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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064423
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】畦畔
(51)【国際特許分類】
   E02B 13/00 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
E02B13/00 304Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173003
(22)【出願日】2022-10-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、農林水産省、「令和4年度みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業のうち農林水産研究の推進(委託プロジェクト研究)(有機農業推進のための深水管理による省力的な雑草抑制技術の開発)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃介
(57)【要約】
【課題】高さを部分的に低くして農作業の自動化を促進させることが可能な畦畔を提供する。
【解決手段】区画された圃場の境界を形成する畦畔11において、高さ位置を圃場面に整合した低位置に移動させることが可能な変形部12を備えている。また、変形部12は、回動基端13aと回動先端13bとを有する平坦な板状体13を畦畔幅方向に並べて2枚有し、両板状体13,13の回動先端13b,13bを圃場面に沿う水平方向に向けた下げ位置と、圃場面に沿う水平方向に対して上方に向けた上げ位置とに移動させることが可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された圃場の境界を形成する畦畔において、
高さ位置を圃場面に整合した低位置に移動させることが可能な変形部を備えていることを特徴とする畦畔。
【請求項2】
前記変形部は、回動基端と回動先端とを有する平坦な板状体を畦畔幅方向に並べて2枚有し、両板状体の回動先端を前記圃場面に沿う水平方向に向けた下げ位置と、前記圃場面に沿う水平方向に対して上方に向けた上げ位置とに移動させることが可能であることを特徴とする請求項1記載の畦畔。
【請求項3】
前記2枚の板状体の下側に設置され、加圧流体を得て扁平状態から前記回動先端を押し上げるように膨張する、膨張収縮可能なチューブを備え、
前記2枚の板状体は、互いの回動先端同士を向かい合わせて前記下げ状態とされることを特徴とする請求項2記載の畦畔。
【請求項4】
前記2枚の板状体は、灌漑水による水面上昇変化に追従する浮体構造と、前記追従を一定量で規制する追従規制手段とを有し、互いの回動基端同士を向かい合わせて前記下げ状態とされることを特徴とする請求項2記載の畦畔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畦畔に関し、詳しくは、水田の圃場を所定の大きさに区画する畦畔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の農家人口の減少に伴い、省力・省人化に関する農業技術のニーズが高まっている。そこで、次世代農業として、ICT(Information and Communication Technology)及びIoT(Internet of Things)、RT(Robot Technology)を活用したスマート農業の導入が進められている。水田の水管理においては、情報通信技術を活用したシステムが開発されている。一方で、ロボット技術を活用したトラクタなどの無人走行農機が開発されている。無人走行の分野では、衛星測位技術を用いて圃場を網羅する走行経路の生成が不可欠である。しかしながら、圃場は、私的な農道や畦畔などを境界線として区画されているため、一般的な地図データから正確な圃場の形状を得ることは困難である。そこで、圃場面の周囲を手動で走行する外形ティーチング走行を通じて圃場面の外形データを取得する走行経路生成装置が開発され、運用に至っている。こうした走行経路生成には、トラクタが圃場面に出入りするための出入口の位置座標も取得され、当該出入口の位置も圃場面の外形データに登録される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-116608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無人走行農機は、監視下における圃場内での無人走行から、遠隔監視下における圃場間移動を含む無人走行へと、段階を経て高レベルの移行を目指している。例えば、図7に示すように、作業地である圃場Aから圃場Bへ移動する際には、農道を経由することになるが、圃場の出入りは、圃場面から高低差のある傾斜通路を通って移動することになる。したがって、ある程度の走行制御は可能でも精密な管理の実現は技術的なハードルが高い。一方、畦畔を乗り越えて隣地に移動する考え方もある。しかしながら、一般的な圃場整備事業において整備される畦畔の横断面は、図8に示すように、高さ(H)30cm、上幅(W)30cm、法面勾配1:1程度の台形を標準としているため、こうした形状の畦畔を直接乗り越えることは現実的ではなく、無理をすれば機体が不安定になるだけでなく、畦畔に損傷をもたらすことにもなる。
【0005】
そこで本発明は、高さを部分的に低くして農作業の自動化を促進させることが可能な畦畔を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の畦畔は、区画された圃場の境界を形成する畦畔において、高さ位置を圃場面に整合した低位置に移動させることが可能な変形部を備えていることを特徴としている。
【0007】
また、前記変形部は、回動基端と回動先端とを有する平坦な板状体を畦畔幅方向に並べて2枚有し、両板状体の回動先端を前記圃場面に沿う水平方向に向けた下げ位置と、前記圃場面に沿う水平方向に対して上方に向けた上げ位置とに移動させることが可能であることを特徴としている。
【0008】
さらに、前記2枚の板状体の下側に設置され、加圧流体を得て扁平状態から前記回動先端を押し上げるように膨張する、膨張収縮可能なチューブを備え、前記2枚の板状体は、互いの回動先端同士を向かい合わせて前記下げ状態とされることを特徴としている。
【0009】
加えて、前記2枚の板状体は、灌漑水による水面上昇変化に追従する浮体構造と、前記追従を一定量で規制する追従規制手段とを有し、互いの回動基端同士を向かい合わせて前記下げ状態とされることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の畦畔によれば、高さ位置を圃場面に整合した低位置に移動させることが可能な変形部を備えているので、例えば、ロボットトラクタの無人走行において、変形部の領域をトラクタの車両幅分(2m程度)に設定すれば、平坦状態の変形部を通じて隣接する圃場間移動が容易に行えるようになる。また、農業農村整備事業において、こうした変形部を備えた畦畔を導入することで、用排水路が分離された水田においても棚田のように田越し灌漑が可能となる。これにより、少数の給水口で水管理を行うことが可能となり、ICTを活用した水管理システムも低コストに導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一形態例を示す畦畔の斜視図である。
図2】同じく変形部の作動システムの主要構成図である。
図3】同じく変形部における板状体を下げ位置に移動した状態を示す説明図である。
図4】同じく変形部における板状体を上げ位置に移動した状態を示す説明図である。
図5】本発明の変形例を示す畦畔において、変形部における板状体を下げ位置に移動した状態を示す説明図である。
図6】同じく変形部における板状体を上げ位置に移動した状態を示す説明図である。
図7】従来技術を示す一般的な畦畔及び農道の土手により区画された圃場の図である。
図8】従来技術を示す一般的な畦畔の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図6は、本発明の畦畔を示す図である。畦畔11は、図1乃至図4に示すように、圃場整備事業において区画された圃場(例えば、長辺が100mの矩形状に区切られた稲作圃場)の境界を形成する土畦畔であり、長手方向の一部において、高さ位置を圃場面Gに整合した低位置(図1及び図3の状態)に移動させることが可能な変形部12を備えている。圃場全体は、水平な状態に均平化され、互いに隣接する圃場A及び圃場Bそれぞれが同一耕作者(組織)により管理されている。
【0013】
畦畔11の大部分は、横断面が、例えば、高さ(H)30cm、上幅(W)30cm、法面勾配1:1程度の一様な台形状に形成されている(図8も参照)。変形部12は、例えば、比較的に農道に近い箇所に備えられ、その領域は、農作業機(例えばロボットトラクタ)の走行路面として必要な大きさの矩形領域が確保されている。例えば、変形部12の領域は、畦畔長手方向において約2m、畦畔幅方向(図3の左右方向)において、全幅に対応した約1mとされ、これにより、畦畔11を構成する土構造部分と変形部12とが緊密に連続した状態となっている(図1)。
【0014】
変形部12は、回動基端13aと回動先端13bとを有する平坦な板状体13を畦畔幅方向に並べて2枚有している。板状体13は、農作業機の履帯走行に耐える強度を有し、例えば、長さのある矩形面を一定の厚さ(例えば3~5mm程度)に成形したプラスチックシートが用いられている。
【0015】
回動基端13a及び回動先端13bは、板状体13の長手方向に延びる板端からなり、2枚の板状体13,13の互いの回動先端13b,13b同士を向かい合わせた形で、回動基端13aを中心として回動先端13bがそれぞれ上下回動可能に構成されている。この場合、板状体13の固定は、例えば、屈曲自在なゴムシート14が用いられ、ゴムシート14の一方の半体が地中に埋設固定され、他方の半体が板状体13の下面に止着される。なお、こうした回動機構には、周知のヒンジ機構が用いられてもよい。
【0016】
これにより、変形部12は、両板状体13,13の回動基端13a,13aを畦畔(非農用地)11と圃場(農用地)A,Bとの境界ラインに整合させた状態で、両板状体13,13の回動先端13b,13bを圃場面Gに沿う水平方向に向けた下げ位置(図3)と、圃場面Gに沿う水平方向に対して上方に向けた上げ位置(図4)とに移動させることが可能である。
【0017】
板状体13,13の上下移動は、動力化が図られており、例えば、2枚の板状体13,13の下側であって回動先端13b,13bが含まれる位置にゴムチューブ(膨張収縮可能なチューブ)15を設置し、図2に示すように、コンプレッサー装置16からの高圧空気(加圧流体)をゴムチューブ15に供給して、該ゴムチューブ15を扁平状態(図2の実線)から膨張した状態(図2の想像線)、換言すると、図4に示すように、板状体13,13の回動先端13b,13bを適宜な高さ(例えば15cm程度)に押し上げた状態にすることが可能である。ゴムチューブ15は、板状体13の長さに対応する長さを有しており、長手方向一端部には、コンプレッサー装置16からのホース17が接続されるホース接続部15aが設けられている。
【0018】
コンプレッサー装置16は、例えば、電源が取れる所定場所に設置され、基本的には、電動機16aによって駆動されるコンプレッサー本体16bと、高圧空気放出部16cを設けたタンク16dとを備え、タンク16dから所望の高圧空気を取り出す汎用のものである。また、コンプレッサー装置16に内蔵されるコントローラ(図示せず)は、圃場管理者が所持する携帯情報端末(例えばスマートフォン)18からの遠隔操作信号を受信して、電源制御や高圧空気放出部16cに備えられたバルブの切替制御を行い、ゴムチューブ15への高圧空気の供給又はチューブ内から空気の排出を行うことが可能である。
【0019】
このように構成された畦畔11は、圃場に農業用水の入らない非灌漑期では、図3に示すように、変形部12が非作動状態(ゴムチューブ15の扁平状態)に置かれている。これにより、両板状体13,13は、両方とも下げ位置に保持され、両板状体13,13の上面、つまり、圃場面に沿う平坦面を走行路にして、ロボットトラクタが圃場Aから圃場Bへ、又は、その逆方向へ通行できるようになる(図1も参照)。一方、灌漑期では、圃場A,Bに水が引かれた状態で、コンプレッサー装置16を駆動制御し、これにより、変形部12が作動状態(ゴムチューブ15の膨張状態)に置かれる。このとき、図4に示すように、両板状体13,13は、回動先端13b,13bが両方とも水面上に現れた上げ位置に保持され、両板状体13,13の上面を斜辺とする横断面略二等辺三角形の畦畔部が作られ、圃場A,Bの灌漑水が変形部12によって隔てられる。
【0020】
このように、本発明の畦畔11によれば、高さ位置(板状体13の高さ位置)を圃場面Gに整合した低位置に移動させることが可能な変形部12を備えているので、例えば、ロボットトラクタの無人走行において、変形部12の領域をトラクタの車両幅分(2m程度)に設定すれば、平坦状態の変形部12を通じて隣接する圃場間移動が容易に行えるようになる。また、農業農村整備事業において、こうした変形部12を備えた畦畔11を導入することで、用排水路が分離された水田においても棚田のように田越し灌漑が可能となる。これにより、少数の給水口で水管理を行うことが可能となり、ICTを活用した水管理システムも低コストに導入することができる。
【0021】
図5及び図6は、本発明の変形例における畦畔21を示している。なお、以下の説明において、前記形態例に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。本変形例では、前記形態例の畦畔11に備えられた変形部12に対し、ゴムチューブ15を含む動力伝達手段を削除し、動力を必要とせずに変形部22の高さ位置(板状体13の高さ位置)が変更できるものである。
【0022】
変形部22における2枚の板状体13,13は、灌漑水による水面の上昇・下降変化に追従する浮体構造を有している。浮体構造は、中空形状などの全体的に水よりも比重が小さい素材、例えば、プラスチック素材などで形成されている。また、内部に発泡プラスチック材などの浮力保持材を封入することで浮体構造を形成してもよく、従来公知の様々な構造を採用することができる。
【0023】
回動基端13a及び回動先端13bは、板状体13の長手方向に延びる板端からなり、2枚の板状体13,13の互いの回動基端13a,13a同士を向かい合わせた形で、回動基端13aを中心として回動先端13bがそれぞれ上下回動可能に構成されている。この場合、板状体13の固定は、例えば、屈曲自在なゴムシート14が用いられ、ゴムシート14の一方の半体が地中に埋設固定され、他方の半体が板状体13の下面に止着される。ここで、板状体13には、水面上昇変化に対する追従を一定量で規制する追従規制手段が設けられている。この追従規制手段は、板状体13の上方へ向かう回動のみを規制する部材であって、図示は省略するが、例えば、回動角度の保持機能(ロック機能)を有するヒンジ機構を採用することができる。
【0024】
これにより、変形部22は、両板状体13,13の回動先端13b,13bを畦畔(非農用地)21と圃場(農用地)A,Bとの境界ラインに整合させた状態で、回動先端13b,13bを圃場面Gに沿う水平方向に向けた下げ位置(図5)と、圃場面Gに沿う水平方向に対して上方に向けた上げ位置(図6)とに移動させることが可能である。
【0025】
そして、このように構成された変形例においても、上述の形態例の畦畔11と同様の作用、効果が発揮され、さらに、本形態例の場合には、非灌漑期では圃場面Gに沿う平坦な畦畔形状となり、一方、灌漑期では、水田の水深に応じて浮上して止水することができる。このとき、追従規制手段の機能により、つまり、板状体13の回動角度を保持する機能により、水深を増やした状態(図6の右側)であっても、設定された上げ位置で高さを一定に保持できるようになる。
【0026】
なお、本発明は、前記各形態例に限定されるものではなく、畦畔は、例えば、土畦畔に対して畦シートを敷設した構造や、コンクリート製、プラスチック製などの種々の畦畔に適用することができる。また、畦畔の横断面形状については、実施例では台形状を例示したが、これに限定されず、三角形状などを有する種々の形状が考えられる。さらに、変形部は、その領域を任意に定めることができ、農作業機の走行や田越し灌漑などの使用態様を想定して適宜な大きさの領域にすることができる。加えて、変形部の高さは、圃場面に対応した平坦(フラット)状の面として変形可能であれば、上げ位置における天端(最頂部)位置は任意である。
【0027】
また、変形部の構成部品は様々であり、各種部品を一体的に構成(ユニット化)すれば、製作、運搬、設置の作業が容易なものとなる。さらに、変形部の動力化にあたり、例えば、加圧流体として高圧水を使用してもよく、この場合、ポンプから圧送される水でチューブを膨張させることができる。加えて、チューブの材質、形状、数量も任意である。
【符号の説明】
【0028】
11…畦畔、12…変形部、13…板状体、13a…回動基端、13b…回動先端、14…ゴムシート、15…ゴムチューブ、15a…ホース接続部、16…コンプレッサー装置、16a…電動機、16b…コンプレッサー本体、16c…高圧空気放出部、16d…タンク、17…ホース、18…携帯情報端末、21…畦畔、22…変形部
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図2
図3
図4
図5
図6
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