(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064225
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】アイソレータ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/36 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
H01P1/36 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172655
(22)【出願日】2022-10-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業「超伝導SISミキサを用いた低雑音マイクロ波増幅器の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 崇文
(72)【発明者】
【氏名】増井 翔
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 佳徳
(57)【要約】
【課題】小型化、広帯域作動及び低消費電力が可能なアイソレータを提供する。
【解決手段】周波数ミキサ11及び周波数ミキサ12は縦列接続され、局部発信器3は、ミキサ11,12に接続され、かつ、同一周波数の局部信号をミキサ11,12に入力可能であり、ミキサ11に入力された信号の周波数は、局部信号によりアップコンバージョンされ、ついでミキサ12に入力されてダウンコンバージョンされ、位相遅延器22は、ミキサ11のアップコンバージョン信号の位相を遅延可能であり、移相器21は、局部信号の位相を変換してミキサ11及びミキサ12間で局部信号の位相差を生じさせるアイソレータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数ミキサ、第2周波数ミキサ、局部発信器、位相遅延器、及び、移相器を含み、
前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサは、縦列接続され、
前記局部発信器は、前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサに接続され、かつ、同一周波数の局部信号を前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサに入力可能であり、
前記第1周波数ミキサには、アイソレート対象の信号を入力可能であり、
前記第1周波数ミキサに入力された前記信号の周波数は、前記局部信号によりアップコンバージョンされ、
前記アップコンバージョンされた前記信号の周波数は、前記第2周波数ミキサに入力されてダウンコンバージョンされ、前記ダウンコンバージョンされた周波数の前記信号は、前記第2周波数ミキサから出力され、
前記位相遅延器は、前記第1周波数ミキサにより周波数がアップコンバージョンされた前記信号の位相を遅延可能であり、
前記移相器は、前記局部信号の位相を変換して前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサ間において前記局部信号の位相差を生じさせることが可能な、
アイソレータ。
【請求項2】
前記遅延された前記信号の位相遅延量及び前記位相差は、下記関係式(A)及び下記関係式(B)で定義され、前記信号の進行方向に進む進行波の利得が、前記進行方向とは逆方向に進む後退波の利得よりも大きくなるように、前記関係式(A)のΦup0(度)、及び、前記関係式(B)のΦLO0(度)が設定可能な、
請求項1記載のアイソレータ。
関係式(A)
Φup(度)=Φup0(度)+180(度)×n
Φup(度):前記位相遅延量
n:整数
関係式(B)
ΦLO(度)=ΦLO0(度)+180(度)×m
ΦLO(度):前記位相差
m:整数
【請求項3】
前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサは、超伝導体‐絶縁体‐超伝導体(SIS)接合を用いたSIS準粒子ミキサである、請求項1又は2に記載のアイソレータ。
【請求項4】
さらに、印加手段を含み、
前記印加手段は、前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサにバイアス電圧を印加可能であり、
前記第1周波数ミキサに印加される前記バイアス電圧は、前記第2周波数ミキサに印加されるバイアス電圧より前記第1周波数ミキサに適したバイアス電圧である、
請求項3に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記位相遅延器及び前記移相器は、任意構成要素である、
請求項4記載のアイソレータ。
【請求項6】
前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサは、同一の基板上に搭載されている、
請求項3に記載のアイソレータ。
【請求項7】
前記信号がマイクロ波であり、マイクロ波用途である請求項3に記載のアイソレータ。
【請求項8】
単方向増幅器として機能することが可能な、請求項3に記載のアイソレータ。
【請求項9】
請求項3に記載のアイソレータを含む超伝導エレクトロニクス機器。
【請求項10】
電波望遠鏡又は量子コンピュータの一部又は全部を構成する請求項9記載の超伝導エレクトロニクス機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
アイソレータは、入力信号等の進行波に対しては低損失で伝送し、反射波等の後退波に対しては減衰させる非可逆回路素子である。例えば、電波天文分野では、宇宙からの微弱な電波(マイクロ波等)を検出する装置に、アイソレータが利用されている。アイソレータとしては、例えば、下記の先行文献に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】L. Zeng et al., IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES, VOL. 66, NO. 5, pp. 2154 - 2160 MAY 2018
【非特許文献2】B. Abdo et al., PRX Quantum 2, 040360, December 2021
【非特許文献3】B J. Chapman et al., PHYSICAL REVIEW X 7, 041043, 2017
【非特許文献4】S. Montazeri et al., IEEE Trans. MTT, Vol. 64, Jan 2016、p.178-p.187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波天文分野は、マルチビーム化による観測効率の向上が目指されており、マイクロ波用のアイソレータに対しては、大規模集積化の要請による小型化、及び、広帯域でのアイソレート機能が求められている。さらに、電波天文分野での受信機では、冷却低雑音増幅器等の消費電力に起因する発熱が無視できないため、超伝導素子を用いた受信機のマルチビーム化のためには、回路構成素子の低消費電力化が求められている。しかしながら、非特許文献1に開示のアイソレータは、サイズが数センチメートル単位となり大規模集積化には不向きである。非特許文献2及び非特許文献3に開示の各アイソレータは、動作周波数が狭帯域であり、回路構成が複雑で大規模集積化には不向きである。非特許文献4のアイソレータは、単方向増幅器であり、アイソレータとして機能するが、消費電力が大きいという問題がある。これらの問題は、量子コンピュータ等の超伝導素子を用いる分野で共通する。
【0005】
そこで、本発明は、小型化が可能であり、広帯域で動作可能であり、かつ、低消費電力であるアイソレータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のアイソレータは、
第1周波数ミキサ、第2周波数ミキサ、局部発信器、位相遅延器、及び、移相器を含み、
前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサは、縦列接続され、
前記局部発信器は、前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサに接続され、かつ、同一周波数の局部信号を前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサに入力可能であり、
前記第1周波数ミキサには、アイソレート対象の信号を入力可能であり、
前記第1周波数ミキサに入力された前記信号の周波数は、前記局部信号によりアップコンバージョンされ、
前記アップコンバージョンされた前記信号の周波数は、前記第2周波数ミキサに入力されてダウンコンバージョンされ、前記ダウンコンバージョンされた周波数の前記信号は、前記第2周波数ミキサから出力され、
前記位相遅延器は、前記第1周波数ミキサにより周波数がアップコンバージョンされた前記信号の位相を遅延可能であり、
前記移相器は、前記局部信号の位相を変換して前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサ間に前記局部信号の位相差を生じさせることが可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型化が可能であり、広帯域で動作可能であり、かつ、低消費電力であるアイソレータを提供できる。本発明のアイソレータを、例えば、電波天文分野に使用すれば、高度なマルチビーム化(例えば、1000ビーム)の実現に貢献可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1のアイソレータの構成を示す回路図である。
【
図2】
図2は、実施例1のアイソレータの作動原理を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例2のアイソレータの構成を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例2のアイソレータにおいて、位相遅延量を変化させた場合の進行波S21及び後退波S12の利得の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2のアイソレータの周波数特性の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例3のアイソレータの回路図である。
【
図7】
図7は、実施例3のアイソレータの構成図である。
【
図8】
図8は、実施例3のアイソレータの一機能を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例3のアイソレータの一機能を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例3のアイソレータの一機能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアイソレータは、前記遅延された前記信号の位相遅延量及び前記位相差が、下記関係式(A)及び下記関係式(B)で定義され、前記信号の進行方向に進む進行波の利得が、前記進行方向とは逆方向に進む後退波の利得よりも大きくなるように、前記関係式(A)のΦup0(度)、及び、前記関係式(B)のΦLO0(度)が設定可能であるという態様であってもよい。
関係式(A)
Φup(度)=Φup0(度)+180(度)×n
Φup(度):前記位相遅延量
n:整数
関係式(B)
ΦLO(度)=ΦLO0(度)+180(度)×m
ΦLO(度):前記位相差
m:整数
【0010】
前記態様において、前記Φup0及び前記ΦLO0の組み合わせは、例えば、移相器の接続箇所(例えば、前記第1周波数ミキサに接続されているか、又は、前記第2周波数ミキサに接続されているか)によって、適宜設定できる。例えば、前記移相器が、前記第2周波数ミキサに接続され、前記第1周波数ミキサに入力される前記局部信号を基準にした場合に前記第2周波数ミキサに入力される前記局部信号に位相差を生じさせる場合、前記Φup0=45度かつ前記ΦLO0=45度の場合に、進行波の利得が最大になり、かつ後退波の利得が最小となって、アイソレート機能が最大になる。これとは逆に、前記移相器が、前記第1周波数ミキサに接続され、前記第2周波数ミキサに入力される前記局部信号を基準にした場合に前記第1周波数ミキサに入力される前記局部信号に位相差を生じさせる場合、前記Φup0=45度かつ前記ΦLO0=135度の場合に、進行波の利得が最大になり、かつ後退波の利得が最小となって、アイソレート機能が最大になる。また、前記Φup0及び前記ΦLO0の組み合わせを適宜設定することにより、アイソレーションの向きを逆転させることも可能である。前記態様において、理論的には、前記ΦLO0=0度及び90度の場合では、進行波の利得と後退波の利得が同じになり、アイソレーションが起きないため、前記態様では、前記ΦLO0を、0度及び90度以外に設定するという態様であってもよい。
【0011】
本発明のアイソレータにおいて、前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサが、超伝導体‐絶縁体‐超伝導体(SIS)接合を用いたSIS準粒子ミキサである、という態様であってよい。SIS準粒子ミキサは、SISが超伝導素子として動作する温度以下においてギャップ電圧幅(ΔVg)の周波数換算(eΔVg/h;eは素電荷、hはプランク定数)であるギャップ周波数以上の局部発振周波数信号について、両側波帯(DSB)ミキサとして動作する。SIS準粒子ミキサは、基板上に形成することが可能であり、アイソレータの小型化が図れる。又は、本発明のアイソレータに使用する周波数ミキサは、例えば、超伝導素子を使用しない一般的なマイクロ波用の周波数ミキサであってもよい。SIS準粒子ミキサ以外のミキサとしては、例えば、ジョセフソンミキサ、及び、HEB(hot electron bolometer)ミキサがある。なお、本発明において、変換利得等の観点から、SIS準粒子ミキサを使用する態様であってもよい。
【0012】
前記態様において、本発明のアイソレータは、さらに、印加手段を含み、前記印加手段は、前記第1周波数ミキサ(第1準粒子ミキサ)及び前記第2周波数ミキサ(第2準粒子ミキサ)にバイアス電圧を印加可能であり、前記バイアス電圧は、前記第2周波数ミキサよりも前記第1周波数ミキサに適したバイアス電圧である、という態様であってもよい。本態様において、第1準粒子ミキサ及び第2準粒子ミキサのそれぞれに、同一のバイアス電圧を印加してもよいし、又は、異なるバイアス電圧を印加してもよい。前記「前記第2周波数ミキサよりも前記第1周波数ミキサに適したバイアス電圧」とは、例えば、前記第1周波数ミキサにおいてアップコンバージョンされた進行波の利得(Gmix1up)がダウンコンバージョンされた後退波の利得(Gmix1down)よりも大きく(Gmix1up>Gmix1down)、かつ、前記第2周波数ミキサにおいてダウンコンバージョンされた後退波の利得(Gmix2down)がアップコンバージョンされた進行波の利得(Gmix2up)よりも大きい(Gmix2down>Gmix2up)ことである。
【0013】
前記印加手段を含む態様において、前記位相遅延器及び前記移相器は、任意構成要素であってもよい。すなわち、前記印加手段を含む態様では、前記位相遅延器及び前記移相器が無くともアイソレータとして機能する。したがって、前記印加手段を含む態様において、前記位相遅延器及び前記移相器は、本発明のアイソレータに、含まれていてもよく、含まれていなくてもよく、又は、いずれか一方を含んでいてもよい。
【0014】
本発明のアイソレータは、前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサが、同一の基板上に搭載(又は形成)されている、とういう態様であってもよい。本態様であれば、大規模集積化が可能である。本態様において、前記両周波数ミキサに加え、前記局部発信器、位相遅延器及び移相器の少なくとも一つの素子が同じ基板に搭載(又は形成)されていてもよく、その他の素子も同じ基板に搭載(又は形成)されていてもよい。
【0015】
本発明のアイソレータにおいて、信号の伝送路として、伝送路自体に周波数選択性のある例えば矩形導波管を用いる場合には、矩形導波管の遮断周波数特性を用いて伝送信号の濾波を行うことができる。また、信号の伝送路として周波数選択性を利用できないストリップ線路等を用いる場合には、第1周波数ミキサ(アップコンバータ)や第2周波数ミキサ(ダウンコンバータ)毎に、それぞれ所定の周波数成分を選択する濾波器を設けることもできる。
【0016】
本発明のアイソレータにおいて、一つの前記局部発信器から前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサに前記局部信号を入力してもよいし、二つ以上の局部発信器から前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサに前記局部信号を入力してもよい。前記局部発信器は、特に制限されず、例えば、ジョセフソン発信器を使用することができる。ジョセフソン発信器は、極低温の環境下、THz帯において動作し、かつ高い集積度を容易に実現できる発信器である。ジョセフソン発信器の製造プロセスにおいて、SIS準粒子ミキサ用の超伝導膜とジョセフソン発信器用の超伝導膜を共通の膜で構成することができ、その結果、同じ基板にSIS準粒子ミキサと局部発信器を形成することが可能となる。本発明において、ジョセフソン発信器以外としては、超伝導素子であるFFO発信器(Flux Flow Oscillator)がある。また、本発明において、前記位相遅延器及び前記移相器は、位相制御回路を有する装置を使用できる。例えば、前記位相制御回路としては、移相遅延特性を有する伝送線路、分布乗数回路による遅延素子、インダクタ等の集中乗数素子がある。前記移相器は、前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサの双方の前記局部信号に位相差を生じさせることができればよいので、前記伝送線路、前記遅延素子、又は、前記集中乗数素子等を前記第1周波数ミキサ及び前記第2周波数ミキサの少なくとも一方に接続すれば、前記移相器として機能する。
【0017】
本発明のアイソレータにおいて、前記信号がマイクロ波であってもよく、この場合、本発明のアイソレータは、マイクロ波用途である。
【0018】
本発明のアイソレータは、単方向増幅器として機能してもよい。
【0019】
本発明の超伝導エレクトロニクス機器は、本発明のアイソレータを含む。本態様において、前記超伝導エレクトロニクス機器は、例えば、電波望遠鏡又は量子コンピュータの一部又は全部を構成するものであってもよい。
【実施例0020】
図1及び
図2に基づき、本発明のアイソレータの作動原理を説明する。
【0021】
まず、
図1に、本実施例のアイソレータの回路図を示す。
図1に示すとおり、本実施例のアイソレータは、2つの周波数ミキサ(Mixer1、Mixer2)11及び12、2つの位相制御回路(位相遅延器Φ1、移相器Φ2)21及び22、1つの分配器(Divider)4、及び、1つの局部発信器(LO)3から構成される。位相制御回路は、位相遅延器(Φ1)22及び移相器(Φ2)21として機能する。
図1において、「I」、「R」及び「L」は、それぞれ、前記周波数ミキサ11及び12において、中間周波数(IF)ポート、無線周波数(RF)ポート、及び、局部発信器(LO)ポートを示す。
図1に示すアイソレータにおいて、ポート1(port1)からの入力信号の周波数fsは、第1周波数ミキサ(Mixer1)11において、局部発信器(LO)3から入力される局部信号の周波数fLOにより、fup=fLO±fsにアップコンバージョンされ、ついで、第2周波数ミキサ(Mixer2)12において、fsにダウンコンバージョンされてポート2(Port2)に出力される。
【0022】
2つの周波数ミキサ(Mixer1、Mixer2)11と12の間は、アップコンバージョンされた周波数を位相遅延させる位相遅延器(Φ1)22を介して接続されている。局部発信器(LO)3には分配器(Divider)4が接続され、分配器(Divider)4は二つの伝送線路で、それぞれの周波数ミキサ(Mixer1)11及び周波数ミキサ(Mixer2)12に接続されており、二つの伝送線路の内、周波数ミキサ(Mixer 2)12側に移相器(Φ2)21が配置されている。局部発信器(LO)3が発生した局部信号は、分配器(Divider)4によって分配され、移相器(Φ2)21により、周波数ミキサ(Mixer1)11が理想的な伝送線路で、位相遅延が0と仮定した時の、周波数ミキサ(Mixer2)12側を基準にした時の位相差Φ2で、それぞれの周波数ミキサ(Mixer1、Mixer2)11と12に入力される。また、周波数ミキサ(Mixer1)11及び周波数ミキサ(Mixer2)12間において、位相遅延器(Φ1)22により、アップコンバージョンされた信号に位相差が生じる。なお、本発明は、
図1の構成に限定されず、例えば、移相器(Φ2)21を第1周波数ミキサ(Mixer1)11側に配置してもよく、移相遅延量Φ2及び位相差Φ1の組み合わせを調整すれば、アイソレータとして機能する。
【0023】
図1のアイソレータでは、ポート1(port1)から入力信号が入力され、ポート2(port2)から出力信号が出力される進行波において、前記入力信号の周波数及び前記出力信号の周波数は同一となる。また、
図1のアイソレータでは、前記位相差及び前記位相遅延の条件設定により、入力信号の分離(アイソレーション)が生じる。本発明のアイソレータでは、帯域制限装置を使用しないため、例えば、直流付近から局部発信(LO)周波数といった広帯域での作動が可能である。なお、本発明のアイソレータの二つの周波数ミキサにおいて、外部からの信号を最初に入力するミキサを第1周波数ミキサとし、外部に出力するミキサを第2周波数ミキサとする。したがって、
図1の回路図に示すアイソレータにおいて、周波数ミキサ(Mixer1)11に、ポート1から信号を入力する場合、周波数ミキサ(Mixer1)11が第1周波数ミキサとなり、周波数ミキサ(Mixer2)12が第2周波数ミキサとなる。逆に、ポート2から信号を入力する場合、周波数ミキサ(Mixer2)12が第1周波数ミキサとなり、周波数ミキサ(Mixer1)11が第2周波数ミキサとなる。
【0024】
【0025】
まず、周波数ミキサ(Mixer1)11のポート1に印加される入力信号電圧は、下記数1で示される。
【0026】
【0027】
前記数1において、V0=1とする。また、周波数ミキサ(Mixer1、Mixer2)11と12に印加される局部発信電圧(VLO1、VLO2)は、位相差Φ2を用いて、下記数2のように表すことができる。
【0028】
【0029】
そして、数1におけるV
inは、
図1の(β)において、周波数ミキサ(Mixer1)11によってアップコンバージョンされ、下記数3のようになる。下記数3の式の右辺において、前半の条件は、上側バンド(USB)の信号を示し、後半の条件は、下側バンド(LSB)の信号を示す。
【0030】
【0031】
前記数3において、V
upで示す信号は、アップコンバージョンされた周波数であり、位相Φ1で遅延する。そして、
図1(γ)において、下記数4の信号V
upとなる。
【数4】
【0032】
その後、
図1(δ)において、前記数4の信号V
upは、周波数ミキサ(Mixer2)12により、下記数5にように、ダウンコンバージョンされて出力電圧V
21となり、その周波数は入力周波数と同じとなる。
【数5】
【0033】
他方、ポート2からポート1に流れる信号(後退波)の出力電圧V
12は、下記数6のように導出することができる。
【数6】
【0034】
前記数5及び前記数6のそれぞれに示す数式は、上側バンド(USB)信号と下側バンド(LSB)信号に由来する2つの出力電圧が、異なる位相条件で合成されることを表しており、位相遅延器(Φ1)22及び移相器(Φ2)21で設定される位相関係により、非相反性又はアイソレーションが生じることになる。
【0035】
次に、前記数5及び前記数6のそれぞれに示す数式に基づき、
図2(a)に、
図1の(α)(β)(γ)(δ)の各位置における側波帯のベクトル図を示す。
図2(a)に示すように、ポート1からポート2に向かう進行波S21では、2つの側波帯が同位相で合成され、一方、ポート2からポート1に向かう後退波S12においては、側波帯は逆位相で打ち消されている。また、
図2(b)に、位相遅延量(Φ1)が、0,π/4、π/2、及び、3π/4において、位相差が0から360度に変化した場合の進行波S21(点線)及び後退波S12(実線)の利得(dB)の変化を示す。
図2(b)に示すように、位相遅延量(Φ1)が0及びπ/2の時は、進行波S21及び後退波S12の利得の変化は同じであるが、位相遅延量(Φ1)がそれぞれ、π/4及び3π/4の場合、位相差(Φ2)がπ/4+nπ/2(nは、0以上の整数)の時に、利得の変化が相互に逆方向になり、これらの場合に、アイソレータとして機能が最適になることが分かる。例えば、位相遅延量(Φ1)が45度(π/4)かつ位相差(Φ2)が45度(π/4)の場合、又は、位相遅延量(Φ1)が135度(3π/4)かつ位相差(Φ2)が135度(3π/4)である時に、ポート1からポート2の方向に流れる進行波S21の利得が最大になり、ポート2からポート1の方向に流れる後退波S12の利得が最低になり、これらの場合、ポート1からポート2への方向のアイソレータとしての機能が最高になる。なお、
図1のアイソレータにおいて、異なる位相の組み合わせ、例えば、Φ1が45度、かつΦ2が135度の場合などによって、進行波の向きが変わる。なお、位相遅延量(Φ1)がπ/2かつ位相差(Φ2)が(n+1)π/2(n:整数)の場合、
図1の回路図で示す装置は、ジャイレータ(gyrator)として機能する。
2つの周波数ミキサとしては、Mini-circuits社製の製品番号ZX05-C42-S+の周波数ミキサを使用した。この周波数ミキサは、1.0~4.2GHzのRF及びLO周波数帯、及びDC(直流付近)~1.5GHzのIF周波数帯をカバーするものである。また、位相を調整可能な移相器として、Pasternack社製の製品番号PE8244の移相器を使用した。この移相器を使用し、各周波数ミキサ間の位相遅延を発生させ、かつ、各周波数ミキサに入力する局部信号に位相差を発生させた。また、この他に、局部信号発信器(Agilent社製の製品番号N5183A)、分配器(Minicircuit社製の製品番号ZX10-2-42-S+)及び二つの減衰器(API/Inmet社製の製品番号18AH-05、5dB)を用いた。