(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063915
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】光学フィルム
(51)【国際特許分類】
C08F 22/14 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
C08F22/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172087
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 優也
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL87P
4J100BC27P
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA25
4J100DA61
4J100FA03
4J100GC07
4J100JA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】負の複屈折を容易に発現でき、且つカーボンニュートラルな材料の使用の割合が高い、光学フィルムを提供する。
【解決手段】下記式(A1)で表される単位を有し、バイオ化率が10%以上であるイタコン酸ジエステル重合体を含む光学フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A1):
【化1】
で表される単位(A1)を有し、バイオ化率が10%以上であるイタコン酸ジエステル重合体(A1)を含む光学フィルムであって、
式(A1)中、-R
1は-R
X又は-R
Yであり、-R
2は-R
X又は-R
Yであり、但し-R
1及び-R
2の一方又は両方は-R
Xであり、
-R
Xは、シクロオレフィン構造を有する基であり、
-R
Yは、炭素数1~8の炭化水素基である、
光学フィルム。
【請求項2】
イタコン酸ジエステル重合体(A1)における、基-RXが占める割合が、50重量%以上である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
-RXが、ノルボルニル基又は置換基を備えるノルボルニル基である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
式(A1)中、-R1及び-R2の両方が-RXである、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記単位(A1)が、植物由来のイタコン酸を用いて得られたものである、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記イタコン酸ジエステル重合体(A1)の重量平均分子量が、40,000以上、260,000以下である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記イタコン酸ジエステル重合体(A1)のガラス転移温度Tgが115℃以上である、請求項1又は2に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学フィルム等の、樹脂材料からなるフィルムは、一般的に、石油化学的な成分を原料として製造されている。しかしながら近年、環境負荷低減の観点から、植物由来由来の材料等のカーボンニュートラルな材料を使用することが求められるようになっており、そのような材料をもとに製造された樹脂材料が提案されている(例えば、特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/060259号
【特許文献2】特開2022-36905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学フィルムのうちある種のもの、例えば表示装置において視野角改善等の目的で用いられるものは、負の複屈折を発現することが求められる。具体的には、単位厚み当たりの厚み方向のレターデーションRth/dが、負の値であり、且つ、ある程度以上大きい絶対値を有するものが求められる。しかしながら、一般に多くの樹脂材料は、固有複屈折値が正であり、したがって一般的な樹脂材料では、そのような特性が容易に得られない。特に、カーボンニュートラルな材料のカテゴリにおいて、フィルムに成形した際に負の複屈折を容易に発現できる材料は、見出し難いのが現状である。
【0005】
したがって本発明の目的は、負の複屈折を容易に発現でき、且つカーボンニュートラルな材料の使用の割合が高い、光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するべく検討した。その結果、本発明者は、フィルムを構成する材料として、特定のイタコン酸ジエステル重合体を採用することにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0007】
〔1〕 下記式(A1):
【化1】
で表される単位(A1)を有し、バイオ化率が10%以上であるイタコン酸ジエステル重合体(A1)を含む光学フィルムであって、
式(A1)中、-R
1は-R
X又は-R
Yであり、-R
2は-R
X又は-R
Yであり、但し-R
1及び-R
2の一方又は両方は-R
Xであり、
-R
Xは、シクロオレフィン構造を有する基であり、
-R
Yは、炭素数1~8の炭化水素基である、
光学フィルム。
〔2〕 イタコン酸ジエステル重合体(A1)における、基-R
Xが占める割合が、50重量%以上である、〔1〕に記載の光学フィルム。
〔3〕 -R
Xが、ノルボルニル基又は置換基を備えるノルボルニル基である、〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルム。
〔4〕 式(A1)中、-R
1及び-R
2の両方が-R
Xである、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の光学フィルム。
〔5〕 前記単位(A1)が、植物由来のイタコン酸を用いて得られたものである、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の光学フィルム。
〔6〕 前記イタコン酸ジエステル重合体(A1)の重量平均分子量が、40,000以上、260,000以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の光学フィルム。
〔7〕 前記イタコン酸ジエステル重合体(A1)のガラス転移温度Tgが115℃以上である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の光学フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負の複屈折を容易に発現でき、且つカーボンニュートラルな材料の使用の割合が高い、光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
(光学フィルム:イタコン酸ジエステル重合体)
本発明の光学フィルムは、特定のイタコン酸ジエステル重合体(A1)を含む。重合体(A1)は、下記式(A1)で表される単位(A1)を有する。
【0011】
【0012】
式(A1)中、-R1は-RX又は-RYであり、-R2は-RX又は-RYであり、但し-R1及び-R2の一方又は両方は-RXである。即ち、単位(A1)において、-R1及び-R2の一方又は両方は-RXであり、-R1及び-R2のうちの一方のみが-RXである場合、他方は-RYである。単位(A1)が2つの-RXを含む場合、それらは同一であっても異なってもよい。負の複屈折を容易に発現させる観点、及び高いガラス転移温度Tgを発現し耐熱性を向上させる観点からは、単位(A1)は2つの-RXを含むことが好ましい。
【0013】
式(A1)中、-RXは、シクロオレフィン構造を有する基である。シクロオレフィン構造を有する基の具体例としては、ノルボルニル基又は置換基を備えるノルボルニル基が挙げられる。より具体的には、-RXは、下記式(A2)で表される、ノルボルナン環を骨格とした基としうる。
【0014】
【0015】
式(A2)中、*-はノルボルナン環とカルボン酸部分COOとを結合する結合手である。-RXXはノルボルナン環に結合する置換基であり、nは0~11の整数である。即ち、-RXは、イタコン酸のカルボン酸部分に結合するノルボルナン環からなる基であるか、またはイタコン酸のカルボン酸部分に結合するノルボルナン環と、当該環の炭素原子に結合する置換基とからなる基である。結合手*-及び置換基-RXXは、ノルボルナン環の1位~7位の任意の位置の炭素原子に結合しうる。一つの基-RXに置換基-RXXが複数存在する場合、それらは同一でもよく異なっていてもよい。また、複数の基-RXXが結合して、ノルボルナン環と縮合した状態の縮合環を構成してもよい。
【0016】
置換基-RXXの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロキル基等のアルキル基;アルキリデン基;アルケニル基;及び極性基が挙げられる。
極性基の例としては、ヘテロ原子、及びヘテロ原子を有する原子団が挙げられる。ヘテロ原子の例としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子が挙げられる。
極性基のより具体的な例としては、フルオロ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲン基;カルボキシル基;カルボニルオキシカルボニル基;エポキシ基;ヒドロキシ基;オキシ基;アルコキシ基;エステル基;シラノール基;シリル基;アミノ基;ニトリル基;スルホン基;シアノ基;アミド基;及びイミド基が挙げられる。
【0017】
飽和吸水率が低く耐湿性に優れるイタコン酸ジエステル重合体(A1)を得る観点からは、基-RXは、置換基-RXXとして有する極性基の数が少ないことが好ましく、極性基を有さないことがより好ましい。
【0018】
-RYが存在する場合、-RYは、炭素数1~8の炭化水素基である。-RYの具体例としては、炭素数1~8の直鎖又は分枝のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びフェニル基が挙げられる。
【0019】
好ましくは、-R1及び-R2は、両方が-RXである。より好ましくは、-R1及び-R2の両方が-RXであり、-RXのそれぞれにおいて、n=0であり、且つ結合手*-はノルボルナン環の2位に結合する。即ち、単位(A1)は、好ましくは下記式(A1-1)で表される単位(A1-1)である。単位(A1-1)は、容易に合成することができ、且つ、本発明の効果を良好に得ることができるため特に好ましい。
【0020】
【0021】
単位(A1-1)は、イタコン酸ジノルボルニルを重合させることにより得られる単位である。
【0022】
本発明の光学フィルムが含有するイタコン酸ジエステル重合体(A1)は、好ましくは、単位(A1)のみを単位とする重合体である。即ち、イタコン酸ジエステル重合体(A1)は好ましくは、連結する単位(A1)の鎖と、当該鎖の末端に位置する末端基のみからなる。末端基は特に限定されず、重合反応の結果生じた、水素原子などの任意の基としうる。本発明の重合体が単位(A1)のみを単位とする重合体である場合、当該重合体は、1種類の単位(A1)のみからなる単独重合体であってもよく、2種類以上の単位(A1)に該当する単位の共重合体であってもよい。本発明の重合体が単位(A1)のみを単位とする重合体である場合、耐熱性が高く且つ膜厚むらの少ないフィルムの材料として、特に有用に用いることができる。
【0023】
イタコン酸ジエステル重合体(A1)が、単位(A1)と、他の任意の単位との共重合体である場合、かかる任意の単位としては、単位(A1)以外の、イタコン酸のエステル(モノエステル又はジエステル)の重合により形成される構造を有する単位としうる。具体的には、かかる任意の単位としては、式(A1)の-R1及び-R2の両方が-RYであり、それぞれの-RYは独立に上記に定義した通りのものである単位が挙げられる。但し、本願において、重合体、単量体等の分子及びその構成要素は、その製造方法においては限定されない。
【0024】
任意の単位を構成するイタコン酸のエステルのより具体的な例としては、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、及びジオクチルエステルが挙げられる。
イタコン酸ジエステル重合体(A1)が、単位(A1)と、他の任意の単位との共重合体である場合、重合体(A1)に占める単位(A1)の割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0025】
イタコン酸エステル重合体(A1)は、そのガラス転移温度Tgが特定の範囲内であることが好ましい。Tgは、好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上であり、一方好ましくは210℃以下、より好ましくは200℃以下である。かかる範囲内のTgを有することにより、耐熱性が高いフィルムの材料として、特に有用に用いることができる。特に、145℃といった光学フィルムが耐久することが求められる高い温度においての耐熱性を特に向上させることができる。ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量分析計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス社製「DSC7000X」)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定しうる。
【0026】
イタコン酸エステル重合体(A1)は、その重量平均分子量Mwが特定の範囲内であることが好ましい。Mwは、好ましくは3,000以上、より好ましくは40,000以上、さらにより好ましくは80,000以上であり、一方好ましくは300,000以下、より好ましくは200,000以下、さらにより好ましくは150,000である。Mwが前記下限以上であることにより、良好な高い負の複屈折を有する(具体的には、単位厚み方向のレターデーションRth/dが負の値であり、且つ大きい絶対値を有する)光学フィルムを容易に得ることができる。Mwが前記上限以下であることにより、良好な加工性を得ることができる。重合体の分子量(重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算値として求めうる。
【0027】
イタコン酸エステル重合体(A1)は、その分子量分布、即ち重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが特定の範囲内であることが好ましい。Mw/Mnは、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.1以上、さらにより好ましくは1.2以上であり、一方好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらにより好ましくは4.5以下である。Mw/Mnが前記下限以上であることにより、耐熱性が高いフィルムの材料として、特に有用に用いることができる。特に、145℃といった光学フィルムが耐久することが求められる高い温度においての耐熱性を特に向上させることができる。Mw/Mnが前記上限以下であることにより、高い柔軟性を得ることができる。
【0028】
イタコン酸エステル重合体(A1)は、下記工程(I)及び(II)を含む製造方法により製造しうる。
工程(I):単位(A1)に対応するイタコン酸ジエステルを合成する工程。
工程(II):イタコン酸ジエステルを重合させる工程。
【0029】
工程(I)は、イタコン酸を、基-R1及び基-R2に対応する構造を有する化合物(即ち、基-RXに対応する構造を有する化合物、又は基-RXに対応する構造を有する化合物及び基-RYに対応する構造を有する化合物の組み合わせ)によりエステル化することにより行いうる。
【0030】
重合体(A1)としてイタコン酸ジノルボルニルの単独重合体(即ち重合単位が上に述べた単位(A1-1)のみからなる重合体)を製造する場合を例にとり説明すると、工程(I)ではイタコン酸ジノルボルニルを合成する。かかる合成の反応の例としては、下記式(A3)で表される反応、及び下記式(A4)で表される反応が挙げられる。
【0031】
【0032】
【0033】
式(A3)の反応は、ノルボルネンを大過剰にすることにより、円滑に進行させることができる。式(A3)の反応における酸触媒としては、酸基を有するイオン交換樹脂(例えば、オルガノ株式会社製、商品名「アンバーリスト15dry」)を使用しうる。式(A4)の反応における酸触媒としては、上に述べたもの等の酸基を有するイオン交換樹脂、又は酢酸を用いうる。反応の上限は、一般的なエステル化及びエステル交換の条件に適合したものを適宜選択しうる。
【0034】
(バイオ化率)
イタコン酸エステル重合体(A1)は、上に述べた通りイタコン酸を主な原料として製造することができ、且つイタコン酸は、トウモロコシなどの生物由来の材料からの合成が可能である。したがって、イタコン酸エステル重合体(A1)、及びそれを元に製造した本発明の樹脂及び成形体は、化石資源のみから製造される材料に比べて、環境負荷が低く且つ持続可能性の高い材料とすることができる。イタコン酸エステル重合体(A1)のバイオ化率(材料全体の重量に占める、生物由来としうる材料の重量の割合)は、10%以上であり、好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。イタコン酸エステル重合体(A1)分子におけるイタコン酸由来の部分は、「生物由来としうる材料」としてバイオ化率を計数しうる。上に述べた単位(A1-1)の単独重合体の場合、バイオ化率は40%となる。バイオ化率の上限は、特に限定されないが例えば100%以下としうる。
【0035】
(基-RXが占める割合)
イタコン酸エステル重合体(A1)においては、基-RXが占める割合が、ある程度以上高い割合であることが、負の複屈折を良好に発現することができるため好ましい。具体的には、重合体(A1)における、基-RXが占める割合は、好ましくは25重量%以上であり、より好ましくは30重量%以上であり、さらにより好ましくは50重量%以上である。基-RXが占める割合の上限は、特に限定されないが例えば60%以下としうる。
【0036】
(任意成分)
本発明の光学フィルムは、イタコン酸ジエステル重合体(A1)のみからなってもよく、イタコン酸エステル重合体(A1)に加えて、任意の成分を含んでいてもよい。かかる任意の成分の例としては、イタコン酸ジエステル重合体(A1)以外の重合体、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、強化剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填剤、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、抗菌剤などが挙げられる。本発明の樹脂は、任意の成分として、1種類のみを含んでも良く、2種類以上を任意の比率で含んでもよい。但し、本発明の効果を有効に発現する観点から、本発明の光学フィルムにおけるイタコン酸エステル重合体(A1)の含有割合は大きな値であることが好ましい。具体的には、本発明の樹脂におけるイタコン酸エステル重合体(A1)の含有割合は、好ましくは80重量%~100重量%、より好ましくは90重量%~100重量%、特に好ましくは95重量%~100重量%としうる。
【0037】
(光学フィルムの物性等)
本発明の光学フィルムに占めるイタコン酸エステル重合体(A1)の割合が95重量%以上といった大きな割合であると、本発明の光学フィルムの物性は、通常その主成分であるイタコン酸エステル重合体(A1)のそれと同様となり、その好ましい範囲も、イタコン酸エステル重合体(A1)のそれと同様となる。例えば本発明の光学フィルムは、フィルムを構成する材料全体としてのガラス転移温度は、上に述べたイタコン酸エステル重合体(A1)のガラス転移温度Tgと同じであることが好ましい。
【0038】
本発明の光学フィルムの形状は、特に限定されず、所望の光学的特性及びその他の特性を発現する形状としうる。具体的には、光学フィルムの厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、一方好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0039】
本発明の光学フィルムは、負の複屈折を発現しうる。具体的には、単位厚み方向のレターデーションRth/dが、負の値であり、且つ、ある程度以上大きい絶対値を有するものとしうる。より具体的には、光学フィルムのRth/dは、好ましくは-0.0002以下、より好ましくは-0.00025以下としうる。光学フィルムのRth/dの下限は、特に限定されないが例えば-0.0005以上としうる。
【0040】
本発明の光学フィルムの面内方向レターデーションRe及び厚み方向レターデーションRthは、用途に応じた適切な値に適宜調整しうる。例えば、視野角補償フィルムの用途に用いる場合、光学フィルムのRthは、好ましくは-60nm以上、より好ましくは-55nm以上であり、一方好ましくは0nm以下、より好ましくは-10nm以下であり、Reは好ましくは300nm以下、より好ましくは260nm以下であり、下限は0nmとしうる。
【0041】
本発明の光学フィルムは、光学フィルムに適した所望の波長分散性を有するフィルムとしうる。フィルムの波長分散性とは、光の波長と、当該波長の光に対してフィルムが発現する光学的異方性との関係についての性質を指す概念であり、長波長より短波長の光について高い異方性を示す波長分散性は順波長分散性、短波長より長波長の光について高い異方性を示す波長分散性は逆波長分散性と言われる。具体的には、波長450nm、550nm及び650nmの3点における、Re又はRth等のレターデーションの比率を、波長分散性の指標としうる。より具体的には、例えばRe(450)(波長450nmにおける厚み方向レターデーション)、Re(550)(波長550nmにおける厚み方向レターデーション)、及びRe(650)(波長650nmにおける厚み方向レターデーション)を求め、Re(450)/Re(550)の値及びRe(650)/Re(550)の値を求め、これを波長分散性の指標としうる。
【0042】
Re(450)/Re(550)の所望の値及びRe(650)/Re(550)の所望の値は、光学フィルムの用途により異なるが、例えば、視野角補償フィルムの用途に用いる場合、これらの値はいずれも1に近いことが好ましい。具体的には、Re(450)/Re(550)の値及びRe(650)/Re(550)の値はいずれも0.95~1.10であることが好ましい。
【0043】
Re及びRth等の、光学フィルムの光学的特性は、位相差測定装置(例えばAxometric社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定しうる。
【0044】
(光学フィルムの製造方法)
本発明の光学フィルムの製造方法は、特に限定されず、既知の製造方法により製造しうる。例えば、イタコン酸ジエステル重合体(A1)のみからなる樹脂材料、又はイタコン酸ジエステル重合体(A1)及び任意の成分を含む樹脂材料を、溶融押出成形、熱プレス成型等の成形方法によりフィルム状に成型し、さらに必要に応じて延伸等の光学異方性を付与する処理を行い所望の光学特性を付与することにより、本発明の光学フィルムを製造しうる。
【0045】
(用途)
本発明の光学フィルムは、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示装置において、保護フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムとして用いうる。本発明の光学フィルムは、上に述べたイタコン酸エステル重合体(A1)を含むことにより、負の複屈折を容易に発現でき、且つカーボンニュートラルな材料の使用の割合が高い光学フィルムとして、特に有用に用いることができる。加えて、イタコン酸ジエステルの重合体の有用な特性(高屈折率、高い耐熱性、低い膜厚むら、透明性等)を有利に享受しうる光学フィルムとして用いることができる。
【実施例0046】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。以下の操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中にて行った。
【0047】
(評価方法)
(重合体の分子量の測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
標準ポリスチレンとしては、東ソー社製標準ポリスチレン(Mw=500、1010、2550、5970、10200、18100、37900、106000、190000、427000、706000)を用いた。
測定は、東ソー社製カラム(東ソー製 TSKgel SuperH5000、TSKgel SuperH4000及びTSKgel SuperH2000)を3本直列に繋いで用い、流速0.6mL/分、サンプル注入量20μL、カラム温度40℃の条件で行った。
【0048】
(ガラス転移温度Tgの測定方法)
試料のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量分析計(株式会社日立ハイテクサイエンス社製「DSC7000X」)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0049】
(光学特性の測定方法)
Re及びRth等の、光学フィルムの光学的特性は、位相差測定装置(Axometric社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定した。波長分散性については、Re(450)/Re(550)の値及びRe(650)/Re(550)の値を求めた。
【0050】
(厚み)
光学フィルムの厚みは、スナップゲージを用いて測定した。
【0051】
(製造例1.イタコン酸ジエステル)
内部をアルゴン置換した反応容器に、室温にて下記の材料を入れて混合し、混合物とした。
【0052】
イタコン酸 100重量部
ヒドロキノン 5.5重量部
トルエン 4523重量部
アンバーリスト15dry(商品名、オルガノ株式会社製、酸触媒としてのイオン交換樹脂) 2重量部
80%ノルボルネン/トルエン溶液 394重量部
【0053】
混合物9400gを80℃に保ち、終夜撹拌し、材料を反応させた。その後、混合物から固体をろ別し、ろ液を回収した。ろ液を蒸留水1.8Lで1回、5%NaOH水溶液3.6Lで1回、飽和食塩水3.6Lで1回、分液洗浄した。得られた有機層に硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。乾燥後の有機層から固体をろ別し、ろ液を回収し濃縮した。この操作により粗生成物を得た。
【0054】
粗生成物をシリカゲルカラム精製(SiO2 2.8kg、ヘプタン/トルエン=1/1→ヘプタン/酢酸エチル=10/1)にて精製した後、40℃高減圧下で溶媒を除去し、目的のイタコン酸ジエステルを得た。
【0055】
[実施例1]
(1-1)イタコン酸ジエステル重合体の製造:
ガラス製反応容器に、下記の材料を入れて混合し、重合反応混合物とした。
【0056】
(重合反応混合物)
イタコン酸ジエステル(単量体、製造例1で製造したもの) 100重量部
2,2’-Azobis(4-methoxy-2,4-dimethylvaleronitrile) 0.65重量部
【0057】
重合反応混合物を、窒素で15分間バブリングし、反応容器内を窒素置換した。混合物を30℃で60時間加温し、重合反応させた。加温を停止し重合反応を停止させ、イタコン酸ジエステル重合体を含む、重合体溶液を得た。得られたイタコン酸ジエステル重合体の重量平均分子量Mwは96,000であり、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnから求めた分子量分布は2.77であった。また、単量体の重合体への転化率をガスクロマトグラフィーにより測定した(重合反応混合物1gを取り出し、これに内部標準としてドデカンを0.2g添加し、さらに貧溶媒を加えて重合体を析出させ、未反応の単量体をガスクロマトグラフィーで定量化した)ところ、50%であった。
【0058】
重合体溶液を、THFで50%に希釈し、大量の貧溶媒(メタノール/アセトン/水=2/1/1)中に注ぎ、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体を濾取した後に、重合体と同重量のTHFで希釈し再度、大量の貧溶媒(メタノール/アセトン/水=2/1/1)中に注ぎ、重合体を沈殿させた。沈殿した重合体を濾取した後に、真空乾燥機(70℃、1Torr)で18時間乾燥させて、イタコン酸ジエステル重合体樹脂を得た。得られたイタコン酸ジエステル重合体樹脂を試料として、イタコン酸ジエステル重合体のガラス転移温度Tgを測定したところ、182℃であった。
【0059】
(1-2)フィルムの製造:
(1-1)で得られたイタコン酸ジエステル重合体樹脂の塊を、一対の熱プレス用金属板の間に載置し、250℃に加熱した状態で熱プレスし、厚さ255μmのフィルムを得た。
【0060】
(1-3)評価:
(1-2)で得られたフィルムについて、光学特性を測定し、Re、Rth、Re/d、Rth/d、及び波長分散性を評価した。
【0061】
[実施例2~3]
(1-1)のイタコン酸ジエステル重合体の製造において、2,2’-Azobis(4-methoxy-2,4-dimethylvaleronitrile)の添加量、及び重合反応の反応時間を変更し、且つ熱プレスの条件を変更しフィルム厚みを203μm(実施例2)又は500μm(実施例3)とした他は、実施例1と同じ操作を行い、イタコン酸ジエステル重合体樹脂及びフィルムを得て評価した。
【0062】
[比較例1]
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作を行い、イタコン酸ジエステル重合体樹脂及びフィルムを得て評価した。
・ 重合性反応混合物の組成を、下記の通り変更した。
(重合反応混合物:比較例1)
イタコン酸ジメチル(単量体、市販品、東京化成工業株式会社製) 100重量部
2,2’-Azobis(4-methoxy-2,4-dimethylvaleronitrile) 0.65重量部
・ 熱プレスの条件を変更し、厚みdを183μmとした。
【0063】
実施例及び比較例の結果を、表1に示す。
【0064】
【0065】
※表中、記号Eは、10のべき乗を表し、「E-05」は「×10-5」、「E-06」は「×10-6」である。
【0066】
実施例及び比較例の結果より、本発明の光学フィルムは、熱プレスによる容易な成形により、負の複屈折を容易に発現でき、しかも良好な波長分散性((Re(450)/Re(550)、及びRe(650)/Re(550)が1に近い)を有し、且つカーボンニュートラルな材料の使用の割合が高い、光学フィルムを提供できることが分かる。