(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024064871
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】光変調器及び光送信装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20240507BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173811
(22)【出願日】2022-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
(72)【発明者】
【氏名】菅又 徹
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA03
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA09
2K102CA20
2K102CA21
2K102DA04
2K102DB05
2K102DB08
2K102DC08
2K102DD05
2K102EA03
2K102EA08
2K102EA09
2K102EA12
2K102EA17
2K102EA22
2K102EB12
2K102EB16
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】複数出力を有する駆動回路の一部の出力を用いて光変調素子を駆動する光変調器において、動作の不安定化を回避しつつ、消費電力を低減し及び又はそのサイズを小型化する。
【解決手段】光変調器は、基板に形成された光導波路及び光導波路を伝搬する光波を制御する信号電極を備えた光導波路素子と、2つの高周波信号を出力する駆動回路と、駆動回路からの2つの高周波信号出力をそれぞれ終端する2つの終端抵抗と、を備え、駆動回路の一方の高周波信号の出力は、光導波路素子の信号電極を伝搬して、一方の終端抵抗である第1終端抵抗により終端され、駆動回路の他方の高周波信号の出力は、他方の終端抵抗である第2終端抵抗により終端され、第1終端抵抗の抵抗値は第2終端抵抗の抵抗値より小さく、信号電極は、互いに異なる一定のインピーダンスを有する複数の区間を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された光導波路及び前記光導波路を伝搬する光波を制御する信号電極を備えた光導波路素子と、
2つの高周波信号を出力する駆動回路と、
前記駆動回路からの2つの高周波信号出力をそれぞれ終端する2つの終端抵抗と、
を備える光変調器であって、
前記駆動回路の一方の高周波信号の出力は、前記光導波路素子の前記信号電極を伝搬し、一方の前記終端抵抗である第1終端抵抗により終端され、
前記駆動回路の他方の高周波信号の出力は、他方の前記終端抵抗である第2終端抵抗により終端され、
前記第1終端抵抗の抵抗値は、前記第2終端抵抗の抵抗値より小さく、
前記信号電極は、互いに異なる一定のインピーダンスを有する複数の区間を含む、
光変調器。
【請求項2】
前記信号電極は、前記信号電極の前記高周波信号の伝搬方向に沿ってインピーダンスが段階的に減少するように配された少なくとも3つの前記区間を含む、
請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記区間の少なくとも一つは、前記高周波信号が前記光導波路を伝搬する光波に作用する作用部を含み、
前記作用部を含む前記区間は、前記複数の区間の中で最も低いインピーダンスを有する最低インピーダンス区間である、
請求項1に記載の光変調器。
【請求項4】
前記複数の区間のうち最も低いインピーダンスを有する区間である最低インピーダンス区間の、前記高周波信号の周波数帯における第1電気長は、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記周波数帯における第2電気長より長い、
請求項1に記載の光変調器。
【請求項5】
前記最低インピーダンス区間の前記第1電気長は、前記複数の区間のそれぞれの前記周波数帯における電気長の中で最も長い、
請求項4に記載の光変調器。
【請求項6】
前記駆動回路と前記第2終端抵抗の間に、前記高周波信号を減衰させる減衰部を有する、
請求項1に記載の光変調器。
【請求項7】
前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記高周波信号の周波数帯における第2電気長は、前記駆動回路の前記一方の高周波信号を出力する第1出力部から前記第1終端抵抗までの前記周波数帯における第3電気長の2倍以上の長さである、
請求項1に記載の光変調器。
【請求項8】
前記駆動回路の前記一方の高周波信号を出力する第1出力部から前記第1終端抵抗までの前記高周波信号の周波数帯における第3電気長L1と、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記高周波信号の周波数帯における第2電気長L2と、の差の絶対値は、前記高周波信号の平均波長λに対し、
|L1-L2|>λ/2
の関係を有する、
請求項1に記載の光変調器。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の光変調器と、
前記光導波路素子に変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成する電子回路と、
を備える光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器及び光送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速/大容量光ファイバ通信システムにおいては、基板上に形成された光導波路と、光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極と、で構成される光導波路素子としての光変調素子を組み込んだ光変調器が多く用いられている。光変調動作を行う光導波路素子としては、InP基板等の半導体基板を用いた半導体光変調素子、およびLiNbO3(以下、LNともいう)を基板に用いたLN光変調素子が実用化されている。
【0003】
特許文献1には、マッハツェンダ光導波路を含む半導体光変調素子を備えた半導体光変調モジュールが開示されている。この半導体光変調モジュールでは、HB-CDM(High Bandwidth Coherent Driver Modulator)という規格化された小型筐体を用い、マッハツェンダ型光導波路を構成する2つの並行導波路上のそれぞれに形成された電極に、互いに位相が反転した一対の差動信号を構成する2つの高周波電気信号(以下、高周波信号)のそれぞれが入力されることにより、光変調動作が行われる。このような半導体光変調素子を駆動するための差動信号を出力する駆動回路素子(高周波ドライバ)は、集積回路の形態で既に実用化され、市販されている。
【0004】
一方で、LN光変調素子は、半導体光変調素子に比べて光の損失が少なく且つ広帯域な光変調特性を実現し得ることから、高速/大容量光ファイバ通信システムに広く用いられているものの、上記HB-CDMに用いられるLN光変調素子を駆動するための専用の駆動回路素子は、その需要数が少ないこと等から未だ商用化されていない。このため、LN光変調素子を備える光変調器においても、半導体光変調モジュール用に開発され既に実用化された駆動回路素子を用いることができれば便宜である。
【0005】
しかしながら、LN基板として特にXカット基板を用いるLN光変調素子の場合には、特許文献1の半導体光変調モジュールのようにマッハツェンダ型光導波路の2つの並行導波路の電極に一対の差動信号を入力する必要はなく、2つの並行導波路の間に形成された一つの信号電極に一つの高周波電気信号を入力すれば足りる。
【0006】
特許文献2には、差動信号である一対の高周波電気信号の双方を用いてXカットLN基板上のマッハツェンダ型光導波路を駆動し得るように工夫された光変調器が開示されている。この光変調器では、マッハツェンダ型光導波路は、その2つの並行導波路を伝搬する光の伝搬方向が、XカットLN基板上において+Y方向から-Y方向へ180度曲がるように形成されている。そして、光が+Y方向に伝搬する区間の2つの並行導波路の間には、差動信号の一方の高周波信号が入力される一方の電極が形成され、光が-Y方向に伝搬する区画の2つの並行導波路の間には、差動信号の他方の高周波信号が入力される他方の電極が形成されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2の光変調器では、ギガヘルツ帯の高速な光変調動作を行う場合には、+Y方向の区間から-Y方向の区間に到達するまでの光の伝搬時間に合わせて、差動信号の一対の高周波信号間の位相差を精度良く調整する必要が生ずる。このため、特許文献2の光変調器では、例えば、駆動回路素子から±Y区間のそれぞれに至るまでの電極長の製造許容誤差が極めて厳しいものとなったり、環境温度の変化に伴って生じ得る上記位相差の変動により光変調動作が不安定となり得る、という問題が生じ得る。
【0008】
すなわち、XカットLN基板上のマッハツェンダ型光導波路を駆動する場合、製造の容易さ及び変調動作の安定性の観点では、差動信号の一方の高周波信号のみを用いるのが好ましい。このような、差動信号を用いない光変調素子において、上述のような差動信号を出力する駆動回路素子を流用する場合、差動信号を構成する一方の高周波信号の出力端子を上記信号電極に接続し、他方の高周波信号の出力端子を適切な手段で処置する必要がある。
【0009】
この場合、上記他方の出力端子から出力される高周波信号の電力は、光変調に寄与せず無駄に消費される電力であり、駆動回路素子の全体としての電力消費が非効率な状態となり得る。また、上記電力消費の効率を向上するため、例えば、上記一方の出力端子に接続する信号電極のインピーダンスを低くすると、信号電極の構成や上記他方の出力端子の処置の仕方によっては、それぞれの出力端子に接続される終端抵抗等における信号反射によって駆動回路素子の動作が不安定となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014-164243号公報
【特許文献2】特開2021-140026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記背景より、本発明の目的は、差動信号のような複数の信号を出力する駆動回路の一部の信号出力を用いて光変調素子を駆動する光変調器において、動作の不安定化を回避しつつ、消費電力を低減し及び又はそのサイズを小型化することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一の態様は、基板に形成された光導波路及び前記光導波路を伝搬する光波を制御する信号電極を備えた光導波路素子と、2つの高周波信号を出力する駆動回路と、前記駆動回路からの2つの高周波信号出力をそれぞれ終端する2つの終端抵抗と、を備える光変調器であって、前記駆動回路の一方の高周波信号の出力は、前記光導波路素子の前記信号電極を伝搬し、一方の前記終端抵抗である第1終端抵抗により終端され、前記駆動回路の他方の高周波信号の出力は、他方の前記終端抵抗である第2終端抵抗により終端され、前記第1終端抵抗の抵抗値は、前記第2終端抵抗の抵抗値より小さく、前記信号電極は、互いに異なる一定のインピーダンスを有する複数の区間を含む、光変調器である。
本発明の他の態様によると、前記信号電極は、前記信号電極の前記高周波信号の伝搬方向に沿ってインピーダンスが段階的に減少するように配された少なくとも3つの前記区間を含む。
本発明の他の態様によると、前記区間の少なくとも一つは、前記高周波信号が前記光導波路を伝搬する光波に作用する作用部を含み、前記作用部を含む前記区間は、前記複数の区間の中で最も低いインピーダンスを有する最低インピーダンス区間である。
本発明の他の態様によると、前記複数の区間のうち最も低いインピーダンスを有する区間である最低インピーダンス区間の、前記高周波信号の周波数帯における第1電気長は、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記周波数帯における第2電気長より長い。
本発明の他の態様によると、前記最低インピーダンス区間の前記第1電気長は、前記複数の区間のそれぞれの前記周波数帯における電気長の中で最も長い。
本発明の他の態様によると、前記駆動回路と前記第2終端抵抗の間に、前記高周波信号を減衰させる減衰部を有する。
本発明の他の態様によると、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記高周波信号の周波数帯における第2電気長は、前記駆動回路の前記一方の高周波信号を出力する第1出力部から前記第1終端抵抗までの前記周波数帯における第3電気長の2倍以上の長さである。
本発明の他の態様によると、前記駆動回路の前記一方の高周波信号を出力する第1出力部から前記第1終端抵抗までの前記周波数帯における第3電気長L1と、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記高周波信号の周波数帯における第2電気長L2と、の差の絶対値は、前記高周波信号の平均波長λに対し、|L1-L2|>λ/2の関係を有する。
本発明の他の態様は、上記いずれかの光変調器と、前記光導波路素子に変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成する電子回路と、を備える光送信装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、差動信号のような複数の信号を出力する駆動回路の一部の信号出力を用いて光変調素子を駆動する光変調器において、動作の不安定化を回避しつつ、消費電力を低減し及び又はそのサイズを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す光変調器に用いられる光変調素子の構成を示す図である。
【
図3】信号電極の構成を説明するための説明図である。
【
図4】駆動回路素子、信号電極、および終端抵抗が構成する電気回路の回路図である。
【
図5】第1実施形態の変形例4について説明するための図である。
【
図6】第1実施形態の変形例5について説明するための図である。
【
図7】第1実施形態の変形例6について説明するための図である。
【
図8】第1実施形態の変形例7について説明するための図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る光送信装置の構成を示す図である。
【
図10】駆動回路素子内に第2終端抵抗を設ける例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[1.第1実施形態]
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る、光導波路素子である光変調素子を用いた光変調器1の構成を示す図である。
光変調器1は、筐体2と、筐体2内に収容された光変調素子3と、を有する。光変調素子3は、例えば、DP-QPSK変調器構成である。筐体2は、例えば、業界規格であるHB-CDM規格(“Implementation Agreement for the High Bandwidth Coherent Driver Modulator (HB-CDM) OIF-HB-CDM-02.0”(July 15、2021、OIF発行))に準拠する。なお、筐体2は、最終的にはその開口部に板体であるカバー(不図示)が固定されて、その内部が気密封止される。
【0016】
筐体2には、光変調素子3の変調に用いる高周波電気信号を入力するための信号ピン4と、光変調素子3の動作点の調整等に用いる電気信号を入力するための信号ピン5と、が設けられている。なお、以下において、インピーダンスおよび抵抗値とは、それぞれ、光変調素子3の変調に用いられる上記高周波電気信号の周波数におけるインピーダンスおよび抵抗値をいうものとする。
【0017】
光変調器1は、また、筐体2内に光を入力するための入力光ファイバ6と、光変調素子3により変調された光を筐体2の外部へ導く出力光ファイバ7と、を筐体2の同一面に有する。
【0018】
入力光ファイバ6及び出力光ファイバ7は、固定部材であるサポート8及び9を介して筐体2にそれぞれ固定されている。入力光ファイバ6から入力された光は、サポート8内に配されたレンズ10によりコリメートされた後、レンズ11を介して光変調素子3へ入力される。ただし、これは一例であって、光変調素子3への光の入力は、従来技術に従い、例えば、入力光ファイバ6を、サポート8を介して筐体2内に導入し、当該導入した入力光ファイバ6の端面を光変調素子3の基板30(後述)の端面に接続することで行うものとすることもできる。
【0019】
光変調器1は、また、光変調素子3から出力される2つの変調された光を偏波合成する光学ユニット12を有する。光学ユニット12から出力される偏波合成後の光は、サポート9内に配されたレンズ13により集光されて出力光ファイバ7へ結合される。
【0020】
光変調器1の筐体2内には、また、中継基板14と、所定のインピーダンスを有する4つの第1終端抵抗15a、15b、15c、15dを備える終端器16が配されている。以下、第1終端抵抗15a、15b、15c、15dを総称して第1終端抵抗15ともいうものとする。
【0021】
中継基板14には、光変調素子3の4つのマッハツェンダ型光導波路に設けられた4つの信号電極41(後述)をそれぞれ駆動する4つの駆動回路素子17a、17b、17c、17dが搭載されている。以下、駆動回路素子17a、17b、17c、17dを総称して駆動回路素子17ともいうものとする。駆動回路素子17は、例えば、集積回路の形態で中継基板14に実装されている。
【0022】
駆動回路素子17は、それぞれ、互いに位相が反転した(すなわち、位相が180度ずれた)2つの高周波電気信号(以下、高周波信号という)である差動信号を増幅して2つの増幅された差動信号を出力する、2信号入力2信号出力型の増幅回路である。4つの駆動回路素子17にそれぞれ入力される4つの(すなわち4対の)差動信号は、例えば、信号ピン4を介して外部装置から与えられる。上記差動信号を構成する高周波信号は、例えば、マイクロ波帯の電気信号であって、IEEE規格に規定された例えばGバンド帯の周波数以上、具体的には0.2GHz以上の信号成分を含んだ電気信号である。
【0023】
中継基板14には、また、4つの第2終端抵抗18a、18b、18c、18dが実装され、それぞれ、中継基板14上の導体パターンを介して駆動回路素子17の第2出力部51a、51b、51c、51dに接続されている。以下、第2終端抵抗18a、18b、18c、18dを総称して第2終端抵抗18ともいうものとする。
【0024】
駆動回路素子17が出力する差動信号である2つの高周波信号のうち、一方の高周波信号は、光変調素子3の信号電極41に入力され、当該信号電極41を伝搬した後、第1終端抵抗15により終端される。また、駆動回路素子17が出力する差動信号である2つの高周波信号のうち、他方の高周波信号は、中継基板14上に実装された第2終端抵抗18により終端される。
【0025】
光変調素子3と、中継基板14および終端器16と、の間の電気的接続は、例えばワイヤボンディング等により行われる。
【0026】
図2は、DP-QPSK変調器である光変調素子3の構成の一例を示す図である。
図2には、中継基板14の一部と終端器16も示されている。
光変調素子3は、基板30上に形成された光導波路31(図示太線点線の全体)で構成され、例えば200GのDP-QPSK変調を行う。基板30は、例えば、20μm以下(例えば2μm)の厚さに加工され薄膜化された、電気光学効果を有するXカットのLN基板である。また、光導波路31は、薄膜化された基板30の表面に形成された、帯状に延在する凸部で構成された凸状光導波路(例えば、リブ型光導波路又はリッジ型光導波路)である。ここで、LN基板は、応力が加わると光弾性効果により屈折率が局所的に変化し得るため、基板全体の機械強度を補強すべく、一般的にはSi(シリコン)基板やガラス基板、LN等の支持板に接着される。
【0027】
基板30は、例えば矩形であり、図示上下方向に延在して対向する図示左右の2つの辺32a、32b、および図示左右方向に延在して対向する図示上下の辺32c、32dを有する。
【0028】
光導波路31は、基板30の図示右方の辺32bの図示上側において入力光ファイバ6からの入力光(図示右方を向く矢印)を受ける入力導波路33と、入力された光を同じ光量を有する2つの光に分岐する分岐導波路34と、を含む。また、光導波路31は、分岐導波路34により分岐されたそれぞれの光を変調する2つの変調部である、いわゆるネスト型マッハツェンダ型光導波路35a、35bを含む。
【0029】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路35aおよび35bは、基板30の図示左部分において光の伝搬方向が180度折り返され、出力導波路36aおよび36bにより基板30の辺32bから図示右方へ光を出力する。
【0030】
ネスト型マッハツェンダ型光導波路35a、35bは、それぞれ、一対の並行導波路を成す2つの導波路部分に設けられたそれぞれ2つのマッハツェンダ型光導波路37a、38a、および37b、38bを含む。
【0031】
マッハツェンダ型光導波路37aは、2本の並行導波路37a1、37a2を含み、マッハツェンダ型光導波路38aは、2本の並行導波路38a1及び38a2を含む。また、マッハツェンダ型光導波路37bは、2本の並行導波路37b1及び37b2を含み、マッハツェンダ型光導波路38bは、2本の並行導波路38b1及び38b2を含む。
【0032】
基板30上の図示左部分で折り返されたネスト型マッハツェンダ型光導波路35a、35bの図示上部分には、ネスト型マッハツェンダ型光導波路35a、35bおよび4つのマッハツェンダ型光導波路37a、38a、37b、38bのそれぞれの、いわゆるDCドリフトによるバイアス点の変動を補償して動作点を調整するための、バイアス電極40a、40b、40cが設けられている。これらのバイアス電極40a、40b、40cは、ワイヤボンディングおよび中継基板14の導体パターン(不図示)を介して、筐体2の信号ピン5に接続される。
【0033】
また、基板30上の図示下部分には、ネスト型マッハツェンダ型光導波路35a、35bを構成する合計4つのマッハツェンダ型光導波路37a、38a、37b、38bのそれぞれに変調動作を行わせるための、信号電極41a、41b、41c、41dが設けられている。信号電極41a、41b、41c、41dを総称して信号電極41ともいうものとする。
【0034】
信号電極41a、41b、41c、41dの図示左方は、基板30の図示左側の辺32aまで延在し、それぞれ、パッド42a、42b、42c、42dに接続されている。また、信号電極41a、41b、41c、41dの図示右方は、図示下方へ折れ曲がって基板30の辺32dまで延在し、パッド43a、43b、43c、43dに接続されている。
【0035】
信号電極41a、41b、41c、41dは、それぞれ、図示一点鎖線で示す領域Rにおいて、マッハツェンダ型光導波路37a、38a、37b、38bのそれぞれの並行導波路の間に配されて、これらの並行導波路を伝搬する光波を制御する。
【0036】
なお、信号電極41a、41b、41c、41dは、従来技術に従い、基板30上に形成されたグランド導体パターン(不図示)と共に、例えば、所定のインピーダンスを有するコプレーナ伝送線路を構成している。グランド導体パターンは、例えば、光導波路31の上には形成されないように設けられ、グランド導体パターンのうち光導波路31により分割されて形成される複数の領域間は、例えばワイヤボンディング等により互いに接続されるものとすることができる。
【0037】
信号電極41a、41b、41c、41dの図示左方のパッド42a、42b、42c、42dは、これらのパッドにボンディングされたワイヤおよび中継基板14上の導体パターンを介して、駆動回路素子17a、17b、17c、17dのそれぞれの、差動信号を構成する一方の高周波信号の出力端子である第1出力部50a、50b、50c、50dに接続されている。また、信号電極41a、41b、41c、41dの図示右下方のパッド43a、43b、43c、43dは、ボンディングワイヤを介して終端器16内の第1終端抵抗15a、15b、15c、15dの一端に接続されている。第1終端抵抗15a、15b、15c、15dの他端は、それぞれ、例えば、終端器16の構成する基板に設けられたグランドライン(不図示)に接続される。
【0038】
一方、駆動回路素子17a、17b、17c、17dのそれぞれの、差動信号を構成する他方の高周波信号の出力端子である第2出力部51a、51b、51c、51dは、それぞれ、中継基板14上の導体パターンである高周波伝送路52a、52b、52c、52dを介して、中継基板14上に実装された第2終端抵抗18a、18b、18c、18dの一端に接続されている。また、第2終端抵抗18a、18b、18c、18dの他端は、中継基板14に設けられたグランドパターン(不図示)に接続されている。
【0039】
以下、高周波伝送路52a、52b、52c、52dを総称して高周波伝送路52ともいうものとする。また、駆動回路素子17a、17b、17c、17dの第1出力部50a、50b、50c、50dを総称して第1出力部50ともいい、第2出力部51a、51b、51c、51dを総称して第2出力部51ともいうものとする。ここで、駆動回路素子17は、本開示における駆動回路に相当する。
【0040】
駆動回路素子17は、例えば、差動信号を構成する2つの高周波信号の出力部である第1出力部50および第2出力部51のそれぞれと、グランド電位と、の間で測った出力インピーダンスであるラインインピーダンスが、互いに等しい値Zlinを有している。このラインインピーダンスZlinは、例えば50Ωである。また、駆動回路素子17の、上記差動信号の第1出力部50と第2出力部51との間で測った出力インピーダンスである差動インピーダンスZdifは、100Ωである(
図4等参照)。
【0041】
上記の構成を有する光変調器1では、増幅された差動信号を出力する駆動回路素子17の第1出力部50からの出力される一方の高周波信号出力は、対応する信号電極41を伝搬したのち、第1終端抵抗15により終端される。また、駆動回路素子17の他方の第2出力部51から出力される高周波信号は、中継基板14に実装された対応する第2終端抵抗18により終端される。
【0042】
そして、駆動回路素子17の一方の第1出力部50から出力されて信号電極41を伝搬した一方の高周波信号を終端する第1終端抵抗15の抵抗値R1は、駆動回路素子17の他方の第2出力部51から出力された他方の高周波信号を終端する第2終端抵抗18の抵抗値R2より小さい。すなわち、第1終端抵抗15の抵抗値R1と、第2終端抵抗18の抵抗値R2とは、次の式(1)を満たす。
R2>R1 (1)
【0043】
これにより、光変調器1では、第1終端抵抗15の抵抗値R1が第2終端抵抗18の抵抗値R2よりも小さいことから、駆動回路素子17の第1出力部50から信号電極41を経て第1終端抵抗15に出力される高周波信号パワーは、第2出力部51から第2終端抵抗18に出力される高周波信号パワーよりも大きくなる。従って、駆動回路素子17の消費電力に対する、信号電極41に供給する高周波信号パワーの比率は大きくなり、光変調器1における駆動回路素子17の電力効率が向上する。その結果、信号電極41に求められる高周波信号パワーを確保するために必要な駆動回路素子17の消費電力が低減される。また、上記のように消費電力が低減される結果、光変調器1のサイズを小型化することができる。
【0044】
第2終端抵抗18の抵抗値R2は、例えば、駆動回路素子17のラインインピーダンスZlinと同じ50Ωに設定され、第1終端抵抗15の抵抗値R1は、これより低い50Ω未満の値に設定される。この場合、第1終端抵抗15の抵抗値R1は、45Ω以下であることが好ましく、40Ω以下であれば更に好ましい。
【0045】
ただし、このように、第1終端抵抗15の抵抗値R1の値を、駆動回路素子17のラインインピーダンスZlinと異なる値に設定した場合には、駆動回路素子17の第1出力部50から第1終端抵抗15に至るまでの間に、インピーダンスの変化点や不連続点(以下、総称して、インピーダンス不連続点という)が生ずることとなり得る。このようなインピーダンス不連続点では、駆動回路素子17から出力された高周波信号の反射が生じて、高周波信号の反射波(反射高周波信号)が駆動回路素子17の方向へ伝搬する。
【0046】
駆動回路素子17の第1出力部50に、上記のような反射高周波信号が戻ると、反射高周波信号の大きさ(信号パワー)に依存して、駆動回路素子17の動作が不安定となり得る。一般に、高周波信号の反射は、インピーダンス不連続点におけるインピーダンスの変化幅が大きいほど、大きな反射高周波信号が発生し、駆動回路素子17の動作により大きな影響を与え得る。
【0047】
このような駆動回路素子17の不安定動作を回避するため、本実施形態では、特に、信号電極41は、互いに異なるインピーダンスを有する複数の区間を含むよう構成されている。
図3は、信号電極41の構成を説明するための説明図である。また、
図4は、駆動回路素子17、信号電極41、第1終端抵抗15、および第2終端抵抗が構成する電気回路の回路図である。
信号電極41a、41b、41c、41dは、それぞれ、
図3に示す信号電極41と同様に構成される。
【0048】
図3に示すように、信号電極41は、
図2に示す領域R内の部分である作用部AP(図示黒塗り部分)を含む。作用部APは、信号電極41を伝搬する高周波信号が光導波路31を伝搬する光波(具体的には、対応するマッハツェンダ型光導波路37a、38a、37b、38bのそれぞれの並行導波路を伝搬する光波)に作用する部分である。
【0049】
信号電極41は、区間S1、S2、S3、S4の、4つの区間を含む。区間S3は、作用部APを含む。すなわち、区間S3の長さは、作用部APの長さ以上の長さに設定されている。
【0050】
区間S1は、高周波信号が入力されるパッド42から開始する区間であり、区間S2は、区間S1と区間S3とをつなぐ中間区間である。ここで区間S1と区間S2との境界位置は、例えば設計要求事項等に基づいて任意に決定され得る。区間S4は、区間S3から第1終端抵抗15につながるパッド43に至るまでの出力区間である。以下、区間S1、S2、S3、S4を総称して区間Sともいうものとする。
【0051】
そして、区間S1、S2、S3、S4は、それぞれ、互いに異なる一定のインピーダンスを有する。ここで、「一定の」インピーダンスを有するとは、その区間における高周波信号に対する特性インピーダンスが区間内の位置によらず一定であることを言う。従って、例えば、信号電極のうち、信号電極の長さ方向に沿って当該信号電極の幅が変化していること等により、特定インピーダンスが上記長さ方向の位置に依存して変化する領域は、一定のインピーダンスを有する区間ではない。そのような領域は、例えば、それぞれにおいて信号電極の幅が一定であって一定のインピーダンスを有する複数の区間を含むものと解され得る。
【0052】
区間S1、S2、S3、S4の、信号電極41を伝搬する高周波信号の周波数帯における電気長は、それぞれ、Ls1、Ls2、Ls3、Ls4であり、インピーダンスは、Zm1、Zm2、Zm3、Zm4である。
【0053】
本実施形態では、区間S1、S2、S3の3つの区間は、信号電極41を伝搬する高周波信号の伝搬方向に沿って、インピーダンスが段階的に減少するように配されている。また、区間S4は、区間S3のインピーダンスよりも大きなインピーダンスを有するように構成されている。
【0054】
区間S1のインピーダンスは、例えば、駆動回路素子17のラインインピーダンスZlin以下に設定され、区間S4のインピーダンスは、例えば、第1終端抵抗15の抵抗値R1を含む所定の範囲内の値に設定され得る。
【0055】
すなわち、区間S1、S2、S3、S4がそれぞれ有するインピーダンスZm1、Zm2、Zm3、及びZm4は、式(2)の関係を有している。
Zm1>Zm2>Zm3、かつ、Zm3<Zm4 (2)
【0056】
上述した実施形態に係る光変調器1では、信号電極41は、それぞれ、互いに異なる一定のインピーダンスを有する4つの区間S1、S2、S3、S4を含むので、それぞれ隣接する区間の間に生ずるインピーダンスの不連続点を3つ含むこととなる。このため、例えば、ZlinからR1までのインピーダンスの変化を、上記3つの不連続点において段階的に分散することができるので、それぞれの不連続点に発生する反射高周波信号(
図4に一点鎖線の矢印で示す)の大きさを抑制することができる。このため、光変調器1では、第1終端抵抗15の抵抗値R1と第2終端抵抗18の抵抗値R2とが上述の式(1)を満たすこととあいまって、駆動回路素子17の動作の不安定化を回避しつつ、消費電力を低減することができる。その結果、光変調器1では、光変調動作の安定動作を確保しつつ、光変調器としての消費電力を低減して、そのサイズを小型化することができる。
【0057】
なお、信号電極41は、本実施形態のように、高周波信号の伝搬方向に沿ってインピーダンスが段階的に減少するように配された少なくとも3つの区間を含んでいることが好ましい。
これにより、信号電極41の内部において、インピーダンスを減少方向に変化させるためのインピーダンス不連続点を少なくとも2箇所確保して、インピーダンスの減少方向の変化に伴って発生し得る高周波信号の反射を2箇所に分散させることができるので、それぞれのインピーダンス不連続点に発生する反射高周波信号の大きさを抑制することができる。
【0058】
なお、信号電極41が含む各区間のインピーダンスは、従来技術に従い、信号電極41の幅及び又は厚さ、及び又は信号電極41に隣接するグランド電極(不図示)と信号電極41との離間距離等を調整することにより所望の値に設定することができる。
【0059】
ここで、信号電極41が含む複数の区間のそれぞれの長さは、任意に設定され得る。ただし、光変調動作の観点では、作用部APは、一定のインピーダンスを有する一つの区間に包含されていることが好ましい。
【0060】
また、作用部APは、本実施形態では、信号電極41が含む複数の区間のうち最も低いインピーダンスを有する最低インピーダンス区間である区間S3に含まれているが、他の区間に含まれていてもよい。ただし、本実施形態のように最低インピーダンス区間に作用部APが含まれるように構成することで、光導波路31を伝搬する光波と信号電極41を伝搬する高周波信号との相互作用をより強めることができ、光変調素子3に光変調動作を行わせるために必要な駆動電力をより低減する事ができる。
【0061】
[2.第1実施形態の変形例]
次に、第1の実施形態に係る光変調器1の変形例について説明する。
【0062】
[2-1.変形例1]
信号電極41が含む、高周波信号の伝搬方向に沿ってインピーダンスが段階的に減少するように配される区間の数は、上記のように少なくとも3つ、すなわち、3つ以上の数であるものとすることができる。インピーダンスが段階的に減少するように配される区間の数が多いほど、高周波信号の反射をより多くの不連続点に分散させることができるので、それぞれの不連続点に発生する反射高周波信号の大きさを抑制することができる。
【0063】
例えば、本実施形態では、区間S4のインピーダンスは、区間S3のインピーダンスより大きいものとしたが、区間S1、S2、S3、S4の4つの区間の全てが、高周波信号の伝搬方向に沿ってインピーダンスが段階的に減少するように配されていてもよい。すなわち、区間S1、S2、S3、S4のインピーダンスZm1、Zm2、Zm3、Zm4は、式(2)に代えて、次の式(3)を満たすものとすることができる。
Zm1>Zm2>Zm3>Zm4 (3)
【0064】
[2-2.変形例2]
【0065】
信号電極41の作用部APは、上記実施形態のように、必ずしも、インピーダンスが段階的に減少するように配された3つの区間の最後の区間S3に含まれている必要はなく、他の区間に含まれるように構成されていてもよい。
【0066】
[2-3.変形例3]
【0067】
一般に、差動信号を増幅して出力する駆動回路素子17のような2入力2出力型の増幅回路では、第1出力部50及び第2出力部51の2つの出力部にそれぞれ入射する2つの反射高周波信号の位相や強度が揃っていると、反射高周波信号同士の干渉によって、回路動作に大きな影響を受けることとなり得る。
【0068】
このため、信号電極41が含む複数の区間のうち最も低いインピーダンスを有する区間である最低インピーダンス区間の、信号電極41を伝搬する高周波信号の周波数帯における電気長である第1電気長は、上記複数の区間のそれぞれの上記周波数帯における電気長の中で最も長いことが好ましい。
【0069】
例えば、最低インピーダンス区間である区間S3の電気長Ls3(第1電気長に相当)は、他の区間S1,S2、S4の電気長Ls1、Ls2、Ls4に対し、次の式(4)の関係を有する。
Ls3>Ls1、Ls3>Ls2、且つ、Ls3>Ls4 (4)
【0070】
これにより、駆動回路素子17の第1出力部50に最も大きな信号パワーをもって入射し易い、区間S3の下流端部のインピーダンス不連続点で発生した反射高周波信号は、上記下流端部より上流にある他のインピーダンス不連続点(すなわち、他の隣接する2区間の間の接続点)で発生する反射高周波信号に比べて、駆動回路素子17の第1出力部50に入射する際の位相が、第2出力部51に入射する反射高周波信号(例えば、第2終端抵抗18において発生する反射高周波信号)の位相に対して大きくずれることとなる。このため本変形例では、駆動回路素子17の動作の不安定化を効果的に抑制することができる。
【0071】
[2-4.変形例4]
信号電極41が含む複数の区間のうち最も低いインピーダンスを有する区間である最低インピーダンス区間の、信号電極41を伝搬する高周波信号の周波数帯における電気長である第1電気長は、駆動回路素子17の第2出力部51から第2終端抵抗18に至るまでの高周波伝送路の、上記周波数帯における電気長である第2電気長より長いものとしてもよい。
【0072】
図5は、本変形例における電気長の関係を説明するための説明図である。本変形例では、例えば、最低インピーダンス区間である区間S3の電気長Ls3(第1電気長に相当)は、駆動回路素子17の第2出力部51から第2終端抵抗18に至るまでの高周波伝送路52(図示太線部分)の電気長L2(第2電気長に相当)よりも長く設定される。
【0073】
これにより、最低インピーダンス区間である区間S3の下流端部のインピーダンス不連続点で発生した反射高周波信号は、駆動回路素子17の第1出力部50に入射する際の位相が、第2終端抵抗18において発生して第2出力部51に入射する反射高周波信号の位相に対してずれることとなる。その結果、本変形例では、駆動回路素子17の動作の不安定化を効果的に抑制することができる。
【0074】
[2-5.変形例5]
駆動回路素子17の第2出力部51と第2終端抵抗18との間に、高周波信号を減衰させる減衰部を有してもよい。
図6は、本変形例に係る光変調器1の等価回路を示す図である。駆動回路素子17の第2出力部51と第2終端抵抗18との間の高周波伝送路52には、高周波信号を減衰させる減衰部54が設けられている。減衰部54は、例えば、第2出力部51から第2終端抵抗18に至るまでの高周波伝送路52に装荷されたフェライト材料などを含むシートや接着剤、あるいは、高周波伝送路52の途中に挿入されたコンデンサや抵抗などの電子部品により構成される周波数フィルタ回路であり得る。
【0075】
上記の構成によれば、第2終端抵抗18において発生した反射高周波信号は、第2出力部51に至るまでの間に減衰部54により減衰されるので、駆動回路素子17の動作の不安定化が抑制され得る。
【0076】
[2-6.変形例6]
駆動回路素子17の第2出力部51から第2終端抵抗18に至る高周波伝送路52の、駆動回路素子17が出力する高周波信号の周波数帯における電気長である第2電気長は、駆動回路素子17の第1出力部50から第1終端抵抗15までの上記周波数帯における電気長である第3電気長の2倍以上の長さであるものとしてもよい。
【0077】
図7は、本変形例における電気長の関係を説明するための説明図である。本変形例では、駆動回路素子17の第2出力部51から第2終端抵抗18に至る高周波伝送路52の電気長L2(第2電気長に相当)は、駆動回路素子17の第1出力部50から第1終端抵抗15までの上記周波数帯における電気長L1(第3電気長に相当)の2倍以上の長さとなっている。このような高周波伝送路52は、例えば、中継基板14上において、蛇行する導体パターンとして形成され得る。
【0078】
上記の構成によれば、第2終端抵抗18において発生して第2出力部51に戻る反射高周波信号は、第1終端抵抗15において発生して第1出力部50に戻る反射高周波信号に対して、位相が2倍以上ずれることとなるので、これらの反射高周波信号が駆動回路素子17の内部で干渉することによる当該駆動回路素子17における動作の不安定化が抑制され得る。
【0079】
[2-7.変形例7]
駆動回路素子17の第1出力部50から第1終端抵抗15までの、駆動回路素子17から出力される高周波信号の周波数帯における電気長である第3電気長と、駆動回路素子17の第2出力部51から第2終端抵抗18までの、上記周波数帯における電気長である第2電気長と、の差の絶対値は、上記高周波信号の平均波長λに対し、次の式(5)の関係を有するものとしてもよい。
|L1-L2|>λ/2 (5)
【0080】
図8は、本変形例における電気長の関係を説明するための説明図である。本変形例では、駆動回路素子17の第1出力部50から第1終端抵抗15までの、高周波信号の周波数帯における電気長L1(第3電気長に相当)と、駆動回路素子17の第2出力部51から第2終端抵抗18までの、上記周波数帯における電気長L2(第2電気長に相当)と、の差の絶対値|L1-L2|は、λ/2より大きく設定される。
【0081】
二つの反射電気信号はそれぞれの電気長の差|L1-L2|がλ/2の整数倍(n倍)の時強く干渉しあい、n=1の時が最も大きく干渉し、高周波ドライバ回路に対して大きく影響する。一方、電気信号は信号線路伝搬中に損失を受け、特に反射電気信号は反射点に至る信号線路の往復で2倍の伝搬損失を受ける。
【0082】
よって、二つの反射電気信号の電気長の差|L1-L2|をλ/2より大きくする事によって、干渉に必要な少なくとも一方の電気信号の強度を大きく減衰させ、かつ最も大きく干渉する位相関係をずらすことが可能となる。即ち、これにより、最も位相が合いやすくかつ最も減衰を受けずに戻る大きな反射高周波信号が駆動回路素子17の動作に与える影響を回避することができる。
なお、式(5)に示すように、|L1-L2|はλ/2より大きく設定されればよいので、電気長L1は、必ずしも
図8に示すように電気長L2より長い必要はなく、式(5)を満たす限り電気長L2より短くてもよい。
【0083】
[3.第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、第1の実施形態又はその変形例に係る光変調器1を搭載した光送信装置60である。
図9は、本実施形態に係る光送信装置60の構成を示す図である。この光送信装置60は、光変調器1と、光源61と、変調信号生成部62と、を有する。変調信号生成部62は、光変調器1に変調動作を行わせるための高周波信号(変調信号)を生成する電子回路である。変調信号生成部62は、例えば、外部から与えられる送信データに基づき、光変調器1が備える光変調素子3の4つの信号電極41に対応する4つの変調信号を、それぞれ差動信号の形で光変調器1に入力する。これにより、光変調器1は、入力光ファイバ6から入射される光源61からの光を変調し、出力光ファイバ7を介して変調光を出力する。
【0084】
上記構成の光送信装置60では、上述した光変調器1を用いているので、例えば半導体光変調器用に製造された安価な差動信号出力素子を駆動回路素子17として流用して装置全体を安価に構成しつつ、光変調動作の安定動作を低消費電力で実現して、そのサイズを小型化することができる。
【0085】
[4.他の実施形態]
なお、本発明は上記実施形態の構成およびその代替構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0086】
例えば、駆動回路素子17が出力する差動信号のうち光変調素子3の駆動に用いられない方の高周波信号を終端する第2終端抵抗18は、上述した実施形態では、中継基板14上に実装されるものとしたが、
図10に示す駆動回路素子17-1のように、当該素子の内部に備えられていてもよい。この場合には、第2出力部51は、駆動回路素子17の出力端子ではなく、駆動回路素子17-1が含む駆動回路の高周波信号出力の出力点51-1として定義され、出力点51-1から第2終端抵抗18までの間に高周波伝送路52が設けられる構成となり得る。
【0087】
また、駆動回路素子17は、上述した実施形態では互いに位相が反転した2つの高周波信号で構成される差動信号を出力するものとしたが、同位相の複数の高周波信号を出力するものであってもよい。この場合でも、そのような複数の高周波信号の一部を用いて光変調素子3を駆動する場合には、上述した実施形態のように、光変調素子3の駆動に用いる高周波信号の終端抵抗の抵抗値に対し、上記駆動に用いない高周波信号の終端抵抗の抵抗値を大きくすることで、光変調素子3の駆動に用いられない高周波信号として消費される電力を低減することができる。また、同位相の複数の高周波信号を出力する駆動回路素子の場合でも、信号電極41を、上述の実施形態及び又はその変形例に示した構成とすることで、駆動回路素子の動作の不安定化を回避することができる。
【0088】
なお、上述した第1実施形態及びその変形例、並びに上述した実施形態は、構成に矛盾を生じない限り、任意に組み合わせて用いることが可能である。例えば、第1実施形態と上述した変形例2から7の全て又は任意の一部を組みあわせて光変調器を構成してもよく、変形例1と、変形例2から7の全て又は任意の一部を組みあわせて光変調器を構成してもよい。
【0089】
[5.上記実施形態によりサポートされる構成]
上記の実施形態および変形例は、以下の構成をサポートする。
【0090】
(構成1)基板に形成された光導波路及び前記光導波路を伝搬する光波を制御する信号電極を備えた光導波路素子と、2つの高周波信号を出力する駆動回路と、前記駆動回路からの2つの高周波信号出力をそれぞれ終端する2つの終端抵抗と、を備える光変調器であって、前記駆動回路の一方の高周波信号の出力は、前記光導波路素子の前記信号電極を伝搬し、一方の前記終端抵抗である第1終端抵抗により終端され、前記駆動回路の他方の高周波信号の出力は、他方の前記終端抵抗である第2終端抵抗により終端され、前記第1終端抵抗の抵抗値は、前記第2終端抵抗の抵抗値より小さく、前記信号電極は、互いに異なる一定のインピーダンスを有する複数の区間を含む、光変調器。
構成1の光変調器によれば、第1終端抵抗の抵抗値を第2終端抵抗の抵抗値より小さくすることで、駆動回路から出力される高周波電力を信号電極へより多く供給して、駆動回路の消費電力を低減することができる。また、信号電極を、互いに異なる一定のインピーダンスを有する複数の区間で構成するので、信号電極内に複数のインピーダンス不連続点を設けて、それぞれのインピーダンス不連続点で発生する反射高周波信号の大きさを抑制することができる。このため構成1の光変調器では、光変調動作の安定動作を確保しつつ、光変調器としての消費電力を低減して、そのサイズを小型化することができる。
【0091】
(構成2)前記信号電極は、前記信号電極の前記高周波信号の伝搬方向に沿ってインピーダンスが段階的に減少するように配された少なくとも3つの前記区間を含む、構成1に記載の光変調器。
構成2の光変調器によれば、信号電極の内部において、インピーダンスを減少方向に変化させるためのインピーダンスの不連続点を少なくとも2箇所確保することができるので、それぞれのインピーダンス不連続点に発生する反射高周波信号の大きさを抑制することができる。
【0092】
(構成3)前記区間の少なくとも一つは、前記高周波信号が前記光導波路を伝搬する光波に作用する作用部を含み、前記作用部を含む前記区間は、前記複数の区間の中で最も低いインピーダンスを有する最低インピーダンス区間である、構成1または2に記載の光変調器。
構成3の光変調器によれば、光導波路を伝搬する光波と信号電極を伝搬する高周波信号との相互作用をより強めることができ、光変調素子に光変調動作を行わせるために必要な駆動電力をより低減する事ができる。
【0093】
(構成4)前記複数の区間のうち最も低いインピーダンスを有する区間である最低インピーダンス区間の、前記高周波信号の周波数帯における第1電気長は、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記周波数帯における第2電気長より長い、構成1ないし3のいずれかに記載の光変調器。
構成4の光変調器によれば、最低インピーダンス区間の、高周波信号の伝搬方向に沿って下流の端部におけるインピーダンス不連続点で発生した反射高周波信号は、駆動回路に入射する際の位相が、第2終端抵抗において発生して駆動回路の第2出力部に入射する反射高周波信号の位相に対してずれることとなるので、駆動回路の動作の不安定化をより効果的に抑制することができる。
【0094】
(構成5)前記最低インピーダンス区間の前記第1電気長は、前記複数の区間のそれぞれの前記周波数帯における電気長の中で最も長い、構成4に記載の光変調器。
構成5の光変調器によれば、最低インピーダンス区間の電気長が最も長いため、最低インピーダンス区間の下流端部のインピーダンス不連続点で発生した反射高周波信号は、より大きく減衰すると共に、インピーダンス不連続点で発生する反射高周波信号に比べて、駆動回路に入射する際の位相が、第2出力部に入射する反射高周波信号の位相に対してずれることとなる。したがって、構成5の光変調器によれば、駆動回路の動作の不安定化を更に効果的に抑制することができる。
【0095】
(構成6)前記駆動回路と前記第2終端抵抗の間に、前記高周波信号を減衰させる減衰部を有する、構成1ないし5のいずれかに記載の光変調器。
構成6の光変調器によれば、第2終端抵抗において発生した反射高周波信号は、駆動回路の第2出力部に至るまでの間に減衰部により減衰されるので、駆動回路の動作の不安定化がより効果的に抑制され得る。
【0096】
(構成7)前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記高周波信号の周波数帯における第2電気長は、前記駆動回路の前記一方の高周波信号を出力する第1出力部から前記第1終端抵抗までの前記周波数帯における第3電気長の2倍以上の長さである、構成1ないし6のいずれかに記載の光変調器。
構成7の光変調器によれば、第2終端抵抗において発生して駆動回路の第2出力部に戻る反射高周波信号は、第1終端抵抗において発生して駆動回路の第1出力部に戻る反射高周波信号に対して、位相が2倍以上ずれることとなるので、これらの反射高周波信号が駆動回路の内部で干渉することによる当該駆動回路における動作の不安定化が抑制され得る。
【0097】
(構成8)前記駆動回路の前記一方の高周波信号を出力する第1出力部から前記第1終端抵抗までの前記周波数帯における第3電気長L1と、前記駆動回路の他方の前記高周波信号を出力する第2出力部から前記第2終端抵抗までの、前記高周波信号の周波数帯における第2電気長L2と、の差の絶対値は、前記高周波信号の平均波長λに対し、|L1-L2|>λ/2の関係を有する、構成1ないし6のいずれかに記載の光変調器。
構成8の光変調器によれば、|L1-L2|がλ/2に等しい状態、すなわち、駆動回路に戻る2つの反射高周波信号の互いの位相が最も合いやすく且つ駆動回路に戻るまでにこれら2つの反射高周波信号が受ける減衰量が最も少ない状態を回避して、これらの反射高周波信号が駆動回路の動作に影響を与えてしまうのを回避することができる。
【0098】
(構成9) 構成1ないし8のいずれかに記載の光変調器と、前記光導波路素子に変調動作を行わせるための高周波信号である変調信号を生成する電子回路と、を備える光送信装置。
構成9の光送信装置によれば、構成1ないし8のいずれかに記載の光変調器を用いているので、装置全体を安価に構成しつつ、光変調動作の安定動作を低消費電力で実現して、そのサイズを小型化することができる。
【符号の説明】
【0099】
1…光変調器、2…筐体、3…光変調素子、4、5…信号ピン、6…入力光ファイバ、7…出力光ファイバ、8、9…サポート、10、11、13…レンズ、12…光学ユニット、14…中継基板、15、15a、15b、15c、15d…第1終端抵抗、18、18a、18b、18c、18d…第2終端抵抗、16…終端器、17、17a、17b、17c、17d…駆動回路素子、30…基板、31…光導波路、32a、32b、32c、32d…辺、33…入力導波路、34…分岐導波路、35、35a、35b…ネスト型マッハツェンダ型光導波路、36a、36b…出力導波路、37a、37b、38a、38b…マッハツェンダ型光導波路、37a1、37a2、37b1、37b2、38a1、38a2、38b1、38b2…並行導波路、40a、40b、40c…バイアス電極、41、41a、41b、41c、41d…信号電極、42a、42b、42c、42d、43a、43b、43c、43d…パッド、50、50a、50b、50c、50d…第1出力部、51、51a、51b、51c、51d…第2出力部、52、52a、52b、52c、52d…高周波伝送路、54…減衰部、60…光送信装置、61…光源、62…変調信号生成部、AP…作用部、S1、S2、S3、S4…区間。