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特開2024-62448伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062448
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/28 20170101AFI20240501BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20240501BHJP
【FI】
C01B32/28
C01B32/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170278
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100172225
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大曲 新矢
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 優文
(72)【発明者】
【氏名】清家 清弥
(72)【発明者】
【氏名】陳 映晨
(72)【発明者】
【氏名】末廣 純也
(72)【発明者】
【氏名】中野 道彦
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AA16
4G146AA17
4G146AB07
4G146AC01A
4G146AC01B
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC20A
4G146AC20B
4G146AD20
4G146BC09
4G146CB19
4G146CB35
4G146DA03
4G146DA16
(57)【要約】
【課題】熱伝導性が高く電気絶縁性も高い伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法を提供する。
【解決手段】伝熱シート1は、樹脂2を母材とするシートの中に、複数のダイヤモンドフレークFがシートの厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンFaを複数含んでいる。ダイヤモンドフレークチェーンFaを構成するダイヤモンドフレークFは、隣接するダイヤモンドフレークFに一部が面接触している。ダイヤモンドフレークFは、多結晶ダイヤモンドから形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を母材とするシートの中に、
複数のダイヤモンドフレークが前記シートの厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンを複数含む、伝熱シート。
【請求項2】
前記ダイヤモンドフレークチェーンを構成する前記ダイヤモンドフレークは、隣接する前記ダイヤモンドフレークに一部が面接触している、請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項3】
前記ダイヤモンドフレークは、厚さが0.5μm~10μm、面積が10μm~5000μmである、請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項4】
前記ダイヤモンドフレークは、電気抵抗率が10-3Ωcm~10Ωcmである、請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項5】
前記ダイヤモンドフレークは、多結晶ダイヤモンドから形成されている、請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項6】
前記多結晶ダイヤモンドは、粒径が0.1μm~10μmである、請求項5に記載の伝熱シート。
【請求項7】
前記ダイヤモンドフレークは、ホウ素、リン、窒素の少なくともいずれかをドーパントに含む、請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項8】
前記樹脂は、シリコーン、アクリル、エポキシ、ウレタン、フェノールの少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の伝熱シート。
【請求項9】
複数のダイヤモンドフレークを含む液状の樹脂をシート状に形成する工程と、
前記シート状に形成された液状の樹脂に対して厚さ方向の電界を印加し、複数の前記ダイヤモンドフレークが前記厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンを形成する工程と、
前記ダイヤモンドフレークチェーンが形成された液状の樹脂を硬化させる工程と、を含む、伝熱シートの製造方法。
【請求項10】
シリコン基板の表面に、多結晶ダイヤモンドを成長させて多結晶ダイヤモンド薄膜を形成する工程と、
前記シリコン基板の表面から前記多結晶ダイヤモンド薄膜を分離する工程と、
前記多結晶ダイヤモンド薄膜を粉砕して複数の前記ダイヤモンドフレークに形成する工程と、
液状の樹脂に複数の前記ダイヤモンドフレークを混合する工程と、をさらに含む、請求項9に記載の伝熱シートの製造方法。
【請求項11】
前記液状の樹脂は、光、熱のいずれかで硬化する樹脂である、請求項9に記載の伝熱シートの製造方法。
【請求項12】
前記印加する電界は、交流電界である、請求項9に記載の伝熱シートの製造方法。
【請求項13】
前記交流電界の周波数は、10Hz~10kHzである、請求項12に記載の伝熱シートの製造方法。
【請求項14】
前記多結晶ダイヤモンド薄膜は、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、DCプラズマCVD法のいずれかにより形成される、請求項9に記載の伝熱シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドフレークを含む伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドには、熱伝導率が高いという特徴がある。また、ダイヤモンドは半導体としての性質を備えており、ダイヤモンドにドープするn型ドーパントまたはp型ドーパントの濃度を制御することで、電気抵抗率が高いダイヤモンドを製造することができる。このような特徴を活用し、ダイヤモンドを伝熱シートのフィラーとして使用することが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1には、プレポリマー(pre-polymer)にフィラーとして直径が8~20μmのダイヤモンド粒子(microdiamonds)を混ぜてシート状に形成し、電界を印加して電界の方向にダイヤモンド粒子を整列させ、その後、加熱して硬化させて伝熱シートを作成することが開示されている。伝熱シートの一方の面に与えられた熱は、伝熱シートの中で整列したダイヤモンド粒子を介して伝熱シートの他方の面に伝導される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hong-Bake Cho, Tadachika Nakayama, Tsuneo Suzuki, Satoshi Tanaka, Weihua Jiang, Hisayuki Suematsu, Ji-Won Lee, Hong-Dae Kim, Koichi Niihara, “Electric-field-assisted fabrication of linearly stretched bundles of microdiamonds in polysiloaxane-based composite material”, Diamond & Related Materials 26 (2012) 7-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の伝熱シートは、フィラーとしてダイヤモンド粒子を使用することで高い電気絶縁性を実現することができるものの、隣接するダイヤモンド粒子は点接触により熱を伝導するものであるため熱伝導性が低いという問題点が有り、更なる改善の余地があった。
【0006】
そこで本発明は、熱伝導性が高く電気絶縁性も高い伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の伝熱シートは、樹脂を母材とするシートの中に、複数のダイヤモンドフレークが前記シートの厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンを複数含む。
【0008】
本発明の伝熱シートの製造方法は、複数のダイヤモンドフレークを含む液状の樹脂をシート状に形成する工程と、前記シート状に形成された液状の樹脂に対して厚さ方向の電界を印加し、複数の前記ダイヤモンドフレークが前記厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンを形成する工程と、前記ダイヤモンドフレークチェーンが形成された液状の樹脂を硬化させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱伝導性が高く電気絶縁性も高い伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態の伝熱シートの(a)平面図(b)側面図(c)拡大断面図
図2】本発明の一実施の形態の伝熱シートの使用例の説明図
図3】本発明の一実施の形態のダイヤモンドフレークの製造工程の説明図
図4】本発明の一実施の形態の伝熱シートの製造工程の説明図
図5】本発明の一実施の形態の伝熱シートの製造工程におけるダイヤモンドフレークを含む液状の樹脂の(a)電界印加前の拡大断面図(b)電界印加後の拡大断面図
図6】本発明の一実施の形態の伝熱シートの製造方法のフロー図
図7】実験で使用したダイヤモンドフレークの(a)光学顕微鏡像を示す図(b)面積のヒストグラム(c)サイズのヒストグラム
図8】実験1のアクリルとダイヤモンドフレークの混合液の(a)電界印加前の光学顕微鏡像を示す図(b)電界印加後の光学顕微鏡像を示す図
図9】実験2のシリコーンとダイヤモンドフレークの混合液の(a)電界印加前の光学顕微鏡像を示す図(b)電界印加後の光学顕微鏡像を示す図
図10】比較実験で使用した球状のダイヤモンド粒子の(a)光学顕微鏡像を示す図(b)面積のヒストグラム(c)サイズのヒストグラム
図11】比較実験のアクリルと球状のダイヤモンド粒子の混合液の(a)電界印加前の光学顕微鏡像を示す図(b)電界印加後の光学顕微鏡像を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。以下で述べる構成、形状等は説明のための例示であって、伝熱シート、樹脂、ダイヤモンドフレークの仕様に応じ、適宜変更が可能である。また、以下の説明に使用する図面は、部分的に拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法、比率は実際とは同じとは限らない。以下では、全ての図面において対応する要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書において「~」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含むものである。
【0012】
まず図1を参照して、伝熱シート1の構成を説明する。伝熱シート1は、シリコーン、アクリル、エポキシ、ウレタン、フェノールなどの樹脂2(ポリマー)を母材とする厚さ100μm~500μmのシートで、ダイヤモンドフレークFを含んでいる。樹脂2に含まれるダイヤモンドフレークFの充填率は0.5wt%~90wt%(望ましくは、30wt%~80wt%)である。
【0013】
ダイヤモンドフレークFは、粒径が0.1μm~10μmの多結晶ダイヤモンドから形成されており、ダイヤモンドフレークFの厚さは0.5μm~10μm(望ましくは、2μm~4μm)、面積が10μm~5000μm(望ましくは、1000μm~2000μm)である。また、ダイヤモンドフレークFは、ホウ素、リン、窒素の少なくともいずれかをドーパントに含み、ドーパントの濃度を調整することで電気抵抗率が10-3Ωcm~10Ωcm(望ましくは、10Ωcm~10Ωcm)に設定されている。すなわち、ダイヤモンドフレークFの電気絶縁性は高い。
【0014】
図1(c)において、伝熱シート1の中のダイヤモンドフレークFは、隣接するダイヤモンドフレークFに一部が面接触するようにシートの厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンFaを形成している。すなわち、伝熱シート1は、複数のダイヤモンドフレークFがシートの厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンFaを複数含み、ダイヤモンドフレークチェーンFaを構成するダイヤモンドフレークFは、隣接するダイヤモンドフレークFに一部が面接触している。伝熱シート1では、面接触しているダイヤモンドフレークFを伝わって熱が伝導される。図1(c)では、隣接するダイヤモンドフレークFが面接触している箇所を、ドットでハッチングしている。本実施の形態の伝熱シート1は、隣接するダイヤモンドフレークFが面接触することで、高い熱伝導性を実現している。
【0015】
次に、図2を参照して、伝熱シート1の使用例について説明する。図2は、プリント基板3に実装されたCPUなどの半導体デバイス4と、半導体デバイス4において発生する熱を大気中に放出するヒートシンク5の間に、伝熱シート1が使用されている。樹脂2を母材とする伝熱シート1は可塑性を有しており、半導体デバイス4の上面の凸凹4aに合わせて変形して半導体デバイス4とヒートシンク5に密着することで、熱源となる半導体デバイス4において発生した熱を効率良くヒートシンク5に伝導することができる。また、伝熱シート1により半導体デバイス4とヒートシンク5との間に高い電気絶縁性も確保される。
【0016】
次に、図3図5を参照しながら、図6のフローに沿って、ダイヤモンドフレークFを含む伝熱シート1の製造方法について説明する。図6において、まず、シリコン基板6を図示省略するCVD装置の中にセットし(図3(a))、シリコン基板6の表面に、化学気相成長法(CVD法)によって多結晶ダイヤモンドを成長させて厚さ0.5μm~10μmの多結晶ダイヤモンド薄膜7を形成する(ST1:成長工程)(図3(b))。成長させる多結晶ダイヤモンドの粒径は、0.1μm~10μmである。なお、シリコン基板6上には、予め大きさが数nmのナノダイヤモンド粒子を凝集(シーディング)させておいてもよい。また、多結晶ダイヤモンド薄膜7を形成する基板はシリコン基板6に限定されることはなく、例えば、石英基板であってもよい。
【0017】
多結晶ダイヤモンド薄膜7は、例えば、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、DCプラズマCVD法により形成される。熱フィラメントCVD法では、タングステン(W)、タンタル(Ta)又はレニウム(Re)などからなる複数の熱フィラメントを使用することができる。また、多結晶ダイヤモンドを成長させる際に、CVD装置にホウ素、リン、窒素の少なくともいずれかを含むガスを所定の流量で導入することで、多結晶ダイヤモンドの電気抵抗率が10-3Ωcm~10Ωcmに設定される。
【0018】
図6において、次いで多結晶ダイヤモンド薄膜7が形成されたシリコン基板6がCVD装置から取り出され、シリコン基板6の表面から多結晶ダイヤモンド薄膜7が分離される(ST2:分離工程)(図3(c)の矢印a)。例えば、多結晶ダイヤモンド薄膜7が形成されたシリコン基板6をアセトン中に浸すことで、シリコン基板6から多結晶ダイヤモンド薄膜7が分離される。次いでビーカ8に入れた水やIPA(2-プロパノール)などの液体9の中に多結晶ダイヤモンド薄膜7を入れ(図3(d))、超音波洗浄機10によりビーカ8の中の多結晶ダイヤモンド薄膜7を粉砕してダイヤモンドフレークFに形成する(ST3:粉砕工程)(図3(e))。これにより、多結晶ダイヤモンド薄膜7が、厚さが2μm~10μm、面積が10μm~5000μmのダイヤモンドフレークFに形成される。
【0019】
次いでビーカ8の中からダイヤモンドフレークFを取り出し、ホットプレートなどで加熱して乾燥させる。ビーカ8からダイヤモンドフレークFを取り出す際に、所定の目の粗さのろ紙などのふるいを使用することで、所定のサイズよりも小さなダイヤモンドフレークFを取り除くことができる。
【0020】
図6において、次いでダイヤモンドフレークFを光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などの光や熱で硬化する液状の樹脂11(プレポリマー)に混合して撹拌してダイヤモンドフレークFと液状の樹脂11の混合液12を作成する(ST4:混合工程)。次いで混合液12を伝熱シート1のサイズ(幅、長さ、厚さ)に対応する容器13に流し込んで(図4(a)の矢印b)、混合液12(複数のダイヤモンドフレークFを含む液状の樹脂11)をシート状に形成する(ST5:シート形成工程)(図4(b))。この状態では、図5(a)に示すように、液状の樹脂11の中に複数のダイヤモンドフレークFが散らばって存在する。
【0021】
次いでシート状に形成された混合液12を入れた容器13を平行電極14で挟み、電圧源15から電圧を印加する(図4(c))。なお、平行電極14は、シート状に形成された混合液12と接するように設置してもよい。この際、2分~10分間、周波数が10Hz~10kHz(望ましくは、100Hz~1kHz)、電界の大きさが4MVpp/m~20MVpp/m(望ましくは、10MVpp/m~16MVpp/m)の交流電界を印加する。図5(b)に示すように、シート状に形成された液状の樹脂11に対して厚さ方向の電界を印加することで、分極により発生するクーロン力によりダイヤモンドフレークFが誘電泳動し、複数のダイヤモンドフレークFが厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンFaに形成される(ST6:電界印加工程)。印加する交流電界の周波数、電界強度、印加時間は、液状の樹脂11の粘度、ダイヤモンドフレークFのサイズ(面積、厚さなど)や形状に応じて設定される。
【0022】
図6において、次いでダイヤモンドフレークチェーンFaが形成された液状の樹脂11を硬化させる(ST7:硬化工程)。液状の樹脂11が紫外線硬化樹脂の場合、所定の波長の紫外線16を所定の照度、時間(照射量)だけ照射して、液状の樹脂11を硬化した樹脂2に変化(重合)させる(図4(d))。また、液状の樹脂11が熱硬化性樹脂の場合、所定の時間、所定の温度となるように加熱して、液状の樹脂11を硬化した樹脂2に変化(重合)させる(図示省略)。次いで容器13から伝熱シート1を取り出す(ST8:取出工程)(図4(e)の矢印c)。本実施の形態では、このように、熱伝導性が高く電気絶縁性も高い伝熱シート1が製造される。
【0023】
上記説明したように、本実施の形態の伝熱シート1は、樹脂2を母材とするシートの中に、複数のダイヤモンドフレークFがシートの厚さ方向に並んだダイヤモンドフレークチェーンFaを複数含んでいる。これによって、本実施の形態の伝熱シート1は、熱伝導性が高く電気絶縁性も高い。
【0024】
(実験結果)
次に、図7図11を参照して、液状の樹脂11にダイヤモンドフレークFまたはダイヤモンド粒子をフィラーとして添加した混合液12に電界を印加してフィラーの誘電泳動を観察する実験結果について説明する。後述する実験1~2と比較実験では、液状の樹脂11とダイヤモンドのフィラーの混合液12をPETフィルム上でシート状に形成し、PETフィルムの下方に配置した櫛形電極から電界を印加した。また、光学顕微鏡像は、下方から光を照射しながら上方から光学顕微鏡で撮像した。
【0025】
図7を参照して、実験1~2で使用したダイヤモンドフレークFの分析結果について説明する。図7(a)は、ダイヤモンドフレークFの光学顕微鏡像を示している。光学顕微鏡像において黒く写っている部分がダイヤモンドフレークFである。図7(b)は、光学顕微鏡像から計測されたダイヤモンドフレークFの面積のヒストグラム(サンプル数N=451)である。図7(c)は、光学顕微鏡像から計測されたダイヤモンドフレークFのサイズのヒストグラム(サンプル数N=451)である。ダイヤモンドフレークFのサイズは、計測された面積から計算した換算直径である。
【0026】
ダイヤモンドフレークFは、タングステン(W)を熱フィラメントとして使用する熱フィラメントCVD法によりシリコン基板6に形成した直径75mm、厚さ2μm~4μmの多結晶ダイヤモンド薄膜7を(ST1)、シリコン基板6から剥離した後に(ST2)、IPAに浸して超音波洗浄機10により粉砕して形成している(ST3)。粉砕時間は60分である。ダイヤモンドフレークFの面積の平均は1100.0μm、サイズの平均は34.9μmである。
【0027】
(実験1)
実験1では、液状の樹脂11としてテトラヒドロフルフリルアクリレートを70vol%、紫外線硬化型ウレタンアクリレートを30vol%、混合したアクリル溶媒を使用している。アクリル溶媒に対するダイヤモンドフレークFの充填率は1wt%である。図8(a)は、電界印加前の光学顕微鏡像を示している。図8(b)は、電界印加後の光学顕微鏡像を示している。印加電界として、周波数が500Hz、電界の大きさが8MVpp/mの交流電界を2分間印加している。交流電界の印加による誘電泳動により、アクリル溶媒中のダイヤモンドフレークFは電界方向に並び、ダイヤモンドフレークチェーンFaが形成されている。
【0028】
(実験2)
実験2では、液状の樹脂11としてシリコーン溶媒(紫外線硬化型ラジカル重合型シリコーン)を使用している。シリコーン溶媒に対するダイヤモンドフレークFの充填率は1wt%である。図9(a)は、電界印加前の光学顕微鏡像を示している。図9(b)は、電界印加後の光学顕微鏡像を示している。印加電界として、周波数が500Hz、電界の大きさが8MVpp/mの交流電界を2分間印加している。交流電界の印加による誘電泳動により、シリコーン溶媒中のダイヤモンドフレークFは電界方向に並び、ダイヤモンドフレークチェーンFaが形成されている。
【0029】
(比較実験)
図10を参照して、比較実験で使用した球状のダイヤモンド粒子の分析結果について説明する。図10(a)は、ダイヤモンド粒子の光学顕微鏡像を示している。光学顕微鏡像において黒く写っている部分がダイヤモン粒子である。図10(b)は、光学顕微鏡像から計測されたダイヤモンド粒子の面積のヒストグラム(サンプル数N=197)である。図10(c)は、光学顕微鏡像から計測されたダイヤモンド粒子のサイズ(粒径)のヒストグラム(サンプル数N=197)である。ダイヤモンド粒子の面積の平均は2653.9μm、粒径の平均は57.4μmである。
【0030】
比較実験では、液状の樹脂11として実験1と同じアクリル溶媒を使用している。アクリル溶媒に対するダイヤモンド粒子の充填率は1wt%である。図11(a)は、電界印加前の光学顕微鏡像を示している。図11(b)は、電界印加後の光学顕微鏡像を示している。印加電界として、周波数が500Hz、電界の大きさが8MVpp/mの交流電界を2分間印加している。フィラーとして球状のダイヤモンド粒子を混合した場合は、実験1~2と同じ条件の交流電界を印加しても、誘電泳動によるダイヤモンド粒子の整列は見られない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の伝熱シートおよび伝熱シートの製造方法は、熱伝導性が高く電気絶縁性も高い伝熱シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 伝熱シート
2 樹脂
6 シリコン基板
7 多結晶ダイヤモンド薄膜
11 液状の樹脂
F ダイヤモンドフレーク
Fa ダイヤモンドフレークチェーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11