(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024062865
(43)【公開日】2024-05-10
(54)【発明の名称】発酵促進効果を有する乳酸菌株を用いた発酵組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240501BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170990
(22)【出願日】2022-10-25
(71)【出願人】
【識別番号】594197388
【氏名又は名称】小岩井乳業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】藁谷 勲
(72)【発明者】
【氏名】杉山 晋也
(72)【発明者】
【氏名】野村 将
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕嗣
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065BB24
4B065BC03
4B065BD15
(57)【要約】
【課題】本発明は、特定の乳酸菌の組み合わせにより発酵が促進された、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法、かかる製造方法によって製造された前発酵タイプの発酵組成物、及び、前記乳酸菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進組成物等を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の製造方法は、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法。
【請求項2】
乳原料を用いた基質にて48時間培養した上澄み乳清を遠心分離した場合のろ液中の分子量500~2000の成分数が280以上となるラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いることで、発酵促進剤を用いない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
発酵促進剤を用いずに、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株、及び、その他の乳酸菌株を用いて乳原料を30~37℃で1~5時間発酵させた後、38~42℃で発酵させる工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の製造方法により製造された前発酵タイプの発酵組成物。
【請求項5】
ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物に芳醇なチーズ様香味を付与しつつ、前記発酵組成物の発酵を促進する方法。
【請求項6】
ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵促進効果を有する乳酸菌株を用いた前発酵タイプの発酵組成物の製造方法、かかる製造方法によって製造された前発酵タイプの発酵組成物、及び、前記乳酸菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルト等の発酵乳は、整腸作用等の健康に良い効能を有するとともに、安全性が高いため、毎日のように食べる食品として定着しつつある。発酵乳には、製法の違いにより、前発酵タイプの発酵乳と、後発酵タイプの発酵乳が主としてある。前発酵タイプの発酵乳では、発酵タンク等で発酵乳原料を発酵させて発酵乳を得た後に、得られた発酵乳を容器に充填する。後発酵タイプの発酵乳では、発酵乳原料を容器に充填した後で、発酵する。
【0003】
発酵乳を製造する際の発酵工程において、乳酸菌による発酵を促進するために、ホエイペプチド等の乳成分由来ペプチドや、大豆ペプチド等の植物由来ペプチドなどが用いられることが比較的多い。
【0004】
乳酸菌の増殖や発酵を促進する技術として、乳酸菌の死菌体を含む酸性バターミルクを有効成分とする乳酸菌の増殖促進剤(特許文献1)や、2位の炭素原子に水素原子が結合したプリン骨格を有する化合物を含む、乳酸菌用の発酵促進剤(特許文献2)などが開示されている。また、特許文献3には、ラクトバチルス・アシドフィルス(ラクトバシラス・アシドフィラス)に対して増殖促進効果をもつラクトバチルス・サリバリウス(ラクトバシラス・サリバリウス)と、人腸由来のラクトバチルス・アシドフィルスとを、牛乳培地に同時に接種することを特徴とする乳酸菌飲料の製造方法が開示されている。
しかしながら、ラクトコッカス・ラクティスの特定の菌株であるNo.10菌株を用いると、ストレプトコッカス属細菌やラクトバシラス属細菌等の乳酸菌による乳原料の発酵を効果的に促進することができることは、これまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-005811号公報
【特許文献2】特開2017-221157号公報
【特許文献3】特開昭49-109562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特定の乳酸菌の組み合わせにより発酵が促進された、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法、かかる製造方法によって製造された前発酵タイプの発酵組成物、及び、前記乳酸菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進剤等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を行い、360種類の農研機構保有株のうち、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株(以下、単に「No.10菌株」とも表示する。)が特に優れた発酵促進効果を有し得ること;及び、
No.10菌株が、ストレプトコッカス属細菌及びラクトバシラス属細菌の増殖を促進し、その結果、乳原料の発酵を実際に促進したこと;
等を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明などが提供される。
(1)ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法;
(2)乳原料を用いた基質にて48時間培養した上澄み乳清を遠心分離した場合のろ液中の分子量500~2000の成分数が280以上となるラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いることで、発酵促進剤を用いない、上記(1)に記載の製造方法;
(3)発酵促進剤を用いずに、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株、及び、その他の乳酸菌株を用いて乳原料を30~37℃で1~5時間発酵させた後、38~42℃で発酵させる工程を含む、上記(1)又は(2)に記載の製造方法;
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法により製造された前発酵タイプの発酵組成物;
(5)ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物に芳醇なチーズ様香味を付与しつつ、前記発酵組成物の発酵を促進する方法;
(6)ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進組成物;
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の乳酸菌の組み合わせにより発酵が促進された、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法、かかる製造方法によって製造された前発酵タイプの発酵組成物、及び、前記乳酸菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進剤等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】各菌株(No.1菌株~No.20菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。なお、グラフにおける下向きの矢印は、No.10菌株において、他の菌株よりも多い成分数が検出された分子量範囲を示し、横軸において枠で囲われた数値範囲は、No.10菌株において、他の菌株よりも多い成分数が検出された分子量範囲を表す。また、発酵促進剤として用いられることがある乳ペプチド(LE80GF-US、CE90GMM;いずれも日本新薬社製)を添加した脱脂乳溶液に含まれる成分数も分子量範囲別にグラフに表す。
【
図2】各菌株(No.1菌株~No.3菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図3】各菌株(No.4菌株~No.6菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図4】各菌株(No.7菌株~No.9菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図5】各菌株(No.10菌株~No.12菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図6】各菌株(No.13菌株~No.15菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図7】各菌株(No.16菌株~No.18菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図8】各菌株(No.19菌株~No.20菌株)による脱脂乳発酵物に含まれる成分数を分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【
図9】No.10菌株による脱脂乳発酵物に含まれる成分数、及び、発酵促進剤として用いられることがある乳ペプチド(LE(すなわち、LE80GF-US)、CE(すなわち、CE90GMM))を添加した脱脂乳溶液に含まれる成分数を、分子量範囲別にグラフにした図面を示す。グラフの横軸は、分子量範囲を表し、縦軸は所定の分子量範囲内で検出された成分数(ピーク数)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、
[1]ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);
[2]本発明の製造方法により製造された前発酵タイプの発酵組成物(以下、「本発明の発酵組成物」とも表示する。);
[3]ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物に芳醇なチーズ様香味を付与しつつ、前記発酵組成物の発酵を促進する方法(以下、「本発明の促進方法」とも表示する。);
[4]ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進組成物(以下、「本発明の発酵促進組成物」とも表示する。);
等の実施態様を含む。
【0012】
(乳原料)
本明細書における「乳原料」には、典型的には、乳等省令に定義される「乳」、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分(すなわち8%以上)を含むものが挙げられるが、乳成分を含む組成物である限り特に制限されない。本明細書における「乳成分」としては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)」(以下、「乳等省令」という。)に定義される「乳」由来の乳脂肪、及び、該「乳」由来の無脂乳固形分(例えば、該「乳」由来のタンパク質及び/又は該「乳」由来の糖)からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0013】
本明細書における「乳原料」は、乳、乳製品等を用いて調製することができる。「乳原料」として、乳及び/又は乳製品を用いる場合は、より具体的には、牛乳、水牛乳、羊乳、山羊乳、馬乳、濃縮乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、クリーム、バター、バターミルク、練乳、乳糖、乳タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、及び、水からなる群から選択される1種又は2種以上を用いて調製することができる。
【0014】
本明細書における「乳原料」としては、乳成分の固形分の濃度が例えば1~18重量%、好ましくは2~16重量%、より好ましくは4~12重量%であるものが挙げられ、及び/又は、無脂乳固形分の濃度が例えば1~18重量%、好ましくは2~16重量%、より好ましくは2~14重量%、さらに好ましくは4~12重量%、6~10重量%若しくは7~9重量%であるものが挙げられ、及び/又は、乳脂肪分の濃度が例えば0~8重量%、好ましくは0.1~7重量%、より好ましくは0.5~4重量%又は1~3重量%であるものが挙げられる。また、乳原料としては、無脂乳固形分の濃度が例えば8重量%以上、好ましくは8~18重量%、8~16重量%、8~14重量%、8~12重量%、若しくは、8~10重量%であり、及び/又は、乳脂肪分の濃度が例えば0.1重量%以上、好ましくは0.1~8重量%、0.1~7重量%、若しくは、0.1~4重量%である乳が好適に挙げられる。
【0015】
(発酵組成物)
本明細書における「発酵組成物」は、前発酵タイプの「発酵組成物」である。本明細書において「発酵組成物」とは、製造工程のいずれかに、ストレプトコッカス属細菌の生菌、ラクトバシラス属細菌の生菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株の生菌で乳原料を発酵させる工程を含むものを意味する。本明細書における「発酵組成物」には、製造工程のいずれかに、ストレプトコッカス属細菌の生菌、ラクトバシラス属細菌の生菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株の生菌で乳原料を発酵させる工程を含むものである限り、例えば、乳等省令で定義される「発酵乳」、「乳製品乳酸菌飲料」、「乳酸菌飲料」等を包含するがこれらに限定されない。例えば、乳等省令で定義される「発酵乳」とは、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳;や、クリーム、バター、チーズ、練乳などの乳製品;や、乳等を主要原料とする食品;などの乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これらを凍結したものをいうが、本明細書における「発酵組成物」は、このような乳等省令で定義される発酵乳に限定されない。
【0016】
乳等省令における発酵乳などの定義や成分規格は以下のとおりである。
乳等省令において、発酵乳とは「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と定義されている。その成分規格は「無脂乳固形分8%以上、乳酸菌数又は酵母数(1ml当たり)1,000万以上、大腸菌群陰性」とされている。なお、本明細書において乳酸菌数の単位は、CFU(colony forming unit;コロニー形成単位)で表される。
また、乳等省令において、乳製品乳酸菌飲料とは「乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く。)」と定義されている。その成分規格は「無脂乳固形分3%以上、乳酸菌数又は酵母数(1mL当たり)1,000万以上、大腸菌群陰性」とされている。
また、乳等省令において、乳等を主要原料とする食品の乳酸菌飲料とは「乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く。)」と定義されている。その成分規格は「無脂乳固形分3%未満、乳酸菌数又は酵母数(1mL当たり)100万以上、大腸菌群陰性」とされている。
【0017】
(ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株)
ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株は、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)に属する乳酸菌株であり、2022年7月26日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターにて、受託番号NITE P-03692にて寄託されている。
No.10菌株は、例えば、脱脂乳培地にて48時間培養した上澄み乳清を遠心分離した場合のろ液(好ましくは、後述の試験1に記載の試験方法で得たろ液)中の分子量500~2000の成分数が280以上(好ましくは300以上、例えば305)と非常に多い点で、他の乳酸菌株と明確に異なっている。
【0018】
本明細書における、「No.10菌株」には、受託番号NITE P-03692にて寄託されている株そのもの(以下、便宜上、「寄託菌株」ともいう)に限られず、寄託菌株と実質的に同質の株(以下、「同質株」ともいう)や、寄託菌株と実質的に同等な株(以下、「派生株」又は「誘導株」ともいう)も包含される。
【0019】
上記の寄託菌株の同質株とは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシズ・ラクティスに属する乳酸菌株であって、16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列が、No.10菌株の16S rRNA遺伝子のヌクレオチド配列と好ましくは99.5%以上(より好ましくは99.8%以上、さらに好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.95%以上、さらに好ましくは99.99%以上、より好ましくは100%)の配列同一性を有し、かつ、脱脂乳培地にて48時間培養した上澄み乳清を遠心分離した場合(好ましくは後述の試験1の試験方法に供した場合のろ液中の分子量500~2000の成分数が280~330、好ましくは290~320、より好ましくは295~315となる株を意味する。
【0020】
上記の「寄託菌株と実質的に同等の株」とは、上記寄託菌株と同一の種に属し、かつ、脱脂乳培地にて48時間培養した上澄み乳清を遠心分離した場合(好ましくは後述の試験1の試験方法に供した場合のろ液中の分子量500~2000の成分数が280~330、好ましくは290~320、より好ましくは295~315となる株を意味する。寄託菌株と実質的に同等の株は、例えば、当該寄託菌株を親株とする派生株であってよい。派生株としては、寄託菌株から育種された株や寄託菌株から自然に生じた株が挙げられる。
【0021】
実質的に同等の菌株(派生株など)としては、以下のような株が挙げられる。
(1)RAPD法(Randomly Amplified Polymorphic DNA)、PFGE法(Pulsed-field gel electrophoresis)により同一の菌株と判定される菌株(Probiotics in food/Health and nutritional properties and guidelines for evaluation 85 Page43に記載);
(2)当該寄託菌株由来の遺伝子のみ保有し、外来由来の遺伝子を持たず、DNAの同一性が98%以上(好ましくは99%以上、より好ましくは99.5%以上、さらに好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上、より好ましくは99.99%以上)である菌株;
(3)当該寄託菌株から育種された株(遺伝子工学的改変、突然変異、自然突然変異を含む)、同一の形質を有する株;
【0022】
No.10菌株の使用量としては、特に制限されず、下限としては、例えば乳原料に対して0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらに好ましくは1重量%以上が挙げられる。また、上限としては、例えば10重量%以下、5重量%以下、3重量%以下などが挙げられる。
【0023】
(ストレプトコッカス属細菌)
本明細書において、「ストレプトコッカス属細菌」とは、ストレプトコッカス属に属する細菌の生菌を意味する。
ストレプトコッカス属細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)(以下、単に「ストレプトコッカス・サーモフィラス」とも表示する)が好ましく挙げられる。ストレプトコッカス属細菌として、2種以上の菌株を併用してもよい。
【0024】
ストレプトコッカス属細菌の使用量としては、特に制限されないが、例えば乳原料に対して0.01~5重量%、0.1~3重量%、0.5~2重量%などが挙げられる。
また、ストレプトコッカス属細菌は、市販されているものを使用することができる。
【0025】
(ラクトバシラス属細菌)
本明細書において、「ラクトバシラス属細菌」とは、ラクトバシラス属に属する細菌の生菌を意味する。
ラクトバシラス属細菌としては、例えば、ラクトバシラス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・デルブルッキー(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバシラス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシラス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバシラス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバシラス・カゼイ・サブスピーシーズ・ラムノーサス(Lactobacillus casei subsp. rhamnosus)、ラクトバシラス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)が挙げられ、中でも、ラクトバシラス・アシドフィラス、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・パラカゼイが好ましく挙げられ、中でも、ラクトバシラス・アシドフィラスがより好ましく挙げられる。ラクトバシラス属細菌として、2種以上の菌株を併用してもよい。
【0026】
ラクトバシラス属細菌の使用量としては、特に制限されないが、例えば乳原料に対して0.01~5重量%、0.1~3重量%、0.5~2重量%などが挙げられる。
また、ラクトバシラス属細菌は、市販されているものを使用することができる。
【0027】
(本発明の製造方法)
本発明の製造方法としては、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程(以下、単に「発酵工程」とも表示する。)を含む、前発酵タイプの発酵組成物の製造方法である限り特に制限されない。
【0028】
(発酵工程)
上記の発酵工程としては、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程である限り、特に制限されない。また、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株のいずれか1種又は2種以上の菌株は、発酵の最初から必ずしも用いなくてもよく、発酵工程の途中で含有させてもよい。
【0029】
発酵温度や発酵時間は、用いる乳酸菌株の至適生育温度や増殖速度、あるいは、目的とする発酵組成物の種類や商品設計などに応じて、当業者であれば適宜設定することができる。発酵時間としては、例えば1~36時間や2~24時間が挙げられ、好ましくは3~18時間や3~12時間や3~10時間が挙げられ、より好ましくは4~8時間が挙げられる。また、発酵温度としては、例えば30~42℃が挙げられる。発酵組成物pHがどの程度以下になるまで発酵を行うかは、発酵組成物の商品設計等により異なるため一概に述べることはできないが、発酵組成物のpHが例えば5以下、好ましくは4.8~4.5になるまで行うことが好ましい。発酵組成物のpHは常法により測定することができる。
【0030】
本発明における発酵工程の好適な態様として、30~37℃で1~5時間発酵させた後、38~42℃で発酵させる工程が挙げられる。かかる態様とすることにより、ラクトコッカス・ラクティスNo.10株が乳原料を乳ペプチドに分解しやすくなり、その結果、ストレプトコッカス属細菌及びラクトバシラス属細菌の増殖をさらに促進することができる。
【0031】
本発明における発酵工程は、No.10菌株を用いないこと以外は同じ条件で発酵させた場合と比較して、発酵組成物が所定のpH(例えば5以下、好ましくは4.8~4.5)にまで低下するまでの時間を、例えば0.5~5時間、好ましくは1~3時間短縮することができる点で好ましい。
【0032】
(任意の工程)
本発明の製造方法は、発酵工程の他に、任意の工程を含んでいてもよい。かかる任意工程としては、乳原料を容器に充填する工程などが挙げられる。かかる乳原料は、加熱殺菌処理された乳原料であることが好ましく、加熱殺菌処理された後、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を含有させた乳原料であることがより好ましい。
【0033】
(任意成分)
本発明の製造方法において、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株、及び、乳原料のみを用いてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、甘味料、食物繊維、ビタミン、ミネラル、香料等の任意成分を、乳原料に含有させるなどしてさらに用いてもよい。上記の安定剤としては特に限定されず、例えば、カラギーナン、キサンタンガム等が挙げられる。また、上記の甘味料としては特に限定されず、例えば、糖類、糖アルコール類、高甘味度甘味料等が挙げられ、これらの甘味料を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
なお、安定剤を用いる場合、かかる安定剤は発酵組成物全量に対して0.01~0.5重量%や、0.1~0.3重量%となるように用いることができる。
【0034】
(発酵促進剤)
本発明の製造方法において、発酵促進剤を用いてもよいが、特定の乳酸菌の組み合わせにより発酵を促進する観点からは、発酵促進剤を用いないことが好ましい。本発明の製造方法においては、No.10菌株を併用することで、ストレプトコッカス属細菌及びラクトバシラス属細菌の増殖を促進し、乳原料の発酵を促進することができる。
【0035】
本明細書における「発酵促進剤」としては、乳成分由来ペプチド、植物由来ペプチドなどが挙げられる。乳成分由来ペプチドとしては、乳タンパクペプチド、ホエイペプチド、カゼインペプチドが挙げられ、植物由来ペプチドとしては、大豆ペプチド、小麦ペプチドが挙げられる。
【0036】
(本発明の発酵組成物)
本発明の発酵組成物は、本発明の製造方法により製造された前発酵タイプの発酵組成物である限り、特に制限されない。
【0037】
本発明における発酵組成物中の、ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株のそれぞれの生菌濃度としては、特に制限されないが、
(a)ストレプトコッカス属細菌の生菌が、1×106cfu/mL以上、好ましくは1×106~1×1010cfu/mL、より好ましくは1×107~1×109cfu/mLであり;及び/又は、
(b)ラクトバシラス属細菌の生菌が、1×105cfu/mL以上、好ましくは1×105~1×109cfu/mL、より好ましくは1×106~1×108cfu/mLであり;及び/又は、
(c)No.10菌株の生菌が、1×106cfu/mL以上、好ましくは1×106~1×1010cfu/mL、より好ましくは1×107~1×109cfu/mLである
発酵組成物が好ましく挙げられる。
なお、乳酸菌の生菌濃度は、発酵組成物中の乳酸菌の生菌数を、混釈平板培養法等により測定することができる。より具体的には、発酵物の乳酸菌生菌数は、乳等省令別表の二、乳等の成分規格並びに製造、調理及び保存の方法の基準の部、(七)乳等の成分規格の試験法、(3)発酵乳及び乳酸菌飲料、3乳酸菌数の測定法、に記載される測定法にしたがって測定することができる。
【0038】
本発明の発酵組成物としては、無脂乳固形分の濃度が例えば1~18重量%、好ましくは2~16重量%、より好ましくは2~14重量%、さらに好ましくは4~12重量%、6~10重量%若しくは7~9重量%であり、及び/又は、乳脂肪分の濃度が例えば0~8重量%、好ましくは0.1~7重量%、より好ましくは0.5~4重量%又は1~3重量%であるものが好適に含まれる。
発酵組成物に含まれる乳脂肪分や無脂乳固形分などの濃度は、常法によって測定することができる。
【0039】
本発明における「発酵組成物」は、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、甘味料、食物繊維、ビタミン、ミネラル、香料等を含有させてもよい。上記の安定剤としては特に限定されず、例えば、カラギーナン、キサンタンガム等が挙げられる。また、上記の甘味料としては特に限定されず、例えば、糖類、糖アルコール類、高甘味度甘味料等が挙げられ、これらの甘味料を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
なお、本発明における「発酵組成物」が安定剤を含んでいる場合、かかる安定剤は発酵組成物全量に対して0.01~0.5重量%や、0.1~0.3重量%であることが挙げられる。
【0040】
本発明の発酵組成物のpHとしては、特に制限されないが、例えば5以下、好ましくは4.8~4.5が挙げられる。
【0041】
本発明における発酵組成物は、容器詰めされていることが好ましい。
「容器詰めされた」とは、容器(内)に充填され密封されたことをいう。容器は、発酵乳等の製造において一般的に用いられる容器が好ましく挙げられ、例えば、プラスチック製、ガラス製及び紙製等の容器が挙げられる。
【0042】
(芳醇なチーズ様香味)
本発明の発酵組成物は、芳醇なチーズ様香味を有する発酵組成物である点で好ましい。かかる芳醇なチーズ様香味は、No.10菌株による発酵によって生じる香味である。
【0043】
本明細書において、「発酵が促進された」発酵組成物とは、No.10菌株を用いないこと以外は、同種の乳原料を用いて同じ製造方法で製造した発酵組成物(以下、「本発明におけるコントロール発酵組成物」とも表示する)と比較して、発酵が促進された発酵組成物を意味する。本発明の一実施形態に含まれる発酵組成物の発酵が促進されていることは、以下の(a)、(b)から選択される1つ又は2つの事項に該当するかを確かめることによって、確認することができる。
(a)発酵組成物のpHが特定の酸性のpH(例えばpH4.6)に低下するまでに要する発酵時間が、コントロール発酵組成物におけるその発酵時間と比較して短時間であること;
(b)同じ条件で発酵させた場合に、発酵組成物における、ストレプトコッカス属細菌及び/又はラクトバシラス属細菌の菌数(好ましくは生菌数)が、コントロール発酵組成物における、ストレプトコッカス属細菌及び/又はラクトバシラス属細菌の菌数(好ましくは生菌数)と比較して多いこと;
【0044】
(本発明の促進方法)
ストレプトコッカス属細菌、ラクトバシラス属細菌、及び、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を用いて乳原料を発酵させる工程を含む、前発酵タイプの発酵組成物に芳醇なチーズ様香味を付与しつつ、前記発酵組成物の発酵を促進する方法である限り特に制限されない。
【0045】
本発明の促進方法における発酵工程やその好適な態様、あるいは、任意の工程等は、本発明の製造方法において記載したとおりである。
【0046】
本発明の発酵組成物がチーズ様香味(好ましくは芳醇なチーズ様香味)を有していることは、当業者であれば容易に確認することができる。
【0047】
(発酵促進組成物)
本発明の発酵促進組成物は、発酵促進用の組成物である。本発明の「発酵促進組成物」としては、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株を含む、前発酵タイプの発酵組成物用の発酵促進組成物である限り特に制限されない。
【0048】
本発明の発酵促進組成物は、No.10菌株のみを含んでいてもよいし、他の任意成分を含有していてもよい。
【0049】
上記の任意成分としては、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、担体(固体担体、液体担体)、糖類、多糖類などが挙げられる。
【0050】
本発明の発酵促進組成物は、No.10菌株を任意成分と混合すること等により製造することができる。
【0051】
本発明の発酵促進組成物は、発酵を促進することに加えて、発酵組成物に芳醇なチーズ様香味を付与するための組成物としても使用することができる。
【0052】
以下に、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0053】
試験1.[プロテアーゼ活性を有する乳酸菌株のスクリーニング]
プロテアーゼ活性を有する乳酸菌株をスクリーニングするために、以下の試験を行った。
【0054】
(試験方法)
(1)10%還元脱脂乳培地に、360種類の農研機構保有株から選択した20株をそれぞれ接種し、所定温度(30℃前後が至適温度である乳酸菌株は30℃、その他の乳酸菌株は37℃)で48時間、培養を行った。
(2)培養液を遠心した後、上清500μLを採り、ギ酸20μLを加えてから、-20℃で凍結した。
(3)凍結した上清を室温で融解し、遠心分離して不純物を除去した後、0.45μmのフィルターでろ過して除菌した。
(4)除菌した上清を遠心式限外濾過フィルター(公称分画分子量3000、メルク社製、アミコンウルトラ)を通過させたのち、MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計;Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time-of-Flight Mass Spectrometer;エービーサイエックス社製4800 MALDI-TOF/TOF Analyzer)にて得た検出ピークの質量電荷比(m/z)を含有成分の分子量として解析した。
【0055】
発酵促進剤として用いられることがある乳ペプチド(LE80GF-US、CE90GMM;いずれも日本新薬社製)を添加した脱脂乳溶液に含まれる成分を、上記の(試験方法)の方法に準じて分析したところ、それらの成分の分子量はおよそ500~2000であった(
図9のLE(すなわち、LE80GF-US)、CE(すなわち、CE90GMM))。そこで、培養上清中に500~2000の分子量の物質を含む菌株を、前述の乳ペプチドに類似したペプチドを産生する好ましいプロテアーゼ活性を有する候補菌株として選択した。
【0056】
好ましい候補菌株として選択した20種類の菌株(No.1~No.20)の種名を表1に示す。
【0057】
【0058】
また、これらの20種類の候補菌株の培養液上清をTOFMSにて分子量解析して、分子量範囲別に成分数をまとめたプロファイルを表2に示す。また、発酵促進剤として用いられることがある乳ペプチド(LE80GF-US、CE90GMM;いずれも日本新薬社製)を添加した脱脂乳溶液をTOFMSにて分子量解析して、分子量範囲別に成分数をまとめたプロファイルも表2に示す。なお、表2で枠に囲まれた箇所は、ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株において、他の19種のいずれの候補菌株よりも成分数が多かった分子量範囲を表す。
【0059】
また、表2の各菌株等のプロファイルをグラフに表したものを
図2~9に示し、
図2~9のグラフをまとめたものを
図1に示す。
【0060】
【0061】
表2や
図1~9から分かるように、試料番号1~20の菌株ではいずれも、分子量500~2000の間に多くのピーク数(成分数)が確認されたが、試料番号10の菌株(ラクトコッカス・ラクティスNo.10菌株)では特に多くのピーク数(成分数)が確認された。No.10菌株では、分子量500~2000の成分数が305であり、他の19種類の候補菌株と比較して、きわめて多いことが示された。
また、No.10菌株の特徴として、他の19種類の候補菌株と比較して、分子量700~800、800~900、1700~1800、1900~2000の各範囲において特に多いピーク数(成分数)生じる点が見いだされた(
図1の矢印の部分や、表2の枠で囲まれた箇所など)。
【0062】
これらのことから、No.10菌株は、20種類の候補菌株の中でも、特に好ましい、優れた発酵促進効果を有する菌株であることが示された。
【0063】
試験2.[発酵において、No.10菌株を併用することによる、発酵乳のpHへの影響]
乳酸菌を用いた発酵培養において、No.10菌株を併用することが、発酵乳のpHへどのような影響を与えるかを調べるために、以下の試験を行った。
【0064】
(試験方法)
殺菌乳に対して、ラクトバシラス・アシドフィラス菌株を1%、ストレプトコッカス・サーモフィラス菌株を1%、及び、No.10菌株を0%(すなわち無添加)又は0.5%植菌して混合培養を実施した。具体的には、35℃で3時間培養後、42℃培養でpH4.6まで培養し、培養後のサンプルについて、pHを確認した。No.10菌株を無添加の場合の結果(生菌数、及び、pH)を表3に、No.10菌株を0.5%添加した場合の結果(生菌数、及び、pH)を表4に示す。なお、表3及び表4における生菌数の単位はCFU/gである。
【0065】
【0066】
【0067】
表3、表4の結果から、No.10菌株を添加しない場合と比較して、No.10菌株を添加すると、pHの低下速度が速くなり、具体的には、pH4.6に低下するまでに要する時間が約5時間短縮されることが示された。すなわち、No.10菌株は発酵促進効果を有していることが示された。
また、No.10菌株を添加した場合は、得られた発酵乳が芳醇なチーズ様の香味を呈していた。したがって、No.10菌株は、発酵乳に芳醇なチーズ様の香味を付与することができることが示された。
【0068】
試験3.[発酵において、No.10菌株の添加による、発酵乳のpHや菌体数への影響]
乳酸菌を用いた発酵培養において、No.10菌株の添加の有無が、発酵乳のpHや菌体数へどのような影響を与えるかを調べるために、以下の試験を行った。
【0069】
(試験方法)
殺菌乳に対して、ラクトバシラス・アシドフィラス菌株を1%、ストレプトコッカス・サーモフィラス菌株を1%、及び、No.10菌株を0%又は1%植菌して混合培養を実施した。具体的には、40℃で12時間培養し、培養後のサンプルについて、pH及び菌数(生菌数)を確認した。その結果を表5に示す。なお、表5における生菌数の単位はCFU/gである。
【0070】
【0071】
表5の結果から、No.10菌株を添加した場合は、No.10菌株を添加しない場合と比較して、培養後の発酵乳におけるpHがより低下することが示された。また、No.10菌株を添加した場合は、No.10菌株を添加しない場合と比較して、培養後の発酵乳における、ラクトバシラス・アシドフィラス菌株及びストレプトコッカス・サーモフィラス菌株の菌数が多くなる傾向が認められた。
これらのことから、No.10菌株は発酵促進効果を有していることが示された。
本発明によれば、特定の乳酸菌の組み合わせにより発酵が促進された、前発酵タイプの発酵乳の製造方法、かかる製造方法によって製造された前発酵タイプの発酵乳、及び、前記乳酸菌株を含む、前発酵タイプの発酵乳用の発酵促進組成物等を提供することができる。