(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063663
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20240502BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171791
(22)【出願日】2022-10-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】東條 健太
(72)【発明者】
【氏名】須藤 豪
(72)【発明者】
【氏名】石井 融
(72)【発明者】
【氏名】川北 健人
(57)【要約】
【課題】フォトン・アップコンバージョン材料の探索技術を改善する。
【解決手段】情報処理装置10が実行する、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法であって、所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間5上の潜在変数を出力するVAEエンコーダ3と、潜在空間5上の任意の潜在変数を入力として所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダ4と、をそれぞれ訓練するステップと、VAEエンコーダ3と、VAEデコーダ4と、フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が実行する、ドナーとアクセプターを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法であって、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練するステップと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定するステップと、
を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探索方法であって、
潜在空間の任意の変数を入力として前記複数の物性の予測値を出力する物性予測モデルを訓練するステップを含み、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータは、前記物性予測モデルの訓練に使用され、
前記特定するステップにおいて、前記物性予測モデルに基づく最適化処理により前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を探索する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項3】
請求項2に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータの一部を前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項4】
請求項3に記載の探索方法であって、さらに
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータの一部を前記物性予測モデルにも入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項5】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータを前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、UC発光波長に関する情報を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、量子収率に関する情報を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項8】
請求項1記載の探索方法であって、
前記訓練するステップにおいて、フォトン・アップコンバージョン材料として用いられる組成物の実績データと、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項9】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記最適化処理はベイズ最適化処理である、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項10】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の物性に係るデータの少なくとも一部が、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報である、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項11】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料は、非溶液系フォトン・アップコンバージョン材料であり、前記複数の物性は、UC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項12】
制御部を備え、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練し、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する情報処理装置。
【請求項13】
情報処理装置が実行する、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索をするプログラムであって、コンピュータに、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練することと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定することと
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から機械学習により新規材料を探索する技術が知られている。例えば非特許文献1及び2では、新規の薬剤をベイズ最適化等により探索する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rafael Gomez-Bombarelli et. al. “Automatic Chemical Design Using a Data-Driven Continuous Representation of Molecules”ACS Cent. Sci. 2018, 4, 2, 268-276.
【非特許文献2】Ryan-Rhys Griffiths et. al. “Constrained Bayesian Optimization for Automatic Chemical Design using Variational Autoencoders”Chem. Sci. 2020, 11, 577-586.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び2に記載の物質の探索技術は薬剤を探索対象としたものであるところ、新規のフォトン・アップコンバージョン材料を探索することについては従来技術では考慮されていなかった。換言するとフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術には改善の余地があった。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、フォトン・アップコンバージョン材料の探索技術を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、
情報処理装置が実行する、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法であって、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練するステップと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定するステップと、
を含む。
【0007】
(2)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)に記載の探索方法であって、
潜在空間の任意の変数を入力として前記複数の物性の予測値を出力する物性予測モデルを訓練するステップを含み、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータは、前記物性予測モデルの訓練に使用され、
前記特定するステップにおいて、前記物性予測モデルに基づく最適化処理により前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を探索する。
【0008】
(3)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(2)に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータの一部を前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する。
【0009】
(4)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(3)に記載の探索方法であって、さらに
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータの一部を前記物性予測モデルにも入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する。
【0010】
(5)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータを前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する。
【0011】
(6)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性が、UC発光波長に関する情報を含む。
【0012】
(7)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性が、量子収率に関する情報を含む。
【0013】
(8)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)乃至(7)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記訓練するステップにおいて、フォトン・アップコンバージョン材料として用いられる組成物の実績データと、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練する。
【0014】
(9)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(2)乃至(4)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記最適化処理がベイズ最適化処理である。
【0015】
(10)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)乃至(9)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性に係るデータの少なくとも一部が、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報である。
【0016】
(11)本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法は、(1)乃至(10)に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料が、非溶液系フォトン・アップコンバージョン材料であり、前記複数の物性は、UC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性からなる群から選択される1種又は2種以上を含む。
【0017】
(12)本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、
制御部を備え、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練し、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する。
【0018】
(13)本開示の一実施形態に係るプログラムは、
情報処理装置が実行する、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索をするプログラムであって、コンピュータに、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練することと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定することと
を実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラムによれば、フォトン・アップコンバージョン材料の探索技術を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】三重項―三重項消滅(TTA)を経る機構の概要を示す概念図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術の概要を示す図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の概要を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法を実行する情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第1の具体例を示す図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第1の具体例に係るフローチャートである。
【
図9】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第2の具体例を示す図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第2の具体例に係るフローチャートである。
【
図11】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第2の具体例の変形例を示す図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第3の具体例を示す図である。
【
図13】本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第3の具体例に係るフローチャートである。
【
図14】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
【
図15】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
【
図16】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
【
図17】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術ついて、図面を参照して説明する。
【0022】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0023】
本実施形態にかかる探索対象のフォトン・アップコンバージョン材料は、TTA-UC機能を有する材料であり、例えば有機(金属)多孔質体を含む。TTA-UC機能とは、三重項―三重項消滅(TTA)を経るアップコンバージョン(UC)機能であり、低エネルギーの光(以下、励起光波長の光ともいう)を高エネルギーの光(以下、UC発光波長の光ともいう)に変換する。励起光波長は、UC発光波長よりも大きい。励起光波長の光及びUC発光波長の光は、例えば紫外光、可視光、赤外光等を含む。例えばフォトン・アップコンバージョン材料は、可視光を紫外光に変換する。また例えばフォトン・アップコンバージョン材料は、近赤外光を可視光に変換する。ここで太陽電池、人工光合成等の技術において利用可能な波長範囲は限られている。フォトン・アップコンバージョン材料は、励起光波長の光をUC発光波長の光に変換できることから、未利用の長波長の光を短波長の光に変換することで、太陽電池、人工光合成等の技術における光の利用効率の向上を図ることができる。
【0024】
図1に太陽電池デバイスの一例を示す。
図1中、デバイス500は通常のデバイス、デバイス600及びデバイス700は、フォトン・アップコンバージョン材料層を含むデバイスである。デバイス500は、機材501上に、下部電極502と、発電層503と、上部透明電極504とを順次有する。デバイス600は、機材601上に、下部電極602と、発電層603と、上部透明電極604と、フォトン・アップコンバージョン材料層605とを順次有する。上部透明電極604と、フォトン・アップコンバージョン材料層605との間には隙間が空いていてもよく、あるいは上部透明電極604と、フォトン・アップコンバージョン材料層605とは隣接していてもよい。デバイス700は、機材701上に、反射層702と、フォトン・アップコンバージョン材料層703と、下部透明電極704と、発電層705と、上部透明電極706とを順次有する。デバイス600及びデバイス700は、それぞれフォトン・アップコンバージョン材料層605及びフォトン・アップコンバージョン材料層703が未利用の低エネルギーの光をアップコンバージョンすることで、デバイスが利用可能な波長へ変換する。これによりデバイス600及びデバイス700は、デバイス500と比較して発電効率が改善する。ここでデバイス600において、フォトン・アップコンバージョン材料層605が発光するUC発光波長の光は等方的であるため、発電層603側と反対側にも、半分の光を放出してしまう。他方で、デバイス700において、フォトン・アップコンバージョン材料層703が発光するUC発光波長の光は、反射層702により反射されるため、発電層705側と反対側へ向かう光も発電層705に向けることができる。つまりデバイス700の構成であれば、デバイス600の構成よりも発電効率をより改善できる。なおデバイス700のようにフォトン・アップコンバージョン材料層703を反射層702と下部透明電極704との間に設ける構成とする場合には、信頼性等の観点から、フォトン・アップコンバージョン材料を非溶液系フォトン・アップコンバージョン材料にするか、シート状にすることが好ましい。
【0025】
フォトン・アップコンバージョン材料は、ドナーとアクセプターとを含む。ドナーは、色素(dye)、又は増感剤(sensitizer)ともよばれる。ドナーは、励起光波長の光を吸収して、アクセプターに当該励起光波長の光のエネルギーを渡す。ドナーは、有機色素、量子ドット(QD)、金属錯体、有機分子、金属クラスター、ナノ粒子を含む。ドナー分子としては、従来、高価であるもの、または毒性の高い重金属の錯体が使われている。しかしドナーとしては、より安価で低毒性な金属錯体等が望ましい。
【0026】
アクセプターは、発光体、蛍光体、又は消滅剤(annihilator)とも呼ばれる。アクセプターは、ドナーから励起光波長の光のエネルギーを受け取り、UC発光波長の光を発光する。アクセプターは、MOF(金属―有機構造体)、COF(共有結合性有機構造体)、及びPAF(多孔性芳香族構造体)を含む。
【0027】
図2に、三重項―三重項消滅(TTA)を経る機構の概念図を示す。まず、ドナーが励起光波長の光を吸収し、基底状態(S
0D)から励起一重項状態(S
D)になる(ステップS1及びS1’)。次に系間交差(ISC)により、ドナーが励起一重項状態(S
D)から励起三重項状態(T
D)に状態遷移する(ステップS2及びS2’)。続いて、ドナーからアクセプターへの三重項―三重項エネルギー移動(TTET)により、アクセプターが三重項励起状態(T
A)になる(ステップS3及びS3’)。かかる三重項励起状態である2つのアクセプター分子が衝突又はそれらのエネルギーが拡散、結合することにより、三重項―三重項消滅(TTA)が生じると、アクセプターの一部が、励起一重項状態(S
A)に遷移する(ステップS4)。アクセプターは励起一重項状態(S
A)になると、UC発光波長の光を発光して基底状態(S
0A)に遷移する。つまりアクセプターは、アップコンバージョン発光をする(ステップS5)。
【0028】
励起光波長、及びUC発光波長等のフォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性は、フォトン・アップコンバージョン材料のドナーとアクセプターとの組み合わせに応じて変動する。また、最適なUC発光波長も、デバイスに依存する。そのため、最適な物性を満足するフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術が望まれている。
【0029】
まず、
図3及び
図4を参照して本実施形態の探索技術の概要について説明する。本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術では
図3に示す実験データ1及び公開データベース2(公開DB2)が用いられる。本探索技術による探索対象のフォトン・アップコンバージョン材料は、例えば非溶液系のフォトン・アップコンバージョン材料であるがこれに限られない。例えばフォトン・アップコンバージョン材料は、溶液系のフォトン・アップコンバージョン材料であってもよく、また固体のフォトン・アップコンバージョン材料であってもよい。実験データ1及び公開DB2は、フォトン・アップコンバージョン材料に係る情報(以下、フォトン・アップコンバージョン材料情報ともいう。)及びフォトン・アップコンバージョン材料に係る実績データを含む。なお本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術では実験データ1及び公開DB2の両方が用いられる例を示すが、これに限られない。本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術において、実験データ1又は公開DB2のいずれか一方のみが用いられてもよい。
【0030】
フォトン・アップコンバージョン材料情報は、フォトン・アップコンバージョン材料の分子構造に係る情報を含む。かかるフォトン・アップコンバージョン材料情報は所定の表記法で表される。本実施の形態では所定の表記法は、SMILES表記であるものとして説明するがこれに限られない。
例えば、フォトン・アップコンバージョン材料情報は、高分子として扱いうる分子構造表現により表現されてもよい。具体的には例えば、フォトン・アップコンバージョン材料情報は、BigSMILESにより表現されてもよい(Tzyy-Shyang Lin,et. al. “BigSMILES: A Structually-Based Line Notation for Describing Macromolecules” ACS Cent. Sci. 2019, 5 1523-1531)。また例えばフォトン・アップコンバージョン材料情報は、CurlySMILESにより表現されてもよい(Axel Drefahl, “CurlySMILES: a chemical language to customize and annotate encodings of molecular and nanodevice structures”Journal of Cheminformatics 2011, 3:1)。なおフォトン・アップコンバージョン材料のドナーとアクセプターの分子構造表現は、いずれかひとつの表現に統一するのが好ましいが、ドナーとアクセプターの分子構造表現は異なっていてもよい。
またフォトン・アップコンバージョン材料は少なくともドナーとアクセプターとを含む、複数の成分を含む材料(以下、多成分材料ともいう)であることから、フォトン・アップコンバージョン材料情報は、成分間の比率及び各成分の分子量等を含んでもよい。換言すると、以下に説明する各物性予測モデルの入力には、成分比率、各成分の分子量等が含まれてもよい。さらにフォトン・アップコンバージョン材料情報は、ドナーとアクセプターに加えて、第三成分の情報を有していてもよい。第三成分としては、ドナー又はアクセプターからのエネルギー移動を潤滑にするために用いられる成分である。例えば、アクセプターからエネルギーを受け取りUC発光を示す成分として以下の化合物を挙げることができる。
【化1】
なおフォトン・アップコンバージョン材料の各成分が1つのSMILES表記により表現されてもよい。1つのSMILES表記とは、各成分(例えば、ドナーとアクセプターの2成分)の各SMILES表記を区切り文字で繋げた表記である。区切り文字は、SMILESで使用されない文字、記号等であれば任意のものであってよい。例えば区切り文字は、ドット、ホワイトスペース、?、^等であってもよい。例えば、以下のような組みあわせは、CCC1=C2C=C3C(CC)=C(CC)C4=[N]3[Pt]5([N]6=C(C=C7C(CC)=C(CC)C(N75)=C4)C(CC)=C(CC)C6=C8)N2C8=C1CC C1(C2=CC=CC=C2)=C(C=CC=C3)C3=C(C4=CC=CC=C4)C5=C1C=CC=C5と表現することができる。
【化2】
【0031】
フォトン・アップコンバージョン材料に係る実績データは、フォトン・アップコンバージョン材料に係る複数の物性に係るデータ(以下、物性データともいう。)であって実験等により得られたデータを含む。また本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術は情報処理装置10により実行される方法であり、VAEエンコーダ3とVAEデコーダ4とを含む。換言すると本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術ではVariational Autoencoder(変分オートエンコーダ、VAE)が用いられる。
【0032】
VAEエンコーダ3は、フォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。潜在変数は、潜在空間5上の変数である。
図3では潜在空間5を2次元座標により示しているが潜在空間5の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEデコーダ4は、潜在空間5上の任意の潜在変数を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報を出力する学習モデルである。
【0033】
図4に示すように、VAEエンコーダ3及びVAEデコーダ4は、フォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される(ステップS10)。そして本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術では学習済みのVAEエンコーダ3及びVAEデコーダ4と、物性データとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する(ステップS20)。かかる特定処理は、各種の手法を採用することができる。例えばステップS20において、物性データにより訓練された予測モデルが用いられてもよい。かかる予測モデルは、潜在空間5上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性の予測値を出力するモデルである。予測モデルが用いられる場合、予測モデルに基づく最適化処理により、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料が特定される。なお後述するように、当該予測モデルを用いない方法により複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料が特定されてもよい。
【0034】
このように本実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索技術によれば、VAEエンコーダ3、VAEデコーダ4、及び物性データを用いて、任意の物性を満足するフォトン・アップコンバージョン材料を特定することができる。そのため、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができるという点で、フォトン・アップコンバージョン材料の探索技術が改善される。
【0035】
(情報処理装置の構成)
次に、情報処理装置10の各構成について詳細に説明する。情報処理装置10は、ユーザによって使用される任意の装置である。例えばパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、汎用の電子機器、又は専用の電子機器が、情報処理装置10として採用可能である。
【0036】
図5に示されるように、情報処理装置10は、制御部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14とを備える。
【0037】
制御部11には、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは、CPU(central processing unit)若しくはGPU(graphics processing unit)などの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部11は、情報処理装置10の各部を制御しながら、情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0038】
記憶部12には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えば、RAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは、例えば、SRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えば、EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部12は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部12には、情報処理装置10の動作に用いられるデータと、情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0039】
入力部13には、少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンである。また入力用インタフェースは、例えば、音声入力を受け付けるマイクロフォン、又はジェスチャー入力を受け付けるカメラ等であってもよい。入力部13は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部13は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0040】
出力部14には、少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは、例えば、情報を映像で出力するディスプレイ等である。ディスプレイは、例えば、LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部14は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを表示出力する。出力部14は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0041】
情報処理装置10の機能は、本実施形態に係るプログラムを、情報処理装置10に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、情報処理装置10の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを情報処理装置10として機能させる。すなわち、コンピュータは、プログラムに従って情報処理装置10の動作を実行することにより情報処理装置10として機能する。
【0042】
本実施形態においてプログラムは、コンピュータで読取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読取り可能な記録媒体は、非一時的なコンピュータ読取可能な媒体を含み、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、又は半導体メモリである。プログラムの流通は、例えば、プログラムを記録したDVD(digital versatile disc)又はCD-ROM(compact disc read only memory)などの可搬型記録媒体を販売、譲渡、又は貸与することによって行う。またプログラムの流通は、プログラムを外部サーバのストレージに格納しておき、外部サーバから他のコンピュータにプログラムを送信することにより行ってもよい。またプログラムはプログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0043】
情報処理装置10の一部又は全ての機能が、制御部11に相当する専用回路により実現されてもよい。すなわち、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0044】
本実施形態において記憶部12は、実験データ1、公開DB2、VAEエンコーダ3、及びVAEデコーダ4を記憶する。
【0045】
上述したように実験データ1及び公開DB2は、フォトン・アップコンバージョン材料情報と、物性データとを含む。例えば物性データは、UC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性からなる群から選択される1種又は2種以上を含む。
【0046】
なお、実験データ1、公開DB2、VAEエンコーダ3、及びVAEデコーダ4は、情報処理装置10とは別の外部装置に記憶されていてもよい。その場合、情報処理装置10は、外部通信用インタフェースを備えていてもよい。通信用インタフェースは、有線通信又は無線通信のいずれのインタフェースであってよい。有線通信の場合、通信用インタフェースは例えばLANインタフェース、USBである。無線通信の場合、通信用インタフェースは例えば、LTE、4G、若しくは5Gなどの移動通信規格に対応したインタフェース、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信用インタフェースは、情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信し、また情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信可能である。
【0047】
(第1の具体例)
図6及び
図7を参照して、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第1の具体例及び動作について説明する。
【0048】
図6に示すように第1の具体例は、VAEエンコーダ103とVAEデコーダ104と、物性予測モデル106とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ103、VAEデコーダ104、及び物性予測モデル106を記憶する。
【0049】
VAEエンコーダ103は、フォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。上述したようにフォトン・アップコンバージョン材料情報はSMILES表記のデータである。VAEエンコーダ103により出力される潜在変数は、潜在空間105上の変数である。
図6では潜在空間105を2次元座標により示しているが潜在空間105の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEエンコーダ103はフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。
【0050】
VAEデコーダ104は、潜在空間105上の任意の潜在変数を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報を出力する学習モデルである。VAEデコーダ104はフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。
【0051】
物性予測モデル106は、潜在空間105上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルである。物性予測モデル106は、物性データに基づき訓練される。かかる訓練は、ある入力に対する物性予測モデル106の出力と、物性データ(学習データ)との誤差に基づくパラメータ修正を行うことにより実行される。ここで物性予測モデル106は、各物性に対応する複数の予測モデルから構成される。つまり本実施形態においては、物性予測モデル106はUC発光波長に係る予測モデル、UC発光強度に係る予測モデル、量子収率に係る予測モデル、励起光波長に係る予測モデル、励起光強度に係る予測モデル、及び耐候性に係る予測モデルから構成される。これらの予測モデルは、それぞれ物性データに基づき訓練される。つまりは、UC発光波長に係る予測モデル、UC発光強度に係る予測モデル、量子収率に係る予測モデル、励起光波長に係る予測モデル、励起光強度に係る予測モデル、及び耐候性に係る予測モデルは、それぞれフォトン・アップコンバージョン材料のUC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性に係る実績データにより訓練される。
【0052】
図7は、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第1の具体例に係るフローチャートである。
【0053】
ステップS110:情報処理装置10の制御部11は、VAEエンコーダ103及びVAEデコーダ104を、フォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練する。
【0054】
ステップS120:制御部11は、物性予測モデル106を物性データに基づき訓練する。つまり制御部11は、物性予測モデル106を構成する最大吸収波長に係る予測モデル、二色比に係る予測モデル、及び耐候性に係る予測モデルを、それぞれフォトン・アップコンバージョン材料のUC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性の実績データにより訓練する。なお、物性予測モデル106の訓練は、ステップS110におけるVAEエンコーダ103及びVAEデコーダ104の訓練と並行して実行されてもよい。
【0055】
ステップS130:制御部11は、物性予測モデル106に基づく最適化処理により所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を特定する。かかる最適化処理は、ベイズ最適化処理を含む。つまり例えば制御部11は、ベイス最適化処理により所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を特定する。
【0056】
ここでベイズ最適化処理において制御部11は、物性予測値に対応するペナルティの合計により定められた総合指標値を最小化する潜在変数を探索する。複数の物性がUC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性である場合、当該ペナルティの合計は、UC発光波長の予測値に対応するペナルティ、UC発光強度の予測値に対応するペナルティ、量子収率の予測値に対応するペナルティ、励起光波長の予測値に対応するペナルティ、励起光強度の予測値に対応するペナルティ、及び耐候性の予測値に対応するペナルティの総和により定められる。
【0057】
図8に、予測値が連続値である場合のペナルティの例を示す。
図8に示すように、ペナルティは、関数f0からf5のように定めることができる。例えば関数f0は、予測値が目標範囲である場合においてペナルティが最小となるように設定されている。ここでは予測値の目標が所定の範囲である例を示しているがこれに限られない。予測値の目標は、ピンポイントの値であってもよい。この場合も同様にペナルティを定めることができる。また予測値が離散値情報、カテゴリカル情報である場合である場合、離散データ、カテゴリカルデータのそれぞれに対して適宜ペナルティを定めればよい。
【0058】
制御部11は、ペナルティの合計(以下、総合指標値ともいう。)に基づき、総合指標値を最小化する潜在変数を探索する。当該潜在変数に対応するフォトン・アップコンバージョン材料が、所望のフォトン・アップコンバージョン材料に相当する。なお本実施形態において総合指標値が小さい場合を望ましい場合としたが、これに限られない。例えばペナルティの定め方によっては総合指標値が大きい場合を望ましい場合と定めてもよい。この場合、制御部11は総合指標値を最大化する潜在変数を探索する。
【0059】
ステップS140:制御部11は、ステップS130において特定した潜在変数に対応する所望のフォトン・アップコンバージョン材料をVAEデコーダ104により出力する。具体的には制御部11は、VAEデコーダ104により出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報がSMILESの文法規則に適合しているか否かを確認する。出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報がSMILESの文法規則に適合している場合、制御部11は、当該フォトン・アップコンバージョン材料情報を所望のフォトン・アップコンバージョン材料として出力する。
【0060】
このように、本実施形態によれば、フォトン・アップコンバージョン材料情報により訓練されたVAEエンコーダ103及びVAEデコーダ104、及び物性データに基づき訓練された物性予測モデル106を用いて、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索を行うことができる。
【0061】
(第2の具体例)
図9及び
図10を参照して、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第2の具体例及び動作について説明する。
【0062】
図9に示すように第2の具体例は、VAEエンコーダ203とVAEデコーダ204と、物性予測モデル206とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、及び物性予測モデル206を記憶する。
【0063】
VAEエンコーダ203は、物性データの一部及びフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。物性データの一部は、複数の物性のうち任意の物性に係るデータである。かかるデータは、連続値情報であってもよく、連続値情報でなくてもよい。換言するとかかるデータは、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報のいずれであってもよい。本実施形態では、かかる物性データの一部は、耐候性に係るデータであり、かつカテゴリカル情報(以下、カテゴリカル物性ともいう。)であるとして説明する。
【0064】
上述したようにフォトン・アップコンバージョン材料情報はSMILES表記のデータである。VAEエンコーダ203により出力される潜在変数は、潜在空間205上の変数である。
図9では潜在空間205を2次元座標により示しているが潜在空間205の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEエンコーダ203はカテゴリカル物性及びフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。つまり本実施形態においてVAEエンコーダ203は、耐候性に係るデータ及びフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。
【0065】
VAEデコーダ204は、カテゴリカル物性及び潜在空間205上の任意の潜在変数を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報を出力する学習モデルである。VAEデコーダ204はカテゴリカル物性及びフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。
【0066】
物性予測モデル206は、カテゴリカル物性及び潜在空間205上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルである。物性予測モデル206は、カテゴリカル物性及び物性データに基づき訓練される。ここで物性予測モデル206は、各物性に対応する複数の予測モデルから構成される。つまり本実施形態においては、物性予測モデル206はUC発光波長に係る予測モデル、UC発光強度に係る予測モデル、量子収率に係る予測モデル、励起光波長に係る予測モデル、及び励起光強度に係る予測モデルから構成される。UC発光波長に係る予測モデル、UC発光強度に係る予測モデル、量子収率に係る予測モデル、励起光波長に係る予測モデル、及び励起光強度に係る予測モデルは、カテゴリカル物性及び対応する物性データに基づき訓練される。つまりUC発光強度に係る予測モデル、量子収率に係る予測モデル、励起光波長に係る予測モデル、及び励起光強度に係る予測モデルは、それぞれUC発光波長及び耐光性、UC発光強度及び耐光性、量子収率及び耐光性、励起光波長及び耐光性、及び励起光強度及び耐光性の実績データにより訓練される。
【0067】
図10は、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第2の具体例に係るフローチャートである。
【0068】
ステップS210:情報処理装置10の制御部11は、VAEエンコーダ203及びVAEデコーダ204を、フォトン・アップコンバージョン材料情報及びカテゴリカル物性に基づき訓練する。
【0069】
ステップS220:制御部11は、物性予測モデル206を物性データ及びカテゴリカル物性に基づき訓練する。つまり制御部11は、物性予測モデル206を構成するUC発光波長に係る予測モデル、UC発光強度に係る予測モデル、量子収率に係る予測モデル、励起光波長に係る予測モデル、及び励起光強度に係る予測モデルを、それぞれフォトン・アップコンバージョン材料のUC発光波長及び耐光性、UC発光強度及び耐光性、量子収率及び耐光性、励起光波長及び耐光性、及び励起光強度及び耐光性の実績データにより訓練する。なお、物性予測モデル206の訓練は、ステップS210におけるVAEエンコーダ203及びVAEデコーダ204の訓練と並行して実行されてもよい。
【0070】
ステップS230:制御部11は、物性予測モデル206に基づく最適化処理により所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を特定する。かかる最適化処理は、ベイズ最適化処理を含む。つまり例えば制御部11は、ベイス最適化処理により所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を特定する。ベイズ最適化処理において制御部11は、物性予測値に対応するペナルティの合計により定められた総合指標値を最小化する潜在変数を探索する。ペナルティの設定方法は第1の具体例と同様である。
【0071】
ステップS240:制御部11は、ステップS230において特定した潜在変数に対応する所望のフォトン・アップコンバージョン材料をVAEデコーダ204により出力する。具体的には制御部11は、VAEデコーダ204により出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報がSMILESの文法規則に適合しているか否かを確認する。出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報がSMILESの文法規則に適合している場合、制御部11は、当該フォトン・アップコンバージョン材料情報を所望のフォトン・アップコンバージョン材料として出力する。
【0072】
このように、本実施形態によれば、フォトン・アップコンバージョン材料情報及びカテゴリカル物性により訓練されたVAEエンコーダ203及びVAEデコーダ204、並びに物性データ及びカテゴリカル物性に基づき訓練された物性予測モデル206を用いて、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。特に第2の具体例に係る方法によれば、実績データにカテゴリカル物性を含む場合であっても、精度良く複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。例えば耐候性に係る実績データ等は、実験条件又は評価基準等が、実験毎又はデータベース毎によって相違する場合がある。本実施形態によればこのような場合であっても、実績データをカテゴリカル情報又は離散値情報として取り扱うことで精度良く複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。
【0073】
なお物性予測モデル206は、カテゴリカル物性及び潜在空間205上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルであるとして説明したがこれに限られない。物性予測モデル206は、潜在空間205上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルであってもよい。換言すると物性予測モデル206の入力には、カテゴリカル物性が含まれなくてもよい。例えばカテゴリカル物性が予測対象の物性と独立である場合は、物性予測モデル206にカテゴリカル物性を入力しなくても予測対象の物性を高精度で予測することができる。
【0074】
(第2の具体例の変形例)
図11を参照して、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第2の具体例の変形例について説明する。
【0075】
図11に示すように第2の具体例の変形例は、VAEエンコーダ203とVAEデコーダ204と、物性予測モデル206と、学習済み予測モデル207とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、物性予測モデル206、及び学習済み予測モデル207を記憶する。
【0076】
VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、及び物性予測モデル206は、第2の具体例と同一である。学習済み予測モデル207は、フォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、当該フォトン・アップコンバージョン材料情報に対応する物性の予測値を出力する学習モデルである。かかる予測値は、VAEエンコーダ203の入力されるカテゴリカル物性に対応する予測値である。本実施形態において学習済み予測モデル207により出力される予測値は、耐候性に係る予測値であるものとして説明する。
【0077】
第2の具体例の変形例では、学習済み予測モデル207により予測された物性の予測値(ここでは耐候性に係る予測値)を、VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、及び物性予測モデル206の入力として用いる。このようにすることで、カテゴリカル物性に係る実績データが不足している場合であっても、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。例えば耐候性に係る実績データ等は、そもそも実験結果として測定されていない場合、又は明示されていない場合がある。このような場合でも、学習済み予測モデル207を用いることにより、不足する実績データを補うことができる。また不足する実績データを学習済み予測モデル207により補完することで、第2の具体例と同様に、精度良く複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。
【0078】
(第3の具体例)
図12を参照して、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第3の具体例及び動作について説明する。
【0079】
図12に示すように第3の具体例は、VAEエンコーダ303とVAEデコーダ304とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ303、及びVAEデコーダ304を記憶する。
【0080】
VAEエンコーダ303は、物性データ及びフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。上述したように物性データはフォトン・アップコンバージョン材料に係る複数の物性値である。かかる物性値は、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報のいずれであってもよい。あるいは物性値は、連続値情報、離散値情報をカテゴリカル情報に変換したものであってもよい。ここでは物性データはカテゴリカル情報であるものとする。上述したようにフォトン・アップコンバージョン材料情報はSMILES表記のデータである。VAEエンコーダ303により出力される潜在変数は、潜在空間305上の変数である。
図12では潜在空間305を2次元座標により示しているが潜在空間305の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEエンコーダ303は物性データ及びフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。
【0081】
VAEデコーダ304は、潜在空間305上の任意の潜在変数及び物性データを入力として、フォトン・アップコンバージョン材料情報を出力する学習モデルである。VAEデコーダ304は物性データ及びフォトン・アップコンバージョン材料情報に基づき訓練される。
【0082】
図13は、本開示の一実施形態に係るフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法の第3の具体例に係るフローチャートである。
【0083】
ステップS310:情報処理装置10の制御部11は、VAEエンコーダ303及びVAEデコーダ304を、フォトン・アップコンバージョン材料情報及び物性データに基づき訓練する。
【0084】
ステップS320:制御部11は、潜在空間の中からランダムに選択した潜在変数をVAEデコーダ304に入力して、対応するフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力させる。潜在変数の選択方法は各種手法を採用できる。例えば制御部11は、潜在空間から単純にランダムに潜在変数を選択してもよい。また制御部11は、対応する実験データがある既知のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数の周辺でランダムに潜在変数を選択してもよい。あるいは制御部11は、所望の物性を満たし得る潜在変数の周辺(換言するとターゲットとするフォトン・アップコンバージョン材料の周辺)でランダムに潜在変数を選択してもよい。
【0085】
ステップS330:制御部11は、ステップS320において出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報が所定基準を満たす場合、所望のフォトン・アップコンバージョン材料として出力する。所定基準とは、例えば出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報がSMILESの文法規則に適合していることである。つまり例えば制御部11は、ステップS320において出力されたフォトン・アップコンバージョン材料情報がSMILESの文法規則に適合している場合、当該フォトン・アップコンバージョン材料情報を、所望のフォトン・アップコンバージョン材料として出力する。
【0086】
このように、本実施形態によれば、フォトン・アップコンバージョン材料情報及び物性データにより訓練されたVAEエンコーダ303及びVAEデコーダ304を用いて、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。特に第3の具体例に係る方法によれば、複数の物性値の実績データの全てがカテゴリカル情報であったとしても、複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料の探索ができる。
【0087】
なお、実験データ1及び公開DB2は、フォトン・アップコンバージョン材料に係る情報及びフォトン・アップコンバージョン材料に係る実績データを含むとしたがこれに限られない。実験データ1及び公開DB2は、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データを含んでもよい。また上述のVAEエンコーダ3、VAEエンコーダ103、VAEエンコーダ203、VAEエンコーダ303、VAEデコーダ4、VAEデコーダ104、VAEデコーダ204、及びVAEデコーダ304、物性予測モデル106、物性予測モデル206、学習済み予測モデル207は、いずれも当該フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データを用いて訓練されてよい。換言すると本実施形態におけるVAEエンコーダ、VAEデコーダ、物性予測モデル、及び学習済み予測モデルは、フォトン・アップコンバージョン材料として用いられる組成物の実績データと、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとの両方を用いて訓練されてもよい。このようにVAEエンコーダ、VAEデコーダ、物性予測モデル、及び学習済み予測モデルを訓練する処理において、訓練に用いる教師データに広範囲の用途の組成物を含むことにより、外挿による精度の低下を防止することができる。
【0088】
なお、本実施の形態に係る探索方法における探索対象は、フォトン・アップコンバージョン材料のドナーとアクセプターとの両方であったが、これに限られない。探索対象は、フォトン・アップコンバージョン材料のドナーとアクセプターのいずれか一方であってもよい。例えばある所定のドナーをフォトン・アップコンバージョン材料のドナーとして用いる場合、当該所定のドナーに最適なアクセプターのみが探索対象であってもよい。また例えばある所定のアクセプターをフォトン・アップコンバージョン材料のアクセプターとして用いる場合、当該所定のアクセプターに最適なドナーのみが探索対象であってもよい。ドナー又はアクセプターのいずれか一方のみが探索対象である場合、VAEエンコーダと、VAEデコーダと、ドナー又はアクセプターのいずれかの複数の物性に係るデータとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のドナー又はアクセプターの一方が、所望のフォトン・アップコンバージョン材料として探索される。また、ドナー及びアクセプターの両方が探索対象である場合においても、ドナー又はアクセプターのいずれか一方を探索対象として2段階で所望のフォトン・アップコンバージョン材料を探索してもよい。例えば、まずドナーを所定のドナーに固定して、VAEエンコーダと、VAEデコーダと、アクセプターの複数の物性に係るデータとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のアクセプターを探索する。その後、アクセプターを探索された所望のアクセプターに固定して、VAEエンコーダと、VAEデコーダと、ドナーの複数の物性に係るデータとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のドナーを探索する。このようにして、ドナーとアクセプターとを段階を分けて探索することにより所望のフォトン・アップコンバージョン材料を探索してもよい。
【0089】
このようにフォトン・アップコンバージョン材料は多成分材料であるが、フォトン・アップコンバージョン材料情報は、必ずしも全ての成分の情報を含まなくてもよい。本開示の実施形態にかかる手法により、多成分材料の少なくとも一部の成分のみの最適化が行われてもよい。例えば、実際のアップコンバージョン材料で用いる成分、又は一般的なアップコンバージョン材料で用いる成分であっても、かかる成分を除いた他の成分の最適化のみが行われてもよい。より具体的には、例えばアップコンバージョン材料として、ドナーとアクセプターと第三成分とが用いられる場合において、ドナーとアクセプターとの最適化のみを行ってもよい。この場合には、VAEエンコーダ及びVAEデコーダには、ドナー及びアクセプターの材料情報のみが入力されてもよく、あるいはドナー、アクセプター、及び第三成分の材料情報が入力されてもよい。また例えば、ドナーまたはアクセプターのいずれか一方の成分のみの最適化が行われてもよい。この場合には、VAEエンコーダ及びVAEデコーダには、ドナー又はアクセプターのいずれか一方の材料情報のみが入力されてもよく、あるいはドナー及びアクセプターの材料情報が入力されてもよい。換言すると、本開示の実施形態にかかる手法においては、必ずしも多成分材料の全ての成分の情報が、VAEエンコーダ及びVAEデコーダに入力されなくてもよい。また、本開示の実施形態にかかる手法においては、必ずしも多成分材料の全ての成分の最適化が行わなくてもよく、多成分材料の、少なくとも1つの成分の最適化が行われるようにしてもよい。例えば多成分で用いられる前提の材料において、少なくともいずれか1つの成分を固定して、固定していない成分のみの最適化を行って探索してもよい。同様に多成分材料の成分比率等についても、比率を固定して探索を行ってもよい。
【0090】
ここでフォトン・アップコンバージョン材料等の多成分材料の組成比を探索する場合には、以下の
図14から
図17に示す各種の手法を取り得る。
【0091】
図14及び
図15は、多成分材料の各成分を1つのSMILES表記で表現して用いることにより多成分材料の組成物構造と組成比とを探索する手法の概要を示す図である。
図14の手法は、VAEエンコーダ1003とVAEデコーダ1004と物性予測モデル1006とを含む。VAEエンコーダ1003には、フォトン・アップコンバージョン材料情報に対応する、組成物に係るSMILES(以下、組成物SMILESともいう)が入力され、潜在空間1005上の潜在変数(以下、組成物構造に係る潜在変数ともいう)が出力される。また、VAEデコーダ1004には、かかる潜在変数が入力され、組成物SMILESが出力される。物性予測モデル1006には潜在空間1005上の潜在変数と組成比とが入力されて、物性が出力される。ここで潜在空間1005上の潜在変数は組成物の化学構造情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため
図14に示す手法では、当該潜在変数と組成比とが、併せて探索(最適化)される。
【0092】
図15の手法は、VAEエンコーダ1103とVAEデコーダ1104と物性予測モデル1106とを含む。VAEエンコーダ1103には組成物SMILESと組成比とが入力され、潜在空間1105上の潜在変数が出力される。またVAEデコーダ1104にはかかる潜在変数が入力され、組成物SMILESと組成比とが出力される。物性予測モデル1106には、潜在空間1105上の潜在変数が入力されて物性が出力される。ここで潜在空間1105上の潜在変数は、組成物の化学構造情報及び組成比情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため
図15に示す手法では、当該潜在変数が探索(最適化)される。
【0093】
図16及び
図17は、多成分材料の各成分をそれぞれ別のSMILES表記で表現して用いることにより、多成分材料の各成分の構造と組成比とを探索する手法の概要を示す図である。
図16の手法は、VAEエンコーダ1203とVAEデコーダ1204と物性予測モデル1206とを含む。VAEエンコーダ1203には、フォトン・アップコンバージョン材料情報に対応する各成分のSMILES(以下、各成分SMILESともいう)が入力され、潜在空間1205上の潜在変数が出力される。また、VAEデコーダ1204には、かかる潜在変数が入力され、各成分SMILESが出力される。また物性予測モデル1206には潜在空間1205上の潜在変数と組成比とが入力されて、物性が出力される。ここで潜在空間1205上の潜在変数は、各成分の化学構造情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため
図16に示す手法では、当該潜在変数と組成比とが、併せて探索(最適化)される。
【0094】
図17の手法は、VAEエンコーダ1303とVAEデコーダ1304と、物性予測モデル1306とを含む。VAEエンコーダ1303には各成分SMILESと各成分比率とが入力され、潜在空間1305上の潜在変数が出力される。またVAEデコーダ1304には、かかる潜在変数が入力され、各成分SMILESと各成分比率とが出力される。物性予測モデル1306には、潜在空間1305上の潜在変数が入力されて物性が出力される。ここで潜在空間1305上の潜在変数は、各成分の化学構造情報及び各成分比率情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため
図17に示す手法では、当該潜在変数が探索(最適化)される。
【0095】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 実験データ
2 公開データベース
3、103、203、303、1003、1103、1203、1303 VAEエンコーダ
4、104、204、304、1004、1104、1204、1304 VAEデコーダ
5、105、205、305、1005、1105、1205、1305 潜在空間
10 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 出力部
106、206、1006、1106、1206、1306 物性予測モデル
207 学習済み予測モデル
500、600、700 デバイス
501、601、701 基材
502、602 下部電極
503、603、705 発電層
504、604、706 上部透明電極
605、703 フォトン・アップコンバージョン材料層
702 反射層
705 下部透明電極
【手続補正書】
【提出日】2022-12-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が実行する、ドナーとアクセプターを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法であって、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練するステップと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定するステップと、
を含み、
前記訓練するステップにおいて、フォトン・アップコンバージョン材料として用いられる組成物の実績データと、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練するフォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探索方法であって、
潜在空間の任意の変数を入力として前記複数の物性の予測値を出力する物性予測モデルを訓練するステップを含み、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータは、前記物性予測モデルの訓練に使用され、
前記特定するステップにおいて、前記物性予測モデルに基づく最適化処理により前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料に対応する潜在変数を探索する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項3】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータを前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定する、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、UC発光波長に関する情報を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、量子収率に関する情報を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項6】
請求項2に記載の探索方法であって、
前記最適化処理はベイズ最適化処理である、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項7】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の物性に係るデータの少なくとも一部が、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報である、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項8】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記フォトン・アップコンバージョン材料は、非溶液系フォトン・アップコンバージョン材料であり、前記複数の物性は、UC発光波長、UC発光強度、量子収率、励起光波長、励起光強度、及び耐候性からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、フォトン・アップコンバージョン材料の探索方法。
【請求項9】
制御部を備え、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練し、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定し、
前記訓練において前記制御部は、フォトン・アップコンバージョン材料として用いられる組成物の実績データと、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練する情報処理装置。
【請求項10】
情報処理装置が実行する、ドナーとアクセプターとを含むフォトン・アップコンバージョン材料の探索をするプログラムであって、コンピュータに、
所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を入力として、前記フォトン・アップコンバージョン材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたフォトン・アップコンバージョン材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練することと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記フォトン・アップコンバージョン材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のフォトン・アップコンバージョン材料を特定することと
を実行させ、
前記訓練において、フォトン・アップコンバージョン材料として用いられる組成物の実績データと、フォトン・アップコンバージョン材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練するプログラム。