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特開2024-62169イースト封入油脂組成物、製パン用プレミックス、及び製パン用セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062169
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】イースト封入油脂組成物、製パン用プレミックス、及び製パン用セット
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20240430BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20240430BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20240430BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20240430BHJP
   A21D 2/02 20060101ALI20240430BHJP
   A21D 2/10 20060101ALI20240430BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D10/00
A23D9/007
A21D13/00
A21D2/02
A21D2/10
A21D2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170002
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【弁理士】
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】中山 陽佑
(72)【発明者】
【氏名】岸 さくら
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DC04
4B026DG01
4B026DG12
4B026DG13
4B026DH05
4B026DK03
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP03
4B026DP04
4B026DP06
4B026DP10
4B026DX02
4B026DX10
4B032DB02
4B032DB35
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK13
4B032DK18
4B032DK40
4B032DK55
4B032DL03
4B032DL20
4B032DP10
4B032DP12
4B032DP40
4B032DP78
(57)【要約】
【課題】 本発明は、イースト封入油脂組成物、製パン用プレミックス、及び製パン用セットに関する。
【解決手段】 本発明のイースト封入油脂組成物は、常温で固体である第1の油脂と、前記第1の油脂に封入されたインスタントドライイーストと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体である第1の油脂と、前記第1の油脂に封入されたインスタントドライイーストと、を含む、イースト封入油脂組成物。
【請求項2】
前記インスタントドライイーストが、前記第1の油脂を含む外殻構造の内側に封入されている、請求項1に記載のイースト封入油脂組成物。
【請求項3】
前記インスタントドライイーストが、常温で液状、ペースト状、又は可塑性を有する第2の油脂と混合された状態で前記外殻構造の内側に封入されている、請求項2に記載のイースト封入油脂組成物。
【請求項4】
前記インスタントドライイーストが、前記第1の油脂中に分散されている、請求項1に記載のイースト封入油脂組成物。
【請求項5】
前記第1の油脂が、HLB値8~20の親水性乳化剤と混合されている、請求項1に記載のイースト封入油脂組成物。
【請求項6】
少なくとも穀粉、糖類、及び食塩を含む混合粉体と、
請求項1~5のいずれか一項に記載のイースト封入油脂組成物と、を含む製パン用プレミックスであって、
前記混合粉体及び前記イースト封入油脂組成物が一つの包装体に収容されている、製パン用プレミックス。
【請求項7】
前記混合粉体が、HLB値8~20の親水性乳化剤をさらに含む、請求項6に記載の製パン用プレミックス。
【請求項8】
少なくとも穀粉、糖類、及び食塩を含む混合粉体を収容する第1の包装体と、
請求項1~5のいずれか一項に記載のイースト封入油脂組成物を収容する第2の包装体と、を含む、製パン用セット。
【請求項9】
前記混合粉体が、HLB値8~20の親水性乳化剤をさらに含む、請求項8に記載の製パン用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イースト封入油脂組成物、製パン用プレミックス、及び製パン用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
パンは、穀粉、糖類、及び食塩などの粉体、酵母(イースト)、油脂、並びに水などの材料を混ぜ合わせた生地を、イーストの働きにより発酵させ、焼成することにより製造される。近年ではホームベーカリーを用いて材料の混合から焼成までを自動で行うことができ、これにより家庭でも簡単にパンを製造することが可能となった。パン製造用のイーストには、主に生イースト、ドライイースト、及びインスタントドライイーストの三種類が知られているが、インスタントドライイーストは予備発酵が不要であることから、家庭用として特に利用されている。
【0003】
インスタントドライイーストを常温で長期間保管すると、イーストが空気中の酸素や水分と反応して活動を開始してしまう。その結果、パンの製造時にはイーストの活性が低下し、最終的に焼き上がったパンの膨らみが不十分となるなどの問題が生じる。
このような問題を回避しつつ長期間にわたり保存するため、インスタントドライイーストをアルミパウチに入れて真空包装する方法や、使い切りの量を小袋に包装する方法が一般的に用いられている。例えば特許文献1には、インスタントドライイーストを含む包装物を密閉の前に不活性気体と接触させ、又は包装物を真空状態にし、包装物として水蒸気及び気体状酸素に対する透過性が低いスズ又はアルミフォイルを用いることが開示されている。また、包装物の開封後には、イーストの休眠状態を維持するため、冷蔵庫や冷凍庫での低温保管することが一般的である。
【0004】
インスタントドライイーストを材料の粉体と接触させたまま長期間おいた場合にも、イーストが粉体と反応して活動を開始してしまう。そのため、イースト供給用の装備を有さないホームベーカリーを用いたパン製造時には、装置内の決められた場所に各材料を入れたり、材料の投入後すぐに製造を開始したりする必要がある。
また、特許文献2に記載の製パン用セットは、小麦粉を収納した包装体と、ドライイーストを収納した包装体とを含み、さらに全体が包装されているものである。このような製パン用セットは予め材料が計量されているためユーザーにとって利便性が高いが、やはりドライイーストと粉体が接触しないよう別々に包装する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-523032号公報
【特許文献2】実用新案登録第3229024号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、インスタントドライイーストはその保管状態に注意が必要であるが、これを怠るとパン製造の失敗の原因となる。
そこで本発明は、イーストの活性を維持しつつ、より簡便に長期間にわたってインスタントドライイーストを保管するための手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、インスタントドライイーストを常温で固体である油脂に封入させることにより、イーストの活性を維持しつつ長期間にわたってインスタントドライイーストを保管可能であることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下のものを提供する。
〔1〕常温で固体である第1の油脂と、前記第1の油脂に封入されたインスタントドライイーストと、を含む、イースト封入油脂組成物。
〔2〕前記インスタントドライイーストが、前記第1の油脂を含む外殻構造の内側に封入されている、前記〔1〕に記載のイースト封入油脂組成物。
〔3〕前記インスタントドライイーストが、常温で液状、ペースト状、又は可塑性を有する第2の油脂と混合された状態で前記外殻構造の内側に封入されている、前記〔2〕に記載のイースト封入油脂組成物。
〔4〕前記インスタントドライイーストが、前記第1の油脂中に分散されている、前記〔1〕に記載のイースト封入油脂組成物。
〔5〕前記第1の油脂が、HLB値8~20の親水性乳化剤と混合されている、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のイースト封入油脂組成物。
〔6〕少なくとも穀粉、糖類、及び食塩を含む混合粉体と、
前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のイースト封入油脂組成物と、を含む製パン用プレミックスであって、
前記混合粉体及び前記イースト封入油脂組成物が一つの包装体に収容されている、製パン用プレミックス。
〔7〕前記混合粉体が、HLB値8~20の親水性乳化剤をさらに含む、前記〔6〕に記載の製パン用プレミックス。
〔8〕少なくとも穀粉、糖類、及び食塩を含む混合粉体を収容する第1の包装体と、
前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のイースト封入油脂組成物を収容する第2の包装体と、を含む、製パン用セット。
〔9〕前記混合粉体が、HLB値8~20の親水性乳化剤をさらに含む、前記〔8〕に記載の製パン用セット。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、インスタントドライイーストを常温で固体である油脂に封入させることにより、インスタントドライイーストを空気や他の材料から遮蔽することができる。したがって、イーストの活性を維持しつつ長期間にわたってインスタントドライイーストを保管することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0010】
<イースト封入油脂組成物>
本発明のイースト封入油脂組成物は、常温で固体である第1の油脂と、前記第1の油脂に封入されたインスタントドライイーストと、を含むものである。本発明のイースト封入油脂組成物は、パンの製造に用いることができる。
【0011】
本明細書に記載の「パン」とは、酵母(イースト)と、穀粉、糖類、及び食塩などの粉体と、水などの材料と、を添加混捏し、発酵工程を経て焼成したものをいう。パンとしては、例えば食パン、調理パン、菓子パン、蒸しパンなどを挙げることができ、フィリング等の詰め物をしたパンも本発明のパンに含まれる。
本発明のイースト封入油脂組成物を使用したパンは、イースト封入油脂組成物を、粉体及び水などの材料と混合・混捏し、発酵工程、焼成工程を経て製造される。混捏から焼成までの工程は直捏法、中種法、中麺法、液種法等いずれの方法であっても構わない。また、本発明のイースト封入油脂組成物は、ホームベーカリーを使用したパンの製造、及び手ごねによるパンの製造のいずれにおいても使用可能である。
【0012】
本明細書に記載の「インスタントドライイースト」とは、パンの製造に用いられる所謂パン酵母の一種であり、即席酵母、即席乾燥酵母、又はインスタント乾燥酵母とも呼ばれる。パン酵母は、生イースト、ドライイースト、及びインスタントドライイーストの3種類に大別され、インスタントドライイーストは培養した生イーストを造粒して乾燥し顆粒状にしたものである。インスタントドライイーストは常温保存性が高く、予備発酵が不要であるなど他の二種と比較して取り扱いやすいことから、一般に広く普及している。
インスタントドライイーストに用いられるイーストの種類は、特に限定されない。単一の株を純粋培養したものも使用可能であるし、果物や穀物などの表面に付着する酵母を採取及び培養した、いわゆる天然酵母も使用可能である。酵母としては、好ましくはサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母であり、特に好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。また、インスタントドライイーストには、乳酸菌が含まれていてもよいし、乳化剤やビタミンCなどの生地改良材が含まれていてもよい。
【0013】
本明細書に記載の「第1の油脂」とは、食品に使用される油脂であって、常温(例えば、20℃)で保形性を保つ固形油脂である。第1の油脂としては、食用の油脂であれば特に限定されないが、例えば牛脂、豚脂、パーム油、パーム核油、カカオバター、及び液状油脂を水素添加した硬化油を挙げることができる。これらの油脂を単体で第1の油脂として用いてもよいし、これらの油脂を組み合わせたものを第1の油脂として用いてもよい。
【0014】
本発明のイースト封入油脂組成物中のインスタントドライイーストの配合量は、イースト封入油脂組成物の全質量に対して、5~50質量%、好ましくは7~30質量%、より好ましくは10~15質量%とすることができる。
本発明のイースト封入油脂組成物中の第1の油脂の配合量は、イースト封入油脂組成物の全質量に対して、50~95質量%、好ましくは65~93質量%、より好ましくは75~90質量%とすることができる。
また、インスタントドライイースト及び第1の油脂の配合量は、パンの焼成に使用する穀粉の量に応じて設定することも可能である。使用する穀粉の量を100質量部とした場合に、イースト封入油脂組成物はインスタントドライイーストを0.5~2質量部、第1の油脂を3~18質量部となるように調製することが望ましい。
【0015】
本発明のイースト封入油脂組成物においては、第1の油脂を含む外殻構造の内側にインスタントドライイーストが封入されていても良い(以下、第1の態様とする)。第1の態様では、インスタントドライイーストが第1の油脂を含む外殻構造によって被覆され、インスタントドライイーストが空気や他の材料(穀粉、糖類、及び食塩などの粉体)から遮蔽される。
あるいは、本発明のイースト封入油脂組成物においては、インスタントドライイーストが第1の油脂中に分散した状態で封入されていても良い(以下、第2の態様とする)。第2の態様では、インスタントドライイーストが第1の油脂に混ぜ合わされているため、インスタントドライイーストと空気や他の材料(穀粉、糖類、食塩などの粉体)との接触面積が大幅に低減されている。
即ち、本発明のイースト封入油脂組成物は、第1の油脂によりインスタントドライイーストと空気や他の材料との接触が大幅に低減されるため、イースト封入油脂組成物がこれらと接触状態にあっても、イーストの活性化が抑制される。
【0016】
第1の態様のイースト封入油脂組成物は、例えば以下の方法により製造することができる。シリコン型などの任意の型に、加熱により液状にした第1の油脂を流し込んだ後、冷蔵庫などで冷却する。型の周辺部分が固まったら、中央部の固まっていない第1の油脂を除去することで、外殻構造が形成される。外殻構造の中央部にインスタントドライイーストを詰め、その上から加熱により液状にし、かつイーストが死滅しない温度(例えば、55℃以下)まで低下させた第1の油脂を流し込み、外殻の内側に詰められたインスタントドライイーストが露出しないように完全に覆う。第1の油脂が完全に固まるまで冷蔵庫等で冷却した後、型からイースト封入油脂組成物を取り出す。
【0017】
第1の態様においては、インスタントドライイーストが第2の油脂と混合された状態で、外殻構造の内部に封入されていても良い。第2の油脂と混合されることにより、外殻構造中にインスタントドライイーストを高密度で充填させることができる。また、インスタントドライイーストが第2の油脂でコーティングされるため、インスタントドライイーストと空気との接触をさらに低減させることができる。
本明細書に記載の「第2の油脂」は、食品に使用される油脂であって、常温で液状(例えば、融点が5℃以下のもの)、ペースト状(例えば、融点が50℃以下のもの)、又は可塑性を有する油脂を指す。換言すると、第2の油脂は、イーストが死滅しない温度(例えば、55℃以下)においてイーストと混合可能な程度に柔らかいものである。このような性質を有する油脂としては、牛脂、豚脂、パーム油、パーム核油、カカオバター、バター、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、菜種油、大豆油、コーン油、ゴマ油、亜麻仁油、オリーブ油、クルミ油等を挙げることができる。これらの油脂を単体で第2の油脂として用いてもよいし、これらの油脂を組み合わせたものを第2の油脂として用いてもよい。
本発明のイースト封入油脂組成物中の第2の油脂の配合量は、イースト封入油脂組成物の全質量に対して、1~50質量%、好ましくは2~35質量%、より好ましくは5~25質量%とすることができる。
また、第2の油脂の配合量は、イースト封入油脂組成物中のインスタントドライイーストの配合量を100質量部としたとき、50~500質量部となるように配合することが好ましい。
【0018】
第2の態様のイースト封入油脂組成物は、例えば以下の方法により製造することができる。第1の油脂を加熱により液状にした後、イーストが死滅しない温度まで低下させ、インスタントドライイーストと混ぜ合わせて混合物を調製する。当該混合物をシリコン型などの任意の型に流し込み、第1の油脂が完全に固まるまで冷蔵庫等で冷却した後、型からイースト封入油脂組成物を取り出す。
【0019】
本発明のイースト封入油脂組成物において、第1の油脂は任意の成分と混合されていてもよい。ただし、小麦粉などの穀粉、糖類、及び食塩は、イースト封入油脂組成物の保管中やパンの仕込み中にインスタントドライイーストと接触してその活性を低下させるため、第1の油脂と混合させないことが望ましい。
例えば、第1の油脂は、親水性乳化剤と混合されていてもよい。ここでいう「親水性乳化剤」は、生地改良や老化防止などの目的ではなく、本発明のイースト封入油脂組成物を材料である水と混合し、水とインスタントドライイーストが接触した際に、インスタントドライイーストの表面に付着した油脂を洗い落とし、生地の発酵を促す目的で使用する。親水性乳化剤としては、一般的に食品に使用されるものであれば特に限定されないが、HLB値が8~20であり、好ましくは10~18である、O/W(oil in water)型乳化を形成する乳化剤である。このような性質を有する親水性乳化剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、酵素分解レシチン等を挙げることができる。
本発明のイースト封入油脂組成物中の親水性乳化剤の配合量は、イースト封入油脂組成物の全質量に対して、0.5~6質量%、好ましくは0.7~5質量%、より好ましくは1~4質量%、とすることができる。
また、親水性乳化剤の配合量は、イースト封入油脂組成物中の油脂の配合量(第1の油脂と第2の油脂の合計)を100質量部とした場合、1~20質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは1.5~5質量部となるように配合することができる。
【0020】
本発明のイースト封入油脂組成物によると、第1の油脂が、インスタントドライイーストと空気や他の材料(穀粉、糖類、及び食塩などの粉体)との接触を遮断するため、イーストが活性化することなく保持される。したがって、室温で長期間(例えば、4~9か月)保管しても、十分に膨らんだ良好な食感を呈するパンを焼成することができる。
【0021】
また、インスタントドライイーストは、他の材料と接触すると活性が低下し、特に食塩と接すると浸透圧の影響によりイーストが死滅しやすくなる。したがって、パン製造時にはインスタントドライイーストと食塩が接触しないようにしたり、イースト供給用の装備を有さない廉価なホームベーカリーを使用する際には装置内の決められた場所に各材料を入れたりする必要があった。本発明のイースト封入油脂組成物によると、インスタントドライイーストと他の材料との接触状態が低減されるため、上記した点に配慮することなく簡便にパンを製造することができる。
【0022】
また、従来、上記したようなホームベーカリーにおいて予約時間を設定してパンを焼成する際には、材料を装置内に入れた後の待機時間中にインスタントドライイーストが食塩など他の材料の影響を受けてイーストの活性が低下し、パンの膨らみが低下する場合があった。本発明のイースト封入油脂組成物によると、第1の油脂がインスタントドライイーストと他の材料との接触機会を減らすため、イーストの活性低下を抑制することができる。
【0023】
<製パン用プレミックス>
本発明の製パン用プレミックスは、混合粉体と、イースト封入油脂組成物と、を含み、前記混合粉体と前記イースト封入油脂組成物が一つの包装体に収容されている。
本発明の製パン用プレミックスを使用したパンは、製パン用プレミックスを水などの材料と混合・混捏し、発酵工程、焼成工程を経て製造される。混捏から焼成までの工程は直捏法、中種法、中麺法、液種法等いずれの方法であっても構わない。また、本発明の製パン用プレミックスは、ホームベーカリーを使用したパンの製造、及び手ごねによるパンの製造のいずれにおいても使用可能である。
【0024】
本発明の製パン用プレミックスにおいて、混合粉体は、少なくとも穀粉、糖類、及び食塩を含む。混合粉体は、各種粉体を計量して手で振り混ぜることで調製しても良いし、工業的に調製する場合にはリボンミキサー、ナウターミキサー、リボンミキサーなど各種粉体の混合に一般的に使用される装置を使用しても良い。
本明細書に記載の「穀粉」とは、穀物の種子を製粉して得られる粉であって、製パンに使用可能なものを広く指す。穀粉としては、例えば小麦粉、ライ麦粉、米粉などを挙げることができ、好ましくは小麦粉及びライ麦粉、特に好ましくは小麦粉である。小麦粉としては、強力粉、中力粉、強力粉と中力粉又は薄力粉を混合したもの、全粒粉、及びこれらの混合物を使用することができるが、一般的に製パンに用いられる強力粉が特に好ましい。生地が膨張してパンを焼成可能であれば、ライ麦粉及び米粉などのグルテンを含まない穀粉を使用ことができるが、生地の膨らみが悪ければ別途活性グルテン等を加えても良い。
【0025】
本明細書に記載の「糖類」とは、イーストの発酵に必要な糖類であって、製パンに使用可能なものを広く指す。糖類としては、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、及び乳糖などの単糖類、スクロース(例えば、上白糖、グラニュー糖など)、マルトース、ラクトースなどの二糖類を挙げることができ、好ましくはショ糖及びブドウ糖である。糖類としては、上記のほか、パンの風味付けや焼き色を付ける目的で、黒糖、ザラメ糖、及び三温糖などの精製度の低い砂糖や、ハチミツ、メープルシロップ、コーンシロップ、及び糖アルコールなどの液糖を用いても良い。また、甘味料としてトレハロースなどの合成甘味料、スクラロースなどの高甘味度甘味料を使用しても良い。
糖類の配合量は、穀粉の配合量を100質量部とした場合、4~10質量部となるように配合することが好ましい。
【0026】
本明細書に記載の「食塩」とは、パンの味付け、発酵生地の雑菌繁殖防止、及びパン生地のダレ防止などの効果を奏するものを広く指す。食塩としては、天然塩、再生塩、及び精製塩を挙げることができる。
食塩の配合量は、穀粉の配合量を100質量部とした場合、0.5~2.5質量部となるように配合することが好ましい。
【0027】
本発明の混合粉体は、親水性乳化剤をさらに含んでいても良い。ここでいう「親水性乳化剤」とは、本発明の製パン用プレミックスを材料である水と混合し、水とインスタントドライイーストが接触した際に、インスタントドライイーストの表面に付着した油脂を洗い落とし、生地の発酵を促す目的で使用する。親水性乳化剤の具体的な性質及び種類は、上記の通りである。
混合粉体中の親水性乳化剤の配合量は、イースト封入油脂組成物の全質量に対して、0.5~6質量%、好ましくは0.7~5質量%、より好ましくは1~4質量%、とすることができる。
また、混合粉体中の親水性乳化剤の配合量は、イースト封入油脂組成物中の油脂の配合量(第1の油脂と第2の油脂の合計)を100質量部とした場合、1~20質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは1.5~5質量部となるように配合することができる。
イースト封入油脂組成物の第1の油脂が親水性乳化剤と混合されている場合には、混合粉体中の親水性乳化剤とイースト封入油脂組成物中の親水性乳化剤の合計の量を、上記した量とすることができる。
【0028】
本発明の混合粉体は、澱粉、粉末乳製品、粉末卵製品、生地改良剤などの任意の材料をさらに含んでいても良い。
これらの任意材料は、穀粉の配合量を100質量部とした場合、0~3質量部となるように配合することが好ましい。
穀粉に加えて澱粉を生地に添加することにより、所望の食感を呈するパンを焼成することができる。澱粉としては、例えば、片栗粉、コーンスターチ、及び各種加工澱粉などを挙げることができる。
粉末乳製品は、パンに焼き色を付与し、またパンが固くなるのを防ぐことが作用を有する。粉末乳製品としては、例えば、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、及びホエイパウダーなどを挙げることができる。
粉末卵製品は、パンの味、香り、色つやを向上させる作用、また乳化作用、澱粉老化防止作用などを有する。粉末卵製品としては、卵黄、卵白、又は全卵を粉末状に加工した者を使用することができる。
【0029】
生地改良剤は、パン生地の品質を安定させるために使用されるものであり、pH調製、生地物性調製、及び水質改良などの効果を奏する。生地改良剤には、各種乳化剤、酵素、及び塩類が混合されている。
生地改良剤には、例えば、イーストフードが含まれる。イーストフードは、主として生育に必要な3要素である窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)を補強し、発酵を安定させる作用を有する。具体的には、イーストフードとして塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、焼成カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム(無水)、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムの16種類の無機塩を使用することができる。
生地改良剤には、例えば、乳化剤が含まれている。ここでいう乳化剤としては、澱粉の表面に吸着して油脂類を均一に分散させ、パンのやわらかさを保つ作用を有する乳化剤や、グルテンに作用して生地の調製、機械耐性に作用を有する乳化剤が用いられる。一般的に製パンに利用されている代表的な乳化剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル(モノグリセライド)が挙げることができる。
生地改良剤には、例えば、ビタミンCが含まれている。ビタミンCは、小麦粉のグルテンに酸化剤として作用し、グルテンネットワークの形成を促進し、パン生地をきめ細かくソフトにし、また風味を豊かにする作用を有する。
【0030】
本発明の製パン用プレミックスにおいては、イースト封入油脂組成物は、混合粉体中の穀粉の配合量を100質量部とした場合、7~19質量部となるように調製することが好ましい。イースト封入油脂組成物中のインスタントドライイースト、第1の油脂、及び第2の油脂の配合量は上記の通りである。
【0031】
本発明の製パン用プレミックスにおいて、イースト封入油脂組成物及び混合粉体を収容する包装体としては、任意の素材のものを用いることができる。従来、インスタントドライイーストは、インスタントドライイーストと空気との接触を遮断するためにアルミパウチに真空状態で包装されるのが一般的であった。本発明の製パン用プレミックスにおいては、インスタントドライイーストが第1の油脂に封入されているため、包装体の素材としては、アルミホイル、アルミ蒸着フィルムや透明蒸着フィルムのほか、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)などのプラスチックを組み合わせた多層構成のガスバリア性を有する包装材、並びにポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなプラスチックフィルム、及び紙などからなる単層又は多層フィルム包装材も用いることができる。混合粉体の品質を維持するため、ガスバリア性を有する多層構成のプラスチック製の包装材を使用した包装体を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製パン用プレミックスは、インスタントドライイースト及び混合粉体が予め計量されて包装体に収容されている、オールインワンタイプのプレミックスである。したがって、本発明の製パン用プレミックスによると、水以外の各材料の計量作業や、ホームベーカリーを使用する場合にはインスタントドライイーストと他の材料を装置内の別の箇所に投入する手間を省略することができる。
【0033】
<製パン用セット>
本発明の製パン用セットは、混合粉体を収容する第1の包装体と、イースト封入油脂組成物を収容する第2の包装体と、を含む。
本発明の製パン用セットを使用したパンは、製パン用セットの混合粉体及びイースト封入油脂組成物を水などの材料と混合・混捏し、発酵工程、焼成工程を経て製造される。混捏から焼成までの工程は直捏法、中種法、中麺法、液種法等いずれの方法であっても構わない。また、本発明の製パン用セットは、ホームベーカリーを使用したパンの製造、及び手ごねによるパンの製造のいずれにおいても使用可能である。
【0034】
本発明の製パン用セットにおいて、混合粉体は、少なくとも穀粉、糖類、及び食塩を含む。本発明の混合粉体は、澱粉、粉末乳製品、粉末卵製品、生地改良剤などの任意の材料をさらに含んでいても良い。混合粉体中の糖類、食塩、及び任意材料の配合量は、上記の通りである。
混合粉体は、各種粉体を計量して手で振り混ぜることで調製しても良いし、工業的に調製する場合にはリボンミキサー、ナウターミキサー、リボンミキサーなど各種粉体の混合に一般的に使用される装置を使用しても良い。
【0035】
本発明の混合粉体は、親水性乳化剤をさらに含んでいても良い。ここでいう「親水性乳化剤」とは、本発明の製パン用プレミックスを材料である水と混合し、水とインスタントドライイーストが接触した際に、インスタントドライイーストの表面に付着した油脂を洗い落とし、生地の発酵を促す目的で使用する。親水性乳化剤の具体的な性質及び種類は、上記の通りである。
混合粉体中の親水性乳化剤の配合量は、イースト封入油脂組成物の全質量に対して、0.5~6質量%、好ましくは0.7~5質量%、より好ましくは1~4質量%、とすることができる。
また、混合粉体中の親水性乳化剤の配合量は、イースト封入油脂組成物中の油脂の配合量(第1の油脂と第2の油脂の合計)を100質量部とした場合、1~20質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは1.5~5質量部となるように配合することができる。
イースト封入油脂組成物の第1の油脂が親水性乳化剤と混合されている場合には、混合粉体中の親水性乳化剤とイースト封入油脂組成物中の親水性乳化剤の合計の量を、上記した量とすることができる。
【0036】
本発明の製パン用セットにおいては、イースト封入油脂組成物は、混合粉体中の穀粉の配合量を100質量部とした場合、7~19質量部となるように調製することが好ましい。イースト封入油脂組成物中のインスタントドライイースト、第1の油脂、及び第2の油脂の配合量は上記の通りである。
【0037】
本発明の製パン用プレミックスにおいて、混合粉体を収容する第1の包装体としては、任意の材質のものを用いることができるが、混合粉体の品質を維持可能するために、ガスバリア性を有する多層構成のプラスチック製の包装材を使用した包装体を用いることが好ましい。
イースト封入油脂組成物を収容する第2の包装体としては、アルミホイルのほか、プラスチック、紙、及びこれらを複数組み合わせた多層フィルムなどの任意の包装材を使用した包装体を使用することができる。輸送時におけるイースト封入油脂組成物形状を維持する観点から、従来カレールウなどの固形ルウの収容に用いられるプラスチックケースを好適に用いることができる。
【0038】
本発明の製パン用セットは、混合粉体及びインスタントドライイーストを含むイースト封入油脂組成物が、予め計量されて第1の包装体及び第2の包装体にそれぞれ収容されている。したがって、本発明の製パン用セットによると、水以外の各材料の計量作業や、ホームベーカリーを使用する場合にはインスタントドライイーストと他の材料を装置内の別の箇所に投入する手間を省略することができる。
【実施例0039】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
<試験例1>イースト封入油脂組成物の調製
表1に記載の実施例1及び2のイースト封入油脂組成物を、以下の手順に従って調製した。
(工程1)シリコン型(チョコレート用樹脂製型)を冷蔵庫で冷やす。シリコン型として、シリコマート シリコンフレックス SF006 半球 Φ30mm 24個付 シリコン型(silikomart社製)を使用した。
(工程2)イースト封入油脂組成物の外殻用固形油脂である牛脂豚脂混合油(第1の油脂)を、80℃以上になるまで加熱して溶解させ、65℃の恒温槽で保温しておく。
(工程3)シリコン型に工程2の牛脂豚脂混合油を八分目まで入れ、庫内温度5℃の冷蔵庫に入れて冷やす(約5分)。
(工程4)シリコン型の周囲の油脂が固まったら冷蔵庫から取り出し、中央部の固まっていない油脂を捨てて中央が窪んだ外殻構造を作成する。
(工程5)外殻構造の内側の穴に、インスタントドライイースト単体(実施例1)、又はインスタントドライイーストとショートニング(第2の油脂)とを混合したもの(実施例2)を詰める。
(工程6)40℃まで冷却した液状の牛脂豚脂混合油を型の満杯まで入れインスタントドライイーストを完全に覆い、冷蔵庫に入れて完全に冷やし固める(約5分)。
(工程7)シリコン型からイースト封入油脂組成物を取り出す。実施例1及び2のイースト封入油脂組成物は、質量:13g/個、直径:30mm、高さ20mmであった。
(工程8)イースト封入油脂組成物をポリ袋(ニューポリ袋06 No.11(低密度ポリエチレン(LDPE))、福助工業株式会社)に入れ、加熱溶着して密封する。
【0041】
【表1】

【0042】
<試験例2>イースト封入油脂組成物を用いたパン焼成
表2に記載のように、イースト封入油脂組成物を使用するパン(実施例3~8)及びイースト封入油脂組成物を使用しないパン(比較例1~3)を焼成し、イースト封入油脂組成物が有するイースト活性と、イースト封入油脂組成物の保存性を試験した。
【0043】
実施例3~7のパンを、以下の手順に従って焼成した。
(工程1)ポリ袋(ニューポリ袋06 No.11(低密度ポリエチレン(LDPE))、福助工業株式会社)に強力粉(穀粉)、グラニュー糖(糖類)、食塩、及び乳化剤(親水性乳化剤)を量り入れ、15秒間手で振り混ぜて均一な混合物(混合粉体)を得る。
(工程2)混合粉体を入れたポリ袋の口を加熱溶着して密封する(第1の包装体)。
(工程3)実施例3~6のイースト封入油脂組成物を、試験例1の実施例1と同様に調製し、実施例7のイースト封入油脂組成物を、試験例1の実施例2と同様に調製する。
(工程4)実施例4~6のイースト封入油脂組成物を、混合粉体とは別のポリ袋(同上)に入れ、加熱溶着して密封する(第2の包装体)。
(工程5)実施例4~6のイースト封入油脂組成物を入れたポリ袋(第2の包装体)に対し、保存試験を行う。
(工程6)実施例3及び7は工程3の後、実施例4~6は工程5の後、それぞれホームベーカリーのパンケースにポリ袋から出した混合粉体及びイースト封入油脂組成物を入れる。
(工程7)水を加え、ホームベーカリーの「ドライイースト・食パンコース」にてパンを焼成する(所要時間約4.5時間)。
【0044】
実施例8のパンを、以下の手順に従って焼成した。
(工程1)ポリ袋(ニューポリ袋06 No.11(低密度ポリエチレン(LDPE))、福助工業株式会社)に強力粉(穀粉)、グラニュー糖(糖類)、食塩、及び乳化剤(親水性乳化剤)を量り入れ、15秒間手で振り混ぜて均一な混合物(混合粉体)を得る。
(工程2)実施例8のイースト封入油脂組成物を、試験例1の実施例1と同様に調製する。
(工程3)混合粉体を入れたポリ袋にイースト封入油脂組成物を入れ、加熱溶着して密封する。
(工程4)混合粉体及びイースト封入油脂組成物を入れたポリ袋に対し、保存試験を行う。
(工程5)工程4の後、ホームベーカリーのパンケースにポリ袋から出した混合粉体及びイースト封入油脂組成物を入れる。
(工程6)水を加え、ホームベーカリーの「ドライイースト・食パンコース」にてパンを焼成する(所要時間約4.5時間)。
【0045】
比較例1~3のパンを、以下の手順に従って焼成した。
(工程1)ポリ袋(ニューポリ袋06 No.11(低密度ポリエチレン(LDPE))、福助工業株式会社)にインスタントドライイースト、強力粉、グラニュー糖、食塩、及び乳化剤を量り入れ、15秒間手で振り混ぜて均一な混合物(イースト入り混合粉体)を得る。
(工程2)イースト入り混合粉体を入れたポリ袋の口を加熱溶着して密封する。
(工程3)牛脂豚脂混合油を、イースト入り混合粉体とは別のポリ袋(同上)に入れ、加熱溶着して密封する。
(工程4)比較例2のイースト入り混合粉体を入れたポリ袋及び牛脂豚脂混合油を入れたポリ袋に対し、保存試験を行う。
(工程5)比較例1及び3は工程2の後、比較例2は工程4の後、それぞれホームベーカリーのパンケースにポリ袋から出したイースト入り混合粉体及び牛脂豚脂混合油を入れる。比較例3は、さらにショートニングをパンケースに入れる。
(工程6)水を加え、ホームベーカリーの「ドライイースト・食パンコース」にてパンを焼成する(所要時間約4.5時間)。
【0046】
(使用機器)
パンの焼成には、以下の機器を使用した。
ホームベーカリー:SD-BM151(パナソニック株式会社)
保管用恒温槽:電気恒温ふ卵器FIN-1000MII(株式会社平山製作所)
(保管条件)
各原料は、以下の保管条件下で保管されたものを使用した。
イースト含有油脂組成物:冷蔵保管(10℃以下)
牛脂豚脂混合油:冷蔵保管(10℃以下)
インスタントドライイースト(真空包装品):開封前は室温保管(20~30℃)、開封後は冷蔵保管(10℃以下)
ショートニング:室温保管(20~30℃)
(保存試験)
保存試験とは、表2の「保存試験」欄に記載の温度及び期間、各ポリ袋を静置したことを指す。実施例4~6は上記工程5に記載のイースト封入油脂組成物を入れたポリ袋(第2の包装体)に対して、実施例8は上記工程4に記載の混合粉体及びイースト封入油脂組成物を入れたポリ袋に対して、比較例2は上記工程4に記載のイースト入り混合粉体を入れたポリ袋及び牛脂豚脂混合油を入れたポリ袋のそれぞれに対して、保存試験を実施した。
表2の「保存試験」欄に記載の「保存試験なし」とは、イースト封入油脂組成物と牛脂豚脂混合油以外の原料は、それぞれ上記保管方法で保管されていたものを保管場所から移動させた後、時間をおかずに(30分以内)パンケースに入れたことを意味する。イースト封入油脂組成物及び牛脂豚脂混合油は、保管場所から移動させたあと室温に戻してから使用したことを意味する。
なお、40℃・1週間は、20℃・1ヶ月に相当すると見立てた。
【0047】
焼成されたパンを、以下の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
◎(最良):パンがパンケースからはみ出すほど膨らみ、かつ特に柔らかく極めて良好な食感を呈する。
〇(良) :パンがパンケースからはみ出さないものの十分に膨らんでおり、かつ少しもっちりとした、食パンとして適当な食感を呈する。
×(不可):パンが十分に膨らんでおらず、かつ団子のように固い食感を呈する。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例3から、実施例1のイースト封入油脂組成物が、インスタントドライイースト及び他の原料を別々にパンケースに入れた比較例1と同程度に、イースト活性を有することが示された。
実施例4~6から、実施例1のイースト封入油脂組成物が、40℃で3~9週間の保存後も十分に食パンを焼成可能な程度のイースト活性を有することが示された。実施例8から、混合粉体及びイースト封入油脂組成物が一つの包装体に収容されている製パン用プレミックスの状態で、20℃で4ヶ月の保存後も、実施例3と同等のイースト活性を有することが示された。一方で、比較例2から、インスタントドライイーストを粉体と混合し、かつ空気と遮断せずに保存した場合には1週間経過時点でイースト活性を失うことが示された。
実施例7及び比較例3から、インスタントドライイーストがショートニングと混合された状態で封入されている実施例2のイースト封入油脂組成物が、インスタントドライイースト及び他の原料を別々にパンケースに入れた比較例3と同程度に、イースト活性を有することが示された。
以上より、本発明のイースト封入油脂組成物は、第1の油脂によりインスタントドライイーストが混合粉体及び空気から遮断されるため、長期間にわたってイースト活性を維持したまま保存可能であることが示された。また、本発明のイースト封入油脂組成物が、同じ包装体に収容された混合粉体との遮断性も十分に有することが明らかとなった。
【0050】
<試験例3>乳化剤の洗浄効果の検証
乳化剤による、イースト封入油脂組成物中のインスタントドライイーストに付着した油脂のクレンジング効果を試験した。
参考例1は、インスタントドライイーストとサラダ油を事前に混合して、インスタントドライイーストをサラダ油中に分散したプレミックスを使用している。
参考例2は、参考例1のプレミックスに、さらに乳化剤を混合している。乳化剤は、水と油脂の合計に対して0.3%の量で配合した。
【0051】
表3記載の参考例1及び2のパンを、以下の手順に従って焼成した。
(工程1)ポリ袋(ニューポリ袋06 No.11(低密度ポリエチレン(LDPE))、福助工業株式会社)に強力粉(穀粉)及びグラニュー糖(糖類)を量り入れ、参考例2はこれらに加え乳化剤(親水性乳化剤)を計り入れ、15秒間手で振り混ぜて均一な混合物を得る
(工程2)ボウルにインスタントドライイーストとサラダ油を入れ、サラダ油中にインスタントドライイーストを分散させる。
(工程3)工程2のボウルに工程1の混合物を加え、ゴムベラで全体をよく混ぜる。目視で大きな粉の塊がなくなれば攪拌を完了する。
(工程4)ホームベーカリー(使用機器は試験例2と同じ)に工程3の生地を山状に入れ、周囲に水を回し入れて、「ドライイースト・食パンコース」にてパンを焼成する(所要時間約4.5時間)。
【0052】
焼成された参考例1及び参考例2のパンを、試験例2と同じ評価基準を用いて評価した。結果を表3に示す。
【表3】

【0053】
参考例2のパンは、目視によっても明らかに参考例1のパンよりも膨らんでいた。
油脂とインスタントドライイーストを混合又は接触させて保存する場合には、乳化剤を使用した方が焼成時のパンの膨らみが良くなることが明らかとなった。インスタントドライイーストの表面に油脂が付着していると、水を加えた時にイーストの水分の吸収が阻害されてしまう。理論に拘束されないが、生地に乳化剤が含まれていることにより、水に分散した乳化剤が洗浄効果を発揮してイースト表面の油脂を洗い流し、発酵を促進したと考えられる。
本発明のイースト封入油脂組成物においては、インスタントドライイーストを第1の油脂に封入し、ある態様ではさらにインスタントドライイーストを第2の油脂と混合する。親水性乳化剤を使用することで、より良好なパンを焼成することができる。