(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064793
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240507BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240507BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240507BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
B29C48/305
B29C48/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173658
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍一朗
(72)【発明者】
【氏名】江頭 巧
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 星冴
(72)【発明者】
【氏名】大崎 桂史
【テーマコード(参考)】
4F071
4F207
【Fターム(参考)】
4F071AA51
4F071AA81
4F071AA84
4F071AA87
4F071AA89
4F071AB30
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4F071BC16
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4F207AB11
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4F207AH33
4F207AR12
4F207AR13
4F207AR20
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL84
4F207KM16
(57)【要約】
【課題】
ポリアリールエーテルケトンフィルムの製造に際して、フィルムが冷却ロールに接着することがなく、表面の粗さが小さいフィルムを与え得るポリアリールエーテルケトン樹脂組成物及びフィルムを提供すること。
【解決手段】
ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とし、200℃における寸法変化率が0.2%以下であるフィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とし、200℃における寸法変化率が0.2%以下であるフィルム。
【請求項2】
前記ポリアリールエーテルケトン(A)100質量部に対して、無機充填材(B)を1~13質量部含有する請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
295℃における貯蔵弾性率G’が10000Pa以上である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
350℃における貯蔵弾性率G’が3000Pa以上である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項5】
少なくとも一方の表面の算術平均粗さRaが0.005μm以上0.15μm以下である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項6】
前記無機充填材(B)がマイカを主成分充填材とするものである、請求項2に記載のフィルム。
【請求項7】
前記無機充填材(B)の長辺の平均長さが1μm以上10μm以下である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項8】
前記無機充填材(B)の短辺の平均長さが0.1μm以上3μm以下である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項9】
前記無機充填材(B)の平均アスペクト比が5以上である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項10】
前記無機充填材(B)の10μm四方あたりの平均個数が20以上である、請求項2に記載のフィルム。
【請求項11】
前記ポリアリールエーテルケトン(A)の重量平均分子量が50000以上である、請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項12】
ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とする樹脂組成物を、Tダイによって押出し、製膜する製造方法であって、エアーギャップが70mm以上である、請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムに関し、詳細には、ポリアリールエーテルケトンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の中でも、ポリエーテルイミド樹脂やポリエーテルエーテルケトン樹脂に代表されるガラス転移温度や融点が高い樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性などに優れているため、航空機部品、電気・電子部品を中心に多く採用されている。
例えば特許文献1には、熱可塑性ポリイミド樹脂とポリアリールエーテルケトン樹脂とからなる樹脂100質量部に対して充填材を5~50質量部の範囲で添加してなり、表面の最大山高さRy(JIS B0601-1994に準拠して測定)が、0.01~10μmの範囲にあることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムが開示されている。
【0003】
また、高耐熱、耐燃性、寸法安定性に低環境負荷性も兼ね備えたプリント配線基板用の絶縁材料として、特許文献2には、結晶性ポリアリールエーテルケトン樹脂70~25重量%と非晶性ポリエーテルイミド樹脂30~75重量%の混合物からなる熱可塑性樹脂100重量部に対し、溶融法で合成された特定の性質を有するフッ素金雲母を20重量部以上50重量部未満混合してなるフィルムが開示されている。
【0004】
さらに、耐熱性および絶縁破壊電圧等の電気絶縁性に優れた高絶縁性フィルムとして、特許文献3には、熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を主たる構成成分とする厚み方向の屈折率が、1.640以下である二軸延伸フィルムと、その少なくとも片面に設けられた、表面の水接触角が85°以上、120°以下である塗布層とを有する高絶縁性フィルムが開示されている。
【0005】
また、低比誘電率、低線膨張係数、高耐熱性、高機械的強度を兼備し、電子機器の回路基板用樹脂組成物として、特許文献4には、溶融温度が300℃以上である合成樹脂に、1MHzで比誘電率が8以下であり、誘電正接が0.004以下である鱗片状無機充填材を配合してなる回路基板用樹脂組成物が開示されている。溶融温度が300℃以上である合成樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリアリールエーテルケトンが例示されている。
【0006】
さらに、機械的強度、耐熱性に優れ、かつ線膨張係数、異方性が小さく、樹脂劣化することが少ない、フレキシブルプリント配線板に用いる耐熱性フィルムとして適した樹脂組成物として、特許文献5には、溶融温度が300℃以上である合成樹脂に、特定の性質を有する板状無機充填材を含有させた樹脂組成物が開示されている。溶融温度が300℃以上である合成樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリアリールエーテルケトンが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-330377号公報
【特許文献2】特許第3955188号公報
【特許文献3】特許第5806025号公報
【特許文献4】特開2001-151935号公報
【特許文献5】国際公開第2001/040380号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に代表されるポリアリールエーテルケトンは、種々の材料として使用されており、有用な樹脂である。
しかしながら、ポリアリールエーテルケトンはフィルムを製造する過程で、冷却ロールに接着するという問題が発生する場合があり、また冷却ロールから剥がせたとしても、品質の面でフィルムの表面が粗くなる場合があって、生産安定性に欠けるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明はポリアリールエーテルケトンフィルムの製造に際して、フィルムの冷却ロールへの接着を抑制し、表面の粗さが小さいフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とするフィルムであって、寸法変化率を特定の範囲に制御することによって、上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に至ったものである。すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
【0011】
[1]ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とし、200℃における寸法変化率が0.2%以下であるフィルム。
[2]前記ポリアリールエーテルケトン(A)100質量部に対して、無機充填材(B)を1~13質量部含有する上記[1]に記載のフィルム。
[3]295℃における貯蔵弾性率G’が10000Pa以上である、上記[1]又は[2]に記載のフィルム。
[4]350℃における貯蔵弾性率G’が3000Pa以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のフィルム。
[5]少なくとも一方の表面の算術平均粗さRaが0.005μm以上0.15μm以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のフィルム。
[6]前記無機充填材(B)がマイカを主成分充填材とするものである、上記[2]~[5]のいずれかに記載のフィルム。
[7]前記無機充填材(B)の長辺の平均長さが1μm以上10μm以下である、上記[2]~[6]のいずれかに記載のフィルム。
[8]前記無機充填材(B)の短辺の平均長さが0.1μm以上3μm以下である、上記[2]~[7]のいずれかに記載のフィルム。
[9]前記無機充填材(B)の平均アスペクト比が5以上である、上記[2]~[8]のいずれかに記載のフィルム。
[10]前記無機充填材(B)の10μm四方あたりの平均個数が20以上である、上記[2]~[9]のいずれかに記載のフィルム。
[11]前記ポリアリールエーテルケトン(A)の重量平均分子量が50000以上である、上記[1]~[10]のいずれかに記載のフィルム。
[12]ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とする樹脂組成物を、Tダイによって押出し、製膜する製造方法であって、エアーギャップが70mm以上である、上記[1]~[11]のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリアリールエーテルケトンフィルムの製造に際して、フィルムの冷却ロールへの接着を抑制し、表面の粗さの小さいフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[フィルム]
本発明のフィルム(以下「本フィルム」と記載することがある。)は、ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とし、200℃における寸法変化率が0.2%以下であることを特徴とする。ここで主成分とは、ポリアリールエーテルケトン(A)の含有量がフィルム全量基準で50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
200℃における寸法変化率を0.2%以下に制御することによって、冷却ロールへの貼りつきを抑制することができ、フィルムの表面粗さの小さいフィルムを得ることができる。
200℃での寸法変化率が小さいフィルムは、当該フィルムを構成する樹脂組成物が冷却ロールに接触する時点である程度結晶化が進んでいるために、冷却フィルムへの貼りつきが抑制できるものと考えている。
200℃での寸法変化率は、ポリアリールエーテルケトンの組成や分子量の他、無機充填材(B)を添加する場合はその無機充填材(B)の形状や添加量、フィルム製造時におけるエアギャップ、引取り角度、引取り速度、冷却ロールの温度等の組み合わせにより調整することができる。
以下、ポリアリールエーテルケトン(A)について、詳細に説明する。
【0015】
<ポリアリールエーテルケトン(A)>
本発明に用いるポリアリールエーテルケトン(A)は、1つ以上のアリール基、1つ以上のエーテル基及び1つ以上のケトン基を含むモノマー単位を含有する単独重合体又は共重合体である。
例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)等や、これらの共重合体(例えば、PEEK-PEDEK共重合体)を挙げることができる。中でも、耐熱性、機械特性、耐薬品性等に優れる点で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
【0016】
(重量平均分子量)
前記ポリアリールエーテルケトン(A)の重量平均分子量(Mw)は50000以上であることが好ましい。Mwが50000以上であることにより、冷却ロールへの接着が軽減され、かつフィルムの表面粗さを小さくすることができる。以上の観点から、Mwは55000以上であることがより好ましく、60000以上であることがさらに好ましく、80000以上であることが特に好ましく、90000以上であることが最も好ましい。なお、Mwが50000以上であることにより、耐久性、耐衝撃性等の機械特性にも優れ、冷却ロールへの貼りつきも軽減される傾向となる。
一方、前記ポリアリールエーテルケトン(A)の重量平均分子量(Mw)は150000以下であることが好ましい。Mwが150000以下であると結晶化度や結晶化速度、溶融成形時の流動性に優れる傾向となる。以上の観点から、Mwは130000以下であることがより好ましく、120000以下であることがさらに好ましく、110000以下であることが特に好ましい。
【0017】
(結晶融解温度)
ポリアリールエーテルケトン(A)の結晶融解温度(Tm)は、耐熱性の観点から、320℃以上であるのが好ましく、中でも325℃以上、その中でも330℃以上であるのがさらに好ましく、335℃以上であることが特に好ましい。他方、製膜性及び加工性の観点から、370℃以下であるのが好ましく、中でも360℃以下、その中でも355℃以下であるのがさらに好ましく、350℃以下であるのが特に好ましい。
【0018】
(分子量分布)
前記ポリアリールエーテルケトン(A)の分子量分布は3.3以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、3.6以上であることがさらに好ましく、3.8以上であることが特に好ましく、4以上であることが最も好ましい。分子量分布が前記下限値以上であれば、低分子量成分を充分な量含むため、結晶化度や結晶化速度を高めることができ、ひいては、耐熱性や剛性、生産性の向上に繋がりやすく、ロールへの貼り付きも軽減されやすい傾向となる。
一方、ポリアリールエーテルケトン(A)の分子量分布は8以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、6.5以下であることがさらに好ましく、6以下であることが特に好ましく、5.5以下であることが最も好ましい。ポリアリールエーテルケトン(A)の分子量分布の上限が前記数値以下であれば、高分子量成分と低分子量成分の割合が多すぎないため、結晶化度と流動性、機械特性のバランスに優れる傾向がある。なお、前記分子量分布とは、重量平均分子量を数平均分子量で除したものである。
【0019】
本発明における重量平均分子量と数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することにより得られる。例えば、溶離液としてクロロフェノールと、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン、ブロモトルエン、ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、ジブロモベンゼン、ジブロモトルエン等のハロゲン化ベンゼン類との混合液や、ペンタフルオロフェノールとクロロホルムの混合液を用いて以下の方法で測定することができる。
(1)ポリアリールエーテルケトン(A)のフィルムを得る。
(2)前記フィルム9mgに、ペンタフルオロフェノール3gを加える。
(3)ヒートブロックを用い、100℃で60分間加熱溶解する。
(4)続いてヒートブロックから取り出し、放冷後、常温(約23℃)のクロロホルム6gを少しずつ静かに加え穏やかに振り混ぜる。
(5)その後0.45μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)カートリッジフィルターでろ過して得られた試料について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、前述の測定条件で数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を測定する。
【0020】
(結晶融解熱量)
ポリアリールエーテルケトン(A)の結晶融解熱量は、15J/g以上であることが好ましく、18J/g以上であることがより好ましく、20J/g以上であることがさらに好ましく、23J/g以上であることが特に好ましく、25J/g以上であることが最も好ましい。ポリアリールエーテルケトン(A)の結晶融解熱量が前記下限値以上であれば、本樹脂組成物から得られるフィルム等は充分な結晶化度を有し、ひいては耐熱性と剛性に優れる傾向となる。
一方、ポリアリールエーテルケトン(A)の結晶融解熱量は60J/g以下であることが好ましく、58J/g以下であることがより好ましく、56J/g以下であることがさらに好ましく、54J/g以下であることが特に好ましい。ポリアリールエーテルケトン(A)の結晶融解熱量が前記上限値以下であれば、結晶化度が高すぎないため、本樹脂組成物を成形する際の溶融成形性に優れる傾向となり、得られるフィルムは耐久性、耐衝撃性に優れる傾向となる。
【0021】
なお、本発明における結晶融解熱量は、JIS K7122:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~400℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度400℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線の融解ピークの面積から求めることができる。
【0022】
(結晶化温度)
ポリアリールエーテルケトン(A)の降温過程における結晶化温度(Tc)は275℃以上であることが好ましく、278℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることがさらに好ましく、283℃以上であることが特に好ましく、285℃以上であることが最も好ましい。ポリアリールエーテルケトン(A)の降温過程における結晶化温度が前記温度以上であれば、結晶化速度が大きく、本樹脂組成物から得られるフィルムを成形する際の生産性に優れる傾向となる。具体的には、例えばフィルムを作製する場合であれば、キャストロールの温度(冷却温度)をガラス転移温度以上、結晶融解温度以下の温度に設定することで、キャストロールに樹脂が接触している間に結晶化が促進され結晶化フィルムが得られる。そして、降温過程における結晶化温度が前記温度以上であれば、結晶化速度が大きく、キャストロールで結晶化を終えることができるため弾性率が高くなり、結果としてロールへの貼り付きが抑えられ、フィルムの外観が良くなる傾向となる。
【0023】
一方、降温過程における結晶化温度は320℃以下であることが好ましく、315℃以下であることがより好ましく、312℃以下であることがさらに好ましく、310℃以下であることが特に好ましい。ポリアリールエーテルケトン(A)の降温過程における結晶化温度が前記温度以下であれば、結晶化が速すぎないため、フィルム等の整形品を作製する際の冷却ムラが少なくなり、均一に結晶化した、加熱寸法安定にも優れる高品質な成形品が得られやすくなる。
【0024】
なお、本発明では、降温過程における結晶化温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~400℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度400℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線の結晶化ピークのピークトップ温度から求めることができる。
【0025】
なお、本発明におけるガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準じて、示差走査熱量計(例えば、パーキンエルマー社製 Pyris1 DSC)を用いて、温度範囲23~380℃まで速度10℃/分で昇温した後、速度10℃/分で23℃まで降温し、再度380℃まで速度10℃/分で昇温した際に検出されるDSC曲線から求めることができる。
【0026】
<ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)>
本発明における(A)成分である、ポリアリールエーテルケトンとしては、上述のようにポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が最も好ましい。以下、PEEKについて詳細に説明する。
前記ポリエーテルエーテルケトンは、少なくとも2つのエーテル基とケトン基とを構造単位として有する樹脂であればよい。中でも、熱安定性、溶融成形性、剛性、耐薬品性、耐衝撃性、耐久性に優れることから、好ましくは下記構造式(1)で表される繰り返し単位を有するものである。
【0027】
【0028】
前記構造式(1)において、Ar1~Ar3のアリーレン基は互いに異なるものであってもよいが、同一であることが好ましい。前記Ar1~Ar3のアリーレン基としては、例えばフェニレン基、ビフェニレン基等を挙げることができる。中でもフェニレン基が好ましく、p-フェニレン基であることがより好ましい。
【0029】
前記Ar1~Ar3のアリーレン基が有していてもよい置換基としては、例えばメチル基、エチル基等の炭素原子数1~20のアルキル基や、メトキシ基、エトキシ基等の炭素原子数1~20のアルコキシ基等を挙げることができる。なお、Ar1~Ar3が置換基を有する場合、その置換基の数には特に制限はない。
【0030】
中でも、下記構造式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが、熱安定性、溶融成形性、剛性、耐薬品性、耐衝撃性、耐久性の観点から好ましい。
【0031】
【0032】
ポリエーテルエーテルケトンの重量平均分子量(Mw)、結晶融解温度、分子量分布、結晶融解熱量、結晶化温度等については、前述のポリアリールエーテルケトンにて記載した内容と、その好ましい範囲等も含めて同様である。
【0033】
<無機充填材(B)>
本発明のフィルムは、上記ポリアリールエーテルケトン(A)100質量部に対して、充填材(B)を1~13質量部含有することが好ましい。無機充填材(B)の添加によって、フィルムの温度変化による寸法変化率を小さくし、結果として、冷却ロールへの貼り付きを抑え、フィルムの表面粗さを小さくすることができる。
充填材(B)の含有量が1質量部以上であると、冷却ロールへの貼りつきが抑制される傾向が高くなり、また冷却ロールからフィルムを剥がした際のフィルムの表面粗さが小さくなる傾向がある。以上の観点から、無機充填材(B)の含有量は2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましい。
一方、無機充填材(B)の含有量が13質量部以下であると、冷却ロールに接触する前に樹脂が結晶化する傾向が強くなり、そのことによって、フィルムが冷却ロールに貼りつき難くなる傾向がある。以上の観点から、無機充填材(B)の含有量は、12質量部以下であることがより好ましく、11質量部以下であることがさらに好ましい。
【0034】
前記無機充填材の例としては、クレー、ガラス、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、窒化珪素などの無機充填材が挙げられ、ガラス繊維や炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などの繊維、鱗片状、板状又は薄片状のもの、好ましくは無機の鱗片状、板状又は薄片状の粉体、例えば、(合成)マイカ、天然マイカ、ベーマイト、タルク、セリサイト、イライト、カオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、板状アルミナ、鱗片状チタン酸塩(例えば、鱗片状チタン酸マグネシウムカリウム、鱗片状チタン酸リチウムカリウム等)などを挙げることができる。
【0035】
中でも、フィルムの冷却ロールへの接着を効果的に抑制し、かつ機械的強度、耐熱性、製膜性に優れ、線膨張係数が低い点から、マイカが主成分充填材であるのが好ましい。
この際、主成分充填材とは、無機充填材を構成する種類の中で含有量が最も多い種類の充填材の意味であり、好ましくは、充填材の50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上(100質量%を含む)を占める種類のものである。他の主成分充填材についても同様である。
【0036】
前記無機充填材(B)は、異方性が少なくて、フィルム等の成形品の寸法変化をより抑えることができ、フィルムの製膜性、特に薄膜フィルムの製膜性に優れる観点から、鱗片状充填材、板状充填材、薄片状充填材又はこれらの2種類以上の混合物を主成分充填材とするものが好ましい。
【0037】
よって、主成分充填材としては、例えば、鱗片状または薄片状のマイカ、板状または薄片状の二酸化チタン、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、ベーマイト、γ-アルミナ及びα-アルミナ等が好ましく用いられ、中でも鱗片状または薄片状のマイカが特に好ましい。
【0038】
(平均アスペクト比)
本フィルム中の無機充填材(B)の平均アスペクト比(長辺の平均長さ/短辺の平均長さ)は5以上であるのが好ましい。平均アスペクト比が5以上であると冷却ロールへの貼りつきを抑制できるとともに、フィルムの寸法変化を抑えることができる。以上の観点から、無機充填材(B)の平均アスペクト比は6以上であることがより好ましく、7以上であるのがさらに好ましく、8以上であるのが特に好ましい。
一方、異方性の観点から、100以下であるのが好ましく、中でも50以下、その中でも30以下であるのがさらに好ましく、20以下であるのが特に好ましい。
なお、無機充填材(B)の平均アスペクト比とは、複数の無機充填材粒子のアスペクト比の平均を意味し、具体的には、後述する各無機充填材粒子の長辺の平均長さと短辺の平均長さの測定結果から算出することができる。
【0039】
(長辺の平均長さ)
本フィルムに含有される無機充填材(B)の長辺の平均長さは1μm以上10μm以下であることが好ましい。
長辺の平均長さが1μm以上であると、上記好適なアスペクト比を得ることが容易となり、結果として、フィルムの冷却ロールへの貼りつきを抑制することができる。また、長辺の平均長さが1μm以上であると、線膨張係数等の寸法安定性が高くなる。以上の観点から、無機充填材(B)の長辺の平均長さは2μm以上であることがより好ましい。
一方、無機充填材(B)の長辺の平均長さが10μm以下であると、製膜性、機械物性が良好となる。以上の観点から、無機充填材(B)の長辺の平均長さは8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがさらに好ましい。
なお、無機充填材(B)の長辺の平均長さとは、走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて各無機充填材粒子を観察した際に、最も長さが長く観察される部分の平均長さをいう。具体的には、本樹脂フィルムの断面に対して観察を行い、無機充填材粒子を任意に10個選択し、最も長さが長く観察される部分の長さを測定して平均化することで求めることができる。
【0040】
(短辺の平均長さ)
本フィルムに含有される無機充填材(B)の短辺の平均長さは0.1μm以上3μm以下であることが好ましい。
短辺の平均長さが0.1μm以上であると、上記好適なアスペクト比を得ることが容易となり、結果として、フィルムの冷却ロールへの貼りつきを抑制することができる。また、短辺の平均長さが0.1μm以上であると、線膨張係数等の寸法安定性が高くなる。以上の観点から、無機充填材(B)の短辺の平均長さは0.15μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることがさらに好ましい。
一方、無機充填材(B)の短辺の平均長さが3μm以下であると、製膜性、機械物性が良好となる。以上の観点から、無機充填材(B)の短辺の平均長さは2μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。
なお、無機充填材(B)の短辺の平均長さとは、走査型電子顕微鏡等の電子顕微鏡を用いて各充填材粒子を観察した際に、最も長さが短く観察される部分の平均長さをいう。具体的には、本樹脂フィルムの断面に対して観察を行い、充填材粒子を任意に10個選択し、最も長さが短く観察される部分の長さを測定して平均化することで求めることができる。
【0041】
(10μm四方当たりの平均個数)
本フィルムに含有される無機充填材(B)は、10μm四方当たりの平均個数が20以上であることが好ましい。当該平均個数が20以上であると、無機充填材の分散性が良好であり、機械的強度に優れる点で有利である。以上の観点から、当該平均個数は30以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましい。
【0042】
(表面処理)
無機充填材(B)は、カップリング剤等の表面処理剤で表面処理してもよい。
カップリング剤等の表面処理剤で表面処理することにより、さらに機械的強度、耐熱性を高めることができ、樹脂の劣化を低減して成形性を向上させることができる。
カップリング剤等の表面処理剤としては特に限定されず、シラン系、チタネート系、アルミナート系等一般的なカップリング剤を用いることができる。
表面処理方法としては、乾式、湿式表面処理方法が使用でき、特に湿式表面処理方法が望ましい。
【0043】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、一般の成形法、例えば、押出成形、カレンダー成形、溶液流延法等の流延成形、インフレーション成形等によって成形することができ、中でも、押出成形法、特にTダイ法が好ましい。
【0044】
また、フィルムとしては特に限定されず、例えば、無延伸または延伸フィルムのいずれでもよい。なお、無延伸フィルムとは、フィルムの配向を制御する目的で積極的に延伸しないフィルムであり、Tダイ法等の押出成形等においてキャストロールにより引き取る際に配向したフィルムや、延伸ロールでの延伸倍率が2倍未満であるフィルムも含むものとする。
【0045】
本発明のフィルムは、ポリアリールエーテルケトン(A)を主成分とする組成物を、Tダイによって押出成形し、冷却することにより製造することができる。ここで、押出成形とは、押出成形機(押出機)を使用して組成物を溶融混練し、押出成形機のTダイからフィルムを連続的に押し出す成形方法である。
【0046】
押出成形機としては、例えば、単軸押出成形機や二軸押出成形機等が挙げられ、投入された組成物を溶融混練するように機能する。その後溶融混練された組成物は、Tダイによってフィルムとして押出され製膜される。押出されたフィルムはタッチロール、キャストロール等の冷却機に接触させることにより冷却される。タッチロールは、Tダイの下方に回転可能に軸支され、キャストロールを摺接可能に狭持する。また、キャストロールは、例えば、タッチロールよりも拡径の金属ロールからなり、Tダイの下方に回転可能に軸支されて押し出されたフィルムをタッチロールとの間に狭持し、タッチロールと共にフィルムを冷却しながらその厚みを所定の範囲内に制御するように機能する。
【0047】
ここで、200℃での寸法変化率を抑えるためには、Tダイによって押出された組成物が、冷却ロールに接する前に樹脂の結晶化が進んでいることが重要である。その観点から、エアーギャップ、すなわちTダイから冷却ロールに接するまでの距離が70mm以上であることが好ましい。該エアーギャップが70mm以上であると、冷却ロールに接する段階で結晶化が進み、その結果冷却ロールへの貼りつきが軽減される傾向になると考えられる。
以上の観点から、エアーギャップは75mm以上であることがより好ましく、80mm以上であることがさらに好ましい。
エアーギャップの上限値については、製造されるフィルムの膜厚、装置の制約等の点から200mm以下であることが好ましく、150mm以下であることがさらに好ましい。
上述のように、エアーギャップを制御することで、本フィルムは、結晶化が進んだ状態で冷却ロールに接着する傾向になるので、表面の粗さが小さいフィルムとなりやすい。また、当該フィルムは、線膨張係数、耐熱性、靭性などがバランスよく良好となり、例えば、半導体製造工程時の保護フィルムとして好適に使用できる。
【0048】
<他の材料>
本フィルムを構成するための樹脂組成物は、前記ポリアリールエーテルケトン(A)及び無機充填材(B)以外の他の材料を含有することも可能である。
当該他の材料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアリールエーテルケトン(A)以外の他の樹脂を併用することができる。具体的には、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、非晶性ポリアミド等が挙げられる。中でも、ポリアリールエーテルケトン(A)への分散性、機械特性等に優れる点で、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSU)が好ましい。
また、当該他の材料として、例えば熱安定剤、滑剤、離型剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、難燃剤、潤滑剤、前記無機充填材(B)以外の充填剤、補強材等の一般的な樹脂添加剤などを挙げることができる。このうちの1種または2種以上を含有することができる。
【0049】
(樹脂組成物の製造方法)
本フィルムを形成するための樹脂組成物の製造方法としては、前述のポリアリールエーテルケトン(A)、必要に応じて添加される無機充填材(B)、及びその他の成分とを一括でドライブレンドした後、二軸混練機等で溶融混練する方法を例示することができる。溶融混練において、無機充填材(B)はドライブレンドせず、押出機の途中にサイドフィーダーから供給することも可能である。
また、ポリアリールエーテルケトン(A)と無機充填材(B)とを含むマスターバッチを予め製造し、当該マスターバッチと必要に応じて添加されるその他の成分とをドライブレンドし、二軸押出機等で溶融混練する方法も好ましい。但し、かかる製造方法に限定するものではない。
混練には、単軸スクリュー押出機、コニーダー、多軸スクリュー押出機等を使用することもできる。これにより、例えばペレット形状の樹脂組成物を得ることができる。
【0050】
本フィルムは、無延伸または延伸フィルムのいずれでもよい。
無延伸フィルムとは、フィルムの配向を制御する目的で積極的に延伸しないフィルムを意味し、Tダイ法等の押出成形等において、溶融樹脂の引き落とし時やキャストロールにより引き取る際に配向したフィルムや、延伸ロールでの延伸倍率が2倍未満であるフィルムも含むものとする。
【0051】
本フィルムは、上述のように樹脂組成物を溶融、好ましくは溶融混練した後、押出成形し、冷却することにより製造することができる。
押出成形機としては、例えば、単軸押出成形機や二軸押出成形機等が挙げられ、投入された本樹脂組成物を溶融混練するように機能する。
【0052】
溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整するのが好ましい。生産性等の観点から、320℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることがさらに好ましく、360℃以上であることが特に好ましい。
溶融温度を前記温度以上とすることで、ペレット等の原料の結晶が充分に融解しフィルムに残りにくくなるため、耐折回数、パンクチャー衝撃強度等の耐久性が向上しやすくなる。
一方、溶融温度は450℃以下であることが好ましく、430℃以下であることがより好ましく、410℃以下であることがさらに好ましく、390℃以下であることが特に好ましい。溶融温度を前記温度以下とすることで、溶融成形時に樹脂が分解しにくく分子量が維持されやすいため、フィルムの耐熱性、引張弾性率が向上する傾向となる。
【0053】
その後、溶融混練された樹脂組成物は、Tダイによって押出され製膜される。
Tダイは、帯形のフィルムを連続的に下方に押出すよう機能する。
このTダイの押出時の温度は、通常は樹脂の融点以上熱分解温度未満の範囲であり、具体的には、280℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、320℃以上であることがさらに好ましく、340℃以上であることが特に好ましく、350℃以上であることが最も好ましい。
一方、Tダイの押出時の温度は450℃以下であることが好ましく、430℃以下であることがより好ましく、410℃以下であることがさらに好ましく、390℃以下であることが特に好ましい。
【0054】
前記Tダイによりフィルムとして押出された樹脂組成物は、圧着ロール、キャストロール等のロール状の冷却機に接触させることにより冷却される。
圧着ロールは、Tダイの下方に回転可能に軸支され、キャストロールを摺接可能に狭持する。また、キャストロールは、例えば、圧着ロールよりも拡径の金属ロールからなり、Tダイの下方に回転可能に軸支されて押し出されたフィルムを圧着ロールとの間に狭持し、圧着ロールと共にフィルムを冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御するように機能する。
【0055】
冷却温度(キャストロールの温度)は、所望の相対結晶化度になるように冷却温度を適宜選択すればよいが、樹脂のガラス転移温度から30~150℃高い温度であることが好ましく、35~140℃高い温度であることがより好ましく、40~135℃高い温度であることが特に好ましい。冷却温度を前記範囲とすることで、フィルムの冷却速度を遅くすることができ、相対結晶化度を高くできる傾向がある。例えば、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンを含む場合、冷却温度は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。一方、冷却温度は300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、250℃以下であることが特に好ましく、240℃以下であることが最も好ましい。
【0056】
一般的に高分子材料の結晶化速度は、結晶の核形成速度と成長速度のバランスから、ガラス転移温度と結晶融解温度との間の温度域で最大化すると考えられる。相対結晶化度が高いフィルムを作製する場合に、冷却温度(キャストロール等の温度)の下限と上限がかかる範囲であれば、結晶化速度が最大となり、生産性に優れた結晶化フィルムが得られやすい。
【0057】
なお、用いる樹脂が複数種の結晶性樹脂の混合物であり、ガラス転移温度が複数存在する場合は、最も高い温度を樹脂のガラス転移温度とみなし、冷却温度を調整すればよい。
【0058】
前記キャストロールの下流には、相対結晶化度を調整するために、フィルムを再加熱するための加熱ロール、フローティングドライヤー等のオーブン、赤外線ヒーター等を備えていてもよい。
【0059】
また、フィルムが延伸フィルムである場合は、キャストロールの下流に、通常、一軸延伸装置、逐次二軸延伸装置、同時二軸延伸装置等の延伸装置を備える。
【0060】
<本フィルムの特性>
(貯蔵弾性率G’)
本フィルムは295℃における貯蔵弾性率G’が10000Pa以上であることが好ましい。295℃における貯蔵弾性率G’が10000Pa以上であると、本フィルムが冷却ロールに貼りつき難く、表面の粗さも小さくすることができる。以上の観点から、295℃における貯蔵弾性率G’は11000Pa以上であることがより好ましく、12000Pa以上であることがさらに好ましく、20000Pa以上であることが特に好ましい。
295℃における貯蔵弾性率の上限については特に制限はないが、通常100000000以下である。
また、本フィルムは350℃における貯蔵弾性率G’が3000Pa以上であることが好ましい。350℃における貯蔵弾性率G’が3000Pa以上であると、本フィルムが冷却ロールに貼りつき難く、表面の粗さも小さくすることができる。以上の観点から、350℃における貯蔵弾性率G’は4000Pa以上であることがより好ましく、5000Pa以上であることがさらに好ましい。
350℃における貯蔵弾性率の上限については特に制限はないが、通常1000000以下である。
なお、貯蔵弾性率G’は実施例に記載の方法で測定した値である。
【0061】
(表面粗さ)
本フィルムの表面粗さについて、以下記載する。
(算術平均粗さ(Ra))
本フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.005μm以上0.15μm以下であることが好ましい。フィルムが冷却ロールに接着しなかったことによって、フィルムの少なくとも一方の表面、すなわち冷却ロールと接していた面のRaが上記範囲になったものである。フィルム表面のRaが0.005μm以上であると、フィルムの冷却ロール貼りつき抑制の点で好ましい。一方、特に、フィルム表面のRaが0.15μm以下であると、フィルムとしての品質が担保され、生産安定性に優れたものとなる。以上の観点から、Raは0.01μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましい。また、Raは0.10μm以下であることがさらに好ましい。
なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013に準拠し接触式表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0062】
(最大高さ粗さ(Rz))
本フィルムの少なくとも一方の表面の最大高さ粗さ(Rz)は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましい。フィルムが冷却ロールに接着しなかったことによって、フィルムの少なくとも一方の表面、すなわち冷却ロールと接していた面のRzが上記範囲になったものである。フィルム表面のRzが0.05μm以上であると、フィルムの冷却ロール貼りつき抑制の点で好ましい。一方、特に、フィルム表面のRzが5μm以下であると、フィルムとしての品質が担保され、生産安定性に優れたものとなる。以上の観点から、Rzは0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。また、Rzは2μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。
なお、最大高さ粗さ(Rz)は、JIS B 0601:2013に準拠し接触式表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0063】
(平均長さ(Rsm))
本フィルムの少なくとも一方の表面の平均長さ(Rsm)は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、Rsmは400μm以下であることが好ましく、350μm以下であることがさらに好ましい。フィルムが冷却ロールに接着しなかったことによって、フィルムの少なくとも一方の表面、すなわち冷却ロールと接していた面のRsmが上記範囲になったものである。
なお、平均長さ(Rsm)は、JIS B 0601:2013に準拠し接触式表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0064】
(本フィルムの厚さ)
本フィルムの厚さは、ハンドリング性の観点から、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、中でも15μm以上、その中でも20μm以上、その中でも25μm以上であるのがさらに好ましい。他方、生産性の観点から、500μm以下であることが好ましく、その中でも400μm以下、その中でも300μm以下、その中でも200μm以下、その中でも150μm以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
(本フィルムの用途)
本フィルムは、半導体製造工程用フィルムとして好適に用いられ、例えば研磨工程、ダイシング工程、耐熱工程など、様々な半導体の製造工程で用いることができる。このような半導体製造の各工程で用いる半導体製造工程用フィルムの保護フィルムとして用いることができる。
中でも、本フィルムは、ウエハ研磨用、例えばバックグラインディング工程において、ウエハ表面(回路形成面)の保護フィルムとして好適に用いることができる。
【0066】
<語句の説明など>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0067】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0068】
次に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0069】
<評価方法>
以下において、種々の物性等の測定及び評価は次のようにして行った。
【0070】
(無機充填材の長辺および短辺の平均長さ、平均アスペクト比、10μm四方あたりの平均個数)
フィルム断面について電界放出形走査電子顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 NOVANanoSEM、倍率5000~500000倍)により観察し、任意に10個の無機充填材粒子を選び、各粒子の長辺および短辺の長さを測定し、下記式からアスペクト比を求めた。また、これらの10個の平均値としての長辺の平均長さ、短辺の平均長さ及び平均アスペクト比を求めた。
アスペクト比=長辺の長さ/短辺の長さ
また、10μm四方当たりの個数を測定し、3回の平均値として平均個数を求めた。
【0071】
(寸法変化率)
熱機械的分析装置(メトラー・トレド社製 TMA/SDTA841)を用いて、JIS K7197:2012に準拠して測定した。具体的には、試験片幅6mm、測定チャック間距離が10mm、引張モードの条件で、30~320℃まで速度5℃/分で昇温した際の初期(30℃)における寸法に対する200℃における寸法の変化率を求めた。なお、測定は、フィルムの樹脂流れ方向(MD)について行った。
【0072】
(貯蔵弾性率G’)
各実施例及び比較例にて作製したフィルムについて、JIS K7244-10:2005に準拠して、レオメータ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:MARS)を用いて、Φ20mmパラレルプレート、歪0.5%、周波数1Hzにて、400℃から240℃へ速度5℃/分で降温する過程で、350℃及び295℃における貯蔵弾性率G’を測定した。
【0073】
(ロールへの貼りつき)
各実施例及び比較例で調製された樹脂組成物を用いてフィルムを作製する過程での、冷却ロールへの貼りつきの状態を目視にて確認した。評価基準は以下の通りである。
◎;常に冷却ロールへの貼りつき無し
〇;冷却ロールへの貼りつきが生じるが簡単に剥がれ、運転に影響なし
×;フィルムが冷却ロールに貼りつき、(他のロールからの力で)引っ張らなければ剥がれない
【0074】
(表面粗さ)
冷却ロールに接触したフィルム面について、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)、及び平均長さ(Rsm)をJIS B 0601:2013に準拠し、表面粗さ測定機((株)東京精密社製、商品名:SURFCOM 1400D)を用いて、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sの条件で測定した。
【0075】
[原料]
実施例及び比較例では次の原料を使用した。
A1:ポリエーテルエーテルケトン3300G(ダイセルエボニック社製PEEK、商品名:VESTAKEEP、重量平均分子量87000、数平均分子量17000、分子量分布5.1、結晶融解温度340℃、結晶融解熱量41J/g、結晶化温度295℃)
A2:ポリエーテルエーテルケトン2000G(ダイセルエボニック社製PEEK、商品名:VESTAKEEP、重量平均分子量60000、数平均分子量15000、分子量分布4.0、結晶融解温度343℃、結晶融解熱量48J/g、結晶化温度302℃)
無機充填材B1:マイカ(MK-100、トピー工業社製)
【0076】
実施例1、2、比較例1及び2
表1の割合となるように、前記原料をドライブレンドした後、Φ40mm単軸押出機を用いて380℃で混練し、Tダイより押出し、次いで210℃のキャスティングロール(冷却ロール)にて冷却し、厚さ50μmの結晶化フィルム(サンプル)を製造した。なお、タッチロールを使用しており、Tダイと冷却ロールとのエアーギャップは表1の通りとした。また、冷却ロールは鏡面ロールを使用した。上記方法にて評価した結果を表1に示す。
また、実施例1、比較例1及び2は、エアーギャップを55mmとし、実施例2ではエアーギャップを110mmとした。
実施例1で得られたフィルムに含まれる無機充填材について確認したところ、それぞれ、長辺の平均長さは3.80μm、短辺の平均長さは0.43μm、平均アスペクト比8.9、10μm四方あたりの平均個数は43であった。
【0077】
【0078】
表1の結果から、200℃での寸法変化率が0.2%以下である実施例1及び2は冷却ロールへの貼りつきが抑制され、表面粗さも小さい結果が得られた。特に実施例2は、無機充填材を含有せず、Mwの低いPEEKを用い、かつエアーギャップを大きくしたことから、冷却ロールに接するまでに結晶化が促進されたため、寸法変化率の低いフィルムが得られ、結果として冷却ロールへの貼りつきが抑制されたと考えられる。貼りつきが抑制されたことに伴い、フィルム表面の粗さも良好になったと思われる。
また、実施例1の結果から、適切な無機充填材を配合することにより、ロール接触する際の樹脂弾性能が比較的大きくなり、冷却ロールへの貼りつきが抑制されることも確認された。
一方、比較例1及び2のフィルムは、無機充填材(B)が添加されず、かつ、エアーギャップが小さかったことから、冷却ロールへの貼りつきが生じたものと考えられる。