IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-プラスチックの油化方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065742
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】プラスチックの油化方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/10 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
C10G1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174754
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】福本 和貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 晃
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC02
4H129BC06
4H129BC08
4H129BC11
4H129HA30
4H129HB10
4H129NA21
4H129NA43
4H129NA45
(57)【要約】
【課題】使用済みプラスチックを原料として分解反応を行い、含酸素化合物の生成を抑制しつつ、廃水処理が不要であり、かつ油分を収率よく得ることができるプラスチックの油化方法を提供することである。
【解決手段】亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下でプラスチックを分解し、油化することを特徴とする、プラスチックの油化方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下でプラスチックを分解し、油化することを特徴とする、プラスチックの油化方法。
【請求項2】
前記分解の温度が300~550℃である、請求項1に記載のプラスチックの油化方法。
【請求項3】
前記分解の圧力が5.0~50MPaである、請求項1に記載のプラスチックの油化方法。
【請求項4】
前記プラスチック中にポリオレフィンを30質量以上%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラスチックの油化方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィンがポリエチレン及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種である、請求項4に記載のプラスチックの油化方法。
【請求項6】
前記プラスチック中にポリスチレンを30質量以上%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプラスチックの油化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックの油化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックは、優れた加工性、耐熱性、導電性、透明性、耐薬品性などから様々な用途に使用されている一方で、その廃棄量は世界全体で年々増加している。廃プラスチックは、性質の異なるプラスチックが混在していることや異物に汚染されていること等もあって、PETボトルなどマテリアルリサイクルの進んでいる一部のプラスチックを除き、使用後は焼却や埋立処理されているのが現状である。そのため、廃プラスチックを再利用や再資源化できるリサイクル技術が必要であり、なかでも廃プラスチックを分解して分解油などの化学原料やモノマー化するケミカルリサイクルが近年注目されている。化学原料やモノマー化は、ガス化と油化の2つの技術に大別される。ガス化については一般的に600℃以上の高温となる場合が多く、エネルギー的なロスが大きいため、より低温でエネルギー効率のよい化学原料に変換できる油化技術の開発が求められている。
プラスチックをエネルギー効率や収率よく油化する手法の一つとして超臨界流体を処理媒体としてプラスチックと混合し、熱分解する方法が知られている。例えば、非特許文献1では、超臨界水技術に注目し、超臨界水中でのポリエチレン分解における水の反応物としての作用について開示されている。非特許文献1では、超臨界水の特徴として、水分子中の水素原子や水酸基が分解生成物ラジカルに付加することによってコーク(炭化物)の生成が抑えられるため、水が存在しない通常の熱分解に比べて油分の収率が高くなる、と記載されている。
【0003】
また、特許文献1では、超臨界流体の熱エネルギーの一部を炭素質の供給原料に移送し、熱分解プロセスを実行する方法が開示されている。特許文献1では、超臨界流体は粘性および表面張力が低いので、超臨界流体は容易に有機物質に浸透することができる、と記載されている。
【0004】
さらに、非特許文献2には、ポリウレタンやポリオレフィンの水素化分解を、超臨界二酸化炭素を処理媒体として行ったことが開示されている。非特許文献2によれば、鉄あるいはニッケルを5wt%担持した活性炭触媒が380℃程度で機能し、処理の難しい混合プラスチックの分解を速やかにサポートすることができる、と記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、超臨界状態の窒素中でポリエチレンを加熱分解したことが開示されている。特許文献2によれば、超臨界状態の窒素中では、液体状態と気体状態との区別が無いため、常圧のときに比べて樹脂の分解反応をはるかに進行させることができ、その結果低分子量成分である軽質油の生成量を増やすことができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-522836
【特許文献2】特開平10-237215
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高分子論文集,Vol.58,No.12,pp.661-673(Dec.,2001)
【非特許文献2】プラスチックリサイクル化学研究会(FSRJ)討論会予稿集,2003/6 P.73-74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記非特許文献1では、超臨界水を処理媒体として用いたポリエチレンの分解が開示されるが、生成物にアルコールや酸などの含酸素化合物が不純物として含まれるという課題が残されている。例えば、反応後に生成物と処理媒体の分離に際してアルコール等の水溶性有機物が処理媒体側に一部混入するため、廃水処理が必要になりコスト高となる。
また、特許文献1には、超臨界二酸化炭素を処理媒体として用い、プラスチックを油化できることが開示されている。しかしながら、特許文献1は、供給原料として炭素質の物質を用い、炭素質の物質としては、石炭、バイオマス、混合原料のバイオマテリアル、泥炭、タール、プラスチック、廃棄物、および埋立廃棄物が挙げられ(特許文献1、請求項42、段落0042)、プラスチックの例示はあるものの、具体的なプラスチックの分解反応についての言及はない。また、プラスチックを原料とした実施例もなく、具体的な分解条件についての記載も一切ない。
さらに、非特許文献2には、超臨界二酸化炭素を処理媒体として用い、活性炭触媒の存在下、ポリウレタン、ポリウレタンを含む混合プラスチックから炭化水素ガスを得ることが開示されている。しかしながら、非特許文献2に開示される技術は生成物として、メタンなどの軽質な炭化水素系ガスが得られ、得られた軽質炭化水素系ガスの用途は限られる、という課題がある。
また、特許文献2には、超臨界状態の窒素を処理媒体としてポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂の廃棄物を分解できることが開示されている。しかしながら、窒素は臨界温度が―147.1℃と極めて低温であり、昇圧する際に莫大なエネルギーが必要になるため処理媒体として使用するためには分解処理のプロセスの経済性に課題が残されている。
【0009】
本発明は上記したような状況下で、使用済みプラスチックを原料として分解反応を行い、含酸素化合物の生成を抑制しつつ、廃水処理が不要であり、かつガスではなく油分を収率よく得ることができるプラスチックの油化方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下でプラスチックを分解させることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下でプラスチックを分解し、油化することを特徴とするプラスチックの油化方法。
[2]前記分解の温度が300~550℃である、上記[1]に記載のプラスチックの油化方法。
[3]前記分解の圧力が5.0~50MPaである、上記[1]又は[2]に記載のプラスチックの油化方法。
[4]前記プラスチック中にポリオレフィンを30質量%以上含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のプラスチックの油化方法。
[5]前記ポリオレフィンがポリエチレン及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種を含む、上記[4]に記載のプラスチックの油化方法。
[6]前記プラスチック中にポリスチレンを30質量%以上含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のプラスチックの油化方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用済みプラスチックを原料として分解反応を行い、含酸素化合物の生成を抑制しつつ、廃水処理が不要であり、かつ取り扱いが容易な油分を収率よく得ることができるプラスチックの油化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】プラスチックの分解装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0015】
[プラスチックの油化方法]
本発明のプラスチックの油化方法は、亜臨界又は超臨界状態の二酸化炭素の存在下で、プラスチックを分解し、油化することを特徴とする。
【0016】
<処理媒体>
亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素を用いることで、プラスチックを効率的に分解させることが出来る。本発明で亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素を用いる優位性としては以下の点が挙げられる。1)亜臨界又は超臨界流体は界面張力が小さく、また液体に比べて低粘性、高拡散性であるためプラスチックに対して良好に浸透することが出来る。2)動粘度が気体、液体よりも小さいためわずかな温度差による熱対流が起こりやすく、プラスチックを均一に加熱し、過熱による固形物の生成を抑制することが出来る。3)二酸化炭素は無極性であるため、低極性の有機物を良好に溶解することが出来る。4)二酸化炭素は不活性であるため、水やアルコールを処理媒体として用いた場合と異なり、処理媒体自体が反応し、望ましくない含酸素化合物を生成することを抑制することができる。5)二酸化炭素は常圧、常温に戻すことで気化するため、処理媒体の分離が容易である。そのため水を処理媒体として用いた場合と異なり、廃水処理が不要となる。6)安価な不活性処理媒体として二酸化炭素と窒素が挙げられるが、二酸化炭素は窒素と比較して熱容量が大きいため、熱媒としてプラスチックを昇温させる性能に優れる。7)二酸化炭素は窒素と比較してガス爆発の予防対策としての効果が大きいため、安全性に優れる。8)二酸化炭素を処理媒体としてプラスチックを分解した際に生成したメタンやエタンなどの軽質炭化水素は、燃焼させることで水と二酸化炭素になるため、水を分離することで処理媒体として容易に再利用することが出来る。9)二酸化炭素の臨界温度は窒素の臨界温度よりも高いため、貯蔵に必要なエネルギーが少ない。
ここで、「超臨界状態の二酸化炭素」とは、圧力が二酸化炭素の臨界圧力以上であり、かつ温度が臨界温度以上である二酸化炭素を指す。二酸化炭素の臨界圧力は7.38MPaであり、臨界温度は31.1℃である。また、「亜臨界状態の二酸化炭素」とは圧力が二酸化炭素の臨界圧力以上であり、かつ温度がわずかに臨界温度未満である状態の二酸化炭素、或いは圧力がわずかに二酸化炭素の臨界圧力未満であり、かつ温度が臨界温度以上である状態の二酸化炭素、又は温度が臨界温度未満及び圧力が臨界圧力未満ではあるが、これに近い状態の二酸化炭素を指す。
【0017】
<油分>
ここで油分とは炭化水素を骨格として有する化合物およびその混合物のうち1気圧60℃で粘度が1000Pa・s以下の液状もしくはグリース状の物質を指す。本発明で得られる油分としては以上の定義に当てはまるものの範囲で特に限定されないが、例えば軽油や重油、アスファルトである。
【0018】
<原料>
本発明で原料として用いられるプラスチックとしては、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、エチレンビニルアルコール共重合樹脂等の付加重合ポリマー;ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等の重縮合ポリマーが挙げられる。また、これらのプラスチックは混合していてもよく、その形態もフィルム、チューブなど成形加工されたものであってもよい。また、これらのプラスチックのうち、産業・家庭廃棄物として多く排出されているポリオレフィン及び/又はポリスチレンが含まれていることが好ましい。
【0019】
ポリオレフィン及び/又はポリスチレンの含有量は特に限定されないが、油分の回収率が高くなるという観点からプラスチック中にポリオレフィン及び/又はポリスチレンを30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。また上限は特に限定されず、全てポリオレフィン及び/又はポリスチレンであってもよい。
ポリオレフィンの中でも、産業・家庭廃棄物として多く排出されているポリエチレン及びポリプロピレン、同様の理由でポリスチレンから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。すなわち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンのどれか一つを含んでいてもよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンのどれか二つもしくは全てを含んでいてもよい。
【0020】
<分解温度>
プラスチックを分解する際の温度は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、300~550℃の範囲であることが好ましい。分解温度が300℃以上であると、十分にプラスチックの分解反応が進む。以上の観点から分解温度は、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることがさらに好ましく、430℃以上であることが特に好ましい。一方、上限値については、油分の収率を高く維持する点から500℃以下であることがより好ましく、475℃以下であることがさらに好ましい。
【0021】
<分解圧力>
プラスチックを分解する際の圧力は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、5.0~50MPaの範囲であることが好ましい。分解圧力が5.0MPa以上であると、二酸化炭素の密度は常圧の数十倍になるためプラスチック分解物を良好に溶解することができる。以上の観点から分解圧力は5.5MPa以上であることがより好ましく、6.0MPa以上であることがさらに好ましい。
【0022】
<反応時間>
プラスチックをバッチ式反応で分解させる際の反応時間としては、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、1~300分、より好ましくは2~150分、さらに3~100分、特に5~60分の範囲であることが好ましい。反応時間がこの範囲であると、過剰な分解や再結合が抑制され、油分の高い収率が維持される。なお、流通式反応においてプラスチックを分解させるプロセスを用いる際には好ましい本反応時間は適用されない。
【0023】
<水素化>
本発明のプラスチックの分解反応では、水素、水素供与可能な物質を加えてもよい。水素、水素供与可能な物質を導入することで分解反応の生成物を連続的に水素化することができる。この際、超臨界二酸化炭素は任意の割合で水素を溶解するだけでなく、分解物と水素ガスの間で相分離が無く均一相を形成できるため、大きな反応速度を得られる場合が多い。水素供与可能な物質は、水素を供与出来る物質であれば特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール;ヘキサン、オクタンなどの炭化水素;テトラリン、ジヒドロアントラセンなどの多環状炭化水素等が挙げられる。
【0024】
<助剤>
本発明のプラスチックの分解反応では、生成物と超臨界二酸化炭素の分子間相互作用を高めるために1種類以上の助剤を加えてもよい。助剤には一般的に極性物質が用いられる。助剤としては、生成物と超臨界二酸化炭素の分子間相互作用を高める効果を有する物質であれば、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン;酢酸、ギ酸などのカルボン酸;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ギ酸エチルなどのエステル;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテルなどのエーテル;アセトニトリル、アクリロニトリルなどのニトリル;エチレンジアミン、ピリジンなどのアミン等が挙げられる。
【0025】
<装置>
本発明における装置としては、バッチ式であっても流通式であってもよい。
【実施例0026】
以下の実施例および比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0027】
実施例1
プラスチック分解装置として、図1に示すようなバッチ式の分解装置を用いた。圧力容器は、内径30mm、深さ80mm、内容量約56mL、最高使用温度500℃、最高使用圧力50MPaのインコネル製据置型容器を用いた。なお、ガス回収時はバルブV02以降の冷却管を外してガス捕集用の袋を接続した。
原料である低密度ポリエチレン(Sigma-Aldrich社製「LDPE」、品番428043)6gを圧力容器へ入れて閉じた。二酸化炭素ガスボンベの最大圧で加圧して圧漏れが無いことを確認してからゆっくり脱圧した。二酸化炭素で1MPaに加圧し、脱圧して常圧に戻す操作を3回繰り返した後、常圧でガスを容器へ穏やかに約30秒流通させて内部雰囲気を置換した。全てのバルブを閉め、容器を電気炉にセットした。
毎分4℃の速度で所定温度(450℃)まで昇温し、所定温度手前から二酸化炭素を導入して昇圧を開始し、所定条件(分解温度;450℃、分解圧力;10MPa)に達した点から所定時間保持した(保持時間;15分)。保持終了後、電気炉の電源を停止して保温材を取り除き、容器を電気炉から外して送風冷却した。容器内温が40℃以下になったらバルブをゆっくり開き、ガス全量を捕集袋に回収して秤量した。容器を開けて回収試料を取出し、秤量した。回収試料は液体であり、下記の方法で収率を計算したところ83.0%であった。
また、下記の条件で酸素原子の濃度について定量分析したところ、酸素原子の濃度は0.11wt%であることを確認した。
さらに、下記の条件でGC-MS分析を実施したところ、含酸素有機物であるtert-ブチルアルコールを0.026μg/mL含んでいることを確認した。
【0028】
<回収試料の収率計算>
収率=100×(回収試料の重量)/(投入したLDPEの重量)
<酸素原子濃度の分析>
装置:elementar Vario EL cube
分留管温度:1170℃
サンプル:2mg
<GC分析>
装置:JEOL JMS-T2000GC AccuTOF GC-Alpha
カラム:DB-5 Agilent Technology
(60m、0.25mm、1.0μm)
カラム温度条件:40℃で3分保持し、40℃から325℃まで10℃/minで昇温後、325℃で5分保持
流量:1.2mL/min
検出:FID、MS
MSイオン源温度:230℃
試料注入量:0.6μL
【0029】
実施例2
実施例1において、分解圧力を30MPaとしたこと以外は、実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ83.2%であった。
【0030】
実施例3
実施例1において、分解圧力を7.4MPaとしたこと以外は、実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ78.9%であった。
【0031】
実施例4
実施例1において、保持時間を120分としたこと以外は、実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ56.7%であった。
【0032】
実施例5
実施例1において、保持時間を5分としたこと以外は、実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ85.7%であった。
【0033】
実施例6
実施例1において、容器を電気炉にセットした後、毎分4℃の速度で所定温度(475℃)まで昇温し、所定温度手前から二酸化炭素を導入して昇圧を開始し、所定条件(分解温度;475℃、分解圧力;30MPa)に達した点から所定時間(15分)保持したこと以外は実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ53.5%であった。
【0034】
実施例7
実施例1において、容器を電気炉にセットした後、毎分4℃の速度で所定温度(425℃)まで昇温し、所定温度手前から二酸化炭素を導入して昇圧を開始し、所定条件(分解温度;425℃、分解圧力;30MPa)に達した点から所定時間(240分)保持したこと以外は実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ77.0%であった。
【0035】
実施例8
実施例1において、原料であるLDPEに代えて、ポリプロピレン(Sigma-Aldrich社製「PP」、品番182389)6gとしたこと以外は実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ70.7%であった。
【0036】
実施例9
実施例1において、原料であるLDPEに代えて、ポリスチレン(Sigma-Aldrich社製「PS」、品番182427)6gとしたこと以外は実施例1と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ81.5%であった。
【0037】
実施例10
実施例1において、原料としてLDPE(前出)5.64g、ポリエチレンテレフタレート(三菱ケミカル製「PET」、品番BK-2180)0.15g、PS(前出)0.15g、コピー紙粉砕品0.06gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、反応させた。なお、表2中では、原料を「混合」と表記した。
回収試料は、4μmのフィルターでろ過し、固液分離した後、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ72.3%であった。
【0038】
実施例11
実施例6において、保持時間を5分としたこと以外は、実施例6と同様にして、反応させた。
回収試料は液体であり、実施例1と同様の方法で収率を計算したところ74.0%であった。
【0039】
比較例1
プラスチック分解装置としては、実施例1と同様の装置を用いた。LDPE(前述)6gと予め窒素でバブリングさせた水15gを圧力容器へ入れて閉じた。窒素ガスボンベの最大圧で加圧して圧漏れが無いことを確認してからゆっくり脱圧した。窒素で1MPa加圧し、脱圧して常圧に戻す操作を3回繰り返した後、常圧でガスを容器へ穏やかに約30秒流通させて内部雰囲気を置換した。全てのバルブを閉め、容器を電気炉にセットした。毎分4℃の速度で所定温度(450℃)まで昇温し、所定温度に達した点から所定時間(15分)保持した。保持終了後、電気炉の電源を停止して保温材を取り除き、容器を電気炉から外して送風冷却した。容器内温が40℃以下になったらバルブをゆっくり開き、ガス全量を捕集袋に回収して秤量した。容器を開けて回収試料を取出し、秤量した。回収試料は液体であり、水相・油相の二相構造であった。下記の方法で収率を計算したところ42.7%であった。
また、実施例1と同様の方法で酸素原子の濃度について定量分析したところ、酸素原子の濃度は0.16wt%であることを確認した。
さらに、得られた水相・油相それぞれについて実施例1と同様の方法でGC-MS分析を実施したところ、含酸素有機物であるtert-ブチルアルコールが水相からは37μg/mL、油相からは0.62μg/mL検出された。
【0040】
<回収試料の収率計算>
収率=100×(回収試料の重量―投入した水の重量)/(投入したLDPEの重量)
【0041】
【表1】
【0042】
表1から、処理媒体として超臨界二酸化炭素を用いたポリエチレンの分解反応では、超臨界水を用いた場合と比べて高い油分収率となった。さらに油分中に含まれる酸素原子濃度およびその一例であるtert-ブチルアルコール濃度は超臨界水を用いた場合と比較して著しく低い値であった。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示す結果から、超臨界状態の二酸化炭素を処理媒体としたポリエチレン分解について、温度、圧力、時間を制御することで任意の油分収率を得られることが明らかになった。また、処理媒体として超臨界状態の二酸化炭素を用いることでポリエチレン以外のプラスチックについても油化できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のプラスチックの油化方法によれば、使用済みプラスチックを原料として、ナフサと同等の炭素数を有する液状の炭化水素が高収率で得られる。この液状の炭化水素は含酸素化合物の含有率が低いため、含酸素化合物を除去するための精製等の工程を軽減することができ、ナフサクラッカー等の分解装置の原料とすることで、エチレン、プロピレン等のオレフィンを製造することができる。また、処理媒体として用いた亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素は、分解反応終了後は、常温、常圧下で気化するために、処理媒体除去の必要もない。
以上のように、本発明のプラスチックの油化方法は、使用済みプラスチックからオレフィンを製造することができ、ケミカルリサイクルを可能とした技術であって、工業的価値は大きく、また、環境保全の点からも極めて有効な技術である。
【符号の説明】
【0046】
PG01;圧力計
V01、V02、V03;バルブ
図1