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特開2024-62825液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062825
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170924
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】塚本 竜児
(72)【発明者】
【氏名】森 尚子
(72)【発明者】
【氏名】木名瀬 裕太
(72)【発明者】
【氏名】楠 雅統
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF23
2C057AF40
2C057AG14
2C057AG45
2C057AG75
2C057AN01
2C057AN05
2C057BA05
2C057BA14
2C057DB03
2C057DB04
(57)【要約】
【課題】同時に複数のノズルから吐出される液体の滴速度や滴量のばらつきを低減する。
【解決手段】液体を収容する共通液室と、前記共通液室と連通する複数のノズルと、前記複数のノズルを個別に振動させる振動発生手段と、前記共通液室に配置され、前記液体の振動を抑制する可撓性部材と、を備え、前記共通液室は、前記ノズルに対し形成される液室を有するとともに、前記液室の前記ノズルと対向する位置に前記可撓性部材を備える液体吐出ヘッド。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する共通液室と、
前記共通液室と連通する複数のノズルと、
前記複数のノズルを個別に振動させる振動発生手段と、
前記共通液室に配置され、前記液体の振動を抑制する可撓性部材と、
を備え、
前記共通液室は、前記ノズルに対し形成される液室を有するとともに、前記液室の前記ノズルと対向する位置に前記可撓性部材を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記可撓性部材は、前記共通液室に配置された状態において前記複数のノズルと対向する側の面である第一面と、前記第一面と反対側の面である第二面とを有し、少なくとも前記第一面は前記共通液室に収容された前記液体と接していることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記可撓性部材は、前記第一面および前記第二面が前記共通液室に収容された前記液体と接していることを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記可撓性部材は、前記第一面は前記共通液室に収容された前記液体と接し、前記第二面は前記共通液室内の気体と接していることを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記可撓性部材は、樹脂フィルムを含むことを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記可撓性部材は、金属フィルムを含むことを特徴とする請求項1記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記可撓性部材は、前記第一面と前記第二面とを貫通した複数の開口部を備えることを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記可撓性部材は、前記第一面と前記第二面との間に空気層を備えることを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記可撓性部材の前記第一面と対向する側に、前記複数のノズルの隣接するノズル間を仕切るための仕切り部材を有し、前記仕切り部材の、前記可撓性部材の前記第一面に近い側の端部を第一端部としたとき、前記可撓性部材の前記第一面と前記仕切り部材の前記第一端部との距離を10μm~600μmの範囲に規定したことを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記可撓性部材の前記第一面と対向する側に、前記複数のノズルの隣接するノズル間を仕切るための仕切り部材を有し、前記仕切り部材の、前記可撓性部材の前記第一面に近い側の端部を第一端部としたとき、前記可撓性部材の前記第一面が前記仕切り部材の前記第一端部と接触していることを特徴とする請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
液体を吐出する装置において、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを有することを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドおよび液体を吐出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内側に液体インクを保持させた円筒形ノズルと、円筒形ノズルに形成された振動発生手段を有し、振動発生手段を液体インクの表面に対して垂直方向に振動させることにより液体インクに表面張力波を発生させ、表面張力波を液体インク表面中央で波高が最も高くなるように干渉させ、液体インクの表面中央部から液滴を飛翔させる記録装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-226111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、同時に複数のノズルから液体を吐出させた場合に、ノズルから吐出される液体の滴速度や滴量がばらつくという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、液体を収容する共通液室と、前記共通液室と連通する複数のノズルと、前記複数のノズルを個別に振動させる振動発生手段と、前記共通液室に配置され、前記液体の振動を抑制する可撓性部材と、を備え、前記共通液室は、前記ノズルに対し形成される液室を有するとともに、前記液室の前記ノズルと対向する位置に前記可撓性部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、同時に複数のノズルから吐出される液体の滴速度や滴量のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ノズル振動方式の液体吐出ヘッドの一例を示す一部断面斜視図。
図2図1のX部拡大図。
図3】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図。
図4図3のX1部拡大図。
図5】第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図。
図6図5のX2部拡大図。
図7】第3実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図。
図8図7のX3部拡大図。
図9】第4実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図。
図10図9のX4部拡大図。
図11】可撓性部材の説明図。
図12】可撓性部材の説明図。
図13】第1実施形態と比較例との比較を示す説明図。
図14】第2実施形態と比較例との比較を示す説明図。
図15】第3実施形態と比較例との比較を示す説明図。
図16】第4実施形態と比較例との比較を示す説明図。
図17】第5実施形態と比較例との比較を示す説明図。
図18】第6実施形態と比較例との比較を示す説明図。
図19】液体吐出ヘッドの変形例を示す説明図。
図20】液体吐出ヘッドの変形例を示す説明図。
図21】液体吐出ヘッドの変形例を示す説明図。
図22】実施形態に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の概略構成図。
図23】実施形態の印刷装置におけるヘッドユニットの一例を示す平面図。
図24】実施形態に係る液体を吐出する装置としての他の印刷装置の要部平面図。
図25図24に示した印刷装置の要部側面図。
図26】実施形態に係る液体吐出ユニットの要部平面図。
図27】実施形態に係る液体吐出ユニットの他の例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための形態を説明する。図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
<ノズル振動方式液体吐出ヘッドの構成>
はじめに図1を用いてノズル振動方式の液体吐出ヘッドの構成を説明する。図1は、ノズル振動方式の液体吐出ヘッドの一例を示す一部断面斜視図である。
【0010】
液体吐出ヘッド1(以下、ヘッドという)は、複数のノズルを個別に振動させて液室内の液体をノズルから吐出させるノズル振動方式のヘッドである。
【0011】
ヘッド1は、流路基板100、振動膜103、液体を吐出する複数のノズル2、各ノズル2の周囲に配置された環状の圧電素子5、および流路基板100を支持するフレーム部材120を備える。圧電素子5は振動発生手段の一例である。流路基板100は、その内部に液室4(個別液室ともいう)が圧電素子5と対向する位置関係で形成されており、ノズル2は液室4に連通している。
【0012】
フレーム部材120は、その内部に共通液室3が形成されている。共通液室3は、フレーム部材120に設けた液体供給口121から共通液室3内に供給される液体を各液室4に供給する。なお、液室4は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(液室のノズルを有する面に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)が有するような密閉状の空間は形成していない。液室4は、必ずしもノズル2に対して1対1の関係である必要はなく、複数のノズル2で1つの液室4を共有する構成であってもよい。
【0013】
ヘッド1は、液体を吐出する装置において実際に使用する場合は、図1において上下が反転され、ノズル面を下に向けて使用されるのが一般的である。その場合、共通液室3の液体は各液室4に行き渡るように流れ、各液室4に流れ込んだ液体は仕切り部材の一例である各液室4の内壁4aによって液室4内に保持される。なお、液室4の内壁4aの形状は、図示のような平面に限るものではない。例えば、内壁4aを曲面にして円筒形状の液室4を形成してもよい。また、上記説明においては、共通液室3と液室4に区別して説明しているが、これは液体が供給される部分を特定するための意図であり、液室4は共通液室3の一部と捉えることもできる。
【0014】
上記の構成を有するヘッド1は、ノズル2の周囲を圧電素子5によって振動させて、液室4内の液体をノズル2から液滴Dとして吐出する。このようなノズル振動方式は、ユニモルフ型ピエゾヘッドに比べて小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があり、ヘッドの省電力化を図ることができる。
【0015】
ノズル密度を高くすると電圧印加のための配線をレイアウトするスペースが限られ、基板表面での配線構築が困難となる。基板内に配線や駆動回路を構築することで、ノズル密度が高い構成でも、配線をレイアウトすることができる。一般的に圧電素子の材料としてはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)が、その圧電特性の高さから広く利用されているが、PZTの成膜・結晶化温度は600°C以上を要する。圧電素子の材料としてPZTを用いると、基板内の駆動回路とその配線が高温に耐えられないため、圧電材料として、PZTよりも成膜温度が低い圧電材料が求められる。その場合、PZTに比べ圧電特性が低い材料を選択することを余儀なくされる。
【0016】
しかし、上述のようにノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べて小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があるため、PZTに比べ圧電特性が低い材料を選択しても良好に液滴を飛ばすことができる。よって、非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーは小さい圧電材料でも良好に液滴を飛ばすことができる。これにより、基板内に配線や駆動回路を構築することができ、高密度化が可能となる。さらに、ノズル振動方式は、液室の容積を小さくできることから、ヘッドの小型化も可能となる。
【0017】
なお、図1では複数のノズル2および圧電素子5を縦横に二次元配置したヘッド構成に基づいて説明したが、ノズル2および圧電素子5の配列はこれに限るものではない。例えばヘッドは、ノズル2および圧電素子5をアレイ状に一列に配置したヘッド構成としてもよい。
【0018】
次に、図1のX部の詳細を説明する。図2は、図1のX部拡大図である。
【0019】
流路基板100は、SOI(Silicon on Insulator)基板であり、振動膜103が成膜される側に駆動回路101および配線部102を有している。駆動回路101は、トランジスタや抵抗などを含む回路である。配線部102は、第一電極51にバイアスを印加するための配線部と、第二電極53にバイアスを印加するための配線部とを有している。
【0020】
また、配線部102は、振動膜103に開けられた孔状の第一コンタクト7aを介して電気接続パッド6に電気的に接続されている。振動膜103は、もう一方の端部(図2において図示を省略した左側端部)にも孔状の第二コンタクト7b(図示省略)を有し、配線部102は第二コンタクト7bを介してもう一方の端部に設けられた電気接続パッド6に電気的に接続されている。
【0021】
ヘッド1は、複数のノズル2を備えると共に、圧電素子5を覆うノズル形成部(膜)111を有している(ノズル形成部111については、図の煩雑化を避けるため図1では図示が省略されている)。ノズル形成部111は、ノズルを有するノズル面の表面に撥液膜(撥水膜)を設けてもよい。ノズル面に撥液膜を設けることで、ノズル面への液体の付着が抑制される。これにより、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着していた液体から影響を受けることなく吐出することができる。なお、液体の溶剤が水性の場合は、撥液膜の材料として、パーフルオロデシルトリクロロシランやパーフルオロオクチルトリクロロシランを用いることができる。
【0022】
圧電素子5は、第一電極51(下部電極ともいう)、圧電膜52、および第二電極53(上部電極ともいう)を備える。圧電素子5は、振動膜103の液室4側に向いた面とは反対側の面に積層され、圧電素子5は絶縁膜8によって覆われている。絶縁膜8は、第一電極51に電気的に接続するための孔状の第五コンタクト7eと、第二電極53に電気的に接続するための孔状の第六コンタクト7fとが形成されている。さらに、絶縁膜8には、第一電極51と流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第一引出配線9aと、第二電極53と配線部102とを電気的に連結する第二引出配線9bとが形成されている。
【0023】
第一引出配線9aは、その一方の端部が、絶縁膜8に設けた第五コンタクト7eを介して第一電極51に電極的に接続され、もう一方の端部が、振動膜103に設けた第三コンタクト7cを介して配線部102に電極的に接続されている。第二引出配線9bは、その一方の端部が、絶縁膜8に設けた第六コンタクト7fを介して第二電極53に電極的に接続され、もう一方の端部が、振動膜103に設けた第四コンタクト7dを介して配線部102に電極的に接続されている。
【0024】
また、第一引出配線9aおよび第二引出配線9bは、防湿膜11で覆われている。これにより、樹脂からなるノズル形成部111に侵入した湿気が第一引出配線9aおよび第二引出配線9bに侵入するのを防止して、各引出配線9a,9bの腐食を抑制することができる。
【0025】
防湿膜11は、電気絶縁性を有する材質であることが好ましい。例えば、半導体の防湿膜として広く用いられているSiN(窒化ケイ素)を用いることで、防湿膜11として絶縁性と防湿性の2つの機能を有することができ、好ましい。また、防湿膜11の材質としては、他にもALD(Atomic Layer Deposition)にて緻密な膜を形成しやすいAl(アルミ)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、W(タングステン)の酸化物を用いることができる。防湿膜11として、絶縁性と防湿性の2つの機能を有することで、防湿膜11の下に絶縁膜を別に形成する場合に比べて厚さを薄くすることができる。これにより、振動膜103が変形しやすくなり、振動効率を高めることができる。
【0026】
なお、圧電素子5の第一電極51と第二電極53は、Ir(イリジウム)やMo(モリブデン)などの耐腐食性の高い金属で構成される。そのため、電極51,53がノズル形成部111に侵入した湿気により腐食することはほぼない。
【0027】
流路基板100の裏側(図2では下側)にはフレーム部材120が接合されており、フレーム部材120は、その内部に複数の液室4に通じる共通液室3を形成する。
【0028】
上記の構成において、ヘッド1は、圧電素子5の電極51,53に所定の駆動波形(電圧)を印加することで、圧電膜52が振動し、振動膜103が図2中、上下方向に振動する。振動膜103が振動することで液室4内の液体に圧力変化が発生し、ノズル2から液体が吐出される。
【0029】
ここで、ノズル振動方式のヘッド1において同時に複数のノズル(以降、チャネルともいう)を駆動させた場合、隣接するノズル間の吐出状態に悪影響を及ぼし得る流体クロストークを生じさせることがある。流体クロストークは、圧電素子5の振動で発生した圧力が、液体を通じて隣接する液室4に伝播し、吐出状態(滴速度Vj、滴量Mj等)を変化させてしまう。同時に駆動させるノズル数(チャネル数)が多くなるほど液体を通じた流体クロストークが大きくなり、チャネル間での吐出状態のばらつきは顕著となる。その結果、対象物に対して液体を均一、かつ精度よく塗布することができなくなる。
【0030】
そこで本発明は、共通液室3の内部に液体の振動を吸収する部材を設けて、流体クロストークを低減させるようにしている。以下、実施形態について説明する。
【0031】
<第1実施形態>
図3および図4を用いて第1実施形態を説明する。図3は第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図、図4図3のX1部拡大図である。なお、既に説明済みの同一部材もしくは同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0032】
第1実施形態において、共通液室3は、その内部に可撓性部材の一例である弾性フィルム122を備える。共通液室3は、弾性フィルム122を境に共通液室3-1と共通液室3-2とに区切られている。ここで、弾性フィルム122について、共通液室3の内部に配置した状態においてノズル2と対向する側の面を第一面122-1とし、この第一面122-1と反対側の面を第二面122-2と定義する。上記のように定義した場合、第1実施形態の弾性フィルム122は、第一面122-1および第二面122-2が共に共通液室3に収容された液体と接するように配置される。つまり、弾性フィルム122は液体中に配置されている。なお、弾性フィルム122のフィルム面は、必ずしもノズル面と平行である必要はない。フィルム面は、ノズル2から吐出される液体の滴速度や滴量のばらつきを低減することを満足する範囲であれば、ノズル面に対して傾斜していてもよい。
【0033】
弾性フィルム122は、フレーム部材120に設けた液体供給口121の位置よりも図3において上側に位置するようにフレーム部材120に固定されている。つまり、弾性フィルム122は、共通液室3の内部において液室4と液体供給口121との間に配置されている。弾性フィルム122は、フィルム面に貫通孔などを備えていない。従って、共通液室3の面積と同じ面積で弾性フィルム122を設置してしまうと、共通液室3の内部が弾性フィルム122を境に上段と下段に分断された状態となり、液体供給口121から共通液室3に供給された液体を液室4へ送り込むことができなくなる。そのため、第1実施形態では、一部(本実施形態では図3中、左部分)に隙間を設け、この隙間を経由して共通液室3の液体を液室4側へ送り込めるようにしている。
【0034】
弾性フィルム122は、共通液室3内に生じる振動に応じて変形するものであればよく、材質は特に制限されない。材質の一例として、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどのプラスチック材料、SUS(ステンレス)、チタン、ニッケルなどの金属材料が挙げられる。
【0035】
また、弾性フィルム122は、第一面122-1側を、液室4の内壁4aの端部4a-1から所定の距離L1だけ離して設けられている。端部4a-1は、仕切り部材の第一端部の一例である。
【0036】
距離L1は、10μm~600μmの範囲が好ましい。10μmよりも小さい場合は、共通液室3から液室4への液体の送り込みが良好に行えない場合があり、600μmよりも大きい場合は、弾性フィルム122による振動吸収効果が低下し、流体クロストークの低減が不十分になる。
【0037】
なお、弾性フィルム122は、1枚のシート材からなる構成に限るものではない。例えば、共通液室3の内部を複数の領域に分け、領域毎もしくは各領域に求められる効果に応じて弾性フィルムを多数設置してもよい。また、弾性フィルムは、例えば2枚の弾性フィルムを対向させて2段構成とするなど、複数枚の弾性フィルムを多段構成にして備えられていてもよい。
【0038】
ここで、図11を用いて第1実施形態で使用される弾性フィルム122の構造を補足する。図11は、可撓性部材の説明図であり、図11(a)は可撓性部材の一部平面図、図11(b)および図11(c)は図11(a)のA-A線矢視断面図である。
【0039】
図11(b)と図11(c)は平面図では同様の外観であるが、断面構造において相違する。図11(b)に示された可撓性部材の一例である弾性フィルム122は断面が中実材であるのに対し、図11(c)に示された弾性フィルム122は断面が中空部122aを有する中空材である。中空部122aの内部には空気が封入され、空気層が形成されている。
【0040】
第1実施形態においては、図11(b)および図11(c)に示された弾性フィルム122を用いることが可能であり、図11(c)の空気層を有する弾性フィルム122を用いた場合には、液体の振動をより効果的に減衰させることができる。
【0041】
上述のように本実施形態は、液体を収容する共通液室3と、共通液室3と連通する複数のノズル2と、複数のノズル2を個別に振動させる圧電素子5と、共通液室3に配置され、液体の振動を抑制する弾性フィルム122と、を備え、共通液室3は、ノズル2に対し形成される液室4を有するとともに、液室4のノズル2と対向する位置に弾性フィルム122を備える。
【0042】
また、上述のように、弾性フィルム122は、共通液室3に配置された状態において複数のノズル2と対向する側の面である第一面122-1と、第一面122-1と反対側の面である第二面122-2とを有し、弾性フィルム122は、第一面122-1および第二面122-2が共通液室3に収容された液体と接している。
【0043】
また、上述のように、弾性フィルム122は、樹脂フィルムを含む。
【0044】
また、上述のように、弾性フィルム122は、金属フィルムを含む。
【0045】
これらにより、同時に複数の圧電素子5が駆動されて液体中に発生した振動は、弾性フィルム122によって吸収(減衰)され、隣接する液室4にまで伝播しにくくなり、流体クロストークがもたらすチャネル間での吐出状態のばらつきを抑制することができる。その結果、対象物に対して液体を均一、かつ精度よく塗布することができるようになる。
【0046】
また、上述のように、弾性フィルム122は、第一面122-1と第二面122-2との間に空気層(空気を封入した中空部122a)を備える。
【0047】
また、上述のように、弾性フィルム122の第一面122-1と対向する側に、複数のノズル2の隣接するノズル間を仕切るための内壁4aを有し、内壁4aの、弾性フィルム122の第一面122-1に近い側の端部を第一端部4a-1としたとき、弾性フィルム122の第一面122-1と内壁4aの第一端部4a-1との距離L1を10μm~600μmの範囲に規定した。
【0048】
これらにより、液体の振動をより効果的に吸収(減衰)させることができる。
【0049】
<第2実施形態>
次に、図5および図6を用いて第2実施形態を説明する。図5は第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図、図6図5のX2部拡大図である。なお、既に説明済みの同一部材もしくは同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0050】
第2実施形態において、共通液室3は、その内部に可撓性部材の一例である弾性フィルム123を備える。ここで、弾性フィルム123について、共通液室3の内部に配置した状態においてノズル2と対向する側の面を第一面123-1とし、この第一面123-1と反対側の面を第二面123-2と定義する。上記のように定義した場合、第2実施形態の弾性フィルム123は、第一面123-1および第二面123-2が共に共通液室3に収容された液体と接するように配置される。つまり、弾性フィルム123は液体中に配置されている。
【0051】
弾性フィルム123は、フレーム部材120に設けた液体供給口121の位置よりも図5において上側の位置するようにフレーム部材120に固定されている。弾性フィルム123には、図6に示すように第一面123-1と第二面123-2とを貫通した複数の開口部123bが形成されている。開口部123bのサイズは特に制限されないが、本実施形態では直径数10μmオーダーの円形状の孔としている。第2実施形態では、開口部123bを通して共通液室3の液体を液室4へ送り込むことができるため、第1実施形態のように隙間を設ける必要はなく、共通液室3の面積と同じ面積で弾性フィルム123を設置することが可能になる。
【0052】
弾性フィルム123は、共通液室3内に生じる振動に応じて変形するものであればよく、材質は特に制限されない。材質の一例として、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどのプラスチック材料、SUS(ステンレス)、チタン、ニッケルなどの金属材料が挙げられる。
【0053】
また、弾性フィルム123は、第一面123-1側を、液室4の内壁4aの端部4a-1から所定の距離L2だけ離して設けられている。端部4a-1は、仕切り部材の第一端部の一例である。
【0054】
距離L2は、10μm~600μmの範囲が好ましく、本実施形態では距離L2を100μmとしている。10μmよりも小さい場合は、共通液室3から液室4への液体の送り込みが良好に行えない場合があり、600μmよりも大きい場合は、弾性フィルム123による振動吸収効果が低下し、流体クロストークの低減が不十分になる。
【0055】
なお、弾性フィルム123は、1枚のシート材からなる構成に限るものではない。例えば、共通液室3の内部を複数の領域に分け、領域毎もしくは各領域に求められる効果に応じて弾性フィルムを多数設置してもよい。
【0056】
ここで、図12を用いて第2実施形態で使用される弾性フィルム123の構造を補足する。図12は、可撓性部材の説明図であり、図12(a)は可撓性部材の一部平面図、図12(b)および図12(c)は図12(a)のB-B線矢視断面図である。
【0057】
図12(b)と図12(c)は平面図では同様の外観であるが、断面構造において相違する。図12(b)に示された可撓性部材の一例である弾性フィルム123は、開口部123bを除いた部分の断面が中実材であるのに対し、図12(c)に示された弾性フィルム123は、開口部123bを除いた部分の断面が中空部123aを有する中空材である。中空部123aの内部には空気が封入され、空気層が形成されている。
【0058】
弾性フィルム123の一例として、弾性フィルム123には厚さ100μmのポリイミド製フィルムを用い、当該フィルムに直径数10μmオーダーの開口部123bが開口率75%の割合で形成されている。なお、弾性フィルム123に形成される開口部123bのサイズ、形状、配列は、液体の吐出状態等に応じて適宜変更可能である。また、弾性フィルム123に形成される開口部123bのサイズや形状は一種に限らない。例えば一枚の弾性フィルム123の中に二種以上のサイズや形状の異なる開口部123bを混在させてもよい。
【0059】
第2実施形態においては、図12(b)および図12(c)に示された弾性フィルム123を用いることが可能であり、図12(c)の空気層を有する弾性フィルム123を用いた場合には、液体の振動をより効果的に減衰させることができる。
【0060】
上述のように本実施形態は、液体を収容する共通液室3と、共通液室3と連通する複数のノズル2と、複数のノズル2を個別に振動させる圧電素子5と、共通液室3に配置され、液体の振動を抑制する弾性フィルム123と、を備え、共通液室3は、ノズル2に対し形成される液室4を有するとともに、液室4のノズル2と対向する位置に弾性フィルム123を備える。
【0061】
また、上述のように、弾性フィルム123は、共通液室3に配置された状態において複数のノズル2と対向する側の面である第一面123-1と、第一面123-1と反対側の面である第二面123-2とを有し、弾性フィルム123は、第一面123-1および第二面123-2が共通液室3に収容された液体と接している。
【0062】
また、上述のように、弾性フィルム123は、樹脂フィルムを含む。
【0063】
また、上述のように、弾性フィルム123は、金属フィルムを含む。
【0064】
これらにより、同時に複数の圧電素子5が駆動されて液体中に発生した振動は、弾性フィルム123によって吸収(減衰)され、隣接する液室4にまで伝播しにくくなり、流体クロストークがもたらすチャネル間での吐出状態のばらつきを抑制することができる。その結果、対象物に対して液体を均一、かつ精度よく塗布することができるようになる。
【0065】
また、上述のように、弾性フィルム123は、第一面123-1と第二面123-2とを貫通した複数の開口部123bを備える。
【0066】
また、上述のように、弾性フィルム123は、第一面123-1と第二面123-2との間に空気層(空気を封入した中空部123a)を備える。
【0067】
また、上述のように、弾性フィルム123の第一面123-1と対向する側に、複数のノズル2の隣接するノズル間を仕切るための内壁4aを有し、内壁4aの、弾性フィルム123の第一面123-1に近い側の端部を第一端部4a-1としたとき、弾性フィルム123の第一面123-1と内壁4aの第一端部4a-1との距離L2を10μm~600μmの範囲に規定した。
【0068】
これらにより、液体の振動をより効果的に吸収(減衰)させることができる。
【0069】
<第3実施形態>
次に、図7および図8を用いて第3実施形態を説明する。図7は第3実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図、図8図7のX3部拡大図である。なお、既に説明済みの同一部材もしくは同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0070】
第3実施形態は、上述の第2実施形態に対して弾性フィルム123の設置位置が異なっている。弾性フィルム123は、その第一面123-1が、液室4を形成する内壁4aの第一端部4a-1と接触するように設けてもよい。
【0071】
また、第3実施形態の場合も、図12(b)および図12(c)に示された弾性フィルム123を用いることが可能であり、図12(c)の空気層を有する弾性フィルム123を用いた場合には、液体の振動をより効果的に減衰させることができる。
【0072】
上述のように本実施形態は、弾性フィルム123の第一面123-1と対向する側に、複数のノズル2の隣接するノズル間を仕切るための内壁4aを有し、内壁4aの、弾性フィルム123の第一面123-1に近い側の端部を第一端部4a-1としたとき、弾性フィルム123の第一面123-1が内壁4aの第一端部4a-1と接触している。
【0073】
これにより、同時に複数の圧電素子5が駆動されて液体中に発生した振動は、弾性フィルム123によって吸収(減衰)され、隣接する液室4にまで伝播しにくくなり、流体クロストークがもたらすチャネル間での吐出状態のばらつきを抑制することができる。その結果、対象物に対して液体を均一、かつ精度よく塗布することができるようになる。
【0074】
<第4実施形態>
次に、図9および図10を用いて第4実施形態を説明する。図9は第4実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部断面斜視図、図10図9のX4部拡大図である。なお、既に説明済みの同一部材もしくは同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0075】
第4実施形態は、上述の第1実施形態に対して弾性フィルムの液体との接し方が異なっている。弾性フィルム122は、共通液室3内において第一面122-1のみを共通液室3に収容された液体に接触させ、第二面122-2が共通液室3内の空気に触れるように設けてもよい。この場合、弾性フィルム122は、フレーム部材120に設けた液体供給口121の位置よりも図9において下側に位置するようにフレーム部材120に固定され、液体が弾性フィルム122の第一面122-1側に供給されるようにする。なお、共通液室3内の圧力を適度に保つことができるものであれば、弾性フィルム122の第二面122-2側は、空気以外の任意の気体(例えばガス)と触れる構成としてもよい。
【0076】
上記の構成により弾性フィルム122の第二面122-2側から第一面122-1側に液体を送るための隙間は不要になり、共通液室3の面積と同じ面積で弾性フィルム123を設置することが可能になる。また、弾性フィルム122の第二面122-2側は空気に接しているため、弾性フィルム自体は簡素な構成としつつ、空気を封入した中空部を有する弾性フィルムと同等の効果が得られる。
【0077】
また、第4実施形態の場合も、図11(b)および図11(c)に示された弾性フィルム122を用いることが可能であり、図11(c)の空気層を有する弾性フィルム122を用いた場合には、液体の振動を、より効果的に減衰させることができる。
【0078】
上述のように本実施形態において、弾性フィルム122は、第一面122-1は共通液室3に収容された液体と接し、第二面122-2は共通液室3内の気体と接している。
【0079】
これにより、同時に複数の圧電素子5が駆動されて液体中に発生した振動は、弾性フィルム122によって吸収(減衰)され、隣接する液室4にまで伝播しにくくなり、流体クロストークがもたらすチャネル間での吐出状態のばらつきを抑制することができる。その結果、対象物に対して液体を均一、かつ精度よく塗布することができるようになる。
【0080】
<各実施形態と比較例との比較>
以下、図13図18に各実施形態と比較例との比較結果を示す。比較結果は、同時に駆動させるノズル数(チャネル数)を増加させて行った場合の、ノズルからの液滴吐出速度(滴速度Vj)の変化を表している。比較の対象としている比較例は、共通液室3に可撓性部材(弾性フィルム122,123)を有していない構成の液体吐出ヘッドである。
【0081】
図13は、図3および図4において図11(b)に示した断面が中実材の弾性フィルム122を用いてなる第1実施形態と、比較例とを比較した場合の比較結果を示したものである。
【0082】
図14は、図5および図6において図12(b)に示した開口部123bを除いた断面が中実材の弾性フィルム123を用いてなる第2実施形態と、比較例とを比較した場合の比較結果を示したものである。
【0083】
図15は、図7および図8において図12(b)に示した開口部123bを除いた断面が中実材の弾性フィルム123を用いてなる第3実施形態と、比較例とを比較した場合の比較結果を示したものである。
【0084】
図16は、図9および図10において図11(b)に示した断面が中実材の弾性フィルム122を用いてなる第4実施形態と、比較例とを比較した場合の比較結果を示したものである。
【0085】
図17は、図5および図6において図12(c)に示した開口部123bを除いた断面が中空材の弾性フィルム123を用いてなる第5実施形態と、比較例とを比較した場合の比較結果を示したものである。
【0086】
図18は、図9および図10において図11(c)に示した断面が中空材の弾性フィルム122を用いてなる第6実施形態と、比較例とを比較した場合の比較結果を示したものである。
【0087】
いずれの実施形態においても、液室4に生じた振動を弾性フィルム122,123が吸収し、隣接する液室4への伝播が抑制されるため、同時駆動チャネル数の増加に伴う滴速度の低下度合は比較例と比べて大きく緩和される。
【0088】
<変形例>
続いて、液体吐出ヘッドの変形例について説明する。図19図21は、液体吐出ヘッドの変形例を示す説明図である。図19図21は、図1図10に対して上下を逆さまにして図示されている。また、フレーム部材120の図示は省略している。
【0089】
ヘッド1において電気接続パッド6については、種々の構成が考えられる。例えば、図19に示すように流路基板100の配線部102をヘッド1の側面の端部まで延設し、この配線部102の端部に、外部の電源等の電気部品と接続するための電気接続パッド6を電気的に接続する構成としてもよい。また、図示のように流路基板100が駆動回路101を内蔵しない構成としてもよい。
【0090】
また、図20に示すように、第一引出配線9aと第二引出配線9bの一端を外部に露出させ、この露出した部分によって電気接続パッド6を形成する構成としてもよい。また、この場合も流路基板100が駆動回路101を内蔵しない構成としてもよい。
【0091】
また、図21に示すように、第一引出配線9aと第二引出配線9bの一端をヘッド1の側面の端部まで延設し、この引出配線の端部に電気接続パッド6を電気的に接続する構成としてもよい。また、この場合も流路基板100が駆動回路101を内蔵しない構成としてもよい。
【0092】
<液体を吐出する装置について>
次に、実施形態に係る液体を吐出する装置の一例を説明する。
【0093】
[ライン型印刷装置の例]
図22は、実施形態に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の概略構成図、図23は、実施形態の印刷装置におけるヘッドユニットの一例を示す平面図である。
【0094】
液体を吐出する装置の一例である印刷装置500は、長尺に連続した記録媒体である連続体510を印刷手段505へ供給する供給手段501と、供給手段501から供給された連続体510を印刷手段505へ案内搬送する案内搬送手段503とを備える。また、印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像等の印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥させる乾燥手段507と、連続体510を排出する排出手段509を備える。
【0095】
連続体510は、供給手段501の繰り出しローラ511から送り出され、供給手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、排出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、排出手段509の巻取ローラ591にて巻き取られる。連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像等が印刷される。
【0096】
本実施形態の印刷装置500は、ヘッドユニット550に図23に示すような、2つのヘッドモジュール100A,100Bを搭載した共通ベース部材552を備えている。
本実施形態において、各ヘッドモジュール100A,100Bには、連続体510の搬送方向と直交する方向に複数の液体吐出ヘッド1が配置され、ラインヘッドが構成されている。
【0097】
ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。そして、上述の液体吐出ヘッド1は、これらヘッド列1A1~1D2において用いられる。
【0098】
[シリアル型印刷装置の例]
図24は、実施形態に係る液体を吐出する装置としての他の印刷装置の要部平面図、図25は、図24に示した印刷装置の要部側面図である。
【0099】
本例における印刷装置500は、シリアル型の印刷装置であり、主走査移動機構493によってキャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A,491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0100】
このキャリッジ403には、ヘッドタンク441と上述の液体吐出ヘッド1とを一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置を備えた供給機構と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0101】
印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構485を備えている。搬送機構485は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置に搬送する。搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417およびタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0102】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構485は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0103】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像等を形成する。
【0104】
<液体吐出ユニットについて>
次に、実施形態に係る液体吐出ユニットの一例を説明する。
【0105】
図26は、実施形態に係る液体吐出ユニットの要部平面図である。
【0106】
液体吐出ユニット440は、図24および図25に示した液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A,491Bおよび背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0107】
なお、液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420をさらに取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0108】
図27は、実施形態に係る液体吐出ユニットの他の例を示す正面図である。
【0109】
液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0110】
<補足>
本発明において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出する装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0111】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの供給、搬送、排出に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0112】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0113】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0114】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、アルミニウム箔や銅箔といった集電体、または集電体上に活物質層が形成された電極など、液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0115】
また、「液体」は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、電極材料として用いられる活物質や固体電解質、導電性材料や絶縁性材料を含むインクなどを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどが挙げられる。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液、電極、電気化学素子等の用途で用いることができる。
【0116】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0117】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0118】
また、「液体を吐出する装置」は、定置型の装置に限るものではない。液体を吐出する装置は、例えば、液体吐出ヘッドが搭載された、遠隔操作や自律走行によって移動が可能なロボットであってもよく、移動可能なロボットにより建物の外壁塗装や道路の路面標示(横断歩道、停止線、速度表示等)の塗装等への適用も可能になる。この場合の建物や道路もまた「液体が付着可能なもの」に含まれる。
【0119】
以上説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
【0120】
[第1態様]
第1態様は、液体を収容する共通液室(例えば共通液室3)と、前記共通液室と連通する複数のノズル(例えばノズル2)と、前記複数のノズルを個別に振動させる振動発生手段(例えば圧電素子5)と、前記共通液室に配置され、前記液体の振動を抑制する可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)と、を備え、前記共通液室は、前記ノズルに対し形成される液室(例えば液室4)を有するとともに、前記液室の前記ノズルと対向する位置に前記可撓性部材を備えることを特徴とするものである。
【0121】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)は、前記共通液室(例えば共通液室3)に配置された状態において前記複数のノズル(例えばノズル2)と対向する側の面である第一面(例えば第一面122-1,123-1)と、前記第一面と反対側の面である第二面(例えば第二面122-2,123-2)とを有し、少なくとも前記第一面は前記共通液室に収容された前記液体と接していることを特徴とするものである。
【0122】
[第3態様]
第3態様は、第2態様において、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)は、前記第一面(例えば第一面122-1,123-1)および前記第二面(例えば第二面122-2,123-2)が前記共通液室(例えば共通液室3)に収容された前記液体と接していることを特徴とするものである。
【0123】
[第4態様]
第4態様は、第2態様において、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)は、前記第一面(例えば第一面122-1,123-1)は前記共通液室(例えば共通液室3)に収容された前記液体と接し、前記第二面(例えば第二面122-2,123-2)は前記共通液室内の気体と接していることを特徴とするものである。
【0124】
[第5態様]
第5態様は、第1態様乃至第4態様のいずれかにおいて、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)は、樹脂フィルムを含むことを特徴とするものである。
【0125】
[第6態様]
第6態様は、第1態様乃至第4態様のいずれかにおいて、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)は、金属フィルムを含むことを特徴とするものである。
【0126】
[第7態様]
第7態様は、第2態様乃至第6態様のいずれかにおいて、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム123)は、前記第一面(例えば第一面123-1)と前記第二面(例えば第二面123-2)とを貫通した複数の開口部(例えば開口部123b)を備えることを特徴とするものである。
【0127】
[第8態様]
第8態様は、第2態様乃至第7態様のいずれかにおいて、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)は、前記第一面(例えば第一面122-1,123-1)と前記第二面(例えば第二面122-2,123-2)との間に空気層(例えば空気を封入した中空部122a,123a)を備えることを特徴とするものである。
【0128】
[第9態様]
第9態様は、第2態様乃至第8態様のいずれかにおいて、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)の前記第一面(例えば第一面122-1,123-1)と対向する側に、前記複数のノズルの隣接するノズル間を仕切るための仕切り部材(例えば液室4の内壁4a)を有し、前記仕切り部材の、前記可撓性部材の前記第一面に近い側の端部を第一端部(例えば第一端部4a-1)としたとき、前記可撓性部材の前記第一面と前記仕切り部材の前記第一端部との距離(例えば距離L1,L2)を10μm~600μmの範囲に規定したことを特徴とするものである。
【0129】
[第10態様]
第10態様は、第2態様乃至第8態様のいずれかにおいて、前記可撓性部材(例えば弾性フィルム122,123)の前記第一面(例えば第一面122-1,123-1)と対向する側に、前記複数のノズルの隣接するノズル間を仕切るための仕切り部材(例えば液室4の内壁4a)を有し、前記仕切り部材の、前記可撓性部材の前記第一面に近い側の端部を第一端部(例えば第一端部4a-1)としたとき、前記可撓性部材の前記第一面が前記仕切り部材の前記第一端部と接触していることを特徴とするものである。
【符号の説明】
【0130】
1 液体吐出ヘッド
2 ノズル
3 共通液室
4 液室
4a 内壁(仕切り部材の一例)
5 圧電素子(振動発生手段の一例)
120 フレーム部材
121 液体供給口
122,123 弾性フィルム(可撓性部材の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27