(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065333
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】素形体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/42 20060101AFI20240508BHJP
B29C 70/12 20060101ALI20240508BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B29C70/42
B29C70/12
B29C39/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174149
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】青柳 達也
(72)【発明者】
【氏名】田原 伸一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康行
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AB25
4F204AC05
4F204AD16
4F204AH12
4F204AM32
4F204EA03
4F204EB01
4F204EF27
4F204EK24
4F205AB25
4F205AC05
4F205AD16
4F205AH12
4F205AM32
4F205HA06
4F205HA12
4F205HA27
4F205HA36
4F205HA47
4F205HB01
4F205HC08
4F205HF23
4F205HK31
4F205HM02
4F205HT05
(57)【要約】
【課題】最終製品の品質を向上させることができる素形体を提供すること。
【解決手段】素形体1は、短繊維21及び樹脂22を含む立体形状の素形体であって、互いに対向する端面部分である上面11及び下面12を有し、軸線方向から見て、上面11及び下面12においてボイドが視認されない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維及び樹脂を含む立体形状の素形体であって、
互いに対向する端面部分である第1の面及び第2の面を有し、
軸線方向から見て、前記第1の面及び前記第2の面においてボイドが視認されない、素形体。
【請求項2】
前記第1の面及び前記第2の面に、最大径100ミクロン以上のボイドが存在しない、請求項1記載の素形体。
【請求項3】
前記軸線方向における前記素形体の前記第2の面側の領域であって、前記軸線方向から見た中央領域の周辺部の領域に、ボイドが存在しない、請求項2記載の素形体。
【請求項4】
繊維及び樹脂を含む立体形状の素形体の製造方法であって、
上型の立体形状の突出部及び下型の間の充填領域に繊維をセットする工程と、
前記突出部の側面を伝って前記充填領域に樹脂が流れ込むように、樹脂を注入する工程と、
樹脂を硬化させる工程と、を含み、
前記樹脂を注入する工程では、前記突出部の下面に形成された複数の溝部を通って、前記突出部の側面を伝ってきた樹脂が該下面の各領域に導かれ、該下面の各領域から前記充填領域に樹脂が流れ込む、素形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、素形体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製歯車は、軽量で且つ静粛性に優れており、例えば車両用又は産業用の歯車として広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂製歯車は、例えば短繊維及び樹脂を含む素形体を加工することにより生成される。このような素形体は、例えば、金型に短繊維をセットした状態で金型に樹脂を注入し、樹脂を硬化させることにより生成される。
【0005】
ここで、樹脂を金型に注入する過程においては、ボイドが発生してしまう場合がある。ボイドが製品部分に残留してしまうことを回避するために、例えば、樹脂硬化後に削られる一端面側にボイドを集めるためのボイド溜めが金型に設けられる。金型において均等に樹脂を含浸させることができた場合には、上述したボイド溜めにボイドを集めることができるが、一般的に、均等に樹脂を含浸させることは難しく、含浸のばらつきによって、ボイド溜め外の削られない部分(すなわち、製品部分)にボイドが残留してしまうことがある。これにより、最終製品の品質が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、最終製品の品質を向上させることができる素形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る素形体は、短繊維及び樹脂を含む立体形状の素形体であって、互いに対向する端面部分である第1の面及び第2の面を有し、軸線方向から見て、第1の面及び第2の面においてボイドが視認されない。このように、第1の面及び第2の面においてボイドが視認されないことにより、素形体の外観品質を向上させることができ、最終製品の品質を向上させることができる。
【0008】
上記素形体においては、第1の面及び第2の面に、最大径100ミクロン以上のボイドが存在していなくてもよい。これにより、第1の面及び第2の面においてボイドが視認されることを適切に回避することができ、最終製品の品質を向上させることができる。
【0009】
上記素形体においては、軸線方向における第2の面側の領域であって、軸線方向から見た中央領域の周辺部の領域に、ボイドが存在していなくてもよい。ボイド溜めが軸線方向から見た中央領域にのみ設けられている場合には、ボイド溜めの外部(中央領域の周辺部の領域)にボイドが残留しやすくなる。この点、第1の面及び第2の面だけでなく、例えば第2の面の周辺部の領域(素形体の内部の領域を含む)にボイドが残留していない構成とされることにより、最終製品の品質を向上させることができる。
【0010】
本発明の一態様に係る素形体の製造方法は、繊維及び樹脂を含む立体形状の素形体の製造方法であって、上型の立体形状の突出部及び下型の間の充填領域に繊維をセットする工程と、突出部の側面を伝って充填領域に樹脂が流れ込むように、樹脂を注入する工程と、樹脂を硬化させる工程と、を含み、樹脂を注入する工程では、突出部の下面に形成された複数の溝部を通って、突出部の側面を伝ってきた樹脂が該下面の各領域に導かれ、該下面の各領域から充填領域に樹脂が流れ込む。
【0011】
本実施形態に係る素形体の製造方法によれば、樹脂を注入する工程では、突出部の下面に形成された複数の溝部を通って、突出部の側面を伝ってきた樹脂が該下面の各領域に導かれ、該下面の各領域から充填領域に樹脂が流れ込む。このように、複数の溝部が設けられていることによって、複数の溝部を介して、下面の全面から充填領域に樹脂が充填されることになり、樹脂を均一に充填させることができる。このことで、樹脂が均一に充填されない場合に問題になる製品部分へのボイドの残留を抑制し、素形体の最終製品の品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、最終製品の品質を向上させることができる素形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る素形体の斜視図である。
【
図2】
図2は、素形体の製造方法を説明する図である。
【
図3】
図3(a)は上型の断面図であり、
図3(b)は上型の底面図である。
【
図4】
図4(a)は下型の平面図であり、
図4(b)は下型の断面図である。
【
図5】
図5(a)はボイド溜めの平面図であり、
図5(b)はボイド溜めの断面図である。
【
図6】
図6は、樹脂の充填途中の状態を示す図である。
【
図7】
図7(a)は樹脂の充填率が30%の状態を示す図であり、
図7(b)は樹脂の充填率が45%の状態を示す図であり、
図7(c)は樹脂の充填率が60%の状態を示す図である。
【
図8】
図8(a)は端部が削られる前の素形体の上面側を示す斜視図であり、
図8(b)は端部が削られる前の素形体の下面側を示す斜視図である。
【
図9】
図9(a)は第1の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が30%の状態を示す図であり、
図9(b)は第1の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が45%の状態を示す図であり、
図9(c)は第1の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が60%の状態を示す図である。
【
図10】
図10(a)は第2の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が30%の状態を示す図であり、
図10(b)は第2の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が45%の状態を示す図であり、
図10(c)は第2の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が60%の状態を示す図である。
【
図11】
図11(a)は端部が削られる前の円環状の素形体の上面側を示す斜視図であり、
図11(b)は端部が削られる前の円環状の素形体の下面側を示す斜視図である。
【
図12】
図12(a)は端部が削られる前の板状の素形体の上面側を示す斜視図であり、
図12(b)は端部が削られる前の板状の素形体の下面側を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る素形体1の斜視図である。素形体1は、短繊維及び樹脂を含む立体形状の部材である。素形体1は、例えば、自転車用、車両用、又は産業用の歯車として用いられる樹脂製歯車(いわゆる高強度樹脂ギヤ)に加工される部材である。素形体1は、例えば抄造法によって形成される。
【0016】
素形体1の短繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリケトン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、及びポリビニルアルコール系繊維から選ばれた少なくとも1種以上の短繊維を使用することが好ましい。特に、パラ系アラミド繊維と、メタ系アラミド繊維との混合繊維を短繊維として用いた場合には、耐熱性、強度、樹脂成形後の加工性のバランスが優れている。短繊維の融点、又は、短繊維の分解温度は、250℃以上であることが好ましい。このような短繊維を用いることで、成形時の成形温度又は加工温度、実使用時の雰囲気温度において、短繊維が熱劣化を起こすことなく、耐熱性に優れた素形体1を生成することができる。
【0017】
スラリとしては、有機溶媒、有機溶媒と水との混合物、又は、水等を用いることができる。スラリとしては、特に経済的で、環境への負荷が少ない、水を使用することが好ましい。有機溶媒を用いる場合には、安全面に充分注意し、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を使用することも可能である。
【0018】
樹脂は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよいが、製造される樹脂製歯車の強度を向上させる観点から、熱硬化性樹脂であると好ましい。より具体的には、エポキシ樹脂、ポリアミノアミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等から選ばれた1以上の樹脂と、選択された樹脂の種類に応じた硬化剤とを組み合わせたものが使用できる。これらの中でも、樹脂硬化物の強度、耐熱性等の点からポリアミノアミド樹脂が好ましく、耐熱性、強度が優れる2,2’-(1,3フェニレン)ビス2-オキサゾリンとアミン硬化剤の混合物100質量部に対し、触媒には硬化促進剤として、例えば、n-オクチルブロマイドが5質量部以下からなる樹脂を使用することが好ましい。
【0019】
素形体1は、その軸線方向において互いに対向する端面部分(立体の底面部分)である上面11(第1の面)及び下面12(第2の面)を有する。以下では、軸線方向のうち、上面11を基準とした下面12方向を「下」、下面12を基準とした上面11方向を「上」と記載する場合がある。素形体1では、その軸線方向から見て、上面11及び下面12においてボイドが視認されない。
【0020】
ボイドとは、成形品(ここでは素形体)の製造過程において生じた空隙状の欠陥である。ボイドは、物性的な欠陥となりうる。また、ボイドは、端面部分に視認可能な態様で存在することにより外観的な欠陥となりうる。上述したように、素形体1では、端面部分である上面11及び下面12においてボイドが視認されない。すなわち、素形体1では、ボイドが外観的な欠陥として問題にならない。
【0021】
より具体的には、素形体1において、上面11及び下面12に、最大径100ミクロン以上のボイドが存在しない。これにより、上面11及び下面12においてボイドが視認されることを適切に回避することができる。なお、上面11及び下面12には、ボイドが全く存在していなくてもよいし、100ミクロン未満のボイドのみが存在していてもよい。
【0022】
また、素形体1においては、軸線方向における素形体1の下面12側の領域であって、軸線方向から見た中央領域(円の中心領域)の周辺部の領域に、ボイドが存在していなくてもよい。ここでの「軸線方向における素形体1の下面12側の領域」とは、下面12だけでなく、例えば軸線方向における下面12と上面11との中間の領域よりも下面12寄りの領域を言い、素形体1の内部の領域を含んでいる。また、ここでの「軸線方向から見た中央領域の周辺部の領域」とは、例えば素形体の径方向における外端部と中心との中間の領域よりも中心寄りの領域を言う。
【0023】
同様に、素形体1においては、軸線方向における素形体1の上面11側の領域であって、軸線方向から見た中央領域(円の中心領域)の周辺部の領域に、ボイドが存在していなくてもよい。ここでの「軸線方向における素形体1の上面11側の領域」とは、上面11だけでなく、例えば軸線方向における下面12と上面11との中間の領域よりも上面11寄りの領域を言い、素形体1の内部の領域を含んでいる。また、ここでの「軸線方向から見た中央領域の周辺部の領域」とは、例えば素形体の径方向における外端部と中心との中間の領域よりも中心寄りの領域を言う。
【0024】
次に、素形体1の製造方法について、
図2~
図8を参照して説明する。
図2は、素形体1の製造方法を説明する図である。
図2においては、素形体1の製造に係る金型を構成する上型110、下型120、及びボイド溜め130が示されている(詳細は後述)。素形体1の製造方法は、短繊維21をセットする第1工程と、樹脂22を注入する第2工程と、樹脂22を硬化させる第3工程と、を含んでいる。
【0025】
図3(a)は上型110の断面図であり、
図3(b)は上型110の底面図である。
図2及び
図3(a)(b)を参照して、上型110の構成について説明する。上型110は、水平方向に延びる平板部111と、平板部111の一端部側から下方に延びる立体形状の突出部112と、を有する。
【0026】
平板部111は、平面視矩形の板状部分である。平板部111は、上下方向において下型に対向するように設けられており、下型120の上部に設けられている。平板部111の長手方向における一端部側には、上述した突出部112が設けられている。また、平板部111の長手方向における他端部側(且つ、短手方向における中央部)には、平板部111を厚さ方向に貫通する貫通孔111xが形成されている。貫通孔111xは、注入される樹脂22の流路である。
【0027】
突出部112は、平板部111の長手方向における一端部側(且つ短手方向における中央部)から下方に延びる立体形状の部分である。突出部112の下面112aの略全域には、下方に向かって延びる複数の突起112xが設けられている。突起112xは、例えば四角のブロック形状とされている。下面112aにおいて、複数の突起112xは整列して設けられており、複数の突起112x間には樹脂22が通る一直線上の複数の溝部112yが形成されている。複数の突起112xは、例えば、上述した平板部111の長手方向及び短手方向において整列して設けられている。この場合、
図3(b)に示されるように、上記長手方向又は短手方向に一直線状に延びる複数の溝部112yが形成される。このような複数の溝部112yを樹脂22が流れることにより、下面112aの略全域に樹脂22が流れ込むこととなる。このように、溝部112yは、整流溝として機能する。
【0028】
図4(a)は下型120の平面図であり、
図4(b)は下型120の断面図である。
図2及び
図4(a)(b)を参照して、下型120の構成について説明する。下型120は、略直方体形状の基部121を有する。基部121は、上下方向において上型110に対向するように設けられており、上型110の下部に設けられている。下型120の長手方向における一端部側(且つ、短手方向における中央部)には、中空円筒状の収容空間121xが形成されている。
【0029】
収容空間121xは、上型110の突出部112に対応する形状とされており、該突出部112を収容する。詳細には、収容空間121xは、径方向において突出部112よりも一回り大きく形成されており、突出部112の側面112bを伝う樹脂22が下方に向かって流れることができる程度に側面112bから離間するように形成されている。また、収容空間121xの深さは、突出部112の上下方向の長さよりも深く形成されている。このため、
図2に示されるように、突出部112の下面112aと収容空間121xの下面121aとの間には、樹脂22が充填される充填領域121yが形成されている。このような充填領域121yは、樹脂22の注入前において予め短繊維21がセットされる領域(空間)である。
【0030】
図4(b)に示されるように、収容空間121xの下方には、中空円筒状のエジェクタピン空間121zが形成されている。エジェクタピン空間121zは、収容空間121xと同心円状且つ収容空間121xよりも小径に形成されている。エジェクタピン空間121zには、後述するエジェクタピン140が挿入される。
【0031】
基部121の上面121uには、平板部111の貫通孔111xに連続する樹脂22の流路である流路121bが形成されている。流路121bは、上面121uに形成された凹部である。流路121bは、
図2及び
図4(a)に示されるように、貫通孔111xに連続すると共に収容空間121x方向に直線状に延びるように形成された第1部分121cと、第1部分121cに連続すると共に収容空間121xの外縁に沿って円状に形成された第2部分121d(
図4参照)と、を有している。
【0032】
樹脂22の流れについて、
図2を参照して説明する。上型110及び下型120がセットされた状態で、上型110の貫通孔111xの上端から樹脂22が注入される。注入された樹脂22は、貫通孔111x、第1部分121c、及び第2部分121dを介して突出部112の側面112bに到達する。そして、樹脂22は側面112bを伝って側面112bと収容空間121xを区画する壁部121wとの間の隙間を通って下方に向かい、突出部112の下面112aに到達する。更に、樹脂22は、突出部112の下面112aに形成された複数の溝部112yを通って下面112aの略全域に流れ込む。このため、
図6に示されるように、下面112aの略全域から充填領域121yに向かって、概ね均一に樹脂22が含浸することとなる。
【0033】
図5(a)はエジェクタピン140及びボイド溜め130の平面図であり、
図5(b)はエジェクタピン140及びボイド溜め130の断面図である。
図2及び
図5(a)(b)を参照して、エジェクタピン140及びボイド溜め130の構成について説明する。エジェクタピン140は、エジェクタピン空間121z(
図4(b)参照)に収容され、充填領域121yから成形品である素形体1を取り出すための部品である。ボイド溜め130は、エジェクタピン140の先端(すなわち上面)に設けられている。ボイド溜め130は、例えば四角のブロック形状とされた複数の突起131と、複数の突起131の間に形成された溝部132と、を有する。このような構成によれば、複数の突起131の間の溝部132にボイドが集められ、ボイドを溜める(収集する)ことができる。
【0034】
図6は、樹脂22の充填途中の状態を示す図である。
図7(a)は樹脂22の充填率が30%の状態を示す図であり、
図7(b)は樹脂22の充填率が45%の状態を示す図であり、
図7(c)は樹脂22の充填率が60%の状態を示す図である。
図2、
図6、及び
図7(a)~(c)を参照して、素形体1の製造方法を説明する。
【0035】
第1工程では、
図2に示されるように、上型110の立体形状の突出部112及び下型120の間の充填領域121yに短繊維21をセットする。
【0036】
第2工程では、突出部112の側面112bを伝って充填領域121yに樹脂22が流れ込むように、樹脂22を注入する。上述したように、貫通孔111xから注入された樹脂22は、貫通孔111x、第1部分121c、及び第2部分121dを介して突出部112の側面112bに到達し、側面112bを伝って側面112bと収容空間121xを区画する壁部121wとの間の隙間を通って下方に向かい、突出部112の下面112aに形成された複数の溝部112yを通って下面112aの略全域に流れ込む。そして、
図6に示されるように、下面112aの略全域から充填領域121yに向かって、概ね均一に樹脂22が含浸する。
【0037】
図7(a)~
図7(c)に示されるように、充填領域121yにおける樹脂22の充填率が上がっていく過程において、樹脂22は概ね均一に含浸していく。ここで、充填領域121yの下方、且つ、軸線方向から見た中央領域にはボイド溜め130が設けられている。ボイド溜め130には、樹脂22の含浸過程において生じたボイド300が集められる(
図7(c)参照)。
【0038】
第3工程では、充填領域121yに充填した樹脂22を硬化させることにより素形体1を生成する。
【0039】
図8(a)は端部が削られる前の素形体1の上面側を示す斜視図であり、
図8(b)は端部が削られる前の素形体1の下面側を示す斜視図である。第3工程までの処理で生成された素形体1は、上面側において、複数の突起112x及び複数の溝部112yに応じた穴部201が形成されている(
図8(a)参照)。また、第3工程までの処理で生成された素形体1は、下面側において、ボイド溜め130に応じた穴部202が形成されている。そのため、第3工程後において、素形体1の上面側及び下面側が削られる。これにより、
図1に示されるような立体形状(例えば円柱状)の素形体1が生成される。
【0040】
素形体1は、その後、切削工程及び歯切加工工程等が行われて、樹脂製歯車とされてもよい。切削工程では、例えば、素形体1を旋盤等の工作機械によって切削加工する。具体的には、切削工程では、素形体1の外径部分及び内径部側面を削り、素形体1を所定の寸法に加工する。また、歯切加工工程では、素形体1の歯切加工を行う。適用される歯切加工としては、ホブ盤又はシェービング盤による仕上げ加工が挙げられる。ホブ盤としては、例えば三菱重工業株式会社製のGE15A(商品名)を用いることができる。ホブ盤による切削量は、200μm以上になる。シェービング盤としては、例えば三菱重工業株式会社製のFE30A(商品名)を用いることができる。シェービング加工による切削量は少なく、20~150μm程度になる。歯切加工工程により、素形体1に歯形が形成され、樹脂製歯車が製造される。
【0041】
次に、本実施形態に係る素形体1及び素形体1の製造方法の作用効果について説明する。
【0042】
最初に、比較例に係る製造方法においてボイドが生じる態様について説明する。
図9(a)は第1の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が30%の状態を示す図であり、
図9(b)は第1の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が45%の状態を示す図であり、
図9(c)は第1の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が60%の状態を示す図である。
図10(a)は第2の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が30%の状態を示す図であり、
図10(b)は第2の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が45%の状態を示す図であり、
図10(c)は第2の比較例に係る製造方法における樹脂の充填率が60%の状態を示す図である。
【0043】
図9(a)~(c)に示される態様及び
図10(a)~(c)に示される態様では、いずれも充填領域121yに短繊維21がセットされた状態で、上型の側面の全周に設けられたフィルムゲート400から樹脂が充填されている。ここで、例えば短繊維21(アラミド繊維等)が一部のフィルムゲート400に染み込むことによって、該一部のフィルムゲートからの樹脂の含浸速度が遅れ、樹脂が均一に充填されない場合がある。樹脂が均一に充填されないことによって、短繊維21内にウェルドが発生する場合がある。
【0044】
例えば、
図9(a)~(c)に示される第1の比較例のように、ボイド溜め530が軸線方向から見た中央領域にのみ設けられている場合には、不均一に充填される樹脂によって、含浸速度が速い樹脂によってボイド溜め530が埋まってしまい、ボイド溜め530の外部(製品部分)にボイド800(
図9(c)参照)が残留してしまうことが考えられる。
【0045】
また、例えば
図10に示される第2の比較例のように、ボイド溜め630が比較的高範囲に設けられている場合であっても、樹脂が不均一に充填されることによって、ボイド溜め630よりも上側の領域(製品部分)にボイド800(
図10(c)参照)が残留してしまうことが考えられる。
【0046】
この点、本実施形態に係る素形体1の製造方法によれば、
図6に示されるように、樹脂22を注入する工程では、突出部112の下面112aに形成された複数の溝部112yを通って、突出部112の側面112bを伝ってきた樹脂22が該下面112aの各領域に導かれ、該下面112aの各領域から充填領域121yに樹脂22が流れ込む。このように、複数の溝部112yが設けられていることによって、溝部112y内で樹脂22が合流することとなり、短繊維21内でウェルドが発生しにくい。そして、複数の溝部112yが設けられていることによって、複数の溝部112yを介して、下面112aの全面から充填領域121yに樹脂22が充填されることになり、樹脂22を均一に充填させることができる。このことで、上述した比較例のように、樹脂が均一に充填されない場合に問題になる製品部分へのボイドの残留を抑制し、素形体1の最終製品の品質を向上させることができる。
【0047】
このようにして製造された素形体1は、短繊維21及び樹脂22を含む立体形状の素形体であって、互いに対向する端面部分である上面11及び下面12を有し、軸線方向から見て、上面11及び下面12においてボイドが視認されない。このように、上面11及び下面12においてボイドが視認されないことにより、素形体1の外観品質を向上させることができ、最終製品の品質を向上させることができる。
【0048】
また、素形体1においては、上面11及び下面12に、最大径100ミクロン以上のボイドが存在しない。これにより、上面11及び下面12においてボイドが視認されることを適切に回避することができ、最終製品の品質を向上させることができる。
【0049】
また、素形体1においては、軸線方向における下面12側の領域であって、軸線方向から見た中央領域の周辺部の領域に、ボイドが存在しない。ボイド溜めが軸線方向から見た中央領域にのみ設けられている場合には、ボイド溜めの外部(中央領域の周辺部の領域)にボイドが残留しやすくなる。この点、本実施形態に係る製造方法(樹脂22を均一に充填する製造方法)によって製造された素形体1では、上面11及び下面12だけでなく、例えば下面12の周辺部の領域(素形体1の内部の領域を含む)にボイドが残留していないため、最終製品の品質を向上させることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、立体形状の素形体として、円環状の素形体が生成されてもよい。
図11(a)は端部が削られる前の円環状の素形体1Aの上面側を示す斜視図であり、
図11(b)は端部が削られる前の円環状の素形体1Aの下面側を示す斜視図である。上述した第3工程までの処理で生成された素形体1Aは、上面側の略全域において、穴部201Aが形成されている(
図11(a)参照)。また、第3工程までの処理で生成された素形体1Aは、下面側の中央部において、ボイド溜めに応じた穴部202Aが形成されている。また、素形体1Aにおいては、中央部に貫通孔500が形成されている。素形体1Aの上面側及び下面側が削られることにより、円環状の素形体1Aが生成される。
【0051】
また、立体形状の素形体として、板状の素形体が生成されてもよい。
図12(a)は端部が削られる前の板状の素形体1Bの上面側を示す斜視図であり、
図12(b)は端部が削られる前の板状の素形体1Bの下面側を示す斜視図である。上述した第3工程までの処理で生成された素形体1Bは、上面側の略全域において、穴部201Bが形成されている(
図12(a)参照)。また、第3工程までの処理で生成された素形体1Bは、下面側の中央部において、ボイド溜めに応じた穴部202Bが形成されている。素形体1Bの上面側及び下面側が削られることにより、板状の素形体1Bが生成される。
【符号の説明】
【0052】
1…素形体、11…上面(第1の面)、12…下面(第2の面)、21…短繊維(繊維)、22…樹脂、110…上型、112…突出部、112a…下面、112b…側面、120…下型、121y…充填領域。