(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065479
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】呼吸モニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240508BHJP
A61B 5/113 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61B5/11 310
A61B5/11 300
A61B5/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174361
(22)【出願日】2022-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和4年5月28日,プログラム・事前抄録集 2.令和4年5月28日発表 3.令和4年8月5日発表
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】米田 直輝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 颯真
(72)【発明者】
【氏名】杉本 大輔
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB09
4C038VB33
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】食事を妨げることなく、嚥下と呼吸の協調パターンを評価しうる呼吸モニタリングシステムを提供すること。
【解決手段】喉頭運動検知センサ1によって喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを特定し、焦電センサ2によって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、出力波形から、喉頭閉鎖開始タイミング前に最初に現れる嚥下前凸ピーク点と、喉頭閉鎖終了タイミング後に最初に現れる嚥下後凸ピーク点とを検出し、嚥下前凸ピーク点が一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は呼気期間と判断し、嚥下前凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は吸気期間と判断し、嚥下後凸ピーク点が一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は呼気期間と判断し、嚥下後凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は吸気期間と判断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚥下と呼吸の協調パターンを検出する呼吸モニタリングシステムであって、
喉頭運動検知センサによって喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを特定し、
焦電センサによって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、
前記出力波形から、前記喉頭閉鎖開始タイミング前に最初に現れる嚥下前凸ピーク点と、前記喉頭閉鎖終了タイミング後に最初に現れる嚥下後凸ピーク点とを検出し、
前記嚥下前凸ピーク点が前記一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は前記呼気期間と判断し、
前記嚥下前凸ピーク点が前記他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は前記吸気期間と判断し、
前記嚥下後凸ピーク点が前記一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は前記呼気期間と判断し、
前記嚥下後凸ピーク点が前記他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は前記吸気期間と判断する
ことを特徴とする呼吸モニタリングシステム。
【請求項2】
前記一方凸ピーク点から前記他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、
前記他方凸ピーク点から前記一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、
前記吸気開始点から前記呼気開始点までの間を吸気区間、前記呼気開始点から前記吸気開始点までの間を呼気区間とする
ことを特徴とする請求項1に記載の呼吸モニタリングシステム。
【請求項3】
前記出力波形を微分することで現れるピーク位置によって前記吸気開始点及び前記呼気開始点を検出する
ことを特徴とする請求項2に記載の呼吸モニタリングシステム。
【請求項4】
前記喉頭運動検知センサから喉頭の挙上と下降を検出し、
最大挙上時のセンサ出力値を用いて設定した第1閾値によって判定した喉頭挙上タイミングを前記喉頭閉鎖開始タイミングとし、
前記最大挙上時のセンサ出力値を用いて設定した第2閾値によって判定した喉頭下降タイミングを前記喉頭閉鎖終了タイミングとする
ことを特徴とする請求項1に記載の呼吸モニタリングシステム。
【請求項5】
前記喉頭運動検知センサからの出力波形を微分することで現れる変曲点によって前記喉頭閉鎖開始タイミングと前記喉頭閉鎖終了タイミングを特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の呼吸モニタリングシステム。
【請求項6】
前記嚥下後凸ピーク点が前記他方凸ピーク点であれば、前記嚥下後凸ピーク点から前記嚥下後凸ピーク点の後に現れる嚥下後第2凸ピーク点までの時間を計測し、
前記時間が所定時間以上であれば喉頭閉鎖終了後は前記吸気期間と判断し、
前記時間が前記所定時間未満であれば喉頭閉鎖終了後は前記呼気期間と判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の呼吸モニタリングシステム。
【請求項7】
焦電センサによって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、
前記一方凸ピーク点から前記他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、
前記他方凸ピーク点から前記一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、
前記吸気開始点から前記呼気開始点までの間を吸気区間、前記呼気開始点から前記第1変曲点吸気開始点までの間を呼気区間とする
ことを特徴とする呼吸モニタリングシステム。
【請求項8】
耳掛け式装着器具又は眼鏡式装着器具に自在アームを取り付け、
前記自在アームの先端に前記焦電センサを設け、
前記焦電センサを前記鼻孔の下方に配置して用いる
ことを特徴とする請求項1又は請求項7に記載の呼吸モニタリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下と呼吸の協調パターンを検出する呼吸モニタリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
我々の食事動作において、「嚥下機能」と「呼吸機能」の協調は重要な役割を果たしている。それは、嚥下・呼吸運動が咽頭という共通路を使用していることに加え、嚥下運動と呼吸運動が共に下位脳幹に存在するパターン発生器(Central Pattern Generator)によって形成され、機能的にも相互に作用しあっているためである。
普段、我々が呼吸を行う際、肺からの空気を体外に排出したり、新鮮な空気を肺に取り入れたりできるよう、気道は常に開いたままである。しかし嚥下時には、嚥下反射による喉頭閉鎖によって気道を塞ぎ、食塊の気道内への侵入(誤嚥や窒息)を防ぐ。喉頭閉鎖時に呼吸が停止することを嚥下性無呼吸と呼び、気道解放と共に呼吸パターンがリセットされる。健常成人では嚥下性無呼吸時間は約0.3~1秒であり、リセット後は90%が呼気から開始されることが知られている。これは、呼気から呼吸を再開することで、食塊の気管流入や咽頭残留物の吸引を防ぐためである。一方、誤嚥を生じやすい高齢者や嚥下障害者の場合は、リセット後に呼吸が吸気から再開される頻度が高くなることや、嚥下性無呼吸時間が延長することが報告されている。
このように、嚥下機能評価や食事の見守りにおいて、嚥下と呼吸の協調パターンを観察することは重要である。しかし、現在要介護認定のアセスメントには呼吸機能の視点が含まれておらず、食事介助や福祉の現場においてその協調には着目されていない現状がある。また、これまでも食事の見守りに利用可能なウェアラブルデバイスは開発されてきたが、GOKURI(PLIMES株式会社)に代表されるように嚥下の有無の検出に限定されており、呼吸も含め同時に計測できるシステムは確立されていない。また、呼吸検出の方法自体はいくつか開発されているが、胸部及び腹部の動態を測定する方法では、得られたデータが各被験者間及び個人間で大きくばらつく問題点があり、サーミスタや熱電対を用いる方法では、データのばらつきやセンサ感度などの問題点が指摘されている。測定環境の影響を受けずセンサ感度の高い方法として鼻呼吸状態のボリュームフローを計測する差圧式呼吸流量センサがあるが、装着時に使用するマスクによって食事が妨げられる欠点がある。
特許文献1は、使用者の体調や食物の種類等に応じ簡単な操作で目標咀嚼条件が設定され、使用者の咀嚼状態を検出判定通報する咀嚼カウンタを提案している。なお、特許文献1では、圧電素子を用いて使用者の下顎骨及び上頬骨の動きを咀嚼動作として検出している。
特許文献2は、嚥下動作が生じていないことを検出する嚥下障害検出システムを提案している。このシステムでは、咀嚼検出手段が、被検者の咀嚼動作が継続して行われていることを検出し、動き検出手段が、咽頭または喉頭が所定の動きをしていないことを検出し、嚥下障害判定手段が、咀嚼検出手段及び動き検出手段の2つの検出結果のみに基づいて被検者が嚥下障害であることを判定するものである。
特許文献2の咀嚼検出手段は、咀嚼時の口内の音、被検者の咀嚼時に動く顎の位置、被検者の咀嚼に関与する筋肉の筋電位、及び被検者の咀嚼に関与する血管の血流に関する物理量を検出し、動き検出手段には、被検者の喉頭の位置を測定可能な圧力センサ、測距センサ、又は被検者の咽頭の位置を内部撮影して透視画像を取得して出力する撮像カメラを用いている。
特許文献3は、咀嚼回数を計測するために外耳道の動きをイヤーチップで受けて測定する咀嚼回数計を提案している。
特許文献4は、咀嚼動作により生じる電位を検出するための一組の電位検出手段であって、両側の外耳道または耳介にそれぞれ装着される電位検出手段と、一組の電位検出手段により計測された電位の差を算出する電位差算出手段とを備えた咀嚼動作計測装置を提案している。
特許文献5は、耳と頭部との間で挟持されて耳に装着される耳掛部を備えて咀嚼回数を計測できる生体装着型計測装置を提案している。
特許文献6は、外耳道に挿入されたイヤホン型センサを用いた筋活動診断装置を提案しており、人の筋肉の活動状態の一つとして咀嚼を特定している。
特許文献7は、変位センサ及びマイクを備えて咀嚼や嚥下を検知する検知装置を提案している。
特許文献8は、咀嚼の検出には生体信号検出手段を用い、嚥下の検出には音検出手段を用い、更に嚥下音の特定にあたっては、生体信号検出手段で検出される咀嚼区間を用いることで、咀嚼及び嚥下を正確に検出でき、筋活動による生体信号の検出及び音検出を耳周辺で行うことで装着負担が少ない耳周辺装着具を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-317144号公報
【特許文献2】特開2012-75758号公報
【特許文献3】特開2013-42968号公報
【特許文献4】特開2020-431号公報
【特許文献5】特開2016-131854号公報
【特許文献6】特開2012-228号公報
【特許文献7】国際公開2018/182043号
【特許文献8】特開2022-48693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1から特許文献8では、嚥下と呼吸の協調パターンを評価することはできない。
【0005】
本発明は、食事を妨げることなく、嚥下と呼吸の協調パターンを評価しうる呼吸モニタリングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の呼吸モニタリングシステムは、嚥下と呼吸の協調パターンを検出する呼吸モニタリングシステムであって、喉頭運動検知センサ1によって喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを特定し、焦電センサ2によって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、前記出力波形から、前記喉頭閉鎖開始タイミング前に最初に現れる嚥下前凸ピーク点と、前記喉頭閉鎖終了タイミング後に最初に現れる嚥下後凸ピーク点とを検出し、前記嚥下前凸ピーク点が前記一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は前記呼気期間と判断し、前記嚥下前凸ピーク点が前記他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は前記吸気期間と判断し、前記嚥下後凸ピーク点が前記一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は前記呼気期間と判断し、前記嚥下後凸ピーク点が前記他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は前記吸気期間と判断することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の呼吸モニタリングシステムにおいて、前記一方凸ピーク点から前記他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、前記他方凸ピーク点から前記一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、前記吸気開始点から前記呼気開始点までの間を吸気区間、前記呼気開始点から前記吸気開始点までの間を呼気区間とすることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の呼吸モニタリングシステムにおいて、前記出力波形を微分することで現れるピーク位置によって前記吸気開始点及び前記呼気開始点を検出することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の呼吸モニタリングシステムにおいて、
前記喉頭運動検知センサから喉頭の挙上と下降を検出し、最大挙上時のセンサ出力値を用いて設定した第1閾値によって判定した喉頭挙上タイミングを前記喉頭閉鎖開始タイミングとし、前記最大挙上時のセンサ出力値を用いて設定した第2閾値によって判定した喉頭下降タイミングを前記喉頭閉鎖終了タイミングとすることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1に記載の呼吸モニタリングシステムにおいて、前記喉頭運動検知センサ1からの出力波形を微分することで現れる変曲点によって前記喉頭閉鎖開始タイミングと前記喉頭閉鎖終了タイミングを特定することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1に記載の呼吸モニタリングシステムにおいて、前記嚥下後凸ピーク点が前記他方凸ピーク点であれば、前記嚥下後凸ピーク点から前記嚥下後凸ピーク点の後に現れる嚥下後第2凸ピーク点までの時間を計測し、前記時間が所定時間以上であれば喉頭閉鎖終了後は前記吸気期間と判断し、前記時間が前記所定時間未満であれば喉頭閉鎖終了後は前記呼気期間と判断することを特徴とする。
請求項7記載の本発明呼吸モニタリングシステムは、焦電センサ2によって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、前記一方凸ピーク点から前記他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、前記他方凸ピーク点から前記一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、前記吸気開始点から前記呼気開始点までの間を吸気区間、前記呼気開始点から前記第1変曲点吸気開始点までの間を呼気区間とすることを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項1又は請求項7に記載の呼吸モニタリングシステムにおいて、耳掛け式装着器具又は眼鏡式装着器具4に自在アーム5を取り付け、前記自在アーム5の先端に前記焦電センサ2を設け、前記焦電センサ2を前記鼻孔の下方に配置して用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の呼吸モニタリングシステムによれば、食事動作を妨げず、食事動作によるノイズを少なくして、嚥下前後の呼吸パターンを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による呼吸モニタリングシステムに用いる計測装置を示す写真及び説明図
【
図3】PVDFセンサの出力波形から呼気期間/吸気期間の抽出フロー
【
図4】PVDFセンサの出力波形にピーク点が複数ある場合の呼気開始点と吸気開始点の求め方を示す図
【
図5】呼気/吸気区間の検出結果を示し、正常呼吸時のFLOWセンサとPVDFセンサの比較と誤差を示す図
【
図6】呼気/吸気区間の検出結果を示し、頻呼吸時のFLOWセンサとPVDFセンサの比較と誤差示す図
【
図7】呼気/吸気区間の検出結果を示し、徐呼吸時のFLOWセンサとPVDFセンサの比較と誤差を示す図
【
図10】喉頭閉鎖開始点/終了点の検出と嚥下前後における呼吸パターン判別を示す図
【
図11】嚥下前後の呼吸パターン自動判別結果を示す図
【
図12】喉頭閉鎖開始点/終了点の検出の他の方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による呼吸モニタリングシステムは、喉頭運動検知センサによって喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを特定し、焦電センサによって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、出力波形から、喉頭閉鎖開始タイミング前に最初に現れる嚥下前凸ピーク点と、喉頭閉鎖終了タイミング後に最初に現れる嚥下後凸ピーク点とを検出し、嚥下前凸ピーク点が一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は呼気期間と判断し、嚥下前凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は吸気期間と判断し、嚥下後凸ピーク点が一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は呼気期間と判断し、嚥下後凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は吸気期間と判断するものである。本実施の形態によれば、食事動作を妨げず、食事動作によるノイズを少なくして、嚥下前後の呼吸パターンを判断することができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による呼吸モニタリングシステムにおいて、一方凸ピーク点から他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、他方凸ピーク点から一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、吸気開始点から呼気開始点までの間を吸気区間、呼気開始点から第1変曲点吸気開始点までの間を呼気区間とするものである。本実施の形態によれば、食事動作を妨げることなく吸気期間と呼気期間とを判断することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による呼吸モニタリングシステムにおいて、出力波形を微分することで現れるピーク位置によって吸気開始点及び呼気開始点を検出するものである。本実施の形態によれば、吸気開始点及び呼気開始点を検出しやすい。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による呼吸モニタリングシステムにおいて、喉頭運動検知センサから喉頭の挙上と下降を検出し、最大挙上時のセンサ出力値を用いて設定した第1閾値によって判定した喉頭挙上タイミングを喉頭閉鎖開始タイミングとし、最大挙上時のセンサ出力値を用いて設定した第2閾値によって判定した喉頭下降タイミングを喉頭閉鎖終了タイミングとするものである。本実施の形態によれば、喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを高い精度で特定することができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1の実施の形態による呼吸モニタリングシステムにおいて、喉頭運動検知センサからの出力波形を微分することで現れる変曲点によって喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを特定するものである。本実施の形態によれば、喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを高い精度で特定することができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1の実施の形態による呼吸モニタリングシステムにおいて、嚥下後凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば、嚥下後凸ピーク点から嚥下後凸ピーク点の後に現れる嚥下後第2凸ピーク点までの時間を計測し、時間が所定時間以上であれば喉頭閉鎖終了後は吸気期間と判断し、時間が所定時間未満であれば喉頭閉鎖終了後は呼気期間と判断するものである。本実施の形態によれば、喉頭閉鎖終了時に咽頭の収縮が緩和されることで生じる非呼吸性気流による影響を除去することができ、喉頭閉鎖終了後の呼吸パターンを正しく判断することができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態による呼吸モニタリングシステムは、焦電センサによって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得し、一方凸ピーク点から他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、他方凸ピーク点から一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、吸気開始点から呼気開始点までの間を吸気区間、呼気開始点から第1変曲点吸気開始点までの間を呼気区間とするものである。本実施の形態によれば、食事動作を妨げることなく吸気期間と呼気期間とを判断することができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第1又は第7のいずれかの実施の形態による呼吸モニタリングシステムにおいて、耳掛け式装着器具又は眼鏡式装着器具に自在アームを取り付け、自在アームの先端に焦電センサを設け、焦電センサを鼻孔の下方に配置して用いるものである。本実施の形態によれば、焦電センサが咀嚼時における下顎の運動の影響を受けることがなく、また食事動作を妨げることなく鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出することができる。
【実施例0017】
以下本発明の一実施例について図面とともに説明する。
図1は本実施例による呼吸モニタリングシステムに用いる計測装置を示す写真及び説明図である。
本実施例による呼吸モニタリングシステムは、喉頭運動検知センサ1と焦電センサ2を用いる。本実施例では、焦電センサ2にはPVDF(Polyvinylidene Fluoride film、以下PVDF)センサ(ピエゾフィルムセンサ)を用いている。
嚥下の検出には、一般に嚥下音や筋活動を計測する方法が用いられるが、嚥下性無呼吸の区間を検出するためには喉頭閉鎖と密接に関わる喉頭の挙上と下降の運動を観測することが適切である。嚥下時に生じる喉頭運動は、喉頭隆起の位置変化やそれに伴う頸部の周囲長変化として一定の情報を得ることができる。
喉頭運動検知センサ1を用いることで、喉頭隆起の位置変化を検知することができる。喉頭運動検知センサ1には、伸縮性ひずみセンサを用いることができる。伸縮性ひずみセンサ1を、喉頭隆起が最も鮮明に確認できる甲状軟骨の尖部に配置する。伸縮性ひずみセンサ1には、例えば「C-STREATCH(バンドー化学株式会社)」を用いることができる。伸縮性ひずみセンサ1は、頸部装着用治具3によって頸部に固定する。なお、喉頭運動検知センサ1として嚥下音を検知するセンサを用いることで、喉頭挙上と咽頭への食塊流入によって発生する音、下咽頭への食塊流入と食道入口部の開大によって発生する音、及び嚥下終了後の喉頭の下降によって発生する音を検知することができ、喉頭運動検知センサ1として嚥下造影装置を用いることで、喉頭閉鎖の状態を直接計測することができる。
【0018】
PVDFセンサ2は、鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出する。呼吸は「吸気」と「呼気」の繰り返し運動である。鼻孔から出る気流温度に着目すると、吸気時には取り込まれる外気によって温度が下降し、呼気時には鼻の加温機能により温度が上昇する。この温度変化から呼吸信号を検出することが可能である。
耳掛け式装着器具又は眼鏡式装着器具4に自在アーム5を取り付け、自在アーム5の先端にPVDFセンサ2を設ける。
計測時には、PVDFセンサ2を鼻孔の下方に配置して用いる(
図1(e)参照)。鼻孔の下にPVDFセンサ2を貼り付けると咀嚼時の口唇の動きの影響を受ける可能性があるが、自在アーム5を耳掛け式装着器具又は眼鏡式装着器具4に取り付けることで、自在アーム5の先端に設けるPVDFセンサ2は咀嚼時に下顎の運動の影響を受けることがない。また、PVDFセンサ2を鼻孔の下方に配置して計測するため、食事動作を妨げることなく鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出することができる。
PVDFセンサ2は、圧電特性と焦電特性の2つの特性を持つ。圧電特性は圧縮や伸びなどの変化に対し電圧を発生させる特性であり、焦電特性は温度変化に対し電圧を発生させる特性である。PVDFセンサ2の焦電特性を用いた呼吸信号検出法は、検出感度が高く、サーミスタや熱電対では拾えない小さな呼吸も検知できる。PVDFセンサ2は、高柔軟性、軽量、低コスト、外部電源を必要としないなどの特性を併せ持つ。
鼻孔からの呼吸気流がPVDFセンサ2に当たりやすくするため、PVDFセンサ2は、鼻下の形状に合わせた2つの拡大部2aを有している。
【0019】
図2はPVDFセンサの出力波形を示す図であり、
図2(a)はFLOWセンサとの波形を比較した図、
図2(b)はPVDFセンサの出力波形を2階微分した波形を示している。なお、本実施例では2階微分した波形を用いて説明するが、1階微分した波形を用いてもよい。
図2(a)は、PVDFセンサ2とFLOWセンサの波形を比較している。FLOWセンサでは、鼻呼吸停止時の出力電圧を閾値とし、閾値を上回る区間を呼気区間、下回る区間を吸気区間と定めることができる。また、呼気及び吸気の切り替わり点に関しても同様の方法で求めることができる。この呼気及び吸気の切り替わり点の位置をPVDFセンサ2の出力波形と重ねると、切り替わり点と出力波形の傾きが急激に変化している点が重なる。このことから、PVDFセンサ2の出力波形の変曲点から、呼気及び吸気の切り替わり点を検出できることが示唆される。
また、FLOWセンサから定められる呼気区間にはPVDFセンサ2の出力波形の一方凸ピーク点(図中黒丸)が含まれ、吸気区間にはPVDFセンサ2の出力波形の他方凸ピーク点(図中白丸)が含まれることが確認された。これらのピーク点は計測した呼吸気流の温度が最も上がったタイミング及び最も下がったタイミングを示すものと考えられ、ピークを迎えた後は徐々に外気温と一定になろうとするため基線に収束していくのだと考えられる。一方凸ピーク点と他方凸ピーク点はどちらも1呼吸周期ごとに確認されることから、このピーク間を取り出すことで1呼吸分の計測データを取り出せることが示唆される。
【0020】
このように、PVDFセンサ2によって鼻孔からの呼吸気流の温度変化を検出して、呼気期間に一方凸ピーク点が現れ、吸気期間に他方凸ピーク点が現れる出力波形を取得することができる。本実施例で用いたPVDFセンサ2では、加温時にプラス波形を出すため、上凸ピーク点が一方凸ピーク点となり下凸ピーク点が他方凸ピーク点となるが、逆極性として加温時にマイナス波形を出すこともできる。
また、一方凸ピーク点から他方凸ピーク点までの間に現れる第1変曲点を吸気開始点として検出し、他方凸ピーク点から一方凸ピーク点までの間に現れる第2変曲点を呼気開始点として検出し、吸気開始点から呼気開始点までの間を吸気区間、呼気開始点から第1変曲点吸気開始点までの間を呼気区間とすることができる。
【0021】
フィルタ処理を行ったPVDFセンサ信号の変曲点を検出するために、得られた信号を2階微分(5点微分)した。
図2(b)に示すように、2階微分をして得られる波形を観察すると、PVDFセンサ2の出力波形の変曲点の位置と、2階微分波形に出現するピークの位置がほぼ一致していることが確認された。
【0022】
図3はPVDFセンサの出力波形から呼気期間/吸気期間の抽出フローである。
図3(a)に示すように、PVDFセンサ2からの計測信号を、フィルタ処理した後に2階微分処理を行い、その後に変曲点を検出して呼気期間/吸気期間を検出する。
フィルタ処理では、時間遅れのない6次バターワースフィルタを用い、20Hzのローパスフィルタを適用させてPVDFセンサ信号のノイズを除去した。
ノイズを除去した信号は、フィルタ処理を行ったPVDFセンサ信号の変曲点を検出するために、2階微分した。数値微分は
図3(b)に示す5点微分公式を用いた。
【0023】
図4はPVDFセンサの出力波形にピーク点が複数ある場合の呼気開始点と吸気開始点の求め方を示す図である。
PVDFセンサ2からの出力波形からピーク検出を行い、温度変化最大の位置と最小の位置を求める。続いて、2階微分波形も同様にピーク検出を行う。得られた2階微分波形のピーク点が複数であった場合には、ピーク点のうちPVDFセンサ2の出力波形の一方凸ピーク間(図中*)にある最後の正方向のピーク点を呼気開始点(
図4(a))、最初の負方向のピーク点を吸気開始点とする(
図4(b))。
【0024】
図5から
図7は呼気/吸気区間の検出結果を示す図であり、
図5は正常呼吸時のFLOWセンサとPVDFセンサの比較と誤差、
図6は頻呼吸時のFLOWセンサとPVDFセンサの比較と誤差、
図7は徐呼吸時のFLOWセンサとPVDFセンサの比較と誤差を示している。
【0025】
実験は、呼吸数や呼吸頻度等を正解値と比較するため、呼吸リズムを指示した呼吸計測(指示呼吸計測)で行った。計測は異なるリズム(20回/分:正常呼吸、25回/分:頻呼吸、12回/分:徐呼吸)で呼吸数20回ずつ、計測回数は各1回ずつとした。呼吸リズムの指示は、MATLAB(登録商標)のAppDesignerを用い、コンピュータの画面に表示される呼吸バーに呼吸リズムを合わせるように被験者に指示を行った。FLOWセンサとPVDFセンサからの呼吸信号をサンプリング周波数1,000Hzで同期計測した。
解析対象である18試行分のデータに対して、呼吸10回分のデータ区間を取り出した。その結果、8施行分に関しては正しく検出が行われ、残り10施行分に関しては明らかな誤検出が見られた。原因として、耳掛け式装着器具を装着した上からFLOWセンサと接続された鼻マスクを装着したことが挙げられる。この装着状態では、鼻マスク内の空気が換気されにくくなり、PVDFセンサ2によって検知したい呼吸気流の温度変化が小さくなってしまう。これによって出力電圧が小さくなり、2階微分出力波形のピークが変曲点の位置で検出されなかったと考えられる。
【0026】
図5から
図7のグラフは、自動検出が正しく行われた8試行分のデータに関して、FLOWセンサで得られた呼気/吸気区間のデータと比較したものである。正常呼吸では3名の被験者からデータが得られ、呼気/吸気区間いずれも誤差の平均は0.1秒未満だった。頻呼吸でも3名の被験者からデータが得られ、呼気/吸気区間いずれも誤差の平均は0.06秒未満だった。徐呼吸では2名の被験者からデータが得られ、呼気/吸気区間いずれも誤差の平均は0.08秒未満だった。この結果から、鼻マスクを装着せず通常の方法で本実施例の呼吸モニタリングシステムを使用した場合には、FLOWセンサと比較してもほとんど遅れなく呼気/吸気区間を検出可能であることが示された。なお、Y-1、Y-2、Y-3は被験者を示している。
【0027】
図8は嚥下性無呼吸を含む呼吸波形を示す図であり、
図8(a)は呼気→嚥下→呼気の呼吸パターンで見られる波形、
図8(b)は呼気→嚥下→吸気の呼吸パターンで見られる波形、
図8(c)は吸気→嚥下→呼気の呼吸パターンで見られる波形を示している。
実験は、嚥下を伴う呼吸計測で行った。呼吸位相の変調パターンの確認には呼吸相の異なるタイミングでの嚥下データが必要である。そこで、被験者が口に10mlの水を含んだ状態で呼吸リズムの間隔を一定にし、3回の呼吸周期を経た後、呼気中と吸気中との2つのタイミングで嚥下するように指示をした。この時の呼吸のリズムは20回/分とした。測定回数は、呼気中と吸気中とのタイミングでそれぞれ3回ずつ行い、計6回とした。
【0028】
また、
図8は、嚥下性無呼吸を含む場合の実験結果による波形(上段:FLOW波形、中段:PVDF波形、下段:伸縮性ひずみセンサ波形)を示している。
FLOWセンサの波形をもとに呼吸パターンを分類すると、
図8(a)に示す呼気→嚥下→呼気の呼吸パターン(eae型)、
図8(b)に示す呼気→嚥下→吸気の呼吸パターン(eai型)、
図8(c)に示す吸気→嚥下→呼気の呼吸パターン(iae型)の3つの呼吸パターンが確認された。なお、実験では観測できなかったが、その他の呼吸タイプとして吸気→嚥下→吸気(iai型)もある。
嚥下時のPVDFセンサ2の出力波形を観察すると、嚥下前の呼吸パターンが呼気の場合(
図8(a)、
図8(b))では小さな他方凸波形が確認され、吸気の場合(
図8(c))では小さな一方凸波形が確認された。また、嚥下直後は呼吸パターンが呼気、吸気いずれの場合も、通常時に比べて小さな凸の波形が見られることが確認された。いずれにしても嚥下のタイミングによって出力波形は様々であり、特に嚥下後が吸気の場合に関してはPVDFセンサの出力波形からだけでは嚥下イベントが起こったタイミングを確認することが難しい場合もあった。
また、嚥下性無呼吸の終了間際に急激な負の気流が発生しているデータも散見された。これは、喉頭閉鎖終了時に咽頭の収縮が緩和されることで生じる非呼吸性気流(Swallow Noninspiratory Flow、以下SNIF)だと考えられ、嚥下後が呼気、吸気のいずれの場合でも確認された。
【0029】
図9は嚥下前後の呼吸パターン判別法を説明する図であり、
図9(a)は嚥下前後呼吸パターン判別フローを示し、
図9(b)はピーク再探索の対象区間を示している。
図8に示すように、嚥下前後の呼吸パターンの変化は多様である。そこで、伸縮性ひずみセンサ1で計測した喉頭挙上の信号を併用することが好ましい。
図9(a)に示すように、PVDFセンサからの計測信号を、フィルタ処理した後にピーク検出を行う(前処理)。
ここで、
図8で説明したように、嚥下直後に出現する凸ピーク点は通常時の凸ピーク点に比べて小さいため、凸ピーク点の再探索を行う。
通常の呼吸周期は呼吸1回あたり3~5秒とされているため、半周期には1.5~2.5秒かかることになる。
従って、
図9(b)に示すように、半周期分にあたる一方凸ピーク点(*)から他方凸ピーク点(*)までの時間が2.5秒以上の場合には再探索対象区間とする。
そして、再探索対象区間では、伸縮性ひずみセンサ1で計測した喉頭挙上の信号を用いて、喉頭閉鎖開始点(喉頭閉鎖開始タイミング)と喉頭閉鎖終了点(喉頭閉鎖終了タイミング)を検出し、嚥下前後の呼吸パターンを判別する。
【0030】
図10は喉頭閉鎖開始点/終了点の検出と嚥下前後における呼吸パターン判別を示す図である。
伸縮性ひずみセンサ1の信号から喉頭閉鎖開始点と喉頭閉鎖終了点を検出するために閾値を定める。
例えば、喉頭閉鎖開始点を検出するための第1閾値を最大振幅(最大挙上時のセンサ出力値)の50%、喉頭閉鎖終了点を検出するための第2閾値を最大振幅(最大挙上時のセンサ出力値)の80%として設定する。この閾値は、Flowセンサで検出した嚥下性無呼吸区間と伸縮性ひずみセンサ1の信号の対応関係から適切に設定できる。
まず、伸縮性ひずみセンサ1の信号から、最大振幅となる最大振幅タイミングを検出し、最大振幅タイミングより前で、振幅が最大振幅に対して設定した第1閾値を下回ったタイミングを喉頭閉鎖開始タイミングとし、最大振幅タイミングより後で、振幅が最大振幅に対して設定した第2閾値を下回ったタイミングを喉頭閉鎖終了タイミングとする。
そして、再探索対象区間に、伸縮性ひずみセンサ1の信号から得られた喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを用い、喉頭閉鎖開始タイミング前に最初に現れる嚥下前凸ピーク点と、喉頭閉鎖終了タイミング後に最初に現れる嚥下後凸ピーク点とを検出する。
検出した嚥下前凸ピーク点が一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は呼気期間と判断し、検出した嚥下前凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖開始前は吸気期間と判断する。
また、検出した嚥下後凸ピーク点が一方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は呼気期間と判断し、検出した嚥下後凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば喉頭閉鎖終了後は吸気期間と判断する。
【0031】
なお、
図8で説明したように、喉頭閉鎖終了後にSNIFを生じている場合がある。そこで、
図9(b)の場合と同様に半周期には1.5~2.5秒かかることを利用し、喉頭閉鎖終了点後に他方凸ピーク点が見られた場合には、他方凸ピーク点から次の一方凸ピーク点までの時間が1.5秒かかっているか否かを確認し、1.5秒以上かかっている場合には嚥下後吸気、1.5秒未満の場合には嚥下後呼気と判別する。
すなわち、嚥下後凸ピーク点が他方凸ピーク点であれば、嚥下後凸ピーク点から嚥下後凸ピーク点の後に現れる嚥下後第2凸ピーク点までの時間を計測し、時間が所定時間以上であれば喉頭閉鎖終了後は吸気期間と判断し、時間が所定時間未満であれば喉頭閉鎖終了後は呼気期間と判断する。このようにして、喉頭閉鎖終了時に咽頭の収縮が緩和されることで生じるSNIFによる影響を除去することができ、喉頭閉鎖終了後の呼吸パターンを正しく判断することができる。
【0032】
図11は嚥下前後の呼吸パターン自動判別結果を示す図である。
36施行分のデータに対して、FLOWセンサの出力波形を目視で確認して嚥下前後の呼吸パターンの正解値を定めた。その結果、29施行分のデータに関しては目視で分類することができたが、7施行分のデータに関しては目視で分類することができなかった。そのため、今回は29施行分のデータに関して正解値と比較した。
図11では各呼吸パターンの正解数と検出数及び的中率を示している。1データの誤検出を除き、それ以外は高い精度で検出でき、本実施例の呼吸モニタリングシステムの妥当性が示された。
【0033】
図12は喉頭閉鎖開始点/終了点の検出の他の方法を示す図であり、
図12(a)は喉頭閉鎖終了タイミングがピーク値と一致する場合を示し、
図12(b)は喉頭閉鎖終了タイミングと一致する変曲点がピーク値と一致しない場合を示している。
伸縮性ひずみセンサ1の信号から喉頭閉鎖開始点と喉頭閉鎖終了点を検出するために以下の処理を行う。
伸縮性ひずみセンサ1の生波形(C-STR)に、カットオフ周波数10Hzの2次バターワースローパスフィルタを用い、フィルタ処理を行った後に移動平均(前10点)を適用し、平滑化処理を行う。平滑化処理を行った波形の中央値を取得し、波形全体から引き、絶対値で整流化する。整流化した波形にカットオフ周波数0.8Hzの1次ローパスフィルタを適用し、1階微分を行う(C-STR1階微分)。なお、1階微分した波形を用いて説明したが、複数階微分した波形を用いてもよい。
このように、
図10で説明した第1閾値や第2閾値を用いることに代えて、伸縮性ひずみセンサ1の出力波形を微分することで現れる変曲点によって喉頭閉鎖開始タイミングと喉頭閉鎖終了タイミングを検出することができる。
【0034】
このように、本実施例の呼吸モニタリングシステムによれば、食事動作を妨げず、食事動作によるノイズを少なくして、嚥下前後の呼吸パターンを判断することができる。
従って、本実施例の呼吸モニタリングシステムによれば、介護現場において、食事中の様子や変化を捉えることができ、誤嚥や窒息を未然に防ぐことができる見守りシステムを実現することができる。
本発明によれば、摂食嚥下機能低下をスクリーニングでき、食事動作に対する記録、管理、及び異常検知を行え、個々に適した食事選択、フィードバック訓練などに適用することができる。