(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065119
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】圧電振動子および圧電振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/05 20060101AFI20240508BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20240508BHJP
H03H 9/10 20060101ALI20240508BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20240508BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20240508BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H03H9/05
H03H3/02 B
H03H9/10
H03H9/19 D
C09J183/07
C09J9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008166
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】乙村 治英
(72)【発明者】
【氏名】山口 章久
(72)【発明者】
【氏名】大代 宗幸
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 政浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正安
(72)【発明者】
【氏名】渕瀬 啓太
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 不二夫
【テーマコード(参考)】
4J040
5J108
【Fターム(参考)】
4J040EK041
4J040EK081
4J040HA066
4J040HB08
4J040JA02
4J040JA13
4J040KA14
4J040KA23
4J040KA32
4J040LA09
4J040MA01
4J040NA19
4J040PA10
5J108BB02
5J108CC04
5J108CC08
5J108DD02
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE18
5J108FF11
5J108FF14
5J108GG16
5J108KK03
5J108MM04
(57)【要約】
【課題】導電性保持部材の弾性率の低減と導電性の向上とを両立させることができる圧電振動子および圧電振動子の製造方法を提供する。
【解決手段】励振電極と励振電極に電気的に接続された接続電極とを有する圧電振動素子と、電極パッドを有するベース部材と、接続電極と電極パッドとを接続する導電性保持部材と、を備え、導電性保持部材は、導電性接着剤の硬化物であり、導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含み、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分を含み、当該成分の含有量が1モル%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振電極と前記励振電極に電気的に接続された接続電極とを有する圧電振動素子と、
電極パッドを有するベース部材と、
前記接続電極と前記電極パッドとを接続する導電性保持部材と、
を備え、
前記導電性保持部材は、導電性接着剤の硬化物であり、
前記導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含み、
前記両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分を含み、当該成分の含有量が1モル%以下である、
圧電振動子。
【請求項2】
前記両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が6200以上である、
請求項1に記載の圧電振動子。
【請求項3】
前記両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が12700以下である、
請求項2に記載の圧電振動子。
【請求項4】
前記電極パッドは、Auを主成分とする電極である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電振動子。
【請求項5】
前記圧電振動素子は、水晶振動素子である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電振動子。
【請求項6】
両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む導電性接着剤を圧電振動素子の接続電極とベース部材の電極パッドとの間に設ける工程と、
前記導電性接着剤を硬化させた導電性保持部材により、前記接続電極と前記電極パッドとを接合する工程と、
を含み、
前記両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分の含有量が1モル%以下である、
圧電振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子および圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発振装置や帯域フィルタなどに用いられる基準信号の信号源に、圧電振動子が広く用いられている。圧電振動子は、例えば、ベースとなるパッケージに対して導電性保持部材を介して振動片を接合する。導電性保持部材は、例えば、導電性接着剤の硬化物である。
【0003】
特許文献1には、(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部と、(B)SiH基を3個有し、アルケニル基を有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C)触媒量の白金族金属系触媒とを含み、(B)成分中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子の数が、(A)成分中に含まれるケイ素原子に結合したアルケニル基1個当たり、0.3~5.0個となる量である、エアバッグ用シリコーン弾性接着剤組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、(A)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子1つに少なくとも1つ水素原子を有するオルガノポリシロキサンと、(C)触媒量の白金系ヒドロシリル化触媒と、(D)導電性が発現するのに充分な量の導電性粉体とを含む、導電性接着剤組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、(A)ケイ素原子に結合したアルケニル基が分子中に2個以上のオルガノポリシロキサンと、(B)ケイ素原子に結合した水素原子が分子中に2個以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C)ヒドロシリル化反応用触媒とを含み、重量平均分子量は150~10,000の範囲内、好ましくは、200~5,000の範囲内であり、(A)成分の重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnは2.0以下、好ましくは重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnは1.8以下である、接着促進剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-112722号公報
【特許文献2】特開2004-119254号公報
【特許文献3】特開2017-88644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の技術においては、導電性保持部材の弾性率の低減と導電性の向上とを両立することが望まれていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、導電性保持部材の弾性率の低減と導電性の向上とを両立させることができる圧電振動子および圧電振動子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る圧電振動子は、励振電極と前記励振電極に電気的に接続された接続電極とを有する圧電振動素子と、電極パッドを有するベース部材と、接続電極と電極パッドとを接続する導電性保持部材と、を備え、導電性保持部材は、導電性接着剤の硬化物であり、導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含み、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分を含み、当該成分の含有量が1モル%以下である。
【0010】
本発明の一側面に係る圧電振動子の製造方法は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む導電性接着剤を圧電振動素子の接続電極とベース部材の電極パッドとの間に設ける工程と、前記導電性接着剤を硬化させた導電性保持部材により、前記接続電極と前記電極パッドとを接合する工程と、を含み、前記両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分の含有量が1モル%以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性保持部材の弾性率の低減と導電性の向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る水晶振動子の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【
図2】実施形態に係る水晶振動子の構成を概略的に示す断面図である。
【
図3】導電性接着剤の抵抗値の測定に用いる評価用基板の構造を概略的に示す平面図である。
【
図4】導電性接着剤の抵抗値の測定に用いる評価用基板の構造を概略的に示す断面図である。
【
図5】実施例1の導電性接着剤の抵抗値を示すグラフである。
【
図6】実施例1の導電性接着剤の弾性率を示すグラフである。
【
図7】実施例2の導電性接着剤の抵抗値を示すグラフである。
【
図8】実施例2の導電性接着剤の弾性率を示すグラフである。
【
図9】実施例3の導電性接着剤の弾性率を示すグラフである。
【
図10】実施例3の導電性接着剤のヒステリシス特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る圧電振動子の一例である水晶振動子の構成について説明する。なお、各図において、X軸、Y´軸及びZ´軸は、それぞれ、後述の水晶片11の結晶軸(Crystallographic Axes)に対応している。X軸が電気軸(極性軸)、Y軸が機械軸、Z軸が光学軸に対応している。Y´軸及びZ´軸は、それぞれ、Y軸及びZ軸をX軸の周りにY軸からZ軸の方向に所定角度だけ回転させた軸である。
【0014】
図1及び
図2に示すように、水晶振動子1は、圧電振動素子の一例としての水晶振動素子10と、ベース部材30と、蓋部材40と、接合部材50と、を備えている。
【0015】
水晶振動素子10は、電気エネルギーを機械エネルギーに変換し、圧電効果により水晶を振動させる素子である。水晶振動素子10は、薄片状の水晶片11と、第1励振電極14aと、第2励振電極14bと、第1引出電極15aと、第2引出電極15bと、第1接続電極16aと、第2接続電極16bとを備えている。
【0016】
水晶片11は、例えば、ATカット型の水晶片である。ATカット型の水晶片11は、互いに交差するX軸、Y´軸、及びZ´軸からなる直交座標系において、X軸及びZ´軸によって特定される面と平行な面(以下、「XZ´面」と呼ぶ。他の軸によって特定される面についても同様である。)が主面となり、Y´軸と平行な方向が厚さとなるように形成される。例えば、ATカット型の水晶片11は、人工水晶(Synthetic Quartz Crystal)の結晶体を切断及び研磨加工して得られる水晶基板(例えば、水晶ウェハ)をエッチング加工することで形成される。
【0017】
水晶振動素子10は、ATカット型の水晶片11を用いた場合、広い温度範囲で高い周波数安定性を有する。ATカット型の水晶振動素子10は、厚みすべり振動モード(Thickness Shear Vibration Mode)を主要振動として用いる。水晶片11のカット角は、例えばBTカット、GTカット、SCカットなどを適用してよい。また、水晶振動素子は、Z板と呼ばれるカット角の水晶片を用いた音叉型水晶振動素子であってもよい。
【0018】
水晶片11は、例えば、矩形板状をなしており、励振部17と、励振部17に隣接する周辺部18,19とを有している。水晶片11は、いわゆる平板型構造であってもよいが、
図1に示すように、いわゆるメサ型構造であってもよい。メサ型構造を有する水晶片11は、第1主面11A及び第2主面11Bの両側において、励振部17が周辺部18,19から突出している。なお、以下の説明においては、第1主面11Aは、水晶片11のY´軸を上から見た、励振部17および周辺部18,19のそれぞれの主たる面を含み、第2主面11Bは、水晶片11のY´軸を下から見た、励振部17および周辺部18,19のそれぞれの主たる面を含むものとする。
【0019】
第1励振電極14a及び第2励振電極14bは、励振部17に設けられている。第1励振電極14aは水晶片11の第1主面11Aに設けられ、第2励振電極14bは水晶片11の第2主面11Bに設けられている。水晶片11の第1主面11Aを平面視したとき、第1励振電極14a及び第2励振電極14bは、それぞれ矩形状をなしており、互いの略全体が重なり合っている。
【0020】
第1引出電極15a及び第2引出電極15bは、周辺部18に設けられている。第1引出電極15aは水晶片11の第1主面11Aに設けられ、第2引出電極15bは水晶片11の第2主面11Bに設けられている。第1引出電極15aは、第1励振電極14aと第1接続電極16aとを電気的に接続している。第2引出電極15bは、第2励振電極14bと第2接続電極16bとを電気的に接続している。例えば、第1引出電極15aの一端が第1励振電極14aに接続され、第1引出電極15aの他端が水晶片11の第1主面11Aと第2主面11Bとを繋ぐ側面に設けられた側面電極を介して第1接続電極16aに接続されている。また、第2引出電極15bの一端が第2励振電極14bに接続され、第2引出電極15bの他端が水晶片11の第1主面11Aと第2主面11Bとを繋ぐ側面に設けられた側面電極を介して第2接続電極16bに接続されている。
【0021】
第1接続電極16a及び第2接続電極16bは、周辺部18に設けられている。第1接続電極16aは水晶片11の第1主面11Aに設けられ、第2接続電極16bは水晶片11の第2主面11Bに設けられている。第1接続電極16aは、第1励振電極14aをベース部材30に電気的に接続するための電極であり、第2接続電極16bは、第2励振電極14bをベース部材30に電気的に接続するための電極である。第1接続電極16a及び第2接続電極16bは、金(Au)を主成分とする電極である。第1接続電極16a及び第2接続電極16bの表面は、例えば、金(Au)を主成分とする金属層により構成されている。
【0022】
ベース部材30は、例えば、絶縁性セラミック(アルミナ)などの焼結材からなり、水晶振動素子10を励振可能に保持する。ベース部材30の上面31Aには、水晶振動素子10が搭載され、ベース部材30の下面31Bには、図示しない外部の回路基板が接合される。
【0023】
ベース部材30は、第1電極パッド33a及び第2電極パッド33bを備えている。第1電極パッド33a及び第2電極パッド33bは、基体31の上面31Aに設けられている。第1電極パッド33a及び第2電極パッド33bは、ベース部材30に水晶振動素子10を電気的に接続するための端子である。第1電極パッド33a及び第2電極パッド33bは、Au(金)を主成分とする電極である。第1電極パッド33a及び第2電極パッド33bのそれぞれの表面は、例えば、金(Au)を主成分とする金属層により構成されている。第1電極パッド33aの表面は第1導電性保持部材36aに接触し、第2電極パッド33bの表面は第2導電性保持部材36bに接触している。
【0024】
ベース部材30は、第1外部電極35a、第2外部電極35b、第3外部電極35c及び第4外部電極35dを備えている。第1外部電極35a~第4外部電極35dは、基体31の下面31Bに設けられている。第1外部電極35a及び第2外部電極35bは、図示しない外部の基板と水晶振動子1とを電気的に接続するための端子である。第1電極パッド33aは、基体31をY´軸方向に沿って貫通する第1貫通電極34aを介して、第1外部電極35aに電気的に接続されている。第2電極パッド33bは、基体31をY´軸方向に沿って貫通する第2貫通電極34bを介して、第2外部電極35bに電気的に接続されている。第3外部電極35c及び第4外部電極35dは、電気信号等が入出力されないダミー電極であるが、蓋部材40を接地させて蓋部材20の電磁シールド機能を向上させる接地電極であってもよい。なお、第3外部電極35c及び第4外部電極35dは、省略されてもよい。
【0025】
ベース部材30は、第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bを備えている。第1導電性保持部材36aは、第1電極パッド33aおよび第1接続電極16aに接合され、第1電極パッド33aと第1接続電極16aとを電気的に接続している。第2導電性保持部材36bは、第2電極パッド33bおよび第2接続電極16bに接合され、第2電極パッド33bと第2接続電極16bとを電気的に接続している。第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bは、励振部17が励振可能となるように、ベース部材30から間隔を空けて水晶振動素子10を保持している。
【0026】
第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bは、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂等を含む導電性接着剤の硬化物であり、第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bの主成分はシリコーン樹脂である。第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bは導電性粒子を含む。導電性粒子は、例えば銀(Ag)を含む金属粒子である。シリコーン樹脂の弾性率は、広い温度範囲でエポキシ樹脂よりも安定している。第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bの主成分をシリコーン樹脂とすることで、エポキシ樹脂を主成分とする場合に比べて、水晶振動素子10の周波数温度特性が改善される。
【0027】
導電性接着剤は、シリコーン導電性接着剤であり、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む。具体的には、導電性接着剤は、例えば、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、銀粉と、石油溶剤と、エポキシ化合物と、白金触媒とを含む。両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分を含み、当該成分の含有量が1モル%以下である。両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、好ましくは、数平均分子量が6200以上である。両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、好ましくは、数平均分子量が12700以下である。
【0028】
両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの合成手順が異なる場合、得られる両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの分子量分布も異なる。そこで、本発明者は、以下に示す合成手順により、分子量分布が狭く、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が1モル%以下に抑えられた両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンが得られることを見出した。なお、以下に示す低分子量の含有量を抑制する手法は例示であり、本発明に係る導電性接着剤は以下の合成手順に限定されるものではない。
【0029】
すなわち、まず、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3,33.4g,150 mmol)の塩化メチレン(84 mL)溶液に、水/テトラヒドロフラン(THF)混合溶液(1/99(v/v),92.9 μL,5.16 mmol)を加えた。次いで、1,3-トリメチレン-2-プロピルグアニジン(TMnPG)のTHF溶液(1.06 mL,100 mg mL-1,753 μmol)を加えてヘキサメチルシクロトリシロキサンの重合を開始させた。6時間50分後、反応溶液に脱水ピリジン(2.49 mL,30.9 mmol)およびクロロジメチル(ビニル)シラン(2.78 mL,20.6 mmol)を順に加えて重合を停止させた。粗生成物を濃縮した後、得られた液体から不要分をアセトニトリル(100 mL)で5回抽出除去した。アセトニトリル相を除去した後,減圧濃縮することで、無色油状液体として目的の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサン(数平均分子量 6200)を28.5g得た。また、同様の合成手順において、ヘキサメチルシクロトリシロキサンと水のモル比を変更することで、数平均分子量が3600および12700の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを得た。
【0030】
第1導電性保持部材36a及び第2導電性保持部材36bを設ける工程は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む導電性接着剤を水晶振動素子10の接続電極16a,16bとベース部材30の電極パッド33a,33bとの間に設ける工程と、導電性接着剤を硬化させた導電性保持部材により、水晶振動素子10の接続電極16a,16bと電極パッド33a,33bとを接合する工程とを含む。両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分の含有量が1モル%以下である。導電性接着剤を水晶振動素子10の接続電極16a,16bとベース部材30の電極パッド33a,33bとの間に設ける工程は、例えば、粘度が調整されてペースト状となった導電性接着剤を電極パッド33a,33bの上に塗布する塗布工程と、導電性接着剤の上に水晶振動素子10を載置して接続電極16a,16bの表面に濡れ広がった導電性接着剤によって水晶振動素子10を支持させる載置工程と、導電性接着剤を硬化させる硬化工程とを含む。
【0031】
(実施例1)
実施例1の導電性接着剤は、(A)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子1つに少なくとも1つの水素原子を有するオルガノポリシロキサンとを含み、(A)と(B)の合計量に対して両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを30重量部添加した。また、実施例1の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの第1サンプルは、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が18モル%以下である。実施例1の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの第2サンプルは、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が18モル%以下である。分子量が2500以下の低分子量の成分の含有量とは、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの全体の分子量に対する、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の個数比である。導電性接着剤の構成成分の重量比は、導電性粒子65%、ポリメチルシルセスキオキサン16%、シリコーン樹脂13%、溶剤4%、エポキシ樹脂2%である。シリコーン樹脂は、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分を含み、当該成分の含有量が22モル%以下である。比較例の導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まないこと以外は実施例1の導電性接着剤と共通である。
【0032】
次に、導電性接着剤の硬化物の抵抗値の評価方法について説明する。
図3に示すように、評価用基板B10には、第1電極対E10と、第2電極対E20と、第3電極対E30と、第4電極対E40と、第5電極対E50とが、この順に並べて設けられている。第1電極対E10~第5電極対E50は、絶縁基板の上に設けられている。第1電極対E10は、一対の測定電極E11,E12と、測定電極E11と測定電極E12とを接続するブリッジ電極E13とを有している。第2電極対E20は、一対の測定電極E21,E22と、測定電極E21と測定電極E22とを接続するブリッジ電極E23を有している。また、第3電極対E30は、一対の測定電極E31,E32と、測定電極E31と測定電極E32とを接続するブリッジ電極E33を有している。また、第4電極対E40は、一対の測定電極E41,E42と、測定電極E41と測定電極E42とを接続するブリッジ電極E43を有している。また、第5電極対E50は、一対の測定電極E51,E52と、測定電極E51と測定電極E52とを接続するブリッジ電極E53を有している。ブリッジ電極E13~E53のそれぞれの中央部E1,E2,E3,E4,E5は、導電性接着剤の硬化物E9によって覆われている。第1電極対E10~第5電極対E50は、導電性接着剤の硬化物E9によって電気的に接続されている。
【0033】
絶縁基板は、例えば、アルミナ基板である。第1電極対E10~第5電極対E50は、ニッケルからなる下地層と、金(Au)からなる表面層とを有する積層構造の金属電極である。第1電極対E10~第5電極対E50の表面は、金(Au)を主成分とする金属層により構成されている。
【0034】
図4に示すように、中央部E1と中央部E2との間の抵抗値1-2、中央部E1と中央部E3との間の抵抗値1-3、中央部E1と中央部E4との間の抵抗値1-4、及び、中央部E1と中央部E5との間の抵抗値1-5のそれぞれの変化を測定することで、導電性接着剤の硬化物E9の抵抗値を評価した。抵抗値1-2は、中央部E1と導電性接着剤の硬化物E9との接触抵抗、中央部E1と中央部E2との間における導電性接着剤の硬化物E9の抵抗、及び、導電性接着剤の硬化物E9と中央部E2との接触抵抗によって定まる。抵抗値1-3、抵抗値1-4、及び抵抗値1-5も同様に、それぞれ、導電性接着剤の硬化物E9自体の抵抗と、導電性接着剤の硬化物E9と電極対の中央部との接触抵抗によって定まる。
【0035】
抵抗値1-2の測定では、中央部E1,E2と導電性接着剤の硬化物E9以外の影響を相殺するため、次のように測定した。すなわち、測定電極E11と測定電極E21との間の抵抗値、測定電極E11と測定電極E22との間の抵抗値、測定電極E12と測定電極E22との間の抵抗値、及び、測定電極E12と測定電極E21との間の抵抗値を測定し、足し合わせた計算結果をAとした。また、測定電極E11と測定電極E12との間の抵抗値、及び、測定電極E21と測定電極E22との間の抵抗値を測定し、足し合わせて2倍した計算結果をBとした。そして、AからBを差し引き、4で割ることで抵抗値1-2を算出した。抵抗値1-3、抵抗値1-4、及び抵抗値1-5も同様に算出した。
【0036】
(評価結果)
図5に示す例では、上述した実施例1における第1サンプル、第2サンプル、および、比較例の導電性接着剤の各々について、抵抗値の測定を行った。同図に示すように、実施例1の評価結果によれば、導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む場合には、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まない場合に比して、抵抗値が大きい。また、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が相対的に少ない第2サンプルは、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が相対的に多い第1サンプルに比して、抵抗値が小さい。すなわち、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量を少なくすることで、導電性接着剤の抵抗値が低減される。
【0037】
図6に示す例では、上述した実施例1における第1サンプル、第2サンプル、比較例の導電性接着剤の各々について、弾性率の測定を行った。弾性率の測定は、例えば、導電性接着剤を硬化させて、5cm×1cm×0.3cmのサンプルを作製し、-40℃~80℃の温度範囲でサンプルの弾性率を測定した。同図に示すように、実施例1の評価結果によれば、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む場合には、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まない場合に比して、弾性率が小さい。また、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が相対的に少ない第2サンプルは、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が相対的に多い第1サンプルに比して、弾性率が小さい。すなわち、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量を少なくすることで、導電性接着剤の弾性率が低減される。
【0038】
したがって、
図5及び
図6を比較して示すように、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分の含有量が少ない場合には、導電性接着剤の弾性率の低減と導電性の向上とを両立させることができる。
【0039】
(実施例2)
実施例2の導電性接着剤は、(A)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子1つに少なくとも1つの水素原子を有するオルガノポリシロキサンとを含み、(A)と(B)の合計量に対して両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを60重量部添加した。実施例2の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの第1サンプルは、数平均分子量が3600の分布において、分子量が644以上であり2500以下である含有量が31モル%以下である。実施例2の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの第2サンプルは、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である含有量が1モル%以下である。実施例2の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの第3サンプルは、数平均分子量が12700の分布において、分子量が644以上であり2500以下である含有量が0モル%以下である。導電性接着剤の構成成分の重量比は、導電性粒子65%、ポリメチルシルセスキオキサン16%、シリコーン樹脂13%、溶剤4%、エポキシ樹脂2%である。シリコーン樹脂は、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分を含み、当該成分の含有量が22モル%以下である。比較例の導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まないこと以外は実施例2の導電性接着剤と共通である。
【0040】
(評価結果)
図7に示す例では、上述した実施例2における第1サンプル、第2サンプル、第3サンプル、および、比較例の導電性接着剤の各々について、抵抗値の測定を行った。同図に示すように、実施例2の評価結果によれば、導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む場合には、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まない場合に比して、抵抗値が大きい。また、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が6200である第2サンプル、および、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が12700である第3サンプルは、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が3600である第1サンプルに比して、抵抗値が小さい。すなわち、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量は、好ましくは、6200以上であり、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量を大きくすることで、導電性接着剤の抵抗値が低減される。
【0041】
図8に示す例では、上述した実施例2における第1サンプル、第2サンプル、第3サンプル、および、比較例の導電性接着剤の各々について、弾性率の測定を行った。同図に示すように、実施例2の評価結果によれば、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む場合には、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まない場合に比して、弾性率が小さい。また、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が3600である第1サンプル、および、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が6200である第2サンプルは、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が12700である第3サンプルに比して、弾性率が小さい。すなわち、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量は、好ましくは、6200以下であり、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量を小さくすることで、導電性接着剤の弾性率が低減する。
【0042】
したがって、
図7及び
図8を比較して示すように、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が6200以上である場合には、導電性接着剤の弾性率の低減と導電性の向上とを両立させることができる。
【0043】
(実施例3)
実施例3の導電性接着剤は、(A)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子を含有し、ケイ素原子1つに少なくとも1つの水素原子を有するオルガノポリシロキサンと、を含み、(A)と(B)の合計量に対して両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを30重量部添加した。実施例3の両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、数平均分子量が6200の分布において、分子量が644以上であり2500以下である含有量が1モル%以下である。導電性接着剤の構成成分の重量比は、導電性粒子65%、ポリメチルシルセスキオキサン16%、シリコーン樹脂13%、溶剤4%、エポキシ樹脂2%である。シリコーン樹脂は、分子量が644以上であり2500以下である低分子量の成分を含み、当該成分の分子量が22モル%以下である。比較例の導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まないこと以外は実施例2の導電性接着剤と共通である。
【0044】
(評価結果)
図9に示す例では、上述した実施例3の導電性接着剤、および、比較例の導電性接着剤の各々について、弾性率の測定を行った。同図に示す評価結果によれば、導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む場合には、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含まない場合に比して、弾性率が小さい。すなわち、両末端ポリジメチルシロキサンを添加することで、導電性接着剤の抵抗値が低減される。
【0045】
図10に示す例では、上述した実施例3の導電性接着剤、および、比較例の導電性接着剤の各々について、ヒステリシス特性の測定を行った。ヒステリシス特性の測定は、例えば、水晶振動子1における-40℃~85℃の温度範囲での周波数出力を測定した。
図11に示す評価結果によれば、比較例の導電性接着剤を使用した場合に比して、実施例3の導電性接着剤を使用した場合には、水晶振動子1の周波数温度特性のヒステリシス特性の平均値が約40%改善した。すなわち、導電性接着剤の弾性率が低下することで、温度変化に伴うベース部材30の変形に対する水晶振動素子10への応力が緩和された。
【0046】
以下に、本発明の実施形態の一部又は全部を付記し、その効果について説明する。なお、本発明は以下の付記に限定されるものではない。
【0047】
本発明の一態様によれば、励振電極と励振電極に電気的に接続された接続電極とを有する圧電振動素子と、電極パッドを有するベース部材と、接続電極と電極パッドとを接続する導電性保持部材と、を備え、導電性保持部材は、導電性接着剤の硬化物であり、導電性接着剤は、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含み、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分を含み、当該成分の含有量が1モル%以下である、圧電振動子が提供される。
【0048】
本発明の一態様によれば、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が6200以上である、圧電振動子が提供される。
【0049】
本発明の一態様によれば、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンの数平均分子量が12700以下である、圧電振動子が提供される。
【0050】
本発明の一態様によれば、電極パッドは、Auを主成分とする電極である、圧電振動子が提供される。
【0051】
本発明の一態様によれば、圧電振動素子は、水晶振動素子である、圧電振動子が提供される。
【0052】
本発明の一態様によれば、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンを含む導電性接着剤を圧電振動素子の接続電極とベース部材の電極パッドとの間に設ける工程と、導電性接着剤を硬化させた導電性保持部材により、接続電極と電極パッドとを接合する工程と、を含み、両末端ビニル化ポリジメチルシロキサンは、分子量が644以上であり2500以下である成分の含有量が1モル%以下である、圧電振動子の製造方法が提供される。
【0053】
以上説明したように、本発明の一態様によれば、導電性保持部材の弾性率の低減と導電性の向上とを両立させることができる。
【0054】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1…水晶振動子
10…水晶振動素子
11…水晶片
14a…第1励振電極
14b…第2励振電極
15a…第1引出電極
15b…第2引出電極
16a…第1接続電極
16b…第2接続電極
30…ベース部材
33a…第1電極パッド
33b…第2電極パッド
36a…第1導電性保持部材
36b…第2導電性保持部材
40…蓋部材
50…接合部材。