(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064610
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】脱共役タンパク質-1(UCP-1)mRNA発現促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20240507BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240507BHJP
A61P 3/04 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P43/00 107
A61P3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173335
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】南田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】池岡 佐和子
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA16
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA42
4C206MA48
4C206MA55
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA70
4C206ZB22
(57)【要約】
【課題】UCP-1 mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするUCP-1 mRNA発現促進剤を提供する。
【解決手段】本発明のUCP-1 mRNA発現促進剤の有効成分として、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸を有効成分とすることを特徴とする脱共役タンパク質-1(UCP-1)mRNA発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱共役タンパク質-1(UCP-1)mRNA発現促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の食生活の高カロリー化が進み、脂肪の摂取割合が高くなっていることが問題視されている。脂肪の過剰摂取は、肥満ばかりでなく、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞等の疾病を引き起こす恐れもある。脂肪の過剰摂取により蓄積される脂肪、特に内臓脂肪は、単にエネルギーとして蓄積されるだけではなく、血管に障害をもたらす生理活性物質を分泌することが知られており、これにより、動脈硬化等が引き起こされる恐れがある。
【0003】
このような肥満や肥満に伴う各種疾病を予防するためには、食事等により摂取された脂肪や、体脂肪として蓄積された脂肪の燃焼を促進することが有効であると考えられる。
【0004】
ヒトを含む哺乳類の脂肪組織は、主に白色脂肪組織と褐色脂肪組織から構成される。脂肪細胞にはATPを産生するミトコンドリアが存在し、そのミトコンドリア内膜に脱共役タンパク質(UCP)が存在する。UCPは、中性脂肪を燃焼させる働きをもつことが知られており、具体的には、ATPの合成を伴わずに、脂肪酸等基質の酸化を著しく亢進させ、熱産生を活性化する。UCPの中でも、UCP-1は体温調節に関与すると考えられている褐色脂肪組織に存在する。また、UCP-1の遺伝子発現は、白色脂肪組織においては褐色脂肪組織と比較して低レベルであると考えられていたが、最近の研究では、ヒト白色脂肪組織においてもUCP-1の遺伝子発現が検出され(ベージュ細胞化)、脂肪酸酸化の亢進や肥満を抑制する方向へ導くと考えられている。
【0005】
UCP-1の遺伝子発現を亢進させ、脂肪を燃焼させる作用を有するものとして、マンゴージンジャー抽出物から得られる3-ヒドロキシメチル-7-メチルオクタ-1,6-ジエン-3-オール等(特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、UCP-1 mRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするUCP-1 mRNA発現促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のUCP-1 mRNA発現促進剤は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸を有効成分とすることにより、作用効果に優れたUCP-1 mRNA発現促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸を有効成分とするものである。
【0011】
〔3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸〕
3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロピオン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propionic Acid,以下「HMPA」と略することがある。)は、下記式(I)で表されるケイ皮酸類縁体である。
【0012】
【0013】
HMPAは、抱合体の態様であってもよい。抱合体は、生体における第II相反応(抱合化反応)により、水溶性物質を結合させて得られる化合物である。
HMPAの上記抱合体を形成する水溶性物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫酸;グルクロン酸;グルタチオン;グリシン等のアミノ酸;などが挙げられ、これらの中でも硫酸およびグルクロン酸が好ましい。また、HMPAと、上記水溶性物質との結合モル比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
水溶性物質が結合するHMPAの部位としては、ベンゼン環4位のフェノール性ヒドロキシ基、プロピオン酸部分のカルボキシ基が挙げられ、4位のフェノール性ヒドロキシ基であることが好ましい。
【0014】
HMPAの抱合体の中でも特に好適なものとして、4位のフェノール性ヒドロキシ基が硫酸により抱合化した硫酸抱合体が挙げられる。かかる硫酸抱合体は、下記式(II)で表される化合物である。
【0015】
【0016】
HMPAは、その分子内のカルボキシ基(-COOH)が水素イオンを解離して他の陽イオンと交換することにより、HMPAと陽イオンとの塩を形成し得る。また、HMPAとしてその抱合体を用いる場合、水溶性物質に由来するカルボキシ基や硫酸基等も塩を形成し得る。本実施形態においては、HMPAとして、HMPAまたはその抱合体の塩を用いてもよい。
HMPAまたはその抱合体と塩を形成し得る陽イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられ、これらの中でもナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが好ましい。
【0017】
ここで、HMPAのナトリウム塩は、下記式(III)で表される化合物である。また、HMPAの上記硫酸抱合体のナトリウム塩は、下記式(IV)で表される化合物である。
【0018】
【0019】
【0020】
HMPAは、例えば、合成により製造することもできるし、HMPAを含有する植物抽出物から精製・単離することにより製造することもできる。この場合、このようなHMPAを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。HMPAを含有する植物としては、例えば、米、大麦、小麦、大豆、小豆、とうもろこし等が挙げられる。
【0021】
HMPAは、例えば、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸(3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)propenoic Acid)もしくはその誘導体、またはこれらを含有する組成物(例えば、植物の破砕物または抽出物等)を、フェノール酸還元酵素を有する微生物により醗酵させ、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸をHMPAに変換した後、得られた醗酵物を抽出・精製・単離することにより製造することもできる。3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸を含有する組成物としては、例えば、コーヒー、コムギ、トウモロコシ、トマト、マテ、ヨモギ、ゴボウ等の植物の破砕物及び抽出物などが挙げられる。また、3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロペン酸は木本植物及び草本植物におけるリグニンの構成成分であるため、リグニンまたはこれを含有する組成物を醗酵原料として利用してもよい。一方、フェノール酸還元酵素を有する微生物としては、例えば、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus johnsonii、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus delbrueckii、Lactobacillus buchneri、Lactobacillus kefiranofaciens、Lactobacillus gallinarum、Enterococus faecalis等の乳酸菌などが挙げられる。
【0022】
上記植物または醗酵物などからHMPAを抽出・精製・単離する方法は特に限定されず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出処理は、抽出原料としての上記植物または醗酵物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供すればよい。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0023】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて、室温または溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0024】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0025】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン等が挙げられる。
【0026】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は任意であり、適宜調整することができる。例えば、水と親水性有機溶媒との混合液を抽出溶媒として使用する場合には、任意の比率、すなわち0:100超、100:0未満(容量比,以下同様に表記)の間で混和して用いることができ、適宜調整することができる。
例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比(容量比)を9:1以上とすることができ、さらには7:3以上とすることができ、あるいは水と低級脂肪族アルコールとの混合比を1:9以下、さらには2:8以下とすることができる。また、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比を8:2以上、あるいは1:9以下とすることができ、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比を9:1以上、あるいは2:8以下とすることができる。
【0027】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温または還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0028】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物または当該抽出液の乾燥物からHMPAを精製・単離する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。
【0029】
一方、HMPAの抱合体は、前述した方法により得られたHMPAを用い、抱合化反応に付すことで得ることができる。かかる抱合化反応は、公知の方法を採用することができ、抱合化反応を触媒する酵素を用いたin vitro酵素合成;当該酵素を発現させた組み換え酵母等を用いた生合成;有機合成;などが挙げられるが、いずれを採用してもよい。抱合化反応を触媒する酵素は、抱合体を形成する水溶性物質の種類に応じて、硫酸転移酵素(sulfotransferase,SULT)、UDP-グルクロン酸転移酵素、グルタチオン-S-転移酵素;などを適宜用いることができる。
抱合化反応で得られた反応液から、HMPAの抱合体を精製・単離する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。
【0030】
本実施形態においては、UCP-1 mRNA発現促進剤の有効成分として、HMPA(抱合体でも塩でもないもの);HMPAの抱合体;これらの塩;の少なくとも1種を用いればよく、これらの2種以上(抱合体や塩を別種とした場合)を適宜組み合わせて用いてもよい。
なお、以下の本明細書において、単に「HMPA」と記載する場合、特に断りがない限り、HMPAのみならずその抱合体を包含し、さらにはそれらの塩も包含する。
【0031】
〔UCP-1 mRNA発現促進剤〕
以上のようにして得られるHMPAは、優れた脱共役タンパク質-1(UCP-1)mRNA発現促進作用を有しているため、UCP-1 mRNA発現促進剤の有効成分として用いることができる。言い換えると、UCP-1 mRNA発現促進剤を製造するために、HMPAを使用することができる。
【0032】
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、経口組成物等の幅広い用途に使用することができる。ここで、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、HMPAのUCP-1 mRNA発現促進作用に関する表示を付した剤であることが好ましい。
【0033】
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤の有効成分としてHMPAを用いる場合、単離したHMPAに替えて、HMPAを含有する組成物を用いてもよい。ここで、本実施形態における「HMPAを含有する組成物」には、HMPAを含有する天然物を抽出原料として得られる抽出物、HMPAを含有する天然物加工物、および当該天然物加工物を抽出原料として得られる抽出物などが含まれる。
【0034】
また、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤の有効成分としてHMPAの抱合体を用いる場合、単離したHMPAの抱合体に替えて、HMPAの抱合体を含有する組成物を用いてもよい。ここで、本実施形態における「HMPAの抱合体を含有する組成物」には、HMPAの抱合体を含有する培養物、および当該培養物を抽出原料として得られる抽出物などが含まれる。
【0035】
なお、本実施形態における「抽出物」には、抽出処理により得られる抽出液、当該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、または当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物などが含まれる。
【0036】
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、HMPAのみからなるものでもよいし、HMPAを製剤化したものでもよい。
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。UCP-1 mRNA発現促進剤は、他の組成物(例えば、皮膚外用剤、経口組成物等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0037】
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤を製剤化した場合、HMPAの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0038】
なお、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、UCP-1 mRNA発現促進作用の有効成分として、HMPAのみを用いることができ、また、必要に応じて、UCP-1 mRNA発現促進作用を有する他の天然抽出物等を、HMPAとともに配合して有効成分として用いることができる。
【0039】
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0040】
本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、有効成分であるHMPAが有するUCP-1 mRNA発現促進作用を通じて、例えば、白色脂肪組織や褐色脂肪組織において脂肪燃焼を促進し、肥満を予防または改善することができる。ただし、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、これらの用途以外にもUCP-1 mRNA発現促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0041】
また、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、優れたUCP-1 mRNA発現促進作用を有するため、例えば、後述する皮膚外用剤や経口組成物に配合するのに好適である。この場合に、HMPAをそのまま配合してもよいし、HMPAから製剤化したUCP-1 mRNA発現促進剤を配合してもよい。
【0042】
また、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、優れたUCP-1 mRNA発現促進作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0043】
〔皮膚外用剤への配合〕
HMPAは、優れたUCP-1 mRNA発現促進作用を有しているため、皮膚外用剤に配合するのに好適である。この場合、HMPAをそのまま配合してもよいし、HMPAを製剤化したUCP-1 mRNA発現促進剤を配合してもよい。これにより、UCP-1 mRNA発現促進用途に好適な皮膚外用剤とすることができる。換言すると、皮膚外用剤への配合は、UCP-1 mRNA発現促進剤の好適な用途の一つである。
【0044】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される医薬品、医薬部外品、化粧料等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、美容液、ローション、ジェル、美容オイル、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアトニック、ヘアローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0045】
皮膚外用剤における上記有効成分の配合量は、皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整することができるが、例えば、HMPAの好適な配合率(HMPAの質量換算)は、0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、0.001~1質量%である。ここで、HMPAの質量換算とは、HMPAとしてHMPAの抱合体や塩などを用いる場合において、等モルのHMPA(抱合体でも塩でもないもの)の質量に換算することを意味し、以下も同様である。
【0046】
本実施形態の皮膚外用剤は、HMPAが有するUCP-1 mRNA発現促進作用を妨げない限り、通常の皮膚外用剤の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0047】
本実施形態の皮膚外用剤は、HMPAが有するUCP-1 mRNA発現促進作用を通じて、白色脂肪組織や褐色脂肪組織において脂肪燃焼を促進し、肥満を予防または改善することができる。
【0048】
〔経口組成物への配合〕
HMPAは、優れたUCP-1 mRNA発現促進作用を有しているため、経口組成物に配合するのに好適である。この場合、HMPAをそのまま配合してもよいし、HMPAから製剤化したUCP-1 mRNA発現促進剤を配合してもよい。これにより、UCP-1 mRNA発現促進用途に好適な経口組成物とすることができる。換言すると、経口組成物への配合は、UCP-1 mRNA発現促進剤の好適な用途の一つである。
【0049】
ここで、経口組成物とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「経口組成物」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る経口組成物は、当該経口組成物またはその包装に、HMPAが有する好ましい作用を表示することのできる経口組成物であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品および医薬品であることが特に好ましい。
【0050】
HMPA、またはHMPAから製剤化したUCP-1 mRNA発現促進剤を経口組成物に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる経口組成物の一般的な摂取量を考慮して、HMPAの成人1日あたりの摂取量(HMPAの質量換算)が、約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象となる経口組成物が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の経口組成物の場合、HMPA、またはHMPAから製剤化したUCP-1 mRNA発現促進剤の添加量(HMPAの質量換算)は、添加対象経口組成物に対し、通常0.1~100質量%であり、好ましくは5~100質量%である。
【0051】
本実施形態の経口組成物は、HMPAをその活性を妨げないような任意の経口組成物に配合したものであってもよいし、HMPAを主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0052】
本実施形態の経口組成物を製造する際には、例えば、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類などの任意の助剤を添加して任意の形状の経口組成物にすることができる。
【0053】
HMPAを配合し得る経口組成物は特に限定されないが、その具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などが挙げられる。これらの経口組成物にHMPAを配合するときには、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0054】
なお、本実施形態のUCP-1 mRNA発現促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例0055】
以下、試験例、配合例等を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、以下の試験例、配合例においては、HMPAとして下記の試料1を、またHMPAの硫酸抱合体(ナトリウム塩)として下記の試料2を、それぞれ使用した。
【0056】
【0057】
〔試験例1〕UCP-1 mRNA発現促進作用試験
HMPA(試料1)、およびジヒドロフェルラ酸硫酸抱合体(試料2)について、以下のようにしてUCP-1 mRNA発現促進作用を試験した。
【0058】
ヒト内臓由来前駆脂肪細胞(ロンザ社製)を75cm2 フラスコで増殖培地(PGM-2 Bullet Kit,ロンザ社製)を用いて37℃・5%CO2下で前培養し、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞をPGM-2 Bullet Kit培地で希釈した後、コラーゲンコート6wellプレート(IWAKI社製)に7.5×104 cells/wellずつ播種し、37℃・5%CO2下でコンフルエントになるまで培養した。
【0059】
培養後に培養液を除去して分化誘導培地(上記増殖培地にインスリン、デキサメタゾン、インドメタシンおよびイソブチルメチルキサンチンを添加したもの)に交換し、37℃・5%CO2下にて14日間培養し、前駆脂肪細胞から油滴を貯めた脂肪細胞へと分化させた。続いて、培地を除去した後、被験試料(試料1~2,試料濃度は下記表2を参照)を添加した増殖培地(PGM-2 Bullet Kit)、または試料無添加の増殖培地に交換し、さらに24時間培養した。培養後、培養液を除去し、ISOGEN II(NIPPON GENE社製)にて総RNAを抽出し、波長260nmにおける吸光度からRNA量を測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0060】
この総RNAを鋳型とし、UCP-1および内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Thermal Cycler Dice(R) Real Time System III(TaKaRa社製)を用い、PrimeScriptTM RT Master Mix(Perfect Real Time)およびTB Green(R) Fast qPCR Mix(TaKaRa社製)による2ステップリアルタイムRT-PCR反応により行った。プライマーはPerfect Real Time Primer(タカラバイオ社製)を使用した。
UCP-1 mRNA発現量は、被験試料無添加、被験試料添加にてそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDH mRNAの発現量で補正した値を用いた。得られた値から、下記式により、UCP-1 mRNA発現促進率(%)を算出した。
【0061】
UCP-1 mRNA発現促進率(%)= A / B × 100
A:被験試料添加時のUCP-1 mRNA発現量(補正値)
B:被験試料無添加時のUCP-1 mRNA発現量(補正値)
結果を表2に示す。
【0062】
【0063】
表2に示すように、HMPA(試料1)、およびジヒドロフェルラ酸硫酸抱合体(試料2)は、いずれも優れたUCP-1 mRNA発現促進作用を有することが確認された。
【0064】
〔配合例1〕
下記組成に従い、乳液を常法により製造した。
HMPA 0.01g
ホホバオイル 4.00g
1,3-ブチレングリコール 3.00g
アルブチン 3.00g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.50g
オリーブオイル 2.00g
スクワラン 2.00g
セタノール 2.00g
モノステアリン酸グリセリル 2.00g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2.00g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
グリチルレチン酸ステアリル 0.10g
黄杞エキス 0.10g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.10g
イチョウ葉エキス 0.10g
コンキオリン 0.10g
オウバクエキス 0.10g
カミツレエキス 0.10g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0065】
〔配合例2〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
HMPA硫酸抱合体のナトリウム塩 0.05g
クジンエキス 0.1g
オウゴンエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3-ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0066】
〔配合例3〕
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
HMPA 5.0mg
ドロマイト(カルシウム20%、マグネシウム10%含有) 83.4mg
カゼインホスホペプチド 16.7mg
ビタミンC 33.4mg
マルチトール 136.8mg
コラーゲン 12.7mg
ショ糖脂肪酸エステル 12.0mg
【0067】
〔配合例4〕
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
HMPA硫酸抱合体のナトリウム塩 0.3質量%
ソルビット 12.0質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
香料 1.0質量%
硫酸カルシウム 0.5質量%
精製水 残部(100質量%)