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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063586
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】クルクミン誘導体の利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20240502BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240502BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240502BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240502BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20240502BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P3/10
A61P43/00 111
A23L33/105
A23K10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171661
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 侑也
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】安永 新
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AA03
2B150AA06
2B150AB10
2B150BA01
2B150BD01
2B150DD31
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD07
4B018MD61
4B018ME03
4B018ME14
4B018MF10
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZC35
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】クルクミンの誘導体に関し、機能性発現の根拠を提供して、その利用を図る。
【解決手段】クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物である。また、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用組成物である。また、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するDPP-4活性阻害用組成物である。また、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する脂肪滴形成阻害用組成物である。また、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する前駆脂肪細胞による炎症性サイトカインの産生抑制用組成物である。上記組成物は、血糖値の正常化のためのものであってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
【請求項2】
クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用組成物。
【請求項3】
クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するDPP-4活性阻害用組成物。
【請求項4】
クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する脂肪滴形成阻害用組成物。
【請求項5】
クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する前駆脂肪細胞による炎症性サイトカインの産生抑制用組成物。
【請求項6】
前記誘導体は下記式(1)で表される化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【化1】
(但し、式(1)中のR1~R6は、それぞれH、OH、OCH、又はOCHOCHで表されるいずれかの基であり、式(1)中の1,4-ペンタジエン-3-オンで表される基の1位又は4位において存在するシス型及びトランス型の異性体についてはいずれの異性体であってもよく任意である。)
【請求項7】
前記誘導体は1,5-ビス(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オンで表される化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
医薬品、サプリメント、又は動物飼料の形態である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
血糖値の正常化のためのものである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルクミン誘導体の利用に関し、より詳細には、機能性発現に基づくその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国において糖尿病患者は増加の一途をたどっており、加えて高齢者において糖尿病は、精神的フレイルに位置付けられている認知症のリスク因子であることが知られている。したがって、糖尿病の発症ならびにその重症化の抑制を目指した新たな治療戦略の確立は、超高齢化社会に向けた我が国において早急に取り組むべき重要な課題となっている。
【0003】
一方、クルクミンは、食用のスパイスとして様々な調理品に汎用されているターメリックの主要成分である。クルクミンには、抗炎症作用、抗酸化作用、抗腫瘍作用、抗糖尿病作用など種々の機能性が報告されている(抗糖尿病作用について、非特許文献1参照)。しかしながら、その作用機序については十分に解明されていないのが現状であり、クルクミンにより実際にどの程度の有効性を期待できるのか未知な側面もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Somlak Chuengsamarn, Suthee Rattanamongkolgul, Rataya Luechapudiporn, Chada Phisalaphong, and Siwanon Jirawatnotai「Curcumin extract for prevention of type 2 diabetes」Diabetes Care. 2012 Nov; 35(11):2121-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような背景技術に鑑みて、本発明の目的は、クルクミンの誘導体に関し、機能性発現の根拠を提供して、その利用を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の構成を備えるものである。
[1]クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物。
[2]クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用組成物。
[3]クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するDPP-4活性阻害用組成物。
[4]クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する脂肪滴形成阻害用組成物。
[5]クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する前駆脂肪細胞による炎症性サイトカインの産生抑制用組成物。
[6]前記誘導体は下記式(1)で表される化合物である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
【化1】
(但し、式(1)中のR1~R6は、それぞれH、OH、OCH、又はOCHOCHで表されるいずれかの基であり、式(1)中の1,4-ペンタジエン-3-オンで表される基の1位又は4位において存在するシス型及びトランス型の異性体についてはいずれの異性体であってもよく任意である。)
[7]前記誘導体は1,5-ビス(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オンで表される化合物である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]医薬品、サプリメント、又は動物飼料の形態である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[9]血糖値の正常化のためのものである、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を利用して、優れた機能性を備えた組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試験例1において、ヒト小腸上皮様細胞株Caco-2を使用して、クルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022の存在下に培養を行い、DPP-4活性ならびにSDF-1分泌レベルへの影響について調べた結果を示す図表である。
図2】試験例2において、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1を使用して、クルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022の存在下に培養を行い、DPP-4活性への影響について調べた結果を示す図表である。
図3】試験例3において、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1を使用して、炎症刺激物質であるLPSと、クルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022との存在下に培養を行い、炎症性サイトカインの分泌レベルへの影響について調べた結果を示す図表である。
図4】試験例4において、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1を使用して、クルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022の存在下に培養を行い、脂肪滴形成への影響について調べた結果を示す図表である。
図5】クルクミン誘導体GO-Y022による機能性発現のメカニズムを考察する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いられるクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0010】
【化2】
(但し、式(1)中のR1~R6は、それぞれH、OH、OCH、又はOCHOCHで表されるいずれかの基であり、式(1)中の1,4-ペンタジエン-3-オンで表される基の1位又は4位において存在するシス型及びトランス型の異性体についてはいずれの異性体であってもよく任意である。)
【0011】
上記式(1)で表される化合物にあっては、そのR1がR4と同じ基であってよく、そのR2がR5と同じ基であってよく、そのR3がR6と同じ基であってよく、あるいはR1、R2、及びR3は、それぞれR4、R5、及びR6と同じ基であってよい。
【0012】
本発明に用いられるクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体としては、例えば、下記式(1a)で表される、1,5-ビス(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オン(1,5-Bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,4-pentadien-3-one)であってもよい。
【0013】
【化3】
【0014】
また、下記式(1b)で表される、1,5-ビス[3,5-ビス(メトキシメトキシ)フェニル]-1,4-ペンタジエン-3-オン(1,5-Bis[3,5-bis(methoxymethoxy)phenyl]-1,4-pentadien-3-one)であってもよい。
【0015】
【化4】
【0016】
また、下記式(1c)で表される、1,5-ビス[3,5-ジメトキシ-4-メトキシメトキシフェニル]-1,4-ペンタジエン-3-オン(1,5-Bis(3,5-dimethoxy-4-methoxymethoxyphenyl)-1,4-pentadien-3-one)であってもよい。
【0017】
【化5】
【0018】
また、下記式(1d)で表される、1-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシフェニル)-5-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オン(1-(4-Hydroxy-3,5-dimethoxyphenyl)-5-(3,4,5-trimethoxyphenyl)-1,4-pentadien-3-one)であってもよい。
【0019】
【化6】
【0020】
なお、上記した式(1a)~(1d)で表される化合物中、1,4-ペンタジエン-3-オンで表される基の1位又は4位において存在するシス型及びトランス型の異性体についてはいずれの異性体であってもよく任意である。
【0021】
本発明に用いられるクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体の調製については、有機合成化学的な手法を採用してもよく、あるいは天然物を利用した調製法を採用してもよい。例えば、既往研究には、クルクミン類化合物に所定の加熱処理を施すと、その1,6-へプタジエン-3,5-ジオンで表される基の3位又は5位のいずれかのケテン基が脱落して、脱ケテン誘導体が生成することが報告されている(Indra N Dahmke, Stefan P Boettcher, Matthias Groh, and Ulrich Mahlknecht「Cooking enhances curcumin anti-cancerogenic activity through pyrolytic formation of “deketene curcumin”」Food Chem. 2014 May 15;151:514-9.)。よって、この原理を利用して、まず植物ウコン等からの抽出物中にクルクミン類化合物を抽出して、抽出されたクルクミン類化合物に対して加熱処理を施し、得られた加熱処理分解物のなかから目的物をHPLC精製する、などしてクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を調製することができる。加熱処理の出発原料としては、食用のスパイスとして上市されているクルクミン含有スパイスを用いてもよい。クルクミン類化合物に対する加熱処理条件としては、限定されないが、例えば、加熱温度が150℃~300℃などであってよく、200℃~275℃などであってよい。また、加熱時間が10分間~5時間などであってよく、30分間~2.5時間などであってよい。あるいは既往研究には、下記に示すとおり、上記した式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)で表される化合物を有機合成したことも報告されている。よって、そのような有機合成化学的な手法を採用してもよい。
【0022】
式(1a)で表される化合物
・Toshiya Masuda, Akiko Jitoe, Junko Isobe, Nobuji Nakatani, and Sigetomo Yonemoria「Anti-oxidative and anti-inflammatory curcumin-related phenolics from rhizomes of Curcuma domestica」Phytochemistry Volume 32, Issue 6, 1993, Pages 1557-1560.
【0023】
式(1b)及び式(1c)で表される化合物
・Hisatsugu Ohori, Hiroyuki Yamakoshi, Masaki Tomizawa, Masatoshi Shibuya, Yuichi Kakudo, Atsuko Takahashi, Shin Takahashi, Satoshi Kato, Takao Suzuki, Chikashi Ishioka, Yoshiharu Iwabuchi, and Hiroyuki Shibata「Synthesis and biological analysis of new curcumin analogues bearing an enhanced potential for the medicinal treatment of cancer」Mol Cancer Ther. 2006 Oct; 5(10):2563-71.
【0024】
式(1d)で表される化合物
・Hiroyuki Yamakoshi, Hisatsugu Ohori, Chieko Kudo, Atsuko Sato, Naoki Kanoh, Chikashi Ishioka, Hiroyuki Shibata, and Yoshiharu Iwabuchi「Structure-activity relationship of C5-curcuminoids and synthesis of their molecular probes thereof」Bioorg Med Chem. 2010 Feb; 18(3):1083-92.
【0025】
後述する実施例に示されるように、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体によれば、DPP-4活性阻害の作用効果、脂肪滴形成阻害の作用効果、前駆脂肪細胞による炎症性サイトカイン(例えば、MCP-1やIL-6)の産生抑制の作用効果などに優れている。よって、ある態様において本発明は、クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体をヒト又は動物に適用して特定の機能性を発揮させるための組成物を提供するものである。例えば、下記組成物が挙げられる。
【0026】
(a)クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する抗糖尿病用組成物
(b)クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用組成物
(c)クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有するDPP-4活性阻害用組成物
(d)クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する脂肪滴形成阻害用組成物
(e)クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を有効成分として含有する前駆脂肪細胞による炎症性サイトカインの産生抑制用組成物
【0027】
また、別の態様において本発明は、血糖値の正常化のためのものであることができる。なお、「血糖値の正常化」とは、通常の当業者に理解される意義と同義である。例えば、基準値に比べて血糖値が高いときに正常化に向けてその血糖値を下げる目的のことをいう。より典型的には、空腹時血糖であれば0~99mg/dlの範囲に収める目的のことをいい、随時血糖であれば140mg/dl以下の範囲に収める目的のことをいう。
【0028】
本発明により提供される組成物において、その組成物中におけるクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体(以下、単に「クルクミン誘導体」)の含有量は、所望する機能性を発揮させるのに必要な有効量の観点から適宜設定することができる。乾燥物換算のクルクミン誘導体の含有量として、例えば、0.001質量%以上100質量%以下であることができ、0.005質量%以上90質量%以下であることができ、0.01質量%以上80質量%以下であることができ、0.01質量%以上70質量%以下であることができ、0.01質量%以上60質量%以下であることができ、0.01質量%以上50質量%以下であることができ、0.01質量%以上40質量%以下であることができ、0.01質量%以上30質量%以下であることができ、0.01質量%以上20質量%以下であることができ、0.01質量%以上10質量%以下であることができ、0.01質量%以上5質量%以下であることができる。また、本発明により提供される組成物を飲料の形態とする場合には、その組成物中におけるクルクミン誘導体の含有量は、例えば、0.001mg/100mL以上10000mg/100mL以下であることができ、0.005mg/100mL以上9000mg/100mL以下であることができ、0.01mg/100mL以上8000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上7000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上6000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上5000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上4000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上3000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上2000mg/100mL以下であることができ、0.1mg/100mL以上1000mg/100mL以下であることができる。
【0029】
本発明により提供される組成物の投与量としては、投与形態、適用するヒト又は動物の健康状態や疾患の状態、目的等に応じて適宜設定すればよく、特に制限はない。典型的に経口投与する場合には、クルクミン誘導体換算で、成人1日当り0.1~1000mgの範囲で摂取することに特に問題はない。
【0030】
なお、クルクミン誘導体について同定や定量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)などにより、行うことができる。
【0031】
本発明により提供される組成物は、これに含まれるクルクミン誘導体がヒト又は動物の生体に摂取されるように用いられればよく、その形態は特に制限されない。例えば、経口的に摂取されるようにして用いる場合、クルクミン誘導体をそのまま用いてもよく、あるいは必要に応じて、錠剤状(錠剤、タブレット、チュアブル錠、口腔内崩壊剤)、液状(液剤)、エマルジョン状(エマルジョン剤)、エキス状(エキス剤)、シロップ状(シロップ剤)、粉末状(顆粒、細粒)、カプセル状(カプセル剤)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状などの形態と成してもよい。また、注射剤、吸引剤、経鼻剤、坐剤などの形態で非経口的に摂取されるようにして用いてもよい。あるいは、医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、動物用医薬部外品などの規格に適合する製品形態で用いられてもよい。
【0032】
本発明により提供される組成物には、その目的を損なわない限り、クルクミン誘導体以外にも他の成分を含有することについて、特に制限はない。経口剤の場合、例えば、賦形剤(ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウムなど)、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤などが挙げられる。あるいは非経口剤として注射剤の場合、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、乳化剤などが挙げられる。
【0033】
本発明により提供される組成物は、クルクミン誘導体を経口的に摂取するようにして利用するため、例えば、サプリメント、動物飼料等の形態を成してもよい。あるいはそれらの原料としても用いられ得る。
【0034】
サプリメントとしては、例えば、上述した形態と同様に、錠剤状(錠剤、タブレット、チュアブル錠、口腔内崩壊剤)、液状(液剤)、エマルジョン状(エマルジョン剤)、エキス状(エキス剤)、シロップ状(シロップ剤)、粉末状(顆粒、細粒)、カプセル状(カプセル剤)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状などの形態であり得る。
【0035】
本発明により提供される組成物は、ヒトだけでなく動物を対象とすることができる。イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、リス、ラット、マウス等のペット類や、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜類などが挙げられる。よって、このような動物に摂取されるように用いるための、動物飼料の形態と成し得る。
【0036】
本発明により提供される組成物を摂取することで、上記したクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体が生体に作用して、例えば、DPP-4活性阻害や、脂肪滴形成阻害や、前駆脂肪細胞による炎症性サイトカイン(例えば、MCP-1やIL-6)の産生抑制などの機能性を発揮し得る。
【0037】
・DPP-4:血糖依存的にインスリン分泌を促進するインクレチンやSDF-1などを分解する酵素
・SDF-1:ストローマ細胞由来因子;ケモカインの一つで骨髄から血管内皮前駆細胞を誘導して血管新生を促進するが、脂肪組織では血管新生に抑制的に働き、脂肪肥大化と肥満を軽減することが報告されている。多くの細胞で構成的に発現している。
・MCP-1:脂肪細胞から分泌される主要なケモカイン(単球走化性因子)で慢性炎症により発現が増加し、炎症部位へ単球・マクロファージを誘導する調節因子である。
・IL-6:T細胞やマクロファージから分泌される炎症性サイトカインでリンパ球および単球分化に関与する。脂肪細胞からも分泌される。
【0038】
一方、既往研究によると、DPP-4活性が様々な機能性発現に影響を与えることが知られている。よって、本発明は、例えば、以下のような対象や用途にも適用され得る。
【0039】
・血圧低下や心筋保護
・中枢性食欲抑制
・糖尿病性腎症
・血中脂質改善(コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、脂質代謝促進作用)
【0040】
例えば、下記文献には、DPP-4の基質である活性型BNPの増加は、血圧低下や心筋保護に寄与することが報告されており、DPP-4阻害によるこれら基質の分解抑制が期待されている。
【0041】
・Erin E. Mulvihill and Daniel J. Drucker「Pharmacology, Physiology, and Mechanisms of Action of Dipeptidyl Peptidase-4 Inhibitors」Endocrine Reviews, December 2014, 35(6):992-1019.
【0042】
また、例えば、下記文献には、DPP-4の基質である活性型NPY/PPYの増加は、中枢性食欲抑制に寄与することが報告されており、DPP-4阻害によるこれら基質の分解抑制が期待されている。
【0043】
・上野 浩晶,中里 雅光「NPYと関連神経ペプチドの機能的相互作用と摂食調節」日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)(2006) 127,73-76.
【0044】
また、例えば、下記文献には、DPP-4阻害による腎臓でのSDF-1の増加は、ナトリウム利尿を介して糖尿病性腎症の進行抑制に貢献することが明らかにされている。
【0045】
・Julie A. Lovshin, Harindra Rajasekeran, Yulyia Lytvyn, Leif E. Lovblom, Shajiha Khan, Robel Alemu, Amy Locke, Vesta Lai, Huaibing He, Lucinda Hittle, Weixun Wang, Daniel J. Drucker, and David Z.I. Cherney「Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibition Stimulates Distal Tubular Natriuresis and Increases in Circulating SDF-1a1-67 in Patients With Type 2 Diabetes」Diabetes Care Volume 40, August 2017 1073-1081.
・Satoru Takashima, Hiroki Fujita, Hiromi Fujishima, Tatsunori Shimizu, Takehiro Sato, Tsukasa Morii, Katsushi Tsukiyama, Takuma Narita, Takamune Takahashi, Daniel J. Drucker, Yutaka Seino and Yuichiro Yamada「Stromal cell-derived factor-1 is upregulated by dipeptidyl peptidase-4 inhibition and has protective roles in progressive diabetic nephropathy」Kidney International (2016) 90, 783-796.
【0046】
なお、本発明において、上記したクルクミン類化合物の脱ケテン誘導体を特定の機能性を発揮させるためにヒト又は動物に適用する場合、その利用の態様としては、上述したうち1種類の機能性を発揮させるための組成物の形態と成してもよく、あるいは、上述したうち2種以上の機能性を発揮させるために適用される組成物の形態と成ししてもよい。
【実施例0047】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
〔1.細胞及び培養プロトコール〕
ヒト小腸上皮様細胞株Caco-2とマウス前駆脂肪細胞3T3-L1を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC:American Type Culture Collection)から入手した。それぞれの細胞は、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEMを培地に用いて、37℃、5%COのインキュベータ内で培養した。培地交換は2日ごとに行った。細胞が80%コンフルエントに達した時点で、0.25%トリプシン/EDTA液により培養皿から剥がし、継代した。なお、すべての実験は5代以内の継代培養の間に行った。
【0049】
〔2.供試物質〕
以下の供試物質を準備した。
【0050】
クルクミン:東京化成工業社製
クルクミン類化合物の脱ケテン誘導体:(1E,4E)-1,5-ビス(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-1,4-ペンタジエン-3-オン((1E,4E)-1,5-Bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,4-pentadien-3-one)(日本カーバイド工業社製)
リポ多糖:LPS(Lipopolysaccharide)(Sigma-Aldrich社製)
【0051】
〔3.DPP-4活性測定〕
細胞を12ウェル-プレートに撒き、37℃、5%COのインキュベータ内で培養した。その後、供試物質としてクルクミン又はその脱ケテン誘導体(以下、「GO-Y022」という場合がある。)を、それぞれ終濃度が10μM、20μM、30μM、又は50μMとなるよう培地に添加して、更に24時間培養した。培養後の培養上清中のDPP-4活性を、活性測定キット(商品名「DPPIV/CD26 Assay Kit for Biological Samples」、Enzo Life sciences社)を用いて測定した。
【0052】
〔4.SDF-1の測定〕
ELISAキット(Human CXCL12/SDF-1a Immunoassay kit、R&D Systems社)により、培養後の培養上清中のSDF-1濃度の測定を行った。
【0053】
〔5.IL-6とMCP-1の測定〕
細胞を12ウェル-プレートに撒き、37℃、5%COのインキュベータ内で培養した後、炎症刺激物質であるLPSを終濃度が10ng/mLとなるよう培地に添加し、24時間培養した。その後、クルクミン又はその脱ケテン誘導体であるGO-Y022を、それぞれ終濃度が10μM、20μM、30μM、又は50μMとなるよう培地に添加して、更に24時間培養した。培養後の培養上清中のIL-6又はMCP-1の濃度を、ELISAキット(商品名「Quantikine ELISA」、R&D Systems社)を用いて測定した。
【0054】
〔6.脂肪滴サイズの測定〕
コンフルエントに達した3T3-L1細胞は、脂肪分化誘導を行うため、10%FBS、5mg/mLインスリン、1μMデキサメタゾン、50mM IBMXを加えたDMEMで2日間培養した。その後、10%FBS、5mg/mLインスリンを加えたDMEMに培地を交換し、同時に、クルクミン又はその脱ケテン誘導体であるGO-Y022を、それぞれ終濃度が10μMとなるよう培地に添加して、更に6日間培養した。培養後の培養上清を取り除き、PBSで培養皿を数回洗浄した。その後、脂肪滴イメージング試薬(商品名「LipiDye II」、フナコシ社)を添加したDMEMをウェルに加え、30分間以上インキュベートして、蛍光染色を行った。染色画像は、蛍光顕微鏡「BZ-9000」(キーエンス社)により撮影し、解析ソフト「BZ-II analyzer software version 2.2」(キーエンス社)により解析した。
【0055】
〔7.細胞数の測定〕
血球計算盤により細胞数の測定を行った。
【0056】
〔8.統計解析〕
各データは、一元配置分散分析(one-way ANOVA)とBonferoniの多重比較検定により統計解析を行った。
【0057】
<試験例1>
DPP-4(Dipeptidyl peptidase-4)は、血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン(インクレチンと総称される)であるGLP-1(glucagon-like peptide-1)とGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)を分解する酵素として知られ、その阻害薬であるDPP-4阻害薬は、2009年の本邦での上市以来、糖尿病治療薬の主流として幅広く日常診療で用いられている。DPP-4が分解する標的分子としては、前述のGLP-1とGIPが主たる標的であるが、その他にも種々の基質を標的としていることが知られている。例えば、肥満は、インスリン抵抗性を惹起することにより糖尿病発症の主要なリスク因子であるが、最近、DPP-4の基質の一つであるケモカインのSDF-1(Stromal cell-derived factor-1)が肥満抑制因子として報告された(E. Watanabe, T. Wada, A. Okekawa, et al., Stromal cell-derived factor 1 (SDF1) attenuates platelet-derived growth factor-B (PDGF-B)-induced vascular remodeling for adipose tissue expansion in obesity, Angiogenesis. 23 (2020) 667-684.)。
【0058】
本試験例では、これらDPP-4とSDF-1について、クルクミンとその誘導体であるGO-Y022による影響を調べた。具体的には、DPP-4の発現が豊富なヒト小腸上皮様細胞株Caco-2を使用して、クルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022の存在下に24時間の培養を行い、DPP-4活性ならびにSDF-1分泌レベルへの影響について調べた。
【0059】
その結果、図1aに示されるように、クルクミンを種々の濃度(10~50μM)で添加して培養したクルクミン群では、対照群に比して、培養上清中でのDPP-4活性の有意な低下はみられなかったが、クルクミン誘導体であるGO-Y022を種々の濃度(10~50μM)で添加して培養したGO-Y022群では、対照群に比して、培養上清中でのDPP-4活性の有意な低下がみられた。
【0060】
また、図1bに示されるように、GO-Y022群での培養液中のSDF-1の濃度を測定したところ、20~50μMのGO-Y022添加下での培養で有意なSDF-1レベルの上昇が観察された。
【0061】
なお、図1cに示されるように、培養後の細胞数については、クルクミン群とGO-Y022群で顕著な差はみられなかった。
【0062】
以上のことから、GO-Y022はクルクミンよりも強いDPP-4活性阻害効果を示し、DPP-4活性阻害を介したSDF-1の分解抑制とそれに伴うSDF-1レベルの上昇作用を有することが明らかとなった。
【0063】
<試験例2>
本試験例では、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1を使用して、試験例1と同様にして、DPP-4活性阻害の作用効果について、クルクミンならびにクルクミン誘導体GO-Y022による影響を調べた。
【0064】
その結果、図2に示されるように、前駆脂肪細胞でも同様に、クルクミンを種々の濃度(10~50μM)で添加して培養したクルクミン群では、対照群に比して、培養上清中でのDPP-4活性の有意な低下はみられなかったが、クルクミン誘導体であるGO-Y022を種々の濃度(10~50μM)で添加して培養したGO-Y022群では、対照群に比して、培養上清中でのDPP-4活性の有意な低下がみられた(図2a)。なお、培養後の細胞数については、クルクミン群とGO-Y022群で顕著な差はみられなかった(図2b)。
【0065】
<試験例3>
本試験例では、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1を使用して、炎症性サイトカインの産生抑制効果について、クルクミンならびにクルクミン誘導体GO-Y022による影響を調べた。具体的には、炎症刺激物質であるLPSを終濃度が10ng/mLとなるよう培地に添加し、加えてクルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022の存在下に24時間の培養を行い、炎症性ケモカインMCP-1ならびに炎症性サイトカインIL-6の分泌レベルへの影響について調べた。
【0066】
その結果、図3に示されるように、LPSで分泌が増加した炎症性ケモカインMCP-1の分泌レベル(図3a)ならびに炎症性サイトカインIL-6の分泌レベル(図3b)は、GO-Y022群で有意に抑制された。一方、クルクミン群ではこれらの抑制はみられなかった(図3a、b)。なお、培養後の細胞数については、クルクミン群とGO-Y022群で顕著な差はみられなかった(図3c)。
【0067】
<試験例4>
本試験例では、脂肪滴形成抑制効果について、クルクミンならびにクルクミン誘導体GO-Y022による影響を調べた。具体的には、マウス前駆脂肪細胞3T3-L1を使用して、脂肪分化誘導のための培地で6日間培養した後、10μMのクルクミン又はクルクミン誘導体GO-Y022の存在下に24時間の培養を行い、成熟脂肪細胞への分化過程での脂肪滴形成について、脂肪滴イメージング試薬(商品名「LipiDye II」、フナコシ社)を用いた蛍光染色により解析を行った。
【0068】
その結果、図4に示されるように、GO-Y022群では脂肪細胞での脂肪滴形成を抑制し小型化する所見が得られた(図4c及び図4d、e)。一方、クルクミン群ではそのような有意な小型化はみられなかった(図4b及び図4d、e)。
【0069】
〔考察〕
図5には、以上の試験結果に基づいてクルクミン誘導体GO-Y022による機能性発現のメカニズムを考察した。
【0070】
GO-Y022はDPP-4阻害作用を発揮し、その結果DPP-4により分解される基質のSDF-1のレベルを高めることで、脂肪肥大化を軽減し、成熟脂肪細胞の小型化と肥満の抑制に寄与し、インスリン抵抗性の改善を介した抗糖尿病作用をもたらすものと考えられた。また、成熟脂肪細胞への分化過程において強い炎症が加わるとMCP-1などのケモカインやIL-6などの炎症性サイトカインの産生が亢進し、増加したMCP-1により脂肪組織へのマクロファージの浸潤が促進することで脂肪組織における炎症性変化は増大する。このような脂肪組織における炎症性変化は脂肪細胞からの抗炎症性アディポサイトカインの産生減少や遊離脂肪酸の産生増加を引き起こし、インスリン抵抗性を増悪させることで耐糖能障害を惹起する。GO-Y022は、こうした脂肪組織での炎症の抑制に寄与し、肥満でみられるアディポサイトカイン産生調節の破綻を改善し、その調節機構の正常化へと導き得ることで、インスリン抵抗性の改善を介した抗糖尿病作用をもたらすものと考えられた。更に、GO-Y022は脂肪細胞における直接的な脂肪滴形成抑制作用を有することも明らかとなった。よって、肥満や脂肪肥大化に伴うインスリン抵抗性が原因となる耐糖能障害を改善すること、ならびに脂質低下作用をもたらすものと考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5