基板温度:220℃
・キャリアガス:窒素(50sccm)
・導入時間:10秒
(ii)原料ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:10秒
(iii)反応ガス導入工程
・反応ガス:酸素(50sccm)
・導入時間:10秒
(iv)反応ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:10秒
【0082】
本実施形態では、ルテニウム薄膜の膜厚を4nmと設定し、ZnO薄膜の膜厚を1nm(実施例1)、2nm(実施例2)としたバリア層と、ZnO薄膜のない膜厚5nmのルテニウム薄膜のみからなるバリア層(比較例)を作成した。これらの薄膜の膜厚は、サイクル数の調整により制御した。そして、実施例1、2と比較例のバリア層の表面に銅をスパッタリング法で成膜(膜厚60nm)して各種評価用の積層構造のサンプルを作製した。
【0083】
[バリア層の拡散抑制効果の確認(XRD分析)]
実施例1(Cu/Ru(4nm)/ZnO(1nm)/Si)、実施例2(Cu/Ru(4nm)/ZnO(2nm)/Si)、比較例(Cu/Ru(5nm)/Si)の各サンプルについて高温熱処理試験を行い、バリア層による銅の基板(Si)への拡散抑制効果を確認した。この評価試験では、各サンプルを真空中で500℃、550℃、650℃、700℃、800℃で加熱した後、XRD分析を行った。銅の基板への拡散が生じる場合には、XRDスペクトルに銅シリサイド(CuSi)のピークが発現することとなるので、銅シリサイドのピークが発生した段階で銅の基板への拡散が生じたと判定した。実施例1、2及び比較例の各サンプルについての試験結果を図2図4に示す。
【0084】
図4の比較例(Cu/Ru(5nm)/Si)の結果からみると、ルテニウム薄膜単独で構成されたバリア層は、500℃での加熱に対しては拡散抑制効果を有する。しかし、550℃の段階で銅シリサイドのピークがみられたことから、550℃では拡散抑制効果が低下したことが分かる。これに対し図2、3を参照すると、実施例1(Cu/Ru(4nm)/ZnO(1nm)/Si)及び実施例2(Cu/Ru(4nm)/ZnO(2nm)/Si)では、550℃の加熱でも銅シリサイドのピークは観られない。つまり、ルテニウム薄膜にZnO薄膜を組み合わせたことにより、銅の拡散抑制効果が向上したことが確認された。また、銅シリサイドの発現は、実施例1(ZnO膜厚1nm)では650℃であったが、実施例2(ZnO膜厚2nm)では800℃であった。ルテニウム薄膜へのZnO薄膜の追加によるバリア層の拡散抑制効果の向上は、ZnO薄膜の膜厚の増大によって高くなることがわかる。
【0085】
[バリア層の拡散抑制効果の確認(抵抗測定)]
上記の高温熱処理試験では、各温度で熱処理後の積層構造についての比抵抗値(シート比抵抗値)を測定している。比抵抗の測定は4探針法にて測定した。この測定の結果を図5に示す。この結果を図5に示すが、550℃で銅の基板への拡散が生じた比較例(Cu/Ru(5nm)/Si)は、やはり550℃以上で抵抗値の増大が確認された。一方、実施例1(Cu/Ru(4nm)/ZnO(1nm)/Si)では600℃まで、実施例2(Cu/Ru(4nm)/ZnO(2nm)/Si)では700℃まで抵抗値の増大は観られず、上記のXRDの結果に符合していた。
バリア層としてのルテニウム薄膜は、500℃程度までの高温では銅の拡散抑制効果を有するものの、それ以上の高温域では効果が低下するといえる。そして、ルテニウム薄膜の下地としてZnO薄膜を付加することで、バリア層としての拡散抑制効果が強化される。このZnO薄膜の効果は、膜厚1nmの極薄であっても有効である。
【0086】
[バリア層の密着性の評価]
次に、実施例1(Cu/Ru(4nm)/ZnO(1nm)/Si)と比較例(Cu/Ru(5nm)/Si)について、バリア層の密着性を評価した。密着性評価は、DCB(Double
Cantilever Beam)試験による界面接着エネルギーの測定に基づいた。DCB試験では、各サンプルの銅層に基板と同寸法のSiウエハーをエポキシ系接着剤で接着にして試験片を作成した。そして、試験片の表裏両面の端部から引張負荷をかけ、その際の荷重と亀裂開口部の変位の関係から界面接着エネルギーを算出した。
【0087】
上記密着性評価試験の結果を図6に示す。図6から、実施例1のルテニウム薄膜とZnO薄膜とからなるバリア層は、ZnO薄膜のない比較例のバリア層に対し、極めて高い界面接着エネルギーを示し、本発明のバリア層は基板に対する密着性も良好であることが確認された。
【0088】
第2実施形態:本実施形態では、本発明に係るバリア層に関し、インヒビターを適用する選択的形成の可否について検討した。ここでは、基板としてSiO絶縁層(100nm)を有するSiウエハー(寸法4cm×4cm)を用意し、この基板の中心付近にスパッタリングでCu膜を成膜して非成膜領域(2cm×2cm)を形成したそして、インヒビターとしてドデカンチオール(DDT)を用い、ZnO薄膜とルテニウム薄膜とかならなるバリア層を基板のSiO領域に形成することとした。
【0089】
[予備的検討]
バリア層の形成の前に、予備的検討として、基板の成膜領域(SiO領域)及び非成膜領域(Cu領域)に対するインヒビターの吸着特性とZnO薄膜の形成の可否を検討した。
【0090】
まず、DDTの供給量と基板表面のWCA値との関係を確認した。85℃で加熱してガス化したDDTを所定のパルス時間(Y秒)で供給し、供給を停止して80秒後に窒素ガスで120秒パージした。DDT供給のパルス時間Yは、10秒、15秒、30秒、60秒、90秒とした。各パルス時間でDDTを供給し、パージした後の基板を回収して基板表面の水の接触角を測定することでWCA値を測定した。
【0091】
上記条件でDDTを供給後の基板の各領域におけるWCA値の測定結果を図7に示す。図7から、基板のSiO領域におけるWCA値は、ほとんど変化していない。このことから、DDTはSiOには吸着していないことがわかる。一方、Cu領域では、パルス時間0秒~15秒の間では時間(供給量)の増大と共にWCA値が上昇し、15秒以上ではWCA値にほとんど変化がない。このことから、基板のCu領域においては、DDTは供給量と共に吸着量が増加するが、所定時間(本実施形態では15秒)を超えると吸着量は飽和することが確認される。
【0092】
次に、DDT供給のパルス時間を15秒に固定しつつ、基板の温度を変化させたときのWCA値の変化を確認した。この試験結果を図8に示す。図8から、基板のSiO領域ではWCA値に変化はなく、基板を加熱しても吸着しないことがわかる。そして、Cu領域では120℃近傍までは基板温度の上昇と共にWCA値が増大し、吸着量が増加することがわかる。WCA値は、180℃を超えると低下するが、これはDDTの分解によるものと推定される。以上の2つの試験結果から、DDTはCuには吸着するがSiOには吸着しないことと、CuへのDDTの吸着量の制御及び好適化が可能であることが確認された。
【0093】
そこで、上記試験で本実施形態におけるDDTの吸着工程の好適条件をパルス時間15秒、基板温度120℃とし、この条件で基板にDDTを吸着させた後、ZnO薄膜は形成して各領域におけるZnO薄膜の成膜可否を確認した。ZnO薄膜の成膜条件は第1実施形態と同様とし、ALDのサイクル数を変化させて成膜を行った。
【0094】
各サイクル数でZnO薄膜を成膜した後、基板の各領域の表面におけるZn濃度をXPSで分析した。この結果を図9に示す。基板のSiO領域においては40サイクル以降で一定のZn濃度が測定される一方、Cu領域ではサイクル数を増加させてもZnは検出されなかった。このことから、基板のSiO領域についてのみZnO薄膜が形成されていることがわかる。
【0095】
図10は、基板のSiO領域で形成されたZnO薄膜についてのサイクル数による膜厚変化を示す。図10には、予備的に行ったインヒビター(ドデカンチオール)への暴露履歴のない基板(SiO)について同様にZnO薄膜を成膜したときの結果を示している。図10から、本実施形態でDDTが部分的に吸着した基板であっても、SiO領域ではサイクル数の増加と共に膜厚は増大し、成膜効率に差はない。つまり、DDTによる吸着処理がバリア層を形成する領域に影響を及ぼすことはない。
【0096】
[バリア層の選択的形成可否の確認]
上記の予備的検討の結果を受け、本実施形態でバリア層の選択的形成が可能であることを確認した。予備的検討と同じ基板を用意し、吸着工程(パルス時間15秒、基板温度120℃)でDDTを吸着させた。その上にZnOの成膜を行い、ZnO成膜工程後の基板を加熱及びプラズマ処理してDDTを分解除去した。DDTの除去は、基板を150℃に加熱しつつ水素プラズマ(水素流量30sccm、RF出力100W)に5分間暴露させた。
【0097】
ZnO薄膜上のルテニウム薄膜の成膜は、プリカーサを(η-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウム(上記化3)とし、第1実施形態と同様の条件とした。
【0098】
図11は、ルテニウム薄膜成膜のサイクル数を50サイクル~200サイクルとしたときのルテニウム薄膜の膜厚を示すグラフである。図11で示されるように、ルテニウム薄膜の膜厚は、サイクル数の増加と共にリニアに増大している。上記の予備的検討で示したように、インヒビターであるDDTの作用により、ZnO薄膜は基板のSiO領域にのみ成膜されているので、本実施形態ではそのSiO領域にのみ2層構造のバリア層が形成されたこととなる。従って、本発明に係るバリア層は、インヒビターの適用により成膜領域(絶縁材料)へ選択的に形成可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上のとおり、本発明に係る2層構造のバリア層は、有効な拡散抑制効果を発揮しつつ選択的な成膜にも対応できる。本発明のバリア層は、配線基板の金属配線の微細化・微細ピッチ化に対応しながら、配線抵抗の上昇抑制に寄与できる。本発明は、各種の半導体デバイスの配線への適用に好適であり、特に、超小型化される半導体デバイスの配線の微細化にも対応可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11