(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064802
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】間接熱伝達用作動液、並びに、これを用いた伝熱方法及び伝熱装置
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20240507BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
C09K5/10 E ZAB
H01L23/46 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173677
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌塚 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 優
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136CB06
5F136CB13
5F136CB17
(57)【要約】
【課題】地球温暖化への影響がより小さく、広い温度範囲にわたって液体である間接熱伝達用作動液、並びに、これを用いた伝熱方法及び伝熱装置を提供する。
【解決手段】1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エン(CF3CF2CF2CF2CH=CHCF2CF2CF2CF3)を含む間接熱伝達用作動液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エン(CF3CF2CF2CF2CH=CHCF2CF2CF2CF3)を含む間接熱伝達用作動液。
【請求項2】
強制対流熱伝達用である、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項3】
単相方式用である、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項4】
1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エンは、(E)体の割合が90モル%以上である、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項5】
前記作動液中の1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エンの含有量が80質量%以上である、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項6】
前記作動液中の水分量が1~100質量ppmである、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項7】
25℃における動粘度が2.0×10-6m2/s以下である、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項8】
標準沸点が120℃以上である、請求項1に記載の間接熱伝達用作動液。
【請求項9】
熱伝達作動液を用いて目的物に熱伝達させる伝熱方法であって、
前記熱伝達作動液が、請求項1~8のいずれか1項に記載の間接熱伝達用作動液であり、
前記目的物を前記熱伝達作動液に直接接触させないように配置する、伝熱方法。
【請求項10】
熱伝達作動液を収容する作動液収容部と、熱伝達される目的物の配置部とを備えた伝熱装置であって、
前記熱伝達作動液が、請求項1~8のいずれか1項に記載の間接熱伝達用作動液であり、
前記目的物が、前記熱伝達作動液とは直接接触しない、伝熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化合物を含む間接熱伝達用作動液、伝熱方法及び伝熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝達作動液は、例えば、半導体プロセスにおけるウェハの温度制御、半導体素子や電子部品の冷却及び加熱、サーバーの冷却、ヒートポンプ、ヒートパイプ、恒温槽等の温度制御等の様々な熱伝達手段に用いられている。
【0003】
熱伝達作動液を用いた熱伝達方式には、直接熱伝達方式と間接熱伝達方式とがあり、特に、冷却を目的とする場合は、それぞれ、直接液冷及び間接液冷とも呼ばれる。
直接熱伝達方式は、熱伝達や冷却の対象物(目的物)を熱伝達作動液と直接接触させる方式である。直接熱伝達方式の具体例としては、電子部品の液浸冷却が挙げられる。
一方、間接熱伝達方式は、熱伝達や冷却の対象物(目的物)を熱伝達作動液と直接接触させることなく、熱伝達を行う方式である。間接熱伝達においては、熱伝達効率を高めるため、熱伝導率が高い金属板等を介する場合もある。間接熱伝達方式の具体例としては、コールドプレートを介した電子部品の冷却が挙げられる。
【0004】
また、熱伝達作動液を用いた熱伝達方式は、熱伝達作動液の相変化の観点から、相変化を伴わない単相方式と、液相及び気相間での相変化を伴う二相方式(蒸発系熱伝達や沸騰冷却とも呼ばれる。)に分類される。
【0005】
さらに、熱伝達作動液を用いた熱伝達方式は、熱伝達作動液の流れを生じさせる方法の観点から、自然対流方式と強制対流方式に分類される。
自然対流方式は、熱伝達作動液の温度差で生じる浮力により、自然に熱伝達作動液の流れが生じる方式である。自然対流方式の具体例としては、コンピュータの電子基板の浸漬冷却等が挙げられる。
一方、強制対流方式は、ポンプやコンプレッサー等の外部動力によって熱伝達作動液の流れを生じさせる方式である。熱伝達作動液は、熱伝達を行った後、一般に、チラーや熱交換器等に移送され、所望の温度に調整後、再び、熱伝達させる目的物の近傍に循環される。強制対流方式の具体例としては、集積回路チップに固着させた冷却フィン内を流れる熱伝達作動液による、発熱した集積回路チップの冷却等が挙げられる。
【0006】
熱伝達方式は、プロセスの目的に応じて適宜選択される。例えば、半導体製造プロセスでは、ウェハの極めて高い清浄度及び精密な温度制御が求められるため、一般に、間接熱伝達方式かつ強制対流方式が採用される。
【0007】
熱伝達作動液の特性としては、例えば、間接熱伝達方式では、温室効果が低く、低毒性であり、広い温度範囲にわたって液体であることが求められる。また、強制対流方式では、送液のためのポンプ等の負荷を抑えるために、低粘度であることが求められる。さらに、半導体素子の冷却や半導体製造装置における温度制御等のエレクトロニクス分野での適用においては、低誘電率、高体積抵抗率、高絶縁耐力等の電気特性が求められる。
【0008】
間接熱伝達用作動液に適用される化合物としては、従来から、種々のものが提案されている。
例えば、特許文献1には、熱伝達作動液として3-エトキシ-ペルフルオロ(2-メチルヘキサン)が記載されており、間接的に冷却する態様についても記載されている。
また、特許文献2には、冷却フィン内を流れるフロリナート(登録商標)(パーフルオロカーボン(PFC))により、集積回路チップを間接的に冷却することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003-526906号公報
【特許文献2】特開昭60-134451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されている3-エトキシ-ペルフルオロ(2-メチルヘキサン)等のハイドロフルオロエーテル(HFE)は、誘電率が高く、体積抵抗率が低いため、電気特性が良好とは言えなかった。また、特許文献2に記載されているフロリナートは、地球温暖化係数(GWP)が高く、温室効果による環境への影響が大きいという課題を有していた。
【0011】
このため、地球温暖化への影響がより小さく、広い温度範囲にわたって液体である、間接熱伝達に適した熱伝達作動液が求められている。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、地球温暖化への影響がより小さく、広い温度範囲にわたって液体である間接熱伝達用作動液、並びに、これを用いた伝熱方法及び伝熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、所定のハイドロフルオロオレフィン(HFO)が、間接熱伝達用作動液として有用であることを見出したことに基づく。
【0014】
本発明は、以下の手段を提供する。
[1]1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エン(CF3CF2CF2CF2CH=CHCF2CF2CF2CF3)を含む間接熱伝達用作動液。
[2]強制対流熱伝達用である、[1]の間接熱伝達用作動液。
[3]単相方式用である、[1]又は[2]の間接熱伝達用作動液。
[4]1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エンは、(E)体の割合が90モル%以上である、[1]~[3]のいずれかの間接熱伝達用作動液。
[5]前記作動液中の1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エンの含有量が80質量%以上である、[1]~[4]のいずれかの間接熱伝達用作動液。
[6]前記作動液中の水分量が1~100質量ppmである、[1]~[5]のいずれかの間接熱伝達用作動液。
[7]25℃における動粘度が2.0×10-6m2/s以下である、[1]~[6]のいずれかの間接熱伝達用作動液。
[8]標準沸点が120℃以上である、[1]~[7]のいずれかの間接熱伝達用作動液。
【0015】
[9]熱伝達作動液を用いて目的物に熱伝達させる伝熱方法であって、前記熱伝達作動液が、[1]~[8]のいずれかの間接熱伝達用作動液であり、前記目的物を前記熱伝達作動液に直接接触させないように配置する、伝熱方法。
[10]熱伝達作動液を収容する作動液収容部と、熱伝達される目的物の配置部とを備えた伝熱装置であって、前記熱伝達作動液が、[1]~[8]のいずれかの間接熱伝達用作動液であり、前記目的物が、前記熱伝達作動液とは直接接触しない、伝熱装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地球温暖化への影響がより小さく、広い温度範囲にわたって液体である、間接熱伝達に適した熱伝達作動液が提供される。また、前記熱伝達作動液を用いた伝熱方法及び伝熱装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る伝熱装置の一例を模式的に示した概略構成図である。
【
図2】実施例で用いた流動帯電試験装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[間接熱伝達用作動液]
本発明の間接熱伝達用作動液(以下、単に作動液とも言う。)は、1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エン(CF3CF2CF2CF2CH=CHCF2CF2CF2CF3)を含む。
1,1,1,2,2,3,3,4,4,7,7,8,8,9,9,10,10,10-オクタデカフルオロデカ-5-エンは、フッ素系化合物のうちのHFOに分類される。以下、HFO-193-18mccczz又は193-18mccczzと略称する。193-18mccczzは、幾何異性体として、(E)体と(Z)体とがある。本明細書中、特に断りのない限り、193-18mccczzとは、(E)体及び/又は(Z)体を指すものとする。
【0019】
193-18mcczzは、凝固点が低く、沸点が高いため、広い温度範囲で液体であり、間接熱伝達作動液として好適である。例えば、193-18mcczz(E)は、大気圧で-31~137℃の範囲で液体である。
【0020】
193-18mcczzは、パーフルオロカーボン(PFC)と同程度の動粘度であるため、ポンプを用いて作動液を対流させる場合のポンプ等に対する負荷が小さく、強制対流熱伝達用の作動液として好適に適用できる。
なお、PFCは、炭素原子及びフッ素原子から構成され、窒素原子が含まれていてもよい化合物である。PFCとしては、例えば、パーフルオロヘキサン(C6F14)等のパーフルオロアルカンや、パーフルオロトリプロピルアミン((C3F7)3N)、パーフルオロトリブチルアミン((C4F9)3N)等のパーフルオロアルキルアミン(パーフルオロアミン)等が挙げられる。
【0021】
また、193-18mccczzは、大気中のヒドロキシラジカル等の活性酸素によって分解されやすい炭素-炭素二重結合を有するHFOであるため、大気寿命が短く、地球温暖化への影響が小さい。パーフルオロポリエーテル(PFPE)やPFCのGWPが6000超であるのに比べて、193-18mccczzのGWPは、化学構造上、少なくとも2桁以上小さい値(500未満)であると推定される。なお、193-18mccczz(Z)のGWPは15である(米国特許7736537号明細書参照)。
【0022】
193-18mccczzは、HFEに比べて、誘電率が低く、体積抵抗率が高く、絶縁破壊電圧が高く、絶縁性に優れており、電気特性が良好である。このため、間接熱伝達用作動液として好適であるのは勿論、特に、エレクトロニクス分野での温度制御に好適である。エレクトロニクス分野での温度制御の具体的な態様としては、半導体プロセスにおけるウェハ、半導体素子及び電子部品等の冷却又は加熱等が挙げられる。
【0023】
作動液中の193-18mccczzの含有量は、低いGWP及び良好な電気特性を得る観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上である。
作動液は、使用態様や目的等に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内において、193-18mccczz以外の成分を含んでいてもよい。前記成分としては、例えば、193-18mccczz以外のフッ素系液体、また、潤滑油、安定剤、乾燥剤等の添加剤が挙げられる。また、作動液の使用目的にもよるが、水分が含まれていてもよい。
【0024】
作動液が水分を含む場合、作動液の均一性の観点から、作動液中の水分量は、好ましくは100質量ppm以下である。作動液中の水分量は、良好な電気特性の観点から、より好ましくは1~100質量ppm、さらに好ましくは3~70質量ppmである。
水分量が1質量ppm以上であれば、作動液の流動帯電が抑制されやすい。流動帯電とは、非導電性材料表面を流れる絶縁性流体が静電気を帯びる(帯電する)現象である。帯電した作動液は、部分放電により作動液の流路の材質に影響を与えることがある。このため、特に、エレクトロニクス分野での適用においては、流動帯電が生じないことが好ましい。
また、水分量が100質量ppm以下であれば、水分の相分離による作動液の不均一化が生じにくい。作動液の相分離は、作動液の電気特性を低下させる要因となる。このため、特に、エレクトロニクス分野での適用においては、作動液は相分離しないことが好ましい。
【0025】
193-18mccczzは、上述したように幾何異性体が存在するが、作動液のより良好な電気特性の観点から、(E)体の割合が、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。
【0026】
193-18mccczzは、市販品として入手できる。(E)体の割合が90モル%以上の市販品もあるが、(E)体の割合がさらに高い193-18mccczzは、例えば、蒸留、抽出、共沸分離、膜分離、吸着等の既知の方法により精製することにより、得ることもできる。
【0027】
作動液は、熱伝達に伴うの温度変化が小さい方が、熱伝達させる目的物の精密な温度制御に有利である。このため、作動液の25℃における比熱は、大きいことが好ましく、好ましくは900J/(kg・K)以上、より好ましくは1000J/(kg・K)以上、さらに好ましくは1060~1200J/(kg・K)である。
【0028】
作動液の25℃における熱伝導率は、効率的な熱伝達の観点から大きいことが好ましく、好ましくは0.050W/(m・K)以上、より好ましくは0.060W/(m・K)以上、さらに好ましくは0.065~0.080W/(m・K)である。
【0029】
作動液の25℃における密度は、作動液を送液する際のポンプ等の負荷を抑制する観点からは小さい方が好ましく、熱伝達させる目的物の温度制御をしやすい熱容量の作動液とする観点からは大きい方が好ましい。これらの点を勘案すると、好ましくは1300~2000kg/m3、より好ましくは1400~1800kg/m3、さらに好ましくは1500~1700kg/m3である。
【0030】
作動液の25℃における動粘度は、作動液を送液する際のポンプ等の負荷の抑制の観点から小さいことが好ましく、好ましくは5.0×10-6m2/s以下、より好ましくは2.0×10-6m2/s以下、さらに好ましくは0.5×10-6~1.5×10-6m2/sである。
【0031】
作動液の動粘度は、温度によって変動し、一般に、温度の上昇に伴って低下するが、作動液のポンプでの送液効率を考慮して、作動液の使用下限温度での動粘度が、12×10-6m2/s以下程度であることが好ましい。例えば、-10℃以下の低温でも動粘度が12×10-6m2/s以下であれば、広い温度範囲で作動液を好適に使用できる。さらに、作動液を使用する温度範囲で、動粘度の変動が小さいことが、作動液を送液するポンプ能力を制御しやすくなるため好ましい。
【0032】
作動液の標準沸点は、作動液の揮発に伴うキャビテーションや系内の圧力上昇の抑制の観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは130~200℃、さらに好ましくは、130~160℃である。
標準沸点が120℃以上であれば、作動液が蒸発しにくい。また、標準沸点が200℃以下であれば、作動液を適度な粘度で系内を循環させる上で好ましく、特に強制対流方式に好適に用いることができる。また、単相方式用の作動液として好適に適用できる。
作動液が二相方式で用いられる場合は、作動液の標準沸点は、作動液の蒸発熱の利用の観点から、好ましくは30~150℃、より好ましくは50~140℃である。
【0033】
作動液の比誘電率は、好ましくは2.50未満、より好ましくは2.00未満、さらに好ましくは1.92未満、よりさらに好ましくは1.90未満である。比誘電率が小さいほど作動液の絶縁性が高く、上記数値範囲を満たす作動液はエレクトロニクス分野での適用に好適である。
【0034】
作動液の体積抵抗率は、好ましくは1.0×1011Ω・cm以上、より好ましくは1.0×1014Ω・cm以上、さらに好ましくは1.0×1015Ω・cm以上、よりさらに好ましくは2.0×1015Ω・cm以上である。体積抵抗率が大きいほど作動液の絶縁性が高く、上記数値範囲を満たす作動液はエレクトロニクス分野での適用に好適である。
【0035】
作動液の絶縁破壊電圧は、好ましくは20kV以上、より好ましくは30kV以上、さらに好ましくは40kV以上、よりさらに好ましくは42kV以上である。絶縁破壊電圧が大きいほど、作動液は、より高電圧がかかる環境下でも使用できる。なお、ここで言う絶縁破壊電圧は、電極ギャップ2.5mmでの値である。
【0036】
作動液の上述した各種物性値は、実施例に記載に測定方法により求められる。
【0037】
本発明の作動液は、送液のためのポンプ等に対する負荷が小さく、強制対流による優れた熱伝達効果が得られるため、強制対流熱伝達用として好適に適用できる。 作動液を強制対流熱伝達用として循環利用すれば、作動液による熱伝達をより効率化できる。
また、193-18mccczzが作動液の主成分(例えば、含有量80質量%以上)である場合、193-18mccczzの物性に鑑みて、当該作動液は、相変化を伴わない単相方式の熱伝達に好適に用いることができる。
【0038】
[伝熱方法]
本発明の伝熱方法は、熱伝達作動液を用いて目的物に熱伝達させる伝熱方法であって、熱伝達作動液が、上述した本発明の作動液であり、目的物を熱伝達作動液に直接接触させないように配置することを特徴とする。
本発明の作動液は、上述したとおり、間接熱伝達用作動液であり、熱伝達させる目的物を作動液に直接接触させない態様で、目的物への熱伝達を効率的に行うことができる。
【0039】
熱伝達させる目的物を作動液に直接接触させない態様としては、例えば、目的物と作動液とが熱伝導率が高い金属板等を介して接する配置等が挙げられる。この場合、熱伝達方式は、相変化を伴う二相方式であってもよく、相変化を伴わない単相方式であってもよい。193-18mccczzが作動液の主成分(例えば、含有量80質量%以上)である場合、193-18mccczzの物性に鑑みて、単相方式が好ましい。
また、自然対流方式であってもよく、ポンプ等を用いた強制対流方式であってもよい。熱伝達効率の観点からは、強制対流方式が好ましい。
【0040】
熱伝達の目的物としては、例えば、ウェハ、半導体素子、電子部品等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の伝熱方法は、特に、エレクトロニクス分野において、作動液が直接接触する液浸熱伝達が望ましくない部品や部材の冷却又は加熱に有用である。
【0041】
[伝熱装置]
本発明の伝熱装置は、熱伝達作動液を収容する作動液収容部と、熱伝達される目的物の配置部とを備えた伝熱装置であって、熱伝達作動液が、上述した本発明の作動液であり、目的物が、熱伝達作動液とは直接接触しない構成を有するものである。すなわち、上記の本発明の伝熱方法を実施する手段を備えた装置である。
【0042】
図1に、本発明の伝熱装置の一実施形態として、間接熱伝達方式かつ強制対流方式の伝熱装置の一例を示す。
図1に示す伝熱装置は、半導体製造ユニット1と作動液循環ユニット2を備えた構成からなる。
半導体製造ユニット1は、内部に作動液が流通する配管3を有する配置部11に接触して配置された目的物12を備えている。
作動液循環ユニット2は、作動液貯留槽21と、作動液循環ユニット2から配管3を通じて、半導体製造ユニット1に作動液を送液するためのポンプ22と、半導体製造ユニット1で熱伝達を行った後の作動液の温度制御を行うチラー23を備えている。
【0043】
このような伝熱装置においては、作動液循環ユニット2において、チラー23で所望の温度に調整された作動液が作動液貯留槽21に貯留され、作動液貯留槽21からポンプ22によって作動液が半導体製造ユニット1の配置部11に送液される。そして、配置部11の配管3内で強制対流を生じている作動液が、配置部11に配置された目的物12に対して直接接触せずに、間接的に熱伝達を行い、目的物12を加熱又は冷却する。配置部11の配管3から排出された作動液は、作動液循環ユニット2のチラー23に送液され、再び所望の温度に調整されて、循環利用される。
【0044】
作動液と目的物12との間の熱抵抗を小さくし、熱伝達効率を高めるため、作動液と目的物12との間に介在する配置部11は、高い熱伝導性が得られるように構成されることが好ましい。このような構成としては、例えば、配置部11を、熱伝導率が高い金属板等で構成したり、金属板に複数の微細な平行流路を設けた構造としたりすること等が挙げられる。電子デバイスの冷却におけるコールドプレートや、半導体製造装置における静電チャック等が具体的な態様である。さらに、熱伝達効率の向上及び均一化の観点から、配置部11に、熱伝導率の高いヘリウム等のガスを流す等の構造を組み合わせてもよい。
【0045】
上記実施形態における熱伝達方式は、単相方式であるが、伝達装置は、二相方式によるものであってもよい。193-18mccczzが作動液の主成分(例えば、含有量80質量%以上)である場合、193-18mccczzの物性に鑑みて、単相方式が好ましい。また、熱伝達効率の観点からは、強制対流方式が好ましいが、自然対流方式であってもよい。
【実施例0046】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定されるものではない。
【0047】
[193-18mccczz(E)の準備]
193-18mccczz(E)試薬(富士フイルム和光純薬株式会社製、純度97%)を、理論段数10段の蒸留塔で、圧力6.7kPaで、減圧蒸留し、(E)体の割合が99.5モル%以上である193-18mccczzの留出液(以下、精製193-18mccczz(E)と称する。)を得た。なお、留出液中の(E)体の割合は、ガスクロマトグラフ(使用カラム:「DB-1301」(長さ60m、内径250μm、厚さ1μm;アジレント・テクノロジー株式会社製))による分析から求めた。
【0048】
[物性測定]
精製193-18mccczz(E)について、以下の各種項目の物性値を求めた。
(標準沸点)
JIS K2233:2017の平衡還流沸点の試験方法に準じて、大気圧下、精製193-18mccczz(E)を加えたナスフラスコを、マントルヒーターを用いて加熱し、水を通した冷却器を用いて還流し、測定した還流温度を標準気圧(101.325kPa)での値に補正して、標準沸点を求めた。
(熱伝導率)
非定常細線加熱法により、線径10μm、長さ80mmの白金線を用いた非定常細線法測定装置にて、25℃における熱伝導率を測定した。
(比熱)
示差走査熱量測定(DSC)装置(「DSC 8500」、パーキンエルマー社製)にて、25℃における比熱を測定した。
(密度)
ピクノメーター法により、25℃における密度を測定した。
(動粘度)
EMS(電磁スピニング)粘度計(「EMS-1000」、京都電子工業株式会社製)にて、25℃における粘度を測定し、密度で除した値を動粘度として求めた。
(比誘電率)
LCRメータ(「4284A」、キーサイト・テクノロジー社製)にて、自動平衡ブリッジ法により、比誘電率を測定した。
(体積抵抗率)
デジタル超高抵抗/微少電流計(「5450」、株式会社エーディーシー製)にて、体積抵抗率を測定した。
(絶縁破壊電圧)
JIS C 2101:2100に準じて、絶縁破壊試験機(「YST-243AT-B100」、ヤマヨ試験機有限会社製;電極ギャップ2.5mm)にて絶縁破壊電圧を測定した。
【0049】
表1及び2に、精製193-18mccczz(E)の各種物性値を示す。なお、GWPは、上述した推定値を示す。電気特性は表2に示す。比較参照のため、作動液に用いられているフッ素系液体の下記の市販品の物性値(カタログ値)も併せて示す。
<市販品>
・FC-3283:PFC(パーフルオロアミン);「フロリナート(登録商標)FC-3283」((C3F7)3N)、スリーエム社製
・HT135:PFPE;「ガルデン(登録商標)HT135」、ソルベイ社製
・FC-40:PFC;「フロリナート(登録商標)FC-40」、スリーエム社製
・Novec-7500:HFC;「Novec(登録商標)7500」、スリーエム社製
【0050】
【0051】
表1から、193-18mccczz(E)は、従来の作動液に用いられているフッ素系液体と比較して、遜色ない物性を備えており、かつ、GWPが顕著に小さいことから、作動液に好適に適用できると言える。
【0052】
【0053】
表2から、193-18mccczz(E)は、従来の作動液に用いられているフッ素系液体と比較して、電気特性が良好であり、特に、絶縁性に優れていることが確認された。
【0054】
[熱伝達性評価]
上記で測定された各種物性値及び以下に示す各定義式に基づいて、作動液の熱伝達係数及び単位長さあたりの必要ポンプ能力をシミュレーションにより求めることにより、作動液の熱伝達性評価を行った。
【0055】
(熱伝達係数)
上記により求めた熱伝導率、比熱、密度及び動粘度の値から、下記定義式により、プラントル数を算出した。
プラントル数Prは、流体の動粘度と温度拡散率の比を表す無次元数であり、次式で定義される。
Pr=ν・ρ・c/k
式中、ν:動粘度[m2/s]、ρ:密度[kg/m3]、c:比熱[J/(kg・K)]、k:熱伝導率[W/(m・K)]を表す。
プラントル数Pr値が小さいほど、流体の運動エネルギーの拡散度合いに対して、熱エネルギーの拡散度合いが大きいことを意味する。
【0056】
レイノルズ数Reは、流体の慣性力と粘性力の比を表す無次元数であり、次式で定義される。
Re=u・d/ν
式中、u:流体線速[m/s]、d:円管内径[m]、ν:動粘度[m2/s]を表す。
レイノルズ数Reは、対流の層流・乱流の判断指標となり、一般に、Re>3000程度のとき、乱流とみなせる。
【0057】
ヌッセルト数Nuは、対流する流体の熱伝導と熱伝達の比を表す無次元数であり、次式で定義される。
Nu=h・d/k
式中、h:熱伝達係数[W/(m2・K)]、d:円管内径[m]、k:熱伝導率[W/(m・K)]を表す。
ここで、円管内を加熱した流体を乱流条件で対流させる場合、プラントル数Pr、ヌッセルト数Nu及びレイノルズ数Reの相関は、次式に示すディタス・ベルタ―(Dittus-Boelter)の式で表せる。
Nu=0.023Re0.8Pr0.4
したがって、熱伝達係数hは、下記式により計算できる。
h=0.023Re0.8Pr0.4・k/d
熱伝達係数hが大きいほど、作動液の熱伝達性が優れていると言える。
【0058】
(必要ポンプ能力)
円管内の強制流体の圧力損失ΔP[Pa]は、次式で表される。ここでの圧力損失ΔPは、円管内での摩擦のみを考慮するものとする。
ΔP=4f(ρ・u2/2)(l/d)
式中、f:管摩擦係数[-]、ρ:密度[kg/m3]、u:流体線速[m/s]、l:配管長[m]、d:円管内径[m]を表す。
ここで、管摩擦係数fは、平滑管で乱流域(3000<Re<100000)では、次式に示すブラジウスの式で表せる。
f=0.0791Re-1/4
必要ポンプ能力P[W]は、圧力損失ΔP[Pa]から、下記式により計算できる。
P=ΔP・u・πd2/4
式中、u:流体線速[m/s]、d:円管内径[m]を表す。
これらの式から算出したポンプ能力Pは、作動液の送液に必要なポンプ能力に対応する。管摩擦係数fが小さい、すなわち、必要ポンプ能力が小さいほど、送液のためのポンプに対する負荷が小さく、熱伝達性に優れていると言える。
【0059】
表3に、作動液を、内径4.77mm、配管長1mの円管内に、温度25℃、流量5L/mで送液する場合について、熱伝達係数及び単位長さ1mあたりの必要ポンプ能力を示す。比較参照のため、作動液に用いられているフッ素系液体の市販品であるFC-3283及びFC-40についてのシミュレーション結果も併せて示す。
【0060】
【0061】
表3から、193-18mccczz(E)は、従来の作動液に用いられているフッ素系液体と比較して、熱伝達係数及び必要ポンプ能力は遜色なく、熱伝達性に優れており、強制対流熱伝達用の作動液に好適に適用できると言える。
【0062】
[流動帯電評価]
図2に示すような試験装置で流動帯電の評価を行った。
図2に示す試験装置は、作動液の液溜まり部31、作動液を配管32内に流通循環させるポンプ33、金属棒34(SUS316製)と電位計35により構成されている。配管32は、軟質ポリ塩化ビニル製ホース(「トヨロン(登録商標) TR-4」、株式会社トヨックス製;内径4mm、長さ15cm)を用いた。電位計35は、デジタル静電電位測定器(「KSD-2000」、春日電機株式会社製)を用いた。
【0063】
作動液は、非導電性の配管32内を流通する際に流動帯電を生じやすく、連続して循環させることにより、帯電量が増加する。金属棒34と作動液との電位差を測定することにより、流動帯電の評価を行った。
評価用作動液は、精製193-18mccczz(E)を、モレキュラーシーブ3Aを用いて脱水した水分量4質量ppm品(例1)、精製193-18mccczz(E)にイオン交換水を添加した水分量39質量ppm品(例2)を用いた。また、比較として、FC-3283(水分量8質量ppm)(例3)についても、同様の評価を行った。なお、水分量は、カールフィッシャー水分計(「CA-100」、日東精工アナリテック株式会社製)にて測定した。
【0064】
試験装置に、各作動液を流量5.5L/minで循環させ、10分後の電位を測定した結果を表4に示す。負の測定電位値が小さくなるほど、作動液の負の帯電量が大きいことを示している。
【0065】
【0066】
表4に示したように、193-18mccczz(E)は、流動帯電が小さく、表1に示した比誘電率、体積抵抗率及び絶縁破壊電圧も総合して、良好な電気特性を有していると言える。また、水分量がある程度高いことが、流動帯電を抑制する上で好ましいことが確認された。