(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062273
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】ディフューザ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/02 20060101AFI20240430BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
G02B5/02 C
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170153
(22)【出願日】2022-10-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://mnc2021.award-con.com/LOGIN.php なお、当該ウェブサイトは、公開当時にはアクセス可能であったが、令和4年11月18日時点においてアクセス不可となっている。 掲載日 令和3年10月26日 ・研究集会名 マイクロプロセス・ナノテクノロジー 国際会議 第34回目(MNC 2021) 開催場所 オンラインおよびオンデマンド開催(Zoom) 開催日 令和3年10月29日
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】山下 和真
【テーマコード(参考)】
2H042
2H249
【Fターム(参考)】
2H042BA04
2H042BA09
2H042BA12
2H042BA16
2H249AA03
2H249AA13
2H249AA55
2H249AA61
(57)【要約】
【課題】良好な拡散性を有するディフューザを提供することを目的とする。
【解決手段】ディフューザ(100,100a、100b)は、入射光を回折によって拡散させる凹凸構造(20,20a)が形成された領域を有する基板(1)を備え、前記凹凸構造は、複数の凹部(21,21a)と複数の凸部(22,22a)とを有し、前記複数の凹部および前記複数の凸部は、非格子状に配置され、かつ、前記領域において非周期的に配置される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を回折によって拡散させる凹凸構造が形成された領域を有する基板を備え、
前記凹凸構造は、第1のレベルにある複数の凹部と第2のレベルまで突出した複数の凸部とを有し、
前記複数の凹部および前記複数の凸部は、非格子状に配置され、かつ、前記領域において非周期的に配置される、ディフューザ。
【請求項2】
前記複数の凸部の頂部はそれぞれ、矩形または複数の矩形が繋がったものである、請求項1に記載のディフューザ。
【請求項3】
前記矩形の第1辺に沿った方向を第1方向、前記矩形の第1辺と直交する第2辺に沿った方向を第2方向とするとき、
前記第1方向に沿った直線上における入射光の回折が生じる第1回折部の数の平均値は、前記第2方向に沿った直線上における入射光の回折が生じる第2回折部の数の平均値より多い、請求項2に記載のディフューザ。
【請求項4】
前記矩形の第1辺に沿った方向を第1方向、前記矩形の第1辺と直交する第2辺に沿った方向を第2方向とするとき、
前記第1方向に沿った直線上における入射光の回折が生じる第1回折部の数の平均値は、前記第2方向に沿った直線上における入射光の回折が生じる第2回折部の数の平均値と略等しい、請求項2に記載のディフューザ。
【請求項5】
前記凹凸構造は、前記基板の第1面に形成される第1凹凸構造と、前記第1面とは反対側の第2面に形成される第2凹凸構造とを有する、請求項1に記載のディフューザ。
【請求項6】
前記基板は疎水性を有する材料により形成される、請求項1から5のいずれか1項に記載のディフューザ。
【請求項7】
前記凹凸構造上に配置される保護層をさらに備える、請求項1から5のいずれか1項に記載のディフューザ。
【請求項8】
入射光を回折によって拡散させる凹凸構造が形成された領域を有する基板を用意するステップと、
前記凹凸構造に光を入射させることにより、当該光を拡散させるステップと、を含む光拡散方法であって、
前記凹凸構造は、第1のレベルにある複数の凹部と第2のレベルまで突出した複数の凸部とを有し、
前記複数の凹部および前記複数の凸部は、非格子状に配置され、かつ、前記領域において非周期的に配置される、光拡散方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を拡散させるディフューザに関する。
【背景技術】
【0002】
ディフューザは、光を様々な方向に拡散させるための部品であり、日常生活における様々な光学システム(LED照明、液晶ディスプレイ、および採光窓など)において広く使用されている。ディフューザは主に、体積型(バルク型)ディフューザと、表面起伏型ディフューザとに大別される。体積型ディフューザは、複数の散乱体が埋め込まれた板またはフィルムであり、当該複数の散乱体による多重散乱により入射光を拡散させる。表面起伏型ディフューザは、例えば表面起伏での光の屈折を利用して入射光を拡散させる。表面起伏型ディフューザには、ミクロンスケールの粗い表面により光を拡散させるすりガラスおよびフロストガラス、マクロスケールの表面により光を拡散させるプリズマティックディフューザ、並びにミクロンサイズのランダムな凹凸により光を拡散させるホログラフィックディフューザなどが存在する。
【0003】
ここで、体積型ディフューザにおいては、多重散乱により拡散範囲を広げる代わりに透過率が低下してしまうといった問題がある。また、表面起伏型ディフューザにおいては、光の屈折に起因する波長分散が生じるもの、あるいは表面起伏が不足するため拡散範囲が狭いものが多いといった問題がある。すなわち、これらのディフューザでは、高透過率、広角拡散、および低波長分散を同時に実現することができないといった問題がある。
【0004】
そこで、モルフォ蝶の翅の表面構造に着想を得たモルフォ型ディフューザが近年開発されている。モルフォ型ディフューザは、入射光の回折広がりを生じさせるナノスケールの表面構造であり、回折格子の生成を防ぐ(すなわち波長分散を防ぐ)乱雑な表面構造を有する。このような表面構造により、モルフォ型ディフューザは、高透過率、広角拡散、および低波長分散を同時に実現することができる。
【0005】
モルフォ型ディフューザとして、乱雑な高さを有する複数の高アスペクト比の構造体が配置された表面構造を有するものが提案されている。しかしながら、このような乱雑な高さで規定されるナノ表面構造の製造は実現困難である。非特許文献1は、表面構造を乱雑な幅と2段高さとで規定される2次元ナノパターンとしたモルフォ型ディフューザを開示している。当該2次元ナノパターンは、公知の半導体プロセスであるリソグラフィおよびナノインプリントにより製造が可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】KAZUMA YAMASHITA, KENTARO KUNITSU, TAKUMA HATTORI, YUJI KUWAHARA, AND AKIRA SAITO, "Demonstration of a diffraction-based optical diffuser inspired by the Morpho butterfly" Optics Express Vol.29, No.19, pp.30927-30936 ,13 Sep 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示されるような格子状の表面構造では、拡散パターンに十字の輝線および中央に強い輝点が現れるといった問題がある。
【0008】
本発明の一態様は、良好な拡散性を有するディフューザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るディフューザは、入射光を回折によって拡散させる凹凸構造が形成された領域を有する基板を備え、前記凹凸構造は、第1のレベルにある複数の凹部と第2のレベルまで突出した複数の凸部とを有し、前記複数の凹部および前記複数の凸部は、非格子状に配置され、かつ、前記領域において非周期的に配置される。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光拡散方法は、入射光を回折によって拡散させる凹凸構造が形成された領域を有する基板を用意するステップと、前記凹凸構造に光を入射させることにより、当該光を拡散させるステップと、を含む光拡散方法であって、前記凹凸構造は、第1のレベルにある複数の凹部と第2のレベルまで突出した複数の凸部とを有し、前記複数の凹部および前記複数の凸部は、非格子状に配置され、かつ、前記領域において非周期的に配置される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、良好な拡散性を有するディフューザを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】参考形態に係るディフューザを示す斜視図である。
【
図2】参考形態に係るディフューザの凹凸構造を示す下面図および上面図である。
【
図3】参考形態に係るディフューザにより拡散された拡散光のスクリーン上への投影を示す図である。
【
図4】実施形態1に係るディフューザを示す斜視図である。
【
図5】実施形態1に係るディフューザの凹凸構造を示す上面図である。
【
図6】実施形態1に係るディフューザにより拡散された拡散光のスクリーン上への投影を示す図である。
【
図7】実施形態2に係るディフューザを示す斜視図である。
【
図8】実施形態2に係るディフューザの凹凸構造を示す上面図である。
【
図9】実施形態2に係るディフューザにより拡散された拡散光のスクリーン上への投影を示す図である。
【
図10】変形例に係るディフューザを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔参考形態〕
実施形態1に係るディフューザ100の説明に先立ち、参考形態に係るディフューザ100sについて説明する。説明の便宜上、参考形態にて説明した構成要素と同じ機能を有する構成要素については、以降の各実施形態では、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0014】
(ディフューザ100sの概要)
図1は、ディフューザ100sを示す斜視図である。
図1に示すように、ディフューザ100sは、入射光を回折によって拡散させる凹凸構造20sが形成された領域Rを有する基板1からなる。基板1は、入射光が入射される第1面11と、透過光が出射する第1面11とは反対側の第2面12とを有する平板状の部材である。以下、基板1における第2面12に直交する方向をZ軸方向、第2面12の第1辺および第2辺に沿う方向をそれぞれX軸方向、Y軸方向とする。また、Z軸の正の向きを上方、負の向きを下方とする。
【0015】
図1に示す一例では、凹凸構造20sが形成された領域Rは、第1面11全体である第1領域と、第2面12全体である第2領域とを含む。すなわち、凹凸構造20sは、第1面11に形成される第1凹凸構造201sと、第2面12に形成される第2凹凸構造202sとを含む。
【0016】
凹凸構造20sは、第1のレベルH1にある複数の凹部21sと第2のレベルH2まで突出した複数の凸部22sとを有する。すなわち、凹凸構造20sは、基板1に形成される2段高さより規定される。このような2段高さにより規定される凹凸構造20sは、リソグラフィおよびナノインプリントにより製造が可能となる。
【0017】
図2は、ディフューザ100sの凹凸構造20sを示す下面図および上面図である。
図2の符号2Aおよび符号2Bはそれぞれ、第1凹凸構造201sおよび第2凹凸構造202sを示す。
図2に示すように、凹凸構造20sでは、複数の凹部21sおよび複数の凸部22sが格子状に(市松模様のように)配置されている。すなわち、複数の凹部21sは矩形の底部211sを有し、複数の凸部22sは矩形の頂部221sを有する。また、複数の凹部21sおよび複数の凸部22sは、ナノスケールかつ乱雑な幅を有する。
【0018】
具体的には、複数の頂部221s(複数の底部211s)のX軸方向に沿った第1辺およびY軸方向に沿った第2辺の長さは、それぞれ独立した所定の分布関数に基づいて決定されている。例えば、複数の頂部221sの第1辺の長さWxおよび第2辺の長さWyはそれぞれ、Wx=W0+σx、Wy=W0+σy(W0:最小幅、σx:所定の第1分布関数、σy:所定の第2分布関数)と表される。ディフューザ100sは、このような乱雑な凹凸構造20sを有することにより、波長分散を防ぎつつ、入射光を回折広がりにより拡散させることができる。入射光を回折広がりにより拡散させることで、高透過率かつ広角拡散での光拡散が実現できる。
【0019】
また、第1凹凸構造201sと第2凹凸構造202sとで、複数の凹部21sおよび複数の凸部22sの配置が異なっていてもよい。具体的には、第1凹凸構造201sと第2凹凸構造202sとで、最小幅W0および凹凸深さdが異なっていてもよい。例えば、第1凹凸構造201sにおいて、最小幅W0=300nm、凹凸深さd=440nmと設定され、第2凹凸構造202sにおいて、最小幅W0=470nm、凹凸深さd=690nmと設定されてもよい。これにより、第1面11においては短波長の光を拡散し、第2面12においては長波長の光を拡散することができる。
【0020】
また、所定の第1分布関数および所定の第2分布関数は、複数の頂部221sの第1辺の長さWxの平均値が第2辺の長さWyの平均値より小さくなるように設定されてもよい。これにより、Y軸方向よりもX軸方向に広角に光を拡散させることができる(すなわち異方拡散が可能である)。
【0021】
図3は、ディフューザ100sにより拡散された拡散光のスクリーン上への投影(拡散パターン)を示す図である。
図3に示すように、ディフューザ100sに光を入射させると、X軸方向に広くY軸方向に狭く拡散するような異方拡散を示す拡散パターンが得られた。
【0022】
ここで、当該拡散パターンには、十字の輝線(X軸方向およびY軸方向に沿った輝線)および中央に強い輝点が現れた。このような十字の輝線および中央の輝点は、上述の所定の分布関数に基づいて設計される、格子状の凹凸構造20sに起因するものであると考えられる。
【0023】
(ディフューザ100sの課題)
以上のように、格子状の凹凸構造20sでは、拡散パターンに十字の輝線および中央に強い輝点が現れるといった問題がある。すなわち、ディフューザ100sには、十字の輝線および中央の輝点の発生を抑制することにより、拡散性をさらに改善する余地がある。また、凹凸構造20sは、微細な表面ナノパターンであるため、表面汚染または機械的衝撃に弱いといった問題もある。
【0024】
〔実施形態1〕
(ディフューザ100の概略構成)
本発明者らは、参考形態に係るディフューザ100sに代えて凹凸構造20を有するディフューザ100を用いることにより、拡散光における十字の輝線および中央の輝点の発生を抑制できることを見出した。また、疎水性を有する材料で基板1を形成することにより、表面汚染に対する耐性をディフューザ100に与えることができることを見出した。実施形態1では、このようなディフューザ100について説明する。
【0025】
図4は、ディフューザ100を示す斜視図である。
図4に示すように、ディフューザ100は、入射光を回折によって拡散させる凹凸構造20が形成された領域Rを有する基板1からなる。
【0026】
図4に示す一例では、凹凸構造20が形成された領域Rは、基板1の第1面11全体である第1領域と、基板1の第2面12全体である第2領域とを含む。すなわち、凹凸構造20は、第1面11に形成される第1凹凸構造201と、第2面12に形成される第2凹凸構造202とを含む。
【0027】
凹凸構造20は、第1のレベルH1にある複数の凹部21と第2のレベルH2まで突出した複数の凸部22とを有する。すなわち、凹凸構造20は、基板1に形成される2段高さ(基板1の第1のレベルH1および第2のレベルH2)より規定される。このような2段高さにより規定される凹凸構造20は、リソグラフィおよびナノインプリントにより製造が可能となる。
【0028】
基板1は、ディフューザ100に撥水性を付与するため、疎水性を有する材料により形成されるとよい。特に、基板1は、疎水性、透明性、機械強度、および耐候性などに優れるポリジメチルシロキサン(PDMS)(屈折率~1.41)により形成されるとよい。ここで、撥水性は一般的に、表面にナノスケールの凹凸を設けることでも発現させることができる。つまり平坦な表面に比べ、ナノスケールの凹凸が設けられた表面は、水滴が乗った際に表面凸部と水滴との接触面積が著しく減り、また凹部では空気がクッションの役割をして、表面への水の浸漬が妨げられるため、撥水性の高い表面となる。この効果はロータス(ハスの葉)効果と呼ばれ、ハスの葉の表面で発見された撥水性表面の現象である。泥水のある環境に生息するハスは、葉の表面が泥で汚れて光合成が妨げられることを、この撥水効果により防ぐ事が知られている。このロータス効果を本実施形態に係るディフューザ100に適用することにより、ディフューザ100の自浄作用を発現させることができる。すなわち、表面に凹凸構造20を設けた基板1の材料を疎水性材料とすることにより、ディフューザ100の撥水性を大幅に向上させ、ディフューザ100の自浄作用を発現させることができる。これにより、ディフューザ100の表面汚染に対する耐性を向上させることができる。これは、撮影照明のディフューザまたは採光窓といった屋外で利用されるディフューザにとって有利な効果となる。
【0029】
(凹凸構造20の詳細な構成)
図5は、ディフューザ100の凹凸構造20を示す上面図である。
図5に示すように、凹凸構造20では、複数の凹部21および複数の凸部22は、非格子状に配置され(市松模様のように配置されておらず)、かつ、領域Rにおいて非周期的に配置されている。また、複数の凹部21および複数の凸部22は、X軸方向およびY軸方向においてナノスケールの寸法を有する。ディフューザ100は、このような凹凸構造20を有することにより、高透過率、広角拡散、および低波長分散を満たしつつ、十字の輝線および中央の輝点の発生を抑制することができる。
【0030】
具体的には、複数の凸部22の頂部221(複数の凹部21の底部211)はそれぞれ、矩形または複数の矩形が繋がったものである。
図5においては、凸部22Aの頂部は矩形であって、凸部22Bの頂部は複数の矩形が繋がったものである。このように、複数の凸部22の頂部の形状は、一定の形状ではない。複数の凸部22は、複数の矩形が複雑に繋がった形状(矩形ではない形状)の凸部を含む。
【0031】
また、凹凸構造20において、X軸方向(第1方向)に沿った直線上における入射光の回折が生じる第1回折部の数の平均値は、Y軸方向(第2方向)に沿った直線上における入射光の回折が生じる第2回折部の数の平均値より多い。これにより、ディフューザ100は、Y軸方向よりもX軸方向に広角に光を拡散させることができる(すなわち異方拡散が可能である)。ここで、上述の第1回折部は、言い換えると、X軸方向に沿った直線上における所定の長さ(例えば、可視光線の波長)より短い幅を有する凹部および凸部のことである。同様に、上述の第2回折部は、言い換えると、Y軸方向に沿った直線上における所定の長さより短い幅を有する凹部および凸部のことである。また、第1回折部の数の平均値とは、具体的には、X軸方向における第1回折部の単位長さ当たりの数を、領域RのY軸方向の全長に沿って平均化した値のことである。同様に、第2回折部の数の平均値とは、具体的には、Y軸方向における第2回折部の単位長さ当たりの数を、領域RのX軸方向の全長に沿って平均化した値のことである。
【0032】
(凹凸構造20の設計方法)
凹凸構造20の設計方法について、以下に説明する。まず、凹凸構造20が形成される領域Rを、複数の区分領域DR(凹凸構造20の単位構造)に区分する。ここで、複数の区分領域DRは矩形であり、複数種類の形状を有する。次に、複数の区分領域DRをそれぞれ、凹領域および凸領域のいずれかに(例えば略等しい確率で)ランダムに決定する。凹領域と決定された区分領域DRにおいては、基板1の高さが第1のレベルH1となるように形成され、凸領域と決定された区分領域DRにおいては、基板1の高さが第2のレベルH2となるように形成される。これにより、凹凸構造20は、凹領域または接続された複数の凹領域において凹部21を、凸領域または接続された複数の凸領域において凸部22を有するように設計される。このように、複数の区分領域DRをそれぞれ、凹領域および凸領域のいずれかにランダムに決定することにより、少なくとも複数の区分領域DRにおいて凹凸が順番に交互に形成されることはない。すなわち、上述の設計方法により、複数の凹部21および複数の凸部22は、非格子状に配置され(市松模様のように配置されておらず)、かつ、領域Rにおいて非周期的に配置されている。
【0033】
ここで、複数の区分領域DRのX軸方向に沿った第1辺の長さWは、全て同一となるように設定される。一方、複数の区分領域DRのY軸方向に沿った第2辺の長さLは、全て同一ではなく、任意の分布関数(例えば正規分布関数)に基づいてランダムに決定される。これにより、複数の区分領域DRを複数種類の形状とすることができる。従って、凹凸構造20の設計をシンプルにしつつ、凹凸構造20を乱雑な(非周期的な)二次元パターンとすることができる。
【0034】
また、複数の区分領域DRのX軸方向に沿った第1辺の長さWは、可視光線の波長よりも短くなるように設定される。また、複数の区分領域DRのY軸方向に沿った第2辺の長さLの平均値は、可視光線の波長よりも長くなるように設定される。これにより、第1回折部の数の平均値を第2回折部の数の平均値より多くすることができる。従って、凹凸構造20により入射光の異方拡散が可能である。
【0035】
また、第1凹凸構造201と第2凹凸構造202とで、複数の凹部21および複数の凸部22の配置が異なっていてもよい。具体的には、第1凹凸構造201と第2凹凸構造202とで、第1辺の長さWおよび第2辺の長さLの設定が異なっていてもよい。例えば、第1凹凸構造201において、第1辺の長さW=300nm、第2辺の長さL=1500±500nmと設定され、第2凹凸構造202において、第1辺の長さW=450nm、第2辺の長さL=2250±500nmと設定されてもよい。なお、±500は、正規分布関数における標準偏差を表す。これにより、第1面11においては短波長の光を拡散し、第2面12においては長波長の光を拡散することができる。
【0036】
なお、実際には後述する製造過程において、加工方法(エッチング)に起因して、凹部21および凸部22の寸法(第1辺の長さWおよび第2辺の長さL)は変化し得る。そのため、このような製造過程における凹部21および凸部22の寸法の変化を考慮して、第1辺の長さWおよび第2辺の長さLは決定されてもよい。すなわち、第1辺の長さWは、製造後において全て略同一となるように設定される。
図5は、設計段階における凹凸構造20を示している。
図5に示すように、設計段階においては、凹領域および凸領域の第1辺の長さWは不均一であり得る。
【0037】
(ディフューザ100の製造方法)
ディフューザ100の製造方法について、以下に説明する。ディフューザ100は、例えばリソグラフィおよびナノインプリントにより製造が可能である。具体的には、まず、電子線リソグラフィと深堀りドライエッチングとによりSiウエハ上に(上述の設計方法により設計された)凹凸構造20に対応する二次元パターンを形成する。次に、当該Siウエハ上の二次元パターンを、樹脂層(基板1)に転写する。これにより、凹凸構造20が形成されたディフューザ100が製造される。
【0038】
(シミュレーション結果)
上述の設計方法により設計された凹凸構造20を有するディフューザ100の拡散性および透過性を検証するために、ディフューザ100に光を入射したときの拡散パターンを算出する光学シミュレーションを行った。当該光学シミュレーションの結果、可視光全域において90%の高透過率が得られた。また、(透過光のうち直進光を除いた)拡散光の半値幅は、広角方向(X軸方向)で83°、狭角方向(Y軸方向)で16°を示した。これは、従来のディフューザに比べて透過率および拡散性の双方において優れていることを示している。
【0039】
(拡散性および透過性に係る実測結果)
上述の製造方法により製造されたディフューザ100の拡散性および透過性を検証するために、ディフューザ100に光を入射したときの拡散パターンの実測を行った。
【0040】
図6は、ディフューザ100により拡散された拡散光のスクリーン上への投影を示す図である。
図6に示すように、ディフューザ100に光を入射させると、入射光がX軸方向に広くY軸方向に狭く拡散するような異方拡散を示す拡散パターンが得られた。ここで、可視光全域において93%の高透過率が得られた。また、拡散光の半値幅は、広角方向(X軸方向)で79°、狭角方向(Y軸方向)で16°を示した。これは、シミュレーション結果と同様に、従来のディフューザに比べて透過率および拡散性の双方において優れていることを示している。
【0041】
また、
図3に示す拡散パターンと比較して、
図6に示す拡散パターンでは、十字の輝線および中央の輝点の強度が低減した。これは、凹凸構造20において、複数の凹部21および複数の凸部22を非格子状に配置したことに起因する。
【0042】
以上より、ディフューザ100は、非格子状の表面構造を有することにより、参考形態に係るディフューザ100sと比較し、十字の輝線および中央の輝点の発生を抑制することができる。また、ディフューザ100は、参考形態に係るディフューザ100sと比較し、表面構造の設計をシンプルにすることができる。
【0043】
(撥水性および自浄作用に係る実測結果)
さらに、基板1の材質としてPDMSを用いた場合における、ディフューザ100の撥水性および自浄作用を検証するために、水接触角と滑落角との測定、および自浄作用のテストを行った。
【0044】
凹凸構造20を形成していない基板1における水接触角は108.4±5.7°であった。一方、凹凸構造20を形成した基板1における水接触角は134.4±2.1°であった。これは、基板1の表面にナノスケールの凹凸構造20を設け、また疎水性を有するPDMSを基板1の材質とすることにより、ディフューザ100の撥水性を大幅に向上できたことを示している。また、凹凸構造20を形成した基板1上の水滴は、基板1を水平面から約31°まで傾けると素早く滑落した。これは、ディフューザ100の撥水性が優れていることを示している。
【0045】
また、基板1上にカラーサンドを振りかけ、ピペットから水を滴下したところ、凹凸構造20を形成していない基板1上のカラーサンドはほとんど吸着したままであった一方、凹凸構造20を形成した基板1上のカラーサンドは流水とともに素早く洗い流された。これは、ディフューザ100の顕著な自浄作用を示している。
【0046】
以上より、表面ナノ構造と疎水性材料とを組み合わせることにより、ディフューザ100の撥水性を大幅に向上させ、自浄作用を発現させることができる。これにより、ディフューザ100の表面汚染に対する耐性を向上させることができる。
【0047】
〔実施形態2〕
(ディフューザ100aの概略構成)
図7は、ディフューザ100aを示す斜視図である。ディフューザ100aは、凹凸構造20に代えて凹凸構造20aが基板1の領域Rに形成されている点でディフューザ100と相違する。凹凸構造20aは、凹凸構造20と同様に、第1面11に形成される第1凹凸構造201aと、第2面12に形成される第2凹凸構造202aとを含む。また、凹凸構造20aは、凹凸構造20と同様に、第1のレベルH1にある複数の凹部21aと第2のレベルH2まで突出した複数の凸部22aとを有する。
【0048】
(凹凸構造20aの詳細な構成)
図8は、ディフューザ100aの凹凸構造20aを示す上面図である。凹凸構造20aでは、以下の点において凹凸構造20と相違する。すなわち、凹凸構造20においては、第1回折部の数の平均値は第2回折部の数の平均値より多いのに対して、凹凸構造20aにおいては、第1回折部の数の平均値は第2回折部の数の平均値と略等しい。これにより、ディフューザ100aは、光を等方的に拡散させることができる。
【0049】
(凹凸構造20aの設計方法)
凹凸構造20aにおいては、まず、凹凸構造20aが形成される領域Rを、複数の区分領域DRaに区分する。ここで、複数の区分領域DRaは正方形であり、同一の形状を有する。また、複数の区分領域DRaの辺の長さWは、可視光線の波長よりも短くなるように設定される。次に、凹凸構造20と同様に、複数の区分領域DRaをそれぞれ、凹領域および凸領域のいずれかに、略等しい確率でランダムに決定する。これにより、第1回折部の数の平均値と第2回折部の数の平均値とを略等しくすることができる。
【0050】
なお、実施形態1と同様に、製造過程において凹部21aおよび凸部22aの寸法は変化し得る。そのため、このような製造過程における凹部21aおよび凸部22aの寸法の変化を考慮して、複数の区分領域DRaの辺の長さWは決定されてもよい。すなわち、複数の区分領域DRaの辺の長さWは、製造後において全て略同一となるように設定される。
図8は、設計段階における凹凸構造20aを示している。
図8に示すように、設計段階においては、複数の区分領域DRaの辺の長さWは不均一であり得る。
【0051】
(シミュレーション結果)
上述の設計方法により設計された凹凸構造20aを有するディフューザ100の拡散性および透過性を検証するために、ディフューザ100aに光を入射したときの拡散パターンを算出する光学シミュレーションを行った。当該光学シミュレーションの結果、拡散光の半値幅は、X軸方向およびY軸方向で83°を示した。これは、従来のディフューザに比べて拡散性の向上を達成しつつ、入射光の等方拡散を達成できたことを示している。
【0052】
(拡散性および透過性に係る実測結果)
上述の製造方法により製造されたディフューザ100aの拡散性を検証するために、ディフューザ100aに光を入射したときの拡散パターンの実測を行った。
【0053】
図9は、ディフューザ100aにより拡散された拡散光のスクリーン上への投影を示す図である。
図9に示すように、ディフューザ100aに光を入射させると、入射光が等方的に拡散する等方拡散を示す拡散パターンが得られた。ここで、拡散光の半値幅は、X軸方向およびY軸方向で78°を示した。これは、シミュレーション結果と同様に、従来のディフューザに比べて拡散性の向上を達成しつつ、入射光の等方拡散を達成できたことを示している。
【0054】
以上より、ディフューザの表面構造を(第1辺の長さWが均一な長方形の区分領域により規定される)凹凸構造20(
図4、
図5参照)とすることにより、入射光を異方拡散させることができる。また、ディフューザの表面構造を(正方形の区分領域により規定される)凹凸構造20a(
図7、
図8参照)とすることにより、入射光を等方拡散させることができる。従って、シンプルな設計により、入射光の拡散角の制御を行うことができる。
【0055】
〔実施形態3〕
さらに、本発明者らは、参考形態に係るディフューザ100sに代えて保護層200を備えるディフューザ100bを用いることにより、ディフューザの拡散性能を保持しつつ、表面ナノパターンを機械的衝撃から保護できることを見出した。実施形態3では、このようなディフューザ100bについて説明する。
【0056】
図10は、ディフューザ100bを示す断面図である。
図10に示すように、ディフューザ100bは、基板1の凹凸構造20,20a上に配置される保護層200をさらに備える。保護層200は、ディフューザ100bの表面を機械的衝撃から保護する。保護層200は、量産性を考慮すると、例えば保護フィルム等であればよいが、これに限定されるものではない。
【0057】
保護層200の屈折率は、例えば基板1の屈折率の0.85倍以上かつ1.2倍以下であればよい。これにより、基板1と保護層200との屈折率コントラストを十分小さくすることができる。したがって、基板1と保護層200との界面における光反射を抑制することができる。すなわち、基板1の表面に保護層200を設けても、ディフューザ100bの光学特性をほとんど変化させることはない。
【0058】
また、基板1の材質がPDMSである場合、PDMSの柔軟性および密着性により、保護層200の形成は、保護層200を基板1に隙間なく貼り付けるのみで完了する(接着処理は不要である)。
【0059】
(拡散性および透過性に係る実測結果)
保護層200を設けたディフューザ100bの拡散性を検証するために、ディフューザ100bに光を入射したときの拡散パターンの実測を行った。ここで、基板1としては凹凸構造20が設けられたものを、保護層200としてはカバーガラス(屈折率~1.52)を使用した。
【0060】
実測の結果として、可視光全域において87%の透過率が得られた。また、拡散光の半値幅は、広角方向(X軸方向)で78°、狭角方向(Y軸方向)で16°を示した。これは保護層200がない場合(実施形態1の実測結果)と比べて拡散性はほぼ変化せず、透過率についても6%低下しただけであった。これは
図10に示すように、保護層200を形成しても回折を生じさせるナノスケールの界面は依然として存在するためである。また、基板1と保護層200との屈折率コントラストを十分小さくしているためである。
【0061】
(変形例)
第1面11上に、同一の凹凸構造20,20aが形成された複数の領域Rがあってもよい。この場合、各領域Rの大きさは、隣り合う領域Rに形成された凹凸構造20,20aにより拡散される透過光が干渉を起こさない程度の大きさであればよい。
【0062】
前記構成によれば、例えば窓ガラスにディフューザ100,100a,100bを貼り付けるだけで、高透過率、広角拡散、および低波長分散を実現できる採光窓として窓ガラスを機能させることができる。すなわち、ディフューザ100,100a,100bは、照明器具の消費エネルギーの削減に貢献できる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」等の達成にも貢献するものである。
【0063】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1 基板
20,20a 凹凸構造
21,21a 凹部
22,22a 凸部
100,100a,100b ディフューザ
200 保護層
201,201a 第1凹凸構造
202,202a 第2凹凸構造
211 底部
221 頂部