(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064089
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】移動体制御方法及び移動体制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240507BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20240507BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240507BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240507BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240507BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240507BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/06
B60W60/00
G08G1/00 J
G08G1/16 C
G05D1/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172433
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 秀成
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】ラクシンチャラーンサク ポンサトーン
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
5H301
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BA51
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
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3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DB01Z
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3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DC33Z
3D241DC45Z
3D241DC49Z
5H181AA01
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC14
5H181EE11
5H181FF10
5H181LL01
5H181LL04
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5H301AA01
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5H301GG08
5H301GG09
5H301GG14
5H301GG16
5H301JJ01
5H301LL01
5H301LL07
5H301LL11
(57)【要約】
【課題】移動体の走行時の振動を適切に抑制すること。
【解決手段】移動体制御方法は、(a)目標経路を算出することと、(b)移動体に搭載された認識センサによる認識結果に基づいて、目標経路の路面凹凸度を算出することと、(c)路面凹凸度に基づいて、移動体の振動レベルが一定レベル以下となる移動体の速度を制限速度として決定することと、(d)移動体の速度を制限速度以下に制御しつつ、目標経路に追従するように移動体を制御することと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を制御する移動体制御方法であって、
目標経路を算出することと、
前記移動体に搭載された認識センサによる認識結果に基づいて、前記目標経路の路面凹凸度を算出することと、
前記路面凹凸度に基づいて、前記移動体の振動レベルが一定レベル以下となる前記移動体の速度を制限速度として決定することと、
前記移動体の前記速度を前記制限速度以下に制御しつつ、前記目標経路に追従するように前記移動体を制御することと
を含む
移動体制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体制御方法であって、
標高範囲は、単位エリア内の路面の標高の最大値と最小値との差であり、
範囲平均は、前記目標経路上の第1区間における前記標高範囲の平均であり、
前記路面凹凸度は、前記範囲平均である
移動体制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の移動体制御方法であって、
前記路面凹凸度を算出することは、
前記目標経路上の所定区間に含まれる複数パターンの第1区間を設定することと、
前記複数パターンの第1区間のそれぞれに対して複数パターンの範囲平均を算出することと、
前記複数パターンの範囲平均のうち最大のものを前記範囲平均として選択することと
を含む
移動体制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の移動体制御方法であって、
前記目標経路上の前記所定区間は、近傍区間と、前記近傍区間よりも前記移動体から遠い遠方区間とを含み、
前記複数パターンの第1区間の各々は、少なくとも前記遠方区間を含む
移動体制御方法。
【請求項5】
移動体を制御する移動体制御システムであって、
1又は複数のプロセッサを備え、
前記1又は複数のプロセッサは、
目標経路を算出し、
前記移動体に搭載された認識センサによる認識結果に基づいて、前記目標経路の路面凹凸度を算出し、
前記路面凹凸度に基づいて、前記移動体の振動レベルが一定レベル以下となる前記移動体の速度を制限速度として決定し、
前記移動体の前記速度を前記制限速度以下に制御しつつ、前記目標経路に追従するように前記移動体を制御する
ように構成される
移動体制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走行時の振動が抑制されるように移動体を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、プラント内の既設設備の異常時に、支援設備を待機位置から所定位置に移動させるための経路を生成する経路計画システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
移動体が荒れた路面上を走行する際、移動体が大きく振動する可能性がある。大きな振動は、移動体の安定性、乗員の乗り心地、等の観点から好ましくない。
【0005】
本開示の1つの目的は、移動体の走行時の振動を適切に抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点は、移動体を制御する移動体制御方法に関連する。
移動体制御方法は、
目標経路を算出することと、
移動体に搭載された認識センサによる認識結果に基づいて、目標経路の路面凹凸度を算出することと、
路面凹凸度に基づいて、移動体の振動レベルが一定レベル以下となる移動体の速度を制限速度として決定することと、
移動体の速度を制限速度以下に制御しつつ、目標経路に追従するように移動体を制御することと
を含む。
【0007】
第2の観点は、移動体を制御する移動体制御システムに関連する。
移動体制御システムは、1又は複数のプロセッサを備える。
1又は複数のプロセッサは、
目標経路を算出し、
移動体に搭載された認識センサによる認識結果に基づいて、目標経路の路面凹凸度を算出し、
路面凹凸度に基づいて、移動体の振動レベルが一定レベル以下となる移動体の速度を制限速度として決定し、
移動体の速度を制限速度以下に制御しつつ、目標経路に追従するように移動体を制御する
ように構成される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、移動体の走行時の振動を適切に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両制御の概要を説明するための概念図である。
【
図2】車両制御システムの構成例を示すブロック図である。
【
図3】目標経路算出処理の一例を説明するための概念図である。
【
図4】標高範囲と範囲平均を説明するための概念図である。
【
図5】複数パターンの範囲平均の算出方法の例を説明するための概念図である。
【
図6】制限速度を考慮した車両走行制御を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0011】
1.目標経路とリスク回避
自律的に移動可能な移動体について考える。移動体としては、車両、ロボット、飛翔体、等が例示される。車両としては、自動運転車両、月面探索車(月面ローバー)、等が例示される。ロボットとしては、物流ロボット、等が例示される。飛翔体としては、飛行機、ドローン、等が例示される。
【0012】
一例として、以下の説明においては、移動体が車両である場合について考える。一般化する場合には、以下の説明における「車両」を「移動体」で読み替え、「車両の走行」を「移動体の移動」で読み替えるものとする。
【0013】
図1は、車両1の制御の概要を説明するための概念図である。車両1は、出発地から目的地まで自律的に走行する。より詳細には、目的地に到達するための目標経路PTがリアルタイムに算出され、その目標経路PTに追従するように車両1は制御される。
【0014】
車両1の周囲には、車両1の走行を妨げるリスクが存在する可能性がある。典型的には、障害物が、車両1の走行を妨げるリスクとなる。そのようなリスクは、車両1に搭載された認識センサによって認識される。そして、認識センサによって認識されたリスクを回避するように目標経路PTが算出される。
【0015】
車両1が未知の環境を走行する場合もある。例えば、車両1が広大な不整地(uneven surface, uneven terrain)を走行する場合もある。不整地をオフロードと呼ぶこともできる。未舗装の不整地には、白線は存在しない。その代わり、不整地には、岩石、樹木、急坂、崖、丘陵、谷、穴、陥没、クレーター等、車両1の走行を妨げるリスクが存在する可能性がある。また、光源と地形により形成される影も、認識センサによる認識精度を低下させるため、車両1の走行を妨げるリスクとなる。尚、移動体が飛翔体である場合は、洞窟等が不整地に相当する。
【0016】
リスク値Uriskは、車両走行に関するリスクの大きさである。リスクポテンシャルは、リスク値Uriskを位置の関数として表す。言い換えれば、リスクポテンシャルは、リスク値Uriskの分布を示す。例えば、障害物OBSに関するリスクポテンシャルでは、リスク値Uriskは、障害物OBSの位置で最大となり、障害物OBSから離れるにつれて小さくなる。例えば、リスクポテンシャルは、ガウス分布(正規分布)で表される。分布の分散は、障害物OBSの種類毎に異なっていてもよい。分布の分散は、車両1の速度に応じて変動してもよい。例えば、速度が高くなるほど、分布の分散は大きくなってもよい。車両1の周囲の所定範囲が格子状に区切られ、各グリッド上でリスク値Uriskが与えられてもよい。その場合、リスクポテンシャルをリスクグリッドと呼ぶこともできる。
【0017】
車両1は、認識センサを用いて車両1の周囲のリスクを認識し、その認識結果に基づいて車両1の周囲のリスクポテンシャルをリアルタイムに算出する。更に、車両1は、リスクポテンシャルに基づいて、リスクを回避しつつ目的地へ向かう目標経路PTをリアルタイムに算出する。そして、車両1は、目標経路PTに追従するように自律的に走行する。
【0018】
2.車両制御システムの例
図2は、車両1を制御する車両制御システム10の構成例を示すブロック図である。典型的には、車両制御システム10は、車両1に搭載される。車両制御システム10は、センサ群20、走行装置30、及び制御装置100を含んでいる。
【0019】
センサ群20は、車両1に搭載されている。センサ群20は、車両1の周囲の状況を認識する認識センサ21を含んでいる。認識センサ21としては、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、等が例示される。また、センサ群20は、車両1の状態を検出する車両状態センサ22を含んでいる。車両状態センサ22は、速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサ、等を含んでいる。
【0020】
走行装置30は、車両1を走行させる。より詳細には、走行装置30は、操舵装置、駆動装置、及び制動装置を含んでいる。操舵装置は、車両1の車輪を転舵する。駆動装置としては、エンジン、電動機、インホイールモータ、等が例示される。制動装置は、制動力を発生させる。走行装置30は、キャタピラにより車両1を走行させてもよい。
【0021】
制御装置100は、車両1を制御するコンピュータである。制御装置100は、1又は複数のプロセッサ110(以下、単にプロセッサ110と呼ぶ)と1又は複数の記憶装置120(以下、単に記憶装置120と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ110は、各種処理を実行する。記憶装置120は、プロセッサ110による処理に必要な各種情報を格納する。
【0022】
車両制御プログラム130は、プロセッサ110によって実行されるコンピュータプログラムである。プロセッサ110が車両制御プログラム130を実行することにより、制御装置100の機能が実現される。車両制御プログラム130は、記憶装置120に格納される。あるいは、車両制御プログラム130は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0023】
制御装置100は、センサ群20を用いて、車両1の運転環境を示す運転環境情報200を取得する。運転環境情報200は、記憶装置120に格納される。運転環境情報200は、周辺状況情報、車両状態情報、地図情報、等を含んでいる。
【0024】
周辺状況情報は、認識センサ21による認識結果を示す情報であり、車両1の周囲の状況を示す。例えば、周辺状況情報は、カメラによって撮像される画像情報を含む。他の例として、周辺状況情報は、LIDARによって得られる点群情報を含む。周辺状況情報は、更に、車両1の周囲の物体に関する物体情報を含んでいる。物体は、車両1の走行を妨げる障害物を含む。物体情報は、車両1に対する物体の相対位置及び相対速度を示す。例えば、カメラによって得られた画像情報を解析することによって、物体を識別し、その物体の相対位置を算出することができる。また、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、物体を識別し、その物体の相対位置と相対速度を取得することもできる。
【0025】
車両状態情報は、車両1の状態を示す情報であり、車両状態センサ22から得られる。車両1の状態としては、速度、加速度、ヨーレート、舵角、等が挙げられる。
【0026】
地図情報は、車両1が走行するエリアの地図である。車両1が走行するエリアは、少なくとも車両1の出発地と目的地を含んでいる。地図情報は、3次元地形情報を含んでいてもよい。車両1が広大な不整地を走行する場合、地図情報はその不整地の地図を含む。地図情報は、既知のリスクの大まかな位置を示していてもよい。
【0027】
制御装置100は、車両1の走行を制御する車両走行制御を実行する。車両走行制御は、操舵制御、加速制御、及び減速制御を含む。制御装置100は、走行装置30を制御することによって車両走行制御を実行する。
【0028】
また、制御装置100は、運転環境情報200に基づいて自動運転制御を行う。より詳細には、制御装置100は、運転環境情報200に基づいて、車両1の走行プランを生成し、車両1が走行プランに従って走行するために必要な目標経路PTを算出する。そして、制御装置100は、車両1が目標経路PTに追従するように車両走行制御を行う。
【0029】
目標経路PTを算出する処理を、以下、「目標経路算出処理」と呼ぶ。目標経路算出処理において、制御装置100は、認識センサ21による認識結果、すなわち周辺状況情報(物体情報)に基づいて、車両1の周囲のリスクポテンシャルをリアルタイムに算出する(
図1参照)。車両1の周囲に複数のリスクが存在する場合、それぞれのリスクに関するリスクポテンシャルが加算される。そして、制御装置100は、リスクポテンシャルに基づいて、リスクを回避しつつ目的地へ向かう目標経路PTをリアルタイムに算出する。
【0030】
図3は、目標経路算出処理の一例を説明するための概念図である。本例では、目標経路PTは、「グローバル経路PG」、「準グローバル経路PS」、及び「ローカル経路PL」の三種類を含んでいる。
【0031】
グローバル経路PGは、目的地への大まかな目標経路PTであり、予め決定される。
【0032】
準グローバル経路PSは、車両1の周囲のリスクを回避しつつ目的地へ向かう目標経路PTである。つまり、準グローバル経路PSは、所定のグローバル経路PGになるべく沿いつつも、リスクを回避することができる目標経路PTである。制御装置100は、グローバル経路PGと認識センサ21による認識結果に基づいて、準グローバル経路PSを算出することができる。
図3に示されるように、例えば、準グローバル経路PSは、一定間隔で並ぶ複数の経路候補点(経由点)Cの集合で表される。つまり、準グローバル経路PSは、一定間隔で並ぶ複数の経路候補点Cをつなぎ合わせたものである。
【0033】
ローカル経路PLは、準グローバル経路PSよりも粒度の高い目標経路PTである。制御装置100は、準グローバル経路PSに基づいて、より粒度の高いローカル経路PLを算出する。より詳細には、ローカル経路PLは、準グローバル経路PSになるべく沿いつつも、車両1の走行安定性が確保されるように算出される。例えば、ローカル経路PLは、準グローバル経路PSよりも滑らかになるように算出される。滑らかなローカル経路PLを用いることにより、車両1の急操舵や横転を防止することができる。例えば、制御装置100は、準グローバル経路PSと車両1の目標ヨーレートを考慮して、準グローバル経路PSになるべく沿いつつ車両1の走行安定性を確保することができるローカル経路PLを算出する。
【0034】
準グローバル経路PSは、比較的長期的な走行計画に基づくロングレンジの目標経路PTであると言える。一方、ローカル経路PLは、比較的短期的な走行計画に基づくショートレンジの目標経路PTであると言える。ローカル経路PLは、準グローバル経路PSよりも短いが、準グローバル経路PSよりも粒度が高い。
【0035】
このように、制御装置100は、所定のグローバル経路PGを基準として、準グローバル経路PS及びローカル経路PLを段階的に算出する。そして、制御装置100は、ローカル経路PLに追従するように車両走行制御を行う。
【0036】
尚、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用できない環境では、初期位置(出発地)に対する車両1の位置は、例えばデッドレコニングを通して把握される。具体的には、車両1の速度、舵角、等が車両状態情報から得られる。車両1が走行する路面の勾配は、加速度センサにより検出される加速度から算出可能である。速度、舵角、勾配、等に基づいて、車両1の移動距離や移動方向を算出することができる。移動距離や移動方向を一定周期毎に繰り返し算出することにより、車両1の位置が更新される。
【0037】
3.振動抑制と制限速度
3-1.概要
車両1が荒れた路面上を走行する際、車両1が大きく振動する可能性がある。大きな振動は、車両1の安定性、乗員の乗り心地、等の観点から好ましくない。そこで、制御装置100は、車両1の走行時の振動を適切に抑制するように車両走行制御を行う。
【0038】
車両1の振動レベルyは、車両1の振動の大きさを表す。例えば、振動レベルyは、車体垂直加速度のRMS(route mean square)値である。車両1の振動レベルyは、車両1の速度Vと目標経路PTの路面凹凸度(road surface roughness/unevenness)に依存する。速度Vが高くなるほど振動レベルyは高くなる。また、路面凹凸度が大きくなるほど振動レベルyは高くなる。
【0039】
制御装置100は、上述の周辺状況情報(すなわち、認識センサ21による認識結果)に基づいて、目標経路PTの路面凹凸度を算出する。例えば、制御装置100は、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、目標経路PTの路面凹凸度を算出する。更に、制御装置100は、算出した路面凹凸度に基づいて、車両1の振動レベルyが一定レベル以下となる速度Vを制限速度umaxとして算出する。そして、制御装置100は、車両1の速度Vを制限速度umax以下に制御しつつ、目標経路PT(ローカル経路PL)に追従するように車両走行制御を行う。これにより、目標経路PTに沿って走行する車両1の振動レベルyが一定レベル以下に抑えられる。
【0040】
以下、制限速度umaxを決定する手法の例と、決定した制限速度umaxを考慮した車両走行制御の例について説明する。
【0041】
3-2.標高範囲と範囲平均
本願発明者は、制限速度u
maxを決定するために、「標高範囲R
i」と「範囲平均RA」というパラメータに着目した。まず、
図4を参照して、標高範囲R
iと範囲平均RAについて説明する。
【0042】
車両1の周囲のエリアは格子状に区切られる。区切られた単位エリアを、以下、「グリッド」と呼ぶ。例えば、グリッドは、0.4m四方の正方形である。尚、上述のリスクポテンシャルのリスク値Uriskはグリッド毎に算出されてもよい。つまり、ここでのグリッドは、リスクポテンシャル(リスクグリッド)のグリッドと一致していてもよい。
【0043】
標高範囲Riは、グリッドi内の路面の標高(elevation)の最大値と最小値との差である。ここで、iは、各グリッドの識別子である。制御装置100は、上述の周辺状況情報(すなわち、認識センサ21による認識結果)に基づいて、車両1の周囲の各グリッドiの標高範囲Riを算出することができる。例えば、制御装置100は、LIDARによって得られた点群情報に基づいて、車両1の周囲の各グリッドiの標高範囲Riを算出することができる。
【0044】
範囲平均RAは、目標経路PT上の標高範囲Riの平均である。より詳細には、目標経路PT上の平均算出区間SAにおける標高範囲Riの平均が、範囲平均RAとして算出される。平均算出区間SAは、目標経路PT(ローカル経路PL)が算出される区間に含まれている。例えば、目標経路PT上の平均算出区間SAに存在するグリッドの数がNgである場合、範囲平均RAは次の式(1)で表される。
【0045】
【0046】
制御装置100は、目標経路PT上の所定区間の中で平均算出区間SAを変化させることによって複数パターンの範囲平均RAを算出してもよい。言い換えれば、制御装置100は、目標経路PT上の所定区間に含まれる複数パターンの平均算出区間SAを設定し、複数パターンの平均算出区間SAのそれぞれに対して複数パターンの範囲平均RAを算出してもよい。この場合、制御装置100は、算出された複数パターンの範囲平均RAのうち最大のものを最終的な範囲平均RAとして選択する。これにより、目標経路PT上の所定区間の中で顕著な範囲平均RAを選択することが可能となる。
【0047】
図5は、複数パターンの範囲平均RAの算出方法の例を説明するための概念図である。制御装置100は、目標経路PT(ローカル経路PL)上の所定区間における複数の予測通過点Pを算出する。例えば、所定区間は、目標経路PT(ローカル経路PL)が算出される区間である。複数の予測通過点Pは、周期Δt
p_x毎の位置に相当する。更に、制御装置100は、隣り合う2つの予測通過点P間を所定数(例:10個)の点で直線補間する。その結果、目標経路PT上の所定区間において合計Npc個の点が得られる。それらNpc個の点がk=1~Npcで表される。k=1は車両1の位置における点を意味し、k=Npcは車両1から最も遠い点である。R
kは、点kが存在するグリッドiに関する標高範囲R
iである。制御装置100は、次の式(2)に基づいて、複数パターンの範囲平均RA
jを算出する。
【0048】
【0049】
例えば、
図5に示されるように、j=0~Npc/2に対して複数パターンの範囲平均RA
jが算出される。範囲平均RA
0は、全ての点k=1~Npcに基づいて算出され、範囲平均RA
Npc/2は、後半の点k=Npc/2+1~Npcに基づいて算出される。そして、制御装置100は、算出された複数パターンの範囲平均RA
jのうち最大のものを最終的な範囲平均RAとして選択する。
【0050】
複数パターンの平均算出区間SAは、次のように言い換えることもできる。目標経路PT上の所定区間は、車両1に比較的近い近傍区間SC(k=1~Npc/2に相当)と、車両1から比較的遠い遠方区間SF(k=Npc/2+1~Npcに相当)を含んでいる。遠方区間SFは、近傍区間SCよりも車両1から遠い。複数パターンの平均算出区間SAの各々は、少なくとも遠方区間SFを含むように設定される。更に、平均算出区間SAに含める近傍区間SCの長さを様々に変えることによって、異なる複数パターンの平均算出区間SAが設定される。このように、少なくとも遠方区間SFを含むように複数パターンの平均算出区間SAを設定することによって、遠方区間SFを重視した範囲平均RAを選択することが可能となる。
【0051】
3-3.制限速度の決定
本願発明者は、研究の結果、上述の範囲平均RAと車両1の振動レベルyとの間に非常に強い相関があることを見い出した。より詳細には、範囲平均RAと振動レベルyとの相関係数は0.99以上であることが判明した。そこで、以下に説明される例では、範囲平均RAが目標経路PTの路面凹凸度として用いられる。目標経路PTに沿って走行する際の車両1の振動レベルyは、次の式(3)で表される。
【0052】
【0053】
振動レベルyは、速度Vと範囲平均RAの関数fで表される。速度Vが高くなるほど振動レベルyは高くなる。また、範囲平均RAが大きくなるほど振動レベルyは高くなる。以上の知見に基づいて、目標経路PTに沿って走行する車両1の振動レベルyが一定レベル(許容上限レベル)以下となる制限速度umaxが決定される。上記式(3)から、制限速度umaxは、次の式(4)で表されることが分かる。
【0054】
【0055】
制限速度umaxは、範囲平均RAの関数gで表される。範囲平均RAが大きくなるほど、制限速度umaxは低くなる。逆に、範囲平均RAが小さくなるほど、制限速度umaxは高くなる。
【0056】
制限速度umaxは、次の式(5)~(7)で与えられてもよい。Rpolishは、振動が発生しないような理想的な平坦路の場合の範囲平均RAである。Rgrainyは、想定される最大の範囲平均RAである。範囲平均RAは、Rpolish以上Rgrainy以下の値を取る。Vmaxは、範囲平均RAがRpolishである場合の制限速度umaxである。Vminは、範囲平均RAがRgrainyである場合の制限速度umaxである。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
制御装置100は、上述の周辺状況情報(すなわち、認識センサ21による認識結果)に基づいて、標高範囲Ri及び範囲平均RAを算出する。そして、制御装置100は、範囲平均RAと式(4)あるいは式(5)~(7)に基づいて、振動レベルyが一定レベル以下となる速度Vを制限速度umaxとして決定する。そして、制御装置100は、車両1の速度Vを制限速度umax以下に制御しつつ、目標経路PTに追従するように車両走行制御を行う。
【0061】
範囲平均RAを算出する際、上記式(2)が用いられてもよい。その場合、制御装置100は、目標経路PT上の所定区間に含まれる複数パターンの平均算出区間SAを設定し、複数パターンの平均算出区間SAのそれぞれに対して複数パターンの範囲平均RAを算出する。そして、制御装置100は、算出された複数パターンの範囲平均RAのうち最大のものを最終的な範囲平均RAとして選択する。これにより、顕著な範囲平均RAが選択されるため、制限速度umaxの精度が向上する。特に、少なくとも遠方区間SFを含むように複数パターンの平均算出区間SAが設定される場合、遠方区間SFを重視した範囲平均RAが選択されるため、遠方区間SFにおいて適切な制限速度umaxを早期に取得することが可能となる。
【0062】
尚、範囲平均RAは、目標経路PT(ローカル経路PL)が更新される度に更新される。そのため、範囲平均RA引いては制限速度umaxが、不連続的に変化し、また、高周波数で変化する可能性がある。このことは、乗り心地を悪化させるおそれがある。そこで、制御装置100は、過去一定期間における範囲平均RAの移動平均を算出し、その移動平均に基づいて制限速度umaxを決定してもよい。これにより、制限速度umaxの不連続変化や高周波変化を抑制することが可能となる。
【0063】
3-4.制限速度を考慮した車両走行制御の例
図6は、制限速度u
maxを考慮した車両走行制御の例を説明するための概念図である。目標経路PT上の位置X1から位置X2にわたって荒れた路面が存在する。適正車速は、位置X1から位置X2までの荒れた路面に対して適切な制限速度u
maxである。
【0064】
まず、比較例として、制限速度umaxが予め決定されない場合について考える。この比較例の場合、車両1が位置X1に接近した後、位置X1の直前で減速が開始される。従って、車両1は、減速が不十分なまま、適正車速よりも高い速度Vで荒れた路面に進入してしまう。その結果、大きな振動が発生する。
【0065】
一方、本実施の形態によれば、車両1に搭載された認識センサ21による認識結果に基づいて、位置X1から位置X2までの区間に対する適正車速が予め決定される。よって、車両1が位置X1に到達するまでに、余裕を持って速度Vを適正車速まで減速することが可能となる。車両1は、適正車速で荒れた路面に進入する。その結果、荒れた路面においても車両1の振動レベルyを一定レベル以下に抑えることが可能となる。
【0066】
3-5.まとめ
以上に説明されたように、本実施の形態によれば、目標経路PTに沿って走行する車両1の振動レベルyが一定レベル以下となる制限速度umaxが決定される。そして、車両1の速度Vが制限速度umax以下に制御される。これにより、目標経路PTに沿って走行する車両1の振動レベルyが一定レベル以下に抑えられる。このことは、車両1の安定性、乗員の乗り心地、等の観点から好ましい。
【0067】
また、目標経路PT上の制限速度umaxは、車両1に搭載された認識センサ21による認識結果に基づいて決定される。よって、目標経路PT上の制限速度umaxを比較的前の段階から把握することが可能となる。従って、余裕を持って速度Vを制限速度umaxまで減速することが可能となる。このことも車両1の振動の効果的な抑制に寄与する。
【符号の説明】
【0068】
1…車両, 10…車両制御システム, 20…センサ群, 21…認識センサ, 22…車両状態センサ, 30…走行装置, 100…制御装置, 110…プロセッサ, 120…記憶装置, 130…車両制御プログラム, 200…運転環境情報, PT…目標経路, PG…グローバル経路, PS…準グローバル経路, PL…ローカル経路