(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064176
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ワイヤ状金属微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/04 20060101AFI20240507BHJP
B22F 1/062 20220101ALI20240507BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240507BHJP
【FI】
B22F9/04 Z
B22F1/062
B22F1/00 L
B22F1/00 K
B22F1/00 M
B22F1/00 N
B22F1/00 R
B22F1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172573
(22)【出願日】2022-10-27
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】林 大和
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 優介
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 芳男
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017AA08
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA05
4K017BA06
4K017BA10
4K017CA04
4K017DA01
4K017DA07
4K017EF10
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA07
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4K018BA10
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4K018BB02
4K018BB04
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】ワイヤ状金属微粒子を簡易に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】結晶配向性を有する金属塊を溶媒中に配置し、前記溶媒を媒質として前記金属塊に超音波を照射してワイヤ状金属微粒子を得る工程を含む、ワイヤ状金属微粒子の製造方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶配向性を有する金属塊を溶媒中に配置し、前記溶媒を媒質として前記金属塊に超音波を照射してワイヤ状金属微粒子を得る工程を含む、ワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記金属塊は、金属箔、金属棒、金属線及び金属粒子から選択される1種以上である、請求項1に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記金属塊は、厚みが30μm以下の金属箔である、請求項1に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記金属塊は、銅、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、アルミニウム、亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、鉄、インジウム及びマグネシウムから選択される1種以上を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属塊は、(110)面に優先配向している、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒は、前記金属塊の金属種よりも標準電極電位が負電位側に高く、且つ前記金属種に対して還元性を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒は、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖状炭化水素類、脂肪酸類及び芳香族類から選択される1種以上を含む、請求項6に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記超音波は、周波数が15kHz~200kHz、強度が0.5W/cm3以上の条件で照射される、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記ワイヤ状金属微粒子は、アスペクト比が5以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤ状金属微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、触媒、色材、塗料、はんだ材料、金属インク、金属ペーストなどの様々な用途で用いられている。このような金属微粒子の製造方法として、特許文献1には、金属塊に超音波を照射する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、金属微粒子として、ワイヤ状(線状)の金属微粒子(以下、「ワイヤ状金属微粒子」という)に対するニーズが高まっている。例えば、タッチパネルなどに用いられる透明導電膜には、ワイヤ状金属微粒子を含むペーストが用いられることがある。
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、球状の金属微粒子を簡易に製造することができるものの、ワイヤ状金属微粒子を製造することが難しいという問題がある。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、ワイヤ状金属微粒子を簡易に製造し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、原料として結晶配向性を有する金属塊を用い、この金属塊に超音波を照射することにより、ワイヤ状金属微粒子が簡易に得られることを見出し、本発明の実施形態を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の実施形態は、結晶配向性を有する金属塊を溶媒中に配置し、前記溶媒を媒質として前記金属塊に超音波を照射してワイヤ状金属微粒子を得る工程を含む、ワイヤ状金属微粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、ワイヤ状金属微粒子を簡易に製造し得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るワイヤ状金属微粒子の製造方法を説明するための概略図である。
【
図2】実施例1における超音波の照射前及び照射後の三角フラスコ内の状態を示す写真である。
【
図3】実施例1で作製したワイヤ状銅微粒子のFE-SEM写真である。
【
図4】実施例1で用いた圧延銅箔のXRD測定の結果である。
【
図5】実施例1で作製したワイヤ状銅微粒子のXRD測定の結果である。
【
図6】I
0の算出のために作製したワイヤ状銅微粒子のXRD測定の結果である。
【
図7】特開2011-89156号公報の実施例1で用いられた原料の電解銅箔、及び超音波の照射によって生成した銅微粒子のXRD測定の結果である。
【
図8】特開2011-89156号公報の実施例1で作製された銅微粒子のFE-SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良などを行うことができる。以下の実施形態に開示されている複数の構成要素は、適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、以下の実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0011】
本発明の実施形態に係るワイヤ状金属微粒子の製造方法は、結晶配向性を有する金属塊を溶媒中に配置し、溶媒を媒質として金属塊に超音波を照射してワイヤ状金属微粒子を得る工程を含む。このような構成とすることにより、ワイヤ状金属微粒子を簡易に製造することができる。この理由について、理論により限定されることを意図しないが、
図1の概略図を用いて説明する。
図1(a)に示されるように、結晶配向性を有する金属塊(1)は、結晶粒(2)が特定の方向に優先的に配列した構造を有する。このような金属塊(1)に超音波を照射すると、超音波キャビテーションと呼ばれる微小な気泡が発生する。超音波キャビテーションとは、溶媒中に生じた超音波キャビテーションの界面と金属塊(1)の表面との間で生じる異種界面反応であり、準断熱的な圧縮/膨張のサイクルを繰り返して最終的に圧壊する。超音波キャビテーションの発生から圧壊に到る一連の過程では、超音波キャビテーションそれ自体は極めて高温・高圧となっており、さらに圧壊の際には衝撃波やジェット流も生じる。このような超音波キャビテーションの挙動により、溶媒中に配置された金属塊(1)の表面では、極めて微小でエネルギー密度の高い物理的な破砕が進行する。その結果、
図1(b)に示されるように、金属塊(1)を構成する結晶粒(2)の脆弱な面が壊れて微粒化する。超音波の照射を更に続けると、
図1(c)に示されるように、すべり面で金属粒がすべり方向に動き、ワイヤ状金属微粒子(3)を形成すると本発明者は考えている。
【0012】
ここで、本明細書において「ワイヤ状金属微粒子」とは、金属微粒子のワイヤ長(長手方向の長さ)とワイヤ径(短手方向の長さ)との比率(以下、「アスペクト比」という)が5以上の金属微粒子を意味する。ワイヤ状金属微粒子の用途によって好ましいアスペクト比の範囲は異なる。一例として透明導電膜に用いられる場合、アスペクト比は、100以上が好ましく、1000以上がより好ましい。アスペクト比の上限は、特に限定されないが、典型的に50000である。金属微粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡によって観察することによって求めることができる。
【0013】
また、本明細書において「結晶配向性」とは、I/I0が30以上であるものを意味する。Iは、原料(超音波を照射する前)の金属塊のX線回折(XRD)測定において、最も強いピーク強度を意味する。また、I0は、金属塊に超音波を照射することで得られたワイヤ状金属微粒子のXRD測定において、Iに対応する回折角(2θ)でのピーク強度を意味する。XRD測定に用いるワイヤ状金属微粒子は、次のようにして作製する。まず、300mLのフラスコに入れた100mLのエタノール(30℃)中に3gの金属塊(例えば、金属塊が金属箔である場合は、1cmの金属箔の四隅を折り曲げた状態とする)を配置した後、周波数24kHz、出力150W(強度1.5W/cm3)、液温30℃の条件で超音波を216時間照射する。超音波の照射後24時間静置して上澄み液を採取し、上澄み液を室温(25℃)・真空雰囲気で24時間乾燥させてワイヤ状金属微粒子を得る。
【0014】
ワイヤ状金属微粒子は、一次粒子の状態であり得るが、複数のワイヤ状金属微粒子が凝集した二次粒子の状態であってもよい。
ワイヤ状金属微粒子の平均粒径は、原料の金属塊の種類や超音波の条件に依存するため、特に限定されないが、典型的に1nm~100μmである。
ここで、本明細書において「ワイヤ状金属微粒子の平均粒径」とは、動的光散乱法によって測定される、体積換算の累積50%におけるワイヤ状金属微粒子の粒径のことを意味する。動的光散乱法に用いるサンプルは、超音波の照射後24時間静置して得られる上澄み液を用いる。
【0015】
原料として用いられる金属塊としては、特に限定されないが、金属箔、金属棒、金属線及び金属粒子から選択される1種以上とすることができる。すなわち、金属塊として、金属箔、金属棒、金属線又は金属粒子を単独で用いてもよいし、金属箔、金属棒、金属線及び金属粒子から選択される2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような形状の金属塊であれば、超音波の照射によってワイヤ状金属微粒子が生成され易くなる。
【0016】
金属塊は、ワイヤ状金属微粒子の生成速度(生産効率)の観点から、表面積が大きいことが好ましい。例えば、金属箔や金属線などの、アスペクト比の高い形状を有するものは、超音波のキャビテーションを受ける表面積も大きいため好適である。特に、金属塊が金属箔の場合、厚みが30μm以下の金属箔とすることが好ましい。このような厚みの金属箔であれば表面積が大きいため、超音波の照射による金属箔の破砕を短時間で進行させ、ワイヤ状金属微粒子の生成速度を高めることができる。
【0017】
金属塊は、特に限定されないが、銅、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、アルミニウム、亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、鉄、インジウム及びマグネシウムから選択される1種以上を含むことができる。すなわち、金属塊は、上記の元素のいずれか1種の金属から構成してもよいし、又は上記の元素の2種以上を含む合金から構成してもよい。このような元素から構成される金属塊であれば、超音波の照射によってワイヤ状金属微粒子が生成され易くなる。
【0018】
なお、金属塊の金属純度や合金組成についても、特に限定されないが、強度や硬度が著しく高い金属又は合金の場合には、超音波による破砕に要する時間が長くなる傾向にある。そのような場合には、超音波の照射条件や溶媒組成などを適宜に再調整して、超音波キャビテーションによる破砕をさらに促進させるようにすることが望ましい。
また、特定の超音波の設定条件において破砕されない材料を反応系内に敢えて入れておくことで、その破砕されない材料にワイヤ状金属微粒子が担持されるようにすることや、その破砕されない材料をワイヤ状金属微粒子でコーティングすること、その破砕されない材料とワイヤ状金属微粒子とを複合化又は合金化させるようにすることなども可能である。そのような破砕されない材料としては、超音波反応で微細化しないものであれば特に限定されない。当該材料の例としては、上記した金属以外の各種金属や合金、セラミックス、ポリマー、ゴムなどが挙げられる。また、当該材料の形状についても、特に限定されない。また、コーティング性を向上させることが要請される場合には、電気めっきや各種表面処理などを併用してもよい。
【0019】
金属塊は、(110)面に優先配向していることが好ましい。このように(110)面に優先配向した金属塊であれば、超音波の照射によってワイヤ状金属微粒子が生成され易くなる。なお、本明細書において「(110)面に優先配向している」とは、(110)面が他の面よりも優先的に配向していることを意味する。
金属塊は、(110)面以外に(111)面にも配向していることが好ましい。このように配向した金属塊であれば、超音波の照射によって(111)面がすべり面となってワイヤ状金属微粒子が生成され易くなる。
【0020】
溶媒としては、破砕対象の金属塊の金属種よりも標準電極電位(vs.SHE)が負電位側に高く、且つその金属種に対して還元性を有することが好ましい。このような特性を有する溶媒であれば、生成されるワイヤ状金属微粒子の酸化を抑制することができる結果、金属塊の物性や結晶構造(配向性など)を反映した破砕が進行し、ワイヤ状金属微粒子が生成され易くなると考えられる。
このような溶媒は、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖状炭化水素類、脂肪酸類及び芳香族類から選択される1種以上を含む。すなわち、溶媒として、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖状炭化水素類、脂肪酸類又は芳香族類を単独で用いてもよいし、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖状炭化水素類、脂肪酸類及び芳香族類から選択される2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
溶媒は、超音波を伝達するための媒質(媒体)として用いられるが、超音波キャビテーションによる金属塊の破砕効果は、溶媒の物理的・化学的な特性によって変化することが知られている。例えば、沸点や粘度の高い溶媒中では、キャビテーション発生個数(或いは頻度)自体は減少するものの、個々のエネルギーは大きくなるので、キャビテーションによる破砕効果はむしろ高くなる。また、溶媒の種類や溶媒中に溶け込んでいる気体の種類に対応して、キャビテーションの圧壊の際の温度や圧力も変化する。また、溶媒によっては、金属塊を破砕して生成されたワイヤ状金属微粒子と反応して金属腐食を引き起こし、また、それに伴って金属錯体を形成してしまう虞もある。このため、溶媒としては、超音波キャビテーションによる金属塊の破砕効果を高めてワイヤ状金属微粒子の生成効率を促進せしめることができ、且つ生成されるワイヤ状金属微粒子の金属腐食や金属錯体の形成などを生じる虞のないものを、適宜に選択することが必要である。そのような条件に適合するためには、より具体的には、複数種類の溶媒を組み合わせることや、さらに還元剤や分散剤を添加すること、あるいは雰囲気ガスを用いた置換によって作業雰囲気における熱伝導度や化学的還元能力などを向上させることなどが有効である。
【0022】
溶媒の粘度は、高過ぎないようにすることが好ましい。具体的には、溶媒の粘度は、10c・P以下であることが好ましい。溶媒の粘度が高くなり過ぎると、超音波の照射によるキャビテーションが生成し難くなって、金属塊の破砕によるワイヤ状金属微粒子の生成の進行が鈍化してしまう。
【0023】
貴金属(金、銀、白金、パラジウムなど)以外の金属種から構成される金属塊を用いる場合、超音波の照射によって生成するワイヤ状金属微粒子の酸化を抑制するために、金属塊を溶媒中に配置して超音波を照射する前に、溶媒のみに対して超音波を照射することで十分に脱気を行って、その溶媒中の溶存酸素を取り除くようにすることが好ましい。また、金属塊を溶媒中に配置して超音波を照射する際には、不活性ガス又は還元性ガスで溶媒をパージしながら超音波を照射してもよい。
【0024】
溶媒には、還元剤を更に添加してもよい。還元剤の例としては、水酸化リチウムアルミニウム、チオ硫酸ナトリウム、過酸化水素水、硫化水素、ボラン、ジボラン、ヒドラジン、ヨウ化カリウム、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸などが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。還元剤を用いることにより、例えば、銅(Cu)のような、還元剤を添加しなければ酸化が進んでしまう虞の高いワイヤ状金属微粒子を製造する場合などに、その酸化を抑制することができる。
還元剤の添加量や、溶媒と還元剤との配合割合は、使用する金属塊の種類に対応して適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0025】
貴金属から構成される金属塊を用いる場合、貴金属は化学的に安定であるため、上記のような還元剤は必ずしも必要ではなく、生成するワイヤ状金属微粒子が大気雰囲気中で酸化する虞もほとんどない。一方、銅よりも標準電極電位(vs.SHE)が負電位側にある金属から構成される金属塊の場合には、還元剤を添加しないと、酸化してしまう虞がある。したがって、そのような金属から構成される金属塊を原材料として用いる場合には、還元剤を添加することが好ましい。その場合の還元剤の添加量は、金属に対する濃度比(還元剤/金属)で、0.001~5とすることが望ましい。還元剤の濃度が0.001よりも低いと、超音波の照射によって生成するワイヤ状金属微粒子の酸化を抑制できないことがある。また、還元剤の濃度が5よりも高いと、超音波の照射の際に、金属塩、金属錯体などのような、目的外の副生成物を生成してしまう虞がある。
【0026】
溶媒には、生成したワイヤ状金属微粒子を溶媒中に効率良く分散させるために、界面活性剤や保護ポリマーなどを更に添加してもよい。界面活性剤や保護ポリマーとしては、いわゆる分散剤として用いられている一般的なものを使用することが可能であるが、その分散の対象となるワイヤ状金属微粒子に対して化学的親和性を示して吸着するものであることが好ましい。
【0027】
金属塊に対して照射する超音波の周波数は、特に限定されないが、15kHz~200kHzとすることが好ましい。超音波の周波数を15kHz以上とすることにより、溶媒中での波長が長くなって金属塊を通り抜けてしまい、ワイヤ状金属微粒子を得ることが難しくなることを抑制できる。また、超音波の周波数を200kHz以下とすることにより、超音波によって発生する個々のキャビティのエネルギーが小さくなり、金属塊を破砕してワイヤ状金属微粒子を生成する効率が低下することを抑制できる。したがって、超音波の周波数を上記のような15kHz~200kHzという範囲内(周波数領域内)に設定することにより、ワイヤ状金属微粒子を効率良く製造することが可能となる。また、そのような周波数領域内で、超音波の周波数を適宜調節することにより、金属塊の破砕速度や得られるワイヤ状金属微粒子の大きさを制御することができる。
【0028】
金属塊に対して照射する超音波の強度は、特に限定されないが、0.5W/cm3以上とすることが好ましい。このような範囲に超音波の強度を制御することにより、金属塊の破砕効果を高めることができるため、ワイヤ状金属微粒子の生成速度を向上させることができる。
【0029】
金属塊に対して照射する超音波の照射時間は、一般的に、短時間であると破砕や分散・混合の効果が強く現れ、長時間であると凝集の効果が強く現れる。したがって、超音波の照射時間は、目的とするワイヤ状金属微粒子の大きさに応じて制御すればよい。具体的には、金属塊の破砕が進行するにつれて、ワイヤ状金属微粒子は微細化するが、やがてその大きさ(粒径)は最小値に達する。そして、その後はワイヤ状微粒子の凝集の進行が支配的となって再び粗大化する。よって、超音波の照射時間を上記の粒径が最小値に達する時間よりも短い時間に設定した場合には、その時間内では微細化が進行途中の段階にあるので、その照射時間に対応した微細な粒径を有するワイヤ状金属微粒子が得られる。そして、超音波の照射時間を上記の最小値に達する時間丁度に設定することで、最小の粒径を有するワイヤ状金属微粒子を得ることができる。また、超音波の照射時間を上記の粒径が最小値に達する時間よりも長い時間に設定した場合には、凝集が支配的に進行するので、その設定時間に対応した大きな粒径のワイヤ状金属微粒子が得られる。この傾向は、銀、アルミニウム、金、インジウム、マグネシウム、パラジウム、白金、錫、亜鉛などのような比較的軟らかい金属種において顕著である。
【0030】
超音波を照射する際の温度については、特に限定されないが、溶媒、還元剤、分散剤の沸点温度以下であることが好ましい。これは、これらの沸点を超えた温度では還流装置などが必要になるとともに、製造装置に超音波が与える負荷が大きくなる虞が高いからである。
【0031】
超音波の照射は、ソノリアクタなどの既存の超音波照射装置を用いて行うことができる。特に、超音波照射装置の発振・出力方式や装置構造などについては、特に限定されず、例えば、市販の超音波発生装置などを用いてもよいし、市販の超音波発生装置を適宜アレンジして用いてもよい。
【0032】
また、ワイヤ状金属微粒子の生成効率を高める観点からは、超音波の照射の際に溶媒中でキャビテーションを均一に発生させることができるように、溶媒を撹拌可能な撹拌装置を用いてもよい。
【0033】
本発明の実施形態に係るワイヤ状金属微粒子の製造方法は、上記の工程(結晶配向性を有する金属塊を溶媒中に配置し、溶媒を媒質として金属塊に超音波を照射する工程)の後に、生成したワイヤ状金属微粒子を溶媒から分離する工程を更に含むことができる。
分離方法としては、特に限定されず、溶媒置換や遠心分離などを用いることができる。
【0034】
上記のようにして得られたワイヤ状金属微粒子は、触媒、色材、塗料、はんだ材料、金属インク、金属ペーストなどの様々な用途に用いることができる。その中でも、このワイヤ状金属微粒子は、タッチパネルなどに用いられる透明導電膜を形成するために用いられる金属ペーストに用いるのに好適である。
【実施例0035】
以下、本発明の実施形態を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
原料として、厚みが18μmの圧延銅箔を準備した。この圧延銅箔は、後述するように(110)面に優先配向している。このような(110)面に優先配向している圧延銅箔は、公知の方法で製造することができ、例えば、最終冷間圧延工程における総加工度を高く(例えば、95%以上に)することで製造することができる。この圧延銅箔3gを1cm四方の正方形に切断し、圧延銅箔同士が重ならないように四隅を折り曲げた後、100mLのエタノールが入った300mLの三角フラスコに加えた。次に、このフラスコを、水が注がれた本多電子株式会社製のソノリアクタHSR-301にセットした。そして、エタノールの温度を30℃、周波数を24kHz、強度を1.5W/cm3として超音波を所定の時間照射し、以下の評価を行った。
【0037】
<目視観察>
超音波の照射前及び照射後(1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、30時間、54時間及び144時間の照射後)の三角フラスコ内の状態を示す写真を
図2に示す。
図2に示されるように、超音波の照射時間が長くなるにつれて圧延銅箔が崩れて微細化している様子が確認できた。
【0038】
<電子顕微鏡観察>
超音波の照射後(1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、30時間、54時間及び144時間の照射後)24時間静置して上澄み液を少量採取した。採取した上澄み液をエタノールで希釈した後、マイクログリッド上に滴下し、これをFE-SEM(株式会社日立製作所製のS-5000)によって観察した。観察倍率は5万倍とした。その結果を
図3に示す。
図3に示されるように、超音波を照射することによってワイヤ状銅微粒子が生成されることが確認できた。特に、超音波を3時間以上照射することにより、ワイヤ状銅微粒子が生成されることが確認できた。また、超音波の照射時間が長くなるにつれてワイヤ状銅微粒子のアスペクト比が大きくなることが確認でき、少なくとも超音波を6時間照射した時点でアスペクト比が5以上のワイヤ状銅微粒子が生成されることを確認した。
【0039】
<平均粒径の測定>
所定の時間の超音波の照射後24時間静置して上澄み液を少量採取し、上澄み液に含まれるワイヤ状銅微粒子の平均粒径を動的光散乱法によって測定した。この測定には、レーザドップラー動的光散乱装置(日機装株式会社製のUPA-EX150型)を用いた。
その結果、3時間の超音波の照射後のサンプルでは、ワイヤ状銅微粒子の平均粒径が300~400nmであったのに対し、144時間の超音波の照射後のサンプルでは、ワイヤ状銅微粒子の平均粒径が900nmであった。これは、照射時間が長いほど、ワイヤ状銅微粒子が多く生成し、それらが凝集した2次粒子が形成されたためであると考えられる。
【0040】
<X線回折(XRD)による配向面の分析>
原料として用いた圧延銅箔、及び超音波の照射後(24時間、48時間、72時間、144時間、168時間、216時間及び312時間の照射後)24時間静置して上澄み液を採取し、上澄み液を室温(25℃)・真空雰囲気で24時間乾燥させて得られたワイヤ状銅微粒子について、X線回折装置を用いて配向面の分析を行った。測定条件は以下の通りとした。
装置:Bruker製、2DPhaser 2nd Gen
線源:CuKα、1.54184Å
検出器:Lynxeye(1Dモード)
管球電流:10mA
管球電圧:30kV
測定範囲:10°~80°
ステップ幅:0.054670°
スキャンスピード:0.109339deg/秒
発散スリット:1mm
ソーラースリット:2.5°
エアスキャッタースクリーン:3mm
Kβフィルター:2.5
測定モード:Two Theta/Theta
モード:PSD高速スキャン
PSD開口幅:5.831443°
XRD測定の結果を
図4及び5に示す。
【0041】
図4に示されるように、原料として用いた圧延銅箔では、(111)面への配向を表す約43.5°の回折角(2θ)におけるピークと、(100)面への配向を表す約50.6°の回折角(2θ)におけるピークと、(110)面への配向を表す約74.2°の回折角(2θ)におけるピークとが確認された。なお、X線回折の消滅測に対応し、
図4並びに後述する
図5及び6において、約50.6°の回折角(2θ)におけるピークを(100)ではなく(200)と表示し、約74.2°の回折角(2θ)におけるピークを(110)ではなく(220)と記載している。これらのピークのうち(110)面への配向を表すピークが最も大きく、(110)面に優先配向していることが確認された。
また、
図5に示されるように、超音波の照射時間が長くなるにつれて、(110)面への配向を表すピークが大幅に減少し、(111)面への配向を表すピークや(100)面への配向を表すピークも小さくなった。この結果から、超音波照射によって(100)面や(110)面が壊れて微粒化し、(111)面がすべり面となって動きワイヤ状銅微粒子を形成したものと推察される。
さらに、
図4のXRD測定の結果から、原料として用いた圧延銅箔の最も強いピーク強度Iは、(110)面への配向を表す約74.2°の回折角(2θ)において136495であったのに対し、
図5のXRD測定の結果(超音波を216時間照射後の結果)から得られたワイヤ状銅微粒子の約74.2°の回折角(2θ)におけるピーク強度I
0は532であった。したがって、I/I
0は256.6となった。
【0042】
なお、上記とは別の実験として、上記と同じ圧延銅箔を用い、上記と同じ条件(ただし、超音波の照射時間は216時間である)でワイヤ状銅微粒子を得た。このようにして得られたワイヤ状銅微粒子のXRD測定を行った。その結果を
図6に示す。
図6の結果から得られたワイヤ状銅微粒子の約74.2°の回折角(2θ)におけるピーク強度I
0は3829であった。したがって、I/I
0は35.6となった。
ここで、上記と同じ圧延銅箔を用い、上記と同じ条件でワイヤ状銅微粒子を得たにも関わらずI
0の値が異なった原因は不明であるが、圧延銅箔を正方形に切断して圧延銅箔同士が重ならないように四隅を折り曲げる操作や、上澄み液の採取の仕方によってばらつきが生じている可能性があると発明者は考えている。
【0043】
(比較例1)
特開2011-89156号公報に記載の実施例1を比較例1とした。
特開2011-89156号公報の発明者の一名は、本発明の発明者の一名と同じである。この比較例1において原料として用いられた銅箔の種類については特に言及されていないが、実際には電解銅箔が用いられている。この比較例1における原料の電解銅箔、及び超音波の照射によって生成した銅微粒子のXRDの結果(特開2011-89156号公報の
図2)を参考として
図7に示す。
図7に示されるように、原料の電解銅箔では、(111)面への配向を表す約43.5°の回折角(2θ)におけるピークと、(100)面への配向を表す約50.6°の回折角(2θ)におけるピークと、(110)面への配向を表す約74.2°の回折角(2θ)におけるピークとが確認されているが、これらのピークのうち(111)面への配向を表すピークが最も大きく、(111)面に優先配向していることがわかる。また、このXRD測定の結果からI/I
0を算出した結果、0.92となった。なお、この比較例1では、I及びI
0は(111)面のピーク強度である。
【0044】
また、この比較例1で生成した銅微粒子のFE-SEMの写真(特開2011-89156号公報の
図4)を参考として
図8に示す。
図8から明らかなように、この比較例1で得られた銅微粒子は球形である。
【0045】
以上の結果からわかるように、本発明の実施形態によれば、ワイヤ状金属微粒子を簡易に製造し得る方法を提供することができる。
【0046】
したがって、本発明の実施形態は、以下の態様とすることができる。
(1) 結晶配向性を有する金属塊を溶媒中に配置し、前記溶媒を媒質として前記金属塊に超音波を照射してワイヤ状金属微粒子を得る工程を含む、ワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(2) 前記金属塊は、金属箔、金属棒、金属線及び金属粒子から選択される1種以上である、(1)に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(3) 前記金属塊は、厚みが30μm以下の金属箔である、(1)又は(2)に記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(4) 前記金属塊は、銅、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、アルミニウム、亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、鉄、インジウム及びマグネシウムから選択される1種以上を含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(5) 前記金属塊は、(110)面に優先配向している、(1)~(4)のいずれか一つに記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(6) 前記溶媒は、前記金属塊の金属種よりも標準電極電位が負電位側に高く、且つ前記金属種に対して還元性を有する、(1)~(5)のいずれか一つに記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(7) 前記溶媒は、アルコール類、アルデヒド類、アミン類、単糖類、多糖類、直鎖状炭化水素類、脂肪酸類及び芳香族類から選択される1種以上を含む、(1)~(6)のいずれか一つに記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(8) 前記超音波は、周波数が15kHz~200kHz、強度が0.5W/cm3以上の条件で照射される、(1)~(7)のいずれか一つに記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。
(9) 前記ワイヤ状金属微粒子は、アスペクト比が5以上である、(1)~(8)のいずれか一つに記載のワイヤ状金属微粒子の製造方法。