(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062746
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】平版印刷版原版、平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/14 20060101AFI20240501BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20240501BHJP
B41M 1/06 20060101ALI20240501BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20240501BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20240501BHJP
G03F 7/029 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B41N1/14
B41C1/10
B41M1/06
G03F7/00 503
G03F7/004 505
G03F7/029
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170798
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 彬
【テーマコード(参考)】
2H084
2H113
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084CC05
2H113AA01
2H113AA03
2H113BA05
2H113BB02
2H113BB22
2H113BC02
2H114AA04
2H114AA23
2H114AA27
2H114AA28
2H114BA10
2H114DA04
2H114DA47
2H114DA48
2H114DA49
2H114DA50
2H114DA52
2H114DA74
2H114DA75
2H114EA02
2H114GA03
2H114GA05
2H114GA06
2H114GA08
2H114GA09
2H196AA07
2H196BA05
2H196EA04
2H196EA23
2H196GA60
2H225AC21
2H225AC31
2H225AC37
2H225AC80
2H225AF87P
2H225AM32P
2H225AM46N
2H225AM52P
2H225AM53N
2H225AM57P
2H225AM86P
2H225AM91P
2H225AN38P
2H225AN47P
2H225AN66P
2H225AN80P
2H225AN92N
2H225AN92P
2H225AP01N
2H225AP11P
2H225AP17N
2H225BA01P
2H225BA12P
2H225BA18P
2H225BA31N
2H225CA04
2H225CB01
2H225CC01
2H225CC13
2H225CD09
(57)【要約】
【課題】結晶析出の抑制性に優れる平版印刷版原版の提供、並びに、上記平版印刷版原版を用いた平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法の提供。
【解決手段】支持体、及び、支持体上に画像記録層を有し、上記画像記録層が、非オニウム系重合開始剤、ボレート化合物、赤外線吸収剤、及び、ShapeIndexが上記赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンからなるオニウム塩である化合物Aを含む平版印刷版原版。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、及び、支持体上に画像記録層を有し、
前記画像記録層が、非オニウム系重合開始剤、ボレート化合物、赤外線吸収剤、及び、ShapeIndexが前記赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンを有するオニウム塩である化合物Aを含む
平版印刷版原版。
【請求項2】
前記化合物Aにおける前記カチオンが、下記式(A)で表されるカチオンである請求項1に記載の平版印刷版原版。
【化1】
式(A)中、ZはP又はNを表し、R
A1~R
A4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【請求項3】
前記化合物Aにおける前記カチオンが、下記式(2)で表されるカチオンである請求項1に記載の平版印刷版原版。
【化2】
式(2)中、R
21はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、R
22は水素原子又はアルキル基を表す。
【請求項4】
前記化合物Aにおける前記カチオンが、下記式(1)で表されるカチオンである請求項1に記載の平版印刷版原版。
【化3】
式(1)中、ZはP又はNを表し、Rはアルキル基を表し、Arはそれぞれ独立に、アリール基を表す。
【請求項5】
前記化合物Aにおける前記カチオンが、重合性基を有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記化合物Aにおける前記カチオンのclogPが、0以上10以下である請求項1~
請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記化合物Aにおけるアニオンが、有機酸の共役塩基である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記化合物Aにおけるアニオンが、R1SO3
-、R1SO2
-、R1R2PO2
-、R1PO3
2-、R1CO2
-、R1O-、R1S-、(R1SO2)2N-、及び、R1R2R3R4B-よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンである請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
なお、R1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【請求項9】
前記化合物Aにおける前記カチオンのモル含有量が、前記ボレート化合物におけるアニオンのモル含有量の0.2倍~4倍である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
前記非オニウム重合開始剤が、下記式(II)で表される化合物を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【化4】
式(II)中、Xはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、R
3はアリール基を表す。
【請求項11】
前記画像記録層上に、保護層を有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項12】
前記保護層が、熱及び/又は赤外線放射への曝露により、より強い電子供与体である基に変化する熱分解性基を含み、熱及び/又は赤外線放射への曝露により印刷画像を形成することができる第2の赤外線吸収剤を含む請求項11に記載の平版印刷版原版。
【請求項13】
前記第2の赤外線吸収剤が、式(VI)で表される化合物である請求項12に記載の平版印刷版原版。
【化5】
式(VI)中、Ar
1及びAr
2はそれぞれ独立に、任意に置換された芳香族炭化水素基又は任意に置換されたベンゼン環を有する芳香族炭化水素基を表し、W
1及びW
2はそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、NR
*を表し、R
*は任意に置換されたアルキル基、NH、又は-CM
10M
11基を表し、M
10及びM
11はそれぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基又は任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基を表し、M
1及びM
2はそれぞれ独立に、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、又は、M
1及びM
2が一緒になって任意に置換された環状構造を形成するのに必要な原子群を表し、M
3及びM
4はそれぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基を表し、M
5~M
8はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は任意に置換された脂肪族炭化水素基を表し、M
9は、赤外線又は熱への曝露によって誘発される化学反応によって、前記M
9よりも強い電子供与体である基に変換され、前記変換によって式(VI)で表される化合物の積分光吸収が波長350nmから700nmの間で増加する基であり、電気的に中性な化合物を得るために、任意に1つ又は複数の対イオンを有する。
【請求項14】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版を、画像様に露光する工程と、
印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去する工程と、を含む
平版印刷版の作製方法。
【請求項15】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版を、画像様に露光する工程と、
印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去し平版印刷版を作製する工程と、
得られた平版印刷版により印刷する工程と、を含む
平版印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平版印刷版原版、平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
また、地球環境への関心の高まりから、現像処理などの湿式処理に伴う廃液に関する環境課題がクローズアップされている。
上記の環境課題に対して、現像あるいは製版の簡易化、無処理化が指向されている。簡易な作製方法の一つとしては、「機上現像」と呼ばれる方法が行われている。すなわち、平版印刷版原版を露光後、従来の現像は行わず、そのまま印刷機に装着して、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法である。
本開示において、このような機上現像に用いることができる平版印刷版原版を、「機上現像型平版印刷版原版」という。
【0004】
従来の平版印刷版原版としては、例えば、特許文献1に記載されたものが挙げられる。
特許文献1には、支持体と、重合性化合物、特定構造を有する第1の赤外線吸収剤、及び光重合開始剤を含む光重合性層と、熱及び/又は赤外線放射への曝露により、より強い電子供与体である基に変化する熱分解性基を含み、熱及び/又は赤外線放射への曝露により印刷画像を形成することができる第2の赤外線吸収剤を含む保護層と、を有する平版印刷版原版が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、結晶析出の抑制性に優れる平版印刷版原版を提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記平版印刷版原版を用いた平版印刷版の作製方法、又は、平版印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 支持体、及び、支持体上に画像記録層を有し、
上記画像記録層が、非オニウム系重合開始剤、ボレート化合物、赤外線吸収剤、及び、ShapeIndexが上記赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンを有するオニウム塩である化合物Aを含む
平版印刷版原版。
<2> 上記化合物Aにおける上記カチオンが、下記式(A)で表されるカチオンである<1>に記載の平版印刷版原版。
【0008】
【0009】
式(A)中、ZはP又はNを表し、RA1~RA4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0010】
<3> 上記化合物Aにおける上記カチオンが、下記式(2)で表されるカチオンである<1>に記載の平版印刷版原版。
【0011】
【0012】
式(2)中、R21はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、R22は水素原子又はアルキル基を表す。
【0013】
<4> 上記化合物Aにおける上記カチオンが、下記式(1)で表されるカチオンである<1>に記載の平版印刷版原版。
【0014】
【0015】
式(1)中、ZはP又はNを表し、Rはアルキル基を表し、Arはそれぞれ独立に、アリール基を表す。
【0016】
<5> 上記化合物Aにおける上記カチオンが、重合性基を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0017】
<6> 上記化合物Aにおける上記カチオンのclogPが、0以上10以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0018】
<7> 上記化合物Aにおけるアニオンが、有機酸の共役塩基である<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<8> 上記化合物Aにおけるアニオンが、R1SO3
-、R1SO2
-、R1R2PO2
-、R1PO3
2-、R1CO2
-、R1O-、R1S-、(R1SO2)2N-、及び、R1R2R3R4B-よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンである<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
なお、R1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
<9> 上記化合物Aにおける上記カチオンのモル含有量が、上記ボレート化合物におけるアニオンのモル含有量の0.2倍~4倍である<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0019】
<10> 上記非オニウム重合開始剤が、下記式(II)で表される化合物を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0020】
【0021】
式(II)中、Xはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、R3はアリール基を表す。
【0022】
<11> 上記画像記録層上に、保護層を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
<12> 上記保護層が、熱及び/又は赤外線放射への曝露により、より強い電子供与体である基に変化する熱分解性基を含み、熱及び/又は赤外線放射への曝露により印刷画像を形成することができる第2の赤外線吸収剤を含む<11>に記載の平版印刷版原版。
【0023】
<13> 上記第2の赤外線吸収剤が、式(VI)で表される化合物である<12>に記載の平版印刷版原版。
【0024】
【0025】
式(VI)中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立に、任意に置換された芳香族炭化水素基又は任意に置換されたベンゼン環を有する芳香族炭化水素基を表し、W1及びW2はそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、NR*を表し、R*は任意に置換されたアルキル基、NH、又は-CM10M11基を表し、M10及びM11はそれぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基又は任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基を表し、M1及びM2はそれぞれ独立に、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、又は、M1及びM2が一緒になって任意に置換された環状構造を形成するのに必要な原子群を表し、M3及びM4はそれぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基を表し、M5~M8はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は任意に置換された脂肪族炭化水素基を表し、M9は、赤外線又は熱への曝露によって誘発される化学反応によって、上記M9よりも強い電子供与体である基に変換され、上記変換によって式(VI)で表される化合物の積分光吸収が波長350nmから700nmの間で増加する基であり、電気的に中性な化合物を得るために、任意に1つ又は複数の対イオンを有する。
【0026】
<14> <1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を、画像様に露光する工程と、
印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去する工程と、を含む
平版印刷版の作製方法。
【0027】
<15> <1>~<4>のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を、画像様に露光する工程と、
印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去し平版印刷版を作製する工程と、
得られた平版印刷版により印刷する工程と、を含む
平版印刷方法。
【発明の効果】
【0028】
本開示の一実施形態によれば、結晶析出の抑制性に優れる平版印刷版原版を提供することができる。
本開示の他の実施形態によれば、上記平版印刷版原版を用いた平版印刷版の作製方法、又は、平版印刷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法における電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【
図2】陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法における交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【
図3】陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法における機械的粗面化処理に用いられるブラシグレイニングの工程の概念を示す側面図である。
【
図4】陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法における陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限
値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
特に断りのない限り、各物性値の測定は、25℃において行うものとする。
特に限定しない限りにおいて、本開示において組成物中の各成分、又は、ポリマー中の各構成単位は、1種単独で含まれていてもよいし、2種以上を併用してもよいものとする。
更に、本開示において組成物中の各成分、又は、ポリマー中の各構成単位の量は、組成物中に各成分、又は、ポリマー中の各構成単位に該当する物質又は構成単位が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質、又は、ポリマー中に存在する該当する複数の各構成単位の合計量を意味する。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶媒THF(テトラヒドロフラン)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
本開示において、「平版印刷版原版」の用語は、平版印刷版原版だけでなく、捨て版原版を包含する。また、「平版印刷版」の用語は、平版印刷版原版を、必要により、露光、現像などの操作を経て作製された平版印刷版だけでなく、捨て版を包含する。捨て版原版の場合には、必ずしも、露光、現像の操作は必要ない。なお、捨て版とは、例えばカラーの新聞印刷において一部の紙面を単色又は2色で印刷を行う場合に、使用しない版胴に取り付けるための平版印刷版原版である。
本開示において、「耐刷性に優れる」とは、平版印刷版の印刷可能な枚数が多いことをいう。
以下、本開示を詳細に説明する。
【0031】
(平版印刷版原版)
本開示に係る平版印刷版原版は、支持体、及び、支持体上に画像記録層を有し、上記画像記録層が、非オニウム系重合開始剤、ボレート化合物、赤外線吸収剤、及び、ShapeIndexが上記赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンからなるオニウム塩である化合物Aを含む。
また、本開示に係る平版印刷版原版は、機上現像型平版印刷版原版として好適に用いられる。
【0032】
本発明者らが検討を行ったところ、画像形成層にボレート化合物と赤外線吸収剤とが含まれている平版印刷版原版では、ボレート化合物及び赤外線吸収剤とから生じる結晶の析出が見られる場合があることを見出した。
本開示に係る平版印刷版原版は、画像記録層が、非オニウム系重合開始剤、ボレート化合物、赤外線吸収剤、及び、ShapeIndexが赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンからなるオニウム塩である化合物Aを含む。化合物Aは、画像形成層にて併用されるボレート化合物と赤外線吸収剤との相互作用を弱めることができ、その結果、ボレート化合物と赤外線吸収剤とから生じる結晶析出を抑制することができるものと推測される。よって、本開示に係る平版印刷版原版は、結晶析出の抑制性に優れる。
【0033】
以下、本開示に係る平版印刷版原版における各構成要件の詳細について説明する。
【0034】
<画像記録層>
画像記録層は、非オニウム系重合開始剤、ボレート化合物、赤外線吸収剤、及び、ShapeIndexが上記赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンからなるオニウム塩である化合物Aを含む。
また、画像記録層は、ネガ型画像記録層であることが好ましく、水溶性又は水分散性のネガ型画像記録層であることがより好ましい。
本開示に係る平版印刷版原版は、機上現像性の観点から、画像記録層の未露光部が湿し水及び印刷インキの少なくともいずれかにより除去可能であることが好ましい。
【0035】
以下、画像記録層に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0036】
〔化合物A〕
画像記録層は、化合物Aを含む。化合物Aは、ShapeIndexが赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンからなるオニウム塩である。
本開示においては、赤外線吸収剤は、カチオンとアニオンとの塩であっても、ベタイン構造を有する化合物であってもよく、その両方を含め「カチオン部」という。
また、化合物Aは、ShapeIndexが赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるオニウムカチオンとアニオンとからなるオニウム塩である。つまり、本開示における赤外線吸収剤と化合物Aとは、赤外線吸収剤のカチオン部のShapeIndexを「SI」とし、化合物AのカチオンのShapeIndexを「SA」としたとき、その比(SA/SI)が2未満となる関係を満たす。
【0037】
更に、化合物Aは、重合開始能を有しない化合物であることが好ましい。
本開示におけるShapeIndexとは、分子形状係数(Molecular Shape Index)であり、下記方法により算出するものとする。
ShapeIndexは、DataWarrior(openmolecules.orgより提供されるオープンソースプログラム)のバージョン5.5.0を用いて算出する。
具体的には、分子中の水素原子以外の原子からなる二次元の分子グラフ構造について、最長のトポロジカル距離を持つ2つの原子を定める。
なお、上記2つの原子間を最短で結ぶ鎖の長さは,他のいずれの原子ペア間のそれよりも長くなる。
上記2つの原子間を最短で結ぶ鎖に含まれる原子の数を、分子に含まれる全原子の数で割った値をShapeIndexとする。
したがって、完全に直鎖状の化合物であれば、ShapeIndexは1.0であり、分子中の環や分岐が増加するとともに値は減少する。
【0038】
比(SA/SI)の値は、2.0未満であればよいが、1.8以下であることが好ましく、耐刷性の観点から、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。
【0039】
化合物AのカチオンのShapeIndexは、例えば、0.90以下が挙げられ、結晶析出の抑制の観点から、0.75未満であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.60以下であることがさらに好ましく、赤外線吸収剤のカチオン部のShapeIndex以下であることが特に好ましい。
化合物AのカチオンのShapeIndexの下限は、例えば、0.20以上が挙げられ、ボレート化合物のShapeIndexと近い観点から、0.3以上であることが好ましい。
つまり、化合物AのカチオンのShapeIndexは、上記比(SA/SI)の値を満たす観点、ボレート化合物のShapeIndexと近い観点から、0.20~0.90が好ましく、0.20~0.70がより好ましく、0.30~0.70がさらに好ましい。
【0040】
化合物AにおけるカチオンのclogPは、耐刷性及び機上現像性の観点から、-10以上20以下であることが好ましく、-5以上15以下であることがより好ましく、0以上10以下であることが更に好ましく、2以上8以下であることが特に好ましい。
【0041】
本開示におけるclogPは、下記方法により算出するものとする。
DataWarrior(openmolecules.orgより提供されるオープンソースプログラム)のバージョン5.5.0を用いて、n-オクタノールと水とのlog(Coctanol/Cwater)の間の分配係数の対数の計算値であるclogPを算出する。
【0042】
化合物Aとしては、ShapeIndexが赤外線吸収剤のカチオン部の2倍以下であるカチオンからなるオニウム塩であれば、特に制限はないが、結晶析出の抑制性の観点から、アンモニウム塩化合物、ホスホニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物、又は、スルホキソニウム塩化合物であることが好ましく、アンモニウム塩化合物、ホスホニウム塩化合物、又は、スルホニウム塩化合物であることがより好ましく、アンモニウム塩化合物、又は、ホスホニウム塩化合物であることが更に好ましく、ホスホニウム塩化合物であることが特に好ましい。
ホスホニウム塩化合物としては、結晶析出の抑制性の観点から、第四級ホスホニウム塩化合物であることが好ましく、モノアルキルトリアリールホスホニウム塩化合物であることがより好ましい。
アンモニウム塩化合物としては、結晶析出の抑制性の観点から、第四級アンモニウム塩化合物であることが好ましく、モノアルキルトリアリールアンモニウム塩化合物であることがより好ましい。
スルホニウム塩化合物としては、結晶析出の抑制性の観点から、第三級スルホニウム塩化合物であることが好ましく、モノアルキルジアリールスルホニウム塩化合物であることがより好ましい。
スルホキソニウム塩化合物としては、結晶析出の抑制性の観点から、トリアルキルスルホキソニウム塩化合物であることが好ましい。
また、化合物Aのカチオンの中心元素と、赤外線吸収剤のカチオン部の中心元素とは、異なる元素であることが好ましい。
【0043】
化合物Aが有するアニオンとしては、一価のアニオンであっても、二価以上の多価アニオンであってもよいが、結晶析出の抑制性の観点から、一価のアニオンであることが好ましい。
化合物Aが有するアニオンとしては、特に制限はないが、結晶析出の抑制性の観点から、ハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロフォスフェートアニオン、ベンゼンスルホネートアニオン、1-ナフタレンスルホネートアニオン、2-ナフタレンスルホネートアニオン、ベンゾエートアニオン、フェニルホスフェートアニオン、フェノールアニオン、チオフェノールアニオン、テトラフェニルボレートアニオン及びトシレートアニオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることが好ましく、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、テトラフルオロボレートアニオン及びトシレートアニオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることがより好ましく、臭化物イオン又はテトラフルオロボレートイオンであることが更に好ましく、臭化物イオンであることが特に好ましい。
また、化合物Aが有するアニオンとしては、結晶析出の抑制性、及び、経時での化合物安定性の観点からは、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、テトラフルオロボレートアニオン、ベンゼンスルホネートアニオン、1-ナフタレンスルホネートアニオン、2-ナフタレンスルホネートアニオン、ベンゾエートアニオン、フェニルホスフェートアニオン及びトシレートアニオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることが好ましく、ベンゼンスルホネートアニオン、1-ナフタレンスルホネートアニオン、2-ナフタレンスルホネートアニオン及びトシレートアニオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることがより好ましく、1-ナフタレンスルホネートアニオン及びトシレートアニオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることが特に好ましい。
【0044】
また、化合物Aが有するアニオンとしては、結晶析出の抑制性、及び、経時での化合物安定性の観点から、有機酸の共役塩基であることが好ましく、有機カルボン酸又は有機スルホン酸の共役塩基であることがより好ましく、有機スルホン酸の共役塩基であることが更に好ましく、芳香族スルホン酸の共役塩基であることが特に好ましい。
更に、化合物Aが有するアニオンとしては、結晶析出の抑制性、及び、経時での化合物安定性の観点から、R1SO3
-、R1SO2
-、R1R2PO2
-、R1PO3
2-、R1CO2
-、R1O-、R1S-、(R1SO2)2N-、及び、R1R2R3R4B-よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることが好ましく、R1SO3
-、R1SO2
-、R1R2PO2
-、R1PO3
2-、及び、R1CO2
-よりなる群から選ばれた少なくとも1種のアニオンであることがより好ましく、R1SO3
-であることが特に好ましい。
なお、R1~R4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0045】
また、化合物Aが有するアニオンとしては、結晶析出の抑制性の観点から、共役酸のpKaが4以下であるアニオンが好ましく、共役酸のpKaが0以下であるアニオンがより好ましい。
【0046】
上記化合物Aにおけるカチオンは、結晶析出の抑制性の観点から、下記式(A)で表されるカチオンであることが好ましい。
【0047】
【0048】
式(A)中、ZはP又はNを表し、RA1~RA4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0049】
式(A)におけるZは、結晶析出の抑制性の観点から、Pであることが好ましい。
式(A)のRA1~RA4におけるアルキル基は、結晶析出の抑制性の観点から、炭素数1~16のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることが特に好ましい。また、上記アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であっても、環構造を有するアルキル基であってもよい。
また、上記アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ビニルエーテル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ビニルオキシカルボニル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。また、上記置換基は、更に上記置換基により置換されていてもよい。
式(A)のRA1~RA4におけるアリール基はそれぞれ独立に、結晶析出の抑制性の観点から、フェニル基又は2,4,6-トリメチルフェニル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
また、上記アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ビニルオキシカルボニル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。また、上記置換基は、更に上記置換基により置換されていてもよい。
【0050】
また、化合物Aにおけるカチオンは、結晶析出の抑制性の観点から、下記式(1)で表されるカチオンであることがより好ましい。
【0051】
【0052】
式(1)中、ZはP又はNを表し、Rはアルキル基を表し、Arはそれぞれ独立に、アリール基を表す。
【0053】
式(1)におけるZは、結晶析出の抑制性の観点から、Pであることが好ましい。
式(1)におけるRは、結晶析出の抑制性の観点から、炭素数1~16のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることが特に好ましい。また、上記アルキル基は、直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であっても、環構造を有するアルキル基であってもよい。
また、上記アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ビニルエーテル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ビニルオキシカルボニル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。また、上記置換基は、更に上記置換基により置換されていてもよい。
式(1)におけるArはそれぞれ独立に、結晶析出の抑制性の観点から、フェニル基又は2,4,6-トリメチルフェニル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
また、上記アリール基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0054】
更に、上記化合物Aにおける上記カチオンは、結晶析出の抑制性、及び、塗布溶剤への溶解性の観点から、下記式(2)で表されるカチオンであることがより好ましい。
【0055】
【0056】
式(2)中、R21はそれぞれ独立に、アルキル基を表し、R22は水素原子又はアルキル基を表す。
【0057】
式(2)におけるR21は、結晶析出の抑制性、及び、塗布溶剤への溶解性の観点から、炭素数1~16のアルキル基であることが好ましく、炭素数3~12の分岐アルキル基であることがより好ましく、炭素数3~8の分岐アルキル基であることが更に好ましく、t-ブチル基であることが特に好ましい。
また、式(2)における3つのR21は、結晶析出の抑制性、及び、塗布溶剤への溶解性の観点から、同じ基であることが好ましい。
式(2)におけるR22は、結晶析出の抑制性、及び、塗布溶剤への溶解性の観点から、水素原子、又は、炭素数1~16のアルキル基であることが好ましく、水素原子、又は、炭素数1~8のアルキル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基、又は、エチル基であることが更に好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
また、上記R21及びR22におけるアルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ビニルエーテル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ビニルオキシカルボニル基、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基等が挙げられる。また、上記置換基は、更に上記置換基により置換されていてもよい。
【0058】
上記化合物Aにおける上記カチオンが、結晶析出の抑制性、硬化性、及び、塗布溶剤への溶解性の観点から、重合性基を有することが好ましい。
重合性基としては、エチレン性不飽和基であることが好ましく、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基、アリル基、スチリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基等が好ましく挙げられる。
中でも、結晶析出の抑制性、硬化性、及び、塗布溶剤への溶解性の観点から、(メタ)アクリロキシ基及び(メタ)アクリルアミド基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基であることが好ましく、(メタ)アクリロキシ基であることがより好ましい。
また、重合性基を有する上記カチオンとしては、リン原子又は窒素原子に水素原子が直接結合した化合物に、後述する重合性化合物(好ましくは(メタ)アクリル化合物、より好ましくは、(メタ)アクリレート化合物)がマイケル型の付加反応をしてなるカチオンが好ましく挙げられる。
更に、上記重合性化合物は、多官能(メタ)アクリル化合物であることが好ましく、多官能(メタ)アクリレート化合物であることがより好ましい。
【0059】
化合物Aを形成するカチオンとして、具体的には、以下のカチオンが好適に挙げられるが、これらに限定されないことは言うまでもない。
また、化合物Aの具体例としては、下記D1~D24及びD29~D31のいずれか1つと、ハロゲン化物イオン、テトラフルオロボレートアニオン、ヘキサフルオロフォスフェートアニオン、ベンゼンスルホネートアニオン、1-ナフタレンスルホネートアニオン、2-ナフタレンスルホネートアニオン、ベンゾエートアニオン、フェニルホスフェートアニオン、フェノールアニオン、チオフェノールアニオン、テトラフェニルボレートアニオン及びトシレートアニオンよりなる群から選ばれた1種のアニオンとのオニウム塩が好適に挙げられる。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
化合物Aは、1種のみを添加しても、2種以上を併用してもよい。
化合物Aの含有量は、結晶析出の抑制性の観点から、画像記録層の全質量に対し、0.01質量%~30質量%が好ましく、0.05質量%~25質量%がより好ましく、0.1質量%~20質量%が更に好ましい。
また、画像記録層の単位面積あたりの化合物Aの含有量は、結晶析出の抑制性の観点から、0.001g/m2~3g/m2が好ましく、0.005g/m2~1g/m2がより好ましく、0.01g/m2~0.1g/m2が更に好ましく、0.01g/m2~0.05g/m2が特に好ましい。
【0064】
画像記録層では、化合物Aにおけるカチオンのモル含有量は、結晶析出の抑制性及び耐刷性の観点から、ボレート化合物におけるアニオンのモル含有量の0.1倍~5倍であることが好ましく、ボレート化合物におけるアニオンのモル含有量の0.2倍~4倍であることがより好ましく、ボレート化合物におけるアニオンのモル含有量の0.5倍~3倍であることが特に好ましい。
【0065】
〔非オニウム系重合開始剤〕
画像記録層は、非オニウム系重合開始剤を含む。
非オニウム系重合開始剤は、オニウム系重合開始剤以外の重合開始剤を意味する。具体的には、非オニウム系重合開始剤は、赤外線露光により赤外線吸収剤の電子が励起した際に、分子間電子移動で一電子を受容することにより、ラジカル等の重合開始種を発生する、オニウム塩化合物以外の化合物をいう。
【0066】
非オニウム系重合開始剤としては、平版印刷版原版の画像記録層に用いられる公知の非オニウム系重合開始剤を好適に使用することができる。
非オニウム系重合開始剤としては、感度、耐刷性、機上現像性、及び、着肉性の観点から、電子供与型重合開始剤を含むことが好ましい。
【0067】
非オニウム系重合開始剤としては、現像性、及び耐刷性の観点から、電子供与型重合開始剤として、下記式(II)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0068】
【0069】
式(II)中、Xはそれぞれ独立に、ハロゲン原子を表し、R3はアリール基を表す。
【0070】
式(II)におけるXとしては、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、Xとしては、塩素原子又は臭素原子は、感度に優れるため好ましく、臭素原子が特に好ましい。
また、式(II)において、R3としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。R3で表されるアリール基の置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミド基、アミノ基、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。中でも、置換基としてはヒドロキシ基が好ましい。R3としては、ヒドロキシ基で置換されたフェニル基が好ましい。
【0071】
上記式(II)で表される電子受容型重合開始剤の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
【0072】
【0073】
非オニウム系重合開始剤としての電子受容型重合開始剤の最低空軌道(LUMO)は、感度の向上の観点から、-3.00eV以下であることが好ましく、-3.02eV以下であることがより好ましい。
また、下限としては、-3.80eV以上であることが好ましく、-3.60eV以上であることがより好ましい。
【0074】
本開示において、最高被占軌道(HOMO)及び最低空軌道(LUMO)のMO(分子軌道)エネルギー計算は、以下の方法により行う。
まず、計算対象となる化合物における遊離の対イオンは計算対象から除外する。例えば、カチオン性の赤外線吸収剤では対アニオンを、アニオン性のボレート化合物では対カチオンをそれぞれ計算対象から除外する。ここでいう遊離とは、対象とする化合物とその対イオンが共有結合で連結されていないことを意味する。
量子化学計算ソフトウェアGaussian16を用い、構造最適化はDFT(B3LYP/6-31G(d))で行う。
MOエネルギー計算は、上記構造最適化で得た最適構造で量子化学計算ソフトウェアGaussian16を用い、DFT(B3LYP/6-31+G(d,p)/PCM(solvent=methanol))で行う。なお、ヨウ素を含有する化合物は、DFT(B3LYP/DGDZVP/PCM(solvent=methanol))条件にて計算する。
ここでいう最適構造とは、DFT計算で得られる全エネルギーが最も安定な構造を意味する。必要に応じて構造最適化を繰り返すことで、最安定構造を見出す。
上記MOエネルギー計算で得られたMOエネルギーEbare(単位:hartree)を以下の公式により、本開示においてHOMO及びLUMOの値として用いるEscaled(単位:eV)へ変換する。
〔HOMOの算出式〕 Escaled=0.823168×27.2114×Ebare-1.07634
〔LUMOの算出式〕 Escaled=0.820139×27.2114×Ebare-1.086039
なお、27.2114は単にhartreeをeVに変換するための係数であり、HOMOを算出する際に用いる0.823168と-1.07634、及び、LUMOを算出する際に用いる0.820139と-1.086039とは調節係数であり、計算対象となる化合物のHOMOとLUMOの計算が実測の値に合うように定める。
【0075】
非オニウム系重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
非オニウム系重合開始剤の含有量は、画像記録層の全質量に対して、0.1質量%~50質量%であることが好ましく、0.5質量%~30質量%であることがより好ましく、0.8質量%~20質量%であることが特に好ましい。
【0076】
〔ボレート化合物〕
画像記録層は、ボレート化合物を含む。
ボレート化合物としては、テトラアリールボレート化合物又はモノアルキルトリアリールボレート化合物が好ましく、化合物の安定性の観点から、テトラアリールボレート化合物がより好ましく、テトラフェニルボレート化合物が特に好ましい。
ボレート化合物が有する対カチオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオン、又は、テトラアルキルアンモニウムイオンであることが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は、テトラブチルアンモニウムイオンであることがより好ましい。
また、ボレート化合物が有する対カチオンが、赤外線吸収剤のカチオン部であってもよい。
【0077】
ボレート化合物として具体的には、ナトリウムテトラフェニルボレートが好ましく挙げられる。
【0078】
また、ボレート化合物の最高被占軌道(HOMO)は、耐薬品性及び耐刷性の観点から、-6.00eV以上であることが好ましく、-5.95eV以上であることがより好ましく、-5.93eV以上であることが更に好ましく、-5.90eVより大きいことが特に好ましい。
また、上限としては、-5.00eV以下であることが好ましく、-5.40eV以下であることがより好ましい。
【0079】
ボレート化合物の好ましい具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載の電子供与型重合開始剤が好適に挙げられる。
【0080】
また、画像記録層は、赤外線吸収剤のHOMO-ボレート化合物のHOMOの値が、0.70eV以下であることがより好ましい。
【0081】
ボレート化合物は、1種のみを添加しても、2種以上を併用してもよい。
ボレート化合物の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.01質量%~30質量%が好ましく、0.05質量%~25質量%がより好ましく、0.1質量%~20質量%が更に好ましい。
【0082】
〔赤外線吸収剤〕
画像記録層は、赤外線吸収剤を含む。
赤外線吸収剤としては、分子内にカチオン部を有する赤外線吸収剤であれば、特に制限はなく、例えば、顔料及び染料が挙げられる。
【0083】
赤外線吸収剤のカチオン部のShapeIndexは、例えば、0.2~0.8が好ましく、0.3~0.6がより好ましい。
【0084】
赤外線吸収剤として用いられる染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものうち分子内にカチオン部を有するものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
【0085】
赤外線吸収剤のうち、特に好ましいものとしては、分子内にカチオン部とアニオン部とを有するシアニン色素が特に好ましい。
【0086】
シアニン色素の具体例としては、特開2001-133969号公報の段落0017~0019に記載の化合物、特開2002-023360号公報の段落0016~0021、特開2002-040638号公報の段落0012~0037に記載の化合物、好ましくは特開2002-278057号公報の段落0034~0041、特開2008-195018号公報の段落0080~0086に記載の化合物、特に好ましくは特開2007-90850号公報の段落0035~0043に記載の化合物、特開2012-206495号公報の段落0105~0113に記載の化合物が挙げられる。
また、特開平5-5005号公報の段落0008~0009、特開2001-222101号公報の段落0022~0025に記載の化合物も好ましく使用することができる。
顔料としては、特開2008-195018号公報の段落0072~0076に記載の化合物が好ましい。
【0087】
また、赤外線吸収剤は、分子内にカチオン部を有していれば、例えば、赤外線露光により分解する赤外線吸収剤(分解型赤外線吸収剤)を用いることもできる。
赤外線吸収剤として、分解型赤外線吸収剤を用いることにより、上記赤外線吸収剤又はその分解物が重合を促進し、また、赤外線吸収剤の分解物と重合性化合物とが相互作用することにより、耐刷性に優れると推定している。
分解型赤外線吸収剤は、赤外線露光により、赤外線を吸収し、分解して、発色する機能を有する赤外線吸収剤であることが好ましい。
以降、分解型赤外線吸収剤が、赤外線露光により、赤外線を吸収し、分解して形成される発色した化合物を、「分解型赤外線吸収剤の発色体」ともいう。
また、分解型赤外線吸収剤は、赤外線露光により、赤外線を吸収し、吸収した赤外線を熱に変換する機能を有することが好ましい。
分解型赤外線吸収剤は、赤外線波長域(波長750nm~1mm)の少なくとも1部の光を吸収し、分解するものであればよいが、750nm~1,400nmの波長域に極大吸収波長を有する赤外線吸収剤であることが好ましく、760nm~900nmの波長域に極大吸収波長を有する赤外線吸収剤であることがより好ましい。
より具体的には、分解型赤外線吸収剤は、赤外線露光に起因して分解し、500nm~600nmの波長域に極大吸収波長を有する化合物を生成する化合物であることが好ましい。
【0088】
分解型赤外線吸収剤は、赤外線露光に起因する熱、電子移動又はその両方により分解する赤外線吸収剤であることが好ましく、赤外線露光に起因する電子移動により分解する赤外線吸収剤であることがより好ましい。ここで、「電子移動により分解する」とは、赤外線露光によって分解型赤外線吸収剤のHOMO(最高被占軌道)からLUMO(最低空軌道)に励起した電子が、分子内の電子受容基(LUMOと電位が近い基)に分子内電子移動し、それに伴って分解が生じることを意味する。
【0089】
また、赤外線吸収剤、及び、赤外線露光により分解する赤外線吸収剤としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
更に、赤外線露光により分解する赤外線吸収剤としては、特表2008-544322号公報、又は、国際公開第2016/027886号に記載のものを好適に用いることができる。
また、分解型赤外線吸収剤であるシアニン色素としては、国際公開第2019/219560号に記載の赤外線吸収性化合物を好適に用いることができる。
【0090】
また、本開示に用いられる赤外線吸収剤の最高被占軌道(HOMO)の値は、耐刷性、及び、網点再現性の観点から、-5.00eV以下であることが好ましく、-5.30eV以下であることがより好ましい。
また、下限としては、耐刷性、及び、網点再現性の観点から、-5.90eV以上であることが好ましく、-5.75eV以上であることがより好ましく、-5.60eV以上であることが更に好ましい。
【0091】
赤外線吸収剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、赤外線吸収剤として顔料と染料とを併用してもよい。
画像記録層中の赤外線吸収剤の総含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.1質量%~10.0質量%が好ましく、0.5質量%~5.0質量%がより好ましい。
【0092】
本開示における好ましい態様の一つは、赤外線吸収剤(好ましくはシアニン色素)と、ボレート化合物と、が塩を形成している化合物を含む態様である。赤外線吸収剤とボレート化合物とが塩を形成している化合物として具体的には、例えば、赤外線吸収剤(好ましくはシアニン色素)のカチオン部と、ボレートアニオン(例えば、テトラフェニルボレートアニオン)との塩が挙げられる。
赤外線吸収剤のカチオン部とボレートアニオンとを含む化合物を用いる場合(つまり、上記塩を形成している化合物を用いる場合)、画像記録層は赤外線吸収剤及びボレート化合物の両方を含むものとする。
また、赤外線吸収剤とボレート化合物とが塩を形成している化合物は、他の赤外線吸収剤と併用してもよいし、他のボレート化合物と併用してもよい。
【0093】
〔赤外線吸収剤と、ボレート化合物と、非オニウム系重合開始剤と、の関係〕
本開示における画像記録層は、ボレート化合物のHOMOが-6.0eV以上であり、かつ、非オニウム系重合開始剤のLUMOが-3.0eV以下であることが好ましい。
ボレート化合物のHOMO、及び、非オニウム系重合開始剤のLUMOのより好ましい態様は、それぞれ上述の通りである。
本開示における画像記録層において、ボレート化合物と、赤外線吸収剤と、非オニウム系重合開始剤とは、エネルギーの受け渡しを行っていると推測される。
そのため、ボレート化合物のHOMOが-6.0eV以上であり、かつ、非オニウム系重合開始剤のLUMOが-3.0eV以下であれば、ラジカルの発生効率が向上するため、耐薬品性及び耐刷性により優れやすいと考えられる。
【0094】
耐刷性及び耐薬品性の観点から、赤外線吸収剤のHOMO-ボレート化合物のHOMOの値は、1.0eV以下であることが好ましく、0.70eV以下であることがより好ましく、0.60eV以下であることが特に好ましい。また、同様の観点から、赤外線吸収剤のHOMO-ボレート化合物のHOMOの値は、-0.200eV以上であることが好ましく、-0.100eV以上であることがより好ましい。なお、マイナスの値は、ボレート化合物のHOMOが、赤外線吸収剤のHOMOよりも高くなることを意味する。
また、耐刷性及び耐薬品性の観点から、非オニウム系重合開始剤のLUMO-赤外線吸収剤のLUMOの値は、1.00eV以下であることが好ましく、0.700eV以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、非オニウム系重合開始剤のLUMO-赤外線吸収剤のLUMOの値は、-0.200eV以上であることが好ましく、-0.100eV以上であることがより好ましい。
また、同様の観点から、非オニウム系重合開始剤のLUMO-赤外線吸収剤のLUMOの値は、1.00eV~-0.200eVであることが好ましく、0.700eV~-0.100eVであることがより好ましい。なお、マイナスの値は、赤外線吸収剤のLUMOが、非オニウム系重合開始剤のLUMOよりも高くなることを意味する。
【0095】
〔酸発色剤〕
画像記録層は、視認性の観点から、酸発色剤を含んでいてもよい。
本開示で用いられる「酸発色剤」とは、電子受容性化合物(例えば酸等のプロトン)を受容した状態で加熱することにより、発色し画像記録層の色を変化させる性質を有する化合物を意味する。酸発色剤としては、特に、ラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、電子受容性化合物と接触した時に、速やかにこれらの部分骨格が開環若しくは開裂する無色の化合物が好ましい。
【0096】
酸発色剤の分子中に存在する全ての水素原子の水素引き抜きエンタルピーは、UV耐刷性の観点から、-6.5kcal/mol以上であることが好ましく、-4.0kcal/mol以上であることがより好ましく、-2.0kcal/mol以上であることが更に好ましく、-2.0kcal/mol~50kcal/molであることが特に好ましい。
水素引き抜きエンタルピーが大きい値であるほど、ラジカル等の重合開始種による上記酸発色剤からの水素原子の引き抜きが抑制され、重合反応が長く生じるため、硬化性に優れ、耐刷性、特にUV耐刷性により優れる。
【0097】
本開示における酸発色剤の分子中に存在する全ての水素原子の水素引き抜きエンタルピーは、以下の方法により算出するものとする。
計算プログラムはGaussian16を用い、計算レベルは密度汎関数法(B3LYP/6-31+G**)、溶媒効果はSCRF法(溶媒:Methanol)として、水素引き抜きによる成長ラジカルとの反応について、反応物と生成物のエンタルピーを各々計算し、両者の差をとることにより、反応エンタルピー計算を実施する。
【0098】
より具体的には、以下のように実施する。下記化学反応式中、成長ラジカル、LeucoDye-H、水素付加された成長ラジカル、LeucoDye-radical各々について、Gaussian用プリポストソフトウェアGaussView6を用いてモデリングする。計算条件の指定は、#p opt b3lyp/6-31+g(d,p) scrf=(solvent=methanolとし、ラジカルの場合は電荷0多重度2、ラジカル以外の場合は電荷0多重度1と設定する。#pの指定は詳細ログ出力の指定であり、省略してもよい。
計算を実行して最適化された構造のエネルギー(単位:hartree)から、反応物の生成エンタルピー(成長ラジカルとLeucoDye-Hのエネルギーの和)、及び生成物の生成エンタルピー(水素付加された成長ラジカルとLeucoDye-radicalのエネルギーの和)を求め、生成物の生成エンタルピーから反応物の生成エンタルピーを差し引いた値を水素引抜きエンタルピーとする。単位は、1hartree=627.51kcal/molとして換算する。
【0099】
【0100】
例えば、以下の化合物の各水素原子における水素引き抜きエンタルピーは、以下の通りである。
【0101】
【0102】
酸発色剤は、UV耐刷性の観点から、窒素原子に水素原子が直接結合した構造を有
しないことが好ましい。
窒素原子に水素原子が直接結合した構造(N-H構造)は、ラジカル等による水素引き抜き反応が生じやすい構造であり、この構造を有しない化合物であると、酸発色剤からの水素原子の引き抜きが抑制され、重合反応が長く生じるため、硬化性に優れ、耐刷性、特にUV耐刷性により優れる。
【0103】
中でも、本開示に用いられる酸発色剤は、発色性の観点から、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、スピロラクトン化合物、及び、スピロラクタム化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
酸発色剤の発色後の色相(すなわち、酸発色剤から生成した発色体の色相)としては、可視性の観点から、緑、青又は黒であることが好ましい。
【0104】
また、酸発色剤は、発色性、及び、視認性の観点から、ロイコ色素を含むことが好ましく、ロイコ色素であることがより好ましい。
ロイコ色素としては、ロイコ構造を有する色素であれば、特に制限はないが、スピロ構造を有することが好ましく、スピロラクトン環構造を有することがより好ましい。
また、ロイコ色素としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素であることが好ましい。
更に、フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-1)~式(Le-3)のいずれかで表される化合物であることが好ましく、下記式(Le-2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0105】
【0106】
式(Le-1)~式(Le-3)中、ERGはそれぞれ独立に、電子供与性基を表し、X1~X4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、X5~X10はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機基を表し、Y1及びY2はそれぞれ独立に、C又はNを表し、Y1がNである場合は、X1は存在せず、Y2がNである場合は、X4は存在せず、Ra1は、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、Rb1~Rb4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0107】
式(Le-1)~式(Le-3)のERGにおける電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることが好ましく、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテ
ロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、又は、アリーロキシ基であることがより好ましく、モノアルキルモノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基又はモノアリールモノヘテロアリールアミノ基であることが更に好ましく、モノアルキルモノアリールアミノ基であることが特に好ましい。
また、上記ERGにおける電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基又は少なくとも1つのオルト位に置換基を有するヘテロアリール基を有する二置換アミノ基であることが好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基を有する二置換アミノ基であることがより好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基とアリール基又はヘテロアリール基とを有するアミノ基であることが更に好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基と電子供与性基を有するアリール基又は電子供与性基を有するヘテロアリール基とを有するアミノ基であることが特に好ましい。
なお、本開示において、フェニル基以外のアリール基又はヘテロアリール基におけるオルト位は、アリール基又はヘテロアリール基の他の構造との結合位置を1位とした場合の上記1位の隣の結合位置(例えば、2位等)を言うものとする。
更に、上記アリール基又はヘテロアリール基が有する電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることが好ましく、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることがより好ましく、アルコキシ基であることが特に好ましい。
【0108】
式(Le-1)~式(Le-3)におけるX1~X4はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子、又は、塩素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
式(Le-2)又は式(Le-3)におけるX5~X10はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、ヘテロアリーロキシカルボニル基又はシアノ基であることが好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、又は、アリーロキシ基であることがより好ましく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は、アリール基であることが更に好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-3)におけるY1及びY2は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、少なくとも1方がCであることが好ましく、Y1及びY2の両方がCであることがより好ましい。
式(Le-1)~式(Le-3)におけるRa1は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-3)におけるRb1~Rb4はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子又はアルキル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0109】
また、上記フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-4)~式(Le-6)のいずれかで表される化合物であることがより好ましく、下記式(Le-5)で表される化合物であることが更に好ましい。
【0110】
【0111】
式(Le-4)~式(Le-6)中、ERGはそれぞれ独立に、電子供与性基を表し、X1~X4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、Y1及びY2はそれぞれ独立に、C又はNを表し、Y1がNである場合は、X1は存在せず、Y2がNである場合は、X4は存在せず、Ra1は、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、Rb1~Rb4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0112】
式(Le-4)~式(Le-6)におけるERG、X1~X4、Y1、Y2、Ra1、及び、Rb1~Rb4はそれぞれ、式(Le-1)~式(Le-3)におけるERG、X1~X4、Y1、Y2、Ra1、及び、Rb1~Rb4と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0113】
更に、上記フタリド構造又はフルオラン構造を有するロイコ色素は、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、下記式(Le-7)~式(Le-9)のいずれかで表される化合物であることが更に好ましく、下記式(Le-8)で表される化合物であることが特に好ましい。
【0114】
【0115】
式(Le-7)~式(Le-9)中、X1~X4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はジアルキルアニリノ基を表し、Y1及びY2はそれぞれ独立に、C又はNを表し、Y1がNである場合は、X1は存在せず、Y2がNである場合は、X4は存在せず、Ra1~Ra4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基を表し、Rb
1~Rb4はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、Rc1及びRc2はそれぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0116】
式(Le-7)~式(Le-9)におけるX1~X4、Y1及びY2は、式(Le-1)~式(Le-3)におけるX1~X4、Y1及びY2と同義であり、好ましい態様も同様である。
式(Le-7)又は式(Le-9)におけるRa1~Ra4はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アルキル基又はアルコキシ基であることが好ましく、アルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基であることが特に好ましい。
式(Le-7)~式(Le-9)におけるRb1~Rb4はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、水素原子、アルキル基又はアルコキシ基が置換したアリール基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
式(Le-8)におけるRc1及びRc2はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、フェニル基、又は、アルキルフェニル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
また、式(Le-8)におけるRc1及びRc2はそれぞれ独立に、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基、又は、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するヘテロアリール基であることが好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するアリール基であることがより好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有するフェニル基であることが更に好ましく、少なくとも1つのオルト位に置換基を有し、かつパラ位に電子供与性基を有するフェニル基であることが特に好ましい。Rc1及びRc2における上記置換基としては、後述する置換基が挙げられる。
また、式(Le-8)において、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、X1~X4が水素原子であり、Y1及びY2がCであることが好ましい。
更に、式(Le-8)において、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、Rb1及びRb2がそれぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシ基が置換したアリール基であることが好ましい。
更にまた、式(Le-8)において、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、Rb1及びRb2がそれぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましく、電子供与性基を有するアリール基であることが更に好ましく、パラ位に電子供与性基を有するフェニル基であることが特に好ましい。
また、Rb1、Rb2、Rc1及びRc2における上記電子供与性基としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることが好ましく、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、又は、アルキル基であることがより好ましく、アルコキシ基であることが特に好ましい。
【0117】
また、酸発色剤としては、発色性、及び、露光部の視認性の観点から、上記酸発色剤が、下記式(3a)又は式(3b)で表される化合物を含むことが好ましく、下記式(3a)で表される化合物を含むことがより好ましい。
【0118】
【0119】
式(3a)中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立に、アリール基又はヘテロアリール基を表し、R10及びR11はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
式(3b)中、ERGはそれぞれ独立に、電子供与性基を表し、nは1~5の整数を表し、X1~X4はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機基を表し、Y1及びY2はそれぞれ独立に、C又はNを表し、Y1がNである場合は、X1は存在せず、Y2がNである場合は、X4は存在せず、R12及びR13はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0120】
式(3a)におけるR10及びR11はそれぞれ、式(Le-7)~式(Le-9)におけるRb1及びRb2と同義であり、好ましい態様も同様である。
式(3a)におけるAr1及びAr2はそれぞれ、式(Le-7)~式(Le-9)におけるRc1及びRc2と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0121】
式(3b)におけるERG、X1~X4、Y1、及び、Y2はそれぞれ、式(Le-1)~式(Le-3)におけるERG、X1~X4、Y1、及び、Y2と同義であり、好ましい態様も同様である。
式(3b)におけるR12、及び、R13はそれぞれ、式(Le-1)におけるRb2、及び、Rb4と同義であり、好ましい態様も同様である。
式(3b)におけるnは、1~3の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0122】
式(Le-1)~式(Le-9)、式(3a)又は式(3b)におけるアルキル基は、直鎖であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、式(Le-1)~式(Le-9)、式(3a)又は式(3b)におけるアルキル基の炭素数は、1~20であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましく、1又は2であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-9)、式(3a)又は式(3b)におけるアリール基の炭素数は、6~20であることが好ましく、6~10であることがより好ましく、6~8であることが特に好ましい。
式(Le-1)~式(Le-9)、式(3a)又は式(3b)におけるアリール基として具体的には、置換基を有していてもよい、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基等が挙げられる。
式(Le-1)~式(Le-9)、式(3a)又は式(3b)におけるヘテロアリール基として具体的には、置換基を有していてもよい、フリル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラゾイル基、チオフェニル基等が挙げられる。
【0123】
また、式(Le-1)~式(Le-9)、式(3a)又は式(3b)における一価の有
機基、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ジアルキルアニリノ基、アルキルアミノ基、アルコキシ基等の各基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヘテロアリールアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基、モノアルキルモノヘテロアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、モノアリールモノヘテロアリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、ヘテロアリーロキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、ヘテロアリーロキシカルボニル基、シアノ基等が挙げられる。また、これら置換基は、更にこれら置換基により置換されていてもよい。
【0124】
好適に用いられる上記酸発色剤としては、以下の化合物が挙げられる。なお、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Octはオクチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
発色剤としては上市されている製品を使用することも可能であり、ETAC、RED500、RED520、CVL、S-205、BLACK305、BLACK400、BLACK100、BLACK500、H-7001、GREEN300、NIRBLACK78、BLUE220、H-3035、BLUE203、ATP、H-1046、H-2114(以上、福井山田化学工業(株)製)、ORANGE-DCF、Vermilion-DCF、PINK-DCF、RED-DCF、BLMB、CVL、GREEN-DCF、TH-107(以上、保土ヶ谷化学(株)製)、ODB、ODB-2、ODB-4、ODB-250、ODB-BlackXV、Blue-63、Blue-502、GN-169、GN-2、Green-118、Red-40、Red-8(以上、山本化成(株)製)、クリスタルバイオレットラクトン(東京化成工業(株)製)等が挙げられる。これらの市販品の中でも、ETAC、S-205、BLACK305、BLACK400、BLACK100、BLACK500、H-7001、GREEN300、NIRBLACK78、H-3035、ATP、H-1046、H-2114、GREEN-DCF、Blue-63、GN-169、クリスタルバイオレットラクトンが、形成される膜の可視光吸収率が良好のため好ましい。
【0137】
酸発色剤から生じる発色体のモル吸光係数εは、視認性の観点から、35,000
以上であることが好ましく、35,000以上200,000以下であることがより好ましく、50,000以上150,000以下であることが特に好ましい。
【0138】
本開示における酸発色剤から生じる発色体のモル吸光係数εは、以下の方法により測定するものとする。
測定する酸発色剤0.04mmolを100mLメスフラスコに精秤する。
酢酸を90mL程度添加し、測定サンプルが完溶していることを目視で確認した後、酢酸で100mLにメスアップし、色素溶液Aを作製する。
別の100mLメスフラスコに酢酸を80mL程度添加した後、イオン交換水5mL、上記色素溶液A 5mLを、それぞれ5mLホールピペットを用いて添加し、軽く振り混ぜる。
酸発色剤の析出がないことを目視で確認した後、酢酸で100mLにメスアップし、色素溶液Bを作製する。色素溶液Bは、酸発色剤の濃度が0.02mmol/Lである。
色素溶液Bを測定セル(石英ガラス、光路幅10mm)に充填し、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製、UV-1800)を用いて測定を実施する。
ブランクは水:酢酸=5:95液とする。
得られたスペクトルから可視光領域(380nm~750nm)における吸収極大波長を読み取り、その波長における吸光度からモル吸光係数εを算出する。
【0139】
酸発色剤は、下記式で求められる開環率が、視認性の観点から、15%以上100%以下であることが好ましく、40%以上99%以下であることがより好ましく、60%以上99%以下であることが更に好ましく、75%以上99%以下であることが特に好ましく、85%以上99%以下であることが最も好ましい。
・開環率=酸発色剤に酸を1モル当量添加した際のモル吸光係数/酸発色剤から生じる発色体のモル吸光係数ε×100
【0140】
酸発色剤から生じる発色体の可視光領域(380nm~750nm)における最大吸光波長λmaxが、視認性の観点から、500nm~650nmであることが好ましく、520nm~600nmであることがより好ましく、530nm~580nmであることが更に好ましく、540nm~570nmであることが特に好ましい。
【0141】
本開示における開環率及びλmaxは、以下の方法により測定するものとする。
-色素溶液Cの調製-
酸発色剤0.1mmolを50mLメスフラスコに精秤する。
アセトニトリルを40mL程度添加し、測定サンプルが完溶していることを目視で確認した後、アセトニトリルで50mLにメスアップし、色素溶液Cを作製する。
-酸溶液Dの調製-
100mLのメスフラスコにCSA(10-camphorsulfonic acid)0.2mmol添加し、アセトニトリル80mL程度添加し、CSAが完溶したことを確認した後に、アセトニトリルで100mLにメスアップし、酸溶液Dを作製する。
-測定液Eの調製-
100mLのメスフラスコに5mLのイオン交換水をホールピペットで添加し、アセトニトリル80mLを添加する。色素溶液Cを1mL、酸溶液Dを1mL添加し、100mLにメスアップし、測定液Eを調製する。
測定Eにおける生じた発色体を含む酸発色剤の濃度は0.02mmol/Lである。
色素溶液Eを測定セル(石英ガラス、光路幅10mm)に充填し、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製、UV-1800)を用いて測定を実施する。
ブランクは水:アセトニトリル=5:95液とする。
得られたスペクトルから可視光領域(380nm~750nm)における吸収極大波長λmaxを読み取り、その波長における吸光度からモル吸光係数εを算出する。
既述の計算式に従って、開環率を算出する。
【0142】
また、酸発色剤は、視認性の観点から、酸発色剤から生成した発色体のモル吸光係数εが、35,000以上であり、酸発色剤の開環率が、40モル%~99モル%であり、酸発色剤から生成した発色体の波長380nm~750nmの範囲における最大吸収波長λmaxが、500nm~650nmであることが好ましい。
【0143】
これらの酸発色剤は、1種単独で用いてもよいし、2種類以上の成分を組み合わせて使用することもできる。
酸発色剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.5質量%~10質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0144】
〔重合性化合物〕
画像記録層は、重合性化合物を含むことが好ましい。
本開示において、重合性化合物とは、重合性基を有する化合物をいう。
重合性基としては、特に限定されず公知の重合性基であればよいが、エチレン性不飽和基であることが好ましい。また、重合性基としては、ラジカル重合性基であってもカチオン重合性基であってもよいが、ラジカル重合性基であることが好ましい。
ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニルフェニル基、ビニル基等が挙げられ、反応性の観点から(メタ)アクリロイル基が好ましい。
重合性化合物の分子量(分子量分布を有する場合には、重量平均分子量)は、50以上2,500未満であることが好ましい。
【0145】
本開示に用いられる重合性化合物は、例えば、ラジカル重合性化合物であっても、カチオン重合性化合物であってもよいが、少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する付加重合性化合物(エチレン性不飽和化合物)であることが好ましい。
エチレン性不飽和化合物としては、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個有する化合物であることが好ましく、末端エチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物であることがより好ましい。重合性化合物は、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体若しくはオリゴマー、又は、それらの混合物などの化学的形態をもつ。
中でも、上記重合性化合物としては、耐刷性の観点から、3官能以上の重合性化合物を含むことが好ましく、7官能以上の重合性化合物を含むことがより好ましく、10官能以上の重合性化合物を含むことが更に好ましい。また、上記重合性化合物は、得られる平版印刷版における耐刷性の観点から、3官能以上(好ましくは7官能以上、より好ましくは10官能以上)のエチレン性不飽和化合物を含むことが好ましく、3官能以上(好ましくは7官能以上、より好ましくは10官能以上)の(メタ)アクリレート化合物を含むことが更に好ましい。
【0146】
また、上記重合性化合物としては、機上現像性、及び、汚れ抑制性の観点から、2官能以下の重合性化合物を含むことが好ましく、2官能重合性化合物を含むことがより好ましく、2官能(メタ)アクリレート化合物を含むことが特に好ましい。
2官能以下の重合性化合物(好ましくは2官能重合性化合物)の含有量は、耐刷性、機上現像性、及び、汚れ抑制性の観点から、上記画像記録層における重合性化合物の全質量に対し、5質量%~100質量%であることが好ましく、10質量%~100質量%であることがより好ましく、15質量%~100質量%であることが特に好ましい。
【0147】
-オリゴマー-
画像記録層に含まれる重合性化合物としては、オリゴマーである重合性化合物(以下、単に「オリゴマー」ともいう。)を含有することが好ましい。
本開示においてオリゴマーとは、分子量(分子量分布を有する場合には、重量平均分子量)が600以上40,000以下であり、かつ、重合性基を少なくとも1つ含む重合性化合物を表す。
耐薬品性、耐刷性に優れる観点から、オリゴマーの分子量としては、1,000以上25,000以下であることが好ましい。
【0148】
また、耐刷性を向上させる観点から、1分子のオリゴマーにおける重合性基数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましく、10以上であることが特に好ましい。
また、オリゴマーにおける重合性基の上限値は、特に制限はないが、重合性基の数は20以下であることが好ましい。
【0149】
耐刷性、及び、機上現像性の観点から、オリゴマーとしては、重合性基の数が7以上であり、かつ、分子量が1,000以上40,000以下であることが好ましく、重合性基の数が7以上20以下であり、かつ、分子量が1,000以上25,000以下であることがより好ましい。
なお、画像記録層は、オリゴマーを製造する過程で生じる可能性のある、ポリマー成分を含有していてもよい。
【0150】
耐刷性、視認性、及び、機上現像性の観点から、オリゴマーは、ウレタン結合を有する化合物、エステル結合を有する化合物及びエポキシ残基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、ウレタン結合を有する化合物を有することが好ましい。
本開示においてエポキシ残基とは、エポキシ基により形成される構造を指し、例えば酸基(カルボン酸基等)とエポキシ基との反応により得られる構造と同様の構造を意味する。
【0151】
ウレタン結合を有する化合物としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
【0152】
また、ウレタン結合を有する化合物として、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、の反応により得られるポリウレタンに、高分子反応により重合性基を導入した化合物を用いてもよい。
例えば、酸基を有するポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたポリウレタンオリゴマーに、エポキシ基及び重合性基を有する化合物を反応させることにより、ウレタン結合を有する化合物を得てもよい。
【0153】
オリゴマーの例であるエステル結合を有する化合物における重合性基の数は、3以上であることが好ましく、6以上であることが更に好ましい。
【0154】
オリゴマーの例であるエポキシ残基を有する化合物としては、化合物内にヒドロキシ基を含む化合物が好ましい。
また、エポキシ残基を有する化合物における重合性基の数は、2~6であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。
上記エポキシ残基を有する化合物としては、例えば、エポキシ基を有する化合物にアクリル酸を反応することにより得ることができる。
【0155】
オリゴマーとしては、市販品を用いてもよく、UA510H、UA-306H、UA-
306I、UA-306T(いずれも共栄社化学(株)製)、UV-1700B、UV-6300B、UV7620EA(いずれも日本合成化学工業(株)製)、U-15HA(新中村化学工業(株)製)、EBECRYL450、EBECRYL657、EBECRYL885、EBECRYL800、EBECRYL3416、EBECRYL860(いずれもダイセルオルネクス(株)製)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0156】
オリゴマーの含有量は、耐薬品性、耐刷性、及び機上現像カスの抑制性を向上させる観点から、画像記録層における重合性化合物の全質量に対し、30質量%~100質量%であることが好ましく、50質量%~100質量%であることがより好ましく、80質量%~100質量%であることが更に好ましい。
【0157】
-低分子重合性化合物-
重合性化合物は、上記オリゴマー以外の重合性化合物を更に含んでいてもよい。
オリゴマー以外の重合性化合物としては、耐薬品性の観点から、低分子重合性化合物であることが好ましい。低分子重合性化合物としては、単量体、2量体、3量体又は、それらの混合物などの化学的形態であってもよい。
また、低分子重合性化合物としては、耐薬品性の観点から、エチレン性不飽和基を3つ以上有する重合性化合物、及びイソシアヌル環構造を有する重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一方の重合性化合物であることが好ましい。
【0158】
本開示において低分子重合性化合物とは、分子量(分子量分布を有する場合には、重量平均分子量)50以上800未満の重合性化合物を表す。
低分子重合性化合物の分子量としては、耐薬品性、耐刷性及び機上現像カスの抑制性に優れる観点から、100以上800未満であることが好ましく、300以上800未満であることがより好ましく、400以上800未満であることが更に好ましい。
【0159】
重合性化合物が、オリゴマー以外の重合性化合物として低分子重合性化合物を含む場合(2種以上の低分子重合性化合物を含む場合はその合計量)、耐薬品性、耐刷性及び機上現像カスの抑制性の観点から、上記オリゴマーと低分子重合性化合物との比(オリゴマー/低分子重合性化合物)は、質量基準で、10/1~1/10であることが好ましく、10/1~3/7であることがより好ましく、10/1~7/3であることが更に好ましい。
【0160】
また、低分子重合性化合物としては、国際公開第2019/013268号の段落0082~0086に記載の重合性化合物も好適に用いることができる。
【0161】
重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、任意に設定できる。
中でも、画像記録層は、耐刷性の観点から、2種以上の重合性化合物を含むことが好ましい。
重合性化合物の含有量(重合性化合物を2種以上含む場合は、重合性化合物の総含有量)は、画像記録層の全質量に対して、5質量%~75質量%であることが好ましく、10質量%~70質量%であることがより好ましく、15質量%~60質量%であることが更に好ましい。
【0162】
〔粒子〕
上記画像記録層は、耐刷性の観点から、粒子を含むことが好ましい。
粒子としては、有機粒子であっても、無機粒子であってもよいが、耐刷性の観点から、有機粒子を含むことが好ましく、ポリマー粒子を含むことがより好ましい。
無機粒子としては、公知の無機粒子を用いることができ、シリカ粒子、チタニア粒子等の金属酸化物粒子を好適に用いることができる。
【0163】
ポリマー粒子は、熱可塑性樹脂粒子、熱反応性樹脂粒子、重合性基を有するポリマー粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及び、ミクロゲル(架橋ポリマー粒子)よりなる群から選ばれることが好ましい。中でも、重合性基を有するポリマー粒子又はミクロゲルが好ましい。特に好ましい実施形態では、ポリマー粒子は少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。このようなポリマー粒子の存在により、露光部の耐刷性及び未露光部の機上現像性を高める効果が得られる。
また、ポリマー粒子は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、熱可塑性樹脂粒子であることが好ましい。
【0164】
熱可塑性樹脂粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.33303、特開平9-123387号公報、同9-131850号公報、同9-171249号公報、同9-171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の熱可塑性ポリマー粒子が好ましい。
熱可塑性樹脂粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマー若しくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。好ましくは、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、又は、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。熱可塑性樹脂粒子の平均粒径は0.01μm~3.0μmが好ましい。
【0165】
熱反応性樹脂粒子としては、熱反応性基を有するポリマー粒子が挙げられる。熱反応性ポリマー粒子は熱反応による架橋及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0166】
熱反応性基を有するポリマー粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、重合性基であることが好ましく、その例として、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基など)、付加反応を行うイソシアナト基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などが好ましく挙げられる。
【0167】
マイクロカプセルとしては、例えば、特開2001-277740号公報、特開2001-277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の少なくとも一部をマイクロカプセルに内包させたものである。画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有する構成が好ましい態様である。
【0168】
ミクロゲル(架橋ポリマー粒子)は、その表面又は内部の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができる。特に、ラジカル重合性基をその表面に有する反応性ミクロゲルは、得られる平版印刷版原版の感度、及び、得られる平版印刷版の耐刷性の観点から好ましい。
【0169】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化又はミクロゲル化するには、公知の方法が
適用できる。
【0170】
また、ポリマー粒子としては、得られる平版印刷版の耐刷性、耐汚れ性及び保存安定性の観点から、分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール化合物とイソホロンジイソシアネートとの付加物である多価イソシアネート化合物、及び、活性水素を有する化合物の反応により得られるものが好ましい。
上記多価フェノール化合物としては、フェノール性ヒドロキシ基を有するベンゼン環を複数有している化合物が好ましい。
上記活性水素を有する化合物としては、ポリオール化合物、又は、ポリアミン化合物が好ましく、ポリオール化合物がより好ましく、プロピレングリコール、グリセリン及びトリメチロールプロパンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が更に好ましい。
分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール化合物とイソホロンジイソシアネートとの付加物である多価イソシアネート化合物、及び、活性水素を有する化合物の反応により得られる樹脂の粒子としては、特開2012-206495号公報の段落0032~0095に記載のポリマー粒子が好ましく挙げられる。
【0171】
更に、ポリマー粒子としては、得られる平版印刷版の耐刷性及び耐溶剤性の観点から、i:疎水性主鎖に直接的に結合されたペンダントシアノ基を有する構成ユニット、及び、ii:親水性ポリ(アルキレンオキシド)セグメントを含むペンダント基を有する構成ユニットの両方を有するポリマーを含むポリマー粒子を含むことが好ましい。
上記疎水性主鎖としては、アクリル樹脂鎖が好ましく挙げられる。
上記ペンダントシアノ基の例としては、-[CH2CH(C≡N)]-又は-[CH2C(CH3)(C≡N)]-が好ましく挙げられる。
また、上記ペンダントシアノ基を有する構成ユニットは、エチレン系不飽和型モノマー、例えば、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルから、又は、これらの組み合わせから容易に誘導することができる。
また、上記親水性ポリアルキレンオキシドセグメントにおけるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドが好ましく、エチレンオキシドがより好ましい。
上記親水性ポリアルキレンオキシドセグメントにおけるアルキレンオキシド構造の繰り返し数は、10~100であることが好ましく、25~75であることがより好ましく、40~50であることが更に好ましい。
i:上記疎水性主鎖に直接的に結合されたペンダントシアノ基を有する構成ユニット、及び、ii:親水性ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有する構成ユニットの両方を含む樹脂の粒子としては、特表2008-503365号公報の段落0039~0068に記載のものが好ましく挙げられる。
【0172】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、親水性基を有することが好ましい。
上記親水性基としては、親水性を有する構造であれば、特に制限はないが、カルボキシ基等の酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ポリアルキレンオキシド構造等が挙げられる。
中でも、機上現像性、及び、耐刷性の観点から、ポリアルキレンオキシド構造が好ましく、ポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、又は、ポリエチレン/プロピレンオキシド構造がより好ましい。
また、機上現像性、及び、機上現像時の現像カス抑制性の観点からは、上記ポリアルキレンオキシド構造として、ポリプロピレンオキシド構造を有することが好ましく、ポリエチレンオキシド構造及びポリプロピレンオキシド構造を有することがより好ましい。
また、上記親水性基としては、耐刷性、着肉性、及び、機上現像性の観点から、シアノ基を有する構成単位、又は、下記式Zで表される基を含むことが好ましく、下記式(AN
)で表される構成単位、又は、下記式Zで表される基を含むことがより好ましく、下記式Zで表される基を含むことが特に好ましい。
*-Q-W-Y 式Z
式Z中、Qは二価の連結基を表し、Wは親水性構造を有する二価の基又は疎水性構造を有する二価の基を表し、Yは親水性構造を有する一価の基又は疎水性構造を有する一価の基を表し、W及びYのいずれかは親水性構造を有し、*は他の構造との結合部位を表す。
【0173】
【0174】
式(AN)中、RANは、水素原子又はメチル基を表す。
【0175】
上記ポリマー粒子に含まれるポリマーは、耐刷性の観点から、シアノ基を有する化合物により形成される構成単位を含むことが好ましい。
シアノ基は、通常、シアノ基を有する化合物(モノマー)を用いて、シアノ基を含む構成単位として樹脂に導入されることが好ましい。シアノ基を有する化合物としては、アクリロニトリル化合物が挙げられ、(メタ)アクリロニトリルが好適に挙げられる。
シアノ基を有する構成単位としては、アクリロニトリル化合物により形成される構成単位であることが好ましく、(メタ)アクリロニトリルにより形成される構成単位、すなわち、上記式(AN)で表される構成単位がより好ましい。
上記ポリマーが、シアノ基を有する構成単位を有するポリマーを含む場合、シアノ基を有する構成単位を有するポリマーにおけるシアノ基を有する構成単位、好ましくは上記式(AN)で表される構成単位の含有量は、耐刷性の観点から、シアノ基を有する構成単位を有するポリマーの全質量に対し、5質量%~90質量%であることが好ましく、20質量%~80質量%であることがより好ましく、30質量%~60質量%であることが特に好ましい。
【0176】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、着肉性、及び、機上現像性の観点から、上記式Zで表される基を有するポリマー粒子を含むことが好ましい。
【0177】
上記式ZにおけるQは、炭素数1~20の二価の連結基であることが好ましく、炭素数1~10の二価の連結基であることがより好ましい。
また、上記式ZにおけるQは、アルキレン基、アリーレン基、エステル結合、アミド結合、又は、これらを2以上組み合わせた基であることが好ましく、フェニレン基、エステル結合、又は、アミド結合であることがより好ましい。
【0178】
上記式ZのWにおける親水性構造を有する二価の基は、ポリアルキレンオキシ基、又は、ポリアルキレンオキシ基の一方の末端に-CH2CH2NRW-が結合した基であることが好ましい。なお、RWは、水素原子又はアルキル基を表す。
上記式ZのWにおける疎水性構造を有する二価の基は、-RWA-、-O-RWA-O-、-RWN-RWA-NRW-、-OC(=O)-RWA-O-、又は、-OC(=O)-RWA-O-であることが好ましい。なお、RWAはそれぞれ独立に、炭素数6~120の直鎖、分岐若しくは環状アルキレン基、炭素数6~120のハロアルキレン基、炭
素数6~120のアリーレン基、炭素数7~120のアルカーリレン基(アルキルアリール基から水素原子を1つ除いた二価の基)、又は、炭素数7~120のアラルキレン基を表す。
【0179】
上記式ZのYにおける親水性構造を有する一価の基は、-OH、-C(=O)OH、末端が水素原子又はアルキル基であるポリアルキレンオキシ基、又は、末端が水素原子又はアルキル基であるポリアルキレンオキシ基の他方の末端に-CH2CH2NRW-が結合した基であることが好ましい。
上記式ZのYにおける疎水性構造を有する一価の基は、炭素数6~120の直鎖、分岐若しくは環状アルキル基、炭素数6~120のハロアルキル基、炭素数6~120のアリール基、炭素数7~120のアルカーリル基(アルキルアリール基)、炭素数7~120のアラルキル基、-ORWB、-C(=O)ORWB、又は、-OC(=O)RWBであることが好ましい。RWBは、炭素数6~20を有するアルキル基を表す。
【0180】
上記式Zで表される基を有するポリマー粒子は、耐刷性、着肉性、及び、機上現像性の観点から、Wが親水性構造を有する二価の基であることがより好ましく、Qがフェニレン基、エステル結合、又は、アミド結合であり、Wは、ポリアルキレンオキシ基であり、Yが、末端が水素原子又はアルキル基であるポリアルキレンオキシ基であることがより好ましい。
【0181】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、重合性基を有するポリマー粒子を含むことが好ましく、粒子表面に重合性基を有するポリマー粒子を含むことがより好ましい。
更に、上記ポリマー粒子は、耐刷性の観点から、親水性基及び重合性基を有するポリマー粒子を含むことが好まし
上記重合性基は、カチオン重合性基であっても、ラジカル重合性基であってもよいが、反応性の観点からは、ラジカル重合性基であることが好ましい。
上記重合性基としては、重合可能な基であれば特に制限はないが、反応性の観点から、エチレン性不飽和基が好ましく、ビニルフェニル基(スチリル基)、(メタ)アクリロキシ基、又は、(メタ)アクリルアミド基がより好ましく、(メタ)アクリロキシ基が特に好ましい。
また、重合性基を有するポリマー粒子におけるポリマーは、重合性基を有する構成単位を有することが好ましい。
更に、高分子反応によりポリマー粒子表面に重合性基を導入してもよい。
【0182】
また、上記画像記録層は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、上記ポリマー粒子として、分散性基を有する付加重合型樹脂粒子を含むことが好ましく、上記分散性基が、上記式Zで表される基を含むことがより好ましい。
【0183】
また、上記ポリマー粒子は、耐刷性、着肉性、機上現像性、及び、機上現像時の現像カス抑制性の観点から、ウレア結合を有する樹脂を含むことが好ましい。
上記ウレア結合を有する樹脂としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0184】
また、上記画像記録層は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、熱可塑性樹脂粒子を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂は、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、それらの共重合体等が挙げられる。熱可塑性樹脂はラテックス状態
であってもよい。
本開示に係る熱可塑性樹脂は、後述する露光工程において生成された熱により、熱可塑性樹脂が溶融又は軟化することで、画像記録層を形成する疎水性の膜の一部又は全部を形成する樹脂であることが好ましい。
【0185】
上記熱可塑性樹脂としては、インキ着肉性及び耐刷性の観点から、芳香族ビニル化合物により形成される構成単位、及び、シアノ基を有する構成単位を有する樹脂を含むことが好ましい。
芳香族ビニル化合物により形成される構成単位、及び、シアノ基を有する構成単位を有する樹脂としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0186】
上記熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂は、耐刷性及び機上現像性の観点から、親水性基を有することが好ましい。
親水性基としては、親水性を有する構造であれば、特に制限はないが、カルボキシ基等の酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、ポリアルキレンオキシド構造等が挙げられる。
上記親水性基としては、耐刷性及び機上現像性の観点から、ポリアルキレンオキシド構造を有する基、ポリエステル構造を有する基、又は、スルホン酸基であることが好ましく、ポリアルキレンオキシド構造を有する基、又は、スルホン酸基であることがより好ましく、ポリアルキレンオキシド構造を有する基であることが更に好ましい。
【0187】
上記ポリアルキレンオキシド構造としては、機上現像性の観点から、ポリエチレンオキシド構造、ポリプロピレンオキシド構造、又は、ポリ(エチレンオキシド/プロピレンオキシド)構造であることが好ましい。
また、機上現像性の観点からは、上記親水性基の中でもポリアルキレンオキシド構造として、ポリプロピレンオキシド構造を有することが好ましく、ポリエチレンオキシド構造及びポリプロピレンオキシド構造を有することがより好ましい。
上記ポリアルキレンオキシド構造におけるアルキレンオキシド構造の数は、機上現像性の観点から、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、5~200であることが更に好ましく、8~150であることが特に好ましい。
【0188】
また、機上現像性の観点から、上記親水性基として、上記式Zで表される基が好ましい。
【0189】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、耐刷性及びインキ着肉性の観点から、60℃~150℃であることが好ましく、80℃~140℃であることがより好ましく、90℃~130℃であることが更に好ましい。
熱可塑性樹脂粒子が2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合には、後述するFOX式により求められた値を、熱可塑性樹脂のガラス転移温度という。
【0190】
本開示において、樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定することができる。
具体的な測定方法は、JIS K 7121(1987年)又はJIS K 6240(2011年)に記載の方法に順じて行う。本明細書におけるガラス転移温度は、補外ガラス転移開始温度(以下、Tigと称することがある)を用いている。
ガラス転移温度の測定方法をより具体的に説明する。
ガラス転移温度を求める場合、予想される樹脂のTgより約50℃低い温度にて装置が安定するまで保持した後、加熱速度:20℃/分で、ガラス転移が終了した温度よりも約30℃高い温度まで加熱し,示差熱分析(DTA)曲線又はDSC曲線を作成する。
補外ガラス転移開始温度(Tig)、すなわち、本明細書におけるガラス転移温度Tgは、DTA曲線又はDSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度として求める。
【0191】
熱可塑性樹脂粒子が2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂のTgは下記のように求められる。
1つ目の熱可塑性樹脂のTgをTg1(K)、熱可塑性樹脂粒子における熱可塑性樹脂成分の合計質量に対する1つ目の熱可塑性樹脂の質量分率をW1とし、2つ目のTgをTg2(K)とし、熱可塑性樹脂粒子における熱可塑性樹脂成分の合計質量に対する2つ目の樹脂の質量分率をW2としたときに、熱可塑性樹脂粒子のTg0(K)は、以下のFOX式にしたがって推定することが可能である。
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)
また、熱可塑性樹脂粒子が3種の樹脂を含むか、含まれる熱可塑性樹脂種の異なる3種の熱可塑性樹脂粒子が前処理液に含有される場合、熱可塑性樹脂粒子のTgは、n個目の樹脂のTgをTgn(K)、熱可塑性樹脂粒子における樹脂成分の合計質量に対するn個目の樹脂の質量分率をWnとしたときに、上記と同様、以下の式にしたがって推定することが可能である。
FOX式:1/Tg0=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+(W3/Tg3)・・・+(Wn/Tgn)
【0192】
示差走査熱量計(DSC)としては、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー社のEXSTAR6220を用いることができる。
【0193】
熱可塑性樹脂粒子の算術平均粒子径は、耐刷性の観点から、1nm以上200nm以下であることが好ましく、3nm以上80nm未満であることがより好ましく、10nm以上49nm以下であることが更に好ましい。
【0194】
本開示における熱可塑性樹脂粒子における算術平均粒子径は、特に断りのない限り、動的光散乱法(DLS)によって測定された値を指す。DLSによる熱可塑性樹脂粒子の算術平均粒子径の測定は、Brookhaven BI-90(Brookhaven Instrument Company製)を用い、上記機器のマニュアルに沿って行われる。
【0195】
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、3,000~300,000であることが好ましく、5,000~100,000であることがより好ましい。
【0196】
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により製造することができる。
例えば、スチレン化合物と、アクリロニトリル化合物と、必要に応じてN-ビニル複素環化合物、エチレン性不飽和基を有する構成単位の形成に用いられる化合物、酸性基を有する構成単位の形成に用いられる化合物、疎水性基を有する構成単位の形成に用いられる化合物、及び、その他の構成単位の形成に用いられる化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物、とを、公知の方法により重合することにより得られる。
【0197】
熱可塑性樹脂粒子に含まれる熱可塑性樹脂の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0198】
上記粒子の平均粒径は、0.01μm~3.0μmが好ましく、0.03μm~2.0μmがより好ましく、0.10μm~1.0μmが更に好ましい。この範囲で良好な解像
度と経時安定性が得られる。
本開示における上記粒子の平均一次粒径は、光散乱法により測定するか、又は、粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、写真上で粒子の粒径を総計で5,000個測定し、平均値を算出するものとする。なお、非球形粒子については写真上の粒子面積と同一の粒子面積を有する球形粒子の粒径値を粒径とする。
また、本開示における平均粒径は、特に断りのない限り、体積平均粒径であるものとする。
【0199】
上記画像記録層は、粒子、特にポリマー粒子を1種単独で含有していても、2種以上を含有していてもよい。
また、上記画像記録層における粒子、特にポリマー粒子の含有量は、機上現像性、及び、耐刷性の観点から、上記画像記録層の全質量に対し、5質量%~90質量%が好ましく、10質量%~90質量%であることがより好ましく、20質量%~90質量%であることが更に好ましく、50質量%~90質量%であることが特に好ましい。
また、上記画像記録層におけるポリマー粒子の含有量は、機上現像性、及び、耐刷性の観点から、上記画像記録層の分子量3,000以上の成分の全質量に対し、20質量%~100質量%が好ましく、35質量%~100質量%であることがより好ましく、50質量%~100質量%であることが更に好ましく、80質量%~100質量%であることが特に好ましい。
【0200】
〔バインダーポリマー〕
画像記録層は、バインダーポリマーを含んでいてもよい。
上記ポリマー粒子は、上記バインダーポリマーに該当しない。すなわち、バインダーポリマーは、粒子形状ではない重合体である。
バインダーポリマーとしては、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、又は、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0201】
中でも、バインダーポリマーは平版印刷版原版の画像記録層に用いられる公知のバインダーポリマーを好適に使用することができる。一例として、機上現像型の平版印刷版原版に用いられるバインダーポリマー(以下、機上現像用バインダーポリマーともいう。)について、詳細に記載する。
機上現像用バインダーポリマーとしては、アルキレンオキシド鎖を有するバインダーポリマーが好ましい。アルキレンオキシド鎖を有するバインダーポリマーは、ポリ(アルキレンオキシド)部位を主鎖に有していても側鎖に有していてもよい。また、ポリ(アルキレンオキシド)を側鎖に有するグラフトポリマーでも、ポリ(アルキレンオキシド)含有繰返し単位で構成されるブロックと(アルキレンオキシド)非含有繰返し単位で構成されるブロックとのブロックコポリマーでもよい。
ポリ(アルキレンオキシド)部位を主鎖に有する場合は、ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリ(アルキレンオキシド)部位を側鎖に有する場合の主鎖のポリマーとしては、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、天然ゴムが挙げられ、特に(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0202】
また、バインダーポリマーの他の好ましい例として、6官能以上10官能以下の多官能チオールを核として、この核に対しスルフィド結合により結合したポリマー鎖を有し、上記ポリマー鎖が重合性基を有する高分子化合物(以下、星型高分子化合物ともいう。)が挙げられる。
星型高分子化合物は、硬化性の観点から、エチレン性不飽和基等の重合性基を、主鎖又は側鎖、より好ましくは側鎖に有しているものが好ましく挙げられる。
星型高分子化合物としては、例えば、特開2012-148555号公報、又は、国際公開第2020/262692号に記載のものが挙げられる。
【0203】
バインダーポリマーの分子量は、GPC法によるポリスチレン換算値として重量平均分子量(Mw)が、2,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000~300,000であることが更に好ましい。
【0204】
必要に応じて、特開2008-195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーを併用することができる。また、親油的なポリマーと親水的なポリマーとを併用することもできる。
【0205】
また、上記画像記録層は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、芳香族ビニル化合物により形成される構成単位を有するポリマーを含むことが好ましく、芳香族ビニル化合物により形成される構成単位を有するポリマーを含み、かつ赤外線露光により分解する赤外線吸収剤を含むことがより好ましい。
【0206】
また、本開示に用いられるバインダーポリマーは、例えば、経時による機上現像性の低下を抑制する観点から、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以上であることが特に好ましい。
また、バインダーポリマーのガラス転移温度の上限としては、画像記録層への水の浸み込みやすさの観点から、200℃が好ましく、120℃以下がより好ましい。
【0207】
上記のガラス転移温度を有するバインダーポリマーとしては、経時による機上現像性の低下をより抑制する観点から、ポリビニルアセタールが好ましい。
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基をアルデヒドにてアセタール化させて得られた樹脂である。
特に、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基を、ブチルアルデヒドでアセタール化(即ち、ブチラール化)したポリビニルブチラールが好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、耐刷性向上の観点から、エチレン性不飽和基を有することが好ましい。
ポリビニルアセタールとしては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0208】
本開示における画像記録層には、フッ素原子を有する樹脂を含有することが好ましく、フルオロ脂肪族基含有共重合体を含有することがより好ましい。
フッ素原子を有する樹脂、特にフルオロ脂肪族基含有共重合体を用いることで、画像記録層の形成時の発泡による面質異常を抑制し、塗布面状を高めることができ、更に、形成された画像記録層のインキの着肉性を高められる。
また、フルオロ脂肪族基含有共重合体を含む画像記録層は、階調が高くなり、例えば、レーザー光に対して高感度となり、散乱光、反射光等によるかぶり性が良好で耐刷性に優れる平版印刷版が得られる。
【0209】
上記フルオロ脂肪族基含有共重合体としては、国際公開第2020/262692号に記載のものを好適に用いることができる。
【0210】
本開示において用いられる画像記録層においては、バインダーポリマーを1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
バインダーポリマーは、画像記録層中に任意な量で含有させることができるが、バインダーポリマーの含有量は、画像記録層の全質量に対して、1質量%~90質量%であるこ
とが好ましく、5質量%~80質量%であることがより好ましい。
【0211】
〔重合禁止剤〕
画像記録層は、経時安定性の観点から、重合禁止剤を含むことが好ましい。画像記録層が重合禁止剤を含むことにより、画像記録層の製造中又は保存中において重合性化合物、特にラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止することができる。
重合禁止剤としては、具体的には、例えば、ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ピロガロール、t-ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が好適に挙げられる。
【0212】
重合禁止剤としては、経時安定性の観点から、下記式(Ph)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0213】
【0214】
式(Ph)中、XPはO、S又はNHを表し、YPはN又はCHを表し、RP1は水素原子又はアルキル基を表し、RP2及びRP3はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキル基、アリール基、アシルチオ基又はアシル基を表し、mp及びnpはそれぞれ独立に、0~4の整数を表す。
【0215】
式(Ph)におけるXPは、経時安定性の観点から、O又はSであることが好ましく、Sであることがより好ましい。
式(Ph)におけるYPは、経時安定性の観点から、Nであることが好ましい。
式(Ph)におけるRP1は、経時安定性の観点から、水素原子、又は、メチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
式(Ph)におけるRP2及びRP3はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アルキル基、又は、アリール基であることが好ましい。
式(Ph)におけるmp及びnpはそれぞれ独立に、経時安定性の観点から、0~2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることが特に好ましい。
【0216】
本開示において用いられる画像記録層においては、重合禁止剤を1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
重合禁止剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.001質量%~5質量%であることが好ましく、0.01質量%~1質量%であることがより好ましい。
【0217】
〔連鎖移動剤〕
本開示において用いられる画像記録層は、連鎖移動剤を含有してもよい。連鎖移動剤は、平版印刷版における耐刷性の向上に寄与する。
連鎖移動剤としては、チオール化合物が好ましく、沸点(揮発し難さ)の観点で炭素数7以上のチオール化合物がより好ましく、芳香環上にメルカプト基を有する化合物(芳香族チオール化合物)が更に好ましい。上記チオール化合物は単官能チオール化合物であることが好ましい。
連鎖移動剤の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0218】
連鎖移動剤は、1種のみを添加しても、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の含有量は、画像記録層の全質量に対し、0.01質量%~50質量%が好ましく、0.05質量%~40質量%がより好ましく、0.1質量%~30質量%が更に好ましい。
【0219】
〔感脂化剤〕
画像記録層は、インキ着肉性を向上させるために、感脂化剤を更に含有することが好ましい。
上記感脂化剤としては、例えば、オニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマー等のアンモニウム化合物などが挙げられる。
特に、保護層に無機層状化合物を含有させる場合、これら化合物は、無機層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機層状化合物による印刷途中の着肉性低下を抑制することができる。
【0220】
また、感脂化剤は、着肉性の観点から、オニウム化合物であることが好ましい。
オニウム化合物としては、ホスホニウム化合物、アンモニウム化合物、スルホニウム化合物等が挙げられ、オニウム化合物としては、上記観点から、ホスホニウム化合物及びアンモニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1つが好ましい。
アンモニウム化合物としては、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマー等を好ましく挙げることができる。
感脂化剤の具体例としては、国際公開第2020/262692号に記載のものが好適に挙げられる。
【0221】
感脂化剤の含有量は、画像記録層の全質量に対して、1質量%~40.0質量%が好ましく、2質量%~25.0質量%がより好ましく、3質量%~20.0質量%が更に好ましい。
【0222】
画像記録層は、感脂化剤を1種単独で含有してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本開示において用いられる画像記録層の好ましい態様の一つは、感脂化剤として、2種以上の化合物を含有する態様である。
具体的には、本開示において用いられる画像記録層は、機上現像性及び着肉性を両立させる観点から、感脂化剤としては、ホスホニウム化合物と、含窒素低分子化合物と、アンモニウム基含有ポリマーと、を併用することが好ましく、ホスホニウム化合物と、第四級アンモニウム塩類と、アンモニウム基含有ポリマーと、を併用することがより好ましい。
【0223】
〔その他の成分〕
画像記録層には、その他の成分として、現像促進剤、界面活性剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機層状化合物等を含有することができる。具体的には、特開2008-284817号公報の段落0114~段落0159の記載を参照することができる。
また、上記現像促進剤としては、例えば、国際公開第2020/262692号に記載
のものを用いてもよい。
【0224】
〔画像記録層の形成〕
本開示に係る平版印刷版原版における画像記録層は、例えば、特開2008-195018号公報の段落0142~段落0143に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、塗布液を支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
溶剤としては、公知の溶剤を用いることができる。具体的には、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメーチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-プロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。溶剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。塗布液中の固形分濃度は1質量%~50質量%であることが好ましい。
塗布、乾燥後における画像記録層の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性を得る観点から、0.3g/m2~3.0g/m2が好ましい。
また、上記画像記録層の層厚は、0.1μm~3.0μmであることが好ましく、0.3μm~2.0μmであることがより好ましい。
本開示において、平版印刷版原版における各層の層厚は、平版印刷版原版の表面に対して垂直な方向に切断した切片を作製し、上記切片の断面を走査型顕微鏡(SEM)により観察することにより確認される。
【0225】
<支持体>
本開示に係る平版印刷版原版は、支持体を有する。
支持体としては、公知の平版印刷版原版用支持体から適宜選択して用いることができる。
支持体としては、親水性表面を有する支持体(以下、「親水性支持体」ともいう。)が好ましい。
【0226】
本開示における支持体としては、公知の方法で粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が好ましい。即ち、本開示における支持体は、アルミニウム板とアルミニウム板上に配置されたアルミニウムの陽極酸化被膜とを有することが好ましい。
【0227】
また、上記支持体は、アルミニウム板と、上記アルミニウム板上に配置されたアルミニウムの陽極酸化皮膜とを有し、上記陽極酸化皮膜が、上記アルミニウム板よりも上記画像記録層側に位置し、上記陽極酸化皮膜が、上記画像記録層側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有し、上記マイクロポアの上記陽極酸化皮膜表面における平均径が、10nmを超え100nm以下であることが好ましい。
更に、上記マイクロポアが、上記陽極酸化皮膜表面から深さ10nm~1,000nmの位置までのびる大径孔部と、上記大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ20nm
~2,000nmの位置までのびる小径孔部とから構成され、上記大径孔部の上記陽極酸化皮膜表面における平均径が、15nm~100nmであり、上記小径孔部の上記連通位置における平均径が、13nm以下であることが好ましい。
【0228】
また、上記支持体は、アルミニウム板と、上記アルミニウム板上に配置されたアルミニウムの陽極酸化皮膜と、を有し、上記陽極酸化皮膜が、上記アルミニウム板よりも上記画像記録層側に位置し、上記陽極酸化皮膜が、上記画像記録層側の表面から深さ方向にのびるマイクロポアを有し、上記マイクロポアが、上記陽極酸化皮膜表面から深さ10nm~1,000nmの位置までのびる小径孔部と、上記小径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ20nm~2,000nmの位置までのびる大径孔部とから構成され、上記小径孔部の上記陽極酸化皮膜表面における平均径が、35nm以下であり、上記大径孔部の平均最大径が、40nm~300nmであることが好ましい。
上記態様の支持体は、後述する処理において、第1段階の陽極酸化処理として、リン酸水溶液を使用し、第2段階の陽極酸化処理として、硫酸水溶液を使用することにより、容易に作製することができる。
【0229】
本支持体の引張強度は、160MPa以上であることが好ましい。
引張強度の測定は、引張強度測定機としてオートグラフAGC-H5KN(島津製作所製)を使用し、サンプル:JIS 金属材料引張試験片 5号型により、引張速度:2mm/分にて実施する。
【0230】
支持体の引張強度は、160Mpa以上であることが好ましく、170MPa以上であることがより好ましく、190MPa以上であることが特に好ましい。
また、支持体の引張強度の最大値は、特に限定されないが、好ましくは300MPa以下であり、より好ましくは250MPa以下であり、更に好ましくは220MPa以下である。
支持体の引張強度を160Mpa以上とするには、特に限定されないが、例えば、後述のように、支持体中に特定量のマグネシウムを含有させることや、支持体の圧延工程における圧下率を特定量以上とすることが挙げられる。
【0231】
支持体としては、アルミニウム支持体が好ましい。このようなアルミニウム支持体に用いられるアルミニウム板は、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属、即ちアルミニウム又はアルミニウム合金からなる。純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし微量の異元素を含む合金から選ばれることが好ましい。
【0232】
アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。純アルミニウム板が好適であるが、完全に純粋なアルミニウムは製錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有する合金でもよい。アルミニウム支持体に用いられるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来から公知のアルミニウム板、例えばJIS A 1050、JIS A 1100、JIS A 3103、JIS A 3005などを上記の引張強度としたものを適宜利用することが出来る。
【0233】
上記支持体がアルミニウム支持体であって、上記アルミニウム支持体がマグネシウムを0.020質量%以上含むことが好ましい。アルミニウム支持体におけるマグネシウム含有量(含有率)を0.020質量%以上とすることにより、引張強度が160Mpa以上の支持体を好適に得ることができる。
支持体におけるマグネシウム含有量は、0.020質量%以上であることが好ましく、0.040質量%以上がより好ましく、0.060質量%以上であることが更に好ましい
。
また、支持体におけるマグネシウム含有量は、特に限定されないが、通常、0.200質量%以下であり、0.150質量%以下であることが好ましく、0.100質量%以下であることがより好ましい。
【0234】
支持体における、マグネシウム含有率は、測定装置として発光分析装置(PDA-5500、(株)島津製作所製)を用い、測定した。
【0235】
また、上記支持体がアルミニウム支持体であって、上記アルミニウム支持体は、上記アルミニウム支持体を構成するアルミニウム板が圧延工程において、250℃以上で熱処理された後に冷間圧延の圧下率を80%以上としたものであることが好ましく、これにより、引張強度が160Mpa以上の支持体を好適に得ることができる。
熱処理後の冷間圧延工程での圧下率を制御することによって、支持体(好ましくはアルミニウム支持体)の引張強度を制御することができる。ここでの圧下率とは、圧延前後の材料の板厚をそれぞれh1,h2とするとき,(h1-h2)/h1で算出される量で,圧延の加工度を表しており、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が更に好ましい。
また、圧下率は、99%未満が好ましく、98%以下であることがより好ましい。
支持体(好ましくは、アルミニウム板)の厚さは、0.1mm~0.6mm程度が好ましい。
【0236】
〔陽極酸化皮膜〕
上記支持体は、陽極酸化皮膜を有することが好ましい。
陽極酸化皮膜は、陽極酸化処理によって支持体(好ましくは、アルミニウム板)の表面に形成される、極微細孔(マイクロポアともいう。)を有する陽極酸化皮膜(好ましくは、陽極酸化アルミニウム皮膜)を意味する。マイクロポアは、支持体とは反対側の陽極酸化皮膜表面から厚み方向(支持体側、深さ方向)に沿ってのびている。
マイクロポアの陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径)は、調子再現性、耐刷性及びブラン汚れ性の観点から、7nm~150nmが好ましく、10nm~100nmがより好ましく、10nm~60nmが更に好ましく、15nm~60nmが特に好ましく、18nm~40nmが最も好ましい。
マイクロポアの深さは、10nm~3,000nmが好ましく、10nm~2,000nmがより好ましく、10nm~1,000nmが更に好ましい。
【0237】
マイクロポアの形状は、通常、マイクロポアの径が深さ方向(厚み方向)に向かってほぼ変わらない略直管状(略円柱状)であるが、深さ方向(厚み方向)に向かって径が連続的に小さくなる円錐状であってもよい。また、深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で小さくなる形状であってもよい。
深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で小さくなる形状のマイクロポアとしては、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に延びる大径孔部と、大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ方向に延びる小径孔部とから構成されるマイクロポアが挙げられる。
【0238】
具体的には、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に10nm~1,000nmのびる大径孔部と、大径孔部の底部と連通し、連通位置から更に深さ方向に20~2,000nmのびる小径孔部とから構成されるマイクロポアが好ましい。
以下に、大径孔部及びと小径孔部について詳述する。
【0239】
-大径孔部-
大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径)は、調子再現性、耐刷性及びブラン汚れ性の観点から、7nm~150nmが好ましく、10nm~100nmがよ
り好ましく、15nm~100nmが更に好ましく、15nm~60nmが特に好ましく、18nm~40nmが最も好ましい。
大径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。
なお、大径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0240】
大径孔部の底部は、陽極酸化皮膜表面から深さ70nm~1,000nm(以後、深さAともいう。)に位置することが好ましい。つまり、大径孔部は、陽極酸化皮膜表面から深さ方向(厚み方向)に70nm~1,000nmのびる孔部であることが好ましい。中でも、平版印刷版原版の製造方法の効果がより優れる点で、深さAは、90nm~850nmがより好ましく、90nm~800nmが更に好ましく、90nm~600nmが特に好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0241】
大径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向(厚み方向)に向かって径が小さくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、大径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
大径孔部の内径は特に制限されないが、開口部の径と同程度の大きさか、又は開口部の径よりも小さいことが好ましい。なお、大径孔部の内径は、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0242】
-小径孔部-
小径孔部は、大径孔部の底部と連通して、連通位置より更に深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。ひとつの小径孔は、通常ひとつの大径孔部と連通するが、2つ以上の小径孔部がひとつの大径孔部の底部と連通していてもよい。
小径孔部の連通位置における平均径は、15nmより小さいことが好ましく、13nm以下がより好ましく、11nm以下がより好ましく、10nm以下が特に好ましい。下限は特に制限されないが、5nmが好ましい。
【0243】
小径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍のFE-SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(小径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。なお、大径孔部の深さが深い場合は、必要に応じて、陽極酸化皮膜上部(大径孔部のある領域)を切削し(例えば、アルゴンガスによって切削)、その後陽極酸化皮膜表面を上記FE-SEMで観察して、小径孔部の平均径を求めてもよい。
なお、小径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0244】
小径孔部の底部は、上記の大径孔部との連通位置(上述した深さAに該当)から更に深さ方向に20nm~2,000nmのびた場所に位置することが好ましい。言い換えると、小径孔部は、上記大径孔部との連通位置から更に深さ方向(厚み方向)にのびる孔部であり、小径孔部の深さは20nm~2,000nmが好ましく、100nm~1,500nmがより好ましく、200nm~1,000nmが特に好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の小径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0245】
小径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向に向かって径が小さくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、小径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
小径孔部の内径は特に制限されないが、連通位置における径と同程度の大きさか、又は上記径よりも小さくても大きくてもよい。なお、小径孔部の内径は、通常、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0246】
大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径と小径孔部の連通位置における平均径の比、(大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径)/(小径孔部の連通位置における平均径)は、1.1~13が好ましく、2.5~6.5がより好ましい。
また、大径孔部の深さと小径孔部の深さの比、(大径孔部の深さ)/(小径孔部の深さ)は、0.005~50が好ましく、0.025~40がより好ましい。
【0247】
また、マイクロポアの形状は、マイクロポアの径が深さ方向(厚み方向)に向かってほぼ変わらない略直管状(略円柱状)であるが、深さ方向(厚み方向)に向かって径が連続的に大きくなる円錐状であってもよい。また、深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で大きくなる形状であってもよい。
深さ方向(厚み方向)に向かって径が不連続で大きくなる形状のマイクロポアとしては、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に延びる小径孔部と、小径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ方向に延びる大径孔部とから構成されるマイクロポアが挙げられる。
【0248】
具体的には、陽極酸化皮膜表面から深さ方向に10nm~1,000nmのびる小径孔部と、小径孔部の底部と連通し、連通位置から更に深さ方向に20nm~2,000nmのびる大径孔部とから構成されるマイクロポアが好ましい。
【0249】
-小径孔部-
小径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(平均開口径)は、特に限定されないが、35nm以下が好ましく、25nm以下がより好ましく、20nm以下が特に好ましい。下限は特に制限されないが、15nmが好ましい。
小径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。
なお、小径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0250】
小径孔部の底部は、陽極酸化皮膜表面から深さ70nm~1,000nm(以後、深さA’ともいう。)に位置することが好ましい。つまり、小径孔部は、陽極酸化皮膜表面から深さ方向(厚み方向)に70nm~1,000nmのびる孔部であることが好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0251】
小径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向(厚み方向)に向かって径が大きくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、小径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
小径孔部の内径は特に制限されないが、開口部の径と同程度の大きさか、又は開口部の径よりも小さいことが好ましい。なお、小径孔部の内径は、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0252】
-大径孔部-
大径孔部は、小径孔部の底部と連通して、連通位置より更に深さ方向(厚み方向)に延びる孔部である。ひとつの大径孔は、通常、2つ以上の小径孔部がひとつの大径孔部の底部と連通していてもよい。
大径孔部の連通位置における平均径は、20nm~400nmが好ましく、40nm~300nmがより好ましく、50nm~200nmが更に好ましく、50nm~100nmが特に好ましい。
【0253】
大径孔部の平均径は、陽極酸化皮膜表面を倍率15万倍のFE-SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部)の径(直径)を測定し、径の算術平均値を求めることにより算出される。なお、小径孔部の深さが深い場合は、必要に応じて、陽極酸化皮膜上部(小径孔部のある領域)を切削し(例えば、アルゴンガスによって切削)、その後陽極酸化皮膜表面を上記FE-SEMで観察して、大径孔部の平均径を求めてもよい。
なお、大径孔部の形状が円状でない場合は、円相当径を用いる。「円相当径」とは、開口部の形状を、開口部の投影面積と同じ投影面積をもつ円と想定したときの円の直径である。
【0254】
大径孔部の底部は、上記の小径孔部との連通位置(上述した深さA’に該当)から更に深さ方向に20nm~2,000nmのびた場所に位置することが好ましい。言い換えると、大径孔部は、上記小径孔部との連通位置から更に深さ方向(厚み方向)にのびる孔部であり、大径孔部の深さは20nm~2,000nmが好ましく、100nm~1,500nmがより好ましく、200nm~1,000nmが特に好ましい。
なお、上記深さは、陽極酸化皮膜の断面の写真(15万倍)をとり、25個以上の大径孔部の深さを測定し、算術平均値として算出される。
【0255】
大径孔部の形状は特に限定されず、例えば、略直管状(略円柱状)、及び、深さ方向に向かって径が小さくなる円錐状が挙げられ、略直管状が好ましい。また、大径孔部の底部の形状は特に限定されず、曲面状(凸状)であっても、平面状であってもよい。
大径孔部の内径は特に制限されないが、連通位置における径と同程度の大きさか、又は上記径よりも小さくても大きくてもよい。なお、大径孔部の内径は、通常、開口部の径と1nm~10nm程度の差があってもよい。
【0256】
上記支持体が陽極酸化皮膜を有し、
上記陽極酸化皮膜が、陽極酸化皮膜の表面から深さ方向に向かって順に、
平均径が20nm~100nmのマイクロポアを有する、厚さ30nm~500nmの上層、
平均径が上記マイクロポア上層におけるマイクロポアの平均径の1/2~5倍のマイクロポアを有する、厚さ100nm~300nmの中間層、及び
平均径が15nm以下のマイクロポアを有する、厚さ300nm~2,000nmの下層を有することが好ましい。
【0257】
機上現像型平版印刷版原版においては、画像視認性向上の観点から、支持体の陽極酸化皮膜表面(画像記録層が形成される側の表面)における明度が高いことが有用である。
平版印刷版の印刷工程においては、通常、印刷版を印刷機に取り付ける前に目的通りの画像記録がなされているかを確認する目的で、検版作業が行われる。機上現像型平版印刷
版原版においては、画像露光された段階で画像を確認することが求められるため、画像露光部にいわゆる焼き出し画像を生じさせる手段が適用される。
画像露光された機上現像型平版印刷版原版の画像部の見易さ(画像視認性)を定量的に評価する方法として、画像露光部の明度と未露光部の明度を測定し、両者の差を求める方法が挙げられる。ここで、明度としては、CIEL*a*b*表色系における明度L*の値を用いることができ、測定は、色彩色差計(SpectroEye、エックスライト(株)製)を用いて行うことができる。測定により得られた画像露光部の明度と未露光部の明度との差が大きい程、画像部が見易いこととなる。
画像露光部の明度と未露光部の明度との差を大きくするためには、陽極酸化皮膜表面のCIEL*a*b*表色系における明度L*の値が大きいことが有効であることが判明した。即ち、明度L*の値は60~100であることが好ましい。
【0258】
陽極酸化皮膜を有する支持体は、必要に応じて、2つ以上の水酸基を有するヒドロキシ酸化合物を含有する構成層が形成される側とは反対側の面に、特開平5-45885号公報に記載の有機高分子化合物又は特開平6-35174号公報に記載のケイ素のアルコキシ化合物などを含むバックコート層を有していてもよい。
【0259】
〔陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造〕
支持体の例として、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法について記載する。
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体は公知の方法を用いて製造することができる。陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法は、特に限定されるものではない。陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法の好ましい形態としては、アルミニウム板に粗面化処理を施す工程(粗面化処理工程)、粗面化処理されたアルミニウム板を陽極酸化する工程(陽極酸化処理工程)、陽極酸化処理工程で得られた陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板を、酸水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、陽極酸化皮膜中のマイクロポアの径を拡大させる工程(ポアワイド処理工程)を含む方法が挙げられる。
【0260】
以下に、各工程を詳細に説明する。
【0261】
<<粗面化処理工程>>
粗面化処理工程は、アルミニウム板の表面に、電気化学的粗面化処理を含む粗面化処理を施す工程である。粗面化処理工程は、後述する陽極酸化処理工程の前に実施されることが好ましいが、アルミニウム板の表面がすでに好ましい表面形状を有していれば、実施しなくてもよい。
【0262】
粗面化処理は、電気化学的粗面化処理のみを施してもよいが、電気化学的粗面化処理と機械的粗面化処理及び化学的粗面化処理の少なくとも一つとを組み合わせて施してもよい。
機械的粗面化処理と電気化学的粗面化処理とを組み合わせる場合には、機械的粗面化処理の後に、電気化学的粗面化処理を施すことが好ましい。
【0263】
電気化学的粗面化処理は、硝酸や塩酸の水溶液中で施すことが好ましい。
【0264】
機械的粗面化処理は、一般的には、アルミニウム板の表面を表面粗さRa:0.35μm~1.0μmとすることを目的として施される。
機械的粗面化処理の諸条件は特に限定されないが、例えば、特公昭50-40047号公報に記載されている方法に従って施すことができる。機械的粗面化処理は、パミストン懸濁液を使用したブラシグレイン処理により施したり、転写方式で施したりすることができる。
また、化学的粗面化処理も特に限定されず、公知の方法に従って施すことができる。
【0265】
機械的粗面化処理の後には、以下の化学エッチング処理を施すことが好ましい。
機械的粗面化処理の後に施される化学エッチング処理は、アルミニウム板の表面の凹凸形状のエッジ部分をなだらかにし、印刷時のインキの引っかかりを防止し、平版印刷版の耐汚れ性を向上させるとともに、表面に残った研磨材粒子などの不要物を除去するために行われる。
化学エッチング処理としては、酸によるエッチングやアルカリによるエッチングが知られているが、エッチング効率の点で特に優れている方法として、アルカリ溶液を用いる化学エッチング処理(以下、「アルカリエッチング処理」ともいう。)が挙げられる。
【0266】
アルカリ溶液に用いられるアルカリ剤は、特に限定されないが、例えば、カセイソーダ、カセイカリ、メタケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、グルコン酸ソーダなどが好適に挙げられる。
アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有してもよい。アルカリ溶液のアルカリ剤の濃度は、0.01質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、また、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
更に、アルカリ溶液の温度は室温以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、また、80℃以下が好ましく、75℃以下がより好ましい。
【0267】
エッチング量は、0.01g/m2以上が好ましく、0.05g/m2以上がより好ましく、また、30g/m2以下が好ましく、20g/m2以下がより好ましい。
処理時間は、エッチング量に対応して2秒~5分が好ましく、生産性向上の点から2秒~10秒がより好ましい。
【0268】
機械的粗面化処理後にアルカリエッチング処理を施した場合、アルカリエッチング処理により生じる生成物を除去するために、低温の酸性溶液を用いて化学エッチング処理(以下、「デスマット処理」ともいう。)を施すことが好ましい。
酸性溶液に用いられる酸は、特に限定されないが、例えば、硫酸、硝酸、塩酸が挙げられる。酸性溶液の濃度は1~50質量%が好ましい。酸性溶液の温度は20℃~80℃が好ましい。酸性溶液の濃度及び温度がこの範囲であると、アルミニウム支持体を用いた平版印刷版における耐ポツ状汚れ性能がより向上する。
【0269】
粗面化処理工程の好ましい態様を以下に例示する。
-態様SA-
(1)から(8)に示す処理をこの順に実施する態様。
(1)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第1アルカリエッチング処理)
(2)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第1デスマット処理)
(3)硝酸を主体とする水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(第1電気化学的粗面化処理)
(4)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第2アルカリエッチング処理)
(5)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第2デスマット処理)
(6)塩酸を主体とする水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(第2電気化学的粗面化処理)
(7)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第3アルカリエッチング処理)
(8)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第3デスマット処理)
【0270】
-態様SB-
(11)から(15)に示す処理をこの順に実施する態様。
(11)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第4アルカリエッチング処理)
(12)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第4デスマット処理)
(13)塩酸を主体とする水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(第3電気化学的粗面化処理)
(14)アルカリ水溶液を用いた化学エッチング処理(第5アルカリエッチング処理)
(15)酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第5デスマット処理)
【0271】
上記態様SAの(1)の処理前、又は、態様SBの(11)の処理前に、必要に応じて、機械的粗面化処理を実施してもよい。
【0272】
第1アルカリエッチング処理及び第4アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、0.5g/m2~30g/m2が好ましく、1.0g/m2~20g/m2がより好ましい。
【0273】
態様SAにおける第1電気化学的粗面化処理で用いる硝酸を主体とする水溶液としては、直流又は交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いる水溶液が挙げられる。例えば、1g/L~100g/Lの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、又は、硝酸アンモニウムなどを添加して得られる水溶液が挙げられる。
態様SAにおける第2電気化学的粗面化処理及び態様SBにおける第3電気化学的粗面化処理で用いる塩酸を主体とする水溶液としては、直流又は交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いる水溶液が挙げられる。例えば、1g/L~100g/Lの塩酸水溶液に、硫酸を0g/L~30g/L添加して得られる水溶液が挙げられる。なお、この水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、又は硝酸アンモニウムなどの硝酸イオン;塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、又は塩化アンモニウムなどの塩化物イオンを更に添加してもよい。
【0274】
電気化学的粗面化処理の交流電源波形は、サイン波、矩形波、台形波、又は三角波などを用いることができる。周波数は0.1Hz~250Hzが好ましい。
図1は、電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
図1において、taはアノード反応時間、tcはカソード反応時間、tpは電流が0からピークに達するまでの時間、Iaはアノードサイクル側のピーク時の電流、Icはカソードサイクル側のピーク時の電流である。台形波において、電流が0からピークに達するまでの時間tpは1msec~10msecが好ましい。電気化学的粗面化処理に用いる交流の1サイクルの条件は、アルミニウム板のアノード反応時間taとカソード反応時間tcの比tc/taが1~20、アルミニウム板がアノード時の電気量Qcとアノード時の電気量Qaの比Qc/Qaが0.3~20、アノード反応時間taが5msec~1,000msecの範囲にあることが好ましい。電流密度は台形波のピーク値で電流のアノードサイクル側Ia及びカソードサイクル側Icが共に10~200A/dm
2が好ましい。Ic/Iaは0.3~20が好ましい。電気化学的粗面化処理が終了した時点でのアルミニウム板のアノード反応にあずかる電気量の総和は25C/dm
2~1,000C/dm
2が好ましい。
【0275】
交流を用いた電気化学的粗面化処理には
図2に示した装置を用いることができる。
図2は、交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
図2において、50は主電解槽、51は交流電源、52はラジアルドラムローラ、53a及び53bは主極、54は電解液供給口、55は電解液、56はスリット、57は電解液通路、58は補助陽極、60は補助陽極槽、Wはアルミニウム板である。電解槽を2つ以上用いるときには、電解条件は同じでもよいし、異なっていてもよい。
アルミニウム板Wは主電解槽50中に浸漬して配置されたラジアルドラムローラ52に
巻装され、搬送過程で交流電源51に接続する主極53a及び53bにより電解処理される。電解液55は、電解液供給口54からスリット56を通じてラジアルドラムローラ52と主極53a及び53bとの間の電解液通路57に供給される。主電解槽50で処理されたアルミニウム板Wは、次いで、補助陽極槽60で電解処理される。この補助陽極槽60には補助陽極58がアルミニウム板Wと対向配置されており、電解液55が補助陽極58とアルミニウム板Wとの間の空間を流れるように供給される。
【0276】
第2アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、所定の平版印刷版原版が製造しやすい点で、1.0g/m2~20g/m2が好ましく、2.0g/m2~10g/m2がより好ましい。
【0277】
第3アルカリエッチング処理及び第5アルカリエッチング処理におけるアルミニウム板の溶解量は、所定の平版印刷版原版が製造しやすい点で、0.01g/m2~0.8g/m2が好ましく、0.05g/m2~0.3g/m2がより好ましい。
【0278】
酸性水溶液を用いた化学エッチング処理(第1~第5デスマット処理)では、燐酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、又は、これらの2以上の酸を含む混酸を含む酸性水溶液が好適に用いられる。
酸性水溶液における酸の濃度は0.5質量%~60質量%が好ましい。
【0279】
<<陽極酸化処理工程>>
陽極酸化処理工程は、上記粗面化処理が施されたアルミニウム板に陽極酸化処理を施すことにより、アルミニウム板の表面にアルミニウムの酸化皮膜を形成する工程である。陽極酸化処理によりアルミニウム板の表面に、マイクロポアを有するアルミニウムの陽極酸化皮膜が形成される。
陽極酸化処理は、この分野で従来から知られている方法に従って、所望とするマイクロポアの形状などを考慮して、適宜製造条件を設定することにより行うことができる。
【0280】
陽極酸化処理工程においては、硫酸、リン酸、シュウ酸などの水溶液を主に電解液として用いることができる。場合によっては、クロム酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸など又はこれらの二種以上を組み合わせた水溶液又は非水溶液を用いることもできる。電解液中でアルミニウム板に直流又は交流を流すと、アルミニウム板表面に陽極酸化皮膜を形成することができる。電解液にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。
アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが1g/L~10g/Lが好ましい。
【0281】
陽極酸化処理の条件は使用される電解液によって適宜設定されるが、一般的には、電解液の濃度が1質量%~80質量%(好ましくは5質量%~20質量%)、液温5℃~70℃(好ましくは10℃~60℃)、電流密度0.5A/dm2~60A/dm2(好ましくは5A/dm2~50A/dm2)、電圧1V~100V(好ましくは5V~50V)、電解時間1秒~100秒(好ましくは5秒~60秒)の範囲が適当である。
【0282】
英国特許第1,412,768号明細書に記載されている、硫酸中にて高電流密度で陽極酸化する方法は陽極酸化処理の好ましい一例である。
【0283】
陽極酸化処理は複数回行うこともできる。各陽極酸化処理において使用する電解液の種類、濃度、液温、電流密度、電圧、電解時間などの条件の1つ以上を変更することができる。陽極酸化処理の回数が2の場合、最初の陽極酸化処理を第1陽極酸化処理、2回目の陽極酸化処理を第2陽極酸化処理ということもある。第1陽極酸化処理と第2陽極酸化処理を行うことにより、異なる形状を有する陽極酸化皮膜を形成することができ、印刷性能に優れた平版印刷版原版を提供することが可能となる。
更に、陽極酸化処理に引き続いて下記のポアワイド処理を行い、その後再度陽極酸化処理を行うこともできる。この場合、第1陽極酸化処理、ポアワイド処理、第2陽極酸化処理を行うこととなる。
上記の第1陽極酸化処理、ポアワイド処理、第2陽極酸化処理を行う方法を利用することにより、前述の陽極酸化皮膜表面から深さ方向に延びる大径孔部と、大径孔部の底部と連通し、連通位置から深さ方向に延びる小径孔部とから構成されるマイクロポアを形成することができる。
【0284】
<<ポアワイド処理工程>>
ポアワイド処理工程は、上記陽極酸化処理工程により形成された陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアの径(ポア径)を拡大させる処理(孔径拡大処理)である。このポアワイド処理により、マイクロポアの径が拡大され、より大きな平均径を有するマイクロポアを有する陽極酸化皮膜が形成される。
【0285】
ポアワイド処理は、上記陽極酸化処理工程により得られたアルミニウム板を、酸水溶液又はアルカリ水溶液に接触させることにより行うことができる。接触させる方法は、特に限定されず、例えば、浸せき法、スプレー法が挙げられる。中でも、浸せき法が好ましい。
【0286】
ポアワイド処理工程においてアルカリ水溶液を使用する場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも一つのアルカリ水溶液を用いることが好ましい。アルカリ水溶液の濃度は0.1質量%~5質量%が好ましい。アルカリ水溶液のpHを11~13に調整し、10℃~70℃(好ましくは20℃~50℃)の条件下で、アルミニウム板をアルカリ水溶液に1秒~300秒(好ましくは1℃~50秒)接触させることが適当である。この際、アルカリ処理液中に炭酸塩、硼酸塩、燐酸塩などの多価弱酸の金属塩を含んでもよい。
【0287】
ポアワイド処理工程において酸水溶液を使用する場合、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸などの無機酸又はこれらの混合物の水溶液を用いることが好ましい。酸水溶液の濃度は、1質量%~80質量%が好ましく、5質量%~50質量%がより好ましい。酸水溶液の液温5℃~70℃(好ましくは10℃~60℃)の条件下で、アルミニウム板を酸水溶液に1秒~300秒(好ましくは1行~150秒)接触させることが適当である。
アルカリ水溶液又は酸水溶液中にはアルミニウムイオンが含まれていてもよい。アルミニウムイオンの含有量は特に限定されないが、1g/L~10g/Lが好ましい。
【0288】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム支持体の製造方法は、上記ポアワイド処理工程の後に親水化処理を施す親水化処理工程を含んでいてもよい。親水化処理には、特開2005-254638号公報の段落0109~0114に記載される公知の方法を使用することができる。
【0289】
親水化処理は、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリなどのアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸漬する方法、親水性ビニルポリマー又は親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成する方法などにより行うことが好ましい。
【0290】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリなどのアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書及び米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法及び手順に従って行うことができる。
【0291】
<下塗り層>
本開示に係る平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に下塗り層(中間層と呼ば
れることもある。)を有することが好ましい。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性の低下を抑制しながら現像性を向上させることに寄与する。また、赤外線レーザー露光の場合に、下塗り層が断熱層として機能することにより、露光により発生した熱が支持体に拡散して感度が低下するのを防ぐ効果も有する。
【0292】
下塗り層に用いられる化合物としては、支持体表面に吸着可能な吸着性基及び親水性基を有するポリマーが挙げられる。画像記録層との密着性を向上させるために吸着性基及び親水性基を有し、更に架橋性基を有するポリマーが好ましい。下塗り層に用いられる化合物は、低分子化合物でもポリマーであってもよい。下塗り層に用いられる化合物は、必要に応じて、2種以上を混合して使用してもよい。
【0293】
下塗り層に用いられる化合物がポリマーである場合、吸着性基を有するモノマー、親水性基を有するモノマー及び架橋性基を有するモノマーの共重合体が好ましい。
支持体表面に吸着可能な吸着性基としては、フェノール性ヒドロキシ基、カルボキシ基、-PO3H2、-OPO3H2、-CONHSO2-、-SO2NHSO2-、-COCH2COCH3が好ましい。親水性基としては、スルホ基又はその塩、カルボキシ基の塩が好ましい。架橋性基としては、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基などが好ましい。
ポリマーは、ポリマーの極性置換基と、上記極性置換基と対荷電を有する置換基及びエチレン性不飽和結合を有する化合物との塩形成で導入された架橋性基を有してもよいし、上記以外のモノマー、好ましくは親水性モノマーが更に共重合されていてもよい。
【0294】
具体的には、特開平10-282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性二重結合反応基を有しているシランカップリング剤、特開平2-304441号公報記載のエチレン性二重結合反応基を有しているリン化合物が好適に挙げられる。特開2005-238816号、特開2005-125749号、特開2006-239867号、特開2006-215263号の各公報に記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和基)、支持体表面と相互作用する官能基及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物も好ましく用いられる。
より好ましいものとして、特開2005-125749号及び特開2006-188038号公報に記載の支持体表面に吸着可能な吸着性基、親水性基及び架橋性基を有する高分子ポリマーが挙げられる。
【0295】
下塗り層に用いられるポリマー中のエチレン性不飽和基の含有量は、ポリマー1g当たり、好ましくは0.1mmol~10.0mmol、より好ましくは0.2mmol~5.5mmolである。
下塗り層に用いられるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、5,000以上が好ましく、1万~30万がより好ましい。
【0296】
下塗り層は、上記下塗り層用化合物の他に、経時による汚れ防止のため、キレート剤、第二級又は第三級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基と支持体表面と相互作用する基とを有する化合物(例えば、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6-テトラヒドロキシ-p-キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)等を含有してもよい。
【0297】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1mg/m2~100mg/m2が好ましく、1mg/m2~30mg/m2がより好ましい。
【0298】
<保護層>
本開示に係る平版印刷版原版は、画像記録層の、支持体側とは反対の側の面上に保護層(「オーバーコート層」と呼ばれることもある。)を有することが好ましい。
また、本開示に係る平版印刷版原版は、支持体と、画像記録層と、保護層とをこの順で有することが好ましい。
保護層は酸素遮断により画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有していてもよい。
【0299】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55-49729号公報に記載されている。保護層に用いられる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできるが、機上現像性の観点から、水溶性ポリマーを含むことが好ましい。
本開示において、水溶性ポリマーとは、25℃の水に対する溶解度が5質量%を超えるポリマーを意味する。
保護層において用いられる水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
また、親水性ポリマーは、変性ポリビニルアルコール及びセルロース誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシ基又はスルホ基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005-250216号公報、及び特開2006-259137号公報に記載の変性ポリビニルアルコールが挙げられる。
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0300】
上記水溶性ポリマーの中でも、ポリビニルアルコールを含むことが好ましく、けん化度が50%以上であるポリビニルアルコールを含むことが更に好ましい。
上記けん化度は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、85%以上が更に好ましい。けん化度の上限は特に限定されず、100%以下であればよい。
上記けん化度は、JIS K 6726:1994に記載の方法に従い測定される。
また、保護層の一態様として、ポリビニルアルコールと、ポリエチレングリコールとを含む態様も好ましく挙げられる。
【0301】
本開示における保護層が水溶性ポリマーを含む場合、保護層の全質量に対する水溶性ポリマーの含有量は、1質量%~99質量%であることが好ましく、3質量%~97質量%であることがより好ましく、5質量%~95質量%であることが更に好ましい。
【0302】
保護層は、疎水性ポリマーを含むことが好ましい。
疎水性ポリマーとは、125℃、100gの純水に対し5g未満で溶解するか、又は、溶解しないポリマーをいう。
疎水性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル等)、これらの樹脂の原料モノマーを組み合わせた共重合体等が挙げられる。
また、疎水性ポリマーとしては、ポリビニリデンクロライド樹脂を含むことが好ましい。
更に、疎水性ポリマーとしては、スチレン-アクリル共重合体(スチレンアクリル樹脂ともいう。)を含むことが好ましい。
更にまた、疎水性ポリマーは、機上現像性の観点から、疎水性ポリマー粒子であることが好ましい。
【0303】
疎水性ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0304】
保護層が疎水性ポリマーを含む場合、疎水性ポリマーの含有量は、保護層の全質量に対して、1質量%~70質量%であることが好ましく、5質量%~50質量%であることがより好ましく、10質量%~40質量%であることが更に好ましい。
【0305】
本開示において、疎水性ポリマーの保護層表面における占有面積率が30面積%以上であることが好ましく、40面積%以上であることがより好ましく、50面積%以上であることが更に好ましい。
疎水性ポリマーの保護層表面における占有面積率の上限としては、例えば、90面積%が挙げられる。
疎水性ポリマーの保護層表面における占有面積率は、以下のようにして測定することができる。
アルバック・ファイ社製PHI nano TOFII型飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)を用い、保護層表面に加速電圧30kVでBiイオンビーム(一次イオン)を照射し、表面から放出される疎水部(即ち、疎水性ポリマーによる領域)に相当するイオン(二次イオン)のピークを測定することで、疎水部のマッピングを行い、100μm2あたりに占める疎水部の面積を測定し、疎水部の占有面積率を求め、これを「疎水性ポリマーの保護層表面における占有面積率」とする。
例えば、疎水性ポリマーがアクリル樹脂である場合は、C6H13O-のピークにより測定を行う。また、疎水性ポリマーがポリ塩化ビニリデンである場合は、C2H2Cl+のピークにより測定を行う。
上記占有面積率は、疎水性ポリマーの添加量等によって、調整しうる。
【0306】
保護層は、熱及び/又は赤外線放射への曝露により、より強い電子供与体である基に変化する熱分解性基を含み、熱及び/又は赤外線放射への曝露により印刷画像を形成することができる第2の赤外線吸収剤(以下、画像記録層に含まれる赤外線吸収剤と区別し、特定赤外線吸収剤ともいう)を含むことが好ましい。
【0307】
特定赤外線吸収剤は、下記式(VI)で表される化合物であることが好ましい。
【0308】
【0309】
式(VI)中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立に、任意に置換された芳香族炭化水素基又は任意に置換されたベンゼン環を有する芳香族炭化水素基を表し、W1及びW2はそれぞれ独立に、硫黄原子、酸素原子、NR*を表し、R*は任意に置換されたアルキル基、NH、又は-CM10M11基を表し、M10及びM11はそれぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基又は任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基を表し、M1及びM2はそれぞれ独立に、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、又は、M1及びM2が一緒になって任意に置換された環状構造を形成するのに必要な原子群を表し、M3及びM4はそれぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基を表し、M5~M8はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は任意に置換された脂肪族炭化水素基を表し、M9は、赤外線又は熱への曝露によって誘発される化学反応によって、上記M9よりも強い電子供与体である基に変換され、この変換によって式(VI)で表される化合物の積分光吸収が波長350nmから700nmの間で増加する基であり、電気的に中性な化合物を得るために、任意に1つ又は複数の対イオンを有する。
【0310】
式(VI)におけるM9は、-(N=CR17)a-NR5-CO-R4、-(N=CR17)b-NR5-SO2-R6、-(N=CR17)c-NR11-SO-R12、-S02-NR15R16、及び、-S-CH2-CR7(H)i-d(R8)d-NR9-COOR18のいずれかから選択されることが好ましい。ここで、a、b、c、及びdは、それぞれ独立に、0又は1である。また、M9は、電気的に中性の化合物を得るために、1つ以上の対イオンを含んでいてもよい。
【0311】
R17としては、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、又は、R5又はR11と一緒になって環状構造を形成するのに必要な原子群を表す。
R4としては、-OR10、-NR13R14、又は-CF3を表す。ここで、R10は、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、又は、分岐していてもよい脂肪族炭化水素基を表す。
R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、又は、R13及びR14が一緒になって環状構造を形成するのに必要な原子群を表す。
R6は、任意に置換された脂肪族炭化水素基、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、-OR10、-NR13R14、又は-CF3を表す。
R5は、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、SO3
-基、-COOR18、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、又は、R10、R13、及びR14のうちの少なくとも1つと一緒になって環状構造を形成するのに必要な原子群を表す。
R11は、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、又は、R15及びR16が一緒になって環状構造を形成するのに必要な原子群を表す。
R12は、任意に置換された脂肪族炭化水素基、又は、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
R7及びR9は、それぞれ独立に、水素原子、又は任意に置換された脂肪族炭化水素基を表す。
R8は、-COO-又は-COOR8を表す。ここで、R8は、水素原子、アルカリ金属カチオン、アンモニウムイオン、又は、モノ-、ジ-、トリ-若しくはテトラ-アルキルアンモニウムイオンを表す。
R18は、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基、又は、α分岐脂肪族炭化水素基を表す。
【0312】
式(VI)におけるAr1及びAr2は、それぞれ独立に、任意に置換されたアリール基を表すことが好ましい。Ar1及びAr2で表される環は、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましい。
W1及びW2は、それぞれ、-C(CH3)2を表すことが好ましい。
M1及びM2は、一緒になって任意に置換された5員環又はベンゼン環を形成するのに必要な原子群を表すことが好ましい。
M3及びM4は、それぞれ独立に、任意に置換された脂肪族炭化水素基を表すことが好ましい。
M5、M6、M7、及びM8は、それぞれ、水素原子を表すことが好ましい。
M9は、-NR5-CO-R4、-NR5-SO2-R6、-NR11-SO-R12、又は、-SO2-NR15R16を表すことが好ましい。ここで、R4、R5、R6、R11、R12、R15、及びR16は、上述したR4、R5、R6、R11、R12、R15、及びR16と同義である。特に、M9は、-NR5-CO-R4、又は-NR5-SO2-R6を表すことがより好ましい。このとき、R4は、-OR10であることが好ましく、R10は分岐していてもよい脂肪族炭化水素基であることが好ましい。R5は、水素原子、任意に置換された脂肪族炭化水素基、又は、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基であり、R6は、任意に置換された脂肪族炭化水素基、又は、任意に置換されたアリール基若しくはヘテロアリール基である。また、M9は、電気的に中性の化合物を得るために、任意に1つ又は複数の対イオンを含む。
【0313】
なお、特定赤外線吸収剤、具体的には、式(VI)で表される化合物は、置換基の種類及び各置換基の数に応じて、中性色素、アニオン性色素、又はカチオン性色素であり得る。
式(VI)で表される化合物は、構造内に、-CO2H、-C0NHSO2Rh、-SO2NHCORi、-SO2NHSO2Rj、-PO3H2、-OPO3H2、-OSO3H、-S-SO3H、-S03H、これらの塩等のアニオン性基又は酸基を含むことが好ましい。ここで、Rh、Ri、及びRjはそれぞれ独立に、アリール基又はアルキル基を表し、メチル基が好ましい。また、塩としては、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩が挙げられ、モノ-、ジ-、トリ-、又はテトラ-アルキルアンモニウム塩が好ましい。
上記アニオン性基又は酸基は、Ar1若しくはAr2のベンゼン環上、又は、M3又はM4の脂肪族炭化水素基上に存在することが好ましい。上記アニオン性基又は酸基が存在する、Ar1若しくはAr2のベンゼン環、又は、M3又はM4の脂肪族炭化水素基は、他の置換基を有していてもよい。他の置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、スルホン基、カルボニル基、又はカルボン酸エステル基から選択することができる。
特に、式(VI)で表される化合物は、M3又はM4の脂肪族炭化水素基上に、-CO2H、-CONHSO2Me、-SO2NHCOMe、-SO2NHSO2、-PO3H2、-SO3基、又はこれらの塩が存在することが好ましい。ここで、Meは、メチル基を表す。
【0314】
式(VI)で表される化合物において、電気的に中性の化合物を得るための任意の対イオンは、例えば、ハロゲン、スルホネート、ペルフルオロスルホネート、トシレート、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、アリールボレート、アリールスルホネート等のアニオンが挙げられる。また、式(VI)で表される化合物が有する塩構造としては、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0315】
式(VI)で表される化合物の具体例を以下に示す。以下の具体例において、M+は、L+、Na+、K+、NH4
+、R3NH+ここで、Rは、それぞれ独立に、水素原子、任意に置換されたアルキル又は任意に置換されたアリール基を表す。
【0316】
【0317】
【0318】
【0319】
保護層が特定赤外線吸収剤を含む場合、特定赤外線吸収剤の含有量は、保護層の全質量に対して、1質量%~40質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%であることがより好ましく、4質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0320】
保護層は、現像不良故障の抑制性の観点から、フィラーを含むことが好ましい。
フィラーとしては、無機粒子、有機樹脂粒子、無機層状化合物等が挙げられる。中でも、無機層状化合物が好ましい。無機層状化合物を用いることで、ロール表面からの再付着物が画像記録層表面に直接付着することを効果的に抑制することができる。
無機粒子としては、シリカ粒子等の金属酸化物粒子が挙げられる。
有機樹脂粒子としては、架橋樹脂粒子が挙げられる。
無機層状化合物は、薄い平板状の形状を有する粒子であり、例えば、天然雲母、合成雲母等の雲母群、式:3MgO・4SiO・H2Oで表されるタルク、テニオライト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、リン酸ジルコニウム等が挙げられる。
好ましく用いられる無機層状化合物は雲母化合物である。雲母化合物としては、例えば、式:A(B,C)2-5D4O10(OH,F,O)2〔ただし、Aは、K、Na、Caのいずれか、B及びCは、Fe(II)、Fe(III)、Mn、Al、Mg、Vのいずれかであり、Dは、Si又はAlである。〕で表される天然雲母、合成雲母等の雲母群が挙げられる。
【0321】
雲母群においては、天然雲母としては白雲母、ソーダ雲母、金雲母、黒雲母及び鱗雲母が挙げられる。合成雲母としてはフッ素金雲母KMg3(AlSi3O10)F2、カリ四ケイ素雲母KMg2.5Si4O10)F2等の非膨潤性雲母、及び、NaテトラシリリックマイカNaMg2.5(Si4O10)F2、Na又はLiテニオライト(Na,Li)Mg2Li(Si4O10)F2、モンモリロナイト系のNa又はLiヘクトライト(Na,Li)1/8Mg2/5Li1/8(Si4O10)F2等の膨潤性雲母等が挙げられる。更に合成スメクタイトも有用である。
【0322】
上記の雲母化合物の中でも、フッ素系の膨潤性雲母が特に有用である。すなわち、膨潤性合成雲母は、10Å~15Å(1Å=0.1nm)程度の厚さの単位結晶格子層からなる積層構造を有し、格子内金属原子置換が他の粘土鉱物より著しく大きい。その結果、格子層は正電荷不足を生じ、それを補償するために層間にLi+、Na+、Ca2+、Mg2+等の陽イオンを吸着している。これらの層間に介在している陽イオンは交換性陽イオンと呼ばれ、いろいろな陽イオンと交換し得る。特に、層間の陽イオンがLi+、Na+の場合、イオン半径が小さいため層状結晶格子間の結合が弱く、水により大きく膨潤する。その状態でシェアーをかけると容易に劈開し、水中で安定したゾルを形成する。膨潤性合成雲母はこの傾向が強く、特に好ましく用いられる。
【0323】
雲母化合物の形状としては、拡散制御の観点からは、厚さは薄ければ薄いほどよく、平面サイズは塗布面の平滑性や活性光線の透過性を阻害しない限りにおいて大きい程よい。従って、アスペクト比は、好ましくは20以上であり、より好ましくは100以上、特に好ましくは200以上である。アスペクト比は粒子の厚さに対する長径の比であり、例えば、粒子の顕微鏡写真による投影図から測定することができる。アスペクト比が大きい程、得られる効果が大きい。
【0324】
雲母化合物の粒子径は、その平均長径が、好ましくは0.3μm~20μm、より好ましくは0.5μm~10μm、特に好ましくは1μm~5μmである。粒子の平均の厚さは、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.01μm以下である。具体的には、例えば、代表的化合物である膨潤性合成雲母の場合、好ましい態様としては、厚さが1nm~50nm程度、面サイズ(長径)が1μm~20μm程度である。
【0325】
無機層状化合物の含有量は、保護層の全質量に対して、1質量%~60質量%が好ましく、3質量%~50質量%がより好ましい。複数種の無機層状化合物を併用する場合でも、無機層状化合物の合計量が上記の含有量であることが好ましい。上記範囲で酸素遮断性が向上し、良好な感度が得られる。また、着肉性の低下を防止できる。
【0326】
保護層は可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御するための無機粒子など公知の添加物を含有してもよい。また、画像記録層において記載した感脂化剤を保護層に含有させてもよい。
【0327】
保護層は公知の方法で塗布される。保護層の塗布量(固形分)は、0.01g/m2~10g/m2が好ましく、0.02g/m2~3g/m2がより好ましく、0.02g/m2~1g/m2が特に好ましい。
本開示に係る平版印刷版原版における保護層の膜厚は、0.1μm~5.0μmであることが好ましく、0.3μm~4.0μmであることがより好ましい。
【0328】
本開示に係る平版印刷版原版は、上述した以外のその他の層を有していてもよい。
その他の層としては、特に制限はなく、公知の層を有することができる。例えば、支持体の画像記録層側とは反対側には、必要に応じてバックコート層が設けられていてもよい。
【0329】
(平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法)
本開示に係る平版印刷版の作製方法は、特に制限はないが、平版印刷版原版を画像様に露光する工程(露光工程)、及び、露光後の平版印刷版原版を印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去する工程(機上現像工程)を含むことが好ましい。
本開示に係る平版印刷方法は、平版印刷版原版を画像様に露光する工程(露光工程)と、印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去し平版印刷版を作製する工程(機上現像工程)と、得られた平版印刷版により印刷する工程(以下、「印刷工程」ともいう。)と、を含むことが好ましい。
【0330】
<露光工程>
本開示に係る平版印刷版の作製方法は、平版印刷版原版を画像様に露光し、露光部と未露光部とを形成する露光工程を含むことが好ましい。本開示に係る平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像様に露光されることが好ましい。
光源の波長は750nm~1,400nmが好ましく用いられる。波長750nm~1,400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であることが好ましく、また照射エネルギー量は10mJ/cm2~300mJ/cm2であることが好ましい。また、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いることが好ましい。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、及びフラットベッド方式等のいずれでもよい。
画像露光は、プレートセッターなどを用いて常法により行うことができる。機上現像の場合には、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で画像露光を行ってもよい。
【0331】
<機上現像工程>
本開示に係る平版印刷版の作製方法は、印刷機上で印刷インキ及び湿し水よりなる群から選ばれた少なくとも一方を供給して非画像部の画像記録層を除去する機上現像工程を含むことが好ましい。
以下に、機上現像方式について説明する。
【0332】
〔機上現像方式〕
機上現像方式においては、画像露光された平版印刷版原版は、印刷機上で油性インキと水性成分とを供給し、非画像部の画像記録層が除去されて平版印刷版が作製されることが好ましい。
すなわち、平版印刷版原版を画像露光後、何らの現像処理を施すことなくそのまま印刷機に装着するか、あるいは、平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で画像露光し、ついで、油性インキと水性成分とを供給して印刷すると、印刷途上の初期の段階で、非画像部においては、供給された油性インキ及び水性成分のいずれか又は両方によって、未硬化の画像記録層が溶解又は分散して除去され、その部分に親水性の表面が露出する。一方、露光部においては、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する油性インキ受容部を形成する。最初に版面に供給されるのは、油性インキでもよく、水性成分でもよいが、水性成分が除去された画像記録層の成分によって汚染されることを防止する点で、最初に油性インキを供給することが好ましい。このようにして、平版印刷版原版は印刷機上で機上現像され、そのまま多数枚の印刷に用いられる。油性インキ及び水性成分としては、通常の平版印刷用の印刷インキ及び湿し水が好適に用いられる。
【0333】
<印刷工程>
本開示に係る平版印刷方法は、平版印刷版に印刷インキを供給して記録媒体を印刷する印刷工程を含む。
印刷インキとしては、特に制限はなく、所望に応じ、種々の公知のインキを用いることができる。また、印刷インキとしては、油性インキ又は紫外線硬化型インキ(UVインキ)が好ましく挙げられる。
また、上記印刷工程においては、必要に応じ、湿し水を供給してもよい。
また、上記印刷工程は、印刷機を停止することなく、上記機上現像工程又は上記現像液現像工程に連続して行われてもよい。
記録媒体としては、特に制限はなく、所望に応じ、公知の記録媒体を用いることができる。
【0334】
本開示に係る平版印刷版の作製方法、及び、平版印刷方法においては、必要に応じて、露光前、露光中、露光から現像までの間に、平版印刷版原版の全面を加熱してもよい。このような加熱により、画像記録層中の画像形成反応が促進され、感度や耐刷性の向上や感度の安定化等の利点が生じ得る。現像前の加熱は150℃以下の穏和な条件で行うことが好ましい。上記態様であると、非画像部が硬化してしまう等の問題を防ぐことができる。現像後の加熱には非常に強い条件を利用することが好ましく、100℃~500℃の範囲であることが好ましい。上記範囲であると、十分な画像強化作用が得られまた、支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を抑制することができる。
【0335】
(積層体)
本開示に係る積層体は、本開示に係る平版印刷版原版を少なくとも積層してなる。
また、本開示に係る積層体は、本開示に係る平版印刷版原版を積層し、積層された上記機上現像型平版印刷版原版の少なくとも最上部に配置され上記機上現像型平版印刷版原版を保護する保護材を有し、上記保護材の含水率が、10%以下であることが好ましい。
【0336】
平版印刷版原版は、金属を支持体とした一枚の薄い板状であるため、角や辺、内部等に折れ、傷や変形があると、感光した際に像がぼけたり、印刷した際にインクが不均一になる等の問題が生じやすい。
そこで、平版印刷版原版を保護するために、複数枚の原版を積層した積層体を構成する場合には原版の所定の枚数ごとに保護材を配置して、原版を確実に保護できるようにすることが一般的である。
そして、保護材が配置された状態で、原版を包装材によって包装して包装体とし、荷扱い(運搬や保管等)を行うようにしている。保護材を配置することで、例えば荷扱い時の原版の変形(撓み等)が起き難くなるため、原版の損傷が防止される。また、外力が作用しても、その一部が保護材によって吸収されるため、原版の変形や傷が防止される。
【0337】
本開示に係る積層体における平版印刷版原版の好ましい態様は、上述した本開示に係る平版印刷版原版の好ましい態様と同様である。
【0338】
<保護材>
本開示に係る積層体は、積層された上記平版印刷版原版の少なくとも最上部に配置され上記平版印刷版原版を保護する保護材を有し、上記保護材の含水率が、10質量%以下であることが好ましい。
保護材の含水率としては、現像不良故障の抑制性の観点から、10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。また、含水率の下限値は、0質量%である。
本開示における保護材の含水率(平衡含水率)は、JIS P 8202(1998)による測定方法で測定する。
【0339】
保護材の材質としては、厚紙、ボール紙、プラスチック等が挙げられ、中でも、現像不良故障の抑制性の観点から、ボール紙、又は、プラスチックが好ましく、プラスチックがより好ましい。
プラスチックとしては、公知のポリマーを用いることができるが、ポリエステル、ポリカードネート、ポリオレフィン等が挙げられ、ポリエステルが好ましく挙げられる。
保護材の大きさ(縦×横)は、特に制限はなく、使用する平版印刷版原版に応じて、適宜選択することができる。例えば、平版印刷版原版と同じ大きさ、又は、平版印刷版原版より少し大きい大きさ等が挙げられる。
また、保護材の厚さは、特に制限はないが、強度、透湿性、及び、現像不良故障の抑制性の観点から、10μm~10mmであることが好ましく、100μm~5mmであることがより好ましい。
【0340】
また、保護材は、積層体の最上部だけでなく、最下部にも配置することが好ましい。
【0341】
<合紙>
本開示に係る積層体は、積層された2つの平版印刷版原版の間に、合紙を有していてもよい。
また、平版印刷版原版と保護材との間に、合紙を有していてもよい。
更に、積層体の最下部に、合紙を有していてもよい。
【0342】
本開示に用いられる合紙の材質としては、材料コストを抑制するために、低コストの原料が選択されることが好ましく、例えば、木材パルプを100質量%使用した紙や、木材パルプとともに合成パルプを混合使用した紙、及び、これらの表面に低密度又は高密度ポリエチレン層を設けた紙等を使用することができる。
具体的には、漂白クラフトパルプを叩解し、4質量%の濃度に希釈した紙料にサイズ剤を原紙質量の0.1質量%、紙力剤を0.2質量%になるように加え、更に硫酸アルミニウムをpHが5.0になるまで加えた紙料を用いて抄造した酸性紙が挙げられるが、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)やアルケニル無水コハク酸(ASA)などの中性サイズ剤を使用し、硫酸アルミニウムの代わりに炭酸カルシウムを填料として用いpHが7~8の中性紙が好ましく用いられる。
中でも、合紙としては、紙であることが好ましく、硫酸アルミニウム又は炭酸カルシウムを含む紙であることがより好ましく、炭酸カルシウムを含む紙であることが特に好ましい。
また、合紙の材質としては、パルプを50質量%以上含む紙であることが好ましく、パルプを70質量%以上含む紙であることがより好ましく、パルプを80質量%以上含む紙であることが特に好ましい。
【0343】
合紙としては、カルシウム含有量が合紙全体に対して、0.15質量%~0.5質量%であることが好ましく、0.2質量%~0.45質量%であることがより好ましく、0.25質量%~0.4質量%であることが特に好ましい。
合紙のカルシウム含有量は、合紙を蛍光X線測定することにより得られる。
紙に含まれるカルシウムは主として、中性紙の填料として広く用いられている炭酸カルシウムであり、紙の白色度を上げる作用がある。
【0344】
合紙の坪量(JIS P8124(2011)に規定された測定方法による)は、特に制限はないが、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、29g/m2~80g/m2であることが好ましく、35g/m2~70g/m2であることがより好ましく、51g/m2~65g/m2であることが特に好ましい。
また、上記合紙の坪量は、耐刷性、及び、機上現像性の観点から、51g/m2以上であることが好ましい。
合紙の厚み(JIS P8118(2014)に規定された測定方法による)は、特に制限はないが、20μm~100μmであることが好ましく、42μm~80μmであることがより好ましく、45μm~65μmであることが更に好ましく、45μm~55μmであることが特に好ましい。
【0345】
また、合紙の水分量(合紙を25℃/50%RHにおいて保管し合紙の水分量が安定した際の水分量)は、ポツ状色欠陥抑制性の観点から、合紙の全質量に対し、0質量%~20質量%であることが好ましく、0質量%~15質量%であることがより好ましく、0質量%~10質量%であることが特に好ましい。
【0346】
また、合紙としては、特開2010-76336号公報に記載されている合紙を好適に用いることができる。
【0347】
合紙の形状は、特に制限はないが、平版印刷版原版の面方向の形状と同じ形状、又は、それより大きい形状が挙げられる。
【0348】
また、本開示に係る積層体は、公知の方法により、全体を包装されていてもよい。
【実施例0349】
以下、実施例により本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、「%」、「部」とは、特に断りのない限り、それぞれ「質量%」、「質量部」を意味する。なお、高分子化合物において、特別に規定したもの以外は、分子量は重量平均分子量(Mw)であり、構成繰り返し単位の比率はモル百分率である。また、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値として測定した値である。
【0350】
(実施例1~97、及び、比較例1~5)
<支持体の作製>
<<表面処理A>>
(A-a)機械的粗面化処理(ブラシグレイン法)
図3に示したような装置を使って、パミスの懸濁液(比重1.1g/cm
3)を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転する束植ブラシにより機械的粗面化処理を行った。
図3において、1はアルミニウム板、2及び4はローラ状ブラシ(本実施例において、束植ブラシ)、3は研磨スラリー液、5、6、7及び8は支持ローラである。
機械的粗面化処理は、研磨材のメジアン径(μm)を30μm、ブラシ本数を4本、ブラシの回転数(rpm)を250rpmとした。束植ブラシの材質は6・10ナイロンで、ブラシ毛の直径0.3mm、毛長50mmであった。ブラシは、φ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。束植ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。束植ブラシはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、束植ブラシをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して10kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。
【0351】
(A-b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度70℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、10g/m2であった。
【0352】
(A-c)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硝酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硝酸水溶液は、次工程の電気化学的な粗面化に用いた硝酸の廃液を用いた。その液温は35℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0353】
(A-d)電気化学的粗面化処理
硝酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、温度35℃、硝酸10.4g/Lの水溶液に硝酸アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は
図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は
図2に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で30A/dm
2、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。電気量(C/dm
2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で185C/dm
2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0354】
(A-e)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.5g/m2であった。
【0355】
(A-f)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。デスマット処理に用いる硫酸水溶液は、硫酸濃度170g/L、アルミニウムイオン濃度5g/Lの液を用いた。その液温は、30℃であった。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0356】
(A-g)電気化学的粗面化処理
塩酸電解60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。電解液は、液温35℃、塩酸6.2g/Lの水溶液に塩化アルミニウムを添加してアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lに調整した電解液を用いた。交流電源波形は
図1に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間tpが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽は
図2に示すものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm
2であり、塩酸電解における電気量(C/dm
2)はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で63C/dm
2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0357】
(A-h)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液を、温度50℃でスプレー管により吹き付けてエッチング処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。アルミニウム溶解量は、0.1g/m2であった。
【0358】
(A-i)酸性水溶液中でのデスマット処理
次に、硫酸水溶液中でデスマット処理を行った。具体的には、陽極酸化処理工程で発生した廃液(硫酸170g/L水溶液中にアルミニウムイオン5g/Lを溶解)を用い、液温35℃で4秒間デスマット処理を行った。デスマット液はスプレーにて吹き付けて3秒間デスマット処理を行った。
【0359】
(A-j)第1段階の陽極酸化処理
図4に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第1段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
なお、陽極酸化処理装置610において、アルミニウム板616は、
図4中矢印で示すように搬送される。電解液618が貯溜された給電槽612にてアルミニウム板616は給電電極620によって(+)に荷電される。そして、アルミニウム板616は、給電槽612においてローラ622によって上方に搬送され、ニップローラ624によって下方に方向変換された後、電解液626が貯溜された電解処理槽614に向けて搬送され、ローラ628によって水平方向に方向転換される。ついで、アルミニウム板616は、電解電極630によって(-)に荷電されることにより、その表面に陽極酸化皮膜が形成され、電解処理槽614を出たアルミニウム板616は後工程に搬送される。陽極酸化処理装置610において、ローラ622、ニップローラ624及びローラ628によって方向転換手段が構成され、アルミニウム板616は、給電槽612と電解処理槽614との槽間部において、上記ローラ622、624及び628により、山型及び逆U字型に搬送される。給電電極620と電解電極630とは、直流電源634に接続されている。
【0360】
(A-k)ポアワイド処理
上記陽極酸化処理したアルミニウム板を、温度35℃、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度0.5質量%のカセイソーダ水溶液に表1に示す条件にて浸漬し、ポアワイド処理を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0361】
(A-l)第2段階の陽極酸化処理
図4に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第2段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0362】
(A-m)第3段階の陽極酸化処理
図4に示す構造の直流電解による陽極酸化装置を用いて第3段階の陽極酸化処理を行った。表1に示す条件にて陽極酸化処理を行い、所定の皮膜厚の陽極酸化皮膜を形成した。
【0363】
以上の表面処理Aから、表1及び表2に記載の支持体Aを得た。
【0364】
上記で得られた第2陽極酸化処理工程後のマイクロポアを有する陽極酸化皮膜中の大径孔部の陽極酸化皮膜表面における平均径(nm)、小径孔部の連通位置における平均径(nm)、大径孔部及び小径孔部の深さ(nm)、ピット密度(マイクロポアの密度、単位;個/μm2)、並びに、小径孔部の底部からアルミニウム板表面までの陽極酸化皮膜の厚み(nm)を、表2にまとめて示す。
なお、マイクロポアの平均径(大径孔部及び小径孔部の平均径)は、大径孔部表面及び小径孔部表面を倍率15万倍のFE-SEMでN=4枚観察し、得られた4枚の画像において、400nm×600nmの範囲に存在するマイクロポア(大径孔部及び小径孔部)の径を測定し、平均した値である。なお、大径孔部の深さが深く、小径孔部の径が測定しづらい場合、及び、小径孔部中の拡径孔部の測定を行う場合は、陽極酸化皮膜上部を切削し、その後各種径を求めた。
マイクロポアの深さ(大径孔部及び小径孔部の深さ)は、支持体(陽極酸化皮膜)の断面をFE-SEMで観察し(大径孔部深さ観察:15万倍、小径孔部深さ観察:5万倍)、得られた画像において、任意のマイクロポア25個の深さを測定し、平均した値である。
なお、表1中、第1陽極酸化処理欄の皮膜量(AD)量と第2陽極酸化処理欄の皮膜量(AD)とは、各処理で得られた皮膜量を表す。なお、使用される電解液は、表1中の成分を含む水溶液である。
【0365】
【0366】
【0367】
支持体Aを用い、以下のようにして、下塗り層、画像記録層、及び、保護層を形成し、平版印刷版原版を得た。
【0368】
<下塗り層の形成>
得られた支持体A上に、下記組成の下塗り層塗布液を乾燥塗布量が0.1g/m2になるよう塗布して、下塗り層を形成した。
【0369】
-下塗り層用塗布液-
・下塗り層用化合物(下記U-1、11%水溶液):0.10502部
・グルコン酸ナトリウム:0.0700部
・界面活性剤(エマレックス(登録商標) 710、日本エマルジョン(株)製):0.00159部
・防腐剤(バイオホープL、ケイ・アイ化成(株)):0.00149部
・水:2.8719部
【0370】
【0371】
<画像記録層の形成>
下塗り層1上に、下記の画像記録層塗布液をバー塗布し、120℃で60秒間オーブン乾燥して、乾燥塗布量1.0g/m2の画像記録層を形成した。
【0372】
-画像記録層塗布液-
下記成分を、35体積%のMEK(メチルエチルケトン)と、65体積%の1-メトキシ-2-プロパノールと、の混合液に固形分濃度7.0質量%で溶解し、画像記録層塗布液1を調製した。
・非オニウム系重合開始剤(4-ヒドロキシフェニル-トリブロモメチルスルホン) : 60部
・ボレート化合物(テトラフェニルホウ酸ナトリウム(TPB)) : 未添加又は20部
・赤外線吸収剤(下記表3~表6に記載の種類) : 20部
・化合物A(下記表3~表6に記載の種類) : 下記表3~表6に記載の量(部)
・酸発色剤(C-1、下記構造) : 未添加又は50部
・1モルの2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアナートと2モルのヒドロキシエチルメタクリレートとの反応生成物(MEK中の82質量%溶液、FST 510、AZエレクトロニクス社製) : 250部
・エポキシアクリレートオリゴマー(CN104、アルケマ社製) : 250部
・非イオン性脂肪族ポリエーテルポリウレタン(Ruco Coat EC4811、Rudolf GmbH社製) : 125部
・ポリビニルブチラール(ビニルブチラール-co-酢酸ビニル-co-ビニルアルコール、エスレック BL-10、積水化学工業(株)製) : 125部
・ポリエーテルシロキサンコポリマー(Tegoglide 410、Evonik ResourceEfficiencyGmbH社製) : 1.5部
・ポリエチレングリコールモノメタクリレート酸ホスフェート(JPA528、城北化学(株)製) : 130部
・ビニルホスホン酸とアクリル酸とのコポリマー(Albritect CP 30、Rhodia社製、20質量%水性分散液) : 120部
・リン酸 : 6.5部
・親水性ヒュームドシリカ(Aerosil、Evonik ResourceEfficiencyGmbH社製) : 85部
【0373】
上記画像記録層に含まれる赤外線吸収剤は、以下のとおりである。
なお、下記IR-4は、赤外線吸収剤のカチオン部と、ボレートアニオン(テトラフェニルボレートアニオン)との塩である。
【0374】
【0375】
また、上記画像記録層に含まれる化合物AにおけるD1~D31は、既述した化合物Aのカチオンの具体例におけるD1~D31とそれぞれ同じ化合物である。
【0376】
更に、上記画像記録層に含まれる酸発生剤C-1は、下記構造の化合物である。
【0377】
【0378】
<保護層の形成>
画像記録層上に、下記形成方法により保護層を形成した。
なお、実施例94~97では、保護層を形成しなかった。
【0379】
~保護層の形成~
画像記録層上に、下記保護層塗布液をバー塗布し、110℃で120秒間オーブン乾燥して、乾燥塗布量が0.3g/m2の保護層を形成し、平版印刷版原版を作製した。
【0380】
-保護層塗布液-
下記成分を混合し、保護層塗布液を調製した。
水 : 2000部
ポリビニルアルコール(Mowiol 4-88TM、クラレ社製) : 160部
ポリ塩化ビニリデン(Diofan A050、ソルベイ社製) : 296部
Acticide LA1206TM(Thor社製) : 1部
界面活性剤(Lutensol A8TM、BASF社製) :10部
特定赤外線吸収剤(下記構造) : 28部
硝酸カリウム : 37部
【0381】
【0382】
<結晶析出の評価>
得られた平版印刷版原版について、保護層側からゴムローラ(直径2cm)を接触し、圧力をかけた。接触圧力を付与した後の平版印刷版原版を、ベイパーチャンバーを用いて、2-メトキシプロパノールの飽和雰囲気中で3日間保存した。3日間保存した後、平版印刷版原版の画像記録層を光学倍率8倍で観察し、層中の析出物について評価した。
-評価指標-
A:結晶析出は観察されない。
B:いくつかの結晶析出が見られた。
C:多くの結晶析出が見られた。
【0383】
<耐刷性の評価>
得られた平版印刷版原版を、830nmの赤外線レーザーを備えたAvalon N8-20プレートセッター(200Ipi Agfa Balanced Screening(ABS)、Agfa Graphics社製)を用いて、90mJ/cm2のエネルギー密度で、2400dpiの条件で露光した。
得られた露光済み平版印刷版原版を現像処理することなく、Ryobi印刷機の版胴に取り付けた。圧縮可能なブランケットを使用し、ノンコートのオフセット紙(70g)に50,000枚の印刷を行った。印刷には、TOYO FD LED UV EU3シアンインクと、湿し水としての、3質量%のPrima AF S1(Agfa社製)水溶液と、用いた。
その後、初期の印刷物の網部濃度に対して、網部濃度の減量率が8%を超えた時点の印刷枚数を用い、耐刷性の評価とした。なお、網部濃度は、Gretag macbeth濃度計を使用して測定した。
【0384】
評価結果をまとめて表3~表6に示す。
【0385】
【0386】
【0387】
【0388】
【0389】
表3~表6から明らかなように、実施例に係る平版印刷版原版は、比較例に係る平版印刷版原版と比べて、結晶析出の抑制性に優れ、更に、耐刷性にも優れることが分かる。
1:アルミニウム板、2及び4:ローラ状ブラシ、3:研磨スラリー液、5、6、7及び8:支持ローラ、50:主電解槽、51:交流電源、52:ラジアルドラムローラ、53a,53b:主極、54:電解液供給口、55:電解液、56:補助陽極、57:電解液通路、58:補助陽極、60:補助陽極槽、610:陽極酸化処理装置、612:給電槽、614:電解処理槽、616:アルミニウム板、618,26:電解液、620:給電電極、622,628:ローラ、624:ニップローラ、630:電解電極,632:槽壁、634:直流電源、W:アルミニウム板、S:給液方向、Ex:電解液排出方向、ta:アノード反応時間、tc:カソード反応時間、tp:電流が0からピークに達するまでの時間、Ia:アノードサイクル側のピーク時の電流、Ic:カソードサイクル側のピーク時の電流、AA:アルミニウム板のアノード反応の電流、CA:アルミニウム板のカソード反応の電流