(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065132
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】抗ウイルス性シート
(51)【国際特許分類】
D06M 11/44 20060101AFI20240508BHJP
D06M 101/20 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
D06M11/44
D06M101:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021043525
(22)【出願日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】520063532
【氏名又は名称】藤本 正
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217869
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 邦久
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】藤本 正
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA14
4L031AB34
4L031BA11
4L031DA08
4L031DA12
(57)【要約】
【課題】抗ウイルス性の持続性に優れ、接触感染が有効に防止された抗ウイルス性シートを提供する。
【解決手段】
漆喰が担持されている繊維シートからなる抗ウイルス性シート。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
漆喰が表面に担持されている繊維シートからなる抗ウイルス性シート。
【請求項2】
前記繊維シートが不織布である請求項1に記載の抗ウイルス性シート。
【請求項3】
前記不織布がポリオレフィン製である請求項2に記載の抗ウイルス性シート。
【請求項4】
前記不織布が親水性繊維からなる請求項2に記載の抗ウイルス性シート。
【請求項5】
窒素法で測定した全細孔容積が0.026~0.06cm3/gの範囲にある請求項2~4の何れかに記載の抗ウイルス性シート。
【請求項6】
前記繊維シートに担持されている漆喰を溶剤抽出し、レーザー回折法で測定した抽出粒子径が2~40μmの範囲にある請求項1~5の何れかに記載の抗ウイルス性シート。
【請求項7】
漆喰の担持量が1.4~4.0mg/cm2の範囲にある請求項1~6の何れかに記載の抗ウイルス性シート。
【請求項8】
マスク或いは防護服に適用される請求項1~7の何れかに記載の抗ウイルス性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性シートに関するものであり、より詳細には、繊維シートからなり、マスクや防護服などとして好適に使用し得る抗ウイルス性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS、新型コロナ感染症、インフルエンザなどの呼吸器感染症の予防のためにマスクの着用が求められており、特に医療関係者用のマスクとして、N95マスクが広く知られている。このN95マスクは、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めた規格を満足するものであり、約0.3μmの大きさの試験粒子(例えばNaCl粒子)を95%以上捕集することができる。N95マスクに代表される公知のマスクは、フィルターとしての機能を有するものではあるが、抗ウイルス性は有していない。
【0003】
一方、特許文献1には、ドロマイトを焼成した後、部分水和することで得られるマグネシウム及びカルシウムの水酸化物を含む抗ウイルス剤が開示されており、このような抗ウイルス剤によりマスクを処理して抗ウイルス性を付与することが記載されている。この抗ウイルス性は、ヒドロキシラジカルによる抗酸化作用によるものである。
【0004】
即ち、上記の抗ウイルス剤で処理することにより、マスクに抗ウイルス性を付与することができるのであるが、その持続性については全く検討されていない。例えば、N95マスクは、8時間の連続或いは断続使用に対して、マスク装着状態で咳やくしゃみなどをしてもマスク内部のフィルターに付着したウイルスのほぼ99.8%以上はマスクに閉じ込められたままである。従って、マスクは、通常、8時間程度の継続的或いは断続的使用に供されるものであることを考えれば、医療用マスクに限らず、マスク外側の表面に付着したウイルスに対し、抗ウイルス効果が約8時間程度維持されれば、その間に手や顔などが接触したとしても、マスク接触による接触感染は有効に防止されることになるのであるが、このような持続性については検討されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、抗ウイルス性の持続性に優れ、接触感染が有効に防止された抗ウイルス性シートを提供することにある。
本発明の他の目的は、マスクや防護服に好適に適用される繊維シートからなる抗ウイルス性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、漆喰が表面に担持されている繊維シートからなる抗ウイルス性シートが提供される。
【0008】
本発明の抗ウイルス性シートにおいては、次の態様が好適に採用される。
(1)前記繊維シートが不織布であること。
(2)前記不織布がポリオレフィン製であること。
(3)前記不織布が親水性繊維からなること。
(4)窒素法で測定した全細孔容積が0.026~0.06cm3/gの範囲にあること。
(5)前記繊維シートに担持されている漆喰を溶剤抽出し、レーザー回折法で測定した抽出粒子径が2~40μmの範囲にあること。
(6)漆喰の担持量が1.4~4.0mg/cm2の範囲にあること。
(7)マスク或いは防護服に適用されること。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗ウイルス性シートは、繊維シートの表層付近に漆喰が担持されているものであり、この漆喰により抗ウイルス性を発現させたものである。漆喰は消石灰が炭酸ガスを吸収して炭酸カルシウムとなったものであり、水酸化カルシウムを内部に含んでいる。このため、長時間にわたってアルカリ性を呈し、これにより、抗ウイルス性が持続して発揮され、例えばマスク等に適用した場合、N95マスクなどに要求される8時間程度の連続使用中、抗ウイルス性が維持されており、フィルター効果とともに、ウイルスで汚染されたマスク表面からの接触感染を有効に防止することができる。
即ち、このような本発明の抗ウイルス性シートは、感染症予防のためのマスク素材として有用であり、防護服素材としても有効に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】漆喰処理繊維シートが使用されているマスクにおいて、マスク装着時間と含水率との関係を示す図。
【
図3】漆喰処理繊維シートの水消石灰比と8時間平均含水率との関係を示す図。
【
図4】漆喰処理繊維シートの水消石灰比とアルカリ活性との関係を示す図。
【
図5】漆喰処理繊維シートへの担持に用いた消石灰の粒子径と8時間平均含水率との関係を示す図。
【
図6】漆喰処理繊維シートへの担持に用いた消石灰の粒子径とアルカリ活性との関係を示す図。
【
図7】漆喰処理繊維シートの全細孔容積と8時間平均含水率との関係を示す図。
【
図8】漆喰処理繊維シートの全細孔容積とアルカリ活性との関係を示す図。
【
図9】漆喰処理繊維シートの8時間平均含水率とアルカリ活性との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗ウイルス性シートは、繊維シートに漆喰を担持させたものであり、繊維シートによりフィルター効果による感染防止と、漆喰による抗ウイルス性による感染防止(接触感染防止)とを発現させたものである。
【0012】
繊維シートとしては、不織布、織布の何れも使用することができるが、フィルター効果を確保するための開口の大きさを制限し、且つ呼吸或いは漆喰の性能発揮のための通気性などの観点から不織布が好適である。
【0013】
不織布は、熱可塑性樹脂製の繊維を用いてそれ自体公知の方法で得られるものでよいが、衛生的見地から、接着剤を使用せずに得られるサーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、ナノファイバー不織布、スパンレース不織布などを使用されるが、漆喰処理により表面に漆喰を付着させることができ、且つ適度な通気性を確保することができるという点でサーマルボンド不織布が好適である。
【0014】
また、繊維を形成する熱可塑性樹脂の例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、5-メチル-1-ヘプテン等のα-オレフィンの単独重合体また共重合体であるオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-オレフィン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフロオロエチレン-ペルフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等のフッ素系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂等を挙げることができる。
これらの中でも、耐アルカリ性という点でオレフィン系樹脂繊維(特に、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維)が好ましく、強度や耐久性を考慮すると、ポリプロピレン製繊維で形成された不織布が好適である。
また、コットンなどの親水性繊維は、廃棄に際しての環境に与える負荷軽減の上で好適である。
【0015】
また、繊維径、繊維の目付量などは、この繊維シートの用途や使用形態などに応じて、例えば、漆喰で処理したときに後述する細孔容積を確保できるように設定されればよく、同様に、不織布シートの厚みも、その使用形態に応じて適宜の範囲にあればよい。
【0016】
本発明の繊維シートは、漆喰が担持されたものであるが、この漆喰は、消石灰(水酸化カルシウム)の粉末と水を含む混練物(スラリー)であり、このようなスラリーをシートの少なくとも一方の表面に塗布することにより、含侵担持することができる。
【0017】
即ち、漆喰は、消石灰が空気中の炭酸ガスを吸収して炭酸カルシウムを形成するため、消石灰(水酸化カルシウム)と炭酸カルシウムとの混合物の状態にあり、さらに空気中の炭酸ガスを吸収することにより、消石灰粒子の表層から炭酸化が進行して炭酸カルシウムが生成していくというものである。
【0018】
このような漆喰が繊維シートの表層付近に多く付着していることにより抗ウイルス性が持続して発揮されるのであるが、この原理を、マスクを例にとって説明する。
図1において、1はマスク(繊維シート)を示すものであり、マスク1の外面側が漆喰処理されている。
図1(A)は、息を吸うときの状態を示し、
図1(B)は、息を吐くときの状態を示したものである。
【0019】
図1(A)に示されているように、マスク1の外面にウイルスが付着するが、特に息を吸った時、気流に乗ってウイルス3がマスク1の外面に付着しやすい。そして息を吸った時に、漆喰中に存在する水分の一部が息を吸うタイミングで蒸発するため、水分に溶解している呼気由来のCO
2濃度が上昇して炭酸化が進行することとなる。
このときの反応は、
図1(A)に示されているように、下記式で表される。
Ca
2+(aq)+2(OH)
-(aq)+CO
2(g)
→ CaCO
3(s)+H
2O(l)
【0020】
そして、息を吐いたときは、
図1(B)に示されているように、呼気中のCO
2と共に、水分がマスク1の内面から外面側に透過する。この水分が漆喰に付着することでアルカリ活性が増すため、マスク1の外面側、即ち、人の手等が接触する側に存在するウイルスを攻撃し、ウイルスを死滅させることとなる。尚、このようなマスク1の外面側の漆喰によるアルカリ活性は、フェノールフタレイン溶液の呈色反応により確認することができる。
【0021】
上記の原理から理解されるように、サーマルボンド不織布の場合、漆喰は、繊維シートにおける繊維の非融着部に多く分布し、この非融着部の外面側にウイルスが付着するため、この非融着部に於いて高い抗ウイルス性を示す。
【0022】
本発明において、上記のような漆喰の担持は、消石灰粒子を水に分散させた分散液(漆喰スラリー)を使用し、ディッピング等により繊維シートを含侵することにより行うことができる。かかる分散液での漆喰の固形分濃度(消石灰と炭酸カルシウムとの合計の固形分)は、一般に、5~60質量%、特に8~20質量%程度でよく、塗布後は、使用時まで、この表面処理繊維シートをオレフィンフィルム等により包装し、外気と遮断して炭酸化や水分の蒸発が防止される。また、さらに長期間の保存を要する場合には、真空パックで包装する対応もある。
【0023】
尚、この漆喰スラリーには、繊維シートとの親和性を高めるために、イソプロパノール等の水溶性有機分散剤が配合されていることが好ましい。これにより、繊維シートの内部にまで漆喰(消石灰粒子)を浸透させることができる。また、漆喰の繊維シートからの脱落を防止するために、バインダーとしてポリマーエマルジョンが分散されていることが望ましい。このようなポリマーエマルジョンとしては、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、スチレン/ブタジエンゴム等の重合体の水性エマルジョンを挙げることができる。
上述した水溶性有機分散剤やポリマーエマルジョンは、消石灰粒子及び水が一定割合で含まれる範囲内で上記分散液に配合される。
【0024】
また、上記分散液の調製に用いる消石灰粒子のD50粒子径は、2~40μmの範囲にあることが適度なアルカリ活性を発現させる上で好適である。この粒径が過度に小さいと、炭酸化が急激に進行してしまい、アルカリ活性が不十分となるおそれがある。また、過度に粒径が大きい場合にもアルカリ活性が低下する傾向がある。なお、この消石灰粒子のD50粒子径は、メーカーにより公表されているが(メーカー公称値)、このD50粒子径は、繊維シートに担持されている漆喰粒子の溶媒抽出粒子径と実質的に同程度であることを確認している。即ち、繊維シートに担持されている漆喰粒子の抽出粒子径は、後述する実施例に記載されているように、溶媒を用いて繊維シートから抽出し、この抽出液からレーザー回折散乱法により測定することができる。漆喰を担持させるための分散液中には、バインダーとしてポリマーエマルジョン等が含まれているため、これを除去する必要があるからである。
【0025】
さらに、ドロマイトのような鉱物を粉砕して得られる粒子には、水酸化カルシウムが含まれているが、特許文献1に記載されているようなドロマイト粒子(抗ウイルス剤)を担持させた繊維シートは、初期は強いアルカリ活性を示すが、経時と共に急激にアルカリ活性が低下し、例えば8時間継続使用では、十分なアルカリ活性を示さないことが確認されている(後述する実験例12参照)。これは、おそらく、細孔容積が大き過ぎる、ドロマイト粒子径が小さ過ぎ、消石灰としての担持量も十分とはならないことなどが原因と考えられる。即ち、この実験結果からも、特許文献1では、抗ウイルス性の持続性は検討されてないことが明らかである。
【0026】
さらに付け加えると、漆喰がアルカリ活性を示すためには、この漆喰処理繊維シートを表面に設置したマスクを人体に装着した状態で漆喰が水分を含有していることが必要であり、マスク装着後8時間経過後でも、漆喰のpHが11以上に維持されていることが好ましく、このアルカリ活性を維持させるために、マスク装着後8時間平均含水率が8~15%の範囲にあることが望ましい。尚、これらpHや平均含水率の測定法は、後述する実施例に示すとおりである。
【0027】
例えば、この漆喰処理繊維シートを表装に設置したマスクを人体に装着すると、後述する実験例の結果をまとめた
図2に示すように、装着後1~2時間は吐く息による加水量が吸う息による乾燥を上回って含水率が増加し、その後装着8時間まで同含水率は維持される。8時間平均含水率が8~15%の場合、漆喰粒子の表面が保持された水分によって十分覆われることとなり、前記原理で述べた息を吸うタイミングでの水分乾燥による炭酸化の進行を抑制し、アルカリ活性が維持できると考えられる。
【0028】
図3は、分散液の調製に用いた消石灰粒子径D50(メーカー公称値)を8μmで固定し、水消石灰比を変数とした時の8時間平均含水率との関係で、同比が200~250%の時に含水率が最大化された。一方、
図4は水消石灰比とマスク装着時間毎でのアルカリ活性との関係で、8時間後のアルカリ活性は8時間平均含水率と同じ傾向であり、
図9に示す通り、両者にはリニアな相関が認められた。尚、
図9は実験例1~8をプロットした。
【0029】
また、漆喰処理繊維シートから漆喰を溶剤抽出し、レーザー回折法で測定した抽出粒子径D50は、2~40μm、特に3~20μmの範囲にあることが望ましい。この平均粒子径の範囲であればマスク装着8時間平均含水率が高く、優れた抗ウイルス性が維持できる。
【0030】
図5は水消石灰比を220%で固定し、用いた消石灰のD50粒子径(メーカー公称値)を変数とした時の8時間平均含水率との関係曲線であり、粒子径が2~40μmの時に含水率は最大となっている。
一方、
図6はD50粒子径とマスク装着時間毎でのアルカリ活性との関係曲線であり、8時間後のアルカリ活性は同8時間平均含水率と同じ傾向である。
8時間平均含水率とアルカリ活性との関係曲線を示す
図9に示されているように、両者の間にリニアな相関が認められている。
【0031】
本発明において、漆喰処理繊維シートは、特にアルカリ活性による抗ウイルス性を8時間程度維持させるために、窒素法で測定した全細孔容積(細孔直径が1~300nmでの細孔容積)が0.026~0.06cm3/g、特に0.03~0.05cm3/gの範囲にあることが望ましい。この細孔容積の範囲内であればマスク装着8時間平均含水率が高く、優れた抗ウイルス性が維持できる。
【0032】
例えば、
図7及び
図8には、後述する実験例の結果から、全細孔容積を横軸とし、8時間平均含水率(
図7)及びアルカリ活性(
図8)を縦軸に取った曲線が示されており、
図7、
図8共に、水消石灰比(実験例1~4)及びD50粒子径(実験例5~8)の夫々異なる変数による試験結果が同一の検量線に載ることが判明した。従って、全細孔容積は、アルカリ活性の持続性を評価する上で重要なパラメータと考えられる。
【0033】
さらに、漆喰の担持量(水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとの固形分合計量)は、1.4~4.0mg/cm2、特に2.0~3.5mg/cm2の範囲にあることが望ましい。この量が多すぎると、漆喰処理繊維シートの通気性を阻害するおそれがあり、少ないと、当然のことながら、抗ウイルス性を発揮させるアルカリ活性が低くなってしまう。
【0034】
このような漆喰処理繊維シートは、ウイルス感染防止のため、マスクや防護服などの用途に好適に使用され、少なくとも8時間程度は抗ウイルス性を発揮できるように、各種物性が調整される。
また、フィルター効果を高めるために複数枚を重ねて使用することができるが、複数枚を重ねて使用する形態(例えば医療用マスク)では、外面側に存在する繊維シートして、本発明の抗ウイルス性シート(漆喰処理繊維シート)が使用される。
さらに、漆喰よる表面担持は、少なくとも繊維シートの外面側が処理されていればよく、内面側の漆喰処理を省略することもできる。
【実施例0035】
本発明を、次の実験例で説明する。
なお、以下の実験で用いた各試験評価方法および材料を示す。
【0036】
漆喰の担持量;
100mm×100mmサイズの漆喰処理繊維シートを100℃、5分間乾燥させた質量(Wfs)を測定した後、5mm×5mmのサイズに刻んで、1N塩酸中でスターラーにて3時間攪拌した後、水で洗浄し漆喰成分を全て分離した。その後、繊維シートの水分を100℃、5分間乾燥させて乾燥質量(Wf)を得た。下記式により、漆喰の担持量(Ws)を求めた。
漆喰担持量Ws(mg/cm2)=(Wfs-Wf)/100
【0037】
繊維シートに担持された漆喰の抽出粒子径;
100mm×100mmサイズの漆喰処理繊維シートを5mm×5mmのサイズに刻んで、トルエン中でスターラーにて3時間攪拌した後、繊維シートを取り出した。残ったトルエン溶液を静置して沈降した漆喰を分離し、繰り返しトルエンで洗浄してアクリル分を除去した後、乾燥させて粉体状の漆喰を抽出した。
抽出した漆喰は、水を加えてアルミナルツボで1次粒子へ分散させた後、JIS Z 8825に準拠し、水溶媒にてレーザー回折法を用いて粒度分布を測定し、得られたモード径をもって抽出粒子径(μm)とした。
【0038】
全細孔容積;
100mm×100mmサイズの漆喰処理繊維シートを1mm×5mmのサイズに刻んだ後、JIS Z 8831に準拠し、窒素ガス吸着法を用いて同繊維シートの全細孔容積(Pfs)を測定した。さらに、漆喰質量に対する全細孔容積(Ps)を以下の計算式で求めた。尚、不織布のみの全細孔容積Psは、測定限界以下であった。
漆喰の全細孔容積Ps(cm3/g)=Pfs×(Wfs-Wf)/Wfs
【0039】
含水率;
N95マスク(デルタプラス社製)を用い、オリジナルの表層不織布の一部を30×60mmのサイズで剥し取り、同個所に対して同じサイズの漆喰担持繊維シートを2体切断し、1体の質量(W01)を測定した後、剥し取った表層不織布の部位へ縫付け性能評価マスクとした。もう1体は質量(W02)を測定した後、100℃×10分間乾燥させて質量(WD2)を測定した。
得られた性能評価マスクを人体に装着し、4時間後、8時間後に縫付けた同繊維シートを外して質量(W4,W8)及びアルカリ活性を測定した。マスクを装着したn時間毎の含水率(Mn)は、夫々の時間毎に測定した質量(Wn)を用いて、下記式より算出した。
含水率(%)=
〔(Wn‐W01)/W01+(W02‐WD2)/WD2]/100
また、下記式より、8時間平均含水率を得た。
8時間含水率(%)=(M0+M4+M8)/3
【0040】
アルカリ活性;
性能評価マスクに縫付けた漆喰処理繊維シートを4時間後、8時間後に剥し取り、[0038]の質量を測定した後、以下の方法でアルカリ活性を判定した。
水中に5秒間浸漬したpH試験紙を漆喰処理不織布の表面に4秒間指でしっかり密着させ、得られた同紙の発色とpH基準色を照らしてpH値を判定した。尚、マスク装着前の0時間では全ての実験例共にアルカリ判定12.5であった。
pH試験紙としては、0.5刻みで読み取りできるpH試験紙(IainStars Shop-Amazon)を用いた。
また、先に説明した原理に沿って、呼吸周期毎に発生する吐息からの断続的な水分供給に対するアルカリ活性評価を目的に4秒間加水してpH試験紙の発色を判定した。
【0041】
不織布;
下記表1に示す繊維シートを実験に用いた。
【表1】
【0042】
消石灰;
実験に用いた消石灰としては、以下の表2に示す仕様のものを用いた。
【表2】
【0043】
<実験例1>
表1に記載した100mm×100mmサイズの不織布NW1に対して、表2記載の消石灰(SL3)を使用し、表3の配合で消石灰及び溶媒等を容器に入れてスターラーにより5分間撹拌し、得られた消石灰含有混合液をディッピング法により含侵塗布した後、20℃、60%RHの室内で12時間放置し、漆喰処理繊維シートを得た。尚、アクリル樹脂としてはポリトロンA5400((株)旭化成製)を用いた。
得られた漆喰処理繊維シートを用いて、含水率及びアルカリ活性の測定を行い、得られた結果を表4に示す。
【0044】
<実験例2~4>
実験例1の水量及びIPA(イソプロパノール)量を表3のように変更した以外は、実験例1と同様にして調製された消石灰含有混合液をディッピング法により含侵塗布し、漆喰担持繊維シートを得た。
さらに、実験例1と同様にして性能評価マスク得た。得られた含水率及びアルカリ活性の試験結果を表4に示す。尚、実験例1と3のみ、
図5のデータ補完を目的にマスク装着時間2時間及び6時間の含水率を測定した。
【0045】
<実験例5~8>
実験例3で用いた消石灰SL3(D50粒子径8μm)を、表3に示す消石灰に変えて調製された消石灰含有混合液をディッピング法により含侵塗布して漆喰担持繊維シートを得た。さらに、実験例1と同様にして性能評価マスク得た。得られた含水率及びアルカリ活性の試験結果を表4に示す。
【0046】
<実験例9、10>
実験例3での漆喰担持量を表3に示す数値に変更して調製された消石灰含有混合液をディッピング法により含侵塗布して漆喰担持繊維シートを得た。さらに、実験例1と同様にして性能評価マスク得た。得られた含水率及びアルカリ活性の試験結果を表4に示す。
【0047】
<実験例11>
実験例3で用いた繊維シート(不織布NW1)を織布NW2に変更し、漆喰担持量を表3に記載の数値に変更して漆喰担持繊維シートを得た。さらに、実験例1と同様にして性能評価マスク得た。得られた含水率及びアルカリ活性の試験結果を表4に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
<実験例12>
不織布マスクであるバリエールブロック((有)大志製,特許文献1の抗ウイルス剤を使ったフィルターを使用)を用いて、4層ある不織布の中で外側から2層目のウイルス対策フィルターを取り出した。実験例1の漆喰処理繊維シートの代わりに同対策フィルターを用いた以外は同様にして性能評価マスクを得た。
得られた測定結果は、抽出粒子径;1.2μm、細孔容積;0.202、マスク装着後のアルカリ活性0時間後;pH12.5、4時間後;pH11.0、8時間後;pH9.0であった。
8時間経過後では、pHが大きく低下し、アルカリ活性(抗ウイルス性)が不満足となっていることが判る。