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特開2024-65568垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065568
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240508BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240508BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/343 610
H01S5/323 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174498
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 顕一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 仁史
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC04
5F173AC14
5F173AC35
5F173AC42
5F173AH22
5F173AP33
5F173AP62
5F173AP66
5F173AQ12
(57)【要約】
【課題】信頼性がより向上した垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備し、前記p側半導体層表面の少なくとも一部を、マスク部材で被覆し、前記マスク部材を含むp側半導体層表面に、酸化物膜を形成し、前記酸化物膜を含む前記窒化物半導体層を熱処理し、前記熱処理後の酸化物膜及びマスク部材を除去し、前記マスク部材で被覆していた前記p側半導体層表面から、前記マスク部材で被覆していなかった前記p側半導体層表面にわたって電極を形成することを含む、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
【選択図】図1F
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備し、
前記p側半導体層表面の少なくとも一部を、マスク部材で被覆し、
前記マスク部材を含むp側半導体層表面に、酸化物膜を形成し、
前記酸化物膜を含む前記窒化物半導体層を熱処理し、
前記熱処理後の酸化物膜及びマスク部材を除去し、
前記マスク部材で被覆していた前記p側半導体層表面から、前記マスク部材で被覆していなかった前記p側半導体層表面にわたって電極を形成することを含む、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物膜を、ケイ素及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理を、500℃以上800℃以下で行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物膜を、スパッタリング法によって形成する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物膜を除去処理液と接触させることによって除去する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物膜を前記除去処理液と接触させることによって除去する際に、前記マスク部材を除去する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記マスク部材の形成後、かつ前記酸化物膜の形成前に、前記p側半導体層の全面に酸素含有ガスによる反応性イオンエッチングを行う請求項1又は2に記載の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化物半導体を用いて、垂直共振器面発光レーザとして機能するレーザ素子の研究が進められている。例えば、特許文献1には、半導体積層体のp側半導体層の表面に開口部を有する絶縁膜を形成し、その開口部により面発光レーザ素子の電流注入領域が規定されることが記載されている。そのほか、プラズマ照射、アッシング処理、反応性イオンエッチング処理等を利用して、電流非注入領域を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/083877号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述したいずれの電流狭窄構造においても、より一層の絶縁性の向上、さらにこれに起因する垂直共振器面発光レーザ素子の信頼性の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は以下の発明を含む。
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備し、
前記p側半導体層表面の少なくとも一部を、マスク部材で被覆し、
前記マスク部材を含むp側半導体層表面に、酸化物膜を形成し、
前記酸化物膜を含む前記窒化物半導体層を熱処理し、
前記熱処理後の酸化物膜及びマスク部材を除去し、
前記マスク部材で被覆していた前記p側半導体層表面から、前記マスク部材で被覆していなかった前記p側半導体層表面にわたって電極を形成することを含む、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法によれば、信頼性がより向上した垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法であり、特に電流狭窄構造の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
図1B】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法であり、特に電流狭窄構造の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
図1C】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法であり、特に電流狭窄構造の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
図1D】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法であり、特に電流狭窄構造の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
図1E】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法であり、特に電流狭窄構造の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
図1F】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法であり、特に電流狭窄構造の製造方法を説明するための概略工程断面図である。
図2A】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の概略平面図である。
図2B図2AのIIB-IIB線の概略断面図である。
図3】垂直共振器面発光レーザ素子の変形例を示す要部の概略断面図である。
図4】電流狭窄構造のI-V特性を評価するための構造を示す断面図である。
図5A】比較例A1の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図5B】比較例A1の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図5C】比較例A1の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図5D】比較例A1の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図6A】比較例A2の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図6B】比較例A2の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図6C】比較例A2の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図6D】比較例A2の評価構造の製造方法を示す概略製造工程図である。
図7A】実施例B1の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法で得られた素子のI-L特性の評価結果を示すグラフである。
図7B】比較例B1の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法で得られた素子のI-L特性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明する実施の形態は、本開示の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本開示を以下のものに限定しない。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。各図面が示す部材の大きさ、厚み、位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
なお、本明細書において、垂直共振器面発光レーザ素子を構成する窒化物半導体の積層体において、n側半導体層からp側半導体層に向かう方向を上方という。
【0009】
本開示の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法は、
n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備し、
p側半導体層表面の少なくとも一部を、マスク部材で被覆し、
マスク部材を含むp側半導体層表面に、酸化物膜を形成し、
酸化物膜を含む窒化物半導体層を熱処理し、
熱処理後の酸化物膜及びマスク部材を除去し、
マスク部材で被覆していたp側半導体層表面から、マスク部材で被覆していなかったp側半導体層表面にわたって電極を形成することを含む。
【0010】
このような製造方法、特に、電流狭窄構造の製造方法によれば、p側半導体層表面の電流非注入領域又は電流狭窄領域を形成するために加工される凸部に起因する、凸部側面での電流集中の発生、凸部外側での絶縁性の低下を招くことなく、より優れた電流非注入領域又は電流狭窄領域の絶縁性を確保することが可能となる。その結果、寿命特性を改善することができるとともに、垂直共振器面発光レーザ素子の信頼性を向上させることができる。
【0011】
(窒化物半導体層5の準備)
図1Aに示すように、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4をこの順に有する窒化物半導体層5を準備する。窒化物半導体層5は、例えば、AlInGaN化合物半導体からなるn側半導体層2、AlInGaN化合物半導体からなる活性層3、AlInGaN化合物半導体からなるp側半導体層4を、この順に積層する。AlInGaN化合物半導体としては、例えば、AlN、InN、GaN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaNが挙げられる。このような窒化物半導体層5は、例えば、以下に示すように、第1反射層1上に形成することが好ましい。
【0012】
n側半導体層2は、単層又は多層であり、n型不純物、例えば、Si又はGe等をドープしたn型層を1層以上有する。活性層3は、例えば、InGaNよりなる量子井戸層と、GaNよりなる障壁層とを交互に積層した積層構造である。積層数は所望の特性により適宜設定することができる。また、障壁層としてはGaNの他に量子井戸層のInGaNよりIn組成の低いInGaN等を用いることもできる。p側半導体層4は、p側クラッド層と、その上に配置されたp側コンタクト層を有することができる。p側コンタクト層は、p型不純物、例えば、Mg等がドープされた層である。p側クラッド層は、p型不純物を、p側コンタクト層よりもp型不純物を低濃度でドープした層又はアンドープの層とすることができる。この場合、p側コンタクト層はp側半導体層4の最上層とする。
【0013】
n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4の各厚みは、適宜設定することができる。後述する第1反射層1の上面から第2反射層8の下面までの全膜厚をλ/(2neq)(neqは導波路の等価屈折率である)の整数倍とし、その間に定在波が生じるように設定する。そして、定在波の腹の部分が活性層3に、定在波の節の部分が、後述する透光性のp電極6に位置するように配置することが好ましい。このような設定にすることで、閾値電流を低減することができる。なお、閾値電流とはレーザ発振に必要な最小電流を意味する。
【0014】
p側半導体層4の表面は平坦な面であることが好ましい。このようにp側半導体層の表面を平坦な面とすることにより、その上に形成される電極を平坦に配置することができるために、電極の折れ曲がり等に起因する電流集中を回避することができる。ここでの平坦とは、例えば、p側半導体層4の表面の算術平均粗さが0.1nmから2nmであることを意味する。このような平坦な面とすることにより、後述する第2反射層8をも平坦に形成することができる。
【0015】
(マスク部材16での被覆)
図1Bに示すように、窒化物半導体層5のp側半導体層4の表面の少なくとも一部を、マスク部材16で被覆する。ここで、マスク部材16で被覆する領域は、窒化物半導体層5への電流注入領域とするための領域であり、マスク部材16で被覆されない領域が、電流非注入領域、つまり、電流狭窄領域4cとなる。
【0016】
マスク部材16は、例えば、マスク部材となる材料層を、p側半導体層4の全表面に形成した後、当該分野で公知のフォトリソグラフィ及びエッチング工程によってパターニングして、p側半導体層4表面の少なくとも一部を被覆する。
【0017】
マスク部材16は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化アルミニウムによって形成することができ、窒化シリコンが好ましい。マスク部材16として窒化シリコン等の非酸化物材料を用いた場合、その後に行われる熱処理などによる電流注入領域の酸化が起きづらくなり、接触抵抗の上昇を低減することができる。マスク部材16の厚みは、形成する材料によって適宜調整することができ、例えば、0.1μm以上1μm以下が挙げられる。
【0018】
マスク部材16の形状は、平面視、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等の多角形、これらを組み合わせた形状等、種々の形状とすることができる。なかでも、円形、楕円形であることが好ましい。マスク部材の形状が円形、または楕円形であることで、得られる垂直共振器面発光レーザ素子の電流狭窄領域の形状も円形となり、電流集中やそれによる素子の劣化を低減することができる。マスク部材の大きさは、例えば、一辺又は直径は1μm以上30μm以下が挙げられ、1μm以上10μm以下が好ましい。マスク部材の位置は、平面視において、p側半導体層4表面の中央又はその周辺に設定することができる。これにより、窒化物半導体層5に対して、面内において均一に電流を注入することが可能となる。
【0019】
マスク部材16を形成した後、かつ後述する酸化物膜17の形成前に、図1Cに示すように、p側半導体層4の全面に酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理を行ってもよい。酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理は、一部が削られるなどによってp側半導体層4の表面が除去されることが含まれる必要はなく、少なくともp側半導体層4の表面状態が変化すればよく、例えばp側半導体層4の表面の酸素濃度が増加させられればよい。酸素濃度の増加とは、p側半導体層4に酸素がドープされた形態や、p側半導体層4の一部が酸化された形態などが考えられる。p側半導体層4の表面に対して、酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理を行うことで、得られる垂直共振器面発光レーザ素子の電流狭窄領域の絶縁性をより向上させることができる。これは例えば、マスク部材16で被覆されていないp側半導体層4の表面が酸化されていることが考えられる。つまり、窒化物半導体が酸素原子と反応して酸化物層を形成することで抵抗が上昇していると考えられる。また、酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理を行うことで、p側半導体層4の表面が変化し、その後の酸化物膜17の形成及び熱処理による電流狭窄領域4bの形成がより効果的になるとも考えられる。酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理は、例えば、バイアス電力を100W~1000Wの範囲、圧力を5Pa~50Paが挙げられ、酸素雰囲気中での30秒~30分間の処理が挙げられる。酸素雰囲気においては、酸素以外に、アルゴン、窒素等の不活性ガスを含んでいてもよい。このような条件で反応性イオンエッチング処理を行う場合、マスク部材16で被覆されていないp側半導体層4の表面の抵抗を上昇させつつ、電流狭窄領域4bの平坦性をより高くすることができる。酸化物層としては、用いる半導体の種類によって、例えば、Ga、GaON等が挙げられる。酸化物層は、絶縁性の確保及び良好な表面平坦性の点で、例えば、p側半導体層4の表面から0.5nm以上10nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0020】
(酸化物膜17の形成)
図1Dに示すように、マスク部材16を含むp側半導体層4表面に、酸化物膜17を形成する。酸化物膜17は、p側半導体層4の全表面に形成することが好ましい。酸化物膜17は、ケイ素、亜鉛、ガリウム等を含む酸化物が挙げられ、なかでも、ケイ素及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物膜が好ましい。このような酸化物膜としては、シリコン酸化膜、亜鉛酸化膜等が挙げられる。シリコン酸化膜としては、ケイ素を含む複合酸化物が挙げられ、例えば、SiO、SiO等であってよく、アモルファス状態のSiOxを含んでいてよい。亜鉛酸化膜としては、酸化亜鉛に加えて、インジウム亜鉛酸化物、ガリウム亜鉛酸化物等の亜鉛を含む複合酸化物が挙げられ、例えば、ZnO、ZnO等であってよく、アモルファス状態のZnOxを含んでいてよい。なかでも、除去のしやすさの観点でSiOからなる膜が好ましい。
【0021】
酸化物膜17は、当該分野で公知の方法によって形成することができる。例えば、酸素雰囲気下、大気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、減圧下又は真空下において、上述した酸化物膜を構成する元素を含むターゲットを用いたスパッタリング法等が挙げられる。
【0022】
酸化物膜17は、p側半導体層4表面において、一部において厚膜又は薄膜の部位があってもよく、均一な膜厚で形成することが好ましい。酸化物膜17の厚みは、用いる材料によって適宜調整することができる。例えば、酸化物膜17の厚みは、50nm以上1000nm以下が挙げられ、100nm以上800nm以下が好ましく、150nm以上600nm以下がより好ましい。
【0023】
(窒化物半導体層5の熱処理)
p側半導体層4上のマスク部材16を被覆する酸化物膜17が形成された窒化物半導体層5を熱処理する。熱処理は、酸素雰囲気下、大気雰囲気下において、例えば、500℃以上800℃以下で行うことが挙げられ、550℃以上750℃以下で行うことが好ましい。熱処理の時間は、その温度によって適宜調整することができ、例えば、1分間以上60分間以下が挙げられ、2分間以上30分間以下が好ましく、2分間以上10分間以下がより好ましい。このような窒化物半導体層の熱処理により、p側半導体層4の表面において、酸化物膜17が接触していた領域は、酸化物膜17からp側半導体層に酸素が拡散することで、酸素が拡散された部分の抵抗が上昇して、電流狭窄領域4bとなる。また、酸素の拡散で電流狭窄領域4bが形成されることにより、マスク部材16が被覆していた領域は、相対的に抵抗の低い領域(電流注入領域4a)となる。これにより、平坦なp側半導体層としつつ、電流狭窄領域の絶縁性をより高めることができるため、信頼性がより向上した垂直共振器面発光レーザ素子を得ることができる。ここでの電流狭窄領域4bは、例えば、p側半導体層4の表面から0.5nm以上10nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0024】
(酸化物膜17及びマスク部材16の除去)
熱処理後、図1Eに示すように、窒化物半導体層5の表面から、酸化物膜17及びマスク部材16を除去する。酸化物膜17及びマスク部材16の除去は、それらの材料によって、別々に行ってもよいし、連続して行ってもよい。別々に又は連続して除去する場合のいずれにおいても、同じ方法で行ってもよいし、異なる方法で行ってもよい。酸化物膜17及びマスク部材16の除去は、例えば、ウェットエッチング、ドライエッチング、研磨、ポリッシング等当該分野で公知の方法のいずれを利用してもよい。なかでも、ウェットエッチングにより除去することが好ましい。具体的には、酸化物膜17及び/又はマスク部材16を、除去処理液と接触させる方法が挙げられる。ここで用いる除去処理液は、酸化物膜17及びマスク部材16の材料及び厚み等によって、当該分野で公知の除去処理液を適宜選択することができる。また、除去処理液の種類、濃度、温度、接触方法等を適宜設定することができる。除去処理液としては、加熱又は非加熱のHCl、リン酸(HPO)、硝酸(HNO)、酢酸(CHCOOH)、王水、フッ化水素酸(HF)又はバッファードフッ酸(BHF)、硫酸、過酸化水素水の単独又は2以上の酸系の溶液又は混合液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、NaOH(水酸化ナトリウム)等のアルカリ系の溶液又は混合液等を任意の濃度で調整することが挙げられる。具体的には、酸化物膜17がSiOの場合、バッファードフッ酸(BHF)が挙げられ、マスク部材16がSiNの場合にも、バッファードフッ酸(BHF)が挙げられる。この際の除去処理液の温度は、例えば5℃以上100℃以下であってよく、10℃以上80℃以下であってもよく、接触方法は、浸漬、滴下、噴霧等が挙げられる。
【0025】
酸化物膜17及びマスク部材16を除去することにより、電流注入領域4aを、p側半導体層4の表面において、電流狭窄領域4bと同一平面で形成することができる。つまり、電流注入領域4aから電流狭窄領域4bにわたって平坦とすることができる。ここでの同一平面及び平坦とは、例えば、2nm程度の高低差又は凹凸は許容される。例えば、p側半導体層の表面に凸部を形成して、電流注入領域/電流非注入領域を形成する場合には、凸部の起伏に起因して、その上に配置される電極が折れ曲がった形状となり、この電極が折れ曲がっている箇所で電流集中が発生し得ることとなるが、このように電流注入領域4aから電流狭窄領域4bにわたってp側半導体層の表面を平坦とすることにより、電流集中の発生を抑制することができ、これに起因する電極の破壊を低減することが可能となる。また、十分な絶縁性を確保することが可能となる。
【0026】
(電極の形成)
酸化物膜17及びマスク部材16が除去された窒化物半導体層5の表面、つまり、マスク部材16で被覆していたp側半導体層4表面から、酸化物膜17の配置によってマスク部材16で被覆していなかったp側半導体層4表面にわたって、言い換えると、電流狭窄領域4bから電流注入領域4aにわたって、電極を形成する。以下、この電極をp電極6という。
【0027】
p電極6は、p電極6の下面がp側半導体層4にのみ接触していることが好ましい。言い換えると、p電極6は、上記工程においてマスク部材16を形成していた領域、つまり、電流注入領域4a及びその周辺において、平坦なp側半導体層4に接触していることがより好ましい。p電極6上面の表面積は、例えば、電流注入領域4aの表面積よりも大きく、平面視においてp側半導体層4の上面の外縁より内側にp電極6の外縁が配置される大きさとすることができる。これにより、後述するように、平面視において第2反射層8と重ならないようにpパッド電極9pを形成しやすくなる。
【0028】
p電極6は、垂直共振器面発光レーザ素子の発振するレーザ光のピーク波長の光に対する透過率が60%以上又は70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%である透光性の材料によって形成することができる。透光性の材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等の酸化物を母材とする透明導電材料が挙げられる。具体的にはITOが挙げられる。厚みは薄いほうが、p電極6による光吸収を低減することができる一方、抵抗が上昇するため、これらのバランスを考慮して適宜調整することができる。p電極6の厚みは、例えば、100nm以下が挙げられ、60nm以下が好ましく、35nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。また、p電極6の厚みは5nm以上とすることができる。具体的には、p電極6の厚みは、5nm以上100nm以下が挙げられ、10nm以上60nm以下が好ましく、15nm以上35nm以下がより好ましく、20nm以上30nm以下がさらに好ましい。p電極6の厚みをこの範囲とすることにより、p電極6への光の吸収を低減し、閾値電流を低減することができる。
【0029】
(その他の工程)
上述した垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法は、以下の工程を含むことにより、垂直共振器面発光レーザ素子を形成することができる。例えば、n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層のn側半導体層の下側に、さらに、第1反射層を形成する、つまり、第1反射層、n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備することを含む。また、p電極を含むp側半導体層の表面に、第2反射層を形成することを含む。さらに、n側半導体層に接触する電極(以下、n電極ということがある)を形成することを含む。これらの工程に加えて、さらに、反射防止膜を形成すること、放熱基板に接合することを含んでもよい。
【0030】
(第1反射層1の形成)
図2Bに示すように、第1反射層1を形成する。第1反射層1は、例えば、上述した窒化物半導体層5を形成する前に形成することができる。つまり、半導体成長用の基板11を準備し、基板11上に第1反射層1を形成し、その後、第1反射層1の上面に、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4をこの順に積層することができる。また、半導体成長用基板11上に窒化物半導体層5を形成し、その後、窒化物半導体層5から半導体成長用基板11を除去し、除去によって露出した窒化物半導体層5の表面に第1反射層1を形成してもよい。半導体成長用の基板11としては、例えば、窒化物半導体(GaN等)、サファイア、SiC、Si等の基板が挙げられる。
【0031】
第1反射層1は、所望の反射率を得るために、各層を構成する材料、膜厚、積層数等を適宜選択することができる。第1反射層1は、例えば、半導体多層膜、誘電体多層膜を含んで構成することができる。屈折率が異なる2種以上の膜を交互に積層することにより、第1反射層1を得ることができる。半導体多層膜としては、AlInGaN化合物半導体等の窒化物半導体層が挙げられる。具体的には、AlN、InN、GaN、AlGaN、InGaN、AlInN、AlInGaNが挙げられる。なかでも、GaNと、それと格子整合するAlInNとの組み合わせが好ましい。誘電体多層膜としては、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、B、Ti等の酸化物、窒化物又はフッ化物等が挙げられ、具体的には、SiO/Nb、SiO/Ta、SiO/Alが挙げられる。多層膜を構成する各層の厚さはλ/(4n)(但し、λはレーザ素子の発振波長、nは各層を構成する媒質の屈折率である)であり、発振波長λにおける用いる材料の屈折率nによって適宜設定することができる。具体的には、λ/(4n)の奇数倍とすることが好ましい。例えば、発振波長λが450nmの発光素子において、第1反射層1を、GaN/AlInNによって構成する場合、各層の厚みは、40nm以上70nm以下が挙げられる。多層膜の積層数は、意図する特性により適宜設定することができる。多層膜の積層数は、2層以上が挙げられ、例えば5層以上100層以下とすることができる。第1反射層1の全体の厚みは、例えば、0.08μm以上7μm以下とすることができる。第1反射層1は、レーザ素子の発光部を覆う限り、大きさ及び形状は、適宜設計することができる。
【0032】
半導体成長用の基板11は、第1反射層1、窒化物半導体層5を形成した後、任意の段階で、第1反射層1と反対側の面を薄膜化して、薄膜化された基板とすることができる。基板11の薄膜化又は除去は、当該分野で公知の研磨方法、エッチング方法等を利用して行うことができる。
【0033】
(第2反射層8の形成)
図2Bに示すように、p電極6を含むp側半導体層の表面に、第2反射層8を形成することができる。第2反射層8は、p電極6の上にのみ形成してもよいし、p電極6の上からp側半導体層4の表面にわたって形成してもよい。なかでも、p電極6の上にのみ形成することが好ましい。第2反射層8が、p電極6の上にのみ形成される場合、第2反射層8がより平坦に形成されやすくなり、発振するレーザ光の形状を制御しやすくなる。また、p電極6上のみであって、電流注入領域4a上のみであってもよいし、電流注入領域4aの直上とその周辺の電流狭窄領域4b上にわたって形成されていてもよい。なかでも、電流注入領域4a上からその周辺の電流狭窄領域4b上にわたって形成されていることがより好ましい。また、第2反射層8が電流注入領域4a上からその周辺の電流狭窄領域4b上にわたって形成される場合、第2反射層8の形成時のパターンの位置合わせが容易になり、生産性を向上させることができる。第2反射層8は、電流注入領域4aの上側に位置し、平坦なp電極6上に形成されるために、凹凸による影響を受けることが少なくなり、比較的広範囲の領域で反射率を均一に確保することができる。その結果、発振するレーザ光の形状がより安定化されるために、より容易に制御することが可能となる。
【0034】
第2反射層8は、例えば、電流注入領域4a及びその周辺の電流狭窄領域4b上の領域であって、電流注入領域4aの直径又は一辺の長さの10%~50%程度大きくなる直径又は一辺の長さの領域に形成することが好ましい。第2反射層8は、誘電体多層膜を含んで構成することができる。第2反射層8は、上述した第1反射層1で例示した誘電体多層膜と同様の構成とすることができる。例えば、SiO/Nb、SiO/Ta、SiO/Alが挙げられる。各層の厚さはλ/(4n)(ここで、λはレーザ素子の発振波長、nは各層を構成する媒質の屈折率である)とすることが好ましい。積層数は意図する特性により適宜設定することができる。具体的には、第2反射層8を、SiO/Nb等から構成する場合、各層は、40nm以上70nm以下が挙げられる。多層膜の積層数は、2層以上が挙げられ、例えば5層以上20層以下とすることができる。第2反射層8の全体の厚みは、例えば、0.08μm以上2.0μm以下が挙げられ、0.6μm以上1.7μm以下とすることができる。
【0035】
第2反射層8は、後述する絶縁膜7とは離間して形成することが好ましい。言い換えると、第2反射層8は、平面視において、後述する絶縁膜7と重ならないように配置されていることが好ましい。これにより、段差が少ない第2反射層8を形成することができる。
【0036】
(n電極9n、pパッド電極9p、絶縁膜7の形成)
図2A及び2Bに示すように、n側半導体層2に接触する電極(以下、n電極9nという)を形成することが好ましい。
そのために、窒化物半導体層5の電流狭窄領域4bの周囲の表面において、p側半導体層4及び活性層3及びn側半導体層2の一部を厚み方向に除去し、n側半導体層2を一部露出させる。つまり、窒化物半導体層5を形成した後、フォトリソグラフィ及びエッチングなどの公知の方法を利用することにより、p側半導体層4及び活性層3及びn側半導体層2の一部を除去して、n側半導体層2を一部露出させる。これにより、レーザ素子に電流を供給するp電極6及びn電極9nを窒化物半導体層5の同一面側に配置することができる。
【0037】
露出させたn側半導体層2の一部上並びにp側半導体層4、活性層3及びn側半導体層2の側面において、絶縁膜7を形成することが好ましい。この絶縁膜7は、p側半導体層4の上面を被覆していてもよいが、少なくとも上述した第2反射層8とは離して形成することが好ましい。絶縁膜7は、SiOを含むSiO系材料、SiN等のSiN系材料、SiO材料、Ta、ZrO、AlN、Al、Ga等の無機材料等によって形成することができる。絶縁膜7の厚みは、適宜設定することができる。
【0038】
露出したn側半導体層2の上に、n電極9nを形成する。このような構成により、電流経路として第1反射層1を通過する必要がなくなるため、第1反射層1にn型不純物をドープする必要がなく、第1反射層1によって反射率の高い光反射を行わせることができる。
【0039】
n電極9nは、当該分野において通常電極として用いられる導電性材料の何れによって形成してもよい。例えば、Ti/Pt/Au、Ti/Rh/Au等が挙げられる。また、p電極6上にpパッド電極9pを形成してもよい。pパッド電極9pは、電流注入領域4aの外周を取り囲む形状で、p電極6に接触するように形成することが好ましい。これにより、pパッド電極9pからp電極6を介して、p側半導体層4により均一に電流を注入することができる。また、pパッド電極9pは、第2反射層8と離して配置することが好ましい。言い換えると、pパッド電極9pは、平面視で、第2反射層8と重ならないように配置されていることが好ましい。このように、pパッド電極9pが第2反射層8の直下に配置されないことにより、電流注入領域の直上における第2反射層8をより平坦にすることができる。
【0040】
pパッド電極9pは、n電極9nと同じ又は異なる材料にて単層構造で形成してもよいし、同じ材料によって、同じ積層構造で形成してもよいし、異なる材料で異なる積層構造で形成してもよい。n電極9n及びpパッド電極9pを同じ材料によって同じ積層構造で形成する場合、n電極9n及びpパッド電極9pを同一工程で形成することができる。
pパッド電極9p及びn電極9nは、絶縁膜7を形成した後に形成することが好ましい。
【0041】
(反射防止膜14の形成)
図3に示すように、基板11の第1反射層1と反対側の面に、さらに反射防止膜14を形成してもよい。基板11を完全除去する場合は、反射防止膜14は第1反射層1の表面に形成してよい。反射防止膜14は、上述した第1反射層1で例示した誘電体多層膜と同様の材料を用いることができる。反射防止膜14の厚みは、例えば、0.1μm以上5μm以下が挙げられる。
【0042】
(放熱基板12への接合)
図3に示すように、得られた窒化物半導体層5を、金属膜15を有する放熱基板12に接合層13を介して、接合することができる。接合層13は、pパッド電極9p及びn電極9nにそれぞれに接合し、放熱基板12の金属膜15とそれぞれ接合するように配置することができる。放熱基板12と得られた窒化物半導体層5との間、つまり窒化物半導体層5における接合層13が配置される領域以外の領域は、空洞のままであってもよいし、絶縁性の放熱部材等によって埋め込んでもよい。なお、放熱基板12への窒化物半導体層5の接合は、基板11の薄膜化等及び/又は反射防止膜14の形成の前に行ってもよい。また、第1反射層1の形成は第2反射層8の形成の後に行ってもよい。例えば、基板11の一部又は全部を除去し、その除去によって露出した面に第1反射層1を形成することができる。
【0043】
放熱基板12としては、AlN等のセラミックス、SiC等の半導体からなる半導体基板、金属単体基板又は2種以上の金属の複合体からなる金属基板等が挙げられる。例えば、絶縁性のAlNセラミックスを母材とし、その表面に複数の金属膜15が形成された基板を放熱基板12として用いることができる。金属膜15は、それぞれ、pパッド電極9p及びn電極9nと電気的に接続される。pパッド電極9pとn電極9nが窒化物半導体層5を挟んで配置されている場合、第1反射層1の側を放熱基板12に接合する場合等、p電極とn電極の両方を放熱基板12に電気的に接続する必要がない場合は、放熱基板12として金属基板などの導電性の基板を用いてもよい。放熱基板12の厚みは、例えば、50μm以上500μm以下が挙げられる。放熱基板12の形成方法は、当該分野で通常使用される方法を利用することができる。
【0044】
(試験例A1)
上述した垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法のうち、特に電流狭窄構造の製造方法によって形成した電流狭窄領域の絶縁性を評価するために、図4に示す、GaNからなるp側半導体層4と、ITOからなる透光性の一対のp電極6とを有する構造を形成した。p側半導体層4は、上述したように、表面において、電流狭窄領域4bを有する。この電流狭窄領域4bは、図1A、1D及び1Eに示す方法に準じて形成し、一対のp電極6を電流狭窄領域4bの上面に接触するように形成した。
【0045】
つまり、GaN基板11上にp側半導体層4(p-GaN層)を形成し、その上にSiOからなる酸化物膜17を、厚み300nmで成膜した。その後、窒素雰囲気下にて700℃の温度で5分間熱処理を行った。続いて、BHF溶液を用いて、酸化物膜17を除去して、p側半導体層4の表面を露出させた。露出したp側半導体層4表面を、電流狭窄領域4bとした。そして、この電流狭窄領域4b上に、一対のp電極6(ITO膜、厚み200nm)をスパッタリング法によって形成した。このような構成において、一対のp電極6を介して、プローブ18から、室温にて電圧を印加して、I-V特性を評価した。
【0046】
(試験例A2)
また、電流狭窄領域4bを、図1A、1C,1D及び1Eに示す方法に準じた方法によって形成、つまり、図1Cに準ずる工程として、p側半導体層4の形成後、酸化物膜17の形成前に酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理を行ったこと以外は、試験例A1と同様の方法によって、一対のp電極6を有する電流狭窄領域4bを形成し、試験例A1と同様にI-V特性を評価した。
なお、図1Cにおける酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理は、酸素雰囲気下、バイアス電力500W、圧力8Paの条件で行った。
【0047】
(比較例A1)
比較例A1として、図5A~5Dに示す方法に準じた方法で形成した。具体的には図5Aに示すマスク部材の形成や、それに伴う図5Cのマスク部材の除去を行わず、後述の工程により形成した。図5Bに準ずる工程として、試験例A1で用いたp側半導体層4の上に酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理(条件:酸素雰囲気下、バイアス電力500W、圧力8Pa)を行い、p側半導体層4の表面に電流狭窄領域4cを形成するとともに、図5Dに準ずる工程として、p電極6を形成し、試験例A1と同様にI-V特性を評価した。
【0048】
(比較例A2)
先行技術として、図6A~6Dに示すようにエッチングを用いて、p側半導体層表面の一部を除去して高抵抗化することで、凸部4dを有するような電流狭窄構造とすることが知られている。そこで、その電流狭窄構造を評価するために比較例A2として、図6A~6Dに示す方法に準じた方法で形成した。図6Bに準ずる工程として、試験例A1で用いたp側半導体層4の上にSiClガスを用いた反応性イオンエッチングによって、p側半導体層4の表面から6nmを除去、つまり、p側半導体層4の表面近傍のp型不純物が高濃度にドープされたGaNが含まれる半導体層を取り除いた。比較例A2では、p型不純物が高濃度にドープされたGaNを除去することで、除去した表面をITO電極とショットキー接合とし、電流狭窄構造とした。その後、図6Dに準ずる工程としてp電極6を形成し、試験例A1と同様にI-V特性を評価した。
【0049】
試験例A1、A2及び比較例A1、A2それぞれのI-V特性は絶縁性を示しており、立ち上がり電圧として10μA時の電圧を評価した。その結果、試験例A1では、2.9V、試験例A2では、4.5Vであった。これに対して、比較例A1では、1.2V、比較例A2では2.0Vであった。
これらの結果から、試験例A1、つまり、この発明の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法によって形成した電流狭窄領域では、酸化物膜を成膜した後の熱処理工程を行うことで、p側半導体層の表面付近をエッチング処理して絶縁化を図った比較例A2と比べて良好な絶縁性が得られた。また、酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理のみを行なった比較例A1に対しても、良好な絶縁性が得られることが確認された。また、試験例A2のように、酸素含有ガスによる反応性イオンエッチング処理との組み合わせによって、立ち上がり電圧を4.5Vまで向上させることができることが確認された。
【0050】
以下の手順で、実施例B1及び比較例B1として電流狭窄領域4bまたは4cを形成した垂直共振器面発光レーザ素子を作製し、室温で通電試験を行い、I-L特性を評価した。通電試験条件として、室温で15mAの順方向電流を流し続けた。電流を流す前(0分後)、流してから1分後、5分後、10分後のI-L特性を確認した。
【0051】
(実施例B1)
実施例B1の電流狭窄領域4bは、図1A~1Fに示す方法によって形成した。基板11上にAl0.8In0.2N/GaN多層膜よりなる第1反射層1、n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4を形成し、その上にSiNからなるマスク部材16(直径5μm、厚み500nm)を形成し(図1B)、酸素ガスによる反応性イオンエッチング処理をおこなうことで表面を酸化した(図1C)。その後、マスク部材16上にSiO膜からなる酸化物膜17を厚み300nmで成膜し、窒素雰囲気下にて700℃の温度で5分間熱処理を行った(図1D)。続いて、BHF溶液を用いて、マスク部材16とともに、酸化物膜17を除去して、p側半導体層4の表面を露出させた(図1E)。露出したp側半導体層4は、マスク部材16で被覆されていた領域は電流注入領域4aとなり、酸化物膜17と接触していた領域は電流狭窄領域4bとなっていた。そして、この電流狭窄領域4b上から電流注入領域4aにわたって、p電極6(ITO膜、厚み30nm)を形成した(図1F)。その後SiO/Nbよりなる第2反射層8を形成した。また、p側半導体層4、活性層3及びn側半導体層2の一部を除去し、一部の領域でn側半導体層2を露出させた後、絶縁膜7、n電極9n及びpパッド電極9pを形成し、図2Bに示す垂直共振器面発光レーザ素子を作製した。I-L特性の結果を図7Aに示す。
【0052】
(比較例B1)
電流狭窄領域4cの形成を比較例A1の方法、つまり図5A~5Dに示す方法としたこと以外は実施例B1と同様の方法で、垂直共振器面発光レーザ素子を作製し、実施例B1と同様に通電試験を行い、I-L特性を評価した。I-L特性の結果を図7Bに示す。
【0053】
これらの結果、図7Aに示したように、実施例B1では、通電時間の経過による光出力の劣化が抑制されることが確認された。一方、比較例B1では、図7Bに示したように、通電時間の経過による光出力の劣化が確認された。
【0054】
本願は、以下の発明を含む。
(1)n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備し、
前記p側半導体層表面の少なくとも一部を、マスク部材で被覆し、
前記マスク部材を含むp側半導体層表面に、酸化物膜を形成し、
前記酸化物膜を含む前記窒化物半導体層を熱処理し、
前記熱処理後の酸化物膜及びマスク部材を除去し、
前記マスク部材で被覆していた前記p側半導体層表面から、前記マスク部材で被覆していなかった前記p側半導体層表面にわたって電極を形成することを含む、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
(2)前記酸化物膜を、ケイ素及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物とする(1)に記載の製造方法。
(3)前記熱処理を、500℃以上800℃以下で行う(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記酸化物膜を、スパッタリング法によって形成する(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記酸化物膜を除去処理液と接触させることによって除去する(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記酸化物膜を前記除去処理液と接触させることによって除去する際に、前記マスク部材を除去する(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記マスク部材の形成後、かつ前記酸化物膜の形成前に、前記p側半導体層の全面に酸素含有ガスによる反応性イオンエッチングを行う(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)第1反射層、n側半導体層、活性層及びp側半導体層をこの順に有する窒化物半導体層を準備し、
前記p側半導体層表面の少なくとも一部を、マスク部材で被覆し、
前記マスク部材を含むp側半導体層表面に、酸化物膜を形成し、
前記酸化物膜を含む前記窒化物半導体層を熱処理し、
前記熱処理後の酸化物膜及びマスク部材を除去し、
前記マスク部材で被覆していた前記p側半導体層表面から、前記マスク部材で被覆していなかった前記p側半導体層表面にわたって電極を形成し、
前記電極を含む前記p側半導体層表面に、第2反射層を形成することを含む、垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法。
(9)前記酸化物膜を、ケイ素及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物とする(8)に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0055】
1 :第1反射層
2 :n側半導体層
3 :活性層
4 :p側半導体層
4a :電流注入領域
4b、4c :電流狭窄領域
4d :凸部
5 :窒化物半導体層
6 :p電極
7 :絶縁膜
8 :第2反射層
9n :n電極
9p :pパッド電極
11 :基板
12 :放熱基板
13 :接合層
14 :反射防止膜
15 :金属膜
16 :マスク部材
17 :酸化物膜
18 :プローブ
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B