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特開2024-65009サツマイモ基腐病の感染検知方法及び、サツマイモ基腐病の感染検知装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065009
(43)【公開日】2024-05-14
(54)【発明の名称】サツマイモ基腐病の感染検知方法及び、サツマイモ基腐病の感染検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20240507BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240507BHJP
   G01N 33/98 20060101ALI20240507BHJP
   G01N 33/64 20060101ALI20240507BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
G01N33/497 C
C12Q1/04
G01N33/98
G01N33/64
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156584
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022172649
(32)【優先日】2022-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 恭和
(72)【発明者】
【氏名】田中 福代
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 章
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 英樹
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA31
2G045CB20
2G045DA28
2G045DA74
2G045DA80
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ20
4B063QQ61
4B063QS36
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】非破壊的なサツマイモ基腐病の感染検知方法及び、サツマイモ基腐病の感染検知装置を提供すること。
【解決手段】下記(1)、(2)の工程を含むことを特徴とする、サツマイモ基腐病の感染検知方法。
(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採取する工程
(2)前記気体中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される少なくとも1種以上の有無を検知する工程
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)、(2)の工程を含むことを特徴とする、サツマイモ基腐病の感染検知方法。
(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採取する工程
(2)前記気体中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される少なくとも1種以上の有無を検知する工程
【請求項2】
前記(2)の工程における検知に、においセンサを用いる、請求項1に記載のサツマイモ基腐病の感染検知方法。
【請求項3】
下記(1)~(3)の手段を含むことを特徴とする、サツマイモ基腐病の感染検知装置。
(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採取する手段
(2)前記気体中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される少なくとも1種以上の有無を検知する手段
(3)前記検知結果に基づきサツマイモ基腐病の感染の有無を報知する手段
【請求項4】
前記(2)の手段における検知に、においセンサを用いる、請求項3に記載のサツマイモ基腐病の感染検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモ基腐病の感染検知方法及び、サツマイモ基腐病の感染検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サツマイモ基腐病は、サツマイモ(甘藷)産地で発生する土壌病害であり、サツマイモが、サツマイモ基腐病菌であるディアポルテ・デストルエンス(Diaporthe destruens)に感染することにより発生し、主に苗床、圃場及び塊根の貯蔵中に発生する。発病すると、株が立ち枯れ、塊根が腐敗する症状が確認されており、収量の減少により、サツマイモの生産に甚大な被害をもたらすことが知られている。
サツマイモ基腐病は、アメリカで初めて発生が報告されて以来、海外では、苗の消毒等の防除方法が検討されてきた。近年は、日本でも発生が報告され、現在も深刻な広がりを見せている。
サツマイモ基腐病の伝染源としては、病原菌に感染した塊根(種芋)や苗により伝染する経路、感染したサツマイモに発生した胞子が、降雨や圃場の停滞水などにより周辺の健全なサツマイモに伝染する経路、前作の栽培で病害が発生した畑では、感染した残渣が分解されずに残存し、それが新たなサツマイモに伝染する経路などが考えられるため、病原菌を「持ち込まない」、「増やさない」、「残さない」ことを柱に対策がなされているものの、より効果的な防除方法が求められている。
これまでに、サツマイモ基腐病に対して優れた防除効力を発揮するサツマイモ基腐病防除方法(特許文献1等)が報告されている。
また、サツマイモ基腐病菌を特異的かつ定量的に検出することを可能とする核酸、プライマーセット、キット及び方法(特許文献2等)が報告されている。この手法は、確定診断には有効であるものの、サツマイモ基腐病に感染した初期段階では、サツマイモの外観に変化が少なく、感染したサツマイモを選別するためには、感染が疑われる全てのサツマイモをPCR検査する必要があることから、簡易的な選別のための現実的な検査方法とはなり得ない。
感染初期段階のサツマイモは、外観だけでは健全なサツマイモと区別することが難しく、切ってみると切り口に黒ずみがあり感染が判明することもある。そのような事情から、非破壊的に感染したサツマイモのみを選別するため、圃場での収穫時や出荷前のサツマイモを対象とした、簡便かつ的確なサツマイモ基腐病に感染したサツマイモの検知方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-121624号公報
【特許文献2】特開2022-035797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非破壊的なサツマイモ基腐病の感染検知方法及び、サツマイモ基腐病の感染検知装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモが発する特異的な成分、詳しくは、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上を発生することを新たに見出した。すなわち、圃場での栽培時または収穫時や、出荷前のサツマイモを対象として、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール、テルピネン-4-オールを監視することにより、非破壊的にサツマイモ基腐病の感染を検知できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.下記(1)、(2)の工程を含むことを特徴とする、サツマイモ基腐病の感染検知方法。
(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採取する工程
(2)前記気体中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される少なくとも1種以上の有無を検知する工程
2.前記(2)の工程における検知に、においセンサを用いる、1.に記載のサツマイモ基腐病の感染検知方法。
3.下記(1)~(3)の手段を含むことを特徴とする、サツマイモ基腐病の感染検知装置。
(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採取する手段
(2)前記気体中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される少なくとも1種以上の有無を検知する手段
(3)前記検知結果に基づきサツマイモ基腐病の感染の有無を報知する手段
4.前記(2)の手段における検知に、においセンサを用いる、3.に記載のサツマイモ基腐病の感染検知装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明のサツマイモ基腐病の感染検知方法またはサツマイモ基腐病の感染検知装置によれば、圃場での栽培時または収穫時や、出荷前のサツマイモを対象として、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール、テルピネン-4-オールを監視することにより、サツマイモ基腐病の感染を非破壊的に検知することが出来る。
また、サツマイモ基腐病に感染した収穫後のサツマイモはもとより、栽培中のサツマイモのサツマイモ基腐病感染を早期に検知することが出来るので、被害が小さいうちに防除対策を実施することができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法を説明する、サツマイモ基腐病菌接種前のサツマイモと、接種作業2週間後のサツマイモ基腐病菌非接種のサツマイモと、サツマイモ基腐病菌を接種したサツマイモを示す写真である。
図2】実施例1の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法を説明する、サツマイモ基腐病菌接種前の輪切りサツマイモと、接種作業7日後のサツマイモ基腐病菌非接種の輪切りサツマイモと、サツマイモ基腐病菌を接種した輪切りサツマイモを示す写真である。
図3】実施例1の(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法における、サツマイモ基腐病菌接種2、3、4週間後の各サツマイモと、サツマイモ基腐病菌非接種4週間後のサツマイモが発する気体の分析チャートである。図中のは4-メチル-1,3-ペンタジエン、は4-メチル-2-ペンタノン、は4-メチル-3-ペンテン-2-オン、は4-メチル-2-ペンタノール、は4-メチル-3-ペンテン-2-オール、はテルピネン-4-オールを意味する。
図4】実施例1の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法における、サツマイモ基腐病菌接種3、7日後の各輪切りのサツマイモと、サツマイモ基腐病菌非接種7日後の輪切りのサツマイモが発する気体の分析チャートである。図中のは4-メチル-1,3-ペンタジエン、は4-メチル-2-ペンタノン、は4-メチル-3-ペンテン-2-オン、は4-メチル-2-ペンタノール、は4-メチル-3-ペンテン-2-オール、はテルピネン-4-オールを意味する。
図5】実施例1の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法において、検出された揮発性有機化合物を説明変数とした主成分分析の第1主成分と第2主成分のスコアプロットを示すグラフである。
図6】実施例2の(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法における、サツマイモ基腐病菌接種4週間後のサツマイモ3検体と、サツマイモ基腐病菌非接種4週間後のサツマイモ3検体の、市販のにおいセンサにおけるCH1~5の測定値を示すグラフである。
図7】実施例2の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法における、サツマイモ基腐病菌接種9日後のサツマイモ3検体と、サツマイモ基腐病菌非接種9日後のサツマイモ3検体の、市販のにおいセンサにおけるCH1~5の測定値を示すグラフである。
図8】実施例4の複数品種のサツマイモが発するVOCの確認試験において、サツマイモ基腐病菌非接種/接種処理9日後の、ベニアズマ、べにはるか、べにまさり、すずほっくりの各サツマイモが発する気体の分析チャートであり、上段が「対照区M」、下段が「接種区I」である。図中のは4-メチル-1,3-ペンタジエン、は4-メチル-2-ペンタノン、は4-メチル-3-ペンテン-2-オン、は4-メチル-2-ペンタノール、は4-メチル-3-ペンテン-2-オール、はテルピネン-4-オールを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、サツマイモの種類は限定されない。また、圃場での収穫時や出荷前のサツマイモはもとより、圃場で栽培中の収穫する以前のサツマイモも、サツマイモ基腐病に感染する可能性がある全てのサツマイモが含まれる。中でも、収穫時や収穫後に出荷する際のサツマイモを対象とした、サツマイモ基腐病の感染を検知することに優れた効果を発揮するものである。
本発明は、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモが、特に、サツマイモの塊茎(芋)部分が、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上を発生することを、新たに見出したことに基づくものであり、圃場での栽培時または収穫時や、出荷前のサツマイモが発生する気体を採集し、気体中の前記の特異的な成分の有無を検知することが、本発明の主たる構成となる。
【0010】
<4-メチル-1,3-ペンタジエン>
4-メチル-1,3-ペンタジエンは下記化学構造を有し、化学式がC10のジエン化合物で、その沸点は75~77℃である。
【化1】
<4-メチル-2-ペンタノン>
4-メチル-2-ペンタノンは下記化学構造を有し、化学式がC12Oのケトン化合物で、メチルイソブチルケトンとも呼称される化合物であり、その沸点は約115℃である。
【化2】
<4-メチル-3-ペンテン-2-オン>
4-メチル-3-ペンテン-2-オンは下記化学構造を有し、化学式がC10Oのケトン化合物で、その沸点は約129℃である。
【化3】
<4-メチル-2-ペンタノール>
4-メチル-2-ペンタノールは下記化学構造を有し、化学式がC14Oのアルコール化合物で、その沸点は約132℃である。
【化4】
<4-メチル-3-ペンテン-2-オール>
4-メチル-3-ペンテン-2-オールは下記化学構造を有し、化学式がC12Oのアルコール化合物で、その沸点は61~63℃である。
【化5】
<テルピネン-4-オール>
テルピネン-4-オールは、下記化学構造を有し、化学式がC1018Oのアルコール化合物で、光学異性体を有するが、本発明においては全ての異性体が含まれる。
【化6】
本発明は、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される少なくとも1種以上の有無を検知することを、基本の態様とするものであるが、少なくとも2種以上の有無を検知することが好ましく、少なくとも3種以上の有無を検知することがより好ましく、少なくとも4種以上の有無を検知することがさらに好ましく、5種以上の有無を検知することがさらに良く好ましく、6種全ての有無を検知することが特に好ましい。また、4-メチル-2-ペンタノン及び/または4-メチル-3-ペンテン-2-オンの有無を検知する態様も好適である。
【0011】
<(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体の採集について>
本発明のサツマイモ基腐病の感染検知方法は(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集する工程を、また、本発明のサツマイモ基腐病の感染検知装置は(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集する手段を有するものであり、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体に含まれる、揮発性有機化合物(以下、「VOC」という。)中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無により、サツマイモ基腐病の感染を検知するものである。
この気体の採集については、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体(空気)を採取し、後の分析のために当該気体を蓄積することができれば特に制限されない。必要に応じて、採集した気体を濃縮する機能を付加してもよい。濃縮する機能としては、例えば、エアポンプ等により栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を濃縮カラムに送気して、採集した気体中のVOCを吸着剤に吸着させ、吸着剤を加熱することにより吸着され濃縮されたVOCを得る方法が挙げられる。濃縮カラムとしては、吸着型充填剤やポーラスポリマー等の吸着剤をカラム内に充填し、連続的に栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を流過させて吸着剤にVOCを吸着させる様式が挙げられる。吸着剤としては、例えば、ジーエルサイエンス社製のMS3A、MS4A、MS13X、TenaxTA、TenaxGR、PorapakS、PorapakQ、MonoTrap(登録商標)、ゲステル社製のTwister、スペルコ社製の固相マイクロ抽出(SPME)ファイバー、信和化工のNeedlEx等が挙げられ、その容量は、例えば、0.01~5mLが好適である。吸着剤を加熱する条件は、濃縮カラムに充填された吸着剤の種類などに応じて適宜設定すればよく、例えば、TenaxTAを吸着剤とした場合には、濃縮カラムを200~250℃に加熱すればよい。加熱方法はどのような方法であってもよく、金属線などの発熱材を濃縮カラムに巻き付けて加熱する方法、濃縮カラムをジャケットで覆いジャケット内に加熱媒体を流して加熱する方法、濃縮カラムに熱風を吹き付けて加熱する方法、などを例示することができる。
【0012】
<(2)4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無の検知について>
上述の(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体の採集により得られたVOCを分析する手法は、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知できる手法であれば特に制限はされない。例えば、ガスクロマトグラフィー(以下、「GC」という。)やガスクロマトグラフィー質量分析法(以下、「GC-MS法」という。)による分析のほか、においセンサを用いる手法が好適に挙げられる。サツマイモ基腐病に感染したサツマイモは種々のVOCを発生するため、確実に4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知するためには、質量分析の前に、GCによりVOC成分を分離するGC-MS法が好適である。GC-MS法において、GCへのサンプル導入法は特に制限されず、加熱脱着法、溶剤抽出法等の公知の方法を利用できる。特に、本発明においては、微量の高揮発性成分の解析となるため、溶剤抽出法よりも加熱脱着法がより適切である。
上述の吸着剤として、TenaxTAやTenaxGRを用いる場合には、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を吸着させた後、吸着剤を含む濃縮カラムにヘリウム等の不活性ガスを通過させながら急加熱することで、VOCをガス状に脱離させ、続いてGC-MS法により分析を行うことで、主たるVOCの分析を行うことができる。また、シリンジ中に吸着剤を含有する装置では、サンプルガスを手動で吸引し、GC-MSの注入口にシリンジを挿して注入口の熱で脱着させ、そのままキャリアガスでGCカラムに揮発性成分を導入する方法により工程を手動で実施することもできる(例えば、信和化工のNeedlEx)。また、加熱による手法の他、吸着剤に吸着された成分を溶媒に逆抽出して利用することもできる。この場合、抽出溶媒をエバポレーター等により濃縮する方法や、濃縮せずにGC-MSに大量注入する方法(例えば、ゲステル社やアイスティサイエンス社の手法)を選択し得る。
【0013】
<においセンサについて>
においセンサとは、種々のガスや「におい」に応答を示す単独のセンサや、数種類のセンサを搭載したセンサアレイと、それらのセンサ応答を表示、または応答データを測定目的に合ったアルゴリズムで解析して表示する方法とを組み合わせたセンサシステムである。このシステムは、エレクトロニックノーズ(Electronic Nose:人工電子鼻、略して、e-Nose)とも呼称される。
においセンサは、金属酸化物半導体表面で、ガス吸着により生じる熱伝導度変化や電気伝導度変化による抵抗値変化を測定する半導体センサと合成分子膜センサ、複数の導電性有機高分子膜のほか、水晶振動子、表面応力センサ、圧電薄膜、細胞等で構成されるものがあり、現在は、半導体や水晶振動子で構成されるものが主流となっている。積極的に検知したい「におい」を吸引し、必要に応じて濃縮してから、微量の「におい」物質をセンサに導き、センサアレイと多変量解析を組み合わせることにより、検知したい「におい」のみを優れた選択のもと高感度で検出することが可能となる。
本発明において、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知するために、市販のにおいセンサシステムを使用する態様と、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール、テルピネン-4-オールを検出するセンサアレイを組み入れた独自のにおいセンサシステムを使用する態様がある。本明細書では、市販のにおいセンサシステムでの検知方法を、後述する実施例において具体的に示す。
【0014】
サツマイモ基腐病に感染したサツマイモが発生するVOCのうち、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール、テルピネン-4-オール以外に、有意に増加することが確認された成分は、以下のとおりである。
アセトアルデヒド(acetaldehyde)、アセトン(acetone)、メタノール(methanol)、ブタノン(butanone)、エタノール(ethanol)、1-ブタン-3-オン(1-buten-3-one)、2,3-ジメチルフラン(2,3-dimethylfuran)、1,3-オクタジエン(1,3-octadiene)、プロピオン酸エチル(ethyl propanoate)、3-ペンタノン(3-pentanone)、ジアセチル(diacetyl)、アセトニトリル(acetonitrile)、1-ペンテン-3-オン(1-penten-3-one)、α-ツジェン(α-thujene)、プロパノール(propanol)、酪酸エチル(ethyl butyrate)、2-ブテナール(2-butenal)、ヘキサナール(hexanal)、イソブタノール(isobutanol)、β-ピネン(β-pinene)、2-メチル-2-ブテナール(2-methyl-2-butenal)、サビネン(sabinene)、3-ペンタノール(3-pentanol)、トランス-2-ペンテナール((E)-2-pentenal)、シス-3-ヘキセナール((Z)-3-hexenal)、ミルセン(myrcene)、α-フェランドレン(α-phellandrene)、ブタノール(butanol)、2,3-ジメチル-3-ブテン-2-オール(2,3-dimethyl-3-buten-2-ol)、2-シクロプロピル-2-プロパノール(2-cyclopropyl-2-propanol)、α-テルピネン(α-terpinene)、1-ペンテン-3-オール(1-penten-3-ol)、D-リモネン(d-limonene)、ヘプタナール(heptanal)、β-フェランドレン(β-phellandrene)、2-メチルブタノール(2-methylbutanol)、トランス-2-ヘキサナール((E)-2-hexenal)、3-メチルブタノール(3-methylbutanol)、γ-テルピネン(γ-terpinene)、カプロン酸エチル(ethyl caproate)、ペンタノール(pentanol)、チアゾール(thiazole)、3-メチル-3-ブテン-1-オール(3-methyl-3-buten-1-ol)、p-シメン(p-cymene)、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン(2,6-dimethyl-2,4,6-octatriene)、オクタナール(octanal)、アセトイン(acetoin)、トランス-2-ペンテン-1-オール((E)-2-penten-1-ol)、ヒドロキシアセトン(hydroxyacetone)、α-メチルスチレン(α-methylstyrene)、3-メチル-2-ブテン-1-ノール(3-methyl-2-buten-1-ol)、トランス-2-へプテナール((E)-2-heptenal)、メチルヘプテノン(methyl heptenone)、シス-ローズオキシド((Z)-roseoxide)、ヘキサノール(hexanol)、トランス-ローズオキシド((E)-roseoxide)、シス-3-ヘキセノール(Z-3-hexenol)、3-オクタノール(3-octanol)、ペリレン(perillene)、トランス-2-オクテナール((E)-2-octenal)、p-シメネン(p-cymenene)、3-フルフラール(3-furfural)、オクテン-3-オール(octen-3-ol)、α-クベベン(α-cubebene)、へプタノール(heptanol)、トランス-サビネン水和物((E)-sabinene hydrate)、1-アセチルオキシ-2-プロパノン(1-(acetyloxy)- 2-propanone)、α-クベベン(α-cubebene)、コパエン(copaene)、デカナール(decanal)、アセチルフラン(acetylfuran)、(S)-(+)-5-メチル-1-ヘプタノール((S)-(+)-5-methyl-1-heptanol)、ピロール(pyrrole)、カンファー(camphor)、ベンズアルデヒド(benzaldehyde)、リナロール(linalool)、シス-サビネン水和物((Z)-sabinen hydrate)、オクタノール(octanol)、2-メチル-1H-ピロール(2-methyl-1H-pyrrole)、ロンギホレン(longifolene)、メチルチモール(thymol methyl ether)、β-コパエン(β-copaene)、4-シクロペンテン-1,3-ジオン(4-cyclopentene-1,3-dione)、β-カリオフィレン(β-caryophyllene)、コハク酸ジメチル(butanedioic acid, dimethyl ester)、シス-5-オクテン-1-オール((Z)-5-octen-1-ol)、トランス-2-オクテノール((E)-2-octenol)、5-メチル-2-アセチルフラン(5-methyl-2-acetylfuran)、l-メントール(l-menthol)、(4R,4aS,6S)-4,4a-Dimethyl-6-(prop-1-en-2-yl)-1,2,3,4,4a,5,6,7-octahydronaphthalene、フェニルアセトアルデヒド(phenylacetaldehyde)、ノナノール(nonanol)、2-メチルベンズアルデヒド(2-methylbenzaldehyde)、シス-β-ファルネセン((Z)- β-farnesene)、アセトフェノン(acetophenone)、1-メチル-2-ピロリドン(1-methyl-2-pyrrolidone)、酪酸(butyric acid)、シス-β-ファルネセン((E)-β-farnesene)、α-テルピネオール(α-terpineol)、ドデカナール(Dodecanal)、バレンセン(valencene)、ジンギベレン(zingiberene)、ムウロレン(muurolene)、β-セリネン(β-selinene)、リナロールオキシド(linalool oxide I (pyran))、エタンアミド(ethanamide)、δ-カジネン(δ-cadinene)、シトロネロール(citronellol)、セスキフェランドレン(sesquiphellandrene)、フェニル酢酸エチル(ethyl phenylacetate)、ネロール(nerol)、ゲラニオール(geraniol)、ベンジルアルコール(benzyl alcohol)、フェニルエタノール(phenylethanol)、2,6-ジメチルオクタ-3,7-ジエン-2,6-ジオール(2,6-dimethylocta-3,7-dien-2,6-diol)、2-フェニル-2-ブテナール(2-phenylbut-2-enal)、p-クレゾール(p-cresol)、フェノール(phenol)、レボメノール(levomenol)、イポメアマロン(ipomeamarone)、デヒドロイポメアマロン(dehydroipomeamarone)等である。また、これらを含む、検出された成分のピーク強度を説明変数として多変量解析を行い、パターン認識で感染と非感染を識別することも可能である。
【0015】
栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体は、非常に複雑な成分組成であるため、着目する成分を分析時に単一ピークとして検出することは、重要である反面困難でもある。あえてカラム分離をなくし、ソフトなイオン化方法であるCIイオン化法を採用したリアルタイム質量分析計(例えば、オーストリアのV&F社製の「ソフトイオン化質量分析計 Airsense(商品名)」、ニュージーランドのSyft Technologies社の「SIFT-MS VOICE200Ultra」、オーストリアのIonicon Analytik GmbHの「PTR-MS」等)を使用し、検出されるイオンを説明変数として多変量解析することによりパターン認識で感染と非感染を識別することも可能である。
本発明において着目した成分の1つ4-メチル-2-ペンタノンは、悪臭防止法で指定された特定悪臭物質にあたる有機物質であり、環境中の定量技術が既に開発されている。4-メチル-2-ペンタノンを検出する簡易な方法として、例えば、検知管としては、株式会社ガステック社製の短時間用または長時間用検知管(https://www.gastec.co.jp/product/detector_tube/search/)がある。また、小型の選択式センサを装着したガス警報器としては、ドレーゲルジャパン社製の「Drager x-am 8000」他各種の装置があり、4-メチル-2-ペンタノンについても、これらを利用することができる。
【0016】
栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体中のVOCによりサツマイモ基腐病の感染を検知するためには、サツマイモ基腐病に感染していないサツマイモが発する気体中のVOCと比較して、相違する成分に着目する。網羅的に解析するメタボロミクスと、目視による経時的な差分解析の両方を適用した。
トータルイオンカレントクロマトグラム(TICC)を目視で比較したところ、サツマイモ基腐病菌を接種してから時間とともに顕著に増加する成分が複数認められ、これらのうち代表的でかつクロマトグラムの前半に出てくる成分についてNIST20等のMSライブラリで検索し、上位でヒットした物質の標品と比較することにより本発明の6成分を同定した。なお、前半のものに着目したのは、においセンサで検出する場合、揮発性が高いものの方が感度を期待できるためである。
また、全試料の分析結果であるクロマトグラムについて、ピークの重なりを排除して単一化合物に分離するデコンボリューションを行った後、クロマトグラム間のピークの対応を整理するアラインメントを行い、各ピークをMSライブラリおよびリテンションインデックスで検索し、成分を同定するとともに、その成分に特徴的なm/zを選択し、成分ごとのピーク面積の積算を行った。これにはデータ解析ソフト(MassHunter アジレント・テクノロジー社製)とAromaOffice2(ゲステル社製)および自作のRIデータベースのデータに基づいて、検出されたすべてのピークを対象に接種区と非接種区の統計処理を行い有意に増加する成分をリストした。上記の目視で検出された成分もこの中に含まれていた。
なお、4-メチル-1,3-ペンタジエンではm/z67、82、4-メチル-2-ペンタノンではm/z43、58、100、4-メチル-3-ペンテン-2-オンではm/z83、55、98、4-メチル-2-ペンタノールではm/z45、69、87、4-メチル-3-ペンテン-2-オールではm/z67、85及びテルピネン-4-オールではm/z71、111、154のピークをモニターすると、近隣の別成分との識別が明確となり、S/N比(シグナルノイズ比)が上昇することによる検出感度の向上により、TICCの場合より早く検出が可能になる。
【0017】
検出された成分のパターン認識で感染と非感染を識別する方法としては、各成分ピークに特徴的なm/zを設定し、上記に示す方法で得た各成分のm/zのピーク強度積算値を説明変数とし、統計解析ソフト(SASジャパン社のJMP、IBM社のSPSS、フリーソフトRやPython等)を用いて主成分分析やクラスタ解析などで実施することができる。
4-メチル-1,3-ペンタジエン(m/z67)、4-メチル-2-ペンタノン(m/z43)、4-メチル-3-ペンテン-2-オン(m/z83)、4-メチル-2-ペンタノール(m/z45)、4-メチル-3-ペンテン-2-オール(m/z85)、テルピネン-4-オール(m/z71)から選択される1種以上のシグナル積分値が100,000より大きい場合に、サツマイモ基腐病に感染していると判定することが可能である。このシグナル積分値は、分析装置や分析条件により変動する数値であるが、通常の装置や条件下であれば、上記判定基準によりサツマイモ基腐病の感染を判定可能である。
また、検出された成分のうち、エタノールのシグナル積分値が、その他のシグナル積分値より大きい場合や、4-メチル-3-ペンテン-2-オンのシグナル積分値よりも4-メチル-2-ペンタノールのシグナル積分値が大きい場合には、サツマイモが発酵していることが推定されるので、サツマイモ基腐病感染よりも、生理障害もしくは他の病害等の関与を考慮する必要がある。
さらに、検出された成分中に、細胞壁が崩壊する際に発生するメタノールに由来するメチルエステル化合物(特に酢酸メチル、参考資料:F. Tanaka, "Methyl ester generation associated with flesh browning in ‘Fuji’ apples after long storage under repressed ethylene function." Postharvest Biology and Technology, v.145, p.53-60, 2018.)が存在する場合には、サツマイモ基腐病感染のみならず、多様な要因の障害や病害感染の可能性を考慮する必要があり、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の存在が検知されたとしても、慎重に判定する必要がある。
【0018】
<(3)前記検知結果に基づくサツマイモ基腐病に感染の有無の報知について>
本発明のサツマイモ基腐病の感染検知装置は、(3)前記検知結果に基づきサツマイモ基腐病に感染の有無を報知する手段を有するものである。栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体中に、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の存在が検知された場合には、サツマイモ基腐病に感染が検知されたことを、例えば、画像、文字、色彩の表示若しくは発光等による視覚的な方法、音声等の聴覚的な方法、またはそれらの組み合わせにより報知を行うことができる。視覚的な方法で報知を行う場合、例えば、表示デバイスとして、画像または文字を表示することにより報知を行う。また、LED等の発光素子を発光させることにより報知を行ってもよい。聴覚的な方法で報知を行う場合、例えば、スピーカ等の音発生デバイスとして、アラーム音や音声ガイド等を出力することにより報知を行う。報知は、視覚的または聴覚的な方法に限られず、サツマイモ基腐病の感染管理者が認識可能な任意の方法であってもよい。例えば、振動パターン等により、報知を行ってもよい。
【0019】
<本発明のサツマイモ基腐病の感染検知装置について>
本発明のサツマイモ基腐病の感染検知装置は、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集する手段である採集部、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知する手段である検知部、さらに、前記検知結果に基づきサツマイモ基腐病の感染の有無を報知する手段である報知部を有するものである。この採集部は、栽培中または収穫後のサツマイモが発するVOCを含む気体を(必要に応じて吸引するエアポンプ等を用いて)採取し、捕集剤に接触させることによりVOCを濃縮する構成を有していることが好適である。
採集部と検知部は連結されていて、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集後、引き続き4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知する作業を自動的に行ってもよい。また、採集部と検知部は連結されていなくても、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集後、目的に応じたタイミングで4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知する作業を人為的に行ってもよい。
検知部において、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の存在が検知された場合には、報知部において速やかにサツマイモ基腐病の感染を報知できるように、検知部と報知部は連動していることが好ましい。
【0020】
<本発明のサツマイモ基腐病の感染検知方法について>
本発明のサツマイモ基腐病の感染検知方法の態様としては、(1)栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集する工程のみ圃場やサツマイモ貯蔵施設で行い、(2)前記気体中の4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知する工程は、貯穀環境下とは離れた場所で行うことも含むものである。例えば、複数の圃場やサツマイモ貯蔵施設等において、栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集し、採集した気体サンプルを、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知できる分析センター等に集約して、一括してサツマイモ基腐病の感染を検知する工程を行うこともできる。採集した気体サンプルの形態としては、例えば、単に採集した気体を無処理のままアルミニウムバッグに充填する形態や、サツマイモ貯蔵コンテナ等に一定時間載置して吸着剤にサツマイモが発する気体を採集する形態のほか、吸着剤を充填した捕集管に栽培中または収穫後のサツマイモが発する気体を採集する形態等が挙げられる。この態様であれば、圃場やサツマイモ貯蔵施設等に、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知できる分析装置等を配する必要がなく、有用である。
また、サツマイモ出荷時の梱包中の気体を採集し、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知することにより、梱包ごとのサツマイモ基腐病の感染の有無を確認することが可能である。非常に多くの梱包体の中から、サツマイモ基腐病に感染しているサツマイモを非破壊的に発見することができ、損失を最小限に抑えられるため有効である。
【実施例0021】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。
4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール及びテルピネン-4-オールから選択される1種以上の有無を検知する方法/手段は以下のとおりである。
【0022】
<サツマイモが発する気体中の揮発性有機化合物(VOC)の分析方法>
[分析装置]
GC-MS:加熱脱着装置付きガスクロマトグラフ質量分析計 Agilent 5977B(アジレント・テクノロジー社製)
GCカラム:HeavyWax(60m length、0.25mm i.d.、0.25μm df、アジレント・テクノロジー社製)の先端に、中空(無修飾)のフューズドシリカキャピラリーカラム(0.8m length、0.15mm i.d.)をつないで使用した。
[分析方法]
サツマイモが発する気体中のVOCを分析する際は、下記に説明するように、サツマイモ基腐病菌接種または非接種後のサツマイモを、インキュベータ内で25℃、暗所に静置する密閉容器Aから取り出して、検体がサツマイモ全体の場合は、密閉容器Aとは別の密閉容器Bに移し、検体が輪切りのサツマイモの場合は、密閉容器Aからシャーレに移してサツマイモが発するVOCを採取した。サツマイモが発するVOCの採取完了後は、検体がサツマイモ全体の場合は、密閉容器Bから密閉容器Aに移し、検体が輪切りのサツマイモの場合は、シャーレから密閉容器Aに移して、再度、インキュベータ内で25℃、暗所に静置した。
サツマイモ基腐病菌接種または非接種のサツマイモが入った上記密閉容器Bまたはシャーレに捕集剤(MonoTrap RGPS TDロッドタイプ、ジーエルサイエンス社製)1個を入れて、室温で3時間静置した。捕集剤を取り出し、上記GC-MSを用いてVOCを分析した。
捕集剤に採集されたVOCは加熱脱着ユニット(TDU、ゲステル社製)を用いて加熱脱着した。
[加熱脱着条件]
試料加熱温度:40℃で30秒間保持した後、12℃/秒で240℃まで昇温して5分間保持
加熱脱着モード:スプリットレスモード
キャリアガス:ヘリウム
トランスファーライン温度:300℃
[VOCの導入]
昇温気化型注入口には、TenaxTAを充填したガラスライナー(ゲステル社製)を装着し、予め-40℃に冷却した。加熱脱着時間中は注入口モードを流速50mL/分のソルベントベントモードに設定し、VOCをクライオフォーカスした。
加熱脱着終了後、ガスクロマトグラフ(GC)の分析開始と同時に、注入口を12℃/秒で340℃まで急速昇温して5分間保持し、VOCをガスクロマトグラフ質量分析計に導入した。
[GC-MSの分析条件]
分析温度:40℃で1分間保持した後、4℃/分で240℃まで昇温して10分間保持
キャリアガス流量:1.1mL/分(コンスタントフロー)
質量分析計:m/zが30~400の範囲をスキャン
イオン化電圧:70eV
【0023】
<実施例1>サツマイモが発するVOCの確認
サツマイモ基腐病の感染したサツマイモは、(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法と、(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法の2種類を準備した。
サツマイモは市場購入品であり、80~190gの範囲のものを使用した。
サツマイモ基腐病菌は、農業生物資源ジーンバンクMAFF番号247516の菌株を用いた。
【0024】
(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法
サツマイモ(ベニアズマ)そのままを流水で洗浄し、80ppm濃度過酢酸(パーサンMP2-J:関東化学株式会社製)水溶液に5分間浸漬して消毒後、オートクレーブ滅菌した水で3回洗浄した。
乾燥後のサツマイモに、有柄針を使用した約5mmの深さの傷を直径6mm内に3つ設け、サツマイモ基腐病菌を植菌して約10日後のオートミール培地または無菌のオートミール培地を、それぞれ直径6mmに切り抜いたものを、3カ所の傷を覆うように載置して、サツマイモ基腐病菌の接種とした。オートミール培地が3カ所の傷に貼り付いた状態を保持するために、粘着テープを用いて固定した。この接種をサツマイモ1本毎に2カ所行い、「接種区I」のサツマイモとして、オートクレーブ滅菌した水で濡らした紙タオル(キムタオル:日本製紙クレシア株式会社製)を敷いた密閉容器Aに収納し、インキュベータ内で25℃、暗所に静置した。「対照区M」のサツマイモは、「接種区I」のサツマイモと、サツマイモ基腐病菌を植菌していないオートミール培地を用いた以外は同様に処理したものである。
「対照区M」と「接種区I」は、それぞれ2週目までは4検体、3週目及び4週目では3検体を使用した。
図1に、「対照区M」と「接種区I」の非接種液/サツマイモ基腐病菌を植菌した培地を貼り付けた直後と、25℃暗所で2週間経過後の写真を示す。「接種区I」のサツマイモは、傷からサツマイモ基腐病菌に感染し、その部分の黒ずみが確認できる。
サツマイモが発するVOCの採取は、非接種液/サツマイモ基腐病菌液を塗布した翌日を1日目として、2週後(14日後)、3週後(21日後)、4週後(27日後)に、上記「サツマイモが発する気体中の揮発性有機化合物(VOC)の分析方法」により、分析を行った。
図3に、「接種区I」の2週間後、3週間後、4週間後、「対照区M」の4週間後の分析チャートを示す。
接種区において有意に増加する成分のうちでピーク面積が大きく、早期に検出が可能になり、センサで感度が高いと期待される高揮発性成分である、図3中の「」の成分をVOCマーカーとして選定した。「接種区I」のサツマイモ基腐病菌に感染したサツマイモは、2週間後には4-メチル-1,3-ペンタジエン()、4-メチル-2-ペンタノン()、4-メチル-3-ペンテン-2-オン()、4-メチル-2-ペンタノール()、4-メチル-3-ペンテン-2-オール()、テルピネン-4-オール()を発することが確認された。
一方で、「対照区M」のサツマイモ基腐病菌に感染していないサツマイモは、これらの成分が設定したシグナル強度(100,000)以下で推移する、すなわち、4-メチル-1,3-ペンタジエン()(m/z67)、4-メチル-2-ペンタノン()(m/z43)、4-メチル-3-ペンテン-2-オン()(m/z83)、4-メチル-2-ペンタノール()(m/z45)、4-メチル-3-ペンテン-2-オール()(m/z85)、テルピネン-4-オール()(m/z71)を発しないことが確認された。
【0025】
(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法
サツマイモ(ベニアズマ)そのままを、流水で洗浄し、80ppm濃度過酢酸(パーサンMP2-J:関東化学株式会社製)水溶液に5分間浸漬して消毒後、オートクレーブ滅菌した水で3回洗浄した。乾燥後、オートクレーブ滅菌した包丁でサツマイモを輪切りにした。切断面の直径は約40~55mmであった。
切断面に、前記サツマイモ基腐病菌株の胞子約1.5×10/mLにTween20を0.05%添加した水溶液(以下、「サツマイモ基腐病菌液1」という。)を塗布したものを「接種区I」のサツマイモとして密閉容器Aに収納し、インキュベータ内で25℃、暗所に静置した。「対照区M」のサツマイモは、「接種区I」のサツマイモと、サツマイモ基腐病菌液1を塗布する代わりに、Tween20のみを0.05%添加した水溶液(以下、「非接種液」という。)を塗布した以外は同様にしたものである。
「対照区M」と「接種区I」は、それぞれ4検体準備した。
図2に、「対照区M」と「接種区I」の非接種液/サツマイモ基腐病菌液1を塗布した直後と、25℃暗所で7日経過後の写真を示す。「接種区I」のサツマイモは、サツマイモ基腐病菌に感染し、切断面に黒ずみが確認できる。
サツマイモが発するVOCの採取は、非接種液/サツマイモ基腐病菌液1を塗布した翌日を1日目として、1~3日後、7日後に、上記「サツマイモが発する気体中の揮発性有機化合物(VOC)の分析方法」により、分析を行った。
図4に、「接種区I」の3日後、7日後、「対照区M」の7日後の分析チャートを示す。
図4より、「接種区I」のサツマイモ基腐病菌に感染したサツマイモは、3日後に、図中の「」で示される4-メチル-3-ペンテン-2-オンが確認され、7日後には、図中の「」で示される4-メチル-1,3-ペンタジエン()、4-メチル-2-ペンタノン()、4-メチル-3-ペンテン-2-オン()、4-メチル-2-ペンタノール()、4-メチル-3-ペンテン-2-オール()、テルピネン-4-オール()が確認された。
一方で、「対照区M」のサツマイモ基腐病菌に感染していないサツマイモは、これらの成分が設定したシグナル強度(100,000)以下で推移する、すなわち、4-メチル-1,3-ペンタジエン()、4-メチル-2-ペンタノン()、4-メチル-3-ペンテン-2-オン()、4-メチル-2-ペンタノール()、4-メチル-3-ペンテン-2-オール()、テルピネン-4-オール()を発しないことが確認された。
【0026】
上記実施例1の結果より、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモは、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール、テルピネン-4-オール等の特異的な成分を発することが確認された。
この結果より、これら成分を監視することにより、圃場での栽培時または収穫時や、出荷前のサツマイモを対象として、サツマイモ基腐病の感染を非破壊的に検知することが出来ることが明らかとなった。
【0027】
実施例1の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法において分析データを網羅的に解析し、検出されたすべての成分の特徴的m/zのシグナル積算値を説明変数として主成分分析を行い、第1主成分と第2主成分のスコアプロットを作図したものを図5に示す。図5より、「対照区M」ではサンプリング時期による変化は小さかったが、「接種区I」の接種1日後は「対照区M」の1日目と重なり、2日後以降ではプロットの位置が移動し、VOC組成のパターンが大きく変化していくことが明らかとなった。
【0028】
<実施例2>においセンサから得られた複数の値による検知
(1)においセンサ
市販のにおいセンサ(コニカミノルタ製、KunKun body)を用いて、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモの検知に関する検証をおこなった。
上記においセンサは、体臭を測定する用途として開発されたものであり、4種類の半導体ガスセンサが搭載されており、においをデジタル化し、数値を組み合わせたアルゴリズムによって、5種類のアルゴリズムCH1~5(体臭表記としては、あたま、耳のうしろ、わき、あし、くち)のにおいを数値化するものである。すなわち、1つのセンサ値が1つのCHを担っているものではなく、複数のセンサ値を用いて各CHのにおいを数値化するものである。
上記市販のにおいセンサに、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノールそれぞれを曝露した際の、5種類のアルゴリズムCH1~5の応答数値を下記表1に示す。
なお、表1中の「0」は、アルゴリズムCH5の検出数値が0である場合と、検知閾値外等の理由により検出数値を表示できなかった場合を意味する。
【0029】
【表1】
【0030】
上記表1に示すとおり、上記市販のにおいセンサは、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモが発する特異的な成分のうち、少なくとも、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オンは検知する能力を有することが確認された。
【0031】
(2)においセンサを用いた検知-1
上記実施例1の(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法の「接種区I」の4週間後、「対照区M」の4週間後のサツマイモを、それぞれ3個体(以下、「接種区I-1」~「接種区I-3」、「対照区M-1」~「対照区M-3」という。)用いた。
各サツマイモをビーカーに入れて、ビーカー開口部の全体をドーム型のロートで覆い、ロートのあし部分に市販のにおいセンサを近接させて、各サツマイモが発するVOCを測定した。
市販のにおいセンサの5種類のCH1~5のアルゴリズムで表示された値を、下記表2と、図6に示す。
なお、表2、図6中の「0」は、各アルゴリズムの検出数値が0である場合と、検知閾値外等の理由により検出数値を表示できなかった場合を意味する。
【0032】
【表2】
【0033】
表2、図6に示すとおり、接種区I-1~I-3においてCH1~CH5で0を超える値が示され、対照区M-1~M-3では、CH1、CH3、CH4では検出されなかった。これらのことから、複数のアルゴリズムから得られたパターンを用いることにより、サツマイモ基腐病の感染したサツマイモを非破壊的に検知することが可能であると考える。
【0034】
(3)においセンサを用いた検知-2
上記実施例1の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法の「接種区I」の9日後、「対照区M」の9日後のサツマイモを、それぞれ3個体(以下、「接種区I-1」~「接種区I-3」、「対照区M-1」~「対照区M-3」という。)用いた。
各輪切りのサツマイモをシャーレに入れて、シャーレ開口部の全体をロートで覆い、ロートのあし部分の先に市販のにおいセンサを近接させて、各サツマイモが発するVOCを測定した。
市販のにおいセンサにより測定された、5種類のCH1~5の測定値を、下記表3と、図7に示す。
なお、表3、図7中の「0」は、各アルゴリズムの検出数値が0である場合と、検知閾値外等の理由により検出数値を表示できなかった場合を意味する。
【0035】
【表3】
【0036】
表3、図7に示すとおり、接種区I-1~I-3においてCH1~CH4で0を超える値が示され、特にCH1での値が高いことが確認された。対照区M-1~M-3では、CH1、CH3、CH4で値が示されているものの、CH1においては、接種区での値が極めて高い。これらのことから、複数のアルゴリズムから得られたパターンを用いることにより、サツマイモ基腐病の感染したサツマイモを非破壊的に検知することが可能であると考える。
【0037】
<実施例3>においセンサから得られた1つの値による検知
(1)においセンサ
市販のにおいセンサ(神栄テクノロジー株式会社製、OMX-SRM)を用いて、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモの検知に関する検証をおこなった。
上記においセンサは、室内空気質計測機器であり、2種類の半導体ガスセンサが搭載されており、においをデジタル数値化するものである。
(2)においセンサを用いた検知-1
上記実施例1の(1)サツマイモ全体を用いて接種する手法の「接種区I」の4週間後、「対照区M」の4週間後のサツマイモを、それぞれ3個体(以下、「接種区I-1」~「接種区I-3」、「対照区M-1」~「対照区M-3」という。)用いた。
各サツマイモをビーカーに入れて、ビーカー開口部の全体をロートで覆い、ロートのあし部分に市販のにおいセンサの先端部を挿入して、3分間経過後の数値を測定した。
市販のにおいセンサに表示された値を、下記表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
(3)においセンサを用いた検知-2
上記実施例1の(2)輪切りのサツマイモを用いて接種する手法の「接種区I」の9日後、「対照区M」の9日後のサツマイモを、それぞれ3個体(以下、「接種区I-1」~「接種区I-3」、「対照区M-1」~「対照区M-3」という。)用いた。
各輪切りのサツマイモをビーカーに入れて、ビーカー開口部の全体をロートで覆い、ロートのあし部分の先に市販のにおいセンサの先端部を挿入して、3分間経過後の数値を測定した。
市販のにおいセンサに表示された値を、下記表5に示す。
【0040】
【表5】
【0041】
表4、5に示すとおり、接種区I-1~I-3では、対照区M-1~M-3に比べて、有意に高い数値が確認された。これらの値を利用することにより、サツマイモ基腐病に感染したサツマイモを非破壊的に検知することが可能であると考える。
【0042】
<実施例4>複数品種のサツマイモが発するVOCの確認
試験に供するサツマイモは、ベニアズマ、べにはるか、べにまさり、すずほっくりを選び、80~200gの範囲の市場購入品を使用した。
サツマイモ基腐病に対する抵抗性は、ベニアズマが「やや弱」、べにはるかが「弱」、べにまさりが「やや強」、すずほっくりが「やや強」とされている。
サツマイモ基腐病菌は、農業生物資源ジーンバンクMAFF番号247516の菌株を用いた。
【0043】
各サツマイモ(ベニアズマ、べにはるか、べにまさり、すずほっくり)そのままを、流水で洗浄し、80ppm濃度過酢酸(パーサンMP2-J:関東化学株式会社製)水溶液に5分間浸漬して消毒後、オートクレーブ滅菌した水で3回洗浄した。乾燥後、オートクレーブ滅菌した包丁でサツマイモを輪切りにした。切断面の直径は約30~50mmであった。
切断面に、「サツマイモ基腐病菌液2」(胞子約2×10/mLにTween20を0.05%添加した水溶液)を塗布したものを「接種区I」のサツマイモとして密閉容器Aに収納し、インキュベータ内で25℃、暗所に静置した。「対照区M」のサツマイモは、サツマイモ基腐病菌液2を塗布する代わりに、「非接種液」(Tween20のみを0.05%添加した水溶液)を塗布した以外は、「接種区I」のサツマイモと同様に処理をした。
「対照区M」と「接種区I」は、それぞれ3検体準備した。
図8に、サツマイモ基腐病菌非接種/接種処理後9日後の、ベニアズマ、べにはるか、べにまさり、すずほっくりの各サツマイモが発する気体の分析チャートとして、上段に「対照区M」、下段に「接種区I」を示した。図中のは4-メチル-1,3-ペンタジエン、は4-メチル-2-ペンタノン、は4-メチル-3-ペンテン-2-オン、は4-メチル-2-ペンタノール、は4-メチル-3-ペンテン-2-オール、はテルピネン-4-オールを意味する。
図8より、「接種区I」のサツマイモ基腐病菌に感染した各サツマイモは、9日後には、図中の「」で示される4-メチル-1,3-ペンタジエン()、4-メチル-2-ペンタノン()、4-メチル-3-ペンテン-2-オン()、4-メチル-2-ペンタノール()、4-メチル-3-ペンテン-2-オール()、テルピネン-4-オール()を多量に発生することが確認された。
準備した各品種の「対照区M」と「接種区I」それぞれ3検体とも、同じ結果が確認された。
これらの結果より、本発明のサツマイモ基腐病の感染検知方法またはサツマイモ基腐病の感染検知装置によれば、サツマイモの品種にかかわらず、サツマイモ基腐病の感染を非破壊的に検知出来ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のサツマイモ基腐病の感染検知方法またはサツマイモ基腐病の感染検知装置によれば、圃場での栽培時または収穫時や、出荷前のサツマイモを対象として、4-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-2-ペンタノン、4-メチル-3-ペンテン-2-オン、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンテン-2-オール、テルピネン-4-オールを監視することにより、サツマイモ基腐病の感染を非破壊的に検知することが出来る。
また、サツマイモ基腐病に感染した収穫後のサツマイモはもとより、栽培中のサツマイモのサツマイモ基腐病感染を早期に検知することが出来るので、被害が小さいうちに防除対策を実施することができ有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8