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特開2024-64828気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064828
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 13/02 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
G01N13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173731
(22)【出願日】2022-10-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトの掲載日 令和3年11月2日 2.ウェブサイトのアドレス https://shunkosha1.sakura.ne.jp/mnm2021/ 3.公開者 田中 健太郎、浅野 卓馬 4.公開された発明の内容 気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置 〔刊行物等〕 1.開催日 令和3年11月9日~11日 2.集会名、開催場所 日本機械学会第12回マイクロ・ナノ工学シンポジウム(オンライン開催) 3.公開者 田中 健太郎、浅野 卓馬 4.公開された発明の内容 気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置 〔刊行物等〕 1.ウェブサイトの掲載日 令和4年3月4日 2.ウェブサイトのアドレス http://jsme-proceedings.sakura.ne.jp/IIP-MSD2022/IIP/IIP2022_preprints.zip 3.公開者 田中 健太郎 4.公開された発明の内容 気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置 〔刊行物等〕 1.開催日 令和4年3月7日~8日 2.集会名、開催場所 日本機械学会 情報・知能・精密機器部門(IIP部門)講演会(IIP2022)(オンライン開催) 3.公開者 田中 健太郎 4.公開された発明の内容 気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置 〔刊行物等〕 1.ウェブサイトの掲載日 令和4年8月28日 2.ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/mipe2022?lang=en 3.公開者 田中 健太郎 4.公開された発明の内容 気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置 〔刊行物等〕 1.開催日 令和4年8月28日~31日 2.日本機械学会 2022年情報精密機器のメカトロニクスに関する日本・米国機械学会合同会議(MIPE2022)、名古屋大学 豊田講堂 3.公開者 田中 健太郎 4.公開された発明の内容 気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】田中 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 龍一
(57)【要約】
【課題】液滴を用いて精度の高い気液界面物性値を簡易に算出する。
【解決手段】実施形態に係る気液界面物性評価方法は、液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する生成工程と、前記位置に生成された前記液滴を測定する測定工程と、測定結果に基づいて前記液滴の気液界面物性を評価する評価工程と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する生成工程と、
前記位置に生成された前記液滴を測定する測定工程と、
測定結果に基づいて前記液滴の気液界面物性を評価する評価工程と、
を備える気液界面物性評価方法。
【請求項2】
前記測定工程において、前記液滴の表面張力振動を測定する請求項1に記載の気液界面物性評価方法。
【請求項3】
前記測定工程において、高速度カメラで前記液滴を撮影することにより前記液滴の表面張力振動を測定する、請求項2に記載の気液界面物性評価方法。
【請求項4】
前記測定工程において、前記液滴に照射された光をフォトディテクタで受光することにより前記液滴の表面張力振動を測定する、請求項2に記載の気液界面物性評価方法。
【請求項5】
前記評価工程において、前記液滴の表面張力振動の振動数に基づいて、前記液滴の表面張力を算出する、請求項2に記載の気液界面物性評価方法。
【請求項6】
前記評価工程において、前記液滴の表面張力振動の減衰時定数に基づいて、前記液滴の粘性係数を算出する、請求項2に記載の気液界面物性評価方法。
【請求項7】
液体を補充せずに前記生成工程を繰り返し、前記各生成工程の後に行われる測定工程において、生成された液滴の表面張力振動を測定し、前記各測定工程において測定された表面張力振動に基づいて前記液滴の表面張力および粘性係数をまとめて算出する、請求項2に記載の気液界面物性評価方法。
【請求項8】
液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する液滴生成部と、
前記位置に生成された前記液滴を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果に基づいて前記液滴の気液界面物性を評価する評価部と、
前記位置を含む領域を照らす光源と、
を備える気液界面物性評価装置。
【請求項9】
前記液滴生成部は、第1端面を有する第1部材と、前記第1端面と対向する第2端面を有する第2部材とを備える、請求項8に記載の気液界面物性評価装置。
【請求項10】
前記測定部は、前記位置に生成された液滴を撮影する高速度カメラを有し、
前記評価部は、前記高速度カメラの撮影データに基づいて、前記液滴の表面張力および/または粘性係数を算出する、請求項8に記載の気液界面物性評価装置。
【請求項11】
前記評価部は、前記撮影データに基づいて前記液滴の表面張力振動の振動数および表面張力振動終了後の球形の前記液滴の大きさを取得し、式(1)を用いて前記液滴の表面張力を算出する、請求項10に記載の気液界面物性評価装置。
【数1】
ここで、σ:表面張力、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、f:振動数、n:振動モードである。
【請求項12】
前記評価部は、前記撮影データに基づいて前記液滴の表面張力振動の減衰時定数および表面張力振動終了後の球形の前記液滴の大きさを取得し、式(2)を用いて前記液滴の粘性係数を算出する、請求項10に記載の気液界面物性評価装置。
【数2】
ここで、μ:粘性係数、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、n:振動モード、τ:減衰時定数である。
【請求項13】
前記測定部は、前記光源の光を受光するフォトディテクタと、前記液滴を撮影する低速度カメラと、を有し、
前記評価部は、前記フォトディテクタの出力と、前記低速度カメラにより撮影された球形の前記液滴とに基づいて、前記液滴の表面張力および/または粘性係数を算出する、請求項8に記載の気液界面物性評価装置。
【請求項14】
前記評価部は、前記フォトディテクタの出力に基づいて前記液滴の表面張力振動の振動数を取得し、前記低速度カメラの撮影データに基づいて表面張力振動終了後の球形の前記液滴の大きさを取得し、式(1)を用いて前記液滴の表面張力を算出する、請求項13に記載の気液界面物性評価装置。
【数3】
ここで、σ:表面張力、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、f:振動数、n:振動モードである。
【請求項15】
前記評価部は、前記フォトディテクタの出力に基づいて前記液滴の表面張力振動の減衰時定数を取得し、前記低速度カメラの撮影データに基づいて表面張力振動終了後の球形の前記液滴の大きさを取得し、式(2)を用いて前記液滴の粘性係数を算出する、請求項13に記載の気液界面物性評価装置。
【数4】
ここで、μ:粘性係数、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、n:振動モード、τ:減衰時定数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置に関し、詳しくは、液体架橋破断法により生成した液滴の表面張力振動の測定に基づく気液界面物性評価方法および物性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘性および表面張力を測定する方法は、それぞれ種々知られているが、一般には固体が必要である。粘性の測定であれば、毛細管式、落球式、回転式、振動式があり、表面張力の測定であれば、垂直板法、輪環法、懸垂液滴法、気泡圧法などがある。いずれも、管、球、板などが流路、回転子、測定子等として必要である。つまり、これらの方法で液体の物性を測定するときには、固体表面との相互作用を排除することができない。したがって、固体表面と反応性の高い液体などを対象とする場合は好ましくない。空間中に孤立した液滴を生成し測定する方法であれば、固体表面との相互作用を完全に排除することができる。
【0003】
特許文献1には、測定対象材料の液滴を、空中に浮遊させ保持し、空中に浮遊保持された液滴を回転させると共に形状振動させ、液滴の形状振動数を用いて、液滴の表面張力を求める表面張力測定方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、測定対象の液体をノズルから液滴として射出して該液滴を飛翔させ、該液滴の飛翔経路の近傍に配設された電極に電圧を印加することによって飛翔経路の周辺空間に電界を生じせしめ、該電界によって液滴に働く誘電力により、液滴を非接触で変形させ、変形させた後の液滴の変形状態の時間変化に基づき、液体の力学物性を測定する測定装置が開示されている。
【0005】
また、インクジェット方式で液滴を射出する方法(非特許文献1)、超音波浮遊法で浮遊させた液滴に振動を励起する方法などが知られている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-271234号公報
【特許文献2】特開2013-228242号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. J. J. Staat et al.: Ultrafast imaging method to measure surface tension and viscosity of inkjet‐printed droplets in flight, Experiments in Fluids, Vol. 58, No. 2 (2017).
【非特許文献2】J. Kremer, A. Kilzer & M. Peterman: Simultaneous measurement of surface tension and viscosity using freely decaying oscillations of acoustically levitated droplets, Review of Scientific Instruments, Vol. 89 (2018), 015109.
【非特許文献3】A. Watanabe, K. Hasegawa & Y. Abe: Contactless Fluid Manipulation in Air: Droplet Coalescence and Active Mixing by Acoustic Levitation, Scientific Report, Vol. 8 (2018), 10221.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法はいずれも、複雑で大掛かりな装置を必要とする。加えて、液滴が回転運動している、液滴の対称性が高くない、固体表面との相互作用を排除した状態で測定対象の液滴の位置を定めることができない等の理由により、気液界面の物性を精度良く求めることが困難であった。
【0009】
本発明は、このような認識に基づいてなされたものであり、液滴を用いて精度の高い気液界面物性値を簡易に算出することが可能な気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る気液界面物性評価方法は、
液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する生成工程と、
前記位置に生成された前記液滴を測定する測定工程と、
測定結果に基づいて前記液滴の気液界面物性を評価する評価工程と、
を備える。
【0011】
また、前記気液界面物性評価方法において、
前記測定工程において、前記液滴の表面張力振動を測定してもよい。
【0012】
また、前記気液界面物性評価方法において、
前記測定工程において、高速度カメラで前記液滴を撮影することにより前記液滴の表面張力振動を測定してもよい。
【0013】
また、前記気液界面物性評価方法において、
前記測定工程において、前記液滴に照射された光をフォトディテクタで受光することにより前記液滴の表面張力振動を測定してもよい。
【0014】
また、前記気液界面物性評価方法において、
前記評価工程において、前記液滴の表面張力振動の振動数に基づいて、前記液滴の表面張力を算出するようにしてもよい。
【0015】
また、前記気液界面物性評価方法において、
前記評価工程において、前記液滴の表面張力振動の減衰時定数に基づいて、前記液滴の粘性係数を算出するようにしてもよい。
【0016】
また、前記気液界面物性評価方法において、
液体を補充せずに前記生成工程を繰り返し、前記各生成工程の後に行われる測定工程において、生成された液滴の表面張力振動を測定し、前記各測定工程において測定された表面張力振動に基づいて前記液滴の表面張力および粘性係数をまとめて算出するようにしてもよい。
【0017】
本発明に係る気液界面物性評価装置は、
液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する液滴生成部と、
前記位置に生成された前記液滴を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果に基づいて前記液滴の気液界面物性を評価する評価部と、
前記位置を含む領域を照らす光源と、を備える。
【0018】
また、前記気液界面物性評価装置において、
前記液滴生成部は、第1端面を有する第1部材と、前記第1端面と対向する第2端面を有する第2部材とを備えるようにしてもよい。
【0019】
また、前記気液界面物性評価装置において、
前記測定部は、前記位置に生成された液滴を撮影する高速度カメラを有し、
前記評価部は、前記高速度カメラの撮影データに基づいて、前記液滴の表面張力および/または粘性係数を算出するようにしてもよい。
【0020】
また、前記気液界面物性評価装置において、
前記測定部は、前記光源の光を受光するフォトディテクタと、前記液滴を撮影する低速度カメラと、を有し、
前記評価部は、前記フォトディテクタの出力と、前記低速度カメラにより撮影された球形の前記液滴とに基づいて、前記液滴の表面張力および/または粘性係数を算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、液滴を用いて精度の高い気液界面物性値を簡易に算出することが可能な気液界面物性評価方法および気液界面物性評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態に係る気液界面物性評価装置の概略的な構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る気液界面物性評価方法を説明するためのフローチャートである。
図3】高速度カメラで連続的に撮影された液滴の画像の一例である。
図4】高速度カメラにより測定された液滴の大きさの時間変化を示すグラフである。
図5】種々の条件で測定された液滴の物性値と文献値とを示す図である。
図6】液体架橋破断法で生成された液滴の大きさと液体架橋の体積との関係を示すグラフである。
図7】液滴の直径の測定値とSPHシミュレーション値を示すグラフである。
図8】第2の実施形態に係る気液界面物性評価装置の概略的な構成を示す図である。
図9】第2の実施形態による測定結果の一例を示すグラフである。
図10】第3の実施形に係る気液界面物性評価方法を説明するためのフローチャートである。
図11】第3の実施形態に係る気液界面物性評価方法による測定結果の第1の例を示すグラフである。
図12】第3の実施形態に係る気液界面物性評価方法による測定結果の第2の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
本実施形態に係る気液界面物性評価装置1は、液体架橋破断法(Capillary Bridge Break-up Method)により生成された液滴の表面張力振動を測定し、その結果に基づいて液滴の気液界面物性を評価するように構成されている。図1を参照して、気液界面物性評価装置1の具体的な構成を説明する。
【0025】
気液界面物性評価装置1は、図1に示すように、所定の位置に液滴を生成する液滴生成部10と、生成された液滴を測定する測定部20と、測定結果に基づいて液滴の気液界面物性を評価する評価部30と、液滴の生成位置を含む領域を照らす光源40とを備えている。なお、図1では、分かりやすくするために、液滴生成部10を拡大して図示している。以下、気液界面物性評価装置1の各構成について詳しく説明する。
【0026】
液滴生成部10は、液体架橋破断法により、所定の位置に液滴を生成するように構成されている。詳しくは、図1に示すように、液滴生成部10は、端面11aを有する部材11と、端面11aと対向する端面12aを有する部材12と、部材11および部材12を駆動する駆動機構(図示せず)とを有する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態において、部材11,12は円柱体であり、円形の端面11a,12aを有する。なお、部材11,12の形状はこれに限られず、角柱体などの他の柱状体、あるいは板状体、球体等であってもよい。また、本実施形態では、端面11a,12aの形状は円形に限られず、その他の形状(たとえば、楕円形、多角形、星形など)であってもよい。
【0028】
高い位置精度で中点Pに液滴を形成するため、部材11および部材12は、端面11aの幾何中心C1を通り、端面11aに直交する第1の中心軸が、端面12aの幾何中心C2を通り、端面12aに直交する第2の中心軸と一致するように配置されている。本実施形態では、円柱体である部材11,12の中心軸が互いに一致するように部材11および部材12が配置されている。部材11および部材12は水平方向に配置されている。
【0029】
端面11a,12aは、全部または一部が親水性を有しており、端面11aと端面12aとの間に液体架橋LIBが保持される。本実施形態では、部材11,12の全体がステンレス、ガラス等の親水性材料で構成されているため、端面11a,12aの全面が親水性を有する。なお、端面11a,12a以外の部材11,12を疎水性材料で構成し、端面11a,12aのみに親水性材料をコーティングすること等により、端面11a,12aのみを親水性にしてもよい。
【0030】
ここで、「親水性」、「疎水性」は、端面11a,12aの濡れ性の程度を特定する用語であるが、液体は水に限定されることはなく、油やその他の物質でもよい。すなわち、本願では、端面11a,12aが液体に濡れやすいことを「親水性」、濡れにくいことを「疎水性」の用語で代表して表現している。
【0031】
液滴生成部10の駆動機構は、端面11aと端面12aが同じ速さで離間するように部材11および部材12を反対方向に駆動する。これにより、端面11aと端面12aとの間に保持された液体架橋LIBを伸長させると、中央付近のくびれが徐々に細くなり、破断する。その結果、端面11aの幾何中心C1と、端面12aの幾何中心C2とを結ぶ線分の中点Pに液滴が形成される。すなわち、この場合、中点Pが液滴の生成位置である。
【0032】
本実施形態において、駆動機構は前述の第1の中心軸に沿って部材11を移動させ、かつ前述の第2の中心軸に沿って部材12を移動させる。これにより、高い位置精度で中点Pに液滴が形成される。すなわち、部材11および部材12の移動に伴って、端面11aと端面12aの間に保持された液体架橋LIBは、部材11および部材12の中心軸方向に引き伸ばされる。さらに引き伸ばされると、液体架橋LIBは破断し、中点Pに液滴が生成される。なお、部材11の中心軸と部材12の中心軸がずれた状態で部材11および部材12を互いに引き離してもよい。
【0033】
測定部20は、液滴生成部10により所定の位置に生成された液滴を測定するように構成されている。本実施形態では、測定部20は、高速度カメラ(ハイスピードカメラ)21と、レンズ22とを有する。高速度カメラ21は、液滴が生成される中点Pを含む領域を撮影するように配置されている。高速度カメラを用いることで、液体架橋破断法により生成された小さい液滴の表面張力振動を捉えることができる。
【0034】
レンズ22は、高速度カメラ21のピントを合わせるためのレンズである。レンズ22として、本実施形態ではテレセントリックレンズを用いる。これにより、被写界深度内であれば像(液滴)の膨張、収縮がほぼないため、表面張力振動による液滴の大きさの変化を正確に捉えることができる。なお、レンズ22の種類はこれに限定されず、ピントが合うならばどのようなレンズでもよく、たとえば顕微鏡用の対物レンズであってもよい。
【0035】
評価部30は、測定部20による測定結果に基づいて液滴の気液界面物性を評価するように構成されている。本実施形態では、評価部30は、測定部20の高速度カメラ21に通信接続されたコンピュータ(パソコン、タブレット端末等)を有する。なお、評価部30は、互いに通信接続された複数のコンピュータにより構成されてもよい。たとえば、高速度カメラ21を制御し、撮影データを受信する第1のコンピュータと、撮影データを解析し、気液界面物性の値を算出する第2のコンピュータとから評価部30が構成されてもよい。
【0036】
評価部30は、測定部20から測定データを受信し、当該測定データに基づいて液滴の気液界面物性を算出する。具体的には、評価部30は、液滴の撮影データに基づいて液滴の表面張力振動の振動数、減衰時定数、および、表面張力振動終了後の球形の液滴の大きさ(半径または直径)を取得する。
【0037】
このようにして取得した値に基づいて、評価部30は表面張力および粘性係数を算出する。
【0038】
具体的には、評価部30は、式(1)を用いて表面張力を算出する。
【数1】
ここで、σ:表面張力、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、f:振動数、n:振動モードである。液滴の半径rは表面張力振動終了後の球形の液滴の半径である(以下、同じ)。
【0039】
また、評価部30は、式(2)を用いて粘性係数を算出する。
【数2】
ここで、μ:粘性係数、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、n:振動モード、τ:減衰時定数である。
【0040】
式(1)および式(2)は、たとえば、J. Kremer, A. Kilzer & M. Peterman: Simultaneous measurement of surface tension and viscosity using freely decaying oscillations of acoustically levitated droplets, Review of Scientific Instruments, Vol. 89 (2018), 015109.に記載されている。
【0041】
上記の計算において、密度ρは液滴の材料から予め判明している値を用いる。振動モードは通常、n=2を用いる。なお、液滴の材料や生成方法によっては、液滴がより大きな振動数で表面張力振動する場合がある。このような場合は、振動態様から決まる3以上の振動モードの値を用いてもよい。これにより、表面張力や粘性係数をより高精度に求めることができる。
【0042】
なお、評価部30は、必要に応じて、表面張力および粘性係数の一方のみを算出してもよい。
【0043】
また、評価部30は、高速度カメラ21の撮影データを画像解析することにより、気液界面の物性値を算出するための値として、液滴の大きさ(水平方向半径もしくは直径、および/または垂直方向の半径もしくは直径)を取得してもよい。そして、評価部30は、取得した液滴の大きさの時間変化から、振動数、減衰時定数を求める。
【0044】
なお、評価部30は、撮影データをパソコンのディスプレイに表示したり、紙に出力し、表示または出力されたものを他の装置や人が解析して得られた値を取得し、気液界面物性値の計算に用いてもよい。
【0045】
光源40は、液滴が生成される位置を含む領域を照らす光源である。液滴を明瞭に撮影するために明るい光源が望ましい。光源40の種類は特に限定されず、LED、レーザ、蛍光灯などである。
【0046】
<気液界面物性評価方法>
図2のフローチャートを参照して、気液界面物性評価装置1を用いた気液界面物性評価方法の一例について説明する。
【0047】
まず、液滴生成部10は、液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する(ステップS11)。詳しくは、まず、マイクロピペット等によって端面11aと端面12aとの間に液体を供給する。液体の供給は、たとえば、部材11と部材12を中心軸方向に離間させた状態で、端面11aまたは端面12aに液体が付着するように行う。その後、中心軸を一致させた状態で、端面11aと端面12aとが近接するように部材11および部材12を移動させる。端面11aと端面12aの双方に液体が接する位置まで部材11および部材12が移動すると、図1に示すように、端面11aおよび端面12aの全面に液体が濡れ広がり、部材11と部材12との間に液体架橋LIBが保持される。
【0048】
部材11と部材12の間に液体架橋LIBを保持させた後、部材11および部材12を駆動して液体架橋LIBを引き伸ばして破断させ、部材11および部材12の中点Pに液滴を生成する。なお、部材11および部材12の一方のみを駆動して液体架橋LIBを引き伸ばしてもよい。液滴は中点Pからずれた位置に生成されるが、測定部20を当該位置に合わせて配置すればよい。当該位置が高速度カメラ21により撮影される領域に含まれるならば、測定部20の配置を変更しなくてもよい。
【0049】
次に、測定部20は、ステップS11で所定の位置に生成された液滴の表面張力振動を測定する(ステップS12)。本ステップでは、測定部20の高速度カメラ21により液滴を撮影する。図3は、高速度カメラ21で撮影された液体架橋および液滴の一連の画像(動画)の例を示している。これらの画像は、nac社製の高速度カメラ(ASC-1 M60)により200kfpsで撮影したものである。
【0050】
図3から分かるように、液体架橋LIBが引き伸ばされて破断し、ダンベル形状の液滴Dが形成される(画像I1,I2,I3)。その後、液滴Dは、規則正しい表面張力振動を繰り返し(画像I4~I6)、次第に振幅が小さくなり、最終的には球形の液滴となる(画像I7)。なお、液滴は自由落下により高速度カメラ21の撮影領域を外れるまでに、ほぼ球形の形状に落ち着くため、光ピンセット法等で液滴を生成位置に捕捉しておく必要は特にない。
【0051】
次に、評価部30は、ステップS12の測定結果に基づいて液滴の気液界面物性を評価する(ステップS13)。本ステップにおいて、評価部30は、ステップS12で高速度カメラにより撮影された液滴の一連の画像から、液滴の大きさの時間変化に関する情報を取得する。たとえば、各画像について、液滴の水平方向および垂直方向の直径を求める。
【0052】
図4(a)および図4(b)は、高速度カメラ21により測定された液滴Dの大きさの時間変化を示すグラフである。図4(a)は液滴Dの水平方向の直径の時間変化を示すグラフであり、図4(b)は液滴Dの垂直方向の直径の時間変化を示すグラフである。液体架橋LIBの伸長方向に一致する水平方向の方が垂直方向に比べて初期の振幅が大きい。この例は、部材11の円形(φ2mm)の端面11aに1.5μLのオクタン(C18)を供給して液体架橋LIBを形成し、温度23℃で液滴の表面張力振動を測定した結果に基づくものである。
【0053】
評価部30は、表面張力振動(液滴の大きさの時間変化)の測定結果から、表面張力振動の振動数および減衰時定数を求める。たとえば、図4の振動曲線をカーブフィッティングすることにより、表面張力振動の振動数および減衰時定数を求める。また、評価部30は、表面張力振動が終了した後の液滴の画像から、球形の液滴の大きさを求める。その後、評価部30は、式(1)および(2)を用いて表面張力σおよび粘性係数μを算出する。
【0054】
図4(a)の測定結果から、σ=21.1mN/m、μ=0.60mPa・sと算出された。また、図4(b)の測定結果から、σ=21.2mN/m、μ=0.52mPa・sと算出された。なお、液滴径(2r)として75.8μmを用いた。このように算出された値は文献の値(σ=21.17mN/m、μ=0.508mPa・s)に近い。文献は、CRC Handbook of Chemistry and Physics 98th edition, CRC Pressである。
【0055】
図5に、他の条件(撮影速度、液滴径)、他の物質(ヘキサデカン、C1634)の測定結果から算出された物性値と、上記文献の値とを示す。図5において、測定結果の上段の値は算出された表面張力(左側が水平方向の径から算出された値、右側が垂直方向の径から算出された値)、下段の値は算出された粘性係数を示している。
【0056】
図5から分かるように、オクタンを用いた測定では文献値に近い結果が得られた。他方、オクタンよりも粘性が大きいヘキサデカンの場合、振動が早く減衰するため、振動数と減衰時定数を確定するのが難しくなり、文献値とのずれが少々大きくなるが、それなりに近い値が得られた。
【0057】
なお、上記では液滴の水平方向および垂直方向の直径の時間変化から表面張力および粘性係数をそれぞれ算出したが、水平方向および垂直方向のいずれか一方の液滴径の時間変化から表面張力および粘性係数を算出してもよい。また、水平方向および垂直方向の両方の液滴径の時間変化を用いる場合は、各々の算出値の平均をとってもよい。
【0058】
<作用効果>
以上説明したように、第1の実施形態では、液体架橋破断法により所定の位置に生成された液滴を高速度カメラで測定し、測定された液滴の表面張力振動に基づいて気液界面物性(表面張力、粘性係数)を算出する。液体架橋破断法によれば液滴の生成位置が予めわかるため、高速度カメラで容易に液滴を撮影することができる。また、インクジェット方式で生成された液滴のように高速で移動しないため、液滴の表面張力振動を容易かつ明瞭に撮影することができる。
【0059】
さらに、液体架橋破断法により生成した液滴は対称性が高いことから、液滴の気液界面物性を反映した、きれいな表面張力振動が測定される。このため、精度の高い表面張力および粘性係数を算出することができる。
【0060】
さらに、液体架橋破断法により生成された液滴は比較的小さいため、粘度の効果が現れやすく、粘性係数を精度良く算出することができる。また、液滴が小さいため、表面張力振動の振動数が高く、表面張力を精度良く算出することができる。
【0061】
さらに、液体架橋破断法により生成した液滴はほぼ回転運動しないことから、測定で得られた表面張力振動の振動数を表面張力の計算にそのまま使用することができる。よって、簡易な計算で表面張力を算出することができる。
【0062】
また、液体架橋破断法では、液体架橋LIBの体積と生成される液滴の大きさに比例関係がある。また、部材11の端面11a(部材12の端面12a)の面積と液体架橋LIBの体積に比例関係がある。このため、液体架橋LIBの体積および端面11a(12a)の面積を変えることで、液滴の大きさを容易に制御できる。このため、評価対象の物質に応じて、気液界面物性を評価し易い大きさの液滴を用いることができる。図6は、蒸留水の液滴の直径が、液体架橋の体積、端面11a(12a)に依存することを示す測定結果の一例である。
【0063】
また、本実施形態によれば、精度の高い気液界面物性評価を行うことができるので、表面張力振動の数値計算の妥当性を評価する際にも有用である。図7(a)は、液滴の水平方向の直径の、測定値(H_Exp)とSPH法によるシミュレーション値(H_SPH)を示すグラフである。図7(b)は、液滴の垂直方向の直径の、測定値(V_Exp)とSPH法によるシミュレーション値(V_SPH)を示すグラフである。なお、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法は、計算対象を計算点(粒子)で離散化する粒子法の一種であり、気液界面の大変形を扱うのに適した計算方法である。
【0064】
図7(a)および図7(b)のいずれの場合においても、測定値とSPHシミュレーション値は良く一致しており、SPHシミュレーションが妥当であることが分かる。このように、本実施形態によれば、液滴の挙動に係る数値計算の妥当性を検証することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る気液界面物性評価装置1Aを説明する。第1の実施形態との相違点の一つは、測定部20の構成である。第1の実施形態では高速度カメラを用いて液滴の表面張力振動を測定したが、本実施形態では、フォトディテクタを用いる。以下の相違点を中心に第2の実施形態について説明する。
【0066】
図8は、本実施形態に係る気液界面物性評価装置1Aの概略的な構成を示している。図8において、第1の実施形態と同じ構成要素には図1と同じ符号を付している。また、分かりやすくするために、液滴生成部10を拡大して図示している。
【0067】
気液界面物性評価装置1Aは、所定の位置に液滴を生成する液滴生成部10と、液滴を測定する測定部20Aと、液滴の気液界面物性を評価する評価部30Aと、液滴の生成位置を含む領域を照らす光源40とを備えている。液滴生成部10および光源40は第1の実施形態と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0068】
測定部20Aは、光源40の光を受光するフォトディテクタ23と、ビームスプリッタ24と、レンズ25と、液滴を撮影する低速度カメラ26とを有する。
【0069】
フォトディテクタ23は、フォトダイオードを含んでおり、光源40から液滴の生成位置を含む領域に向けて放射された光を受光するように配置されている。フォトディテクタ23は、受光強度に応じた出力値(電圧等)を出力する。光源40とフォトディテクタ23との間に生成される液滴は、光源40からフォトディテクタ23に向けて照射される光の一部を遮断ないし減衰させる。このため、フォトディテクタ23の出力は、液滴の面積(投影面積)を反映したものとなる。すなわち、フォトディテクタ23の出力は、液滴の面積が小さくなるにつれて大きくなり、反対に、液滴の面積が大きくなるにつれて小さくなる。
【0070】
なお、フォトダイオードは、アバランシェフォトダイオード(APD)、PINフォトダイオードなど、高速で応答可能なものを用いることが望ましい。
【0071】
ビームスプリッタ24は、レンズ25に入射した光をフォトディテクタ23に向かう光と、低速度カメラ26に向かう光に分ける。
【0072】
レンズ25は、好ましくはテレセントリックレンズである。ただし、第1の実施形態で説明したレンズ22と同様、ピントが合うならば他の種類のレンズであってもよい。
【0073】
低速度カメラ26は、表面張力振動が収まった後の球形の液滴を撮影し、その大きさを得るために設けられている。低速度カメラ26の撮影速度は、たとえば、数百fps程度である。
【0074】
評価部30Aは、測定部20Aのフォトディテクタ23の出力(光源40から放射された光の強度)を受信する。評価部30Aは、フォトディテクタ23の出力の変化(受光する光の強度の変化)から、液滴の表面張力振動の振動数および減衰時定数を取得する。
【0075】
また、評価部30Aは、低速度カメラ26から液滴の撮影データを受信し、撮影データから球形の液滴の大きさ(半径または直径)を取得する。
【0076】
評価部30Aの構成の一例について説明する。たとえば、評価部30Aは、フォトディテクタ23および低速度カメラ26に接続され、フォトディテクタ23の出力データを受信するオシロスコープ(図示せず)と、オシロスコープおよび低速度カメラ26に接続されたコンピュータ(図示せず)とを有する。コンピュータは、パソコン、タブレット端末等である。
【0077】
コンピュータは、低速度カメラ26を制御し、また、低速度カメラ26から撮影データを受信する。また、コンピュータは、オシロスコープから、フォトディテクタ23の出力データを受信する。
【0078】
なお、高サンプリングレートで記録できる機器であれば、オシロスコープでなくてもよい。
【0079】
また、低速度カメラ26が外部からの制御無しで動作可能である場合は、低速度カメラ26とコンピュータを接続しなくてもよい。
【0080】
低速度カメラ26が球形に落ち着いた液滴を撮影するために、液体架橋破断法により液滴が生成されたタイミングを低速度カメラ26に通知する必要がある。本実施形態では、オシロスコープが、フォトディテクタ23の出力に基づいて液体架橋LIBの破断を検出し、撮影トリガを低速度カメラ26に送信する。低速度カメラ26は、撮影トリガを受信してから所定の時間(表面張力振動が落ち着くまでの時間)が経過した後に液滴の画像を1枚または複数枚撮影する。あるいは、低速度カメラ26は、撮影トリガを受信すると液滴の動画撮影を開始するようにしてもよい。その他、液滴が生成される前から低速度カメラ26により動画撮影を行ってもよい。この場合、撮影トリガは不要である。
【0081】
図9は、フォトディテクタ23の出力電圧の測定結果の一例を示している。図9では、比較のため、第1の実施形態に係る高速度カメラ21の撮影結果から得られた液滴の面積の振動曲線も示している。左側の縦軸はフォトディテクタ23の出力電圧であり、液滴の面積を反映している。右側の縦軸は高速度カメラ21の撮影データから得られた液滴の面積を示している。前述のようにフォトディテクタ23の出力電圧は液滴の面積が小さいほど大きくなるため、フォトディテクタ23の出力電圧の曲線は高速度カメラ21の撮影データから得られた液滴の面積を示す曲線を上下反転したものになっている。図9から、フォトディテクタ23による測定が高速度カメラ21による測定と同様に液滴の表面張力振動を捉えており、表面張力振動の振動数および減衰時定数を得られることが分かる。
【0082】
評価部30Aは、上記のようにして取得した表面張力振動の振動数、減衰時定数、および球形の液滴の大きさに基づいて、表面張力および/または粘性係数を算出する。
【0083】
詳しくは、評価部30Aは、フォトディテクタ23の出力に基づいて液滴の表面張力振動の振動数を取得し、低速度カメラ26の撮影データに基づいて表面張力振動終了後の球形の液滴の大きさを取得し、前掲の式(1)を用いて液滴の表面張力を算出する。また、評価部30Aは、フォトディテクタ23の出力に基づいて液滴の表面張力振動の減衰時定数を取得し、低速度カメラ26の撮影データに基づいて表面張力振動終了後の球形の液滴の大きさを取得し、前掲の式(2)を用いて液滴の粘性係数を算出する。
【0084】
以上説明したように、第2の実施形態では、液体架橋破断法により生成された液滴の表面張力振動をフォトディテクタにより測定し、表面張力振動後の球形の液滴の大きさを低速度カメラにより測定する。高速度カメラを用いた第1の実施形態と同様に、表面張力振動の振動数および減衰時定数を取得することができる。そして、測定結果から取得される表面張力振動の振動数、減衰時定数、球形の液滴の大きさに基づいて気液界面物性値を算出する。よって、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
さらに、第2の実施形態では、測定手段として高価な高速度カメラに代えて比較的安価なフォトディテクタを用いるため、気液界面物性評価装置のコストを大幅に削減することができる。
【0086】
(第3の実施形態)
次に、図10のフローチャートを参照しつつ、第3の実施形態に係る気液界面物性評価方法を説明する。本方法は第1の実施形態および第2の実施形態で説明した気液界面物性評価装置1および1Aのいずれを用いても行うことができるが、以下の説明では気液界面物性評価装置1を用いる場合について説明する。
【0087】
液滴生成部10は、液体架橋破断法により所定の位置に液滴を生成する(ステップS21)。本ステップは、第1の実施形態で説明したステップS11と同様にして行われる。ただし、後述のステップS23から戻って実行される場合、端面11aと端面12aの間に液体を供給せず、端面11aおよび/または端面12aに残存した液体を使用して液体架橋、液滴を生成する。
【0088】
液滴を生成した後、測定部20は、ステップS21で所定の位置に生成された液滴の表面張力振動を測定する(ステップS22)。本ステップは、第1の実施形態で説明したステップS12と同様にして行われる。
【0089】
表面張力振動を測定した後、評価部30は、ステップS21およびステップS22を所定回数実施したかどうかを判定する(ステップS23)。本ステップの所定回数は、たとえば、液滴を生成可能な繰り返し回数の最大値以下である。所定回数実施されている場合(S23:Yes)、ステップS24の評価工程に進む。
【0090】
他方、まだ所定回数実施していない場合(S23:No)、ステップS21に戻り、液滴の生成工程を行う。前述のように、2回目以降の生成工程では、液滴生成部10(部材11および/または部材12)に液体を補充せずに、液体架橋破断法により液滴を生成する。このため、回数を重ねるにつれて、液体架橋LIBの体積が徐々に少なくなり、生成される液滴の大きさは徐々に小さくなる。
【0091】
ステップS24において、評価部30は、複数回実施されたステップS22の測定結果に基づいて、液滴の表面張力および粘性係数を算出する。具体的には、まず、評価部30は、各測定結果から表面張力振動の振動数を取得する。図11および図12は、複数の測定結果から取得された表面張力振動の振動数を、生成された球形の液滴の半径についてプロットしたグラフの例である。図11はテトラデカン(C1430)の液滴についての測定結果を示し、図12は蒸留水の液滴についての測定結果を示している。
【0092】
次に、評価部30は、複数の測定された振動数から、液滴の大きさと振動数との関係を示す近似曲線を求める。図11および図12に示すように、求められた近似曲線は上記文献の曲線と良く一致している。
【0093】
近似曲線を求めた後、評価部30は、近似曲線が式(3)に合うようにフィッティングを行い、表面張力と粘性係数を算出する。複数回の測定結果から、表面張力σと粘性係数μを一度にまとめて求めることができる。なお、式(3)は、たとえば、Lamb, Hydrodynamics (1932), pp. 475, pp. 641.や J. A-Troya, Rev. Sci. Instrum. (2019).などに記載されている。
【数3】
ここで、f:振動数、n:振動モード、σ:表面張力、ρ:液滴の密度、r:液滴の半径、μ:粘性係数である。
【0094】
以上説明したように、第3の実施形態では、液体を補充せずに液滴の生成工程を繰り返すことで、生成される液滴の大きさを徐々に小さくする。各生成工程の後に行われる測定工程において、生成された液滴の表面張力振動を測定する。そして、各測定工程から得られた振動数および液滴の大きさに基づいて、液滴の表面張力および粘性係数をまとめて算出する。
【0095】
このように、第3の実施形態によれば、液滴の表面張力および粘性係数を一度にまとめて算出することができる。
【0096】
第3の実施形態によれば、表面張力振動の減衰時定数を用いずに粘性係数を算出することができる。このため、本実施形態は、減衰の時定数をフィッティングにより求めることが困難な液体材料の場合に特に効果的である。
【0097】
なお、第3の実施形態に係る方法は第2の実施形態で説明した気液界面物性評価装置1Aを用いて行ってもよい。この場合、ステップS24において、評価部30Aは、フォトディテクタ23による測定結果に基づいて表面張力振動の振動数を取得し、低速度カメラ26で撮影された液滴の画像に基づいて表面張力振動後の球形の液滴の大きさ(半径または直径)を取得し、取得した振動数および液滴の大きさに基づいて表面張力および粘性係数を算出する。
【0098】
また、上記の例では、ステップS23において、生成工程および測定工程の実施回数に基づいてステップS24に進むか否かを判定したが、これに限られない。たとえば、測定者が評価部30(30A)のコンピュータに停止コマンドを入力した場合に、ステップS24に進むようにしてもよい。
【0099】
以上説明したように、第1~第3の実施形態によれば、液滴を用いて精度の高い気液界面物性値を簡易に算出することができる。
【0100】
なお、上述した各実施形態の気液界面物性評価方法においては、全ての工程(ステップ)をコンピュータによって自動制御で実施するようにしてもよい。また、各工程をコンピュータに実施させながら、工程間の進行制御を人の手によって実施するようにしてもよい。また、さらには、全工程のうちの少なくとも一部を人の手によって実施するようにしてもよい。
【0101】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0102】
1,1A 気液界面物性評価装置
10 液滴生成部
11,12 部材
11a,12a 端面
20,20A 測定部
21 高速度カメラ
22 レンズ
23 フォトディテクタ
24 ビームスプリッタ
25 レンズ
26 低速度カメラ
30,30A 評価部
40 光源
D 液滴
I1~I7 画像
LIB 液体架橋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12