(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063690
(43)【公開日】2024-05-13
(54)【発明の名称】窒素製造装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
F25J3/04 103
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171856
(22)【出願日】2022-10-26
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 碧
【テーマコード(参考)】
4D047
【Fターム(参考)】
4D047AA08
4D047AB02
4D047BA03
4D047BA08
4D047BB03
4D047CA03
4D047CA04
4D047CA17
4D047DA05
4D047DA14
4D047EA04
(57)【要約】
【課題】深冷液化分離法を利用して工業的に窒素を製造する窒素製造装置の消費動力の更なる低減、及び更なる動力原単位の低減が可能な運転方法を提供する。
【解決手段】圧縮、精製、冷却された原料空気を深冷液化分離して製品窒素を採取する、第1精留塔8及び第2精留塔51を備えたいわゆる二塔式窒素製造装置の運転方法であって、第1精留塔8で得られる第1液化窒素の少なくとも一部を抜き出して、液化窒素貯槽80に導入する液採取運転と、液化窒素貯槽80から液化窒素を液化窒素注入経路72を介して第2精留塔51に注入するとともに膨張タービン24の運転を停止する液注入運転と、を交互に繰り返す。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮、精製、冷却された原料空気を低温蒸留して塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離する第1精留塔と、
前記第1窒素ガスと前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化ガス流体を得る第1凝縮器と、
前記第1酸素富化ガス流体の少なくとも一部を低温蒸留して塔上部の第2窒素ガスと塔底部の第2酸素富化液化流体とに分離する第2精留塔と、
前記第2窒素ガスと前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2凝縮器と、
前記第1酸素富化ガス流体の一部が導入される膨張タービンと、
前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収経路と、
前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収経路と、
前記第1液化窒素の少なくとも一部を抜き出して、液化窒素貯槽に導入するための第1液化窒素導出経路と、
前記液化窒素貯槽から液化窒素を前記第2精留塔に導入するための液化窒素注入経路と、を備えた窒素製造装置の運転方法であって、
前記第1液化窒素の少なくとも一部を前記第1液化窒素導出経路から抜き出す液採取運転と、
前記液化窒素貯槽から液化窒素を前記第2精留塔に導入するとともに前記膨張タービンの運転を停止する液注入運転と、
を交互に繰り返すことを特徴とする窒素製造装置の運転方法。
【請求項2】
前記液注入運転における前記第1精留塔に導入される原料空気量は、前記液採取運転における前記第1精留塔に導入される原料空気量よりも少ないことを特徴とする請求項1記載の窒素製造装置の運転方法。
【請求項3】
前記液注入運転における第2製品窒素ガス量は、前記液採取運転における第2製品窒素ガス量よりも多いことを特徴とする請求項1又は2記載の窒素製造装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素製造装置の運転方法に関し、より詳しくは、原料空気を深冷液化分離法により原料空気を分離精製して製品窒素(窒素ガス、液体窒素)を採取する窒素製造装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素の工業的な製造には深冷液化分離法によって空気液化分離させる方法が多く採用されている。このような、深冷液化分離法を利用して工業的に窒素を製造する方法として、二塔式窒素製造装置プロセスを採用した窒素製造方法が開示されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1及び特許文献2で開示されている窒素製造方法は、精留塔を2塔備えた二塔式窒素製造装置を用い、精留塔を1塔だけ備えた単塔式窒素製造装置を用いての単塔式窒素製造装置プロセスでは破棄されていた(一方の)精留塔から出た廃ガスを他方の精留塔の原料として導入することで、製品収率や動力原単位を大幅に改善することが可能となっている。
【0004】
図1は、特許文献1でも用いられる精留塔を2塔備えたいわゆる二塔式窒素製造装置の装置構成の一例を示す系統図であって、この図を用いて、従来の基本運転方法について説明する。
【0005】
まず、この窒素製造装置は、原料空気圧縮機3で所定の圧力まで昇圧され、前処理吸着器4で精製された後に、保冷外槽5内の主熱交換器6で冷却された原料空気を低温蒸留して塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離する第1精留塔8と、前記第1窒素ガスと減圧弁16で減圧した前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化ガス流体を得る第1凝縮器13と、前記第1酸素富化ガス流体の一部を低温蒸留して塔上部の第2窒素ガスと塔底部の第2酸素富化液化流体とに精留分離する第2精留塔51と、前記第2窒素ガスと減圧弁63で減圧した前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2凝縮器58と、前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収経路11と、前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収経路56と、第1精留塔8の下部と第2精留塔51の下部とを弁62を介して連結する第1酸素富化液化流体合流経路61と、前記第1酸素富化ガス流体の一部を断熱膨張させる膨張タービン24と、前記第2製品窒素ガスを圧縮する窒素圧縮機54とを備えている。
【0006】
また、この窒素製造装置は、液化窒素貯槽80に貯蔵されている液化窒素を前記第1精留塔8及び前記第2精留塔51に導入する液化窒素注入経路71,72を備えている。
【0007】
次に、この装置の基本運転について説明する。まず、経路1からフィルター2を経て取り入れられた原料空気は、原料空気圧縮機3で所定の圧力に圧縮され、前処理吸着器4で水分や二酸化炭素等の不純物が除去されて精製された後、保冷外槽5内の主熱交換器6で製品窒素ガスや廃ガスと熱交換を行って所定の温度に冷却される。
【0008】
圧縮、精製、冷却後の原料空気は、主熱交換器6から原料空気流入経路7を通って第1精留塔8の下部に導入され、第1精留塔8内での深冷液化分離法による低温蒸留により、塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離する。
【0009】
第1精留塔8においては、圧縮、精製、冷却後の原料空気が原料空気流入経路7から塔下部に導入され、この第1精留塔8内での深冷液化分離法による低温蒸留により、塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離される。
【0010】
塔上部から経路9に抜き出された前記第1窒素ガスは、一部が経路10に分岐して主熱交換器6で前記原料空気と熱交換を行い、熱回収された後に第1製品回収経路11から第1製品窒素ガスとして導出される。また、残部の第1窒素ガスは、経路12を通って第1凝縮器13に導入される。
【0011】
この第1凝縮器13には、第1精留塔8の下部から抜き出されて減圧弁16で所定圧力に減圧された前記第1酸素富化液化流体が経路17から導入され、この第1酸素富化液化流体と前記第1窒素ガスとが間接熱交換を行い、第1窒素ガスが凝縮液化して第1液化窒素になると同時に、第1酸素富化液化流体が蒸発ガス化して第1酸素富化ガス流体となる。前記第1液化窒素は、経路14を通って第1精留塔8の上部に導入されて還流液となる。
【0012】
一方、第1凝縮器13から経路18に導出した前記第1酸素富化ガス流体は、一部が第2精留塔51に向かう経路50に分岐した後、残部の極一部が弁19で減圧されて経路20に分岐し、主熱交換器6で前記原料空気と熱交換を行って熱回収され、廃ガスとして廃ガス導出経路21から導出される。
【0013】
また、経路50及び経路20に分岐しなかった第1酸素富化ガス流体は、経路22を通って主熱交換器6に導入され、中間温度まで昇温して経路23に抜き出され、膨張タービン24に流入して断熱膨張することにより、装置の運転に必要な寒冷を発生した後、経路20の第1酸素富化ガス流体に合流し、主熱交換器6で熱回収後に前記廃ガス導出経路21から廃ガスとして導出される。
【0014】
経路50から第2精留塔51の下部に導入された第1酸素富化ガス流体は、この第2精留塔51内での低温蒸留により、塔上部の第2窒素ガスと塔底部の第2酸素富化液化流体とに分離する。塔上部から経路52に抜き出された前記第2窒素ガスは、一部が経路53に分岐して主熱交換器6で前記原料空気と熱交換を行い、熱回収された後に前記窒素圧縮機54で所定圧力に圧縮されて第2製品回収経路56から第2製品窒素ガスとして導出される。また、残部の第2窒素ガスは、経路57を通って第2凝縮器58に導入される。
【0015】
この第2凝縮器58には、第2精留塔51の下部から抜き出された第2酸素富化液化流体と、第1精留塔8の下部から抜き出されて第1酸素富化液化流体合流経路61に分岐した第1酸素富化液化流体とが合流した後、減圧弁63で減圧されて所定温度で経路64から導入されており、合流後の第2酸素富化液化流体と前記第2窒素ガスとが間接熱交換を行い、第2窒素ガスが凝縮液化して第2液化窒素になると同時に、第2酸素富化液化流体が蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体となる。前記第2液化窒素は、経路59を通って第2精留塔51の上部に導入されて還流液となる。
【0016】
一方、第2凝縮器58から経路65に導出した前記第2酸素富化ガス流体は、弁66で減圧されてから前記経路20に合流し、主熱交換器6で前記原料空気と熱交換を行って熱回収された後、廃ガスとして廃ガス導出経路21から導出される。
【0017】
第1製品回収経路11と第2製品回収経路56とは下流側で経路70として一つの経路になるように合流し、第1製品窒素ガスとが第2製品窒素ガスが導出される。
【0018】
以上が二塔式窒素製造装置の構成及びその基本運転方法であるが、
図1(特許文献1)の運転方法においては、さらに、装置の運転状態や必要寒冷量に応じて、液化窒素貯槽80に貯蔵されている液化窒素を第1精留塔8や第2精留塔51に導入することで、各精留塔の運転に必要な寒冷源とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第3738213号公報
【特許文献2】特許第4451438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、深冷液化分離法を利用して工業的に窒素を製造する窒素製造装置については、動力を多量に消費するため、更なる低減単位化が求められている。
【0021】
そこで、本発明は、このような要望に鑑み、消費動力の更なる低減、及び更なる動力原単位の低減が可能な窒素製造装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の窒素製造装置の運転方法は、圧縮、精製、冷却された原料空気を低温蒸留して塔上部の第1窒素ガスと塔底部の第1酸素富化液化流体とに分離する第1精留塔と、前記第1窒素ガスと前記第1酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第1窒素ガスを凝縮液化して第1液化窒素を得ると同時に第1酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第1酸素富化ガス流体を得る第1凝縮器と、前記第1酸素富化ガス流体の少なくとも一部を低温蒸留して塔上部の第2窒素ガスと塔底部の第2酸素富化液化流体とに分離する第2精留塔と、前記第2窒素ガスと前記第2酸素富化液化流体とを間接熱交換させて第2窒素ガスを凝縮液化して第2液化窒素を得ると同時に第2酸素富化液化流体を蒸発ガス化して第2酸素富化ガス流体を得る第2凝縮器と、前記第1酸素富化ガス流体の一部が導入される膨張タービンと、前記第1窒素ガスの一部を熱回収後に第1製品窒素ガスとして導出する第1製品回収経路と、前記第2窒素ガスの一部を熱回収後に第2製品窒素ガスとして導出する第2製品回収経路と、前記第1液化窒素の少なくとも一部を抜き出して、液化窒素貯槽に導入するための第1液化窒素導出経路と、前記液化窒素貯槽から液化窒素を前記第2精留塔に導入するための液化窒素注入経路と、を備えた窒素製造装置の運転方法であって、前記第1液化窒素の少なくとも一部を前記第1液化窒素導出経路から抜き出す液採取運転と、前記液化窒素貯槽から液化窒素を前記第2精留塔に導入するとともに前記膨張タービンの運転を停止する液注入運転と、を交互に繰り返すことを特徴としている。
【0023】
また、本発明の窒素製造装置の運転方法は、前記液注入運転における前記第1精留塔に導入される原料空気量は、前記液採取運転における前記第1精留塔に導入される原料空気量よりも少ないことが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の窒素製造装置の運転方法は、前記液注入運転における第2製品窒素ガス量は、前記液採取運転における第2製品窒素ガス量よりも多いことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来の基本運転と基本運転とほぼ同等の電力で液体窒素を採取可能な液採取運転と、従来の基本運転とほぼ同等の空気量、製品量で電力を削減可能な液注入運転とを交互に繰り返すことにより、窒素製造装置の平均の電力消費量を低減することができる。電力需要に応じて液採取運転と液注入運転を切り替えることで、動力の低減あるいは消費動力の差分を液化窒素として貯蔵することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来の基本運転方法を実施する窒素製造装置の一例を示す系統図である。
【
図2】実施形態で用いられる窒素製造装置の本発明に係る装置の運転方法を適用した液採取運転を示す系統図である。
【
図3】実施形態で用いられる窒素製造装置の本発明に係る装置の運転方法を適用した液注入運転を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、
図2及び
図3を参照して本発明の一実施形態である二塔式窒素製造装置及びその窒素製造装置の運転方法を説明する。なお、以下の説明において、前記
図1に記載した窒素製造装置の構成要素と同一の構成要素で、同一の機能を有するものには同一符号を付して、運転方法を含めて詳細な説明は省略する。
【0028】
図2及び
図3に示される窒素製造装置は、
図1と同じく原料空気を深冷液化分離して製品窒素を採取する窒素製造装置であり、精留塔を2塔備えたいわゆる二塔式窒素製造装置である。なお、
図1に示される窒素製造装置との相違点として、
図1の装置の場合、液化窒素貯槽80から第1精留塔8に液化窒素を導入するための液化窒素注入経路71を備えているが、本実施形態で示される窒素製造装置については、経路14から分岐して、第1液化窒素の一部を液化窒素貯槽80に導入するための第1液化窒素導出経路15を備えている。
【0029】
また、いわゆる二塔式窒素製造装置は、運転圧力が異なる精留塔から構成されている。すなわち、第1精留塔8下部から採取される第1酸素富化液化流体を減圧・気化させ第一酸素富化ガス流体としたものが第2精留塔51に導入されるため、第2精留塔51の運転圧力は第1精留塔8よりも低くなる。
【0030】
本形態例における窒素製造装置の運転方法は、上述した基本運転ではなく、各部を制御して以下で説明するような液採取運転と液注入運転とを交互に繰り返すものである。平均の電力消費量を低減するように液採取運転と液注入運転とを交互に適宜切り替えて運転される。
【0031】
(液採取運転)
まず
図2を用いて、本発明の液採取運転について説明する。液採取運転では、上述した基本運転と異なり、第1凝縮器13で液化した第1液化窒素は、経路14を通って第1精留塔8の上部に導入されて還流液となるが、その一部を第1液化窒素導出経路15から抜き出し、液化窒素貯槽80に送液される。なお、液採取運転では第1製品窒素ガスにプラスして更に第1液化窒素を採取する分、基本運転と同じ第1製品窒素ガスを採取する場合には、基本運転時よりも原料空気量を増量する必要がある。
【0032】
(液注入運転)
次に、
図3を用い、本発明の液注入運転について説明する。液注入運転では、上述した基本運転と異なり、膨張タービン24の運転を停止させ、代わりに寒冷源として液化窒素を使用する。この場合、液化窒素貯槽80から液化窒素注入経路72より第2精留塔51上部へ液化窒素を送液する。なお、前述したように、第1精留塔8下部から採取される第1酸素富化液化流体を減圧・気化させ第一酸素富化ガス流体としたものが第2精留塔51に導入されるため、第2精留塔51の運転圧力は第1精留塔8よりも低くなる。このため、第1精留塔8から第1液化窒素導出経路15を通じて液化窒素貯槽80に送液した液化窒素を、液ポンプを使うことなく液化窒素注入経路72から第2精留塔51に導入できる。
【0033】
また、液注入運転時は膨張タービン24が停止しているため、前記第一酸素富化ガス流体は全量が経路50を通り第2精留塔51に導入される。
【0034】
液注入運転における第1精留塔8に導入される原料空気量は、液採取運転における第1精留塔8に導入される原料空気量よりも少なくなる。また、液注入運転における第2製品窒素ガス量は、液採取運転における第2製品窒素ガス量よりも多くなる。
【0035】
本実施形態における窒素製造装置の運転方法では、第1液化窒素の少なくとも一部を第1液化窒素導出経路から抜き出す液採取運転と、液採取運転で抜き出された第1液化窒素の少なくとも一部を液化窒素注入経路72から第2精留塔51に注入するとともに膨張タービン24の運転を停止する液注入運転と、を適宜切り替えて、交互に繰り返して運転する。
【実施例0036】
(液採取運転をメインとした場合)
表1は基本運転を24時間行った場合と、一日のうち15時間液採取運転、9時間液注入運転を行う液採取運転をメインとした場合との比較を示す。
【0037】
【0038】
この液採取運転をメインとした場合では、動力は基本運転とほぼ同等の655kWとなるが、液化窒素を888Nm3採取することができる。液採取運転をメインとした場合では、基本運転とほぼ同等の動力で液体窒素を空気量の0.4%採取可能である。
液注入運転では基本運転とほぼ同等の空気量、製品量で電力を削減可能であり、液採取運転では基本運転とほぼ同等の電力で液体窒素を採取可能であるため、実施形態のように液採取運転と液注入運転とは適宜切り替えて装置の運転を行えば、深冷液化分離法を利用して工業的に窒素を製造する際に、使用する装置の消費動力の更なる低減、及び更なる動力原単位の低減が可能である。
本実施形態では、第1精留塔8から第1液化窒素導出経路15を通じて液化窒素貯槽80に送液した液化窒素を、液ポンプを使うことなく液化窒素注入経路72から第2精留塔51に導入できるため、液注入にかかる動力を削減できる。なお、従来の単式精留塔では、精留塔から液化窒素を採取する場合、液化窒素貯槽の圧力は精留塔の運転圧力より低くなるため、液化窒素の注入には液ポンプが必要となる。
また、液注入運転では、膨張タービン24が停止しているため、その分の第1酸素富化ガス流体を第2精留塔51に導入できる。第2精留塔51は運転圧力が低いことから比揮発度が大きく、製品収率が高いため、導入される酸素富化ガス流体が増加した分、第2製品窒素ガスが多く採取できるようになる。液注入運転では、基本運転時と同じ量の製品窒素ガスを採取する場合と比べて原料空気を減らすことができ、基本運転と比べて原料空気圧縮機3の減量運転をすることができる。一方で、第2製品窒素ガスが増えることで窒素圧縮機54の動力は増加する。しかしながら、装置動力の大部分を占める原料空気圧縮機3の動力が下がる影響が大きいことから、装置全体で見れば平均動力を低減することができる。
また、液採取運転は製品窒素ガスにプラスして更に液化窒素を採取する分、基本運転と同じ製品窒素ガスを採取する場合は、基本運転時よりも原料空気量を増量する必要がある。そのため原料空気圧縮機3の動力が上昇し液採取運転の動力は大きくなるが、液注入運転と組み合わせることで動力上昇の影響を相殺することができる。よって、液注入運転と液採取運転とを適宜切り替えることにより、基本運転とほぼ同等の動力、同じ製品窒素ガス量で更に液化窒素を採取することが可能となる。
また、このような液採取運転を行うことで、余剰電力をいわば液化窒素の形態で貯蔵することが可能となる。すなわち、基本的には電力需要が少なく電気料金が安価な夜間に液採取運転を行って液化窒素を貯蔵し、昼間にこの採取した液化窒素を消費する液注入運転を行うことで電力コストを抑制できる。
なお、2021年4月に施行された改正省エネ法では、「電気の需要の平準化」の概念が追加され、全国一律で7~9月(夏季)、及び12月~3月(冬期)の8時~22時の間で、節電や、電気を使用する時間帯をずらすなど電気需要平準化に資する措置を行うことが明記された。これに伴いデマンドレスポンス(時間的に変化する電力価格、もしくは卸電力価格高騰時や需給ひっ迫時に電力使用を減らすように設計された報酬に反応して、最終需要家自らが通常の電力消費パターンから電力使用を変化させる仕組み)の活用が期待されており、本実施形態のように液採取/液注入運転を行うことでデマンドレスポンスの導入による更なる電気料金の低減を図ることができ、電力網の安定化にも寄与することができる。
なお、本実施形態で示した窒素製造装置は一例であり、また、各図面は必ずしも窒素製造装置の全ての構成を反映したものではない。さらに、運転方法についても、液採取運転と液注入運転を繰り返すだけでなく、適宜基本運転等と組み合わせることもできる。