(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064421
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】畦畔及び畦畔の形成方法
(51)【国際特許分類】
E02B 13/00 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
E02B13/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173001
(22)【出願日】2022-10-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、農林水産省、「令和4年度みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業のうち農林水産研究の推進(委託プロジェクト研究)(有機農業推進のための深水管理による省力的な雑草抑制技術の開発)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃介
(57)【要約】
【課題】自走式草刈機の適用に優れ、除草作業の機械化を促進させることが可能な畦畔及び畦畔の形成方法を提供する。
【解決手段】区画された圃場の境界を形成する畦畔41において、横断面が三角形状に形成されている。また、下部が地中に埋設された平板状のコア部材42と、該コア部材42の地上への突出部分を覆うように盛土して形成された畦畔本体部43とを備え、畦畔本体部43は、コア部材42の上縁部42aから地面の方向に下り傾斜する平坦な斜面43a,43aを有し、横断面がコア部材42の上縁部42aを頂部とする三角形状に形成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された圃場の境界を形成する畦畔において、
横断面が三角形状に形成されていることを特徴とする畦畔。
【請求項2】
下部が地中に埋設された平板状のコア部材と、該コア部材の地上への突出部分を覆うように盛土して形成された畦畔本体部とを備え、
前記畦畔本体部は、前記コア部材の上縁部から地面の方向に下り傾斜する平坦な斜面を有し、横断面が前記コア部材の上縁部を頂部とする三角形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の畦畔。
【請求項3】
前記畦畔本体部の圃場に対する占有領域を規定する平板状の領域規定部材を備えていることを特徴とする請求項2記載の畦畔。
【請求項4】
区画された圃場の境界を形成する畦畔の形成方法において、
横断面が台形状の既設畦畔を切土して横断面が三角形状の畦畔を形成するに際し、前記既設畦畔の上面部を切土開始位置として設定し、該切土開始位置から地面の方向に下り傾斜する平坦な斜面を形成することを特徴とする畦畔の形成方法。
【請求項5】
前記既設畦畔に平板状のコア部材を埋設し、該埋設したコア部材の上縁部と、前記既設畦畔の上面部とを上下方向に揃えた状態で、前記コア部材の上縁部を前記切土開始位置として設定することを特徴とする請求項4記載の畦畔の形成方法。
【請求項6】
アーム先端に法面バケットを取り付けたアーム式作業機を準備しておき、
前記アーム式作業機を使用して前記斜面を形成するに際し、前記法面バケットの底板の傾斜角度を前記斜面の傾斜角度に対応させた状態で、前記法面バケットを前記切土開始位置から下り傾斜方向に移動させることを特徴とする請求項4又は5記載の畦畔の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畦畔及び畦畔の形成方法に関し、詳しくは、水田の圃場を所定の大きさに区画する畦畔及び畦畔の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水稲作における畦畔除草は、年に3~4回程度行う必要があり、特に夏場の草刈りは重労働となる。また、近年の農家人口の減少に伴い、少人数で多くの圃場を管理する担い手農家にとって大きな負担になっている。さらに、畦畔雑草は病害虫の発生源にもなることから、除草作業は不可欠なものであり、除草剤の散布で対応する場合もある。しかしながら、除草剤散布はコストや環境負荷の増加を招くだけでなく、畦畔の脆弱化なども懸念され、現状では、多くの農家が刈払機による人力の除草を余儀なくされている。
【0003】
近年では、次世代農業として、ICT(Information and Communication Technology)及びIoT(Internet of Things)、RT(Robot Technology)を活用したスマート農業の導入が進められている。畦畔除草の分野においても、例えば、ラジコン操縦などの遠隔操作が可能な自走式草刈機が開発され、運用に至っている。このような自走式草刈機は、刈払機を用いる従来方式と比較して、人の手で押したり引いたりする必要がないため、除草作業の負担を軽減できるものである(例えば、特許文献1参照。)。なお、特許文献1に記載された自走式草刈機は、走行ユニットと草刈りアタッチとのセットで製品展開がなされている(株式会社ササキコーポレーション製、製品型式RS400+M700)。当該製品の場合、推奨される畦上面幅が59cm以上であり、また、傾斜地での作業が35度以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な圃場整備事業において整備される畦畔は、原則として土構造物であって、横断面は、
図11に示すように、高さ(H)30cm、上幅(W)30cm、法面勾配1:1程度の台形を標準としている。しかしながら、こうした畦畔は、特許文献1に記載されるような、自走式草刈機の安定に必要な幅の走行路が得られないことから、依然として人手に頼る草刈りが主流であり、除草作業労力の十分な省力化には至っていない。
【0006】
そこで本発明は、自走式草刈機の適用に優れ、除草作業の機械化を促進させることが可能な畦畔及び畦畔の形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の構成の畦畔は、区画された圃場の境界を形成する畦畔において、横断面が三角形状に形成されていることを特徴としている。
【0008】
また、第2の構成の畦畔は、下部が地中に埋設された平板状のコア部材と、該コア部材の地上への突出部分を覆うように盛土して形成された畦畔本体部とを備え、前記畦畔本体部は、前記コア部材の上縁部から地面の方向に下り傾斜する平坦な斜面を有し、横断面が前記コア部材の上縁部を頂部とする三角形状に形成されていることを特徴としている。
【0009】
さらに、前記畦畔本体部の圃場に対する占有領域を規定する平板状の領域規定部材を備えていることを特徴としている。
【0010】
加えて、本発明の第1の構成の畦畔の形成方法は、区画された圃場の境界を形成する畦畔の形成方法において、横断面が台形状の既設畦畔を切土して横断面が三角形状の畦畔を形成するに際し、前記既設畦畔の上面部を切土開始位置として設定し、該切土開始位置から地面の方向に下り傾斜する平坦な斜面を形成することを特徴としている。
【0011】
また、第2の構成の畦畔の形成方法は、前記既設畦畔に平板状のコア部材を埋設し、該埋設したコア部材の上縁部と、前記既設畦畔の上面部とを上下方向に揃えた状態で、前記コア部材の上縁部を前記切土開始位置として設定することを特徴としている。
【0012】
さらに、アーム先端に法面バケットを取り付けたアーム式作業機を準備しておき、前記アーム式作業機を使用して前記斜面を形成するに際し、前記法面バケットの底板の傾斜角度を前記斜面の傾斜角度に対応させた状態で、前記法面バケットを前記切土開始位置から下り傾斜方向に移動させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の畦畔によれば、第1の構成では、横断面が三角形状に形成されているので、従来の台形状畦畔では3面であった除草作業面を2面に減らすことが可能となる。これにより、畦畔の面積(非農用地)を拡げずに自走式草刈機の走行安定性に必要な平坦面を大きく、かつ、傾斜の緩やかな斜面とすることができる。また、第2の構成では、下部を地中に埋設した平板状のコア部材と、該コア部材の地上への突出部分を覆う盛土で形成した畦畔本体部とを備え、畦畔本体部の横断面において、コア部材の上縁部を頂部とする三角形状に形成しているので、平板状のコア部材として市販のシート材(例えばプラスチックシート)が適用でき、施工時に直線性が高まるだけでなく、灌漑時には漏水防止効果も得られるという利点がある。とりわけ、三角形状からなる畦畔は、従来では崩れやすい角部分が減って崩れ防止に効果的であるが、万一、崩れて形状変化が起きても、不変な高さ(頂部)を有するコア部材を指標にして、盛土修復が容易に行えることから、保守性にも優れたものである。
【0014】
また、本発明の畦畔の形成方法によれば、第1の構成では、台形状をなす既設畦畔の上面部を切土開始位置として設定するので、既設畦畔をそのまま利用して容易に三角形状畦畔を形成することができる。この場合、斜面に沿った方向に法面バケットを移動させることが可能なアーム式作業機(例えばバックホー)を使用することで、運転席から切土開始位置(例えば丁張(仮設工作物))を見ながら効率的に施工が行えるものである。とりわけ、法面バケットの底板で斜面の平滑な掘削整形が行えることから、安定した三角形状畦畔の形成に資するものである。さらに、第2の構成では、既設畦畔に平板状のコア部材を埋設し、該埋設したコア部材の上縁部と、既設畦畔の上面部とを上下方向に揃えた状態で、コア部材の上縁部を切土開始位置として設定するので、既設畦畔にコア部材を埋設した後、これを指標として、コア部材の両側の土砂を切除する簡単な施工で斜面(整形面)を得ることができる。この場合においても、アーム式作業機(例えばバックホー)を使用することで、運転席からコア部材の位置を見ながら効率的に施工が行え、安定した三角形状畦畔の形成に資するものである。
【0015】
したがって、区画整理や大区画化を図る際の畦畔整備において、三角形状を基本とした畦畔及び畦畔の形成方法を導入することで、自走式草刈機による機械除草が促進され、除草作業労力の十分な省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1形態例を示す畦畔の斜視図である。
【
図3】同じくバックホーを運転操作して畦畔を形成した状態を示す図である。
【
図4】本発明の第1形態例における畦畔の形成方法において、既設畦畔を切土して斜面を形成する工程を示す説明図である。
【
図5】本発明の第1形態例の変形例における畦畔の形成方法において、高低差のある圃場間を区画する既設畦畔を切土して斜面を形成する工程を示す説明図である。
【
図6】本発明の第2形態例を示す畦畔の斜視図である。
【
図8】本発明の第2形態例の変形例を示す畦畔の横断面図である。
【
図9】本発明の第2形態例における畦畔の形成方法において、既設畦畔を切土して斜面を形成する工程を示す説明図である。
【
図10】本発明の第2形態例の変形例における畦畔の形成方法において、既設畦畔を切土して斜面を形成する工程を示す説明図である。
【
図11】従来技術を示す一般的な畦畔の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1乃至
図5は、本発明の第1形態例における畦畔及びその形成方法を示す図である。畦畔11は、
図1及び
図2に示すように、圃場整備事業において区画された圃場(例えば、長辺が100mの矩形状に区切られた稲作圃場)の境界を形成する土畦畔である。圃場全体は、水平な状態に均平化され、互いに隣接する圃場A及び圃場Bそれぞれが同一耕作者(組織)により管理されている。こうした圃場管理が進むことで、既設の台形状畦畔(
図11)に備えられている畦道(人や手押し車などの移動経路)としての機能は失われつつある。そして、本発明の畦畔11は、
図1に示すように、畦畔特有の天端(平面部)が存在しない三角形状であって、一見して、横幅よりも高さが小さく形成され、頂部11aとその両側に平坦な斜面11b,11bとを有している。
【0018】
畦畔11の具体的な形状は、
図2に示すように、横断面が、頂部11aを通る鉛直線CLを中心にして線対称に配置した2つの三角形状からなる略二等辺三角形状に形成されている。ここで、三角形状において、地面(圃場面)Gから頂部11aまでの高さに相当する上下方向長さL1と、鉛直線CLから斜面11bの外縁部までの左右方向長さL2との比が、1:2程度で形成されている。
【0019】
このような三角形状を有する畦畔11は、その高さ(L1)を、従来の台形状畦畔の高さ(H)に対応させて30cmとした場合(
図11も参照)、畦畔11の表面を形成する面数が3面から2面に削減され、さらには、斜面11bの水平方向に対する傾斜が45度から30度の傾斜角度θとなって、傾斜が緩やかになる。これにより、内角30度を含む直角三角形の三辺の比から、斜辺の長さに相当する斜面11bの幅L3が60cmとして得られる。すなわち、特許文献1に記載されるような、自走式草刈機の安定に必要な幅(L3)の走行路面(除草作業面)及び走行路面の緩やかな傾斜(θ)が確保される。
【0020】
ここで、畦畔11の造成には、例えば、バックホーが使用される。バックホー12は、
図3に示すように、アーム式作業機(掘削機)として周知のものであって、履帯走行する下部走行体13と、該下部走行体13の上方に旋回可能に設けられた上部旋回体14とを備えており、上部旋回体14には起伏動かつ水平揺動可能な作業アーム15が、下部走行体13の走行方向前方(紙面手前側)には上下揺動可能なブレード(排土板)16がそれぞれ設けられている。作業アーム15は、上部旋回体14の先端側に取り付けられており、ブームシリンダ17a及び揺動シリンダ(図示せず)により駆動されるブーム17と、該ブーム17の先端側に起伏動可能に取り付けられ、アームシリンダ18aにより駆動されるアーム18と、該アーム18の先端側に回動可能に取り付けられ、バケットシリンダ19aにより駆動される法面バケット19とから大略構成されている。
【0021】
法面バケット19は、アーム18の先端に取り付けるアタッチメントの一種であって、主に、土手や畦畔の掘削及び締め固めを行って、傾斜面に法面を形成する場合に使用される。法面バケット19の底板19bは、平坦な矩形幅広面を有し、揺動方向の前後板端(
図3の左右板端)が先鋭化され、この前端及び後端の刃状の部分を使用して土砂を掘削することが可能である。
【0022】
このように構成されたバックホー12を使用して畦畔11の造成を行う場合、図示は省略するが、施工図面に基づいて、畦畔11を形成する際に基準となる位置や高さ、斜面11bの角度などを出すための丁張作業が行われる。なお、丁張作業に代えて、あるいは、これに加えて、造成予定の畦畔11とバックホー12の位置関係をモニタ上に表示するマシンガイダンスや、造成予定の畦畔11とバックホー12の位置との偏差に応じてバックホー12を半自動で制御するマシンコントロールなどが行われてもよい。こうした寸法管理手段は、例えば、法面バケット19の高さ・位置などを計測する周知のレーザレベルを用いるシステムなどが含まれる。
【0023】
畦畔11の造成予定地(放土地)の近傍に必要量の土砂(盛土材料)を用意した後は、上記基準高さや基準角度などに従って盛土を行っていく。このとき、バックホー12の運転操作において、下部走行体13の向きを畦畔11の長手方向と平行に配置した状態で(
図3)、ブームシリンダ17a及びアームシリンダ18aを駆動させることで、アーム18を造成予定地の略真上に立てた状態とする。そして、バケットシリンダ19aを駆動させることで法面バケット19内の土砂を造成予定地に放出する。
【0024】
盛土の膨らみ部分を押圧あるいは切削する際には、運転操作によって、ブーム17とアーム18との挟み角度及び法面バケット19の傾斜角度がそれぞれ調節される。これにより、盛土の頂部11aの両側部において、法面バケット19の底板19bで締め固められた斜面(整形面)11b,11bが形成され、平滑で見た目の良好な畦畔11となる。このような一連の運転操作を、下部走行体13を畦畔11の長手方向に沿って移動させながら連続して行うことで、長さ100m程の三角形状の畦畔11が形成される。
【0025】
このように、本発明の畦畔11の第1の構成によれば、横断面が三角形状に形成されているので、従来の台形状畦畔では3面であった除草作業面を2面に減らすことが可能となる。これにより、畦畔の面積(非農用地)を拡げずに自走式草刈機の走行安定性に必要な平坦面を大きく、かつ、傾斜の緩やかな斜面11b,11bとすることができる。
【0026】
図4及び
図5は、本発明の第1形態例における畦畔の形成方法において、既設畦畔を利用した畦畔21,31の形成方法を示す畦畔の横断面図である。
図4は、畦畔21を境に隣接する圃場間の高低差がなく均平に整地されているケースである。一方、
図5は、畦畔31を境に隣接する圃場間の高低差が、例えば10cm以上あるケースである。なお、
図5は、その圃場間の高低差から、圃場の大区画化を進めるうえで既設畦畔を解体することが難しいケースでもある。以下の説明において、前記形態例に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0027】
既設畦畔は、
図4及び
図5の点線で示すように、横断面が台形状の一般的な畦畔(
図11も参照)であって、上面部の中央位置(
図4)あるいは畦畔構造に応じた適宜な位置(
図5)が切土開始位置CPとして設定される。そして、既設畦畔を切土して三角形状の畦畔21,31を形成するに際し、切土開始位置CPから地面Gの方向に下り傾斜する平坦な斜面11b,11bを形成する。
【0028】
このような既設畦畔の切土では、例えば、前記形態例と同じバックホー12が使用される。バックホー12は、アーム18の先端に法面バケット19を取り付けた状態で準備されている。そして、運転操作により斜面11bを形成するに際し、法面バケット19の底板19bの傾斜角度を斜面11bの傾斜角度(例えば水平方向に対して30度)に対応させた状態で、法面バケット19を切土開始位置CPから下り傾斜方向(
図4及び
図5の矢印方向)に、左右交互に移動させる。具体的には、法面バケット19の底板19bの前端及び後端の刃状の部分を交互に使用し、切削対象の土砂に対して底板19bを直線状に進行させて行われる。これにより、既設畦畔の左右2箇所の角部(肩部)が取れて、畦畔21,31の表面を形成する面数が3面から2面に削減され、さらには、斜面11bの水平方向に対する傾斜が緩やかになる。
【0029】
ここで、
図4及び
図5の点線(稜線)を含む左右2つの三角形状、つまり、2つの切削断面形状の大きさを比較して分かるように、斜面11bの形成に必要な土砂の切削量は、通常、
図4に示すように、左右で等しいものであるが、隣接圃場間の高低差が大きいものになると、
図5に示すように、高地側(右側)に対して低地側(左側)の切削量が多くなる場合が想定される。したがって、斜面11bの幅も同様であって、左右で同じ幅のもの(
図4)や、左右で異なる幅のもの(
図5)が想定されることになる。
【0030】
こうした一連の運転操作について、下部走行体13を畦畔21,31の長手方向に沿って移動させながら連続して行うことで、長さ100m程の三角形状の畦畔21,31が形成される。そして、長手方向に均一で、かつ、幅広な斜面11bが得られ、自走式草刈機の安定に必要な幅の走行路面(除草作業面)及び走行路面の緩やかな傾斜が確保される。また、形成された2つの斜面11b,11bは、平滑で見た目の良好なものとなる。
【0031】
このように、本発明の畦畔21,31の形成方法における第1の構成によれば、台形状をなす既設畦畔の上面部を切土開始位置CPとして設定するので、既設畦畔をそのまま利用して容易に三角形状畦畔を形成することができる。この場合、斜面11bに沿った方向に法面バケット19を移動させることが可能なアーム式作業機(例えばバックホー12)を使用することで、運転席から切土開始位置(例えば丁張(仮設工作物))CPを見ながら効率的に施工が行えるものである。とりわけ、法面バケット19の底板19bで斜面11bの平滑な掘削整形が行えることから、安定した三角形状畦畔の形成に資するものである。
【0032】
ところで、畦畔の造成において行われる丁張作業では、水糸などの仮設工作物を設置することが想定されるが、例えば、寸法管理が可能な施工部材を用いることも可能である。この場合、畦畔の一部をなす施工部材を指標にして施工管理することで、前記形態例の畦畔と実質的に同一形状(三角形状)が得られるものである。以下では、施工部材42,52を使用した畦畔及びその形成方法を、
図6乃至
図10を参照しながら説明する。
【0033】
図6及び
図7は、本発明の第2形態例における畦畔41を示している。畦畔41は、基本的に、前記第1形態例の畦畔11と同一の外形寸法を有し、下部が地中に埋設された平板状のコア部材(施工部材)42と、該コア部材42の地上への突出部分を覆うように盛土して形成された畦畔本体部43とを備えている。コア部材42は、例えば、長さのある矩形面を一定の厚さ(例えば3~5mm程度)に成形したプラスチックシートが用いられ、盛土の前工程として圃場の区画線上に立てた状態で、直線的に連続して埋設されるものである。コア部材42の地中への埋設深さは、土質や施工条件に応じて適宜設定することができるが、例えば10~15cmが適当である。
【0034】
畦畔本体部43は、コア部材42の上縁部42aから地面Gの方向に下り傾斜する平坦な斜面43a,43aを有し、横断面がコア部材42の上縁部42aを頂部とする三角形状に形成されている。換言すると、コア部材の厚さ方向中央(前記鉛直線CL位置相当)を中心にして線対称に左右側に配置した2つの三角形状からなる略二等辺三角形状に形成されている。また、横断面におけるコア部材42の突出部分の上下方向長さL4と、コア部材42の板面から斜面43aの外縁部までの左右方向長さL5との比が、1:2程度で形成されている。
【0035】
そして、このように構成された本形態例の第2の構成においても、前記形態例における畦畔11と同様の効果、つまり、自走式草刈機の安定に必要な幅(L6)の走行路面(除草作業面)及び走行路面の緩やかな傾斜(θ)が確保される効果が発揮でき、さらに、第2の構成の場合には、下部を地中に埋設した平板状のコア部材42と、該コア部材42の地上への突出部分を覆う盛土で形成した畦畔本体部43とを備え、畦畔本体部43の横断面において、コア部材42の上縁部42aを頂部とする三角形状に形成しているので、平板状のコア部材42として市販のシート材(例えばプラスチックシート)が適用でき、施工時に直線性が高まるだけでなく、灌漑時には漏水防止効果も得られるという利点がある。とりわけ、三角形状からなる畦畔41は、従来では崩れやすい角部分が減って崩れ防止に効果的であるが、万一、崩れて形状変化が起きても、不変な高さ(頂部)を有するコア部材42を指標にして、盛土修復が容易に行えることから、保守性にも優れたものである。
【0036】
ここで、バックホー12を使用して畦畔41の造成を行う場合、造成予定地(放土地)の近傍に必要量の土砂(盛土材料)を用意しておき、一直線状に施工したコア部材42に対して、該コア部材42の地上への突出部分を覆うように盛土を行っていく。このとき、バックホー12の運転操作において、下部走行体13の向きをコア部材42と平行に配置した状態で(
図3も参照)、ブームシリンダ17a及びアームシリンダ18aを駆動させることで、アーム18をコア部材42の略真上に立てた状態とする。そして、バケットシリンダ19aを駆動させることで法面バケット19内の土砂をコア部材42に、つまり、畦畔41の造成予定地に放出する。
【0037】
盛土の膨らみ部分を押圧あるいは切削する際には、運転操作によって、ブーム17とアーム18との挟み角度及び法面バケット19の傾斜角度がそれぞれ調節される。これにより、コア部材42の両側部において、法面バケット19の底板19bで締め固められた斜面(整形面)43a,43aが形成され、平滑で見た目の良好な畦畔41となる。このような一連の運転操作を、下部走行体13を畦畔41の長手方向に沿って移動させながら連続して行うことで、長さ100m程の三角形状の畦畔41が形成される。
【0038】
ここで、図示は省略するが、バックホー12の作業姿勢について、上部旋回体14をコア部材42に対面させた状態(
図3も参照)から、所定角度だけ左旋回した後、ブーム17を同一旋回角度で逆方向に揺動(振り戻し)させると、
図6からも想像できるように、施工地点を斜め方向から見下ろせるようになる。すなわち、オペレータにとって畦畔41の奥行き感を認識でき、法面バケット19の位置決めや移動が容易なものとなり、ひいては施工精度、施工効率の向上に寄与するものとなる。
【0039】
図8は、本発明の第2形態例の変形例における畦畔51を示している。なお、以下の説明において、前記形態例に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。本変形例では、前記形態例の畦畔41と実質的に同一形状(三角形状)を有し、畦畔本体部43の圃場に対する占有領域を規定する平板状の領域規定部材(施工部材)52を備えている。畦畔本体部43の占有領域とは、畦畔51の造成予定地(非農用地)に相当し、平面視矩形状のものである。領域規定部材52は、占有領域に対応する大きさの矩形面を有し、例えば、コア部材42と同一素材のプラスチックシート(木材などの天然物系シートでもよい)が用いられ、コア部材42の埋設時に、該コア部材42の両側に敷設される2枚で1組として構成されている。
【0040】
領域規定部材52を敷設するに際し、長手側一方の板端をコア部材42の板面に当接させて地面Gに配置すると、長手側他方の板端52aによって畦畔51の造成予定地と農用地との境界線が規定される。そして、このように構成された変形例の構成においても、上述の形態例の畦畔41と同様の作用、効果が発揮され、さらに、本形態例の場合には、コア部材42と領域規定部材52との相互作用で視覚的効果が高められ、コア部材42の上縁部42aと領域規定部材52の板端52a,52aとを結んで得られる三角形状がイメージしやすくなり、作業機による放土や斜面43aの形成をより一層容易に行うことができる。とりわけ、こうした平板状の領域規定部材52では、目視において、水糸よりも識別しやすく、しかも、施工後の回収を必要としないことから、簡便である。
【0041】
図9及び
図10は、本発明の第2形態例における畦畔の形成方法において、既設畦畔を利用した畦畔61,71の形成方法を示す畦畔の横断面図である。
図9は、畦畔61を境に隣接する圃場間の高低差がなく均平に整地されているケースである(
図4も参照)。一方、
図10は、畦畔71を境に隣接する圃場間の高低差が、例えば10cm以上あるケースである(
図5も参照)。以下の説明において、前記形態例に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0042】
既設畦畔は、
図9及び
図10の点線で示すように、横断面が台形状の一般的な畦畔(
図11も参照)であって、上面部の中央位置(
図9)あるいは畦畔構造に応じた適宜な位置(
図10)にコア部材42が埋設される。この場合、例えば、既設畦畔に埋め込み溝(縦溝)を形成し、これにコア部材42を差し込んで埋設することができる。コア部材42を埋設するに際し、コア部材42の上縁部42aと、既設畦畔の上面部とを上下方向に揃え、この状態で、コア部材42の上縁部42aが切土開始位置CPとして設定される。そして、既設畦畔を切土して三角形状の畦畔61,71を形成するに際し、切土開始位置CPから地面Gの方向に下り傾斜する平坦な斜面43a,43aを形成する。
【0043】
このような既設畦畔の切土では、例えば、前記形態例と同じバックホー12が使用される。バックホー12は、アーム18の先端に法面バケット19を取り付けた状態で準備されている。そして、運転操作により斜面43aを形成するに際し、法面バケット19の底板19bの傾斜角度を斜面43aの傾斜角度(例えば水平方向に対して30度)に対応させた状態で、法面バケット19を切土開始位置CP、つまり、コア部材42の上縁部42aから下り傾斜方向(
図9及び
図10の矢印方向)に、左右交互に移動させる。具体的には、法面バケット19の底板19bの前端及び後端の刃状の部分を交互に使用し、切削対象の土砂に対して底板19bを直線状に進行させて行われる。これにより、既設畦畔の左右2箇所の角部(肩部)が取れて、畦畔61,71の表面を形成する面数が3面から2面に削減され、さらには、斜面43aの水平方向に対する傾斜が緩やかになる。
【0044】
こうした一連の運転操作について、下部走行体13を畦畔61,71の長手方向に沿って移動させながら連続して行うことで、長さ100m程の三角形状の畦畔61,71が形成される。そして、長手方向に均一で、かつ、幅広な斜面43aが得られ、自走式草刈機の安定に必要な幅の走行路面(除草作業面)が確保される。また、形成された2つの斜面43a,43aは、平滑で見た目の良好なものとなる。
【0045】
そして、このように構成された本形態例の第2の構成においても、前記形態例における畦畔21,31と同様の効果、つまり、既設畦畔をそのまま利用して容易に三角形状畦畔を形成することができる効果が発揮でき、さらに、第2の構成の場合には、既設畦畔に平板状のコア部材42を埋設し、該埋設したコア部材42の上縁部42aと、既設畦畔の上面部とを上下方向に揃えた状態で、コア部材42の上縁部42aを切土開始位置CPとして設定するので、既設畦畔にコア部材42を埋設した後、これを指標として、コア部材42の両側の土砂を切除する簡単な施工で斜面(整形面)43a,43aを得ることができる。この場合においても、アーム式作業機(例えばバックホー12)を使用することで、運転席からコア部材42の位置を見ながら効率的に施工が行え、安定した三角形状畦畔の形成に資するものである。
【0046】
したがって、区画整理や大区画化を図る際の畦畔整備において、前記各形態例の三角形状を基本とした畦畔及び畦畔の形成方法を導入することで、自走式草刈機による機械除草が促進され、除草作業労力の十分な省力化を図ることができる。
【0047】
なお、本発明は、前記各形態例に限定されるものではなく、畦畔は、維持管理が容易で自然環境に配慮した土畦畔であればよく、横断面が三角形状を有する種々の構造が考えられる。例えば、自走式草刈機の作業性を確保する観点から、斜面の傾斜角度が水平方向に対して35度以下であれば好ましく、実施例の畦畔のように、傾斜角度が30度程度に緩やかに設定されと、より好ましい。この場合、自走式草刈機の作業だけでなく、人の移動(歩行)も容易になることから、畦畔上において自走式草刈機のトラブルにも迅速かつ容易に対応できるものとなる。また、施工部材についての材質、形状、施工方法などは任意であり、例えば、コア部材の埋設深さは自立できる必要最低限の深さであればよい。一方、領域規定部材とされる板材を、例えば、木材などの天然素材とすれば、環境保全面についても有益である。さらに、実施形態における畦畔の斜面の形成には、法面バケットを備えたバックホーに代表される汎用機を使用したが、例えば、コア部材の埋設、盛土、斜面の整形といった一連の工程を連続して行える専用機を使用すれば、畦畔整備の効率化をより一段と図ることができる。
【符号の説明】
【0048】
11…畦畔、11a…頂部、11b…斜面、12…バックホー、13…下部走行体、14…上部旋回体、15…作業アーム、16…ブレード、17…ブーム、17a…ブームシリンダ、18…アーム、18a…アームシリンダ、19…法面バケット、19a…バケットシリンダ、19b…底板、21,31,41…畦畔、42…コア部材(施工部材)、42a…上縁部、43…畦畔本体部、43a…斜面、51…畦畔、52…領域規定部材(施工部材)、52a…板端、61,71…畦畔