(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063645
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】センサー状態判定装置、センサー状態判定システム、センサー状態判定方法、管理システム、センサー状態判定プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01D 1/14 20060101AFI20240502BHJP
G01D 1/02 20060101ALI20240502BHJP
G01D 1/18 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01D1/14
G01D1/02 C
G01D1/18 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171758
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大橋 雄太
(72)【発明者】
【氏名】土屋 遼太
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅久
(57)【要約】
【課題】センサーの劣化をユーザーに通知する技術を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るセンサー状態判定装置(11)は、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー(12-1、12-2、12-3、・・・、及び12-n)間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出部(112)と、前記状態変化度算出部(112)において算出した値を参照して、前記複数のセンサー(12-1、12-2、12-3、・・・、及び12-n)のうちの何れかが状態変化していることを判定する判定部(113)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出部と、
前記状態変化度算出部において算出した値を参照して、前記複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していることを判定する判定部と、を備える、センサー状態判定装置。
【請求項2】
前記測定値のばらつきを表す値は、前記測定値の変動係数、前記測定値の標準偏差、及び前記測定値のうちの最大値と最小値との差のうち、少なくとも1つである、請求項1に記載のセンサー状態判定装置。
【請求項3】
前記複数のセンサー間の前記測定値の差を参照して、状態変化したセンサーを特定する特定部をさらに備える、請求項1に記載のセンサー状態判定装置。
【請求項4】
所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーと、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサー状態判定装置と、を備える、センサー状態判定システム。
【請求項5】
所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出ステップと、
前記状態変化度算出ステップにおいて算出した値を参照して、前記複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していると判定する判定ステップと、を含む、センサー状態判定方法。
【請求項6】
所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーと、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサー状態判定装置と、
前記複数のセンサーの測定値の平均値を参照して、前記空間内の環境を制御する制御装置と、を備える、管理システム。
【請求項7】
前記測定値の平均値は、前記センサー状態判定装置によって特定した状態変化したセンサーを除いたセンサーの測定値の平均値である、請求項6に記載の管理システム。
【請求項8】
請求項1に記載のセンサー状態判定装置としてコンピュータを機能させるためのセンサー状態判定プログラムであって、前記状態変化度算出部及び前記判定部としてコンピュータを機能させるためのセンサー状態判定プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のセンサー状態判定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー状態判定装置、センサー状態判定システム、センサー状態判定方法、管理システム、センサー状態判定プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、施設園芸分野で気温、相対湿度、及びCO2濃度等の環境要素のセンシング又はその測定値を用いた環境制御が盛んに行われている。農業施設の大型化に伴い、施設内の環境要素のムラへの懸念から、使用する環境センサー数の増加が見込まれる。例えば、非特許文献1には、0.5haの温室内の温度ムラを明らかにするために、70個のセンサノードを設置し、多地点計測を行ったことが記載されている。
【0003】
高温多湿な環境になり易い温室内では、センサーが特に劣化しやすいという問題がある。センサーが劣化して異常値が出力されると、不正確な環境データが蓄積されるだけでなく、測定値を環境制御に利用している場合、環境制御の精度が落ちる。加えて、多地点計測に伴ってセンサー数が増加すると、センサーの状態変化の確認、又は不具合が生じているセンサーの特定及び交換に過大な労力を要する。
【0004】
特許文献1~4には、複数のセンサーの測定値の差が閾値を超えるか否かによりセンサーの故障を判断する方法が記載されている。また、特許文献5及び6には、複数の測定値から算出した変動係数が閾値を超えるか否かによりセンサーの故障を判断する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-079357号公報
【特許文献2】国際公開第2019/208608号
【特許文献3】特開2012-014222号公報
【特許文献4】特開2018-91738号公報
【特許文献5】特開2013-221741号公報
【特許文献6】特許第7011106号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】後藤,外2名,“大規模温室の温熱空気環境をモニタリングするためのワイヤレス・センサ・ネットワークの開発と評価”,農業施設学会誌,2020年7月,51巻2号,p.49-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
センサーの不具合は、主に、経年劣化による不具合及び断線等による突発的な故障の2種類である。経年劣化による不具合は、センサーの測定値が穏やかに変化するという特徴を有する。持続的に安定した環境制御及び測定を行うためには、センサーが完全に故障する前に、経年劣化によって不具合が生じたセンサーを交換することが好ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1~4に記載の技術は、センサーの測定値が閾値に達するまでの穏やかな変化を検出することができない。
【0009】
また、特許文献5及び6に記載の技術は、複数のセンサーは使用しておらず、複数回の測定値がほぼ一定である指標を用いて異常を判定する技術である。したがって、環境要素のような日変動が大きい要素を測定するセンサーの状態変化の検出には適さない。
【0010】
本発明の一態様は、センサーの劣化をユーザーに通知する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るセンサー状態判定装置は、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出部と、前記状態変化度算出部において算出した値を参照して、前記複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していることを判定する判定部と、を備える。
【0012】
本発明の一態様に係るセンサー状態判定システムは、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーと、本発明の一態様に係るセンサー状態判定装置と、を備える。
【0013】
本発明の一態様に係るセンサー状態判定方法は、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出ステップと、前記状態変化度算出ステップにおいて算出した値を参照して、前記複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していると判定する判定ステップと、を含む。
【0014】
本発明の一態様に係る管理システムは、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーと、本発明の一態様に係るセンサー状態判定装置と、前記複数のセンサーの測定値の平均値を参照して、前記空間内の環境を制御する制御装置と、を備える。
【0015】
本発明の各態様に係るセンサー状態判定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記センサー状態判定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記センサー状態判定装置をコンピュータにて実現させるセンサー状態判定装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、センサーの劣化をユーザーに通知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態1に係るセンサー状態判定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るセンサー状態判定システムにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態2に係るセンサー状態判定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係るセンサー状態判定システムにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態3に係る管理システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態3に係る管理システムにおける処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施例1(センサー3つ使用時)におけるセンサーの測定値、補正値、及び平均値を示した図である。
【
図8】実施例1(センサー3つ使用時)における測定値の変動係数を示した図である。
【
図9】実施例2(センサー3つ使用時)における測定値の標準偏差を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
図1を参照して、本実施形態に係るセンサー状態判定システム1について説明する。以下では、温度を測定するセンサーの状態判定をするセンサー状態判定システム1を例に挙げて説明するが、本実施形態に係るセンサー状態判定システム1はこれに限られるものではない。
【0019】
図1は、センサー状態判定システム1の要部構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、センサー状態判定システム1は、センサー状態判定装置11、センサー12、及び出力装置13を備えている。なお、以下において、「センサー状態判定システム」を「状態判定システム」、「センサー状態判定装置」を「状態判定装置」とも称する。
【0020】
センサー12と状態判定装置11とは、通信手段を介して、互いに通信可能に接続されている。本実施形態において、通信手段として、無線LAN(Local Area Network)が用いられるが、これに限定されない。通信手段としては、電子データの送受信を媒介可能な任意の手段を用いることができ、例えば、有線通信手段を用いてもよい。また、出力装置13と状態判定装置11とにおいても、同様に通信手段として、無線LANが用いられるが、これに限定されない。
【0021】
(センサー12)
センサー12は、気温を測定する複数のセンサーからなるセンサー群である。ただし、センサー12は、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーであればよい。所定の空間は、ユーザーが適宜設定することができ、例えば、温室、農地、畜産施設などが挙げられる。また、測定対象は、特に限定されないが、例えば、気温、相対湿度、日射量、CO2濃度、アンモニア濃度、及びCO濃度等が挙げられる。また、本発明の一態様に係る状態判定システム1は、日変動が大きい測定対象を測定するセンサーの状態判定に好適に使用できる。日変動が大きい測定対象としては、例えば、気温、相対湿度、CO2濃度、及び日射量等を測定するセンサーが挙げられる。
【0022】
また、センサー12は、2つ以上のセンサーから構成されていればよいが、統計学的な観点から、3つ以上のセンサーから構成されていることが好ましい。本実施形態において、センサー12は、センサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nを含むセンサー群である。なお、「n」は任意の整数を表し、「センサー12-3、・・・、及びセンサー12-n」は、センサー12-3と共に、nが4以上の任意の数のセンサーを含むことを意味している。
【0023】
センサー12は、測定値を表す情報を状態判定装置11に出力する。状態判定装置11への出力は、センサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nそれぞれが行ってもよく、各センサーの測定値をセンサー12が備える記憶部(不図示)に一旦記憶し、センサー12から出力してもよい。また、センサー12は、測定する毎に測定値を表す情報を状態判定装置11に出力してもよいし、所定のタイミングやユーザーからの指示入力に基づき出力してもよい。
【0024】
(センサー状態判定装置11)
センサー状態判定装置11は、センサー12において測定された測定値を取得し、センサー12を構成する複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していることを判定する。
図1に示すように、状態判定装置11は、取得部111と、状態変化度算出部112と、判定部113と、を備えている。センサー状態判定装置11は、センサー12が測定する毎に複数のセンサーの状態を判定する。
【0025】
(取得部111)
取得部111は、センサー12において測定された測定値を取得する。取得部111は、測定値を、センサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nから取得してもよく、センサー12から取得してもよい。取得部111は、取得した測定値を表す情報を状態判定装置11が備える記憶部(不図示)に記憶してもよい。取得部111は、取得した測定値を表す情報を状態変化度算出部112に出力する。
【0026】
(状態変化度算出部112)
状態変化度算出部112は、取得部111が取得した測定値を参照して、センサー12の複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する。測定値のばらつきを表す値は、測定値の変動係数、測定値の標準偏差、及び測定値のうちの最大値と最小値との差のうち、少なくとも1つであり得る。本実施形態において、状態変化度算出部112は、センサー12を構成する複数のセンサーにおいて測定された測定値間の変動係数を算出する。変動係数は、一般的に、異なる平均値を持つ集団のばらつきの指標として適している。そのため、屋外の気象や栽培方法等によって大きな日変動を有する対象を測定するセンサーの状態変化度に好適に使用することができる。状態変化度算出部112は、算出した変動係数を表す情報を判定部113に出力する。ただし、測定値のばらつきを表す値は、測定値の変動係数、測定値の標準偏差、及び測定値のうちの最大値と最小値との差のうち、2つ以上を算出してもよい。
【0027】
(判定部113)
判定部113は、状態変化度算出部112において算出した値を参照して、センサー12を構成する複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していることを判定する。判定部113は、センサー12を構成する複数のセンサーに状態変化したセンサーがあるか否かを判定する。本実施形態において、判定部113は、状態変化度算出部112において算出した変動係数が所定の閾値を超えるかを判定し、該閾値を超える場合、センサー12のうち何れかが状態変化していることを表す情報を出力装置13に出力する。所定の閾値は、ユーザーが許容できる測定値のばらつきに応じて適宜設定することができる。許容できる測定値のばらつきは、測定対象の種類、センサーの感度等に応じて、変化し得る。例えば、測定値のばらつきが大きいセンサーの状態変化を判定する場合は、閾値を高めに設定し、測定値のばらつきが小さいセンサーの状態変化を判定する場合は、閾値を低めに設定すればよい。
【0028】
また、所定の閾値には、段階的に設定された複数の閾値が含まれていてもよい。この場合、判定部113は、状態変化度算出部112において算出した変動係数が複数の閾値を超えるかを判定し、何れかの閾値を超える場合、センサー12を構成する複数のセンサーのうちの何れかがどの程度状態変化しているかを表す情報を出力装置13に出力する。具体的には、1%、2%、3%、4%、及び5%の5つの閾値を設定した場合、変動係数が1%超2%以下のとき状態1、2%超3%以下のとき状態2、3%超4%以下のとき状態3、4%超5%以下のとき状態4、5%超のとき状態5であることを表す情報のような状態変化の度合いを表す情報を出力してもよい。このように、段階的に設定された複数の閾値を使用することにより、センサーの状態をより詳細に通知することができる。
【0029】
また、状態変化度算出部112において2つ以上の測定値のばらつきを表す値を算出する場合、判定部113は、測定した値の全てが所定の閾値を超えた場合に、センサー12のうち何れかが状態変化していることを表す情報を出力装置13に出力してもよく、測定した値のうち何れか1つでも所定の閾値を超えた場合に、センサー12のうち何れかが状態変化していることを表す情報を出力装置13に出力してもよい。
【0030】
(出力装置13)
出力装置13は、状態判定装置11において判定したセンサーの状態を表す情報を取得し、ユーザーが認識できるように出力する。出力方法は特に限定されないが、例えば、センサーの状態を表示部(不図示)に表示する又はメールで警報する、及び一定の状態を超えた場合にランプを点灯する又はアラームを鳴らす等が挙げられる。例えば、センサーの状態を表示部(不図示)に表示する場合、判定部113からセンサーが状態1~3であることを表す情報を取得したら「センサー健全」と表示し、センサーが状態4及び5であることを表す情報を取得したら「センサー交換推奨」と表示することができる。なお、表示情報は、ユーザーが適宜設定することができる。
【0031】
(処理の流れ)
図2を参照して、センサー状態判定装置11における状態判定処理の流れを説明する。
図2は、状態判定装置11における処理の流れを示すフローチャートである。
【0032】
図2に示すように、取得部111は、まず、センサー12のセンサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nからそれぞれの測定値を取得する(ステップS11)。次に、状態変化度算出部112は、センサー12を構成する複数のセンサーにより測定された測定値間の変動係数を算出する(ステップS12、状態変化度算出ステップ)。そして、判定部113は、状態変化度算出ステップS12において算出した変動係数が所定の閾値を超えるかを判定する(ステップS13、判定ステップ)。変動係数が所定の閾値以下である場合(ステップS13でNo)、ステップS11へ戻る。一方、変動係数が所定の閾値を超える場合(ステップS13でYes)、判定部113は、複数のセンサーのうち何れかが状態変化していることを表す情報を出力し(ステップS14)、処理を終了する。ただし、状態変化度算出ステップにおいて算出する値は、変動係数に限らず、センサー12の複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値であればよい。
【0033】
複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値は、測定値の穏やかな変化を反映する。そのため、本実施形態によれば、センサーが故障する前に、穏やかな状態変化を特徴とするセンサーの劣化をユーザーに通知することができる。したがって、ユーザーは、センサーの劣化を知ることにより、センサーが故障する前にセンサーを交換することができるため、持続的に安定した制御や測定を行うことができる。
【0034】
本実施形態1に係る状態判定システム1を農業分野において使用する場合、このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」等の達成にも貢献するものである。
【0035】
また、本発明の一態様に係る状態判定システム1をCO等の人体に極めて有毒なガスを検出するセンサーの状態判定において使用する場合、センサーの劣化及び故障等のセンサーの状態変化による検出不良を避けることができる。そのため、本発明の一態様に係る状態判定システム1は、センサー不良に起因する人身事故を抑制することができる。
【0036】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2に係るセンサー状態判定システム1Aについて、
図3を参照して説明する。
図3は、センサー状態判定システム1Aの要部構成の一例を示すブロック図である。以下では、気温を測定するセンサーの状態判定をするセンサー状態判定システム1Aを例に挙げて説明するが、本実施形態に係るセンサー状態判定システム1Aはこれに限られるものではない。
【0037】
図3に示すように、センサー状態判定システム1Aは、センサー状態判定装置11Aと、センサー12と、出力装置13と、を備えている。説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0038】
(センサー状態判定装置11A)
センサー状態判定装置11Aは、取得部111と、状態変化度算出部112と、判定部113と、特定部114と、を備えている。センサー状態判定装置11Aの取得部111、状態変化度算出部112、及び判定部113は、状態判定装置11の取得部111、状態変化度算出部112、及び判定部113と同様である。したがって、ここでは、取得部111、状態変化度算出部112、及び判定部113の説明を繰り返さない。すなわち、取得部111がセンサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nの測定値を取得しているものとして、特定部114についてのみ説明する。
【0039】
(特定部114)
特定部114は、取得部111から取得したセンサー12の複数のセンサー間の測定値の差を参照して、状態変化したセンサーを特定する。本実施形態において、特定部114は、取得部111から取得した各測定値の差の絶対値を算出し、該絶対値が所定の閾値未満であるセンサー以外のセンサーを状態変化したセンサーとして特定する。特定部114は、一例として、3つの同一なセンサーを用いる場合、センサー12-1の測定値とセンサー12-2の測定値との差の絶対値、センサー12-1の測定値とセンサー12-3の測定値との差の絶対値、及び、センサー12-2の測定値とセンサー12-3の測定値との差の絶対値をそれぞれ算出し、これらの絶対値が閾値未満であるか否かを判定する。センサーの個数が4個以上である場合においても、2つのセンサー間の測定値の差の絶対値を総当たりで算出し、これらの絶対値が閾値未満であるか否かを判定する。
【0040】
特定部114は、一例として、3つの同一なセンサーを用いる場合、センサー12-1の測定値とセンサー12-2の測定値との差の絶対値が所定の閾値未満である場合、センサー12-1及びセンサー12-2以外のセンサー、すなわちセンサー12-3を状態変化したセンサーとして特定する。また、所定の閾値は、許容される測定値のばらつきに合わせて、ユーザーが適宜設定することができる。
【0041】
特定部114は、状態変化が生じているセンサーを表す情報を出力装置13に出力する。
【0042】
(処理の流れ)
図4を参照して、センサー状態判定装置11Aにおける状態変化したセンサーの特定処理の流れを説明する。
図4は、状態判定装置11Aにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図4中、センサー12-nによって測定された測定値をS
nと示し、閾値をTと示している。
【0043】
図4に示すとおり、取得部111は、センサー12のセンサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nからそれぞれの測定値S
1、S
2、S
3、・・・、S
nを取得する(ステップS21)。次に、特定部114は、取得部111から取得した測定値S
1、S
2、S
3、・・・、S
nの差の絶対値を総当たりで算出し、各絶対値が所定の閾値T未満であるかを判定する(ステップS22)。なお、「n」は任意の整数を表し、「S
3、・・・、S
n」は、S
3と共に、nが4以上の任意の数のSを含むことを意味している。各絶対値がすべて所定の閾値T未満である場合(ステップS22でYes)、ステップS21へ戻る。一方、各絶対値のうち少なくとも1つが閾値T以上である場合(ステップS22でNo)、特定部114は、状態変化が生じているセンサーの特定を行う。特定部114は、絶対値が閾値T未満であるセンサー以外のセンサーを状態変化したセンサーとして特定し(ステップS23)、処理を終了する。
【0044】
なお、状態判定装置11Aは、
図2に示すようなステップS11~ステップS14と、
図4に示すステップS21~ステップS23と、を平行して実行していてもよいし、連続して実行していてもよい。すなわち、状態判定装置11Aは、判定部113において、状態変化したセンサーがあると判定した場合に、特定部114において状態変化したセンサーを特定する処理を実行してもよい。この場合、状態判定装置11Aは、ステップS14の後にステップS22を実行すればよい。状態判定装置11Aは、センサー12が気温を測定する毎に、ステップS11~ステップS14、及び、ステップS21~ステップS23を実施してもよい。
【0045】
本実施形態によれば、センサーの劣化をユーザーに通知するだけでなく、何れのセンサーが状態変化しているかをユーザーに通知することができる。そのため、状態変化しているセンサーのみを交換することができ、効率的なセンサーの管理を行うことができる。また、すべてのセンサーを交換する必要がないため、管理コストを抑えることができる。
【0046】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3に係る管理システム2について、
図5を参照して説明する。
図5は、管理システム2の要部構成の一例を示すブロック図である。以下では、温度を管理する管理システム2を例に挙げて説明するが、本実施形態に係る管理システム2はこれに限られるものではない。
【0047】
図5に示すように、管理システム2は、センサー12と、出力装置13と、センサー状態判定装置21と、制御装置22と、を備えている。説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0048】
(センサー状態判定装置21)
センサー状態判定装置21は、取得部111と、状態変化度算出部112と、判定部113と、特定部114と、平均値算出部115と、を備えている。状態判定装置21の取得部111、状態変化度算出部112、判定部113、及び特定部114は、状態判定装置11Aの取得部111、状態変化度算出部112、判定部113、及び特定部114と同様である。したがって、ここでは、取得部111、状態変化度算出部112、判定部113、及び特定部114の説明を繰り返さない。取得部111がセンサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nの測定値を取得し、特定部114が状態変化したセンサーを特定しているものとして、平均値算出部115についてのみ説明する。
【0049】
(平均値算出部115)
平均値算出部115は、取得部111において取得したセンサー12の測定値の平均値を算出する。本実施形態において、測定値の平均値は、状態判定装置21の特定部114によって特定した状態変化したセンサーを除いたセンサーの測定値の平均値である。平均値算出部115は、算出した平均値を表す情報を制御装置22に出力する。
【0050】
(制御装置22)
制御装置22は、平均値算出部115から取得した測定値の平均値を参照して、センサー12が設置されている空間内の環境を制御する。
【0051】
(処理の流れ)
図6を参照して、状態判定装置21における平均値算出処理の流れを説明する。
図6は、状態判定装置21における処理の流れを示すフローチャートである。
図6中、センサー12-nによって測定された測定値をS
nと示し、閾値をTと示している。
【0052】
図6に示すとおり、取得部111は、センサー12のセンサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nからそれぞれの測定値S
1、S
2、S
3、・・・、S
nを取得する(ステップS31)。次に、特定部114は、取得部111から取得した測定値S
1、S
2、S
3、・・・、S
nの差の絶対値を総当たりで算出し、各絶対値が所定の閾値T未満であるかを判定する(ステップS32)。各絶対値がすべて所定の閾値T未満である場合(ステップS32でYes)、ステップS31へ戻る。一方、各絶対値のうち少なくとも1つが閾値T以上である場合(ステップS32でNo)、特定部114は、状態変化が生じているセンサーの特定を行う。特定部114は、絶対値が閾値T未満であるセンサー以外のセンサーを状態変化したセンサーとして特定する(ステップS33)。平均値算出部115は、状態変化したセンサーを表す情報を特定部114から取得し、状態変化したセンサーを除いたセンサーの測定値の平均値を算出し(ステップS34)、処理を終了する。
【0053】
状態判定装置21は、特定部114において状態変化したセンサーを特定した場合に、平均値算出部115において、特定されたセンサーの測定値を除いて、平均値を算出している。なお、状態判定装置21は、
図2に示すようなステップS11~ステップS14と、
図6に示すステップS31~ステップS34と、を独立して実施していてもよいし、連続して実行していてもよい。連続して実行する場合、状態判定装置11Aは、ステップS14の後にステップS31を実行すればよい。状態判定装置21は、センサー12が気温を測定する毎に、ステップS11~ステップS14、及び、ステップS31~ステップS34を実施してもよい。
【0054】
本実施形態によれば、正常なセンサーのみによる平均値を測定対象の計測値として利用して、複数のセンサーが設置されている空間内の環境を制御することができる。したがって、特定部114において状態変化したセンサーを特定してからセンサーを交換するまでの間においても、空間内の環境を安定的に制御することができる。
【0055】
また、空間内の環境を制御するような管理システムは、通常、例えば、温度センサーの劣化により過少な値が出力された場合、その値を用いて任意の気温になるように加温制御を行う。しかし、設定気温より高く維持されるため、不必要なエネルギー消費が発生する。一方、本実施形態によれば、センサーの状態変化によって、測定値の平均値が真の値から逸脱することを回避することができる。したがって、本実施形態3に係る管理システムによれば、上述したような加温制御を行う管理システムと比較して、エネルギー消費を抑制することができる。
【0056】
〔ソフトウェアによる実現例〕
センサー状態判定装置11、センサー状態判定装置11A、及びセンサー状態判定装置21(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、これらの装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、これらの装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0057】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0058】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0059】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0060】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0061】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るセンサー状態判定装置は、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出部と、前記状態変化度算出部において算出した値を参照して、前記複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していることを判定する判定部と、を備える。
【0063】
本発明の態様2に係るセンサー状態判定装置は、前記態様1において、前記測定値のばらつきを表す値は、前記測定値の変動係数、前記測定値の標準偏差、及び前記測定値のうちの最大値と最小値との差のうち、少なくとも1つであることが好ましい。
【0064】
本発明の態様3に係るセンサー状態判定装置は、前記態様1又は態様2において、前記複数のセンサー間の前記測定値の差を参照して、状態変化したセンサーを特定する特定部をさらに備えることが好ましい。
【0065】
本発明の態様4に係るセンサー状態判定システムは、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーと、前記態様1~3のいずれか1つに記載のセンサー状態判定装置と、を備える。
【0066】
本発明の態様5に係るセンサー状態判定方法は、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサー間の測定値のばらつきを表す値を算出する状態変化度算出ステップと、前記状態変化度算出ステップにおいて算出した値を参照して、前記複数のセンサーのうちの何れかが状態変化していると判定する判定ステップと、を含む。
【0067】
本発明の態様6に係る管理システムは、所定の空間内に設置され、測定対象が同一である複数のセンサーと、
前記態様1~3のいずれか1つに記載のセンサー状態判定装置と、前記複数のセンサーの測定値の平均値を参照して、前記空間内の環境を制御する制御装置と、を備える。
【0068】
本発明の態様7に係る管理システムは、前記測定値の平均値は、前記センサー状態判定装置によって特定した状態変化したセンサーを除いたセンサーの測定値の平均値であることが好ましい。
【0069】
本発明の態様8に係るセンサー状態判定プログラムは、前記態様1~3に記載のセンサー状態判定装置としてコンピュータを機能させるためのセンサー状態判定プログラムであって、前記状態変化度算出部及び前記判定部としてコンピュータを機能させるためのセンサー状態判定プログラムである。
【0070】
前記態様9に係る記録媒体は、前記態様8に記載のセンサー状態判定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【実施例0071】
本発明の実施形態3に係る管理システム2のセンサー状態判定装置21の実施例について、以下に説明する。実施形態3において説明したとおり、センサー状態判定装置21は、取得部111と、状態変化度算出部112と、判定部113と、特定部114と、平均値算出部115と、を備えている。また、取得部111は、気温を測定するセンサー12-1、センサー12-2、センサー12-3、・・・、及びセンサー12-nによって測定された測定値を取得する。なお、センサー12-nによって測定された測定値をSnとする。
【0072】
〔実施例1〕
実施例1においては、気温を測定するセンサーを3つ使用した。センサー12-1に不具合を生じさせ、各センサーの測定値S1、S2、S3間の変動係数を算出した。
【0073】
本実施例では、まず、センサー12-1、センサー12-2、及びセンサー12-3により、気温を測定した。気温の測定は、2秒おきに行った。
【0074】
次に、測定値S1、S2、S3の変動係数及び平均値を算出した。変動係数及び平均値の算出は、各センサーが気温を測定する度に行った。
【0075】
次に、センサー12-1に、気温の測定開始から52秒後に不具合を生じさせた。気温の測定開始から52秒後以降においては、不具合の発生したセンサー(センサー12-1)を検知し、センサー12-1以外の測定値、すなわちセンサー12-2及びセンサー12-3の測定値S
2、S
3の平均値(以下、補正値と称する。)を算出した。結果を
図7及び
図8に示す。
【0076】
図7は、縦軸に気温(℃)、横軸に測定の経過時間(s)をとり、センサー12-1、センサー12-2、及びセンサー12-3の測定値、平均値、並びに補正値を示したグラフである。
図8は、縦軸に変動係数(%)、横軸に測定の経過時間(s)をとり、変動係数を示したグラフである。
【0077】
図7及び
図8に示すとおり、センサー12-1に不具合が生じたことにより、センサー12-1の測定値が高くなり、平均値が高くなった。また、測定値のばらつきと連動して、変動係数が上昇することが明らかとなった。一方、補正値は、正常なセンサー12-2及びセンサー12-3と同様の数値を示すことが明らかとなった。
【0078】
〔実施例2〕
実施例2においては、気温を測定するセンサーを3つ使用した。センサー12-1に不具合を生じさせ、センサー12の複数のセンサーにより測定された測定値間の標準偏差を算出した。
【0079】
気温の測定は、実施例1と同様に行った。測定値S1、S2、S3の標準偏差及び平均値を算出した。標準偏差及び平均値の算出は、各センサーが気温を測定する度に行った。
【0080】
実施例1と同様に、センサー12-1に気温の測定開始から52秒後に不具合を生じさせ、気温の測定開始から52秒後以降においては、センサー12-1以外の測定値、すなわちセンサー12-2及びセンサー12-3の測定値S
2、S
3の平均値(以下、補正値と称する。)を算出した。標準偏差を示したグラフを
図9に示す。各センサーの測定値、平均値、及び補正値は、実施例1と同様であるため繰り返さない。
【0081】
図9は、縦軸に標準偏差(℃)、横軸に測定の経過時間(s)をとり、標準偏差を示したグラフである。
図9に示すとおり、センサー12-1の不具合により生じたセンサー間の測定値のばらつきと連動して、標準偏差が上昇していることが明らかとなった。