(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062183
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】ビーム検出器、マルチ荷電粒子ビーム照射装置、及びビーム検出器の調整方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240430BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20240430BHJP
H01J 37/305 20060101ALN20240430BHJP
【FI】
H01L21/30 541N
H01L21/30 541W
H01L21/30 541H
H01J37/244
H01J37/305 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170017
(22)【出願日】2022-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 保尚
(72)【発明者】
【氏名】溝口 裕規
(72)【発明者】
【氏名】日名田 暢
(72)【発明者】
【氏名】木村 駿生
(72)【発明者】
【氏名】明野 公信
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101BB08
5C101GG15
5C101HH23
5C101LL04
5F056AA07
5F056BA01
5F056BA05
5F056BB01
5F056CB08
5F056EA03
5F056EA04
5F056EA14
(57)【要約】
【課題】2段のアパーチャの孔を高精度に位置合わせする。
【解決手段】ビーム検出器は、マルチ荷電粒子ビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板と、前記第1通過孔を通過した1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔が形成された第2アパーチャ基板と、前記第2通過孔を通過した前記検出対象ビームのビーム電流を検出するセンサと、を備える。前記第2アパーチャ基板は、導電性の材料を含み、前記第2通過孔の周囲に、光が通過可能な複数の第3通過孔が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板と、
前記第1通過孔を通過した1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔が形成された第2アパーチャ基板と、
前記第2通過孔を通過した前記検出対象ビームのビーム電流を検出するセンサと、
を備え、
前記第2アパーチャ基板は、導電性の材料を含み、前記第2通過孔の周囲に、光が通過可能な複数の第3通過孔が形成されている、ビーム検出器。
【請求項2】
前記第1通過孔のサイズは個別ビームのビーム径より大きい、請求項1に記載のビーム検出器。
【請求項3】
前記第2アパーチャ基板と前記センサとの間に設けられ、前記第3通過孔を通過した散乱電子を遮蔽する散乱電子カバーをさらに備える、請求項1に記載のビーム検出器。
【請求項4】
前記第3通過孔は前記第2通過孔より大きい、請求項1に記載のビーム検出器。
【請求項5】
描画対象基板を載置するステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
前記荷電粒子ビームの照射を受け、それぞれ前記荷電粒子ビームの一部を通過させることによってマルチビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、
前記マルチビームを前記描画対象基板上に照射する光学系と、
前記ステージ上に配置され、前記マルチビームの各ビームを個別に検出するビーム検出器と、
を備え、
前記ビーム検出器は、
前記マルチビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板と、
前記第1通過孔を通過した1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔が形成された第2アパーチャ基板と、
前記第2通過孔を通過した前記検出対象ビームのビーム電流を検出するセンサと、
を有し、
前記第2アパーチャ基板は、導電性の材料を含み、前記第2通過孔の周囲に、光が通過可能な複数の第3通過孔が形成されている、マルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項6】
マルチ荷電粒子ビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板の該第1通過孔と、該マルチビームの1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔及び前記第2通過孔の周囲に複数の第3通過孔が形成された第2アパーチャ基板の該第2通過孔との位置合わせを行うビーム検出器の調整方法であって、
光源から射出された光を、前記第2通過孔及び前記複数の第3通過孔を介して前記第1アパーチャ基板に照射し、対物レンズの焦点を該第1アパーチャ基板に合わせ、イメージセンサを用いて、該対物レンズを介して入射された反射光の結像を観察し、前記第1通過孔の位置を基準マークに設定する工程と、
前記対物レンズの焦点を前記第2アパーチャ基板に合わせ、前記イメージセンサを用いて、該対物レンズを介して入射された反射光の結像を観察し、前記第2通過孔の位置が前記基準マークと一致するように該第2アパーチャ基板を移動させる工程と、
を備えるビーム検出器の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム検出器、マルチ荷電粒子ビーム照射装置、及びビーム検出器の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスの回路線幅はさらに微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ回路パターンを形成するための露光用マスク(ステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)を形成する方法として、優れた解像性を有する電子ビーム描画技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置として、マルチビームを使った描画装置の開発が進められている。マルチビームを用いることで、1本の電子ビームで描画する場合に比べて多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったアパーチャ部材に通してマルチビームを形成し、ブランキングアパーチャアレイで各ビームのブランキング制御を行い、遮蔽されなかったビームが光学系で縮小され、移動可能なステージ上に載置された基板に照射される。
【0004】
基板上でのマルチビームの照射位置を高精度に保つためには、マルチビームを構成する各ビームの基板上での位置を高精度に把握することが重要である。ビーム本数が少なく、例えば、数本程度であり、ビーム間ピッチが十分に広い構成では、各ビーム用にビーム本数と同数のマークをステージ上に配置して、各ビームで対応するマーク上をスキャンさせることにより、各ビームの位置を測定できる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、回路パターンの微細化に伴い、スループットを大幅に向上させるためには、より多くのビーム本数によるマルチビームが必要となる。そして、ビーム本数の増加に伴い、ビーム径は小さくなり、ビーム間ピッチは狭くなる。このように、ビーム本数が増加しビーム間ピッチが狭くなるのに伴い、照射されたマルチビームの中から各ビームを1本ずつ個別にステージ上に配置されたマークを使って検出することは容易ではない。
【0006】
マルチビームのビーム間ピッチよりも小さく、ビーム径より大きいサイズの通過孔が1つ形成された薄膜のアパーチャを使用し、この通過孔を通過した1本の検出対象ビームをフォトダイオード等のセンサで検出する個別ビーム検出器が提案されている。しかし、このような個別ビーム検出器では、検出対象ビームの近傍のビームが薄膜アパーチャを透過することで生じた散乱電子がセンサに入射し、ノイズ源となって検出精度を低下させるおそれがあった。散乱電子を遮蔽するために、薄膜アパーチャ(第1アパーチャ)とセンサとの間に第2アパーチャを設けることが考えられるが、薄膜アパーチャの孔及び第2アパーチャの孔は共に微細な孔であり、位置合わせが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-9882号公報
【特許文献2】特開2005-340229号公報
【特許文献3】特開平10-261566号公報
【特許文献4】特開平6-275500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、2段のアパーチャの孔が高精度に位置合わせされたマルチ荷電粒子ビームのビーム検出器及びマルチ荷電粒子ビーム照射装置を提供することを課題とする。また、本発明は、2段のアパーチャの孔を高精度に位置合わせできるビーム検出器の調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によるビーム検出器は、マルチ荷電粒子ビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板と、前記第1通過孔を通過した1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔が形成された第2アパーチャ基板と、前記第2通過孔を通過した前記検出対象ビームのビーム電流を検出するセンサと、を備え、前記第2アパーチャ基板は、導電性の材料を含み、前記第2通過孔の周囲に、光が通過可能な複数の第3通過孔が形成されているものである。
【0010】
本発明の一態様によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置は、描画対象基板を載置するステージと、荷電粒子ビームを放出する放出部と、前記荷電粒子ビームの照射を受け、それぞれ前記荷電粒子ビームの一部を通過させることによってマルチビームを形成する成形アパーチャアレイ基板と、前記マルチビームを前記描画対象基板上に照射する光学系と、前記ステージ上に配置され、前記マルチビームの各ビームを個別に検出するビーム検出器と、を備え、前記ビーム検出器は、前記マルチビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板と、前記第1通過孔を通過した1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔が形成された第2アパーチャ基板と、前記第2通過孔を通過した前記検出対象ビームのビーム電流を検出するセンサと、を有し、前記第2アパーチャ基板は、導電性の材料を含み、前記第2通過孔の周囲に、光が通過可能な複数の第3通過孔が形成されているものである。
【0011】
本発明の一態様によるビーム検出器の調整方法は、マルチ荷電粒子ビームのビーム間ピッチよりも小さい第1通過孔が形成された第1アパーチャ基板の該第1通過孔と、該マルチビームの1本の検出対象ビームが通過可能な第2通過孔及び前記第2通過孔の周囲に複数の第3通過孔が形成された第2アパーチャ基板の該第2通過孔との位置合わせを行うビーム検出器の調整方法であって、光源から射出された光を、前記第2通過孔及び前記複数の第3通過孔を介して前記第1アパーチャ基板に照射し、対物レンズの焦点を該第1アパーチャ基板に合わせ、イメージセンサを用いて、該対物レンズを介して入射された反射光の結像を観察し、前記第1通過孔の位置を基準マークに設定する工程と、前記対物レンズの焦点を前記第2アパーチャ基板に合わせ、前記イメージセンサを用いて、該対物レンズを介して入射された反射光の結像を観察し、前記第2通過孔の位置が前記基準マークと一致するように該第2アパーチャ基板を移動させる工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マルチビームのビーム検出用の2段のアパーチャの孔を高精度に位置合わせできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。
【
図6】2段のアパーチャの孔のアライメント方法を説明する図である。
【
図7】2段のアパーチャの孔のアライメント方法を説明する図である。
【
図8】変形例による第2アパーチャ基板の平面図である。
【
図9】変形例による第2アパーチャ基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム描画装置の概略図である。本実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の他の荷電粒子ビームでもよい。
【0016】
この描画装置は、描画対象の基板24に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部Wと、描画部Wの動作を制御する制御部Cとを備える。
【0017】
描画部Wは、電子ビーム鏡筒2及び描画室20を有している。電子ビーム鏡筒2内には、電子銃4、照明レンズ6、成形アパーチャアレイ基板8、ブランキングアパーチャアレイ基板10、縮小レンズ12、制限アパーチャ部材14、対物レンズ16及び偏向器17が配置されている。
【0018】
描画室20内には、XYステージ22が配置される。XYステージ22上には、描画対象の基板24が載置されている。描画対象の基板24は、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置(EUV)を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。
【0019】
また、XYステージ22には、基板24が載置される位置とは異なる位置に、透過マーク型の個別ビーム検出器40が配置されている。個別ビーム検出器40は、調整機構(図示略)により高さが調整可能となっている。個別ビーム検出器40の上面は、基板24の表面と同じ高さ位置に設置されることが好ましい。
【0020】
制御部Cは、制御計算機32及び偏向制御回路34を有している。
【0021】
制御計算機32は、描画データ処理部60、描画制御部61及び測定部62を有する。制御計算機32の各部は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。ソフトウェアで構成する場合には、これらの機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、CPU等を含むコンピュータに読み込ませて実行させてもよい。
【0022】
図示しない記憶装置に、設計データ(レイアウトデータ)を描画装置用のフォーマットに変換した描画データが格納されている。描画データ処理部60は、この記憶装置から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を実施して、ショットデータを生成する。ショットデータは、画素毎に生成され、描画時間(照射時間)が演算される。例えば対象画素にパターンを形成しない場合、ビーム照射が無となるので、描画時間ゼロ或いはビーム照射無の識別コードが定義される。ここでは、1回のマルチビームのショットにおける最大描画時間T(最大露光時間)が予め設定される。実際に照射される各ビームの照射時間は、算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。また、最終的に算出される各ビームの照射時間は、図示しない近接効果、かぶり効果、ローディング効果等の寸法変動を引き起こす現象に対する寸法変動分を照射量によって補正した補正後の照射量に相当する時間にすると好適である。よって、実際に照射される各ビームの照射時間は、ビーム毎に異なり得る。各ビームの描画時間(照射時間)は、最大描画時間T内の値で演算される。また、描画データ処理部60は、演算された各画素の照射時間データをかかる画素を描画することになるビーム用のデータとして、マルチビームのショット毎に、マルチビームの各ビームの配列順に並べた照射時間配列データを生成する。
【0023】
描画制御部61は、照射時間配列データ(ショットデータ)を用いて、偏向制御回路34、及び描画部Wを駆動する制御回路(図示略)に描画処理を実施するための制御信号を出力する。描画部Wは、制御信号に基づき、マルチビームを用いて、基板24に所望のパターンを描画する。具体的には以下のように動作する。
【0024】
電子銃4から放出された電子ビーム30は、照明レンズ6によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板8全体を照明する。
図2は、成形アパーチャアレイ基板8の構成を示す概念図である。成形アパーチャアレイ基板8には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の開口部8aが所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。例えば、512列×512列の開口部8aが形成される。各開口部8aは、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。各開口部8aは、同じ径の円形であっても構わない。
【0025】
電子ビーム30は、成形アパーチャアレイ基板8のすべての開口部8aが含まれる領域を照明する。これらの複数の開口部8aを電子ビーム30の一部がそれぞれ通過することで、
図1に示すようなマルチビーム30a~30eが形成されることになる。
【0026】
ブランキングアパーチャアレイ基板10には、成形アパーチャアレイ基板8の各開口部8aの配置位置に合わせて貫通孔が形成され、各貫通孔には、対となる2つの電極からなるブランカが、それぞれ配置される。各貫通孔を通過する電子ビーム30a~30eは、それぞれ独立に、ブランカが印加する電圧によって偏向される。この偏向によって、各ビームがブランキング制御される。ブランキングアパーチャアレイ基板10により、成形アパーチャアレイ基板8の複数の開口部8aを通過したマルチビームの各ビームに対してブランキング偏向が行われる。
【0027】
ブランキングアパーチャアレイ基板10を通過したマルチビーム30a~30eは、縮小レンズ12によって、各々のビームサイズと配列ピッチが縮小され、制限アパーチャ部材14に形成された中心の開口に向かって進む。ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカにより偏向された電子ビームは、その軌道が変位し制限アパーチャ部材14の中心の開口から位置がはずれ、制限アパーチャ部材14によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材14の中心の開口を通過する。
【0028】
制限アパーチャ部材14は、ブランキングアパーチャアレイ基板10のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各電子ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ部材14を通過したビームが、1回分のショットの電子ビームとなる。
【0029】
制限アパーチャ部材14を通過した電子ビーム30a~30eは、対物レンズ16により焦点が合わされ、基板24上で所望の縮小率のパターン像となる。制限アパーチャ部材14を通過した各電子ビーム(マルチビーム全体)は、偏向器17によって同方向にまとめて偏向され、基板24に照射される。
【0030】
一度に照射されるマルチビームは、理想的にはアパーチャ部材8の複数の開口部8aの配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。この描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。XYステージ22が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ22の移動に追従するように偏向器17によって制御される。
【0031】
このような描画装置では、描画精度を向上させるために、マルチビームを構成する各ビームの照射位置を個別に把握する必要がある。そのため、個別ビーム検出器40を用いて、各ビームの位置を検出する。
【0032】
図3は、透過マーク型の個別ビーム検出器40の概略構成図である。個別ビーム検出器40は、第1アパーチャ基板41、支持台43、第2アパーチャ基板50、散乱電子カバー80、センサ48、及び筐体49を有している。
【0033】
第1アパーチャ基板41(薄膜)には、中央に微小孔42(第1通過孔)が1つ形成される。第1アパーチャ基板41は、マルチビームが透過可能な膜厚の薄膜で形成される。具体的には、第1アパーチャ基板41は、重金属材を用いて、例えば、膜厚300~1000nmの薄膜平板に形成される。より好ましくは500nm±50nm程度に形成されると良い。例えば、加速電圧が50keVで放出された電子ビームは、アパーチャ基板41では吸収しきれず、透過する。
【0034】
第1アパーチャ基板41を薄膜構造にすることで、第1アパーチャ基板41が加熱された場合に、加熱された位置から周囲への熱伝達をし難くし、放熱を低減できる。材料となる重金属材として、例えば、白金(Pt)、金(Au)、或いはタングステン(W)等が好適である。膜厚を薄くする場合でも、重金属を用いることで、マルチビームが照射された場合に、電子の透過量を低減できる。
【0035】
微小孔42は、電子ビームにより構成されるマルチビームの個別ビームのビーム径より大きく、ビーム間ピッチよりも小さい直径サイズφ1で形成される。マルチビームのビーム間ピッチが例えば150~200nm程度の場合、直径φ1が、例えば、80~120nm程度の穴になるように形成される。微小孔42の直径を個別ビームのビーム径より大きく、ビーム間ピッチよりも小さくすることで、マルチビームを走査した場合でも同時に複数のビームが微小孔42を通過しないようにできる。
【0036】
第1アパーチャ基板41は、支持台43に支持される。支持台43は、第1アパーチャ基板41における微小孔42を含む領域下に開口部44が形成される。
図3の例では、中央に開口部44が形成される。開口部44の直径サイズφ2(幅サイズ)は、第1アパーチャ基板41にマルチビームが照射される場合に第1アパーチャ基板41における微小孔42の周縁の温度が、周縁に付着する不純物(コンタミ)の蒸発温度よりも高い温度になるサイズに形成される。コンタミの蒸発温度として、例えば、100℃以上の温度を用いると好適である。
【0037】
支持台43の材料として、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、或いはシリコン(Si)等を用いると好適である。支持台43の厚さは、照射されるマルチビームを構成する電子ビームを透過させずに遮蔽できる厚さである。例えば、15μm以上の厚さがあれば、50keVで加速された電子ビームを遮蔽できる。
【0038】
支持台43の裏面側の開口部44の周縁を電子が透過しない程度の厚さまで掘る開口部45をさらに設けることで、開口部44の周縁付近で第1アパーチャ基板41から支持台43側に伝熱された熱を水平方向に伝熱しにくくできる。この結果、開口部44上の第1アパーチャ基板41の微小孔42付近の領域の温度の低下をさらに抑制できる。
【0039】
支持台43の外周サイズは、例えば第1アパーチャ基板41の外周と同サイズ或いは第1アパーチャ基板41の外周よりも大きく形成される。支持台43底面は、筐体49によって支持される。
【0040】
第1アパーチャ基板41とセンサ48との間に、第2アパーチャ基板50が配置される。
図4A、
図4Bに示すように、第2アパーチャ基板50には、中央に微小孔51(第2通過孔)が形成され、微小孔51の周囲に複数の観察光通過孔52(第3通過孔)が形成される。第2アパーチャ基板50の外周部は筐体49によって固定されている。
【0041】
観察光は、後述する第1アパーチャ基板41の微小孔42と、第2アパーチャ基板50の微小孔51との孔位置のアライメント処理で使用する光であり、可視光でもよく、赤外線や紫外線であってもよい。
【0042】
複数の観察光通過孔52は、同じ寸法形状の円形である。複数の観察光通過孔52の中心は、微小孔51を中心とした同一円周上に等間隔に位置する。観察光通過孔52の径は、微小孔51の径よりも大きい。
【0043】
第2アパーチャ基板50は、微小孔51及び観察光通過孔52以外の領域では、観察光が透過せずに遮蔽される。第2アパーチャ基板50の材料は、電気抵抗が高く、非磁性で、導電性の材料が好ましい。例えば、チタン合金、導電性コートを行ったセラミック材(アルミナ、SiC)、導電性セラミック(SiCとSiの混合物)等が挙げられる。第2アパーチャ基板50の厚さは、散乱電子を遮蔽できる程度のものである。
【0044】
第2アパーチャ基板50とセンサ48との間に、散乱電子カバー80が配置されている。散乱電子カバー80は、筐体49に固定され、中央部に開口81が設けられている。開口81の径は、微小孔51の径よりも大きい。
【0045】
散乱電子カバー80は、上述した第2アパーチャ基板50の材料と同様のものを用いることができる。観察光通過孔52を通過した散乱電子が開口81を通過しないように、第2アパーチャ基板50と散乱電子カバー80との間隔、及び散乱電子カバー80の開口81の径が設定される。開口81は微小孔42や微小孔51よりも径が大きいため、微小孔42及び微小孔51との位置合わせは容易である。微小孔42、微小孔51及び開口81は、同軸上に位置することが好ましい。
【0046】
尚、透過マーク型の個別ビーム検出器40の第2アパーチャ基板50の真下に散乱電子カバー80を密着して配置してもよいが、第2アパーチャ基板50と散乱電子カバー80が接触し、摩擦が生じると、第2アパーチャ基板50の位置がずれてセンサの機能に不具合が生じる可能性がある。そのため、透過マーク型の個別ビーム検出器40を組立てる際、第2アパーチャ基板50と散乱電子カバー80とを所定の間隔を空けて配置することが好ましい。
【0047】
第1アパーチャ基板41をマルチビームでスキャンすると、開口部44上の領域に照射されたビーム群については、1本の検出対象ビームB1が微小孔42を通過し、微小孔51、開口81を通過し、センサ48で検出される。
【0048】
他のビームは第1アパーチャ基板41中を透過して第1アパーチャ基板41裏面側から散乱する。例えば、検出対象ビームB1と隣り合うビームB2は、第1アパーチャ基板41中を透過して第1アパーチャ基板41裏面側から散乱し得る。散乱電子の大部分は、第2アパーチャ基板50で遮蔽される。散乱電子の一部は、第2アパーチャ基板50の観察光通過孔52を通過するが、観察光通過孔52を通過した散乱電子は散乱電子カバー80で遮蔽され、センサ48の受光面に到達することが抑制される。
【0049】
マルチビームのうち開口部44上の領域以外の領域に照射されたビーム群については、支持台43によって遮蔽される。
【0050】
センサ48は、例えばSSD(半導体検出器(solid-state detector))であり、検出対象ビームのビーム電流を検出する。センサ48による検出結果は、制御計算機32に通知される。第1アパーチャ基板42をマルチビームでスキャンすることで、測定部62は、センサ48から、各ビームのビーム電流を取得する。測定部62は、ビーム電流を輝度に変換し、偏向器17の偏向量に基づいてビーム画像を作成し、マルチビームのビーム全体の形状等の情報を得る。この情報に基づいて、各ビームの照射量の補正等が行われる。
【0051】
図5に示すように、検出対象ビームの結像ランディングアングルをα[ラジアン]、第1アパーチャ基板41の表面と第2アパーチャ基板50の表面との間の距離をLとした場合、微小孔42を通過したビームが微小孔51を通過してセンサ48の受光面に到達するように、微小孔51の直径は、2×α×L以上とすることが好ましい。同様に、第1アパーチャ基板41の表面と散乱電子カバー80の表面との間の距離をL´とした場合、微小孔42を通過したビームが開口81を通過してセンサ48の受光面に到達するように、開口81の直径は、2×α×L´以上とすることが好ましい。
【0052】
次に、第1アパーチャ基板41の微小孔42と第2アパーチャ基板50の微小孔51との孔位置のアライメント(軸アライメント)方法について説明する。アライメント処理は描画装置の外部で行われる。
【0053】
図6に示すように、アライメント処理には、光を照射する光源(光照射部)71、ハーフミラー72、対物レンズ73、結像レンズ74、及びイメージセンサ75を有する落射照明ユニットを用いる。
【0054】
光源71から放出された観察光は、光軸に対して45°の角度で配置されたハーフミラー72で反射し、対物レンズ73を通って、観察対象(第1アパーチャ基板41及び第2アパーチャ基板50)に照射される。第2アパーチャ基板50は、対物レンズ73と第1アパーチャ基板41との間に位置している。また、第1アパーチャ基板41には支持台43が取り付けられている。
【0055】
観察対象で反射された光は、対物レンズ73を通った後、ハーフミラー72を透過し、結像レンズ74によってイメージセンサ75で結像する。イメージセンサ75は例えばCMOSイメージセンサである。
【0056】
まず、対物レンズ73の位置を調整して、対物レンズ73の焦点を第1アパーチャ基板41に合わせる。観察光は、第2アパーチャ基板50の微小孔51及び観察光通過孔52を通過する。イメージセンサ75で検出された画像を観察し、微小孔42の結像位置を特定し、特定した位置を基準マークに設定する。第2アパーチャ基板50の観察光通過孔52は、この微小孔42の結像位置を特定するのに必要なだけ、可視光が通過できるように、サイズ、位置、個数等が設定される。
【0057】
次に、
図7に示すように、対物レンズ73の位置を調整して、対物レンズ73の焦点を第2アパーチャ基板50に合わせる。そして、第2アパーチャ基板50の微小孔51の結像位置が、上記の基準マークと一致するように、図示しない移動機構を用いて第2アパーチャ基板50を光軸と直交する平面方向で移動させる。
【0058】
第2アパーチャ基板50の微小孔51の結像位置が、基準マークと一致した場合、第1アパーチャ基板41の微小孔42と、第2アパーチャ基板50の微小孔51との位置が精度良く合っている状態となる。
【0059】
位置合わせが完了したら、第1アパーチャ基板41及び支持台43と、第2アパーチャ基板50と、散乱電子カバー80と、センサ48とを筐体49で固定し、微小孔42と微小孔51とが位置合わせされた個別ビーム検出器40を作製する。この個別ビーム検出器40を、描画装置に搭載する。
【0060】
このように、本実施形態によれば、第1アパーチャ基板41と第2アパーチャ基板50の2段のアパーチャ基板の微小孔42,51を高精度に位置合わせできる。
【0061】
第2アパーチャ基板50の観察光通過孔52の径や微小孔51からの距離は、アライメント処理で用いられる落射照明ユニットの対物レンズ73の開口数や、対物レンズ73と第1アパーチャ基板41、第2アパーチャ基板50との距離を考慮して決定される。
【0062】
図4A、
図4Bに示すように、同一円周上に配置された複数の観察光通過孔52の配置領域の外径(最大径)をDmax、内径(最小径)をDminとする。対物レンズ73の開口数からアライメント光の光路を求め、最大径Dmaxを決定する。アライメント光の光路は
図10Aのようになる。
図10Aの角度θは、対物レンズ73の開口数NA、観察環境屈折率nを用いて、以下の式から算出される。
θ=sin^-1(NA/n)
【0063】
図10Bに示すように、第1アパーチャ基板41の観察すべき最外点と対物レンズ73を結ぶ光路線まで観察光通過孔52が存在するように、最大径Dmaxを設定する。観察すべき最外点とは、アライメント時に第1アパーチャ基板41の孔形状が認識できる観察範囲を意味し、具体的には、開口部44の周縁である。
【0064】
最小径Dminは、散乱電子の必要遮蔽率を満たすように、シミュレーションで算出される。ビームエネルギー50keV、ビーム径10nm、強度分布がガウス分布とみなせる電子ビームを第1アパーチャ基板41へ照射した時を1、微小孔51及び観察光通過孔52を含む開口を透過する散乱電子が検出器40に到達する透過率をeとした場合、(1-e)/1を遮蔽率とする。例えば、シミュレーション結果から、(1-0.053)/1≒94.7%以上の遮蔽率とする。
【0065】
上述したように、散乱電子カバー80の開口81の直径は、2×α×L´以上が好ましい。また、散乱電子の遮蔽率が低下しないように、開口81の直径は、上記の最小径Dminより小さいことが好ましい。
【0066】
第2アパーチャ基板50の微小孔51の周囲に形成される観察光通過孔の形状は
図4Aに示すものに限定されない。
【0067】
例えば、
図8に示す第2アパーチャ基板50Aのように、2つの略半円環状の観察光通過孔53を同一円周上に配置してもよい。
【0068】
図9に示す第2アパーチャ基板50Bのように、複数の切頭扇形状の観察光通過孔54を同一円周上に間隔を空けて配置してもよい。ここで、切頭扇形とは、扇形から、先端(中心)側を除いた形状であり、微小孔51から離れるほど、周方向の長さが長くなるものである。
図9では、3つの観察光通過孔54を形成する例を示しているが、4つ以上でもよい。
【0069】
図8、
図9に示す例における観察光通過孔配置領域の最大径(最大幅)Dmax、最小径(最小幅)Dminは図示の通りである。
【0070】
上記実施形態では、第2アパーチャ基板50とセンサ48との間に散乱電子カバー80を配置する構成について説明したが、観察光通過孔52を通過した散乱電子がセンサ48に到達しないように、第2アパーチャ基板50とセンサ48との間隔を大きくとれる場合は、散乱電子カバー80を省略してもよい。
【0071】
また、筐体49の側壁で反射した散乱電子がセンサ48へ到達しないように、側壁にテーパをつけてもよい。
【0072】
上記実施形態では、個別ビーム検出器が搭載される装置の一例として、マルチビーム描画装置について説明したが、これに限るものではない。例えば、パターンの欠陥を検査する検査装置等のマルチビームを照射する装置であれば、同様に搭載することができる。また、シングルビームを照射する装置にも適用可能である。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0074】
2 電子ビーム鏡筒
4 電子銃
6 照明レンズ
8 成形アパーチャアレイ基板
10 ブランキングアパーチャアレイ基板
12 縮小レンズ
14 制限アパーチャ部材
16 対物レンズ
17 偏向器
20 描画室
22 XYステージ
32 制御計算機
34 偏向制御回路
40 個別ビーム検出器
60 描画データ処理部
61 描画制御部
62 測定部