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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062532
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】農作物を用いた造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/024 20060101AFI20240501BHJP
   A23B 7/022 20060101ALI20240501BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20240501BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20240501BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20240501BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20240501BHJP
   A23L 19/10 20160101ALI20240501BHJP
【FI】
A23B7/024
A23B7/022
A23L29/269
A23L29/244
A23L29/30
A23L19/00 A
A23L19/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170421
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 栄里子
(72)【発明者】
【氏名】小坂 学
【テーマコード(参考)】
4B016
4B041
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC06
4B016LE03
4B016LG01
4B016LG05
4B016LG08
4B016LG10
4B016LG11
4B016LK08
4B016LK09
4B016LP03
4B016LP08
4B041LC07
4B041LD01
4B041LH04
4B041LH08
4B041LH17
4B041LK11
4B041LK12
4B041LK27
4B041LK29
4B041LP08
4B041LP09
4B169BA07
4B169HA01
4B169HA02
4B169HA06
4B169HA07
4B169HA09
4B169HA11
4B169HA14
4B169KB03
4B169KC39
(57)【要約】
【課題】本発明は、形状及び色沢が良好で、且つ、保形性及び結着性に優れた乾燥農作物薄状切片及びそれを含む造形物を提供することを課題とする。
【解決手段】水溶性増粘多糖類を含有し、特定の範囲の粘度を有する粘稠液を農作物薄状切片に付着させてから凍結乾燥することにより上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1~3を含み、下記条件i~iiiを満たす、乾燥農作物薄状切片の製造方法。
工程1:農作物薄状切片を準備する工程
工程2:農作物薄状切片に粘稠液を付着させる工程
条件i:25℃で測定される前記粘稠液の粘度が、30~7000cpである
条件ii:前記粘稠液が、水溶性増粘多糖類を含有する
条件iii:前記粘調液が、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0~22質量%の量で含有する
工程3:粘稠液を付着させた農作物薄状切片を凍結乾燥する工程
【請求項2】
工程1における農作物薄状切片の厚さが、0.8~9mmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1における農作物薄状切片が、平面的に成形された切片である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程2と工程3の間に、工程2で得られた粘稠液を付着させた農作物薄状切片の1片以上を立体的に成形する工程を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶性増粘多糖類が、プルラン及び/又はグルコマンナンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記粘稠液が、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0質量%を超え22質量%以下の量で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記二糖類が、ショ糖、トレハロース、イソマルツロースからなる群から選択される1つ以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記糖アルコールが、還元イソマルツロース及び還元水飴からなる群から選択される1つ以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
25℃で測定される粘度が30~7000cpであり、水溶性増粘多糖類を含有し、かつ、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0~22質量%の量で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法に使用するための粘稠液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物を用いた造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冠婚葬祭では花が広く用いられている。展示の生花だけではなく、造花や花を模した造形物など、幅広く、花を表現した手法が用いられている。特に祝賀会や結婚式などのハレの日における会食では、テーブルの展示だけではなく、食用花や野菜や果物などで花を模した造形物が食用として出されることが多い。また、食するだけでなく、結婚式では野菜ブーケなども広まっている。
【0003】
従来、野菜や果物で花を表現する方法として、例えば、人参を輪切りにして、包丁を入れて花びらの形に切り込む方法や、型を用いて型抜きして作る方法のように、平面的に成形する方法がある。また、大根を桂剥きし、花模様にする方法や、マンゴーをスライスし、スライス片を幾重にも重ね合わせて花を表現する方法のように、立体的に成形する方法もある。生の野菜や果物は長期保存できないので乾燥させた造形物を用いる場合があるが、一般的な熱風乾燥では、鮮やかな色調が退色したり、縮んで形状が変化したりする問題などがあるため、凍結乾燥技術を用いることで乾燥によるダメージを抑えることが行われている。
【0004】
凍結乾燥した野菜や果物の乾燥片を立体的に成形して花様造形物を製造する際には、スライスした人参、大根、りんご、バナナなどの複数の乾燥片を付着させてカップなどに詰め、蓋をして花様を表現することがあるが、薄くスライスした生野菜や果物は乾燥の際、水分の蒸発により、方向性なく収縮するため、曲がったり、撚れたりして、形状が不安定になる。また、乾燥により、スライス片が脆くなり、輸送など移動の際、衝撃により付着させたスライス片が剥がれるなどスライス片同士の結着性に問題があった。また、壊れてしまうなどスライス片自体の保形性にも問題があった。
【0005】
乾燥食物の保形性や食品同士の結着性について種々検討されている。特許文献1では、原料野菜を適当な大きさに切断し、ブランチングし、乳化油脂を混入した糖液に浸漬した後、凍結乾燥するフリーズドライ野菜の製造方法が報告されており、糖液として、食用油脂およびこれの乳化剤、または食用油脂をあらかじめ乳化した乳化油脂を混入したものを用いることにより、凍結乾燥後の製品のくっつきを少なくでき、ほぐしによる砕片化を防止でき、歩留りを大幅に向上させることができることが記載されている。
【0006】
特許文献2では、食用植物の葉及び/又は茎を発色剤と被膜形成能を持つ多糖類及び/又は蛋白質を含有した熱水溶液又は熱水懸濁液に浸漬、熱処理、乾燥固化させることによって、葉及び/又は茎等の縮みやカールの現象を発生させることなく、自然のままの形態の鮮緑色及び香気を保持した食用乾燥植物が得られたことが記載されている。
【0007】
特許文献3では、水飴、増粘剤、水及び粉砕糖を、製品全体重量に対して重量比(%)で10~60:0.02~0.6:3~10:30~80の割り合いで配合することを特徴とする食品用接着剤が開示されており、1、接着性が高いこと、2.短時間で乾燥すること、3.切れが良いことなどの接着剤としての緒特性を充分満足できる食品用接着剤が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-123100
【特許文献2】特開昭62-232330
【特許文献3】特開平1-101849
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、形状及び色沢が良好で、且つ、保形性及び結着性に優れた乾燥農作物薄状切片及びそれを含む造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、水溶性増粘多糖類を含有し、特定の範囲の粘度を有する粘稠液を農作物薄状切片に付着させてから凍結乾燥することによって、乾燥前の形状及び色沢を保持し、且つ、保形性及び結着性に優れた乾燥農作物薄状切片及びそれを含む造形物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
〔1〕下記工程1~3を含み、下記条件i~iiiを満たす、乾燥農作物薄状切片の製造方法。
工程1:農作物薄状切片を準備する工程
工程2:農作物薄状切片に粘稠液を付着させる工程
条件i:25℃で測定される前記粘稠液の粘度が、30~7000cpである
条件ii:前記粘稠液が、水溶性増粘多糖類を含有する
条件iii:前記粘調液が、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0~22質量%の量で含有する
工程3:粘稠液を付着させた農作物薄状切片を凍結乾燥する工程
〔2〕工程1における農作物薄状切片の厚さが、0.8~9mmである、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕工程1における農作物薄状切片が、平面的に成形された切片である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕工程2と工程3の間に、工程2で得られた粘稠液を付着させた農作物薄状切片の1片以上を立体的に成形する工程を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕前記水溶性増粘多糖類が、プルラン及び/又はグルコマンナンである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕前記粘稠液が、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0質量%を超え22質量%以下の量で含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕前記二糖類が、ショ糖、トレハロース、イソマルツロースからなる群から選択される1つ以上である、前記〔6〕に記載の方法。
〔8〕前記糖アルコールが、還元イソマルツロース及び還元水飴からなる群から選択される1つ以上である、前記〔6〕に記載の方法。
〔9〕25℃で測定される粘度が30~7000cpであり、水溶性増粘多糖類を含有し、かつ、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0~22質量%の量で含む、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法に使用するための粘稠液。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、輸送中の振動や、多少の高さからの落下等の衝撃を受けても、剥がれや損壊が起こり難く、常温保管可能な乾燥農作物薄状切片を提供することができる。そのような乾燥農作物薄状切片により、花様、花びら様、植物葉様、動物様、虫様、文字様、シンボルマーク様、容器様等の平面的又は立体的な造形物を得ることができる。また、本発明によれば、色沢及び/又は形状も良好な造形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下記工程1~3を含み、下記条件i~iiiを満たす、乾燥農作物薄状切片の製造方法に関する。
工程1:農作物薄状切片を準備する工程
工程2:農作物薄状切片に粘稠液を付着させる工程
条件i:25℃で測定される前記粘稠液の粘度が、30~7000cpである
条件ii:前記粘稠液が、水溶性増粘多糖類を含有する
条件iii:前記粘調液が、二糖類、糖アルコール及びDE値10以下のデキストリンからなる群から選択される1つ以上を0~22質量%の量で含有する
工程3:粘稠液を付着させた農作物薄状切片を凍結乾燥する工程
【0014】
(1)工程1:農作物薄状切片を準備する工程
(1-1)農作物
本発明において用いる「農作物」は、一般に栽培されている農作物であれば何れも適用することができる(ただし、米穀、麦類及び雑穀は除く(日本標準商品分類(平成2年[1990年]6月改定)に基づく))。そのような農作物としては、根菜類(にんじん・かぶ・大根・ビーツ・れんこん・ごぼう・さといも等)、葉茎菜類(はくさい・キャベツ・ほうれんそう・レタス・ねぎ・たまねぎ・こまつな・ちんげんさい・ふき・みつば・しゅんぎく・みずな・セルリー・アスパラガス・カリフラワー・ブロッコリー・ケール等)、果菜類(きゅうり、なす、トマト、ピーマン、かぼちゃ、スイートコーン、さやいんげん、さやえんどう、グリーンピース、そらまめ、えだまめ、おくら等)、果実的野菜(いちご・メロン等)、香辛野菜及びつまもの類(わさび・しょうが・しそ・かいわれだいこん・みょうが・クレソン・パセリ等)、柑橘類(オレンジ・レモン・みかん・グレープフルーツ等)、仁果類(りんご・日本なし・西洋なし・びわ・柿等)、核果類(もも・うめ・あんず等)、しょう果類(ぶどう・いちじく等)、穀果類(くり・銀杏等)、熱帯性及び亜熱帯性果実(バナナ・キウイフルーツ・マンゴー・アボカド・パインアップル等)などが挙げられる(日本標準商品分類(平成2年[1990年]6月改定)に基づく)。好ましくは、ビーツ、ニンジン、ダイコン、カブ、ケール、いちご、メロン、きゅうり、トマト、レモン、オレンジ、りんご、洋なし、もも、ブドウ、キウイフルーツ、パパイヤ、マンゴー、パインアップル、バナナ、アボカドからなる群から選択される1以上である。前記農作物を使用すれば、乾燥後形状、乾燥後色沢、保形性及び結着性が良好な乾燥農作物薄状切片を得ることができる。
【0015】
(1-2)農作物薄状切片を準備する工程
農作物薄状切片の厚さは、好ましくは0.8~9mmであり、乾燥後形状が良好である観点から2~5mmがより好ましい。厚さが0.8mm以上であれば、乾燥後割れが生じにくく、9mm以下であれば、立体的に成形しやすく、所望の形状の造形物を得るのが容易である。
【0016】
工程1で準備する農作物薄状切片は、平面的に成形されていてもよい。例えば、農作物をカットやスライスして得た農作物薄状切片を円形や四角形、星形等の適当な形状に切り出し、あるいは適当な形状の抜型を用いて型抜きすることによって、平面的に成形された農作物薄状切片を準備してもよい。葉茎菜類のように薄い農作物の場合には、農作物から直接適当な形状に切り出し、あるいは適当な形状の抜型を用いて型抜きして、平面的に成形された農作物薄状切片を得てもよい。薄状切片外側だけでなく内側を抜型でくりぬいて、例えば蛇の目のような造形性を加えてもよく、大きな薄状切片面に目的の文字や模様やパターンの抜型や切り込みをしてもよい。あるいは、9mm超の厚さの農作物を特定形状の断面を有するように包丁等の刃物で形状を整えてからカット又はスライスして、平面的に成形された農作物薄状切片を準備してもよい。成形する形状としては、花様、花びら様、植物葉様、動物様、虫様、文字様、シンボルマーク様等が挙げられる。花びら様が好ましい。
【0017】
本発明の乾燥農作物薄状切片の製造方法は、農作物薄状切片を準備する工程を含む。農作物薄状切片を準備する工程において、必要に応じて、農作物をトリミングしてもよい。本発明においてトリミングとは非可食部の全部または一部を取り除くことである。皮をむいたりへたをとるなどして非可食部を取り除き、また害虫などによる食害跡を切り落とすことができればよく、包丁類などを用いてトリミングすればよい。
【0018】
農作物薄状切片を得る方法は特に限定されるものではない。例えば、ケールや小松菜、キャベツ、シソ等の葉茎菜類であれば、包丁等の刃物を用いてカットすることにより農作物薄状切片を得ることができる。葉茎菜類を除く根菜類や果菜類、柑橘類等であれば、包丁等の刃物や手動スライサーを用いて人的にスライスしてもよく、各種の電動スライサーを用いてもよい。
【0019】
(2)工程2:農作物薄状切片に粘稠液を付着させる工程
(2―1)粘稠液
(2-1-1)粘度
粘稠液の粘度は、25℃で測定したときに30~7000cp(mPa・s)であり、好ましくは50~5000cp(mPa・s)であり、より好ましくは300~4000cpである。このような範囲であれば乾燥前と乾燥後の形状や色沢の差が少なく、かつ乾燥後の保形性や結着性に優れた乾燥物を得ることができる。特に、7000cp以下であれば、乾燥後収縮による形状変化を十分に抑えることができる。具体的な粘度の測定方法としては、例えば、JISの300mLビーカにおいて、測定域に応じて適宜選択した各種ローターを装着したB型粘度計(例えばリオンテック株式会社製のビスコテスターVT―06)を用い、粘稠液温度25℃でローター回転開始30秒後に測定すればよい。上記ローターとしては、300~15000cp(mPa・s)の測定域に適した1号ローター、10000~400000cp(mPa・s)の測定域に適した2号ローター、30~1300cp(mPa・s)の測定域に適した3号ローター等を使用することができる。ローターの回転速度は適宜調整でき、例えば、50~75rpmとしてもよい。
【0020】
(2-1-2)水溶性増粘多糖類
粘稠液は、水溶性増粘多糖類を含有する。水溶性増粘多糖類とは、グルコースやマンノース等の単糖がα1-4結合やα1-6結合、β1-3結合、β1-4結合等のグリコシド結合(エーテル結合)により直鎖状並びに分枝状に長くつながって構成されたもののうち、水に溶解すると粘性を示す水溶性の高分子化合物である。そのような水溶性増粘多糖類として、例えばプルラン、グルコマンナン、グアーガム、ローカストガム、キサンタンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、ペクチン、アラビアガム、大豆多糖類などが挙げられ、これらの1種以上であればよい。好ましくはプルラン及び/又はグルコマンナンである。このような水溶性増粘多糖類を使用することにより、乾燥後に良好な形状、色沢、保形性、結着性を有する農作物薄状切片を得ることができる。粘稠液における水溶性増粘多糖類の濃度は、使用する水溶性増粘多糖類の種類に応じて、上記粘度を満たす範囲で適宜調節すればよい。例えば、プルランの場合には25質量%以下、22.5質量%以下、20質量%以下、又は17.5質量%以下であってもよく、1質量%以上、2.5質量%以上、5質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。例えば、グルコマンナンの場合には、1質量%以下、0.8質量%以下、0.75質量%以下、又は0.7質量%以下であってもよく、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0021】
(2-1-3)粘稠液の付加的成分
前記粘稠液は、二糖類、糖アルコール及びデキストリンからなる群から選択される1つ以上を任意に含んでいてもよい。すなわち、粘稠液は、二糖類、糖アルコール及びデキストリンを含んでいなくてもよく、その場合の二糖類、糖アルコール及びデキストリンからなる群から選択される1つ以上の含有量は、0質量%である。一方、粘稠液が二糖類、糖アルコール及び/又はデキストリンを含む場合には、その含有量は22質量%以下であり、21質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。粘稠液が二糖類、糖アルコール及び/又はデキストリンを含む場合の含有量の下限としては、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。前記範囲内であれば、乾燥中の農作物薄状切片の変形を防ぎ、乾燥農作物薄状切片に衝撃が加わった際の割れや崩れ、ひいては粉砕を防止でき、良好に形状を維持することができる(保形性が良好になる)。特に、0質量%を超え22質量%以下の含有量では、保形性(粉砕率%)が良好である。
【0022】
(2-1-3-1)二糖類
二糖類とは、2つの単糖がα1-4,α1-6、β1-4、α1-β2等のグリコシド結合を形成して1分子となった糖のことである。二糖類としては、同じ単糖または異なる単糖の組合せにより構成されてもよく、本発明で用いる二糖類は、食用に使用されているものであれば、特に限定されないが、例えばショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、イソマルツロース等が挙げられる。好ましくはショ糖、トレハロース、イソマルツロースである。二糖類を適量加えると、更に乾燥後の形状及び保形性に良い効果が得られる。
【0023】
(2-1-3-2)糖アルコール
糖アルコールとは、アルドース及びケトースの還元基が還元されて生成する糖質である。糖アルコールとしては、単糖が還元されたソルビトール、エリスリトール、キシリトール;二糖が還元された還元イソマルツロース、ラクチトール、パラチノース、マルチトール;水飴が還元された還元水飴等が挙げられる。
【0024】
還元水飴とは、デンプンを酸や酵素等を用いて加水分解して得られたブドウ糖や水飴を水素添加して製造するのが一般的であり、加水分解の程度を示すDE(Dextrose equivalent)値としてDE55~80程度の高糖化水飴に分解し水素添加したものを高糖化還元水飴、DE41~54の中糖化水飴に分解し水素添加したものを中糖化還元水飴、DE40以下の低糖化水飴に分解し水素添加したものを低糖化還元水飴と呼ぶことが多い。
【0025】
本発明で用いる糖アルコールは、食用に使用されるものであれば何れも使用することができ、好ましくは、還元イソマルツロース、還元水飴である。糖アルコールを適量加えると、更に、乾燥後の形状及び保形性に良い効果が得られる。
【0026】
(2-1-3-3)デキストリン
デキストリンとは、デンプンを酸、酵素等で加水分解する際に生じる炭水化物の総称であり、一般的に、デキストリン(DE値:10以下)、マルトデキストリン(DE値:10~20程度)、水飴(DE値:20以上)等に分類され、本発明ではデキストリン(DE値:10以下)が含まれ、市販されているものとしてはパインデックス#100(松谷化学株式会社製)等が挙げられる。
【0027】
(2-1-3-4)その他の成分
作製する農作物薄状切片の用途や求められる性状によって、調味料(砂糖、塩、醤油、みりん、ソース、ケチャップ、味噌、出汁、酒など)、酸味料(クエン酸、乳酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸など)、香料、香辛料、色素、金箔や銀箔のような光沢を目的とする素材を粘稠液に添加することもできる。
【0028】
(2―2)粘稠液を付着させる工程
本発明の乾燥農作物薄状切片の製造方法は、農作物薄状切片に粘稠液を付着させる工程を含む。粘稠液を付着させる方法は、切片に粘稠液が満遍なく付着すれば何れの方法でもよく、例えば切片を粘稠液に浸漬する方法、切片に粘稠液を霧吹きで吹きかける方法、切片に刷毛などで粘稠液を塗布する方法などがある。浸漬時間は特に特定はしないが、例えば1~10分、好ましくは3~8分であってもよく、長時間浸漬させると農作物薄状切片より色素が溶出してしまう場合もあるので、農作物ごとに時間調整をする。
【0029】
(3)工程3:粘稠液を付着させた農作物薄状切片を凍結乾燥する工程
本発明の乾燥農作物薄状切片の製造方法は、粘稠液を付着させた農作物薄状切片を凍結乾燥する工程を含む。凍結乾燥とは、水分を含む農作物を低温(通常-20℃以下)で凍結させ、凍結したまま真空状態において水分を昇華させ、乾燥させる方法である。凍結乾燥の手段としては、当業者が通常使用するいずれの真空凍結乾燥機を使用してもよく、また、当業者が通常使用するいずれの凍結乾燥条件を採用してもよい。例えば、凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製 型式RLEIII-103型)を用いて、80℃、60℃、40℃棚温度降温プログラム、10Pa、16時間の条件で実施することができる。このような凍結乾燥の条件は、凍結乾燥する対象物及びその形状や量により適宜調節すればよい。
【0030】
(4)粘稠液を付着させた農作物薄状切片を平面的に成形する工程
本発明の乾燥農作物薄状切片の製造方法は、工程1ではなく、又は工程1に加えて、工程2と工程3の間に、農作物薄状切片を平面的に成形する工程を含んでもよい。例えば、工程1では平面的な成形をしていない農作物薄状切片を準備し、粘稠液を付着させた後、凍結乾燥する前に、農作物薄状切片を平面的に成形してもよい。平面的な成形は、工程1で述べたのと同様の方法で行うことができる。
【0031】
(5)粘稠液を付着させた農作物薄状切片の1片以上を立体的に成形する工程
本発明の乾燥農作物薄状切片の製造方法において、工程2と工程3の間に、粘稠液を付着させた農作物薄状切片の1片以上を立体的に成形してもよい。例えば、数枚の薄状切片を組み合わせて皿のような容器状に成形してもよい。また、同じ種類の農作物の薄状切片の2つ以上を組み合わせて、例えば動物を模した、それぞれ胴体、前足後ろ足、頭部などの形状の薄状切片を組み合わせて動物の立体的な造形物を作ってもよい。異なる種類の農作物薄状切片を組み合わせて立体的に成形してもよい。くらかけ切りしたV字状薄状切片を前後に並べて木の葉のように見せる方法もある。菊花大根のように薄く40cm程度長く作った薄状切片を手前に輪ができるよう、半分に折りたたみ、向こう側5mmを残し手前側を斜めに切り込み等間隔で入れて、向こう側を軸に巻き合わせて開いて花様にしてもよい。薄状切片の上下面を薄く削ったり、切り込みを入れたりして花びらの丸みを表すような立体的な表現をしてもよい。松葉や折れ松葉様の形状にするため、薄状切片に一端より切り込みをいれて開いたり、丸めたりなどの造形性を加えてもよい。くりぬいたものや切り込みを入れた薄状切片を開いたりひねりを加えて筒状に丸めたりしてもよい。扇切りのように薄状切片の一端を縦に5分割の切り込みを入れ、切り分けた両端から2つ目を内側に折り込んで開く方法もある。
【0032】
成形する形状としては、花様、花びら様、植物葉様、動物様、虫様、文字様、シンボルマーク様、容器様等が挙げられる。花びら様が好ましい。複数枚の半円状薄状切片をずらしながら巻き込み立体的な花様に見えるよう造形を加えてもよい。見栄え良いように成形できれば薄状切片の枚数は問わない。また、目的の造形性を保つことができれば薄状切片の大きさにも限定はない。成形後の花様造形物の直径についても大きさを問わず、例えば3cm~10cmの範囲でも成形ができる。例えば、直径5cm、厚さ2mmの6枚の半円状薄状切片と、直径7cm、厚さ2mmの6枚の半円状薄状切片とを、直線端を揃えて横に5mmずらしながら12枚並べ、直線端を軸に巻き込み、最終的に直径6cmの花様に見えるように成形することができる。造形物を固定するためにカップに入れて凍結乾燥する。カップは上面直径6cm、下面直径3cm、高さ6cmのものを使用することができる。
【実施例0033】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
<製造例1 粘稠液の調製>
原材料(プルラン5質量部、水95質量部;合計100質量部)を鍋に入れ、攪拌しながら90℃になるまで加熱し溶解させた後、25℃まで降温させ粘稠液を得た。
粘稠液の粘度は、No.1または2、3ローターを装着したビスコテスターVT-06(リオンテック株式会社)を用い、粘稠液温度25℃においてローターを62.5rpmで30秒間回転させた後、測定した。
No.1ローターは、300~15000cp(mPa・s)の粘度の時に使用した。
No.2ローターは、10000~400000cp(mPa・s)粘度の時に使用した。
No.3ローターは30~1300cp(mPa・s)粘度の時に使用した。
【0035】
<製造例2 花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物の製造>
(1)薄状切片を準備する工程
根部の直径が約7cmのビーツ1玉を選定し、水洗いで泥や汚れを落とし、茎の付け根を切り落とし、皮むきを行った。トリミングしたビーツを半球にカットし、ロボクープスライサー(株式会社エフ・エム・アイ)にて厚さ2mmにスライスして薄状切片を得た。抜型を用い、得られた薄状切片を直径5cm、厚さ2mmの半円状薄状切片6枚(小型)と、直径7cm、厚さ2mmの半円状薄状切片6枚(大型)とを型抜きし、片側の直径端部を谷切りして略花びら様形状のビーツ薄状切片を得た。得られた花びら様形状のビーツ薄状切片を1分30秒ボイルしてブランチングし、ザルに上げて湯切りし、30秒間水冷却、続けて1分間氷水冷却した後にザルで5分間水切りを実施した。
(2)粘稠液を付着させる工程
ブランチングが終了した薄状切片を、粘稠液に5分浸し、水切りバットにのせて余分な粘稠液を滴下させて除去した。
(3)立体的に成形する工程
粘稠液を付着させたビーツ薄状切片(小型:6枚、大型:6枚)を、直線端を揃えて横に5mmずらしながら12枚並べ、直線端を軸に巻き込み、最終的に花様に見えるように成形した。成形後カップに入れ、花様になるように調整した。この際、花様造形物の上面直径は6cmであった。カップは上面直径6cm、下面直径3cm、高さ6cmのものを使用した。
(4)凍結乾燥する工程
成形後の造形物をカップに入れた状態で、-20℃で18時間緩慢凍結した後、凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製 型式RLEIII-103型)に投入し、棚温度を80℃、60℃、40℃と降温しながら乾燥させるプログラムで、40℃で乾燥終点まで運転し、花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物を得た。なお、乾燥終点は棚温度と品温が一致したときとした。
【0036】
<評価方法1 薄状切片・薄状切片造形物の官能評価>
評価基準表1に従い、薄状切片造形物の乾燥後形状、乾燥後色沢、について、10名の熟練パネラーにより評価し、評価点の平均点と標準偏差(SD)を求めた。乾燥後形状については、乾燥前形状を5点として、乾燥後の形状変化が少ないほど5点に近く、変化が大きいほど1点に近くなるよう評価した。乾燥後色沢については、粘稠液を付着させる工程前(コーティング前)の素材を3点として、コーティング前より表面につやが加わり良好になるほど5点に近く、コーティング前より表面につやがなくなるほど1点に近くなるように評価した。2項目ともに、平均点3.0以上が良好な状態とした。
【0037】
評価基準表1
【0038】
<評価方法2 保形性(粉砕率)>
乾燥した薄状切片花様造形物1個または薄状切片5gを13号袋(260mm×380mm)に入れ、袋内に空気が満たされて膨らんだ状態で密封した。これを水平軸に取り付けた縦型回転のローテ―タ―に取り付けて、120rpm30秒回転させた後、袋を開封して内容物を目開き5mm×5mmの篩で振るい、篩上に残ったもの(メッシュオン)と篩を通過したもの(メッシュスルー)とに分けて重量を測定した。粉砕率は下記の式により算出し、粉砕率が10%以下のときは良好(〇)、10%を超えたときは不良(×)と判定した。
粉砕率(%)=メッシュスルー/(メッシュオン+メッシュスルー)×100
<評価方法3 結着性>
保形性(粉砕率)の測定で篩上に残った薄状切片花様造形物について、目視で結着性を確認し、切片の剥がれがない(〇)、切片の剥がれが一部ある(△)、切片の剥がれが多い(×)と判定した。
【0039】
試験例A 粘稠液の粘度の検討(水溶性増粘多糖類濃度の検討)
製造例1に従い、プルラン又はグルコマンナンと水とから粘稠液を調製した。プルラン又はグルコマンナンは表A―1又は表A―2記載の質量%とし、水との合計が100質量部となるように水量を調整した。次に製造例2に従って花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物を作製し、評価方法1~3に従って評価した。
【0040】
表A-1の実施例1~6では、プルラン濃度が高くなるほど保形性は向上し、乾燥後色沢が良好であった。乾燥後形状については、実施例3~6にかけて粘稠液粘度が高くなるに従って収縮する傾向にあったが、いずれも乾燥前の外観を維持しており許容し得るものであった。比較例3では、乾燥後色沢、保形性及び結着性はいずれも良好であったものの、乾燥後形状については収縮して変形が生じ、乾燥前の外観を維持していなかった。これは、プルラン濃度の上昇に伴い、農作物素材との浸透圧差が生じ、脱水が生じたためであると考えられた。粘稠液ではなく水を用いた比較例1や、粘度が30cp未満の粘稠液を用いた比較例2では、乾燥後形状は良好であったが、保形性が乏しく、乾燥後色沢の評価も実施例と比較して低く、結着性についても、比較例1では花様造形物の外側の薄状切片にも内側の薄状切片にも剥がれがあり、比較例2でも外側の薄状切片に剥がれがみられた。実施例1~6では外側にも内側にも薄状切片の剥がれはなく、結着性は良好であった。
【0041】
表A-2のグルコマンナンにおいてもプルランと同様の結果になった。
【0042】
表A-1

*プルラン:プルラン(株式会社林原)
【0043】
表A-2

*グルコマンナン:グルコマンナンRS(清水化学株式会社)
【0044】
試験例B 粘稠液へ添加する糖類等の検討
原材料を表Bに記載の糖類または糖アルコール10質量部とプルラン5質量部、水85質量部に置き換えた以外は、製造例1に従い、粘稠液を調製した。次に、製造例2に従って花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物を作製し、評価方法1~3に従って評価した。
【0045】
二糖類又は糖アルコールを用いた実施例12~17では、同じ量のプルランを含むが二糖類及び糖アルコールを含まない実施例1に対して、形状はほぼ同等であったが、何れも色沢が良好になり、実施例12~17では粉砕率が低下して保形性にも改善が認められた。中でも実施例13(トレハロース)、実施例16(低糖化還元水飴)及び実施例17(高糖化還元水飴)における保形性の改善は特に優れていた。デキストリンを用いた実施例18では、色沢と保形性は実施例1と同等であったが、乾燥後の形状が特に良好に改善された。
【0046】
表B. 二糖類・糖アルコール・デキストリンの影響

*1 イソマルツロース:パラチノース(三井製糖)
*2 還元イソマルツロース:パラチニット(三井製糖)
*3 低糖化還元水飴:エスイー100(物産フードサイエンス)
*4 高糖化還元水飴:エスイー600(物産フードサイエンス)
*5 パインデックス#100(松谷化学) DE値2~5
【0047】
試験例C 粘稠液に含まれる糖類の濃度の検討
原材料において表C-1とC-2に記載の量の二糖類を水と置き換えて合計100質量部(プルラン5質量部含む)になるようにした以外は、製造例1に従い、粘稠液を調製した。次に、製造例2に従って花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物を作製し、評価方法1~3に従って評価した。
【0048】
二糖類を含む実施例19~24では、同じ量のプルランを含むが二糖類を含まない実施例1と比較して、乾燥後形状、乾燥後色沢及び保形性は良好であった。一方、比較例6及び7では、二糖類の濃度が25質量%であったため、乾燥後形状がやや不良であった。これは、糖濃度上昇に伴い、農作物素材との浸透圧差が生じ、脱水により収縮変形したためと推測される。
【0049】
表C-1. 糖類の濃度の影響
【0050】
表C-2
【0051】
試験例D 水溶性増粘多糖類の組合せの検討
原材料としてトレハロース5質量部、プルラン10質量部、グルコマンナン0.5質量部と水84.5質量部を用いた以外は、製造例1に従い、粘稠液を調製した。次に、製造例2に従って花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物を作製し、評価方法1~3に従って評価した。
【0052】
水溶性増粘多糖類としてプルランとグルコマンナンを併用した結果、乾燥後形状、乾燥後色沢、保形性のいずれも、とても良好であった。
【0053】
表D. プルランとグルコマンナンの併用による影響
【0054】
<製造例3 乾燥ビーツ薄状切片の製造>
(1)薄状切片を準備する工程
根部直径約7cmのビーツ1玉を選定し、水洗いで泥や汚れを落とし、茎の付け根を切り落とし、皮むきを行った。トリミングしたビーツを半球にカットし、ロボクープスライサー(株式会社エフ・エム・アイ)にてスライスし、厚さ2mmの半円状ビーツ薄状切片を得た。得られたビーツ薄状切片を1分30秒ボイルしてブランチングし、ザルに上げて湯切りし、30秒間水冷却、続けて1分間氷水冷却した後にザルで5分間水切りを実施した。
(2)粘稠液を付着させる工程
ブランチングが終了した半円状ビーツ薄状切片を粘稠液に5分間浸し、水切りバットにのせて余分な粘稠液を滴下させて除去した。
(3)凍結乾燥する工程
粘稠液を付着させた半円状ビーツ薄状切片が重ならないように金属製浅型バットに並べ、-20℃で12時間緩慢凍結した後、凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製 型式RLEIII-103型)に投入し、棚温度を80℃、60℃、40℃と降温しながら乾燥させるプログラムで、40℃で乾燥終点まで運転し、乾燥ビーツ薄状切片を得た。なお、乾燥終点は棚温度と品温が一致したときとした。
【0055】
試験例E 農作物薄状切片の厚みによる比較
原材料としてトレハロース5質量部とプルラン7質量部、キサンタンガム0.2質量部、クエン酸0.4質量部、水87.4質量部を用いた以外は、製造例1に従い、粘稠液を調製した。このとき粘稠液の粘度は240cpであった。薄状切片を準備する工程(1)においてスライス厚を1、2、4、8又は10mmとした以外は製造例2または3に従い、花様形状乾燥ビーツ薄状切片造形物または半円状の乾燥ビーツ薄状切片を作製し、評価方法1及び2に従って評価した。
【0056】
表E-1 花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物

表E-2 半円状の乾燥ビーツ薄状切片

花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物において、1~8mm厚においては問題なく造形物を得ることができたが、10mm厚では、立体的に成形する工程(3)において薄状切片を巻き込むことができず、製造例2の方法では立体的に成形することはできなかったため評価を行わなかった。半円状の乾燥ビーツ薄状切片において、1~10mm厚では半円状の外観を維持しており、問題なく薄状切片を得ることができた。この結果から、本発明の方法により厚さに関わらず良好な薄状切片を得ることができるが、立体造形物を製造する際には、意図する立体造形物の形状に応じて、適宜薄状切片の厚さを調整するのが好ましいことがわかった。
【0057】
試験例F 乾燥ビーツ薄状切片における粘稠液の粘度の検討
原材料をトレハロース5質量部と表E記載の量のプルランと水とを合計100質量部になるように置き換えた以外は製造例1に従い、粘稠液を調製した。製造例3に従って乾燥ビーツ薄状切片を作製し、評価方法1及び2に従って評価した。
【0058】
実施例35~39では、粘稠液の粘度(プルランの添加量)が増加するに従い、粉砕率が低く、保形性が向上していることが確認でき、花様形状の造形物とした際と同様の傾向であった。なお、花様形状の乾燥ビーツ薄状切片造形物(表A-1)ではプルラン濃度10質量%以上で粉砕率は0%になったが、シート状の乾燥ビーズ薄状切片では2%程度の粉砕率であった。これは、シート状乾燥ビーツ薄状切片の強度には問題ないが、ローテーターでの回転中にシート状乾燥ビーツ薄状切片同士の接触頻度が高くなったためであると考えられた。
【0059】
表F. プルランによる農産物薄状切片の保形性について
【0060】
試験例G 乾燥農作物薄状切片における農作物の種類の検討
原材料をトレハロース5質量部とプルラン7質量部、キサンタンガム0.2質量部、水87.8質量部に置き換えた以外は、製造例1に従い、粘稠液を調製した。このとき粘稠液の粘度は240cpであった。製造例3に従って表F記載の農産物薄状切片を作製し、評価方法1及び2に従って評価した。ブランチングは農作物の種別に応じで実施し、実施の有無を表F中に記載した。
【0061】
その結果、実施例40~60では、乾燥後形状、乾燥後色沢及び保形性は、いずれも良好であった。
【0062】
表G
【0063】
<製造例4 花様形状の乾燥トマト薄状切片造形物(ブランチングを行わない例)>
(1)薄状切片を準備する工程
胴回り約7cmのトマト果実1玉を選定し、水洗いで泥などの汚れを落とし、トリミング処理を行った。トリミングしたトマトを包丁やスライサーを用いて厚さ5mmの薄状切片を10枚得た。スライス後は余分な水分をキッチンペーパーで取り除いた。
(2)粘稠液を付着させる工程
余分な水分を除いた薄状切片を、粘稠液に5分浸して、表面に粘稠液を付着させた。
(3)立体的に成形する工程
粘稠液を付着させた薄状切片10枚を並べた後、巻き込みながらカップに入れ、花びら様になるように成形した。この際、花様造形物の上面直径は6cmであった。カップは上面直径6cm、下面直径3cm、高さ6cmのものを使用した。
(4)凍結乾燥する工程
成形後の造形物をカップに入れた状態で、-20℃で18時間緩慢凍結した。凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製 型式RLEIII-103型)に投入し、棚温度を80℃、60℃、40℃と降温しながら乾燥させるプログラムで、40℃で乾燥終点まで運転した。乾燥終点は棚温度と品温が一致したときである。
【0064】
試験例H トマトを用いた花様形状の乾燥トマト薄状切片造形物の検討
製造例4において、原材料をトレハロース5質量部とプルラン7質量部、キサンタンガム0.2質量部、水87.8質量部に置き換えた以外は製造例1に従って調製した粘稠液(粘度240cp)を用いて、花様形状の乾燥トマト薄状切片造形物を得た。なお、トマト薄状切片においては平面的に成形する工程を行っておらず、トマト薄状切片の平面視形状はトリミングしたトマトの形状に依存して大きさが異なるため、大きさのバランスを考慮して花様形状になるように立体的に配置した。
【0065】
その結果、乾燥後形状、乾燥後色沢は実施例48と同等であり、結着性も切片の剥がれがなく(〇)、粉砕率は2.6%であった。このことから、イチゴやメロン等の果菜類や果実的野菜、その他各種農作物であっても立体的に成形した乾燥薄状切片造形物を得られる可能性があることが分った。