(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024063999
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】移動制限シート、容器の製造方法、建設物または設備の製造方法、容器、および建設物または設備
(51)【国際特許分類】
A01M 29/34 20110101AFI20240507BHJP
【FI】
A01M29/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172252
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】霜田 政美
(72)【発明者】
【氏名】張 善在
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA03
2B121AA07
2B121AA08
2B121AA11
2B121AA16
2B121BB26
2B121EA22
2B121FA08
2B121FA12
(57)【要約】
【課題】従来技術よりも効果持続性の高い移動制限シート、容器の製造方法、建設物または設備の製造方法、容器、および建設物または設備を提供する。
【解決手段】本開示に係る移動制限シートは、対象生物の移動を制限する移動制限シートであって、凹凸構造が設けられたシート状の基体を備え、凹凸構造は、対象生物が基体上を伝って移動するのを制限する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象生物の移動を制限する移動制限シートであって、
凹凸構造が設けられたシート状の基体を備え、
前記凹凸構造は、前記対象生物が前記基体上を伝って移動するのを制限する、
移動制限シート。
【請求項2】
前記凹凸構造は、前記凹凸構造を通過しようとする前記対象生物の体を前記基体の表面から浮かせるように配置される、
請求項1に記載の移動制限シート。
【請求項3】
前記凹凸構造は、前記基体上に形成された複数の突起を含む、
請求項1または2に記載の移動制限シート。
【請求項4】
前記突起は、先細の形状を有する、
請求項3に記載の移動制限シート。
【請求項5】
前記突起は、錘台形状を有する、
請求項3に記載の移動制限シート。
【請求項6】
隣り合う前記突起間の間隔は、0.1mm以上200mm以下である、
請求項3に記載の移動制限シート。
【請求項7】
前記突起の高さは、0.1mm以上200mm以下である、
請求項3に記載の移動制限シート。
【請求項8】
前記凹凸構造は、凹凸が規則的に配置された凹凸パターンである、
請求項1または2に記載の移動制限シート。
【請求項9】
前記基体は、第1面および第2面を有し、
前記第1面には、前記凹凸構造が形成され、
前記第2面には、接着層が形成される、
請求項1または2に記載の移動制限シート。
【請求項10】
前記基体は、変形可能な可撓性部材である、
請求項1または2に記載の移動制限シート。
【請求項11】
対象生物の移動を制限する容器の製造方法であって、
側壁を有する容器において、請求項1または2に記載の移動制限シートを前記側壁に取り付けるステップを含む、
容器の製造方法。
【請求項12】
対象生物の移動を制限する建設物または設備の製造方法であって、
側壁を有する建設物または設備において、請求項1または2に記載の移動制限シートを前記側壁に取り付けるステップを含む、
建設物または設備の製造方法。
【請求項13】
対象生物の移動を制限する容器であって、
凹凸構造が設けられた側壁を備え、
前記凹凸構造は、前記対象生物が前記側壁の壁面を伝って移動するのを制限する、
容器。
【請求項14】
前記容器は、前記対象生物を内部に収容し、
前記凹凸構造は、前記側壁の内周面に設けられ、前記容器内の前記対象生物が前記容器から脱出するのを抑制する、
請求項13に記載の容器。
【請求項15】
対象生物の移動を制限する建設物または設備であって、
凹凸構造が設けられた側壁を備え、
前記凹凸構造は、前記対象生物が前記側壁の壁面を伝って移動するのを制限する、
建設物または設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、移動制限シート、容器の製造方法、建設物または設備の製造方法、容器、および建設物または設備に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫や害獣といった野生生物の家屋への侵入、研究対象の生物の逃亡などを防止するために、生物の移動行動を制限する技術が知られている。たとえば、特許文献1は、ヒノキチオールを保持した担体と該担体の少なくとも1面を透過性フィルムで被覆したことを特徴とする害虫忌避材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように害虫忌避剤などの薬剤を使用すると、時間が経つにつれて薬剤が揮発してしまう。このため、生物の移動制限効果の持続性は限定的であった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような従来技術よりも効果持続性の高い移動制限シート、容器の製造方法、建設物または設備の製造方法、容器、および建設物または設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含み得る。
[1]対象生物の移動を制限する移動制限シートであって、
凹凸構造が設けられたシート状の基体を備え、
前記凹凸構造は、前記対象生物が前記基体上を伝って移動するのを制限する、
移動制限シート。
[2]前記凹凸構造は、前記凹凸構造を通過しようとする前記対象生物の体を前記基体の表面から浮かせるように配置される、
[1]に記載の移動制限シート。
[3]前記凹凸構造は、前記基体上に形成された複数の突起を含む、
[1]または[2]に記載の移動制限シート。
[4]前記突起は、先細の形状を有する、
[3]に記載の移動制限シート。
[5]前記突起は、錘台形状を有する、
[3]または[4]に記載の移動制限シート。
[6]隣り合う前記突起間の間隔は、0.1mm以上200mm以下である、
[3]~[5]のいずれかに記載の移動制限シート。
[7]前記突起の高さは、0.1mm以上200mm以下である、
[3]~[6]のいずれかに記載の移動制限シート。
[8]前記凹凸構造は、凹凸が規則的に配置された凹凸パターンである、
[1]~[7]のいずれかに記載の移動制限シート。
[9]前記基体は、第1面および第2面を有し、
前記第1面には、前記凹凸構造が形成され、
前記第2面には、接着層が形成される、
[1]~[8]のいずれかに記載の移動制限シート。
[10]前記基体は、変形可能な可撓性部材である、
[1]~[9]のいずれかに記載の移動制限シート。
[11]対象生物の移動を制限する容器の製造方法であって、
側壁を有する容器において、[1]~[10]のいずれかに記載の移動制限シートを前記側壁に取り付けるステップを含む、
容器の製造方法。
[12]対象生物の移動を制限する建設物または設備の製造方法であって、
側壁を有する建設物または設備において、[1]~[10]のいずれかに記載の移動制限シートを前記側壁に取り付けるステップを含む、
建設物または設備の製造方法。
[13]対象生物の移動を制限する容器であって、
凹凸構造が設けられた側壁を備え、
前記凹凸構造は、前記対象生物が前記側壁の壁面を伝って移動するのを制限する、
容器。
[14]前記容器は、前記対象生物を内部に収容し、
前記凹凸構造は、前記側壁の内周面に設けられ、前記容器内の前記対象生物が前記容器から脱出するのを抑制する、
[13]に記載の容器。
[15]対象生物の移動を制限する建設物または設備であって、
凹凸構造が設けられた側壁を備え、
前記凹凸構造は、前記対象生物が前記側壁の壁面を伝って移動するのを制限する、
建設物または設備。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効果持続性の高い移動制限シート、容器の製造方法、建設物または設備の製造方法、容器、および建設物または設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る移動制限シート100の斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る移動制限シート100を
図1の線II-IIで切断した断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る移動制限シート100の使用方法を示す模式図である。
【
図4】第1実施形態に係る移動制限シート100の使用方法を示す模式図である。
【
図5】第1実施形態に係る移動制限シート100の使用方法を示す模式図である。
【
図6】第2実施形態に係る移動制限シート200の斜視図である。
【
図7】第3実施形態に係る移動制限シート300の斜視図である。
【
図8】第3実施形態に係る移動制限シート300を
図7の線VIII-VIIIで切断した断面図である。
【
図9】第4実施形態に係る容器400の斜視図である。
【
図10】第5実施形態に係る窓枠500の斜視図である。
【
図11】実験例1~5における7日齢の幼虫の平均残存率を示すグラフである。
【
図12】実験例1~5における10日齢の幼虫の平均残存率を示すグラフである。
【
図13】実験例1~5における20日齢の幼虫の平均残存率を示すグラフである。
【
図14】実験例6の移動制限シート600の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の移動制限シート、容器の製造方法、建設物または設備の製造方法、容器、および建設物または設備について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、実施形態の各構成および各特徴は、任意に組み合わせることが可能である。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。また、図面に示すXYZ座標は、説明の便宜上定義されたものであり、発明を限定するものではない。
【0010】
<概要>
一実施形態によれば、対象生物の移動を制限する移動制限シートであって、凹凸構造が設けられたシート状の基体を備え、凹凸構造は、対象生物が基体上を伝って移動するのを制限する、移動制限シートが提供される。
また、対象生物の移動を制限する容器の製造方法であって、側壁を有する容器において、上記の移動制限シートを側壁に取り付けるステップを含む、容器の製造方法が提供される。
また、対象生物の移動を制限する建設物または設備の製造方法であって、側壁を有する建設物または設備において、上記の移動制限シートを側壁に取り付けるステップを含む、建設物または設備の製造方法が提供される。
これらの実施形態については、以下で第1実施形態~第3実施形態を例として説明する。
【0011】
別の実施形態によれば、対象生物の移動を制限する容器であって、凹凸構造が設けられた側壁を備え、凹凸構造は、対象生物が側壁の壁面を伝って移動するのを制限する、容器が提供される。
この実施形態については、以下で第4実施形態を例として説明する。なお、この実施形態には、上記の移動制限シートが側壁に取り付けられた容器も含まれる。
【0012】
さらに別の実施形態によれば、対象生物の移動を制限する建設物または設備であって、凹凸構造が設けられた側壁を備え、凹凸構造は、対象生物が側壁の壁面を伝って移動するのを制限する、建設物または設備が提供される。
この実施形態については、以下で第5実施形態を例として説明する。なお、この実施形態には、上記の移動制限シートが側壁に取り付けられた建設物または設備も含まれる。
【0013】
<第1実施形態>
図1~
図5を参照して、第1実施形態に係る移動制限シート100について説明する。
図1は、第1実施形態に係る移動制限シート100の斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る移動制限シート100を
図1の線II-IIで切断した断面図である。
図3は、第1実施形態に係る移動制限シート100の使用方法を示す模式図である。
図4は、第1実施形態に係る移動制限シート100の使用方法を示す模式図である。
図5は、第1実施形態に係る移動制限シート100の使用方法を示す模式図である。
【0014】
[移動制限シート100の構成]
図1および
図2に示すように、移動制限シート100は、基体110、複数の突起120(「凹凸構造」の一例)、および接着層130を有する。基体110は、第1面112および第2面114を有するシート状の部材である。複数の突起120は、XY平面に沿って延在する基体110の第1面112からZ方向に突出している。接着層130は、基体110の第2面114上に設けられている。
【0015】
移動制限シート100は、接着層130を介して既存の構造物に貼り付けられる。突起120は、虫などの対象生物が移動制限シート100を伝って通過しようとするのを妨げる。たとえば、突起120は、対象生物が移動制限シート100を横切ろうとする行動を妨げる物理的な障害構造体として機能する。
【0016】
突起120は、先端に近づくほど断面積が小さくなる先細の形状を有する。具体的には、突起120の形状は、円錐台形である。突起120がこのような根元が太い形状を有することにより、突起120が折れたり曲がったりする可能性を低減することができる。ただし、突起120の形状はこれに限定されない。たとえば、突起120の形状は、角錐台形など他の錘台形状であってもよく、先端が尖った円錐または角錐形状であってもよい。先端の位置が中心軸からずれていてもよい。突起120は、必ずしも先細の形状でなくてもよい。たとえば、突起120の形状は、円柱や角柱など断面積が一定の形状であってもよく、先端に近づくほど断面積が大きくなる逆テーパ形状であってもよい。その他、対象生物の移動を制限できる限り、任意の形状が採用可能である。
【0017】
移動制限シート100の大きさは、特に限定されず、用途に応じて適宜設計可能である。たとえば、基体110の長さ(X方向の大きさ)は、10mm以上10m以下、50mm以上5m以下、または100mm以上1m以下であってよい。たとえば、基体110の幅(Y方向の大きさ)は、1mm以上1m以下、5mm以上500mm以下、10mm以上100mm以下、または15mm以上50mm以下であってよい。たとえば、基体110の厚さ(Z方向の大きさ)は、0.01mm以上10mm以下、0.05mm以上5mm以下、または0.1mm以上1mm以下であってよい。接着層130の大きさは、基体110の大きさとほぼ同じであってよい。ただし、ここで例示した大きさはあくまで一例であり、対象生物や移動制限シート100を適用する構造物の大きさによっては、より大きい、または小さい基体110および接着層130を使用することができる。
【0018】
たとえば、突起120の高さ(すなわち、基体110の第1面112と垂直なZ方向における第1面112から突起120の先端までの長さ)は、0.1mm以上200mm以下、0.5mm以上100mm以下、1mm以上50mm以下、1.2mm以上20mm以下、または1.5mm以上10mm以下であってよい。たとえば、突起120の底面の直径は、0.5mm以上50mm以下、1mm以上20mm以下、または1.5mm以上10mm以下であってよい。たとえば、突起120の先端面の直径は、0.1mm以上50mm以下、0.5mm以上20mm以下、または1mm以上10mm以下であってよい。隣り合う突起120間の間隔d(すなわち、隣り合う2つの突起120の間の最短距離d)は、対象生物の平均体幅未満であってよく、たとえば、0.1mm以上200mm以下、0.15mm以上100mm以下、0.2mm以上50mm以下、0.3mm以上20mm以下、0.4mm以上10mm以下、0.5mm以上5mm以下であってよい。ただし、ここで例示した大きさはあくまで一例であり、対象生物や移動制限シート100を適用する構造物の大きさによっては、より大きい、または小さい突起120を使用することができる。また、すべての突起120の大きさおよび形状は、互いに実質的に同じであってもよく、異なっていてもよい。突起120の大きさおよび形状がすべてほぼ同一であれば、設計、製造、構成変更などが容易になる。一方、複数の種類の突起120が併用されてもよく、各突起120の大きさおよび形状に一定のばらつきがあってもよい。
【0019】
突起120の数や配置は、対象生物の移動を制限できる限り、特に限定されない。たとえば、
図1に示すように、複数の突起120は、突起120が規則的に配置された凹凸パターンを形成してもよい。突起120は、一定の間隔で基体110上に配置され得る。突起120を規則的な反復構造で配置することにより、移動制限シート100の設計、製造、構成変更などが容易になる。
図1に示す例では、複数の突起120がマトリクス状に配置されているが、突起120の列ごとにX方向の位置がずれた配置(たとえば、千鳥状の配置)であってもよい。この場合、対象生物が最初の1列を通過しても次の列の突起120に移動を制限されるので、より高い移動制限効果が期待される。あるいは、突起120がランダムに配置されてもよい。基体110の大きさに対する突起120の数密度は、特に限定されないが、たとえば、隣り合う2つの突起120がその間を通過しようとする対象生物と物理的に干渉するように設定されてよい。好ましくは、基体110上の突起120の数密度および/または隣り合う突起120間の間隔は、鉛直に配置された基体110上を対象生物が伝って登ることができない程度に対象生物と基体110との接触面積が小さくなるように設定される。
【0020】
突起120は、基体110と一体的に形成されてもよく、基体110とは別体として形成されて基体110に接合されてもよい。たとえば、光造形、射出成形、押出成形など任意の手法によって、基体110および突起120をまとめて成形してもよい。あるいは、シート状の基体110に対して、別途成形した突起120を取り付けたり、基体110上に突起120の材料を堆積させたりすることによって、突起120を形成してもよい。その他、任意の手法が使用可能である。
【0021】
基体110の材質は、特に限定されない。たとえば、基体110の構成材料としては、高分子材料、金属材料、セラミックス材料、ガラス材料、複合材料など、任意の材料が使用可能である。基体110の構成材料の例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリウレタン、ABS樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂、鉄鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭素材料、炭化ケイ素、コンクリートなどが挙げられる。基体110が撥水性を有する材料を含む場合、幼虫やナメクジなどが基体110に体を接着させるのを困難にする点で有効である。基体110が低摩擦材料を含む場合、対象生物が静止摩擦力によって基体110に対して体を保持するのを困難にする点で有効である。
【0022】
突起120の構成材料も、同様に特に限定されない。突起120の材質は、基体110の材質と同じであってもよく、異なってもよい。接着層130の材質は特に限定されず、任意の接着材料が使用可能である。
【0023】
移動制限シート100が曲面など非平面状の構造物に適用される場合には、基体110は、変形可能な可撓性部材であることが好ましい。この場合、基体110は、柔軟なシート部材として高分子材料や金属材料から形成されることが好ましい。このような構成によれば、小さな外力を加えることによって、構造物の形状に合わせて移動制限シート100を簡単に変形させることができる。また、一般的なハサミやカッターナイフで移動制限シート100を切断することができるので、必要に応じて長さの調節などの加工を容易に行うことができる。このように、様々な形状の構造物に対して適用できる、汎用性の高い移動制限シート100を得ることができる。
【0024】
移動制限シート100によって移動を制限する対象生物は、特に限定されない。対象生物の例としては、昆虫、クモ、多足類などの節足動物、ナメクジ、カタツムリなどの軟体動物、イモリなどの両生類、ヤモリなどの爬虫類、ネズミ、イタチなどの哺乳類、カラスなどの鳥類が挙げられる。たとえば、対象生物は、実験動物、害虫、害獣などである。移動制限シート100は、突起120によって対象生物の移動を制限することにより、実験動物の逃亡や害虫または害獣の家屋への侵入を抑制することができる。
【0025】
アブの幼虫やナメクジのように脚がない生物は、水や粘液によって腹部分を壁面に接着させるものが多い。このように壁面に対して接着力または吸着力を作用させる対象生物に対しては、上記のような先細形状の突起が特に有効であると考えられる。突起の間を通過できない対象生物は、突起を登らなければならない。この点、突起が先細形状を有する場合には、対象生物が突起の先端側に登るほど、接着可能な面積が減少する。このため、対象生物が突起を通過することは非常に困難である。突起120は、その先端に対象生物が定在できない形状を有することが好ましい。たとえば、突起120の先端面の面積は、対象生物が先端面に定在できない程度に小さいことが好ましい。
【0026】
一方、昆虫やクモのように脚がある生物は、脚の爪を壁面の微細な凹凸に引っかけながら移動するものが多い。このように壁面に対して機械的な保持を行う対象生物に対しては、多数の突起によって対象生物の体が壁面から浮くようにすることが有効であると考えられる。対象生物の体が壁面から浮いた状態では、対象生物と基体面との接触面積が減少し、対象生物が壁面上を移動する際にバランスを欠きやすい。また、対象生物が壁面から落下しそうになった場合に、脚の爪を引っかける場所が相対的に少なくなる。特に、移動制限シート100が鉛直に配置される場合には、凹凸構造を乗り越えようとして体を基体面から浮かせた対象生物が落下しやすくなる。このため、対象生物の大きさや形状に応じて、対象生物が体を浮かせないと突起構造を通過できないように突起の大きさ、形状、配置などを設計することにより、対象生物の移動を大きく制限することができる。
【0027】
[移動制限シート100の使用方法]
次いで、
図3~
図5を参照して、移動制限シート100の使用方法について説明する。
図3は、実験用ビーカーなどの容器10に移動制限シート100を取り付けた様子を示す。容器10は、底壁12および側壁14を有する。
図3に示すように、移動制限シート100は、側壁14の内周面に貼り付けられている。容器10の内部には、実験用の幼虫Lが収容されている。移動制限シート100は、幼虫Lが容器10の側壁14を登って外へ脱出することを抑制または防止する。このような場合における移動制限シート100の移動制限効果の実証結果については、実験例を参照して後述する。
【0028】
容器10の周壁14は、内周面が平面および/または緩やかな曲面で構成されることが好ましい。たとえば、容器10の形状が、上面視で4つの角を有する立方体形状である場合において、角が直角または大きな曲率を有する場合には、移動制限シート100を容器10の周壁14に貼り付けると、角での移動制限シート100の折り曲げ角度が急になる。この場合、突起120の間隔が平面でより狭くなったり、突起120の上面同士が接したりすることによって、移動制限効果が影響され得る。したがって、直角の角を有する容器10を使用する場合は、後述の
図9に示す曲面形成部424のように曲面を有する部分を別途の構造物として角の一部または全体に設けることによって、小さな曲率を有する緩やかな曲面を形成することが好ましい。
【0029】
逆に、移動制限シート100の側壁14の外周面に移動制限シート100を張り付ければ、対象生物が外部から容器10の内部に侵入するのを抑制または防止することもできる。
【0030】
図4は、家20の側壁22に移動制限シート100を取り付けた様子を示す。移動制限シート100は、家20の窓24の下に貼り付けられる。これにより、害虫や害獣が家20の側壁22を伝って移動することを制限することができるので、害虫や害獣が窓24から家20の内部に侵入することを抑制することができる。
図4に示す例では、移動制限シート100を窓24の下の位置に貼り付けているが、移動制限シート100の適用場所は上記例に限定されない。たとえば、移動制限シート100が側壁22の別の位置、家20の窓枠、扉、扉枠、または建物基礎に適用されてもよく、通気口など他の外部連通部の近傍に適用されてもよい。家20は、一般家屋でもよく、国や企業の施設(たとえば、食品工場、精密機械工場、植物工場など)などであってもよい。移動制限シート100は、家20の周りの塀、柵、フェンス、栽培施設、ベランダ、通路、手すり、電柱など、家20以外の任意の建設物に適用されてもよい。また、移動制限シート100の適用対象は、完成した建設物に限定されず、建設に使用される建材に適用されてもよい。
【0031】
図5は、通気口30の内周面32に移動制限シート100を取り付けた様子を示す。通気口30のカバー34を二点鎖線で示す。通気口30の内部に移動制限シート100を設けることにより、害虫または害獣が通気口30を通って家屋に侵入するのを抑制または防止することができる。一般的な通気口30の他、家屋や施設の給水管、排水管、冷暖房配管、ガス配管などの種々の配管構造や車両の排気口など、建設物や設備の内部空間と外部空間との連通構造に対して移動制限シート100を適用することができる。その他、移動制限シート100は、シンクやバスタブなどの家屋設備;ベランダ設備;机、キッチン棚、本棚、収納庫などの家具;冷蔵庫などの家電製品といった任意の設備(たとえば、建設用設備)に適用されてよい。
【0032】
上記のような移動制限シート100によれば、物理的な構造物(すなわち、突起120)によって対象生物の脱出や侵入を抑制することができる。このため、従前使用されている粘着シートや薬剤のように経時的な消耗が実質的に起こらない。したがって、交換や補充の必要がないので、一度取り付けた後は半永久的に移動制限効果を保つことができる。このように、本実施形態によれば、従来技術よりも効果持続性の高い移動制限シート100を提供することができる。
【0033】
また、移動制限シート100は、対象生物の移動制限に薬剤を要しないので、薬剤が空気中に拡散したり、周辺の飲食物や餌などに混入したりすることによる人畜への薬害を生じるおそれがない。
【0034】
さらに、移動制限シート100は、既存の構造体に簡単に取り付けることができるので、汎用性が高い。特に、基体110を変形可能な可撓性部材として構成した場合には、様々な形状の構造体に簡単に取り付けることができるので、より汎用性が高い。
【0035】
<第2実施形態>
図6を参照して、第2実施形態に係る移動制限シート200について説明する。移動制限シート200は、突起120の代わりにX方向に延在する凸条部220が設けられている点で、移動制限シート100と異なる。なお、以下では主に本実施形態に特有の特徴について説明し、上記実施形態と共通する点については繰り返さない。
図6は、第2実施形態に係る移動制限シート200の斜視図である。
【0036】
[移動制限シート200の構成]
図6に示すように、移動制限シート200は、基体210、凸条部220、および接着層230を有する。基体210および接着層230は、第1実施形態の基体110および接着層130と同様の構成である。凸条部220は、基体210からZ方向に突出するとともに、基体210の長さ方向(X方向)に延在する畝状の突出部である。
図6に示す例では、基体210上に、互いに略平行な5本の凸条部220が設けられている。YZ平面に平行な面における凸条部220の断面形状は、先端に近づくほど幅が小さくなる先細形状である。ただし、凸条部220の断面形状はこれに限定されず、幅が実質的に均一な形状であってもよく、先端に近づくほど幅が大きくなる逆テーパ形状であってもよい。その他、対象生物の移動を制限できる限り、任意の形状が採用可能である。
【0037】
移動制限シート200の凸条部220は、移動制限シート100の突起120とは異なり、X方向に隙間を有しない。このため、凸条部220を通過しようとする対象生物は、凸条部220を乗り越えなければならない。対象生物の大きさおよび移動特性に応じて、凸条部220の大きさおよび形状を設計することにより、高い移動制限効果が得られる。
【0038】
図6に示す例では、凸条部220がX方向に沿って配置されているが、凸条部220の配置はこれに限定されない。たとえば、Y方向に沿って延在する凸条部220が配置されてもよく、X方向およびY方向の両方に交差する斜め方向に沿って凸条部220が配置されてもよい。
【0039】
<第3実施形態>
図7および
図8を参照して、第3実施形態に係る移動制限シート300について説明する。移動制限シート300は、突起120の代わりに複数の凹部320が設けられている点で、移動制限シート100と異なる。なお、以下では主に本実施形態に特有の特徴について説明し、上記実施形態と共通する点については繰り返さない。
図7は、第3実施形態に係る移動制限シート300の斜視図である。
図8は、第3実施形態に係る移動制限シート300を
図7の線VIII-VIIIで切断した断面図である。
【0040】
[移動制限シート300の構成]
図7および
図8に示すように、移動制限シート300は、基体310、凹部320、および接着層330を有する。基体310の第2面314に設けられた接着層330は、第1実施形態の接着層130と同様の構成である。基体310の第1面312には、突起120の代わりに複数の凹部320が形成されている。
図7に示す例では、凹部320は、円形のボウル状の穴として形成されている。
【0041】
たとえば、隣り合う2つの凹部320間の間隔は、対象生物の平均体幅より小さい。これにより、対象生物は、凹部320間の隙間を通って移動することができない。多数の凹部320が基体310上に形成されていることにより、対象生物は、体を基体310上に安定して保持することができない。好ましくは、凹部320の第1面312と凹部320の凹面とは、不連続に繋がっている。このような構成は、対象生物が体を基体310上に安定して保持することをより困難にする点で好ましい。
【0042】
<第4実施形態>
図9を参照して、第4実施形態に係る容器400について説明する。容器400は、移動制限シート100の代わりに初めから突起430を有している点で、第1実施形態に関連して説明した容器10とは異なる。なお、以下では主に本実施形態に特有の特徴について説明し、上記実施形態と共通する点については繰り返さない。
図9は、第4実施形態に係る容器400の斜視図である。
【0043】
[容器400の構成]
図9に示すように、容器400は、底壁410、側壁420、および突起430を有する。側壁420は、底壁410の周縁から上方(+Z方向)に延在する。突起430は、側壁420の内周面422上に設けられ、容器400の内側に向かって突出している。突起430の形状は、第1実施形態と同様である。突起430は、側壁420と一体的に形成されてもよく、側壁420と別体として形成されて側壁420に接合されてもよい。なお、
図9のように容器400が上面視で角を有する場合において、角が直角または大きな曲率を有する場合には、内周面422の全体または少なくとも突起430が設けられる部分は、たとえば
図9に示す曲面形成部424の構成によって、角の曲率が小さくなるように設計されることが好ましい。これにより、角部分に対象生物が通過できる隙間が形成されたり突起120の上面同士が接したりすることによって移動制限効果が影響されることを防ぐことができる。
【0044】
たとえば、容器400は、対象生物を収容する容器である。内周面422上に脱出防止用の突起430が形成されているので、容器400に収容されている対象生物が側壁420を登って容器400から脱出することを抑制または防止することができる。
【0045】
たとえば、容器400は、実験生物を収容する容器であってもよく、害虫または害獣用のトラップ装置であってもよい。容器400がトラップ装置(たとえば、捕虫器)である場合には、たとえば、容器400の内部に対象生物を引き付ける物質または機構を設けてもよい。たとえば、羽を有する昆虫がトラップ装置に飛んで侵入した場合、容器400内では飛行するのに十分な空間がなく、側壁420を伝って出ようとしても、突起430によって側壁420上の移動が阻害され得る。その結果、一旦容器400の内部に侵入した虫を容器400内に捕獲することができる。
【0046】
<第5実施形態>
図10を参照して、第5実施形態に係る窓枠500について説明する。なお、以下では主に本実施形態に特有の特徴について説明し、上記実施形態と共通する点については繰り返さない。
図10は、第5実施形態に係る窓枠500の斜視図である。
【0047】
[窓枠500の構成]
図10に示すように、窓枠500は、フレーム510および突起520を有する。フレーム510は、窓を四方から取り囲むように、上部材、下部材、左部材、および右部材の組合せで構成される。フレーム510の下部材には、フレーム510の幅全体にわたって、多数の突起520が設けられている。このような構成により、害虫や害獣などの対象生物は、窓枠500の下部材を乗り越えて窓に到達することが困難となる。このため、突起520を有する窓枠500によって、家屋内への対象生物の浸入を抑制または防止することができる。
【0048】
このような構成は、窓枠500に限定されず、任意の建設物(建材を含む)や、配管構造、家屋設備、ベランダ設備、家具、家電製品などの任意の設備においても実現可能である。すなわち、建設物または設備の側壁面に多数の突起520を設けることにより、対象生物が側壁面を伝って移動するのを抑制または防止することができる。
【0049】
<変形例>
上記実施形態では、突起や凹部が複数の列を形成する例を説明したが、本発明は上記例に限定されない。たとえば、突起または凹部が1列だけ設けられてもよい。実際、下記の実験例では、アメリカミズアブの幼虫が突起を通過しようとして最初の1列さえ通過できない様子が観察された。
【0050】
上記実施形態では、突起が基体面や壁面に対して垂直に突出する例を説明したが、本発明は上記例に限定されない。たとえば、斜め方向など別の方向に突出する突起が設けられてもよい。たとえば、突起が斜め下方に突出する構成は、対象生物が突起を通過するのをより困難にする可能性がある。たとえば、移動制限シート、または容器、建設物、もしくは設備の側壁に形成された凹凸パターンは、基体面または壁面に対して垂直に突出する突起の代わりに、またはそのような突起に加えて、基体面または壁面に対して斜め方向に突出する突起を有して含んでもよい。このような斜め方向に突出する突起と、基体面または壁面とのなす角は、たとえば0度超90度未満、10度以上60度以下、または20度以上45度以下である。このような構成によれば、斜め下向きになるように突起を配置することにより、突起が壁面上で返し構造を形成することができるので、対象生物が壁面を登るのをより困難にすることができる。
【0051】
上記実施形態では、各突起が個別に基体面に形成されている例を説明したが、本発明は上記例に限定されない。たとえば、表面に多数の突起を有する層が基体面上に形成されてもよい。この場合、基体の第1面上に別の層が形成され、その層の、基体と反対側の面上に多数の突起が形成される。なお、移動制限シートが基体層、接着層、上記のような突起層以外の層をさらに含んでもよい。
【0052】
上記実施形態では、基体が平坦な形状を有する例を説明したが、本発明は上記例に限定されない。たとえば、基体は、幅方向の一端から他端に進むにつれて厚さが増加する構造を有してもよい。このような構造の基体を有する移動制限シートを、基体の厚い側を上、基体の薄い側を下にして壁面に取り付けると、対象生物が壁面を登ることがより困難になり得る。また、後述の実験例6において
図14を参照して説明するように、基体の一部が壁面から浮くように構成されてもよい。たとえば、移動制限シートは、基体が第1部分と第2部分との間で折れ曲がり、第1部分を壁面に取り付けると第2部分が壁面から離間するように構成されてもよい。第2部分と壁面とのなす角は、たとえば0度超90度未満、10度以上60度以下、または20度以上45度以下である。このような構成によれば、第2部分が壁面上で返し構造を形成することができるので、対象生物が壁面を登るのをより困難にすることができる。
【0053】
上記実施形態では、接着層を介して構造物に取り付け可能な移動制限シートについて説明したが、本発明は上記例に限定されない。たとえば、移動制限シートは、テープなど別途の接着手段、ボルトや係止構造などの機械的固定手段などによって、または溶接や融着など任意の接合手法を用いて、構造物に取り付けることができる。
【0054】
各実施形態について説明した構成は、任意に組合せ可能である。たとえば、突起および凹部の両方が移動制限シートの基体上に形成されてもよい。
【実施例0055】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0056】
<実験例1>
図1に示すような多数の突起を有する移動制限シートを3Dプリンタで作製した。材料としてポリ乳酸(PLA)を使用し、基板および突起を一体成形した。基板の突起が設けられていない面には、接着層を形成した。基板の厚さは0.4mm、幅は20mmとし、必要な長さにカットした。各突起の形状は、底面の直径が1.5mm、上面の直径が0.9mm、高さが1.5mmの円錐台形とした。隣接する2つの突起の間隔(すなわち、隣接する突起の間の最短距離)は0.5mmとした。
【0057】
図3に示すように、容器の内周面上に1周分の移動制限シートを貼りつけた。この容器の底に、人工餌の水溶液10mLとともに、7日齢のアメリカミズアブの幼虫20匹(大きさ約5mm)を入れた。24時間ごとに水10mLを補充しながら、72時間その状態を保持した。気温は25度、湿度は40%~70%、光周期は12L:12Dとした。実験開始から72時間後に容器内に残っている幼虫の数を数え、これを最初の幼虫数(20匹)で割った残存率を算出した。この実験を3回反復し、平均残存率を算出した。
【0058】
上記の実験を、10日齢の幼虫(大きさ約10mm)および20日齢(大きさ約20mm)の幼虫についても同様に行った。
【0059】
<実験例2>
隣接する2つの突起の間隔を1.5mmとしたことを除き、実験例1と同様にして、7日齢、10日齢、及び20日齢のアメリカミズアブの幼虫について平均残存率を算出した。
【0060】
<実験例3>
隣接する2つの突起の間隔を2.5mmとしたことを除き、実験例1と同様にして、7日齢、10日齢、及び20日齢のアメリカミズアブの幼虫について平均残存率を算出した。
【0061】
<実験例4>
突起が形成されていない基板のみからなる移動制限シートを使用したことを除き、実験例1と同様にして、7日齢、10日齢、及び20日齢のアメリカミズアブの幼虫について平均残存率を算出した。
【0062】
<実験例5>
移動制限シートを使用しなかったことを除き、実験例1と同様にして、7日齢、10日齢、及び20日齢のアメリカミズアブの幼虫について平均残存率を算出した。
【0063】
<実験例1~5の結果>
図11は、実験例1~5における7日齢の幼虫の平均残存率を示すグラフである。図中の「コントロール」は、移動制限シートを使用しなかった実験例5を示し、「基板のみ」は、突起を形成しなかった実験例4を示し、「0.5mm間隔」、「1.5mm間隔」、および「2.5mm間隔」は、それぞれ実験例1~3を示す。同様に、
図12は、実験例1~5における10日齢の幼虫の平均残存率を示すグラフである。
図13は、実験例1~5における20日齢の幼虫の平均残存率を示すグラフである。
【0064】
図11から、7日齢の幼虫はそもそも移動する傾向が小さく、どの実験例においても残存率は比較的高かった。10日齢および20日齢の幼虫は、活発に移動する傾向が見られた。実際、
図12および
図13に示すように、10日齢および20日齢の幼虫の「コントロール」および「基板のみ」の平均残存率は低かった。これは、多くの幼虫が壁を登って容器外へ脱出したことを意味する。一方、基板に突起を形成した移動制限シートを使用した実験例1~3では、高い脱出抑制効果が確認された。また、突起間の間隔が狭いほど、脱出抑制効果が高くなる傾向が見られた。これは、突起間の間隔が狭いと、アメリカミズアブの幼虫が突起の間を通り抜けて脱出することが難しくなるためと考えられる。
【0065】
<実験例6>
図14は、実験例6の移動制限シート600の構成を示す斜視図である。
図14に示すように、基体610が幅方向の中央部で折れ曲がった移動制限シート600を作製した。折れ曲がり角度は約30度とした。基体610は、折れ曲がった部分を境界として、上部分と、多数の突起620が形成された下部分とに分かれる。移動制限シート600の上部分を壁面に固定することにより、移動制限シート600を壁面に取り付けた。移動制限シート600の下部分は、上部分から折れ曲がった状態で、壁面から離れて配置された。下部分の先端縁と壁面との距離は、約8mmであった。この移動制限シート600は、下向きの返しを形成する。移動制限シート600の下からダンゴムシに壁面を登らせ、移動制限シート600の登壁抑制効果を検証した。
【0066】
ダンゴムシは、壁面を登って移動制限シート600の下部分が形成する返しの下側に進入した。一般にダンゴムシは、頭部の触覚で前方の物体を感知するが、返しの先端は触覚の可動範囲を超える高さにあるので、ダンゴムシは返しを感知できなかったと考えられる。その後、ダンゴムシが返しの中に進入すると、触覚が返しの裏面に触れて、ダンゴムシは返しの存在を感知する。しかしながら、ダンゴムシの体は前屈しかできず、また返しの内側には十分な空間がないため、背中を反らして返しの裏面を伝うことができなかった。結局、ダンゴムシは移動制限シート600を乗り越えることができず、返しの下にとどまったり、壁面を降りたりする様子が確認された。