(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064082
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240507BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240507BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/013
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172413
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松浦 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】山澤 朋也
(72)【発明者】
【氏名】小川 英晃
(72)【発明者】
【氏名】星野 琢也
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4J002CD031
4J002CD051
4J002CD131
4J002DJ016
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002GQ00
4M109AA01
4M109EA03
4M109EB02
4M109EB03
4M109EB04
4M109EB06
4M109EB07
4M109EB08
4M109EB12
4M109EB13
4M109EB17
(57)【要約】
【課題】電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制すること。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)フィラーとを、含み、前記(C)フィラーは、大径粒子と前記大径粒子の表面に付着する小径粒子とを有する(C1)複合フィラーを含む、エポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤および硬化促進剤からなる群より選択される少なくとも1種の成分と、
(C)フィラーとを、含み、
前記(C)フィラーは、大径粒子と前記大径粒子の表面に付着する小径粒子とを有する(C1)複合フィラーを含む、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着体積比率が0.05%~10.0%である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着体積比率が0.1%~5.0%である、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着面積比率が1%~100%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着個数が80000個以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子の粒径に対する前記小径粒子の粒径の粒径比率が0.1%~50.0%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C1)複合フィラーを構成する前記小径粒子の平均粒径が0.005μm~0.12μmである、請求項1~6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記(C1)複合フィラーを構成する前記大径粒子の平均粒径が0.2μm~3.0μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記(C1)複合フィラーの含有率が35質量%~70質量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
前記(A)エポキシ樹脂が液状のエポキシ樹脂を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、および、ナフタレン型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~10のいずれか1項記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
硬化物が半導体装置の封止材として使用される、請求項1~11のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
基板と、
前記基板上に配置された半導体素子と、
前記半導体素子と前記基板との間の空隙を封止している請求項1~12のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、
を備える半導体装置。
【請求項14】
基板と、前記基板上に配置されている半導体素子との間の空隙を請求項1~請求項12のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物で充填する工程と、
前記エポキシ樹脂組成物を硬化する工程と、
を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、半導体装置および半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子を基板に実装する技術として、フリップチップ実装が知られている。フリップチップ実装は、表面にバンプと呼ばれる突起状電極(素子側電極)が形成された半導体素子を用いて、半導体素子の素子側電極と配線基板などの基板の表面に設けられた電極(基板側電極)とを直接接続する実装方法である。また、フリップチップ実装においては、半導体素子、半導体素子に接続された基板およびバンプを保護するため、アンダーフィルを半導体素子と基板との間に充填した後、加熱硬化させる。
【0003】
このアンダーフィルとしては、エポキシ樹脂を主成分として含むエポキシ樹脂組成物が主に用いられる(たとえば、特許文献1参照)。一方、エポキシ樹脂、半導体素子、および、基板は、各々異なる線膨張係数を有する。このため、温度変化に伴い、素子側電極と基板側電極との電極接続部で発生する応力を、当該電極接続部を覆う封止材(アンダーフィルの硬化物)により吸収できないと、当該接続部にクラックが生じることがある。このクラックの発生を抑制するため、アンダーフィルには、エポキシ樹脂の他に、通常、線膨張係数の比較的小さいシリカやアルミナなどからなるフィラーも配合される。
【0004】
一方、近年のフリップチップ実装においては狭ピッチ化などの観点から、電極を構成する部材として、バンプの代わりに、銅ピラーなどの金属製ピラーが用いられるようになってきている。そして、このようなフリップチップ実装においては、接続部を覆うように充填されたアンダーフィルを加熱硬化させる過程で、アンダーフィル中に均一に分散しているフィラーの分離・凝集が進行して、そのまま硬化してしまう場合があることが知られている。そして、このような現象が生じた場合において、電極接続部を覆う封止材(アンダーフィルの硬化物)中に分散しているフィラーが、電極接続部の接続界面に対して半導体素子側あるいは基板側に偏った状態で分布してしまうと、接続信頼性が低下しまう。また、このようなフィラーの分離・凝集や、フィラー分布の偏りは、素子側電極接続面を構成する材料と基板側電極接続面を構成する材料とが異なることに起因して発生する電位差により、電極接続部を囲うように充填されたアンダーフィル中のフィラーが電気泳動するためだと推定されている。このため、封止材中のフィラー分布の偏りを抑制するのに適したエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。このエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂および硬化剤に加えて、平均粒径10nm~100nmの第一のシリカフィラーを0.1~10質量%と、平均粒径0.3μm~2μmの第二のシリカフィラーを47~75質量%と、エラストマーを0.1~8質量%とを含み、第一のシリカフィラーおよび第二のシリカフィラーを合計で50.1~77質量%含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-145290号公報
【特許文献2】国際公開第2015/079708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2記載の技術は、接続信頼性を改善する上では有用な技術である。しかしながら、特許文献2記載の技術では、接続信頼性を改善するために所定の粒径を有する2種類のシリカフィラーとエラストマーとを所定量用いる必要があり、この点で、エポキシ樹脂組成物の組成設計に一定の制約がある。したがって、特許文献2記載の技術と同様に、接続信頼性を改善しつつも、その他の様々なニーズへの対応もさらに容易とすべく、組成設計の選択肢を広げることが求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制できる新規な組成を有するエポキシ樹脂組成物、これを用いて作製された半導体装置、および、当該半導体装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤および硬化促進剤からなる群より選択される少なくとも1種の成分と、(C)フィラーとを、含み、前記(C)フィラーは、大径粒子と前記大径粒子の表面に付着する小径粒子とを有する(C1)複合フィラーを含む。
【0009】
本発明のエポキシ樹脂組成物の一実施形態は、前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着体積比率が0.05%~10.0%であることが好ましい。
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着体積比率が0.1%~5.0%であることが好ましい。
【0011】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着面積比率が1%~100%であることが好ましい。
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子に対する前記小径粒子の付着個数が80000個以下であることが好ましい。
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(C1)複合フィラーにおいて、前記大径粒子の粒径に対する前記小径粒子の粒径の粒径比率が0.1%~50.0%であることが好ましい。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(C1)複合フィラーを構成する前記小径粒子の平均粒径が0.005μm~0.12μmであることが好ましい。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(C1)複合フィラーを構成する前記大径粒子の平均粒径が0.2μm~3.0μmであることが好ましい。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(C1)複合フィラーの含有率が35質量%~70質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(A)エポキシ樹脂が液状のエポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、および、ナフタレン型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物の他の実施形態は、硬化物が半導体装置の封止材として使用されることが好ましい。
【0020】
本発明の半導体装置は、基板と、前記基板上に配置された半導体素子と、前記半導体素子と前記基板との間の空隙を封止している本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、を備える。
【0021】
本発明の半導体装置の製造方法は、基板と、前記基板上に配置されている半導体素子との間の空隙を本発明のエポキシ樹脂組成物で充填する工程と、前記エポキシ樹脂組成物を硬化する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制できる新規な組成を有するエポキシ樹脂組成物、これを用いて作製された半導体装置、および、当該半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】半導体装置の断面構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤および硬化促進剤からなる群より選択される少なくとも1種の成分と、(C)フィラーとを、含み、(C)フィラーは、大径粒子と大径粒子の表面に付着する小径粒子とを有する(C1)複合フィラーを含む。よって、フリップチップ実装時に、エポキシ樹脂組成物を半導体素子等の電子素子と基板との間に充填した後、加熱硬化させる場合において、エポキシ樹脂組成物として本実施形態のエポキシ樹脂組成物を用いれば、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制できる。このため、接続信頼性の高い半導体装置やその他の電子装置を得ることが容易である。このような効果が得られる理由の詳細は不明であるが、本発明者らは以下の通りであると推定している。
【0025】
まず、素子側電極接続面を構成する金属材料と基板側電極接続面を構成する金属材料とが互いに異なる素子側電極と基板側電極との電極接続部の接続界面やその近傍では電位差が生じる。このため、イオン性化合物を用いない従来のエポキシ樹脂組成物では、電極接続部の周囲に充填されたエポキシ樹脂組成物に含まれる帯電した大径粒子から構成されるフィラー(大径フィラー)が、電気泳動により半導体素子側あるいは基板側のいずれかに移動し易い。このため、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散している大径フィラーの分布の偏りが生じやすくなると考えられる。
【0026】
しかしながら、本実施形態のエポキシ樹脂組成物では、フィラーとして、大径フィラーを構成する個々の大径粒子の表面に小径粒子が付着した複合フィラーを用いる。そして、このような複合フィラーにおいては、大径粒子の表面に付着している小径粒子が、大径粒子の帯電状態に何某かの影響・変化を与えることで、複合フィラー全体としては、電極接続部の接続界面やその近傍では電位差の影響を受け難くなり、半導体素子側あるいは基板側のいずれにも移動し難くなる。このため、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制できるものと考えられる。
【0027】
なお、上述したように、電極部材として金属製ピラーを用いたフリップチップ実装においては、エポキシ樹脂組成物中に含まれるフィラーの分離・凝集や、封止材中のフィラー分布が偏る現象が生じることが知られている。それゆえ、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、特に電極部材として金属製ピラーを用いたフリップチップ実装により半導体装置を製造する際に利用するアンダーフィルとして用いることが特に好適である。しかしながら、従来の一般的なエポキシ樹脂組成物を用いて半導体装置などの各種の電子装置を製造する際に上記と実質同様の現象が生じる場合であれば、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、金属製ピラーを用いたフリップチップ実装以外の実装方法で製造される半導体装置や、半導体装置以外の各種の電子装置の製造に際しても勿論用いることができる。次に、本実施形態のエポキシ樹脂組成物を構成する各成分の詳細を以下に説明する。
【0028】
(A)エポキシ樹脂
本実施形態のエポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、一般的に半導体封止用として使用される各種のエポキシ樹脂であれば特に限定されないが、粘度や注入性の観点からは液状のエポキシ樹脂を用いることが好適である。また、エポキシ樹脂組成物に配合されるエポキシ樹脂としては、1種類のエポキシ樹脂のみを用いてもよく、2種以上のエポキシ樹脂を併用してもよい。エポキシ樹脂(1分子)に含まれるエポキシ基の数は1個以上であればよいが、通常は、2個以上であることが好ましい。なお、エポキシ基の数の上限値は特に限定されないが、通常は、5個以下であることが好ましい。
【0029】
エポキシ樹脂の具体例としては、代表的には脂肪族エポキシ樹脂および芳香族エポキシ樹脂が挙げられるが、芳香族エポキシ樹脂が好ましい。芳香族エポキシ樹脂の例としては、p-グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;ノボラック型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂;p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、1,4-フェニルジメタノールジグリシジルエーテルのようなジエポキシ樹脂;3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンのようなアミノフェノール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;及び植物由来の骨格を有するエポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
これらの中でも、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、および、ナフタレン型エポキシ樹脂が好適である。
【0031】
(B)硬化剤および硬化促進剤
本実施形態のエポキシ樹脂組成物に用いられる硬化剤および硬化促進剤は、一般的に使用される各種硬化剤および硬化促進剤であればよく、特に限定されない。(B)成分としては硬化剤のみを用いてもよく、硬化促進剤のみを用いてもよく、両者を組み合わせて用いてもよい。(B)成分として、少なくとも硬化剤を用いる場合において、硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との化学量論上の当量比(硬化剤当量/エポキシ基当量)が0.6~1.5となる量であることが好ましく、0.7~1.2となる量がより好ましい。
【0032】
硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤などが挙げられる。また、エポキシ樹脂組成物に配合される硬化剤としては、1種類の硬化剤のみを用いてもよく、2種以上の硬化剤を併用してもよい。
【0033】
アミン系硬化剤の具体例としては、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミン、N-アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノ-2-メチルプロピル)ピペラジンなどのピペラジン型のポリアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートなどの芳香族ポリアミン類が挙げられる。また、市販品として、エピキュア-W、エピキュア-Z(油化シェルエポキシ株式会社、商品名)、jERキュア(登録商標)-W、jERキュア(登録商標)-Z(三菱ケミカル株式会社、商品名)、カヤハードA-A、カヤハードA-B、カヤハードA-S(日本化薬株式会社、商品名)、トートアミンHM-205(新日鉄住金化学株式会社、商品名)、アデカハードナーEH-101(株式会社ADEKA、商品名)、エポミックQ-640、エポミックQ-643(三井化学株式会社、商品名)、DETDA80(Lonza社、商品名)、トートアミンHM-205(新日鉄住金化学株式会社、商品名)等が挙げられる。
【0034】
酸無水物系硬化剤の具体例としては、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物等のアルキル化テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、アルケニル基で置換されたコハク酸無水物、メチルナジック酸無水物、グルタル酸無水物等が例示される。
【0035】
フェノール系硬化剤の具体例としては、フェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を指し、例えば、フェノールノボラック樹脂およびそのアルキル化物またはアリル化物、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0036】
また、硬化促進剤としては、たとえば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。市販品としては、四国化成製2-フェニル-4-メチルイミダゾール(品名:2P4MZ)、四国化成製2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン(品名:2MZA)が挙げられる。硬化促進剤は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0037】
硬化促進剤の配合量は特に限定されないが、エポキシ樹脂100質量部に対して0.001~20質量部が好ましく、0.05~10質量部がより好ましい。
【0038】
(C)フィラー
本実施形態のエポキシ樹脂組成物では、(C)フィラーとして、少なくとも(C1)複合フィラーを用いる。この複合フィラーは、大径粒子と大径粒子の表面に付着する小径粒子とを有するものである。すなわち、複合フィラーは2種類の粒径の異なる粒子を複合化した粒子から構成されるフィラーである。
【0039】
このような複合フィラーは、エポキシ樹脂組成物の調製時に、エポキシ樹脂等のその他の成分と共に、小径粒子から構成される小径フィラーと、大径粒子から構成される大径フィラーとを、単純に混合攪拌しただけでは得ることができないものである。複合フィラーは、エポキシ樹脂組成物の調製前に、大径粒子の表面に小径粒子を付着させて複合化する処理を行うことで製造される。このような複合化処理の方法としては、特に制限されないが、小径フィラーと大径フィラーとを混合攪拌する方法が挙げられる。混合攪拌の方法としては特に制限されないが、たとえば、(1)小径フィラーと大径フィラーとを直接混合攪拌する方法、(2)適当な溶媒中に小径フィラーと大径フィラーとを分散混合させた懸濁液を調整した後、この懸濁液から溶媒を揮発させて乾燥物を得、さらにこの乾燥物を粉砕する方法、あるいは、(3)湿式法や爆燃法によりフィラーを造粒する際に、大径粒子を造粒した後に、小径粒子を造粒すると共に大径粒子表面に付着させる方法などが挙げられる。なお、複合フィラーの製造過程において、複合フィラーと小径フィラーとの混合物が得られる場合、この混合物を分級処理して、複合フィラーのみを分離して取り出すことが好ましい。
【0040】
なお、上記(1)および(2)に示す方法においては、予めシランカップリング剤等の表面処理剤によって表面処理された大径フィラーや小径フィラーを用いることもできる。表面処理剤を用いることにより、複合フィラーを調製する過程において、粒子同士が凝集するのを抑制したり、大径粒子の表面に対する小径粒子の付着性を向上させることが容易となる。また、表面処理された小径フィラーを用いた場合、小径粒子の凝集を抑制しつつ、大径粒子の表面に小径粒子を付着させることも容易となる。さらに、同様の観点から上記(3)に示す方法においても、製造過程において適宜のタイミングで、表面処理剤を使用してもよい。なお、表面処理剤としては、従来のフィラーの表面処理に用いられる表面処理剤であれば特に制限なく用いることができ、たとえば、メタクリル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤などの各種のシランカップリング剤を用いることができる。
【0041】
なお、本願明細書において、「複合フィラー」とは、この複合フィラーを構成する2種類の粒子の粒径比率(100×大径粒子に付着している小径粒子の平均粒径/大径粒子の平均粒径)が50%以下であるものを意味する。しかしながら、実用上、粒径比率は、0.1%~50%であることが好ましく、0.2%~20%であることがより好ましく、0.4%~12%であることがさらに好ましい。また、複合フィラーを構成する大径粒子の平均粒径としては0.1μm~10.0μmであることが好ましく、0.2μm~5.0μmであることがより好ましく、0.2μm~3.0μmであることがさらに好ましい。一方、複合フィラーを構成する小径粒子の平均粒径としては、粒径比率が50%以下であることを前提として、0.005μm~0.5μmであることが好ましく、0.005μm~0.12μmであることがより好ましく、0.01μm~0.1μmであることがさらに好ましい。ここで、複合フィラーを構成する大径粒子の平均粒径D1(μm)は、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)により観察された10個の大径粒子の粒径の平均値を意味する。また、複合粒子を構成する小径粒子の平均粒径D2(μm)は、平均粒径の測定対象とした各々の大径粒子の表面に付着している5個の小径粒子の粒径の平均値(すなわち、合計で10個×5個=50個の粒径の平均値)を意味する。
【0042】
また、複合フィラーにおいては、大径粒子の表面に少なくとも1個以上の小径粒子が付着している限り、その付着形態は特に限定されない。しかしながら、付着形態としては以下に説明する形態が好ましい。
【0043】
すなわち、大径粒子に対する小径粒子の付着面積比率Rsは、1%~100%であることが好ましく、2.5%~100%であることがより好ましい。また、大径粒子に対する小径粒子の付着個数Pが80000個以下であることが好ましく、50000個以下であることがより好ましい。また、付着個数の下限値としては1個以上であればよいが、実用上は、5個以上が好ましく、10個以上がより好ましい。さらに、大径粒子に対する小径粒子の付着体積比率Rvは、0.05%~10.0%であることが好ましく、0.1%~5.0%であることがより好ましい。
【0044】
ここで、付着面積比率Rsは以下の手順により求めることができる。まず、走査型電子顕微鏡により、複合フィラーに含まれる10個の大径粒子についてSEM画像を取得する。次に、このSEM画像を画像解析ソフトウェア(WinROOF2018、三谷商事株式会社製)を用いて補正処理や二値化処理を行うことで、解析画像を得る。そしてこの解析画像において、大径粒子とその表面に付着する小径粒子とを手動で選択し、大径粒子および小径粒子の面積を計算し、大径粒子の面積を100%とした場合の大径粒子表面に付着する全ての小径粒子の面積割合(%)を求める。この測定を10個の大径粒子について実施し、得られた値の平均値を付着面積比率Rsとして求める。
【0045】
また、付着個数Pは、以下の手順により求めることができる。まず、付着面積比率Rsおよびその計算に用いたSEM画像から、下式(1)~下式(3)に示すように個々の大径粒子の平均面積s(LP)[μm2]、個々の小径粒子の平均面積s(SP)[μm2]、および、1個の大径粒子の表面(但し、SEM画像の観察面側)に付着する全ての小径粒子の総面積St(SP)[μm2]を計算する。
・式(1) s(LP)=π×(大径粒子LPの平均粒径D1/2)2
・式(2) s(SP)=π×(小径粒子SPの平均粒径D2/2)2
・式(3) St(SP)=s(LP)×Rs/100
【0046】
そして、下式(4)に基づいて、付着個数P[個]を計算する。
・式(4) P=2×St(SP)/s(SP)
なお、式(4)中の右辺に示す定数「2」は、SEM画像に写る複合フィラーの観察面(表面)と反対側の裏面(観察できない面)にも表面と同数の小径粒子が、大径粒子の表面に付着していると仮定した数値である。
【0047】
また、付着体積比率Rvは、以下の手順により求めることができる。
まず、付着面積比率Rsの計算に用いたSEM画像および式(4)に基づき求めた付着個数Pから、下式(5)~下式(7)に示すように個々の大径粒子の平均体積v(LP)[μm3]、個々の小径粒子の平均体積v(SP)[μm3]、および、1個の大径粒子の表面に付着する全ての小径粒子の総体積Vt(SP)[μm3]を計算する。
・式(5) v(LP)=(4/3)×π×(大径粒子LPの平均粒径D1/2)3
・式(6) v(SP)=(4/3)×π×(小径粒子SPの平均粒径D2/2)3
・式(7) Vt(SP)=v(SP)×P
【0048】
そして、下式(8)に基づいて、付着体積比率Rv[%]を計算する。
・式(8) Rv=100×Vt(SP)/v(LP)
【0049】
複合フィラーを構成する大径粒子の材質は、シリカやアルミナなど、従来公知の無機フィラーを構成する材料と同様のものが利用できる。一方、小径フィラーの材質としては、シリカやアルミナなど、従来公知の無機フィラーを構成する材料の他に、従来公知の有機フィラーを構成する材料も利用できる。
【0050】
エポキシ樹脂組成物中に含まれる複合フィラーの含有率は特に限定されるものではないが、硬化物の熱膨張係数やエポキシ樹脂組成物の粘性・注入性の観点からは、30質量%~80質量%であることが好ましく、35質量%~70質量%であることがより好ましく、50質量%~70質量%がさらに好ましい。
【0051】
なお、エポキシ樹脂組成物に配合する(C)フィラーとしては、(C1)複合フィラーのみを用いてもよいが、(C1)複合フィラーと、(C2)その他のフィラーとを組み合わせて用いることもできる。ここで、その他のフィラーとは、複合フィラーのように大径粒子の表面に小径粒子が付着した構造を有さない従来公知のフィラーであれば、エポキシ樹脂組成物に用いられている一般的なフィラーが特に制限なく利用できる。
【0052】
また、複合フィラーとその他のフィラーとを組み合わせて用いる場合、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制する観点から、フィラー全量に対する複合フィラーの割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、エポキシ樹脂組成物中に含まれるフィラーの含有率は、硬化物の熱膨張係数やエポキシ樹脂組成物の粘性・注入性の観点からは、30質量%~80質量%であることが好ましく、35質量%~70質量%であることがより好ましく、50質量%~70質量%がさらに好ましい。
【0053】
(D)その他の成分
本実施形態のエポキシ樹脂組成物には、(A)~(C)成分以外に、必要に応じて各種の添加剤をさらに配合してもよい。添加剤としては特に限定されるものではないが、たとえば、コアシェル型ゴム粒子、シランカップリング剤、粘度抑制剤、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、難燃剤、着色剤、反応性希釈剤などが挙げられ、これら添加剤の種類、配合量は常法通りである。以下にいくつかの添加剤の詳細について説明する。
【0054】
添加剤として使用するコアシェル型ゴム粒子は、エポキシ樹脂組成物に注入性を付与し、硬化後のエポキシ樹脂組成物の剥離やマイグレーションを抑制する。マスターバッチ処理されるコアシェル構造を持つゴム粒子としては、コア:ポリブタジエンでありシェル:アクリル共重合体の組合せからなるゴム粒子、あるいは、コア:シリコーン樹脂でありシェル:アクリル共重合体等の組合せからなるゴム粒子が挙げられるが、これらの中でもエポキシ樹脂組成物の使用温度領域内で低い弾性率により、エポキシ樹脂組成物の収縮応力を低下できるため、コア:ポリブタジエンでシェル:アクリル共重合体の組合せからなるゴム粒子が、好ましい。コアシェル構造を持つゴム粒子へのマスターバッチ処理は、エポキシ樹脂、酸無水物等の硬化剤で行うことができ、保存安定性、湿度に対する悪影響の有無の観点からエポキシ樹脂、特にビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられ、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が、より好ましい。
【0055】
添加剤として使用するシランカップリング剤は、エポキシ樹脂組成物と、半導体素子や基板との間の密着性を付与する。市販品としては、例えば、Z-6610、Z-6011、Z-6020、Z-6094、Z-6883、Z-6032、Z-6040、Z-6044、Z-6043、Z-6075、Z-6300、Z-6519、Z-6825、Z-6030、Z-6033、Z-6062、Z-6862、Z-6911、Z-6026、AZ-720、Z-6050(いずれも東レ・ダウコーニング社製)、KBM-303、KBM-402、KBM-403、KBE-402、KBE-403、KBM-1403、KBM-502、KBM-503、KBE-502、KBE-503、KBM-5103、KBM-602、KBM-603、KBE-603、KBM-903、KBE-903、KBE-9103、KBM-573、KBM-575、KBE-585、KBM-1003、KBE-1003、KBM-802、KBM-803、KBE-846、KBE-9007、X-41-1053、X-41-1056、X-41-1059A、X-41-1805、X-41-1808、X-41-1810、KR-513、X-40-2672B、X-40-9272B、X-40-2651等(いずれも信越化学工業社製)等が挙げられる。なお、上記シランカップリング剤は、単独で使用されてもよいし、2種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0056】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも(A)~(C)成分を混合攪拌して調製することができ、この際、必要に応じてさらに(D)成分も配合することもできる。混合攪拌の方法としては特に限定されず、ロールミルなどの公知の混合攪拌方法を利用できる。また、原料として用いる(A)エポキシ樹脂が固形状の場合は、他の成分と混合する前に加熱処理などを行うことによって液状化してから混合することが好ましい。また、エポキシ樹脂組成物の調製に際しては、原料となる全成分を一度に混合してもよく、原料となる全成分のうちから選択された一部の成分を混合した一次混合物を調製し、一次混合物に対して残りの成分を混合してもよい。
【0057】
<エポキシ樹脂組成物の用途、半導体装置およびその製造方法>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、半導体装置等の各種の電子装置の封止材として利用することができるが、特に、封止材により囲われた電極接続部を備え、電極接続部の接続界面の一方側の電極接続面を構成する第一の金属材料と、他方側の電極接続面を構成する第二の金属材料とが異なる半導体装置等の各種の電子装置の封止材として利用することが好適である。ここで、第一の金属材料と、第二の金属材料との組み合わせとしては、両者を接続した際に電位差が生じる組合せであれば特に限定されないが、(a)銅、銅合金、銀、銀合金、金および金合金からなる群より選択される第一の金属材料と、錫および錫合金からなる群より選択される第二の金属材料との組み合わせや、(b)(a)の組合せと同程度前後あるいはそれ以上の電位差が生じる金属材料同士の組合せが好適である。このような電極接続部を備えた電子装置の製造に際して、本実施形態のエポキシ樹脂組成物を用いて樹脂封止を行った場合、電極接続部を覆う封止材(硬化物)中に分散しているフィラーの分布の偏りを抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の半導体装置は、基板と、基板上に配置された半導体素子と、半導体素子と基板との間の空隙を封止している封止材(本実施形態のエポキシ樹脂組成物の硬化物)とを備えるものであればよい。なお、この半導体装置は、半導体素子に設けられた素子側電極の電極接続面と、基板に設けられた基板側電極の電極接続面とが接続された電極接続部を備えており、封止材は、この電極接続部も囲うように配置される。本実施形態の半導体装置においては、素子側電極の電極接続面を構成する素子側金属材料と、基板に設けられた基板側電極の電極接続面を構成する基板側金属材料とは互いに異なることが特に好ましく、両者の好適な組合せは、上述した第一の金属材料と第二の金属材料との好適な組合せと同様である。素子側電極および基板側電極は、たとえば、半田バンプや金属ピラーなどで構成することができるが、素子側電極は銅ピラーなどの金属ピラーにより構成されていることが好ましい。
【0059】
本実施形態の半導体装置は、基板と、基板上に配置されている半導体素子との間の空隙を本実施形態のエポキシ樹脂組成物で充填する工程(充填工程)と、空隙に充填されたエポキシ樹脂組成物を硬化する工程(硬化工程)と、を少なくとも経ることにより製造される。なお、通常、充填工程に先立ち、半導体素子の素子側電極が設けられた面と、基板の基板側電極が設けられた面とを対向させた状態で、素子側電極の電極接続面と基板側電極の電極接続面とを接続して電極接続部を形成する工程(接続工程)が実施される。したがって、充填工程においては、電極接続部の周囲も囲うようにエポキシ樹脂組成物が充填され、電極接続部の周囲を囲うエポキシ樹脂組成物は、硬化工程において硬化する(硬化物(封止材)となる)。
【0060】
図1は、半導体装置の断面構造の一例を示す断面図であり、具体的には、電極接続部近傍の断面構造について走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で撮像したSEM画像について示したものである。
図1に示すように、基板側電極10と、基板側電極10に接続された素子側電極20とから構成される電極接続部30の近傍には、電極接続部30を囲うように、充填工程において充填されたエポキシ樹脂組成物の硬化物である封止材40が配置されている(図中では、左右1対の電極接続部30の間に封止材40が位置している)。また、
図1に示す例では、基板側電極10は錫を主成分として含む錫合金からなるハンダバンプから構成されており、素子側電極20は銅ピラーから構成されているため、両電極10、20を接続した場合には電位差が生じる。また、
図1に示されるように、封止材40は、フィラー(図中の封止材40のうち相対的に白い部分)と、フィラー以外の部分である樹脂マトリックス(図中の封止材40のうち相対的に黒い部分)とから構成される。なお、封止材40中のフィラーと樹脂マトリックスとは、SEM画像中の封止材40に対応する領域を指定して画像処理ソフトウエアによる画像処理によって区別することができる。このような画像処理は、指定された封止材40に対応する領域の輝度分布の中央値を基準として二値化処理することにより実施する。
【0061】
一方、電極接続部30には、基板側電極10の電極接続面と素子側電極20の電極接続面との接続界面Lが形成されている。ここで、封止材40に対応する領域は、接続界面Lを延長した延長線を基準にして、半導体素子側の領域Raと、基板側の領域Rbとに分割することができる。この場合、電極接続部30を覆う封止材40中に分散しているフィラーの分布の偏りの度合いは、下式(9)に示すフィラー分布指数により定量的に評価することができる。
・式(9) フィラー分布指数=100×a/b
【0062】
ここで、式(9)において、aは、領域Ra内におけるフィラーの占有率であり、bは、領域Rb内におけるフィラーの占有率である。また、占有率は、
図1に例示したような二値化処理して得られたSEM画像に基づき算出される値である。なお、フィラー分布指数を算出するための一連の画像処理には、アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)のImageJを用いた。
【0063】
フィラー分布指数が100である場合、封止材40中に分散しているフィラーが最も均一に分布している(分布の偏りが極小である)ことを意味する。一方、フィラー分布指数が100から離れる程、封止材40中に分散しているフィラーの分布の偏りの度合いが大きくなることを意味する。また、フィラー分布指数が100よりも小さい場合は、フィラーが領域Rbに偏って分布していることを意味し、100よりも大きい場合は、フィラーが領域Raに偏って分布していることを意味する。領域Raおよび領域Rbの何れの側にフィラーが偏って分布する傾向にあるのかは、基板側電極10の電極接続面を構成する金属材料と、素子側電極20の電極接続面を構成する金属材料との組み合わせに依存する。なお、本実施形態の半導体装置では、フィラー分布指数は、100±60の範囲内であることが好ましく、100±50の範囲内であることがより好ましく、100±40の範囲内であることがさらに好ましい。
【実施例0064】
以下に本発明の具体例を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下に説明する実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
1.エポキシ樹脂組成物の調製に用いた原料成分
各実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物の調製には、下記に列挙する成分を用いた。
【0066】
(A)エポキシ樹脂
a1:YDF8170(ビスフェノールF型、エポキシ当量158g/eq、エポキシ基の数:2個、日鉄ケミカル&マテリアル社製)
a2:EXA-850CRP(ビスフェノールA型、エポキシ当量172g/eq、エポキシ基の数:2個、DIC社製)
a3:HP4032D(ナフタレン型、エポキシ当量140g/eq、エポキシ基の数:2個、DIC社製)
a4:jER630(アミノフェノール型、エポキシ当量98g/eq、エポキシ基の数:3個、三菱ケミカル社製)
a5:YX7400(ビフェニル型、エポキシ当量440g/eq、エポキシ基の数:2個、三菱ケミカル社製)
【0067】
(B)硬化剤および硬化促進剤
b1:HDAA(アミン系硬化剤、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、活性水素当量63.5g/eq、日本化薬社製)
b2:エタキュア100(アミン系硬化剤、ジエチルトリエンジアミン、活性水素当量44.6g/eq、アルベマール社製)
b3:HN5500(酸無水、活性水素当量168g/eq、日立化成株式会社製)
b4:MEH8005(フェノール系硬化剤、活性水素当量135g/eq、明和化成社製)
b5:2P4MZ(2-フェニル-4-メチルイミダゾール、四国化成工業社製)
【0068】
(C)フィラー
(C1)複合フィラー
エポキシ樹脂組成物の調製に使用した複合フィラーは、以下に示すc1-2~c1-13である。なお、これら複合フィラーの調製方法については後述する。
・c1-2(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-3(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-4(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-5(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-6(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-7(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-8(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.05μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-9(大径粒子の平均粒径:0.3μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-10(大径粒子の平均粒径:1.0μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-11(大径粒子の平均粒径:1.0μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-12(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
・c1-13(大径粒子の平均粒径:0.6μm、小径粒子の平均粒径:0.01μm、小径粒子および大径粒子の材質:シリカ)
【0069】
(C2)その他のフィラー
c2-1:シリカフィラー(平均粒径:0.6μm、表面処理無し)
【0070】
(D)その他の成分
d1:MX-137(コアシェル型ブタジエン系ゴム粒子、カネカ社製)
d2:MX―965(コアシェル型シリコーン系ゴム粒子、カネカ社製)
d3:KBM403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、カップリング剤、信越化学工業社製)
d4:CG1400 (ジシアンジアミド、エアプロダクツ アンド ケミカルズ社製)
d5:TPP(トリフェニルホスフィン、粘度抑制剤、北興化学工業社製)
【0071】
2.複合フィラーの調製
表1に示す配合にて大径フィラーと小径フィラーとをミキサーを用いて十分に混合攪拌した。なお、表1に示すように大径フィラーとしては、予めシランカップリング剤で表面処理したフィラーあるいは表面処理無しのフィラーとを用い、小径フィラーとしては予めシランカップリング剤処理したフィラーを用いた。続いて、得られた攪拌混合物を分級処理することで攪拌混合物から小径フィラーを除去することにより得られた分級処理物を、複合フィラーc1-2~c1-13として用いた。なお、分級処理物に含まれる粒子を走査型電子顕微鏡で確認したところ、観察したいずれの粒子も、大径粒子の表面に小径粒子が付着した構造を有していることが確認された。
【0072】
【0073】
3.エポキシ樹脂組成物の調製
(A)~(D)成分が表2~表4に示す配合割合(質量部)となるように、ロールミルを用いて原料を混合攪拌することにより実施例1~26および比較例1のエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0074】
4.評価結果
各実施例のエポキシ樹脂組成物の調製に用いた複合フィラーの諸特性、ならびに、各実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物の粘度、チクソトロピー指数(T.I.)、注入性およびフィラー分布指数について、以下に示す手順にて測定または評価した。結果を表2~表4に示す。
【0075】
4.1 複合フィラーの諸特性
(1)粒径比率
複合フィラーを構成する2種類の粒子の粒径比率(100×大径粒子に付着している小径粒子の平均粒径/大径粒子の平均粒径)は走査型電子顕微鏡を用いて以下の手順により求めた。まず、複合フィラーに含まれる10個の大径粒子の粒径を測定し、その平均粒径を求めた。続いて、測定対象とした大径粒子の各々の表面に付着している5個の小径粒子の粒径を測定し、その平均粒径(すなわち、合計で10×5=50個の小径粒子の粒径の平均値)を求めた。そしてこれら2種類の粒子の平均粒径に基づき粒径比率を算出した。
【0076】
(2)付着面積率Rs
付着面積率Rsは、以下の手順により求めた。まず、走査型電子顕微鏡により、複合フィラーに含まれる10個の大径粒子についてSEM画像を取得した。次に、このSEM画像を画像解析ソフトウェア(WinROOF2018、三谷商事株式会社製)を用いて補正処理や二値化処理を行うことで、解析画像を得た。そしてこの解析画像において、大径粒子とその表面に付着する小径粒子とを手動で選択し、大径粒子および小径粒子の面積を計算し、大径粒子の面積を100%とした場合の大径粒子表面に付着する全ての小径粒子の面積割合(%)を求めた。この際、この測定を10個の大径粒子について実施した。そして、得られた値の平均値を付着面積比率Rsとして求めた。なお、画像解析ソフトウェアの使用に際しては、下記条件に設定して画像解析を実施した。
・キャリブレーション :マニュアルキャリブレーション
・フィルタ :メディアンフィルター 3x3
【0077】
(3)付着個数P
付着個数Pは、既述した式(4)に基づいて算出した。
【0078】
(4)付着体積比率Rv
付着個数Rvは、既述した式(8)に基づいて算出した。
【0079】
4.2 粘度、注入性、チクソトロピー指数(T.I.)およびフィラー分布指数
(1)粘度
粘度は、調製直後のエポキシ樹脂組成物について、ブルックフィールド社製回転粘度計HBDV-1(スピンドルSC4-14使用)用いて、液温25℃、50rpmおよび液温25℃、5rpmの条件にて測定した。
【0080】
(2)チクソトロピー指数(T.I.)
エポキシ樹脂組成物のチクソトロピー指数(T.I.)は、上述した粘度測定において得られた2種類の粘度を用い、50rpmで測定した粘度に対する5rpmで測定した粘度の比率として計算した。
【0081】
(3)注入性
有機基板(FR-4基板)上に、20μmまたは50μmのギャップを設けて、半導体素子の代わりにガラス板を固定した試験片を作製した。次に、この試験片を温度110℃に設定したホットプレート上に設置した状態で、ガラス板の一端側にエポキシ樹脂組成物を塗布することで、有機基板とガラス板との間に形成されたギャップ内にエポキシ樹脂組成物を注入した。この際、エポキシ樹脂組成物が塗布されたガラス板の一端側を0mmとした場合におけるエポキシ樹脂組成物の注入距離が20mmに達するまでの時間を測定した。この手順を2回実施し、2回の測定値の平均値を注入時間(秒)として求めた。
【0082】
(4)フィラー分布指数
エポキシ樹脂組成物を用いてフリップチップ実装により半導体装置を作製した。ここで、半導体装置の作製には、錫を主成分として含む錫合金からなる半田バンプを基板側電極10として備えた基板と、銅ピラーからなる素子側電極20を備えた半導体素子とを用いた。そして、接続工程、充填工程、硬化工程を順次実施することで半導体装置を作製した。なお、硬化工程における硬化条件は、150℃・120分とした。
【0083】
次に、作製したチップサイズ10mm×10mmの半導体装置をスライサー(BUEHLER製、ISOMET 4000)を用いて切断し、切断面を240番、800番、1200番の研磨紙を順次用いて研磨することで、半導体装置中央部の切断面を露出したSEM観察用サンプルを得た。そして、SEM観察用のサンプルの切断面をFE-SEMにより撮像することで、
図1に例示したような電極接続部30近傍を拡大したSEM画像を取得し、このSEM画像に基づき既述した手順により画像処理を行うことで領域Ra内におけるフィラーの占有率aおよび領域Rb内におけるフィラーの占有率bを得た。続いて、これらの値a,bを式(9)に代入してフィラー分布指数を算出した。なお、フィラー分布指数は100±60以内である場合を良好と判断した。
【0084】
【0085】
【0086】