IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 台湾国立成功大学の特許一覧 ▶ 学校法人日本医科大学の特許一覧

特開2024-65126生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法
<>
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図1
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図2
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図3
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図4
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図5
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図6
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図7
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図8
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図9
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図10
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図11
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図12
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図13
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図14
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図15
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図16
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図17
  • 特開-生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065126
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20240508BHJP
   A61B 5/083 20060101ALI20240508BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240508BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20240508BHJP
   G01N 15/06 20240101ALI20240508BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61B5/00 C
A61B5/083
A61B5/11 200
A61B5/16 130
G01N15/06 D
B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021039791
(22)【出願日】2021-03-12
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】510116358
【氏名又は名称】台湾国立成功大学
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL CHENG KUNG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.1,University Road,Tainan City, TIWAN
(71)【出願人】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 晃
(72)【発明者】
【氏名】梁勝富
(72)【発明者】
【氏名】安武 正弘
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
4D006
【Fターム(参考)】
4C038PP05
4C038PS00
4C038PS03
4C038PS07
4C038SS00
4C038SU18
4C038SU19
4C038SX05
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB31
4C038VC20
4C117XA05
4C117XB01
4C117XB06
4C117XB17
4C117XC01
4C117XE24
4C117XE26
4C117XE54
4C117XF03
4C117XG33
4C117XJ13
4C117XJ21
4C117XJ27
4C117XR01
4D006GA41
4D006GA44
4D006HA41
4D006PA01
4D006PB62
4D006PB64
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】光子等のボソンや人間等から放出される分子等のフェルミオンを媒介としたインターフェースを用いることでマルチ階層相関解析により人間等の健康状態をホリスティックに分析できる生物体の健康状態分析システムを提供する。
【解決手段】このシステムは、孤立閉鎖系を構成し、かつ外界/内部界面にガス交換膜を有する部屋等11とFFU15と部屋等の内部に生物体が入ったときの、内部のO2 濃度およびCO2 濃度と生物体からの放出分子種とダスト微粒子数密度とを含む環境情報および生物体の体動を含む生体情報を非接触かつ非侵襲等で測定する測定装置14とを有し、部屋等の内部を清浄化した状態で生物体から放出される分子種の測定結果に基づく体外放出ガス相関解析と、O2 濃度およびCO2 濃度の測定結果に基づく代謝相関解析と、ダスト微粒子数密度の時間変化等に基づく睡眠品質相関解析とを行うことにより生物体の健康状態を分析する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部にダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間と、
上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体をダスト微粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置され、上記部屋または閉空間の内部に生物体が入ったときの、少なくとも上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と上記生物体から放出される分子種と上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度とを含む環境情報および少なくとも上記生物体の体動を含む生体情報を上記生物体に対して非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲で測定する一つまたは複数の測定装置とを有し、
上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態において上記生物体から放出される分子種の測定結果に基づく体外放出ガス相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定結果に基づく代謝相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度の時間変化に基づく、または、上記生物体に装着された加速度計による上記生物体の体動の測定結果に基づく睡眠品質相関解析とを行うことにより上記生物体の健康状態を分析する生物体の健康状態分析システム。
【請求項2】
上記部屋または閉空間の内部の上記生物体に健康回復および/または健康増進に有用な成分を経口または経肺で供給する供給装置をさらに有する請求項1記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項3】
上記供給装置により上記成分を上記生物体に供給したときに上記生物体から放出される分子種を測定することにより体外放出ガス相関解析を行う請求項2記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項4】
上記供給装置はミスト発生器である請求項2記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項5】
上記成分は消毒薬および経口または経肺薬効成分のうちの少なくとも一つを含む請求項2記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項6】
少なくとも二つの気体吸入口と少なくとも二つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、
上記少なくとも二つの気体吸入口の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の一つと連通するとともに、上記少なくとも二つの気体吸入口の他の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の他の一つと連通し、
上記二つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、上記膜を以てお互いから隔てられるように構成され、
上記部屋または閉空間の外界から導入される空気が上記気体吸入口の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から外界へと送出される一方、上記部屋または閉空間の内気が上記気体吸入口の他の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記部屋または閉空間へ還流され、
上記部屋または閉空間の体積をV、上記膜中の酸素の拡散定数をD、上記膜の厚みをLとした時、上記体積Vと上記膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、
上記部屋または閉空間の内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記部屋または閉空間の内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記部屋または閉空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
【数0】
を満たすように設定されているガス交換ユニットが上記部屋または閉空間に設置されている請求項1記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項7】
上記部屋または閉空間は壁の少なくとも一部が上記膜により構成されたテントにより構成されている請求項1記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項8】
上記部屋または閉空間の内部をUS209D クラス100以上の清浄度に維持する請求項1記載の生物体の健康状態分析システム。
【請求項9】
外界と内部との間で流体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部にダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間の内部に生物体が入った状態で、上記生物体に対して非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲で上記生物体の、少なくとも上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と上記生物体から放出される分子種と上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度とを含む環境情報および少なくとも上記生物体の体動を含む生体情報を測定し、上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体をダスト微粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態において上記生物体から放出される分子種の測定結果に基づく体外放出ガス相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定結果に基づく代謝相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度の時間変化に基づく、または、上記生物体に装着された加速度計による上記生物体の体動の測定結果に基づく睡眠品質相関解析とを行うことにより上記生物体の健康状態を分析する生物体の健康状態分析方法。
【請求項10】
上記部屋または閉空間の内部の上記生物体に健康回復および/または健康増進に有用な成分を経口または経肺で供給し、当該成分を上記生物体に供給したときに上記生物体から放出される分子種を測定することにより体外放出ガス相関解析を行う請求項9記載の生物体の健康状態分析方法。
【請求項11】
上記清浄化装置に加えて、上記生物体に装着される、上記部屋または閉空間の内部の気体を清浄化部を通して吸引することにより当該吸引気体をダスト微粒子数密度に関して清浄化処理するとともに、当該清浄化部を通過する気流の向きを交互に変化させながら上記部屋または閉空間の内部に戻す別の清浄化装置を用いる請求項9記載の生物体の健康状態分析方法。
【請求項12】
上記別の清浄化装置は上記生物体の口および鼻を覆うように装着されるマスクである請求項11記載の生物体の健康状態分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法に関し、例えば、病院、高齢者養護施設、一般家庭等における人間(ヒト)、動物病院等における犬等の健康状態を分析するのに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
現代文明の進歩に伴い、人間活動に対して地球の有限性が無視し得なくなり、社会の「持続性」が大きな課題となっている。そうした背景にあって、人間の活動を、生産活動等の「動脈」部分から、その結果生じる副産物を処理する「静脈」部分まで、包括的に一体として対処できる環境産業基盤造りが重要である。
【0003】
この「動脈」、「静脈」という考え方は、本来は、心臓から出て行った酸素分に富む血液が、太い動脈から、分岐により徐々に径の小さい血管を流れ、体の末端で毛細血管部(当該ループでは最も心臓から遠い地点)を経て、今度は逆に、徐々に太い血管へと合流して最後に心臓に戻ることを反映して居るが、これは、人間の一生のサイクルを対象に取ると、誕生を起点とし壮年期へ至るまでが、人生の動脈期であり、そこから徐々に死へと至る残り半分のサイクルを静脈と捉えることもできる。この人生に於ける静脈期を如何に、その時点々々のベストの健康状態に置いて、乗り切るかが重要になる。
【0004】
現代社会は、電子計算機(Computer)並びに情報通信技術(Information and Communication Technology :ICT)の進化・発展により、人間の活動、社会生活に限りない恩恵を与えている。特に、近年深層学習(Deep Learning:DL)や人工知能(Artificial Intelligence :AI)の進展が著しく、Singularity Issue も議論の俎上に上がっている(非特許文献1)。
【0005】
特に、人間の、かつその意識的な決定によるところの所謂トップダウンのシステム/プロセッシング/データセット [人間を↑、意識状態を↑と表記してこれを(↑, ↑) と略記する] と、それと対極をなす非人間系(無機物および非生命体)による非意識的決定である所謂ボトムアップのシステム/プロセッシング [非人間系を↓、非意識状態を↓と表記してこれを(↓, ↓) と略記する] とを接続・統合することの意義と重要性が認識されたが、上記の表記法における矢印が反転していることからも見て取れるように、有効な結合が難しい状況(水と油のように互いに交じり合わない情報が並置されるだけ)であった。そこで、丁度、水と油の間を取り持つ”石鹸(親水性の部分と疎水性の部分とを併せ持つ)”の役割を果たすものとして、人間の非意識的(無意識的)な反応に対応する情報 [これは上記の表記法を用いると(↑, ↓) と略記できる] を加えた新しいデータセット、即ち(↑, ↑) (↑, ↓) (↓, ↓) なる属性を持つシステム/プロセッシング/データセットを活用することが提案された(特許文献1、2)。しかし、現時点では、残念ながら当該(↑, ↑)システムに関する情報が十分汲み取られているとは言い難い状況にある。
【0006】
従来のマンマシンインターフェイス(Man Machine Interface :MMI)は、すべからくパーソナルコンピュータ(PC)やスマートフォン(Smart Phone)端末の画面を人間が視覚を以って、認知し、時には音響・音声情報も加えて行うものであった。光や音響を担うものは、各々光子(photon)やフォノン(phonon)であり、いずれもボース粒子(ボソン(boson))である。即ち、従来のMMIは、ボース粒子を介してのものであったと大きく括ることができ、利用できる自由度の一部しか活用していなかった。
【0007】
同時にまた、情報化社会の中で、コンピュータ/AIの進展に伴うSingularity の発現もあり、生体としての人間は、ともすると矮小化されつつある存在となってしまいつつある。コンピュータテクノロジーの進展が必ずしも人類(Human beings)の全人的な発達・進化には必ずしも寄与しているとは言い難い状況である。
【0008】
更にまた、上述の人生に於ける静脈期を如何に、その時点々々のベストの健康状態に置いて、乗り切るための有効な方策を人類はまだ得ていない。
【0009】
老化の過程に於いて、如何にして、病院に掛かることなく(病気の状態に陥ることを極力回避して)、生活の質(Quality of Life:QOL)を保つ有効な手立てを持つに至っていない。従来例では、終末期に家庭で過ごす選択をする場合以外は、基本的には自宅・家庭は、健康な状態でいるとき(状態“0”と定義)に過ごす場所であり、医療施設や病院等は、まさに病気になった時(状態“1”と定義)にいる場所であった。0か1かの二値性(バイナリー)な単純な区分であった。
【0010】
病院が最も効率的なのは、寿命を左右する原因が一つに絞られ、この単一の原因を如何にして解決し抑えることで、健康状態に回復する場合であるが、人生の後半における健康状態は、かつては成人病と呼ばれ、昨今は生活習慣病と呼ばれる複合要因が絡まった上での結果としての健康状態(或いは、むしろ不健康状態)であり、その向上は一筋縄ではいかない状況である。このような状況においては、単一ではない、複数の階層やパラメーターによる複合的な解析が重要となる。即ち、上記のバイナリーな区分では、有効に扱えない、整数0と1の間の、或いは、白と黒の間の、グレーな(実数区分の)領域での判断(未病状態の扱い)が重要になる。これらを病院で扱えば、医療費も含め、医療システムが破たんしてしまい、これを家庭で扱えば、いたずらに健康状態の悪化を待つのみとなってしまう。
【0011】
このような中、本発明者らは、孤立・閉鎖性を特徴とするオリジナル技術であるクリーン ユニット システム プラットフォーム(Clean Unit System Platform: CUSP)に基づいて高性能クリーン環境システムを実現したが(特許文献3、4、5)、まだ、このシステムが持つ潜在的な能力を最大限引き出せていない。
【0012】
在来型システムでは、病院に掛かるほどでもないが全くの健康状態ともいえない、いわゆる未病状態から、その年齢に於けるベストの健康状態へ復するのを手助けする有効なシステムが実現できていない。また、光と音以外の媒介も加味した人間とコンピュータ等の利器との間のインターフェースが十分機能しているとは言い難い。
【0013】
一方、部屋又は閉空間の内部をこの部屋又は閉空間の外部より清浄に維持した状態で被験者が就寝する間にダストカウンターにより部屋又は閉空間の内部のダスト微粒子数の時間変化を測定することにより被験者の就寝状況を検知し、或いは睡眠時の体動情報を測定するシステムが提案されている(特許文献6)。また、各種状況下での人間等の生物体の代謝を測定することにより生物体の代謝能力、健康状態等を把握する代謝測定システムが提案されている(特許文献7)。この代謝測定システムは、外界と内部との間で流体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋または閉空間と、その内部に設置された、被験体に対して非接触かつ非侵襲でその被験体の、少なくとも部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度を含む環境および/または生体情報を測定する測定装置とを有し、被験体が部屋または閉空間の内部に入った状態で測定装置により環境および/または生体情報を測定することにより被験体の代謝を測定する。しかしながら、特許文献6、7で提案されたシステムでは、総合的な観点から生物体の健康状態を把握することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第10172547号公報
【特許文献2】国際公開第2015/064547号公報
【特許文献3】米国特許第10677483号公報
【特許文献4】国際公開第2014/084086号公報
【特許文献5】特許第6292563号公報
【特許文献6】特許第5877459号公報
【特許文献7】特開2019-76163号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】[令和2年8月9日検索]、インターネット〈URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/技術的特異点〉
【非特許文献2】林、北側、増森、J. Jpn. Air Cleaning Asoc. 57 (2019) pp.15-19, "エレクトレットフイルタのタバコ煙耐久性の向上"
【非特許文献3】田中、葛、原、J. Jpn. Air Cleaning Asoc. 57 (2019) pp.4-9, "静電噴霧ミストによるPM2.5(微小粒子) 及びウイルスの除去処理装置の開発"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、光子やフォノン等のボソンに加えて、人間等の生物体から放出される分子、即ちフェルミ粒子(フェルミオン(Fermion))を媒介としたインターフェースを用いることでマルチ階層相関解析(multi-hierarchical analysis) により人間等の生物体の健康状態をホリスティックに分析することができる生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法を提供することである。
【0017】
この発明が解決しようとする他の課題は、生物体に健康の回復および/または増進に有用な成分を経口または経肺で供給してその後の健康状態を分析することによりその成分の供給の効果を確認することができる生物体の健康状態分析システムおよび生物体の健康状態分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、この発明は、
外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部にダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間と、
上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体をダスト微粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置と、
上記部屋または閉空間の内部に設置され、上記部屋または閉空間の内部に生物体が入ったときの、少なくとも上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と上記生物体から放出される分子種と上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度とを含む環境情報および少なくとも上記生物体の体動を含む生体情報を上記生物体に対して非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲で測定する一つまたは複数の測定装置とを有し、
上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態において上記生物体から放出される分子種の測定結果に基づく体外放出ガス相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定結果に基づく代謝相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度の時間変化に基づく、または、上記生物体に装着された加速度計による上記生物体の体動の測定結果に基づく睡眠品質相関解析とを行うことにより上記生物体の健康状態を分析する生物体の健康状態分析システムである。
【0019】
この生物体の健康状態分析システムにおいて、「外界」とは、必ずしも戸外という意味ではなく、上記の部屋または閉空間の外の空間という意味であり、その形態は、上記の部屋または閉空間に隣接する部屋や廊下であっても良い。環境情報は、部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と生物体から放出される分子種と部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度とのほか、例えば、部屋または閉空間の内部の温度、湿度、風速(空気の流れの速さおよび向き)、気圧、臭い(臭いの元となる発汗成分や化学物質の種類および濃度)等であり、生体情報は、生物体の体動のほか、生物体の心拍、脈拍、呼吸、体温およびその分布等である。環境情報および生体情報は、典型的には、少なくとも分オーダーの時間分解能にて測定するが、これに限定されるものではない。環境情報および生体情報を定量測定する測定装置は、ほとんどは生物体に対して非接触かつ非侵襲で測定が可能であるが、例えば、腕時計型の測定装置やヘッドバンド型の測定装置では接触かつ非侵襲での測定となる。
【0020】
生物体には、ヒト(人間)だけでなく、人間以外の動物、例えば、犬、牛、馬、豚、猿等の各種の哺乳類が含まれる。
【0021】
この生物体の健康状態分析システムにおいては、上述のCUSPの孤立性・閉鎖性を活用して、非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲にて生物体の内部や体表面から出てくる分子を検出し、定量的に分析することにより、従来のボソンに基づくMMI機能をすべて温存したまま、これに加えて、上記の体外放出分子(即ち、フェルミオンであるところの原子と電子の集合体)の情報を加えた総合的MMIシステムを構成し、これによって今までにないデータセットの獲得やそのプロセッシングが可能となる。また、CUSPの孤立・閉鎖性を利用して、残留ダスト微粒子数の小さい高清浄環境を作り、その内部で発生する、生物体の活動(就寝やコンピュータ操作も含む)に伴うダスト微粒子数増加、当該閉空間内の気体分子濃度および当該生物体の体外に放出される分子種の定量的検出を行う。以上により、人間等の生物体の健康状態を分子レベル、代謝・エネルギーレベル、機能レベルの3層からなるマルチ階層相関解析を行うことでホリスティックに捉え、病態からの回帰、未病状態からの復帰、健康状態の更なる向上を可能とする。
【0022】
外界と内部との界面の少なくとも一部にある、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜(ガス交換膜)は、ガス交換ユニット(ガス交換装置)に設けられることもあるし、部屋または閉空間の壁の少なくとも一部に設けられることもある。ここで、ダスト微粒子には、部屋または閉空間の内部に浮遊する微生物(ウイルスや細菌等)等を含む微粒子全般が含まれる。ガス交換ユニットは、少なくとも二つの気体吸入口と少なくとも二つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、上記少なくとも二つの気体吸入口の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の一つと連通するとともに、上記少なくとも二つの気体吸入口の他の一つが、上記少なくとも二つの気体吐出口の他の一つと連通し、上記二つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、上記膜を以てお互いから隔てられるように構成され、上記部屋または閉空間の外界から導入される空気が上記気体吸入口の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から外界へと送出される一方、上記部屋または閉空間の内気が上記気体吸入口の他の一つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記部屋または閉空間へ還流され、上記部屋または閉空間の体積をV、上記膜中の酸素の拡散定数をD、上記膜の厚みをLとした時、上記体積Vと上記膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われ、上記部屋または閉空間の内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記部屋または閉空間の内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記部屋または閉空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、少なくとも、
【数0】
を満たすように設定されている。上記の膜が部屋または閉空間の壁の少なくとも一部に設けられる場合、部屋または閉空間は、例えば、壁の少なくとも一部が上記の膜により構成されたテントにより構成される。
【0023】
この生物体の健康状態分析システムは、必要に応じて、部屋または閉空間の内部の生物体に健康の回復および/または増進に有用な成分を経口または経肺で供給する供給装置をさらに有する。そして、この供給装置により上記成分を生物体に供給したときに生物体から放出される分子種を測定することにより体外放出ガス相関解析を行う。即ち、CUSPのもたらす高清浄孤立・閉鎖空間において、積極的に生物体の健康増進や健康回復または健康増進をもたらすリラクゼーションに良い分子種や、あるいはその医学的治療に資する薬等の分子を導入することで、こうして与えられる外部よりの刺激に対する生物体の応答(線型応答および非線型応答を含む)を測定・評価することで、病気からの回復、人に役立つ医療を線形・非線形応答理論の枠組みの中で位置付け、より効率化することを可能とする。供給装置は、基本的にはどのようなものであってもよいが、例えばミスト発生器である。この場合、上記成分はミストとして供給される。上記成分は、典型的には、消毒薬および経口または経肺薬効成分のうちの少なくとも一つを含むが、これに限定されるものではない。
【0024】
また、この発明は、
外界と内部との間で流体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成し、かつ外界と内部との界面の少なくとも一部にダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を有する部屋または閉空間の内部に生物体が入った状態で、上記生物体に対して非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲で上記生物体の、少なくとも上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と上記生物体から放出される分子種と上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度とを含む環境情報および少なくとも上記生物体の体動を含む生体情報を測定し、上記部屋または閉空間に設置された、上記部屋または閉空間の内部の気体を吸引する開口と、当該吸引気体をダスト微粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を、再び、上記部屋または閉空間の内部に戻す吹き出し口とが対となって設けられている清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態において上記生物体から放出される分子種の測定結果に基づく体外放出ガス相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定結果に基づく代謝相関解析と、上記清浄化装置により上記部屋または閉空間の内部を清浄化した状態における上記部屋または閉空間の内部のダスト微粒子数密度の時間変化に基づく、または、上記生物体に装着された加速度計による上記生物体の体動の測定結果に基づく睡眠品質相関解析とを行うことにより上記生物体の健康状態を分析する生物体の健康状態分析方法である。
【0025】
この生物体の健康状態分析方法の発明は、必要に応じて、上記の清浄化装置に加えて、生物体に装着される、部屋または閉空間の内部の気体を清浄化部を通して吸引することにより当該吸引気体をダスト微粒子数密度に関して清浄化処理するとともに、当該清浄化部を通過する気流の向きを交互に変化させながら部屋または閉空間の内部に戻す別の清浄化装置(上記の清浄化装置を第1の清浄化装置とすると第2の清浄化装置)を更に用いる。この第2の清浄化装置は、例えば、生物体の口および鼻を覆うように装着されるマスクである。第1の清浄化装置に加えて第2の清浄化装置も用いることにより、エネルギー(電力)使用量の最小化を図りながら、部屋または閉空間の内部のより一層の清浄化を図ることができる。この生物体の健康状態分析方法の発明においては、その性質に反しない限り、上記の生物体の健康状態分析システムの発明に関連して説明したことが成立する。例えば、体外放出ガス相関解析を行う際には、部屋または閉空間の内部の生物体に健康回復および/または健康増進に有用な成分を経口または経肺で供給し、当該成分を上記生物体に供給したときに上記生物体から放出される分子種を測定する。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、睡眠中等の様々な状況下で生物体に対して非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲で、酸素濃度および二酸化炭素濃度等を含む環境情報および体動等を含む生体情報を測定し、その結果に基づいてマルチ階層相関解析、即ち体外放出ガス相関解析と代謝相関解析と睡眠品質相関解析とを行うことにより、生物体の健康状態をホリスティックに分析することができる。それによって、病院にかかるような深刻な状況に陥る以前に(深刻な病状で無い物の本調子とは言えない、いわゆる未病状態・グレーゾーンにおける連続量に対する有効な閾値の同定により)年齢に応じた健康状態へ復帰することが十分可能となる。光(画像)や音などのボソンのみに頼らず、分子などフェルミオンのやり取りの情報に基づくマンマシンインターフェイスが可能となることにより、コンピュータテクノロジーやAIの進展にこの発明が加わることで、人類の全人的な発達・進化が、真に可能となりまた実現する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムを示す略線図である。
図2】第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにより行うマルチ階層相関解析を示す略線図である。
図3】第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにおいて部屋または閉空間がテント式CUSPである場合を示す略線図である。
図4】実施例1によるCUSPにおけるダスト微粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図5】実施例2によるテント式CUSPにおけるダスト微粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図6】実施例3によるテント式CUSPにおけるダスト微粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図7】実施例4によるテント式CUSPにおけるダスト微粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図8】第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにおいて睡眠品質相関解析の基礎となるデータを取得するためのヘッドバンド型測定装置の一例を示す略線図である。
図9】第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにおいて睡眠品質相関解析の基礎となるデータを取得するための腕時計型測定装置の一例を示す略線図である。
図10】実施例4によるテント式CUSPにおいて図9に示す腕時計型測定装置を用いて測定したKSGとPSGとの対応実験の結果を示す略線図である。
図11】実施例1によるCUSP内における二酸化炭素濃度の経時変化を示す略線図である。
図12】実施例4によるテント式CUSP内において測定された二酸化炭素濃度および図9に示す腕時計型測定装置により取得されたアクチグラフィーデータを示す略線図である。
図13】実施例5によるCUSP内において燃焼実験を行った時の可燃性ガス濃度および一酸化炭素濃度の経時変化を示す略線図である。
図14】第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにより得られる効果を説明するための略線図である。
図15】第2の実施の形態による生物体の健康状態分析システムを示す略線図である。
図16】第3の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにおいて純水ミストおよび次亜塩素酸含有ミストを部屋または閉空間内で噴射した時のミストを含む微粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図17】第3の実施の形態による生物体の健康状態分析システムにおいて純水ミストおよび市水ミストを部屋または閉空間内で噴射した時のミストを含む微粒子数密度の経時変化を示す略線図である。
図18】第4の実施の形態による生物体の健康状態分析システムを示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
【0029】
〈第1の実施の形態〉
[生物体の健康状態分析システム]
図1は生物体の健康状態分析システムを示す。図1に示すように、この生物体の健康状態分析システムは、外界と内部との間で気体のマスフローとしての交換のない孤立閉鎖系を構成する部屋又は閉空間11を有する。部屋又は閉空間11は、独立して設けられたものであってもよいし、例えば一般的な戸建住宅の部屋、マンション等の集合住宅の部屋、病院の部屋、高齢者養護施設の部屋等であってもよい。あるいは、部屋又は閉空間11はテントであってもよい。この部屋又は閉空間11には被験体12が出入りすることができるようになっている。そのために、例えば、部屋又は閉空間11の側壁に出入り口(図示せず)、例えば、スライド式の引き戸が設けられる。あるいは、部屋又は閉空間11がテントである場合には、例えば、テントの側面に設けられた出入り用のファスナーを開け閉めすることで被験体12が出入りすることができる。被験体12は生物体、具体的には人間または他の哺乳類であるが、ここでは一例として人間が図示されている。部屋又は閉空間11の床にベッド13が置かれ、その上に被験体12が仰臥位や横臥位で就寝することができるようになっている。部屋又は閉空間11の内部の大きさ(幅、奥行、高さ)は、被験体12やベッド13等のほか、健康状態分析に必要な測定装置等が入り、必要な状況下で健康状態の分析を行うのに十分に大きく選ばれ、部屋又は閉空間11の内部に設置する付帯設備の大きさ等を考慮して必要に応じて選ばれる。部屋又は閉空間11の形状も必要に応じて選ばれる。
【0030】
部屋又は閉空間11の内部に、少なくとも部屋又は閉空間11の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と被験体12から放出される各種の分子種とを含む環境情報および少なくとも被験体12の体動を含む生体情報を被験体12に対して非接触かつ非侵襲または接触かつ非侵襲で測定する測定装置14が設けられている。測定装置14は測定する環境情報および生体情報に応じて複数設置してもよい。測定装置14を設置する位置は、必要に応じて選ばれ、部屋又は閉空間11の側面、床、天井等に設置されることもあるし、被験体12に設置されることもあるが、図1においては側面に設置されている場合が示されている。測定装置14が被験体12に設置される一例は、被験体12の体動、脳波等を測定する測定装置14が被験体12の腕や頭に取り付けられ場合であり、この場合は接触かつ非侵襲の測定となる。
【0031】
部屋又は閉空間11には、この部屋又は閉空間11の内部の気体を清浄化する清浄化装置が設けられる。図1においては、この清浄化装置として、部屋又は閉空間11の内気を取り込む開口(図示せず)と、当該吸引内気をダスト微粒子数密度および分子濃度の双方に関して清浄化処理後、その全量を部屋又は閉空間11の内部に戻す吹き出し口(図示せず)とが対となって設けられたファンフィルターユニット(Fan Filter Unit;FFU)15が部屋又は閉空間11の床に設置されている場合が示されている。このFFU15により100%循環フィードバック系が構成されている。FFU15の代わりに部屋又は閉空間11の天井に設置されるFFUを用いてもよい。部屋又は閉空間11の内部のバックグラウンドの清浄度は、好適には、US209D クラス100以上に維持する。このように部屋又は閉空間11の内部の清浄度を高く維持することにより、測定中に被験体12が吸引するダスト微粒子数を大幅に減少させることができ、被験体12に与える負荷を大幅に軽減することができる。また、ダスト微粒子数密度の測定により被験体12の就寝中の体動や運動状況を検知する場合には、残留するダスト微粒子によるバックグラウンドノイズを大幅に抑えることができ、被験体12の体動や運動により発生するダスト微粒子数密度の変化を明確に抽出することができる。
【0032】
また、部屋又は閉空間11の内部と外界との間でガス交換能力を与えるために、部屋又は閉空間11の内部と外界との界面の少なくとも一部が、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜、即ちガス交換膜により構成される。ここでは、一例として、複数のガス交換膜が互いに間隔を空けて積層されたガス交換ユニット16が部屋又は閉空間11の床に設置された場合が示されているが、部屋又は閉空間11の壁の少なくとも1つの少なくとも一部がガス交換膜により構成されてもよい。ガス交換ユニット16の詳細については、例えば、特許文献1-4に記載されている(特許文献1-4ではガス交換装置と記載されている)。ガス交換ユニット16は、部屋又は閉空間11の内気を内気回収口から取り込んで二枚のガス交換膜の間の空間からなる内気通路を通して部屋又は閉空間11に戻すとともに、外気導入口から外気を導入して二枚のガス交換膜の間の空間からなる、内気通路と独立した外気通路を通して外部に排出し、その間にガス交換膜を介して内気と外気との間で酸素および二酸化炭素のガス交換を行うことにより、外気と同等の酸素濃度および二酸化炭素濃度となった内気を部屋又は閉空間11に戻すようになっている。
【0033】
部屋又は閉空間11の内部には、環境情報の一つであるダスト微粒子数密度を測定するための測定装置として粒子数計測器17が設置される。部屋又は閉空間11の内部には、被験体12の健康状態をどのような状況で測定するかに応じて必要な付帯設備が設置される。例えば、被験体12がPC(デスクトップ型、ノート型等)を操作している時に健康状態を測定する場合には、机、テーブル、椅子等が設置され、机やテーブルの上にPCが設置される。また、被験体12の運動時に健康状態を測定する場合は、例えば、エアロバイク(登録商標)(フィットネスバイク)やルームランナー(ランニングマシン)等が部屋又は閉空間11の床に設置される。あるいは、被験体12の飲食時に健康状態を測定する場合は、被験体12に応じて、テーブル、椅子等が設置される。
【0034】
測定装置14および粒子数計測器17により測定された、時間tの関数としての環境情報および生体情報、具体的には、例えば、酸素濃度および二酸化炭素濃度、ダスト微粒子数密度、被験体12の体外に放出された分子種およびその濃度、体動等は、有線又は無線で部屋又は閉空間11の外部に設置されたコンピュータ18に送ることができるようになっている。例えば、測定装置14および粒子数計測器17とコンピュータ18とが有線または無線のLAN等により接続される。そして、コンピュータ18の演算装置により、部屋又は閉空間11の内部を清浄化した状態において被験体12から放出される分子種およびその濃度の測定結果に基づく体外放出ガス相関解析と、部屋又は閉空間11の内部を清浄化した状態における部屋または閉空間11の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定結果に基づく代謝相関解析と、部屋又は閉空間11の内部を清浄化した状態における被験体12の就寝時の部屋または閉空間11の内部のダスト微粒子数密度の時間変化に基づく、または、加速度計による被験体12の体動の測定結果に基づく睡眠品質相関解析とを行うことにより被験体12の健康状態を分析する。このマルチ階層相関解析による健康状態分析を図2に示す。酸素濃度、二酸化炭素濃度、ダスト微粒子数密度、被験体12から放出される分子種およびその濃度、体動等やマルチ階層相関解析の結果は、コンピュータ18に接続されたディスプレイ(図示せず)に表示することができ、必要に応じてコンピュータ18に接続されたプリンタ(図示せず)でプリントすることができ、コンピュータ18の記憶装置あるいはコンピュータ18に接続された外部記憶装置に保存することができるようになっている。この場合、例えば、スマートフォンや携帯電話等を利用して、無線通信により解析および対応サービス拠点に設置されたコンピュータで情報を集約して解析およびデータ管理をしてもよい。
【0035】
[生物体の健康状態分析システムの使用方法]
この生物体の健康状態分析システムの使用方法を説明する。ここでは、一例として、被験体12の就寝中に健康状態分析を行う場合について説明する。
【0036】
まず、FFU15または部屋又は閉空間11の天井に設置されるFFUの運転により部屋又は閉空間11の内部を所定の清浄度(好適にはUS209D クラス100以上)に維持する。粒子数計測器17は常時運転させておく。この状態で被験体12がベッド13に仰臥位や横臥位で寝そべり、頭部を枕19の上に載せ、掛け布団20を掛ける。被験体12は、必要に応じて、口および鼻を覆うようにマスクMを装着する。そして、部屋又は閉空間11の照明を消灯し、就寝する。就寝中に、被験体12は清浄空間内で呼吸器の養生を行い、同時に、測定装置14により部屋又は閉空間11の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度と被験体12から放出される分子種およびその濃度を測定するとともに、粒子数計測器17により部屋又は閉空間11の内部のダスト微粒子数密度n(t)を測定する。就寝中に被験体12が寝返りを打つ等して体位を変えたり、掛け布団20を剥いだりする等により発塵が起きるが、それによってダスト微粒子数密度n(t)に変化が生じる。即ち、ダスト微粒子数密度n(t)には就寝中の被験体12の挙動、言い換えると体動が反映され、この体動には被験体の健康状態が反映される。ダスト微粒子数密度n(t)の時間変化特性解析を行うことにより睡眠品質相関解析を行うことができる。また、部屋又は閉空間11の内部の酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定により代謝相関解析を行うことができる。さらに、被験体12から放出される分子種およびその濃度の測定により体外放出ガス相関解析を行うことができる。
【0037】
必要に応じて、被験体12の就寝中に、いずれも接触測定ではあるが、被験体12の体重によりベッド13に加わる圧力の分布の測定、体温計或いは体温による黒体輻射スペクトル分析による体温の測定、脈拍計による脈拍の測定、パルスオキシメーターによる酸素飽和度の測定等のうちの少なくとも一つを行い、その測定結果をダスト微粒子数密度n(t)の時間変化特性解析の結果及びデータと併用し、睡眠品質相関解析を行って、被験者の健康状態を分析するようにしてもよい。こうすることで、非接触測定による測定データの集合と接触測定による測定データの集合との直積を取ることが可能となり、被験体12の健康状態と関連するこれらの情報に基づいて、従来は不可能であった、より高次の分析が可能となり、より正確な健康状態の分析、今後の健康状態の推移の予測をすることが可能となる。したがって、それらに基づく対応も可能となる。病態が発現する前の対応であるので、医療費の抑制、予防医学への実践等が可能となると期待される。特に、この無意識状態における非接触測定データを従来のビッグデータ解析のデータ空間と結合する形で、ビッグデータ解析の対象となる新たなデータ空間として用いることで、これまでにない側面からの解析が可能となる。
【0038】
ここで、部屋又は閉空間11内のダスト微粒子数密度n(t)およびガス(分子) 濃度η(t)の時間変化特性について説明する。ここでは、一例として、部屋又は閉空間11が図3に示すテント式CUSPである場合について説明するが、以下の説明は部屋又は閉空間11がテント式CUSP以外のものである場合も成立する。
【0039】
図3に示すように、少なくとも壁の一部がガス交換膜により形成されたテント101内の一方の片側(被験体12が就寝する時に頭が向く側)にFFU15(第1の清浄化装置)を設置し、このFFU15の直ぐ隣に測定装置14として酸素(O2 )や二酸化炭素(CO2 )等を含む多種のガス分子種および濃度を測定するガス分子濃度モニター102を設置し、テント101内の他方の片側(被験体12が就寝する時に足が向く側)に粒子数計測器17を設置し、被験体12はFFU15と粒子数計測器17との間に頭をFFU15に向けて仰向けに寝る。被験体12は、必要に応じて、口および鼻を覆うようにマスクMを装着する。この場合、テント101を構成するガス交換膜を介してガス交換が行われるので、ガス交換ユニット16は設置されていない。FFU15の運転によりテント101内には矢印で示すように空気が流れて循環し、100%循環フィードバック系が構成される。就寝中の被験体12の体動により、ダスト微粒子が散乱あるいは発生する。
【0040】
ダスト微粒子数密度n(t)は
【数1】
なる微分方程式を満たす。ただし、Vはテント101の体積、Sはテント101の内表面積、σは単位面積・単位時間当たりのダスト微粒子発生量、FはFFU15の風量、γはダスト微粒子捕集効率である(この式は、FFU15(第1の清浄化装置)およびマスクM(第2の清浄化装置)に対し、異なるγを以て、それぞれ成立する)。
【0041】
(1)式を解くと
【数2】
が求められる。ただし、t=0のときのダスト微粒子数密度n(0)=N0 とした。
【0042】
t→∞のとき(2)式は
【数3】
となる。実際には、ファンフィルターユニット15の運転を開始してから十分に時間が経った時(t>10V/γF)には実質的に(3)式の究極のダスト微粒子数密度が得られる。
【0043】
一方、ガス分子濃度η(t)は
【数4】
なる微分方程式を満たす。ただし、Aはテント101を形成するガス交換膜の面積、Lはこのガス交換膜の厚み、Dはこのガス交換膜中の注目するガス分子(酸素分子等)の拡散定数、Bはテント101の内部での呼吸等によるガス消費・発生レート(消費される酸素では正の値となり、二酸化炭素やその他の体外に放出されるガスでは負の値となる)、ηo はテント101の外界の当該ガス分子濃度である。
【0044】
この孤立閉空間を構成するテント101の内部空間においては、アボガドロ数をNA 、系の置かれた圧力(~1気圧)における1モル当たりの気体体積をC、ガス交換膜を通してテント101の内部に入ってくる注目するガス(酸素等)のフラックスをjとすると、時刻t+δtにおける当該ガスの体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける当該ガスの体積Vη(t)を使って
【数5】
が成り立つ。ここで、既に述べたように100%循環フィードバック系がテント101内に構築されているので、ファンフィルターユニット15により発生する空気流により、テント101の内部空間の空気は十分早くかき回されるため、空気を構成するガス分子はテント101の内部で十分早く均一化するので、テント101の内部空間では空間座標依存性を良い近似で無視することができることを用いた。(5)式の右辺第3項は、上記ガス交換膜の両側(即ちテント101の内部と外界)での当該ガスの濃度差(濃度勾配)のために流入してくる当該ガスの分子の数である(空気流としてではなく、分子の拡散として当該ガスがテント101の内部に入ってくるのであり、上述の(5)式で記述される現象とは全く性質を異にする)。(5)式において、jは
【数6】
で与えられる。ただし、φはテント101の内部の単位体積当たりの当該ガス分子数、ガス交換膜に垂直な方向をx軸としたとき、∇はこのx軸方向の微分演算子である。Lは、テント101の内部空間の厚みに比べ3桁以上程度小さく、極めて薄いと見なせるので、(5)式は、
【数7】
と良い精度で近似することができる。η0 はη(0)であり、(4)式、(5)式におけるのと同様に、外界の当該ガスの濃度であり、当該ガスが酸素である場合は通常20.9%程度である。(7)式より、微分方程式
【数8】
が導かれる。(8)式の厳密解は、
【数9】
と求まる。ここでは十分時間がたった後の定常状態に対応する解に興味があるので、右辺のexp(-[AD/L]t/V)=0とおくと、時刻tにおける当該ガスの濃度(例えば酸素濃度)は
【数10】
と求まる((9)式でt→∞とした場合に一致する)。
【0045】
図3に示す、孤立した閉空間を構成するテント式CUSPでは、テント101の壁の一部がガス交換膜から成ることで分子の拡散を通じて、テント101の内部のガス分子濃度を制御することができる。即ち、図3に示すテント式CUSPでは、内外の界面に面積A、厚みL、分子拡散定数Dを有するガス交換膜を用いることで、(9)式より導かれる換気風量F=AD/Lなる対応原理(スケーリング則)に従って機械換気風量Fと同等の換気が実現できる。ガス分子濃度を空気流の出し入れに頼ることなく、対応の必要な分子のみに着目してその濃度を制御でき、環境中立な成分である窒素を動かさないので、省エネ効果の大きい重要な技術である。これにより、テント式CUSP中での酸素濃度、二酸化炭素濃度等を測定することで被験体12の健康状態を長期間測定し、ビッグデータ化することができる。
【0046】
図3に示すテント式CUSPにおいて、呼吸によりレートBで酸素が消費される場合はBは正の値であるが、(9)式、(10)式自体は、Bを負の適切な値にとると二酸化炭素やその他の体外に放出されるガス分子の発生も記述できる汎用的な式である。即ち、(10)式に従って、種々の体外放出分子も解析でき、相関分析に用いることができる。ガス交換膜に対して、注目するガス分子種の拡散定数Dが重要であり、分子種に応じてガス交換膜の材質や局所的な極性を設計することで微量ガス分子を内部に閉込めて濃度を高める事で、検出精度を上げることが可能である。例えば、ガス交換膜として、充填されている合成繊維がエレクトレットになっている繊維層フイルタ(非特許文献2)を用いることで、極性分子と非極性分子との拡散定数Dに差をつけることができるため、検出したい分子の濃度を閉空間内で高め、検出感度の相対的に低い分子検出器でも体放出分子種量を測定することが可能となる。
【0047】
これにより、単に上記の(↑, ↑) や(↓, ↓) のデータセットのみを用いたビッグデータ解析に比べ、(↑, ↑) (↑, ↓) (↓, ↓) なる属性を持つシステム/プロセッシング/データセットを最大限に活用できることで、深く、広いビッグデータ解析が可能となる。またインターフェースとしても、音(フォノン)や光(フォトン)等のボソンにのみ頼ることなく、分子(フェルミオン集合体)の放出情報も使うことで重層化が実現する。
【0048】
在来系における換気が、開放系であるために、当該空間における発生分子に対する検出能力が欠如しているのに対し、CUSPシステムにおいては、その孤立性・密閉性により、内部で発生するガス分子濃度を、特に、当該ガス分子種に対する拡散定数を低く制御したガス交換膜を用いることにより、当該閉空間中の発生ガス分子種を精度良く定量的に検出することが可能である。
【0049】
図4は国立大学法人北海道大学の実験室をCUSP(実施例1)とし、内部でダスト微粒子数密度の経時変化を測定した結果を示す。実験室の体積は約3m3 である。実験室の内部には、台湾国立成功大学(NCKU)が独自に開発した、粒子数計測器、酸素濃度測定装置および二酸化炭素濃度測定装置をプロセッサやメモリなどを搭載した基板とともに小型の直方体状のケースに収納して一体化した集積モジュールが設置され、この集積モジュールによりダスト微粒子数密度を測定した(図4中、NCKU Bと表示されたデータ)。この集積モジュールを用いることにより、実験室の内部の閉空間内での被験体12の活動を邪魔しないことに成功するとともに、良好な測定能力や動作を得ることができる。ダスト微粒子数密度の測定は、上記の集積モジュールに加えて市販の3種類の粒子数計測器によっても行った(図4中、LASAIR A、MET ONE C、DC170Dと表示されたデータ)。図4より、いずれの粒子数計測器によっても良好な清浄度(US209D クラス100)が得られていることが分かる。
【0050】
図5は、同図内挿入図に示すようなテント式CUSP(実効体積V=約30L)(実施例2)の中で、図3に示す配置の一つのオプションとして、FFU15(第1の清浄化装置)はオフして、被験体12の口および鼻を覆うように装着されたマスクM(第2の清浄化装置)のみを用いて就寝した際のダスト微粒子数密度の経時変化を測定した結果を示す。図5中、相対的に低いピーク群により特徴づけられる粒径2.5μm以上の粒子数の減少の時定数τは、図5の下部左端のピーク値ならびにこの値が1/20[これは、自然対数の底(ネイピアの数)eの-3乗の近似値]になる時点の補助線(図5左端の縦の細い点線)間隔を参照すると3τ=10分と読み取れることから、τ=3.3分となる。同様に、図5中、相対的に高いピーク群により特徴づけられる粒径0.5μm以上の粒子数の減少の時定数τは、中程の縦に走る補助線間隔を参照すると3τ=19分と読み取れることから、τ=6.3分となる。就寝する被験体12自身の呼吸(風量F=約10L/分)に伴い、時定数τ=約3分で粒径2.5μm以上の粒子数が減少していることは、(2)式より、テント式CUSPの実効体積をV、呼吸風量をF、マスクMの塵埃捕集効率をγとして、τ=V/γFで与えられることから、当該マスク(不織布による簡易型マスク)の粒径の大きい塵埃に対する捕集効率は、ほぼ1に等しいのに対し、粒径が小さいものに対してはそれほど高い捕集効率を有しないことを踏まえると、整合的である。因みに、粒子数計測器17としてDC170Dを用いるとすると、τ=V/γF=30L/(1.7L/分)=18分である。ダスト微粒子数密度の測定に用いたDC170Dの測定時風量は~1L/分であり、呼吸風量に比べて約1桁小さいので、この測定結果に対する影響はほぼ無視することができ、この粒子数減少は、呼吸を通じてマスクMを反対方向から交互に横切る気流によって、(1)式、(2)式に従って変化した結果であると理解される。その意味で、電流との比喩において、この新しいCUSPの動作は“交流”モード(AC CUSP)ということができる。これまでのCUSPにおける清浄化装置はFFUであるが、FFUのフィルター部を通過する気流の向きは常に一方向のみで、その意味で、電流との比喩において、これまでのCUSPの動作は“直流”モード(DC CUSP)であった。このため、直流を形成するためのファンの回転動力のために電力が消費されている。マスクMを横切る交互気流(交流)を生じさせるものは、被験体12の横隔膜の上下運動による呼吸であり、DC CUSPと大きく異なり、直流を形成するためのファンの回転が不要であるので電力が全く消費されることのない消エネルギーシステムであるという特徴を有する。
【0051】
図6は、テント式CUSPと同様のトポロジーで実効体積V=約10Lのシステム(実施例3)におけるダスト微粒子数密度の経時変化を測定した結果を示す。図6中、○は、FFU15をオフし、実効体積を縮小してシステムを動作させた図1に対応するマスクM有りの場合の、□はFFU15をオフし、実効体積を縮小してシステムを動作させた図3に対応するマスクM無しの場合の測定結果である。図6中、●および■は、粒径0.5μm以上の粒子数であり、○および□は粒径2.5μm以上の粒子数である。図6に示すように、時間の経過に伴うダスト微粒子数密度の減少は、○と●とで大まかにはほぼ同等の結果が得られるが、厳密に比較すると、マスクMの着用の効果が出て、○の方が、ダスト微粒子数密度の減衰の時定数がやや小さい。更に、粒径依存性を見ると、粒径が大きい粒子の方が粒子減少の時定数が短い。これは、マスクM(および、肺そのもの)の粒子捕集機能が、粒径が大きい場合程大きいことを示している。呼吸量は共通であるので、体積Vの大きさを勘案すると、この結果は、図5の結果と整合的であり(体積によるスケーリングが成立し)、設計の容易なシステムであるということも実証された。
【0052】
図7は国立大学法人北海道大学に設置されたテント式CUSP(実施例4)の内部でダスト微粒子数密度の経時変化を測定した結果を示す。テントの体積は約3m3 である。図7より、10分以内にUS209D クラス10級の良好な清浄度が得られている。粒子数計測器としては、市販の製品(LASAIR A)を用いた。ただし、図7においては、カウントゼロは便宜上0.1(1/cf)にプロットした。
【0053】
図4および図7に示す結果より、US209D クラス100以上の良好な清浄度を得ることができ、空気質を決める第一のパラメーターであるダスト微粒子数密度を極めて低いレベルに制御することができることから、被験体12の体動に伴うダスト微粒子の発生を十分な精度で検出できる。このため、CUSPまたはテント式CUSP内で被験体12の体動に伴うダスト微粒子数密度の経時変化に基づく体動解析による高度な睡眠品質分析(Kinetosomnogram:KSG)を行うことができる。
【0054】
睡眠品質分析は、例えば、被験体12が頭部にヘッドバンド型測定装置を装着し、腕に腕時計型アクチグラフィーを装着し、テント式CUSP内で就寝することによっても行うことができる。図8は台湾国立成功大学が独自に作製したヘッドバンド型測定装置200を示す。このヘッドバンド型測定装置200は、右側眼電位センサー201、左側眼電位センサー202および基準電極(REF)203を有する。このヘッドバンド型測定装置200を被験体12の頭部に装着することにより、脳波(EEG)、眼電位図(EOG)および筋電図(EMG)を測定することができる。また、図9は同じく台湾国立成功大学が独自に作製した腕時計型アクチグラフィー300を示す。この腕時計型アクチグラフィー300は加速度計と光センサーと温度センサーとを備えており、加速度計により腕の動き、ひいては体動を計測することができ、温度センサーにより体温を計測することができる。これらのヘッドバンド型測定装置200および腕時計型アクチグラフィー300により、フルスペックのポリソムノグラフィー(Polysomnography:PSG)検査に近い睡眠品質分析を行うことができる。図3に、被験体12の頭にヘッドバンド型測定装置200が、腕に腕時計型アクチグラフィー300がそれぞれ装着されたときの様子を示す。
【0055】
図10に、図7に示すデータを取得した実施例4によるテント式CUSP内で被験体12が就寝している間に取得した、PSG(下側の睡眠段階を示す図、PSG分析装置で測定)と睡眠時のダスト微粒子数密度の時間変化解析(KSG)との対応実験の結果を示す。図10中、下部のPSG分析では、覚醒(W)、REM睡眠(R)、浅い睡眠(N1)、深い睡眠(N2)の4レベルで分析している。図10から分かるように、PSGにおける浅睡眠遷移、あるいは覚醒遷移とKSGのピークが一致するものが多いことが分かる。また、浅睡眠とREM睡眠の間の遷移に対するピーク値はKSGでは17000くらいと大きく、浅睡眠と深睡眠の間の遷移はKSGでは1000程度と小さいことも見て取れる。また、PSGで深い睡眠あるいはDeepと分類される時間帯では、KSGでも発生ダスト微粒子数が非常に小さいという良い一致が見られる。
【0056】
図11図4に示すデータを取得した実施例1によるCUSP内で二酸化炭素濃度を測定した結果を示す。二酸化炭素濃度の測定には、株式会社マザーツールのGC-2028および国立成功大学が開発した集積モジュール(NCKUと表示)を用いた。測定結果は省略するが、酸素濃度も同様にして測定することができる。このため、CUSP内での被験体12の滞在(例えば睡眠)に伴う被験体12の代謝分析を行うことができる(特許文献6参照)。
【0057】
図12は、図7に示すデータを取得した実施例4によるテント式CUSP内で被験体12が就寝している間に、被験体12が腕に装着した腕時計型アクチグラフィー300の加速度計により取得されたアクチグラフィーデータ(被験体12の体動量を反映)と被験体12の体外に放出される二酸化炭素の濃度とを時間の関数としてプロットしたものであり、両者の間に相関があることが分かる。二酸化炭素濃度の測定には市販の測定装置(GC-2028)を用いた。図12には睡眠段階の測定結果も示す。Mは体動を示す。
【0058】
図13は、ガス交換膜を包囲体の一部とする閉空間(実施例5)において、被験体12の代わりに、空気中に微量の可燃性ガス(エチルアルコール)を含む雰囲気中で、電力を注入されて回転するモーターを取り、この系での微量分子分析を行った結果を示す。分子の検出には、一酸化炭素(CO)、硫化水素(H2 S)、酸素(O2 )、可燃性分子(LEL(HC/CH4 ))の4分子種を独立に測定可能な理研計器株式会社製ポータブル式複合ガス検知器(GX-2009) を用いた。図13より、被験体12の活動に対応するモーターの電流駆動による回転により、回転開始後、十数分後より、COガスが発生していることが認められた。以上は、本システムが酸素、二酸化炭素以外の気体に対しても動作することを実証した例示であるが、こうして、一般に、閉空間内に置かれた被験体12について、図2に示すように、分子レベル(molecule level)の分析、代謝・エネルギーレベル(metabolism/energy level )の分析、さらに、睡眠機能(function)レベルの分析を行うことができることが示された。
【0059】
以上のように、ダスト微粒子数密度の増加から体動情報を検出することができるKSGを利用して健康状態と睡眠品質の相関をとり、図2に示す上部階層(機能レベル)での健康状態と睡眠品質との相関解析を実行する。これにより、解析の第1階層である{健康状態, 睡眠品質}の相関ビッグデータを獲得する。続いて、閉空間内における酸素と二酸化炭素の濃度を測定することで、非接触・非侵襲の自然な就寝状態において代謝量を計測する。以って、図2の中間階層である代謝・エネルギーレベルでの健康状態と代謝量との相関解析を行い、これを解析の第2軸とし、個々の基礎代謝量やその健康状態に対応した睡眠時代謝のビッグデータ化へ繋げる。これにより、解析の第2階層の{{健康状態, 睡眠品質}, 代謝情報}}というダブル相関ビッグデータを獲得する。
【0060】
被験体12の体外に放出される分子種および濃度を測定することができる測定装置14として、一種または複数種の分子を計測できるセンサを組み合わせたものを用いてもよいし、一つのセンサで複数種類の分子を計測できるセンサを用いてもよい。後者のセンサとしては、コンパクトな臭気センサが市販されている(既に挙げたポータブル式複合ガス検知器(GX-2009) 等)。このような複数種類の分子を計測できるセンサを用いることにより、CUSPの閉空間性を利用して、特に就寝中に体外へ放出されるガス(呼気、皮膚臭気、屁等) の中の分子を複数同定することを試みる。即ち、上記の(9)式、(10)式でBが負の場合は、ガス分子発生を記述するので、これにより体外放出ガスを定量的に評価できる。体外放出分子種が張る高次元パラメーター空間と健康状態との相関データを毎晩取ることが可能で、貴重なビッグデータとなる。これにより、図2の下部階層(分子レベル)での健康状態と体外放出分子種との相関解析を行い、相関解析の第3階層である{{{健康状態, 睡眠品質}, 代謝情報}, 体外放出分子情報}という世界初のトリプル相関ビッグデータを獲得し、AI/機械学習を活用して生活の質(Quality of Life:QOL)の向上・健康寿命延伸へ貢献できる。
【0061】
以上のように、第1の実施の形態によれば、次のような種々の利点を得ることができる。即ち、図14に示すように、一般に種々のパラメーターによる多次元空間情報としての体情報(健康状態)を、図2に示す各レベルに対応する3つの独立なパラメーターをして、3次元空間を張る座標軸として取る。即ち、図2の体外放出ガス相関解析パラメーターを図14ではz軸に、同代謝相関解析パラメーターを図14のy軸、睡眠品質相関解析[高次機能分析]パラメーターを図14のx軸に取る。その上で、以上の3軸のうちの2軸が張る3つの2次元平面への上記多次元空間の射影(3つ存在することに注意)を相互に解析することで、もとの多次元空間(高次元健康情報多様体)の性質を精査することができる。なお、図14に示す高次元体情報のxz平面(yz平面)への射影の一つの例としては上記の図10図12)が挙げられる。また図14に示す高次元体情報のxy平面への射影の一つの例として図14下部に示した図は特許文献7に開示した代謝情報を示す図13Aを転載したものである。被験体12のCUSP内就寝により、まず呼吸器養生を行い、同時に非接触かつ非侵襲あるいは接触かつ非侵襲にて、(1)体動解析による睡眠品質分析(Kinetosomnogram:KSG )と健康状態との相関解析、(2)酸素濃度および二酸化炭素濃度の測定に基づく代謝分析を加えたダブル相関解析、さらには(3)被験体12の体外放出ガス(呼気、皮膚臭気、屁)中の分子種同定に基づくトリプル相関ビッグデータ解析を実現することができる。この階層的な大局観(ソフトウエア)により、病気を自覚する前に、未病状態から本来の健康状態への回帰及び健康寿命延伸を実現することができる。また、CUSPの孤立性・閉鎖性を活用して、非接触かつ非侵襲にて被験体12の体表面から出てくる分子を検出し、定量的に分析することにより、従来のボソンに基づくMMI機能をすべて温存したまま、これに加えて、上記体外放出分子(即ち、フェルミオンであるところの原子と電子の集合体)の情報を加えた総合的MMIシステムを構成し、これによって今までにないデータセットの獲得や、そのプロセッシングが可能となる。
【0062】
以上により、単に上記の( ↑, ↑) や( ↓, ↓) のデータセットのみを用いたビッグデータ解析にくらべ、( ↑, ↑) ( ↑, ↓) ( ↓, ↓) なる属性を持つシステム/プロセッシング/データセットを最大限に活用できることで、深く、広いビッグデータ解析が可能となる。
【0063】
この生物体の健康状態分析システムは、現在世界的に猛威を奮っている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の対策等、医療に応用できるシステムとして病院等で活用することができる。また、これにより、単なるマンマシンインターフェースにとどまらず、広く、健康状態の解析を行うことができ、病気になる前の未病状態から、人々をその良好なる健全な人間活動へと回帰する一助となることができる。コンピュータテクノロジー、IT、ICT、DL、AIの進展が人類の全人的な発達・進化につながるよう人類社会全体の構成を一新することができる。
【0064】
〈第2の実施の形態〉
[生物体の健康状態分析システム]
図15は第2の実施の形態による生物体の健康状態分析システムを示す。図15に示すように、この生物体の健康状態分析システムにおいては、例えばテント式CUSP等の部屋又は閉空間11内において、被験体12が活動している一例として、CUSPの清浄空間内で、床に設置された机(図示せず)の上に置かれたPC201を椅子に座った被験体12が操作して仕事をしている場合を示す。部屋又は閉空間11内には、第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムと同様に、ファンフィルターユニット15およびガス交換ユニット16が設置されているが、ガス交換ユニット16は部屋又は閉空間11の天井に取り付けられていることが異なる。図15中、ガス交換ユニット16の内部に示されている破線はガス交換ユニット16に含まれるガス交換膜を模式的に示したものであり、このガス交換膜を介して酸素(O2 )分子および二酸化炭素(CO2 )分子が交換される様子が示されている。部屋又は閉空間11内には、測定装置14としてN個の分子センサーS1、…、Sk、…、SNが設置されている。これらの分子センサーS1~SNはそれぞれ異なる分子種を測定することができるようになっている。部屋又は閉空間11内にはさらに、原子、電子等のフェルミオンからなるフェルミオン集合体である有用化学物質含有ミストを発生させることができるミスト発生器202が設置されている。ミスト発生器202はコンピュータで制御され、コンピュータからの指令に基づいて有用化学物質含有ミストを発生させることができるようになっている。
【0065】
在来システムでは、被験体12は、PC201のディスプレイの画面からの(ボソンの一種である光子を利用しての)視覚情報、並びにスピーカーからの(ボソンの一種であるフォノンを使った)聴覚情報を介して、PC201とのやり取りを行うが、この生物体の健康状態分析システムでは、これらに加え、コンピューターで制御されたミスト発生器202から、被験体12に望ましい効果を有する(フェルミオン集合体としての)分子を含むミストを発生させ、これを吸気とともに体内に取りこんだ被験体12の体反応(特に、体内からの分子放出)を観測することで、フェルミオンベースのMMIが可能となる。この際、勿論、被験体12の体温等の観測(ボソンの一種赤外線による)を援用して、よりインターフェース機能を高め得ることは言うまでもない。被験体12に健在意識下にある場合で、既に述べた(↑、↑)状態の情報が抽出できる。
【0066】
この生物体の健康状態分析システムにおいては、上記以外のことは、その性質に反しない限り、第1の実施の形態による生物体の健康状態分析システムに関連して説明したことが成立する。
【0067】
この生物体の健康状態分析システムにより、今までにない、マルチ階層的解析(multi-hierarchical analysis) により、人間の無意識状態の情報も取り込み、従来の光や音響ベースの(boson-based) interface を内包しつつ、新地平としてフェルミオンベースのインターフェース(fermion-based information-added interface)が可能となる。
【0068】
この一連の過程は、被験体12の睡眠時にも勿論適用することができる。(↑、↓)状態の情報を抽出することができる。CUSP清浄環境のダスト微粒子(浮遊塵埃・菌等)、即ち“フェルミオン集合体”ノイズの少ない環境で、体に良い成分分子を積極的に供給することで、(↑、↓)状態の体反応を得ることができる。
【0069】
被験体12に有用な成分をミストとして供給した場合の被験体12の応答(線形応答、非線形応答)を測定するシステムについて説明する。即ち、CUSPを構成する直方体状の部屋又は閉空間11の床に細長いテーブルを設置し、その一端部の上に粒子数計測器17を設置し、他端部の上にミスト発生器202として市販の加湿器(SRD-BK801)を設置した。加湿器と粒子数計測器17との間の距離は約60cmである。テーブルの加湿器が設置されている側と入口のドアとの間に3台のファンフィルターユニット15を設置した。テーブルと部屋又は閉空間11の一つの壁との間には壁際に机および椅子が設置されている。机の上にはPC201を設置し、その前に温・湿度計を、左側および右側には粒子数計測器17としてそれぞれDC-170およびMET ONE HHPC 3+を設置した。加湿器と机の上の両粒子数計測器17との間の距離は約4mである。加湿器は机に対して後ろ斜め右側からミストを発生させることができるように設置されている。
【0070】
図16は、上記のシステムを用いて、純水ミストおよび化学物質含有ミスト、具体的には次亜塩素酸(50ppm) 含有ミストの2種類のミストを発生させた時の、遠方設置の粒子数計測機17による測定結果を示す。図16に示すように、ファンフィルターユニット15の運転を開始し、粒子数の計測を開始してから約57分後に純水を入れた加湿器をオンして純水ミストを発生させ、約100分後に加湿器をオフにして純水ミストの発生を停止し、約127分後に次亜塩素酸を入れた加湿器をオンして次亜塩素酸含有ミストを発生させ、約147分後に加湿器をオフにして次亜塩素酸含有ミストの発生を停止した。図16から分かるように、純水ミストおよび次亜塩素酸含有ミストの発生および停止に伴い微粒子数密度(ダスト微粒子数密度とミスト数密度との和)の増減が観測されている。図17は、上記のシステムを用いて、純水ミストおよびカルキ(0.4ppm)含有水道水(市水)ミストの2種類のミストを発生させた時の、遠方設置の粒子数計測機17による測定結果を示す。図17中、Σd(>0.5μm)は粒径0.5μm以上のダスト微粒子数密度の総和を示す。図17に示すように、ファンフィルターユニット15の運転を開始し、粒子数の計測を開始してから約4分後に純水を入れた加湿器をオンして純水ミストを発生させ、約75分後に加湿器をオフにして純水ミストの発生を停止し、約105分後に市水を入れた加湿器をオンして市水ミストを発生させ、約162分後に市水を入れた加湿器をオフして市水ミストの発生を停止し、約227分後に純水を入れた加湿器を再びオンして純水ミストを発生させ、約301分後に加湿器をオフにして純水ミストの発生を停止した。図17から分かるように、純水ミストおよび市水ミストの発生および停止に伴い微粒子数密度(ダスト微粒子数密度とミスト数密度との和)の増減が観測されている。図16および図17に示す結果より、まず重要なことは、CUSPにより、浮遊ダスト微粒子数密度を通常の1000分の一程度に容易に減少させることができるので、いわばノイズレベルを下げることができており、その結果、微量のミスト(シグナルに相当) が検出できていることである。これは、非特許文献3に記載された状況と全く対極の位置にある。即ち、非特許文献3では、空気中の塵埃(ダスト微粒子)を、フィルターによりろ過するのではなく、ミストを発生させ、このミストに浮遊塵埃を衝突させ、いわば、叩き落とすことで清浄空間を得ようとするものである。逆に言えば、空気中に浮遊塵埃が多く漂っていると、折角発生させたミストを遠方へ届かせることができない、言い換えればミストの平均自由行程が短くなっていることを示している。CUSP系により、予め浮遊ダスト微粒子数密度を極小化しておくことで、ミストを定量性よく遠方まで届かせることが可能な、S/N比の高いシステムが可能となっている。CUSPのみのシステムは、例えば図3に示すような系を構築することで、浮遊塵埃を極めて効率的に減らす処方ということで、いわば、引き算の戦略である。他方、図16および図17に示す処方は、CUSPで得られた高清浄空間に、所望の性質を持つミストを定量的にかつ制御性良く、積極的に加えるということで、足し算の戦略ということができる。
【0071】
加湿器近傍でのミスト量の測定の結果、純水ミスト、次亜塩素酸含有ミストおよび市水ミストの3種類の液体のミスト数に有意な差は求められなかった。ミスト中の分子含有量が、0.1ppm~10ppmのオーダであるので、ミスト形成過程に影響を与えることはないと考えられるので、これは妥当な結果であると判断される(同じく、粒子数計測の方に関しても、レーザー光の散乱により、粒子数を計測して居るが、上記の小さい分子濃度では、屈折率に変化は生じず、従って検出感度も3種類のミストに対し、全く同等であると考えられる)。以上のことより、ほぼ同じ量のミストが発生しているにも関わらず、4m遠方でのミスト数は、図16および図17から分かるように、純水ミストは、次亜塩素酸含有ミストおよびカルキ含有市水ミストに対し、数十分の一の数しか届いていないことが判明した。純水は、水分子のみからなり、核となる分子が無いため、蒸発に伴う粒径減少で、最終的に雲散霧消してしまうのに対し、次亜塩素酸やカルキを含むミストは、これらの分子が最後まで残り、結果として粒子数計測器により計測されていると判断される。以上の知見は、COVID-19の発生原因の解明に適用することができる。即ち、距離の関数として粒子数ならびに感染発生率を測定することで、新型コロナウィルスによる感染が、飛沫感染によるものか、空気感染によるものかに関して確定できる。
【0072】
上記の引き算の戦略と足し算の戦略とを併せ持ったシステムに、図2に示すマルチ階層相関解析を適用することで、人体(特に病態にある人)に有効な物質をミストを通じて、定量的に与えた時の人体の反応を、物理学的な線形応答、非線型応答の観点で、定量的に解析することが可能となる。また、これをマンマシンインタフェースの動作機構に組み込むことも可能となる。
【0073】
第2の実施の形態によれば、被験体12がPC201を操作している時に被験体12に有用な化学物質含有ミスト、例えば次亜塩素酸含有ミストを供給し、その時の被験体12の応答を調べることにより、被験体12の健康状態について情報を得ることができ、第1の実施の形態による健康状態の分析結果と組み合わせることにより、より確実な健康状態の分析を行うことができる。
【0074】
言い換えれば、第2の実施の形態によれば、以下の優れた諸機能を得ることができる。即ち、第一に、部屋又は閉空間11によりパーソナル清浄空間を実現することができ、これによって被験体12を花粉、ウイルス等のダスト微粒子数密度が多い外界から隔絶した環境に置くことができ、被験体12を花粉、ウイルス等のダスト微粒子から守ることができる(ボトムライン)。このパーソナル清浄空間は透析・献血ルームへの応用も可能である。第二に、閉空間である清浄空間内の分子環境のモニタリング(パッシブな制御)を行うことができる(ボトムラインの強化)。ボトムラインの強化によりボトムラインのサステナビリティを確立することができる。具体的には、清浄空間内のガス分子(O2 ,CO2 )濃度の測定あるいは被験体12の現況・病態の指標となる有機分子濃度の測定が可能である。第三に、閉空間である清浄空間内の分子環境のアクティブ制御、即ち清浄空間内部への有用物質の導入を行うことができる。具体的には、清浄空間内への消毒薬の供給による清浄空間内壁表面の消毒や、被験体12への経口・経肺薬効成分の供給を行うことができ、上記の清浄空間内の分子環境のモニタリング機能を通じて被験体12の応答を計測することができる。これによって、高次のマンマシンインターフェイスへの拡張が可能となる。
【0075】
〈第3の実施の形態〉
[生物体の健康状態分析システム]
図18は第3の実施の形態による生物体の健康状態分析システムを示す。図18に示すように、この生物体の健康状態分析システムは、治療室401の床に、壁の一部に透明な窓402aが設けられた半シースルータイプのテント式CUSP402を複数、設置したものである。各テント式CUSP402内には例えば図2に示すものと同様な装置等が配置されている。各テント式CUSP402において、各々独立した手術室並(US209D クラス100)の高清浄空間で患者である被験体12が肺を養生しつつ治療を受けることができる。この際、CUSPの孤立・閉鎖性のお蔭で、隣のテント式CUSP402の患者の影響を受けず、また隣のテント式CUSP402の患者に迷惑を掛けない。また、治療室401自体にCUSPの機構を組み込むことも可能であり、この場合には、テント式CUSP402との併用により、更に高い清浄性が達成され、症状の重篤性に応じた治療を実現することが可能である。この生物体の健康状態分析システムは、例えば現在のようにCOVID-19が猛威を振るっている状況下で大部屋に単に多数のベッドを密接して設置し、各ベッドに感染した患者を寝せて治療を行う場合に比べて、治療に携わる医師、看護師等の医療従事者間の感染拡大を防止するのに有益である。
【0076】
この生物体の健康状態分析システムにおいては、上記以外のことは、その性質に反しない限り、第1および第2の実施の形態による生物体の健康状態分析システムに関連して説明したことが成立する。
【0077】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて次のような利点を得ることができる。即ち、1)ボトムラインとして、COVID-19用の緊急対策(体育館等への多数ベッド収容)や、透析や献血の際に人々を感染から守ることができ、テント式CUSP402により実現されるパーソナル高清浄環境として量産や大量導入が可能である。2)テント式CUSP402内の空間内分子濃度測定による内部滞在者の状態モニタリングを行い、3)第2の実施の形態において説明したミスト導入方法に従い、次亜塩素酸やMA-T(水にごく少量の亜塩素酸イオンを混ぜた水溶液で、亜塩素酸イオン(水性ラジカル)が菌やウイルスを攻撃することが知られている)等の消毒・殺菌効果を持つ微粒子の噴霧により、部屋内の効率的な除菌をすることで、当該清浄空間の消毒を行うことができる。その後、患者である被験体12への有効物質の経口・経肺導入による治療も可能となる。更に、光触媒を用いることにより、テント式CUSP402内の消臭(匂い取り)もできる。加えて、上記の1)と2)は、もともとある塵や匂い分子を除去すること(いわば守りによる空気質向上)であるのに対し、3)は、元々は無い、良好な効力を発揮する微粒子を積極的に発生させて室内空気に付加すること(いわば攻め)を以って、除菌やアロマ等、人間に嬉しい結果を齎すということで、攻めと守りのバランスの取れた病体からの回帰、健康増進ができる。
【0078】
この生物体の健康状態分析システムは、上述のように、COVID-19対策等、医療に応用できるシステムとして病院等で活用することができる。また、これにより、単なるマンマシンインターフェースにとどまらず、広く、健康状態の解析を行うことができ、病気になる前の未病状態から、人々をその良好なる健全な人間活動へと回帰する一助となることができる。コンピュータテクノロジー、IT、ICT、DL、AIの進展が人類の全人的な発達・進化につながるよう人類社会全体の構成を一新することができる。
【0079】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0080】
例えば、マスクMの代わりに、気管の十数回に亘る分岐により生じた肺の微細構造そのものを塵埃捕集機構(第2の浄化装置)として用いることも可能である。即ち、肺そのものが除塵装置として機能する(機能してしまう)ことは、喫煙による肺へのダメージが癌を誘発することの裏返しとして理解できる。マスクMを使用する際は、マスクMと肺とが直列配置となることで、更に塵埃捕集効率が向上することは言うまでもない。
【0081】
また、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、構成、形状、配置等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、配置等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0082】
11…部屋又は閉空間、12…被験体、13…ベッド、14…測定装置、15…ファンフィルターユニット、16…ガス交換ユニット、17…粒子数計測器、18…コンピュータ、101…テント、200…ヘッドバンド型測定装置、300…腕時計型測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18