(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064680
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性樹脂組成物およびレンズシート
(51)【国際特許分類】
C08F 2/46 20060101AFI20240507BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240507BHJP
C08F 290/00 20060101ALI20240507BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240507BHJP
G02B 3/08 20060101ALI20240507BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240507BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C08F2/46
C08F2/44 C
C08F290/00
B32B27/30 A
G02B3/08
G02B3/00 A
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173442
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 正和
(72)【発明者】
【氏名】高田 泰廣
(72)【発明者】
【氏名】今村 絵里香
【テーマコード(参考)】
4F100
4J011
4J127
【Fターム(参考)】
4F100AK01B
4F100AK25A
4F100AK25J
4F100AK51A
4F100AL05A
4F100AR00A
4F100AR00B
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4F100EH46A
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4J127CC133
4J127DA46
4J127DA55
4J127EA12
4J127FA29
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、従来技術に加え、更に、成形性、生産性向上を実現する、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【解決手段】本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、を含有する。前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の、温度30℃、伸長速度1000~10000s
-1の範囲における伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、を含有し、
温度30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲における伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上である活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度とせん断粘度との比であるトルートン比(伸長粘度/せん断粘度)が、3.0以上10.0以下の範囲内であり、
前記せん断粘度が、温度30℃、せん断速度1000s-1におけるせん断粘度であり、
前記伸長粘度が、伸長速度1000s-1における伸長粘度である請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
温度30℃、伸長速度1000s-1における伸長粘度が10Pa・s以上100Pa・s以下の範囲である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
温度30℃、せん断速度1000s-1におけるせん断粘度が、1.0Pa・s以上10Pa・s以下である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)の重量平均分子量が50,000以上であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が、2~30質量%の範囲である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(B)が、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂である請求項5に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂層と、プラスチック基材と、を有し、
前記樹脂層が、請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含むレンズシート。
【請求項8】
前記レンズシートが、プリズムシート、フレネルレンズシート、レンチキュラーシート、及び光拡散シートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のレンズシート。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いてレンズシートを製造するレンズシートの製造方法であって、
前記レンズシートが、樹脂層と、プラスチック基材と、を有し、
前記樹脂層が、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、レンズシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物およびレンズシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ中に使用される光学フィルムシート(レンズシート)には、用途に応じて、プリズムシート(集光)・フレネルレンズ(光源からの拡散光を平行光に変換)・レンチキュラーシート(観察者の見る範囲のみに光を分配)・光拡散シート(光の均一拡散)等が用いられている。これら光学フィルムシートは、各々、用途により要求性能は異なるが、主に共通する特性としては、光の透明性・透過性・屈折率・干渉縞抑制・基材との密着性・耐摩耗性等の特性が、挙げられる。
近年、機器の小型化、軽量化に伴い、プラスチック基材上に樹脂硬化物からなる微細で複雑な凹凸表面形状を有する形状付き(賦形)シート、レンズ、光デイスク、プリズム等のプラスチック物品や光学物品の開発が進んでいる。賦形シートは、一般的には、金型とプラスチック基材の間にUV硬化性樹脂組成物を介在させ、紫外線によって樹脂組成物を硬化させることにより、金型の形状を転写させて、各種光学用シート(フィルム)等が製造されている。このようなプラスチック物品や光学物品には、プラスチック基材との良好な密着性、優れた機械強度、高い屈折率などが要求されている。
【0003】
例えば、特許文献1と2には、プラスチック基材に対する密着性、形状復元性、機械強度等に優れ、成形加工性が良好で、しかも、特に高い屈折率を発現する目的で、エポキシ(メタ)アクリレート、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレートなどを含む活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が提案されている。
【0004】
一方、伸長粘度に関しては、熱可塑性樹脂の流動特性を制御することで寸法安定性・成型性を改善する提案がなされている(例えば、特許文献3と4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-346225号公報
【特許文献2】国際公開第2005/008299号
【特許文献3】特表2021-534308号公報
【特許文献4】特開2022-124265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1と2には、伸長粘度などの粘性の調整に関する開示は無く、成形時の樹脂の流れ性の制御や成形サイクル向上を含む成型加工性を向上するには限界があった。また、特許文献3と4には、表面塗工性を制御する内容であり、硬化性樹脂を硬化成形する際の特性には言及していない。機械強度等に優れ、成形加工性が良好で、高い屈折率を発現した従来技術の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に対して、さらに成形性、生産性向上という課題があった。
本願発明では、従来技術に加え、更に成形性(寸法安定性・[端漏れ]の発生抑制)を改善し、生産性(歩留まり)向上を図るべく、鋭意研究した結果、樹脂組成物の伸長粘度等を制御することにより、成形性が向上することを見出し、本願発明するに至った。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、従来技術に加え、更に、成形性、生産性向上を実現する、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、その活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなるレンズシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の内容は、以下の実施態様を含む。
[1] 活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、を含有し、
温度30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲における伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上である、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[2] 前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度とせん断粘度との比であるトルートン比(伸長粘度/せん断粘度)が、3.0以上10.0以下の範囲内であり、
前記せん断粘度が、温度30℃、せん断速度1000s-1におけるせん断粘度であり、
前記伸長粘度が、伸長速度1000s-1における伸長粘度である[1]に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[3] 温度30℃、伸長速度1000s-1における伸長粘度が10Pa・s以上100Pa・s以下の範囲である、[1]又は[2]に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[4] 温度30℃、せん断速度1000s-1におけるせん断粘度が、1.0Pa・s以上10Pa・s以下である、[1]~[3]の何れかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[5] 前記熱可塑性樹脂(B)の重量平均分子量が50,000以上であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が、2~30質量%の範囲である[1]~[4]の何れかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[6] 前記熱可塑性樹脂(B)が、アクリル樹脂及びウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である[5]に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[7] 樹脂層と、プラスチック基材と、を有し、
前記樹脂層が、[1]~[6]の何れかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、レンズシート。
[8]前記レンズシートが、プリズムシート、フレネルレンズシート、レンチキュラーシート、及び光拡散シートからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]に記載のレンズシート。
[9] [1]~[6]の何れかに記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いてレンズシートを製造するレンズシートの製造方法であって、
前記レンズシートが、樹脂層と、プラスチック基材と、を有し、
前記樹脂層が、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む、レンズシートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術に加え、更に、成形性、生産性向上を実現する、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を提供することができる。また、その活性エネルギー線硬化性樹脂組成物からなるレンズシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】フレネルレンズシートを用いた透過型スクリーン断面図の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
「~」は「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。「(メタ)アクリル」とはアクリルとメタクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート化合物(B)」とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の総称である。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。
【0013】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
本発明の一実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物ということがある。)は、活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、を含有する。温度30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲における伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上である、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物である。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度とせん断粘度との比であるトルートン比(伸長粘度/せん断粘度)が、3.0以上10.0以下の範囲内であることが好ましい。前記せん断粘度が、温度30℃、せん断速度1000s-1におけるせん断粘度であり、前記伸長粘度が、伸長速度1000s-1における伸長粘度である。
温度30℃、伸長速度1000s-1における、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度が10Pa・s以上100Pa・s以下の範囲であってもよい。温度30℃、せん断速度1000s-1における、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のせん断粘度が、1.0Pa・s以上10Pa・s以下であってもよい。
【0014】
[活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度]
本実施形態では、温度30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲において、少なくとも1つの伸長速度における、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度が100Pa・s以上である。すなわち、温度30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲における、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上である。温度30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲において、少なくとも1つの伸長速度における、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度が100Pa・s以上であることが好ましく、150Pa・s以上であることがより好ましい。本実施形態では、温度30℃、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度が100Pa・s以上である伸長速度は、1000~10000s-1の範囲であってもよく、1500~10000s-1の範囲であってもよく、2000~10000s-1の範囲であってもよい。
例えば、後述の実施例1で得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物について、伸長粘度が100Pa・sを超える伸長速度が、2000s-1であった。それに対して、比較例1で得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物について、伸長粘度が100Pa・sを超える伸長速度が、1000~10000s-1の範囲外であった。
実施例1のように伸長速度が1000~10000s-1の範囲内における伸長粘度のうち少なくとも1つが100Pa・sを超える組成物は、高速又は高圧条件下においても、安定的に樹脂充填可能である。したがって、生産効率が上がる。
一方、比較例1のように伸長速度が1000~10000s-1の範囲内において伸長粘度が100Pa・sを超えない組成物は、樹脂充填時に広がり易く、高速高圧条件下では安定した樹脂充填が難しい。
【0015】
温度30℃、伸長速度1000s-1における活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度が、好ましくは10Pa・s以上100Pa・s以下、より好ましくは10以上50以下である。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度が、10Pa・s以上100Pa・s以下の範囲内の値であると、所定のせん断力が付与された際に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘性が適正になり易く、塗工時に粘度調整剤等による粘度調整を行わなくても良好な塗工品質が得られ易くなり、塗工の効率を向上させることができる。
粘度には、せん断応力を加えた際のずり粘度(せん断粘度)と、伸長の応力を加えた際の伸長粘度とがある。液体の伸長粘度は、その液体を伸長させることによって測定される。
伸長粘度の測定方法は、注入ステップと、加圧ステップと、特定ステップと、算出ステップと、を含む。前記注入ステップは、内面に段差が生じるように互いに異なる内径に形成された2つの部分を有する管に対して、低粘度の液体を注入するステップである。前記加圧ステップは、前記管の内径が大きい方から小さい方へ前記液体が流れるように、前記液体に圧力を加えるステップである。前記特定ステップは、前記液体に加えられる圧力のうちの前記管内で前記液体を伸長させる圧力と、内径の小さい部分に流れる液体の流速とを特定するステップである。前記算出ステップは、特定された前記圧力および前記流速と、内径の大きい部分における予め定められた流速勾配とを用いて、前記液体の伸長粘度を算出するステップである。これにより、予め定められた流速勾配を用いるため、液体を伸長させる圧力(伸長圧力)Pと流速V2とを特定するだけで、比較溶液のデータを要することなく、簡単に液体の伸長粘度を測定することができる。
【0016】
[活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のせん断粘度]
本実施形態では、温度30℃、せん断速度1000s-1における活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のせん断粘度が、好ましくは1.0Pa・s以上10Pa・s以下、より好ましくは1.0Pa・s以上5.0Pa・s以下である。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のせん断粘度が、1.0Pa・s以上10Pa・s以下の範囲内の値であると、所定のせん断力が付与された際に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘性が適正になり易く、塗工時に粘度調整剤等による粘度調整を行わなくても良好な塗工品質が得られ易くなり、塗工の効率を向上させることができる。
回転体が流体から受ける抵抗(粘性抵抗)を一定の回転トルク[コ-ンプレート等]にて読み取る点に於いては、通常のE型粘度と同様であるが、本願でのせん断粘度は、1000s-1という高速回転の条件で測定するせん断粘度のことを示している。
【0017】
[活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のトルートン比]
本実施形態において「トルートン比」とは、温度30℃、せん断速度3000s-1におけるせん断粘度に対する、温度30℃、伸長速度1000s-1における伸長粘度の比(伸長粘度/せん断粘度)である。
本実施形態では、上記条件下での活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のトルートン比が3.0以上10.0以下であり、好ましくは3.0以上7.0以下である。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のトルートン比が3.0以上10.0以下の範囲内の値であると、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の流動性を維持することができ、且つ成形性及び塗工の効率を向上させることができる。特に、高粘度の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を賦形用の金型に充填した後に、フィルム基材を空気が混入しないように加圧積層し、紫外線照射を行って、樹脂組成物を硬化させ、離型し、賦形シートを作製する場合などには、有用である。
【0018】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のトルートン比は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物(A)と熱可塑性樹脂(B)の比率を調整して、伸長粘度および/またはせん断粘度を調整することにより、制御できる。
【0019】
なお、当業者であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いられる活性エネルギー線硬化性化合物(A)または熱可塑性樹脂(B)の粘度を把握できる。また、当業者であれば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物中の活性エネルギー線硬化性化合物(A)と熱可塑性樹脂(B)の配合比を適宜調整することにより、通常の実験の範囲内で、公知の技術に基づいて、所望の範囲内のせん断粘度及びトルートン比を有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を得ることができる。また、上記と同様にして、当業者であれば、活性エネルギー線硬化性化合物(A)に含まれ成分、例えば、エポキシアクリレート(a)、2官能(メタ)アクリレート(b)などの種類、配合比等を調整することにより、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のせん断粘度及びトルートン比を得ることができる。
【0020】
[活性エネルギー線硬化性化合物(A)]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いる活性エネルギー線硬化性化合物(A)は、活性エネルギー線で硬化するものであれば、特に限定されるものではなく、単官能モノマー、多官能モノマー等、特に限定されずに使用することが出来る。
前記多官能モノマーとしては、例えば、2官能モノマー、3官能以上多官能モノマーなどが挙げられる。
【0021】
〔単官能モノマー〕
本実施形態に係る単官能モノマーとしては、例えば、環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
<環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート>
本実施形態に係る環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンゾイルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、オルソフェニルフェノールのエチル(メタ)アクリレート、フェニルベンジルアクリレート、フェノキシベンジルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート;下記一般式(1)
【0023】
【0024】
(式中、R1は炭素原子数1~5の炭化水素基、R2は水素原子またはメチル基を表し、nは平均値で0~3である。)
で表される2-フェニル-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2-フェニル-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-フェニル-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン等;
クロロフェニル(メタ)アクリレート、ブロモフェニル(メタ)アクリレート、クロロベンジル(メタ)アクリレート、ブロモベンジル(メタ)アクリレート、クロロフェニルエチル(メタ)アクリレート、ブロモフェニルエチル(メタ)アクリレート、クロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリクロロフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリクロロベンジル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリブロモベンジル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリクロロフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレートo-フェニルフェノール(ポリ)エトキシ(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(ポリ)エトキシ(メタ)アクリレート等の芳香環を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル類;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジルシクロカーボネート(メタ)アクリレート等の脂環及びヘテロ環構造を有する(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。
なお、前記単官能(メタ)アクリレートはその一部を、ヘテロ環構造を有するビニル化合物で置き換えることができる。ヘテロ環構造を有するビニル化合物としては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクトン、アクリロイルホルモリン等が挙げられる。
これらのなかでも、芳香環を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル類が、機械強度及び高屈折率を損なわないため、好適に用いることができる。
【0025】
〔2官能モノマー〕
本実施形態にかかる前記2官能モノマーとしては、例えば、二つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応で得られる二つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ(メタ)アクリレート、下記の2官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
<エポキシ(メタ)アクリレート>
二つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するエポキシ(メタ)アクリレートの具体例としては、脂肪族エポキシ樹脂の(メタ)アクリレート、ビスフェノール型エポキシ樹脂の(メタ)アクリレート、水素添加ビスフェノール型エポキシ樹脂の(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ樹脂の(メタ)アクリレート、ナフタレン骨格エポキシ樹脂の(メタ)アクリレート、フルオレン骨格のジ(メタ)アクリレートなどや、これらの混合物が挙げられる。
【0027】
<2官能(メタ)アクリレート>
上記2官能(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキシド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド構造などのアルキレンオキシド構造を有する脂肪族2価アルコールの(メタ)アクリレート、水酸基を2つ有する化合物に(メタ)アクリル酸が2分子エステル結合した化合物、(メタ)アクリロイル基を2つ有する含イオウ化合物、ジ[(メタ)アクリロイルオキシエトキシ]フォスフェート等が挙げられる。
【0028】
前記アルキレンオキシド構造を有する脂肪族2価アルコールの(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート;1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールにカプロラクトン付加した化合物のジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸が2分子エステル結合した化合物等が挙げられる。
【0029】
前記水酸基を2つ有する化合物に(メタ)アクリル酸が2分子エステル結合した化合物としては、例えば、ハロゲン化ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ハロゲン化ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールFのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールFのプロピレンオキシド付加物、ハロゲン化ビスフェノールFのエチレンオキシド付加物、ハロゲン化ビスフェノールFのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのプロピレンオキシド付加物、ハロゲン化ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ハロゲン化ビスフェノールSのプロピレンオキシド付加物、トリシクロデカンジメチロールなどが挙げられる。
前記含イオウ化合物としては、ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシフェニル]-スルフィド、ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]-スルフィド、ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル]-スルフィド、ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3-フェニルフェニル]-スルフィド、ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ-3,5-ジメチルフェニル]-スルフィド、ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)スルフォンなどが挙げられる。
【0030】
〔3官能モノマー〕
本実施形態に係る活性エネルギー線硬化性化合物(A)が、さらに、3官能以上多官能モノマーを含有させることにより、架橋密度が高くなり硬化物の機械強度を向上させることが出来る。
【0031】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に使用できる3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、なかでも、プロピレンオキシド構造を有する脂肪族多価アルコールの(メタ)アクリレートを用いた場合、プラスチック基材との密着性を損なわずに架橋密度を高くすることができるため、好適に用いることができる。
【0032】
前記プロピレンオキシド構造を有する脂肪族多価アルコールの(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールメタン等の3官能以上の多価アルコールに、1~20モルのプロピレンオキシドを付加させた後、(メタ)アクリル酸をエステル結合させた化合物等が挙げられ、なかでも、脂肪族3価アルコールに3~9モルのプロピレンオキシドを付加させた後、(メタ)アクリル酸をエステル結合させた化合物が好ましい。
【0033】
前記プロピレンオキシド構造を有する脂肪族多価アルコールの(メタ)アクリレート以外の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリ[(メタ)アクリロイルオキシエトキシ]フォスフェート等の多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
[熱可塑性樹脂(B)]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(B)を所定量配合し、且つ伸長粘度が高い(伸長速度1000~10000s-1の範囲における伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上)場合に成形加工性を向上できる。
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂(B)は、重量平均分子量が50,000以上であり、前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が、2~30質量%の範囲であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂(B)が、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂であることが良い好ましい。
【0035】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂(B)はとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、メチルメタクリレート系共重合体等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-メチルメタクリレート系共重合体等のスチレン系樹脂;ポリブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル系共重合体等物のポリブタジエン系樹脂;フェノキシ樹脂等の熱可塑性エポキシ樹脂、ポリアクリレート樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられるが、なかでも、優れた形状復元性を発現すると共に、前記エポキシ(メタ)アクリレート(a)や2官能(メタ)アクリレート(b)との相溶性に優れることから、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂が好ましく、ポリウレタン系樹脂及び/またはアクリル系樹脂が、樹脂硬化物の強度(靭性)を付与する上で、特に好ましい。
【0036】
さらに、本実施形態で用いる前記熱可塑性樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)としては、形状復元性を向上させることから、ガラス転移温度(Tg)が20℃以下の熱可塑性樹脂が好ましく、-70~10℃の熱可塑性樹脂がより好ましく、-70~-43℃の熱可塑性樹脂がさらに好ましい。
【0037】
なお、本実施形態においてガラス転移温度(Tg)の値は、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分、測定温度-100~150℃での条件で測定したデータから求められた値として規定した。
【0038】
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂(B)は、重量平均分子量が50,000以上であり、前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が、2~30質量%の範囲であることが好ましい。
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂(B)は、重量平均分子量が50,000以上であることが好ましく、80,000以上であることがより好ましく、100,000上であることがさらに好ましい。本実施形態にかかる熱可塑性樹脂(B)は、重量平均分子量が200,000以下であることが好ましく、180,000以下であることがより好ましく、160,000以下であることがさらに好ましい。本実施形態にかかる熱可塑性樹脂(B)は、重量平均分子量が50,000以上であれば、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を所定の物性に調製することができる。
【0039】
本実施形態にかかる熱可塑性樹脂(B)の含有量が、2~30質量%の範囲であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。本実施形態にかかる熱可塑性樹脂(B)の含有量が2~30質量%の範囲であれば、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を所定の物性に調製することができる。
【0040】
[活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の組成]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物において、活性エネルギー線硬化性化合物(A)と、熱可塑性樹脂(B)との含有量は活性エネルギー線硬化性化合物(A)が70~98質量%であり、熱可塑性樹脂(B)が2~30質量%であることが好ましく;活性エネルギー線硬化性化合物(A)が80~95質量%であり、熱可塑性樹脂(B)が5~20質量%であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の例としては、例えば、後述する第一実施態様の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、第二実施態様の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物等が挙げられる。
【0042】
[第一実施態様]
第一実施態様の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含む。第一実施態様に係る活性エネルギー線硬化性化合物(A)が、例えば、環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートと、エポキシ(メタ)アクリレートと、2官能(メタ)アクリレートとを含む。
【0043】
第一実施態様に係る環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、前述する<環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート>に記載の化合物が挙げられる。
第一実施態様に係るエポキシ(メタ)アクリレートとしては、前述する<エポキシ(メタ)アクリレート>に記載の化合物からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
第一実施態様に係る2官能(メタ)アクリレートとしては、前述する<2官能(メタ)アクリレート>に記載の化合物からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
第一実施態様に係る熱可塑性樹脂(B)としては、前述する[熱可塑性樹脂(B)]に記載の樹脂が挙げられる。
【0044】
第一実施態様の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100質量%において、前記環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート、前記エポキシ(メタ)アクリレート、前記2官能(メタ)アクリレート、及び前記熱可塑性樹脂(B)の含有量はそれぞれ以下である。
【0045】
環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート:15~40質量%、好ましく20~30質量%
エポキシ(メタ)アクリレート:20~50質量%、好ましく30~40質量%
2官能(メタ)アクリレート:20~50質量%、好ましく30~40質量%
熱可塑性樹脂(B):1~10質量%、好ましく2~7質量%
【0046】
[第二実施態様]
第二実施態様の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物(A)と熱可塑性樹脂(B)とを含む。
第二実施態様に係る活性エネルギー線硬化性化合物(A)が、例えば、環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートと、2官能(メタ)アクリレートとを含む。
【0047】
第二実施態様に係る環状構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、前述する<環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート>に記載の化合物が挙げられる。
第二実施態様に係る2官能(メタ)アクリレートとしては、前述する<2官能(メタ)アクリレート>に記載の化合物が挙げられる。
第二実施態様に係る熱可塑性樹脂(B)としては、前述する[熱可塑性樹脂(B)]に記載の樹脂が挙げられる。
【0048】
第二実施態様の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100質量%において、前記環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート、前記2官能(メタ)アクリレート、及び前記熱可塑性樹脂(B)の含有量はそれぞれ以下である。
【0049】
環状構造を有する単官能(メタ)アクリレート:1~20質量%、好ましく5~15質量%
2官能(メタ)アクリレート:50~90質量%、好ましく60~80質量%
熱可塑性樹脂(B):5~40質量%、好ましく10~30質量%
【0050】
[活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の物性]
上記のような各成分からなる本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化後の屈折率は、物品として光学部品、レンズ、レンズシートを製造する場合に、十分な輝度向上効果を得、レンズ形状を浅くして母型からの離型性を良好にするため、硬化膜の屈折率は、1.45以上であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の粘度は、母型へ均一に塗布することができ、さらに微細構造を有する母型の複製が可能であるようにするため、25℃で1,000~30,000mPa・sの範囲にあることが好ましく、なかでも1,000~20,000mPa・sであることが特に好ましい。上記範囲以外の粘度であっても、樹脂組成物の温度をコントロールして粘度を調節するなどの方法を取れば、使用することができる。
ここでの粘度と、通常のE型粘度での測定を指す。この場合の粘度も、本願でいうせん断粘度も、回転体が流体から受ける抵抗(粘性抵抗)を一定の回転トルク[コ-ンプレート等]にて読み取る点に於いては、同様である。相違点としては、通常のE型粘度の場合は、高粘度になるにつれて低回転数で測定するが、本願のせん断粘度は、一定の高速回転に於けるせん断粘度を規定している点であることがあげられる。
【0052】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線を照射することにより硬化することができる。活性エネルギー線とは、電磁波または荷電粒子線のうち、分子を重合、架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、例えば、可視光線、紫外線、X線等の電磁波、または電子線等の荷電粒子線が挙げられる。これらの内で実用上良く用いられるのは、可視光線、紫外線、または電子線である。
【0053】
紫外線の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ等の光源を用いることができる。
【0054】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を可視光線または紫外線により硬化させる場合には、紫外線または可視光線の照射によって、解離し、ラジカルを発生するような光(重合)開始剤を含有させる。
【0055】
[光(重合)開始剤]
本実施形態にかかる光(重合)開始剤としては、光の照射により解離してラジカルを発生するような各種の光重合開始剤が使用でき、例えば、ベンゾフェノン、3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4′-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;キサントン、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントンなどのキサントン、チオキサントン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのアシロインエーテル類;ベンジル、ジアセチルなどのα-ジケトン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、p-トリルジスルフィドなどのスルフィド類;4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸類;
【0056】
3,3′-カルボニル-ビス(7-ジエチルアミノ)クマリン、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2,2′-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフオリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-ベンゾイル-4′-メチルジメチルスルフィド、2,2′-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタ-ル、ベンジル-β-メトキシエチルアセタール、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、α,α-ジクロロ-4-フェノキシアセトフェノン、ペンチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾリルニ量体、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-[ジ-(エトキシカルボニルメチル)アミノ]フェニル-S-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(4-エトキシ)フェニル-S-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(3-ブロモ-4-エトキシ)フェニル-S-トリアジンアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、β-クロルアントラキノンなどが挙げられる。
【0057】
また、光(重合)開始剤の市販品としては、例えば、Irgacure-184、同149、同261、同369、同500、同651、同784、同819、同907、同1116、同1664、同1700、同1800、同1850、同2959、同4043、Darocur-1173(チバスペシャルティーケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASFF社製)、KAYACURE-DETX、同MBP、同DMBI、同EPA、同OA〔日本化薬(株)製〕、VICURE-10、同55(STAUFFER Co.LTD製)、TRIGONALP1(AKZO Co.LTD製)、SANDORY 1000(SANDOZ Co.LTD製)、DEAP(APJOHN Co.LTD製)、QUANTACURE-PDO、同ITX、同EPD(WARD BLEKINSOP Co.LTD製)等が挙げられる。
【0058】
さらに、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物では、光重合開始剤に各種の光増感剤を併用することができ、例えば、アミン類、尿素類、含硫黄化合物、含燐化合物、含塩素化合物またはニトリル類もしくはその他の含窒素化合物等が挙げられる。
【0059】
具体的に、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、2,2′-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オンの群から選ばれる1種または2種類以上の混合系が、高い硬化性が得られるため特に好ましい。
【0060】
これら光増感剤は、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。その使用量は特に制限はないが、感度を良好に保ち、結晶の析出、塗膜物性の劣化等防止するため、該活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100質量部に対して0.05~20質量部用いることが好ましく、なかでも0.1~10質量部が特に好ましい。
【0061】
また、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いた物品の製造では、紫外線等の活性エネルギー線は、支持体となる透明基板面を通して照射される場合が多い。そのため、光(重合)開始剤は、長波長領域に吸光能力を有する開始剤が好ましく、例えば、紫外線が360~450nmの範囲において光開始能力を発揮する光(重合)開始剤の使用が望ましい。450nmを越える光でも強い吸収を有するものは、安定性に劣るため完全に遮光した環境での製造が必要となり、その取扱いが困難となる。なお、電子線を用いる場合は、これら光(重合)開始剤や光増感剤は不要である。
【0062】
電子線の場合には、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧器型絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器等の照射源を備えた装置を用いることができ、100~1,000KeV、好ましくは100~300KeVのエネルギーを持つ電子を照射する。照射線量としては、通常0.5~30Mrad程度が好ましい。
【0063】
[その他の添加剤]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、基材上に形成された硬化樹脂成形層に耐光性が要求される場合等、必要に応じて、紫外線吸収剤を添加することができる。さらに、塗膜の改質や塗装適性、母型からの離型性を改善させる場合には、酸化防止剤、シリコン系添加剤、フッ素系添加剤、レオロジーコントロール剤、脱泡剤、離型剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、防曇剤、着色剤等を添加することも可能である。
【0064】
<紫外線吸収剤>
紫外線吸収剤としては、例えば、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン誘導体、2-(2′-キサンテンカルボキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2′-o-ニトロベンジロキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-キサンテンカルボキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン、2-o-ニトロベンジロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0065】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、有機硫黄系酸化防止剤、リン酸エステル系酸化防止剤等が挙げられる。
【0066】
<シリコン系添加剤>
シリコン系添加剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン共重合体、ポリエステル変性ジメチルポリシロキサン共重合体、フッ素変性ジメチルポリシロキサン共重合体、アミノ変性ジメチルポリシロキサン共重合体など如きアルキル基やフェニル基を有するポリオルガノシロキサン類が挙げられる。
【0067】
上記した如き種々の添加剤の使用量としては、その効果を十分発揮し、また紫外線硬化を阻害しない範囲であることから、該活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100質量部に対し、それぞれ0.01~5質量部の範囲であることが好ましい。
【0068】
[活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の応用]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、フィルム状、シート状、板状の透明基材上の樹脂硬化物からなる成形樹脂層を設けた構造の各種物品に適した材料である。
【0069】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物は、光学レンズ、光学フィルム、反射防止材料、薄膜封止材料、光学用粘着剤、光学用接着剤、拡散マイクロレンズ等、種々用途に使用することができる。
また本実施形態の硬化物の形状は特に限定されず、平滑な面を有する平らなシート状、微細凹凸構造を有するシート状、プリズム形状を有するシート、凹レンズ又は凸レンズのように湾曲した表面を有するシート状等用途に応じて選択可能である。
また本実施形態活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物は、微細凹凸構造を有さず、平滑な面を有していても構わない。各種用途に応じて適宜形状を選択可能である。
【0070】
なかでも、光学部品、レンズ等の透明性を必要とする物品の製造に用いる場合には、厚み200±25μmの硬化物において400~900nmの波長領域の光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上となるように各樹脂組成物成分を組み合わせて用いることが好ましい。
【0071】
これらの物品は、例えば、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、必要とされる微細形状を有する母型上に塗布し、その層の上に支持体となる透明基板を接着させ、次いで透明基材面から活性エネルギー線を照射して該樹脂組成物を硬化させた後、該母型から剥離することにより製造される。
【0072】
これに用いることができるフィルム状、シート状、板状の透明基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート樹脂、メチルメタクリレート系共重合物などのアクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂等が挙げられる。また、プラスチック基材ではないが、ガラス基材などの無機基材も同様に用いることが可能である。
【0073】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、プラスチック基材上に、樹脂硬化物からなる微細なレンズパターンの光学成形層を設けた各種レンズシートに適した材料である。これらのレンズシートとしては、例えば、後述のフレネルレンズシートなどが挙げられる。
【0074】
[硬化塗膜]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物は、硬化塗膜に使用することができる。本実施形態の硬化塗膜は、光学レンズに用いた場合に薄膜化が可能となったり、光学フィルムでは、透明電極との屈折率差を小さくして透明電極が目立たなくできたり、低屈折率層と組合せることにより反射防止機能を付与したり、LED封止材では発光素子部位からの光取出し効率を高める等の観点から、屈折率(594nm)が1.500以上であることが好ましく、1.45以上であることがさらに好ましい。
本実施形態の硬化塗膜は、透明性向上の観点から、硬化塗膜の膜厚が8μm以上12μm以下の際のヘイズ値が2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
<硬化塗膜の製造方法>
本実施形態の硬化塗膜の製造方法は、例えば、透明フィルムなどの基材の上、前述本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、自然または強制乾燥させる塗布工程と;塗布工程で得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の膜に対して、活性エネルギー線を照射し硬化する硬化工程と、を含む。
透明フィルムなどの基材への塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えばロットまたはワイヤーバー等を用いた方法や、マイクログラビア、グラビア、ダイ、カーテン、リップ、スロットまたはスピン等の各種コーティング方法を用いることができる。
【0076】
前記乾燥温度と時間は、特に限定されないが、使用する溶剤によって、例えば、50~150℃で20~80秒間であることができる。
【0077】
前記活性エネルギー線は、本実施形態の硬化性組成物が硬化を起こす活性エネルギー線であれば特に制限なく用いることができるが、特に紫外線を用いることが好ましい。
【0078】
紫外線の発生源としては、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト、低圧、高圧、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、太陽光線などがある。例えば、80W高圧水銀ランプを用いることができる。
紫外線の照射強度は、終始一定の強度でも行って良いし、硬化途中で強度を変化させることにより、硬化後の物性を微調整することもできる。例えば、窒素雰囲気下、80W高圧水銀ランプを用いる場合、紫外線を0.5~3.0kJ/m2のエネルギー数値で照射することができる。
【0079】
紫外線の他、活性エネルギー線として、例えば可視光線、電子線類の活性エネルギー線も用いることができる。
【0080】
[積層体]
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物は、積層体に使用することができる。本実施形態は、上記本実施形態の硬化塗膜と基材とを含む。
【0081】
[基材]
本実施形態にかかる基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロール(TAC)、シクロオレフィンポリマー(bOP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を主成分とするアクリル基材、ガラス、シリコンウエハーなどが挙げられる。
本実施形態にかかる基材の膜厚が、1~300μmであることが好ましく、5~100であることがより好ましい。
本実施形態にかかる基材の具体例は、例えば、40~150μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材などが挙げられる。
【0082】
<積層体の製造方法>
本実施形態の積層体を製造する方法は、特に限定されなく、例えば、加温した前述本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、成形用金型に充填する工程(必要に応じて乾燥する工程を含む)と、前記基材を空気が混入しないように加圧積層する工程とし、紫外線ランプを用いて、紫外線照射を行い、樹脂組成物を硬化させる工程と、その後、離型し、賦形シートを形成する工程と、含むことが好ましい。
【0083】
(レンズシート)
本発明の一実施形態のレンズシート(本実施形態のレンズシートということがある。)は、樹脂層とプラスチック基材とを有する。前記樹脂層が前述の本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。本実施形態のレンズシートとしては、例えば、プリズムシート、フレネルレンズシート、レンチキュラーシート、光拡散シートなどが挙げられる。
図1に、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いたフレネルレンズシート、及びそのフレネルレンズシートを用いた透過型スクリーン断面図の例を示す。
【0084】
図1に示される透過型スクリーンレンズ1は、フレネルレンズシート2及びレンチキュラーレンズシート3とからなる。フレネルレンズシート2は、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させてなるフレネルレンズ形状の樹脂層4をプラスチック基材5上に有している。
【0085】
本発明のレンズシートに用いられるプラスチック基材としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂からなる基材等が挙げられる。特に、メチルメタクリレートを主成分とするアクリル系樹脂からなる基材とポリエステル系樹脂からなる基材は、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物との密着性が良好であるため、いずれも好適に用いられる。
【0086】
さらに、前記透過型スクリーン1は、
図1に示されるレンチキュラーレンズシート3と組み合わせる以外にも、他の形状を有するレンズシートと組み合わせることもできる。
【0087】
(レンズシートの製造方法)
本発明の実施形態のレンズシートは、前述の(積層体の製造方法)に準じて製造される。すなわち、加温した前述本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、成形用金型に充填し、その後、基材を空気が混入しないように加圧積層し、紫外線ランプを用ちいて、紫外線照射を行い、樹脂組成物を硬化させ、硬化後、基材を離型し、基材表面に金型の賦形がシートに転写され、レンズシートをバッチ生産にて作製した。
本実施形態のレンズシートの製造方法は、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いるのであれば、他の製造方法について特に限定されることはなく、公知のレンズシートの製造方法を用いることができる。
例えば、前述のバッチ生産による製造方法の他に、ロールから引き出された基材(フィルム)と、表面に賦形を施したドラム状の金型(ドラム状の金属型・樹脂型)の間に、樹脂を充填しながら、ドラムを回転させるのに沿って、基材(フィルム)を送り出し、途中、基材側から紫外線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化させた後、基材(フィルム)を離型し、賦形が施された基材(フィルム)を別のロールに巻き取るロール・to・ロールの連続製造方法も用いることが出来る。
【0088】
本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いて、
図1に示す前述のフレネルレンズシート2を製造する方法としては、例えば、フレネルレンズ成形用母型に前記樹脂組成物を充填した後、充填された前記樹脂組成物上にプラスチック基材を空気が混入しないように加圧積層して密着させ、プラスチック基材側から紫外線等の活性エネルギー線を照射して前記樹脂組成物を硬化させた後、フレネルレンズ成形用母型力離型する方法などが挙げられる。
また、
図1に示す前述のレンチキュラーレンズシート3を製造する方法としては、例えば、ロール状のレンチキュラーレンズ成形用母型に本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を連続的に充填した後、充填された前記樹脂組成物上にプラスチック基材を空気が混入しないように連続的に密着させ、プラスチック基材側から紫外線等の活性エネルギー線を照射して前記樹脂組成物を硬化させた後、ロール状のレンチキュラーレンズ成形用母型から離型する連続製造方法などが挙げられる。
【0089】
(本発明について)
一般に、せん断流動(射出成型のように金型内の流路に樹脂を充填させるプロセスで発生)では、流路壁から中央に向かって速度分布ができる。伸長流動(狭い流路に一瞬だけ入って解放されるような外圧が加わる方向の横方向に流動するプロセス)が発生する場合には、速度分布は発生しない。本発明の様に、高粘度の樹脂組成物を金型に充填するような成形に於いては、前述の回転体でトルクを測る方法では、適切な粘度を示していない場合がある。本願では、せん断速度を回転ではなく、流動速度毎のせん断粘度と伸長粘度を測定することにより、高粘度の樹脂組成物であっても、安定した流動性を確保できることを見出し、本発明に至った。
【実施例0090】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるべきものではない。尚、例中の部及び%は、特に記載のない限り、すべて質量基準である。
【0091】
(実施例1と2及び比較例1~3)
表1に示す配合により、本実施形態の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を調製した。
【0092】
(評価サンプル作製)
下記の方法により、測定用の硬化樹脂フィルム、硬化樹脂層付き基板及びフレネルレンズシートを作製した。
(S1)硬化樹脂フィルムの作製
40℃に加温した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、クロムメツキした金属板と透明表面未処理PETフィルムとの間に入れた後に厚さを調整し、高圧水銀灯により1000mJ/cm2の紫外線を透明基材側から照射して硬化させた後、金属板及び透明基材から活性エネルギー線硬化樹脂組成物層を剥離し、表面が平滑な厚さが200±25μmの硬化樹脂フィルムを作製した。
【0093】
(S2)硬化樹脂層付き基板の作製
40℃に加温した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、クロムメツキした金属板と縦10cm、横10cm、厚さ2mmのメチノレメタタリレート系樹脂からなる基材との間に入れた後に厚さを調整し、高圧水銀灯により1000mJ/cm2の紫外線を透明基材側から照射して硬化させ、透明基材を活性エネルギー線硬化樹脂組成物層と共に金属板から剥離し、透明基材に厚さ150±25μmの表面が平滑な硬化樹脂層付き基板を作製した。
【0094】
(S3)フレネルレンズシートの作製
42℃に加温した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を加温したフレネルレンズ成形用金型に充填した後、充填された前記樹脂組成物の温度を42℃に保ちながら、前記樹脂組成物上に厚さ2mmのメチノレメタタリレート系樹脂からなる基材を空気が混入しないように加圧積層し、メタルハライドタイプの紫外線ランプ〔日本電池(株)製〕を用い、積算光量:2000mJ/cm2、ピーク照度:250mW/cm2の条件で紫外線照射を行なって、樹脂組成物を硬化させ、離型し、フレネルレンズシートを作製した。
【0095】
(評価方法)
得られた活性エネルギー線硬化性樹脂組成物、硬化樹脂フィルム、硬化樹脂層付き基板及びフレネルレンズシートを用い、粘度、液屈折率、硬化物屈折率、母型再現性、耐割れ性・欠け性、成形加工性の評価を下記の測定・試験方法に従って行った。評価結果を表2に示す。
【0096】
(V1)粘度
表1に示す配合により調製された活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のE型回転粘度計(VISCOMETR TV-25[東機産業製]:コープレートのローター番号1‘34“×R24」)、25℃での粘度測定(mPa・s)を行った。
実施例1と2の回転速度は、5rpm、比較例1と2の回転速度は、20rpm、比較例3の回転速度は、10rpmで、それぞれ測定した。
【0097】
(V2)液屈折率
液状サンプルの屈折率を測定した。液状サンプルは、Abbe屈折計のプリズムに直接塗布し、25℃にて液屈折率の測定を行った。
【0098】
(V3)硬化物屈折率
硬化サンプルの屈折率を測定した。硬化サンプルは、硬化樹脂フィルム(F)を試料とし、試料をプリズムに密着させる中間液として、1-ブロモナフタレンを用い、Abbe屈折計にて、試料温度25℃で硬化物屈折率の測定を行った。
【0099】
(V4)伸長粘度とせん断粘度の測定及びトルートン比の算出
実施例1~2及び比較例1~3について、それぞれ以下に示す方法により、30℃、せん断速度1000s-1における活性エネルギー線硬化性樹脂組成物のせん断粘度と、30℃、伸長速度1000s-1での活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度とを測定し、その比(伸長粘度/せん断粘度)であるトルートン比を求めた。
また、実施例1~2及び比較例1~3について、それぞれ上記と同様な方法により、30℃、伸長速度1000~10000s-1の範囲において、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の伸長粘度とを測定し、その伸長粘度が100Pa・s以上になった際の伸長速度を表2に示す。伸長速度1000~10000s-1の範囲において、測定した伸長粘度の全てが100Pa・s未満であった比較例1~3について、「-」を示した。
【0100】
伸長粘度は、JIS-7199(ISO 11443、ASTM D 3835)に記載されたキャピラリレオメータ評価方法に準拠して測定した。
具体的には、ツインキャピラリ型の装置(Gottfert社製、RHEOGRAPH20)を用いた。キャピラリダイとして長さ10mm、直径0.5mmのキャピラリダイと、長さ0.25mm、直径0.5mmを用い、測定温度30℃で活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の測定を行った。
【0101】
そして、せん断速度300~300000s-1で測定した見かけのせん断粘度(圧力)から、バーグレー補正を使用して圧力損失を除去し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の真のせん断粘度を得た。得られた真のせん断粘度と圧力損失から、コグスウェル式を用いて伸長速度と対応した伸長粘度を求めた。せん断速度1000s-1における真のせん断粘度と伸長速度1000s-1の伸長粘度からトルートン比(=伸長粘度/せん断速度)を求めた。
温度30℃、せん断速度1000s-1におけるせん断粘度、温度30℃、せん断速度1000s-1における伸長粘度、およびトルートン比の値を、表2に示す。
【0102】
(V5)母型再現性(形状再現性)
フレネルレンズシート作成時に、フレネルレンズ成形用金型からの剥離後のフレネルレンズシート外観を目視して観察し、抜けのない均一な表面形状がえられたものを◎、金型細部へ樹脂が未到達状態、樹脂泡ガミなどのため一部に形状の抜け落ちが見られたものを×とした。
【0103】
(V6)耐割れ・欠け性
市販の精密カッターナイフを用いて、硬化樹脂層付き基板を硬化性樹脂層側から刃が当たるようにして切断した際に、硬化性樹脂あるいは基板に損傷がなかった時を◎、欠けや割れ生じた時を×とした。
【0104】
(V7)成形加工性(広がり面積の差)
実施例1~2及び比較例1~3について、各試料をシリンジにて、0.1ccを取り、PETフィルムに垂らした後、更に上からPETフィルムを重ね、その重ねたフィルムを株式会社エム・シー・ケー社製ラミネータMRX-600を用いて、ラミネート速度7.2m/min、0.8MPaでラミネートした際の広がり面積(A)とラミネート速度7.2m/min、0.4MPaでラミネートした際の広がり面積(B)との差(絶対値)が、5cm2以下であるものを◎、5cm2以上であるものを×とした。
尚、ラミネートした後に、メタルハライドランプ1000mJ/cm2の積算光量でUV照射した後の試料にて、面積を計測した。
【0105】
【0106】
<表1の脚注>
単位:質量部
(A)活性エネルギー線硬化性化合物
(a-1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量635g/eq)とアクリル酸を反応させたエポキシアクリレート
(a-2):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量188g/eq)とアクリル酸を反応させたエポキシアクリレート
(a-3):脂肪族ウレタンアクリレート(三菱ケミカル株式会社製:UV-6640B)
【0107】
(b-1):エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのジアクリレート (m1+m2=4)
(b-2):エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのジアクリレート (n1+n2=10)
(b-3):トリプロピレングリコールジアクリレート
(b-4):DPHA(ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート)
【0108】
(c-1):フェノキシエチルアクリレート
(c-2):エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート
【0109】
(e)光開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
【0110】
(B)熱可塑性樹脂
(r-1):ポリウレタン樹脂(脂肪族ポリエステルジオール/ヘキサメチレンジイシシアネート系樹脂、GPC法による重量平均分子量=85,000、Tg=-49℃)
(r-2):メチルメタクリレートを主成分としてなるアクリル系樹脂(GPC法による重量平均分子量=105,000、Tg=98℃)
(r-3):メチルメタクリレートを主成分としてなるアクリル系樹脂(GPC法による重量平均分子量=150,000、Tg=105℃)
【0111】
【0112】
(考察)
表1及び表2に示すように、伸長速度1000~10000s-1の範囲における伸長粘度が、少なくとも1つが100Pa・s以上である実施例1及び2では、従来技術に加え、更に、成形加工性の向上を確認した。
一方、伸長速度1000~10000s-1の範囲における伸長粘度が100Pa・s未満である比較例1-3では、成型加工性が低下した。中でも、熱可塑性樹脂(B)を含有しない比較例1では、耐割れ性・欠け性も低下した。これは硬化物が硬くなったためと考えられる。