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特開2024-62023液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062023
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240430BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 501
B41J2/14 603
B41J2/14 605
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169756
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】乙▲め▼ 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】村上 友章
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AN01
(57)【要約】
【課題】アクチュエータを駆動する駆動周波数が制約を受けずに、ノズルからの液滴の吐出速度のばらつきによる画像品質の低下を抑制することができる液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置を提供する。
【解決手段】複数のノズル4にそれぞれ連通する個別液室たる圧力発生室6に流体抵抗部7を介して共通液室10から液体たるインクを供給し、アクチュエータたる圧電アクチュエータ11を駆動して、圧力発生室6内のインクをノズル10から吐出する液体吐出ヘッド100において、メニスカスの固有振動周期が、共通液室10の共振周期、共通液室10の共振周期の(1/2)周期、および共通液室10の共振周期の(1/4)の周期のいずれとも異なる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルにそれぞれ連通する個別液室に流体抵抗部を介して共通液室から液体を供給し、アクチュエータを駆動して、前記個別液室内の液体を前記ノズルから吐出する液体吐出ヘッドにおいて、
前記ノズルに形成されたメニスカスの固有振動周期が、前記共通液室の共振周期、前記共通液室の共振周期の(1/2)周期、および前記共通液室の共振周期の(1/4)の周期のいずれとも異なることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記メニスカスの固有振動周期Tmrは、下記式(1)で求められ、前記共通液室の共振周期Tkは、下記式(2)で求められることを特徴とする液体吐出ヘッド。
Tmr=2π×√{(Lp+Lr+Lt+Ls)×Cm}・・・(1)
Tk=2π×√(Lk×Ck)・・・(2)
Lp=(6/5)×ρ×lp/sp
Lr=(6/5)×ρ×lr/sr
Lt=4×ρ×lt/(π×dt×ds)×1.45
Ls=4×ρ×ls/(π×ds)×1.45
Cm=π×ds/(128×γ)
Lk=6/5×ρ×lk/sk
Ck=lk×sk/(ρ×c2)
ρ :前記液体の密度
c :前記液体の音速
lp:前記流体抵抗部から前記個別液室への液体流れ方向における前記個別液室の長さ
sp:前記個別液室の前記液体流れ方向に垂直な断面積
lr:前記液体流れ方向における前記流体抵抗部の長さ
sr:前記流体抵抗部の前記液体流れ方向に垂直な断面積
lt:前記ノズルのテーパ部の長さ
ls:前記ノズルのストレート部の長さ
dt:前記ノズルのテーパ部の最大直径
ds:前記ノズルのストレート部の直径
γ :前記液体の表面張力
lk:前記個別液室の並ぶ方向における前記共通液室の長さ
sk:前記共通液室の前記個別液室の並ぶ方向に垂直な断面積
【請求項3】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記メニスカスの固有振動周期をTmr、前記共通液室の共振周波数をTkとしたとき、
Tmr/Tk≦0.22、0.28≦Tmr/Tk≦0.45、0.55≦Tmr/Tk≦0.9、および1.1≦Tmr/Tkのいずれかを満たすことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
Tmr/Tk≦0.2、0.3≦Tmr/Tk≦0.4、0.6≦Tmr/Tk≦0.8、および1.2≦Tmr/Tkのいずれかを満たすことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項6】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のノズルにそれぞれ連通する個別液室に流体抵抗部を介して共通液室から液体を供給し、アクチュエータを駆動して、個別液室内の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
特許文献1には、上記液体吐出ヘッドとして、共通液室たる共通供給路内の液体に伝播する圧力波の周波数が、共通供給路の共振周波数と同等とならないように、アクチュエータを駆動するものが記載されている。これによれば、共通供給路の共振を抑制することができ、ノズルからの液滴の吐出速度のバラツキを抑制することができる旨が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アクチュエータを駆動する駆動周波数が制約を受けるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数のノズルにそれぞれ連通する個別液室に流体抵抗部を介して共通液室から液体を供給し、アクチュエータを駆動して、前記個別液室内の液体を前記ノズルから吐出する液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズルに形成されたメニスカスの固有振動周期が、前記共通液室の共振周期、前記共通液室の共振周期の(1/2)周期、および前記共通液室の共振周期の(1/4)の周期のいずれとも異なることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アクチュエータを駆動する駆動周波数が制約を受けずに、ノズルからの液滴の吐出速度のばらつきによる画像品質の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施形態に係る液体吐出ヘッドをノズル配列方向と直交する面で切断した断面図。
図2】液体吐出ヘッドをノズル配列方向に沿って切断した断面図。
図3】液体吐出ヘッドのノズル面に平行な面に沿って切断した断面図。
図4】本実施形態に係る液体を吐出する装置の要部平面説明図。
図5】本実施形態に係る液体を吐出する装置の要部側面説明図。
図6】同ユニットの要部平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッドの一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド100をノズル配列方向と直交する面で切断した断面図である。
図2は、液体吐出ヘッド100をノズル配列方向に沿って切断した断面図である。
図3は、液体吐出ヘッド100のノズル面に平行な面に沿って切断した断面図である。
【0009】
本実施形態にかかる液体吐出ヘッド100は、ノズル板1と、流路板2と、壁面部材としての薄膜部材からなる振動板部材3とを備え、それらが積層接合されている。また、液体吐出ヘッド100は、アクチュエータとしての圧電アクチュエータ11と、共通液室部材としてのフレーム部材20とを備えている。圧電アクチュエータ11は振動板部材3を変位させる。
【0010】
ノズル板1は、金属材、例えばSUS材により形成される。ノズル板1は、液体を吐出する複数のノズル4を有する。ノズル4は、図1の紙面に直交する方向に複数配列されている。本実施形態では、一例として320個のノズル4がそれぞれの間隔150dpiで設けられる。各ノズル4は例えばエッチング加工やプレス加工により形成される。
【0011】
ノズル4は、テーパ部4aとストレート部4bからなる。テーパ部4aは個別液室たる圧力発生室6側に連通し、ストレート部4bはノズル板1の外側に連通する。 テーパ部4aはテーパ面を有する部分である。このテーパ面により、テーパ部4aは、図の上方向へ向けて縮径する。また、ストレート部4bはその径が一定の部分である。
【0012】
流路板2は、厚み方向に積み重なった複数枚(ここでは、2枚とする)の板状部材2A,2Bで構成される。板状部材2A,2Bは金属材、例えばSUS材により形成される。
【0013】
流路板2は、圧力発生室6、流体抵抗部7および案内流路部8が、ノズル4の並び方向に所定の間隔を開けて複数設けられている(図3参照)。各圧力発生室6は対応するノズル4に通じ、各流体抵抗部7は、対応する圧力発生室6に通じている。また、各案内流路部8は、対応する流体抵抗部7に通じている。
【0014】
それぞれの板状部材2A,2Bに、圧力発生室6、流体抵抗部7および案内流路部8に対応する複数の貫通孔が、エッチング加工やプレス加工により形成されることで、流路板2に圧力発生室6、流体抵抗部7および案内流路部8が複数形成される。ただし、流体抵抗部7は、板状部材2Aにのみ設けられた貫通孔により複数形成される。板状部材2A,2Bの厚み方向において、共に孔加工を施されなかった部分は、積層されて図2に示す隔壁部2aをなす。
【0015】
フレーム部材20は例えばSUS材により構成される。このSUS材の切削加工により、共通液室10および共通液室10に連通する供給口19(図3参照)が形成される。共通液室10は、複数の案内流路部8に通じている。図3に示すように、流体抵抗部7は、その他のインク流路(液体流路)である案内流路部8や圧力発生室6と比較して、幅狭に形成されている。
【0016】
振動板部材3は、流路板2の圧力発生室6の壁面の一部を構成する。振動板部材3は、第1層3A、第2層3Bからなる2層構造をしている。なお、振動板部材3を、一層構造、3層構造以上としてもよい。第1層3Aの流路板2側で圧力発生室6の壁面の一部を構成する部分が、変形可能な振動領域(振動板)30を構成する。また、第1層3Aには、共通液室10と案内流路部8とを連通させる開口部9が形成されている。
【0017】
振動板部材3は、ニッケル(Ni)の金属板から形成したもので、エレクトロフォーミング法(電鋳)で製造したものを用いている。 これに限らず、その他の金属部材や樹脂と金属の複層部材により振動板部材3を形成できる。
【0018】
共通液室10から開口部9を通じて案内流路部8に液体たるインクが導入され、案内流路部8から流体抵抗部7を経て圧力発生室6にインクが供給される。なお、開口部9にフィルタを設けてもよい。
【0019】
振動板部材3の圧力発生室6側とは反対側に、圧電アクチュエータ11を配置している。この圧電アクチュエータ11は、ベース部材13上に、圧電部材12を接着剤によって接合して構成される。圧電部材12は、所要数の柱状の圧電素子12A,12Bが、ノズル配列方向に、所定の間隔で配置された櫛歯状をなす。この櫛歯状の圧電部材12は、ベース部材13上に接合した圧電用の部材を、ハーフカットダイシングによって溝加工することにより形成される。
【0020】
圧電素子12A、12Bは、同じ部材が用いられる。しかし、圧電素子12A(駆動部)が、駆動波形を与えられて駆動するのに対して、圧電素子12B(非駆動部)は、駆動波形を与えられず単なる支柱として使用される。そして、圧電素子12Aを、凸部30aに接合している。凸部30aは、振動領域30に形成した島状の厚肉部である。また、圧電素子12Bを振動板部材3の厚肉部である凸部30bに接合している。
【0021】
圧電部材12は、圧電層12Cと内部電極12Dとを交互に積層したものである。 圧電層12Cは、一層の厚さが10~50μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)である。内部電極12Dは、一層の厚さが数μmの銀・パラジューム(AgPd)である。内部電極12Dが、圧電部材12の圧力室長手方向の両端面に引き出されて、端面電極(外部電極)である個別電極16および共通電極17に接続される。
【0022】
個別電極16は、圧電部材12の外側端面に設けた電極が、ハーフカットのダイシング加工により分割された複数の個別の電極である。圧電部材12の外側端面に設けた電極は、切り欠きなどの加工により予めその長さが制限されている。また、共通電極17はダイシング加工により分割されておらず、この形態で導通する。
【0023】
個別電極16にはフレキシブル配線部材としてのFPC15が半田接合により接続される。共通電極17は、圧電部材12に設けられた電極層(圧電部材12の端部に回り込むようにして設けられる)を介して、FPC15のGnd電極に接合される。 FPC15にはドライバICが実装されている。 このドライバICにより、圧電素子12Aへの電圧印加が制御される。
【0024】
このように構成した液体吐出ヘッド100においては、記録信号に応じて圧電素子12Aに駆動波形(10~50Vのパルス電圧)を印加することによって、圧電素子12Aに積層方向の変位が生起する。圧電素子12Aのこの変位により、振動板部材3を介して圧力発生室6内のインクが加圧される。これにより、圧力発生室6内のインク圧力が上昇し、ノズル4からインク滴が吐出される。
【0025】
その後、インク滴吐出の終了に伴い、圧力発生室6内のインク圧力が低減する。そして、インクの流れの慣性と駆動パルスの放電過程での圧電素子12Aの変位とによって、圧力発生室6内のインクに負圧が発生してインク充填(インクリフィル)行程へ移行する。このとき、外部のインクタンクから供給されたインクが共通液室10に流入し、共通液室10から開口部9を経て案内流路部8、流体抵抗部7を通り、圧力発生室6内にインクが供給される。
【0026】
流体抵抗部7は、吐出に必要な圧力発生室6内のインク圧力の発生、吐出後の圧力発生室6内のインクに残る圧力変動の減衰の効果を奏する。その反面、表面張力によるインク充填(インクリフィル)に対して抵抗になる。流体抵抗部7の構成を適宜に選択することで、圧力の発生、残留圧力変動の減衰とインクリフィル時間のバランスが取れる。
【0027】
以上のような液体吐出ヘッド100では、圧電素子12Aに駆動波形を印加して、圧電素子12Aを変位させると、圧力発生室6内に上記駆動波形周期の圧力波(以下、駆動圧力波という)が発生する。駆動圧力波は、流体抵抗部7や案内流路部8を経由して、共通液室10に伝搬する。駆動圧力波の周期が、共通液室内のインクのコンプライアンスとイナータンスによって決まる共通液室10内のインクの圧力波の共振周期に近いと、共通液室10で共振が発生し、共通液室10内の共振周期の圧力波(以下、共振圧力波という)の振幅が大きくなる。一定の間隔で用紙に横線を形成するなど、多数の圧力発生室6で共通液室10内のインクの圧力波の共振周期に近い周期の駆動波形で圧電素子12Aを駆動した場合は、共通液室10内で、共振圧力波が重なる。その結果、共振圧力波の振幅がさらに大きくなる。この共通液室10内の共振圧力波は、案内流路部8および流体抵抗部7を経由して、圧力発生室6へ伝播することで、圧力発生室6の圧力変動が大きくなる場合があった。その結果、ノズルからの液滴の吐出速度が変動し、用紙などのメディア上における液滴の着弾位置が不均一になるおそれがあった。また、吐出された液滴の体積が大きくなったり、または小さくなったりし、用紙などのメディア上における液滴の着弾面積が不均一になる。その結果、印刷品質が低くなる場合があった。
【0028】
そこで、圧電素子12Aを、共通液室の共振周波数に近い駆動周波数では駆動しないようにして、上記共振圧力波を発生させないようにすることも考えられる。しかし、圧電素子12Aを、共通液室の共振周波数に近い駆動周波数では駆動できなくなるため、所望の画像を得られない場合がある。
【0029】
上記共振圧力波により圧力発生室6の圧力変動が大きくなる原因は、圧力発生室6に発生しているノズルに形成されるメニスカスの固有振動周期の圧力波が、上記共振圧力波および駆動圧力波と強め合うことで、圧力発生室6の圧力変動が大きくなり、着弾位置の不均一性、着弾面積の不均一性が悪く、印刷品質が許容できないレベルまで悪化することがわかった。上記メニスカスの固有振動周期の圧力波は、次のように発生する。インク吐出後、ノズルのメニスカスは、圧力発生室6側に後退した後、自由振動によって減衰し、ノズル内の所定の位置に位置する。このメニスカスの自由振動により、圧力発生室6には、メニスカスの固有振動周期の圧力波が発生するのである。そして、このメニスカスの固有振動の周期が、上記共振圧力波の周期、上記共振圧力波の周期の(1/2)倍および(1/4)倍のいずれかに近い場合、メニスカスの固有振動周期の圧力波が共振圧力波および駆動周波数と強め合い、圧力発生室6の圧力変動が大きくなり、印刷品質が低くなる。
【0030】
そこで、本実施形態では、メニスカスの固有振動周期を、共通液室10の共振周期、共振周期の(1/2)倍周期および(1/4)倍周期のいずれかにも異ならせるようにした。これにより、共通液室の共振周波数に近い駆動周波数で駆動したときに、メニスカス固有振動周期の圧力波が、共振圧力波および駆動圧力波と強め合うのが抑制され、圧力発生室の圧力変動を抑えることができる。よって、用紙などのメディア上における液滴の着弾位置が不均一性、着弾面積の不均一性を許容レベルに抑えることができ、印刷品質を許容レベルにすることができる。
【0031】
上記メニスカスの固有振動の周期および共通液室10の共振周期は、圧力発生室6の形状、共通液室の形状、インクの密度、インクの音速、表面張力から計算式を用いて求めることができる。メニスカスの固有振動の周期は、ノズル4に形成されたメニスカスのコンプライアンス(Cm)、圧力発生室6、流体抵抗部7およびノズル4のインクのイナータンス(Lp,Lr,Lt,Ls)によって決まる。メニスカスの固有振動の周期をTmrとすると、メニスカスの固有振動の周期Tmrは、次の式(1)から求めることができる。
Tmr=2π×√{(Lp+Lr+Lt+Ls)×Cm}・・・(1)
Lp=(6/5)×ρ×(lp/sp)
Lr=(6/5)×ρ×(lr/sr)
Lt=4×ρ×lt/(π×dt×ds)×1.45
Ls=4×ρ×ls/(π×ds)×1.45
Cm=π×ds/(128×γ)
ρ :インクの密度[kg/m
lp:圧力発生室6の流体抵抗部7から圧力発生室6へのインク流れ方向(図1の矢印D2)長さ[m](図1参照)
sp:圧力発生室6のインク流れ方向(図1の矢印D2)に垂直な断面積[m](図2参照)
lr:流体抵抗部7のインク流れ方向(図1の矢印D1)長さ[m](図1参照)
sr:流体抵抗部7のインク流れ方向(図1の矢印D1)に垂直な断面積[m
lt:ノズルのテーパ部4aの長さ[m](図1参照)
ls:ノズルのストレート部4bの長さ[m](図1参照)
dt:ノズルのテーパ部4aの最大直径[m](図1参照)
ds:ノズルのストレート部4bの直径[m](図1参照)
γ :インクの表面張力[N/m]
【0032】
なお、ノズルがストレート部のみからなる場合は、ノズルのテーパ部4aの長さltがゼロとなり、ノズルのテーパ部4aのイナータンスLtはゼロとなる。また、ノズルがテーパ部のみからなる場合は、ノズルのストレート部4bの長さlsがゼロとなり、ノズルのストレート部4bのイナータンスLsはゼロとなる。
【0033】
また、共通液室10の共振周期は、共通液室内のインクのコンプライアンスCkとイナータンスLkによって決まる。従って、共通液室10の共振周期をTkとすると、共通液室の共振周期Tkは、次の式(2)から求めることができる。
Tk=2π×√(Lk×Ck)・・・・(2)
Lk=6/5×ρ×(lk/sk)
Ck=lk×sk/(ρ×c
ρ :インクの密度[kg/m
c :インクの音速[m/s]
lk:共通液室10の圧力発生室6の並ぶ方向の長さ[m](図3参照)
sk:共通液室10の圧力発生室6の並ぶ方向に垂直な断面積[m
【0034】
このように、メニスカスの固有振動周期Tmr、共通液室10の共振周期Tkは、液体吐出ヘッド100の形状とインクの性質によって決まる。従って、液体吐出ヘッド100の形状によって、メニスカスの固有振動周期を、共通液室の共振周期、共振周期の(1/2)倍周期および(1/4)倍周期のいずれかにも異ならせることができる。
【0035】
次に、本発明者が行った検証試験について、説明する。
検証試験は、メニスカスの固有振動周期Tmrと共通液室10の共振周期Tkとの比(Tmr/Tk)が互いに異なる複数の液体吐出ヘッドを用意する。そして、全ての圧電素子12Aに対して共通液室10内のインクの圧力波の共振周期と同一の周期の駆動波形を印加し、ノズルの全チャンネルから所定の周期で液滴を吐出し、用紙に複数の横線画像からなるテスト画像を印刷した。そして、そのテスト画像を目視によって、着弾位置の不均一、着弾面積の不均一があるか否かについて確認した。テスト画像に、着弾位置の不均一および着弾面積の不均一が見られない場合は「〇」判定、着弾位置の不均一および着弾面積の不均一の少なくとも一方は見られるが、許容範囲内である場合は「△」判定、着弾位置の不均一および着弾面積の不均一の少なくとも一方が許容範囲外である場合は、「×」判定とした。検証試験の結果を、下記表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
上記表1に示すように、メニスカスの固有振動周期Tmrが、共通液室10の共振周期と同一の(Tmr/Tk)=1のとき、メニスカスの固有振動周期Tmrが、共通液室10の共振周期の(1/2)倍(Tmr/Tk)=0.5のとき、および、メニスカスの固有振動周期Tmrが、共通液室10の共振周期の(1/4)倍(Tmr/Tk)=0.25のときは、着弾位置、着弾面積の不均一が目立ち、印刷品質が許容範囲外となり、「×」判定となった。
【0038】
また、表1から、少なくとも(Tmr/Tk)≦0.22、0.28≦(Tmr/Tk)≦0.45、0.55≦(Tmr/Tk)≦0.9、1.1≦(Tmr/Tk)のいずれかを満たせば、着脱位置、着脱面積の不均一を抑え、印刷品質を許容範囲におさめることができた。
【0039】
さらに、(Tmr/Tk)≦0.20、0.3≦(Tmr/Tk)≦0.4、0.6≦(Tmr/Tk)≦0.8、1.2≦(Tmr/Tk)のいずれかを満たすことで、着脱位置、着弾面積の不均一が確認されず、良好な印刷品質が得られることがわかった。
【0040】
以上の検証試験から、すべての圧電素子12Aを、共通液室10の共振周期で駆動しても、メニスカスの固有振動周期Tmrを、共通液室10の共振周期Tk、(1/2)Tk、および、(1/4)Tkのいずれとも異ならせることで、着脱位置、着弾面積の不均一を抑制でき、品質が許容レベルの画像が得られることが確認された。
【0041】
すなわち、上記共振圧力波(共通液室10の共振で発生した圧力波)のみの圧力発生室6内の圧力変動では、着脱位置の不均一や着弾面積の不均一が許容レベル以下となるほどの液滴の吐出速度の変動は発生せず、メニスカスの固有振動周期の圧力波と強め合うことで、着脱位置の不均一や着弾面積の不均一が許容レベル以下となるような液滴の吐出速度の変動が発生することがわかったのである。よって、メニスカスの固有振動周期Tmrを、共通液室10の共振周期Tk、(1/2)Tk、および、(1/4)Tkのいずれとも異ならせることで、駆動周波数の制約を受けずに、良好な印刷品質が得られる。
【0042】
次に、実施形態に係る液体吐出ヘッド100を適用可能な液体を吐出する装置について図4及び図5を参照して説明する。
図4は本実施形態に係る液体を吐出する装置の要部平面説明図であり、図5は本実施形態に係る液体を吐出する装置の要部側面説明図である。
【0043】
この液体を吐出する装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構593によって、キャリッジ503は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構593は、ガイド部材501、主走査モータ505、及び、タイミングベルト508等で構成されている。ガイド部材501は、装置長手方向両側に設けられた側板591A,591Bに架け渡されており、キャリッジ503を移動可能に保持している。キャリッジ503は、主走査モータ505によって、駆動プーリ506と従動プーリ507との間に架け渡したタイミングベルト508を介して装置長手方向である主走査方向に往復移動される。
【0044】
このキャリッジ503には、液体吐出ヘッド100を搭載した液体吐出ユニット540が設けられている。液体吐出ユニット540の液体吐出ヘッド100は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド100は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド100の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド100に供給するための供給機構594により、液体が液体吐出ヘッド100内に供給される。
【0045】
供給機構594は、液体カートリッジを装着する充填部であるカートリッジホルダ、送液ポンプを含む送液ユニット等で構成される。液体カートリッジはカートリッジホルダに対して着脱可能に装着される。液体吐出ヘッド100の供給口19に繋がったヘッドタンクへ液体カートリッジから液体がチューブ556を介して送液ユニットによって送液される。
【0046】
液体を吐出する装置は、用紙510を搬送するための搬送機構595を備えている。搬送機構595は、搬送手段である搬送ベルト512、搬送ベルト512を駆動するための副走査モータ516などで構成されている。搬送ベルト512は、用紙510を吸着して液体吐出ヘッド100に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト512は、無端状ベルトであり、搬送ローラ513とテンションローラ514との間に掛け渡されている。搬送ベルト512への用紙510の吸着は、静電吸着あるいはエアー吸引などで行うことができる。搬送ベルト512は、副走査モータ516によってタイミングベルト517及びタイミングプーリ518を介して搬送ローラ513が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0047】
キャリッジ503の主走査方向の一方側には、搬送ベルト512の側方に液体吐出ヘッド100の維持回復を行う維持回復機構520が配置されている。維持回復機構520は、例えば液体吐出ヘッド100のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材521や、ノズル面を払拭するワイパ部材522などで構成されている。
【0048】
主走査移動機構593、供給機構594、維持回復機構520、及び、搬送機構595は、側板591A,591B及び背板591Cなどで構成される筐体に取り付けられている。このように構成した、液体を吐出する装置においては、用紙510が搬送ベルト512上に給紙されて吸着され、搬送ベルト512の周回移動によって用紙510が副走査方向に搬送される。そして、キャリッジ503を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド100を駆動することにより、停止している用紙510に液体を吐出して画像を形成する。このように、液体を吐出する装置では、本実施形態の液体吐出ヘッド100を備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0049】
次に、液体吐出ユニット540の他例について図6を参照して説明する。
図6は同ユニットの要部平面説明図である。
この液体吐出ユニット540は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板591A,591B及び背板591Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構593と、キャリッジ503と、液体吐出ヘッド100とで構成されている。なお、この液体吐出ユニット540の例えば側板591Bに、前述した維持回復機構520及び供給機構594の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニット540を構成することもできる。
【0050】
本実施形態において、「液体吐出ヘッド」とは、ノズルから液体を吐出・噴射する機能部品である。吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30[mPa・s]以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0051】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、供給循環機構、キャリッジ、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0052】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドと供給循環機構が一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドと供給循環機構が一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットの供給循環機構と液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ユニットとして、供給循環機構若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0053】
「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドまたは液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0054】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0055】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0056】
また、「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30[mPa・s]以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0057】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で、用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置がある。また、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて、原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0058】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様1)
複数のノズル4にそれぞれ連通する圧力発生室6などの個別液室に流体抵抗部7を介して共通液室10からインクなどの液体を供給し、圧電アクチュエータ11などのアクチュエータを駆動して、個別液室内の液体をノズル4から吐出する液体吐出ヘッド100において、共通液室10から個別液室への液体の供給周期であるメニスカスの固有振動周期が、共通液室10の共振周期、共通液室10の共振周期の(1/2)周期、および共通液室10の共振周期の(1/4)の周期のいずれとも異なる。
アクチュエータに駆動波形を印加して、アクチュエータを駆動すると個別液室内に駆動波形周期の圧力波(以下、駆動圧力波という)が発生する。この駆動圧力波は、流体抵抗部を介して共通液室に伝播する。この駆動圧力波の周期が、共通液室の共振周期に近いと共振が発生し、共通液室内の圧力波が大きくなる。この大きくなった圧力波(以下、共振圧力波という)が、流体抵抗部を介して個別液室に伝播することで、ノズルからの液滴の吐出速度のバラツキが発生する。ノズルからの液滴の吐出速度のバラツキを抑制するために、共通液室の共振周期と近い周期の駆動波形は使用しないようにして、共振圧力波を発生させないことも考えられるが、駆動周波数が制約を受けてしまい、所望の画像が得られないおそれがある。
本発明者らは、上述した検証実験により、共通液室の共振周期と同一の周期の駆動波形でアクチュエータを駆動して、上記共振圧力波が発生しても、メニスカス固有振動の周期によっては、ノズルからの液滴の吐出速度のバラツキによる着弾位置ずれや、着弾面積の不均一性を許容レベル以下に抑えることができ、画像品質を許容レベルにすることができることがわかった。具体的には、メニスカスの固有振動周期が、共通液室の共振周期、共振周期の(1/2)倍の周期あるいは共振周期の(1/4)倍の周期のいずれとも異なる場合は、着弾位置ずれや、着弾面積の不均一性を許容レベル以下に抑えることができ、画像品質を許容レベルにできることがわかったのである。
これは、液体吐出後、ノズルのメニスカスは個別液室側へ引き込まれた後、自由振動により減衰し初期位置へ戻る。このメニスカスの自由振動により、個別液室には、メニスカスの固有振動周期の圧力波が発生する。このメニスカスの固有振動周期が、共通液室の共振周期、共振周期の(1/2)倍の周期あるいは共振周期の(1/4)倍の周期の場合は、メニスカスの自由振動による圧力波が個別液室に伝播した共振圧力波と強め合い、個別液室の圧力変動が大きくなる。その結果、ノズルからの液滴の吐出速度のバラツキが大きくなり、着弾位置すれや着弾面積の不均一が許容範囲外となり、画像品質が許容レベル以下となったと考えられる。
一方、メニスカスの固有振動周期を、共通液室の共振周期、共通液室の共振周期の(1/2)周期、および共通液室の共振周期の(1/4)周期のいずれとも異ならせた場合は、個別液室において、メニスカスの自由振動による圧力波と個別液室に伝播した共振圧力波との強め合いが抑制されたことで、着弾位置ずれや、着弾面積の不均一性を許容レベル以下に抑えることができ、画像品質を許容レベルにできたと考えられる。
このような検証試験の結果に基づいて、態様1では、ノズルに形成されたメニスカスの固有振動周期が、前記共通液室の共振周期、前記共通液室の共振周期の(1/2)周期、および前記共通液室の共振周期の(1/4)の周期のいずれとも異なるようにした。これにより、アクチュエータを駆動する駆動周波数を制約することなく、ノズルからの液滴の吐出速度のバラツキによる画像品質の低下を抑制することが可能となり、共通液室の共振周期に近い周期の駆動波形でもアクチュエータを駆動することができる。
【0059】
(態様2)
態様1において、メニスカスの固有振動周期Tmrは、下記式(1)で求められ、共通液室の共振周期Tkは、下記式(2)で求められる。
Tmr=2π×√{(Lp+Lr+Lt+Ls)×Cm}・・・(1)
Tk=2π×√(Lk×Ck)・・・(2)
Lp=(6/5)×ρ×lp/sp
Lr=(6/5)×ρ×lr/sr
Lt=4×ρ×lt/(π×dt×ds)×1.45
Ls=4×ρ×ls/(π×ds)×1.45
Cm=π×ds/(128×γ)
Lk=6/5×ρ×lk/sk
Ck=lk×sk/(ρ×c2)
ρ :前記液体の密度
c :前記インクの音速
lp:前記流路抵抗部から前記個別液室への液体流れ方向における前記個別液室の長さ
sp:前記個別液室の前記液体流れ方向に垂直な断面積
lr:前記液体流れ方向における前記流体抵抗部の長さ
sr:前記流体抵抗部の前記液体流れ方向に垂直な断面積
lt:前記ノズルテーパ部の長さ
ls:前記ノズルストレート部の長さ
dt:前記ノズルのテーパ部の最大直径
ds:前記ノズルストレート部の直径
γ :前記液体の表面張力
lk:前記個別液室の並ぶ方向における前記共通液室の長さ
sk:前記共通液室の前記個別液室の並ぶ方向に垂直な断面積
これによれば、圧力発生室6などの個別液室の形状、ノズルの形状および共通液室の形状により、メニスカスの固有振動周期を、共通液室10の共振周期、共通液室10の共振周期の(1/2)周期、および共通液室10の共振周期の(1/4)の周期のいずれとも異ならせることができる。
【0060】
(態様3)
態様1または2において、メニスカスの固有振動周期をTmr、前記共通液室の共振周波数をTkとしたとき、Tmr/Tk≦0.22、0.28≦Tmr/Tk≦0.45、0.55≦Tmr/Tk≦0.9、および1.1≦Tmr/Tkのいずれかを満たす。
これによれば、検証試験で説明したように、着弾位置、着弾面積の不均一を許容レベルに抑えることができる。
【0061】
(態様4)
態様3において、Tmr/Tk≦0.2、0.3≦Tmr/Tk≦0.4、0.6≦Tmr/Tk≦0.8、および1.2≦Tmr/Tkのいずれかを満たす。
これによれば、検証試験で説明したように、着弾位置、着弾面積の不均一による画像品質の低下を良好に抑制でき、良質な画像を得ることができる。
【0062】
(態様5)
液体吐出ユニットは、態様1乃至4いずれかの液体吐出ヘッドを備える。
これによれば、実施形態で説明したように、圧電アクチュエータ11などのアクチュエータの駆動によって発生した駆動圧力波の周期が、共通液室10の共振周期と同一であっても、着弾位置、着弾面積の不均一による画像品質の低下を抑制することができる。これにより、アクチュエータを駆動する駆動周波数が制約を受けずに、良質な画像を得ることができる。
【0063】
(態様6)
液体を吐出する装置は、態様1乃至4いずれかの液体吐出ヘッドを備える。
これによれば、実施形態で説明したように、圧電アクチュエータ11などのアクチュエータの駆動によって発生した駆動圧力波の周期が、共通液室10の共振周期と同一であっても、着弾位置、着弾面積の不均一による画像品質の低下を抑制することができる。これにより、アクチュエータを駆動する駆動周波数が制約を受けずに、良質な画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 :ノズル板
2 :流路板
2A :板状部材
2B :板状部材
2a :隔壁部
3 :振動板部材
3A :第1層
3B :第2層
4 :ノズル
4a :テーパ部
4b :ストレート部
6 :圧力発生室
7 :流体抵抗部
8 :案内流路部
9 :開口部
10 :共通液室
11 :圧電アクチュエータ
12 :圧電部材
12A :圧電素子(駆動部)
12B :圧電素子(非駆動部)
12C :圧電層
12D :内部電極
13 :ベース部材
15 :FPC
16 :個別電極
17 :共通電極
19 :供給口
20 :フレーム部材
30 :振動領域
30a :凸部
30b :凸部
100 :液体吐出ヘッド
501 :ガイド部材
503 :キャリッジ
505 :主走査モータ
506 :駆動プーリ
507 :従動プーリ
508 :タイミングベルト
510 :用紙
512 :搬送ベルト
513 :搬送ローラ
514 :テンションローラ
516 :副走査モータ
517 :タイミングベルト
518 :タイミングプーリ
520 :維持回復機構
521 :キャップ部材
522 :ワイパ部材
540 :液体吐出ユニット
556 :チューブ
591A :側板
591B :側板
591C :背板
593 :主走査移動機構
594 :供給機構
595 :搬送機構
D1 :流体抵抗部内のインク流れ方向
D2 :圧力発生室内のインク流れ方向
Tk :共通液室の共振周期
Tmr :メニスカスの固有振動周期
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開2010-201775号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6