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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062393
(43)【公開日】2024-05-09
(54)【発明の名称】Sm-Fe-N系微細粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/04 20060101AFI20240430BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20240430BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240430BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240430BHJP
   B22F 1/142 20220101ALI20240430BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240430BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240430BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240430BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240430BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240430BHJP
【FI】
B22F9/04 C
B22F9/08 A
B22F1/00 Y
B22F1/14 200
B22F1/142 100
C22C38/00 303D
B22F1/05
H01F1/059 160
H01F41/02 G
C22C33/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177497
(22)【出願日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2022169980
(32)【優先日】2022-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】山田 智也
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
(72)【発明者】
【氏名】正田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】山口 渡
(72)【発明者】
【氏名】細川 明秀
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017EA04
4K017EB05
4K017FA03
4K017FA05
4K017FA07
4K017FA15
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC19
4K018KA46
5E040AA03
5E040AA19
5E040CA01
5E040HB11
5E040HB17
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN18
5E062CC05
5E062CD05
(57)【要約】
【課題】結晶格子歪の少ない微細な粒子で構成されるSm-Fe-N系磁性粉体を製造する技術を提供する。
【解決手段】 ガスアトマイズ法による凝固過程を含む工程で形成されたSm-Fe系粉体に、窒化処理を施して得られた、多結晶体の粒子で構成される、Sm/Feモル比が0.09以上0.25以下、N/Feモル比が0.06以上0.30以下であるSm-Fe-N系粗粉体を用意し、
前記Sm-Fe-N系粗粉体を、結晶粒界で破断させることにより粉砕して、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が5.0μm以下である粉体を得る、Sm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスアトマイズ法による凝固過程を含む工程で形成されたSm-Fe系粉体に、窒化処理を施して得られた、多結晶体の粒子で構成される、Sm/Feモル比が0.09以上0.25以下、N/Feモル比が0.06以上0.30以下であるSm-Fe-N系粗粉体を用意し、
前記Sm-Fe-N系粗粉体を、結晶粒界で破断させることにより粉砕して、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が5.0μm以下である粉体を得る、Sm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【請求項2】
前記Sm-Fe系粉体は、ガスアトマイズ法による凝固過程の後、窒素を除く不活性ガス雰囲気中で700~1000℃の温度に加熱する熱処理を受けたものである、請求項1に記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【請求項3】
前記Sm-Fe系粉体は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が25.0μm以下である、請求項2に記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【請求項4】
前記窒化処理は、窒素化合物または窒素を含有する非酸化性ガス雰囲気中で500℃以下の温度範囲に加熱保持するものである、請求項1に記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕によって、Co-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピークの半値幅が0.30°以下である粉体を得る、請求項1に記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sm-Fe-N系微細粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SmFe17金属間化合物にNを導入した物質(代表的な組成式はSmFe17)は優れた硬磁性を呈する強磁性体であることが知られている。本明細書では、SmFe17の化学量論組成またはその周辺組成におけるSm-Fe系合金にNを導入した物質の粉体であって、強磁性体であるものを「Sm-Fe-N系磁性粉体」と呼ぶ。Sm-Fe-N系磁性粉体は、ボンド磁石の素材として有用である。今後、自動車モーターやセンサーの高性能化に対応すべく、Sm-Fe-N系磁性粉体を用いたボンド磁石には、保磁力の向上や残留磁化の向上など、磁気特性のより一層の向上が期待されている。磁性粉体の磁気特性を向上させるために有効な手法の1つとして、磁性粒子の粒子径を、多磁区構造よりも単磁区構造の方がエネルギー的に安定となる「単磁区臨界粒子径」に近づける手法が挙げられる。SmFe17の単磁区臨界粒子径の理論値は0.4μm程度である。
【0003】
Sm-Fe-N系磁性粉体の製造技術として、ガスアトマイズ法を利用する方法や、Caなどを還元剤に用いた還元拡散法を利用する方法が知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、ガスアトマイズ法によりSmFe17合金の球状粒子を合成し、得られた粉体を管状炉で窒化処理して、SmFe17組成の合金粉末を得たことが記載されている。ガスアトマイズ法で得られた粒子の平均粒径は110μm(段落0012)あるいは80μm(段落0014)である。
【0005】
特許文献2には、ガス噴霧、ガス-水噴霧および水噴霧によるアトマイズ法で、Sm-Fe系あるいはSm-Fe-C系にSi等の元素を添加して高保磁力化を狙った組成の磁性粉を合成した例が記載されている。得られた粒子を窒化処理することによりSm-Fe-(C)-Si-N系の粉体が得られている。粒子径は80~110μm程度である(段落0019)。
【0006】
特許文献3には、ガスアトマイズ法により粒径が30μm以下(16頁3行)のSmFe17合金の球状粒子を得ることができ、これを窒化処理してSmFeN磁性合金を得ることも可能である(15頁24-25行)ことが記載されている。また、ガスアトマイズ法でSmFe17の溶融合金にNガスのジェット流を衝突させることにより、粒径が30μm以下で外形がほぼ球状の(16頁3行)のSmFe17N合金の微粉末を得ることが記載されている(22頁2-8行)。上記Nガスの吹き付け方法を工夫することで粒径が2~10μmの超微粉末を得ることができるという(22頁20-27行)。
【0007】
一方、特許文献4~13には、Caなどを還元剤に用いた還元拡散法および窒化処理によってSm-Fe-N系磁性粉体を得る手法が記載されている。還元拡散法によれば粒子径が10μm程度以下といった微細な粉体を得ることが可能である。しかし、工程が複雑であり、アルカリ性排液が発生するなど環境に対する負荷も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7-11307号公報
【特許文献2】特開2001-68315号公報
【特許文献3】国際公開WO02/00379号公報
【特許文献4】特開2006-291257号公報
【特許文献5】特開2018-31053号公報
【特許文献6】特開2017-226885号公報
【特許文献7】特開2010-270379号公報
【特許文献8】特開2010-70777号公報
【特許文献9】特開2007-119909号公報
【特許文献10】特開2004-115921号公報
【特許文献11】特開平11-310807号公報
【特許文献12】特開2006-291257号公報
【特許文献13】特開2018-127716号公報
【特許文献14】特許第7076740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ボンド磁石の素材に用いる磁性粉体は、磁気特性向上の観点から、単磁区臨界粒子径にできるだけ近い微細な粒子で構成されることが有利である。Sm-Fe-N系磁性粉体の場合であれば、例えば平均粒子径が5μm程度以下の粉体であることが望ましいと考えられる。また、粒子が十分に微細であることに加えて、結晶の格子歪が小さいことも、磁気特性向上に有利であると考えられる。例えば、特許文献14には、Sm-Fe-N系磁性材料の結晶格子歪を一定の水準以下に抑えることで、保磁力や飽和磁化を高く保てることが記載されている。
【0010】
特許文献1、2に開示のガスアトマイズ法で得られているSm-Fe合金粉の粒子径は80~110μm程度と大きい。このような大きい粒子を、結晶の格子歪が小さい微細な粒子に粉砕することは、必ずしも容易でない。
【0011】
特許文献3に開示のガスアトマイズ装置によれば、粒子径30μm程度以下のSm-Fe合金粉が得られるとされ、冷却用ガスにNを用い、かつガス吹きつけ方法を工夫することで、直接、粒子径2~10μmのSm-Fe-N系磁性粉体が得られるという。しかし、アトマイズ工程でNガスを用いて得られる粒子は、窒化の状態が不均一になりやすく、個々の粒子の窒化の状態が均質なSm-Fe-N系磁性粉体をガスアトマイズ法で直接合成することは困難である。個々の粒子の特性が不均一であることは、磁気特性の向上にはマイナス要因となる。特許文献3には粒子径2~10μmのSm-Fe-N系磁性粉体を実際に合成した例は示されていない。
【0012】
一方、特許文献12には、窒化処理後のSm-Fe-N系磁性粉体を湿式ボールミルで粉砕し、平均粒径が2.6μmのSm-Fe-N系磁性粉体を得た例が示されている(段落0057)。また、特許文献13には、 粉砕されたSmFe17合金粉末を原料に用いて、窒化処理後に水中で湿式処理により崩壊させ、その後、粉砕機により解砕・微粉化することにより粒子径1~3μm程度のSm-Fe-N系粉体を得る技術が記載されている(請求項4、各実施例)。しかし、これらの文献の技術で使用している原料のSm-Fe系合金粉は還元拡散法により合成されたものである。還元拡散法で得られた粗大な粒子は結晶子径が数μm程度以上に大きいと考えられ、単結晶体の粒子となる場合も多い。これを例えば3μm以下の粒子径レベルにまで粉砕する際には、結晶粒内で破壊を生じさせる必要がある。結晶粒内での破壊には大きな外力が必要となるので、得られた微細な粒子は、結晶格子歪が大きいものとなってしまう。なお、結晶格子歪の除去を目的として、結晶格子歪の大きいSm-Fe-N系磁性粉体に事後的に熱処理を施す手法は、採用し難い。結晶格子歪の除去に有効な温度域(例えば600℃程度以上)まで加熱すると、窒化により形成されたSmFe17を基本とする構造が分解され、優れた磁気特性が維持されなくなる恐れがある。
【0013】
本発明は、結晶格子歪の少ない微細な粒子で構成されるSm-Fe-N系磁性粉体を製造する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、微細な結晶粒からなる多結晶体の粒子で構成されるSm-Fe-N系粉体を用意し、その粉体に機械的な粉砕処理を施して前記粒子の結晶粒界で破断させることにより達成できることがわかった。窒化されたSm-Fe-N系粒子の内部において、結晶粒界は比較的脆弱な部分となっている。粉体に外力を加えてその部分で選択的に破断させると、元の粒子は1つあるいは小数の結晶粒からなる微細な粒子に分断され、個々の結晶粒内への歪の導入を抑制することができる。ここで、微細な結晶粒からなる多結晶体の粒子はガスアトマイズ法により合成することができる。本発明はこのような知見に基づくものである。具体的には本明細書では以下の発明を開示する。
【0015】
[1]ガスアトマイズ法による凝固過程を含む工程で形成されたSm-Fe系粉体に、窒化処理を施して得られた、多結晶体の粒子で構成される、Sm/Feモル比が0.09以上0.25以下、N/Feモル比が0.06以上0.30以下であるSm-Fe-N系粗粉体を用意し、
前記Sm-Fe-N系粗粉体を、結晶粒界で破断させることにより粉砕して、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が5.0μm以下である粉体を得る、Sm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
[2]前記Sm-Fe系粉体は、ガスアトマイズ法による凝固過程の後、窒素を除く不活性ガス雰囲気中で700~1000℃の温度に加熱する熱処理を受けたものである、上記[1]に記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
[3]前記Sm-Fe系粉体は、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が25.0μm以下である、上記[1]または[2]に記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
[4]前記窒化処理は、窒素化合物または窒素を含有する非酸化性ガス雰囲気中で500℃以下の温度範囲に加熱保持するものである、上記[1]~[3]のいずれかに記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
[5]前記粉砕によって、Co-Kα線を用いたX線回折パターンにおいて、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピークの半値幅が0.30°以下である粉体を得る、上記[1]~[4]のいずれかに記載のSm-Fe-N系微細粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、結晶格子歪の少ない微細な粒子で構成されるSm-Fe-N系磁性粉体を得ることができる。結晶格子歪の低減は磁気特性の向上につながると考えられ、ボンド磁石の高性能化に寄与しうる。また、本発明では磁性粉の合成に還元拡散法を適用する必要がないので、従来一般的なSm-Fe-N系磁性粉体の製造方法と比べ、環境への負荷が軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に従ってSm-Fe-N系磁性粉体を得るための代表的な製造工程を例示したフロー図。
図2】実施例で使用したガスアトマイズ装置の構成を模式的に示した図。
図3】実施例で使用したガスアトマイズ装置の坩堝底部付近の断面構造を模式的に示した図。
図4】実施例1および比較例1について半値幅の測定に使用した(220)回折ピーク付近のX線回折パターンを例示した図。
図5】実施例で粉砕に供したSm-Fe-N系粗粉体の粒子についてのEBSDによるIPFマップを例示した図。
図6】実施例4で得られた粉砕後のSm-Fe-N系微細粉体の粒子についてのEBSDによるIPFマップを例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、本発明に従ってSm-Fe-N系磁性粉体を得るための代表的な製造工程を示す。本明細書では、粉砕工程に供するための中間製品であるSm-Fe-N系磁性粉体を「Sm-Fe-N系粗粉体」と呼び、粉砕工程を経て得られたSm-Fe-N系磁性粉体を「Sm-Fe-N系微細粉体」と呼ぶ。以下、各工程について説明する。
【0019】
[ガスアトマイズ工程]
本発明では、ガスアトマイズ法により凝固させたSm-Fe系粉体使用する。ガスアトマイズ法は、気相空間に吐出された金属溶湯にガスを高速で吹き付けることにより前記の金属溶湯を微細な液相粒子に分断し、その液相粒子を気相空間の飛行中に急冷凝固させる粉体形成手法である。ガスアトマイズに供する金属溶湯を生成させるための金属原料としては、予め溶製された組成が既知であるSm-Fe系母合金、金属Sm、金属Feなどが使用できる。金属溶湯の組成はSm/Feモル比が0.09以上0.25以下の範囲となるように調整することが望ましい。最終的に得られる磁性粉体の要求特性を阻害しない範囲でSm、Fe以外の金属元素の混入を許容することができるが、金属溶湯中のSmとFeの合計含有量は95.0質量%以上であることが好ましく、98.0質量%以上であることがより好ましい。窒素を除く不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で金属溶湯を生成させることが望ましい。
【0020】
所定温度に保持され十分に均一化された金属溶湯をノズルから気相空間に吐出させるとともに、吐出直後の金属溶湯に冷却ガスを勢いよく吹き付ける。これにより金属溶湯は微細な液相粒子となって気相空間を飛行し、凝固する。吐出時の溶湯温度は1400~1900℃の範囲内で設定すればよい。本明細書では、ガスアトマイズ法によって合成された後に物理的あるいは化学的な処理(例えば外力付与、磁力付与、熱処理、表面処理など)を受けていない粒子で構成される粉体を「ガスアトマイズ粉」と呼ぶ。粒子サイズはアトマイズ条件によって制御できるが、必要に応じて篩などにより分級を行って粒度調整されたガスアトマイズ粉を得ることもできる。本発明では、後工程で平均粒子径が数μm以下の微細な粒子に粉砕することから、ガスアトマイズ粉の粒子サイズは、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50で例えば70.0μm以下であることが好ましく、50.0μm以下であることがより好ましく、25.0μm以下であることが更に好ましい。ガスアトマイズ粉の粒子サイズの下限については特に制限されないが、上記D50が5.0μm未満の粒子を工業的に合成するには現時点で非常に困難を伴うことから、上記D50が5.0μm以上の範囲で調整すればよく、10.0μm以上の範囲に管理してもよい。ガスアトマイズ粉の粒子は、急冷凝固によって形成されたものであるから、非常に微細な結晶粒からなる多結晶粒子である。上記D50が70.0μm程度以下であるガスアトマイズ粉においては、冷却条件を調整することで、結晶子径が例えば5.0μm程度以下である粒子を実現することができる。したがって、後述の粉砕工程において結晶粒界の部分で破断させたとき、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が5.0μm以下である粉体を得ることが可能となる。
【0021】
ガスアトマイズ工程では、溶湯を吐出させるための加圧用ガス、金属溶湯に吹き付ける噴射ガス、および液相粒子が飛行する気相空間の雰囲気ガスは、いずれも窒素を除く不活性ガスとすることが望まれる。これらのガスに窒素が含まれるとガスアトマイズ粉が不完全に窒化され、後工程の窒化処理によって均一性の高い窒化を実現することが難しくなる。また、窒化処理工程において比較的短時間で粒子内部まで十分に窒化させるためには、できるだけ粒子径の小さいガスアトマイズ粉を得ておくことが有利となる。この観点からも、ガスアトマイズ粉の粒子サイズは上記D50が50.0μm以下であることがより好ましく、25.0μm以下であることが更に好ましい。
【0022】
[熱処理工程]
SmFe17の化学量論的なSm/Feモル比は0.118である。上記のガスアトマイズ工程では、金属溶湯のSm/Feモル比をSmFe17の化学量論組成に比較的近い値(例えば0.09以上0.25以下)に調整することによって、ThZn17型結晶構造のSmFe17結晶格子を基本骨格とするSm-Fe系金属相を含むガスアトマイズ粉を得ることができる。しかし、冷却速度が極めて大きい場合などでは、TbCu型結晶構造のSm-Fe系金属相が生成することも考えられる。TbCu型のSm-Fe-N磁性相はThZn17型に比べて異方性磁界が小さく高保磁力を得にくいため、窒化処理に供するためのSm-Fe系粉体は、TbCu型のSm-Fe系金属相の存在量ができるだけ少ない状態であることが望ましい。そこで、仮にTbCu型のSm-Fe系金属相が生成していた場合でもそれをThZn17型結晶構造のSm-Fe系金属相に変化させることができるように、ガスアトマイズ粉に対して、必要に応じて熱処理を施すことができる。この熱処理では、窒素を除く不活性ガス雰囲気中で700~1000℃の温度に加熱する条件を採用することが効果的であり、温度範囲は800~900℃であることがより効果的である。上記温度範囲での保持時間は1分以上(例えば1~300分)とすることが好ましい。上記D50が例えば25.0μm以下であるような小径粒子で構成されるガスアトマイズ粉では、凝固速度が大きいためにTbCu型結晶構造のSm-Fe系金属相が生成しやすいと考えられる。したがって、上記D50が25.0μm以下であるガスアトマイズ粉に対しては、この熱処理工程を適用することが特に効果的である。
【0023】
[窒化処理工程]
上記のガスアトマイズ粉あるいはその後に上記熱処理を受けた粉体に対して、窒化処理を施し、ThZn17型結晶構造であるSmFe17結晶格子の侵入型位置に窒素原子が導入されたSm-Fe-N系の相を主相とする粉体を得る。SmFe17に窒素原子が導入されると結晶磁気異方性が面内型から一軸型に変化するとともにキューリー点が上昇し、実用的な磁石材料とすることができる。窒化処理には、結晶粒界を脆化させる作用もある。したがって、本発明では窒化処理を終えた粉体に対して後述の粉砕を施す。この窒化処理によって得られるSm-Fe-N系磁性粉体は、粉砕工程で粒子を微細化する前のものであることから、本明細書ではこれを「Sm-Fe-N系粗粉体」と呼んでいる。
【0024】
窒化処理は、ガスアトマイズ法による凝固過程を含む工程で形成されたSm-Fe系粉体を、窒素化合物を含有する非酸化性ガス雰囲気中で加熱保持することによって行うことができる。加熱温度が高すぎると、SmFe17結晶に窒素原子が侵入したSmFe17を基本とする構造が不安定となるため、窒化が困難になる。窒化処理の加熱温度は500℃以下とすることが望ましい。あまり低温では窒化の進行に長時間を要し、金属間化合物の内部まで均一に窒素原子を拡散させるうえで不利となる。加熱温度は300℃以上とすることが効果的である。
【0025】
窒化処理の雰囲気ガスとしては、アンモニア(NH)と水素(H)の混合ガスからなる還元性雰囲気とすることが実用的である。例えばアンモニアと水素の混合比NH:Hを10:90~60:40の範囲とすることができる。その他、窒化処理に用いる雰囲気ガスとしては、水素とアンモニアと窒素(N)の混合ガス、水素とアンモニアとアルゴン(Ar)の混合ガス、アンモニアのみ、アンモニアと窒素の混合ガス、アンモニアとアルゴンの混合ガス、窒素のみ、窒素と水素の混合ガス、を挙げることができ、これらを使用して非酸化性雰囲気とする。窒化処理の最適時間は、粉体の平均粒子径、雰囲気ガスの組成、温度によって多少変動するが、通常、15~240分の範囲で最適時間を見出すことができる。
【0026】
窒素原子はSmFe17結晶格子の侵入型の位置に入る。従来公知のSm-Fe-N系磁性粉体の代表的組成はSmFe17である。Sm/Feモル比およびN/Feモル比がSmFe17の化学量論組成に近いほど磁気特性の点で有利であると考えられるが、その周辺の組成域においても硬磁性を呈する。SmFe17の化学量論的なSm/Feモル比は0.118、N/Feモル比は0.176である。本発明では、ボンド磁石の素材として有効な保磁力が、常温を含む温度域で安定して得られることを考慮して、Feに対するSmのモル比を意味するSm/Feモル比が0.09以上0.25以下の範囲にあり、かつFeに対するNのモル比を意味するN/Feモル比が0.06以上0.30以下の範囲にあるSm-Fe-N系粗粉体を用意する。N/Feモル比は窒化処理の条件によって制御することができる。目標のN/Feモル比が得られる窒化処理の条件は、窒化処理に供するSm-Fe系粉体の平均粒子径(例えば上述のD50)やSm/Feモル比に応じて、予備実験により予め把握しておくことができる。
【0027】
この窒化処理によって得られたSm-Fe-N系粗粉体は、ガスアトマイズ法による凝固過程を経ているので結晶子径が非常に小さい。そのため、このSm-Fe-N系粗粉体は、多結晶体の粒子で構成される。また、窒化処理によって得られたSm-Fe-N系粗粉体は、粉砕工程に供する観点から、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が70.0μm以下であることが好ましく、50.0μm以下であることがより好ましく、25.0μm以下であることが更に好ましい。粒子サイズの下限については特に制限されないが、ガスアトマイズ法によれば通常上記D50は5.0μm以上の範囲となり、10.0μm以上の範囲に管理されていてもよい。このSm-Fe-N系粗粉体の粒子サイズは、窒化処理前のガスアトマイズ粉とほぼ同等になる。
【0028】
[粉砕工程]
上記の窒化処理工程で得られたSm-Fe-N系粗粉体を、結晶粒界で破断させることにより粉砕して、微細な粒子で構成されるSm-Fe-N系磁性粉体を得る。本明細書では、この粉砕工程で得られるSm-Fe-N系磁性粉体を「Sm-Fe-N系微細粉体」と呼んでいる。上述のように、ボンド磁石に用いる磁性粉体は、磁気特性向上の観点から、単磁区臨界粒子径に近い微細な粒子で構成されることが有利である。SmFe17の単磁区臨界粒子径の理論値は0.4μm程度であることから、本発明では粉砕工程によって、上記の単磁区臨界粒子径に近付けるべく、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が5.0μm以下である粒子サイズにまで微細化させることを目指す。ただし、結晶格子歪の導入をできるだけ避けた粉砕を行うことが重要となる。結晶格子歪は磁気特性の低下要因となり得るからである。
【0029】
本発明の粉砕工程では、多結晶体の粒子で構成されるSm-Fe-N系粗粉体に機械的な外力を付与する手法を適用することができる。窒化処理後の結晶粒界は粒子内部において脆弱な部位となっているので、粒子に外力を付与したときに、結晶粒界にはせん断応力が集中しやすい。そのため、粉砕による破断は結晶粒界で優先的に生じ、結晶粒内での破断が必要な場合に比べ、粒子に付与する外力を大幅に低減させることができる。これによって転位等の格子欠陥の導入が抑制され、結晶格子歪の小さい微細粒子を得ることができる。
【0030】
本発明に適用するSm-Fe-N系粗粉体はガスアトマイズ法による凝固過程を含む工程で形成されたSm-Fe系粉体に由来するので、粉体を構成する個々の多結晶体粒子は非常に微細な結晶粒からなる。そのため、結晶粒界で破断させることにより、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布における累積50%粒子径D50が5.0μm以下である微細粉体を得ることができる。全ての結晶粒界で破断させる必要はなく、比較的脆い結晶粒界で選択的に破断が起こる程度の外力を付与して、1つまたは複数の結晶粒からなる微細粒子に分断すればよい。過度に微細化を図ると、過剰な外力付与によって結晶格子歪の軽減効果が不十分となる恐れがある。通常、上記粒子径D50が1.0μm以上となる範囲で粉砕を行うことが望ましい。微細化された粒子は、上記D50が1.0~5.0μmであることが好ましく、上記D50が1.0~3.0μmであることがより好ましい。粉砕前の体積基準累積50%粒子径の、粉砕後の体積基準累積50%粒子径に対する比率は、4.0以上30.0以下であることが好ましく、6.0以上20.0以下であることがより好ましい。
【0031】
なお、粉砕工程で得られた粉体を分級し、粗大な粒子、あるいは必要に応じて過小な微細粒子を除外することによって粒度分布を適正化して、最終的に上記粒子径D50が例えば1.0~5.0μm、あるいは1.0~3.0μmである微細粉体を得るようにしてもよい。この場合は、粉砕をより軽度に行うことが可能となるので、結晶格子歪の導入をより一層軽減させたい場合に有効である。
【0032】
本発明に好適な粉砕手段として、例えば湿式ボールミルを挙げることができる。この場合、容器内に例えばわずかな気相空間が残る程度に多量の溶媒を投入することによって、結晶粒界で破断して生成した微細粒子が溶媒中に分散されやすくなるようにし、破断した粒子に対する外力の付与機会(過度の粉砕機会)を減少させることが効果的である。また、比較的小径のボールを使用する、ボールの総数を少なめにする、といった工夫も結晶格子歪の小さい粒子を得る上で有効である。
【0033】
また、本発明に好適な別の粉砕手段として、例えば振動ミルを挙げることができる。この場合、粒子に対する外力を弱め、過度の粉砕機会を減少させる観点から、粉砕メディアのボール径を比較的小径とすることが有効であり、好ましくはボール径を直径4mm以下とする。粉砕メディアの充填量は粉砕室の容積に対して例えば40体積%から90体積%とすることができる。運転時間、装置の振動数、振幅および粉体の充填量は、所望の粒子径になるよう調整することができる。過度の粉砕機会を減少させるため粉体の粉砕時間を5時間以内に収めることが好ましい。振動ミルを用いて粉砕する際はアルコールなどの粉砕助剤を添加することができ、粉砕助剤の添加量は粉末に対して0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
粉砕によって微細化されたSm-Fe-N系微細粉体の結晶格子歪については、例えばCo-Kα線を用いたX線回折パターン(横軸は2θ)におけるThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピークの半値幅によって評価することができる。Sm-Fe-N系微細粉体において、上記の半値幅が0.30°以下であれば粉砕による結晶格子歪の導入は極めて少ないと評価できる。上記半値幅は0.25°以下であることが特に好ましい。
【実施例0035】
[実施例1]
(ガスアトマイズ法によるSm-Fe系粉体の合成)
図2に、本例で使用したガスアトマイズ装置の構成を模式的に示す。チャンバー内に、真空排気装置10により真空引きが可能な上下2つの独立した空間があり、それらの空間は、雰囲気ガス供給源11a、11bからガスを導入することにより、それぞれ所定のガス雰囲気を有する気相空間とすることができる。上部の空間には坩堝1があり、その中で高周波コイル4による誘導加熱によって原料を溶融させ、金属溶湯5を形成させる。坩堝1の底部には、金属溶湯5を下部の気相空間へ吐出させるための溶湯吐出ノズル部材2が取り付けられている。金属溶湯5を吐出させるまで、ストッパー3を溶湯吐出ノズル部材2に押し当てることにより溶湯流路を塞いでおく。金属溶湯5が十分に均一化され、所定温度の溶湯が得られたのち、溶湯吐出用ガス供給装置13から坩堝1内の溶湯の湯面に所定圧力のガスを供給した状態で、ストッパー3を引き上げて、金属溶湯5を溶湯吐出ノズル部材2の先端から下部の気相空間へ吐出する。下部の気相空間には、吐出された金属溶湯5にガスを吹き付けるためのガス噴射ノズル6が装備されている。吐出開始前に、ガス供給装置12からガス噴射ノズル6へガスの送給を開始し、ガス噴射ノズル6からガスを高い圧力で噴射させておく。この噴射ガスの強い噴流を金属溶湯5に当てることにより、金属溶湯5の微細粒子を形成させるとともに、その微細粒子を急冷凝固させる。凝固した金属粒子7は下部の気相空間の底部に堆積する。
【0036】
図3に、ガスアトマイズ装置の坩堝底部付近の断面構造の一例を模式的に示す。坩堝1の底部に取り付けられた溶湯吐出ノズル部材2は、ノズル先端の開口部である吐出口21と、ストッパー当接面22を有する。ストッパー3は上下方向に動く可動式であり、溶湯吐出ノズル部材2のストッパー当接面22と当接することによりノズルの流路を塞ぎ、溶湯吐出時にストッパー当接面22から離間することによりノズルの流路を開く機能を有する。本例では、坩堝1の全体を窒化ホウ素(BN)、溶湯吐出ノズル部材2の全体を窒化ホウ素(BN)、ストッパー3の少なくとも金属溶湯5に浸漬させる部分の全体を酸化イットリウム(Y)でそれぞれ構成した。溶湯吐出ノズル部材2のノズル内径は3.0mmとした。
【0037】
金属原料として、予め溶製したSm-Fe合金を使用した。分析の結果、この原料合金のSm/Feモル比は0.16であった。この原料996.7gを坩堝に入れ、Ar雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解させた。原料合金が完全に溶融状態となった後、加熱開始からの経過時間が27分の時点で、1637℃の金属溶湯の全量をノズルから下部の気相空間に吐出させた。溶湯吐出用ガスの最大供給圧力は、雰囲気ガス圧力との差圧において、65kPaとした。噴射ガスにはArを使用した。また、下部の気相空間もAr雰囲気とした。生成した粉体を回収し、窒素雰囲気下のグローブボックス内で目開き16μmの篩により過小な粒子を除去した。このようにしてガスアトマイズ粉を得た。
【0038】
ガスアトマイズ粉から採取した試料を塩酸で加熱溶解、希釈して、ICP発光分光分析装置(アジレントテクノロジー製、Agilent720)により分析した。その結果、Sm/Feモル比は0.16であり、原料合金と同等であった。また、ガスアトマイズ粉の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)により測定した。その結果、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、累積50%粒子径D50は22.8μmであった。
得られたガスアトマイズ粉の一部を使用して、以下の工程を実施した。
【0039】
(熱処理)
Sm-Fe系合金の金属溶湯をガスアトマイズ法により急冷凝固させると、TbCu型結晶構造のSm-Fe系金属相が生成することがある。その生成量が多い場合には、そのまま窒化処理を施すと、磁気特性が十分に高いSm-Fe-N系磁性粉体を得る上で不利となる。そこで、ここでは上記のガスアトマイズ粉に熱処理を施し、ThZn17型結晶構造のSm-Fe系金属相からなるSm-Fe系粉体を得た。熱処理は、ガスアトマイズ粉を、Arガスに満たされたグローブボックス内からそれに連結された電気管状炉に移送し、炉内にArガスを流しながら850℃で30分保持する条件で行った。その後、Arガスを流しながら室温付近の温度(50℃以下)まで冷却した。
【0040】
(窒化処理)
上記熱処理で使用した管状炉に装入されているSm-Fe系粉体に、引き続き以下のようにして窒化処理を施した。上記熱処理を終えて室温付近の温度(50℃以下)になったことが確認されたのち、管状炉内に流すフローガスを、Arガスから、アンモニア(NH)35体積%、水素(H)65体積%組成の混合ガスに切り替えた。その後、昇温を開始し、前記の混合ガス中において420℃で60分保持することにより窒化を行い、続いて加熱を維持したままアンモニアの供給を断ち水素100%のフローガスに60分曝すことで過剰量の窒素を放出させ、次いでフローガスをArガスに切り替え420℃で60分保持することにより脱水素を行い、その後、加熱を停止してArガスを流しながら室温付近の温度まで冷却した。冷却後の粉体を管状炉からArガスで満たされたグローブボックス内に移送した。このようにして、粉砕に供するためのSm-Fe-N系粗粉体を得た。
【0041】
グローブボックス内のSm-Fe-N系粗粉体から分析用試料を分取し、グローブボックス内において塩酸で加熱溶解、希釈して、分析用の試料溶液を作成した。これをICP発光分光分析装置(アジレントテクノロジー製、Agilent720)により分析した。その結果、Sm/Feモル比は0.15、N/Feモル比は0.19であった。
【0042】
(粉砕)
前記の窒化処理で得られたSm-Fe-N系粗粉体を、管状炉が連結されArガスで満たされたグローブボックス内から、Arガスで満たされた別のグローブボックス内へ、Arガスで満たされた気密容器によって移送した。この移送先のグローブボックス内で粉砕を行った。ここでは容量50mLのガラス製バイアル瓶(アズワン社製ラボランスクリュー管瓶50mL)をミルポットとして使用し、以下のように湿式ボールミルを模した粉砕実験を行った。上記のバイアル瓶に、Sm-Fe-N系粗粉体1.0g、直径2.5mmのステンレス鋼製ボール75g、および溶媒としてアセトニトリル38mLを入れた。回転式混合機(アズワン社製ミックスローターバリアブル、ローラー3本タイプ、型番VMR-3R)を用い、Sm-Fe-N系粗粉体等を入れた前記のバイアル瓶を2本のローラー間に設置し、回転数110rpm、運転時間22時間として粉砕処理を行った。粉砕処理後にバイアル瓶中の上澄み液を捨て、残ったスラリーを真空乾燥させることによって、Sm-Fe-N系微細粉体を得た。以上の粉砕から乾燥までの操作は、Arガス雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0043】
得られたSm-Fe-N系微細粉体について、前記と同様の方法でレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布を求めた(以下の各例において同様)。その結果、本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体の累積50%粒子径D50は1.5μmであった。
【0044】
(X線回折測定)
得られたSm-Fe-N系微細粉体について、Co-Kα線を用いたX線回折パターンを測定した。2θが30°から60°の範囲を0.125°/sの速度でスキャンした。得られた回折パターンからKα2線由来の構造を除去したのち、強度が高く他のピークとの分離の良いSmFe17の(220)回折ピーク、すなわちThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピークについて、フォークト関数を最小二乗法によりフィッティングし、そのピーク半値幅を結晶格子歪の指標として測定した(以下の各例において同様)。その結果、Sm-Fe-N系微細粉体のThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅は0.24°であった。
【0045】
Sm-Fe-N系微細粉体の評価結果を製造条件と併せて表1に示してある(以下の各例において同様)。
【0046】
[実施例2]
実施例1の粉砕処理における回転式混合機の運転時間を22時間から20時間に変更したことを除き、実施例1と同様の方法でSm-Fe-N系微細粉体を得た。ここで、粉砕に供するSm-Fe-N系粗粉体は、実施例1の窒化処理で得られたものを使用した(以下の実施例3~5において同様)。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.6μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.23°であった。
【0047】
[実施例3]
実施例1の粉砕処理におけるバイアル瓶中の溶媒量を38mLから13mLに変更したことを除き、実施例1と同様の方法でSm-Fe-N系微細粉体を得た。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.7μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.23°であった。
【0048】
[実施例4]
実施例1の粉砕処理におけるバイアル瓶中の溶媒量を38mLから13mLに変更したこと、および回転式混合機の運転時間を22時間から24時間に変更したことを除き、実施例1と同様の方法でSm-Fe-N系微細粉体を得た。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.7μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.21°であった。
【0049】
[実施例5]
実施例1の粉砕処理におけるバイアル瓶中のステンレス鋼製ボール量を75gから50gに変更したこと、溶媒量を38mLから40mLに変更したこと、および回転式混合機の運転時間を22時間から24時間に変更したことを除き、実施例1と同様の方法でSm-Fe-N系微細粉体を得た。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.8μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.22°であった。
【0050】
[実施例6]
(ガスアトマイズ法によるSm-Fe系粉体の合成)
原料合金のSm/Feモル比を0.14とし、金属溶湯の温度を1550℃とした以外は実施例1と同様の手順でガスアトマイズ粉を得た。得られたガスアトマイズ粉のレーザー回折・散乱法による体積基準の累積50%粒子径D50は33.2μmであり、得られたガスアトマイズ粉を分析した結果、Sm/Feモル比は0.13であった。
【0051】
(熱処理)
得られたガスアトマイズ粉を、Arガスに満たされたグローブボックス内からそれに連結された回転式管状炉に移送し、炉内にArガスを流しながら850℃で5分保持して熱処理を行った。その後、Arガスを流しながら室温付近の温度(50℃以下)まで冷却した。
【0052】
(窒化処理)
室温付近の温度まで冷却した後、回転式管状炉に流すフローガスを、Arガスからアンモニア(NH)35体積%、水素(H)65体積%組成の混合ガスに切り替えた。その後、昇温を開始し、前記の混合ガス中において370℃で60分保持し、続いて加熱を維持したままアンモニアの供給を断ち水素100%のフローガスに60分曝し、次いでフローガスをArガスに切り替え370℃で60分保持し、その後、加熱を停止してArガスを流しながら室温付近の温度まで冷却した。次に、回転式管状炉に流すフローガスを、Arガスからアンモニア(NH)35体積%、水素(H)65体積%組成の混合ガスに切り替えた。その後、昇温を開始し、前記の混合ガス中において470℃で60分保持し、続いて加熱を維持したままアンモニアの供給を断ち水素100%のフローガスに60分曝し、次いでフローガスをArガスに切り替え470℃で60分保持し、その後、加熱を停止してArガスを流しながら室温付近の温度まで冷却した。このようにして、粉砕に供するためのSm-Fe-N系粗粉体を得た。分析の結果、この粗粉体のSm/eモル比は0.13、N/Feモル比は0.16であった。
【0053】
(粉砕)
このSm-Fe-N系粗粉体を、窒素ガスで満たされたグローブボックス内において振動ミルにより粉砕した。振動ミルとしてはユーラステクノ株式会社製、YAMP-2SNDを用いた。容積1.2LのステンレスポットにSm-Fe-N系粗粉体200gと直径1.6mmのクロム鋼製ボール4500gとエタノール2.1gを投入して密封し、上記の振動ミルを用いて振幅±2.5mm、振動数29.1Hzの条件で56分間粉砕処理を実施した。粉砕後の試料を窒素ガスで満たされたグローブボックス内でボールと分離することでSm-Fe-N系微細粉体を得た。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が2.2μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.25°であった。
【0054】
[実施例7]
実施例6の粉砕処理における振動ミルの運転時間を56分から168分に変更したことを除き、実施例6と同様の方法でSm-Fe-N系微細粉体を得た。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.7μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.28°であった。
【0055】
[比較例1]
還元拡散法により製造されたSm-Fe-N系粉体(住友金属鉱山株式会社製の工業製品)を用意した。この粉体のレーザー回折・散乱法による体積基準の累積50%粒子径D50は24.0μmであった。EBSD測定の結果、このSm-Fe-N系粉体を構成する粒子は、ほぼ単結晶体であることが確認された。このSm-Fe-N系粉体は、実施例1で使用したような湿式ボールミルでは粉砕エネルギーが不十分であり、微細粒子に粉砕することは困難である。そこで、ここでは上記Sm-Fe-N系粉体を、Arガスが満たされたグローブボックス内でジェットミル(サンレックス工業株式会社製、型番NJ-50)により粉砕した。グローブボックス内の酸素濃度は0.5ppm以下に保ち、粉砕ガスにはArガスを使用した。得られた粉砕粉を再びジェットミルへ投入することを繰り返し、計3回にわたる粉砕処理によりSm-Fe-N系微細粉体を得た。粉砕ガス圧は、1回目および2回目を0.7MPa、3回目を1.1MPaとした。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.7μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.39°であった。
【0056】
[比較例2]
比較例1のジェットミル粉砕において、2回目の粉砕ガス圧を0.7MPaから1.1MPaに変更したことを除き、比較例1と同様の方法でSm-Fe-N系微細粉体を得た。
本例で得られたSm-Fe-N系微細粉体は、累積50%粒子径D50が1.6μm、ThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.39°であった。
【0057】
【表1】
【0058】
各実施例では、ガスアトマイズ法に由来する多結晶体粒子で構成されるSm-Fe-N系粗粉体を粉砕処理に供したことにより、結晶粒界での破断による微細化が可能であり、得られたSm-Fe-N系微細粉体はThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.25°以下といった結晶格子歪の小さいものであった。
これに対し、各比較例では、還元拡散法に由来する単結晶体粒子が主体のSm-Fe-N系粉体を上記実施例と同等の粒子径にまで粉砕するために、粉砕エネルギーの高いジェットミルによる粉砕を適用した。その結果、得られたSm-Fe-N系微細粉体はThZn17型結晶構造(220)面に対応する回折ピーク半値幅が0.38°を超えるような結晶格子歪の大きいものであった。
【0059】
図4に、実施例1および比較例1について、半値幅の測定に使用した(220)回折ピーク付近のX線回折パターンを例示する。
図5に、実施例1で作製した窒化処理後のSm-Fe-N系粗粉体(実施例1~5の粉砕に供したもの)の粒子についてのEBSD(電子線後方散乱回折法)によるIPFマップ(逆極点図結晶方位マップ)を例示する。また、図6に、実施例4で得られた粉砕後のSm-Fe-N系微細粉体の粒子についてのEBSD(電子線後方散乱回折法)によるIPFマップ(逆極点図結晶方位マップ)を例示する。これらのIPFマップは、粉体粒子を埋め込んだ樹脂を研磨することによって調製された、粒子の断面が現れた試料表面について、EBSD測定により得られたIPFマップのカラー画像をモノクロ化して表示したものである。モノクロ化したIPFマップでは、個々の結晶粒が、結晶方位差に基づく輝度差として表されている。粉砕前の粒子(図5)は、結晶粒界で破断することによって微細な粒子(図6)に粉砕されている。
【符号の説明】
【0060】
1 坩堝
2 溶湯吐出ノズル部材
3 ストッパー
4 高周波コイル
5 金属溶湯
6 ガス噴射ノズル
7 凝固した金属粒子
10 真空排気装置
11a、11b 雰囲気ガス供給源
12 噴射用ガス供給装置
13 溶湯吐出用ガス供給装置
21 吐出口
22 ストッパー当接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6