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特開2024-64260ハードコート材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064260
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】ハードコート材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20240507BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20240507BHJP
   G06N 3/0455 20230101ALI20240507BHJP
   G06N 3/047 20230101ALI20240507BHJP
【FI】
G16C60/00
B05D5/00 B
G06N3/0455
G06N3/047
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172713
(22)【出願日】2022-10-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】石井 融
(72)【発明者】
【氏名】松下 広樹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 彰朗
(72)【発明者】
【氏名】長野 尭
(72)【発明者】
【氏名】麸山 解
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075CA02
4D075CA13
4D075CA22
4D075CB06
4D075CB07
(57)【要約】
【課題】ハードコート材料の探索技術を改善する。
【解決手段】情報処理装置10が実行するハードコート材料の探索方法であって、所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、ハードコート材料情報に相当する潜在空間5上の潜在変数を出力するVAEエンコーダ3と、潜在空間5上の任意の潜在変数を入力として所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダ4と、をそれぞれ訓練するステップと、VAEエンコーダ3と、VAEデコーダ4と、ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定するステップと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が実行するハードコート材料の探索方法であって、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練するステップと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定するステップと、
を含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探索方法であって、
潜在空間の任意の変数を入力として前記複数の物性の予測値を出力する物性予測モデルを訓練するステップを含み、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータは、前記物性予測モデルの訓練に使用され、
前記特定するステップにおいて、前記物性予測モデルに基づく最適化処理により前記所望のハードコート材料に対応する潜在変数を探索する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項3】
請求項2に記載の探索方法であって、
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータの一部を前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のハードコート材料を特定する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項4】
請求項3に記載の探索方法であって、さらに
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータの一部を前記物性予測モデルにも入力することで前記所望のハードコート材料を特定する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項5】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータを前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のハードコート材料を特定する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、基材密着性及び/又は硬度に関する情報を含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項7】
請求項6に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、さらに、ヘイズ、透明性、透過鮮明度、耐擦傷性、帯電防止性及び粘度からなる群から選択される1以上に関する情報を含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項8】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記訓練するステップにおいて、ハードコート材料として用いられる組成物の実績データと、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項9】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記最適化処理はベイズ最適化処理である、ハードコート材料の探索方法。
【請求項10】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の物性に係るデータの少なくとも一部が、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報である、ハードコート材料の探索方法。
【請求項11】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、基材密着性、硬度、透過鮮明度、及びヘイズを含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項12】
制御部を備え、ハードコート材料の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練し、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定する情報処理装置。
【請求項13】
情報処理装置が実行するハードコート材料の探索をするプログラムであって、コンピュータに、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練することと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定することと
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハードコート材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から機械学習により新規材料を探索する技術が知られている。例えば非特許文献1及び2では、新規の薬剤をベイズ最適化等により探索する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Rafael Gomez-Bombarelliet. al. “Automatic Chemical Design Using a Data-Driven Continuous Representation of Molecules”ACS Cent. Sci. 2018, 4, 2, 268-276.
【非特許文献2】Ryan-Rhys Griffiths et. al. “Constrained Bayesian Optimization for Automatic Chemical Design using Variational Autoencoders”Chem. Sci. 2020, 11, 577-586.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び2に記載の物質の探索技術は薬剤を探索対象としたものであるところ、新規のハードコート材料を探索することについては従来技術では考慮されていなかった。換言するとハードコート材料の探索技術には改善の余地があった。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、ハードコート材料の探索技術を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、
情報処理装置が実行するハードコート材料の探索方法であって、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練するステップと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定するステップと、
を含む。
【0007】
(2)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(1)に記載の探索方法であって、
潜在空間の任意の変数を入力として前記複数の物性の予測値を出力する物性予測モデルを訓練するステップを含み、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータは、前記物性予測モデルの訓練に使用され、
前記特定するステップにおいて、前記物性予測モデルに基づく最適化処理により前記所望のハードコート材料に対応する潜在変数を探索する。
【0008】
(3)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(2)に記載の探索方法であって、
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータの一部を前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のハードコート材料を特定する。
【0009】
(4)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(3)に記載の探索方法であって、さらに
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータの一部を前記物性予測モデルにも入力することで前記所望のハードコート材料を特定する。
【0010】
(5)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(1)に記載の探索方法であって、
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータを前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のハードコート材料を特定する。
【0011】
(6)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性が、基材密着性及び/又は硬度に関する情報を含む。
【0012】
(7)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(6)に記載の探索方法であって、
前記複数の物性が、さらに、ヘイズ、透明性、透過鮮明度、耐擦傷性、帯電防止性及び粘度からなる群から選択される1以上に関する情報を含む。
【0013】
(8)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(1)乃至(7)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記訓練するステップにおいて、ハードコート材料として用いられる組成物の実績データと、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練する。
【0014】
(9)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(2)乃至(4)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記最適化処理がベイズ最適化処理である。
【0015】
(10)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(1)乃至(9)のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性に係るデータの少なくとも一部が、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報である。
【0016】
(11)本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法は、(1)乃至(10)に記載の探索方法であって、
前記複数の物性が、基材密着性、硬度、透過鮮明度、及びヘイズを含む。
【0017】
(12)本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、
制御部を備え、ハードコート材料の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練し、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定する。
【0018】
(13)本開示の一実施形態に係るプログラムは、
情報処理装置が実行するハードコート材料の探索をするプログラムであって、コンピュータに、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練することと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定することと
を実行させる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法、情報処理装置、及びプログラムによれば、ハードコート材料の探索技術を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索技術の概要を示す図である。
図2】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の概要を示すフローチャートである。
図3】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法を実行する情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。
図4】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第1の具体例を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第1の具体例に係るフローチャートである。
図6】ペナルティの例を示す図である。
図7】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第2の具体例を示す図である。
図8】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第2の具体例に係るフローチャートである。
図9】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第2の具体例の変形例を示す図である。
図10】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第3の具体例を示す図である。
図11】本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第3の具体例に係るフローチャートである。
図12】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
図13】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
図14】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
図15】多成分材料の組成比を探索する場合の探索手法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態に係るハードコート材料の探索技術ついて、図面を参照して説明する。
【0022】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0023】
まず、図1及び図2を参照して本実施形態の概要について説明する。本実施形態に係るハードコート材料の探索技術では図1に示す実験データ1及び公開データベース2(公開DB2)が用いられる。本探索技術による探索対象のハードコート材料(以下、HC材料ともいう)は、主要成分として、樹脂、重合開始剤等を含む。HC材料は、任意成分として有機溶剤、微粒子(主に透明性のある有機微粒子)等を含むこともある。かかるハードコート材料に含まれる樹脂は複数種類であってもよい。ハードコート材料は、例えばCOP基材用HC材料(COP(シクロオレフィンポリマー)基材に対する密着性が高いHC材料)、及びAG-HC材料(Anti-Glare(防眩性)に優れたHC材料)を含む。またハードコート材料は、クリアHC材料、フレキシブルHC材料、反射防止HC材料、高屈折率HC材料、転写HC材料、アンチブロッキングHC材料、防汚HC材料、帯電防止HC材料、低屈折率HC材料、PMMA(ポリメチルメタクリレート)基材用HC材料(基材密着性等)など、機能性を付与するあらゆるHC材料を含む。ハードコート材料は表面保護コート剤として用いられる。かかる表面保護は、UV硬化技術を用いたものであり、ハードコート材料による高硬度の塗膜を液晶画面等の表面に形成することで液晶画面等の傷つき等を防止することができる。
【0024】
実験データ1及び公開DB2は、ハードコート材料に係る情報(以下、ハードコート材料情報ともいう。)及びハードコート材料に係る実績データを含む。なお本実施形態に係るハードコート材料の探索技術では実験データ1及び公開DB2の両方が用いられる例を示すが、これに限られない。本実施形態に係るハードコート材料の探索技術において、実験データ1又は公開DB2のいずれか一方のみが用いられてもよい。
【0025】
ハードコート材料情報は、ハードコート材料の分子構造に係る情報を含む。かかるハードコート材料情報は所定の表記法で表される。本実施の形態では所定の表記法は、例えばSMILES表記である。ただし所定の表記法はSMILES表記に限られない。例えば、ハードコート材料情報は、高分子として扱いうる分子構造表現により表現されてもよい。具体的には例えば、ハードコート材料情報は、BigSMILESにより表現されてもよい(Tzyy-Shyang Lin,et. al. “BigSMILES: A Structually-Based Line Notation for Describing Macromolecules” ACS Cent. Sci. 2019, 5 1523-1531)。また例えばハードコート材料情報は、CurlySMILESにより表現されてもよい(Axel Drefahl, “CurlySMILES: a chemical language to customize and annotate encodings of molecular and nanodevice structures”Journal of Cheminformatics 2011, 3:1)。なおハードコート材料の各成分の分子構造表現は、いずれかひとつの表現に統一するのが好ましいが、各成分の分子構造表現は異なっていてもよい。
またハードコート材料は一般的に複数の成分を含む材料(以下、多成分材料ともいう)であることから、ハードコート材料情報は、成分間の比率及び各成分の分子量等を含んでもよい。換言すると、以下に説明する各物性予測モデルの入力には、成分比率、各成分の分子量等が含まれてもよい。なおハードコート材料の各成分が1つのSMILES表記により表現されてもよい。1つのSMILES表記とは、各成分の各SMILES表記を区切り文字で繋げた表記である。区切り文字は、SMILESで使用されない文字、記号等であれば任意のものであってよい。例えば区切り文字は、ドット、ホワイトスペース、?、^等であってもよい。
【0026】
ハードコート材料に係る実績データは、ハードコート材料に係る複数の物性に係るデータ(以下、物性データともいう。)であって実験等により得られたデータを含む。また本実施形態に係るハードコート材料の探索技術は情報処理装置10により実行される方法であり、VAEエンコーダ3とVAEデコーダ4とを含む。換言すると本実施形態に係るハードコート材料の探索技術ではVariational Autoencoder(変分オートエンコーダ、VAE)が用いられる。
【0027】
VAEエンコーダ3は、ハードコート材料情報を入力として、ハードコート材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。潜在変数は、潜在空間5上の変数である。図1では潜在空間5を2次元座標により示しているが潜在空間5の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEデコーダ4は、潜在空間5上の任意の潜在変数を入力として、ハードコート材料情報を出力する学習モデルである。
【0028】
図2に示すように、VAEエンコーダ3及びVAEデコーダ4は、ハードコート材料情報に基づき訓練される(ステップS10)。そして本実施形態に係るハードコート材料の探索技術では学習済みのVAEエンコーダ3及びVAEデコーダ4と、物性データとに基づき、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定する(ステップS20)。かかる特定処理は、各種の手法を採用することができる。例えばステップS20において、物性データにより訓練された予測モデルが用いられてもよい。かかる予測モデルは、潜在空間5上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性の予測値を出力するモデルである。予測モデルが用いられる場合、予測モデルに基づく最適化処理により、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料が特定される。なお後述するように、当該予測モデルを用いない方法により複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料が特定されてもよい。
【0029】
このように本実施形態に係るハードコート材料の探索技術によれば、VAEエンコーダ3、VAEデコーダ4、及び物性データを用いて、任意の物性を満足するハードコート材料を特定することができる。そのため、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができるという点で、ハードコート材料の探索技術が改善される。
【0030】
(情報処理装置の構成)
次に、情報処理装置10の各構成について詳細に説明する。情報処理装置10は、ユーザによって使用される任意の装置である。例えばパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、汎用の電子機器、又は専用の電子機器が、情報処理装置10として採用可能である。
【0031】
図3に示されるように、情報処理装置10は、制御部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14とを備える。
【0032】
制御部11には、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは、CPU(central processing unit)若しくはGPU(graphics processing unit)などの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部11は、情報処理装置10の各部を制御しながら、情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0033】
記憶部12には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えば、RAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは、例えば、SRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えば、EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部12は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部12には、情報処理装置10の動作に用いられるデータと、情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0034】
入力部13には、少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンである。また入力用インタフェースは、例えば、音声入力を受け付けるマイクロフォン、又はジェスチャー入力を受け付けるカメラ等であってもよい。入力部13は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部13は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0035】
出力部14には、少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは、例えば、情報を映像で出力するディスプレイ等である。ディスプレイは、例えば、LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部14は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを表示出力する。出力部14は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0036】
情報処理装置10の機能は、本実施形態に係るプログラムを、情報処理装置10に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、情報処理装置10の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを情報処理装置10として機能させる。すなわち、コンピュータは、プログラムに従って情報処理装置10の動作を実行することにより情報処理装置10として機能する。
【0037】
本実施形態においてプログラムは、コンピュータで読取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読取り可能な記録媒体は、非一時的なコンピュータ読取可能な媒体を含み、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、又は半導体メモリである。プログラムの流通は、例えば、プログラムを記録したDVD(digital versatile disc)又はCD-ROM(compact disc read only memory)などの可搬型記録媒体を販売、譲渡、又は貸与することによって行う。またプログラムの流通は、プログラムを外部サーバのストレージに格納しておき、外部サーバから他のコンピュータにプログラムを送信することにより行ってもよい。またプログラムはプログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0038】
情報処理装置10の一部又は全ての機能が、制御部11に相当する専用回路により実現されてもよい。すなわち、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0039】
本実施形態において記憶部12は、実験データ1、公開DB2、VAEエンコーダ3、及びVAEデコーダ4を記憶する。
【0040】
上述したように実験データ1及び公開DB2は、ハードコート材料情報と、物性データとを含む。例えば物性データは、光学特性、物理化学的特性、耐久性、及び塗材物性に係るデータを含んでよい。光学特性は、例えば、ヘイズ、透明性、防眩性、分光特性、反射率、色差、屈折率、吸光度、発光効率位相差等を含む。物理化学的特性は、硬度、強度、基材密着性(COP密着性ともいう)、屈曲性、耐擦傷性、抵抗、表面張力、誘電率、反応率、透過鮮明度、カール、接触角、表面粗度、伸び率等を含む。また耐久性は、耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐光性、耐候性、保存安定性、燃焼性、耐湿熱性等を含む。塗材物性は、粘度、(水分)、保存安定性等を含む。したがって例えば物性データは、基材密着性、硬度、ヘイズ、透明性、透過鮮明度、耐擦傷性、帯電防止性及び粘度からなる群から選択される1以上に関する情報を含んでよい。以下、本実施の形態では、物性データは、基材密着性、硬度、透過鮮明度、ヘイズ、透明性、及び保存安定性に関する情報を含むものとして説明する。
【0041】
なお、実験データ1、公開DB2、VAEエンコーダ3、及びVAEデコーダ4は、情報処理装置10とは別の外部装置に記憶されていてもよい。その場合、情報処理装置10は、外部通信用インタフェースを備えていてもよい。通信用インタフェースは、有線通信又は無線通信のいずれのインタフェースであってよい。有線通信の場合、通信用インタフェースは例えばLANインタフェース、USBである。無線通信の場合、通信用インタフェースは例えば、LTE、4G、若しくは5Gなどの移動通信規格に対応したインタフェース、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信用インタフェースは、情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信し、また情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信可能である。
【0042】
(第1の具体例)
図4及び図5を参照して、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第1の具体例及び動作について説明する。
【0043】
図4に示すように第1の具体例は、VAEエンコーダ103とVAEデコーダ104と、物性予測モデル106とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ103、VAEデコーダ104、及び物性予測モデル106を記憶する。
【0044】
VAEエンコーダ103は、ハードコート材料情報を入力として、ハードコート材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。上述したようにハードコート材料情報はSMILES表記のデータである。VAEエンコーダ103により出力される潜在変数は、潜在空間105上の変数である。図4では潜在空間105を2次元座標により示しているが潜在空間105の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEエンコーダ103はハードコート材料情報に基づき訓練される。
【0045】
VAEデコーダ104は、潜在空間105上の任意の潜在変数を入力として、ハードコート材料情報を出力する学習モデルである。VAEデコーダ104はハードコート材料情報に基づき訓練される。
【0046】
物性予測モデル106は、潜在空間105上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルである。物性予測モデル106は、物性データに基づき訓練される。かかる訓練は、ある入力に対する物性予測モデル106の出力と、物性データ(学習データ)との誤差に基づくパラメータ修正を行うことにより実行される。ここで物性予測モデル106は、各物性に対応する複数の予測モデルから構成される。つまり本実施形態においては、物性予測モデル106は、基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、透明性に係る予測モデル、及び保存安定性に係る予測モデルから構成される。基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、透明性に係る予測モデル、及び保存安定性に係る予測モデルは、物性データに基づき訓練される。つまり基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、透明性に係る予測モデル、及び保存安定性に係る予測モデルは、それぞれハードコート材料の基材密着性、硬度、透過鮮明度、ヘイズ、透明性、及び保存安定性の実績データにより訓練される。
【0047】
図5は、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第1の具体例に係るフローチャートである。
【0048】
ステップS110:情報処理装置10の制御部11は、VAEエンコーダ103及びVAEデコーダ104を、ハードコート材料情報に基づき訓練する。
【0049】
ステップS120:制御部11は、物性予測モデル106を物性データに基づき訓練する。つまり制御部11は、物性予測モデル106を構成する基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、透明性に係る予測モデル、及び保存安定性に係る予測モデルを、それぞれハードコート材料の基材密着性、硬度、透過鮮明度、ヘイズ、透明性、及び保存安定性の実績データにより訓練する。なお、物性予測モデル106の訓練は、ステップS110におけるVAEエンコーダ103及びVAEデコーダ104の訓練と並行して実行されてもよい。
【0050】
ステップS130:制御部11は、物性予測モデル106に基づく最適化処理により所望のハードコート材料に対応する潜在変数を特定する。かかる最適化処理は、ベイズ最適化処理を含む。つまり例えば制御部11は、ベイス最適化処理により所望のハードコート材料に対応する潜在変数を特定する。
【0051】
ここでベイズ最適化処理において制御部11は、物性予測値に対応するペナルティの合計により定められた総合指標値を最小化する潜在変数を探索する。複数の物性が基材密着性、硬度、透過鮮明度、ヘイズ、透明性、及び保存安定性である場合、当該ペナルティの合計は、基材密着性の予測値に対応するペナルティ、硬度の予測値に対応するペナルティ、透過鮮明度の予測値に対応するペナルティ、ヘイズの予測値に対応するペナルティ、透明性の予測値に対応するペナルティ、及び保存安定性の予測値に対応するペナルティの総和により定められる。
【0052】
図6に、予測値が連続値である場合のペナルティの例を示す。図6に示すように、ペナルティは、関数f0からf5のように定めることができる。例えば関数f0は、予測値が目標範囲である場合においてペナルティが最小となるように設定されている。ここでは予測値の目標が所定の範囲である例を示しているがこれに限られない。予測値の目標は、ピンポイントの値であってもよい。この場合も同様にペナルティを定めることができる。また予測値が離散値情報、カテゴリカル情報である場合である場合、離散データ、カテゴリカルデータのそれぞれに対して適宜ペナルティを定めればよい。
【0053】
制御部11は、ペナルティの合計(以下、総合指標値ともいう。)に基づき、総合指標値を最小化する潜在変数を探索する。当該潜在変数に対応するハードコート材料が、所望のハードコート材料に相当する。なお本実施形態において総合指標値が小さい場合を望ましい場合としたが、これに限られない。例えばペナルティの定め方によっては総合指標値が大きい場合を望ましい場合と定めてもよい。この場合、制御部11は総合指標値を最大化する潜在変数を探索する。
【0054】
ステップS140:制御部11は、ステップS130において特定した潜在変数に対応する所望のハードコート材料をVAEデコーダ104により出力する。具体的には制御部11は、VAEデコーダ104により出力されたハードコート材料情報がSMILESの文法規則に適合しているか否かを確認する。出力されたハードコート材料情報がSMILESの文法規則に適合している場合、制御部11は、当該ハードコート材料情報を所望のハードコート材料として出力する。
【0055】
このように、本実施形態によれば、ハードコート材料情報により訓練されたVAEエンコーダ103及びVAEデコーダ104、及び物性データに基づき訓練された物性予測モデル106を用いて、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索を行うことができる。
【0056】
(第2の具体例)
図7及び図8を参照して、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第2の具体例及び動作について説明する。
【0057】
図7に示すように第2の具体例は、VAEエンコーダ203とVAEデコーダ204と、物性予測モデル206とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、及び物性予測モデル206を記憶する。
【0058】
VAEエンコーダ203は、物性データの一部及びハードコート材料情報を入力として、ハードコート材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。物性データの一部は、複数の物性のうち任意の物性に係るデータである。かかるデータは、連続値情報であってもよく、連続値情報でなくてもよい。換言するとかかるデータは、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報のいずれであってもよい。例えば保存安定性、透過鮮明度、硬度、ヘイズは、カテゴリカル情報であってもよい。本実施形態では、かかる物性データの一部は、保存安定性に係るデータであり、かつカテゴリカル情報(以下、カテゴリカル物性ともいう。)であるとして説明する。
【0059】
上述したようにハードコート材料情報はSMILES表記のデータである。VAEエンコーダ203により出力される潜在変数は、潜在空間205上の変数である。図7では潜在空間205を2次元座標により示しているが潜在空間205の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEエンコーダ203はカテゴリカル物性及びハードコート材料情報に基づき訓練される。つまり本実施形態においてVAEエンコーダ203は、保存安定性に係るデータ及びハードコート材料情報に基づき訓練される。
【0060】
VAEデコーダ204は、カテゴリカル物性及び潜在空間205上の任意の潜在変数を入力として、ハードコート材料情報を出力する学習モデルである。VAEデコーダ204はカテゴリカル物性及びハードコート材料情報に基づき訓練される。
【0061】
物性予測モデル206は、カテゴリカル物性及び潜在空間205上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルである。物性予測モデル206は、カテゴリカル物性及び物性データに基づき訓練される。ここで物性予測モデル206は、各物性に対応する複数の予測モデルから構成される。つまり本実施形態においては、物性予測モデル206は、基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、及び透明性に係る予測モデルから構成される。基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、及び透明性に係る予測モデルは、カテゴリカル物性及び対応する物性データに基づき訓練される。つまり、基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、及び透明性に係る予測モデルは、それぞれハードコート材料の基材密着性の実績データ及び保存安定性の実績データ、硬度の実績データ及び保存安定性の実績データ、透過鮮明度の実績データ及び保存安定性の実績データ、ヘイズの実績データ及び保存安定性の実績データ、並びに透明性の実績データ及び保存安定性の実績データにより訓練される。
【0062】
図8は、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第2の具体例に係るフローチャートである。
【0063】
ステップS210:情報処理装置10の制御部11は、VAEエンコーダ203及びVAEデコーダ204を、ハードコート材料情報及びカテゴリカル物性に基づき訓練する。
【0064】
ステップS220:制御部11は、物性予測モデル206を物性データ及びカテゴリカル物性に基づき訓練する。つまり制御部11は、基材密着性に係る予測モデル、硬度に係る予測モデル、透過鮮明度に係る予測モデル、ヘイズに係る予測モデル、及び透明性に係る予測モデルを、それぞれハードコート材料の基材密着性の実績データ及び保存安定性の実績データ、硬度の実績データ及び保存安定性の実績データ、透過鮮明度の実績データ及び保存安定性の実績データ、ヘイズの実績データ及び保存安定性の実績データ、並びに透明性の実績データ及び保存安定性の実績データにより訓練する。なお、物性予測モデル206の訓練は、ステップS210におけるVAEエンコーダ203及びVAEデコーダ204の訓練と並行して実行されてもよい。
【0065】
ステップS230:制御部11は、物性予測モデル206に基づく最適化処理により所望のハードコート材料に対応する潜在変数を特定する。かかる最適化処理は、ベイズ最適化処理を含む。つまり例えば制御部11は、ベイス最適化処理により所望のハードコート材料に対応する潜在変数を特定する。ベイズ最適化処理において制御部11は、物性予測値に対応するペナルティの合計により定められた総合指標値を最小化する潜在変数を探索する。ペナルティの設定方法は第1の具体例と同様である。
【0066】
ステップS240:制御部11は、ステップS230において特定した潜在変数に対応する所望のハードコート材料をVAEデコーダ204により出力する。具体的には制御部11は、VAEデコーダ204により出力されたハードコート材料情報がSMILESの文法規則に適合しているか否かを確認する。出力されたハードコート材料情報がSMILESの文法規則に適合している場合、制御部11は、当該ハードコート材料情報を所望のハードコート材料として出力する。
【0067】
このように、本実施形態によれば、ハードコート材料情報及びカテゴリカル物性により訓練されたVAEエンコーダ203及びVAEデコーダ204、並びに物性データ及びカテゴリカル物性に基づき訓練された物性予測モデル206を用いて、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。特に第2の具体例に係る方法によれば、実績データにカテゴリカル物性を含む場合であっても、精度良く複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。例えば保存安定性に係る実績データ等は、実験条件又は評価基準等が、実験毎又はデータベース毎によって相違する場合がある。本実施形態によればこのような場合であっても、実績データをカテゴリカル情報又は離散値情報として取り扱うことで精度良く複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。
【0068】
なお物性予測モデル206は、カテゴリカル物性及び潜在空間205上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルであるとして説明したがこれに限られない。物性予測モデル206は、潜在空間205上の潜在変数を入力して、当該潜在変数に対応する物性予測値を出力する学習モデルであってもよい。換言すると物性予測モデル206の入力には、カテゴリカル物性が含まれなくてもよい。例えばカテゴリカル物性が予測対象の物性と独立である場合は、物性予測モデル206にカテゴリカル物性を入力しなくても予測対象の物性を高精度で予測することができる。
【0069】
(第2の具体例の変形例)
図9を参照して、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第2の具体例の変形例について説明する。
【0070】
図9に示すように第2の具体例の変形例は、VAEエンコーダ203とVAEデコーダ204と、物性予測モデル206と、学習済み予測モデル207とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、物性予測モデル206、及び学習済み予測モデル207を記憶する。
【0071】
VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、及び物性予測モデル206は、第2の具体例と同一である。学習済み予測モデル207は、ハードコート材料情報を入力として、当該ハードコート材料情報に対応する物性の予測値を出力する学習モデルである。かかる予測値は、VAEエンコーダ203の入力されるカテゴリカル物性に対応する予測値である。本実施形態において学習済み予測モデル207により出力される予測値は、保存安定性に係る予測値であるものとして説明する。
【0072】
第2の具体例の変形例では、学習済み予測モデル207により予測された物性の予測値(ここでは保存安定性に係る予測値)を、VAEエンコーダ203、VAEデコーダ204、及び物性予測モデル206の入力として用いる。このようにすることで、カテゴリカル物性に係る実績データが不足している場合であっても、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。例えば保存安定性に係る実績データ等は、そもそも実験結果として測定されていない場合、又は明示されていない場合がある。このような場合でも、学習済み予測モデル207を用いることにより、不足する実績データを補うことができる。また不足する実績データを学習済み予測モデル207により補完することで、第2の具体例と同様に、精度良く複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。
【0073】
(第3の具体例)
図10を参照して、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第3の具体例及び動作について説明する。
【0074】
図10に示すように第3の具体例は、VAEエンコーダ303とVAEデコーダ304とを含む。つまりこの場合、記憶部12は、VAEエンコーダ303、及びVAEデコーダ304を記憶する。
【0075】
VAEエンコーダ303は、物性データ及びハードコート材料情報を入力として、ハードコート材料情報に相当する潜在変数を出力する学習モデルである。上述したように物性データはハードコート材料に係る複数の物性値である。かかる物性値は、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報のいずれであってもよい。あるいは物性値は、連続値情報、離散値情報をカテゴリカル情報に変換したものであってもよい。ここでは物性データはカテゴリカル情報であるものとする。上述したようにハードコート材料情報はSMILES表記のデータである。VAEエンコーダ303により出力される潜在変数は、潜在空間305上の変数である。図10では潜在空間305を2次元座標により示しているが潜在空間305の次元数は2に限られない。潜在空間の次元数は3以上であってもよい。VAEエンコーダ303は物性データ及びハードコート材料情報に基づき訓練される。
【0076】
VAEデコーダ304は、潜在空間305上の任意の潜在変数及び物性データを入力として、ハードコート材料情報を出力する学習モデルである。VAEデコーダ304は物性データ及びハードコート材料情報に基づき訓練される。
【0077】
図11は、本開示の一実施形態に係るハードコート材料の探索方法の第3の具体例に係るフローチャートである。
【0078】
ステップS310:情報処理装置10の制御部11は、VAEエンコーダ303及びVAEデコーダ304を、ハードコート材料情報及び物性データに基づき訓練する。
【0079】
ステップS320:制御部11は、潜在空間の中からランダムに選択した潜在変数をVAEデコーダ304に入力して、対応するハードコート材料情報を出力させる。潜在変数の選択方法は各種手法を採用できる。例えば制御部11は、潜在空間から単純にランダムに潜在変数を選択してもよい。また制御部11は、対応する実験データがある既知のハードコート材料に対応する潜在変数の周辺でランダムに潜在変数を選択してもよい。あるいは制御部11は、所望の物性を満たし得る潜在変数の周辺(換言するとターゲットとするハードコート材料の周辺)でランダムに潜在変数を選択してもよい。
【0080】
ステップS330:制御部11は、ステップS320において出力されたハードコート材料情報が所定基準を満たす場合、所望のハードコート材料として出力する。所定基準とは、例えば出力されたハードコート材料情報がSMILESの文法規則に適合していることである。つまり例えば制御部11は、ステップS320において出力されたハードコート材料情報がSMILESの文法規則に適合している場合、当該ハードコート材料情報を、所望のハードコート材料として出力する。
【0081】
このように、本実施形態によれば、ハードコート材料情報及び物性データにより訓練されたVAEエンコーダ303及びVAEデコーダ304を用いて、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。特に第3の具体例に係る方法によれば、複数の物性値の実績データの全てがカテゴリカル情報であったとしても、複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料の探索ができる。
【0082】
なお、実験データ1及び公開DB2は、ハードコート材料に係る情報及びハードコート材料に係る実績データを含むとしたがこれに限られない。実験データ1及び公開DB2は、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データを含んでもよい。ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物は、光学特性、物理化学的特性、耐久性、及び塗材物性のいずれかの特性を必要としない用途で用いられる組成物を含む。またハードコート材料以外の用途で用いられる組成物は、UV硬化型樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、熱可塑性樹脂組成物を含む。かかる組成物は、例えば光学特性を必要としない用途(例えば健材、包材、自動車部品、電子部品等)の組成物を含む。またハードコート材料以外の用途で用いられる組成物は、機械的特性を必要としない用途(光学フィルタ―、液晶、有機EL等)で用いられる組成物を含む。また上述のVAEエンコーダ3、VAEエンコーダ103、VAEエンコーダ203、VAEエンコーダ303、VAEデコーダ4、VAEデコーダ104、VAEデコーダ204、及びVAEデコーダ304、物性予測モデル106、物性予測モデル206、学習済み予測モデル207は、いずれも当該ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データを用いて訓練されてよい。換言すると本実施形態におけるVAEエンコーダ、VAEデコーダ、物性予測モデル、及び学習済み予測モデルは、ハードコート材料として用いられる組成物の実績データと、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとの両方を用いて訓練されてもよい。このようにVAEエンコーダ、VAEデコーダ、物性予測モデル、及び学習済み予測モデルを訓練する処理において、訓練に用いる教師データに広範囲の用途の組成物を含むことにより、外挿による精度の低下を防止することができる。
【0083】
なお、ハードコート材料は多成分材料であるが、ハードコート材料情報は必ずしも全ての成分の情報を含まなくてもよい。本開示の実施形態にかかる手法により、多成分材料の少なくとも一部の成分のみの最適化が行われてもよい。換言すると、本開示の実施形態にかかる手法においては、必ずしも多成分材料の全ての成分の情報が、VAEエンコーダ及びVAEデコーダに入力されなくてもよい。また、本開示の実施形態にかかる手法においては、必ずしも多成分材料の全ての成分の最適化が行わなくてもよい。例えば多成分で用いられる前提の材料において、いずれかの成分を固定して、固定していない成分のみの最適化を行って探索してもよい。同様に多成分材料の成分比率等についても、比率を固定して探索を行ってもよい。
【0084】
ここでハードコート材料等の多成分材料の組成比を探索する場合には、以下の図12から図15に示す各種の手法を取り得る。
【0085】
図12及び図13は、多成分材料の各成分を1つのSMILES表記で表現して用いることにより多成分材料の組成物構造と組成比とを探索する手法の概要を示す図である。図12の手法は、VAEエンコーダ1003とVAEデコーダ1004と物性予測モデル1006とを含む。VAEエンコーダ1003には、ハードコート材料情報に対応する、組成物に係るSMILES(以下、組成物SMILESともいう)が入力され、潜在空間1005上の潜在変数(以下、組成物構造に係る潜在変数ともいう)が出力される。また、VAEデコーダ1004には、かかる潜在変数が入力され、組成物SMILESが出力される。物性予測モデル1006には潜在空間1005上の潜在変数と組成比とが入力されて、物性が出力される。ここで潜在空間1005上の潜在変数は組成物の化学構造情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため図12に示す手法では、当該潜在変数と組成比とが、併せて探索(最適化)される。
【0086】
図13の手法は、VAEエンコーダ1103とVAEデコーダ1104と物性予測モデル1106とを含む。VAEエンコーダ1103には組成物SMILESと組成比とが入力され、潜在空間1105上の潜在変数が出力される。またVAEデコーダ1104にはかかる潜在変数が入力され、組成物SMILESと組成比とが出力される。物性予測モデル1106には、潜在空間1105上の潜在変数が入力されて物性が出力される。ここで潜在空間1105上の潜在変数は、組成物の化学構造情報及び組成比情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため図13に示す手法では、当該潜在変数が探索(最適化)される。
【0087】
図14及び図15は、多成分材料の各成分をそれぞれ別のSMILES表記で表現して用いることにより、多成分材料の各成分の構造と組成比とを探索する手法の概要を示す図である。図14の手法は、VAEエンコーダ1203とVAEデコーダ1204と物性予測モデル1206とを含む。VAEエンコーダ1203には、ハードコート材料情報に対応する各成分のSMILES(以下、各成分SMILESともいう)が入力され、潜在空間1205上の潜在変数が出力される。また、VAEデコーダ1204には、かかる潜在変数が入力され、各成分SMILESが出力される。また物性予測モデル1206には潜在空間1205上の潜在変数と組成比とが入力されて、物性が出力される。ここで潜在空間1205上の潜在変数は、各成分の化学構造情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため図14に示す手法では、当該潜在変数と組成比とが、併せて探索(最適化)される。
【0088】
図15の手法は、VAEエンコーダ1303とVAEデコーダ1304と、物性予測モデル1306とを含む。VAEエンコーダ1303には各成分SMILESと各成分比率とが入力され、潜在空間1305上の潜在変数が出力される。またVAEデコーダ1304には、かかる潜在変数が入力され、各成分SMILESと各成分比率とが出力される。物性予測モデル1306には、潜在空間1305上の潜在変数が入力されて物性が出力される。ここで潜在空間1305上の潜在変数は、各成分の化学構造情報及び各成分比率情報のエッセンスを抽出した数値に対応する。そのため図15に示す手法では、当該潜在変数が探索(最適化)される。
【0089】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 実験データ
2 公開データベース
3、103、203、303、1003、1103、1203、1303 VAEエンコーダ
4、104、204、304、1004、1104、1204、1304 VAEデコーダ
5、105、205、305、1005、1105、1205、1305 潜在空間
10 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 出力部
106、206、1006、1106、1206、1306 物性予測モデル
207 学習済み予測モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2023-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が実行するハードコート材料の探索方法であって、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練するステップと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定するステップと、
を含
前記訓練するステップにおいて、ハードコート材料として用いられる組成物の実績データと、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練するハードコート材料の探索方法。
【請求項2】
請求項1に記載の探索方法であって、
潜在空間の任意の変数を入力として前記複数の物性の予測値を出力する物性予測モデルを訓練するステップを含み、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータは、前記物性予測モデルの訓練に使用され、
前記特定するステップにおいて、前記物性予測モデルに基づく最適化処理により前記所望のハードコート材料に対応する潜在変数を探索する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項3】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータを前記VAEエンコーダ、及び前記VAEデコーダに入力することで前記所望のハードコート材料を特定する、ハードコート材料の探索方法。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、基材密着性及び/又は硬度に関する情報を含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項5】
請求項に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、さらに、ヘイズ、透明性、透過鮮明度、耐擦傷性、帯電防止性及び粘度からなる群から選択される1以上に関する情報を含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項6】
請求項2記載の探索方法であって、
前記最適化処理はベイズ最適化処理である、ハードコート材料の探索方法。
【請求項7】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の物性に係るデータの少なくとも一部が、連続値情報、離散値情報、又はカテゴリカル情報である、ハードコート材料の探索方法。
【請求項8】
請求項1に記載の探索方法であって、
前記複数の物性は、基材密着性、硬度、透過鮮明度、及びヘイズを含む、ハードコート材料の探索方法。
【請求項9】
制御部を備え、ハードコート材料の探索をする情報処理装置であって、
前記制御部は、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練し、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定し、
前記訓練において前記制御部は、ハードコート材料として用いられる組成物の実績データと、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練する情報処理装置。
【請求項10】
情報処理装置が実行するハードコート材料の探索をするプログラムであって、コンピュータに、
所定の表記法で表されたハードコート材料情報を入力として、前記ハードコート材料情報に相当する潜在空間上の潜在変数を出力するVAEエンコーダと、前記潜在空間上の任意の潜在変数を入力として前記所定の表記法で表されたハードコート材料情報を出力するVAEデコーダと、をそれぞれ訓練することと、
前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダと、前記ハードコート材料の複数の物性に係るデータとに基づき、前記複数の物性の全てを満足する所望のハードコート材料を特定することと
を実行させ
前記訓練において、ハードコート材料として用いられる組成物の実績データと、ハードコート材料以外の用途で用いられる組成物の実績データとを用いて、前記VAEエンコーダと、前記VAEデコーダとを訓練するプログラム。