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特開2024-63380コーティング組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063380
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】コーティング組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 129/04 20060101AFI20240502BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240502BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240502BHJP
【FI】
C09D129/04
C09D7/20
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171275
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】金森 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮平
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CE021
4J038JA17
4J038JA64
4J038MA07
4J038MA09
4J038MA14
4J038MA15
4J038NA04
4J038NA24
(57)【要約】
【課題】均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立がなされたコーティング組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物が、アルコールを含む溶媒に溶解されてなるコーティング組成物であって、前記コーティング組成物の固形分が、前記ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物を主成分とし、かつ、前記固形分の全量に対する前記水溶性ポリフェノール化合物の割合が10質量%以上である、コーティング組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物が、アルコールを含む溶媒に溶解されてなるコーティング組成物であって、
前記コーティング組成物の固形分が、前記ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物を主成分とし、かつ、前記水溶性ポリフェノール化合物を10質量%以上含む、コーティング組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度が60~99.9モル%である、請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度(a)モル%と、前記固形分の全量に対する前記水溶性ポリフェノール化合物の割合(b)質量%との積が、下記の式(1)を満たす、請求項1または2記載のコーティング組成物。
800≦(a)×(b)≦7500 ……(1)
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が100~4000である、請求項1または2記載のコーティング組成物。
【請求項5】
23℃での粘度が5~500mPa・sである、請求項1または2記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記コーティング組成物全量に対する前記アルコールの割合が5質量%以上である、請求項1または2記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記水溶性ポリフェノール化合物が、タンニン酸、没食子酸、エラグ酸、カテキン、およびこれらの重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1または2記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ノルマルアミルアルコール、イソアミルアルコール、およびノルマルヘキシルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1または2記載のコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1または2記載のコーティング組成物の製造方法であって、
前記水溶性ポリフェノール化合物の水溶液を調製する工程と、
前記水溶液中にアルコールを混合する工程と、
前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂を溶解する工程と、
を備えた、コーティング組成物の製造方法。
【請求項10】
前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂を溶解する工程を、前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を混合する工程とする、請求項9記載のコーティング組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールを配合した樹脂コーティング等に関連する従来技術として、例えば、下記の特許文献1~6に示す技術が開示されている。
すなわち、下記の特許文献1には、ポリフェノール及びポリマー成分を含有する保護層が形成された複合半透膜が開示されており、実施例において、ポリビニルアルコール0.1質量%に対しタンニン酸を0.5質量%含む保護層成分が示されている。
また、下記の特許文献2には、タンニン酸とポリビニルアルコールを特定の割合で混合して非水溶化させた成分を含有する抗アレルゲン組成物が開示されている。
また、下記の特許文献3には、被覆防食材の組成の一部に、防錆剤としてタンニン酸を5質量%程度加えたものが開示されている。
また、下記の特許文献4には、タンニン酸を0.001~1%含有する化成処理剤によって化成皮膜を形成したものが開示されている。
また、下記の特許文献5には、アルミ材製の熱交換器の表面に、防錆剤としてタンニン酸を含む表面処理層を形成したものが開示されている。
また、下記の特許文献6には、ポリビニルアルコール化合物、水溶性ポリフェノール化合物及び水を含む接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-250192号公報
【特許文献2】特許第5467636号公報
【特許文献3】特開2007-113035号公報
【特許文献4】特開2005-008975号公報
【特許文献5】特許第3555970号公報
【特許文献6】特開2020-531649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献に開示されているもののなかには、ポリビニルアルコール系樹脂とタンニン酸を併用したコーティング組成物を示唆するものもあるが、ポリビニルアルコール系樹脂とタンニン酸の反応を抑制してコーティング組成物を調製する必要があるため、ポリビニルアルコール系樹脂に対して少量のタンニン酸が添加されたものである。そのため、タンニン酸による耐水性の向上効果が不十分である。
仮にタンニン酸比率を高くした場合、ポリビニルアルコール系樹脂とタンニン酸の架橋反応が瞬時に起こり、ゲル化してしまうため、コーティング組成物としての利用ができなくなる。そのため、このようにタンニン酸比率を高くする場合は、従来、沈殿したゲル物を無理やり塗工していた。
以上のことから、ポリビニルアルコール系樹脂とタンニン酸を併用したコーティング組成物においては、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立が課題となる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立がなされたコーティング組成物およびその製造方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ポリビニルアルコール系樹脂とタンニン酸の各水溶液同士を混合すると、瞬時に架橋反応が起こり、ゲル化してしまうため、コーティング組成物としての利用ができなかったが、本発明者らによる研究結果に基づき、タンニン酸等の水溶性ポリフェノール化合物の水溶液を調製した後、前記水溶液中にエタノール等のアルコールを混合し、さらに、前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂を溶解する、といった順序でコーティング組成物を調製したところ、ポリビニルアルコール系樹脂と水溶性ポリフェノール化合物の架橋が抑制されるようになった。そのため、組成物中の固形分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発分)の10質量%以上の割合で水溶性ポリフェノール化合物を含有させても、均一な塗工液として調製することが可能となることを見いだした。
また、本発明者らは、組成物中の固形分の10質量%以上の割合で水溶性ポリフェノール化合物を含有することにより、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立がなされるようになることを見いだした。
【0007】
しかるに、本発明は、以下の[1]~[10]を、その要旨とする。
[1] ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物が、アルコールを含む溶媒に溶解されてなるコーティング組成物であって、
前記コーティング組成物の固形分が、前記ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物を主成分とし、かつ、前記水溶性ポリフェノール化合物を10質量%以上含む、コーティング組成物。
[2] 前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度が60~99.9モル%である、[1]記載のコーティング組成物。
[3] 前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度(a)モル%と、前記固形分の全量に対する前記水溶性ポリフェノール化合物の割合(b)質量%との積が、下記の式(1)を満たす、[1]または[2]記載のコーティング組成物。
800≦(a)×(b)≦7500 ……(1)
[4] 前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が100~4000である、[1]~[3]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[5] 23℃での粘度が5~500mPa・sである、[1]~[4]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[6] 前記コーティング組成物全量に対する前記アルコールの割合が5質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[7] 前記水溶性ポリフェノール化合物が、タンニン酸、没食子酸、エラグ酸、カテキン、およびこれらの重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つである、[1]~[6]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[8] 前記アルコールが、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ノルマルアミルアルコール、イソアミルアルコール、およびノルマルヘキシルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも一つである、[1]~[7]のいずれかに記載のコーティング組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のコーティング組成物の製造方法であって、
前記水溶性ポリフェノール化合物の水溶液を調製する工程と、
前記水溶液中にアルコールを混合する工程と、
前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂を溶解する工程と、
を備えた、コーティング組成物の製造方法。
[10] 前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂を溶解する工程を、前記アルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を混合する工程とする、[9]記載のコーティング組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
以上のことから、本発明により、ポリビニルアルコール系樹脂および特定量の水溶性ポリフェノール化合物が、アルコールを含む溶媒に溶解された、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立がなされたコーティング組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0010】
なお、本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【0011】
また、本明細書において、主成分とは、その材料の特性に大きな影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、材料全体の50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは95~100質量%である。
【0012】
本発明の実施形態の一例に係るコーティング組成物(以下「本コーティング組成物」という場合がある)は、ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物が、アルコールを含む溶媒に溶解されてなるコーティング組成物であって、前記コーティング組成物の固形分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発分)が、前記ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物を主成分とし、かつ、前記水溶性ポリフェノール化合物を10質量%以上含むものである。
なお、前記主成分は、ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物の合計が、前記固形分の主成分であることを示すものである。
【0013】
以下に、本コーティング組成物の構成成分について詳しく説明する。
【0014】
<ポリビニルアルコール系樹脂>
前記ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と称する)系樹脂は、特に限定されず、未変性PVA樹脂を用いてもよいし、変性PVA系樹脂を用いてもよい。
【0015】
前記未変性PVA樹脂は、通常、ビニルエステル系モノマーを重合し、更にそれをケン化することにより製造することができる。
また、前記変性PVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーと他の不飽和単量体との重合体をケン化したり、未変性PVA樹脂を後変性したりすることにより製造することができる。
【0016】
前記変性PVA系樹脂としては、アセトアセチル変性PVA系樹脂、カチオン変性PVA系樹脂、オキシアルキレン変性PVA系樹脂、アニオン変性PVA系樹脂、等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、アセトアセチル変性PVA系樹脂が好ましい。
かかるアセトアセチル変性PVA系樹脂の製造法としては、特に限定されず、例えば、i)PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、ii)PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、iii)酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いアセトアセチル変性PVA系樹脂が得られるという点から、i)の後変性の方法が好ましく採用される。
【0017】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルであり、殊に好ましくは酢酸ビニルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0018】
前記他の不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、前記「(メタ)アリル」とは、アリルあるいはメタリルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートあるいはメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルあるいはメタクリルをそれぞれ意味するものである。
【0019】
前記PVA系樹脂は、公知の任意の重合法、ケン化法及び後変性方法により得ることができる。
【0020】
なお、前記他の不飽和単量体の導入量及び後変性による変性量はモノマーの種類によって適宜設定されるが、通常は15モル%以下、特には10モル%以下であり、導入量及び変性量が多すぎると、PVA系樹脂の結晶性が低下し、塗工後被膜の耐水性が低下する傾向がある。
【0021】
前記PVA系樹脂の平均ケン化度は、通常60~99.9モル%、好ましくは65~90モル%、特に好ましくは70~90モル%、さらに好ましくは70~80モル%である。平均ケン化度が60モル%より小さいと、水に溶解しにくくなる傾向がある。なお、前記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定される。
【0022】
また、PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は、通常0.5~100mPa・s、好ましくは1~70mPa・s、より好ましくは2~50mPa・sである。かかる粘度が大きすぎると、塗工性に支障をきたす傾向があり、かかる粘度が小さすぎると、コーティング後の塗膜強度が低下する傾向がある。
前記4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0023】
前記PVA系樹脂の平均重合度は、通常100~4000であり、好ましくは200~3000、特に好ましくは300~2500である。かかる平均重合度が低すぎるとフィルム強度等の機械的物性が低下する傾向があり、高すぎると水溶液化が困難になる等、取り扱いが難しくなる傾向がある。なお、前記平均重合度は、JIS K 6726に準拠して測定される。
【0024】
また、PVA系樹脂としては、変性種、変性量、平均ケン化度、粘度、平均重合度等の異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0025】
<水溶性ポリフェノール>
ベンゼン環(C66)の水素の一つがヒドロキシ基(-OH)に置換された物質をフェノールと言うが、ヒドロキシ基を2つ以上持っている物質を水溶性ポリフェノール、つまり「多価フェノール」と総じて言う。このような構造を有する化合物は自然界に多く存在する。緑茶に入っているカテキン類(catechins)、コーヒーに含まれているクロロゲン酸、イチゴや茄子、葡萄、黒豆、小豆などの赤色や紫色のアントシアニン系色素などは、いずれもポリフェノール化合物である。これ以外もポリフェノール化合物は、野菜や果物、カカオ、赤ワインなど、色々なものに含まれている。
【0026】
前記水溶性ポリフェノール化合物は、Hydroxybenzoic acid系化合物、Hydroxycinnamic acids系化合物、Flavonoids系化合物、Lignans系化合物、Stilbenes系化合物、コーヒー酸(Caffeic acid)、クロロゲン酸(Chlorogenic acid)、アントシアン(Anthocyan)、ピロガロール(Pyrogallol)、エラグ酸(Ellagic acid)、没食子酸(Gallic acid)、カテキン(Catechin)、加水分解性タンニン(Hydrolyzable Tannin)、縮合型タンニン(Condensed Tannin)、および3-没食子酸テアフラビン(Theaflavin-3-gallate)からなる群から選択された1種以上を使うことができ、具体的に、前記加水分解性タンニン(Hydrolyzable Tannin)は、タンニン酸(Tannic acid)、ガロタンニン(Gallotannins)及びエラジタンニン(Ellagitannins)からなる群から選択された1種以上を使うことができるが、必ずこれに限定されることではない。
また、前記水溶性ポリフェノール化合物は、具体的には、タンニン酸(tannin acid)、没食子酸(Gallic acid)、エラグ酸(ellagic acid)、カテキン(catechin)およびこれらの重合体からなる群から選択されるものを使用することができる。好ましくは、タンニン酸が用いられる。
【0027】
前記水溶性ポリフェノール化合物の重量平均分子量(Mw)は、特に限定しないが、好ましくは100~10000のものが用いられ、より好ましくは200~8000のものが用いられ、さらに好ましくは300~6000のものが用いられる。
前記重量平均分子量(Mw)は、高速液体クロマトグラフ(東ソー社製、「HLC-8320GPC」)にてカラム(TSKgel SuperMultipore HZ-M(排除限界分子量:2×106、理論段数:16000段/本、充填剤材質:スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、充填剤粒径:4μm))の2本直列を用いて測定し、標準ポリスチレン分子量換算により求めることができる。
【0028】
先に述べたように、本コーティング組成物の固形分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発分)は、前記ポリビニルアルコール系樹脂および水溶性ポリフェノール化合物を主成分とし、かつ、前記水溶性ポリフェノール化合物を10質量%以上含んでいる。前記固形分における水溶性ポリフェノール化合物の含有量は、好ましくは15~99質量%であり、より好ましくは20~90質量%であり、さらに好ましくは25~80質量%である。すなわち、水溶性ポリフェノール化合物が少なすぎると、塗工後被膜の耐水性が低下するからである。
【0029】
また、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立の観点から、前記ポリビニルアルコール系樹脂と水溶性ポリフェノール化合物との割合は、質量比で、ポリビニルアルコール系樹脂/水溶性ポリフェノール化合物=90/10~1/99であることが好ましく、より好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂/水溶性ポリフェノール化合物=90/10~10/90であり、さらに好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂/水溶性ポリフェノール化合物=90/10~20/80である。
【0030】
また、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立の観点から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度(a)モル%と、前記固形分の全量に対する前記水溶性ポリフェノール化合物の割合(b)質量%との積が、下記の式(1)を満たすことが好ましい。
800≦(a)×(b)≦7500 ……(1)
【0031】
上記観点から、(a)×(b)は、より好ましくは1000~7000であり、さらに好ましくは1500~6000である。
【0032】
<アルコールを含む溶媒>
前記溶媒は、通常、水とアルコールを併用したものが用いられるが、アルコールのみの場合も含む趣旨である。
前記アルコールとしては、通常、脂肪族アルコールが用いられる。また、前記アルコールとしては、好ましくは、一価のアルコールが用いられる。さらに、前記アルコールとしては、好ましくは炭素数1~4、より好ましくは炭素数2~3の低級アルコールが用いられる。
前記アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ノルマルアミルアルコール、イソアミルアルコール、ノルマルヘキシルアルコール等の低級アルコールが、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。好ましくは、エタノールが使用される。
【0033】
均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立の観点から、前記コーティング組成物全量に対する前記アルコールの割合は、5質量%以上であることが好ましく、100~60質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
また、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立の観点から、前記コーティング組成物における水/アルコール比(質量比)は、水/アルコール=95/5~30/70とすることが好ましく、水/アルコール=90/10~40/60とすることがより好ましく、水/アルコール=80/20~50/50とすることがさらに好ましい。
【0035】
<本コーティング組成物の製造方法>
本コーティング組成物は、例えば、前記水溶性ポリフェノール化合物の水溶液を調製した後、前記水溶液中にアルコールを混合し、さらに、このようにアルコールを混合した混合液中にポリビニルアルコール系樹脂を溶解することによって、製造することができる。
ここで、ポリビニルアルコール系樹脂は、水溶性ポリフェノール化合物の水溶液とアルコールとの混合溶液にそのまま加えるのではなく、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を加えることが好ましい。
また、前記水溶性ポリフェノール化合物の水溶液と、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液とは、不溶解物が発生しなくなるまで加温・撹拌して調製することが望ましい。
そして、前記水溶性ポリフェノール化合物の割合等が、先に述べたような特定の範囲となるよう、各材料の割合を調整することにより、本コーティング組成物を製造することができる。
【0036】
前記水溶性ポリフェノール化合物の水溶液の加熱温度は、通常20~100℃、好ましくは20~70℃、より好ましくは20~40℃である。
また、前記ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液の加熱温度は、通常20~100℃、好ましくは40~95℃、より好ましくは80~95℃である。
【0037】
このようにして得られた本コーティング組成物は、均一な塗工液の作製と塗工後被膜の耐水性の両立の観点から、23℃での粘度が、5~500mPa・sであることが好ましく、7~300mPa・sであることがより好ましく、10~200mPa・sであることがさらに好ましい。
前記粘度は、デジタル粘度計DV2Tを用いてJIS Z8803に準じて測定される。
【0038】
本コーティング組成物の塗工方法としては、バーコーター、ロールコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、コンマコーティング、スクリーン印刷等公知の方法が挙げられる。
【0039】
前記の塗工方法によって塗工された本コーティング組成物は、40~200℃(好ましくは60~180℃、より好ましくは80~150℃)で、0.1~10分間(好ましくは0.2~7分間、より好ましくは0.3~5分間)乾燥することにより、コーティング膜となる。
前記コーティング膜の厚みは、耐水性等の観点から、通常0.05~10μm、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.5~3μmである。
【0040】
本コーティング組成物は、特に、各種のコーティング剤として有用であり、例えば、紙基材のコーティング剤、プラスチック基材のコーティング剤等として有用である。
【実施例0041】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り質量基準を意味する。
【0042】
実施例および比較例に先立って、下記のPVA系樹脂(PVA-1~PVA-7)を用意した。なお、下記に示すPVA系樹脂の各値(平均重合度、粘度(20℃における4重量%水溶液粘度)、平均ケン化度、変性量)は、前記の基準に従い測定されたものである。
・PVA-1:平均ケン化度72モル%、粘度4.5~5.5mPa・sの、未変性PVA系樹脂
・PVA-2:平均ケン化度72モル%、粘度4.5~5.5mPa・s、変性量8モル%の、アセトアセチル変性PVA系樹脂
・PVA-3:平均ケン化度99モル%、粘度25.0~30.0mPa・sの、未変性PVA系樹脂
・PVA-4:平均ケン化度88モル%、粘度4.8~5.8mPa・sの、未変性PVA系樹脂
・PVA-5:平均ケン化度99モル%、粘度11.5~14.0mPa・s、変性量5モル%の、アセトアセチル変性PVA系樹脂
・PVA-6:平均ケン化度88モル%、粘度18.0~22.0mPa・s、変性量1モル%の、カチオン変性PVA系樹脂
・PVA-7:平均ケン化度88モル%、粘度6.0~8.0mPa・s、変性量2モル%の、オキシアルキレン変性PVA系樹脂
【0043】
<実施例1>
タンニン酸(Tannic Acid、富士フィルム和光純薬社製)の20%水溶液と、平均ケン化度72モル%のPVA-1の20%水溶液とを、不溶解物が発生しなくなるまで加温・撹拌して調製した。そして、タンニン酸の水溶液のほうに所定量のエタノールを混合した後、その混合液中に、前記PVA-1の水溶液を所定量加え、20℃を維持しながら1時間撹拌した後、室温(23℃)まで冷却し、コーティング組成物の固形分中に含まれるタンニン酸割合が30質量%(PVA-1/タンニン酸比(質量比)が7/3)、コーティング組成物の溶媒における水/エタノール比(質量比)が7/3となるよう、コーティング組成物を調製した。
【0044】
<実施例2~15、比較例1~6>
前記の実施例1に示すコーティング組成物の調製方法に準じ、PVA系樹脂の種類、コーティング組成物の固形分中に含まれるタンニン酸割合、コーティング組成物の溶媒における水/エタノール比が、後記の表1に示すものとなるよう、コーティング組成物を調製した。
【0045】
このようにして得られた実施例および比較例のコーティング組成物を用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1に併せて示した。
【0046】
[耐水性試験]
各コーティング組成物を、コロナ表面処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバーコーターでコーティングし、その後、80℃で5分間乾燥した。このようにしてコーティングされたPETフィルムを、5cm×5cmの大きさに切りだし、サンプル片とした。
つぎに、140mLのマヨネーズ瓶に100mLの水を入れ、あらかじめ所定の温度(50℃または80℃)に調温したものを準備し、その水中に、前記サンプル片を所定時間(50℃の水に対しては6時間(溶解試験1)、80℃の水に対しては1時間(溶解試験2))浸漬させた後、フィルムを取り出し、下記の基準に従い、各溶解試験の評価を目視で行った。
〇:コーティング面が8割以上残存している。
△:コーティング面が5割以上残存している。
×:コーティング面の残存割合が5割未満、あるいはコーティング面が完全に溶解している。
【0047】
そして、下記の基準にしたがい、耐水性試験の評価を行った。
◎:前記溶解試験1および溶解試験2が両方とも「〇」の評価であったもの。
〇:前記溶解試験1または溶解試験2が「〇」の評価であったもの(未実施の場合も含む)。
×:前記溶解試験1および溶解試験2が両方とも「×」の評価であったもの。
【0048】
[塗工性評価]
各コーティング組成物を、コロナ表面処理されたPETフィルム上にバーコーターでコーティングし、その後、80℃で5分間乾燥した。このようにしてコーティングされたPETフィルムのコーティング面を下記の基準に従い目視評価し、塗工性の評価とした。
〇:コーティング組成物が均一に塗工できている。
×:コーティングのムラや、PETフィルム上でのコーティング組成物の撥水が見られる。
【0049】
[粘度]
各コーティング組成物を、デジタル粘度計DV2Tを用いてJIS Z8803に準じて測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
前記表1に示すように、実施例のコーティング組成物は、塗工性に優れるとともに、その塗工膜の耐水性に優れることがわかる。
これに対し、比較例のコーティング組成物は、塗工性を担保するため、タンニン酸を不含とするか、タンニン酸の割合が低く抑えられており、実施例のコーティング組成物に比べ、耐水性試験に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本コーティング組成物は、特に、各種のコーティング剤として有用であり、例えば、紙基材のコーティング剤、プラスチック基材のコーティング剤等として有用である。