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特開2024-65797トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤
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  • 特開-トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065797
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/22 20060101AFI20240508BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C11D7/22
C11D3/37
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174828
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122448
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】前川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野本 賢也
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003BA12
4H003DA17
4H003DB01
4H003EB28
4H003EB37
4H003ED02
4H003FA04
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、トイレ便器に生じるバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができるトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を提供することである。
【解決手段】本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤は、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有しており、それによりバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有する、トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤。
【請求項2】
ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有するバイオフィルム形成抑制剤を、トイレ便器の表面に接触させる、トイレ便器のバイオフィルム形成抑制方法。
【請求項3】
ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有する、トイレ便器用黒ずみ形成抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ便器に生じるバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができるトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムとは、細菌やカビ等が固体や液体の表面に付着することによって形成される微生物の集合体であり、日常の様々な環境に存在する。このバイオフィルムと呼ばれる微生物集合体は、生活環境や産業上で多くの問題を引き起こしている。例えば、台所や浴室や洗面所の排水口、トイレ便器等に存在する「ぬめり」もバイオフィルムであり、悪臭等の原因とされている。
【0003】
微生物がバイオフィルムを形成すると、洗浄除去、薬剤、熱等のストレスに対して浮遊の状態にある場合に比べて非常に強固になることが知られており、通常の洗浄や殺菌方法ではバイオフィルムの除去は困難である。
【0004】
バイオフィルムを除去する方法としては、一般的な洗浄剤や殺菌剤を用いる他、モノグリセリド多価カルボン酸エステル等の界面活性剤、あるいはβ-グルカナーゼ等の酵素を用いることが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、一旦、バイオフィルムが形成されると、細菌から産出される多糖類等の粘性物質は、単に洗浄液を流したり、擦ったりするだけで充分に除去することは困難である。従って、バイオフィルムを環境から排除するためには、バイオフィルムの形成そのものを抑制することが効果的である。バイオフィルムの形成を抑制する方法としては、例えば、ラクトン誘導体及び/又はフラン誘導体を用いる方法(特許文献3参照)、次亜塩素酸アルカリ金属塩等を配合した処理剤を用いる方法(特許文献4参照)が提案されているが、バイオフィルムの形成抑制効果が十分ではなかったり、対象の菌種が限られている等の問題があった。その為、より効果的にバイオフィルムの形成を抑制できる剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-234294号公報
【特許文献2】特開平3-193号公報
【特許文献3】特開2004-155681号公報
【特許文献4】特開2005-75873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、トイレ便器に生じるバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができるトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを用いることにより、トイレ便器に生じるバイオフィルムの形成を効果的に抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有する、トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤。
項2. ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有するバイオフィルム形成抑制剤を、トイレ便器の表面に接触させる、トイレ便器のバイオフィルム形成抑制方法。
項3. ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有する、トイレ便器用黒ずみ形成抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有するトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を用いることにより、トイレ便器に生じるバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができるので、トイレ便器を衛生的な状態に保つことができる。
【0011】
また、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を用いることにより、トイレ便器に生じる黒ずみも効果的に抑制することができる。トイレ便器に生じる黒ずみは、先ず、細菌がトイレ便器に付着して増殖することによりバイオフィルムを形成して黒色真菌が付着し易い環境を作り、その後、バイオフィルムに黒色真菌が付着して、バイオフィルム上で黒色真菌が増殖することにより発生すると考えられている。本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を用いることにより、バイオフィルムの形成を効果的に抑制することができるため、黒色真菌の増殖も抑制でき、それにより黒ずみの形成も抑制されたと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】バイオフィルム及び黒ずみ形成抑制試験において、表面処理カバーガラス(実施例1~3)を観察した写真である。
図2】バイオフィルム及び黒ずみ形成抑制試験において、表面処理カバーガラス(実施例4~6)を観察した写真である。
図3】バイオフィルム及び黒ずみ形成抑制試験において、表面処理カバーガラス(比較例1~3)、及び未処理カバーガラス(参考例1)を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤は、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有することを特徴とする。以下、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤について詳述する。
【0014】
[ベタイン基含有親水性ポリマー]
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤では、トイレ便器にバイオフィルムが形成されることを抑制する成分として、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを使用する。当該ベタイン基含有親水性ポリマーは、トイレ便器の表面に接触させると、シラノール基を介してトイレ便器の表面に付着し、それによりバイオフィルムの形成を効果的に抑制できると考えられる。
【0015】
ベタイン基含有親水性ポリマーにおいて、前記単量体に含まれるベタイン基は、スルホベタイン基、カルボキシベタイン基、ホスホリルベタイン基等のいずれであってもよいが、低濃度であってもバイオフィルムの形成を効果的に抑制する観点から、好ましくはスルホベタイン基及び/又はカルボキシベタイン基であり、より好ましくはカルボキシベタイン基である。本発明において、ベタイン基とは、各ベタイン化合物から水素原子を1つ取り除いたベタイン残基を指す。ベタイン基含有親水性ポリマーでは、1種のベタイン基を有してもよく、2種以上のベタイン基を有していてもよい。
【0016】
ベタイン基含有親水性ポリマーにおいて、繰返単位となるベタイン基を有する単量体の種類については、特に制限されないが、例えば、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアネルコキシ-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N,N-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N-メチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N,N,N-トリ(メタ)アクリロイルオキシアルキルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジメチルアンモニウムα-カルボキシルベタイン、N,N-ジ(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N-メチルアンモニウムα-カルボキシルベタイン、N,N,N-トリ(メタ)アクリロイルオキシアルキルアンモニウムα-カルボキシルベタイン等のベタイン基含有アクリル系単量体が挙げられる。ベタイン基含有親水性ポリマーの繰返単位として、これらのベタイン基含有アクリル系単量体を含む場合には、当該ベタイン基含有アクリル系単量体はラジカル重合によって共重合されていればよい。
【0017】
ベタイン基含有親水性ポリマーにおいて、ベタイン基を有する単量体の構成モル数については、特に制限されないが、例えば、2以上が挙げられ、2~10000程度又は10~500程度であり得る。
【0018】
ベタイン基含有親水性ポリマーにおいて、一方の末端を構成するシラノール基は、モノシラノール基(Si(OH)1)、ジシラノール基(=Si(OH)2)、トリシラノール基(-Si(OH)3)のいずれであってもよいが、便器表面への結合を強固にさせるという観点から、好ましくはジシラノール基又はトリシラノール基、更に好ましくはトリシラノール基が挙げられる。
【0019】
ベタイン基含有親水性ポリマーの好適な具体例として、下記一般式(1)に示す化合物が挙げられる。
【化1】
【0020】
一般式(1)において、nは、1~3の整数、好ましくは2又は3、更に好ましくは3を示す。
【0021】
一般式(1)において、mは、(R2-R3)の繰返単位数であり、2以上を示し、2~10000程度又は10~500程度であり得る。mとして、好ましくは100~1000程度、より好ましくは300~500程度が挙げられる。
【0022】
一般式(1)において、pは、メチレン基の数であり、0~10の整数、好ましくは1~5の整数、より好ましくは3を示す。
【0023】
一般式(1)において、R1は、水素原子、炭素数1~5の低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、又は炭素数1~5の低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)を示す。
【0024】
一般式(1)において、R2は、炭素数1~4のアルキレン基、又は下記一般式(2a)に示す基を示す。
【化2】
【0025】
一般式(2a)において、R21は、水素原子、又はメチル基を示す。
【0026】
一般式(2a)において、R22は、酸素原子、基-NH-、又は基-NR221-(R221は、炭素数1~4のアルキル基を示す)を示す。R22として、好ましくは酸素原子、又は基-NH-が挙げられる。
【0027】
一般式(2a)において、R23は、単結合、炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数1~4のオキシアルキレン基を示す。R23として、好ましくは炭素数1~4のアルキレン基、更に好ましくは炭素数2又は3のアルキレン基が挙げられる。
【0028】
一般式(1)において、R2が前記一般式(2a)に示す基である場合、前記一般式(2a)におけるR23がR3との結合した構造になる。
【0029】
一般式(1)において、R3は、一般式(3a)に示すスルホベタイン基、一般式(3b)に示すカルボキシベタイン基、又は一般式(3c)に示すホスホリルベタイン基を示す。R3として、好ましくは、一般式(3a)に示すスルホベタイン基、又は一般式(3b)に示すカルボキシベタイン基が挙げられる。
【化3】
【0030】
一般式(3a)において、R31及びR32は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又はアルキル基の炭素数が1~4の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を示す。R31及びR32として、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、更に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0031】
一般式(3a)において、R33は、炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数1~4のオキシアルキレン基を示す。R33として、好ましくは炭素数1~4のアルキレン基、より好ましくは炭素数3のアルキレン基が挙げられる。
【0032】
一般式(3b)において、R34及びR35は、同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。R34及びR35として、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、更に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0033】
一般式(3b)において、R36は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。R36として、好ましくは炭素数1又は2のアルキレン基、より好ましくはメチレン基が挙げられる。
【0034】
一般式(3c)において、R37は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。
【0035】
一般式(3c)において、R38、R39及びR40は、同一又は異なって、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0036】
一般式(1)において、R4は、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。R4として、好ましくは水素原子が挙げられる。
【0037】
一般式(1)において、Xは、硫黄原子、酸素原子、又は単結合を示す。Xとして、好ましくは硫黄原子が挙げられる。
【0038】
前記ベタイン基含有親水性ポリマーの好適な例として、一般式(1)において、nが3;mが300~500程度;pが3;R2が前記一般式(2a)に示す基であって、R21が水素原子、R22が基-NH-、R23が炭素数3のアルキレン基;R3が一般式(3a)に示すスルホベタイン基であって、R31及びR32がメチル基、R33が炭素数3のアルキレン基; R4が水素原子;Xが硫黄原子である化合物が挙げられる。
【0039】
また、前記ベタイン基含有親水性ポリマーの好適な他の例として、一般式(1)において、nが3;mが300~500程度;pが3;R2が前記一般式(2a)に示す基であって、R21がメチル基、R22が酸素原子、R23が炭素数2のアルキレン基;R3が一般式(3b)に示すカルボキシベタイン基であって、R34及びR35がメチル基、R36がメチレン基; R4が水素原子;Xが硫黄原子である化合物が挙げられる。
【0040】
前記ベタイン基含有親水性ポリマーは、公知の合成方法によって得ることができる。また、前記ベタイン基含有親水性ポリマーとしては、例えば、商品名「LAMBIC-771W」、「LAMBIC-1000W」、「LAMBIC-400EP」(大阪有機化学工業株式会社)等として市販されており、本発明では、前記ベタイン基含有親水性ポリマーとして市販品を使用することができる。
【0041】
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤における前記ベタイン基含有親水性ポリマーの濃度については、後述する使用時の濃度を満たすように適宜設定すればよい。
【0042】
例えば、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤が、希釈されることなく、そのままトイレ便器の表面に適用される態様(以下、「非濃縮タイプ」と表記することもある)である場合には、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤における前記ベタイン基含有親水性ポリマーの濃度として、例えば0.000001~100質量%、好ましくは0.00001~100質量%、より好ましくは0.0001~50質量%、更に好ましくは0.001~50質量%、より更に好ましくは0.01~50質量%、一層好ましくは0.02~20質量%、特に好ましくは0.1~10質量%が挙げられる。
【0043】
また、例えば、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤が、水で希釈された後にトイレ便器の表面に適用される態様(以下、「濃縮タイプ」と表記することもある)である場合には、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤における前記ベタイン基含有親水性ポリマーの濃度は、希釈後の濃度が前記非濃縮タイプにおける前記ベタイン基含有親水性ポリマーの濃度の範囲になるように、設定される希釈倍率に応じて適宜設定すればよい。本発明のトイレ便器用コーティング剤が濃縮タイプである場合、設定される希釈倍率としては、例えば、2~1000000倍、好ましくは5~100000倍、より好ましくは10~100000倍、更に好ましくは100~100000倍、より更に好ましくは100~10000倍、一層好ましくは1000~5000倍が挙げられる。
【0044】
[その他の成分]
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤は、前記ベタイン基含有親水性ポリマー以外に、他の添加剤や基剤を含んでいてもよい。このような添加剤や基剤としては、例えば、水、1価低級(炭素数5以下)アルコール、多価アルコール、界面活性剤、漂白剤、香料、消臭剤、着色剤、可溶化剤、殺菌剤、キレート剤、増量剤、溶解性調整剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、無機系ビルダー、有機系ビルダー、酵素等が挙げられる。
【0045】
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤が非濃縮タイプである場合には、水;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数2~5の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の水性基剤を必要により配合し、前記ベタイン基含有親水性ポリマーが前述する濃度になるように調整すればよい。
【0046】
また、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤が濃縮タイプである場合には、前述する基材や添加剤を配合し、設定される希釈倍率に応じて前記ベタイン基含有親水性ポリマーの濃度を適宜調整して、液状、半固形状、固形状のいずれかの形状にすればよい。
【0047】
[使用方法]
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤は、トイレ便器の表面(ボウル部の表面)に接触させて、バイオフィルムの形成を抑制するために使用される。
【0048】
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤が非濃縮タイプである場合には、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤をそのままトイレ便器の表面に接触させればよい。また、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤が濃縮タイプである場合には、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を設定された希釈倍率になるように水で稀釈してトイレ便器の表面に接触させればよい。
【0049】
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤をトイレ便器の表面に接触させるには、トイレ便器の表面に対して、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を噴霧、塗布、流水等を行えばよい。本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤をトイレ便器の表面に接触させる際には、特に必要ではないが、ブラシでブラッシングを行ってもよい。
【0050】
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤の1回当たりの使用量については、トイレ便器の表面に接触させる方法等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1回当たりの使用量として、前記ベタイン基含有親水性ポリマーが0.1~1000mg程度となる量が挙げられる。
【0051】
また、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を接触させたトイレ便器は、トイレの使用によって徐々に前記ベタイン基含有親水性ポリマーが流出するので、例えば、1~8週間程度に1回の頻度で本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤を使用して接触処理を行うことが望ましい。また、本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤をフラッシュ水に含有させた状態にしておき、トイレの使用時に前記ベタイン基含有親水性ポリマーがトイレ便器の表面に接触できるようにしておくことにより、バイオフィルムの形成抑制効果を持続させることもできる。
【0052】
2.トイレ便器のバイオフィルム形成抑制方法
本発明のトイレ便器のバイオフィルム形成抑制方法は、前記ベタイン基含有親水性ポリマーを含むトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤をトイレ便器の表面に接触させることを特徴とする。本発明のトイレ便器のバイオフィルム形成抑制方法によって、トイレ便器に生じるバイオフィルムの形成を効果的に抑制することができる。
【0053】
本発明のトイレ便器のバイオフィルム形成抑制方法の具体的態様については、前記「1.トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤」の欄に記載の通りである。
【0054】
3.トイレ便器用黒ずみ形成抑制剤
本発明のトイレ便器用黒ずみ形成抑制剤は、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含有することを特徴とする。本発明のトイレ便器用黒ずみ形成抑制剤を用いることにより、トイレ便器に生じる黒ずみを効果的に抑制することができる。トイレ便器に生じる黒ずみは、先ず、細菌がトイレ便器に付着して増殖することによりバイオフィルムを形成して黒色真菌が付着し易い環境を作り、その後、バイオフィルムに黒色真菌が付着して、バイオフィルム上で黒色真菌が増殖することにより発生すると考えられている。本発明のトイレ便器用黒ずみ形成抑制剤を用いることにより、バイオフィルムの形成を効果的に抑制することができるため、黒色真菌の増殖も抑制でき、それにより黒ずみの形成も抑制されると考えられる。
【0055】
本発明のトイレ便器用黒ずみ形成抑制剤に含まれる成分、及び本発明のトイレ便器用黒ずみ形成抑制剤の使用方法については、前記「1.トイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤」の欄に記載の通りである。
【実施例0056】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1~6、及び比較例1~3において、以下に示す試験液を用いた。
実施例1:前記一般式(1)において、nが3;mが450程度;pが3;R2が前記一般式(2a)に示す基であって、R21がメチル基、R22が酸素原子、R23が炭素数2のアルキレン基;R3が一般式(3b)に示すカルボキシベタイン基であって、R34及びR35がメチル基、R36がメチレン基; R4が水素原子;Xが硫黄原子であるカルボキシベタイン基含有親水性ポリマー(1A)を10質量%含有する液。
実施例2:前記カルボキシベタイン基含有親水性ポリマー(1A)を0.1質量%含有する液。
実施例3:前記カルボキシベタイン基含有親水性ポリマー(1A)を0.02質量%含有する液。
実施例4:前記一般式(1)において、nが3;mが350程度;pが3;R2が前記一般式(2a)に示す基であって、R21が水素原子、R22が基-NH-、R23が炭素数3のアルキレン基;R3が一般式(3a)に示すスルホベタイン基であって、R31及びR32がメチル基、R33が炭素数3のアルキレン基; R4が水素原子;Xが硫黄原子であるスルホベタイン基含有親水性ポリマー(1B)を10質量%含有する液。
実施例5:前記スルホベタイン基含有親水性ポリマー(1B)を0.1質量%含有する液。
実施例6:前記スルホベタイン基含有親水性ポリマー(1B)を0.02質量%含有する液。
比較例1:非晶質二酸化ケイ素含有液(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、商品名「サーフコート AF-1」(非晶質二酸化ケイ素の含有量は1~5質量%(SDS参照値)))
比較例2:トップコート剤(キヤノン社製、商品名「A2C-3」)
比較例3:抗菌性ポリマー含有液(日本ケミカル社製、商品名「KP」)
【0058】
〔バイオフィルム及び黒ずみ形成抑制試験〕
実施例1~6、及び比較例1~3の試験液を用いて、以下の方法でバイオフィルム及び黒ずみ形成抑制試験を行った。
1.試験方法
<表面処理カバーガラスの作製>
カバーガラス(縦4cm、横4cm)上に、実施例1~6、及び比較例1~3の試験液をそれぞれ塗布(塗布量3.125μl/cm2)し、25℃で12時間乾燥させてガラス表面を処理して、表面処理カバーガラスを作製した。
【0059】
<バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む菌液の調製>
バイオフィルム形成細菌(環境分離株、Rhizobium sp.)と黒色真菌(Cladosporium sp.)の胞子をそれぞれ前培養した。YM培地(組成:酵母エキス3g/l、マンニトール10g/l、及びCaCl2・2H2O 0.83g/l)に、バイオフィルム形成細菌の前培養液をOD(600nm)が0.01となるように播種し、さらに黒色真菌の前培養液を胞子が1×104cfu/mlとなるように播種し、均一になるように撹拌して、バイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む菌液を調製した。
【0060】
<試験>
広口サンプル瓶(容量140ml)内に、調製したバイオフィルム形成細菌及び黒色真菌を含む菌液を液面高さが2cm程度になるように入れ、その後、広口サンプル瓶内に、作製した表面処理カバーガラス、及び未処理カバーガラスを、菌液中に半分程度浸漬するようにそれぞれ立てかけて、25℃で3日間静置培養した。
静置培養後、広口サンプル瓶から各カバーガラスを取り出した。そして、100mLの滅菌精製水を入れたプラスチックカップ内に、各カバーガラスを浸漬し、軽く振とうさせて洗浄した。その後、各カバーガラスを取り出し、ファンを付けた安全キャビネット内で、25℃で1時間乾燥させた。
その後、丸形のシャーレ(直径9cm)内に蒸留水を含ませたペーパーウエス(縦5cm、横5cm)を置き、ペーパーウエス上に各カバーガラス(表面処理した面が上になるように配置)を置いて、シャーレに蓋をした後にパラフィンフィルムで巻いて、25℃、湿度100%RHで7日間調湿培養を行った。
前記調湿培養後、ファンを付けた安全キャビネット内で、各カバーガラスを25℃で1時間乾燥させた。
【0061】
2.結果
7日間調湿培養した各表面処理カバーガラス(実施例1~6、比較例1~3)、及び未処理カバーガラス(参考例1)の外観(カバーガラスの菌液表面(喫水線)付近)を観察した結果(写真)を図1~3に示す。なお、バイオフィルムの観察の際には、カバーガラスを黒い紙の上に置いて観察し、黒ずみの観察の際には、カバーガラスを白い紙の上に置いて観察した。また、バイオフィルム形成抑制効果は、カバーガラスの菌液表面が接触した付近を目視で観察し、下記基準で評価した。黒ずみ形成抑制効果は、カバーガラスの喫水線付近を目視で観察し、下記基準で評価した。結果を表1に示す。
・バイオフィルム形成抑制効果の評価基準
〇:カバーガラスの菌液表面が接触した付近にバイオフィルムがほとんど観察されない。
△:カバーガラスの菌液表面が接触した付近にバイオフィルムがところどころ観察される。
×:カバーガラスの菌液表面が接触した付近にバイオフィルムが全面的に観察される。
・黒ずみ形成抑制効果の評価基準
〇:カバーガラスの喫水線付近に黒ずみがほとんど観察されない。
△:カバーガラスの喫水線付近に黒ずみがところどころ観察される。
×:カバーガラスの喫水線付近に黒ずみが線状に観察される。
【0062】
【表1】
【0063】
表1及び図1~3に示す結果から、ベタイン基を有する単量体を繰返単位として含み、且つ一方の末端がシラノール基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含む液(実施例1~6)を使用することにより、バイオフィルム及び黒ずみの形成を効果的に抑制できることが確認された。また、カルボキシベタイン基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含む液は、スルホベタイン基を有するベタイン基含有親水性ポリマーを含む液に比べて、低濃度においてバイオフィルム及び黒ずみの形成をより効果的に抑制できることがわかった。
【0064】
〔水接触角の評価〕
カバーガラス(縦4cm、横4cm)に、実施例1~6及び比較例1の各試験液を塗布し、25℃で12時間乾燥させ、カバーガラス表面を表面処理した。表面処理したカバーガラスを用い、処理面に蒸留水を着滴させたときの水滴の接触角を接触角計(協和界面化学社製、商品名「cax-150」)で測定した。また、表面処理なしのカバーガラスについても同様の方法で接触角を測定した。測定は3回行い、3回の測定値の平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
一般的に、硬質表面に対する水接触角が小さいほど、汚れや菌が付着しにくくなる。表2に示すように、比較例1の試験液で表面処理したカバーガラスに対する水接触角は、実施例1~6の各試験液で表面処理したカバーガラスに対する水接触角に比べて小さいが、表1に示すように、比較例1の試験液は実施例1~6の各試験液のようなバイオフィルム及び黒ずみ形成抑制効果を有していない。したがって、水接触角とバイオフィルム及び黒ずみ形成抑制効果との間に関係性はなく、バイオフィルム及び黒ずみ形成抑制効果は、試験液に含まれる特定成分自体の特性によって発現すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のトイレ便器用バイオフィルム形成抑制剤は、トイレ便器に生じるバイオフィルム及び黒ずみの形成を抑制する剤として好適に用いられる。
図1
図2
図3