(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065465
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】成膜方法および成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20240508BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240508BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240508BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20240508BHJP
H10N 30/079 20230101ALI20240508BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20240508BHJP
【FI】
C23C14/08 K
C23C14/34 A
H01L41/187
H01L41/316
H01L41/319
H01L41/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174333
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】松岡 耕平
(72)【発明者】
【氏名】露木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】石渡 祥貴
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大河
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩一
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA50
4K029BB02
4K029CA06
4K029DC05
4K029DC16
4K029DC35
(57)【要約】
【課題】クラック発生を抑制し、LiNbO
3層の結晶成長を可能とする。
【解決手段】スパッタリング法によりLiNbO
3またはLiTaO
3からなる圧電体層を基板表面に成膜する方法であって、圧電体層を積層する圧電体層形成工程では、原子比が、
1.5≦Li/Nb≦3
または
1.5≦Li/Ta≦3
の関係式を満たすスパッタリングターゲットを用いるとともに、アノード電極側に基板バイアス電力を印加する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法によりLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層を基板表面に成膜する方法であって、
圧電体層を積層する圧電体層形成工程では、
原子比が、
1.5≦Li/Nb≦3
または
1.5≦Li/Ta≦3
の関係式を満たすスパッタリングターゲットを用いるとともに、アノード電極側に基板バイアス電力を印加する、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記圧電体層と同じ組成を有し結晶方位を所定の面方向に配向した下地層を成膜する下地層形成工程を有し、
前記圧電体層形成工程では、前記下地層に、結晶方位を同じ面方向に配向した前記圧電体層を積層するとともに、前記下地層形成工程に比べてアノード電極側に印加する基板バイアス電力が高い、
ことを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記圧電体層形成工程では、前記下地層形成工程に比べてスパッタリングターゲットに含有されるLiの組成比が多い、
ことを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記下地層形成工程で成膜する前記下地層の膜厚が10nm~40nmの範囲である、
ことを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項5】
前記下地層形成工程の前に、バッファ層を成膜するバッファ層形成工程を有し、前記バッファ層により前記下地層の結晶配向方向を規定する、
ことを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか記載の成膜をおこなう装置であって、
前記下地層形成工程をおこなう第1チャンバと、
前記圧電体層形成工程をおこなう第2チャンバと、
を有し、
前記第1チャンバは、基板を支持してアノード電極側となる第1支持部と、前記第1支持部に対向して配置され第1ターゲットを有する第1カソードと、前記第1支持部に基板バイアス電力を供給する第1バイアス電力供給部と、前記第1カソードに電力を供給する第1電力供給部と、スパッタリング時にガスを供給する第1ガス供給部と、
を備え、
前記第2チャンバは、基板を支持してアノード電極側となる第2支持部と、前記第2支持部に対向して配置され第2ターゲットを有する第2カソードと、前記第2支持部に基板バイアス電力を供給する第2バイアス電力供給部と、前記第2カソードに電力を供給する第2電力供給部と、スパッタリング時にガスを供給する第2ガス供給部と、
を備え、
前記第2ターゲットは、前記第1ターゲットに比べて含有されるLiの組成比が多い、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
前記第2バイアス電力供給部は、前記第1バイアス電力供給部に比べて印加する基板バイアス電力が高い、
ことを特徴とする請求項6記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜方法および成膜装置に関し、特に圧電体膜の形成方法及び圧電デバイスに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT関連の急速な市場拡大を背景に、通信分野の需要が高まっている。通信接続速度及び通信帯域の向上により、フィルタ性能の向上が求められている。現在、フィルタとしては、FBAR型フィルタ(Film Bulk Acoustic Resonator)やSAW型フィルタ(Surface Acoustic Wave filter)が主流であり、周波数帯で棲み分けられている。FBAR型フィルタとしては、例えば、特許文献1に記載されたバルク音響共振器が知られている。
【0003】
特許文献1に例示されるように、FBAR型フィルタの圧電体膜には、通常、窒化アルミニウム(AlN)が使われている。しかし、最近では、更なる性能向上のために、電気機械結合係数が優れた材料が求められており、ScをドーピングしたAlN(Sc-AlN)の開発が盛んになっている。また、最近では、AlNに代えて、LiNbO3やLiTaO3を用いた圧電体膜の開発も盛んになってきている。
【0004】
LiNbO3は、バルク体を36°回転Yカットした場合に準縦波の電気機械結合係数が最大で約50%を示すとされており、ScをドーピングしたAlN(Sc-AlN)の電気機械結合係数が最大でも20%程度であることから、その潜在的性能の高さが伺える。ただし、LiNbO3は、単結晶における36°回転Yカット方向に相当する方向に配向させることによって電気機械結合係数が最大値を示すものとされているため、LiNbO3よりなる圧電体膜を形成するためには、その配向方向を薄膜形成プロセスにて正確に制御する必要がある。また、LiTaO3についても、36°回転Yカット方向に配向させることによって高い電気機械結合係数が得られるとされているため、LiNbO3の場合と同様に、薄膜形成時に配向方向の制御が必要になる。
【0005】
FBAR型フィルタを構成するためには、基板上に下部電極を形成し、下部電極上に圧電材料からなる圧電体膜を形成し、更にその上に上部電極を形成する必要がある。下部電極の材質は、例えば、モリブデン、ルテニウム、タングステン、イリジウム、白金などが挙げられるが、これらの材質からなる下部電極上にLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成すると、LiNbO3やLiTaO3は単結晶におけるZカット方向に相当する方向であるc軸方向に配向し、36°回転Yカット方向に相当する方向である(012)方向には配向しないため、形成された圧電体膜は高い電気機械結合係数を発揮することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層が成膜できた場合でも、膜応力が高くなりクラックが発生して、実用に耐えなかった。また、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層が成膜できた場合でも、NbまたはTaに比べてLiの比率が低くなり、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層の結晶が得られなかった。さらに、電気機械合係数k2が所望の範囲とならない。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.配向制御したLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層をクラックなしに成膜可能とすること。
2.Liの比率がNbまたはTaに対して低下することを防止して、結晶化したLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層を成長可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様にかかる成膜方法は、
スパッタリング法によりLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層を基板表面に成膜する方法であって、
圧電体層を積層する圧電体層形成工程では、
原子比が、
1.5≦Li/Nb≦3
または
1.5≦Li/Ta≦3
の関係式を満たすスパッタリングターゲットを用いるとともに、アノード電極側に基板バイアス電力を印加する、
ことにより上記課題を解決した。
(2)本発明の成膜方法は、上記(1)において、
前記圧電体層と同じ組成を有し結晶方位を所定の面方向に配向した下地層を成膜する下地層形成工程を有し、
前記圧電体層形成工程では、前記下地層に、結晶方位を同じ面方向に配向した前記圧電体層を積層するとともに、前記下地層形成工程に比べてアノード電極側に印加する基板バイアス電力が高い、
ことができる。
(3)本発明の成膜方法は、上記(2)において、
前記圧電体層形成工程では、前記下地層形成工程に比べてスパッタリングターゲットに含有されるLiの組成比が多い、
ことができる。
(4)本発明の成膜方法は、上記(2)において、
前記下地層形成工程で成膜する前記下地層の膜厚が10nm~40nmの範囲である、
ことができる。
(5)本発明の成膜方法は、上記(2)において、
前記下地層形成工程の前に、バッファ層を成膜するバッファ層形成工程を有し、前記バッファ層により前記下地層の結晶配向方向を規定する、
ことができる。
(6)本発明の他の態様にかかる成膜装置は、
上記(2)から(5)のいずれか記載の成膜をおこなう装置であって、
前記下地層形成工程をおこなう第1チャンバと、
前記圧電体層形成工程をおこなう第2チャンバと、
を有し、
前記第1チャンバは、基板を支持してアノード電極側となる第1支持部と、前記第1支持部に対向して配置され第1ターゲットを有する第1カソードと、前記第1支持部に基板バイアス電力を供給する第1バイアス電力供給部と、前記第1カソードに電力を供給する第1電力供給部と、スパッタリング時にガスを供給する第1ガス供給部と、
を備え、
前記第2チャンバは、基板を支持してアノード電極側となる第2支持部と、前記第2支持部に対向して配置され第2ターゲットを有する第2カソードと、前記第2支持部に基板バイアス電力を供給する第2バイアス電力供給部と、前記第2カソードに電力を供給する第2電力供給部と、スパッタリング時にガスを供給する第2ガス供給部と、
を備え、
前記第2ターゲットは、前記第1ターゲットに比べて含有されるLiの組成比が多い、
ことができる。
(7)本発明の成膜装置は、上記(6)において、
前記第2バイアス電力供給部は、前記第1バイアス電力供給部に比べて印加する基板バイアス電力が高い、
ことができる。
【0010】
(1)本発明の一態様にかかる成膜方法は、
スパッタリング法によりLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体層を基板表面に成膜する方法であって、
圧電体層を積層する圧電体層形成工程では、
原子比が、
1.5≦Li/Nb≦3
または
1.5≦Li/Ta≦3
の関係式を満たすスパッタリングターゲットを用いるとともに、アノード電極側に基板バイアス電力を印加する、
ことにより上記課題を解決した。
【0011】
上記の構成によれば、基板バイアス電力を印加した状態で圧電体層を積層することで、膜応力を押さえてクラック発生を抑制するとともに、LiとNbの組成比、または、LiとTaの組成比、が所定の範囲であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することが可能となる。
【0012】
(2)本発明の成膜方法は、上記(1)において、
前記圧電体層と同じ組成を有し結晶方位を所定の面方向に配向した下地層を成膜する下地層形成工程とを有し、
前記下地層に、結晶方位を同じ面方向に配向した前記圧電体層を積層する圧電体層形成工程と、
前記圧電体層形成工程では、前記下地層形成工程に比べてアノード電極側に印加する基板バイアス電力が高い、
ことができる。
【0013】
上記の構成によれば、下地層として、圧電体層と同じ組成で所定の配向である層を積層し、その後、基板バイアス電力を印加した状態で、下地層と同じ組成を有する圧電体層を積層することで、膜応力を押さえてクラック発生を抑制するとともに、LiとNbの組成比、または、LiとTaの組成比、が所定の範囲であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することが可能となる。なお圧電体層と同じ組成を有する下地層とは、圧電体層と下地層との積層がLiNbO3の積層またはLiTaO3の積層からなることを指す。
【0014】
(3)本発明の成膜方法は、上記(2)において、
前記圧電体層形成工程では、前記下地層形成工程に比べてスパッタリングターゲットに含有されるLiの組成比が多い、
ことができる。
【0015】
上記の構成によれば、基板バイアス電力を印加してクラック発生を抑制するとともに、リスパッタされてLiが抜け、Liの組成比が低減していまい結晶化できないことを防止して、LiとNbの組成比、または、LiとTaの組成比、が所定の状態であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することができる。
【0016】
(4)本発明の成膜方法は、上記(2)において、
前記下地層形成工程で成膜する前記下地層の膜厚が10nm~40nmの範囲である、
ことができる。
【0017】
上記の構成によれば、下地層における結晶配向を所定の状態に規定するとともに膜応力を抑制して、下地層形成工程よりも後工程である圧電体層形成工程において、膜応力を押さえてクラック発生を抑制するとともに、Liと、NbまたはTaとの組成が所定の状態であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することが可能となる。
【0018】
(5)本発明の成膜方法は、上記(2)において、
前記下地層形成工程の前に、バッファ層を成膜するバッファ層形成工程を有し、前記バッファ層により前記下地層の結晶配向方向を規定する、
ことができる。
【0019】
上記の構成によれば、膜応力を押さえてクラック発生を抑制するとともに、LiとNbの組成比、または、LiとTaの組成比、が所定の状態であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することが可能となるとともに、このLiNbO3またはLiTaO3からなる下地層および圧電体層の結晶配向を(012)(006)等、所定の状態として形成することを選択することが可能となる。
【0020】
(6)本発明の他の態様にかかる成膜装置は、
上記(2)から(5)のいずれか記載の成膜をおこなう装置であって、
前記下地層形成工程をおこなう第1チャンバと、
前記圧電体層形成工程をおこなう第2チャンバと、
を有し、
前記第1チャンバは、基板を支持してアノード電極側となる第1支持部と、前記第1支持部に対向して配置され第1ターゲットを有する第1カソードと、前記第1支持部に基板バイアス電力を供給する第1バイアス電力供給部と、前記第1カソードに電力を供給する第1電力供給部と、スパッタリング時にガスを供給する第1ガス供給部と、
を備え、
前記第2チャンバは、基板を支持してアノード電極側となる第2支持部と、前記第2支持部に対向して配置され第2ターゲットを有する第2カソードと、前記第2支持部に基板バイアス電力を供給する第2バイアス電力供給部と、前記第2カソードに電力を供給する第2電力供給部と、スパッタリング時にガスを供給する第2ガス供給部と、
を備え、
前記第2ターゲットは、前記第1ターゲットに比べて含有されるLiの組成比が多い、
ことができる。
【0021】
上記の構成によれば、第1チャンバで下地層を成膜し、第2チャンバで圧電体層を形成することで、膜応力を押さえてクラック発生を抑制するとともに、リスパッタされてLiが抜け、Liの組成比が低減していまい結晶化できないことを防止して、LiとNbの組成比、または、LiとTaの組成比、が所定の状態であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することが可能となる。
【0022】
(7)本発明の成膜装置は、上記(6)において、
前記第2バイアス電力供給部は、前記第1バイアス電力供給部に比べて印加する基板バイアス電力が高い、
ことができる。
【0023】
上記の構成によれば、第1チャンバで下地層を成膜し、第2チャンバで圧電体層を形成することで、基板バイアス電力を印加した状態で圧電体層を積層することで、膜応力を押さえてクラック発生を抑制するとともに、Liと、NbまたはTaとの組成が所定の状態であるLiNbO3またはLiTaO3からなる結晶化した圧電体膜を形成することができる。
【0024】
なお、第1チャンバにおいては、斜め入射、つまり、スパッタリング時のカソードと基板とが平行でなくターゲット表面と基板表面とが傾いていること、また、基板中心法線から離間した位置にカソードが配置されていることもできる。
さらに、第1バイアス電力供給部から供給される電力周波数が、第1電力供給部から供給される電力周波数よりも低いことができ、第2バイアス電力供給部から供給される電力周波数が、第2電力供給部から供給される電力周波数よりも低いことができる。
【0025】
さらに、本発明は以下の構成を採用することもできる。
[1] LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材(基板)上に、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層を形成し、前記バッファ層の上方に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、ことができる。
ここで、前記圧電体膜が下地層と、LiTaO3層(圧電体層)からなることができる。
[2] [1]において、前記バッファ層が、LaNiO3、AgまたはTiNからなる、ことができる。
[3] [1]において、前記バッファ層が、Ag膜上にTiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる膜が積層されたものである、ことができる。
[3A] [1]において、前記バッファ層が、Si基板表面からSiO2を除去して、YSZ(ZrO2-Y2O3)、Pt、LiTaO3からなる膜が積層されたものである、ことができる。
[4] [1]において、前記スパッタリング法が、ニオブ金属もしくはニオブ酸化物からなる第1のターゲットと、酸化リチウムからなる第2のターゲットとを用いるコスパッタリング法である、ことができる。第1のターゲットと第2のターゲットがそれぞれ組成の異なるリチウムニオブ酸化物であってもよい。
【0026】
[1B] LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成する圧電体膜の形成方法であって、
基材上に、前記圧電体膜の結晶方位を(006)面方向に配向させるバッファ層を形成し、前記バッファ層の上方に、スパッタリング法により前記圧電体膜を形成する、ことができる。
ここで、前記圧電体膜が下地層と、LiTaO3層(圧電体層)からなることができる。
[2B] [1B]において、前記バッファ層が、SiO2、TiOX、Ptからなる、ことができる。
[4B] [1B]において、前記スパッタリング法が、LiTaO3からなるターゲットを用いる、記載の圧電体膜の形成方法。
[2C] 上記のいずれかにおいて、前記バッファ層が、Ptからなる層を含む、ことができる。
【0027】
[5] 圧電デバイスであって、基材(基板)と、
前記基材上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO3からなる圧電体膜と、を備え、
前記バッファ層は、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものである層である、ことができる。
[6] 圧電デバイスであって、基材と、
下部電極と、
前記下部電極上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO3からなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものである層である、ことができる。
【0028】
[7] 圧電デバイスであって、基材と、
前記基材上に配置されて下部電極を兼ねるバッファ層と、
前記バッファ層上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO3からなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものである層である、ことができる。
[8] 圧電デバイスであって、基材と、
前記基板上に配置されたバッファ層と、
前記バッファ層上に配置された下部電極と、
前記下部電極上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO3からなる圧電体膜と、
前記圧電体膜上に配置された上部電極と、を備え、
前記バッファ層は、前記圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものである層である、ことができる。
【0029】
[9] [5]または[6]において、前記バッファ層が、TiNまたはLaNiO3からなる、ことができる。
[10] [5]または[7]において、前記バッファ層が、Agからなる、ことができる。
[11] [5]または[7]において、前記バッファ層がAgからなるとともに、前記バッファ層上にTiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる膜が積層されている、ことができる。
[12] [8]において、前記バッファ層が、TiNからなる、ことができる。
[13] [5]乃至[12]の何れか一項において、前記圧電体膜の膜厚が、300nm以下である、ことができる。
[14] [5]乃至[13]の何れか一項において、前記圧電体膜に対してX線回折のロッキングカーブ測定を行った場合における前記圧電体膜の(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下である、ことができる。
[15] [5]乃至[14]の何れかに記載の圧電デバイスが、FBAR型フィルタまたはSAW型フィルタである、ことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、所定の結晶配向を有し、膜応力を低減してクラック発生を抑制し、結晶化したLaNiO3またはLiTaO3からなる圧電体膜を形成することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における圧電デバイスの一例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における圧電デバイスの一例を示す断面模式図である。
【
図4】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における圧電デバイスの他の例を示す断面模式図である。
【
図5】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜装置を示す概略図である。
【
図6】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜装置の第1チャンバを示す断面模式図である。
【
図7】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜装置の第2チャンバを示す断面模式図である。
【
図8】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図9】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図10】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図11】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図12】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図13】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図14】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図15】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第2実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図16】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第2実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図17】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第2実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図18】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第2実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図19】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第2実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図20】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第2実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図21】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図22】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図23】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図24】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図25】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図26】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図27】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第3実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図28】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第4実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図29】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第4実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図30】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第4実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図31】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第4実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図32】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第4実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図33】本発明に係る成膜方法および成膜装置の第4実施形態における成膜方法を示す工程図である。
【
図34】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図35】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、SEMにより膜表面を観察した図である。
【
図36】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図37】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図38】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図39】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図40】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図41】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、X線回折測定により確認した圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)を示す図である。
【
図42】本発明に係るLiNbO
3からなる圧電体層について、SEMにより膜表面を観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る成膜方法および成膜装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における成膜方法を示すフローチャートである。
図2は、本実施形態における成膜方法によって成膜された膜を有する圧電デバイスを示す断面模式図である。
【0033】
まず、本発明の基本的な形態を説明する。
本実施形態の成膜方法は、圧電デバイスとなるLiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜3を基材(基板)1に成膜する。以下、本実施形態においては、圧電体膜3がLiNbO3からなる膜として説明する。圧電体膜3をLiTaO3からなる膜として成膜する場合には、LiNbO3をLiTaO3として読み替えるものとする。また、圧電体膜3をLiTaO3からなる膜とする場合には、適宜、説明を追加する。
【0034】
本実施形態の成膜方法は、
図1に示すように、基板準備工程S00と、バッファ層形成工程S10と、下地層形成工程S20と、LiNbO
3層(圧電体層)形成工程S30と、後工程S40と、を有する。
【0035】
圧電デバイスは、
図2に示すように、基材(基板)1と、基材1上に配置されたバッファ層2と、バッファ層2上に配置されて(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO
3からなる圧電体膜3と、を備えている。バッファ層2は、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層である。
【0036】
また、
図3には、本実施形態の圧電デバイスの別の例を断面模式図で示す。
図3に示す圧電デバイスは、基材1と、基材1上に配置されたバッファ層2と、バッファ層2の上に配置された酸化防止膜4と、酸化防止膜4上に配置された圧電体膜3と、を備えている。バッファ層2は、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層である。
なお、後述するように、バッファ層2と圧電体膜3との間に、別の層を積層してもよい。
【0037】
基材1は、薄膜成膜プロセスの基材として使用できるものであれば特に制限はない。基材1として例えば、単結晶シリコンからなる半導体基板であってもよい。また、表面に酸化シリコン膜が形成された単結晶シリコンからなる半導体基板であってもよい。あるいは、表面に酸化シリコン膜を除去した単結晶シリコンからなる半導体基板であってもよい。
【0038】
また、基材1をなす半導体基板上には、圧電体膜3に電圧を印加するための電極層が備えられていてもよい。この場合、電極層上にバッファ層2および圧電体膜3が積層されているとよい。更に、バッファ層2が導電体からなる場合は、バッファ層2が電極層を兼ねることができる。この場合は、基材1をなす半導体基板上に、電極層を兼ねるバッファ層2及び圧電体膜3が積層されていてもよく、半導体基板上に、電極層を兼ねるバッファ層2、酸化防止膜4及び圧電体膜3が積層されていてもよい。電極層は、導電体または半導体からなることが好ましい。また、後述するように、バッファ層2と圧電体膜3との間に、別の層として電極層を積層してもよい。また、基材1と電極層との間に、密着層を形成してもよい。密着層は例えば酸化チタン膜でもよい。
【0039】
電極層の材質は、Pt、Mo、Ru、W、Ir等を用いることができる。なお、これらの材質からなる電極層上に圧電体膜を直接成膜すると、LiNbO3の結晶方位は(001)面方向に配向し、(012)面方向に配向させることは困難である。
【0040】
バッファ層2は、具体的には、(002)面方向に結晶方位が配向されたAg、またはLaNiO3、TiN、または、TiOXからなることが好ましい。これらバッファ層2が形成されていることで、バッファ層2の上にLiNbO3からなる圧電体膜を積層した場合に、LiNbO3の結晶方位を(012)面方向に配向させることが可能になる。また、バッファ層2は、導電体または半導体からなることが好ましい。またバッファ層2としてLaNiO3と同様のペロブスカイト構造を有するSrRuO3やLaCoO3、KNaNbO3等を採用することができる。
【0041】
また、前述したように、Agのような導電体からなる場合のバッファ層2は、圧電体膜3に電圧を印加する際の電極として機能してもよい。また、Agからなるバッファ層2を単結晶シリコンからなる基材1上に形成する場合において、基材1の表面に自然酸化膜である酸化シリコン膜が存在する場合は、酸化シリコン膜を公知のふっ酸処理あるいはドライエッチングにより予め除去しておくことが好ましい。
あるいは、基材1の表面に形成された自然酸化膜である酸化シリコン膜をバッファ層2として含めることもできる。
【0042】
更に、バッファ層2がAgからなる場合は、
図3に示すように、バッファ層2上に酸化防止膜4が積層されていてもよい。
【0043】
バッファ層2の厚みは、10~150nmの範囲が好ましく、30~150nmの範囲であることがより好ましく、40~100nmの範囲であることが更に好ましい。バッファ層2が十分な厚みを有することで、圧電体膜3を所望の結晶方位に配向させることができる。また、バッファ層2が過剰に厚すぎないことで導電性を確保でき、圧電体膜3に電圧を印加することが可能になる。この場合、バッファ層2の厚みとしては、基材1の表面に形成された自然酸化膜である酸化シリコン膜は含まないことができる。
【0044】
酸化防止膜4は、TiN、TiW、TiWNのうちの1種からなることが好ましい。酸化防止膜4は、バッファ層2の酸化を防止するとともに酸化防止膜自身の酸化も抑制する。酸化防止膜4は、バッファ層2と同様に、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層であることが好ましい。これにより、酸化防止膜4の上に圧電体膜3が形成された場合にも、圧電体膜3の表面における結晶方位を(012)面方向に配向させることができる。また、酸化防止膜4をバッファ層2上に形成することで、圧電体膜3の成膜時に雰囲気が酸化性雰囲気とされた場合であっても、バッファ層2の表面酸化を抑制することができ、また、酸化防止膜4自体の酸化も抑制される。これにより、バッファ層2上に酸化物層が形成されるおそれがなく、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させることが可能になる。また、酸化防止膜4は、導電体または半導体からなることが好ましい。
【0045】
酸化防止膜4の厚みは、10~200nmの範囲であることが好ましく、40~100nmの範囲であることがより好ましい。酸化防止膜4が十分な厚みを有することで、バッファ層2の酸化を十分に抑制することができ、また、圧電体膜3を所望の結晶方位に配向させることができる。また、酸化防止膜4が過剰に厚すぎないことで導電性を確保でき、圧電体膜3に電圧を印加することが可能になる。
圧電体膜3は、後述するように、下地層3aと、下地層3aの上に積層されたLiNbO3層3bと、からなる。
【0046】
圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO3からなる。LiNbO3は、三方晶系イルメナイト類似構造を持つ複合酸化物であって、LiTaO3と結晶構造が相互に類似する。LiNbO3は、単結晶における36°回転Yカット方向に相当する面において、機械電気結合係数(準縦波)が最大で50%程度の値を示すものとなり、圧電デバイスに好適に用いることができる。
【0047】
従来、LiNbO3を薄膜形成プロセスで形成すると、C軸方向((001)面方向)に配向したものしか得られなかった。これに対して、本実施形態では、バッファ層2の上にスパッタリング法により下地層3a、LiNbO3層(圧電体層)3bを順に形成して圧電体膜3を形成する。これにより、圧電体膜3として、(012)面方向に結晶方位が配向されたものが得られ、しかも膜厚が極めて薄いものが得られる。これにより、圧電デバイスの特性を大幅に向上できる。これは、圧電体膜3として、LiTaO3からなる層としても同様である。
【0048】
圧電体膜3の厚みは、特に限定するものではないが、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であってもよい。圧電体膜の厚みを300nm以下にすることにより、例えば圧電体膜3を高周波フィルタの圧電体膜として用いた際に、12.23GHzの共振周波数を得ることができ、十数GHz帯の信号が入力されたとしても、フィルタとして機能させることが可能なる。なお、従来技術では、(012)面方向に配向されたLiNbO3からなる圧電体膜を得る場合は、単結晶から切出す以外に手段がなく、この場合は単結晶から300nm以下の膜厚で切り出すことは到底困難であった。しかし、本実施形態の圧電体膜3は、後述するようにスパッタリング法によって形成できるため、膜厚を300nm以下にすることは容易である。
【0049】
圧電体膜3の厚みは、300nm以下に限定するものではなく、圧電デバイスとして求められる共振周波数帯域に応じて厚みを調整してもよい。例えば、下限は40nm以上としてもよく、上限は2000nm以下としてもよいが、圧電体膜3の厚みは40~2000nmの範囲に限定されるものではない。
さらに、圧電体膜3の厚みは、後述するように、下地層とLiNbO3層との積算で表される。このため、圧電体膜3の厚みは40nm+100nmよりも大きな範囲とすることができる。
【0050】
また、圧電体膜3の(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下であることが好ましい。半価幅は、圧電体膜3に対してX線回折のロッキングカーブ測定(いわゆるω測定)を行うことにより測定される。半価幅が、10°以下であることにより、圧電体膜3の結晶性が高まり、機械電気結合係数をより高めることができる。半価幅はより好ましくは2°以下である。
【0051】
更に、圧電体膜3の上には、圧電体膜3に電圧を印加するための別の電極層が備えられていてもよい。別の電極層は、導電体または半導体からなることが好ましい。また、別の電極層は、先に説明した電極層と同様の材質、膜厚であればよい。
【0052】
本実施形態の圧電デバイスは、FBAR型フィルタまたはSAW型フィルタとして利用されることが好ましい。更に、本実施形態の圧電デバイスは、XBAR(Bulk Acoustic Wave Plate wave device)、HAL(Hetero Acoustic Layer)SAWにも適用することができる。加えて、全固体電池の正極活物質と固体電解質間の被覆層や、光変調デバイスにも適用することができる。
【0053】
本実施形態の圧電デバイスによれば、膜表面において(012)面の方位に配向したLiNbO3からなる圧電体膜3を備えているので、その機械電気結合係数が高くなり、優れた圧電効果を発揮できるようになる。
更に、(012)面のX線回折ピークの半価幅が、10°以下とされた圧電体膜3は、その機械電気結合係数が更に高くなり、より優れた圧電効果を発揮できるようになる。
【0054】
また、本実施形態の圧電デバイスとして、圧電体膜3の厚さ方向両側に電極層を配置することにより、フィルタとして機能させることができる。特に、FBAR型フィルタとして機能させることができる。
【0055】
次に、本実施形態の成膜方法による圧電体膜の形成方法について説明する。
【0056】
本実施形態の圧電体膜の形成方法は、LiNbO3からなる圧電体膜3を形成する方法であって、基材1上に、バッファ層2を形成し、バッファ層2の上方に、スパッタリング法により圧電体膜3を形成する。
【0057】
バッファ層2は、基材1上に形成してもよいし、基材1上に電極層を形成してその上にバッファ層2を形成してもよい。バッファ層2の形成手段は、特に制限はないが、スパッタリング法で形成するとよい。LaNiO3からなるバッファ層2を形成する場合は、RFスパッタ法により形成することが好ましく、特に雰囲気ガスに酸素を導入する反応性スパッタリング法がよい。また、Agからなるバッファ層2を形成する場合は、DCスパッタ法でもよく、RFスパッタ法でもよい。また、バッファ層2として、Pt、TiOX、TiN、SrRuO3、LaCoO3、KNaNbO3等を形成してもよい。また、基材1上にバッファ層2を形成し、バッファ層2の上に電極層を形成し、電極層の上に圧電体膜3を形成してもよい。このとき、基材1の表面に形成された自然酸化膜である酸化シリコン膜は、除去することもできるし、除去しないこともできる。
【0058】
図4には、本実施形態の圧電デバイスの他の例を断面模式図で示す。
図4は、バッファ層2の他の一例である。
ここでは、シリコン基板1上に、自然酸化膜であるSiO
2からなる層2a、さらに、バッファ層2として、TiO
Xからなる層2b、Ptからなる層2cを積層している。本実施形態では、このバッファ層2に、LiNbO
3からなる下地層3a、およびLiNbO
3層3bを積層する。これらの下地層3aおよびLiNbO
3層3bは、圧電体膜3を構成する。
【0059】
ここで、SiO2からなる層2aの膜厚が100nm程度、TiOXからなる層2bの膜厚が30~40nm程度、Ptからなる層2cの膜厚が100nm程度とすることができる。さらに、下地層3aの膜厚が20~100nm程度、より好ましくは、20~40nm程度とすることができる。この場合、LiNbO3層3bの膜厚は、100nm以上とすることができる。下地層3aおよびLiNbO3層3bは、(012)配向とすることができる。あるいは、下地層3aおよびLiNbO3層3bは、(006)配向等所定の配向とすることができる。
【0060】
本実施形態の成膜方法は、まず、
図1に示す基板準備工程S00において、バッファ層2を形成する基材1を準備する。
次いで、
図1に示すバッファ層形成工程S10において、
図5~
図7に示す成膜装置によって、バッファ層2を形成する。
バッファ層2を形成した基材1に対して、
図1に示す下地層形成工程S20と、LiNbO
3層形成工程S30とにおいて、
図5~
図7に示す成膜装置によって、LiNbO
3層を形成する。
【0061】
図5には、バッファ層2、酸化防止膜4及び圧電体膜3の形成に好適に用いられるスパッタリング装置(成膜装置)の概略図を示す。
スパッタリング装置(成膜装置)10は、
図5に示すように、ロード・アンロード室11と、トランスファチャンバ12と、第1チャンバ13と、第2チャンバ14と、を有する。ロード・アンロード室11と、トランスファチャンバ12と、第1チャンバ13と、第2チャンバ14と、は、密閉可能とされる。
【0062】
ロード・アンロード室11は、外部との間で基板1を出し入れする。トランスファチャンバ12は、ロード・アンロード室11と、第1チャンバ13と、第2チャンバ14と、の間で基板1を出し入れする。トランスファチャンバ12には、ロボットハンド等の基板搬送部12aを備える。
第1チャンバ13と、第2チャンバ14と、は成膜室とされる。
【0063】
図6には、本実施形態におけるスパッタリング装置(成膜装置)の第1チャンバの概略図を示す。
図7には、本実施形態におけるスパッタリング装置(成膜装置)の第2チャンバの概略図を示す。
第1チャンバ13は、
図1に示す下地層形成工程S20として、下地層を成膜する。第2チャンバ14は、
図1に示すLiNbO
3層形成工程(圧電体層形成工程)S30として、LiNbO
3層を成膜する。第2チャンバ14は、バッファ層形成工程S10として、バッファ層を成膜することができる。なお、LiTaO
3からなる圧電体膜3を成膜する場合には、圧電体層形成工程S30は、LiTaO
3層形成工程S30となる。
【0064】
第1チャンバ13は、基板1を支持してアノード電極側となる第1支持部13dと、第1支持部13dに対向して配置され第1ターゲット13fを有する第1カソード13jと、第1支持部13dに基板バイアス電力を供給する第1バイアス電力供給部13pと、第1カソード13jに電力を供給する第1電力供給部13qと、スパッタリング時にガスを供給する第1ガス供給部13hと、を備える。
【0065】
第1チャンバ13は、
図6に示すように、第1チャンバ13の内部空間を排気する各種の真空ポンプからなる排気手段13aが連結されている。第1チャンバ13と排気手段13aとの間には、ゲートバルブ等からなる仕切弁13bが配置されている。第1チャンバ13の仕切弁13bと対向する位置には、被処理体である基板1を搬送手段により、第1チャンバ13とトランスファチャンバ12との間で搬入・搬出するためのドアバルブ13cが配置されている。
【0066】
搬入された基板1は、第1支持部(基板ステージ)13dに載置される。基板を搬入・搬出する際には、第1支持部13dに対して基板1を下方から突き上げ、基板1を上下動させるリフトピンを備えた移動機構13d1が、第1支持部13dの下部に配置されている。第1支持部13dの裏面側には、移動機構13d1の一部として、基板1の温度制御手段13eが配置されている。
【0067】
また、第1支持部13dの下部には、基板1を載置した状態において、基板1を被処理面(図では上面)内で所定の回転速度として自転させるための回転移動機構、および、基板1を上下動させて所定の高さ位置で基板1を保持するための上下移動機構、が配置されている。
【0068】
第1チャンバ13の内部空間には、第1ターゲット13fが基板1の上方に配置されている。この第1チャンバ13においては、第1ターゲット13fから飛翔したスパッタ粒子が、被処理体である基板1の被処理面に対して、角度θで斜め入射するように(点線矢印)、第1ターゲット13fと被処理体である基板1とが所定の離間距離で配置されている。被処理体である基板1を載置する第1支持部13dは、斜め入射を保ちながら、被処理体の被処理面をその面内において回転させる第二移動機構を備えたものである。
【0069】
第1ターゲット13fは、LiとNbとを含む。第1ターゲット13fは、LiNbO3からなることができる。ここで、第1ターゲット13fは、LiとNbとを1:1で含むものとすることができる。なお、LiTaO3からなる圧電体膜3を成膜する場合には、第1ターゲット13fは、LiとTaとを含む。第1ターゲット13fは、LiTaO3からなることができる。ここで、第1ターゲット13fは、LiとTaとを1:1で含むものとすることができる。
【0070】
図6に示す第1チャンバ13では、1つの第1ターゲット13fを用いて成膜する例を示しているが、2つのターゲットを用いる場合は、この限りではない。すなわち、第1ターゲット13fとして、ニオブ酸化物からなる第1のターゲットと、酸化リチウムからなる第2のターゲットとを同時にスパッタする方法(コスパッタ法)を用い、各ターゲットに印可するパワーを調整しても構わない。
【0071】
第1ターゲット13fの裏面側には、第1ターゲット13fの表面側に漏洩磁束を形成するための第1磁石機構13gが配置されている。
第1チャンバ13は、第1ガス供給部13hを備える。第1ガス供給部13hは、プロセスガスを第1チャンバ13に導入する。第1ガス供給部13hは、導出口が第1支持部13dの近傍に配置されていてもよい。プロセスガスとしては、たとえばアルゴン等のキャリアガスおよび酸素等の酸素含有ガスとすることができる。
第1ターゲット13fの側方近傍には第1カソード13jが配置されている。本実施形態では、第1ターゲット13f、第1磁石機構13g、および、第1ガス供給部13hを纏めて、ターゲット機構とも呼ぶことがある。
【0072】
第1チャンバ13は、内部空間に成膜シールド13kが配置されている。ターゲット機構から見て、基板ステージである第1支持部13d上にある基板1を覗き見ることが可能な開口部を、成膜シールド13kは備えている。成膜シールド13kとターゲット機構との間には、シャッター機構13mが配置されており、シャッター機構13mを開閉動作させることにより、成膜シールド13kの開口部を通して、基板1へ向けて第1ターゲット13fから飛翔したスパッタ粒子が通過・遮断する時間を制御する。
【0073】
第2チャンバ14は、
図7に示すように、基板1を支持する基板ステージを兼ねるアノード電極側である基板電極となる第2支持部14dと、第2支持部14dに対向して配置され第2ターゲット14fを有する第2カソード14jと、第2支持部14dに基板バイアス電力を供給する第2バイアス電力供給部14pと、第2カソード14jに電力を供給する第2電力供給部14qと、スパッタリング時にガスを供給する第2ガス供給部14hと、第2チャンバ14とトランスファチャンバ12との間で搬入・搬出するためのドアバルブ14cと、を備える。
【0074】
第2チャンバ14では、第2支持部14d上に基材1が配置される。第2支持部14dには図示しないヒータが内蔵されており、基材1を加熱可能とされている。また、第2支持部14dにはバイアス電源である第2バイアス電力供給部14pが接続されている。第2カソード14jにはカソード電源である第2電力供給部14qが接続されている。また、第2支持部14d、第2カソード14j及び第2ターゲット14fは、第2チャンバ14に収容されている。第2チャンバ14内は、真空雰囲気に制御可能となっている。
【0075】
第2ターゲット14fは、LiとNbとを含む。第2ターゲット14fは、LiNbO3からなることができる。ここで、第2ターゲット14fにおけるLiとNbとの含有比に関しては、後述する。なお、LiTaO3からなる圧電体膜3を成膜する場合には、第2ターゲット14fは、LiとTaとを含む。第1ターゲット13fは、LiTaO3からなることができる。第2ターゲット14fにおけるLiとTaとの含有比に関しては、同様に後述する。
【0076】
なお、第1チャンバ13を第2チャンバ14と同様に平行平板スパッタ装置とすることもできる。
【0077】
バッファ層形成工程S10として、第2チャンバ14でバッファ層2を成膜する場合を説明する。
【0078】
バッファ層2の形成条件としては、第2ターゲット14fの組成をバッファ層2の組成に合わせてPt,Ti,LaNiO3、AgまたはTiNとし、基板温度を250~800℃の範囲とし、成膜圧力を0.1~1.0Paとし、Ar流量を0~100sccmとし、O2流量を0~15sccmとし、N2流量を0~50sccmとし、RFスパッタの場合のパワーを100~15000W(周波数13.56MHz)とし、DCスパッタの場合のパワーを100~15000Wとすることができる。なお、これらの成膜条件は、バッファ層2の積層順や組成に合わせて適宜調整することが好ましい。
【0079】
次に、バッファ層2上に酸化防止膜4を形成してもよい。酸化防止膜4の形成方法は、特に制限はないが、スパッタリング法で形成するとよく、RFスパッタ法でもDCスパッタ法でもよく、特に雰囲気ガスに窒素を導入する反応性スパッタリング法がよい。
【0080】
酸化防止膜4の形成条件としては、ターゲット組成をTiまたはTiWとし、基板温度を室温(25℃)~400℃の範囲とし、成膜圧力を0.1~1Paとし、Ar流量を0~30sccmとし、N2流量を0~40sccmとし、RFスパッタの場合のパワーを100~15000W(周波数13.56MHz)とし、DCスパッタの場合のパワーを100~15000Wとすることができる。
【0081】
次に、バッファ層2上または酸化防止膜4上に、LiNbO3からなる圧電体膜3を形成する。
【0082】
圧電体膜3の形成方法はスパッタリング法とする。そのなかでもRFスパッタ法により形成することが好ましく、特に雰囲気ガスに酸素を導入する反応性スパッタリング法がよい。
圧電体膜3を形成するには、まず、
図1に示す下地層形成工程S20として、第1チャンバ13において、LiNbO
3からなる下地層3aを斜め入射により成膜する。
【0083】
下地層3aの形成条件としては、第1ターゲット13fの組成をLiNbOXとし、基板温度を300~650℃の範囲、より好ましくは、450~550℃の範囲とし、成膜圧力を0.1~1.0Paとし、Ar流量を50~150sccmとし、O2流量を0.1~50sccm、1sccm程度とし、第1電力供給部13qから第1カソード13jに供給するRFスパッタのパワーを50~2800W(周波数13.56MHz)、100w程度とする。このとき、第1バイアス電力供給部13pから第1支持部13dに供給するバイアス電力は、0W~10W(12.5MHz)とすることができる。また、第1ターゲット13fを、その組成比としてLi/Nbが1程度となるように形成する。
【0084】
これにより、表面における結晶方位が(012)面に配向した下地層3aが得られる。また、下地層3aの膜応力は減少しないが、膜厚を20nmから40nm程度に抑えることで、クラックの発生を充分抑制することができる。
【0085】
次に、LiNbO3層形成工程S30として、下地層3a上に、LiNbO3層3bを成膜する。
【0086】
LiNbO
3層3bは、
図1に示すLiNbO
3層形成工程S30として、第2チャンバ14において、LiNbO
3層3bを平行平板スパッタ装置により成膜する。
【0087】
LiNbO3層3bの形成条件としては、第2ターゲット14fの組成をLiNbOXとし、基板温度を500~700℃の範囲、より好ましくは、650℃程度とし、成膜圧力を0.1~1.0Paとし、Ar流量を50~150sccmとし、O2流量を1~50sccm、5sccm程度とし、第2電力供給部14qから第2カソード14jに供給するRFスパッタのパワーを100~2800W(周波数13.56MHz)、500w程度とする。このとき、第2バイアス電力供給部14pから第2支持部14dに供給するバイアス電力は、10W~30W(12.5MHz)とすることができる。また、第2ターゲット14fを、その組成比としてLi/Nbが1.5~3程度となるように形成する。なお、LiTaO3からなる圧電体膜3を成膜する場合には、第2ターゲット14fを、その組成比としてLi/Taが1.5~3程度となるように形成する。
【0088】
これにより、表面における結晶方位が(012)面に配向したLiNbO3層3bが得られる。また、バイアス電力を印加することで、LiNbO3層3bの膜応力は減少して、膜厚を100nm以上としても、クラックの発生を充分抑制することができる。同時に、バイアス電力を印加することで、リスパッタが生じて、膜中のLiが減少する傾向があるが、第2ターゲット14fとして、Liリッチな組成としたので、Liが減少することなく、結晶化したLiNbO3層3bを所定の膜厚で形成することができる。しかも、あらかじめ、下地層形成工程S20として、結晶方位が配向した下地層3aを成膜していることで、LiNbO3層3b表面における結晶方位が(012)面に配向する。
【0089】
別の手段としては、第2ターゲット14fとして、ニオブ酸化物からなる第1のターゲットと、酸化リチウムからなる第2のターゲットとを用いるコスパッタリング法を行うこともできる。ニオブ酸化物としては、Nb2O5の他に、LiNbO3のような複合酸化物であってもよい。なお、第1のターゲットはニオブ金属からなるターゲットであってもよい。
【0090】
さらに、後工程S40として、圧電デバイスとして形成するための必要な処理をおこなうことができる。
【0091】
本実施形態の圧電体膜の形成方法では、バッファ層2または酸化防止膜4の上に、LiNbO3からなる圧電体膜3をスパッタリング法により形成する。バッファ層2または酸化防止膜4として、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる材質からなるものを選択することで、その上に形成されるLiNbO3からなる圧電体膜3は、膜表面において(012)面の方位に配向したものとなる。
同時に、バッファ層2に、LiNbO3からなる下地層3aおよびLiNbO3層3bを積層することで、クラックの発生を抑制し、かつ、LiとNbとの組成比が1:1となり充分に結晶化したLiNbO3からなる圧電体膜3を得ることができる。これにより圧電体膜3は、機械電気結合係数が高くなり、優れた圧電効果を発揮できるようになる。
【0092】
特に、TiN、LaNiO3または(002)面方向に結晶方位が配向されたAgからなるバッファ層2を用いることで、LiNbO3からなる圧電体膜3の結晶方位を(012)面の方位に配向させることが容易になり、圧電体膜3に優れた圧電効果を発揮させることができる。また、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させるバッファ層2として、SrRuO3、LaCoO3、KNaNbO3等からなるバッファ層を用いてもよい。
【0093】
更に、バッファ層2の上に酸化防止膜4を形成することで、バッファ層2の酸化を防止しつつ、下地層形成工程S20において、LiNbO3からなる下地層3aを形成でき、下地層3aの結晶方位を好ましい方位に制御できる。このとき、下地層3aの膜厚を上述した範囲とすることで、下地層3aにおける膜応力を低減して、LiNbO3層3bにおけるクラック発生を抑制することができる。
【0094】
LiNbO3層形成工程S30では、下地層形成工程S20において、結晶方位を好ましい方位に制御した下地層3aを形成したことにより、LiNbO3層の結晶方位を好ましい方位に制御することができる。
【0095】
LiNbO3層形成工程S30では、下地層形成工程S20に比べてアノード電極側に印加する基板バイアス電力を高くすることで、LiNbO3層3bにおける膜応力を低減して、クラック発生を抑制することができる。同時に、LiNbO3層形成工程S30では、下地層形成工程S20の第1ターゲット13fに比べて、第2ターゲット14fの組成比をLiリッチとすることで、リスパッタされてLiが抜けてしまい、LiNbO3層3bにおけるLiの組成比が低減して結晶化できなくなることを防止する。
【0096】
これにより、LiとNbとの組成が所定の状態である結晶化したLiNbO3層3bを形成することができる。
【0097】
次に、本発明の更に具体的な実施形態について説明する。
【0098】
図8~
図14には、本実施形態の圧電デバイスの一例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図8に示すように、半導体基板31上に後にキャビティとなる凹部31aを形成し、凹部31a内に犠牲層32を形成する。犠牲層32を備えた半導体基板31を基材1とする。半導体基板31は単結晶シリコン基板を例示できる。単結晶シリコン基板の表面には、パッシベーション膜として図示しない酸化シリコン膜が形成されていてもよい。
【0099】
次に、
図9に示すように、半導体基板31及び犠牲層32上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる下部電極層33を形成する。下部電極層33は例えば、Pt、Mo、Ru、W、Ir等をターゲットとするDCスパッタリング法により形成することが好ましい。下部電極層33の厚みは、例えば、10~200nmの範囲とする。
【0100】
次に、
図10に示すように、下部電極層33上に、LaNiO
3からなるバッファ層2を形成する。バッファ層2の製造条件等は上述した通りである。これにより、バッファ層2は、圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させるものとなる。バッファ層2の厚みは、例えば、10~100nmの範囲とする。
【0101】
次に、
図11に示すように、バッファ層2上に、LiNbO
3からなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。圧電体膜3の厚みは、例えば、300nm以下の範囲とする。
【0102】
次に、
図12に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。上部電極層34は例えば、Pt、Mo、Ru、W、Ir等をターゲットとするDCスパッタリング法により形成することが好ましい。上部電極層34の厚みは、例えば、10~200nmの範囲とする。
【0103】
次に、
図13に示すように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、上部電極層34及び圧電体膜3を所定の平面形状にパターニングする。上部電極層34及び圧電体膜3は、少なくとも犠牲層32の上方に残存するようにパターニングすることが好ましい。これにより、犠牲層32の上において、下部電極層33、バッファ層2、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K1が形成される。
【0104】
次に、
図14に示すように、犠牲層32を除去し、積層体K1の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。
図14に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0105】
次に、
図15~
図20には、本実施形態の圧電デバイスの別の例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図15に示すように、
図8の場合と同様にして、半導体基板31上に後にキャビティとなる凹部31aを形成し、凹部31a内に犠牲層32を形成する。
【0106】
次に、
図16に示すように、Agからなるバッファ層2を形成する。Agからなるバッファ層2は、圧電デバイスの下部電極としても機能する。バッファ層2の製造条件等は上述した通りである。これにより、Agからなるバッファ層2は、その表面の面内において(002)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。バッファ層2の厚みは、例えば、10~100nmの範囲とする。
【0107】
次に、
図17に示すように、
図10の場合と同様にして、バッファ層2上に、LiNbO
3からなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。圧電体膜3の厚みは、例えば、300nm以下の範囲とする。
【0108】
次に、
図18に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。
【0109】
次いで、
図19に示すように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、上部電極層34及び圧電体膜3を所定の平面形状にパターニングする。上部電極層34及び圧電体膜3は、少なくとも犠牲層32の上方に残存するようにパターニングすることが好ましい。これにより、犠牲層32の上において、下部電極として機能するバッファ層2、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K2が形成される。
【0110】
次に、
図20に示すように、犠牲層32を除去し、積層体K2の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。
図20に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0111】
次に、
図21~
図27には、本実施形態の圧電デバイスの更に別の例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図21に示すように、
図8の場合と同様にして、半導体基板31上に後にキャビティとなる凹部31aを形成し、凹部31a内に犠牲層32を形成する。
【0112】
次に、
図22に示すように、
図16の場合と同様にして、Agからなるバッファ層2を形成する。Agからなるバッファ層2は、圧電デバイスの下部電極としても機能する。
【0113】
次に、
図23に示すように、バッファ層2上に、TiN、TiW、TiWNのうちの1種からなる酸化防止膜4を形成する。酸化防止膜4の製造条件等は上述した通りである。酸化防止膜4は、圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものとなる。酸化防止膜4の厚みは、例えば、10~100nmの範囲とする。
【0114】
次に、
図24に示すように、
図10の場合と同様にして、酸化防止膜4上に、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。圧電体膜3の厚みは、例えば、300nm以下の範囲とする。
【0115】
次に、
図25に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。
【0116】
次いで、
図26に示すように、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術により、上部電極層34及び圧電体膜3を所定の平面形状にパターニングする。上部電極層34及び圧電体膜3は、少なくとも犠牲層32の上方に残存するようにパターニングすることが好ましい。これにより、犠牲層32の上において、下部電極として機能するバッファ層2、酸化防止膜4、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K3が形成される。
【0117】
次に、
図27に示すように、犠牲層32を除去し、積層体K3の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。
図27に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0118】
次に、
図28~
図33には、本実施形態の圧電デバイスの更に別の例として、FBAR型フィルタの製造プロセスを示す。
図28に示すように、酸化シリコン膜31bが形成された半導体基板31を用意する。半導体基板31は単結晶シリコン基板が好ましい。
【0119】
次に、
図29に示すように、Agからなるバッファ層2を形成する。Agからなるバッファ層2は、圧電デバイスの下部電極としても機能する。バッファ層2の製造条件等は上述した通りである。これにより、Agからなるバッファ層2は、その表面の面内において(002)面方向に結晶方位が配向されたものとなり、圧電体膜の結晶方位を(012)面方向に配向させるものとなる。バッファ層2の上に、酸化防止膜を更に成膜してもよい。
【0120】
次に、
図30に示すように、バッファ層2上に、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電体膜3を形成する。圧電体膜3の製造条件等は上述した通りである。これにより、圧電体膜3は、その表面の面内において(012)面方向に結晶方位が配向されたものとなる。
【0121】
次に、
図31に示すように、圧電体膜3上に、Pt、Mo、Ru、W、Ir等からなる上部電極層34を形成する。これにより、下部電極として機能するバッファ層2、圧電体膜3及び上部電極層34からなる積層体K4が形成される。
【0122】
次に、
図32に示すように、半導体基板31及び積層体K4を覆うように絶縁膜35を形成する。
【0123】
次に、
図33に示すように、半導体基板31の裏面側からビア加工を行うことにより、積層体K4の下にキャビティCを形成する。以上により、本実施形態の圧電デバイスが得られる。
図33に示す圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0124】
更に、本実施形態の圧電デバイスは、
図2~
図4に示した形態に限定されるものではない、例えば、基材1の上にバッファ層2を形成し、更にその上に電極層(下部電極)を形成し、更に電極層の上に、(012)面方向に結晶方位が配向されたLiNbO
3またはLiTaO
3からなる圧電体膜3を形成してもよい。また、圧電体膜3上には別の電極層(上部電極)を形成してもよい。この場合、バッファ層2は、電極層を(002)配向させるとともに、LiNbO
3またはLiTaO
3からなる圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させる層となる。より好ましくは、バッファ層2をTiN膜とし、電極層(下部電極)としてPt膜を選択することで、電極層を(002)配向させるとともに、LiNbO
3またはLiTaO
3からなる圧電体膜3の結晶方位を(012)面方向に配向させることが可能になる。各層及び各膜の厚みの範囲は、上述の通りでよい。このような圧電デバイスは、FBAR型フィルタとして機能するものとなる。
【0125】
さらに、本発明においては、上述した実施形態における個々の構成を個別に選択して、それぞれ組み合わせて実施することも可能である。
【実施例0126】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0127】
<実験例1>
単結晶シリコンからなる半導体基板表面に、バッファ層として酸化チタン膜を形成した後、Ptからなる下部電極層を形成した。下部電極層はバッファ層としてPtをターゲットとするDCスパッタリング法により形成した。酸化チタン膜の厚みは35nmとした。下部電極層の厚みは100nmとした。下部電極層の成膜条件としては、基板温度を500℃とし、成膜圧力を0.38Paとし、Ar流量を30sccmとし、DCスパッタのパワーを500Wとした。
【0128】
次に、第1チャンバにおいて、下部電極層上にLiNbO3からなる層を形成した。このLiNbO3からなる層は、Li/Nb=1であるLiNbO3をターゲットとするRFスパッタリング法で斜め入射により形成した。LiNbO3からなる層の厚みは20~40nmとした。LiNbO3からなる層の成膜条件としては、基板温度を450~550℃とし、成膜圧力を0.23Paとし、Ar流量を100sccmとし、酸素流量を1sccmとした。また、RFスパッタのパワーを周波数13.56MHzとして100Wとした。同時に、基板バイアス電力(12.5MHz)を0Wとした。
【0129】
この実験例1のLiNbO
3からなる層について、圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)をX線回折測定により確認した。その結果を
図34に示す。Pt/TiOx/SiO
2/Si-Sub上では、Zカットに対応するLiNbO
3(006)のピークが得られた。結晶性FWHM=2°程度であった。
【0130】
また、実験例1のLiNbO
3からなる層を膜厚180nmまで形成し、このLiNbO
3からなる層について、膜表面をSEM画像により観察した。その結果を
図35に示す。この結果から、膜厚180nmのLiNbO
3からなる層でクラックが発生していることがわかる。さらに、膜厚180nmのLiNbO
3からなる層の膜応力を薄膜応力測定器FLX-2000A(東朋テクノロジー社製)により測定した。この結果、LiNbO
3からなる層の膜応力が平均で430MPaであり、クラック発生による応力緩和も考慮するとさらに高い引張り応力が発生していると考えられる。
【0131】
また、実験例1の膜厚180nmとしたLiNbO
3からなる層の形成において、基板バイアスを印加した。この基板バイアス印加による結晶配向性(面内配向性)の変化をX線回折測定により確認した。基板バイアスが0Wと10Wとの結果を
図36に示す。同時に、膜中のLi組成比を測定した。基板バイアスが0Wと10Wとの結果を
図37に示す。応力緩和のために、基板バイアスを印加した結果、膜中のLiが急激に減少したことでLiNbO
3の結晶が得られなかった。基板バイアス印加によるLiの選択的リスパッタが生じたことが考えられる。
【0132】
<実験例2>
次に、実験例1のバッファ層上に、第2チャンバにおいてLiNbO3からなる層を、Li/Nb=3であるLiNbO3をターゲットとするRFスパッタリング法により形成した。このとき、基板バイアスが0Wと30Wとした。LiNbO3からなる層の厚みは100nm以上とした。LiNbO3からなる層の成膜条件としては、基板温度を650℃とし、成膜圧力を0.50Paとし、Ar流量を100sccmとし、酸素流量を5sccmとした。また、RFスパッタのパワーを500W(周波数13.56MHz)とした。同時に、基板バイアス電力(12.5MHz)を30Wとした。
【0133】
この実験例2のLiNbO
3からなる層について、圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)をX線回折測定により確認した。基板バイアスが0Wと30Wとの結果を
図38に示す。Pt/Ti/SiO
2/Si-Sub上では、Li過剰ターゲットへの変更と酸素流量の調整によって、基板バイアス0WではLi過剰の結晶が得られた。その結果、基板バイアスを30W印加した試料においてLiNbO
3(006)の配向成長を観測した。
【0134】
<実験例3>
次に、実験例1の膜厚20~40nmのLiNbO3からなる層を下地層とし、この下地層上に、第2チャンバにおいて、LiNbO3からなるLiNbO3層を膜厚180nmで形成して圧電体膜とした。LiNbO3層は、Li/Nb=3であるLiNbO3をターゲットとするRFスパッタリング法により形成した。LiNbO3層の厚みは100nm以上とした。LiNbO3層の成膜条件としては、基板温度を650℃とし、成膜圧力を0.50Paとし、Ar流量を100sccmとし、酸素流量を5sccmとした。また、RFスパッタのパワーを500W(周波数13.56MHz)とした。同時に、基板バイアス電力(12.5MHz)を30Wとした。
【0135】
この実験例3の、下地層上にLi/Nb=3であるターゲットを用いて形成したLiNbO
3からなる層について、圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)をX線回折測定により確認した。(006)の配向成長付近のみの結果を
図39に示す。(006)のピークが検出されていることがわかる。
比較のため、下地層を形成しないで、Li/Nb=3であるターゲットを用いて形成したLiNbO
3からなる層について、圧電体膜の結晶配向性(面内配向性)をX線回折測定により確認した。その結果を
図40に示す。(006)のピークが検出されていないことがわかる。
同様に、下地層の(006)の配向成長付近のみの結果を
図41に示す。(006)のピークが検出されていないことがわかる。なお下部電極層(バッファ層)としてPtを採用した場合LiNbO
3もしくはLiTaNbO
3からなる下地層を設けることが好ましいが、その他のバッファ層においては必ずしもこの限りではない。特に、YSZやAgからなるようなバッファ層等をエピタキシャル成長して、高い結晶性、格子整合を呈することができる場合、LiNbO
3もしくはLiTaNbO
3からなる下地層を用いないこともできる。
【0136】
この実験例3の、下地層上に基板バイアスが30Wとして形成したLiNbO
3からなる層について、膜表面をSEM画像により観察した。その結果を
図42に示す。
基板バイアスが30Wとして形成した試料ではクラックが減少しており、基板バイアス印加の効果で高い応力が緩和傾向にあることが考えられる。膜応力をFLXにより測定した。この結果、平均で283MPaであった。この基板バイアスが30Wの試料でもXRDにてLi過剰の結晶が混在していることが考えられ、引張り応力がまだ高いことを考慮すると、バイアス電力をさらに上げることでクラックなしのLiNbO
3からなる層が得られることが示唆される。FWHM=2.5°であった。
【0137】
これらの結果から、基板バイアスを印加すると膜応力が緩和されるが、基板バイアスを印加した場合は、LiNbO3が結晶成長せず、膜中のLi量が減少してしまう。これに対して、Li/Nbを大きくしてLiリッチであるターゲットを用いることで、基板バイアスを印加しても、LiNbO3が結晶成長することが確認できた。