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特開2024-6414磁気センサ基板の検査装置、及び磁気センサ基板の検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006414
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】磁気センサ基板の検査装置、及び磁気センサ基板の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01R33/02 X
G01R33/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107243
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】河野 剛健
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AC09
2G017AD28
2G017AD69
2G017BA03
2G017BA15
(57)【要約】
【課題】磁気センサの周波数特性の検査に好適な検査装置を提供すること。
【解決手段】磁気検出素子に作用した磁気の強さを表す磁気計測信号を出力する磁気センサ基板(5)の出力特性を検査するための検査装置(1)は、検査対象の磁気センサ基板(5)を保持するICソケット(11)と、導線に通電する交流電流の周波数を調節すると共に、導線への交流電流の通電によって生じた交流磁界が作用するなかで磁気センサ基板(5)が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値をサンプリングする制御装置(17)と、を含んでいる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気を検出する磁気検出素子に作用する磁気の強さを表す磁気計測信号を出力する磁気センサ基板の出力特性を検査するための検査装置であって、
検査対象の磁気センサ基板を保持する基板保持部と、
導線に通電する交流電流の周波数を調節する回路と、
前記導線への交流電流の通電によって生じた交流磁界が作用する状態下で磁気センサ基板が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値をサンプリングする回路と、を含む磁気センサ基板の検査装置。
【請求項2】
請求項1において、前記基板保持部に保持された磁気センサ基板の磁気検出素子の磁気の検出方向に対して交差する電線を、前記導線として備えている磁気センサ基板の検査装置。
【請求項3】
請求項2において、延在方向が互いに交差する2種類の導線が前記基板保持部側に設けられている一方、前記基板保持部は、磁気の検出方向が異なる少なくとも2種類以上の複数種類の磁気センサ基板を付け替え可能なように構成され、
前記2種類の導線は、通電に応じて、前記基板保持部に保持された前記磁気センサ基板に対して磁気を作用できるように配設されている磁気センサ基板の検査装置。
【請求項4】
請求項1において、前記導線は前記磁気センサ基板に設けられていると共に、当該磁気センサ基板には、前記導線に通電するための電気的な端子が設けられ、
前記基板保持部には、前記磁気センサ基板を保持したときに、前記電気的な端子と電気的に接触する電気的な端子が設けられている磁気センサ基板の検査装置。
【請求項5】
請求項1において、前記導線と前記基板保持部との組合せが少なくとも1組、組み込まれていると共に、少なくとも一の磁気センサ基板を保持可能なように構成された基板ソケット、を含む磁気センサ基板の検査装置。
【請求項6】
請求項1において、前記導線に流れる交流電流の周波数の変化に対する前記磁気計測信号が表す磁気計測値の変化率を求める回路を含む磁気センサ基板の検査装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項において、前記基板保持部に保持された磁気センサ基板に対して磁気を作用するコイルと、
前記磁気センサ基板に対して前記コイルが作用する磁気の強さを調節する回路と、
前記コイルが磁気センサ基板に作用する磁気の強さと、前記磁気計測信号が表す磁気計測値と、を比較する回路を有する磁気センサ基板の検査装置。
【請求項8】
請求項7において、前記導線と前記基板保持部との組合せが少なくとも1組、組み込まれていると共に、少なくとも一の磁気センサ基板を保持可能なように構成された基板ソケットと、
該基板ソケットに保持された磁気センサの磁気検出素子に対して前記コイルから生じる磁気が作用するよう、該基板ソケットを保持するように構成されたソケット保持部と、を含む磁気センサ基板の検査装置。
【請求項9】
磁気を検出する磁気検出素子に作用する磁気の強さを表す磁気計測信号を出力する磁気センサ基板の出力特性を検査するための磁気センサ基板の検査方法であって、
通電に応じて前記磁気検出素子に磁気を作用するコイルと導線とを含む検査装置を用い、
コイルへの通電に応じた磁気を前記磁気検出素子に作用することで、作用する磁気の強さと、前記磁気センサ基板が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値と、の関係を表す感度特性データを取得し、
導線に通電する交流電流の周波数を調節することで、前記磁気検出素子に作用する交流磁界の周波数と、前記磁気センサ基板が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値と、の関係を表す周波数特性データを取得し、
前記感度特性データと前記周波数特性データとに基づいて前記磁気センサ基板の良否を判断する、磁気センサ基板の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気検出素子を含む磁気センサ基板の出力特性を検査するための検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサを検査するため、所定の磁場の中に置かれた磁気センサの出力が適正な範囲にあるかを検査する装置が利用されている。このような磁気センサの検査装置としては、相互に対面する一対の円環状コイルを利用するものがある。この検査装置では、一対の円環状コイルの対面方向に発生する一様な磁気を利用し、磁気センサの出力特性等が検査される。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、互いに直交する3軸方向に一対ずつ上記の一対の円環状コイルが配設され、全体として正六面体を呈するように6つの円環状コイルが配置された検査装置が記載されている。この検査装置によれば、正六面体の内側に配置された検査対象の磁気センサに対し、あらゆる方向の磁気を作用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-36941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の検査装置では、次のような問題がある。すなわち、コイルは、インダクタンスが大きくインピーダンスが大きくなるため、磁気センサの出力特性のうちの周波数特性の検査には適していないおそれがある。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、磁気センサの周波数特性の検査に好適な検査装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、磁気を検出する磁気検出素子に作用する磁気の強さを表す磁気計測信号を出力する磁気センサ基板の出力特性を検査するための検査装置であって、
検査対象の磁気センサ基板を保持する基板保持部と、
導線に通電する交流電流の周波数を調節する回路と、
前記導線への交流電流の通電によって生じた交流磁界が作用する状態下で磁気センサ基板が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値をサンプリングする回路と、を含む磁気センサ基板の検査装置にある。
【0008】
本発明の一態様は、磁気を検出する磁気検出素子に作用する磁気の強さを表す磁気計測信号を出力する磁気センサ基板の出力特性を検査するための磁気センサ基板の検査方法であって、
通電に応じて前記磁気検出素子に磁気を作用するコイルと導線とを含む検査装置を用い、
コイルへの通電に応じた磁気を前記磁気検出素子に作用することで、作用する磁気の強さと、前記磁気センサ基板が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値と、の関係を表す感度特性データを取得し、
導線に通電する交流電流の周波数を調節することで、前記磁気検出素子に作用する交流磁界の周波数と、前記磁気センサ基板が出力する磁気計測信号が表す磁気計測値と、の関係を表す周波数特性データを取得し、
前記感度特性データと前記周波数特性データとに基づいて前記磁気センサ基板の良否を判断する、磁気センサ基板の検査方法にある。
【0009】
本発明に係る磁気センサ基板の検査装置及び検査方法では、導線に通電する交流電流の周波数を変化させたときに磁気計測信号が表す磁気計測値がどのように変化するかを調べるために好適である。例えばコイル等との比較において、導線は、インダクタンスが小さくインピーダンスを低く抑えることができるため、高い周波数の交流電流を効率良く通電できる。そのため、本発明に係る磁気センサ基板の検査装置及び検査方法によれば、高い周波数の交流磁界を効率良く磁気検出素子に作用でき、磁気センサ基板の周波数特性を効率良く検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】磁気センサ基板の斜視図。
図2】磁気センサ基板の検査装置の構成図。
図3】ヘルムホルツコイルの説明図。
図4】検査前のヘルムホルツコイルと搬送台とを示す説明図。
図5】検査中のヘルムホルツコイルと搬送台とを示す説明図。
図6】ICソケットの斜視図。
図7】導線と磁気検出素子との位置関係の説明図。
図8】導線が発生する磁界の説明図。
図9】導線が発生する磁気が磁気検出素子に作用する様子を示す説明図。
図10】磁気検出素子に作用する磁気強度とセンサ出力との関係を示すグラフ。
図11】ヘルムホルツコイルに通電する交流電流の周波数と、インピーダンスと、の関係を示すグラフ。
図12】導線に通電する交流電流の周波数と、センサ信号の周波数と、の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、磁気センサ基板5の検査装置1に関する例である。この内容について、図1図12を用いて説明する。
【0012】
まず、検査対象の磁気センサ基板5(図1)について説明する。磁気センサ基板5は、略短冊状の電子回路基板に、磁気検出素子51などの各種のICチップが実装された基板である。磁気センサ基板5には、磁気検出素子51の出力を増幅する回路が設けられている。この回路は、ロジックIC、OPアンプ等を含めて構成されている。磁気センサ基板5は、磁気検出素子51の出力を増幅してセンサ信号(磁気計測信号の一例。)として出力する。
【0013】
磁気検出素子51は、例えば、高精度のMI(Magnet Impedance)素子である。MI素子は、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するという公知のMI効果(Magnet Impedance Effect)を利用する磁気検出素子である。磁気検出素子51は、直線的に組み込まれるアモルファスワイヤの長手方向(延在方向)に磁気検出の感度/指向性を有している。
【0014】
本例の磁気検出素子51では、互いに直交する2本のアモルファスワイヤが組み込まれている。一方のアモルファスワイヤは、短冊状をなす磁気センサ基板5の長手方向に沿っている。他方のアモルファスワイヤは、短冊状をなす磁気センサ基板5の幅方向に沿っている。磁気センサ基板5は、磁気センサ基板5の長手方向に作用する磁気の強度を表すセンサ信号と、磁気センサ基板5の幅方向に作用する磁気の強度を表すセンサ信号と、を出力する2チャンネル出力のセンサ基板である。
【0015】
次に、磁気センサ基板5の検査装置1(図2)は、一対の円筒状コイル10Cを含んで構成された円筒型のヘルムホルツコイル10と、磁気センサ基板5を保持するICソケット11と、ICソケット11を搬送する搬送台15と、制御装置17と、により構成されている。
【0016】
ヘルムホルツコイル10(図2及び図3)は、ICソケット11に保持された磁気センサ基板5に対して磁気を作用するコイルの一例である。ヘルムホルツコイル10では、共通仕様の一対の円筒状コイル10Cが間隔を空けて対向配置されている。なお、本例の円筒状コイル10Cのインダクタンスは、0.1H(ヘンリー)である。
【0017】
ヘルムホルツコイル10は、大きさが等しく同じ向きの交流電流が一対の円筒状コイル10Cに通電されたとき、一対の円筒状コイル10Cが対面する空間に、交流磁界による一様な磁場を生じさせる。なお、以下の説明では、一対の円筒状コイル10Cが対面する方向をx方向といい、x方向に直交する水平方向をy方向といい、鉛直方向をz方向という。ヘルムホルツコイル10による磁気は、x方向に沿って作用する。
【0018】
ヘルムホルツコイル10が作用するx方向の磁気強度と、円筒状コイル10Cに通電する交流電流の大きさと、の関係は、予め調整されている。検査装置1では、円筒状コイル10Cに通電する交流電流の電流値を調整することにより、磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する磁気強度を調節可能である。
【0019】
搬送台15(図4及び図5)は、磁気センサ基板5を保持するICソケット11(基板ソケットの一例。)を取付可能な可動ベッド151と、可動ベッド151を水平方向に進退させる基台150と、を含めて構成されている。基台150は、ヘルムホルツコイル10に対してx方向に隣り合わせて配設されている。可動ベッド151は、基台150からx方向に前進することにより、円筒状のヘルムホルツコイル10の内部に挿入される。
【0020】
可動ベッド151の先端側には、ICソケット11を保持するためのソケット保持部151Hが設けられている。可動ベッド151は、ヘルムホルツコイル10の筒方向の中央にICソケット11が位置するまで前進可能である。可動ベッド151には、ICソケット11を介して磁気センサ基板5と電気的に接続される信号線(図示略)が複数、設けられている。磁気センサ基板5は、可動ベッド151の信号線を介して制御装置17(図3)と電気的に接続される。
【0021】
ソケット保持部151Hは、横長の直方体の外形状のICソケット11を、向きが異なる2種類の姿勢で保持できるように構成されている。一方の姿勢は、ICソケット11に取り付けられた磁気センサ基板5の長手方向がx方向に沿う姿勢である。他方の姿勢は、ICソケット11に取り付けられた磁気センサ基板5の幅方向がx方向に沿う姿勢である。上記のごとく、磁気センサ基板5は、互いに直交する2方向に沿って作用する磁気を計測可能である。これら2方向の磁気感度の検査は、可動ベッド151によるICソケット11の保持姿勢を変更して実施される。
【0022】
本例の検査装置1は、図6のICソケット11に保持された磁気センサ基板5の検査を実行可能である。ICソケット11は、磁気センサ基板5の基板保持部115を複数、備えている。基板保持部115は、略短冊状の磁気センサ基板5の外形状に正面形状が略一致している凹状部である。凹状の基板保持部115への嵌め込みにより磁気センサ基板5の位置決めが可能である。
【0023】
ICソケット11(図6)は、例えば横長の直方体の外形状を有し、その横方向に沿って複数の基板保持部115が並設されている。各基板保持部115は、複数の基板保持部115が並設された方向(横方向)に対して直交する姿勢で略短冊状の磁気センサ基板5を保持するように形成されている。なお、ICソケット11の外形状は、直方体の外形状に限定されず、正面正方形を呈する四角い箱のような外形状であっても良い。また本例のICソケット11では、横方向の1列にて基板保持部115が並設されているが、2列あるいは3列をなすように基板保持部115を配設しても良い。
【0024】
ICソケット11では、各基板保持部115に対応するホールドカバー117が個別に設けられている。ホールドカバー117は、上方に回動可能なようにICソケット11の縁に軸支されている。各ホールドカバー117の先端には、ICソケット11の反対側の縁に係合するロック(図示略)が設けられている。ロックをICソケット11の縁に係合させれば、基板保持部115の磁気センサ基板5をホールドカバー117により確実に挟み込むことができる。なお、ICソケット11とは別体のホールドカバーであっても良く、この場合には、ホールドカバーの両端部に、ICソケット11の縁に係合するロックを設けると良い。
【0025】
ICソケット11(図6)を利用すれば、複数の磁気センサ基板5を同時に検査可能である。なお、ICソケット11は、上記のごとく、可動ベッド151(ソケット保持部151H)によって保持される姿勢を変更可能である。一方の保持姿勢は、ICソケット11により保持された略短冊状の磁気センサ基板5の長手方向が、x方向(図2参照。)に沿う姿勢である。他方の保持姿勢は、ICソケット11に保持された略短冊状の磁気センサ基板5の長手方向がy方向(図2参照。)に沿う姿勢である。なお、磁気センサ基板5の長手方向がz方向に沿う保持姿勢を設定することも考えられる。
【0026】
ICソケット11は、磁気センサ基板5の端子と電気的に接触する端子(図示略)を備えている。端子としては、磁気センサ基板5の電源端子に対応する端子や、磁気センサ基板5のセンサ信号の出力端子に対応する端子等がある。
【0027】
ICソケット11(図6及び図7)には、磁気センサ基板5に対して磁界を作用するための導線111、112が設けられている。導線111、112は、ICソケット11の横長の直方体の外形状の横方向および縦方向に沿って4本ずつ設けられている。縦方向の導線111と横方向の導線112とは、十字状をなすように設けられている。ICソケット11に磁気センサ基板5が保持されたとき、この十字状の交点が磁気検出素子51に対面する(図7参照。)。導線111、112は、ICソケット11に保持された磁気センサ基板5の磁気検出素子51の磁気の検出方向に対して交差する電線である。
【0028】
ICソケット11は、導線111、112に電流を通電するための端子(図示略)を備えている。ICソケット11が可動ベッド151に取り付けられたとき、ICソケット11の端子が、可動ベッド151側に設けられた端子と電気的に接触する。可動ベッド151を経由して電源(制御装置17)から各導線111、112に至る電気的な経路では、x方向及びy方向の各4本の導線111、112が電源に対して並列接続されている。このような電気的な経路によれば、導線111及び導線112のうちのいずれか一方に選択的に通電可能である。なお、導線111、112に至る経路にスイッチを設けることも良い。
【0029】
例えば導線111に電流を通電すると、図8のように導線111の周りに磁界が発生する。この現象は、電流の方向を右ねじの進む方向としたときに、右ねじの回る方向の磁場が生じるアンペールの法則に沿う物理現象である。検査装置1における導線111(112)と磁気検査素子51との位置関係は、図9のようになっている。同図上の左下から右上に向けて導線111(112)に通電したとき(A方向に沿う通電)、導線111(112)の周囲に磁界が生じ、これにより、同図上、右向き(B方向)の磁気が磁気検出素子51に作用する。
【0030】
制御装置17(図2)は、検査装置1の動作を制御すると共に、検査対象の磁気センサ基板5の出力特性の良否を判断する装置である。制御装置17は、オペレータが操作するキーボード等の入力デバイス、液晶ディスプレイなどの表示デバイス、各種の制御や演算等を実行する本体等、を含んで構成されている。
【0031】
制御装置17は、磁気センサ基板5に所定の磁気を作用し、磁気センサ基板5が出力するセンサ信号(磁気計測信号)を取得する。制御装置17は、磁気センサ基板5が出力するセンサ信号をサンプリングする回路の機能を有している。制御装置17は、このセンサ信号を処理することで、検査対象の磁気センサ基板5の出力特性の良否を判断する。磁気センサ基板5の出力特性の検査には、感度特性の検査及び周波数特性の検査が含まれる。
【0032】
磁気センサ基板5の感度特性の検査の際、制御装置17は、周波数を一定に維持しながら円筒状コイル10Cに印加する交流電圧値を制御する。制御装置17は、このような電圧制御により円筒状コイル10Cに通電される交流電流の大きさを調節することでヘルムホルツコイル10が磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する磁気強度を調節する。一方、磁気センサ基板5の周波数特性の検査の際には、制御装置17は、導線111、112に通電する交流電流の周波数を制御することで、アンペールの法則に従って導線111、112が磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する磁気の周波数を調整する。このとき、複数の磁気検出素子51(磁気検出基板5)に作用する磁気強度が等しく、かつ、各磁気検出素子51(磁気検出基板5)に作用する磁気強度が略一定となるように、各導線111、112に印加される交流電圧値が制御される。
【0033】
制御装置17は、以下の各回路としての機能を具備している。
・コイルの一例をなすヘルムホルツコイル10が磁気センサ基板5に対して作用する磁気強度を調節する回路。
・導線111、112に流れる交流電流の周波数を調節する回路。
・ヘルムホルツコイル10が磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する磁気強度と、磁気検出素子51(磁気センサ基板5)が出力するセンサ信号(磁気計測信号)が表す磁気計測値(磁気強度)と、を比較する回路。
・導線111、112に流れる交流電流の周波数を変化させたときのセンサ信号(磁気計測信号)が表す磁気強度の減衰率(変化率)を求める回路。
【0034】
次に、以上のように構成された本例の検査装置1による検査内容を説明する。検査装置1は、磁気センサ基板5の出力特性の検査の際、ヘルムホルツコイル10あるいは導線111、112を利用する。検査装置1は、出力特性のうちの感度特性に関する検査でヘルムホルツコイル10を利用し、周波数特性に関する検査で導線111、112を利用する。検査は、磁気センサ基板5の磁気検出素子51がヘルムホルツコイル10の内部空間のほぼ中央に位置する状態で行われる。
【0035】
(感度特性の検査)
感度特性の検査は、ヘルムホルツコイル10が発生する磁気が磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する状態で実施される。上記のごとく、ヘルムホイルコイル10は、一対の円筒状コイル10Cに同じ向きの等しい交流電流を通電することで交流磁界による一様な磁場を発生できる。
【0036】
本例では、例えば周波数10Hzの交流電流を円筒状コイル10Cに供給して感度特性の検査が実施される。感度特性の検査は、予め定められた磁気強度の範囲である検査範囲(図10参照。)について実施される。この検査では、ヘルムホルツコイル10が発生する磁気強度を変更しながら、磁気センサ基板5によるセンサ出力値が取得される。その結果として、図10に例示するグラフを作成できる。同図は、横軸に磁気強度、縦軸にセンサ出力が規定されたグラフである。なお、感度特性の検査を実施する際に円筒状コイル10Cに通電する交流電流の周波数としては、0.1~500Hzの周波数を利用できる。
【0037】
検査装置1は、図10のグラフに基づき、検査範囲におけるセンサ出力の直線性、及びセンサ出力の出力ゲインを評価する。センサ出力の直線性を表す指標は、例えば、検査範囲における図10のグラフの最小二乗誤差の大きさである。出力ゲインは、磁気強度の変化量に対するセンサ出力の変化量の比率である。
【0038】
検査装置1は、例えば検査範囲におけるセンサ出力の直線性を表す最小二乗誤差が閾値を下回っており、かつ、出力ゲインが所定範囲に属しているとき、磁気センサ基板5の感度特性が良好と判断する。なお、上記のごとく、検査装置1では、可動ベッド151に対するICソケット11の取付姿勢を変更することで、磁気センサ基板5の長手方向及び幅方向の両方の検出方向について、磁気センサ基板5の感度特性を検査できる。
【0039】
(周波数特性の検査)
ヘルムホルツコイル10では、通電する交流電流の周波数が高くなるほど、円筒状コイル10Cのインダクタンス(0.1H)に起因してインピーダンスが大きくなる。交流電流の周波数とインピーダンスとの関係は、次式の通りである。図11のごとく、円筒状コイル10Cのインピーダンスは、交流電流の周波数に比例して大きくなる。
(数1)
Z = DCR + 2πfL

Z:インピーダンス
DCR:直流抵抗
f:周波数
L:インダクタンス
【0040】
そこで、本例の構成では、導線111(112)への通電に応じて生じる磁気を磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用して周波数特性の検査を実施している。周波数特性の検査では、導線111(112)に様々な周波数の交流電流を通電して実施される。この検査では、磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する交流磁界の磁気強度が、交流磁界の周波数に関わらず一定となるように交流電流の電流値が調節される。
【0041】
周波数特性の検査では、図12のごとく、交流電流の周波数に対するセンサ出力値の変化が調べられる。同図のグラフの通り、磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する交流磁界の周波数が高くなると、磁気強度が一定であってもセンサ出力が低下する傾向にある。周波数特性の検査は、このように交流磁界の周波数に応じてセンサ出力が低下する傾向を調べる検査である。
【0042】
周波数特性の検査に合格する条件は、高い周波数領域においてセンサ出力(磁気計測値)を維持できるという条件である。例えば、0~100kHzまでの交流磁界の周波数範囲におけるセンサ出力の減衰率(変化率)が-3dB未満であれば、予め設定された規格内の良好な周波数特性が実現されているという判断が可能である。例えば図12中のAの特性は規格内の周波数特性の一例であり、Bの特性は規格から外れる周波数特性の例示である。
【0043】
以上のように、本例の検査装置1は、感度特性の検査の際、ヘルムホルツコイル10が発生する磁気を磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する。一方、周波数特性の検査の際には、導線111あるいは112が発生する磁気を磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する。
【0044】
ヘルムホルツコイル10は、一様な磁気を発生できるうえ、磁気強度を精度高く制御できるため、感度特性の検査に好適である。しかしながら、ヘルムホルツコイル10では、円筒状コイル10Cのインダクタンスに起因し、高周波の交流電流を通電しようとするとインピーダンスが過大となる。例えば、一般的な信号源装置(+/-10V)により一定電流を印加しようとする場合、オームの法則により、信号源から発生させる電圧を過大(例えば100V)にする必要があり、それ故、電源(制御装置17)から各導線111、112に至る電気的な経路に電力増幅器を挿入する必要が生じる可能性がある。この場合、電力増幅器が有する信号成分が発生磁界に対して影響を与えるおそれがあり、これにより、精度の良い検査結果が得られなくなるおそれが生じる。また100Vという高電圧を扱うための安全装置などを設ける必要性が生じ、検査装置の装置コストや、保守コスト等の上昇が招来されるおそれがあり、コスト的にも不利である。
【0045】
このようなことから、周波数特性の検査において、ヘルムホルツコイル10が好適であるとは言い難い。そこで、本例の検査装置1では、周波数特性の検査に当たって、ヘルムホルツコイル10を利用することなく、導線111、112を利用している。
【0046】
導線111、112は、インダクタンスが十分に小さいため、高周波の交流電流を通電する際のインピーダンスが問題になるおそれが少ない。高周波の交流電流を導線111、112に通電すれば、アンペールの法則に従う磁気を効率良く発生できる。アンペールの法則による磁気の一様性は、ヘルムホルツコイル10には及ばないが、アンペールの法則を利用すれば、高い周波数の交流磁界を効率良く発生できる。
【0047】
このように本例の磁気センサ基板5の検査装置1は、磁気検出素子51(磁気センサ基板5)に作用する磁気の発生源として、ヘルムホルツコイル10と導線111、112とを使い分けることで、磁気センサ基板5の検査を効率良く実施できる優れた特性の検査装置である。
【0048】
なお、本例は、x方向の導線111、y方向の導線112を十字状に設けた例である。磁気の検出方向が1方向のみの磁気検出素子が検査対象であれば、その検出方向に対して直交あるいは交差する1方向に沿って導線を設けるだけでも良い。例えば、磁気センサ基板5の向きを変えて複数回、検査を実行する場合であれば、1方向の導線のみによって、複数の磁気の検出方向を検査可能である。また、本例では、導線111、112を各4本としたが、各1本のみであっても良い。
【0049】
さらに、本例では、導線111、112をICソケット11側に設けた構成例を説明したが、導線を磁気センサ基板5に設けることも良い。この場合、導線に通電するための電気的な端子を磁気センサ基板に設ける共に、基板保持部115(ICソケット11)には、磁気センサ基板の電気的な端子と電気的に接触する電気的な端子を設けると良い。また、本例では、基板ソケットの一例をなすICソケット11に基板保持部115を設けているが、ICソケット11を省略して可動ベッド151に基板保持部を設けることも可能である。
【0050】
なお、本例では、基板保持部115に磁気センサ基板5が保持されたとき、磁気の検出方向に対して導線111、112が直交する構成を示している。磁気センサ基板5による磁気の検出方向に対して導線が直交することは必須の構成ではない。磁気の検出方向に対して導線が交差していれば良く、互いに平行でなければ良い。ただし、好ましくは、磁気の検出方向に対して導線が45度以上の角度で交差していると良い。この場合であれば、導線から生じる磁気を効率高く磁気検出素子に作用できる。
【0051】
本例の構成では、延在方向が互いに直交する2種類の導線111、112が、ICソケット11等の基板保持部115側に設けられている。延在方向が互いに直交する2種類の導線の組み合わせであれば、いずれか一方の種類の導線を選択することで、水平面内の任意の方向に対して45度以上の角度をなして作用する磁気を発生できる。この場合には、水平面内の任意の磁気検出方向について、周波数特性の検査を効率良く実施できる。複数種類の磁気センサ基板を付け替え可能なように基板保持部を構成しておけば、磁気の検出方向が異なる複数種類の磁気センサ基板の検査が可能な汎用性の高い検査装置を実現できる。
【0052】
本例では、互いに直交する導線111と導線112とを採用しているが、2種類の導線は交差していれば良く、直交していることは必須の構成ではない。導線は、一方向のみであっても良い。例えば、磁気センサ基板5の向きを変更可能に基板保持部115を構成したり、ICソケット11の向きを変更可能にソケット保持部151Hを構成すれば良い。この場合には、導線による磁気の作用方向に対して磁気の検出方向が交差するよう、検査対象の磁気センサ基板の向きを変更できる。
【0053】
本例の構成では、ヘルムホルツコイル10が作用する磁気強度と、磁気センサ基板5による磁気計測値(磁気強度)と、を比較する回路としての機能や、導線111、112に流れる交流電流の周波数を変化させたときの磁気計測値(磁気強度)の減衰率(変化率)を求める回路としての機能を、制御装置17に具備させている。これらの機能については、別の演算処理装置に持たせても良い。例えば、ヘルムホルツコイル10による磁気強度や、磁気センサ基板5による磁気計測値(磁気強度)、等のデータを制御装置17から取得した演算処理装置が、磁気強度と磁気計測値との比較結果を出力することも良い。また、導線111、112に流れる交流電流の周波数と、磁気計測値(磁気強度)と、の組合せのデータ等を制御装置17から取得した演算処理装置が、周波数に対する磁気強度の減衰率(変化率)を演算して出力することも良い。
【0054】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0055】
1 検査装置
10 ヘルムホルツコイル(コイル)
10C 円筒状コイル
11 ICソケット(基板ソケット)
111、112 導線
115 基板保持部
117 ホールドカバー
15 搬送台
150 基台
151 可動ベッド
151H ソケット保持部
17 制御装置
5 磁気センサ基板
51 磁気検出素子
図1
図2
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図12