(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065211
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】酸化インジウムスズ被膜セパレータ及び燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20240508BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20240508BHJP
H01M 8/0215 20160101ALI20240508BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240508BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/021
H01M8/0215
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173955
(22)【出願日】2022-10-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業、 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】星 芳直
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126GG08
5H126GG12
5H126JJ03
5H126JJ06
(57)【要約】
【課題】
金等の高コストとなる材料を使用せず、ステンレス材に酸化インジウムスズを成膜して接触抵抗を低減させ、耐食性を維持できるセパレータ及びそのセパレータを含む燃料電池スタックを提供すること。
【解決手段】
燃料電池を構成する単セルに含まれ、オーステナイト系ステンレス材2と、ステンレス材2を被覆する酸化インジウムスズ膜3を含み、酸化インジウムスズ被膜セパレータ1であって、好ましくはその接触抵抗値が10mΩ/cm
2以下であり、腐食電流密度を10nA/cm
2以下とすることができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を構成する単セルに含まれ、ステンレス材と、前記ステンレス材を被覆する酸化インジウムスズ膜を含み、前記ステンレス材はオーステナイト系であり、前記酸化インジウムスズ膜の膜厚は1nm以上200nm以下である、酸化インジウムスズ被膜セパレータ。
【請求項2】
接触抵抗値が10mΩ/cm2以下であり、腐食電流密度を10nA/cm2以下とすることができる請求項1に記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータ。
【請求項3】
接触抵抗値を5mΩ/cm2以下とすることができ、腐食電流密度を3nA/cm2以下とすることができる請求項1に記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータを含む単セルを積み重ねる、燃料電池スタック。
【請求項5】
前記燃料電池は固体高分子形燃料電池である請求項1~3の何れか1項に記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウムスズ被膜セパレータ及び燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、多くは水素と多くは酸素を酸化剤とする燃料の化学エネルギーを、一対の酸化還元反応によって電気に変換する電気化学電池である。
【0003】
燃料電池の一種類である固体高分子(膜)形燃料電池(PE(M)FC, Polymer Electrolyte (Membrane) Fuel Cell)は、イオン交換膜を挟んで、正極に酸化材を、負極に還元材(燃料)を供給することにより発電する。起動が早く、運転温度も80-100℃と低い等の特徴を有する。
【0004】
図1に示すように、代表的な燃料電池は、負極ガス拡散層と正極ガス拡散層をセパレータで挟んだ単セルを積み重ねた構造となっている。セパレータは切削性とコストの観点からステンレスが多く使用されている。ところがステンレスであるがために、ガス拡散層との接触抵抗および腐食が問題になっている。
【0005】
特許文献1には、ステンレス基材表面上の不動態層を除去して不動態層除去ステンレス基材を得る工程と、不動態層除去ステンレス基材表面上に耐食性及び導電性を有する層を成膜して耐食性導電層成膜ステンレス基材を得る工程と、耐食性導電層成膜ステンレス基材を、酸素を含む条件下、250℃以上550℃未満の温度範囲でアニール処理する工程とを含む、接触抵抗が低く、耐食性が高いセパレータの製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、金属製のセパレータ基材と、セパレータ基材の表面に形成され、導電率が100S/cm以上の金属酸化物と、金属酸化物の表面に形成され、膜厚が30nm以上の導電性皮膜と、を備える燃料電池用セパレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-122337号公報
【特許文献2】特開2019-192570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ステンレスセパレータの腐食はセル内の水分や、その中に含まれる電解質由来のフッ化物イオンならびに硫酸イオンなどによる酸性化、更には触媒とのガルバニック対によるセパレータの高電位化が原因として引き起こされると考えられる。従来、金を製膜することで腐食を抑制してきたが、コストに課題があった。
そこで、ほかの材料が探索されてきたが、腐食性がある材料の場合、ガス拡散層(GDL)と接触抵抗が高いなど課題がある。
【0009】
そのため、本発明では、金等の高コストとなる材料を使用せず、ステンレス材に酸化インジウムスズ(以下、「ITO」と言う場合がある)を成膜して接触抵抗を低減させ、耐食性を維持できるセパレータ及びそのセパレータを含む燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、以下のとおりである。
(1)燃料電池を構成する単セルに含まれ、ステンレス材と、ステンレス材を被覆する酸化インジウムスズ膜を含み、ステンレス材はオーステナイト系であり、酸化インジウムスズ膜の膜厚は1nm以上200nm以下である、酸化インジウムスズ被膜セパレータである。
(2)接触抵抗値が10mΩ/cm2以下であり、腐食電流密度を10nA/cm2以下とすることができる(1)に記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータである。
(3)接触抵抗値を5mΩ/cm2以下とすることができ、腐食電流密度を3nA/cm2以下とすることができる(1)に記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータである。
(4)(1)~(3)の何れか1つに記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータを含む単セルを積み重ねる、燃料電池スタックである。
(5)燃料電池は固体高分子形燃料電池である(1)~(3)の何れか1つに記載の酸化インジウムスズ被膜セパレータである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による酸化インジウムスズ被膜セパレータによれば、接触抵抗を低くすることと、耐食性を維持することを両立できる燃料電池用セパレータとすることができる。そして、その酸化インジウムスズ被膜セパレータを含む単セルを積み重ねた燃料電池スタックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】セパレータを含む単セルと、その単セルを積み重ねて構成された燃料電池スタックを模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一つの実施形態である酸化インジウムスズ被膜セパレータを示す図(断面図)である。
【
図3】ITOを蒸着した12.5cm角ステンレスシートに示す図(矢視図)である。
【
図4】酸化インジウムスズ被膜セパレータの接触抵抗の測定装置を示す図である。
【
図5】酸化インジウムスズ被膜セパレータの接触抵抗の測定結果を示す図である。
【
図6】酸化インジウムスズ被膜セパレータの腐食電流密度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0014】
燃料電池例えば固体高分子形燃料電池のセパレータは、トレードオフの関係にある、その接触抵抗を低くすることと、その耐食性を維持することを両立して有することが求められる。セパレータの接触抵抗と耐食性を維持することがトレードオフの関係にあるのは、接触抵抗はその対象(セパレータ)が濡れない状態で低下するのに対して、耐食性はその対象(セパレータ)が濡れることにより維持されるからである。
【0015】
そのため、固体高分子形燃料電池のセパレータについてその接触抵抗を低くすることと、その耐食性を維持することを両立することは困難であった。
【0016】
図2に示すように、酸化インジウムスズ被膜セパレータ1は、基板であるステンレス材2が酸化インジウムスズ膜3によって被覆(被膜)されている。
図2ではステンレス材2は平板となっており、その厚みは接触抵抗性の観点から、0.02mm~1mm程度が好ましい。また、平板は例えば
図1に示すようにその表面が凹凸形状を有していてもよい。さらにセパレータとして機能し、酸化インジウムスズで被膜ができる形状、寸法等であれば特に制限はない。
【0017】
ステンレス材2が酸化インジウムスズ膜3によってステンレス材2を被覆する方法すなわち成膜方法は、スパッタ法を用いる。コストと耐食性の観点から、オーステナイト系である。オーステナイト系としては、SUS304、SUS304L、SUS316があるが、SUS304が好ましい。
酸化インジウムスズ膜3の膜厚は、接触抵抗性の観点から、1nm~200nmであり、10nm~150nmが好ましく、20nm~120nmがより好ましく、40nm~100nmがさらに好ましい。
【実施例0018】
(酸化インジウムスズ被膜セパレータの作製)
図3に示すように、ステンレス材としてオーステナイト系(SUS304)の平板(12.5cm角、厚み:0.1mm)を使用し、次のようにして酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1)を作製した。なお、12.5cm角としたのは、実際のセパレータサイズを想定したためである。そして、そのサイズは100cm
2以上が好ましい。
ステンレスの平板を洗浄(ステンレスの平板をアセトン中に浸漬して5分超音波洗浄し、ついでエタノール中に浸漬して5分超音波洗浄)し、窒素ガスで乾燥させた。スパッタ法はDCスパッタであって、島津製作所製スパッタリング装置を使用し、放電モードは直流マグネトロン放電、スパッタ方式はスパッタアップであった。ターゲットとしては、組成はIn
2O
3-SnO
2(10wt%)、純度は99.99%(4N)であり、スパッタ時の設定温度360度、Arの流量10.5sccm、O
2の流量0.3sccm、圧力0.5Pa及びDCは80W、時間は140secであった。
【0019】
【0020】
酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1)において、時間(スパッタ)を変更した以外は実施例1と同様にして、酸化インジウムスズ被膜セパレータ21(時間:210sec、実施例2)、酸化インジウムスズ被膜セパレータ31(270sec、実施例3)、酸化インジウムスズ被膜セパレータ41(350sec、実施例4)を作製した(表1)。
【0021】
酸化インジウムスズ膜の厚みとスパッタ時間とは対応し、酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1)での酸化インジウムスズ膜の膜厚は40nm、酸化インジウムスズ被膜セパレータ21(実施例2)での酸化インジウムスズ膜の膜厚は60nm、酸化インジウムスズ被膜セパレータ31(実施例3)での酸化インジウムスズ膜の膜厚は80nm、酸化インジウムスズ被膜セパレータ41(実施例4)での酸化インジウムスズ膜の膜厚は100nmであった。
【0022】
図3から、酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1)について、ステンレス材12の平板の表面は青みがかった色になり、ステンレス材の平板の表面が酸化インジウムスズ13によって被膜されたことが観察できた。
【0023】
(酸化インジウムスズ被膜セパレータの接触抵抗)
図4に示すようにして、酸化インジウムスズ被膜セパレータ21に対する接触抵抗の測定を行った。接触抵抗の測定装置6は、酸化インジウムスズ被膜セパレータ21の酸化インジウムスズ膜23表面の一部分とGDL(ガス拡散層)4の一方の表面を接触させた測定部分と、酸化インジウムスズ被膜セパレータ21のステンレス材(平板)22表面及びGDL4の表面にそれぞれ接触させた直径5mmの金棒5、直流電流計及び電圧計を有する。
【0024】
酸化インジウムスズ被膜セパレータ21の接触抵抗は、直流電流を金棒5間に流したときに、GDL4と酸化インジウムスズ被膜セパレータ21の間に発生した電圧差を測定することによって求めた。すなわち4端子測定でGDLとITO23/SUS22との接触抵抗(界面抵抗)を測定した。なお、測定時の圧力は1MPaとした。
【0025】
図5には、酸化インジウムスズ被膜セパレータ11、21、31、41の接触抵抗の測定結果を示す。
図5に示すように、酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1)での接触抵抗は10mΩ/cm
2、酸化インジウムスズ被膜セパレータ21(実施例2)での接触抵抗は4.9mΩ/cm
2、酸化インジウムスズ被膜セパレータ31(実施例3)での7.5mΩ/cm
2、酸化インジウムスズ被膜セパレータ41(実施例4)での7.1mΩ/cm
2であった。これらにより、接触抵抗値は10mΩ/cm
2以下であり、さらに、接触抵抗値を5mΩ/cm
2以下(実施例2)とすることができることが分かった。
【0026】
(酸化インジウムスズ被膜セパレータの腐食電流密度)
酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1)、酸化インジウムスズ被膜セパレータ31(実施例3)に対して腐食電流密度の測定を行った。測定条件は次のようであった。作用極に酸化インジウムスズ被膜セパレータ,対極に白金線、参照極に飽和KCl銀/塩化銀電極、電解液に燃料電池環境としてpH3のH
2SO
4
+、3ppmF
-を用いた。0.9V vs.SHEに定電位分極し腐食電流密度の測定をおこなった。
その結果、
図6に示すように、酸化インジウムスズ被膜セパレータ11(実施例1、膜厚:40nm)で測定時間が3hrでは、腐食電流密度9nA/cm
2、酸化インジウムスズ被膜セパレータ31(実施例3、膜厚:80nm)では、腐食電流密度3nA/cm
2という低い値となった。そのため耐食性を維持できることが分かった。