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特開2024-64066硬化剤マスターバッチ、硬化剤マスターバッチを製造する方法、および、シートモールディングコンパウンドを製造する方法
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  • 特開-硬化剤マスターバッチ、硬化剤マスターバッチを製造する方法、および、シートモールディングコンパウンドを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064066
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】硬化剤マスターバッチ、硬化剤マスターバッチを製造する方法、および、シートモールディングコンパウンドを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240507BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240507BHJP
   C08G 59/18 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08J3/22 CFC
C08J5/24
C08G59/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172383
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】梅本 晃佑
(72)【発明者】
【氏名】太田 智
【テーマコード(参考)】
4F070
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F070AA46
4F070AC46
4F070AE08
4F070FA03
4F070FB04
4F070FB09
4F072AA02
4F072AA07
4F072AB27
4F072AD28
4F072AD31
4F072AE01
4F072AF15
4F072AF26
4F072AF28
4F072AF30
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH43
4F072AH49
4F072AJ22
4F072AK14
4F072AL02
4J036AC14
4J036AD08
4J036AF06
4J036AH00
4J036DA10
4J036DB15
4J036DC03
4J036DC27
4J036DC31
4J036DC40
4J036FA14
4J036JA11
4J036KA06
(57)【要約】
【課題】シートモールディングコンパウンドの製造に好ましく用い得る硬化剤マスターバッチを提供すること。
【解決手段】エポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有する固体状の樹脂組成物であって、加温すると15℃未満の温度で液状となる、硬化剤マスターバッチが提供される。また、硬化剤マスターバッチを製造する方法であって、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと、前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと、を含む、方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有する固体状の樹脂組成物であって、
加温すると15℃未満の温度で液状となる、硬化剤マスターバッチ。
【請求項2】
粗粉状、粒状またはフレーク状である、請求項1に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項3】
粒状であり、各粒が決まった形状を有する、請求項1に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項4】
前記各粒の体積が1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである、請求項3に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項5】
板状であり、その厚さが1~10mmであってもよい、請求項1に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項6】
割溝を有する、請求項5に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項7】
前記エポキシ硬化剤が潜在性エポキシ硬化剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項8】
融解したときの粘度が25℃において10~40Pa・sである、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化剤マスターバッチ。
【請求項9】
硬化剤マスターバッチを製造する方法であって、
エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと、
前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと、
を含む、方法。
【請求項10】
各粒が決まった形状を持つ、粒状の硬化剤マスターバッチを製造する方法であって、
エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと、
同じ形状の窪みを複数並べた容器を用いて前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記各粒の体積が1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
板状の硬化剤マスターバッチを製造する方法であって、
エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと、
液状樹脂組成物を一定の間隔で離間させた2枚の板の間に満たした状態で冷却し凝固させることと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記2枚の板の少なくとも一方の表面にリッジパターンを設けることによって、前記リッジパターンと同じパターンの割溝を前記板状の硬化剤マスターバッチに形成する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
25℃において粘度が10Pa・s以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いて前記液状樹脂組成物を調製する、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記液状樹脂組成物のガラス転移点以下の温度に冷却することにより前記液状樹脂組成物を凝固させる、請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
シートモールディングコンパウンドを製造する方法であって、
液状エポキシ樹脂に少なくとも硬化剤マスターバッチおよび増粘剤を配合して樹脂ペーストを調製することと、
前記樹脂ペーストでチョップド繊維束を含浸させることと、
を含み、
前記硬化剤マスターバッチはエポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有し、加温すると15℃未満の温度で液状となる固体状の樹脂組成物である、方法。
【請求項17】
前記硬化剤マスターバッチが粗粉状、粒状またはフレーク状である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記硬化剤マスターバッチが粒状であり、各粒が決まった形状を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記各粒の体積が1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記硬化剤マスターバッチが板状である、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記液状エポキシ樹脂の温度が18~26℃である、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記配合の前に前記硬化剤マスターバッチを秤量することを含む、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記秤量の時点において前記硬化剤マスターバッチの温度が前記樹脂組成物のガラス転移点以下である、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、硬化剤マスターバッチ、硬化剤マスターバッチを製造する方法、および、シートモールディングコンパウンドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)からなる物品の製造方法のひとつに、シートモールディングコンパウンド(SMC)のようなプリプレグを用いる方法がある。プリプレグは、繊維補強材(fiber reinforcement)を予めマトリックス樹脂で含浸させた中間材料である。
【0003】
シートモールディングコンパウンドの製造では、液状エポキシ樹脂に粉体状のエポキシ硬化剤を配合した樹脂ペーストが使用されることがある。かかる樹脂ペーストの調製に際しては、エポキシ硬化剤の分散不良を防ぐ観点から、エポキシ硬化剤を少量の液状エポキシ樹脂に分散させた液状マスターバッチを用いるのが一般的である(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献2には、酸無水物硬化剤が配合されたエポキシ樹脂組成物を保存する場合、-40~-15℃という低温で保存することが望ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/182077号
【特許文献2】国際公開第2015/159781号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的には、シートモールディングコンパウンドの製造に好ましく用い得る硬化剤マスターバッチを提供することが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、エポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有する固体状の樹脂組成物であって;加温すると15℃未満の温度で液状となる、硬化剤マスターバッチが提供される。
【0008】
本発明の他の一態様によれば、硬化剤マスターバッチを製造する方法であって;エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと;前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと;を含む、方法が提供される。
【0009】
本発明の更に他の一態様によれば、各粒が決まった形状を持つ、粒状の硬化剤マスターバッチを製造する方法であって;エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと;同じ形状の窪みを複数並べた容器を用いて前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと;を含む、方法が提供される。
【0010】
本発明の更に他の一態様によれば、板状の硬化剤マスターバッチを製造する方法であって;エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと、液状樹脂組成物を一定の間隔で離間させた2枚の板の間に満たした状態で冷却し凝固させることと;を含む、方法が提供される。
【0011】
本発明の更に他の一態様によれば、シートモールディングコンパウンドを製造する方法であって;液状エポキシ樹脂に少なくとも硬化剤マスターバッチおよび増粘剤を配合して樹脂ペーストを調製することと;前記樹脂ペーストでチョップド繊維束を含浸させることと;を含み;前記硬化剤マスターバッチはエポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有し、加温すると15℃未満の温度で液状となる固体状の樹脂組成物である、方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、シートモールディングコンパウンドの製造に好ましく用い得る硬化剤マスターバッチが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、シートモールディングコンパウンド製造装置の基本構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.硬化剤マスターバッチ
本発明の一実施形態は、硬化剤マスターバッチに関する。
実施形態に係る硬化剤マスターバッチは、エポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有する固体状の樹脂組成物であり、加温すると15℃未満の温度で液状となる。
この硬化剤マスターバッチは、固体状であることから、容易に秤量することができる。
【0015】
好適例において、硬化剤マスターバッチは、粗粉状、粒状またはフレーク状であり得る。硬化剤マスターバッチが粗粉状、粒状またはフレーク状であると、秤を用いて必要量を量り取ることが容易である。それだけでなく、硬化剤マスターバッチが粗粉状、粒状またはフレーク状であると、表面積が大きくなるので、使用時に短時間で液状となり易い。
【0016】
硬化剤マスターバッチが粒状であるときの各粒の形状は、不定形であってもよいし、立方体、直方体、円柱、角錐台または円錐台のように決まった形状であってもよい。決まった形状の粒の場合、粒1個あたりの体積は、例えば、1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである。
硬化剤マスターバッチがフレーク状であるときのフレーク厚は、例えば、1~5mmであり得る。
【0017】
他の例では、硬化剤マスターバッチは板状であってもよい。その場合の板厚は、例えば、1~10mmであり得る。
一例では、1回分の使用量よりも多量の硬化剤マスターバッチで板を形成し、使用する度に、その板を切断または破断して、1回分の使用量だけを量り取ることができる。
板状の硬化剤マスターバッチには、破断を容易にするために割溝を設けることができる。
【0018】
実施形態に係る硬化剤マスターバッチが含有し得るエポキシ化合物の例には、アミノフェノールとエピハロヒドリンの反応物、アニリンを含むアミンとエピハロヒドリンの反応物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックおよびレゾルシノールを含む多価アルコールとエピハロヒドリンの反応物が含まれるが、これらに限定されない。
実施形態に係る硬化剤マスターバッチが含有するエポキシ化合物は、通常、2種以上である。実施形態に係る硬化剤マスターバッチが含有するエポキシ化合物は、平均すると1分子当たり1個より多くのエポキシ基を有する。
【0019】
実施形態に係る硬化剤マスターバッチは、任意の1種または2種以上のエポキシ硬化剤を含有し得る。エポキシ硬化剤の典型例には、ジシアンジアミド類、ノボラックを含むフェノール類、アミン類、カルボン酸無水物類、チオール類およびイミダゾール類が含まれる。
特に好ましく用い得るエポキシ硬化剤は、潜在性エポキシ硬化剤である。潜在性エポキシ硬化剤は、室温ではエポキシ樹脂に対する溶解性が低い固体であるが、加熱されると硬化剤としての機能を発現させる。
【0020】
一部のイミダゾール類、ジシアンジアミドおよび三フッ化ホウ素-アミン錯体は、潜在性エポキシ硬化剤の典型例である。イミダゾール類とはイミダゾール環を有する化合物の総称である。イミダゾールの水素原子が置換基で置換された置換イミダゾールの他、イミダゾリウム塩、イミダゾール錯体等もイミダゾール類に包含される。
【0021】
潜在性エポキシ硬化剤として知られる置換イミダゾールの好適例には、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-パラトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-メタトルイル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールのような、ヘテロ芳香環であってもよい芳香環を分子中に含む置換イミダゾールが含まれる。
【0022】
1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイトおよび1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイトのようなイミダゾリウム塩も、イミダゾール系潜在性硬化剤の好適例である。
【0023】
2-フェニルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールおよび2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールのような各種の置換イミダゾールのイソシアヌル酸付加物、とりわけ、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、1-(4,6-ジアミノ-s-トリアジン-2-イル)エチル-2-ウンデシルイミダゾールおよび2,4-ジアミノ-6-[2-(2-エチル-4-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-s-トリアジンのようなトリアジン環を有する置換イミダゾールのイソシアヌル酸付加物もまた、イミダゾール系潜在性硬化剤の好適例である。
【0024】
アミンアダクトも、潜在性硬化剤の好適例のひとつである。アミンアダクトは、イミダゾールおよび/または3級アミンをエポキシ樹脂および/またはイソシアネートと反応させて高分子量化したもので、エポキシ樹脂への溶解性が比較的低い。
【0025】
潜在性エポキシ硬化剤は、いずれか一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
実施形態に係る硬化剤マスターバッチは、潜在性エポキシ硬化剤と共に硬化促進剤を含有してもよい。例えば、硬化剤マスターバッチに潜在性エポキシ硬化剤としてジシアンジアミドを含有させるとき、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)や2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化促進剤としてジシアンジアミドと共に含有させることができる。
【0026】
硬化剤マスターバッチにおいて、エポキシ化合物のエポキシ硬化剤に対する質量比(エポキシ化合物/エポキシ硬化剤)は、1/1~5/1、1/1~3/1、1/1~2/1、1/1~1.5/1等であり得る。
【0027】
硬化剤マスターバッチが固体状から液状に変化する温度は、-30℃以上-20℃未満、-20℃以上-10℃未満、-10℃以上0℃未満、0℃以上10℃未満、10℃以上15℃未満等であり得る。この温度に応じて、硬化剤マスターバッチは使用直前まで冷蔵庫または冷凍庫で保管される。秤量している間に液状とならないよう、保管時の温度は、当該硬化剤マスターバッチが凝固した状態から液状に変化する温度よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことがより好ましい。
【0028】
2.硬化剤マスターバッチを製造する方法
実施形態に係る硬化剤マスターバッチは、エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製すること、および、該液状樹脂組成物を冷却して凝固させることを含む方法によって製造される。
エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有する液状樹脂組成物は、エポキシ硬化剤をエポキシ樹脂と混合することにより得ることができる。通常、エポキシ樹脂は複数のエポキシ化合物の混合物であり、平均で1分子あたり1個を超えるエポキシ基を有する。
【0029】
液状樹脂組成物が凝固する温度を15℃未満とするには、例えば、粘度が25℃において15Pa・s以下のエポキシ樹脂を用いればよい。かかるエポキシ樹脂が凝固する温度は、たいていの場合15℃未満である。
【0030】
例えば、粘度が25℃において15Pa・s以下である市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂として、三菱ケミカル株式会社のjER(登録商標)825、827、828、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社のエポトート(登録商標)YD-115、YD-127、YD-128、DIC株式会社のエピクロン(登録商標)840、850等が知られている。
【0031】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の場合、25℃において粘度が10Pa・s以下であることが特に好ましい。かかるビスフェノール型エポキシ樹脂は不純物の含有量が多く、冷却したときに、主成分として含有するモノマー(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)の結晶化が生じ難いからである。硬化剤マスターバッチは、結晶化したモノマーを含まない方が使用時に融解し易く、好ましい。
【0032】
例えば、粘度が25℃において15Pa・s以下である市販のビスフェノールF型エポキシ樹脂として、三菱ケミカル株式会社のjER(登録商標)806、807、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社のエポトート(登録商標)YDF-170、DIC株式会社のエピクロン(登録商標)830、835等が知られている。
【0033】
トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンなどを主成分とする市販のグリシジルアミン型エポキシ樹脂の中にも、粘度が25℃において15Pa・s以下のものがある。
【0034】
25℃において15Pa・s以下の粘度を有する市販エポキシ樹脂は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
25℃において15Pa・s以下の粘度を有する市販エポキシ樹脂の少なくとも1種と、25℃における粘度が15Pa・sを超える市販エポキシ樹脂および/または25℃において固形の市販エポキシ樹脂を混合した場合においても、低粘度のエポキシ樹脂を十分に配合することにより、得られるエポキシ樹脂の凝固温度は15℃未満となり得る。
【0035】
エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤の混合には、粘性液体と粉体の混合に適した公知の混合機器を適宜使用することができる。好ましい混合機器の例にはプラネタリーミキサーおよび3本ロールミルが含まれる。
エポキシ硬化剤に加えて硬化助剤を用いるときは、エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤を混合するときに、硬化助剤も同時に該エポキシ樹脂と混合することができる。
【0036】
エポキシ樹脂とエポキシ硬化剤を混合して調製した液状樹脂組成物を、冷却して凝固させることにより、硬化剤マスターバッチが完成する。
液状樹脂組成物を凝固させるとき、および、凝固により得られる固体状の硬化剤マスターバッチを保存するときの温度は、液状樹脂組成物の凝固温度よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことがより好ましい。
【0037】
液状樹脂組成物の冷却と、得られる硬化剤マスターバッチの保存は、液状樹脂組成物が凝固する温度に応じて、冷蔵庫、冷凍庫または業務用冷凍庫を用いて行われる。
エポキシ硬化剤の作用が十分に弱まる温度まで冷却し、かつ、使用前の保存期間が長過ぎないとき、硬化剤マスターバッチを加温して液状に戻したときの粘度は、凝固させる前の粘度と同等となり得る。従って、好適例では、液状樹脂組成物を凝固させるとき、および、凝固により得られる固体状の硬化剤マスターバッチを保存するときの温度は、液状樹脂組成物のガラス転移点以下とされる。
【0038】
冷却して凝固させた液状樹脂組成物を冷凍粉砕することにより、粗粉状または粒状の硬化剤マスターバッチを得ることができる。
液状樹脂組成物を冷却して凝固させるときに、製氷皿のように、同じ形状の窪みを複数並べた容器を用いることにより、各粒が決まった形状を持つ、粒状の硬化剤マスターバッチを製造することができる。
液状樹脂組成物を一定の間隔で離間させた2枚の板の間に満たした状態で冷却し、凝固させることにより、板状の硬化剤マスターバッチを製造することができる。2枚の板の少なくとも一方の表面にリッジパターンを設けておけば、該リッジパターンと同じパターンの割溝を有する板状の硬化剤マスターバッチを得ることができる。
液状樹脂組成物を板の表面や円筒周面に薄く塗布した状態で冷却して得られる凝固物を破砕することにより、フレーク状の硬化剤マスターバッチを得ることができる。
【0039】
3.シートモールディングコンパウンドを製造する方法
シートモールディングコンパウンドは、典型的には、図1に基本構成を示す製造装置を用いて、以下に述べる手順で製造される。
【0040】
複数の連続繊維束10が繊維パッケージPから引き出され、チョッパー1に送られる。一本一本の連続繊維束10は、例えば束当たり1000~100000本のフィラメントからなる炭素繊維束であり、部分的にスプリットされていてもよい。
連続繊維束10はチョッパー1により切断されて短尺繊維束20となる。短尺繊維束20の繊維長は、例えば5mm~100mm、好ましくは10~60mm、より好ましくは10~30mmの範囲内である。
【0041】
チョッパー1は、第一キャリアフィルム51の走行路の上方に配置されている。第一キャリアフィルム51の表面には、ドクターブレードを備える第一塗工機2aで樹脂ペースト40が塗布される。
短尺繊維束20は、走行する第一キャリアフィルム51の、樹脂ペースト40が塗布された面に向かって落下する。落下した短尺繊維束20が第一キャリアフィルム51上に降り積もることによってランダムマット30が形成される。
【0042】
第二キャリアフィルム52の表面には、樹脂ペースト40がドクターブレードを備える第二塗工機2bで塗布される。第一キャリアフィルム51と第二キャリアフィルム52が、ランダムマット30を挟んで、樹脂ペースト40が塗布された面同士が向かい合うように貼り合わされることにより、ラミネート60が形成される。
【0043】
ラミネート60を含浸機3で加圧することによって、ランダムマット30が樹脂ペースト40で含浸されて含浸ランダムマットとなる。含浸ランダムマットはボビンに巻き取られる。ボビンに巻き取る代わりに、含浸ランダムマットを折り重ねてコンテナに収納してもよい。
含浸ランダムマットに含まれる樹脂ペースト40が、配合された増粘剤の働きで増粘することにより、シートモールディングコンパウンドが完成する。
【0044】
以上に述べたシートモールディングコンパウンドの製造方法において、実施形態に係る硬化剤マスターバッチは、樹脂ペースト40を調製するときに使用される。
樹脂ペースト40の調製においては、主剤としての液状エポキシ樹脂に、硬化剤マスターバッチと増粘剤が配合され、更に任意成分が配合され得る。
【0045】
主剤として用いられる液状エポキシ樹脂は、25℃において15Pa・s以下の粘度を有することが好ましい。
液状エポキシ樹脂の好適例には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびこれらの混合物を含む、ビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
液状エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂と、任意の他のエポキシ樹脂との混合物であってもよい。他のエポキシ樹脂の例には、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アミノフェノールとエピハロヒドリンの反応物および脂肪族アルコールとエピハロヒドリンの反応物が含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
増粘剤の好適例には、ポリイソシアネート、カルボン酸無水物およびアミンが含まれる。
ポリイソシアネートの好適例には、ビス(4-イソシアナトフェニル)メタンやトルエンジイソシアネートのような、分子構造中に芳香族環を有するジイソシアネートが含まれる。
ポリイソシアネートは、ポリオールと共に液状エポキシ樹脂に配合してもよい。ポリオールの例には、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、イソソルビド、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールが含まれる。
【0047】
カルボン酸無水物の好適例には、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸およびテトラヒドロ
メチル無水フタル酸が含まれる。
アミンの好適例には、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン
および1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが含まれる。
【0048】
任意成分の例には、酸化防止剤、内部離型剤、低収縮剤、着色剤および難燃剤の他、ゴム、エラストマーまたは熱可塑性樹脂からなる改質剤が含まれる。
難燃剤の好適例は、非ハロゲン系難燃剤である。非ハロゲン化難燃剤の例には、赤リンのような無機リン系難燃剤、リン酸エステル、有機リン酸塩、有機ホスホン酸塩および有機ホスフィン酸塩のような有機リン系難燃剤、トリアジン化合物、シアヌル酸化合物およびイソシアヌル酸化合物のような窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物および金属酸化物のような無機系難燃剤、フェロセンおよびアセチルアセトン金属錯体のような有機金属塩系難燃剤が挙げられる。
【0049】
樹脂ペースト40を調製するときは、増粘剤以外の全ての成分を混合した一次ペーストを調製した後、使用直前に一次ペーストに増粘剤を混ぜ合わせる。
一次ペーストを調製するとき、主剤として配合される液状エポキシ樹脂の温度は、通常、18~26℃に調整される。この温度は、SMC製造装置が設置される作業場の工場の好ましい温度である。
液状エポキシ樹脂に混合されることにより硬化剤マスターバッチは融解して液状となる。
【0050】
融解した硬化剤マスターバッチと液状エポキシ樹脂は、粘度が互いに近い方が混ざり易い。従って、25℃において、融解した硬化剤マスターバッチの粘度は、液状エポキシ樹脂の粘度の1~10倍であることが好ましく、1~7倍であることがより好ましく、1~4倍であることが更に好ましい。
主剤として用いられる液状エポキシ樹脂の粘度は25℃において典型的には10Pa・s前後であるから、融解した硬化剤マスターバッチの粘度は、25℃において、好ましくは10Pa・s~40Pa・sである。
【0051】
4.実施形態のまとめ
本発明の好ましい実施形態には以下が含まれるが、限定するものではない。
[実施形態1]エポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有する固体状の樹脂組成物であって;加温すると15℃未満の温度で液状となる、硬化剤マスターバッチ。
[実施形態2]粗粉状、粒状またはフレーク状である、実施形態1に係る硬化剤マスターバッチ。
[実施形態3]粒状であり、各粒が決まった形状を有する、実施形態1に係る硬化剤マスターバッチ。
[実施形態4]前記各粒の体積が1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである、実施形態3に係る硬化剤マスターバッチ。
[実施形態5]板状であり、その厚さが1~10mmであってもよい、実施形態1に係る硬化剤マスターバッチ。
[実施形態6]割溝を有する、実施形態5に係る硬化剤マスターバッチ。
[実施形態7]前記エポキシ硬化剤が潜在性エポキシ硬化剤である、実施形態1~6のいずれかに係る硬化剤マスターバッチ。
[実施形態8]融解したときの粘度が25℃において10~40Pa・sである、実施形態1~7のいずれかに係る硬化剤マスターバッチ。
【0052】
[実施形態9]硬化剤マスターバッチを製造する方法であって;エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと;前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと;を含む、方法。
[実施形態10]各粒が決まった形状を持つ、粒状の硬化剤マスターバッチを製造する方法であって;エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと;同じ形状の窪みを複数並べた容器を用いて前記液状樹脂組成物を冷却して凝固させることと;を含む、方法。
[実施形態11]前記各粒の体積が1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである、実施形態10に係る方法。
[実施形態12]板状の硬化剤マスターバッチを製造する方法であって;エポキシ化合物とエポキシ硬化剤とを含有し15℃未満の温度で凝固する液状樹脂組成物を調製することと、液状樹脂組成物を一定の間隔で離間させた2枚の板の間に満たした状態で冷却し凝固させることと;を含む、方法。
[実施形態13]前記2枚の板の少なくとも一方の表面にリッジパターンを設けることによって、前記リッジパターンと同じパターンの割溝を前記板状の硬化剤マスターバッチに形成する、実施形態12に係る方法。
[実施形態14]25℃において粘度が10Pa・s以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いて前記液状樹脂組成物を調製する、実施形態9~13のいずれかに係る方法。
[実施形態15]前記液状樹脂組成物のガラス転移点以下の温度に冷却することにより前記液状樹脂組成物を凝固させる、実施形態9~14のいずれかに係る方法。
【0053】
[実施形態16]シートモールディングコンパウンドを製造する方法であって;液状エポキシ樹脂に少なくとも硬化剤マスターバッチおよび増粘剤を配合して樹脂ペーストを調製することと;前記樹脂ペーストでチョップド繊維束を含浸させることと;を含み;前記硬化剤マスターバッチはエポキシ化合物およびエポキシ硬化剤を含有し、加温すると15℃未満の温度で液状となる固体状の樹脂組成物である、方法。
[実施形態17]前記硬化剤マスターバッチが粗粉状、粒状またはフレーク状である、実施形態16に係る方法。
[実施形態18]前記硬化剤マスターバッチが粒状であり、各粒が決まった形状を有する、実施形態16に係る方法。
[実施形態19]前記各粒の体積が1~100cmであり、好ましくは1~50cmであり、より好ましくは1~10cmである、実施形態18に係る方法。
[実施形態20]前記硬化剤マスターバッチが板状である、実施形態16に係る方法。
[実施形態21]前記液状エポキシ樹脂の温度が18~26℃である、実施形態16~20のいずれかに係る方法。
[実施形態22]前記配合の前に前記硬化剤マスターバッチを秤量することを含む、実施形態16~21のいずれかに係る方法。
[実施形態23]前記秤量の時点において前記硬化剤マスターバッチの温度が前記樹脂組成物のガラス転移点以下である、実施形態22に係る方法。
【0054】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
実施形態に係る硬化剤マスターバッチを用いて製造されるシートモールディングコンパウンドは、例えば、自動車、船舶、鉄道車両、有人航空機および無人航空機を含む各種の輸送機器に用いられるFRP部品の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 チョッパー
2a 第一塗工機
2b 第二塗工機
3 含浸機
10 連続繊維束
20 短尺繊維束
30 ランダムマット
40 樹脂ペースト
51 第一キャリアフィルム
52 第二キャリアフィルム
60 ラミネート
図1