(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065261
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】皮膚状態改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20240508BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240508BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240508BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20240508BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61K35/744
A23L33/135
A61P17/16
A61K8/99
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174017
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】大木 篤史
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD05
4B018MD10
4B018MD29
4B018MD35
4B018MD36
4B018MD86
4B018ME07
4B018ME14
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC01
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087CA09
4C087MA17
4C087MA52
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
(57)【要約】
【課題】アレルギー疾患の一つであるアトピー性皮膚炎は、遺伝的感受性、免疫および表皮バリアの機能障害、ならびに環境因子が複雑に関与して発症する皮膚の慢性炎症性疾患であり、これらの症状に対して改善効果を有し、サプリメント等として長期間継続摂取可能な乳酸菌が求められている。
【解決手段】本発明者等は、乳酸菌であるラクトコッカス・ラクティスT21株を含有する食品の連続経口摂取時の皮膚計測値におよぼす影響を検討した結果、乳酸菌含有食品の連続経口摂取により、アトピー素因を有する健常成人に対する皮膚のバリア機能および明るさに関して改善効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランベリー由来のラクトコッカス属菌の乳酸菌、及び前記乳酸菌の発酵物を有効成分とする、皮膚状態改善剤。
【請求項2】
前記皮膚状態の改善は、皮膚のバリア機能または明るさの改善を含む、請求項1記載の皮膚状態改善剤。
【請求項3】
前記乳酸菌は、ラクトコッカス・ラクティスT21株(NITE BP-02164)である、請求項1または2に記載の皮膚状態改善剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の皮膚状態改善剤を有効成分として含むことを特徴とする皮膚状態改善用医薬品または医薬部外品。
【請求項5】
請求項1または2に記載の皮膚状態改善剤を有効成分として含むことを特徴とする皮膚状態改善用飲食品。
【請求項6】
請求項1または2に記載の皮膚状態改善剤を有効成分として含むことを特徴とする皮膚状態改善用化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚のバリア機能または明るさの改善機能を有するクランベリー由来の乳酸菌の菌株及びその菌体を含有する飲料、食品に関するものである。特に、ラクトコッカス・ラクティスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルギー性疾患発症の増加と発症の若年化傾向が社会問題となっている。アレルギー疾患に対する根治療法として免疫療法が有望視されているが、治療法の確立までには至っていない。一方、食生活の改善から、アレルギー疾患の発症を予防し、発症者の症状を緩和できれば、強力な予防・改善手段の一つとなる。
【0003】
アレルギーの発症には腸内細菌叢が深く関わっていることは知られているが、最近、その腸内細菌叢を介することなく直接、免疫賦活などの生体調節、生体防御、疾病予防、回復、老化制御に働きかけるバイオジェニックスの有効性が報告されている。
【0004】
その中で乳酸菌は、ヨーグルトなどの発酵乳製品、各種漬物類など、多くの加工飲食品において、味や風味の付与、栄養の強化、食品の保存性改善など様々な目的で用いられてきたが、さらに、乳酸菌のアレルギー抑制といった有効な生理活性について近年注目が集まっており、精力的に研究が進められている。
【0005】
特許文献1には「IL-12産生促進」によるアレルギー抑制作用を有する乳酸菌として、クランベリー由来の乳酸菌(ラクトコッカス・ラクティスT21株)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アレルギー疾患の一つであるアトピー性皮膚炎は、遺伝的感受性、免疫および表皮バリアの機能障害、ならびに環境因子が複雑に関与して発症する皮膚の慢性炎症性疾患であり、これらの症状に対して改善効果を有し、サプリメント等として長期間継続摂取可能な乳酸菌が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ラクトコッカス・ラクティスT21株の乳酸菌含有食品の連続経口摂取時の皮膚状態改善効果の検討を行った結果、乳酸菌含有食品の連続経口摂取により、アトピー素因を有する健常成人に対して皮膚のバリア機能および明るさに関して改善効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本願第一の発明は、ラクトコッカス・ラクティスT21株の乳酸菌及び当該乳酸菌の発酵物を有効成分とする、経口摂取可能な皮膚状態改善剤であり、本願第二の発明は、皮膚状態の改善、すなわち皮膚のバリア機能または明るさの改善効果を含む本願第一の発明に記載の皮膚状態改善剤である。さらに、本出願人は、当該ラクトコッカス・ラクティスT21株の乳酸菌を含む皮膚状態を改善するための皮膚状態改善用医薬品・医薬部外品、または皮膚状態改善用化粧品、または皮膚状態改善用飲食品も意図している。
【0010】
本発明において皮膚状態の改善とは、乾燥による皮膚の経表皮水分量の減少および明るさ色差(L*)が客観的に増したことをいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明の乳酸菌は、乳酸菌及び乳酸菌含有食品の連続経口摂取により、アトピー素因を有する健常成人に対して皮膚のバリア機能または明るさに関して改善することが可能な皮膚改善剤、医薬品、医薬部外品、化粧品または飲食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は被験食品とプラセボ食品について、経表皮水分蒸散量(首元)を摂取前検査からの変化量の実測値を比較した図である。
【
図2】
図2は被験食品とプラセボ食品について、色差(L
*)(首元)を摂取前検査からの変化量の実測値を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
1 .ラクトコッカス・ラクティスT21株(NITE BP-02164)
本発明の乳酸菌は、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis) である。特にラクトコッカス・ラクティスに属する乳酸菌のうち、ラクトコッカス・ラクティスT21株である。本発明にいうT21の記号は日清食品ホールディングス株式会社で独自に菌株に付与した番号である。
【0014】
本発明のラクトコッカス・ラクティスT21株は、下記の条件で寄託されている。
( 1 )寄託機関名:独立行政法人製品技術基盤機構 特許微生物寄託センター
( 2 )連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
( 3 )受託番号: NITE BP-02164
( 4 )識別のための表示:T21
( 5 )原寄託日:2015年11月20日
( 6 )ブダペスト条約に基づく寄託への移管日:2016年10月12日
本発明のラクトコッカス・ラクティスT21株の菌学的性質は、以下の表1及び2に示す通りである。本菌学的性質は、Bergey's manual of systematic bacteriology Vol.2(1986)に記載の方法による。
【0015】
【0016】
【0017】
2.皮膚状態改善剤
本発明においては、前記ラクトコッカス属菌の乳酸菌を有効成分とする皮膚状態改善剤とすることができる。ここで、本発明にいう皮膚状態改善とは、乾燥による皮膚の経表皮水分量の減少または明るさの改善効果を奏するものをいう。
当該皮膚状態改善剤は、前記乳酸菌を発酵後の乳酸菌の菌体そのものであってもよいし、当該乳酸菌を発酵後に濃縮や分離等でエキス化及び粉末化したものであってもよい。
さらに、前記乳酸菌菌体に他の成分(例えば、糖類、タンパク質、アミノ酸、脂質、水分、ビタミン、ミネラル等)を含んでいてもよい。さらに、当該皮膚状態改善剤は、含水形態であっても乾燥形態であっても良いことは勿論である。
【0018】
3.皮膚状態改善剤含有品
本発明では皮膚状態改善剤を有効成分として含む医薬品、化粧品、医薬部外品、飲食品(健康食品を含む)があげられる。
【0019】
4.飲食品
本発明の乳酸菌は飲食品に含有せしめて使用することができる。本発明の乳酸菌は特に飲料に好適に用いることができるが、例えば、はっ酵乳及び乳酸菌飲料が考えられる。現行の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令では、成分規格としてはっ酵乳(無脂乳固形分8.0%以上のもの)や乳製品乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%以上のもの)であれば1.0×107cfu/ml以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0%未満のもの)であれば1.0×106cfu/ml以上必要とされるが、乳などの発酵液中で増殖させたり、最終製品の形態で増殖させたりすることによって上記の菌数を実現することができる。また、はっ酵乳及び乳酸菌飲料以外にも、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等にも利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。上記の他、本発明の食品は、前記乳酸菌と共に、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0020】
本発明の乳酸菌は、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、機能性表示食品、栄養補助食品等に含有させることも有用である。
【0021】
また本発明の乳酸菌は、食品以外にも化粧品分野、医薬品分野、医薬部外品、サイレージ、動物用餌、植物液体肥料等の動物飼料・植物肥料分野においても応用可能である。
【0022】
5.医薬品
本発明の乳酸菌は、発酵後に濃縮や乾燥等でエキス化及び粉末化した上で医薬品として使用することができる。例えば、エキス化したものを瓶等に詰めたものや、発酵液乾燥粉末を賦形剤なども用いて顆粒やカプセル化、打錠し錠剤の形態として提供が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のクランベリー由来の乳酸菌(ラクトコッカス・ラクティスT21株)は、経口摂取した場合に皮膚のバリア機能および明るさに関して改善機能を有する。
【実施例0024】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
<試験>ヒト被験者に対する効果試験
乳酸菌含有食品の連続摂取による皮膚状態改善効果を検討することを目的として、皮膚の乾燥に伴うかゆみを自覚し、かつアトピー素因を有する20歳~64歳の健常男女を対象に、乳酸菌(25 mg/粒)含有食品またはプラセボ食品を1日に2粒を8週間連続摂取させる無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を実施した。
【0026】
試験食品摂取群としてプラセボ食品群20名と被験食品群20名の計40名を有効性解析対象者とした。
【0027】
<試験食品の作製>
試験食品として、表3に示すラクトコッカス・ラクティスT21株を含有した被験食品及びプラセボ食品を作製した。また被験食品が含有する本菌株は死菌体である。
【0028】
【0029】
<試験方法>
各被験者40名をプラセボ食品群20名、被験食品群20名に振り分け、各試験食品を8週間摂取させた。
【0030】
観察時期摂取前、摂取8週後に各被験者の皮膚計測(経表皮水分蒸散量、色差(L*))を実施した。
【0031】
皮膚計測では、経表皮水分蒸散量においてTewameter(R) TM300(Courage+Khazaka electronic GmbH)を使用し、仰臥位および側臥位にて首元を測定した。また色差(L*)はCM-2600d(コニカミノルタジャパン株式会社)を使用し、仰臥位および側臥位にて首元を測定した。
【0032】
<結果>
被験者の首元の経表皮水分蒸散量を摂取前と摂取後8週目に測定したところ、
図1に示すように経表皮水分量の変化量が被験食品群において有意に減少し、皮膚のバリア機能の改善を示した。
【0033】
被験者の首元の色差(L
*)を摂取前と摂取後8週目に測定したところ、
図2に示すようにL
*値の変化量が被験食品群において有意に増加し、皮膚の明るさの改善を示した。
【0034】
このように皮膚の乾燥に伴うかゆみを自覚し、かつアトピー素因を有する20歳~64歳の健常男女を対象としたプラセボ対照二重盲検試験の結果、ラクトコッカス・ラクティスT21株の乳酸菌を主成分とする皮膚状態改善剤には、皮膚のバリア機能または明るさの改善に効果があることが確認された。